《悲嘆の先導者》フォー・トゥーナ Lv 41 女性 ヒューマン / 墓守


司令部は、国民から寄せられた依頼や、教団からの命令を、指令として発令してるよ。
基本的には、エクソシストの自由に指令を選んで問題無いから、好きな指令を受けると良いかな。
けど、選んだからには、戦闘はもちろん遊びでも真剣に。良い報告を待ってる。
時々、緊急指令が発令されることもあるから、教団の情報は見逃さないようにね。


【神捧】星空の下、君の声だけを抱きしめる
普通|すべて

帰還 2019-01-19

参加人数 2/8人 留菜マナ GM
 少女は泣いていた。  終焉の夜明け団の信者の青年は、魔導書の調査に赴いた廃墟の片隅で、薄汚れた銀色の髪の少女がしょんぼりとうなだれている姿を見かけた。  青年は少し警戒するように言った。 「…‥…‥こんな場所で何をしている?」 「お父様とお母様が、わ……私を神様の生贄にするって言うの」  言葉に詰まった少女は顔を真っ赤に染めてぽつりと俯いた。  少女の瞳からは、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。  話を聞いてみると、少女はサクリファイスに属する貴族の者だったが、両親の手によって神の生贄として捧げられたという。 (なるほどな。この屋敷が何者かに爆破されたと聞いていたが、サクリファイスの仕業だったか。だが、爆発に巻き込まれたのにも関わらず、生贄として差し出されていたこいつは生きている)  青年は無言のまま、しばし逡巡する。 (無意識に、魔力障壁で爆発から身を守ったのか? 確かに、魔力蓄積量が尋常じゃないな)  青年は五感を研ぎ澄まして、前方の少女へと視線を向ける。 (サクリファイスが屋敷を爆破したことで、魔導書の調査にも行き詰まってしまっている。こいつには戦力、そして情報源としても利用価値があるかもしれないな)  青年はアジトまでの方角を見定めると、少女の手を強引に引っ張った。 「ついて来い!」 「……っ」  立ち上がった少女はよろめきながらも、空を仰ぎ見る。  何もかも現実味が欠けた世界で、黒い外套に身を包んだ青年の笑顔だけが確かだった。  廃墟を背景に、雪が真っ暗な空を白く染めていたーー。 ● 「お願いします! 浄化師さん、この村を救って下さい!」  それは、一人の少女のそんな言葉から始まった。  シャドウ・ガルテン。  常に深い霧に国の周囲が覆われており、国内はいつも真っ暗な夜の世界が広がっている。  だが、閉鎖的な国であるため、娯楽がかなり少なく、特に若者は暇を持て余していた。  そんな中、ルナリス村では、娯楽の一環として観覧車がアトラクションとして機能している。  のどかな村の奥では、魔結晶を中心にした魔力の供給を施された観覧車がゆっくりと動いていた。  村起こしのために教皇国家アークソサエティの技術を元にして作られた観覧車は、またたく間にヴァンピールの若者達から大いに歓迎された。  また、観覧車のイルミネーションを見ることができるため、それを目当てに訪れる来訪者達も多く見受けられる。  だが、ルナリス村の何処かに、サクリファイスの信者と終焉の夜明け団の信者が隠れ潜んでいる。  その噂は否応もなく、村人達を震撼させた。  最近のサクリファイスの過激な動向は、この平穏だった村の中でも目に余るものがあったからだ。  それに浄化師達が、サクリファイスの信者と終焉の夜明け団の信者を捜索することで、『彼ら』のことが教団にバレる可能性がある。 「この村に入り込んだサクリファイスの信者は、観覧車の方に逃げ込んだようだ。しかし、浄化師達もすぐにこの村を訪れるだろう」  村人達からの報告を聞いたルナリス村の村長が目を細め、更なる思考に耽る。 「このままでは、私達が終焉の夜明け団の信者の関係者であることが教団にバレてしまう可能性がある。こうなったら仕方ない」  そう吐露する村長の表情は、どこか苦しげで悲しげだった。  『ルナリス村の何処かに、サクリファイスの信者と終焉の夜明け団の信者が隠れ潜んでいる』  『レヴェナント』がもたらした情報を頼りに、ルナリス村を訪れたあなた達はそこで意外な人物と対面した。 「君は?」 「申し遅れました。私、リーファと言います」  あなた達の目の前で丁重に一礼してきたのは、鞄一つを手に持った銀色の髪の少女だった。  少女は両手に手袋をはめて、髪に赤い大きなリボンをつけていた。  艶やかな銀髪は肩を過ぎ、腰のあたりまで伸びている。  着ているのはレースとフリルをこれでもかと多用したドレスで、桜色のその布地に銀糸のような髪が零れるさまは、眩しいくらい鮮烈なインパクトがあった。  どこかの貴族の令嬢だろうか――。  あなた達が思い悩んでいると、リーファは居住まいを正してさらに言い募った。 「少し前に、村の観覧車を訪れた人が言っていたんです。神の生贄とするために、この村を爆破するって」 「爆破!?」  その言葉を聞いて、あなた達は驚愕する。 「この村は、私達にとって大切な思い出の場所なんです。お願いします! 浄化師さん、この村を救って下さい!」 「分かった」  リーファの懇願に、あなた達はため息を吐いて、了承の言葉を口にした。 「漆黒の闇、現実と夢を分け隔てる世界」  灯りに照らされた村で、ドレスに身を包んだリーファが想いを奏でる。 「現実は夢へと変わり、夢は現実になり得るかもしれない」  リーファは手袋をはめた左手の甲をかざすと、一重咲の白いクリスマスローズの花畑に彩られた村の一画を見据えた。 「ルークスお兄様はそう思わない?」 「リーファは相変わらず、言葉遊びが好きなようだな」  かって自分を救ってくれた終焉の夜明け団の信者の青年――ルークスの言葉に、リーファは寂しげに微笑んだ。
あなただけの月灯り
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帰還 2019-01-15

参加人数 3/8人 oz GM
 シャドウ・ガルテンは歴史的なヴァンピールの迫害もあり閉鎖的な国家であったが、ある事件をきっかけに徐々に国交が開きつつある。  その為、観光の一つとなるものがないか調査していたところだった。 「照明専門店?」 「そうです。シャドウ・ガルテンは常に夜が明けませんから、光源の確保は大事なことなんです。だから、どの町にもそういったお店があるんですよ」  ヴァンピールの教団員女性が頷きながら、「こっちに来てそういったお店が少ないことにびっくりしたんですよ」と穏やかに笑う。  常夜の国。そう呼ばれるだけあって、シャドウ・ガルテンは常に深い霧に国の周囲が覆われており、国内は真っ暗な夜の世界が広がっている。  だからか『モーンガータ』のような照明専門店はシャドウ・ガルテンではよく見かけられる。  人口の多いメインストリートでは街灯があるが、わき道に入れば街灯の光が届かない場所も当然存在する。シャドウ・ガルテンに住む者ならば外出の際には、常にランタンを身につけているのは当たり前だった。 「そのお店には様々な照明はもちろん照明に関するものなら何でも売ってあるんですよ」  そう言ってヴァンピールの後輩が先輩に説明する。  『モーンガータ』の店内は照明専門店というだけあって、ランタンやランプ、シャンデリア、デスクランプなどの様々な照明を取り扱っている。  それだけでなく、蜜蝋の蝋燭やオイル、高価ではあるが火気や陽気の魔結晶なども売られている。  ランプシェードやシャンデリアの飾りになるドロップやビーズの飾りなども個別に売られており、古くなった照明の手入れや修繕などもしてくれるのだ。  シャドウ・ガルテンに住む者たちにとって照明は光る彫刻であり、インテリアでもあり、時には美術品でもあった。 「そのお店ではランプシェードやアロマキャンドルの体験教室が開かれてて私も小さい頃、よく遊びに行ったんです」  どこか郷愁を滲ませ思い出すように言葉を紡ぐ。 「ランプシェードの作り方は、子供でもできる簡単なもので風船で作るんです。風船にぐるぐると麻紐を巻き付けるだけなんですけど、なんだか楽しくって。風船の形にも色々あって丸いのから、星形に、ピラミッドの形をしたものやツリーの形、ウサギの形をしたものもあったなあ……」 「ああ、なるほど。風船でランプシェードの型を取るのね」  子供の頃の楽しかった思い出を笑顔で後輩は話す。 「巻き付け終わったら、刷毛で糊を塗りつけるんです。そこで乾かしたら、さらにファイアプルーフって耐火用液剤を塗るんです」 「ファイアプルーフって?」 「こっちには売ってないですよね。シャドウ・ガルテンだと光源を使う際に、どうしても火を取り扱うじゃないですか。その火災防止に家具やランプシェードにはそれをコーティングしたものが殆どなんです」 「便利ねえ……こっちでも作れないかしら?」 「それは無理そうですね。ファイアプルーフの原材料の一つにシャドウ・ガルテン固有種の植物が使われているんです。……確かアイアンローズの実だったかしら?」 「それは残念……それなら国交が開かれたら輸出品の一つになりそうね」  にやりと笑う先輩教団員にそうなるといいですねと後輩であるヴァンピールの女性も頷いた。 「それにしてもアイアンローズってヘマタイトって宝石の別名でしょ。でも、ローズってつくんだからバラの品種なのかしら?」 「バラに似た小さな花を咲かせますが、実もなるので違った筈ですよ。実が真っ黒で宝石みたいなんですよ」 「ああ、なるほど。そこから名前がきてるのね」 「花は不思議なことに、白とか赤とか色々な色の花が咲くんですけどね。私の家庭でも母さんが好きだったのでよく育ててました」  ミニチュアみたいなバラが可愛くて私も好きなんですと後輩は紅茶を飲みながら微笑む。 「でも、体験教室ってのがいいわよね。そこのお店のオーナーはやり手ね……大人相手に商売するだけじゃなく、子供も巻き込むなんて」 「先輩ったら、そういう夢のないこと言うの止めて下さい」 「ごめんごめん、それで体験教室ってどうなの?」 「そうですね。出来上がったランプシェードを親に見せると喜んでくれて子供ながらに嬉しかったですね。その後、暫く家でもランプシェード作りにハマってた記憶があります」  気を取り直したように後輩は話し出した。  麻紐のランプシェードはエスニック風に仕上がるが、レースや和紙でも同じ手順で作ることができるらしい。和紙を張り付ければ、繭のような光が美しいニホン風のランプシェードが、レースのものはロマンティックな仕上がりになるそうだ。 「体験教室であんたみたいにハマった人には自作できるように材料も売ってるなんて、さすがだわ」 「……先輩って商売人みたいですよね」 「実家がそうだったから、つい考えちゃうのよねー、ところでアロマキャンドルの方はやらなかったの?」  呆れた視線を向ける後輩に先輩は肩を竦め、話の矛先を変える。 「もちろんアロマキャンドルも楽しいですよ。特にボタニカルキャンドルがおすすめです!」  先輩に誘導されたことに気づかず餌に食い付いた魚のように後輩は語り出す。  ボタニカルキャンドルはドライフラワーやドライフルーツなどを容れたキャンドルのことを指す。  最初に用意した型に小さなキャンドルの芯が真ん中になるようにセットし、お好みのドライフラワーやドライフルーツを詰めていく。見せたいドライフラワーが蝋で隠れてしまわないように外側に向けて入れるのがコツだ。  そこに溶かした蝋をゆっくり流し込む。勢いよく流し込んでしまうと泡が出来てしまうので注意が必要だ。  最後に蝋が固まってしまう前に好きなアロマオイルをお好みで適量加えて、固まるのを待つだけだ。 「私はバラの花びらをたっぷり入れてローズとオレンジを組み合わせたアロマが好きなんです」  バラの花びらが蝋から透けて非常に贅沢で美しいキャンドルができるそうだ。  さて、あなたはどんなドライフラワーを選ぶだろう。王道のバラか、高貴な紫色の花が美しいニゲラやコーンフラワー。ドライフラワーの中でも人気なミモザ。脇役だが控えめで愛らしいかすみ草。アロマオイルとあわせてもいいラベンダー。オレンジやリンゴの輪切りもお洒落だ。  アロマオイルを選ぶならば、ドライフラワーと合わせてみてはどうだろうか。  柑橘系だと瑞々しくさわやかな甘い香りは性別年代問わずに楽しむことができる。フローラル系ならばローズやジャスミンなどの花の香りから抽出されているので、その華やかな香りが楽しめる。  ハーブ系だとさわやかですっきりとした香りが特徴的だ。スパイス系になるとジンジャーやシナモンなどの料理のスパイスとしておなじみの香辛料の香りがする。ウッディー系だと、まるで森の中にいるような落ち着く香りが漂うだろう。  どの香りを選んでも素敵なあなただけのキャンドルができるだろう。  ランプシェードやアロマキャンドル作りに挑戦するなら、初心者コースがおすすめだ。  もちろん買い物をしても構わない。店内に並べられている様々な美しい照明を見て回るのも楽しいだろうし、修繕や手入れをしている作業を見学させてもらうことも可能だ。これを機に日頃お世話になっているランタンの手入れを頼むのもいいかもしれない。  今回浄化師にはこの専門店が観光の目玉の一つになるのか実際に体験してレポートにまとめて欲しい。
【神捧】サクリファイスをぶっ飛ばせ!
普通|すべて

帰還 2019-01-15

参加人数 4/8人 春夏秋冬 GM
 シャドウ・ガルテン。  ヴァンピールが住む、常闇の国。  しかし、住んでいるのはヴァンピールだけとは限らない。  ヒューマンも、国の端にひっそりと暮らしていた。  ヴァンピールが迫害を逃れて作ったシャドウ・ガルテンに、ヒューマンが住んでいるのは理由がある。  ある理由で、住んでいた場所を追い立てられたのだ。  理由が理由なので、自業自得とも言えたが。  それはアンデッドの殺害が原因だ。  まだアンデッドが迫害を受けていた頃。  死者が蘇る恐怖から、アンデッドとして蘇った者を殺した歴史があるのだ。  心臓に杭を打ち、2度と蘇らないように身体を引き裂く。  それは、その村の住人だけが行ったことではない。  けれどアンデッドの権利が確立され、その時流に乗り遅れたことで、その村の住人は追い立てられるようになったのだ。  ある者は、アンデッドを殺された恨みを晴らすために。  ある者は、自分達が迫害した歴史を隠すための生贄として。  一言で言えば、運が悪かったのだ。  それが自業自得から招いたことだったとしても。  なにしろ当時は、多かれ少なかれ、皆がそうだっのだから。  そして今、その村に彼らは居る。  先に住んでいたのは彼らだったため、あとから来たヴァンピール達は彼らを居ないものとして扱い。  村の住人も、シャドウ・ガルテンの住人と関わらないようにしてきた。  しかし、そんな関係に変化の兆しが。  全ては、浄化師達がシャドウ・ガルテンのテロを防いだことが切っ掛けだ。  これにより、それまで内向きだったシャドウ・ガルテンの住人は、外に目を向けようと動き出す。  その最初の一歩として、国内に居るヴァンピール以外の住人とも関わろうとしたのだ。  それが最悪を食い止める境界線となった。  ヴァンピールの住人が訪れた、その時。村には異様な気配が広がっていたからだ。  かつて行っていたアンデッドへの迫害。  それを肯定し実行するべきだという雰囲気が、出来つつあったのだ。  明らかに異様な雰囲気の中、村に訪れたヴァンピールの住人は、秘密裏に相談を受ける。  助けを求めたのは、1人の青年。 「アンデッドになった妹が殺されるかもしれないんです」  話を聞けば、事故で死に、アンデッドとして蘇った妹を、村人達が殺そうとしているというのだ。  詳しく話を聞けば、奇妙な点に気付く。  アンデッドとして妹が蘇ったのは、2年前。  その時には、むしろ村人達は喜んだのだ。  かつての因縁から自分達を解き放つように、アンデッドの少女を受け入れていた。  それが変わったのはひと月ほど前。  村を出ていった一組の男女が、戻ってからだ。  その頃から、少しずつ少しずつ、村の雰囲気は変わっていき。  いつの間にか、アンデッドは殺すべきだという風潮が広がっていた。 「神の摂理に反するアンデッドは許されません」 「神の摂理に従うことこそ、幸せなのです」  村に戻ってきた一組の男女の話を、いつの間にか真実だと思い始めていたのだ。  どう考えても、その一組の男女が怪しい。  しかし青年にそのことを話しても、不思議そうに聞き返すのだ。 「なにか、おかしなことがありますか?」  青年だけでなく、他の村人達も、一組の男女を怪しいと思っていないのだ。  だというのに、違和感だけは感じているらしい。  このことから、なんらかの精神に作用する魔術が使われている可能性が考えられた。  現在、怪しい一組の男女は村には居ない。  村の外で出会った『素晴らしい集団』の会合に出るために、一時的に離れているらしい。  しかし、数日の内に戻ってくることが分かっている。  戻って来た時に何が起こるのか?  相談を受けたシャドウ・ガルテンの住人は危機感を抱き、薔薇十字教団に助けを求めた。  この時、教団に訪れていた魔女セパルが協力を申し出、教団は承認。    これらを受け、指令が発令される。  内容は、シャドウ・ガルテン内にあるヒューマンの村で起っている異常事態の解決。  アンデッドの女性の、私刑による処刑を防ぎ、怪しい一組の男女を調べること。  場合によっては、怪しい一組の男女の処刑も許可されています。  この指令をアナタ達は受けることにしました。  怪しい一組の男女が戻ってくる日の、数時間前に村に訪れることになります。   村人達から話を聞くことができますが、彼らは今の状況に違和感を感じているのに、それを正そうという意志は希薄です。  村人を調べたシャドウ・ガルテンの住人からの報告では、魔力抵抗が高い者ほど、違和感を感じ何かをしようという意志をみせるようです。  このことから、常人よりも魔力抵抗力が高い浄化師であれば、村の異常の影響を受けることはないと推測されています。  この指令に、アナタ達は――?
朝日に溶ける
とても簡単|すべて

帰還 2019-01-14

参加人数 5/8人 あいきとうか GM
 教団本部の食堂で、女はワイングラスをゆらりと回す。  香りを楽しみ、ひと口。物憂く細められていた双眸がわずかに緩む。 「エイバ!」 「騒々しいわねぇ」  ばん、と扉が勢い良く開かれた。  面倒くさそうな口調とともに女が振り返る。その表情は、声に反して実に楽しそうだ。  見つけてほしかった仕掛けを、ようやく発見してもらえた子どものよう、ともいえるだろう。 「よーし分かった。まさかとは思ってたけどやーっぱりお前が犯人だな!」 「なんのことかしら?」 「お前、浄化師たちになにを飲ませた!」  つかつかと歩み寄ってきた教団寮食堂の見習い料理人に、ついに堪えきれなくなってエイバは声を立てて笑った。  世俗派の魔女、エイバ。ハロウィンの一件以来、たびたび教団を訪れてはくつろいだり、稀に手を貸したりしている気まぐれな女だ。 「夕飯にちょっと薬を混ぜただけよ。大丈夫、死んだりしないから」 「友人が声をかけても起きないと、浄化師たちが騒ぎ出してるぞ」  エイバの隣の席に腰を下ろし、見習い料理人の青年はため息をつく。  ハロウィンでは、食べると相手のことをどれくらい好きか確認できる、という奇怪なかぼちゃのプリンを作り出した彼女は、今日この日まで実におとなしくしていた。  考えてみれば、エイバは恩讐派から逃げてきた子どもを養子として迎え入れたり、事後処理をしたり、クリスマスの一件にも教団側の戦力として一枚噛んでいたりと、忙しい日々を送っていたのだ。  年末年始はゆっくりするだろう、と気づけば彼女と接する機会が多くなっていた青年は、思っていたのだが。 「年始早々、事件を起こすな!」 「年始早々だからよ。ねぇ、初夢って知ってる?」 「は? 一月一日から一月二日にかけて見る夢か?」 「そう。一月二日から一月三日にかけて、という説もあるけど、どっちも正しいわよ」 「それがどうした」 「今日は何月何日でしょう」 「一月一日の真夜中だが? ……ってまさか」  察した青年の頬が引きつる。エイバは実に嬉しそうに笑った。 「初夢を見る薬を夕飯に混ぜたの」 「お前なぁ……」 「それもとびっきりの夢よ。自分と一番、つながりの深い人の夢を見るの。これは夢だ、って自覚しながらね」  浄化師にとって、つながりの深い人物。  すなわち、契約で結ばれたパートナーだ。  現在、揺すっても真横で叫んでも目を覚まさない彼ら彼女らは、魔女の薬を土台として築かれた明晰夢の中で、パートナーと話したり、なにかしたりしている。 「どんな初夢を見るのも自由だろ。なんでわざわざ登場人物を固定するような真似、したんだよ」 「一年の最初に、一番深くつながってる人の夢を見るって、素敵じゃない」  冗談めかすように肩をすくめ、魔女はワインを一息で飲み干す。 「それにね、夢だって分かってるからこそ、言えることもできることもあるでしょ。そういうことをしたあとの一年って、なにかが変わるかもしれないじゃない」 「そういうもんかね」 「ところでね」  すっとエイバはからになったワイングラスを青年に近づける。彼は反射的にそれを受けとった。 「このワインの中にも、同じ薬が入っていたの」  瞬く彼に、エイバは微笑みながら立ち上がった。 「私は誰とどうする夢を見るのかしらね」  朝日に溶けるうたかたの一瞬を見るため、魔女は踊るような足どりで食堂から出ていく。
鈴理あおいのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2019-01-14

参加人数 1/1人 柚烏 GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
新年のうりぼう捕獲大作戦!
簡単|すべて

帰還 2019-01-13

参加人数 4/8人 鳩子 GM
●トラブルメーカー卿の来訪  新年と言えど、教団に休みは無い。ヨハネの使徒やベリアルといった脅威はカレンダーに従って休んではくれないし、年末からのお祭りムードでトラブルはかえって増加する。  新人教団員であるリネット・ピジョンは諸先輩を差し置いて休むことは出来ず、年明け早々業務に励んでいた。 「あけましておめでとう! 諸君!」  突拍子もなく響き渡った朗らかな声に、目を白黒させながら顔をあげる。先ほど、同じく勤務中の団員が差し入れを持ってきてくれたので、またその手の来訪者かと思ったが、立っていたのは見慣れた団服ではなく、きらびやかな装飾の施されたインバネスコート姿の男性だった。 「あ、あけましておめでとうございます……?」 「おや、君は初めて見る顔だな。吾輩はフィルマン・ラクロワ。爵位は無いので、気楽にラクロワ卿と呼んでくれたまえ」  リネットよりも頭二つ分ほど高い長身に、服の上からもわかる軍人のような逞しい体つき。年のころは四十代前半といったところか。麦色の髪を赤いリボンで一つに結び、彫の深い眼窩にモノクルをはめている。レンズの奥で、淡い水色の瞳が好奇心を湛えて煌めいた。 「畏まりました、ラクロワ卿。私はリネット・ピジョンと申します」  直接まみえるのは初めてだったが、その名前には聞き覚えがあった。  貴族でありながら国政に興味を示さず魔術師の道を選び、年がら年中研究に没頭している変わり者――司令部詰めの団員からは密かに『トラブルメーカー卿』という綽名を奉られており、彼が持ち込んだ指令に関する資料を見たリネットは出来ることなら関わりたくないと心底思ったものだった。祈りが通じたのかどうかこれまで顔を合わせることは無かったのだが、とうとうこの日が来てしまったか――。  覚悟を決め、リネットはいっそう背筋を伸ばすと口を開いた。 「それで、……本日はどのようなご用件でしょうか」 「いやぁ、はっはっは、やってしまったよね!」  参った参った、と言いながら、ちっとも悪びれずにラクロワは頭を掻いた。この男、黙っていれば重厚な貴族然とした雰囲気があるのに、口を開くと途端に軽くなる。ひとしきり笑った後、ラクロワはその軽いノリのまま話を続けた。 「近頃は、東方島国ニホンの魔術が気になっていてね。やれ式神だ、呪符だ、九字だとあれこれ研究してみているんだが……君は知っているかな、干支というものを? 十二種類の動物がねえ、年ごとにぐるぐる回るのだよ。その年の守護動物というのかね、あれは。まあ、下々の者どもは特に意味も考えずにその年ごとの動物の絵だの置物だのを有難がって飾ったりしているようなのだが……十干十二支といって、十二の動物と、十の五行の兄弟たちが六十年周期で回るのだ。これがとても興味深いものでねえ……」  はた迷惑なのはさておき魔術師としては優秀だ、という評判だったはずだが、説明はお世辞にも分かりやすいとは言えない。ただでさえ、ニホンの魔術などリネットは門外漢である。幸いにも、リネットが単純な相槌さえ打ちかねているのに気が付いたラクロワはひとつ咳払いをして、説明を打ち切った。 「ともかく今年は己亥といってね、猪がラッキーアニマルなのだよ。吾輩は普段から屋敷のまわりをゴーレムに守らせているのだが、折角だから式神とゴーレムの技術を掛け合わせて見張り番をしてくれる猪を作ろうと思いたった。そうして機能性、耐久性、それに見目の愛くるしさに拘って、とうとう吾輩は作り上げたのだよ!」  だが、と、ラクロワは突如悲哀に顔を歪めた。 「その猪たちは皆、逃げ出してしまったのだ」 「え」 「あまりに可愛らしく出来たので興奮しているうちに、術式をひとつ組みこみ損ねてしまったようなのだ。本来なら吾輩の命令に従って動くのだが、いやあ、なんだ、そのつまり野生のゴーレムになってしまったのだ。正確には、ゴーレムではないな。あのような無骨なものではなく、毛並みや手触りまで再現された最先端の式神というべきだが」 「ラクロワ卿……」 「安心したまえ! 幸いにも彼らは皆、我が屋敷の地下迷路に逃げ込んだ。外へ出て一般市民を害するようなことは無いと誓う! それに、例え外に出たとしても、うりぼうは可愛いからな! 市民たちは恐れおののくどころか歓喜の声を上げるであろう!」 「外見の良し悪しは関係御座いません」  ぴしゃりと言い捨てたリネットに、ラクロワは悄然と肩を落とした。案外に打たれ弱い。だが、立ち直りも早かった。 「う、うむ……まあ、ともかく! あの子たちを捕まえてほしいのだ。用意した呪符を貼り付けてもらえば、ただの置物に戻るはずだ。地下迷路とは言ったが、もちろん屋敷の主である吾輩は地図を持っている。情報の開示は惜しまないと約束しよう。無論、報酬もはずむとも! 大いなる報酬は人を寛容にする効果があるからな!」  この御仁、自身がトラブルメーカーであるという自覚はあるらしい。そこで態度を改善するのではなく、開き直って札束をちらつかせるのは性質が悪いとしか言いようがない。  なにはともあれ、新年の晴れやかな街中にうりぼう――まだ子どもとはいえ無数の猪が解き放たれるようなことがあってはいけない。  リネットは溜息を飲み込み、粛々と依頼を受諾した。
ラウル・イーストのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2019-01-11

参加人数 1/1人 oz GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
ルーノ・クロードのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2019-01-11

参加人数 1/1人 oz GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
リチェルカーレ・リモージュのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2019-01-11

参加人数 1/1人 柚烏 GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
【神捧】 生きる意味を問う
普通|すべて

帰還 2019-01-10

参加人数 4/8人 梅都鈴里 GM
 技術革新特区として、商業に栄える街、ブリテン――。 「サクリファイスのテロだ! 至急、エクソシストに救助要請を!」  いち早いレヴェナントの報告から、有志のエクソシストらへと速やかに指令が発令される。  幸いまだ『サクリファイス・タナトス』は発動していない。魔方陣は完成し、生贄となる信者は揃っているのに、だ。  強化するべきベリアルの確保に手こずっているだけだろうか……? 監視に配備された構成員は、信者らの動きに眉をひそめる。  何にせよ、術が発動されてしまえば厄介だ。そうこうしているうちに、指令を受けた浄化師らが現場へと到着した。 「待っていたよ、浄化師たち。さあ、神へ捧げる浄化の儀式の始まりだ……!」  浄化師らが現場へ到着したタイミングで、集まった信者らを生贄に『サクリファイス・タナトス』が発動する。  核となる生物が『口寄魔方陣』で呼び込まれる――皮膚を突き破る触手、確認されたのは強化によりスケール2へと進化した猪型ベリアルだ。  固体数も多くない。この程度なら戦闘は長引かないだろう――。  一瞬の油断のあと、口角を吊り上げた術者を見て、構成員はハッとして浄化師らを振り返った。 「う、っぐ、あああっ!」  苦しみ始めた一人を見て、しまった、と気付いた。  術者の狙いは最初からこちらだったのだ。 「ククッ、知っているよ。この術が、君たちの持つその厄介な武器に強く作用することを……生きる為の理由が強くなる程、死が迫るのは苦しいことだろう? 抗い難い衝動に身を任せてしまえばいい。大丈夫さ、神もそれを望んでおられる――」  一度発動した『サクリファイス・タナトス』は止まらない。  苦しむ傍らのパートナーの瞳には、混濁した闇が渦巻いていた。
ラニ・シェルロワのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2019-01-07

参加人数 1/1人 oz GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
ヨナ・ミューエのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2019-01-07

参加人数 1/1人 oz GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
【神捧】盲目の鼠
普通|すべて

帰還 2019-01-06

参加人数 4/8人 駒米たも GM
 教皇国家アークソサエティ、薔薇十字教団司令部。 手を貸してくれとフォー・トゥーナへと報告する男の言葉には、隠しきれない焦りが滲んでいた。  市井の服装と街の至る所で見かける髭面の平凡さが、教団内部に居る事で異質に浮かび上がる。  『レヴェナント』は薔薇十字教団司令部の下で独自に過激派宗教団体サクリファイスを追う組織だ。「創造神が人間を滅ぼすと決めた。人間は滅びを受け入れるべきである」と語るサクリファイスのトップ『カタリナ・ヴァルプルギス』に心酔する者は多く、流行病のように一般市民の中にも浸透している。  男はそういった一般市民の中でも特に危険な人物を監視する役目にあったのだが。 「昨晩、対象が姿をくらませた。一刻も早く見つけ出さねば大惨事になりかねん。今はどこもかしこも手が足りん。その上……」  舌打ちと共に続けられた言葉は苦い。 「昨晩、その女の家から魔術の痕跡らしきものを見つけたと仲間から連絡があった。それを最後に、彼とは連絡が取れていない」  『サクリファイス』に存在する魔術師。他者の魂を糧にベリアルを強化する『サクリファイス・タナトス』なる魔術が明らかになった今、その存在は大量殺人の可能性を示唆している。  男は目を閉じ、眉間にしわを寄せる。 「心当たりといえば、最近気になることがあった。普段は近寄りもしない近所の公園に出かけ、熱心に中央広場のツリーを見ていたんだ。住民たちが持ち寄りのプレゼントを置くだけで、他に面白みもない場所だというのにな」  その公園は柔らかい温かさで満ちていた。  木製のおもちゃ。温かいグリューワイン。木皿に乗った焼き林檎。親に手を引かれ、耳当てをした子供たちが嬉しそうに笑いあう。  テントの並ぶ公園の遊歩道は賑わい、俯いて歩く女を誰も見ていない。  女はまっすぐに中央広場へと向かっていた。  楽し気な回転木馬の横を通り過ぎ、道化の差し出した風船を無視し、飾りつけられた巨大なクリスマスツリーの前で立ち止まると顔をあげた。  喜びに満ちた眼差しはツリーの根本に積まれたプレゼントの山へと注がれる。  生誕祭の日に近隣の住民へと配られるそれは、愛らしいリボンや飾り紙で祭り景色をいっそう華やかに彩っていた。  独り言を呟きながらつり上がっていく女の唇を、飴をくわえた子供が隣で不思議そうに見上げる。  女は片手を天へと伸ばした。ツリーの天頂に飾りつけられた星を求めているのだと、そばに立っていた子供は思った。  プレゼントの山ががらりと崩れ落ちる。  中から現れた仔馬ほどの大きさのソレが、元は飢えた鼠であったと誰が分かるだろう。  背骨だった部分を、眼球だった部分を、尾であった部分を突き破り、幾つもの触手が蠢いている。  沼のように淀んだ黒い毛皮を見て、女は満足そうに笑った。
温泉施設アイスラグーンで楽しもう
簡単|すべて

帰還 2019-01-06

参加人数 4/8人 春夏秋冬 GM
 樹氷群ノルウェンディ。  観光業が盛んな雪国だ。  数多くの温泉が湧くので、それを目当てにした観光客に事欠かない。  観光名所は他にも多く、ツアーガイドの案内でオーロラを見ることの出来る場所もある。  トナカイの畜産も盛んなので、トナカイがひくソリ馬車や、肉を柔らかくする甘辛いタレに漬けた焼肉料理も好評だ。  他にも、固定氷塊と呼ばれる『溶けない氷』で作った食器や人形細工が人気がある。  人気のある観光国家。それがノルウェンディだ。  とはいえ人気があるからと怠けていれば、いつのまにやら寂れるなんてのはよくあること。  それを避けるため、普段から新しい呼び物を探すのに余念がない。  そこで目を付けたのが、魔女の魔法を使った新しい催し物。  魔女の魔法で流れる温泉プールにウォータースライダー。  他にも何かアイデアはないかと、頭をひねっている。  このアイデアを成功させるため、浄化師に協力が求められた。  浄化師が居ることで、魔女が関わる催し物も安全だと、アピールしたいのだ。  かくしてアナタ達は、ノルウェンディの観光名所、温泉施設『アイスラグーン』を訪れることに。  のんびり楽しむも良し。  新しいアトラクションを企画して、それを実行しても良し。  息抜きがてらの指令を、アナタ達はこなすことになりました。  そうした段取りの全ては、ノルウェンディの王ロロ・ヴァイキングが鎮座する王城にて話し合われた。  ◆  ◆  ◆ 「よう来たの。ウボー」  ロロは親しげに、親戚筋に当たる青年、ウボーに声を掛けた。 「お久しぶりです、オジキ」  気安い口調でウボーはロロに返す。  今この場に居るのは4人。  玉座に座るロロと、それに向かい合うウボー。  そしてウボーのパートナーであるセレナと、魔女セパルである。 「話は猛虎の牙から聞いちょる」  ロロは各地の情報収集のため、冒険者として動かしている身内から聞いた話を口にする。 「ワシに手を貸して欲しいことがあるそうじゃのう」 「はい。虚栄の孤島の国家復活に手を貸して欲しいんです」  ウボーが口にした虚栄の孤島とは、かつて小さな国家として栄えた島であり、今では滅びすたれている場所だ。  人が住んでいないことから、魔女の自治領として使えないかと、魔女の権利獲得に動く者達は考えている。  そのために必要なことを、いま話し合っているのだ。 「国家復活っちゅうことは、あそこの王族を見つけたっちゅうことか?」 「いえ、まだ。そのための手助けも頼みたいんです」  虚栄の孤島を治めていた王族は、今では行方が分からなくなっている。  国を復活させるためには、そこを治める王族は必要なのだ。 「王族を見つけることの他に、王族が見つかったなら、オジキに後見を頼みたいんです」 「後見のう……ワシも一応は王じゃけぇ。他の国、それに教団に認めさせる相手としちゃ、権威付けにはなるじゃろうが」 「ダメですか?」  ウボーの問い掛けに、ギタリと笑みを浮かべロロは返す。 「いけん言う訳ないじゃろが。可愛い甥っ子と、別嬪な魔女さんの願いじゃ、それぐらい安いもんじゃ。じゃけどなぁ――」  獰猛な笑みを深め、ロロは言った。 「それだけで済ます気ぃは無いんじゃろ。ワシら相手に気ぃ使わんでもええ。全部、話せぇ、ウボー」  王というよりは、ゴッドファーザーとでも言うべき雰囲気を漂わせるロロに、ウボーは同じような笑みを浮かべ返した。 「教皇の首をすげ替えます。最終的な目的のためにも、虚栄の孤島の国家復活は必要なんです」  ウボーの応えに、ロロは大きく笑う。 「ガハハハハッ! 大きく出たのぅ。教皇の交代には、関連国の王族か代表者の一定数の発議が必要じゃけぇ、その数合わせに虚栄の孤島の王族を使おうっちゅうことか」 「はい。この方法を取らなければ、恐らく多くの血が流れます。穏便に教皇の首をすげ替えるためには、この方法が必要です」  ウボーの言葉にロロは同意する。 「じゃろうのぅ。じゃが、教皇交代の発議が出来ても、それを実行するためにはアークソサエティの貴族連中の承認が要るじゃろ。そっちは大丈夫なんか?」 「すでに貴族筋の幾つかは、話を進めています。問題は現教皇のシンパとなる貴族ですが、そちらの切り崩しも水面下で進めています」 「腹は括っちょるっちゅうわけじゃな。ええじゃろ、協力しちゃる。じゃが、条件がある」  セパルに視線を向け、ロロは言った。 「魔女さんらに、ウチの観光名所の手伝いをして欲しいんじゃ。これから魔女さんらは、表に出て来て一緒に暮らすんじゃろ?」 「うん、そのつもりだよ」  笑顔で返すセパルに、ロロも笑顔で返す。 「ええことじゃ。ウチとしても魔法の使える魔女さんは、のどから手が出るほど欲しいからの。ぜひ、協力していきたいんじゃ。その手始めに、アイスラグーンで何かしてくれんか」 「アイスラグーンって、すっごく大きい温泉だよね? ウチの子達も、一度行ってみたいって言ってる子も多いから、願ったり叶ったりだよ」 「だったら、水着探さなきゃダメよね。あとで行ってみる?」 「うんうん、好いね好いね。楽しみ~」  女性陣のセレナとセパルは、笑顔でお喋りを。  2人を微笑ましげに見ているウボーに、ロロは傍に寄ってボソリと。 「あと一つ、頼みがあるんじゃが、ええか?」 「俺たちで出来ることなら」  ウボーの応えにロロは返す。 「竜の渓谷を襲った、終焉の夜明け団っちゅう奴らが居るじゃろ。アイツらが関わりそうな事件があったら知らせぇ。ぶちのめすのに手ぇ貸しちゃる」 「ドラゴン達のためですか?」 「おう、そうじゃ」  迷いなくロロは返す。 「密猟者共のせぇで、今じゃ離れて暮らしちょるが、ドラゴンはワシらの家族じゃ」  ノルウェンディは、元々は竜の生息地である。  当時のドラゴンのリーダー『ファフニール』との話し合い(物理的なものも含む)により、奴隷や難民も抱え込んだ海賊であったヴァイキング達が住むことを許された場所でもある。  文明や魔術が発達する前は、ドラゴン達の協力により身の安全を確保していたノルウェンディの民は、今でもドラゴンに対する親愛の情は強いのだ。  だからドラゴンが襲撃されたと聞いて、ノルウェンディの民は激怒しているのである。 「分かりました。恐らく、浄化師が一番アレらと関わることが多い筈です。その時に協力を頼めるかもしれません」 「話をつけてくれるか? そん時は、頼むぞ」  ◆  ◆  ◆  などという話し合いにより、巨大温泉施設「アイスラグーン」での魔法を使ったアトラクション企画が持ち上がり、浄化師に協力が求められたのです。  裏では色々と複雑に話が絡み合っているようですが、今回浄化師であるアナタ達が頼まれたのは、ふたつ。  アトラクションのアイデア出しと、実際に楽しんでみることです。  お客さんが大勢きてくれるよう、皆さんのアイデアをお待ちしております。
【神捧】名も無き友よ、安らかに
難しい|すべて

帰還 2019-01-04

参加人数 3/8人 北織 翼 GM
●激闘の予兆 「緊急事態だ! ソレイユでスケール3ベリアルの目撃情報だ!」  本部エントランスに鬼気迫る声が響く。  声の主は教団員セゴール・ジュノーだった。 「現場までの馬車は既に用意してある、支度と覚悟の出来ている浄化師は乗車してくれ!」  セゴールは計算高く冷静で、警戒心の強い男だ。  過去には浄化師に対する任務成功報酬を貴族の男爵から予定額以上にふんだくった事もあるくらいだ。  しかし、そんな彼とは思えない程切羽詰まった様子と、セゴールが叫んだ「スケール3ベリアル」という言葉に、あなたたち浄化師は只事では無いと感じ馬車に乗り込む。 ●動揺の根源  馬車の中には、商人風の格好をした青年が既に1人乗っていた。  彼を訝しむ浄化師たちに、セゴールが紹介する。 「彼は本件現場付近の別の町でサクリファイス信者の動向を探っていたレヴェナント構成員だ。便宜上、今はロイとでも呼んでやってくれ」  レヴェナントは本名を明かさない。  名を変え身なりを変え敵の内情や動きを探る、それが彼らの任務だからだ。 「ロイだ……よろしく頼む」  ロイと名乗った構成員は、ぽつりとそう零しただけですぐに黙り込んだ。  間を空けず、セゴールは激しく揺れる馬車の中で今回の任務について説明に入る。 「スケール3ベリアルの目撃情報が出たのは、ソレイユの片田舎にある『クレイン・ブルメン』という小さな村だ。村民の多くは生花の栽培で生計を立てる園芸農家だが……つい数時間程前、村民の殆どが意識を失い倒れているのが発見された。倒れていた者は皆……死んでいた」  いくら田舎の小さな村とはいえ、村民の殆どが死体で発見されるのは尋常ならざる事態だ。  息を呑む浄化師たちに、セゴールは続ける。 「偶然にも任務中に通りかかったロイがその現場を目撃し、急ぎ本部に知らせてきた。ロイ、君の見た状況について浄化師たちに報告してくれないか」  セゴールに促され、ロイは口を開いた。 「ベリアルは1体しかおらず、獰猛な猫のような鳴き声を発しながら、『皆殺しだ』と繰り返していた。容姿は二足歩行する獣のようで、何やら奇妙で……恐ろしい技を用いていた。偶々そのベリアルの手で組み敷かれた野良犬が、数秒後にまるでベリアルの掌で押し潰されたかのように粉砕したんだ」  そこまで聞いたセゴールは、軽く唇を噛んだ後告げる。 「これは私の推測でしかないのだが……そのベリアルは『デストルクシオン』を行使している可能性がある」  『デストルクシオン』とは、掌で3秒間触れた物体や生物を崩壊させる能力を言う。 「鳴き声、人獣のような容姿、デストルクシオン……これらを総合して考えると、山猫のような獣が元の生物だった可能性が高く、接近戦には十分警戒する必要があると言える。少なくとも奴に触れられるのは絶対に避けたい」  皆これまでの敵とは勝手が違う相手を想像し、車内の空気はひどく重苦しくなった。  ガラガラと忙しなく車輪を回らせる馬車の音だけが、やけにうるさく響く。 ●回想  浄化師たちが沈黙する馬車の中、セゴールは『名も無き友』の姿を思い出していた……。  セゴールには、友と呼べる男が1人いた。  彼とは同じ任務を担当した事がきっかけで、多少の会話を交わすうちに意気投合した。  彼は「リューズ」と名乗っていたが、それが本名とはセゴールには疑わしかった。  何故なら、彼は会うたびに商人の格好をしていたり奴隷の格好をしていたり、まるで様々な人間を「演じて」いるようだったからだ。  それでも、セゴールはリューズを詮索はしなかった。  不思議と、彼がセゴールの『警戒心』を煽るような事は無かったのだ。  『馬が合う』とは、こういう事を言うのだろう。  そんなセゴールに、リューズは一度だけ故郷の話をした事がある。  あの時は互いに酒が入っていたので、酔った勢いもあったのだろう。  何処とは明かさなかったが、銀のチューリップの飾りを付けた首飾りを見せながら『チューリップばかり植えられているひなびた田舎だ』と言っていたのをセゴールは覚えている。  そして、『過去にサクリファイスが信者獲得の為に村人を何人も連れ去った』とリューズの双眸が一瞬殺気を帯びたのも……。  そして今日、彼は偶然その首飾りを目撃した。  それは火葬された者の遺品で、返却はされず本部で人知れず処分されるという。  教団で火葬されるのは浄化師など『関係者や血縁者への報復が予想される者』だ。  その時、頭の良く働くセゴールは悟った。  リューズが浄化師の制服を着ていたのを見た事は無く、更にこれまでの彼の様子から、リューズはレヴェナントの構成員だったのだ、と。  それから殆ど時を待たずして、クレイン・ブルメンの惨劇を目撃したロイが本部に駆け込んできたのだった。 ●臨場  どれほど走り続けたか、馬車はいよいよクレイン・ブルメンに到着した。  武装を整え馬車を降りる浄化師たちに、セゴールは警告する。 「この辺りはちょうどチューリップの球根を植え終えたばかりで土が柔らかくなっている。足場が悪い事を念頭に入れ、相手との間合いに細心の注意を払ってくれ。それと……」  セゴールの目は、どこか浄化師たちに縋るような切なげな色を宿していた。 「私の友の魂も、あのベリアルに内蔵されているのかもしれない……。頼む、友の……リューズの魂を、そして、彼が守りたかった村の者たちの魂を、君たちの手で解放してやってくれ」
アリス・スプラウトのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2019-01-04

参加人数 1/1人 弥也 GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
幸せの行方
普通|すべて

帰還 2019-01-02

参加人数 3/8人 春川ミナ GM
「おやまぁ。お爺さん? こんな夜遅い時間まで何処に行ってたんだい?」 「いや、そこで子供が迷子になっててな。どうやら親とはぐれたらしい。自警団の屯所に連れて行ったんだが、まだ親からは連絡が無いみたいでな。屯所の連中も男ばっかりで子供の面倒もようく見切らんと泣いてせがまれたんで連れて帰って来た。何、親が屯所に来たらすぐにウチに来るような手筈になっとる。この村は誰も知り合いだでな」    ここはミズガルズ地方「樹氷群ノルウェンディ」の端にある小さな村。  氷に閉ざされた大地だが、その反面村人の心はとても温かく、笑顔を忘れずに生きている。例えるなら冬の部屋に灯った小さなランプ。そんな村だった。 「エリヤ、この間獲ってきた鹿肉があったろう。あれを細かく刻んで香草と一緒にスープにしてくれるか?」 「はいはい。まったく、お爺さんは何でもいきなりですねぇ」  エリヤと呼ばれた老婆は、口ではそう言いながらもいそいそと給仕の支度を始めた。娘や息子も手が離れ、とうにこの地からは出て行ってしまったのだ。孫を連れて来る事もあるが、特に名産も無いこの村では長く滞在する事も無い。だから久しぶりに触れ合える子供という存在が嬉しいのだ。 「ほら、お嬢ちゃん。おまえさんの名前はなんじゃったかな? 最近歳のせいか物忘れが酷くてな、ハッハッハ。そう言えばまだ名乗っておらんだったな。儂はアントン。しがない罠猟師じゃよ」  アントンは口を覆う白いヒゲを撫でながら、後ろに居た子供に声をかけた。その子供は年の頃が10歳くらいだろうか。ゆったりとしたドレス調の黒いワンピースに白いコート。瞳は澄んだ青。肌はとても白く、同じように白く長い髪の毛をひとつに纏めてマジェステと言う棒状の髪留めで留めてある。それはまるでノルウェンディの樹氷が人間になったと言われたら信じてしまいそうで、太陽に当たれば消え行く儚さを感じさせた。  勿論アントンの物忘れと言うのは方便である。エリヤにこの子の口から自己紹介をさせたかったのだ。 「……マゴット。本当にお父さんとお母さんが見つかるの? 私、ずっとお父さんとお母さんを探しているの」 「ああ、大丈夫だ。ここは狭い村だでな。多分おまえさんのパパとママはすぐに見つかるさ。ほれ、いつまでもドアを開けていると寒いじゃろ。中にお入り」  マゴットが会釈をし、するりと家の中に入るのを見届けてからアントンはドアをゆっくりと閉めた。 「マゴットと言ったかい? 暖炉の前にある椅子に座ると良いよ。お爺さん、多分この子はアークソサエティからの観光客かねぇ。身なりも小奇麗だし、この村から出てったモンの子供かねぇ」  エリヤは暖炉にかけた鍋をかき混ぜると、その脇に串に刺した大きめの芋を立てた。椅子に座ったマゴットがエリヤの動作を不思議そうに見つめるのに気がついたのか、アントンが口を開いた。 「この村では小麦が取れんのでな。芋を使った料理が主だ。何、パンのように柔らかくは無いが食べ応えはある。マゴットは甘いのとしょっぱいのどっちが好きなんじゃ?」 「……甘いの、好き。お母さんいつもお菓子作ってくれてた」 「そうかそうか。婆さん、蜂蜜とバターがあったじゃろ。あれを用意しておやり」  鈴が鳴るようなか細い声で語るマゴット。  アントンは親とはぐれ、迷子になったマゴットが不安に思ったのだろうと察して、精一杯もてなしをする事に決めた。せっかくの旅行だ。寂しい思い出は最小限に留めて美味しい物で上書きしてやろうと。 「まったく、お爺さんは私ばっかり働かせて。私もマゴットちゃんと話したいのにねぇ」  エリヤは苦笑すると少し曲がった自分の腰を片手で叩きながら椅子を引いてマゴットの隣に腰掛けた。 「マゴットちゃんの好きなものはなんだい? 食べ物でもおもちゃでも何でも教えてくれるとお婆ちゃんは嬉しいねぇ」  ニコリと皺が寄った顔を更に皺くちゃにしながら、優しい声色でエリヤが話しかける。それは見るものを安心させる笑顔だった。 「……お人形。ずっと話し相手になってくれるの」 「おや、そうだったのかい。それなら良い物があるよ。ちょっと待っていておくれ」  マゴットの言葉にエリヤはポンと拳で手の平を打つと、おそらく寝室があるであろう奥の部屋に入っていった。 「おやおや、婆さんは火の番を忘れているな。もう少しで出来るからな、マゴット」 「ありがとう。……少ないけれど、これ……」  席を離れたエリヤの代わりに鍋をかき混ぜるアントンに向かってマゴットはポケットから小さな硬貨を取り出し、差し出した。それは暖かい暖炉の光に当たっても尚寒々しい銀貨だった。 「子供はそんな事気にせんでも良いんじゃよ。そんな気の使いかたは大人になってからするもんじゃ。それに儂はおまえさんからそんなもんを受け取っても嬉しくはないのぅ」  咎めるつもりのアントンだったが、所在なさげに下ろされたマゴットの硬貨を握った手が視界に入り、それは苦笑に変わった。 「そうじゃなぁ……。おまえさんがお礼をしたいって言うのなら、いつか大人になった時にこの村にまた遊びに来てくれると嬉しいのぅ」 「うん。わかった。また戻ってくる」  マゴットが短く答えた時、エリヤが一体の人形を抱いて戻ってきた。 「これは私の娘が置いていった物だけれどね。一緒に連れて行ってくれると嬉しいねぇ」 「……連れていって、良いの?」 「勿論じゃ。お前さんと一緒だと嬉しいじゃろうな」  エリヤの言葉にマゴットが返し、アントンが肯定する。 「……あり、がとう」  たどたどしく礼を言い、人形を受け取り、キュッと抱きしめるマゴット。 「さて、ご飯にしようかね。マゴット、沢山食べてくれると嬉しいねぇ」  老夫婦の食卓は小さな珍客のおかげでいつもより暖かく、そして少しだけ明るい時間となった。  *** 「捨て子かもしれんの」  時刻は深夜。暖炉の火も落ち、外はひょうひょうと風の泣く声が聞こえるのみ。アントンは唐突にボソリと呟いた。 「そうですねぇ……。おや? マゴット? どうしたんだい?」  エリヤがアントンの方を向いて返事をした時、開いたドアの影から片手に人形を抱いたマゴットが視界に入る。髪の毛は下ろされ、月明かりに照らされたそれは外の雪と同じようにわずかな光を反射している。 「お父さんとお母さんを……探してるの」  マゴットはどこか遠くを見るような瞳をしたまま呟き、ゆっくりとアントンとエリヤが居るベッドに近づいてきた。  アントンはマゴットが寂しさから起きてきたのだろうと思い、抱き上げてあやそうと体を起こす。エリヤの目にはアントンの首に抱きつくマゴットの姿が見えた。だが……。 「ああ、明日には会えるから心配せずとも寝た方が良いぞ。……カッグッ!?」 「お爺さん!? ゲグッ……!」  アントンがベッドに倒れこんだのを不審に思い、近寄るエリヤにもマゴットが抱きつく。 「お父さんとお母さんを探しているの」  マゴットの手には魔術の光か血だろうか。白い髪を留めていた、どす黒く濡れたマジェステ。老夫婦は首を一突きにされ絶命した……。 「……連れて行って良いって言った。お父さん、お母さんを探して?」  ゆっくりと老夫婦の死体に近づき、自身の手をゆっくりと傷つけるマゴット。そして二人の口に赤い雫を垂らす。 「オオォォォオ……」  村で一番優しいと評判の老夫婦だったモノは人の姿をとどめたまま、人では無いモノとしてゆっくりと起き上がった……。
シャルローザ・マリアージュのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2018-12-30

参加人数 1/1人 梅都鈴里 GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
トロール・ブルーと雪遊び
とても簡単|すべて

帰還 2018-12-28

参加人数 4/8人 あいきとうか GM
 樹氷群ノルウェンディ。  教皇国家アークソサエティから程近く、かつては竜の渓谷でドラゴンとともに生活していた人々が住んでいた地域でもあるその王国は、現在では高名な観光地として栄えている。 「スキーや温泉も有名なんだけど、最近はトロール・ブルーね。伝統工芸品なんだけど、特に注目され始めてるの」 「トロール・ブルー……。固定氷塊を用いて作る、食器や人形細工でしたか」 「そう。冷たくなくて、絶対に溶けない氷」  水気の魔結晶を特殊な魔術で水に溶かし、凍らせて作る固定氷塊は、陶器のような質感と強度を有しており、不思議と冷たくなく、永遠に溶けない。ノルウェンディの伝統産業だ。  それを材料として作られる品々は、最初に固定氷塊を用いて工芸品を作る工房を開いたトロール一家と、その透き通るような青さから名前をとり、トロール・ブルーの名で親しまれている。 「冷たくならない、溶けない、っていうのが、若い子たちの心を掴んでね? トロール・ブルーのペアリングが特に人気なの」  教団本部の司令部の会議室で、ノルウェンディからやってきた女性が写真を出す。  テーブルを挟んだ対面に座る司令部教団員は、丁寧な手つきでそれをとった。不鮮明な写真には、同じデザインの指輪が二つ、並べられている。 「二人の仲は永遠に冷めず、二人を結ぶ糸は永遠に切れないってね」 「溶けない、ではなくて、ですか」 「糸は溶けないでしょ。いいのよ、なんとなく意味は通じるじゃない」 「そうですね」  つまり、トロール・ブルーのペアリングを身に着けた二人は、永遠に愛しあえるというわけだ。  若い恋人たちの間で、近ごろ浮上した伝説らしい。 「これね、雪遊びの景品なの」 「雪遊び?」 「ノルウェンディの、オーセベリのスキー場の催し。テニスコート二面分の雪の中に宝物が隠れてて、見つけたら景品がもらえるのよ」  オーセベリは温泉プールなどのレジャー施設が集中している地区だ。土産物店なども多く、観光客が特に集まる。 「つまり、教団へのご依頼とは」 「人海戦術よ。雪遊びで宝物を見つけて、ペアリングを私に頂戴」  依頼主は真剣な目で体を乗り出した。司令部教団員は、気迫に圧されるように背をそらす。 「どうっしてもほしいの。彼にあげるの!」 「はぁ……」 「もうすぐ彼の誕生日なのよ。だから、トロール・ブルーのペアリングをあげて、驚かせて、プロポーズしてやるわ!」  目の奥に炎を宿らせる女性を、両手を上下に振って落ち着かせ、司令部教団員はメモ用紙をとり出した。 「ええと、とりあえずご依頼、承りますね……」 「お願いね! あ、参加賞もあるのよ。温泉一日入りたい放題券!」  だからお願い、と女性は両手をあわせ、司令部教団員を拝んだ。
暖炉の薪亭にて
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帰還 2018-12-28

参加人数 2/8人 駒米たも GM
 日が傾くにつれ街はライラック色へと染まっていく。  ぽつぽつと窓からのぞきはじめたオレンジ色の光が、柔らかく積った三角屋根の雪を照らしていた。  並んだ民家の煙突からは、夕餉の匂いを詰めこんだ煙が空へとのぼっている。  花弁のように舞っていた雪の華はいつの間にか牡丹の大きさへと変わっていた。  『ゴクスタ』は樹氷群ノルウェンディの中でも民家が多く連なる地区である。  近隣にノルウェンディの名産品、『トロール・ブルー』の生産施設が多く並ぶため、 夕方にもなれば職人たちの集まる酒場にも活気が出る。  酷くなる風雪から逃げるように滑り込んだ扉の先が、まさにそれだった。  強い酒精と水蒸気を含んだ熱気が来客を歓迎する。  天井の梁に吊られた洋灯が入店と共に風に揺れ、金赤の灯りが店内を照らした。  外観は石造りだったが内装は素朴な雰囲気を残す丸太が多い。  いかにも職人街らしく、店内の至る所にアイスブルー色の氷が溶けることなく飾られている。  飲み代を賭けて腕相撲で勝負をする職人たち。  カードゲームに興じる老人たち。  鍋太鼓と手拍子を伴奏にトナカイと森の歌を奏でる酔っ払い。  住民にとって窓の外の猛吹雪など慣れたものなのか。  入ってきた雪まみれの来客に動じることはない。しかし観光客が珍しいのか、向けられる視線の中には隠し切れない好奇が混じっていた。 「そんなに見て、客が逃げたらどないするつもりじゃ!」  視線は皿を運んでいた恰幅のよい女性が目の前に来ることで遮られる。  店内の視線全てをシャットアウトするほどの横幅。服や三角巾には焼いた肉汁と獣の油が飛び散り、クリスマスビールと野菜の匂いが深く染みている。 豪胆な赤ら顔が皺だらけの笑顔を見せる。そこに浮かぶのは歓迎の情だ。 「おう、おう。あんたら、外は寒かったじゃろ! 暖炉近くのテーブルが空いとるけ、早う行って温まり」  強い訛りで奥のテーブル席へと通された。  ぱちりと空気を含んで爆ぜた赤い薪の音。テーブルの上に立つ青いトナカイの人形が透き通った身体に暖炉の炎をうつしこんでいる。  卓上の置物。棚に並んだ皿やマグカップ、雪の打ちつける窓枠には十字架の台座、暖炉横のクリスマスツリーを彩る輝くオーナメント。  これらは陶器のような質感と強度をもつ「『固定氷塊』と呼ばれる特殊な氷を加工したものであり、トロール・ブルーと呼ばれるノルウェンディの名産品でもある。   「お待ちどうさん。見ての通りの酒飲み食堂じゃ。食器はともかく貴族様が食べるような大層な飯は出せん。まずはあったかい飲み物で体を温めるとええじゃろ」  配膳の途中なのか。両手いっぱいのトナカイ肉料理を抱え、先程の女性がやってくる。  ウィンナーのような指がメニュー表と共に名刺大の紙を二枚差し出した。 「ウチの店じゃあ、クリスマス前にはメッセージカードを客に渡しとるんよ」  樹氷のクリスマスツリーを思わせる飾り枠の中には雪原のような白紙が広がっている。  一番下には金色でメリークリスマスの文字。 「良かったらあんたらも書いて、日頃世話になっとる人に渡してあげんさい」
スターリー・ナイトで踊りましょう
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帰還 2018-12-28

参加人数 3/8人 oz GM
 今日は「スターリー・ナイト」の日。あるいは「星の祝祭」と呼ばれる年に一度だけの特別な日。  シャドウ・ガルテンのある町では冬至が近くなると、この祝祭が行われる。この祝祭は別の国から流れ込んだ祝祭がこの町に定着したものだが、年に一度のお祭りを誰もが楽しみにしている。  大人も子供もこの日は関係なく、飲んで食べて踊る楽しい一日。こっそりと妖精も参加し、月夜の下で舞い踊る。  この日にふさわしい服装は星月夜をモチーフにしたもの。女性は星が散りばめたようなドレスを着て星月夜をモチーフにしたネックレスやピアスしていれば、男性は月や星のカフリンクスやネクタイピンをしているものも多い。総じて夜空を連想させる紺色や黒の生地を使った服を着ている。  夜になり表通りを歩いていると、どこの店や家も星形の手作りランプシェードに明かりを灯している。  星形や月形のランプシェードとはいっても様々なものがあり、美術品のような金細工でできたものからから可愛らしいレースをカバーにしているものすらある。  きらめく星々が町を照らすと、見慣れた場所がまるで知らない場所のように見える。  ランタンの他に星や月をモチーフにしたオーナメントが店や家の内外に飾られたり、星の形をしたリースが扉にかけられたりしている。  この日のシンボルともいえるポムドールという果実がある。その果実は暗闇の中でもほんのり輝いて見えることから黄金の果実とも呼ばれている。  ポムドールは滋養も良いことから「長寿」の意味も込められている。滅多に食べられないこの果実は子供達に大人気だ。  ポムドールを使った菓子や果実酒が振る舞われ、たくさんの料理と共に人々は楽しげに飲み食いし、歌ったり踊ったりする。  冬至になる前に行われるこの祝祭の夜には、先祖の霊が帰ってくると同時に悪霊や魔女もそれらに紛れて現れると考えられていた。  星は光の象徴でもあり、悪しきものを寄せ付けないことから「魔除け」として用いられてきた。そして、月は満ち欠けの周期で姿を変えるため、「成長」の象徴でもある。  元々の起源を遡ると、太陽の再生を祈るための儀式だった。この祭りは今年も無事に冬を越せますようにと祈りが込められているのだ。かつては火を焚き、大いなる存在に生け贄を捧げた。人が自然の恵みを受け取ることを感謝し、この日になると大いなる循環の一部であることに畏敬の念を示したとされる。  しかし、近年になると大人も子供も関係なくお祭り騒ぎするイベントになっている。  先祖の霊が迷うことがないように星を道標とし、悪霊から身を守るために魔除けとして焚き火の代わりに今では星のランタンを飾る。  「スターリー・ナイト」の夜には魔神が率いるワイルドハントが訪れる。ワイルドハントは目に見えない狩猟団である。その側には常に多くの黒い犬が連れ添っている。彼らを見たものはワイルドハントの一員に引き込まれると言い伝えられている。この時期になると大人は「悪い子はワイルドハントに浚われるよ」とヴァンピールの子供にそう言って聞かせる。  「スターリー・ナイト」の本番は夜である。大抵は町の広場にあるガゼボに巨大な振り香炉を吊す。それを振り子のように人力で押し、徐々に香炉の振り幅が大きくなっていくと香が人々に行き届くようになる。  古来から強い匂いはケガレを退け、ワイルドハントから身を守ると信じられていた。  香炉には火気の魔結晶と乳香にレモンやサンダルウッド、ラベンダー、ネロリ、ゼラニウムなどから精油を選び、町ごとに違った調合がされている。その特殊な香は周囲に香りを充満させるだけでなく、香の匂いがするところはまるで焚き火に当たっているように暖かい。  太陽の再生を祈る儀式から星の祝祭へと変わった経緯は不明だが、その名残は今でも残っている。  振り香炉は大抵金色であり、金色は暗闇や寒さと戦う太陽の象徴である。香炉から立ち上る煙は祈りが届くようにという意味が込められているのだ。  煙が立ちこめる中で踊るダンスは冬の霧のベールに包まれて、その夜だけ別世界にいるように感じられるだろう。煙がくゆる中、星のランプの明かりが幻想的に揺れる。暗闇の中では星のランプに照らされていても薄暗くて周囲は見えづらい。ダンス相手だけを感じて踊っていられる。だからこそ、若者達はこの日のためにとっておきの衣装を準備して、ダンスの時間の訪れを心待ちにしている。  あなたは指令によって星の祝祭が行われる日にこの町にやってきた。  指令の名目はシャドウ・ガルテンと教団の協力関係を深めるためだが、実質は浄化師達への息抜きだ。  星を散りばめた町の光景を堪能するのもいいし、屋台を見て回るのもいいかもしれない。他にもポムドールで作られたお菓子やジュースも売られている。この日だけしか食べられない一品だ。  もしあなたが成人済みだとしたら、一部の好事家にしか知られていない黄金の果実酒を探してみるのも面白いだろう。  たくさんの星空のようなランプの灯りが揺れる中、散歩をしてみるといい。それはとても幻想的な光景で忘れられない記憶になるだろう。広場にいくと星月夜の下でワルツを踊り出す。パートナーと参加するのもいいし、見ているだけでも楽しめるだろう。  さあ、あなたはどんな一夜を過ごすだろうか。
シュリ・スチュアートのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2018-12-28

参加人数 1/1人 春夏秋冬 GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
リコリス・ラディアータのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2018-12-28

参加人数 1/1人 あいきとうか GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
アユカ・セイロウのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2018-12-26

参加人数 1/1人 あいきとうか GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
ベルロック・シックザールのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2018-12-26

参加人数 1/1人 鳩子 GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
アシエト・ラヴのクリスマス!
普通|すべて

帰還 2018-12-26

参加人数 1/1人 鳩子 GM
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。 12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、 今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。 子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、 プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。 そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、 ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。 「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、 エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。 しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。 あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
無邪気という名の悪夢
簡単|すべて

帰還 2018-12-25

参加人数 2/8人 土斑猫 GM
 雨が、続いていた。  ここ、「竜の渓谷」を、この季節には珍しい長雨が見舞っていた。  厚い雨雲に覆われた空から滝の様に降り落ちる雨は強く大地を打ち、あちこちに小川の様に流れる水の道を穿っている。  渓谷の至る所は浸水し、辺り一面は湿地の様に様子を一変させていた。  渓谷の底にある深川、「清澄の渓流」もまた、例外ではない。  常時でさえ湖並の水深がある川はさらに水量を増し、本来は穏やかな流れも今や滝の様な激流となって轟々と流れ下っていた。  そんな渓谷を眼下に望む場所に、広い丘がある。低い木と下草に覆われたそこに、巨大な何かが横たわっていた――。  一見すると、それは地肌が剥き出しの小山の様にも見える。しかし、近づいた者は、すぐにその認識が間違いである事に気づくだろう。  『それ』は、山の様な土塊(つちくれ)の塊ではない。その表面を覆うのは、土ではなく黄土色の鱗。一枚一枚が大人の手のひら程もあるそれの山は、ゆっくりとリズムを刻む様に波打っては、コフー、コフーという呼気の音を漏らす。  そう。それは生き物だった。全身を鱗で覆った巨大なワニの様な生き物。  この世で最も美しく、そして強靭な存在。  ――ドラゴン――だった。  眠っているのだろう。彼女はその目を閉じ、静かに寝息を立てている。もっとも、静かと言うのはものの例えであって、実際にはその肺が息を絞り出す度に辺りには台風の様な大風が巻き起こっているのだが。  滝の様な雨も、その巨体には何の疼痛にもならないのだろう。全身をしとどに濡らしながらも、彼女はこんこんと眠り続ける。  と、その巨体がゴロリと蠢いた。寝返りをうったらしいが、この図体。辺りが、地震でも来たかの様にグラグラと揺れる。  異変が起こったのは、その時だった。  横になった彼女の腹の下から、白くて丸いものがコロコロと飛び出したのだ。その数3つ。どうやら腹の下に抱いていたものが、彼女自身が起こした揺れに押されて転がり出たらしい。さらに、状況が悪かった。散々降りしきった雨で、下草は濡れそぼってツヤツヤ。地面は泥濘んでヌルヌル。まろび出た球体は、草の上を滑り、泥の上をぬめって、傾らかな坂をコロコロと競う様に転がっていく。  彼女は起きない。気づかない。雨の音と深い眠りが、彼女の五感を完全に遮断していた。  コロコロ コロコロ  転がる先は、崖の淵。その勢いのまま、スポーンと飛び出て……。  3つの球体は、激流逆巻く川へと真っ逆さまに落ちていった。  次の日、昨日までの雨が嘘の様に晴れ渡った空の下、渓谷の管理者「ワインド・リントヴルム」は険しい顔で谷底を流れる川を見下ろしていた。  彼の眼下に広がるのは、今だ勢い衰えない激流。  ワインドは、周りにいた協力者であるデモン達に指示を出す。  特技である「天空天駆(スカイワード)」を使い、渓流に沿って飛び立つ彼らを見送ると、ワインドは背後を振り返る。  そこにいたのは、黄土色に輝く巨竜。彼女は天を突く程に長い首を傾げると、悲しげな眼差しで谷底を見つめる。  ワインドは手を伸ばして彼女の顎を撫で、なだめる。  それに答える様に、喉を鳴らす巨竜。  その心の痛みを察しながらもう一度谷底を見つめると、ワインドは静かに何事かを呟いた。  それから数刻後、ワインドの姿は「教皇国家アークソサエティ」の薔薇十字教団本部にあった。  竜の渓谷から「転移方舟」によって移動してきた彼は、訴える。  『大雨によって、「ティアマト」の巣から卵が流された。回収するために、力を貸してほしい』と。  流された卵は3つ。流れ着いた場所はそれぞれワインドと他のデモンによって確認されていたが、ティアマトはドラゴンの中でも最大種。当然、卵も大きい。回収には、人手が必要なのだという。  渓谷にいるドラゴン達の手を借りれれば一番いいのだが、卵は全て激流で削られ、入り組んだ渓流の岸辺に流れ着いていて、身体の大きなドラゴン達では近づけない。どうあっても、人間の手で回収するしか方法がない。加えて、ワインドの手元にいる人数では、全ての卵を同時に回収する事は出来ない。かといって、他の卵の回収に人手を回して目を離せば、その間に密猟者や「終焉の夜明け団」の毒牙にかからないとも限らない。  そのため、どうしても3つ同時に回収する必要がある。  ワインドの手勢でカバー出来るのは2個まで。残り1個を回収する為の手勢を貸してほしいとの事だった。  教団側に断る理由はない。任務は動かない卵の回収だけ。今のところ、密猟者や信者の姿も確認されていない。  比較的容易な仕事と判断した教団は、ちょうど手の空いていた浄化師数組を現場に向かわせた。  容易な仕事。  そう。容易な仕事の筈だったのだ。  『その時』までは。  しばしの後、現場に到着した浄化師達。その中の一人が、呆然と呟いた。 「……孵ってるじゃないか……」  そう。彼らの目の前にあったのは、割れた卵の殻と、そこから半身を放り出して眠る巨大な幼竜の姿だった……。
ポルヴェレ・ディ・ステッレは歌う
とても簡単|すべて

帰還 2018-12-24

参加人数 2/8人 北野東眞 GM
 今回は現地調査、とロリクが告げた。 「危険なことはないと思うから、しっかりと調査してきてもらえたらと思う。この指令は現地に行っての調査なんだが、時間帯によって調べられるものが違うので注意するように」  とのこと。  調べにいくのは、教皇国家アークソサエティ内の、とある港町だそうだ。  この街の近くには小さな山があり、そこでは蒲萄や梨も作っているそうだ。この時期になると冬の保存食として蒲萄はワインへ、梨のタルト作り、干したニシン作りとお祭りみたいに楽しく調理するそうだ。  ちょうど浄化師たちが訪れる日はワイン作りをする日で昼間は陽気な音楽に合わせて蒲萄を足で踏んで果汁作りをしたり、山でとれた梨などでタルトを作っていて味見として一部は振る舞われるそうだ。 「ま、それ以外でも海のうまいものなんかがわりと多く出ているそうだから屋台なんかによって食べたり、見たりして楽しむといいかもな。昼間はまだ温かいが夜は寒いから、風邪をひくなよ?」  夏から冬へと変わる季節になると渡り鳥が飛ぶその場所では、渡り鳥たちがまるでしばしの別れを告げるように花を海へといくつも落として飛ぶそうだ。  昼間に見ると、いくつもの花が海を満たして甘い匂いがするという。  夕方にはその花を食べようとトビウオなどの魚が出てきて、啄む様子が見えるのだ。 「なんでも、この季節になると温度とかその他いろいろな関係で、海が淡く輝くそうだ。その上、宵の口になるとオーロラが見えるそうだ。実際、オーロラではないそうだが……深夜は星が踊るという現象があるそうだ。まぁ、どの時間帯の調査をして、どんな風景だったのかなどは任せる。楽しんでこい」
スターリー・ナイトの前日譚
普通|すべて

帰還 2018-12-22

参加人数 3/8人 oz GM
 シャドウ・ガルテンの片隅にある町。この町を歩くと至る箇所に星と月をモチーフにしたオーナメントが飾られている。表通りには作り手の個性が見える星のランプが並べられており、祝祭になれば圧巻の光景が見られるだろう。  町ではお祭り前の浮きだった空気が漂っていた。  浄化師たちはこの町の名士に依頼されてやってきた。田舎町にしては立派な館に通されると、メイドに客間まで案内され、「しばらくお待ちください」とソファへと案内された。  少し遅れてやってきた名士は40代頃の男性のヴァンピールで、仕立てのいいスーツを着こなし、青いストライプのネクタイには星のネクタイピンが刺されていた。顔には深く皺が刻み込まれているものの、よく見れば服の上からでもしっかりと鍛えられているのが分かった。  メイドがテーブルに紅茶を置いていく中、名士が浄化師を歓迎する。 「この度は遙々ここまでやってきていただき、ありがとうございます。この町自慢の特産品の紅茶はいかがですか?」  名士に勧められ、浄化師たちは紅茶に口づける。ふわりと甘酸っぱいリンゴの香りが鼻孔を通り抜ける。自慢のというだけあって香りのよいリンゴの果肉をブレンドした柔らかな風味が舌に広がる。  ストレートで飲むのが一番美味しいというだけあって、休日の朝食時や三時のおやつ時に楽しみたいアップルティーだ。 「さて、本題ですが。あなた方浄化師には西のくらがりの森にある果実を採ってきて欲しいのです」  カップをテーブルに起き、そう真剣な表情で切り出した。 「町を見ていらっしゃれば分かるでしょうが、今日から一週間後に伝統行事『スターリー・ナイト』が行われます。『スターリー・ナイト』とは、無事にまた今年も冬が越せますように祈る古くから伝わる風習で、この日にポムドールと呼ばれる果実を食べると災難から身を守り、よりよい一年が送れると言われています」  今では大人も子供も関係なく祝う日になっていますが、と苦笑しながら説明してくれた。 「元々この祝祭はシャドウ・ガルデンで行われていたものではないんですよ。かつて私が住んでいた町で行われていた行事を元に始めたものなんです」  男性はどこか遠い場所を見つめながら、懐かしむような口調で話す。 「閉鎖的な国でしたから、少しでも娯楽をと考えて始めた祝祭ですが、今では毎年住民たちは楽しんでくれていることが私も嬉しいんです。……ですが、この日だけに食べることのできるポムドールが今年は採れそうにないのです」  心底困っている名士に、何故なのかと尋ねると、 「西にある森にはピクシーの集落があります。我々はピクシーと共存しながらやってきました。ポムドールの生る大樹は、くらがりの森のピクシーが世話をしており、スターリー・ナイトが近づいた時だけはこの果実を持って帰ることが許されるのです」  そこで名士は一旦言葉を切り、ため息を吐き出した。 「ですが、最近この大樹にキラービーの巣ができてしまい、ピクシーたちも困っているのです。どうか、我々の為にもキラービーを討伐し、巣の撤去をお願いします」  名士は浄化師たちに向かって深々と頭を下げる。  スターリー・ナイトを楽しみにしている子供たちの為にも、キラービーを討伐してあげよう。大樹への案内はピクシーがしてくれるそうだ。  キラービーの巣はまだ完全にできあがってはいないとはいえ、キラービーの大群を相手取らなければならない。  諸君等の健闘を祈る!
灰色空の道
とても簡単|女x男

帰還 2018-12-21

参加人数 2/8人 土斑猫 GM
 秋が終わろうとしていた。  木々を飾っていた紅葉も散り果て、もう雪が天を飾るまで幾ばくかという日の事。  場所は、教皇国家アークソサエティ。そこに建てられた、薔薇十字教団本部。  その庭園で鍛錬をしていたあなたは、一人敷地外に出ていくパートナーの姿を見とめる。  今日は、自分たちは休日の筈。不思議に思ったあなたは、パートナーを呼び止める。  訊けば、これから今は亡い家族の墓へ花を手向けにいくのだと言う。  場所を聞くと、どうにもはぐらかされる。  このパートナーとはそれなりの場数を踏んできたが、何せ戦いや任務に明け暮れる毎日。それにかまけて、互いに知らない事も多い。  気になったあなたは、パートナーにくっついていく事にした。どうせ、暇な身である。  墓参りとは些か辛気臭い用事ではあるが、せっかくの休日を鍛錬と昼寝だけで潰してしまうよりはマシだろう。  露骨に嫌そうな顔をするパートナーを無理矢理説き伏せ、あなた達は鎮魂のための小さな旅へと歩き出す。  前に広がる町並みは、ゆっくりと冬支度を進めている。  行き交う人々は、温もりを感じさせる服装に身を包み、この間まで氷菓を売っていた筈の甘味屋は、いつしか香ばしい焼き菓子の香りを漂わせている。  街の花屋の店先を飾るのは、赤や黄色の鮮やかな花ではなく、遠くアールプリス山脈で咲くという、『氷華』の澄み渡る青。  やがて、途切れた街並みの向こうに続くのは、冬枯れた野原の向こうへ続く一本道。  そんな透明な空気の中、向かうのは遠く灰色の雲が覆う空の下にあると言う、小さな墓地。  そこであなた達は、どんな想いに出会うのだろう。
仕立て屋マリー・アルガェヴのお店へようこそ
とても簡単|すべて

帰還 2018-12-20

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
 その仕立て屋の名前はマリー・アルガェヴ。  女主人が寸法からデザイン、生地の選択、ドレス作りのすべてをするということで評判のお店だ。  個人でしているためあまり大量に発注しておらず、来店したお客様のお話をきき、その方にほしいもの、気持ちを形にすることをモットーにしているそうだ。  このお店の服を身に着けて告白すると恋人になれた。  仕事で成功したいと思う者が着ると成功した……嘘か真かそんな噂が流れている。  今回、指令発行を行ったロリク曰く。 「マリーが季節の変わり目に、浄化師たちのために服を仕立てたいと口にしてな。  今回、モデルになるのはどっちか片方で、あいているやつは手伝いだな。  マリーが言うにはその人がほしいものを作るからタキシードでも、普段着でも、教団の制服を改良する形でもいいそうだ」  ということだ。  ドアを叩く。  からんとベルの音がした。 「まぁ、いらっしゃい。あなたたちがロリクの紹介してくれた浄化師さんたちね? こちらにいるのはソカル。あなたたちはよく知っているんじゃないかしら?」 「やぁ。今日も強そうなのを作るよ。うん、強そう、強そう」  教団で定期的に浄化師たちの服を用意してくれるソカルはにこにこと笑っている。 「彼は今回、手伝いできてくれたの。浄化師さんの制服の構造は彼のほうがよく知っているから。さぁ、こちらにきて。紅茶とケーキを用意したわ。どっちの衣装を作りましょう。そして、その人のことをパートナーはよく考えてお話をしてちょうだい。あなたのお話から私がデザインをするわ。  服はその人の見た目の武器よ。なにかをはじめたい、ふっきりたい、進みたい、気持ちを後押ししたいそんなもののためにあると思うわ。  すばらしい一着を提供するわ」
ダンジョンに挑戦しようLv3
普通|すべて

帰還 2018-12-15

参加人数 3/8人 春夏秋冬 GM
 冒険者ギルド「シエスタ」。  冒険者の集まる、酒場と情報提供が合わさったこの場所には、他人に聞かれてはマズイ話をするための個室がある。  ギルドの紹介業者であるクロアは、そこで魔女セパル達と話をしていた。 「ということは、浄化師の方達と、本格的に協力体制になったという訳ですねぇ」 「うん。だから、ボクが魔女だってことは、向こうには連絡済みだよ」  セパルの言葉に、同席しているウボーとセレナも頷いた。  この場に居るのは4人。  魔女の権利獲得などに動いている魔女セパルと、死亡を偽装し手伝っている浄化師ウボーとセレナ。  そして、その事を最初から知っているクロアである。 「では、私の方は、今までと同じで。  皆さんの素性も、皆さんが魔女に関わってるってことも知らずにいる、ということで良いんですねぇ?」  クロアの問い掛けにセパルは返す。 「うん、その方が面倒がないと思うから」 「分かりました。では今まで通り、人の目がある所では、すっとぼけるとしましょう」 「ありがとう、クロさん」 「いえいえ。命を助けて貰った恩を返しているだけですよ。それに――」  にぃっと笑みを浮かべクロアは続ける。 「好い銭儲けになりますからねぇ」 「うんうん。クロさんの、そういうところ好きだよ」  ひとしきり談笑し、クロアは続ける。 「今日、私に会いに来たってことは、試練の塔の話ですか?」 「うん。色々あって、ここしばらくは、どうなってるか知らないからね。状況を教えて貰おうと思って」  クロアとセパルの2人が話している試練の塔とは、魔法使いが作ったとされる塔のこと。  湧いてくるゴーレムを倒すと、魔結晶が手に入るダンジョンだ。  そして、セパルの知り合いである魔女が作った塔でもある。 「2階にフロアボスが湧いたらしいですよ」 「……フロアボス?」  頭痛を堪えるように眉を寄せるセパルに、クロアは尋ねる。 「おや、そういう仕組みだってのは、知らなかったんですか?」 「うん……あの塔を作ったの、隠遁派の魔女だけど、完全に趣味に生きてるヤツでさ。  教えたらつまらないって理由で、何一つ他人に仕組みを教えてないんだよね」  魔女の派閥もいくつかあるが、その中で隠遁派は、色々とズレた魔女が多い。  一言で言うと、趣味人のマッドサイエンティスト、みたいなのも居たりする。 「人間が好きなヤツだから、塔に挑戦する人間が、跡が残るような怪我はしないように作ってあるけど、それ以外は好き勝手やってるから……」  軽くため息一つして、セパルは続ける。 「塔に挑戦する気にさせるために魔結晶を生成する仕組みを作ってるのは良いけど、そのためには塔の中で戦闘をしないとダメだしね」 「だから塔で戦ったあとに魔結晶が手に入るって訳ですか。  仕組みはともかく、魔結晶が手に入るのはありがたいですねぇ。  何しろここ最近、魔結晶の需要が高まってますから」 「教団が蒸気船を作っていますからね」  クロアの言葉に、ウボーが返す。 「魔結晶を使うことで、高性能を発揮する仕組みなんでしょう。だから、魔結晶を必要としている」 「ふふ、みたいですねぇ」  どこから情報を集めているのか、クロアは平然と返す。 「どうも、教団本部の方で何かがあったらしく、蒸気船団を作ってるみたいですねぇ。  お蔭で、魔結晶の相場で儲けさせて貰いました」 「さすがクロさん、抜け目がないね。ボクらも、見習わないと」 「おや、どうかしたんですか?」  表情は変わらず、僅かに心配するような響きを込めクロアは問い掛ける。  これにセパルは、何でもないというように笑顔で返した。 「魔女のゴタゴタを助けてもらうのに、教団の室長くん達の力を借りてね。  その見返りに、魔結晶を提供する約束をしてるんだ。  だから魔結晶が確実に手に入る、試練の塔のことを聞きに来たってわけ」 「そういう訳ですか。なら、新しく湧いたフロアボスの情報は、必要でしょう?」 「うん、もちろん。って、挑戦した人いるの?」 「ええ。猛虎の牙が」  セパル達もよく知っている冒険者パーティの名前をクロアは出す。 「そうなの? だったら倒したんじゃない?」 「いえ、失敗したらしいです」 「マジなの!?」  猛虎の牙の実力を知っているセパルが驚いた声を上げると、クロアはのんびりとした声で返した。 「そんなに驚くことでもないですよ。猛虎の牙の団長さん、試練の塔が大怪我をしない仕組みなのを肌で感じ取ったらしくて、新人の訓練に使ってるだけですから」 「なるほど。失敗しても経験にはなるもんね。  でも、猛虎の子達なら、失敗しても情報は取ってるでしょ? フロアボスの情報ある?」 「ええ、ありますよ」  クロアは説明してくれる。  まずフロアボスに挑戦するためには、1階に出現するようになった案内ゴーレムに、挑戦することを申請する必要があるらしい。  案内ゴーレムは、手提げの黒板に次のようなことを書いて訊いてくるのだ。  2階フロアボスに挑戦しますか?  倒すと、3階へと向かう階段が解放されます。  これに応じると、1階での戦闘はせずに、2階へと進める。  そこで2階フロアボスと戦うことになるのだ。  フロアボスは律儀なことに、挑戦者達の用意ができるまでは出てこない。  用意ができると、挑戦者達からは離れた場所に出現する。  フロアボスは3mほどの、ずんぐりとしたゴーレム。  額に『2階フロアボス』と書かれている。  やたらと頑丈。  フロアボスは、塔に入った人数の2倍の小型ゴーレムを、出現と同時に出してくる。  小型ゴーレムの特徴は次の通り。  1 属性はバラバラ。それほど強くない。  2 フロアボスが受けるダメージを肩代わりする性質があるようだ。  3 倒すと、倒した人物の能力が微妙に落ちる。効果は、最大で1分程度。重ね掛けもあり。  4 全部倒しても、一定時間が過ぎるとおかわりが出現する。 「こんな感じらしいですよ」 「なるほどね。となると、また浄化師の子達に協力して貰った方が良さそうだね」 「おや、自力で倒さないのですか?」 「アイツの、試練の塔を作った魔女なら、ボクが主力で戦ったら、絶対何かしてくる仕掛けを組んでる筈だから」 「面倒臭い人ですねぇ」 「うん。というか、イイ性格したヤツなんだよね」  ため息をつくように言ったセパルに、クロアは笑みを浮かべ返した。 「では、私の方から教団の方に依頼を出しましょう。  フロアボスを倒して、上の階に行けるようになれば、もっと多くの魔結晶が取れるようになるでしょうしねぇ。  相場で儲けさせて貰うためにも、依頼料は弾みますよ」  そんなやり取りがあった数日後、教団に依頼がされました。  ダンジョン試練の塔、2階フロアボスを倒して欲しいとのことです。  この依頼にアナタたちは――?
お芋の美味しい季節ですね
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帰還 2018-12-15

参加人数 2/8人 浅倉季音 GM
 ヴァン・ブリーズの南の端の村から、芋掘りを手伝ってほしいとの依頼が届いた。  その村では今月末、今年の収穫に感謝するまつりが開催される予定らしい。  まつりまでに、村の畑に植えているすべてのさつま芋を掘り、選別してしまわなければならないのだとか。  ・軍手、くわ、長靴のご用意を推奨いたします。  ・上下とも長袖の汚れてもよい服装と、履き慣れた運動靴がおすすめです。  ・首にタオルを巻いておかれますと、汗を拭けますし防寒対策にもなります。  ・昼食と夕食には、特製のさつま芋料理をご馳走いたします。  仕事は、以下の3つを同時並行的に進めていく。  ・芋掘り‥‥芋を傷つけないように、そーっと掘ってください。  ・運搬‥‥‥掘った芋をコンテナに集めて、倉庫へ運んでください。  ・選別‥‥‥傷の有無を確認しつつ、30センチ以上と未満の芋を分けてください。  当日の天気予報は晴れ。  気温も朝こそ低いが、段々と上昇するとの予報がでている。  秋の陽光のもと、村人達に手を貸してほしい。
トーマスの哀哭
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帰還 2018-12-15

参加人数 4/8人 oz GM
 ヨハネの使徒の襲撃により損害を受けた村から「復興を手伝って欲しい」と嘆願を受けた教団は、浄化師を派遣した。  そこは教皇アークソサエティの砦付近にある小さな村。牧羊で成り立っている小さい村だった――今はその面影もなく、一週間前に起こった襲撃による傷跡を深く残している。  ヨハネの使徒との熾烈な戦いの跡が垣間見えるように民家は崩れ落ちている。村人の顔はどこか暗く、村全体に深い陰を落としていた。  ヨハネの使徒は北側から村へと進入してきたようで、そこにあった民家や牧舎の被害は特に酷く半壊状態だ。幸いと言うべきなのか分からないが、ヨハネの使徒は人間のみを殺戮することだけを目的としていた為、家畜への被害はそれほどでもなかった。  だが、人々の受けた被害は大きかった。  村人からも多数の死者が出た上に、大切な人を亡くした者も多いが、砦に近い以上こうした襲撃はよくあることのようだ。村人の間には諦観の色が浮かんでいる。  だが、今回は想定した以上に被害が酷く不安と動揺が広がっている。  かろうじて残った建物を開放したり、それでも入りきれない者はテントを作ってそこで協力しながら暮らしているようだ。  報告で聞いていた以上に酷い現状に、少しでも力になれればと浄化師たちは村人たちに教団から運んできた支援物資を手渡し、村長に何か手伝えることはあるかと尋ねた矢先のことだった。 「とっととここから出て行け、浄化師!」  少年の鋭い叫びが響きわたる。激しい憎悪をくすぶらせた目で浄化師を睨みつける。 「どうせなんにもできねえ癖に、余所者がこの村に入ってくんじゃねえ!」  そう吐き捨てた少年の年齢に見合わない一際暗い目に浄化師は言葉を失う。  杖を突いた村長が慌ててトーマスの失礼な物言いに怒るが、 「これ、トーマス! せっかく来てくださった浄化師様にお前は何を言っとるんじゃ!」  何も言わずに走り去ってしまった。 「待たんか、トーマス!」  杖を上に振り上げ呼びかけるが、トーマスは振り返ることなく、あっという間に姿が見えなくなってしまった。 「申し訳ありませぬ、村の子供が……」  心底申し訳なさそうに謝る村長に「気にしていない」と答えると、村長は浄化師たちに無言で深く頭を下げた。どうもここでは浄化師に守ってもらわなければ生きていけないとでも言うように村人の腰が低い。様付けで呼ぶのも浄化師の不興を買うのを恐れての事だろう。  村長との話し合いを終え、被害がひどかった北側の瓦礫の撤去に向かって歩いていると、背後から呼び止められた。 「……あの、浄化師様。お忙しいところ申し訳ありません、少しだけお時間をいただけないでしょうか?」  声をかけてきたのは病人のように青白い顔をした女性だった。今にも倒れそうな女性を放って置くわけにも行かず、話を聞くことにした。  女性は人目を気にするように「ここでは少し……」と言葉を濁す。どうやら人に聞かれたくない話のようだ。そのまま人気のない場所まで来ると、女性は周囲を気にしながらも浄化師と向き合った。 「申し訳ありません!」  突然女性は浄化師に向かって頭を下げる。驚いた浄化師たちは「とりあえず頭を上げてくれ」と女性を宥める。 「私はトーマスの叔母です。あの子のしたことは私の責任ですから……浄化師様にはトーマスについてお話ししたいことがあるのです」  儚げな見た目とは裏腹にしっかりと芯を持った女性だった。 「トーマスあの子は……ヨハネの使徒の襲撃によって母親を亡くしているんです。あの襲撃時、あの子は母親といたんです。間一髪あの子は浄化師様によって救われましたが、……一緒にいた姉は助かりませんでした」  一瞬、「姉」と言ったとき、悲しげな表情をしたが、すぐに気丈な表情を取り戻す。 「母親を目の前で亡くしたことがショックだったようで、ずっと塞ぎこんでいました。私が何を言ってもあの子には届かなかった……あの子も浄化師様のせいじゃないと分かっていると思います。ですが、まだ幼いからに割り切れていないんです」  そこまで話して女性は一呼吸をつく。 「あの子の暴言には本当に申し訳なく思っています。ですが、浄化師様に話しておきたいのは、これとは別の件なんです」  トーマスの事情は分かったものの、謝罪を終えた女性がまだ他にも苦悩を抱えているのが伺えた。 「あの子は浄化師としての素質を持っているかもしれません。今回の襲撃もあの子を狙ったものだと思います」  なぜ前回浄化師に助けられたときに言わなかったのだと問いつめると、 「……姉さんが何か隠し事をしているのは分かっていました。でも、つらそうな姉さんを問いつめることができず、薄々気づいていたのに黙っていた私も同罪です……もっと早く問いつめておけば、こんなことにならなかったのに……」  トーマスと同じ暗い瞳で自嘲的な表情を浮かべる。 「……本当に責められるべき人間は私なんです。ですが、もし村の人に知られれば、あの子は責められるでしょう。もしかしたら危害を加えられる可能性もあります。……あの子自身も自分を責めると思います。身勝手なことを言っているのは分かっています! 他の誰かに知られる前に教団に連れて行ってやってくれないでしょうか!」  すがりつくように頼むトーマスの叔母になんと言葉を返せばいいのか迷ったが、浄化師たちは了承した。  浄化師の素質を持つ者の保護も教団の仕事だ。村人に事情を説明しないのは納得できたわけではないが、村人を動揺させる事実を広げるのは現状、酷だろうと判断した。 「……本当にありがとうございます」  浄化師から約束してもらえたことに安堵したのか、わずかに笑みを浮かべながらお礼を言う。  その時、背後で何か物が倒れる音が聞こえ、先ほどと一転してトーマスの叔母の表情がこわばる。  叔母の視線の先には、目を見開いたトーマスが呆然と立ち尽くしていた。 「トーマス、あなた……聞いていたの!?」 「何だよ、全部おれのせいだったんじゃないか……」  俯いたトーマスの表情は分からない。そんなトーマスに叔母が駆け寄る。 「おれが母さんを殺したんだ! おれなんて死んじまえばいいんだ」  そう叫んだトーマスの頬を叔母が思わず叩く。叩いてしまったトーマスの赤くなった頬を見て、叔母は苦しげに唇を噛んだ。 「叔母さんだって、おれがいなくなればいいと思ってるんだろ! だから、村から追い出そうとするんだ!」 「違うわ! 待って、トーマス!」  叔母が止めるのも振り切って、トーマスは走り去ってしまった。 「お願いです、浄化師様! まだトーマスはヨハネの使徒に狙われているかもしれません。私は村を探します! もし村の外へと出ていたら、あの子を守ってやってください」  そう言ってトーマスの後を追おうとする叔母に落ち着くように諭すが、トーマスが心配でたまらない様子だ。  トーマスが帰ってきた時に誰もいなければ行き違いになると説得し、今にも倒れそうな程青ざめている叔母を休ませた。  もしトーマスの叔母の話が本当ならば、浄化師としての素質を持つトーマスを狙って再びヨハネの使徒が集まってくる可能性がある。  これ以上、村に被害を与えない為にも早急にトーマスの身柄を保護する必要がある。
ただいま、おかえり
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帰還 2018-12-13

参加人数 7/8人 北野東眞 GM
 エントランスで、つい視線を巡らせる。  まだかな。まだかな。  受付口のロリクがどうも落ち着かない。  それは今ここにいる自分たちも同じだ。  実は今回、「急ぎの仕事じゃあ、悪いが、パートナーを借りるぞ!」と言われて調査員であるユギルにパートナーを奪われ……連れていかれてしまったのだ。  基本的に浄化師の仕事は二人ペアで行うのだが、指令発行前の事前調査なので最低限の人数でいいといわれて自分は待機することになったのだ。それもこれも指令発行を行う事務がてんやわんやだったせいもあるのだけど……。  そんなわけでパートナーと引き離された数日が経過した。  今日あたり戻ってくるはずなのだが……。 「え、あ、ああ、そうだな。そろそろ、帰ってくるころ合いだよなぁー」  ロリクが声をかけてきたあと、すぐに何かに気が付いて立ち上がった。 「ユギル!」 「今帰ったぞ、嫁!」  門をくぐってユギルが駆け寄ってくる。 「ふふ、今回はいろいろと立て込んで、帰りが遅くなってしまった。すまんのお、土産があるぞ。酒じゃ」 「お、おう」 「なんじゃ、吾の顔になんぞついておるか」 「いや、そうじゃないが……おかえり」 「うむ、ただいま。ただいま。我が妻、恋しかったぞ」  いつも喧嘩ぽいやりとりをしているのに、やっぱり、この二人は夫婦らしい。  互いに見つめあって、嬉しそうに出迎えている。  自分だって、パートナーを……。
ヘスティアの火
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帰還 2018-12-12

参加人数 5/8人 あいきとうか GM
 その日、薔薇十字教団本部を訪れた老人は、温かい珈琲をひと口飲んでから話し始めた。 「ヘスティアの火をご存知ですかな?」  テーブルを挟んだ対面に座り、対応する司令部教団員はわずかに目を伏せて記憶を探る。 「確か、ヘーティア村のクリスマスの祭事で……。国章の形に並べた蜜蝋に、人々がトーチで火を灯していく、というものでした、か?」 「そうです」  老人――エトワール地区最西部の小さな村、ヘーティア村の村長が鷹揚に頷く。 「今年はぜひ、浄化師様にご助力願いたいのです」 「警備を兼ねて、毎年、数組は派遣しているはずですが?」  ゆるゆると村長は首を左右に振った。 「警備ではなく、点火を。ヘスティアの火は人々の平和を願う心。そこに国境も身分もございません」 「そうですけれど」 「なにより、今年は多くのことが起こりすぎました」  困り顔だった司令部教団員は、その一言ですべてをさとる。  一番記憶に新しいのはハロウィンのシャドウ・ガルデンと魔女の一件。その前に竜の渓谷でも事件が起こった。  その他にも、細かな騒動は毎日毎時のように起こっている。  善良な一般市民である村長が、どこまで知っているのかは定かではない。しかし、思いあたる節は山のようにあるのだ。 「浄化とは邪悪を祓い清めること。ヘスティアの火は、一年の穢れを燃やし、願いを天へと昇らせる行事でございます」 「……はい」 「どうか、浄化師様のご助力を」  村長が深く頭を下げる。司令部教団員はそっと息をついた。 「顔を上げてください。今年は警備と点火の任務として、発令させていただきます」 「ありがとうございます」  安堵したように老人が微笑む。司令部教団員も笑みを浮かべて頷き、ふと窓の外に目をやった。  雪でも降りそうな、灰色の重い空が見える。 「今年ももう終わりますね」  ヘスティアの火はクリスマスの一週間前に行われ、クリスマス当日まで蜜蝋の火は燃え続ける。  ずっと晴れていればいいなと、珈琲を飲みながら司令部教団員は思った。
寒い日は二人でホットなひとときを
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帰還 2018-12-10

参加人数 4/8人 しらぎく GM
 日ごとに気温が下がり、冬の足音がさらに近づいてきたと実感する今日。リュミエールストリートを歩く人々は厚手のコートを着たりマフラーをかけたりと、手を擦り合わせながら冷たい空気から身を守っている。 「さあ、いらっしゃいいらっしゃい!」  そんなリュミエールストリートに、寒さに身を縮めた人が驚いて思わず体を伸ばしてしまいそうになるような明るい青年の声が響いた。  ワインレッドのバンダナを頭に巻き、同じ色のジャケットを羽織った青年の後ろにある屋台の看板には「ヴィンツァー」の文字と、湯気の立っている赤ワインの絵。そう、これはホットワイン屋だ。屋台の内側ではワインレッドのバンダナを頭に巻いた女性が鍋をかき混ぜている。 「ホットワインはいかが? シナモン、クローブと体を温めるスパイスたっぷり! そしてオレンジと蜂蜜、リンゴで甘くしたホットワインだよ! アルコールが苦手な人やお子さんにはブドウジュースで作ったものもあるよ! ワイナリー直送のホットワインだよ! さあ、いらっしゃい、いらっしゃい!」  パンパンと売り子の青年のハキハキした呼び声と軽快に手を叩く音に足を止め、屋台へと向かう人の姿も見え始めた。 「はい、お待ち。熱いから気をつけておくれよ。そうそう、カップはこっちの棚に返しとくれ」  売り子の青年に負けず、明るく大きな声で女性が葡萄の絵が描かれた陶器のカップにホットワインを注ぎ、手渡しながら客に言う。  そんな二人の明るくエネルギッシュな呼び込みの甲斐があってか、屋台にはあっという間に人だかりができた。 「はい押さないで! 順番、順番にご注文をお受けしますからね~!」  詰め寄る客を青年が手際よくさばいていく。ホットワインを受け取った客たちは街灯の下やベンチなど、思い思いの場所でカップに口をつけている。  さあ、あなたもパートナーと一緒に、冷えた体をホットワインでほっと一息ついて温めませんか?
悲嘆の魔女
普通|すべて

帰還 2018-12-07

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
 ユーリ、シグマ、ハンナ、……シグルド。  あなたたちのことを私は決して忘れないわ。  そう、たとえ、私が死んでも、忘れない、忘れない。忘れない。  心が壊れてしまう、深い悲しみと共に。あなたたちを誰ひとりとして忘れない……。 ●  受付口に指令をとりにくると言いあいに出くわした。 「えー、えー、えー! 浄化師さんってめっちゃ働き者って聞いたんっーけどぉ、この依頼、受けともらえるのいっつすかー?」 「指令として発行しても、すぐには……あ、こら」 「えーえーえー! こまりっすー! 俺ぇ、マスターにお願いされたんでぇ、こう、スピーディーに!」 「ちょ、こら、引き出しあけるなぁ~。あ、いいところにきた!」  ロリクさんと、えーと、知らない人が受付でやりあってる……?  改めて、ロリクに紹介された青年は今回の指令の依頼者、だそうだ。  金髪の髪に青い目をして、にこにこと笑っている。 「ハーイ、ピースピースっ! 自分、スクートゥムっていいまぁす。よろしく! えへへ。かっこいい名前っしょ? マスター……ああ、先生からもらったんすぅ! あ、で、指令、よろしくー?」  うるさ……いえ、大変明るい人ですね。 「あー、ごほん。こいつの持ってきた指令っていうのが、魔女の……かかわっている事件なんだ」 「あ、自分が説明するとぉ」 「長くなるから俺が説明する」  お願いします、ロリクさん。  少し東にいった森に――トゥレーン。古い言葉で嘆きを意味する森がある。  そこの森には魔女の一族が住んでいたそうだが、勇気ある浄化師たちによってすべて退治された。  たった一人を除いて。  その魔女の名は――忘れられて久しいが、大変強力な魔女だったそうだ。幾人の勇敢な浄化師によっても捕えることが出来ず、森の奥深くに隠れてしまったそうだ。  森の名をもじり、悲嘆の魔女と言われた彼女はたった一人で、森に存在し続けた。誰も彼もから忘れ去られても、なお。  今年。  トゥレーンの森は急速に枯れ始め、動物たちが死に、川は黒く濁り、魚が腹を見せて浮かぶようになった。  森へと足を踏み入れたヒューマンは、誰も戻ってこなかった。 「森の奥で魔女が嘆いているっすよー。ああ、つまりっすねー、悲嘆の魔女は死んだっすよー。けど、めっちゃ強くてー、自分に魔法をかけたんすよー。  『決して悲しみを忘れない』という呪いっすー。森にいる生き物は全て彼女の悲しみの唄で、自分の最も悲しい思い出に囚われて、動けなくなって死んじゃってるんすよー。そのうえ、魔女の魔法って基本、協力者がいるんっすよー? 浄化師みたいっしょー? この魔女の魔法に手を貸しているのは、この森自身みたいっねー? 魔女と森、なにか共感したのかわかんねーすっけどぉ」  困った困ったとスクートゥムがため息をつく。 「まぁ、ほっといてもぉ森は枯れて終わり、魔法も使えなくて自滅しちゃうんだと思うっすけどー。  それってさすがにまじやばくない? マスターにそれを浄化師さんたちに依頼して止めるようにって言われて、俺っちが、今回みなさんに依頼にきたわけっすー?  魔女のいる場所までは俺っち、案内できるんでぇ。みなさんついてきて、魔女をぶっころーしちゃってください。そういうの得意っすよねぇ?  今、悲嘆の魔女は樹になっちゃってるんですよねぇー。死ぬ前に自分を樹にかえちゃったんっすよー? なんでそこまでここから動きたがらないっしょねー? まぁ燃やしやすくてめっちゃよくない? ふふふ」  そうそう。と付け足して彼は口にした。 「俺っちは悲しい思い出がないんでぇ、大丈夫っすけど、浄化師さん達は、悲しみに囚われないように注意しちゃってくださいねー?  最悪、戻れなくなっちゃいますよー? まぁ、お手並み拝見、拝見。  みなさんのやり方、ばっちり見てますねぇ!」 ●  森の奥で、大樹が歌う。  地上に根をおろし、上半身だけは女の姿――彼女は眠るように目を閉じて、泣きながら歌う。  優しい子守歌。    ユーリ、シグマ、ハンナ、……シグルド。  大切な私の……決して忘れないわ。  たとえ、どれだけ悲しくても。  忘れてしまうより、ああ、ずっといい。
雪混じりの雨は冷たく
簡単|すべて

帰還 2018-12-07

参加人数 4/8人 木口アキノ GM
 俗に、そのことに触れると人を怒らせる話題のことを「地雷」と言う。  大きな事件のない時でも、薔薇十字教団には街の巡回の依頼が定期的に届く。  浄化師が巡回するだけで、全てとは言えぬものの事件を未然に防ぐことができるし、ベリアル出現などの異変を早期に発見できるのだ。  今日も1組の浄化師が巡回の仕事を終える。  少し前から雲行きが怪しくなっていたところ、しとしとと雨が降り出した。  この時期の雨はことのほか冷たい。ともすれば、雪混じりになることもある。  少し休んで体を温めてから帰ろうか。  ちょうど目の前に喫茶店があるのに気付き、どちらからともなくそんな言葉が出る。  喫茶店で出されたコーヒーはほわりと良い香りの湯気を立て、疲れを癒してくれる。  仕事の緊張が解けたのもあり、2人はリラックスして会話に花が咲く。  リラックスしすぎたのがいけなかったのだろうか。  ついつい、余計な一言が喰人の口から出てしまう。 「でもさ、本当は俺じゃない奴と契約したかったんじゃない?」  本人としては、軽い冗談のつもりだったのだ。だがその一言は、祓魔人にとっては所謂地雷というやつだったらしい。 「なによ、それ……!」  彼女は血相を変えて席を立つと、駆け出すように店を出る。 「え……おい、待てよ」  一瞬呆気に取られた喰人だが、すぐに自分が拙いことを言ったのだと理解し、遅れて立ち上がる。  窓の外は雨。日も暮れかけて気温も下がってきている。  冷たい雨の中駆けていく祓魔人の後ろ姿。 「待てってば!」  喰人は祓魔人を追いかける。  やっとのことで追いつくと、自分が濡れるのも構わずに、上着を脱いで祓魔人の濡れた肩に掛けた。 「ごめん、無神経だった」  喰人は掛けた上着の上から、祓魔人の肩を優しく抱きしめた。  それを遠くから見ていた喫茶店のマスターが、 「言ってくれれば傘くらい貸すのに……」  と呟いた。
アチェーロ渓谷の紅葉狩り
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帰還 2018-12-03

参加人数 3/8人 あいきとうか GM
 その日、薔薇十字教団司令部に届いた一通の手紙には、短いながらも心がこもった文字がつづられていた。  要約すればこうだ。  一週間前、坂道を転げ落ちて足に怪我を負い、うずくまっていたところを浄化師様に助けていただきました。  その浄化師様はお名前も名乗らず、当然のことをしただけだからと微笑んでくださり、大変、感銘を受けました。  なにかお礼を。日ごろ、陰になり日向になり私たちを助けてくださっている浄化師様方に、なにかできることを、と考えさせていただき、この度、アチェーロ渓谷の紅葉狩りにご招待しようと思いついた次第です。  現在、アチェーロ渓谷は紅葉が見ごろを迎えています。  日夜お忙しく働かれておられる浄化師様方のお心が、少しでも休まることを願って。  これを機に、ぜひいらしてください。  アチェーロ渓谷の近くで菓子屋を営んでいる者より。 「確か、メイプルシロップの産地でしたよね。この時期はキノコや山菜もとれたはずです。秋の草花も美しく、危険な野生動物も少ない場所です」  手紙を横目に指令をしたためながら、司令部教団員は頬を緩める。 「メイプルミルク、甘くておいしいんですよねぇ……。大きなキノコの石突をとって、傘の内側にバターをたっぷり塗って焼いた、キノコバターもいいですね……。どれも今が食べごろのはずです」  あの絶品を思い出した彼女は、口の端から垂れそうになったよだれを慌てて拭った。 「危ない危ない。なによりも紅葉ですね。セーヌ川の支流の小川は、きっと落ちた葉で真っ赤に染まっています。暖かい格好で、木陰で読書をするのもよさそうですね。絵に描くのも楽しいでしょう」  過去に一度だけ、つり橋からアチェーロ渓谷の紅葉を見たことがある。  視界一面に広がる、燃えるような赤。息をのむほど強い生命力を感じられる光景に、しばらく見入っていたのが懐かしい。 「私もまた行きたいですねぇ。温かいメイプルミルクを片手に、紅葉を見るのです。ああ、確かメイプルシロップ入りのお酒も売ってましたっけ」  次々と浮かんでくる記憶の数々に、司令部教団員は小さな声で笑った。
365日の歌
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帰還 2018-12-03

参加人数 6/8人 鳩子 GM
「リネット、お願いなのだワ~!!」  大きな声で懇願されながら両肩を揺さぶられ、教団司令部に勤務する教団員リネット・ピジョンは、この店に来たことを後悔しはじめていた。  尻尾でハートを作る二匹の猫の看板が目印の『カフェ・ルピナス』は、サンドイッチとコーヒーが美味しいと評判で、以前から気になっていた一軒だった。抱えていた案件が一段落したので、ちょっと息抜きをしたかっただけなのに、どうしてこんな面倒なことになったのか。  リネットは深々と嘆息し、兎にも角にも揺さぶるのを止めてもらうために相手の手を押さえた。 「落ち着いてよ、サリー。話は聞くから、ゆっくり説明して頂戴」 「ああ、ありがとうネ! 流石リネット、あなたは最高の友達ヨ!」 「はいはい。私の中であなたの評価は最高に厄介な友達になりつつあるけど、まあ、とにかく座って」  サリーもといサンドラ・フォレスターはサーバルキャットの耳と尻尾を持つライカンスロープで、リネットの学生時代の同級生だ。商家の出だが、両親ともにまだ溌剌としているので卒業後は実家の店を継がずに「人生経験値を積んできます!」と旅に出て数年戻らなかった。ようやく帰ってきて自らの店を開いたのが、去年のことだ。幼いころから親の商売につきあって各地を転々としていた影響か、言葉のところどころに不思議なイントネーションがある。 「今日この時間にルピナスに来たのは、天のお導きかしらネ!」  職業柄、サリーは世間の流行には敏感で、今日も近頃評判の良いカフェ・ルピナスをチェックするためにやってきて、そしてランチを食べに訪れたリネットの姿を見つけたというわけだった。 「お店、うまくいってないの?」 「そう! あ、ううん、ピンチってほどじゃないのだケド、予想したほどは上手くいってないのネ。ちょっとマンネリっていうか……それで、打開策を考えてるのだケド、是非! 是非! リネットの力を借りたいのヨ~!!」  この友人、声が大きい。  リネットはテラス席を選んだ自分の選択を褒めた。 「お店の名前は……『365日の歌』だったかしら」 「ええ、そう! 前に話したかどうか、忘れちゃったケド、誕生日のお祝いをコンセプトにしたセレクトショップなの。プレゼントに丁度良いものを集めてあるだけじゃなくって、誕生日パーティーのプロデュースやサプライズイベントの手配もしてるワ」  あたし、誕生日ってものが大好きなの、とサリーは胸の前で両手を組み、うっとりと呟く。 「うちのパパとママが誕生日パーティーに命かけてるタイプだからかしら。誕生日の、今日の主役はあたし! って感じがたまらないのよネ。で、まあ、必ずしも盛大でなくちゃいけないってわけでもないのだケド、一年に一度しか無い大切な日、いつもとは違う特別な時間を過ごすのって素敵デショ?」  リネット自身はそこまで誕生日を大仰に祝うタイプではないが、異論はないので頷く。 「それで、私に頼みたい協力って?」 「リネットは教団で働いてるのよネ。ほら、浄化師のひとって、二人一組なんデショ? 特殊な契約を結んだ、病めるときも健やかなる時も一緒のパートナーなのよネ!」 「ええ……?」  話の流れがわからず首を傾げるリネットをよそに、サリーは饒舌に続ける。 「その二人が、お互いの誕生日をどんなふうに祝ってるのか、知りたいの! 普通には無い繋がりがあって、命に関わる危険な仕事も一緒に乗り越える二人なんだもの、きっと特別な絆があるのよネ。そういう人たちが相手のためにどんなことを考えて、どんなお祝いをするのか、きっと参考になると思うのだワ~!」 「ええと……つまり、浄化師の皆さんから、誕生日祝いに関するエピソードを募集したいってことね」  リネットは話をまとめながら、思案を巡らせた。 「過去の誕生日エピソードももちろんだケド、もし近々誕生日の人がいるなら、そのお祝いのお手伝いもさせてもらいたいワ! 物より思い出って感じのお手伝いが出来たら理想ネ。必要があれば、アルバトゥルスのブルーベルの丘にだって、ベレニーチェ海岸にだって、テーブルセットでもなんでも運ぶワ!」 「今の季節ブルーベルは咲いてないし、海岸は寒いんじゃないかしら。まあ、それはいいとして、ええと……もし話を募集するとしたら、正式に指令として扱うことになると思うわ。でもそれには……」 「報酬がいるってことデショ! 何事もまず投資しなければ得るものも得られないものネ。そこをケチるようじゃあ、一流の商人とは言えないのだワ」  うんうんとサリーは頷く。  リネットは迷ったが、ここ最近、戦闘を伴う指令ばかりを処理していたこともあって、この平和的な依頼を受けたくなった。  シャドウ・ガルテンでの騒動、本部への襲撃、怨讐派の魔女たちの企みと、今年の秋は物騒な多忙さであったから、浄化師たちにとっても良い息抜きになるかもしれない。サリーは『金は天下のまわりもの』を家訓とするフォレスター家の才女であり、骨の髄まで気風の良い商人気質であるから本人が言った通り報酬をケチるようなこともないだろう。  こほん、と咳払いをして姿勢を正す。 「その依頼、お引き受けいたします」  せっかく仕事っぽく繕ったのに、サリーは気付いた様子もなく、がばりと身を乗り出してリネットの手を握った。ぎゅうぎゅうと両手で握られて、正直痛い。 「ありがとう~っ!! リネット、あなたは最高の親友ヨ! 恩に着るワ! サンドイッチ奢っちゃうのだワ!」  一番高いメニューを頼もう、と思うリネットであった。
秘密の場所でお話を
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帰還 2018-12-01

参加人数 6/8人 北野東眞 GM
 エントランスは賑わっている。  指令を受けるために掲示板を眺める浄化師たち。書類を運ぶ事務員、カフェーに向かう者、購買へと……。  自分たちもそろそろ目的を持って動かなくては、と思った矢先、書類の山とぶつかりそうになった。 「お、おっと、悪い悪い。あたってないか?」  間一髪で書類とぶつからなかった。  山のような書類を持つのはロリクだ。よく受付で指令を発行し、説明を行ってくれる。たまーに現地訓練だーと戦闘にもイキイキとした顔で向かっているが。  今日は大量の書類を両腕にもって仕事に奮闘しているようだ。肩に乗っているひよこが、ぴよぉと鳴いている。 「……。よかったらこの書類、運ぶの手伝ってくれないか? ちょっとした場所があってな」  と書類を半分持たされた。  書類を持って通路を進む。  訪れたのは緑の多く、いろんな植物の鉢植えがある。本もあるし、机とソファも。なんだか贅沢な部屋だ。  ほかほかとあたたかくて、眠気すら押し寄せてくる。 「いいところだろう? ここの鉢植えはハーブが多くてな、紅茶なんかによく使うんだ。ほら、書類を置いて座るといい。今、今日焼いたアップルケーキと紅茶を出してやる」  書類を机に置いて、ソファに腰かける。 「ここは俺の隠れ家でな。仕事がたてこむとここにこもって仕事してるんだ。まぁ秘密の場所なんだから、ここのことは秘密な? さてと、ここは俺の客人以外は来ないから安心するといい。  今日はお前たち以外の客人はいないから好きに振る舞ってくれて構わない。  いや、お前たちを呼んだのはせっかくだし話をしようと思ってな」  ロリクが肩から卵のついたひよこを床に降ろす。ひよこはころころと転がり、ぴよぴよと鳴いている。 「最近、いろいろとあっただろう? 教団について思うことがあるなら、俺でよかったら話を聞こう。ばかやろーとかくそやろーとかいってもいいぜ?  自分たちの浄化師としてどうしたいのかやこういう指令がほしいとかの要望も大歓迎だ。そういうのがあれば探して指令発行をしよう。こういう冒険をして大変だったとかいう話もいい」  ふふっとロリクは笑った。 「まぁ、仕事が詰め込んでいて俺の気晴らしに付き合ってくれると思えばいい。そうだな、もし悩みがあるなら聞くだけは聞こう。俺はお前たちに前から言っているように……どんなときもお前たちの味方だ。一緒に悩んで考え、その問題に答えを出すようにアドバイスすることは出来る。むろん、すべてがお前たちの求めるものではないかもしれないけれど……。  さぁ、紅茶一杯とケーキ一つ分、お前たちの話、聞かせてくれ」  差し出された紅茶とアップルケーキ。  ぴよぉ。  ひよこの声がした。
目覚めた世界でみたものは
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帰還 2018-11-28

参加人数 5/8人 北野東眞 GM
 目覚めた世界は白、白、白……途方もなく真っ白だった。  天井の白さ、横を見れば真っ白いカーテン、ベッドも真っ白だ。  不思議に思っていると、薬品の匂いが鼻につく。  すると、カーテンをひく音とともに現れたのは医療班の濃い緑の制服のスタッフだ。  無表情で彼はキミを見て。 「失礼」  額に触れ、手首をとり、さらには腕に器具をまきつけている。  それをただ見ていると。 「体温、脈拍、血圧ともに正常ですね。おはようございます。……どうしてここにいるのか覚えてますか?」  冷静な声で尋ねられた。  ああ、そうだ。  ここにいるのは――。
占い師の導き
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帰還 2018-11-28

参加人数 2/8人 oz GM
「え? 知らないの? 最近教団内でも噂になってるんだよ、その占い師! それがさあ、よく当たるんだって!」  噂好きで知られている教団女子がそう周囲に話しているのが自然と目に入る。盗み聞きしようとは思っていないが、その女子の話し声が大きく嫌でも耳に入るのだ。 「フェイスベールで顔が隠れているんだけどさ、あれはとびっきりの美人で間違いないよ! 目元で分かる! 伏し目がちな目が色っぽいんだもん。それに自己判断してもらったら、明るい性格ですけど、頭で考える前に行動しがちでしょうって指摘されてさ。その後に、一息おいてから行動するともっと良くなりますよって助言されたんだよね、あ~当たってるなあって思ったよね」  喋っている内にだんだんとテンションが上がってきたのか、声のボリュームが大きくなっていく。 「それに悩み相談までしちゃった! ――え? お前に悩みなんてあるのかって? ありますー! こう見えてもわたし色々とあんの!」  周囲に突っ込まれながらも、すぐさま反論する赤髪の教団女子は拗ねたようにそっぽを向いた。 「こう前向きになれるアドバイスをしてもらえるしさ。行ってみて良かったよ。機会があれば行ってみるといいよ! 私が並んだときには行列ができてたけどさ、占ってもらえる上に神秘的な美人さんが見れて眼福だから!」  占いがよく当たると言いたいのか占い師が美人だと言いたのか、それともどちらもなのか分からないが、彼女の熱意はこちらまで伝わってきた。  そんな噂を耳にしたタイミングで、司令部から「ボヌスワレ・ストリートにいる占い師カルメンに占ってもらうように」という指令が出ていた。  いつもの浄化師への息抜き的な指令かと首を傾げつつ、祓魔人と喰人はその指令を引き受けた。  さっそくボヌスワレ・ストリートに向かうと、あっさりと占い師は見つかった。よほど人気なのか占い師の周囲は人々で賑わっている。  路上の片隅に風変りだが洗練された天幕があった。こぢんまりとしているが、相談者が話を聞かれることのないようにと配慮されているのか厚い天鵞絨で覆われている。天鵞絨は秋らしい銀杏の落ち葉を連想させる深みのある落ち着いた色合いをしていた。  占い師カルメンを目当てに男女関係なく行列ができており、浄化師達は仕方なく最後尾に並ぶ。  天幕の中に入ってみると、思っていたよりも広く薄月夜のシフォン生地が幾重にも重なり揺れる。薄暗い中をライラックの灯りが神秘的な空間を作り上げていた。  占い師カルメンは簡易テーブルの前に静かに座っており、厚手の黒いテーブルクロスの上にはタロットカードが置かれてある。  噂好きの教団女子が言う通り、その占い師は黒いローブに顔半分を覆う紫のフェイスベールェイスに隠されていても匂い立つ美貌は隠せていなかった。  いかにも大抵の人間が想像する怪しげな占い師といった態なのに、彼女の持つ蠱惑的な雰囲気がそれすらも魅力に変えている。  まるで動物や虫が必要に応じてフェロモンを放つように、彼女も人を引き寄せる性質を持っているように感じられた。  カルメンは目だけで微笑むとあなた達に椅子に座るように促した。  君たちはこれから占い師カルメンに直接会って占ってもらう。  今後のことについて聞いてみるのもいいだろうし、パートナー同士これからも上手くやっていけるかを尋ねてみるのも面白いかもしれない。  もしあなたが迷いを抱えているなら今のままの自分でいいのか、この先どうしたらいいのか、聞いてみるといいだろう。何か気がかりなことがあれば、占い師に話してみるだけでもスッキリするかもしれない。  あるいは失せものについて尋ねたら、何かしらのメッセージをもらえるかもしれない。  あなた自身のことを占ってもらうのも楽しい筈だ。パートナーに言えずに悩んでいることをこっそりと相談してみるのもいい。何か解決の糸口が見つかるかもしれない。  もしかしたら占いなんて信じないという者もいるかもしれない。それもいいだろう。占いを信じるも信じないも人それぞれだ。  例えどんな結果が出たとしても、未来を決めるのは今を生きる君たち次第なのだから。
お願いがあります!!
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帰還 2018-11-26

参加人数 2/8人 伊吹猫 GM
 チクタク、チクタク、チクタク……チクタク。  ボーン、ボーン、ボーン。  壁に立てかけている古く大きな時計が午後三時を告げた。  ここは『エトワール』の中心街にあるリュミエールストリート。  この場所は、繁華街として多くの娯楽施設がひしめき合っているが、その一つにカフェ『チェーロ・ロッソ・デル・トラモント(夕焼け空)』がある。  名前の通り、夕焼け空の下にいるような物寂しさと懐かしさを覚えるシックな茜色を基調としており、バーカウンターのような個人席は、店主と談笑を楽しむことや些細な愚痴をこぼすことが目的で来る客がいたりもする。もちろん、恋人や仲間内でゆっくりと楽しい時間が過ごせるようなテーブル席も完備しており、リピート率は高く、ここの常連客は、親しみを込めて『茜喫茶』と呼んでいた。    この茜喫茶の店主は、店内を広く見渡した。  ダンッ!! と穏やかに過ぎる時間に間を指すようにカウンターテーブルを激しく叩く音が店内に響き渡る。 「なぜ、こんなに少ないんだっ!!!」  店の店主がそう言って、干上がった頭を掻きむしった。 「マスター!! そんなに怒ってはいけません。さらに少なくなってしまいます!」 「そ、そうなのか!? レティくん!」  ここで働くウエイトレスであるレティこと『レティシア=バンクス』は、器用で、心だてがよく、愛くるしい見た目から店の看板娘である。  この時間は、在庫整理のために食材のチェックに勤しんでいたが、店主の大きな声に反応して、一時仕事の手を休め、店主の元に来ていた。  そのレティシアは、店主の顔をまじまじと見て言った。 「はい。私の家系はそういう家系でした。でも、特に怒りっぽい人は、ストレスでさらに少なくなっていって、もう目も当てられない状況の方もいました」 「?? そうか、バンクス家は確かにそう言った家系だな。しかし、裏でないのに、この少なさはあんまりだろう」  バンクス家は、代々小料理店を営んでおり、一族揃ってそういった飲食店に着手している家系でもあった。 「そんなことはありません。表だからこそ、少ないんです! 私のおじいさまのことで申し訳ないですが、裏の方が多かったですよ?」  レティシアの言葉に今度は頭を抱えてしまった。そして、喉に物が詰まったような声をあげて言った。 「大金を払ったのに、実は、表の方が少ないなんて……。そんなことが起こるのか……。まさに悪夢だ」  レティシアは、うな垂れた店主をみて、その肩に手を置いた。 「お金は、あまり関係ありません。マスター……、何か策を講じなければ、さらに少なくなってしまいます」 「おお! レティくんもそう思うか!」 「はい! あまりにも寂しいですからね」 「はあ、そう言ってくれるな。こんな中年でも、この有様には危機感を覚えてしまう」 「す、すみません。あまりにもセンシティブな問題でしたね。配慮が足りませんでした」 「いや、気にしないでくれ。レティくんの言う通りだ。他人から言ってもらった方がやる気が起きるってものだ。尻を叩かれた気持ちになる」  店主がそう言うと、レティの顔が華やかになり、胸の前で手をパンと合わせた。 「だったら、言いますけど、マスターのその頭……、亡くなったおじいさまみたいで、私は、とってもチャーミングだと思います。お気にやむことはないと思いますよ」 「?? ん?」  店主が首を傾げた。それを見て、鏡のようにレティシアも首を傾げた。 「?? え?」    瞬間、二人の時間が停止した。そして、息を吹き返すように店主が言葉を発した。 「レティくんは、もしかして、これまで僕の頭のことを言っていたのかい?」 「え? そうですけど……、マスターは……、何のことをおっしゃっていたのですか?」  と言ったレティシアだったが、すぐに吐いた息を飲み込むように瞬発的に息を吸って、言葉を区切りながら言った。 「え、あっ……、もしかして、お店のことでしたか?」  店主は、しばらく口を開けたまま呆気らとした後に笑い声をあげた。 「うあっはっはっは。レティシアくんは、僕の頭のことを言っていたのか。そうかそうか。しかし、まあ、それは、いいとしよう」  店主は、先ほどの愉快そうな表情をパッと真剣な顔に変えると、咳払いを一つした。 「ごほん! ところでレティシアくん。頼みがあるんだが?」  レティシアは、額に汗を滲ませて背筋を伸ばした。 「は、はい!」 「この店が繁盛していないのは、僕が考えるに宣伝が少ないともう一つの理由からだと思うんだ。というのも、この場所に店を構えるのに、大金を使ったから、当時は宣伝にお金をあまり回せなかった。でも、今は事情が少し好転したんだ。だから、レティシアくんには、宣伝に関してと……それと僕のカツラのことを頼みたい」 「え? カツラですか?」  店主は、レティシアに右手の人差し指を立てて言った。 「そうカツラ。最近の子は、ウィッグというのかな? 僕は、毛が少ないから、人気(ひとけ)が少ないとわかったよ。だから、ウィッグさ! “人の毛”を増やそうってね」  と店主は得意げな顔で言った。それを聞いて、レティシアは、一瞬硬直したが、視点を遠くの方に向けて、どこか焦点が合わせずに言った。 「oh~毛~。……はあぁ」  とっさに項垂れた。 (っあ、レティくんもそういうこと言っちゃうのか)  と、レティシアはどことなく安請け合いするのだった。
【魔女決闘】未来の兆しはこの一戦に
難しい|すべて

帰還 2018-11-25

参加人数 7/8人 春夏秋冬 GM
 とある廃村。  打ち捨てられたそこに、魔女達が集まっていた。  魔女決闘(フェーデ)を行うためだ。  フェーデとは、元々は自力救済を意味する言葉だ。  法がまともに機能しない時代。  何か揉め事があった際に、実力行使で問題の解決を図ることをフェーデと呼んでいた。  実力行使といっても、ルールがない訳ではない。  お互いの自滅を避けるために、時間と場所を示し、あらかじめ約束事をする。  それが決闘の作法として洗練され、魔女達の間では残っているのだ。   これから、この廃村で行われるのは、そうした決闘であった。  ◆  ◆  ◆ 「約束の刻限までには、まだ時間があるな」  廃村の入り口に1人の男性が立っている。  ウボーという人物だ。  彼の傍には女性が2人。  ウボーの相棒であるセレナと、魔女セパルだ。  この3人は、ハロウィンに合わせテロを行おうとした魔女の過激派である怨讐派を防ぐために奔走していた。  薔薇十字教団室長ヨセフ・アークライトとの密会を行い、彼の協力により浄化師達が抑止力として動いてくれたお蔭もあり、当初考えていた被害は出ていない。  怨讐派としても、今の状況で下手に動けば、ただでは済まないことは理解しているのだ。  しかも、今回の騒動で教団に保護を求める魔女が出ていることが怨讐派の動揺にも繋がっている。  中には、自分達の子供が友達を求めて出奔するなど、怨讐派の中でも心が揺らいでいる者も少なくない。  教団が、保護を求めた魔女を危害を加えることなく扱っているのも理由としては大きい。  怨讐派から逃げ出した子供を浄化師達が保護するなど、そうした結果も大きく影響していた。  だが一度振り上げた拳は、早々簡単に下ろすことはできない。  怨讐派の魔女達としても、落としどころもなく止まることはできなかった。  だからこそ、落としどころとして提案されたのが、魔女決闘だ。  廃村を舞台に、世俗派と怨讐派の魔女達が戦い、勝者の要求を聞くことになっている。  怨讐派の戦力は、魔女が30人。  その上で、悪霊達を従えて戦いを挑むことになっていた。  対する世俗派は、魔女は同じく30人。  悪霊を使役しない代わりに、魔女以外の助っ人を得ることを承諾させていた。  つまりは、浄化師達の協力である。 「来てくれると良いんだけど」  廃村の入り口で、浄化師達を待っているセレナは言った。  これにウボーが返す。 「戦力としてもだが、大義名分のためにも来て貰えないと困るな。  浄化師が、戦いの見届け人としている。  それなら対外的には教団のコントロール下にあると言い訳ができるからな」 「最悪、私たちが見届け人として動くしかないんじゃない?」  セレナの言葉に、ウボーは返す。 「最悪そうするしかないが、その時は室長に動いて貰わないといけなくなる。  それだと、今までのように隠れて動くことはできなくなるのが問題だ」  セレナとウボーの2人は、魔女であるセパルに協力するため、死亡を装って秘密裏に動いている浄化師だ。  それが生きていることになれば、教団の命令を無視する訳にはいかなくなる。  無視すれば、抹殺指令すら出かねない。  悩むウボーとセレナに、セパルは言った。 「その辺りは、室長くんに何とかして貰うしかないんじゃない?」 「……室長に借りが出来るぞ」  ウボーの言葉に、セパルは肩をすくめるようにして返す。 「それは覚悟の上だよ。どのみち浄化師の子達には、いずれボクは魔女として知らせた上で関わるつもりだったし。  だからこそ、今まで浄化師の子達と関われそうな時は、幻惑系の魔法使わずにいたんだから」  これまでセパルは、ウボー達と一緒に冒険者として浄化師達と関わることが何度かあった。  それは浄化師達と協力できるかどうかの見極めも兼ねていた。 「ま、とにかく。最悪になったら、その時はその時で考えよう。  それよりも今は、決闘に勝つことを考えなきゃ」  セパルの言葉に、ウボーは気持ちを切り替え返す。 「勝つためには、まずは相手の戦力を知らないとな。  細かい戦力は分かるか?」  ウボーの問い掛けに、セパルは返す。  その内容は、次のようなものだった。  決闘の相手となる魔女30人の内、リーダーは爆炎の魔女アルケー。  ただし、今回の怨讐派の動きには賛同していないので、本気で来ることはない。  よほど致命的に怒らせるなどしない限りは、自らが魔法を使って攻撃してくることはないだろう。  10体程度の悪霊を使役するぐらいしかしてこない。  悪霊を全て倒せば、負けを認めるだろう。  残りの魔女も、半数近くは戦意が低い。  1人当たり1体から数体の悪霊を従えており、悪霊が倒されれば戦意を喪失するだろう。  残りの10数名の魔女は戦意が高いので、使役している悪霊を倒しても戦う可能性は高い。  それぞれ悪霊達とは別に、遠距離系の攻撃魔法を使う可能性もある。  ただし、悪霊を操りながらでは、攻撃魔法の狙いは著しく落ちるだろう。  悪霊を倒せば倒すほど体力を消耗するので、拘束する場合は、最初に悪霊を倒してからが良い。  これに対してセパル達、世俗派の魔女の戦力は次の通りだった。  リーダーは幻惑の魔女セパル。  決闘の勝利による事態の鎮静化が目的なので、戦う相手となる魔女の抹殺は積極的には行わない。  どうしても止むを得ない限り、抹殺では動かない。  近接戦闘と幻惑系の魔法を使う。  幻惑系の魔法の効果範囲は、最大で数10m。セパルから離れれば離れるほど効果は薄くなる。  効果が及ぶ範囲では、相手は幻惑をみせられ命中力が落ちる。  残りの魔女達は、指示次第で様々な行動がとれる。  味方の防御や回復、あるいは動きを速くするなどの援護もできるし、直接戦うこともできる。  遠距離攻撃の魔法を使う者が多いが、数名は接近戦もできる。  全員、直接触れた相手の体力を奪い、気絶させる魔法が使える。  ただし、気絶させるほど体力を奪うには時間がかかるので、相手が弱ってからでないと使えない。  残りのウボーとセレナは近接戦闘系である。 「戦う場になる廃村の地形は、相手は詳しいのか?」  ウボーは背後の廃村を見ながら問い掛ける。  これにセパルは返した。 「怨讐派の子達を率いているアルケーが、旦那さんと娘さんと一緒に暮らしていた村だからね。  彼女が伝えてる筈だから、ある程度は分かってる筈だよ」 「住んでたの? ここに?」  人気のない廃村を見詰めながら、悲しそうにセレナは言った。  これにセパルが返す。 「林業で栄えた活気のある村だったよ。それを商売敵の他所の奴らが妬んでね。  魔女を匿ってる村だって決めつけた挙句に、アルケーの旦那さんと娘さんを人質に取ってね。  逆らえないアルケーを動けなくなるまで乱暴した挙句に、石を投げながら旦那さんと娘さんを殺したことを笑ったそうだよ。  そのあとに、村人の財産を奪っていったみたいだ」  淡々とセパルは言う。  抑揚のないその声は、感情を奥底に隠しているようだった。   けれど、セパルは今までと変わらぬ明るい表情を見せながら言った。 「ま、昔話はこれぐらいにして。今は、やるべき事をしなきゃね。  浄化師の子達が来てくれたら状況を話して、指示を仰ごう。  うちの魔女の子達にもそう説明してるし、それでやっていこう」  かくしてセパル達は、アナタ達を廃村の入り口で待っています。  決闘の勝敗と、その先の結果は、アナタ達次第です。  この指令に、アナタ達は――?
常夜の国のセレナーデ
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帰還 2018-11-23

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
「観光地?」  きょとんとする少年の言葉に、司令部教団員は真剣な表情で頷いた。 「はい。先の一件でシャドウ・ガルデンとの国交が生じましたでしょう? 一度行ってみたい、という声を多くいただいているのですが。私を含め、多くの人々がかの国について、ほとんどなにも知らないのです」 「鎖国してたもんなぁ」  オレンジジュースを飲む少年の耳は、蝙蝠の翼に似た形をしている。  彼もまたヴァンピールであり、三年前までシャドウ・ガルデンで生活していたのだ。  浄化師としての素質を見出されなければ、今もそこで生きていただろう。 「って言ってもな」  うーん、と少年は唸る。  閉ざされていた国を出て三年。思い出せることは年々少なくなっているし、そもそも住んでいたからこそ、観光地になるような場所に心あたりがない。  どこもかしこも、彼にとってはあって当然の場所でしかなかった。 「どこでもいいんです。観光資源があれば、それをきっかけにシャドウ・ガルデンに多くの方を導けると思うんです」 「まぁ、なにがあるか分かんないけど、とりあえず興味があるなら行ってみて、って言うよりはいいかなぁ」  見知らぬ国で迷子にさせるのは、得策ではない。  一か所でも、ここ、と言える場所があれば、観光客たちの足は自然とそこに向かうだろう。 「……あ」 「なにか思い出しましたか?」 「月輝花の花畑、とか」 「ゲッキカ?」 「うん。百合っぽい白い花なんだけど、あれ、確かシャドウ・ガルデンの固有種なんだよね」 「詳しくお願いします!」  目を輝かせて食いついてきた司令部教団員に、少年は上体をそらせる。小声で謝りながら、彼女は椅子に座りなおして咳払いをした。  落ち着いたところで、少年は眉間にしわを寄せる。 「うーん、でも、あるか分かんないんだよね。なにせ三年前はあったってだけだから」 「では、浄化師様たちに見てきていただきましょう」 「そうだね。僕は……いいかな。たぶん日程、あわないし。場所だけ教えるよ」 「ありがとうございます」  懐からメモとペンをとり出した司令部教団員に、少年は月輝花の特徴と、だいたいの位置を教えた。 「でも、名前もない花畑があったとして、観光地になるのかなぁ」 「大切なのはきっかけですから」  そうかな、と少年は疑問が残る表情でオレンジジュースを飲みほした。
お茶会の魔女
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帰還 2018-11-23

参加人数 2/8人 北野東眞 GM
 気が付いたとき、浄化師たちはテーブルについていた。  唖然としていると、にこにこと笑っている可愛らしい女の子がいる。 「こんにちは。さぁ、推理をはじめましょう? さ、今回の物語を話すわね?」  誰ですか、と問いかけたり、何事かと聞く前に女の子は続けた。 「ああ、忘れないで。愛しい人。これは楽しく推理するお茶会よ? 恥ずかしがらず、自分の推理を披露してね。楽しんでいるうちはあなたを食べたりはしないわ。ただ楽しませてちょうだい。さぁ、魔女と推理のお茶会をはじめましょう」  魔女は語る。  とある小さな国がありました。  そこに大変勇敢で、聡明な、家族思いの青年がおりました。  青年は、人を食らうと噂される魔女を退治しようと森へと赴きました。  しかし、なんてことでしょうか。  青年はひと目で魔女に恋をしてしまったのです。  魔女はそれほどに美しかったのです。  また森に住まう、無垢な魔女も青年に恋をしてしまったのです。  魔女は力こそありますが、森で長く生きていたため浮世離れして世間知らずな者が多いのですが、この魔女も例外なく、世間知らずでした。青年の美貌と優しさに魅了されてしまったのです。  それから魔女は青年にいろんな知恵や魔法を授けました。青年はそれによってますます素晴らしい働きをしました。  国に害のある化け物を退治したり、困っている人の病を治したり……。  国は発展し、豊かになりました。誰もが青年を国の王様にしようと人々は言いました。  ただ一人、賛成しない者がおりました。  それは青年の幼馴染です。国一番の腕のよいパンを焼く娘は、生まれたときからずっと青年に恋をしておりました。  青年のことを強く思う彼女はなかなかに激情家でありました。  彼女は彼が森に通い続けることを不審に思い、後を付けて、森で魔女と青年の逢引を見てしまったのです。  青年は魔女に魅入られたんだ。  二人の仲睦まじい抱擁に嫉妬にかられた娘はそう思い、人々に告げました。  彼は魔女にそそのかされている!  さて、国に青年が戻ると家へと押し掛けたのは勇敢な強い兵士たち。  お前は魔女にたぶらかされたんだ。今魔女の居場所を教えれば救える。  しかし魔女の居場所を教えなくてはお前たちを処刑しなくてはいけない、と。  青年は選びました。 「さぁ、この青年はどうしたと思う? 魔女を売り渡したのかしら? それとも家族もろとも死んでしまったのでしょうか? それとは別? どんな結末かしら? この物語だけを使って、あなたたちは考え、答えを聞かせて」
寝過ごしちゃった! アルバトゥルス駅舎にて
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帰還 2018-11-22

参加人数 7/8人 宇美 GM
 まぶた越しにまぶしい光を感じながらうつらうつらとしていた。 「ねえ、ここどこだろう? まずいんじゃない?」  とパートナーが指で私の肩をつついた。  はっと目を開く。  私は臙脂色の対面式の列車のシートに座っていた。  狭い直角の固い座席だった。  よくもさっきまでこんな寝づらいところで眠りこけていたものだ、とあきれる。  仲間の浄化師たちはまだ夢の中だった。  ある女性は肘掛けに顔をのせている。ロングヘアーと両手をだらりとたれていた。細い指先が床にくっついている。  ある男性はふたりがけのシートに、ひとりで横たわっていた。はみだした長い足を肘掛けの上で組んでいる。雷のような大いびきだ。  窓の外を見ると、空は明るい。朝の空の下、ずらずらとまるで黒い大蛇のような蒸気機関車が、30台近く並んでいる。その下は入り組んだ線路だった。随分と大きな駅だ。  地面にじかに立っている駅名表らしき白い看板が目に入った。  順に字を読む。 「ア・ル・バ・トゥ・ル・ス」  まさか! うそだろう!?  ここはブリテンのアルバトゥルス駅舎だというのか?  それなら下りるはずだった教団の最寄り駅は、はるか昔に過ぎてしまっている。  並ぶ線路と列車の向こうのグリーンがかった白い巨大な建物に目をやる。確かにいつか絵はがきで見たアルバトゥルス駅と同じ形をしている。 「起きろ! 大変だ」  それにしても通常なら誰かが途中で目を覚ましそうなものだ。同行していた浄化師達が、皆、揃って終点まで寝過ごすなんてどうしてしまったのだろう?  昨日の指令で、皆、疲れ果てていたのだろうか?  仲間たちを叩き起こす。  目を覚ました浄化師達が身支度を始めるころになって大騒ぎになった。仲間のうちの数人の鞄がなくなっていたのだ。  寝ている間に盗まれたのだろうか?  眠りにつく前に楽しく会話をした老婆の姿が目に浮かんだ。  しわくちゃの顔で目を細めて微笑む、いかにも素朴そうな老婆だった。  同じ車両だった大荷物の老婆は、自分はノルウェンディのまだ観光化されていない自給自足の村から来たと言っていた。  夫の出稼ぎにともなって若い頃アークソサエティに移住した娘時代の親友に会いに来たそうだ。  雪のような銀髪に、色とりどりの刺繍がされたエプロンを身にまとった老婆が、片言の言葉で、 「ワタシ、ウマレタムラカラ、デルノハジメテデス」  とか言っていたから、ついつい手作りクッキーを、ごちそうになってしまった。  けれども、どの浄化師の記憶も老婆にもらったクッキーを口にしたところでとぎれているのだった。  あの身の上話は、まるっきりウソで、クッキーには睡眠薬でも、入っていたのかもしれない。  車内を端から端まで歩き回ったが、老婆は当然のようにいない。  ダメもとで、がらんとした車内に、ぽつりぽつりと残る乗客に、聞いて回った。しかし老婆について知る人は見つからなかった。  仲間の何人かの鞄は無事だから教団に帰る旅費には困らない。教団に渡さなければいけない魔結晶は身に付けていたのが不幸中の幸いだけど、盗まれた鞄には決して少なくない現金が入っていた。しばらくは落ち込んでしまいそうである。 「お客さん、終点ですよ!」  駅員に、促されて列車を降りた。  駅にはホームがなく、地面に直接降りる。  黒光りする列車が並ぶ線路の合間を、駅舎に向かって歩く。こちらに背中を向けて貨車と貨車の隙間に消えていく駅員の姿が目に入った。  慌てて追いかけて呼び止める。  事情を話し、これからどうやって帰ったらよいか、駅員に相談する。  幸いなことに駅員は親切な男だった。  持っていた時刻表と路線図を、真剣な面持ちで繰ったりじっと見つめたりした後、こう教えてくれた。  駅員によると、目的地の教団の最寄り駅に向かう特急列車は1日に1便のみだという。発車時刻は夕方らしい。  それに乗れば明日の朝には目的地の駅にたどり着くことができるそうだ。  鈍行なら午前10時頃に、出発するのもあるが、乗り継ぎに乗り継ぎを重ねなければならない。しかも、目的の駅につくのは3日がかりだという。  それなら夕方出発の特急列車に乗るしかない。  まだ、朝の8時半である。それまで、どうやって、時間をつぶそう?  隣には、『鉄道修理工場』があるらしい。駅員が、面白いですよ、ここまで、せっかくいらしたのなら見学しないのは損ですよ、と勧める。  パートナーの目が輝く。自分はとてもそんな気分になれないのだけれど。  駅前は人が多い。  大道芸人や、人形遣い。踊っている者もいる。  自分もあれぐらいならできそうな気がする。  道端に、小さな机を置いて占いの店を出している人もいる。  みなそれぞれ人々の注目を浴びている。  拍手喝采が響き、金属のぶつかり合う音がした。人形遣いの前に置かれた、シルクハットの中には次々ときらきらと輝くコインが、投げ入れられる。  私も、ここで、特技を発揮すれば、盗まれた分を少しは取り戻せるだろうか?  駅舎のまわりには、小さな店が、たくさんある。飲食店や、マッサージ、お土産屋さん。ぶらぶらするだけでも、十分時間がつぶせそうだ。
【魔女】今日は一日いたずら三昧!!
とても簡単|女x男

帰還 2018-11-21

参加人数 2/8人 桜花 GM
『Trick or treat。お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ!!』  それはハロウィン開催時のみに通じる魔法の言葉。これを言われた人は『Happy Halloween!!』と返し、子供たちにお菓子をあげなければならない。  元々は秋の収穫を祝い、悪霊を追い出す宗教的な意味合いの強い行事だったらしいが、今では仮装をした子供たちがお菓子を求めて街を練り歩く楽しいイベントとなっていた。  この時期になると街はハロウィンムードへと包まれ、至る所でハロウィン気分が楽しめるイベントが開かれる。  薔薇十字教団でもハロウィンイベントの一貫ということで、教団寮の食堂を使ってハロウィンパーティを開催する計画を立てていた。 「ハロウィンって言ったらやっぱりかぼちゃ料理よね。今からパンプキンパイでも焼いてみようかしら」 「なぁ、せっかくだから俺たちもなんか仮装してみね? おれ吸血鬼とかやってみたい」 「私は絶対に嫌だからね。やるならあんた一人でやってれば」 「パーティー用のお菓子ってもう準備したー? 誰かテーブル運ぶの手伝ってほしいんだけど」  普段使っている食堂が会場になるということもあり、ハロウィンパーティーの準備には多くの浄化師たちが参加している。  厨房に入ってハロウィン料理を作ってくれている人や、折り紙で作った南瓜やコウモリを部屋中に貼ってハロウィン感を出している人がいたりとみんな楽しそうに準備をしている。  これまでにも何度か教団内でイベントのようなものをやってきたが、なんだかんだでお祭りごとが好きな私たちは張りきって準備をしていた。 「あの、アリサ先輩は一体何を……」  そんな中、一人だけ他の人とは一風変わった行動をしている人がいた。  装飾用にと用意されていた折り紙や布には目もくれず、ただ無心に大きな白い紙を壁に貼り付けている。  一見してハロウィンとは全く関係のないような彼女の行動に、周りにいる浄化師たちも何をしているのかと首を傾げながらその様子を見守っていた。 「ん? あぁ、私? たまたま近所の文房具屋さんに模造紙が売ってあったからついでに買ってきたの。これを壁に貼ってそこにお絵描きをしてみたら面白そうかなって」  彼女が壁に貼り付けているのは筒状に丸められた大きな模造紙。袋には業務用と書かれていて、これ一つで足長テーブルを覆えるほどの大きさがある。  すでに壁には模造紙がびっしりと貼られているが、それでも物足りなかったのか彼女の足元には未だに貼り終えていない模造紙の筒が何本も置かれていた。 「確かに面白そうではありますけど……、だからって大きすぎません? そもそもこれってハロウィンになんの関係が……」 「なに言ってんの、大いに関係ありだよ。だって今日はハロウィンなんだよ、ハロウィンパーティーなんだよ? むしろ私たちのいたずら心を満たすにはこれぐらいの模造紙では足らないと思うのだよ」  なんだかアリサ先輩にとってハロウィンはお菓子をもらうイベントじゃなくていたずらをしても怒られない日のようになっているような気もするが、そこはあまり気にしないことにする。  アリサ先輩と知り合ってもうずいぶんと経つが、こんなことにいちいち驚いていたらむしろ私の方が疲れてしまう。  どうせ私が何を言ったってアリサ先輩が止まるはずなんてないのなら、止めるのを諦めてさっさとサポートの方に回るのが一番楽だった。 「ほら、貼った貼った。模造紙はまだまだ残ってるんだし、さっさと貼りまくるよ」 「えぇ……、私もやるんですか……」  そうして私は半強制的に模造紙を壁に貼り付ける係へとまわされ、ほくほくのハロウィン料理がテーブルの上へと置かれる頃には色鉛筆やペンなどの準備を終わり、模造紙で作ったとは思えないほどの立派なキャンバスが出来上がっていたのだった。
【魔女】残響の町
普通|すべて

帰還 2018-11-19

参加人数 4/8人 oz GM
●ガエタン・ジラルド『魔女狩り』42-43頁  現在、魔法使いは魔女と呼ばれ、一般的には得体の知れない術を使う人喰いだと忌み嫌われている。  かつて魔女は人々の良き隣人であり、奇蹟の代行者として崇めたてられていた時代もあったのだ。  人々は困ったことがあれば魔女の知恵や力に頼りにしていた。医療魔術がまだなく、医術が民間療法の域を出なかった時代、魔女達が医者の代わりに怪我や病気を治すことさえあった。  魔女とは、生まれたときから特殊な才能を持ち、自然に漂う魔力を行使する選ばれた存在でもあったのだ。  だが、アレイスター・エリファスの台頭により状況は一変する。  彼が開発した「魔術」は魔法とは違い、才覚の差はあれど誰にでも使える技術だった。人間の体内には魔力を内包する「魔力回路」の発見は当時驚くべき事だったのである。  新たな技術の誕生は、人々にとって福音であり、悲劇の始まりであった。  人は異質を嫌う。  敬いは畏れへと反転し、尊敬は嫉妬へとたやすく変わる。  魔術が広まれば広まるほどに、魔女は特別な者から一転し、異端者へと凋落した。  民衆が冷遇する理由は他にもあり、魔法は基本的にドラゴンやピクシーなどの生物しか行使できないことから、魔法を使う彼等は「人間ではない」という風潮が根強かったためだ。  魔女狩りが始まった経緯はいくつもの諸説があり、正確には定かではない。  魔女狩りが行われる以前に「ロスト・アモール」による差別と戦争、貧困、飢え、さらには「ラグナロク」によるヨハネの使徒とベリアルの発生。この世界的災厄によって止めを刺された。これらによって一般大衆のやり場のない苦しみや怒りの矛先が向けるスケープゴートの土壌が育っていたのかもしれない。  その人の業に薔薇十字教団も悲劇を後押しした。  教団は魔女を弾圧する世間の風潮を利用し、魔女狩りを推奨することで魔女を突き出させる意識を一般大衆に根付かせることに成功した。  昨日共に笑い会っていた隣人が次の日には裏切り、「魔女め!」と罵りの言葉を吐く。時には助けた者が金と引き替えに教団へ密告することさえあった。  教団にとって魔女を捕らえることは自らの権威を固めるのに役立てるだけではなく、研究材料としても魅力的な存在であった。魔女とは魔法を行使できる人間であると知っていた上で、何百年も生きる存在を研究し魔術の発展の礎にしようと考える一派も存在していたのだ。  教団は表向きは魔女をきちんと処刑を執り行っているパフォーマンスを見せる一方で、密かに重罪人を替え玉にしたり、研究体としては不必要になった個体を代わりに処刑していた。  魔女狩りが過激化していく一方で、魔女の報復を恐れていた人々の不安と教団の思惑は見事に一致した。  人々は魔女が起こした「人喰い事件」を切っ掛けに、実体とは異なる影に恐怖心を増大させていたのだ。  こうして魔女は「人喰いの化け物」として世間に認識されるようになった。  魔女狩りが収まった今でもお伽噺には悪いものとして登場し、親が子供に「悪い子は魔女に食べられちゃうぞ」と脅かしつけられる存在となっている。  あの異様な魔女狩りの熱狂は収まったのは、皮肉なことに魔女が世間から姿を消したおかげだった。教団の方でもヨセフ・アークライトが室長となってからはほぼ行われることはなく、現在あまりに人道を無視した研究は凍結状態となっている。  魔女達が行ったカニバリズムは、確かに人としての罪だが、彼らをそこまで追いつめたのも我々だということを忘れてはならない。 ●悲劇の町 カンジョンリア  まるで古代都市遺跡のような魔女狩りの町カンジョンリアはルネサンスの外れにある最も有名なゴーストタウンだ。  今では残響の町とも魔女狩りの町とも呼ばれている。  昔は町の中央にある教会の鐘が鳴り響く、美しい町だった。  現在では町は放棄されている。老朽化し崩れた家屋は植物に覆われ、誰も訪れることはない。  ここは魔女に呪われた土地である。  滅びた原因は定かではないのは、生き証人が殆どいない為だ。  どれも推測の範囲に過ぎない。確かなのは、町で大規模な魔女狩りが行われていた最中、大きな地震と火災が起こったこと。  逃げ出そうとした人々もいたが、町全体を囲む高い防壁が徒となって逃げられず殆どの住人が亡くなった。  その際、唯一の出入り口である門は堅く閉ざされ開くことはなかったそうだ。それらは死んだ魔女の呪いだと囁かれている。  この場所は魔女達がかつて住んだ場所であり、怨讐派の魔女にとって魔女狩りを象徴する場所でもある。  大勢の魔女が亡くなり死が染み着いた町は、惨劇の日を今でも繰り返す――この町の悪夢は未だ終わっていないというように。  教団にとってこの地は負の遺産であり、怨讐派の魔女にとっては奪還すべき地なのだ。  ここには魔女の遺産があるとされ、怨讐派の手に渡れば火種になりかねない。  だからこそ、ここを利用されることがないように教団が管理している。ここに入れるのは許可を得た浄化師だけで、普段は立ち入り出来ないように町ごと封印されている。  怨讐派の動きが活発したこともあり、封印を強化する事が司令部で決定された。  新たに封印の核となる楔を町の四方に打ち込むことで封印を強化する指令が諸君等に下された。  悲劇の町で君達が何を見るのか神ではない身では分からない――ただ悪夢に呑まれないように気をつけて欲しい。
【魔女】あなたの心のMonster
普通|すべて

帰還 2018-11-17

参加人数 8/8人 木口アキノ GM
 ここは一代で財をなした豪商レイモンズ・ガネスの邸宅である。  今宵はアークソサエティ及び近郊の縁のある商人たちを集め賑やかなダンスパーティを開催していた。招待された者たちはそれぞれ自分のパートナーを連れこのパーティーに参加していた。  談笑のざわめきに包まれた広間だが、ガネスの一人息子ザムが登場するにあたりしぃんと静まり返り、音楽だけが心細げに続けられていた。  人々の注目を集めているのはザムの隣に立つ彼の伴侶、ティリカだった。  態とらしく顔をしかめ扇で鼻を覆う婦人や、侮蔑の笑いを浮かべる者すらいた。  だが、それも数秒。人々は皆余所行きの仮面を被り、何もなかったようなふりをする。  当のザムは若干人心の機微に疎いところもあり皆の様子には気付いておらず、ティリカはティリカでだからどうしたと言わんばかりにむしろ挑発的に胸を張り顎を上げ笑顔で睥睨する。 「よく平気な顔をしてパーティーに出て来られるわよね。……使用人上がりが」 「し、聞こえるわよ」 「でも事実でしょ」  ひそひそ声が交わされる。 「だって仕方ないでしょう」  そこへ声がかかり、密談中の婦人たちは肩を跳ね上げる。  そこには仁王立ちのティリカ。 「主人が、どうしてもあたしを迎え入れたいって言うんですもの」  そしてティリカは妖艶に笑ってその場を去る。 「まあ気持ちはわかるよなぁ」 「あれだけ美人でスタイルも良けりゃ、出自なんて気にならないな」  と言う男たちを、婦人たちはぎろりと睨んだ。 「ふん、男どもったら鼻の下伸ばしてさ。あんな女、金目当てに決まってるってのに」  そうよそうよ、と周りの女性陣は同調する。  若く美しい使用人に骨抜きにされた情けない2代目。それがザムにくだされた評価であった。  いずれあの女も財産を持ち逃げして、その時に泣きを見ることだろう。いや、そうなる前にレイモンズが適当な手切れ金でティリカを追い出すだろう。  それまでせいぜい、仲間のフリをしておいてやろう。  婦人たちは、男性たちに混じって話し大口を開けて笑っているティリカを白い目で見つつも、そんなことを考えていた。  パーティーは恙無く進行していたと思われた。  音楽が途切れると、レイモンズが声をあげる。 「ここで、皆さんにお聞かせしたい音楽がある。先日素晴らしい楽師に出会ってね。彼らは諸国を旅しているらしい。彼らに出会えたのは、神の導きとすら思えるよ」  熱に浮かされたように語るレイモンズの後ろに、旅人らしき出で立ちの男女2人組が控えていた。  男性は手に弦楽器を持っている。 「それでは皆も、しばし彼らの音楽を楽しんでおくれ」  旅人2人は恭しくお辞儀をすると、男は楽器を構え、女は組んだ手を腹に当て大きく息を吸い込んだ。  物悲しい旋律は初めは緩やかに、徐々に速く。響く歌声が紡ぐのは不思議な物語。 愛しい人への募りすぎた想いは怪物となりこの身を支配する。 さあ唇を裂き牙を剥け。 愛しい人を私の血肉に。私を愛しい人の血肉に。 そして魂は溶け合う。ひとつになる。 「すごい迫力のある歌声だね」  ザムが傍のティリカに話しかける。 「そうね」  ザムに顔を向けたティリカの瞳は……爬虫類のように生気がなく、その異変にザムが驚いている間にもティリカの顔は中心からぶわりと鱗が生え口は真横に広がり赤く細い舌がちろりとザムの鼻先を突く。 「うわぁっ!?」  ザムは悲鳴を上げ、助けを求めようと周囲を見回せば、同じように怪物の姿になった者が大勢いた。  広間に旅の楽師の高笑いが反響する。 「ほうら、それがあんたたちの愛しい人の本当の姿だよ。醜い心に見合った姿になったのさ」  大蛇の怪物に変化したティリカはしゅうしゅうと不気味な呼吸とともにザムに這い寄る。 「な、なんで……ティリカ……?」  ザムは震える脚で後退する。  大蛇のティリカから不気味な笑い声が漏れた。 「そうよ、あたしよ。あたしはね、あんたみたいなお坊ちゃん本気で愛してなんかいないわ。あんたが受け継ぐだろう財産が欲しいだけ」 「嘘だ」  ザムは逃げる脚を止め大蛇を見据える。 「嘘じゃないわ」 「だって僕は、本当に愛されていると感じていた」  大蛇とザムは見つめ合う。沈黙が、ザムの自信を揺らいだ。  愛されてると思ったのは、驕りだったのか。 「バカね、どうして信じるの……」  大蛇がずるりと距離を詰める。ザムは反射的に飛び退いた。  どん、と背中に何かがぶつかる。振り返れば、そこには少し前までティリカと同様人の姿であっただろう怪物がいた。  毛むくじゃらの怪物は、ザムの姿を見とめると獲物を見つけたと言わんばかりに腕を振り上げ……。  ザムの体は宙を舞い床に叩きつけられた。  それは毛むくじゃらの怪物によるものではなく、大蛇の尻尾によるものだった。  そして大蛇は、ザムの代わりに毛むくじゃらの怪物の牙の餌食となっていた。 「ティリカーーーっ!」  ザムは叫んだ。大蛇は徐々にティリカの姿に戻り、力なく笑う。 「バカはあたし。財産だけ愛してりゃこんなことにならなかったのに。いつの間にか、あなたのこと……」 「わぁあああっ」  ザムは毛むくじゃらの怪物に立ち向かおうと立ち上がる。  が、何者かに羽交い締めにされるように止められた。 「この状況で勝ち目はありません。一旦逃げましょう。教団本部まで」  喰人としての素質を持ちながらも契約者に恵まれず、薔薇十字教団に属してはいるが未だ浄化師としての活躍をしていないユディアス・アリトニウスは母の知人が開催したパーティーに、亡き父の代わりに母のパートナーとして参加していた。  その矢先、旅の楽師が起こした騒動に巻き込まれ、母を安全な場所に避難させた後、なんとか近くにいた1名だけを助け出し教団本部へと馬を急がせた。  その1名が、ザム・ガネスである。  ザムはすぐに医務室へと送られて手当を受けている。 「ぼくの見たところ、旅の楽師2人は魔女だと思う」  と、ユディアスは司令部に報告した。 「あれは変化系の魔法で、その人の心にある負の感情を怪物の姿にしているようだ」  急ぎ現場へ向かい魔女を討伐しなければならないが、任務に当たる浄化師もその魔法にかかる可能性は大きい。 「己の、そしてパートナーの心にある負の部分を知り、それをどうにかして打ち破ることができなければ、討伐は難しい」  ザムは、自分があの時一瞬でもティリカを疑わなければ、あのような事態になる前に彼女を元の姿に戻せたかもしれない、と後悔しているそうだ。 「魔女本体は、さほど強くなさそうだった。あの変化系の魔法以外は使えないんじゃないかな。魔法さえ打ち破ればなんとかなるのでは。といってももちろん、油断は禁物だけどね」  病床のザムからは、正式に討伐依頼がなされたらしい。ユディアスは言った。 「ぼくはこのとおり、浄化師としては役に立たない歯がゆい身分だ。申し訳ないが、この件の解決は皆にお願いしたい」
【魔女】宵夜の魔女と朝焼けの魔女
とても簡単|すべて

帰還 2018-11-16

参加人数 5/8人 北野東眞 GM
「この指令は、ようは巡回だ。ただ、普通の巡回はと少し違うから、注意してほしい」  ロリクが渋面を作った。  それは魔女からカードが送られてきたそうだ。  【今宵、私は歌います。どうか、誰も邪魔しないで。ただ夢を見たければいらっしゃい】    カードには「宵夜の魔女」と名前が記されている。調べによるとこの魔女は隠遁派で、歌に乗せて魔力を放出し、幻惑を見せることを得意とするという。  ただ過去に魔女狩りで最愛の「朝焼けの魔女」を失い、ずっと隠れ続けていたそうだが今回怨讐派たちの計画に隠れて自分の魔法を使用することを決意した。  一晩中歌い続け、怨霊たちを使役し、朝を迎える、そのとき――失った彼の魔女が死ぬまえに残した魔法を完成させ、発動させる。  朝焼けの魔女が残したのは――大量の悪霊のエネルギーを消費して完成させる幻影だそうだ。  決して攻撃的なものではないが、その魔法がどんな風に作用するのかは魔法を施した、彼の魔女しかわからない。  さらに宵夜の魔女の魔法は幻惑であり、多くのハロウィンを楽しむ人々が被害にあう可能性がある。  浄化師たちにはその被害をとどめるために魔女の歌う地区を巡回するのだ。  魔女はブリテン地区のエクリヴァン観劇場の奥――既に捨てられた石作りの舞台の上で歌うという。  演目  第一幕 「歌しか知らず、けれど愛に生きた」  第二幕 「報復は煉獄の炎、我が心に宿るは奈落」  第三幕 「選びとりし命、選ばぬ道の果て」  第四幕 「貴方のいない朝と夜を、私は進む」  終幕  「沈黙。或いは踊り手は誘う」 「この魔女は、人を食らうつもりはないようだが……これによって人が惑わされて死のうが、他の魔女がそれで悪さしても知らんと思っているんだろう」  迷惑な話だとロリクはため息をついた。 「これらの演目をたった一人で歌い上げるそうだ。この歌が終われば、宵夜の魔女は朝日を浴びて死ぬと決めているそうだからお前たちが手を汚す必要はない。なんでも、朝日を浴びることができないそうだ……ただなぁ。これ、お前らも問答無用でその歌の影響を受けるってことだから、注意しろよ? つまり夢を見るのさ。どんな夢を見るんだろうな。じゃあ、がんばれよ?」
秋風注意報!!
とても簡単|すべて

帰還 2018-11-15

参加人数 5/8人 阿部 ひづめ GM
「ぶえっくしょい!」  すれ違いざまに、派手なくしゃみの音が聞こえました。つづけて今にも呼吸困難になってしまうのではないか、と心配になるほどのせきこむ音。  だんだん肌寒くなってきた今日この頃、薔薇十字教団本部のあちこちからは、こんな風に鼻をすする音やせきこむ声が聞こえてきます。  そうです、秋は風邪の季節なのです。いくら浄化師たちといえども、病ばかりは防ぎようがありません。今週は特にみんなが風邪をひいてしまっていて、本部としても頭をかかえているような状況です。  聞くところによると、なんとあなたのパートナーも、秋のいたずらにすっかりやられてしまったそうです。  たんなる風邪だとは思いますが、少し心配ですね。  こんなことではベリアル退治もままなりませんし、パートナーの部屋まで様子を見に行ってみましょう。  普段お世話になっているお礼に、懇切丁寧な看病をする、はたまた弱っている姿を観察するだけでも構わないでしょう。  せっかくお見舞いに行くので、パートナーが喜びそうな料理やお土産を持っていくのもいいかもしれません。  いずれにせよ、風邪をもらわないように注意しながら行動しましょう。  あんまり接近してしまうと……あなたも秋風のとりこになってしまうかもしれません。  
【魔女】アクイの魔女
難しい|すべて

帰還 2018-11-12

参加人数 4/8人 北野東眞 GM
 浄化師たちがその屋敷に訪れると、無数の死人が折り重なりあい、呪いとなって怨嗟をこだましていた。 「1011ページ、魔法における基本式による世界の真理へ」  朗々と読み上げる声が聞こえてくる。  床に書かれた魔方陣と輝く魔結晶。  灯される蝋燭が揺れる。  いくつもの薬品の匂い。 「996ページ、魔法における基本的創造における、すなわち……やぁ、待っていたよ。君が生贄だね。彼を呼ぶにはまだ命が足りないんだ。  もうハロウィンなのにね。ちょうど頭の足りない子供たちがいたずらをはじめる、それにボクも参加するつもりだよ。  とびっきりの悪戯さ。ようやく彼の器になるものを見つけたから、ハッピーハロウィン」  アイボリー色の髪を揺らして、十にも満たない少女は微笑んだ。 ● 「今回は完全に討伐だ。捕えるのは難しいから、とりあえず見つけた瞬間に殺すつもりでいけ。じゃないと死ぬぞ」  受付口で物騒なことを口にされて浄化師たちは困惑する。 「相手は魔女だ」  ここ最近魔女たちがきな臭い動きをしているのはすでに浄化師たちの耳にはいっていた。  魔女の動きの牽制や計画を潰すことをやってきた。  その魔女の名前はアクイの魔女。  アイボリー色の髪に、真っ白いドレス、赤い頭巾を頭からすっぽりとかぶった十歳くらいの娘だそうだ。  彼女はハロウィンになると小さな村を一つ、必ず潰す。一人残らず殺し、その近隣の山に住む生き物も殺し尽くしてしまう。 「なんでも儀式なんだそうだ。この魔女は、毎年、ハロウィンの季節に儀式を行う。本人が言うには異界の門を開くための儀式だそうだ」  彼女の痕跡を辿れば、彼の魔女の研究は――異界へと至る門を開くこと。  その魔女曰く、ハロウィンの時期は死者と生者境目が曖昧となるらしい。  この時期に膨大なる死人を作り出し、呪いと悪霊を使役し、さらには動物の骨を媒介になにかを召喚としているそうだ。  しかし、それが成功したためしは今のところない。  そもそも、異界などというのは子供の信じる夢物語ともいえる。なぜ魔女がその妄執に囚われ、毎年、毎年、繰り返すのかは不明だが。  事前にアクイの魔女の目撃情報を元に数名の浄化師がその屋敷を訪れ――殺害された――体の一部だけが残されていた。  そのあと調査を行いに数名で屋敷に訪れ、いくつかの資料を見つけ出した。 「今年はこの魔女は教団の料理長を狙っている」  彼女の残したいくつもの研究資料にはギヨーム・フエールの写真やどこからどこからか採取したらしい毛があった。  狼の牙 999個  魔結晶 68個  アシッド 浄化師16体分  人間の半分 ×××個  ――ギヨーム・フエール  器を使い、異界×××を×××。        待っていて、待っていて、待っていて、銀狼、銀狼×××、ボクが必ず。          君を×××!      魔法における基本的創造概念における。        すなわち。アーク。演算a??a-?a???。  君の名をボクが。 「この魔女は自分の妄執に囚われ、そのためだけにしか動けない。  ……ギヨーム氏には、その日は安全なところにいてもらう。そしてかわりにギヨーム氏がその日、どこにいるのかの嘘の情報を流す。お前たちはそれを迎え撃つ。  一晩時間を稼げばいい。そうしたら魔女は来年までは大人しくなるはずだ」 ● 「鉄よりも、強くしてあげよう」  口笛のような、潰れたウタを口にする。  それが彼女の魔力の具現化。  そして歌うように告げる。 「羽よりも早く」  ぶち、ぶちぶち。アイボリーをひきちぎり。 「アドレナリンの増幅による戦闘能力の向上を! 魔法とは幻想? 違うよ。科学だよ。何かを行えば必ず変化し、すべては決められてかえってくる反応。  そしてそれにおける結果。だから今度こそ成功するんだ。……ボクの愛しい銀狼、君のための器を用意しよう。  さぁ、グラディウス、スクートゥム、ウンブラ。ハッピーハロウィン。ギヨーム・フエールを殺してボクの元へと持ってきておくれ。  ボクはね、悪意の魔女。浄化師は僕のことをこう言い変えた、愛食いの魔女、と。  ギヨーム・フエール、君は銀狼となって僕のことを食べるんだ。ああ、はやく、はやくボクのことを食べておくれ、愛しい銀狼……!」
飛べ!新型気球!
とても簡単|すべて

帰還 2018-11-12

参加人数 2/8人 春川ミナ GM
「親方! ついにできました!」 「おおお! これでオレの夢が叶う!」  ここは教皇国家アークソサエティ・ソレイユ地区、見通しの良い麦畑が広がるのどかな地。その一介にある小さな工場。  そこに二人の人間が感極まったように肩を叩きあっている。 「これは大ニュースになるぞ! 今までの気球は蒸気機関で空気やガスを温めなければいけなかったが、火を扱う以上事故も多かった。だが、これなら……」  親方と呼ばれた男性は大きな布の塊と人が三人は優に乗ることができそうなゴンドラを見やる。 「はい、この材質には苦労しました。ニホンからワシと呼ばれる丈夫な紙、そしてカキという果物から取れた果汁と糊を組み合わせたものを布の内部に貼りあわせて……」 「ああ、ニホンから来たって言う刀鍛冶師が教えてくれたんだったな。だが、まずは試験飛行が必要だ。だが……オレとお前ではいかんせん人手が足りん。なので教団を巻き込もうと思う」  刈り込んだヒゲを撫でながら親方は教団本部がある首都エルドラドの方向に顔を向ける。その顔と腕は小さな工場を自分一人で育て、守ってきた貫禄が感じられた。 「……そうですね。飛行型ベリアルの危険性が無いとは言い切れません。オレもベリアルに家族を殺されて……。親方がオレを庇って逃げてくれなかったら今頃……イデッ!」 「バーカ。めでてえ時に湿っぽい話すんな! お前の父には借りがあるんだ。それにお前が来てからオレの仕事場がしっちゃかめっちゃかで気の休まる暇も無かったんだからな!」  ガハハと笑いながら弟子の頭を軽く小突く親方。その拍子に弟子の帽子がずれ、まだ少年と言っても過言では無いあどけなさを残した顔が露になった。 「……ありがとうございます。オレ頑張ります!」 「おうよ! んで、中に入れるガスは用意してあるな? 水素でも良かったんだが、あれは爆発するととんでもないからな」 「はい! 親方に言われた全く新しい気体です。……でも良かったんですか? これ、まだ市場にも出回っていないものですが。その為に親方は奥さんの形見を……」  そう言うと弟子の少年は横に置いてある鉄製の大きなボンベを見る。厳重に封がされており、蓋も溶接されている。 「……良いんだ。アイツも気球の完成を心待ちにしていたからな。それにこれでニュースになれば簡単に買い戻せる! 失敗はできねえから気合入れろや!」  親方もどこか遠い目で萎んでいる気球と物々しいボンベを交互に見た。 「はい! じゃあ教団に護衛を頼むんですか?」 「いや、どうせならお祭り騒ぎにしてしまおうと思ってな。希望する奴らを乗せてやれば皆も笑顔になるんじゃねえか?」 「……と、言うと?」 「コイツには三人乗れるがエクソシストをパートナーと二人で乗せれば楽しんで貰えるんじゃねえかなと思ってな。幸いここは見通しの良い麦畑だ。危険は少ないと思うし、ベリアルが来ればすぐに迎撃できる。地面は比較的柔らかいし、もし落ちても怪我は少ないだろう。んで、教団の人員で見張りを頼んで俺達は気球に結んだロープが外れないように、いや、事故が起きない様に万全の体制で当たる。どうだ?」  ゴンドラの様子を確かめながら親方が話す。 「良いですね! 空の旅……とまではいきませんが、普段と違う景色で風や景色を楽しんで貰えればオレも楽しいです!」 「ああ! オレ達二人で新しい時代と忘れられない思い出を作ってやろうじゃねえか!」  少年と親方は拳をトンと打ちつけ合うと、笑いあった。  ここは小さな村の小さな工場。厳しい男だがとても温かく愛情に溢れている親方と、よく学び、よく働く少年が暮らす家。  二人の期待を一身に受けた気球と共に夜は更けていく。
【魔女】災厄の双子
普通|すべて

帰還 2018-11-11

参加人数 5/8人 鳩子 GM
 肥沃な農業地帯ソレイユ、その片隅にある小さな農村モワソンでは一年で最も晴れがましい祝祭がはじまろうとしていた。  小さな噴水のある広場には、橙や紫のガーラントで飾り付けられた屋台が賑々しく立ち並ぶ。葡萄に梨、真っ赤な林檎。よく肥えた鹿や野兎の肉。秋の実りをふんだんに使った料理の数々――そして忘れてはならないこの時季の定番、かぼちゃのおばけがそこかしこで笑っている。  日頃は知った顔ばかりの静かな村ではあるけれど、収穫祭で華やぐこの季節だけは観光客の姿もある。  それだから、今年で十二歳になる果樹園の娘ポレット・トーは、屋台を順繰りに眺めている見慣れぬ二人組を見ても、何の警戒心も抱かなかった。ひときわ艶の良い林檎を選び取って、声を掛ける。 「こんにちは、お姉さんたち。モワソンへ、ようこそ! わたしのお父さんが育てた林檎はいかが? 甘酸っぱくてとってもおいしいの」 「あら」 「可愛い売り子さんね」  幼い客引きに、二人の女性は愛想よく微笑んだ。  向き合って初めてはっきりと見て取れたその顔がそっくり同じなので、ポレットは心の中で密かにびっくりした。  癖のない、長く伸ばされたプラチナブロンド。一人はゆるく三つ編みにしてリボンを結び、もう一人は顔のサイドに雫型の赤い石が揺れる髪飾りをつけてあとは背中に流している。長い睫毛に縁どられた双眸は切れ長で、プラムみたいな淡紫色の瞳。よく見れば着ている服もそっくり同じ、お揃いだった。黒葡萄色のマーメイドドレスはところどころに銀の糸で刺繍が施されて、きらきらと輝いている。つんと尖った耳からすると、エレメンツなのだろう。 (きれいな人たち……夜の女王さまみたい)  こんな農村ではお伽噺の中でしか見ることのない煌めいた雰囲気に、ポレットは思わず見惚れて顔を赤くした。 「美味しそうね」 「ええ、とっても。あなたの好きな梨もあるかしら」  女性たちは林檎を受け取って、楽しそうに笑う。子供であるポレットが相手では無視されてしまうことも多いが、これなら買ってもらえそうだ。 「あ、あのっ、梨もあります。今年は、すごく甘い実がなって……」  ポレットが言うと、双子は揃って目を輝かせた。 「素敵!」 「収穫しなくちゃ!」 「え?」  ポレットが訝しく首を傾げた矢先――どごんっ、と凄まじい衝撃音がした。動揺した男女の怒声と悲鳴が交錯する。不意に足元が不確かになった。 「な、何が起きたの?!」 「隕石でも降ってきやがったのか」 「お、おい、地震だッ」 「違う……うそだろ、地面が……浮いて……!」  呆然とするポレットの目の前で、双子は少女のような仕種で口元に手を当て、くすくすと笑っている。 「さあ、収穫しましょう」 「お仕事の時間よ、可愛いゴーストたち!」  その声を契機に、地面が唸った。  石畳がひび割れ、裂け目から暗紫色の靄が毒ガスのように噴出して渦巻く。靄は錯綜する人々の間をびゅんびゅんと飛び回ると、あっという間に広場にいた村人たちを幾つかの塊に拘束してしまった。  靄には触れないのに、逃げられない。怖気がぶるぶると背筋を震わせる。  おぉぉぉおおおぉおぉぉ……。  瞬く間に、広場はゴーストの慟哭に包まれていた。剥がれた大地がさながら巨人のお盆の如く、料理や果物の屋台を乗せたまま空中に浮かび上がっている。 「ま、魔女だ……!」  叫んだ声は、この村の教会を管理する司祭のものだ。  魔女――本来、竜やピクシーといった存在のみが扱えるはずの魔法を使う突然変異の種。かつては魔法使いと呼ばれ敬われていたが、アレイスター・エリファスが考案した魔術の普及と入れ替わるようにしてその存在は次第に貶められ、最終的には魔女狩りなる大迫害にまで至った。非難、困窮、飢え。追い詰められた魔法使いたちは、当初は大半が謂れなき風評であった悪い噂を裏づけるように行状を悪化させ、弾劾に拍車をかける。  一度はじまった負の連鎖は、そうそう止まらない。  そうしてある時、ひとつの村が魔法使いによって滅ぼされ、住人たちはただ殺されたのではなく魔法使いによって『食べられた』のだということが判明する――その瞬間に、人々の畏敬を集めていた魔法使い像は完全に消滅し、人を喰らう邪悪なる魔女像が確立したのだった。  まじょ、と繰り返したポレットの目の前で、どこからともなく降ってきたオレンジ色のもの――南瓜が司祭の脳天に直撃した。司祭の頭部ががくりと落ち、こめかみを赤いものが伝う。 「そう呼ばれるのは好きじゃあないの。ごめんなさいね」 「わたしはジゼル」 「あたしはクロエ」 「ちゃんと名前があるのよ」  双子の魔女は同じ声で交互に喋る。 「わ、わたしたち、食べられちゃうの……?」  悪い子は魔女に食べられちゃうわよ――この村では誰しもが皆、一度は言われたことのある言葉だ。  ゴーストに拘束され顔を真っ青にしたポレットの呟きを、意外にも双子は否定した。ポレットの父が育てた林檎にキスをする。 「うん、良い香り……安心して、お嬢ちゃん。わたしたち、人間なんて食べたことないわ」 「あたしたち、美味しいものや綺麗なものが好きなの」 「他のみんなは、どうして人間を食べようなんて思ったのかしら」 「人間なんて食べなくたって、食べ物はこんなに沢山あるじゃない」 「それを奪えばいいのよ!」  最後はふたつの声がぴったり重なった。 「わたしたちだって、魔法が使えると言うだけで沢山奪われてきたんだもの」 「だから、今度はあたしたちが奪う番」 「これでおあいこね!」 「おあいこよ!」  そこらじゅうを埋め尽くす禍々しい悪霊とは裏腹に、双子はどこまでも無邪気で、それがかえって恐ろしい。  しらずしらず、ポレットは懇願していた。 「ころさないで、おねがい」  楽しいお祭りのはずだった。みんなで美味しいものを食べて、歌って、踊って、そして一日が終わってしまうのを惜しみながらベッドで暖かな眠りにつくはずだった。そんな幸福な日々はもう永遠に戻ってこないのかもしれない。悲しみがひたひたと押し寄せてくる。  泣きはじめたポレットの頭を、ジゼルは尖った爪の先でさらりと撫でた。 「泣くことは無いのよ、可愛いりんご娘ちゃん」 「あたしたち、壊すのは得意でも作るのは苦手なのよね」 「だから、素敵なものを作ってくれるあなたたちが必要だし、あなたたちのことが大好きよ!」 「今ここにあるものは全部あたしたちが貰っていくけど、またがんばって作ってね」  離れたところから、何か大きなものが倒れたり壊れたりする音が聞こえてくる。広場から四方八方に飛んで行った悪霊が、他の村人たちをも拘束しようと襲っているらしい。教団に救援を、と誰かの叫ぶ声が聞こえ、そして途切れた。 「教団は怨讐派の相手で忙しいと思うけど……」 「もし来られたら、ちょっぴり厄介ね」  急いで収穫しましょう、と魔女は頷き合う。 「ジゼル、あたし、ドレスを見繕ってくるわ」 「クロエ、わたしの分もお願いね。新しい髪飾りが欲しいの」  魔女の一人が、悪霊の波に乗ってふわりと宙を移動する。それを見送ってポレットたちの前に残った魔女ジゼルは、真っ赤な林檎をひとくち齧った。 「ふふ……可愛い小さなお嬢ちゃん、あなたのお父さまが作った林檎、とってもおいしいわ!」
【魔女】秋のファッションショー
普通|すべて

帰還 2018-11-11

参加人数 3/8人 留菜マナ GM
 ここは、教皇国家アークソサエティの西部に位置する、巨大都市エトワール。  エトワールの中心街にあるリュミエールストリートから少し外れた場所にある公園では、一つのイベントが開催されようとしていた。  多くの人々で賑わうその場所のあちらこちらに、一際目を引く『秋のファッションショー』のチラシが踊っている。  しかし、大手ファッションショップ「パリの風」の近くにある貸衣装店では、想像を絶する噂が語られていた。  『ファッションショー』に出演依頼を頼んでいたモデル達の中に、魔女がいるという噂が流れたからだ。  魔女はエレメンツと変わらない容姿を持ち、人では使うことができない魔法を行使し、また、人を喰らう存在として人々から恐れられている。  だが、モデル達はエレメンツが多く、魔女であるのかは判別することが難しかった。  秋の結婚式をテーマしたファッションショーの開催の一報は、結婚式に憧れている、これから結婚式を迎える貴族や市民達から大いに歓迎された。  また、ファッションモデルが、観客に向けて投げる秋の花のブーケを目当てに訪れる来訪者達も多く見受けられる。  既に、エトワール以外の各方面にも宣伝しており、予約チケットは完売していた。 「これだけ盛り上がっているのに、中止にするわけには……」  悲壮感を漂わせてつぶやくのは、イベントの運営責任者だ。 「教団に、ファッションモデルについて相談してみませんか?」  進退極まった店内で、イベントの進行スタッフが運営責任者に提案したのは、なりふり構わない直接的な手段だった。 「浄化師にお願いするのか?」 「はい。浄化師が出演していると聞けば、魔女も迂闊に行動を起こさないはずです」  運営責任者の疑問に対して、スタッフが冷静に分析する。 「来てもらえるといいのだが……」  運営責任者は最近、人々から語られていた浄化師達の活躍と人気を思い返しながら深刻そうにつぶやいた。  ――以下は、ファッションショーに出演する女性モデル達の間でひそかに交わされた会話である。 「魔女、本当にいるのかしら?」 「さあ、ただの噂じゃない?」 「でも、これってお客様からの情報でしょう?」 「私、プリムが怪しいと思う」  女性モデル達は興味津々で、モデルの中でも目立つ女子の名前が次々と挙がる。  女性モデル達が騒いでいる中、最初に発言した女性モデル――ローズは人差し指を立てると、きょとんとした表情で首を傾げてみせた。 「あの、そう言えば、どうしてそのお客様は、私達の中に魔女がいるって思ったのかしら?」 「――っ」  その言葉を聞いて、嫌な予感が女性モデル達の胸をよぎった。 『ファッションショーに出演するモデルの中に、魔女がいる』  その情報は、やっぱりおかしいのではないかーーと。  もしかしたら、そのお客様が魔女なのかもしれない。  ファッションショーのチラシを見つめながら、女性モデル達は漠然と消しようもない不安を感じていたのだった。
【魔女】街は橙(だいだい)、夜は黑
とても簡単|すべて

帰還 2018-11-11

参加人数 8/8人 桂木京介 GM
 オレンジと黒、ふたつの色に街が埋まる夜がある。  ハロウィンだ。  日没とともに喧噪がみるみる失せて、ひやりと冷たい秋風が吹く、そんなこの時期だというのに、今夜だけはそんな寒さ静けさとは無縁といえよう。  カボチャランタンのオレンジ色、コウモリと夜の黒、ふたつの色が街を惑わせる。  そんな幻惑のこの夜を、あえて惑うもいいものだ。おっかなびっくりあるいは堂々と、物見遊山しようじゃないか。  舞台はエトワールの中心、憧れのリュミエールストリート!  通行人は思い思いの仮装に身を包む。あなたとパートナーも今日は特別、一夜限りの変身を楽しんでみるのはどうだろう。  ハロウィンは無礼講、ボヌスワレ・ストリートで朝が白むまで、飲み明かし踊り明かすのだって自由だ。  裏通りスターダスト・ルージュに、アダルトな出逢いを求めてもいいだろう。きっと今夜ばかりは、恋の神もずいぶんとガードが緩くなっているにちがいない。  大衆食堂『ボ・ナ・ベティ』だって、今夜ばかりはハロウィン仕様、パンプキンパイをつつくも良し。  猫カフェ『ミネ・アンジェ』? なんとここですらハロウィンなのだ。ニャンたちの仮装が見られるかもしれない。  エクソシストだからってためらうことはない。幻惑の夜の参加には、資格も制限もないのだから。  さあ、楽しもう!
【魔女】お味はいかが?
とても簡単|すべて

帰還 2018-11-09

参加人数 4/8人 あいきとうか GM
 台車にカボチャプリンをつめた小瓶を並べ、調理室から搬出しようとしていた教団寮食堂の料理人見習いは、後ろから声をかけられて振り返った。 「はぁい。それ、なに?」 「カボチャプリン。やっと納得できるものができたからな、浄化師たちに配ろうと思って。ハロウィンっぽいだろ?」  制服ではなく、ローブに身を包む彼女は果たして誰だったか。  しばらく考え、料理人見習いは思い出す。世俗派の魔女のひとりだ。よく食堂で本を読んだり、くつろいでいたりする。  確か、エイバと呼ばれていた。 「ハロウィンねぇ。これ、普通のカボチャプリン?」 「いや、厳選したカボチャ農家から仕入れた……」 「要は普通のカボチャプリンね」 「……まぁ」  手間暇かけて作った料理なのだが、言ってみればそれだけの、驚嘆するような細工もないシンプルなカボチャプリンだ。不承不承ながら青年は頷く。 「匙。ちょうだい」 「食うのか? うまいぞ?」 「私じゃなくて。ポモナ、サウィン!」  ちょうど食堂に入っていこうとした二人の少年を、エイバが呼びとめた。  つんのめるように立ちどまった二人がそれぞれ返事をしながら、小走りで駆けてくる。 「こんにちは、エイバさん。料理人さん」 「よっ」 「二人とも、このプリンを食べてみなさい。ただし、天井を見ながらね」 「は?」 「え?」 「天井?」 「いいから食べる。天井を見ながら」  蓋をとったカボチャプリン入りの小瓶と、菓子と一緒に配るために用意してあった小さな木匙を少年たちに渡し、魔女は促す。  青年と少年たちは首を傾けた。  やがて、ポモナとサウィンはおずおずとカボチャプリンを口に入れて、 「まずい!」  声をそろえる。  料理人見習いが凍りついた。 「なんか……あじがしない……」 「口のなか、すっごいきもちわるい!」 「そんなはず!」 「黙って。落ち着いて。じゃあ今度は、互いの顔を見ながら食べなさい」  少年たちは思い切り嫌そうな顔をしたが、エイバの無言の圧力に屈し、渋々と二口目を食べた。  今度は、互いをしっかりと見て。  ぱくり、と。  ぱぁっと音が聞こえてきそうなほど、ポモナとサウィンの表情が輝く。 「おいしい!」 「でしょう?」 「あまい! カボチャのあじだ!」 「おいしい~!」  大はしゃぎする子どもたちを横目に、若き料理人見習いは眉を寄せた。 「……どういうことだ?」 「魔法をかけたの」  なんでもないことのように魔女は言う。いつの間に、と料理人見習いは頬を引きつらせた。 「別に悪い魔法じゃないわ。相手の顔を見ながら食べたら、自分が相手のことをどれくらい好きか分かるってだけよ」 「……んん?」 「つまりね」  天井を指さして、魔女は得意げに説明する。 「ポモナとサウィンは天井に対して愛情なんて抱いてないでしょう。だから味がしなかったの。でも、互いのことは大好きでしょう? だから、相手の顔を見ながら食べたら、とっても甘くておいしかったの」  エイバの白くて細い手が、カボチャプリンと木匙をとった。  蓋をとり、ぽかんとしている料理人見習いの顔を見ながら、食べる。 「少しだけど、甘いわ。私、あなたのこと嫌いじゃないみたい」
【魔女】見習いくんのささやかな悪戯
とても簡単|すべて

帰還 2018-11-09

参加人数 4/8人 あいきとうか GM
 朝食時を過ぎたころ。  薔薇十字教団本部は、ちょっとした騒ぎに包まれていた。 「……それで、どういうことです?」  司令部棟の会議室の一室。  ライカンスロープの司令部教団員は、困り切った顔で椅子に座る少年を見下ろしている。  ずいぶん長くうつむいていた彼は、やがて腹をくくったように顔を上げた。大きな目には涙がたまり、唇は震えていたが、それでもしっかりと説明する。 「ポモナがよなかに、おりょうりつくるところに、はいって、カボチャに魔法をかけました」 「はい」  ポモナというのは魔女見習いの少年の名前だ。説明をしている彼もまた、魔女見習いである。  二人の差異といえば、片や元は怨讐派だったがわけあって逃走、教団に保護を求めたこと。片や世俗派の魔女の血を引く者として、教団に保護されていたこと、だろう。 「その……魔法は、犬の耳としっぽをつける、というもので」 「どうしてそんな魔法を……。というか、犬じゃなくて狼なんですけど……」 「じょーかしのみなさんは、ハロウィンなのにあそびもしないで、はたらいてるからって……」  身を縮める少年が、ちらりと視線を逃す。  病棟の方を見たのだと、司令部教団員は気づいた。まだうまく魔法を扱えないポモナは、カボチャに悪戯をして、その反動で熱を出して朝から寝こんでいる。 「まぁ、確かに。街はお祭りムードですが、浄化師の皆様は忙しくされておられますね」  怨讐派の魔女が悪事を働こうとしているからなのだが、それを少年に告げるのは酷だろう。  自分たちが浄化師の仕事を増やしている、と罪悪感でますます落ちこみかねないし、たったひとりで友の罪の告白をしにきた少年は、もうそのことに気づいているかもしれない。 「いぬになったら……やすめるんじゃないかって……」 「私は猫になっているのですが?」  ふらりと司令部教団員の細長い尾が揺れる。  黒狐のライカンスロープであるはずの彼女は、三角の猫耳と長い猫の尾を獲得し、代わりに寝起きの際にはあった耳と尾を失っていた。 「あ、おおかみやキツネは、ねこになるらしいです」 「うーん……」 「ポモナ、ほかの魔法はぜんぜんつかえないのに、すがたを変えさせる魔法だけはとくいで……」 「そうですか……」 「たぶん、ゆうがたにはもどるんですけど……」 「夕方……」  頭を抱えた彼女は、でも、と疑問に眉を寄せた。 「どうして魔法にかかった方と、かかっていない方がいるのでしょう?」 「その件についてだが」  扉が開く。妙に楽な格好をした男の姿を視認し、司令部教団員はとっさに少年を背にかばった。 「あーはいはい警戒しないで。俺です。教団寮の料理人見習いさんです」 「……あ」 「思い出したか? あの服着てないと分からんよな。ごめんな。あれで動き回ると怒られるんだわ。あと、もうひとつ謝らせて」  きょとんとする二人に、彼は勢いよく頭を下げた。 「この事件、俺にも責任があります。ごめんなさい」 「どういうことです?」 「あんた、朝食のデザートのカボチャプリン、食べたか?」 「え? ええ、甘くておいしかったですよ。カボチャの味もしっかりしてて」 「そうか。あれ、俺が作ったんだよ。ところでプリンが入ってた容器に蓋がついてただろ? 何色だった?」 「……赤、だったような」 「あたり。もしくははずれ」  視線で詳細を求める彼女に、料理人見習いは後悔いっぱいのため息を吐き出した。 「実は今、カボチャプリンの試作してて。今朝出したのは試作品。で、実は三種類あった。カボチャを三軒の農家から仕入れてたんだ。どのカボチャが一番、プリンにあうか知りたくて」 「はぁ」 「そのうち二軒は昨日の昼間にカボチャを届けてくれたんだけど、一軒だけ、馬の調子が悪かったとかで、教団に届いたのは夜中だった」  見習いであるからこそ、料理人の朝は早い。  夜中まで待たされた彼は、涼しくなってきたし一晩くらいなら大丈夫だろう、とカボチャを調理室の隅に放置して退室した。  その直後、ポモナが侵入。目についたカボチャの山に魔法をかけ、部屋に戻って発熱。  早朝になり、料理人見習いはそれに気づかないまま、カボチャプリンを作った。 「最初に届いたカボチャで作ったプリンには青。次は緑。夜中に届いた分には赤の蓋をつけて、どれが一番おいしそうに食べられてるか、こっそり見るつもりだったんだ」  ところが。  赤い蓋がついた――変身の魔法がかかったカボチャで作られたプリンを食べた人々が、三十分ほどで姿を変えてしまった。 「俺がカボチャをきちんと仕舞うか、しっかり戸締りしてたらこんなことには」 「ちがいます! ぼくがもっとポモナを気にしてたら……!」 「……言い争っても仕方ありません。事情は分かりました。サウィンさんはポモナさんについていてあげてください。料理人さんは持ち場へ。私は、このことを上に報告してきます。被害にあわれた皆様には、念のため、教団内で待機していただきましょう」  苦笑した司令部教団員は、まぁ夕方に戻るらしいし、ちょっと黒猫になっただけだし、たまにはいいかと、事態を受け入れることにした。
【魔女】スナック『マリアの夜』 酒の魔女
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帰還 2018-11-09

参加人数 4/8人 北野東眞 GM
 指令を終えた夕暮れ。  ようやくレポートを出して帰れる、と思ったその矢先に、ぐいっと襟首をつかまれた。 「では、ゆくぞ、可愛い子らよ」  ユギルさん!  なんですか、いきなり! も、問答無用だ。これ! 「なに、新しい指令じゃ。働け社畜」  な、なんだと!  連れてこられたのはリュミエールの通りの端っこにちょこんと位置するスナック【マリアの夜】。季節感のためか、かわいらしいかぼちゃがついている。  ドアを開ければ、そこはお面と仮装をつけた人、人、人……! 「今月まで仮装と仮面つきのお祭りでのう。客は多ければ多いといいそうじゃ。吾も仮装をして楽しむつもりじゃ」  なんと。  すると奥からむきむきの二の腕がいつも素敵なマリアママが――真っ赤なドレスに尖がり帽子のお姿で、あ。エプロンしてる。 「やだぁん、きてくれたのね。ありがとう。今月はお店でお祭りなのよん。新作のかぼちゃ関係の食べ物もあるから試食よろしくね。あ、そうそう、はい」  渡されたのはお面とカード? 「お客様はみんなお面をつけて正体を隠して遊ぶっていうのがお祭りのテーマなの。仮装衣装もあるわよぉ。かっこいいのから色気むんむんまで。素性を隠していろんな人と遊びなさい。あ、そのカードはね、最後にダンスするのよ。そのカードの相手とよ~」 「ほれ、魔女のことであれこれとある。これはその一環。指令は指令、金も出る。仕方成し、仕方なし」  そうか、魔女対応としては仕方ない。このパーティを全力で楽しむしかないのか! 「そうよぉ。そのためにママ、がんばってお料理してイベントを用意したのよぉん。ほらぁ、楽しみなさい? そうしたらおブスの魔女を牽制できるんでしょ? がんばりなさい~」  ママがわざわざ用意してくれたんだし! 「さて、酒じゃ、酒。ママ、とりあえず、ニホン酒の【大魔王】と狐の衣装を頼む。む。狐では芸がない? むむ。では……少し遊ぶか。なにに化けるか? 内緒に決まっておろう?」  さて、夜もお祭りもはじまったばかりだ。  どうしよう。
真夜中の配達人
簡単|すべて

帰還 2018-11-06

参加人数 4/8人 海無鈴河 GM
 とある民家。  その窓辺に置かれたベッドの上に、少女が座っていた。  彼女の名前はエリサ。病気がちで、あまり外に出られない少女だった。  エリサは窓越しに、星の煌めく夜空を見つめ、ため息をついた。 「今日も……あの人は頑張っているのかしら」  彼女には恋人がいる。今年になってとある新聞社に勤め始めた、新米の記者だった。  新聞社に入る前は、具合の悪いエリサを心配して毎日のように顔を出してくれていた。  しかし、今は毎晩遅くまで仕事に追われているという。  エリサの元に姿を見せるのも、週に一度あるか無いかという具合だった。  エリサは枕元に置いてあった新聞を手に取る。  今日の新聞にも、彼の書いた記事がしっかりと載っていた。 「ずっとやりたい仕事だ、って言ってたものね」  エリサにとっては、彼の夢がかなった事や彼の記事が人の目に触れることが自分の事のように誇らしく思えていた。  それでも。 「……少し、寂しいわ。それに」  寂しさもそうだが、こうも連日連夜働き続けていては、彼の体調も心配だった。  具合が悪くなっていないか、ちゃんとご飯は食べているのか。そんなことを考え、エリサは不安に駆られた。  そこで、エリサは思いついた。あの人にプレゼントを作ろうと。  エリサは何か良い物が無いか、と考え『星のランプ』と呼ばれるお守りを作ることを考えた。  贈りたい人のことを思いながら、一針一針縫った小袋に、何種類かの花やハーブを詰めたお守りで、彼女が母から教わった物だった。  夜になると中に入れた花が発光することから、『星のランプ』と名前をつけた。 「意味は……『貴方の健康を祈っています』。これなら意味もぴったりだし、私にも作れるわ。……でも」  彼女には懸念点があった。  ひとつは、材料が集められないこと。  『星のランプ』を作るには、『彼の好みそうな色合い』の布と、『スターフラワー』という花が必要だった。  しかし、彼女の体ではそれらを全て集めることは難しかった。  もうひとつは、彼に届けることができないこと。  忙しい彼は、今度いつ自分の元を訪れるのか分からない。  しかし、彼の職場である新聞社に行くことも、彼女には困難だった。  困った彼女は、教団に依頼を出し、プレゼント作りを手伝ってもらうことにしたのだった。
ワスレモノの湖
とても簡単|すべて

帰還 2018-11-05

参加人数 8/8人 北野東眞 GM
「今回の依頼はアークソサエティに住むエレメンツが比較的多く住んでいる森の集落に行ってのまぁ現地調査といったところだ」  指令発行を行うロリクは顎を撫でながら説明を続けた。  人間、他種族と関わることを好むエレメンツやピクシーが住むその集落には、多くの魔術に関わる者が訪れる。  そのためだろうか。いつからか不思議な現象が起こるようになったのだという。 「ここにワスレモノの湖というところがある。お前たち、会いたいのに、もう会えない相手っていうのはいるか? 浄化師だものな、いるだろう。一人や二人」  会いたい相手は死者でもいい、まだ生きている相手でもいい、もう顔から忘れてしまった相手でもいい。  ただ一つの条件は「会いたいけれど、もう会うことが叶わぬ相手」。  多くのエレメンツやピクシー、さらには魔術師や浄化師たちが訪れ続けた結果、魔力を宿らせた湖は年に一度、  月の美しく、大きく見える夜の間だけ、自分の会いたい人に会うことが出来るとされている。  それゆえ訪れる者はこの湖をこう呼ぶ――ワスレモノの湖。 「長い年月をかけて魔力をためた湖が見える幻ともいえるんだが」  心の底から望んだ相手――たとえもう顔すら忘れていても、湖は訪れた者の記憶や想いを読み取って、完璧に相手を再現してくれる。  たった一晩だけ。  君たちの切実な気持ちに応えて現れる、たった一人、忘れることのできない、会いたい相手。 「ただし、その現れた相手は言葉を口にしたりすることはないし、動くこともない。ただ会うことが出来るだけだ。  ああ、それに魔力の作用なのかカメラや絵で記録として残すことも出来ないそうだ……その土地に住むエレメンツが言うには、これは湖の慈悲なんだという。  生者は変わっていくが、どうしても心残りや吐き出したい気持ちを抱えているならば、せめて一晩、それを吐き出すチャンスを作るっていう。  今回はその湖でお前たちは会いたい相手に会う、そしてどう過ごすのも自由だ。まぁ体験レポートだな」  ふふっとロリクは笑ったあと。 「まぁ……こういう指令だ。いろいろと思うところはあるだし、どうしても、報告したくないことは報告しなくてもいいぜ」
【魔女】お菓子をくれなきゃ
簡単|すべて

帰還 2018-11-05

参加人数 4/8人 十六夜あやめ GM
 薄花色の秋空の下。『教皇国家アークソサエティ』全域は、ハロウィンムードに彩られていた。『エトワール』の中心街にあるメインストリート、リュミエールストリートでは街路樹が赤や黄色に衣替えし、街の至る所にかぼちゃの中身を切り抜いた顔の置物やコウモリを模った紙や金属の看板を掲げていた。露店ではハロウィン仕様のカボチャ料理やスイーツがたくさん売り出されている。オバケや十字架の貴金属も売られていたり、頬や腕や足などに様々な要望に応えて絵を描く変わったお店もあった。それが意外と人気らしく、若者を中心に長い行列になっている。  外を歩く人の服装は夏に比べて落ち着いた色が増えた一方、仮装をして楽しんでいる姿もあちこちに見受けられた。年齢層は幅広く、皆がこのハロウィンというイベントを楽しんでいた。エクソシスト達も異常がないか巡回しつつ、ハロウィンムードを楽しんでいた。  陽が落ち、空が夜色に染まっていく。街中にロウソクやランタンの灯りが燈り、ハロウィンムードはさらに盛り上げを増していた。そんな人々が集まる中心街に突如現れた一人の幼女。体にそぐわない大きめの黒衣を纏い引きずり、右手に仄暗いランタンを灯し持ち、逆の手には何も入っていないバスケットを持っている。サイズの合わない帽子を深々と被って歩く姿はとても可愛らしく『魔女』のようだった。だが、あまりにも幼い容姿に誰も本物の魔女だとは思ってもいなかった。 「トリック・オア・トリート!」  幼女に話し掛けられた一人の女性。女性は「なあに?」としゃがみ込んで幼女と目線を合わせる。 「お菓子をくれなきゃイタズラするよ!」  きらきらと輝くまん丸い瞳にふわふわと靡く繊細な長い銀髪。袖から手が出ないのか、黒衣と一緒にバスケットを差し出している。全てが可愛らしい幼女に女性はポケットから飴玉を取り出した。 「んーあなたの様な可愛らしい女の子にイタズラされるのも楽しそうだけれど、やっぱりイタズラは勘弁してね」  バスケットに飴玉を入れた。すると幼女は嬉しそうに笑顔で頭を下げた。その時、被っていた帽子が落ちてしまった。咄嗟に幼女は帽子を拾い上げて走り去っていく。 「……いまの尖った耳、もしかして本物の魔女!?」  女性は怖くなり、急いで巡回中のエクソシストに先程あった話を説明した。  エクソシスト達に緊急の招集が掛かり指令が発令された。  指令内容は、容姿は幼くまだ危険対象にならない可能性が高いが、念のために見つけ出して混乱を避けたい狙いがある。見つけ次第、一時的に教団で保護し『世俗派』か『怨讐派』を聞き出す。手荒な行動は控えつつ、交戦状態になった場合のみ捕縛を許可する。というものだ。  盛り上がりを見せるハロウィンイベント。混乱を避けるためにもエクソシストの方々お願いします!
【魔女】かぼちゃづくし!
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帰還 2018-11-04

参加人数 3/8人 茉莉 GM
「えーと、何だったけ、トリックオアトリート、って言うんだったかな」  扉の向こうで、浄化師達を出迎えたのは、南瓜人間でした。 「今月より司令部配属となったトウヤだ、よろしくお願いするよ」  突然の南瓜人間の出現に、怪訝な表情を浮かべる浄化師達。  そんな浄化師達の鈍い反応に、トウヤと名乗った青年は渋々といった様子で頭に被った南瓜を外した。 「貴様、まさかその被り物気に入っておったのか……」  トウヤの後ろで顔を引きつらせるデモンの男に「可愛いだろう?」と、トウヤは笑顔を返す。 「ハロウィンといえば南瓜だそうだね、何でも南瓜をくり抜いて祭事用の灯篭を作るそうじゃないか」  トウヤの目は輝いている。  よく見ればトウヤの抱えている本には「わくわくはじめてのハロウィンパーティ」なる題名が見えたような気がする。 「こやつ、つい先日ハロウィンなるものの存在を知ったらしくてな」  エンジュ、と短く名乗った鬼人はどこか疲れた表情を浮かべた。 「そやつが浮かれ気分のまま、その場の勢いだけでハロウィンの用意した結果があの様よ」  エンジュが顎で指した先を見ると、そこには南瓜があった。  そしてその南瓜の横には南瓜。  上には更に南瓜が積まれており、すぐ隣の机の上には大小様々な南瓜が所狭しと並べられ── 「これ、目を逸らすでない」  司令部の一角を占拠している南瓜達の姿に、浄化師達は思わず踵を返そうとする。 「いやー、気合い入れすぎちゃって」  参ったねと、然程困った様子もなく笑みを浮かべるトウヤに、エンジュは深い溜息をつきながらこめかみを押さえる。  何となくエンジュの日頃の苦労が垣間見えたような気がして、浄化師達はほんのちょっとだけ同情した。 「ハロウィンに南瓜は欠かせん、それは分かる。しかしいくら何でもこの量はまずい」  エンジュの言葉に浄化師達は頷く。  現に司令部の皆さんも、司令部の一角を占拠する南瓜達に行く手を阻まれ些か居心地が悪そうにしている。 「……という訳でだ、この南瓜をお前達の手でらんたんとやらに加工するなり、調理するなりして減らして貰いたい」  浄化師達は互いに顔を見合わせる。  そして南瓜の山に視線を向ける。  この南瓜達、結構な数ありますけど本当に減らせるんですかね?  南瓜の山を前に、浄化師達の顔には不安が浮かぶ。  これでも頑張って減らした方だとエンジュは言うのだから驚きだ。 「作業場として食堂の一部の使用許可は取っておいた、加工や調理したものは我々が責任を持って近隣の祭り会場に届けよう」 「まあせっかく用意したんだ、好きなだけくり抜いて行ってくれ」  トウヤは再び南瓜を頭に被り、微笑んだ。  南瓜で全く顔は見えないが、微笑んだ。
【魔女】幻惑に咲く魔女
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帰還 2018-11-01

参加人数 7/8人 留菜マナ GM
 流れ出る血は止まらない。  その日、魔女リアンは、魔女メイカをかばって死んだ。  雨に打たれ、灰色に濡れた体はついに動くことを諦める。  それは、世界の端っこで起きた小さな悲劇。  だけど、リアンの友人であるメイカにとっては何よりも堪えがたい事実だった。  大切な人を失ったメイカは、苦しそうに顔を歪める。  浄化師達による捕縛から辛くも逃げ出した後、息も絶え絶えのメイカは地べたに這いつくばった。 「リアン! リアン!」  メイカはリアンの頬に手を触れると、もう二度と目覚めることのない彼女の意識に何度も呼びかけた。  魔女はエレメンツと変わらない容姿を持ち、人では使うことができない魔法を行使し、また、人を喰らう存在として人々から恐れられている。  魔女リアンは数多くの人々を喰らい、あまたの村を焼き払った。  そのため、浄化師に捕縛の指令が下されたのだった。 「絶対に、リアンを死なせたことを後悔させるんだから!」  メイカは復讐を誓った。  しかし、リアンとは違い、メイカが使える魔法はただ一つだ。  そして、それは呪いにも等しい魔法だった。 「絶対に許さないんだから!!」  悲鳴にも近い慟哭を上げた後、メイカはそのまま力尽きて地面に崩れ落ちる。  メイカによって放たれた魔法は、彼女が死んでもなお、教団で発現した。 「おい、そろそろ部屋から出てこいよ。寮母さんが困っていたぞ」  その日、いつまで経っても部屋から出てこないパートナーに業を煮やして、あなたは寮母の許可を得て、パートナーの部屋へと赴いていた。  残酷なほどに穏やかな空気が流れる部屋には、あなたとパートナーしかいない。  ベッドに横たわるパートナーは、体調が悪いのか酷い顔色だった。  パートナーの様子を見て、あなたは不安そうにつぶやいた。 「具合、悪そうだな。今日は休んだ方がいいんじゃないのか」 「なんで」  泣き出しそうに歪んだパートナーの顔には、はっきりと非難の色が浮かんでいた。 「なんで私、浄化師になったんだろう?」 「突然、どうしたんだよ?」  悲しみのこもった涙が頬に流れる中、パートナーは躊躇うようにこう続ける。 「私、魔女を――リアンを死なせた浄化師なんて嫌い! 出て行って!」 「おい、なに言って……?」 「出て行ってよ!!」  まるで追い詰められた獣のような剣幕だった。  あまりに強く激しいパートナーの拒絶に面食らい、あなたは心底困惑した。  パートナーの身に、何か異変が起きている。  それだけをかろうじて察したあなたは、身体を震わせるパートナーに手を伸ばす。 「本当にどうしたんだよ……」  あなたの疑問に、パートナーは答えない。  ただ、怯えたように、パートナーの表情は硬く強張るだけだ。  あなたが仕方なく、パートナーの部屋から出ると、他の部屋でも同じような現象が起こっていた。 「確か、魔女リアンって、司令部で捕縛の指令が出されていた魔女の一人だよな……」  別の浄化師達が指令を受けて、魔女二人の拘束に赴いた。  しかし、その際の戦闘で、魔女は二人とも死亡したという報告を聞いている。 「魔女リアンについて調べてみるか」  そのとらえどころのない意味深な言葉が、取り乱したパートナーの行動とともに、妙にあなたの頭に残ったのだった。
【魔女】ハロウィンに街で合コン
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帰還 2018-11-01

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 ハロウィン。  それは仮装とお菓子の祭典だ。  正式ないわれはあるのだが、今ではお祭り騒ぎのひとつとして、様々な催し物が開催されていたりする。  いまリュミエールストリートで行われている物もそのひとつ。  それがリュミエールストリートを使っての合コンだ。  リュミエールストリートに仮装姿で赴いて、同じく仮装姿の相手に声を掛け。  相手がその気になれば、お喋りやちょっとしたお買いもの。  気が乗れば、食事にお酒。  その先は、お互い合意でひとつよろしく。  言ってみれば、気軽なナンパとデートの場を提供するということだ。  もっとも、あくまでも同意の上の話。  リュミエールストリートに店を構える商店としても、野暮でつまらぬ輩はお断りと、冒険者達を雇って周囲を警護して貰っている。  なので安全が保障される中で、ちょいと浮かれた気持ちで訪れる者も多い。    カフェテリア「アモール」では、カボチャのラテアートを楽しむカップルが。  大手ファッションショップ「パリの風」では、様々な仮装姿を楽しみ、時にねだられる光景も。  フリーマーケット「オルヴワル」では、お菓子の屋台や魔女やカボチャの人形など、ハロウィンにまつわる物が売られている。  飲み屋街「ボヌスワレ・ストリート」に目を向ければ、明るく楽しく飲んで騒ぐ者達も。  そんなリュミエールストリートで行われている、ハロウィンにかこつけた合コンに浄化師達は参加することに。  もちろん指令である。  理由は一つ。魔女のテロを防ぐための抑止力としてだ。  魔女の過激派である怨讐派が、ハロウィンに人食いをするべく動き出した。  それを防ぐために参加するよう指令を受けたのだ。  もっとも、警護が厳しいリュミエールストリートに魔女が来る可能性は低いので、盛り上げも兼ねて楽しんでくるようにとのお達しが。  そうしてアナタ達はリュミエールストリートでの合コンに参加している。  魔女が居ることに、気付けぬまま。 「貴女が生きて帰って来れて、本当に好かったわ」  魔女アルケーの言葉に、魔女セパルは返す。 「ありがとう」  2人が居るのは、臨時で設置されたオープンカフェ。  合コンで立ち話というのも味気ないので用意された物のひとつに、ウボーとセレナという名前の男女2人と共に居る。  合計4人。  穏やかにお茶をしながら、その場に居た。  燃えるような赤毛をしたアルケーは、友であるセパルに言った。 「それにしても、相変わらず無茶をするわ。教団に直談判しに行くなんて」  いま彼女が口にしたのは、セパルが教団に赴き、教団「室長」であるヨセフ・アークライトに会いに行ったことだ。  これにより、魔女の過激派である怨讐派のテロ行為が事前に伝わり、現在は浄化師による抑止が行われている。 「ごめんね、心配させちゃって。でも、必要な事だったから」  セパルの言葉に、変わらぬ穏やかな笑みを浮かべたままアルケーは返した。 「気を付けてね。貴女が殺されでもしたら、私は怒りで爆発しちゃう」  爆炎の魔女とも呼ばれるアルケーに、セパルは変わらぬ笑顔で返す。 「気を付けるよ。それにしてもアルケー、キミは他の怨讐派の子達と一緒には行動しないんだね」 「ええ。だって、子供を食べるって言うんですもの。ダメでしょ、そんなの」  どろりとした濁りを瞳に宿し、アルケーは続ける。 「子供を殺すだなんて。そんなの、アイツらと一緒だわ」  夫と子供を魔女狩りで殺されたアルケーは、断言するように言う。 「私たちは魔女だもの。魔女狩りをした人間なんかとは違うわ。だから、参加しないことにしたの」 「これからも?」  セパルの問い掛けに、アルケーは笑顔で返す。 「心配しないで。少なくともここで、私は何も出来ないわ。この距離なら、私が何かするよりも早く、首を刎ねるぐらいは出来るでしょう?」 「嫌だよ」  セパルは即座に返す。 「君を死なせたくないし、殺したくない。そんなことのために、教団に連れて行かれそうになったキミを助けた訳じゃないよ」  これにアルケーは、これまでとは違う、泣きそうな表情を一瞬だけ浮かべ返した。 「冗談よ。私も貴女に殺されたくないわ。それに、私の復讐は終わってるもの」  お腹に手を当てながら、アルケーは続けて言った。 「でも、復讐できずにいる子達や、心の整理がつかない子達は違うわ。殺そうとするでしょうね」 「だから止めたいんだ、アルケー。キミなら、他の怨讐派の子達の動きを知っているんじゃないかな?」  これにアルケーは、微笑みを浮かべながら応えた。 「居るわよ、ここに。若い子達を、ここに連れて来てるの」 「それは知ってる。だからこっちも、世俗派の若い子達を連れて来てるんだ」  多くの人々でごった返すリュミエールストリート。  ここに何人もの魔女が訪れていると、セパルとアルケーの2人は言っている。  だが、それは問題ではなかった。 「大丈夫よ。怨讐派に居ると言っても、あの子達は人間を傷付けられないわ」 「だろうね。でも、止めてくれる誰かがいなきゃ、どうなるか分からない」 「だから、世俗派の若い子達を連れて来たの?」 「そうだよ。それに――」  セパルは信じるような笑顔を浮かべ言った。 「浄化師の子達も、ここには来てるんだ」 「……浄化師が、助けてくれるというの?」 「違うよ。ここに魔女が来てることは伝えてないから。でも、間近で浄化師を見ることが出来るチャンスだよ」 「それで何かが変わるかしら?」 「分からない。でも、切っ掛けにはなるよ」  セパルは、リュミエールストリートを歩いている魔女達と、浄化師達に視線を向け言った。 「知らなきゃ、何も変わらないよ。魔女の中には、浄化師を殺し屋みたいに思ってる子もいるからね。身近で見れば、自分達と同じだって、思えるかもしれない」 「……そうね。そうなれるなら、良いわ」  静かにアルケーは返し、セパルと同じように若い魔女達と、そして浄化師達に視線を向けた。  そうした中、アナタ達はリュミエールストリートでの合コンに参加しています。  魔女が居ることも、魔女に見られていることも知りません。  ですがアナタ達が、アナタ達にとっての日常を過ごしている所を見ることで、若い魔女たちの意識が変わる切っ掛けになるかもしれません。  そのためにも、リュミエールストリートでのハロウィン合コンを楽しんでください!
くっついちゃったの!
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帰還 2018-10-30

参加人数 8/8人 北野東眞 GM
 これは、どういうことなんですか。ウィリさん! 「えーと」  ちゃんとした説明求めますよ?  「五徹キメて作業するのはよくないと思うザマスよ」  ごもっとも! あんたなぁ! これどうするんだ!  現在、浄化師たちの手と手はがっつりとくっついていた。  指が絡み合い、しっかりとつながっている状態。恋人繋ぎである。  ことの発端は、さまざまな道具を作ることを生業としている魔術鍛冶職人ウィリが「ちょっとめんどくさい液体作ったザマス、悪いザマスが、瓶にいれるの手伝うザマス」といったので、彼の作業室に訪れて仕方なく手伝った。手伝ったはいいのだが……。 「あっ」  ウィリがそう呟いた瞬間、思いっきりこけた。それを助けようとしたのが運のツキ。  ウィリの手にもっていた液体がかかったのだ。  そうして、現在に至る。 「怒らないでほしいザマス。一時間もしたら自然と外れるザマス」  え、まって。一時間はこのまま? 「そうザマス」  きりっとした顔で言い切られた。 「ちなみに、そのくっついちゃーうの液にはいろいろなものがはいっているザマス」  ネーミングセンスないなぁ。ウィリ。 「うるさいザマス! 聞くザマス。それには惚れ薬の成分もはいってるザマス! 惚れ薬の成分っていうのは、つまりは脳の誤作動を起こすもの。手を繋いでいるだけでどきどきしてしまう、相手を意識してしまうそういう成分ザマスっ」  お、おう。 「一時間も手を繋いでいたら、もうキスしたくなるほどに相手が愛しくなるザマスよ」  ……ちょっとぉおおお! 「えへザマス」  こ、こいつ、悪いと思ってない。絶対に悪いと思ってない! 「実際、キスしたくなるかとか思わず告白しちゃうのかは個人差があるザマス。  薬の効果が本当にきくのかもぶっちゃけ試作品なのでわからないザマス。全然作用しない可能性もあるザマスし、効果抜群の場合もあるザマス」  え、えー。 「まぁ、これ、最近嫁に構われないから強制的にくっつきたいとか泣きついてきた狐面の浄化師の依頼ザマスが」  なんだろう、誰が依頼者か、すげー想像ができる。え、薬の効果っていうのは。 「今回、薬をつくるのに使用したニムファの幻覚作用を持つ成分が惚れ薬的なアレとして使用できるかの実験も兼ねているザマス。  ようは、幻覚作用でくっついている相手がすごく素敵に見えるザマス。相手に一ミリ単位も関心がなければ、まぁかっこよく見えてどきどきするなぁ程度ザマスが、実は好意を無意識にも持っていたらもう世界はきらきらするし、一つ一つの動作にときめいて胸が苦しくなるザマス。だから恋愛要素なんてないと本人同士が思えばたいした効果はないザマス」  は、はぁ。 「一時間後にはなんでときめいていたのかと思う程度ザマス」  もし、好意を持っていたら? 「どきどきし続けるザマスね。無意識でも持っていたならもう大変かもしれないザマス、きっと」  ひぇ。 「なーんて、嘘ザマス。手が離れたあと、じわじわと薬の成分が抜けて落ち着くザマスよ。そんなわけでたいして害はないから安心するザマス。僕は眠いので寝るザマス。おやすみザマス」  え、えええ! 「一時間、どう過ごすかは好きにするザマス。あ、結果はレポートをまとめておくザマス。研究の足しにするざま……すやぁ」  言うだけ言って毛布にくるまって寝やがったよ、こいつ!
【魔女】甘いのとイタズラどっちがお好み?
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-30

参加人数 6/8人 せあら GM
 エントランスの前に二人の男女の姿があった。  一人は茶色の柔らかい髪を編み込みした小柄な少女で、もう一人は銀色の髪の真面目そうな青年だった。  少女の名はきらら。  青年の名はジオニード。  この二人は先日とある事件がきっかけで浄化師になったばかりの新人の浄化師だった。  きららはエントランスに貼られている依頼を凝視していた。  依頼の内容は首都エルドラドにある一つの大きなホテルでハロウィンパーティが行われると言うものだった。  このホテルはエルドラドの中でも有名なホテルらしく、毎年この時期になるとホテル内の会場でハロウィンパーティが開催されていた。  ホテルの経営者がいつも教団側にお世話になっているので日頃の感謝の意味も込めて、今年は浄化師達もハロウィンパーティに招待するとの事だった。  ハロウィンパーティには豪華なお菓子とご馳走が出るらしく、パーティに必要な衣装からメイク、髪のセットまでホテルのスタッフに申し出れば全て用意して貰えると記載されていた。  ハロウィンパーティは貸し切りでは無い為他の貴族の客達も来るようで、その子供達に向けたちょっとしたイベントが行われているようだった。  仮装した子供達から「トリックオアトリート」と言われたらお菓子を渡すと子供達は喜び、渡さないと顔にラクガキをされると言う悪戯をされてしまうのだ。  それはハロウィンパーティに参加する為には例え子供達に悪戯をされても怒ってはいけない事が参加条件として依頼内容に記載されていた。  きっと子供に向けたイベントだからなのだろう……。  悪戯をされて怒ってしまっては子供達が可哀想だし、何よりハロウィンパーティのイベントの一貫だ。  そしてパーティの夜にはホテル内で部屋に宿泊出来るらしかった。  出される料理の他に酒も出るらしく、いくら飲んでも大丈夫なように、もしくはパートナーと特別な一日を過ごせるようにとホテル側が配慮をしてくれたものだった。 「ジオニードさん、わたし……」 「分かってる。これに参加したいのだろう」 「凄いですね! どうしてわかったのですか!?」  ジオニードの顔を見て驚くきららにジオニードは小さく苦笑した。 「そんなにガン見していたら誰だって分かるだろう。お前はとくに分かりやすいからな」 「むぅ。わたしそんなに分かりやすいですかねぇ」  少しだけ唇を尖らせるきららにジオニードは 「ああ。分かりやすいよ」  と、そう答える。 「わたしこれに参加して他の浄化師さん達と仲良くなりたいんです。わたしまだ同じ浄化師の友達がいないから……」  少しだけ寂しそうに小さな声できららは言う。 「なら参加しょう」 「え?」 「参加して他の浄化師さん達と仲良くなりたいんだろう? これに参加して友達を作ったらいいんじゃないだろうか。それに私達は契約をしたばかりだ。ここで……その二人の思い出を作るのは悪くはないかと思うのだが……」  ジオニードは何処か少しだけ気恥しそうに言った。  だが彼の僅かに別の意味を含めた言葉に、鈍感なきららは気づきもしないで馬鹿正直に彼の優しさだと受け取ってしまった。 「ジオニードさん、有難うございます。では早速申し込みにいきましょう!」  そう言いながらきららはジオニードの手を引き、その場から離れて行ってしまった。  その数分後。  エントラスト内に貼られたハロウィンパーティの依頼を見て、あなた達は内容を確認した。  そして申し込みをする為にその場から動いたのだった─────。
【魔女】eat! eat! eat!
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-29

参加人数 3/8人 ナオキ GM
 人々から愛され続け、今なお大いに盛り上がる行事が年に数回、存在する。  とはいえ、それらの行事が始められた頃と比べれば、その意味合いは多少変動したり忘れ去られたりしていくものだ。  元々は悪しき者たちを祓う宗教的要素の強かったおどろおどろしい夜も、今ではすっかり仮装を楽しむ祭りとなってしまった。  確かに非日常な催しを心から堪能する生き物のエネルギーは、悪霊だなんだを退散させるに相応しい眩しさを持ってはいるのだろう。  そんなハロウィンには、もうひとつ、大切な要素があった。  即ち秋の収穫祭である。  今年の作物の無事の収穫を祝う為、というよりは、無事に収穫出来たことを祝う祭りという意味合いが大きくなり、こちらもまた在り方そのものは変わってはいるものの、兎に角食に感謝する祭りとしてその姿を残していた。 「今年もいろんなお店が参加してくれてるみたいねー」 「ね! 本当に楽しみ!」 「まあ、この夜のせいで確実に体重は増えるんだけどね……」  来るハロウィンの夜に向け着々と準備を進める市街地を、ヒューマンとエレメンツの少女たちが胸を躍らせて歩いて行く。  彼女らが行くメインストリートの左右。  色とりどり――だが定番カラーの紫とオレンジと黒が目立つ――の屋台やイベントテントが精力的に設置され始めていた。  モンスターのようなメイクを体験出来る会場もあれば、通例通りにお菓子と悪戯が横行する会場もある中、ここでは当日の正午から夜中の12時ぴったりまで、秋の味覚がそれこそ腹一杯無料で楽しめるイベントが開催される。  参加条件は、仮装していること。  少女の一団もその仮装の為の布地や化粧類を買いに向かうところだった。  りんご、ぶどう、梨、柿、栗、さつまいも、カボチャにキノコなどなど。  それらを普段はレストランやケーキ屋を切り盛りしている顔見知りのシェフたちが、腕を揮って調理する。  例えば、肉に垂らすソースやパイやスープやプリンやケーキなんかに。  そうして舌鼓をうった参加者たちは、これだと思った店に一票だけ投じるのだ。  日付が変わったあとに開票され、見事一位になった店とそこに食材を卸した農家は今年の『ハロウィン・マスター』として表彰される。  料理を供する側はもちろん一位を獲る為に本気になり、そして食する側も全身全霊で料理と向き合う白熱した時間になるのが毎年の光景だった。  好き嫌いのある子どもも、この一夜を境にして苦手だった野菜を食べられるように、なんてことも珍しくはない。  折角だからたくさんの味を楽しみたいと欲張ってしまうのが生き物の性であり、それ故に体重を気にする女性は板挟みとなってしまう罪作りなイベントでもあるのだが。 「でもやっぱりさ、普段おまけしてくれるパン屋さんとかにちょーっと贔屓しちゃうじゃん?」 「あー、一昨年だっけ? 自分の家が大家族だからっていーっぱい他から親戚呼んでズルして失格になった店もあったねー」 「うん。だからあれでしょ。今年からは公平な立場の票として薔薇十字教団の人たちも呼ぶんだって」 「わあ、エクソシストってこと? 確かになんか、あの人たちって食べても太らなさそう!」 「ていうかたくさん食べられそうじゃない?」 「いいな~」  羨ましい、と盛り上がりながらとある手芸屋に入って行った少女たちの背中を眺め、哨戒中だった歳若い祓魔人と喰人は無言で顔を見合わせた。  種族にもよるが、別にエクソシストは必ずしも食べても食べても太らない体質、ということもなければ、胃袋のサイズも個人差がある。  収穫祭に招待されている至って普通のふたりは、そっと制服の上から己の腹部に手を当て、せめて当日の仮装の衣装はウエストが苦しくならないデザインにしよう、と密かに決意した。
【魔女】ずっといっしょに
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-26

参加人数 4/8人 あいきとうか GM
 おとなたちの声がする。扉に耳をあてる少年に、その会話はほとんど理解できない。  感じとれるのは不穏な空気。おとなたちは話を続けている。少年が悪戯をしたり、勝手に練習途中の魔法を使ったりしたときと同じような、怒りがにじむ声だった。 「世俗派」「裏切り」「始末」「浄化師」「教団」。  暗い部屋の空気を揺らす単語のいくつかを、少年は知っている。  少年はそうっと扉から体を離した。身分の高いおとなたちは、あの部屋で話しあいをしている。  他のおとなたちは、子どもたちが寝ている部屋を回っているだろう。きちんと眠っているか、悪夢を見ている子はいないか、確かめているのだ。  少年は枕や日中に盗んでおいた予備の毛布を使い、ベッドに細工をしてきた。きっと、揺すられない限りバレない。  用心深く外に出る。厚い雲が月を隠してくれていた。おかげで真っ暗だが、好都合だ。 「まってろ、サウィン」  大好きな友だちの名前を口に出すと、勇気が出た。闇で作ったような森も凶悪な野生動物も魔物も、ちっとも怖くない。  少年には魔法がある。遠くに――「教団」に行ってしまったサウィンに、絶対に会うのだという意思がある。  おとなたちが追いかけてくるかもしれない。たくさん叱られるかもしれない。考えただけで震え上がったが、少年は奥歯を噛み締めて堪えた。  だって。  おとなたちの勝手でおれとサウィンは引き離された。引きずられるように連れていかれたサウィンは今、教団にいるはずだ。 「すぐに、あいにいくから」  怨讐派とか世俗派とか、魔女とか浄化師とか、教団とか裏切りとか。  そんなもの、少年とサウィンの友情にまったく関係はなく、二人を遠ざける理由になんてならないのだから。 「ポモナ?」  教皇国家アークソサエティ、エトワール地区リュミエールストリートを、母と手をつないで歩いていた少年は目を見開く。  リュミエールストリートはハロウィンらしい飾りつけが行われ、一歩進むのも大変なほど、仮装した多くの人々で賑わっていた。  森の中で生まれ育ち、ほとんど出歩くことなく、ひたすら室内で魔法の研鑽に励んできた少年は、絢爛たる光景に少し怯えている。 「どうしたの? サウィン」  きょとんと母が問う。目立たない格好の、まだ若い女性だ。  その正体は、教団に助けを求めた世俗派に属する魔女のひとりだった。 「うーん……」  サウィンは目を擦る。人と人の間にポモナの姿を垣間見た気がしたのだが、そんなことあり得ないと、少年はよく知っていた。  母や自分が属する世俗派と、ポモナが属する怨讐派は、現在、喧嘩の最中らしい。ポモナとはもう会えないとサウィンは聞かされていたし、一晩ずっと泣きじゃくって、どうしようもないということを受け入れ始めていた。  しかし。 「あ……っ!」  また見えた。今度は見間違いじゃない。 「こら、サウィン!」  母の手を振り払い、サウィンは走り出す。 「ポモナ! ポモナってば!」  声の限り叫んだ。体力があまりないサウィンの息はすぐに上がる。耳のすぐ近くに心臓が移動したみたいだった。ばくばくとうるさい。 「まってよ!」  苦しさと嬉しさで涙が出た。走るポモナを見失わないよう、何度も袖でしずくを拭う。  聞き分けのいい子の振りをして、諦めたつもりだった。  どうしておとなたちの喧嘩に、ぼくたちが巻きこまれないといけないのかと、本当はずっと怒っていたし、悲しかったし、くやしかった。 「ポモナ!」 「……サウィン?」  光と喧噪あふれるリュミエールストリートの外れ。人気のない夜の街の片隅。  月を覆っていた雲が、見えざる手に引き千切られるように分かれる。秋の月明かりは少し冷ややかだった。  ようやく足をとめたポモナは、森の中を走ってきたのか泥だらけだ。魔法も使ったのだろう、顔色がよくない。  十歳に満たない少年たちはまだ、上手に大気中の魔力を扱えなかった。 「ポモナぁ……っ」 「サウィン。よかった、あえた!」  二人は抱きあい、わぁんわぁんと大声で泣いて再会を喜んだ。  しばらくそうして、涙がとまり始めて、ふとポモナは首を傾ける。 「そういえばここ、どこだ?」 「……え?」  周囲を見回したサウィンは、まったく知らいないところにいると気づいて、青ざめた。
ドラゴンと模擬決戦
普通|すべて

帰還 2018-10-26

参加人数 2/8人 内山健太 GM
「なぁ、人間って本当に強いのか?」  そう言ったのは、竜の渓谷にいるドラゴンである。  竜の渓谷――。  「ドラゴンの最期の地」と呼ばれる自然豊かな渓谷で、ドラゴン達が穏やかに生活をしている場所である。  時刻は午後九時を少し回ったところ。すでに渓谷は静まり返っており、時折吹く風が妙に心地いい。  ドラゴンの横には、一体の老ドラゴンの姿があるこのドラゴンこそ、竜の渓谷に住まう老ドラゴンである。  老ドラゴンは少し考え込んだ後、切れ長の瞳を空に向けながら質問に答える。 「人間は強いかか……。それはお主の方が詳しいのではないか?」  すると、ドラゴンは笑みを浮かべ、 「俺の方が詳しい? なぜそんな風に言う?」 「人間は時としてドラゴンを襲う。それはお主も知っているだろう」  ドラゴンは魔術の道具として利用できる側面がある。  基本的に、この竜の渓谷は関係者以外立ち入り禁止されているが、中にはその掟を破り、ドラゴンの密猟を試みる不届き者がいるのも事実である。  人間の中には、ドラゴンを捕獲し、魔術道具にしようとしている。中には腕の立つ魔術師もいて、ドラゴンを苦しめるのだ。  その事実を、老ドラゴンは知っている。だからこそ、頭を悩ませているのである。 「確かに人間がドラゴンを捕獲しようとしている事実を知っている」  と、ドラゴンは告げる。  その発言には全くうぬぼれが感じられずに、極々自然である。  「なら」老ドラゴンは言う。 「人間の能力を知っているだろう。人間の存在は確かに脅威だ。しかし、ドラゴンには遠く及ばない。それが人間の限界だろう。  もちろん、子供のドラゴンが狙われる場合は別だ。子供のドラゴンは戦闘力が低いから、人間に殺される場合もある。  だが、お主は別だろう。お主は強いドラゴンだ。人間に遅れは取らない」 「もちろん、それはわかっている。俺は人間には負けない。だがな、気になるんだよ。本当に俺よりも強い人間がいないのか? ってな……。  どこかに俺を負かすような人間がいるのではないか? そんな風に感じるのだ」  ドラゴンの思惑が、いまいち見えてこない。  老ドラゴンは眉根を寄せながら、どう答えるべきか迷っていた。  このドラゴンと付き合いは長い。しかし、すべてを知っていると言えばそうではない。  このドラゴンは穏やかな性質を持っているものの、戦闘能力は高く、老ドラゴンも一目置いているのである。 「お主は何が言いたいのだ?」  老ドラゴンは正直に告げる。  すると、ドラゴンはケラケラと笑い、大きな体を揺り動かした。 「俺の望みは一つ。強い人間と戦いたい」 「強い人間と? なぜ戦う?」 「人間の戦闘力を見てみたいんだ。奴らの中には魔術が使える者もいる。そういった人間の中には、俺よりも強い奴がいるんじゃないのか?  俺は自分の力を試していたいのだ。本当に強い人間に勝てれば、俺はこの渓谷を守り抜ける。  管理するのはお前の仕事でもあるが、ドラゴン自身も戦うべき時があるのだ」  竜の渓谷は基本的にリントヴルム一族と、その協力者であるデモンが中心に守護しているものの、彼(ドラゴン)も、防衛活動に携わっているのである。 「なるほど。私はお主が人間に後れを取るとは思えない。しかし、自分の力を試したいという気持ちは理解できる。よろしい。一つ骨を折ろう」 「相手を探してくれるのか?」  と、ドラゴンは興味深そうに告げる。  老ドラゴンは一呼吸を置くと、ゆっくりとドラゴンを見つめた。 「薔薇十字教団。お主も知っているだろう?」 「エクソシストか……。まぁそれなりに知っているが」 「エクソシストは強力な能力を持つ。お主の相手としては不足ないだろう。連絡については、ワインドに相談をして、教団に連絡してほしいと頼んでみよう。  ドラゴンを手合わせしてみたい人間を募集する。いくらか集まるだろう。戦う場所は草原がいいだろう。広々として模擬決戦にはうってつけだ」 「エクソシストと戦闘か……。それは楽しみだ」 「満足か?」 「うむ、自分の力を試せそうだ。これはお互いにとっていい訓練になるだろう」  ドラゴンとエクソシストの戦闘。  模擬決戦という名目であるが、激戦が予想される――。
竜と誼
簡単|すべて

帰還 2018-10-26

参加人数 3/8人 oz GM
「僕はウーベ。君たちに竜の渓谷のことで集まってもらったんだけどー、お願いしたいことがあるんだー」  ウーベと呼んでいいよ、と朗らかに言った男は丸まると太った体型で動く度にお腹がぽよんぽよんと揺れた。  ウーベルト・テルミンはどこもたっぷりと贅肉がついていて、顔も丸く二重顎でたぷたぷしている。天然パーマの金髪はふわふわとしているのと同じように話し口調もゆるふわとしたものだった。 「僕、他の部署だったんだけど、人手不足で引っ張られてきたんだー、これから何度か顔を合わせることもあるかな~? そのはずー、多分? まあいいや、とりあえずよろしくねー」  司令部の人材不足を垣間見た浄化師の無言が深くなったが、ウーベルトは気にした様子もなくマイペースに話す。 「竜の渓谷から依頼があったんだー、君たちも知っての通り、先の終焉の夜明け団の事件があったよね~。今後もそういったことが起こらないとも限らないから警備体制を考え直すそうだよー」  間延びした口調の割には内容はしっかりしたものだった。 「竜の渓谷の住人ではない外部からの視点で意見が欲しいだって~。実際に竜の渓谷に視察に行ってもらって、体感したことを報告書にまとめて欲しいんだよー」  つまり、ウーベルトの話を纏めるとこうだ。  先の事件で侵入経路は調査中だが、まだ不明な点も多い。警備体制を考え直したいが、内からでは気づかない点や見落としもあるだろう。なので、外の住人である教団からの目線で警備に穴がないか意見が欲しいということだった。  ウーベルトは丸まるとしたお腹を揺らしながら説明する。 「竜の渓谷は4つの地区に分かれてるよー、一つ目はね、ニーベルンゲンの草原。海原みたいに広がる草原は初めて見たらびっくりするかもねー。悩みなんて忘れちゃいそうになる光景だよ~。今は秋だから寒くも暑くもないし、お昼寝にはぴったりだよねー。でも、ドラゴンが気づかず踏んじゃうかもしれないからできないかー……」  ウーベルトは指折りに数えながら楽しげに語り出したかと思えば、最後にはがっかりと肩を落としていた。 「二つ目はねー、清澄の渓流。水辺を好むドラゴンや子供のドラゴンがよくいるよー。特に子ドラは好奇心が強いから遊びのつもりで突撃されて病棟送りになった浄化師もいるから気をつけてねー」  のほほんと戦闘職である浄化師が病棟送りにされた事実をさらりと告げられる。 「三つ目ー、遊牧草原。ドラゴン達の餌である牛や鶏、羊や鹿が管理者さん達の手によって大切に育てられているよー。でも、グロいのがダメな人は止めておいた方がいいかもねー、大きいドラゴンなら丸飲みだけど、ちっちゃいドラゴンはまだ食べるのが下手だからねー」  その言葉に勘の良い浄化師は「あっ」と察した者も多い。 「最後は竜の霊廟だよー、ドラゴン達が死した後に眠る墓地だから、とても神聖で大切な場所だよ~。ここで罰が当たるような行為をしたらダメだからねー」  両手で罰印をつくって一生懸命に説明するウーベルト。 「ここまでで分かりにくいことがあったら聞いてねー」  浄化師達に疑問がないことを確認すると、ふくふくとした頬を揺らしながら一度頷く。 「うん。エリアについてのお話はここまでー、竜の渓谷は広いからねー。移動手段について話すよー」  ウーベルトはハンカチで汗を拭いながら二重顎をたぷんと揺らし話を続ける。 「ニーベルンゲンの草原にある転移方舟で移動した君たちには、ドラゴンに乗って移動してもらうよ~、ドラゴンと一緒に空を飛ぶってロマンがあるよねー。さすがに徒歩だとエリアを見て回るのは大変だからねー、こちらから管理者さんたちにお願いしておいたんだー。高いところがダメな人はドラゴンがひく馬車やソリに乗って移動するといいよー」  長いこと話して疲れたのか机に置かれたコップから水を飲み干すと、ウーベルトは口を開く。 「移動に協力してくれるドラゴンは基本的に優しくて友好的だよー。これから竜の渓谷と仲良くする為にもお話ししてみるといいかもねー。浄化師に個性的な人が多いみたいにー、ドラゴンも色々な性格をしているよー、おしゃべりなドラゴンもいればー、長生きしているせいかマイペースだったり、ワンテンポすれたドラゴンもいるから話が噛み合わなくてもイライラしちゃダメだよー」  のんびりと間延びした口調で話されるとどうにも眠たくなってくる。浄化師の中には眠たげに瞼が落ちそうになりそうなのをパートナーからど突かれ叩き起こされている者も中にはいた。 「まあ、そんなに堅く考えずに観光がてらに行ってくればいいよ~、報告書楽しみにしてるねー」  こうして最後まで締まりがつかないまま、指令は発令されたのだった。
ただおいしいものが食べたいだけ!
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-26

参加人数 7/8人 北野東眞 GM
 それは偶然だった。  たまたま調査にやってきた浄化師たちがお昼におにぎりを食べていたのだ。  そこに現れたのはまだ若いドラゴン。  若いといっても人間よりもずっと大きく、鋭い爪を持っており、十分脅威になりうる。 「なに、食べてル?」 「えーと、おにぎりだよ?」  おずおずと新人の浄化師の二人はおにぎりを差し出した。  ぱく。  もぐ。  ごっくん。 「おいしいっ!」  その若いドラゴンは目をきらきら輝かせた。  さて、ドラゴンの味覚とはこれいかに。彼らは基本的に牛などの家畜を丸のみ、もぐ、ごっくん。ごちそうさま。である。  その若いドラゴンが特殊だったのか、それとも実はドラゴンの味覚が人に近いのかはわからないが。  おにぎりを大層気に入った若いドラゴンは浄化師たちにおかわりをご所望した。  しかし。 「ごめん。もう終わっちゃった」  なんたる絶望。  なんたる悲しみ。  その若いドラゴンは尻尾をたれさげ、じっと浄化師を見た。 「あんなおいしいものを食べてル、もしかして、おいしい」 「おいしくないですっ!」  おいしい、を知った若いドラゴンは聞いちゃいねぇ。お口をあーん。ぱく。もぐもぐもぐ。  パートナーがもぐもぐされているのに慌てるもう片方。 「なにをしているんだ。吐き出しなさい!」 「ぺっ!」  ぺちょ。と地面に唾液どろどろの浄化師が倒れる。慌てる相棒は「舌のうえでころころされて味あわれた。もうお婿にいけない」などと嘆く相方を抱えて世界の悲しみを叫んだとか叫ばないとか。  そんな横では。 「ちょ、正座! 反省! なんてことを!」 「あたち、ドラゴンだから座るしかできないよ。正座無理。体のつくりからいって無理ー。んとね、おにぎりおいしかったの」 「……」 「人間ずるいー! あんなおいしいの食べるの! けど、人間ぺろぺろしたらなんかおいしかった!」  あ、これ、あかんやつ。 「あたち、もっとおいしいものたべたいの。たべたいのっ」  うーーん。 「食べさせてくれないなら、ぺろぺろしちゃうもん」  これ、あかんやつや。と二回目の悟りにて決断した。 「し、知り合いの浄化師に頼むか」 ● 「えー、今回の指令はおっきい生き物にぺろんぺろんされたくなきゃ、おいしいものを作って提供しろと」  ロリクがはぁとため息をついた。  今までの話を聞いていた浄化師たちは真顔で聞く。  とりあえず、そのぺろぺろされちゃった人はどうなりました? 「あー。ほどよい舌の上でぺろぺろされて、わりと気持ちいいけど、生臭いからやっぱりトラウマになるよ。だそうだ。まぁ、今回おいしいもの食べたらぺろぺろは絶対にしないと約束したそうなので、なんとかこうおいしいものを作って提供してくれ。以上」  ロリクさん、なんか指令の出し方がすごく雑じゃないですか。 「いや、だって」  気持ちわかりますけど! 「ぺろぺろされたら骨は拾ってやれよ」  ふ、不吉……! 「満足したらある程度遊んでやれとさ」  はーい。
ひとりぼっちのゴブリン
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帰還 2018-10-24

参加人数 4/8人 北野東眞 GM
「今回の指令は、ゴブリン退治だ。といっても一匹なんだけどな」  指令を受けにくると、受付口でロリクが説明してくれた。  森に囲まれた村がある。  その村から隣町に行く道は木々に覆われた昼間でも暗い森のなかを進まなくてはいけない。  その道を通ると、ゴブリンが一匹あらわれて村人の荷物を奪っていくそうだ。  村人たちはゴブリンに襲われた、このままでは安心して隣町に行くことが出来ない、由々しき事態だと浄化師たちに退治してくれと依頼を行った。 「ゴブリンが村人を襲った、と報告されているが……現地調査したユギルがよく聞くと、村人はゴブリンが現れると驚いて荷物を置いて逃げた……というのが正しいらしい。  そういうことが三回ほどあって、このままでは危険じゃないかと村人は依頼したそうだ。  気になるのはその荷物のなかから食べ物や布切れをごくわずかにとっていったそうだ。たいした被害じゃないし、ゴブリンっていうのはお前たちも知っていると思うが、基本は群れで行動するんだ。ゴブリンは臆病な性格だからまず、一匹で動くことはない。一匹で動くとしたらよほどなにかあるんだろう。……それに、この森のなかには狩人のマドールチェがいてモンスターを狩って森の安全を図っていたそうだが、ここ数か月、その姿も見ないそうだ。狩人の家は森の奥にあるらしく、正確な位置は村人もわからないというし」  ロリクは説明しながら少し思考するように目を伏せたあと、ふぅと息を吐いた。 「さぁ、村人からはゴブリン退治……とはなっているんだが、俺から少しつけくわえよう。ゴブリンが悪さをしなければどういう方法をとっても構わん。もっといえば村人が納得すれば、この指令は成功となるだろう」  浄化師たちがその言葉にきょとんとする。 「ゴブリンの退治ならお前たちでも十分安全に行える。そのゴブリンが現れる道におびき出して退治してしまえばいい。  この依頼をしてきている村人たちがほしいのは安全だ。それさえこなせば俺はお前たちがどういう方法を使い、解決してもいいと思ってる。ただ重要なことを一ついっておけば、ゴブリンは会話出来ないからな。その点は注意するように」  にっとロリクは微笑んだ。 「浄化師らしい判断と方法をとるように」
探偵マウロの事件簿~劇薬は劇場に
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帰還 2018-10-23

参加人数 2/8人 弥也 GM
 今まさに夕日が沈まんとする時刻。  ブリテンにある屋外劇場エクリヴァン観劇場の舞台が、昨日までの喧噪が嘘のような静けさに包まれ、舞台袖に置かれた椅子にご婦人が一人静けさに溶け込んでいる。  夕日が姿を消すと、その風景もしばし闇に消え、今度は月明りに照らされる。  ブリテンの裏路地にある、マウロの探偵事務所。  探偵と言っても、暇なご婦人の悩み相談であったり、迷子のペットの捜索などが仕事の大半を占めているが、それでも生活すらままならなかった以前に比べれば良い方だ。  そして今もマウロの前には、その裕福さを体現するような豊かな身体をしたご婦人が、事務所の来客用ソファにどっしりと座り、そのふくよかな指でティーカップを優雅に口元に運んでいる。 「お茶菓子をどうぞ」  以前、誘拐事件でエクソシストとマウロに助け出された名家ジョンソン家の一人娘ライリーが、探偵の助手を気取ってご婦人に茶菓子を出す。 「まぁ、かわいらしい助手さんね。ライリー何歳になったの? 随分綺麗になったわね」  どうやらこのご婦人、ライリーの事を知っている様だ。 「16歳になりました。モニカさん」  ライリーにモニカと呼ばれたこのご婦人。  大の芝居好きで、年に一度、仲間と実行員を組織し、実行員主催の演劇をエクリヴァン観劇場で行っている。 「で、去年あんな事があったのに、今年もあの劇団を呼ぶ、と言うのですね」  マウロの言葉に、モニカの指が少しもじもじと動く。 「あら、あれは劇団とは無関係。それに、もう明日には、みなさん到着されますし」  どうやらライリーも、その劇団を気に入っているようで、 「そうよ、無関係よ」  と、心外とばかりにマウロを睨みつける。  モニカがティーカップをソーサーに戻し、テーブルへと置いた。  そのソーサーの隣には、一通の手紙が。  芝居は行うな。  また死人がでるぞ。 「こんな物、到着の前日に送って来るなんて」  モニカが、ため息をつく。 「芝居を中止にする事は、出来ないのですか?」  マウロは手紙を手に取り、透かし裏返し確認するが、特段変わった様子はない。 「だって、もうチケットは売れてしまっているのよ? それに教団にだって劇場使用料とかなんとか、お支払いしてしまったもの」  今にも泣き出しそうなモニカの肩を、そっとライリーが抱く。 「大丈夫よ、モニカさん。この探偵マウロが何とかしてくれるわ! 困難な状況から、私を助け出したんですもの、覚えてないけど」  そうね、そうね、とモニカも大きく頷く。  マウロの思惑とは無関係に、また仕事が一つ決まってしまったようだ。  エクリヴァン観劇場近くのレストランの一室。  到着したばかりのアラン劇団一行と、依頼人であるモニカを含む実行委員のご婦人四名、そしてマウロが集まった。  実行委員の一人は、やけに若い。  ライリーとそれほど変わらないのではないだろうか。 「やぁ、君が名探偵マウロか」  爽やかな笑顔で、マウロに手を差し伸べるアラン。  モニカの目が、アランをうっとりと捉えている。  確かに、良いオトコ、である。 「今年も呼んでいただけて、ありがとうございます」  和やかな雰囲気で始まった打合せではあるが、そこに渦巻く何かをマウロは感じ取っているようだ。  マウロの手帳より      ・フロリアの死    1年前アラン劇団が公演を行った翌日、実行員の一人フロリアが劇場舞台袖にて遺体で発見された。    死因は服毒自殺とされている。    夫ドニスは、相当な富豪。    フロリアは、アランとのキス現場を劇団看板女優リズに見られ、噂になった事を気に病んでいた。    ドニスはフロリアの死後、リズと結婚。    娘ローズは、母の死を「ママはアランへの愛を貫いたのよ」とお気楽に捉えている。    誰よりもフロリアの死にショックを受けたのは親友ナディア。    リズは相当な美女だが、妻の自殺から一年も経たずにリズと結婚をしたドニスの心情が理解できない。    フロリアは本当に自殺なのか?    ・実行員について(4名)    モニカ   最古参の実行員。ただただ芝居好きの気の良いご婦人。    ブリジット 実行員の中では一番庶民に近い家の婦人。少々他のお仲間には気後れしているようだが、家柄のせいか?    ローズ   死んだフロリアの娘。実行委員の中で一番若い20歳。母親が死んだと言うのに、実行員を引き受けるとは理解しがたい。    ナディア  フロリアの幼馴染で親友だった。フロリアと二人で、随分とアランに熱を上げていた。最近はふさぎ込んでいる様子。  ・アラン劇団    アラン 劇団の代表で演出家。ご婦人に対しての態度は不快な程軽率。よってライリーには近づかないようにしなければ。    ニーナ 劇団の看板女優。モニカによると派手なタイプではないが、演技は素晴らしい。    リズ  元劇団の看板女優。ドニスとの結婚を機に引退している。   
秋の夜長に囁いて
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帰還 2018-10-22

参加人数 8/8人 木口アキノ GM
「書籍の貸出促進を図りたいと思います」  ここは薔薇十字教団の魔術学院3階、人気のなくなった深夜である今、教室の1つを会議室として書籍管理に関わる面々が集まっていた。 「教団に集められた膨大な数の書籍。それらが存分に活用されないなんて本が可愛そう」  本会議の議長を務める女性が嘆く。その隣で彼女の同期男性が「あまり利用者が少ないと予算カットされちゃうからね」と本音をずばり。一般書籍ならまだしも、魔術の専門書などは高値なのだ。予算の確保は切実な問題だ。 「折しも季節は秋。読書の秋ということで、書籍の貸出を勧めるにはうってつけ。皆にドーンと本を読んでもらえるような、何かいい案はありませんか?」  一同、フゥむと考えてから。 「はいっ」  ミミリアという名の年若い書籍管理係の女性が手を挙げた。 「読書の秋、ナイトライブラリーなんていかがでしょう!」  彼女は立ち上がると教室前面の黒板の前までつかつかと歩み寄る。  そして、カッカッと文字を書きつつ話す。 「魔術学院の書籍関連エリアを一晩中解放するんです。2階一般書籍、歴史、事件などの書庫、3階魔術関連書籍の書庫がそれに該当しますね。本を読むスペースとして1階カフェテリアも解放しましょう」 「それだけじゃ面白味がないよなぁ」  という声がちらほらと聞こえる。  ミミリアは「その通りです」と深く頷く。 「折角のナイトライブラリーです、雰囲気を作らねば意味がありません。そこで私が考えましたのはーー」  1階から3階にかけて、穏やかな音楽を流す。  読者にぴったりの飲み物、コーヒーや紅茶をカフェテリア以外でも飲むことを許可する。  夜の雰囲気を壊さないように、照明は抑えめにする。  本を読みながら眠れるように、ふかふかソファーコーナーも用意する。 「などなどです! パートナーとお気に入りの本の話をしながら朝まで過ごす……ちょっと素敵じゃないですか?」  ミミリアはうっとりと手を組んだ。 「ああ、私にもそんなパートナーがいれば……朝まで毒草全百科について語り合うのに」  それは果たして素敵なのかな? という疑問は誰もが口に出さずにいてあげた。その代わり、そんなことを語り合えるパートナーが現れると良いね、という生暖かい視線がミミリアに注がれた。 「でも、夜の雰囲気を感じながらの読書はちょっと惹かれるね」 「音楽を流すのも雰囲気作りに良いと思うわ」  他のメンバーからも活発に意見が出てきた。 「灯りが抑えめだと、本を探すとき困らないかな」 「利用者にはカンテラを渡せば良いんじゃない? 本を探す時にも読む時にもそれを使ってもらうんだ」 「いいね、それ」 「ふかふかソファーは魅力的だけど、寝顔を人に見られるのはな~」 「ソファースペースはパーテーションで区切りましょうか」  皆が乗り気になってくれて、ミミリアはちょっと誇らしげな顔である。 「それじゃあ、ナイトライブラリーの開催ということで、皆さん異議はないようですね」  議長が一同の顔を見回して確認する。 「ありませーん」  満場一致で答えが帰ってくる。  こうして、薔薇十字教団魔術学院におけるナイトライブラリー開催が決定した。
雪の妖精に約束を
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帰還 2018-10-17

参加人数 3/8人 春川ミナ GM
「アーブル、この子が今日からお前の妹になるんだよ」  そう父から紹介された女の子の第一印象は、触れれば壊れてしまいそうだと感じた。僕が小さい頃からの宝物、『雪の妖精に約束を』という絵本に描いてある登場人物みたいだと。 「は、はじめまして。今日からここでお世話になります。ティージュと申します……」  頬を朱に染めて、たどたどしく挨拶をした妹となる女の子に、僕の心はわしづかみにされた。  ここは教皇国家アークソサエティ、首都エルドラド。その一画にある貴族街。代々魔力が強い人間を輩出して教団に貢献してきたペタジット子爵の屋敷。  世界に色がある事を知らなかった少年の心に暖かい光が射すお話。  ◆ 「ティージュ、調子はどうだい?」  妹の世話をしていたメイドに取り次いで貰い、入室する。妹は体が弱く、ベッドからあまり離れられない。祓魔人や喰人になろうにも、この状態では難しいと判断して今は様子見と教団のスカウトを先延ばしにしてもらっていると父から聞いた。 「アーブルお兄様、おはようございます。今日はとても調子がいい気がするんです。だからお日様と風を感じたくて、アンヌさんに窓を開けて貰ったんですよ」  ベッドの上で体を起こして少し照れながらも緑の瞳を向け、微笑みかけてくれる義妹。  父が教えてくれた事だが、ティージュは赤ん坊の頃、竜の渓谷に捨てられていたらしい。それを知性の高い竜が拾い、今まで育てていたと。  首をゆっくりと傾ける様子に、腰近くまである白く長い絹糸の様な髪がサラサラと流れた。余談だが、ティージュを育てた竜はどうやら偏った知識しか持っておらず、古い貴族の礼儀と言葉遣いを教えたらしい。その為にどこか頓珍漢な受け答えに戸惑うことがしばしばある。人慣れしていなくて直ぐに赤面するのはご愛嬌だ。 「ティージュ様、使用人にさん付けは要りませんよ」  傍に控えていたメイドのアンヌが苦笑しながら話す。 「ハハ、立場を傘に着て威張り散らすよりはよっぽど良いじゃないか」  僕はそれを諌める。この妹には屋敷の人間、誰もが甘い。 「だけど体の調子が良いからって、この間みたいに庭に出て倒れないでくれよ。流石に肝が冷える」 「ごめんなさい。でも、小鳥がとても綺麗な声で歌っていたの。ついついそこを離れるのが惜しくて」  少しだけ顔を曇らせて、悲しそうな瞳を組みあわせた手に落とすティージュ。 「ああ、ごめんごめん。責めるつもりは無いんだ。調子が良いのは何よりだ。この屋敷に来てから意識を失う頻度も少なくなったと聞いたよ。それでね、父がささやかだけれどティージュの歓迎パーティを僕達と招待した浄化師達とで行うそうだよ。いつか僕も浄化師になるし、ティージュもどんな人達が教団で働いているか知って貰いたいんだ」  僕は妹の顔を曇らせたくなくて直ぐに謝ると、立て続けに本題を話した。 「浄化師様……ですか? わ、私……うまくご挨拶できるでしょうか」  屋敷外の人間を招くのはティージュにとってこれが初めてだ。モジモジと指を絡め合わせる妹の手がどんどん複雑になっていく。……やめなさい、陰陽師が組むような印になってるから。駄目だって、ああ! その印の組み合わせはまずいって!  僕は慌てて妹の手を取り、印だか何だか分からない動作をさせるのを止めた。 「お、お兄様……?」  驚いて僕を見上げるティージュの顔は手と手が触れているせいか真っ赤になっている。うう、やめてくれ。その表情は心臓に来る。 「と、とにかくだ。屋敷の皆がサポートをするから」  心臓の鼓動が部屋中に響くんじゃないかと錯覚するほど僕の鼓膜を打っている。何とか表面上だけ取り繕うと妹に微笑みかける。 「はい、ありがとうございます。お兄様」 「グッ!」  ティージュがはにかみながら僕に返すが、それは僕の仮面なんてボロボロと崩れ落ちる。まるで春の陽射しのように。 「お、お兄様?」 「な、なんでもないよ。じゃ、じゃあ僕は用事があるから!」  戸惑うティージュに僕は自分の熱くなった頬を見られまいと早口で告げて足早に部屋を去る。  扉をゆっくりと閉め、背をもたれて一息つくとドア越しにアンヌのクスクス笑う声が聞こえてきた。おのれアンヌ、クッキーを盗み食いしていた事をメイド長に会ったら告げ口してやる。でも今度だ、今はやる事がある。僕は最近出来た友人に相談する為、妹の部屋を去った。  ◆ 「と、言う事があるんだ。妹が驚いて喜ぶような事をしたい」 「ふぅむ。それは難問だニャ。アーブルじゃ悩んで悩んで日干し魚みたいになってしまうニャ」  庭師が暮らしていた小さな小屋の外、窓の下に僕は座り込んで、この不思議な喋り方をする友人と話をしている。  高齢だった前の庭師が引退して、新しく清掃も剪定も出来る従僕を雇ったので今はこの小屋に誰も住んでいない。が、友人に相談がある時はいつもここだ。いつだったか姿を見たくて窓から中を覗き込んだけれど、暗くて何も見えなかった。その時とても怒られたので、以来僕は壁越しに話をしている。何でも人に姿を見られるとヒゲが生えてくる奇病に罹っているらしい。……冗談だろうけど。  ……初めて出来た友人と言える存在を失いたくないと感じたのもある。人に姿を見られたくない理由があるんだと結論付けて。 「頼むよノーラ。君の考えはいつも僕の上を行く。悔しいけどね」 「ふっふっふ、頼られると悪い気はしないニャ。ふぅむ……」  友人が過去に自分で名乗った名前はノーラ。歳も知らないけど、いつも僕に的確な助言をしてくれるこの存在は妹と同じくかけがえの無い宝物だと思う。調子に乗るから本人には言わないけど。  ノーラはしばらく考え込むと、やがて何かを思いついたようだ。 「そういえば浄化師達が来るニャ? 我輩正直言ってアイツ等苦手だけどニャ。ああ、アーブルは特別ニャ。……話を戻すニャ。やはり人間の知恵に勝るものは無いニャ。だから招待した浄化師達に妹にあげるプレゼントを持ってきて貰えば良いニャ」  浄化師が苦手だと聞いて、ちょっとだけ落ち込む僕を空気で察したのか、僕の事は特別だと言ってくれた。何だか解らないけど胸が温かくなる。そしてノーラの提案に僕はなるほどと思った。 「アーブルは今まで父親の書類整理を手伝ったりしてかなりお小遣いを貯めている事は知っているニャ。恐らく宝石の一つや二つ楽に買えるくらいニャ」 「よく知ってるね。使う事も無かったからさ。うーん、そうだ! 妹はとても綺麗だから高価な宝石を使ったアクセサリーとかどうかな?」 「ハァ~。アーブルは馬鹿ニャ? 幼い妹がバカ高いプレゼントを貰っても困るだけニャ。10歳の女の子が貰って喜ぶ物をもっとよく考えるニャ」  僕の提案にノーラは大きな溜息をつくと馬鹿にバカを繋げる。落ち込んだ僕にノーラはさっきとはうって変わって優しい声で語りかける。 「あくまで一例としてだニャ、妹は体が弱い。激しく運動する物はやめた方が良いニャ。お菓子もゴハンが食べられなくなるから同じ理由ニャ」 「なるほど、ありがとうノーラ。じゃあ早速知り合いの教団の人に相談してくる。ティージュへのプレゼントは父に内緒にしたいんだ」 「父親がライバルなのかニャ? アーブルも男の子だニャ。応援してるニャ」  姿を決して見せてくれない壁越しの友人にまたねと別れを告げて、小屋を後にする。プレゼントを受け取ったティージュの喜ぶ顔を想像して自然に僕の頬は緩むのだった。
契約、君、言ノ葉
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-17

参加人数 8/8人 北野東眞 GM
 エントランスに指令をもらいにくると、ロリクが神妙な面持ちで書類と格闘していた。いつものことだが、いつも以上にこう困っている、ぽい。  どうしたんですか?  声をかけると、ロリクは顔をあげて、ああと沈んだ声を漏らした。 「実は……今から浄化師になる人に、どういう流れで契約するかといった簡単な説明や先輩の体験談をまとめているんだ」  うむうむ。 「契約のところで行き詰った」  契約というと……あ、あの!  思い出した浄化師たちは照れ顔である。 「そう、あれだよ。あれ。……まぁやり方はみんなほぼ同じなんだが、こう、気持ちとか心構えとかをな」  ああ~。  ちなみにロリクさんはどうだったんですか? あの契約のとき。 「……俺とユギルな。あの頃、俺はちょっといろいろとあって荒れていて、ユギルは精神的に不安定だったし」  はい? 「契約のとき俺が手首切りすぎて動脈までいったのはいい思い出だ」  え、えええええ! 「契約の際、ユギルがキレて殴り掛かってきたのもいい思い出だ。あのときのクロスカウンター、いまだに忘れん」  ふぁ!  な、なんかすごい殺伐としてますね。 「だってなぁ、ほぼ初対面のあとのはじめての共同作業だぞ。緊張やら不安やらあるだろう? ちゃんと二人で魔術真名唱えたが、そのときも噛んだし!」  え、ええ。まぁ。ちなみにお二人はなんて唱えたんですか? 「メンチカツ」  はい? 「唯一二人が、そのとき共通して好きだって判明したものでな。だから今後二人でわかっていくためにも、ってことで、メンチカツ……あ、いや、今はちゃんとしたものに変えてるんだが、あはははは」  だからって、メンチカツはねーよ。さすがにねーよ。あんたら!  魔術真名をなんだと思ってるんだ! これは「絶対」に何に変えてもそれをやり通すという信念を表すやつですよっ! 「あの頃の俺らはメンチカツにそういういろんな思いをこめてたんだよ! うん。そういうわけで、いい例になれなくて困ってるんだ。お前ら、せっかくだから契約時のことを教えてくれないか?」
雷撃の爪痕
普通|すべて

帰還 2018-10-17

参加人数 8/8人 鳩子 GM
 朝露に湿る緑の海原へ、小さな白い点が散らばっている。空を渡る雲よりもずっとゆるやかに、もぞもぞと動くそれらを視線の果てに捉えて、オットマー・ゲーラーはほっと息を吐いた。 「いたぞ。……おい、アントン?」  同行者であるアントン・ロイッカネンの返事が来ない。すぐ隣を歩いていたはずの姿が後方にあることに気が付き、オットマーはやれやれと首を振る。 「アントン!」 「あ、ああ……」  大声で呼びかけると、漸く気が付いたアントンはのろのろと顔をあげて、ぎこちない足取りでオットマーの横に並んだ。 「あのなぁ、気持ちはわかるけどよ。いったん、忘れておけよ」 「……そうだな」  頷きながらも、アントンは未だ上の空だ。  揃いの黒い額当てをする二人は、此処、竜の渓谷を護るワインド・リントヴルムと志を同じくするデモンの警備隊員だった。  サタンと名乗るホムンクルス率いる終焉の夜明け団が竜の拉致を試み、ワインドおよび救援に訪れた浄化師と苛烈な戦闘を繰り広げた事件は記憶に新しい。人も竜も最善を尽くして難敵を退けたものの、竜のケアに侵入経路の調査にと、忙しい日々が続いていた。  アントンの懊悩も、その事件に端を発する。 「俺ァ、まだ信じられねェんだ。アートスの野郎が裏切っただなんて……」 「口を慎めよ。まだ決まったわけじゃねぇ」  竜の渓谷内部に、終焉の夜明け団を引き入れた者がいるのではないか――慎重なワインドが隊員の前で迂闊な発言をするはずもないが、教団と共に調査を進めていくうちにどうしたってその可能性に勘付かないわけにはいかなかった。  確信に至る証拠は見つかっていない。けれども、事件があったその日から、ひとりの隊員が姿を消していることが後に解った。  アートス・ホーカナ――元はルネサンスのあたりに暮らしていたらしいが、五年ほど前に病で家族を失い、己のルーツに関わる仕事がしたいと言って渓谷に身を寄せたデモンの青年だった。ワインドよりも年若い彼はいささか落ち着きが無く、すれた雰囲気をまとってはいたが、酒と音楽が好きな陽気な一面もあり、ほどなく渓谷での暮らしに馴染んだ。  事件があった日、アートスは非番だった。それだから、襲撃の対応に追われる隊員たちは彼の姿が見えないのに暫く気が付かなかった。  ワインドが発見する以前に終焉の夜明け団と遭遇し、犠牲となったのではないか? 或いは、渓谷内を散歩でもしていて何らかの事故にあい、身動きが取れなくなっているのではないか? はたまた、すでに出奔しているのでは――。  さまざまな憶測が飛び交い、隊員たちは調査の片手間に敷地内の捜索を行ったが、数週間経った今もなお行方知れずのままだ。 「何があろうと、俺達にとって重要なのは竜を護ることだ。そうだろ? で、今やるべきなのは、竜を護るのに力を貸してくれる浄化師のもてなしだ」  アートスのことは忘れろ、と重ねて言う。その声が荒っぽいのはオットマー自身釈然としない思いを抱えている証左であったが、アントンは従順に頷き、二人は黙々と歩を進めた。  竜の渓谷には多くの鳥や野兎などといった野生動物が生息しているが、巨躯を持つ竜の食糧には少々心許ない。不足を補うべく、定期的に牛や羊、山羊などの群れを連れて来て放牧するのもワインドたちの仕事だった。転移に用いる魔方陣が整ったこともあって往来の増えた浄化師を歓迎するため、今日は人もそのおこぼれに預かろうという手筈になったのである。  今頃、ニーベルンゲンの草原にある集落では歓迎会の準備が着々と進んでいるはずだ。薔薇十字教団と渓谷の警備隊員との親睦会であり、人と竜の親睦会でもある。竜の中でも特に好奇心旺盛な個体や、先だって教団の世話になった成竜グラナトと仔竜ヴァージャも同席する予定だ。 「……なぁ、おい」 「なんだよ」  羊の選別を行っていたオットマーは、アントンの強張った声を鬱陶しげに聞き流す。 「アートスだ」 「あ?」  まだその話題を引き摺るつもりか、と顔を顰めながら体を起こしたところで、オットマーは言葉を失った。 「うそだろ」  群れの端で、耳障りな鳴き声があがった。途端、群れ全体が緊張感に包まれ、羊たちはのろまな人を置き去りに駆け始める。  アントンは流れに逆らうように前へ一歩踏み出した。 「アートス……! おい、アートス!」 「いや、待て! あれは……」  異変の発信源にゆらめく人影――暗褐色の翼、額当てをした頭部に生える一対の角。そのシルエットこそよく見知ったものに違いなかったが、何かがおかしい。  喉が引き攣れて、声が出ない。脳裏で警鐘がわんわんと鳴り響き、指先が震える。数秒か、それとも数分か。じれったいほどの時間を掛けて、どうにかこうにか、オットマーは言葉を絞り出した。 「ベリアルだ……!」  その瞬間、遠方の人影は不気味な俊敏さで羊に飛びかかり、その首筋へ喰らいついていた。
泣き止まぬあなたの頬にキスひとつ
普通|すべて

帰還 2018-10-14

参加人数 8/8人 瀬田一稀 GM
 突然の雷雨は、あっという間に山道を、泥の川へと変えてしまった。  馬車の車輪がぬかるみにはまり、動かなくなってしばし後。  御者は申し訳なさそうに、エクソシストたちに言った。 「今日はこれ以上は勧めません。近くに村がありますから、そこで宿をとりましょう」  とはいっても、小さな宿はすでに満杯。  指令の帰り。団服を着たエクソシストたちは、各ペアごとに別れ、村人たちの家に泊まることとなった。  馬車をおき、徒歩で村に来るまでの間に、体は濡れ、冷え切っている。  パートナーは、部屋にある暖炉と薪を見、ほっと安堵の息を吐いた。 「ああ、ありがたいな。これで濡れた体もあたたまる」  だがあなたは、部屋の片隅に座り込み、黙り込んだまま。 「なぜ黙っている? あれが、お前のミスだと思っているのか?」  ――思っている。でも、言えない。 「指令は無事完了したんだ。気に病むな」  パートナーがおこした火が、暖炉の内で、ぼっと燃えた。  彼が、振り返る。 「さあ、こちらへおいで。そこでは、火のぬくもりは届かないだろう」  あなたは、いやいやと首を振った。 (だって、本当ならば、この指令はもっと早くに片がつくはずだった。私が、あんな失敗をしなければ)  ゆっくりと近付いてくるパートナー。  彼はあなたの隣にしゃがみこみ、涙に濡れた顔を覗き込んだ。 「考えるなと言っても、無理なんだろうな。何をしたら、お前は泣き止む? こうして抱きしめればいいのか? あるいは、ひとつきりのベッドで添い寝をして、寝かしつけてしまえばいい? 教えてくれ。俺は、どうしたらいいんだ?」
森の中の仕立て屋さん
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-13

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 深い森の奥、かつてどこかの貴族が建てたのだろう、小さな城にも見える屋敷の前庭。  重厚な扉の前に八組十六名の浄化師が集結していた。ひとりが扉に耳をあてる。手振りで他の面々に伝達。「音がする」。  足音どころか呼吸音さえ殺して、浄化師たちは陣形を整える。もうじき標的がくる。あと五分、動きがなければ突入するつもりだった。好都合だ。 「森に魔女が住んでいる」  十月の始まりにそんな情報が薔薇十字教団にもたらされた。森の近くに住む村人たちからの、嘆願に近い要請だ。魔女を討伐してほしい。いつ住み着いたのかは分からない。場所は森の中の古屋敷。  庭は手入れされておらず、壁面には蔦が這う。野生動物や敵性生物の住処になっていないのが不思議なほどだ。いや、魔女が住んでいるから近づかないのか。  教団は直ちに討伐指令を発令。こうしてこの部隊が派遣された。  魔術真名の解放はそれぞれすんでいる。魔女は恐らくひとり。だが、油断はできない。    さん、に、いち。  扉が開く。先手必勝とばかりに前衛の浄化師たちが出てきた人物の心臓を穿とうとする。 「はえええ!?」  悲鳴。お構いなしに攻撃しようとして、ひとりが異常に気づいた。 「待て待て! 魔力が感じとれない!」 「え?」 「おーっと!?」  勢い余りかけた前衛の襟首を、別の浄化師が掴んでとめる。動揺が広がる。杖先の魔方陣が消えた。膨れ上がった殺気が困惑に塗り替えられる。 「……魔女だよな?」 「は? 違うわよ、私は仕立て屋。仕立て屋のチェルよ」 「仕立て屋?」  廃墟同然の建物に似あわない、美しいカボチャ色のドレスに身を包んだ女が薄い胸を張る。 「そーよ。ちょっといろいろあって、ここでお洋服を作っているの。見る? 着る?」 「いや……」 「っていうか見て行きなさい。着なさい。その制服、教団の浄化師でしょ? 浄化師ってなんでもやってくれるんでしょ?」 「なんでも屋ではない」 「いーじゃないの! お洋服って、着られて初めて価値が出るのよ。なのに」  ぐす、とチェルがすすり泣き始めた。突然のことに浄化師たちは慌てる。 「両親に、服なんか作ってないで後を継げって言われて。私、農家じゃなくて仕立て屋になりたいの。素敵なお洋服をたくさん作りたいの。だから、家を飛び出して」 「そ、そうか。大変だな。じゃあ、気をつけて」 「もう魔女に間違われないようにな」 「待ちなさいよ。着て行きなさいよ。全部自信作なのよ!」  一番近くにいた浄化師の腕をしっかりつかみ、チェルは一同に視線で縋りついた。 「私が作ったお洋服、着てよぉ!」 「町で服を売ればいいんじゃないか?」 「自信がないのよぉ! 着て、感想言ってくれたら、私もやれるんじゃない? って気持ちになって町に売りに行けるじゃないのよぉ!」 「そんな覚悟で家出して廃墟に住んで、魔女呼ばわりされていたのか……」 「最後のは私のせいじゃない!」  涙声で叫ぶチェルは、今にも駄々っ子のように暴れ出しそうだった。  浄化師たちは視線で短い意見交換を行う。結論が出た。 「代わりの者を派遣しよう。我々は忙しい」 「え? ほんと? やったー!」  両手を上げてチェルは喜ぶ。  面倒くさいことになったなぁ、と浄化師たちはいっせいにため息をついた。
購買部の一日
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-13

参加人数 8/8人 oz GM
 私は教団寮2階にある購買部の店員である。  薔薇十字教団の教団員であるが、接客業に適正があると認められ、購買部の方へと配属された。  主なお客さんは浄化師だが、私たち教団員も利用することが多い。たまに上のお偉いさん方もここに来ることがある。滅多にないことではあるが。  購買部の一日は結構忙しい。  会計業務はもちろん、接客や店内清掃、商品の品出し・陳列、商品の発注など多岐にわたる。一度仕事を覚えてしまえば、後はパターンで作業を行うだけだが、新人が入団する時期になると一気に忙しくなる。新人浄化師が初任務に備えて、武具や防具などを買い求めに来るからだ。  後は教団員から「こんなものを買いたい」という要望が来ることもある。日用品や消耗品、服、アクセサリー、細々とした携帯品などは、上司である「ロードピース・シンデレラ」様に要望書を提出し、イレイスなどの武器や防具は魔術鍛冶職人である「ヴェルンド」さんに注文をお願いすることになっている。  購買部の品揃えとしては、頼もしい浄化師の相棒であるイレイスは全て魔術鍛冶屋で作られている。武器も大事だけれど、敵の攻撃を逸らしたり、弾くだけでなく身を守ってくれる防具もそうだ。  武器や防具は実用品重視だけれど、服や装飾品、鞄などは実用的だけでなく、デザインにこだわりを持ったものも多い。  でも、最近はダンジョンに潜りに入って自前の武器や防具などを手に入れる方も多くなってきた。まあ、事務用品も置いてあるので客足は遠のく心配がない。  それ以外にも、香水などのちょっとしたお洒落や音楽を趣味とする者の為に楽器なども用意されている。  暇をつぶすトランプやチェスセット、指令に役立ちそうな医療品にピッキングツールまである。  尚、ピッキングツールを使っての技術の悪用をした場合、購買部は責任を負いませんのでご了解下さい。こわーい人に怒られたくなかったら、悪用しないで下さいね。お姉さんとの約束だ。  他にも教団員からの要望があれば、これからも商品はどんどん増えていくだろう。  もう購買部と言うより何でも屋さんだと私は思っている。  さあて、今日も一癖も二癖もある浄化師を迎えるために開店しなければ。  私たち購買部一同、お客様の要望に応え、各種の品揃えを用意してお待ちしております。  購買部へいらっしゃいませ!
美しき、ブリテンよ
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-13

参加人数 5/8人 北野東眞 GM
「今回は、ブリテンの巡回の仕事がまわってきてるぞー」  ロリクがにこやかに微笑んで浄化師たちに声をかけてきた。  ブリテン……中心部から北西、海を挟んだ先にある島だ。工業技術が発達しており、蒸気機関車、魔人形など様々な技術を生産している特別区に指定されている場所だ。  技術者が多く存在し、貴族と市民階級が混ざるように暮らすここは大変活気がある。 「まぁ、ここはそういう技術職が多いから、一定のベリアルやヨハネの使徒を撃退できる程度には自衛は出来ているんだが、  いかんせん人が多いからな。浄化師が定期的にまわって治安維持に努めてるんだよ。  巡回といってもお前たちはいるだけで十分治安維持になっているから、せっかくだし、観光の一つもしてきていいぞ~。  技術関係のものを見るいいチャンスだ。ここは派手っつーか、豪華なところが多いからなぁ」  ロリクの言葉に思い浮かぶのは豪華なお城である。むろん、それ以外もあれこれと素晴らしいものが多かったはず。 「レポート提出するとき、楽しい思い出、聞かせてくれよ?」
ハロー、運命
とても難しい|すべて

帰還 2018-10-10

参加人数 2/8人 北野東眞 GM
「お前らにしてほしいのは、今回はスカウトだ」  ロリクが口にしたスカウト、という言葉に浄化師たちはきょとんとする。 「ああ、お前ら、自分たちが浄化師になったときのあれだよ、あれ」  あれ、といわれても。  浄化師たちは顔を見合わせる。 「そうか。浄化師になるのは人それぞれだからなぁ」  教団から迎えがきたのを快く受け入れる者、抵抗に抵抗を重ねて観念して連れてこられた者、大切なものを奪われた者、地位や名誉のために自ら門をくぐる者……浄化師になる理由は人それぞれだ。 「今回はヨハネの使徒、ベリアルの周囲への出現率やら考えて、そこに浄化師となる者……つまりは、多くの魔力を抱えている人間を見つけた。  調査結果でわかったのが、こちらの人物だ」  書類が差し出される。  名前はリネリ・サターシャ。  年齢は十六歳。  生まれは農家で、よく働くと評判の娘だ。父と母は健在で、弟をかわいがっている。ごくごく普通の娘。 「この娘を教団にスカウトしたいってことだ。簡単だろう? 出来るだけはやくこの娘を教団に連れてきてほしい」  理由……浄化師となる者はヨハネの使徒やベリアルに狙われる性質を持っている。このままでは、この娘の住む村はベリアルか、ヨハネの使徒の被害を受けるかもしれない。  それに契約をしなければ、魔力パンクで、この子の命はそう長くは持たない。 「ここ最近、この村では先ほどもいったようにベリアルやヨハネの使徒が多く目撃され、被害を広げている。  村近くの森では蜘蛛型のベリアルが目撃された。スケール1だが、十分な脅威だ。さらにヨハネの使徒も三体ほどが、この近辺の山間を走り回っている。  そうした脅威のせいで村は逼迫し、村人はこの子のせいじゃないかと噂が広がり始めている。ただリネリは両親、そして弟のこともあって村を離れたくないようだ……恋人もいるようだ。その恋人は残念なことに適合者じゃない、ただの人間だ」  そこまで口にしたあとロリクはため息をついた。 「まぁ護衛の必要性もあるからこの子の説得をお前たちに頼みたい。自分たちがどうして浄化師になったのかも踏まえて、きちんと説得するんだぞ。あと、脅威についても油断しないように。お前たちが赴けば、否応なく反応して動き出すだろう」  ロリクは浄化師たちを一人ひとり見て口にした。 「ただお前たちがこの村に行くということは、この娘の運命はいやおうなく動き出すということだ。そのことをよく考えてるんだな」 ●  のどかな村は連日のヨハネの使徒に対する警戒やベリアルのため飢えのせいでぴりぴりとした空気に覆われていた。  そんななかでもいつもの毎日をリネリは繰り返す。これが自分の選んだものだから。それでも村のなかを出歩ければ、誰もが視線を逸らしていく。 「リネリのせいだろう」 「災いの子だ」 「あいつのせいで村が狙われてるのかよ」 「はやくいなくなればいいのに」  村の囁きが聞こえる。  けど、優しいパパ、ママ……弟のヨーシャは、ここにいてもいいといってくれる。家族と離れたくない。だって、大切だから。  それに。 「ネリネ」  ヨハン!  優しい微笑みを浮かべてくれる恋人が、リネリを村人の視線から守るように一緒に歩いてくれる。 「私、ここを離れたくない。たとえ、死んでも、教団なんかにいきたくない。だって、私はここで生まれて、ここで育った、ただの村娘なんだもの」  ぎゅっとヨハンの手を握りしめる。 「私は私の運命に抗い続けてやる」
救え、貧乏劇団!
簡単|すべて

帰還 2018-10-07

参加人数 3/8人 海無鈴河 GM
 ここは教皇国家アークソサエティ「芸術の街オートアリス」。 「解散だなんて……そんな!」  その一角に佇む小劇場に、悲痛な男の叫びが響いた。  ヨレヨレのシャツを着て、無精ひげを生やした、見るからに貧乏そうなこの男は、とある劇団の舞台監督だった。 「当たり前だ。ここのところ、お前の作る舞台の評判は最悪。客はこれっぽっちも入りゃしねぇ。お陰で劇団は赤字まみれ……むしろここまで我慢してやったことに感謝してほしいね」  その舞台監督に呆れたように言うのは、この劇団のパトロンだ。  彼は、劇団の解散を告げにやって来たのだった。  舞台監督はパトロンの前に膝をつき、懇願した。 「お願いします! 次の舞台は……絶対に成功させますから! そのための脚本ももう完成しています!」  舞台監督はそう言うと、パトロンに台本を一冊差し出した。  パトロンはそれを受け取ると、さっと中に目を通す。  脚本のタイトルは『鏡の天使』。  歌手を目指すヒロインの前に現れた謎の男、そしてヒロインの幼馴染との三角関係を描いた物語だ。  やがて、パトロンは台本を閉じ、はあ、とため息をつき舞台監督に告げた。 「……分かった。もう一度チャンスをやる」 「ありがとうございます!」 「この舞台で劇団の評判を上げろ。結果次第で、解散を考え直しても良い」  パトロンは舞台監督にそう言うと、劇場を出ていった。  残された舞台監督は考えた。 「といっても……さっさと劇団を見限って、止めてしまったメンバーもいるし人手が足りないな……」  困った舞台監督は、薔薇十字教団に助っ人の依頼をすることにしたのだった。
タランテラの舞踏祭
簡単|すべて

帰還 2018-10-04

参加人数 8/8人 柚烏 GM
 ――そこかしこで焚かれた篝火が、天を焦がすようにあかあかと燃えている。  頭上に重くのしかかる暗夜を祓う為に。或いは闇に乗じて忍び寄る、冷たい死の腕を振り払う為に。 (ああ、どうかこれ以上、大切なひとを連れていかないで)  毒蜘蛛にも例えられた疫病を、ひとびとは踊ることで鎮めようとした。踊って踊って踊り狂って、毒にその身が侵されてもなお、苦しみながら踊り続けた。 (……運命に逆らえぬのなら、せめて最期まで共にいさせて)  切ないまでの激情を抱いて、踊り続けた恋人たち――そんな彼らの想いが奇跡を生んで、病は街から姿を消したと言われている。  タランテラの舞踏と語り継がれるそれは、今は賑やかな舞踏祭となって、ひとびとに希望を与えているのだ。 「場所はルネサンス南部、農業が盛んな街になりますね」  教皇国家アークソサエティにある、薔薇十字教団本部に持ち込まれた依頼のひとつを、ゆっくりと教団員が読み上げる。  ――タランテラの舞踏祭。そう呼ばれる祭りが近々開催されるので、是非エクソシスト達の力を借りたいと言うのが依頼の内容だった。 「篝火を焚き、夜を徹して祭りが行われて。街は音楽に包まれ、ひとびとは踊り、歌い、隣人と語り合う……とても賑やかな雰囲気のようですね」  とは言え、祭りの発祥は哀しいものだ。嘗て流行り病が街を襲い、次々にひとびとが命を落としていった。蜘蛛の毒に例えられたその疫病を鎮める為に、皆で踊り続けたのがそもそもの始まりだと言う。  ――しかし、病の勢いは止まらなかった。そうして病魔に蝕まれた恋人たちが、最期まで共に居たいと夜を徹して踊り続けた。 「その互いを想う気持ちが、奇跡を生んだと言われています。夜が明けた時、ふたりの身体からは病魔が去り、以降『蜘蛛の毒』で倒れる者は出なかった、と」  あくまで伝承に過ぎないが、この逸話を元にして、疫病を鎮める為に祭りが行われるようになり――そして今は、恋人たちの絆を深める意味も込められるようになったのだとか。 「大切なひとと一晩中踊り続ければ、ふたりの絆は確かなものになるとかで。この祭りで意中の相手に告白したりする方も、居るようですね」  ヨハネの使徒にベリアルと、ひとびとを襲う脅威も大きい昨今――世界の救済を遂行する浄化師の皆に、是非とも祭りに参加して希望をもたらして欲しい。要約すると依頼は、そんな感じのもののようだった。 「契約によって結ばれた、喰人と祓魔人……。そこに、運命的なものを感じずにはいられないでしょうし、ね」  舞踏祭に参加するにあたっては、蜘蛛の意匠があしらわれた装束を纏って踊ること。そして、ふたりの絆を現わすような演出を加えて欲しい、とのことだ。 「例えば、ヴァンピールの方でしたら、毒を吸い出すような口づけを。デモンの方なら身体能力を活かして、パートナーを抱えて華麗に跳躍してみたりだとか。色々工夫してみるのも良いと思います」  ――何より一番大切なのは、心から祭りを楽しむこと。最後にそう言って、教団員は依頼の説明を終えたのだった。 (踊る、踊る)  ああ、死がふたりを分かつまで。どうかあなたは、この手を離さないでいて――。
夏の残響、小さな秋
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-03

参加人数 5/8人 月村真優 GM
例えば、朝早くに目が覚めた時。寝具の温もりを名残惜しく思うようになっていた、とか。 例えば、家を出ようという時。あれほど大音響で暑苦しく夏を謳っていた蝉の合唱が聴こえなくなっていた、とか。 例えば、ふと青空を見上げた時。うずたかく湧き上がる入道雲の代わりに、柔らかく薄く広がる鱗雲を見つけた、とか。 例えば、窓から道行く人の装いを眺めた時。いつの間にか長袖を多く見かけるようになり、彼らの纏う色合いも移り変わっていた、とか。 例えば、夕餉を何にするか考えながら影長く延びる帰路を急いでいた時。ふと、きのこシチューの匂いが鼻についてメニューが決まった、とか。 例えば、灼けつくような夕陽に胸を衝かれた時。ああこの時間にもう日が暮れるのだ、と時計に告げられた、とか。 例えば、夜空の月を二人で眺めた時。冷えた夜風に身を寄せ合って、ふと静けさが通り過ぎた時、響く虫の唄声が周囲を包んでいた、とか。 色々なきっかけがあるだろう。様々な光景が、音が、味わいが、香りが、肌に触れる涼やかさが、一つの事実をそれぞれのやり方で告げている。 秋の到来だ。 まだ紅葉には早く、夏の名残はまだまだ残っている。それでも日を重ねるごとに、確実に薄れていくだろう。 この夏はあなたたちにとってどんな夏だっただろうか。やり残した事はないだろうか。 この秋はあなたたちにとってどんな秋になるだろうか。やりたいことはなんだろうか。 少し、考えてみるのも悪くない。
お薬飲めるかな?
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-03

参加人数 4/8人 あいきとうか GM
 竜の渓谷とは、ドラゴンたちにとっての楽園だ。  管理者たちによって守られるその地では、様々な年齢のドラゴンたちが優雅に暮らしている。  そう。幼体のドラゴンも、数多くいるのだ。 「あれらもどうやら、ヒトの子とさして違わぬらしいのう」  疲れがにじむ声で、浄化師ユギルは言う。 「なにはなくとも知恵熱を出す。幼体と言うても、もうずいぶん生きておるはずじゃが、それはそれ」  明確な理由のひとつもなく、幼いドラゴン数体が一斉に知恵熱を出した。  とはいえ管理者たちもこの程度のことで慌てたりしない。なにせ祖先の代から幾度も発生してきた、よくある幼体ドラゴンの体調不良だ。成体のドラゴンでも、たまに風邪をひいたいりするのである。  慌てず騒がず、改良に改良を重ねた薬を管理者たちは知恵熱を出した幼体ドラゴンらに与えようとして、拒絶された。 「これまではそのようなこと、なかったそうじゃが。ほれ、事情が変わったからのぉ」  幼体ドラゴンは、浄化師を知ったのだ。  例の事件以後、薔薇十字教団と竜の渓谷の結びつきは一層強くなり、要請があれば浄化師が現地に赴くようになっている。  同族と管理者しか知らない幼体のドラゴンたちは、箱庭でもある楽園の外からやってくる人々に、興味津々なのだ。 「そういうわけで、吾らが赴いたのじゃが……。油断しておった。幼体と言えど、竜は竜じゃ」  ユギルのパートナーであるロリクは、幼体ドラゴンの歓喜の突進を食らって全治五日の負傷。  同行していた他の浄化師たちも、それぞれ知恵熱を出している幼体ドラゴンたちの歓待を受けて、即座に病棟送りになった。  かろうじてユギルだけが五体満足で逃げ帰れたのだ。 「よいか、可愛い子らよ。くれぐれも気をつけて、仔竜どもに薬を飲ませるのじゃ。でなければ間抜なロリクの二の舞……ぷ、くすくす。おっといかん、本音が……。あれは、管理者らの手からはどうしても飲まぬと駄々をこねておる。吾らに構うてほしいのじゃろう」
シェガー・ナイト・パーティ
とても簡単|すべて

帰還 2018-10-02

参加人数 8/8人 北野東眞 GM
 おんなのこはなんでできているの?  それはね、甘い、甘い砂糖菓子で出来ているの! ●  今回の指令は女子限定なんだ、とロリクが口にした。  え、俺らいますけど……とパートナーと一緒にきた男性陣は困惑した。 「まぁ聞け。今回お前らに行ってほしいのは、とある屋敷だ。  その屋敷の前の持ち主はさる貴族で、一人娘がいたんだが、病弱な少女は病であっけなくなくなった」  病弱である少女は一度も屋敷の外と出たことがなく、広い世界を自分の部屋の窓から眺めて過ごしていた。  少女が知るのは窓からの変わる季節と本で得た知識、たまに聞こえる外の楽しそうな音ばかり……。 「その貴族は娘がなくなった悲しみに屋敷を手放した。その屋敷は多くの人の手に渡ったが……そこから問題が起こった。  その屋敷には少女の呪いがかかっていたんだ。呪いといっても些細なものだ。  ときどき少女の笑い声や歌声、ものが移動していたりとかわいらしいものだが、このままでは不気味がって屋敷に持ち手がつかなくなる。  で、お前らの出番だ。今回、お前らにしてほしいのは、ずばり! 女子会だ」  はい?  真面目に聞いていた浄化師たちは目をぱちぱちさせる。 「つまりな、この女の子は友達がほしかったのさ。その友達と遊んだり、甘いお菓子を食べたりしてみたかったのさ」  けど、どうして女子会?  もし楽しい経験やそんな雰囲気を出すなら男性がいてもいいんじゃないの? と当然の疑問。  そして男性陣たちもそうだそうだと視線を向けてくるのにロリクはため息をついた。 「それがな、どうもその死んだ少女はシャイらしいんだよ。男がいる、とかそういう気配があると物音も笑い声も一切聞こえないんだ。  そら、まぁ、死ぬまで狭い部屋にいて外を眺めていたんだから知らない男がいたらびっくりしちまうだろう。  つまり、この女の子は同性のお友達と過ごしてみたいっていう気持ちがあったのさ」  ああ、そういうことか。 「今回お前たちはこの屋敷に泊まり込んで、女子会をする。ここに集まったメンツで好きなように遊べばいい。  ときどき笑い声や歌声やいたずらがあっても、それは女の子が一緒に楽しんでいるのだと受け止めてやれ。  楽しい思い出があれば、この子の呪いも消えるだろう。で、ここに集まった男性たちは昼間に女性陣がある女子会の準備の手伝いがメインだな。  あとは邪魔にならないように、端っこで男子会でもするか? うわ、むんむんしてそうだな」  失礼なー。いや、むんむんしたくない。男同士だって楽しいんだぞ。きっと、たぶん。 「はいはい。じゃあ、女性陣はどんなパーティをするのか計画して、買い出しやら準備をしてくれ。で、残った野郎ども、お前たちには別件がある」  なんですか、もう男同士、むんむんした男子会の準備でもしますよっ! 「男子会ってのは方便だ。女性陣に気付かれたらいけないからな。お前たちにはこっそりと屋敷の外で護衛をしてほしい」  護衛? 「実は、この屋敷に目をつけた終焉の夜明け団の魔術師がいる。そいつはこの屋敷の呪いを悪意で染め、利用しようとしているようだ。  たぶん、女子会を邪魔してくるだろう。お前たちはそんな悪党を陰ながら退治してほしいんだよ。  今回、女性陣は女子会……武器なんかは持たずに楽しむことで、浄化することに専念してもらう。だからこの護衛のことは内緒な?  だって、護衛されてるって知ったら、心から楽しむどころじゃないだろう?  それだと、たぶん、女の子の呪いは浄化できない。嘘偽りのない幸せな一夜が必要なんだ」  真剣に言われて男性陣たちは顔を見合わせる。なんか思った以上にこれってすごく重要な立ち位置じゃ? 「パートナーには内緒の任務、まぁ、せいぜい頑張って隠し通して指令を遂行してくれよ?」 ●  埃をかぶった屋敷のなかで女の子の声がする。  おんなのこってなんでできているの?  それはね、すてきなすてきなものでできているの!
君が好きなもの、なぁに?
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-30

参加人数 5/8人 北野東眞 GM
 今日も今日とて指令を受けにエントランスへと行くと、いつもは指令発行受付口にいるロリクと、調査員のユギルを見つけた。  この二人は浄化師兼夫婦だ。現在は第一線をひいて仕事がそれぞれ異なるため、一緒にいないことが多い。  そのため、こうして二人で一緒にいるところを見るのは稀だ。珍しい。 「ほら、お前の好物のおにぎりにおかかいれといたからな。腹が減ったら食えよ」 「うむ。うむ。うむ!」  ロリクが差し出す包みをユギルが嬉しそうに受け取っている。  あー、お仕事で遠方に行くユギルさんの見送りかぁ。  お弁当を渡していていいなぁ。  浄化師たちが微笑ましく見ていると。 「む。子らか。……指令を受けにきたか? 精進するとよい。……この弁当は吾のぞ」 「誰もとらねぇよ。お前ら、ちょうど、護衛の指令があるんだ。それをまわしたい。今日中には終わる依頼だから、そこまで張り詰めなくていい。ただ昼までかかるから弁当もっていけよ?  あ、そういえば、お前らってパートナーの食の好みとか知ってるのか?」  ロリクがなにげなく口にした言葉に、それぞれ顔を見合わせる。  食の好み……。 「その顔だとないみたいだな。まぁ、ほとんどの浄化師たちが寮生活だもんなぁ。料理長がいろいろと用意していつもおいしいもの食べられるからなぁ。……今回回す指令、実は出発まで時間の余裕があるし、今日の昼は互いに弁当作って食べさせあいしてみたらどうだ? 相手が普段どんなものを食べているのか、食の好みを知るってのはわりと大切だぞ~」
腐敗したもの
普通|すべて

帰還 2018-09-29

参加人数 8/8人 三叉槍 GM
●二度目の生 「おはようございます」 「ああ、おはよう」  一人の青年が爽やかに挨拶をし、初老の男性が手を上げてそれを返す。どこにでもある日常的で牧歌的な風景。  この青年の名はサルベル=ニルガン。  彼は通常の人間ではない。一度命を失い、そしてそこから帰還した者。いわゆる『アンデッド』である。 「今日も森へ行くのかい?」 「ええ、僕達も日銭は必要ですからね。貧乏暇なし、です」  男性の問いに笑顔で答えるサルベル。  彼はこの村で木こりの仕事をしている。森に一人で赴き、木を切り倒し月に2度来る行商人に買い取ってもらう。その繰り返し。  一人で行動するのは彼の性に合っていたし……正直言うとあまり村人たちと顔を突き合わせて行動するのは気が引けた。  アンデッドがゾンビのような死者ではなく、蘇った生者であるという認識が一般的になったのは比較的近代である。  今では大規模なお祭りが行われるほど受け入れられたその認識であるが、この村のような都会との情報の断絶のある田舎の村では未だに根強い差別が残っていることが少なくない。  サルベルも露骨に石を投げられたりといった直接的な暴力はまだ受けてはいないが、すれ違う際に避けて通られたり、店に入る事を拒否されたりという嫌がらせは度々受けていた。  それでもなお彼がこの村に留まっているのはこの村が恋人の故郷だったからである。  アンデッドは強い怨念や執念により魂が死を拒む事により生まれるという。  彼の場合は恋人の存在がそれであった。  彼女と一緒にいるときに突然ベリアルに襲われ、彼女を逃がすために犠牲になったのが、彼の一度目の死。  その後、彼女への想いから二度目の生を受け起き上がった彼だったが……しかし、間に合わなかった。  彼は生前よく話していた彼女の故郷に彼女を弔い、そしてここで暮らし彼女の墓を守っていくことを決めたのだった。 「なら、気を付けるといい。最近、森に良くないものが出るという噂がある」  その中でもこの男性はほぼ唯一と言っていい、この村でサルベルに友好的な人間である。  彼にはとてもよく助けられている。サルベルは彼には内心とても感謝していた。 「よくないもの?」  男性の忠告に耳を傾ける。日々何もないことが特徴とまで言えるようなこの村ではそういった話は滅多にない。  特に村人との交流のないサルベルには、ほとんどそういう話は入ってこない。故に非常に気になる話題だった。 「熊がね」 「熊が現れたんですか?」 「いいや、熊が――食い殺されていたらしい」 「……なるほど」  この近辺で通常気を付けるべき動物と言えば熊である。  逆にいえば熊にさえ気を付けていれば大した危険はないし、熊以上の脅威も少ない。  その熊が何者かに殺されている。  確かにそれは気を付けるべき事案であろう。 「わかりました。気を付けましょう。貴重なお話をありがとうございます」 「……サルベルくん」  ぺこりと一礼しその場を去ろうとしたサルベルの背中に男性が改めて声を掛ける。  その声音は今までのものとは違い、どこか真剣みを帯びた低いものだった。 「娘の事はもういいんだ。君は第二の生を得た。こんな狭い村など捨てて……もっと自分の生き方をしなさい」 「……僕は、この村のこと好きですよ」  そう言ってにこりと笑顔を見せて去るサルベルに、男性はもう何も声を掛けなかった。 ●疑わしきは 「アンデッドが夜な夜な化け物に化けて暴れている?」  忙しい業務の中、わざわざ至急と注釈をつけて送られてきた報告書を見て教団付きのマドールチェの男は眉をひそめた。 「そうなの~。大変そうネ~」  その内容に能天気に心配する助手の娘に男はため息を吐いた。 「そんなわけがあるか。十中八九勘違いか、何らかの悪意だ」 「え? そーなの? でも一応目撃証言もあるみたいだけど」 「ああ、あるな。人間程度の身長で大きく太った体形。そして、腐った死体のような臭いと外見。これはゴールの特徴だ」 「ゴール?」 「ゾンビの発展形だ。当然アンデッドとは違う。大方、動く死体という外見から勝手に関連性を想像したんだろう」  マドールチェの男が身長に釣り合わない大きな椅子に腰かけ息抜きの為のコーヒーをすする。 「まあ、俺の知らないところでアンデッドをゴールに変質させる大魔術があるという可能性もゼロとは言わんが……あくまでゼロとは言わないというだけの可能性だな」 「ん~、それじゃあ、どうするの? 差し戻す?」 「いや……恐らく実際に被害があるのは本当だろう。今のところまだ人的な犠牲が出ていないから収まっているが、もしこのまま放っておいて誰か犠牲者が出た場合……面倒なことになる」  わざわざ至急とまで付けてアンデッドの青年に対し、大した証拠もなしに名指しで依頼を出してきた連中である。  そこに被害者が出てきたとき、『推定有罪』の青年に対して彼らがとる行動などおおよそ想像がつくというものだ。 「事態は一刻を争う。わざわざ差し戻して書き直させる時間はない。この際、この依頼に乗ってやろう。無論、こちらとしても注釈は付けさせてもらうがな」
旅立つ友にはなむけを
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帰還 2018-09-28

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 枯葉によく似た色の、美しいドラゴンが憂いの息をつく。 「私はね。ヒトになりたかったのだ」  彼はもうじき寿命を迎える。ここで朽ちることも霊廟に向かうこともできたが、彼は多くのドラゴンがそうであるように、薔薇十字教団にその身を捧げることを選んでいた。  ときがくれば、自分もそうするのだろう。自分も彼も、ヒトの子らを嫌ってはいなかった。はかない一生を懸命に生きる、花のように美しい命の糧になることに、疑問はなかった。 「ヒトは魔法を扱えず、空も飛べないというのに? 百年にも満たぬうちに、死ぬというのに?」  そう、ヒトははかない。アンデッドでさえ、ドラゴンから見ればか弱い。  美しいとは思うが、そうなりたいと考えたことはなかった。  彼は笑う。 「構わぬ。ヒトになれるなら、私は魔法を捧げよう。翼を落とそう。牙も爪もくれてやろう」  その代わりに。 「ヒトの喜びを教えてくれ。短き生涯で得る美しきものを、醜きものを、苦しみを、喜びを。私も感じたい」  ニーベルンゲンの草原に風が吹く。咲く花々が舞う。ほんの少し冷たい空気が、秋であることを告げている。 「私も、ヒトのように笑って悲しんで、花のように生きたかった」  足音が聞こえた。ワインドと、彼が連れてきた浄化師たちの足音だ。 「ではな」 「……ああ。さらばだ、グレーテル」  名をねだった彼にその記号を与えたのは、ワインドだった。グレーテル。ヒトが書き記した物語に登場する、少年の名らしい。  グレーテルがいなくなった草原で、私は天を仰ぐ。青く高い空だった。 「――――」  ひとつ、声を。咆哮でも囁きでもない、音を。  ヒトになりたいと言ったドラゴンを想う。誇りを捨てたわけではなく、ただ夢を見た枯葉色のグレーテルを想う。彼はもう、あまりに長い命を全うしたころだろう。 「…………」  私に名はない。ヒトになりたかったわけでも、必要としたわけでもないから。いるか、と聞いたワインドに、いらない、と応えたのだ。 「ワインド」  息を吸う。吐く。ひやりと心地よい空気だった。  旧友が二度と吸うことのない、空気だった。 「ワインド! 浄化師をここに! 頼みがある!」  宙を舞い、私は声を張り上げる。集落の建物から出てきたワインド・リントヴルムは、何事かと驚いていた。 「弔いを。我が友のために、手向けの花を。ヒトがヒトにそうするように。――嗚呼、我が爪では叶わぬことよ」  岩を砕き肉を裂くことはできるのに。  亡き友のための花束ひとつ、私は作れない。
ダンジョンに挑戦しようLv2
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帰還 2018-09-28

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 栄光と挫折が入り混じり、熱気と狂騒に浮かれる冒険者達が集まる場所。  それが冒険者ギルド「シエスタ」だ。  酒場を兼ねた情報交流の店だけあって、いたる所で酒盛りに余念がない。  中には、酒をおごる者も。  もっとも、おごる理由が純粋な好意だけとは限らないのが、シエスタという場所ではあったが。 「どうぞどうぞ。今日は私の奢りです」  にこやかな笑顔に含みのある眼差しを混ぜ合わせ、ギルドの紹介業者であるクロアは、テーブルに就いた冒険者達に気前よく言う。 「わぁ、嬉しい。タダってことなんだ、クロさん」  冒険者の1人、20そこそこの見目良い美女といった姿をしたセパルがクロアに返す。 「タダより怖い物は無いって言うけど、その辺どうなの?」 「いやですねぇ」  笑顔でクロアは言った。 「おごるだけでタダじゃないですよ」 「必要経費ってことね。おごるから仕事引き受けろってことでしょ?」  そう言いながら店のウェイトレスを呼んだのは、セパルの仲間である涼やかな美女セレナ。 「セパルはカルアミルクで、私はサザンオレンジで。ウボーは、どうする?」  セレナに訊かれたのは、冒険者仲間の最後の1人であるウボー。  20代半ばの厳ついにぃちゃんといった見た目のウボーは、見た目に反して甘めのお酒を注文する。 「ルシアンを頼む。あとツマミにチーズとサラミと枝豆」  注文を受けたウェイトレスが離れたのを見計らって、セパルはクロアに言った。 「それで、今日は何の依頼? 最近、儲かってるみたいだけど」 「ええ、お蔭さまで。貴女達が手に入れてくれた試練の塔までの地図と内部の情報は、よく売れましたからねぇ」  いまクロアが口にしたのは、以前セパル達が浄化師達の手助けを受けて訪れたダンジョンのことだ。  島ひとつが丸ごとダンジョンとして認定されている虚栄の孤島。  その中にある魔法使いが建てたと言われている試練の塔。  そこに行くまでの安全な道のりと、塔内部の情報を記した物をクロアはセパル達から買い取り、それを写した物を冒険者達に売ったのだ。 「貴女達への情報料が、思いのほか安かったですからねぇ。お蔭で薄利多売が出来ました」 「お礼なら、あの時一緒に行ってくれた浄化師の子たちにも言ってあげて」  セパルは、お酒を持って来てくれたウェイトレスに笑顔で返しながら続けて言った。 「途中までの道のりやダンジョンの様子を一緒になってメモを取ってくれたからね。あの子たちの頑張りを、勝手にこっちがお金に変えて受け取る訳にはいかないもの」 「おや、人が好い」 「そういうクロさんだって、薄利多売にしてくれたんでしょ?」 「その方が、長い目で見ると旨味がありましたからねぇ」 「どういうこと?」  カルアミルクを一口飲んで尋ねるセパルに、クロアは笑みを浮かべ返す。 「薄利多売にすれば、それだけ多くの冒険者が試練の塔に行ってくれますから。あのダンジョンは、2階まで踏破する度に魔結晶が手に入りますからねぇ」 「……なるほど。魔結晶の売買で儲けるってことか」  唐辛子の効いたサラミを摘まみながら、クロアの言葉に返したのはウボーだった。 「直接売買しても良し。取引情報を売り買いしても良し。トーマス・ワットとセレスト・メデュースが関わって蒸気船が出来たらしい、という噂話も聞くしな。その蒸気船の燃料に魔結晶が使われているなら――」 「魔結晶の相場は大きく動くってことですからねぇ」  クロアは、ほど良い塩味の枝豆を摘まんでから続けて言った。 「上がるにしろ下がるにしろ、動きさえあれば儲けられますから。そのためにも、試練の塔で魔結晶を冒険者の皆さんには取って来て欲しいんですがねぇ」 「なにかあったの?」  セパルの問い掛けにクロアは返す。 「少しばかり、試練の塔に出て来るゴーレムに可笑しなのが混ざるようになったらしいんですよ」 「オカシイって?」  セパルの問い掛けにクロアは応える。 「ゴーレムを破壊すると、魔法らしい何かが掛けられるらしいんです」 「それって、何か危ないことでもあったの?」  これにクロアは返した。 「ネコ耳が生えるらしいです」 「ネコ耳」 「あと語尾が、にゃーになったり」 「にゃー」 「バニーガール姿になったりするそうですよ」 「コスプレ?」  クロアの応えを聞いて、セパルは頭痛を堪えているような表情になる。 「ホント、イイ趣味してるよ、あの塔を作った魔法使い」 「愉快な人だったんでしょうねぇ」 「人だったのかどうかは知んないけどね。それで、そういうのが出たからって、何が問題なの?」  セパルの問い掛けに、クロアは変わらぬ笑みを浮かべて返した。 「気味悪がって、試練の塔に行ってくれる冒険者が減ってるんですよ」 「それはしょうがないんじゃない?」  サザンオレンジを飲み干したセレナがクロアに返す。 「浄化師みたいに、怪我とかした時に助けてくれる当てがあるなら良いけど、冒険者は自分の身一つだもの。その分、慎重になるわよ」 「もっともで。だから今回も、浄化師の方達に御足労願っていただこうと思ってるんですよ」 「……試練の塔の魔法のトラップを調べて来て貰うってことね。で、その案内と、その時の情報を仕入れて欲しいってこと?」  セパルの問い掛けにクロアは頷いた。 「ええ、そういうことです」 「手伝ってくれるかな?」 「少しでもやる気を出して貰えるように、依頼料は弾むつもりです。というわけで、よろしくお願いしますよ」  にっこり笑いながら言うクロアに、肩をすくめるようにして頷く冒険者達だった。  そんなやり取りがあった数日後、教団に一つの指令が出されました。  内容は、次の通りです。  試練の塔と呼ばれるダンジョンを調査して欲しい。  試練の塔の概要は次の通り。  魔法使いが作ったとされる塔。  現在は、2階までしか進めない。  各階の広さは、50m×50m。  1階は、訪れた人数×2の小型ゴーレムが出現する。  ゴーレムは対応する人物の不利属性を持つ。  ゴーレム出現時に、落とし穴で地下に落とされる可能性あり。  地下は、落下の瞬間は床がぽよぽよしてるので、落ちても怪我はしない。  1階のゴーレム全てを破壊すると、2階への階段が降りてくる。  2階に移動すると、1階と同じように訪れた人数×2の小型ゴーレムが出現する。  1階と同じく、対応する人物の不利属性を持つ。  一定時間以内に全て倒し切れないと、追加でゴーレムが発生する。  2階に出現したゴーレム全てを倒すと、地下に落ちた者達は解放され、その際に魔結晶を手に入れることが出来る。    なお、ゴーレムを倒すと何らかの魔法的なトラップが発動される可能性あり。  どんなトラップなのか、詳細を求む。  指令書の内容は、こんな感じでした。   魔法のトラップは、どうやら大したことは無いようですし、出て来るゴーレムもそれほど強くはないので、新規に浄化師になった人にもお勧めとの事でした。  この指令に、アナタ達は――?
我が名は汝のイージス
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帰還 2018-09-28

参加人数 2/8人 北野東眞 GM
「今回任せる指令は……ここ最近浄化師としての志しに悩むことも多くなったし、いいチャンスだろう。  お前たち、アムネシア・ベリアルの疑いのある者の対応にあたってほしい」  ロリクの言葉に集まった浄化師たちは緊張の面持ちになる。  浄化師には大抵自分の生きる道があるのだが、あまりにも意識しすぎると精神的におかしくなってしまうことがある。 「今回、俺の同期なんだよなぁ」  え、ロリクさんの知り合い! 「その問題の奴のパートナーが今来てる。ほら挨拶しろ」 「あらあら、あらあら、みなさん、かわいらしい人たちねぇ」  車いすに乗って、点滴している婦人……って、え! 病人ですよ。この人! 「はじめまして。私、アライブは墓守のエマです。今回はよろしくお願いしますね。……ええっと、こんな状態でごめんなさい。私、もともと体が弱いうえ、ごぼっ!」  血、血を吐きました!  ロリクさん、この人、大丈夫ですか。 「エマは昔から病弱、貧弱、貧相、教団では知る者はみな吐血のエマと呼ぶ女だ。  あ、吐血については気にしなくていいぞ。いつものことだ。墓守としては優秀なんだが……いつもよりひどいな、なんで車いすに点滴?」 「それはおいおい話しますけど、今回は私のパートナーを助けるのに協力してほしいんです」  エマのパートナーであり、喰人の名前は陸奥という。  アライブは悪魔祓い。隠密行動を得意とし、スナイパーとして優秀だ。また絶対に前線に出ないことで一部の浄化師たちには知られている。  戦い方も、エマが墓守として注意と防御を引き受け、その隙をついて陸奥が敵を根絶やしにするという息の合ったコンビネーションを発揮する。 「陸奥は自己防衛を信条とし、絶対に自分から敵に近づかないし、見つからないようにしていた。  自分が見つかれば味方全体を危険に陥れることを危惧して……ひどく慎重な奴だったんだが」  ただし。とロリクが付け加えた。 「あのバカ、最近、なぜかその戦い方をせずに前線に出まくっているんだ」 「理由はわかっているんです。私が指令中に倒れてしまってベリアルに襲われそうになったんです。  そのとき、陸奥は私や仲間を守るために前線に出て戦って……。  もともと、ベリアルに生まれた村を滅ぼされて必要以上に失うことを恐れていたんですけど……、  それから陸奥はぼーっとすることが増えて、必要以上に手を洗ったり、眠れてないことがあって」 「典型的なアムネシア・ベリアルの症状だな。といっても、陸奥の場合は幸いにもまだ危険領域に来たに過ぎない。  今回山のなかにベリアルが出たんだが、その退治に陸奥が参加することになっている。  お前たちはベリアルを倒し、さらに彼に自己防衛をとるように促すこと」 「すいません。私も一緒にいきたいのですが、こんな有様で……ごふぅ」 「おい、もともと体が弱かったが、どうしたんだ、本当に」 「前の指令で倒れた原因にもあるんだけど……実は、妊娠しちゃったみたいなの」 「は」  は。  え、あ、あの、えーーー! 「だから、陸奥との赤ちゃんが出来ちゃったのよ。んふふふ、結婚してはや十年、諦めていたんだけど、ようやく!」 「お、おめでとうって、いまいうべきなのか! え、まて、それ、陸奥は」 「……言おうとしても、ぼーっとしていて、それに私が倒れてからますます混乱しちゃって、言うタイミングが」 「……」  ……。えーと。これってさりげなく重要なことに重要なことが増えましたよね。ロリクさん。 「お、おう。ど、どうしよう、これは」  こつん、と足音がしたのに、はっとして全員が振り返る。  黒い外套に身を包んだ、白髪の男がやってくる。整っている顔立ちはどこか陰気ともとれるほどに疲れが滲んでいる。  ぽたり、と何かが落ちた。  血だ。  よく見れば彼の両手は血まみれで、包帯がまかれていた。 「……エマ? 君は安静にしないといけない……と、先生が……っ……病室にはやく……手を、手を洗わないと、きたない……」 「陸奥、お」 「ロリク? ……今回組む浄化師たちだな? ベリアルとの戦闘……せいぜい、気をつけるんだな」  ぼんやりとした視線をさ迷わせ、陸奥はそれだけいうと報告書の提出があると口にして行ってしまう。 「ありゃ、思ったよりも重症だな。お前ら、今回は他人事じゃない。今後のことも含めて、よくパートナーと話し合って、あいつの対応にあたってくれ」 「すいません。よろしくお願いします。私に出来ることはなんでもご協力しますから」
生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ
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帰還 2018-09-28

参加人数 4/8人 oz GM
「ポール・キュヴィリエ」  ヤコブ・フェーンは不機嫌そうに一人の男の名を読み上げる。 「そいつは浄化師の素質を持つ男だ。……ビッシュ孤児院と自警団の両方から通報があった」  ヤコブはいかにも中間管理職といった中年男性だった。 「貴重な浄化師候補だ。どんな手段でも構わん。連れてくるんだ、分かったな」  誰かが説得では駄目ですか、と発言する。ヤコブは鼻で笑って切り捨てた。 「一度接触したようだが、手負いの獣のような有様だったらしい。酒浸りの冒険者一人すら、連れて来られんとは嘆かわしい……浄化師の質も落ちたものだ。我々司令部がこれだけ頑張っているというのに、全く情けないとは思わんかね」  ヤコブは嫌みったらしい言葉を投げかけ、浄化師の反応を楽しむように口の端を上げた。 「教団に入るぐらいなら死んだ方がマシだとまで吠えたらしい。これは教団への冒涜だ! 縄にかけても連れてこい!」  自分の言葉に酔っているのかヤコブは浄化師達に居丈高に命令を下す。  そんなヤコブに反論するように、嫌がる相手を無理矢理連れて来るなんて、と非難の声を上げる者もいる。 「なら、死んでもいいんだな?」 「え?」  その場にいた浄化師達が言葉を失う。すぐにどういう意味なのかと喰ってかかる前に、ヤコブが口を開いた。 「すでに魔力の消費に体が追いつかずパンク寸前だ。お前達が行かなければ、いつ死んでもおかしくないだろうな」  浄化師の素質を持つ者は、常人より多くの魔力を保有する代わりにひどく短命だ。  その理由は、限界を超えて生成される魔力に体が耐えきれないからだ。  魔力パンクでの死亡率は100%だ。浄化師が教団でしか生きていけないのは、その為だ。  魔力パンクする前には、胸の付近が苦しくなったり、動悸・息切れが引き起こったり、自身の意志で魔力をコントロールできなくなる等の症状が現れる。  さらに最悪なのは、コントロールできなくなった膨大な魔力に引き寄せられて、ヨハネの使徒に通常以上に狙われやすくなる。下手すれば、本人だけでなく周辺の者にも危害が及ぶ。  だから、浄化師は生きる為だったり、身の回りの者を巻き込まない為に否応なく教団の門を叩く。  教団に所属すれば、戦闘員として扱われる。魔力を安定させコントロールする術と衣食住の保証が与えられる代わりに、ヨハネの使徒とベリアルの討伐に駆り出されることになる。それを嫌がって浄化師になるのを拒む者も少なくない。 「そいつは樹梢湖に何か用でもあるのか頻繁に潜っているようだ。樹梢湖から帰ってきたところを勧誘したが逃げられている。さらに樹梢湖付近の村でよく目撃情報が挙がっており、樹梢湖内に逃げられないように自警団の者に見張りを立たせている」  ヤコブは面倒くさそうな顔を隠さず、話を続ける。 「幸いにもヨハネの使徒の目撃情報はないが、いつ現れてもおかしくないだろうな。村人を危険に晒したくなければ、早急に連れてくるんだな」  ヤコブがまるで他人事のような言いぐさで書類をめくる。 「逃げ回る馬鹿者を生かしたいなら、教団に連れてくるしかない。浄化師は教団でしか生きられないのだからな」  残酷な事実を何の感慨もなく浄化師に向かって言い放つ。 「すでに他の教団員が出向いたが説得に失敗しているんだ。説得ができるものならしてみるんだな。私はできない方に賭けるが」  意地悪げに眼を細めると、立派に整えられた髭を撫でる。 「そいつの出身の孤児院長も説得したようだが、無理だったようだなしなあ……お前達が説得失敗するのが目に浮かぶようだな」  ヤコブは浄化師達が説得できず、武力行使で連れてくると確信しているようだった。 「殊勝なことに死ぬ前に随分と院長に金を預けていったようだ。説得できないのはお前達のせいだが、必ずそいつを連れて帰ってこい。くれぐれも私の顔に泥を塗る行為はするんじゃないぞ、いいな!」  長身痩躯のヤコブは壇上から見下ろすように命じる。  浄化師達は無言のまま。それに焦れたヤコブは、 「私なら簡単に連れて来ましょう、と上司に言ってしまったんだ。必ずその男を連れてこなければならん!」  ぽろりと自身の事情を暴露したことにも気づかずに感情的に叫ぶ。 「いいか、絶対に失敗するんじゃないぞ! 分かったなら、今すぐ行け! さあ、行くんだ」  そうヤコブは部屋の扉を指さすと、犬でも追い払うかのようにシッシッと追い払った。  後味の悪い任務になりそうな予感に、浄化師達は重いため息をつくのだった。
秋の収穫祭プロデュース!!
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帰還 2018-09-27

参加人数 2/8人 せあら GM
 ある昼下がりの午後。  教団に一人の少女から、依頼が持ち込まれた。  ふわふわとした長い金髪に、頭には白いリボンを付けた可愛らしい少女だった。  その少女は困った顔をしながら、教団員に言った。  少女の話を聞けば何でも、少女が住んでいる村では毎年収穫祭が行われていると言う。  収穫祭は村で収穫される果物を使ってタルトを作り、歌や劇、色んな催し物をして村人たちが楽しむ祭りとなっていた。  だがあまりにも自然豊かな村である為、年々村を出ていく若者達が多かった。  その為今まで収穫祭で執り行われていた歌や劇、催し物は全て廃止になり、収穫祭では村人たちで名物のタルトを食べて雑談するだけのつまらない祭りとなった。  少女……アリスは自分の祖父である村長に収穫祭を変えるように掛け合ってみるが、 「若者がいないから仕方ないじゃろ。それに子供たちも大好きなタルトが食べれれば満足なんじゃよ」  と言って全く聞く耳を持たない。  困り果てたアリスは今回浄化師たちに協力を求めて、依頼をしてきた。 『昔みたいな皆の笑顔で溢れる収穫祭にしたいんです。浄化師さん、どうかお願いします』  教団員から指令内容を聞いた貴方たちは────。
秋の訪れ
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帰還 2018-09-25

参加人数 6/8人 茸 GM
 穏やかな日差しや心地良い風に秋の訪れを肌で感じる様になってきた、ある日のこと――。 「ゴホ、ゴホゴホっ……」  一室で、苦しそうに咳き込む女性が一人。 「コホッ。ハァ……まさか風邪を引くなんて……」  彼女は白髪の混じった自分の頭を抱え、ぽつりと独り言を零した。  季節の変わり目は体調を崩しやすいというが、本当にその通りだと痛感する。  場所はアークソサエティの中心街から外れたとある小さな村。  その村で行われる秋の収穫祭も間近だというのに、何故自分は風邪など引いてしまったのかと、彼女は部屋から見える裏山を寂しげに見つめた。  畑にはお芋やセロリ、ニンジンなどの野菜が実り、その向こう側に見える山の麓には葡萄や林檎、栗の木なんかが少しずつ植わっている。  農作物を育てるのが好きとはいえ、色々植え過ぎただろうかと僅かに過ぎる後悔に「そんなわけない」と瞳を閉じた。  苗木から育てた作物は可愛い我が子も同然。 「きっと熱があるから、弱気になってしまうのね」  手塩にかけて育てた作物が、負担になるわけがないのだ。  だからこそ、心配は尽きない。  彼女は重い瞼を押し上げて今一度窓の外を眺めた。  夏が暑かった分、実りが早かったり水不足から枯れ始めている作物が多く目に留まる。 「樹木の葉が茶色くなりかけてるわね」  しかし、起き上がるのも困難なこの身体ではどうすることもできない。  なかなか取り除く事のできない倦怠感に、彼女は一人、大きな溜息を零した。 「そろそろ収穫してしまわないと、あっという間に冬が来てしまうわ」  どうしたら良いのだろう……。  それに加えて雲行きが怪しい。  天気の変わりやすい山は晴れていると思ったら急に雨が降り出したり、嵐にでもなろうものなら危なくて山に踏み入る事さえ困難だ。  ――カタカタ……。  吹く風が戸を叩く。 「シートを掛けて保護だけでも……ゴホゴホっ、……ああ、無理そうね……」  無理に起き上がろうとすると頭がズキンと痛み、身体が軋む。  再び布団に倒れ込んだ彼女は、打開策を必死に考えた。 「近隣の人に頼む?」  そう呟いてから溜息を漏らす。 (――駄目よね。みんなだって収穫祭の為に頑張ってるんだから。無理は言えないわ) 「やっぱり自力でなんとか……」  できていたら苦労はしない。  例え治ったとしても、短期間で全てを収穫するのは難しいだろう。  それでも諦めるなんてことはできなくて――。 「そうだわ! あっ……イタタタ……っ」  閃いたと上げた自分の声が頭にズキンズキンと響き、咄嗟に両手で頭を押さえる。 「うっ……。とりあえず、少し寝てからにしましょう……」  そうして、少し起き上がれるようになってから、彼女はペンを取ったのだった。  ――それから二日後。  教団に一通の依頼状が届けられた。  内容は、農作物の収穫のお手伝いをしてもらいたいとのこと……。  秋の収穫祭も間近なので、直ぐに出られる浄化師は依頼人の元へ向かい、手分けして収穫をお願いします。  依頼人が無事に収穫祭を迎えられるよう、精一杯尽力してもらいたい。
夏の終わり 秋の始まり 柑橘まつり
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帰還 2018-09-23

参加人数 5/8人 浅倉季音 GM
 教皇国家アークソサエティ「ヴァン・ブリーズ」の西。  柑橘生産の盛んなこの村では、夏の終わりに「柑橘まつり」が開催される。  夏の終わりは、秋の始まり。  村人達は秋の始まりに、神に無事の収穫を祈るのだ。  過去を辿れば村人達だけでおこなっていた、このまつり。  だが、現在は誰でも参加できる。  しかもだ。  数年前、このまつりで出逢った者達が結ばれ、話が広まっていった。  出逢いを求める者は勿論、愛しい者とともに参加する姿も、見られるようになったのである。  貴方も、そんな参加者のひとりなのですね。  さぁどうぞ。  この通りでは家の前に、各家庭ごとの屋台が並びます。  村人達が柑橘を使ったお菓子やお料理をつくりますので、お楽しみに。  まっすぐ進んでいただくと、村人達が共同で使っている倉庫があります。  壁にどどーんと柑橘の絵を描きますので、よろしければご参加ください。  あぁそうでした。  お連れさまとの縁結びをご希望でしたら、倉庫の手前を南に。  ちょうどいま手を振ってくれている、あの女性のいるところが受付です。  お好きな色の紐におふたりのお名前を書いて、柑橘の木に結んでください。  おふたりの幸せを、お祈りしておりますね。
夜長の閑談
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帰還 2018-09-23

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 焼けるようだった夏が終わり、涼しい秋がやってきた。  長かった日は短くなり、ふと気がつけば夜が訪れている。この日もそんな調子だった。 「眠れない」  教団寮の自室で呟く。もう何度、ベッドの上で寝返りを打ったことだろう。安眠作用があるというハーブティも飲んでみたが、どうやら今夜は効かないらしい。  気が昂っているのだろうか。そうなるようなことがあっただろうか。緊張か、興奮か。  そんなことを他人事のように考えながら、ナイトウェアを脱いで教団の制服に着替える。ふらりと司令部を訪れ、掲示板をぼんやりと眺めた。 「……あ」  夜警募集。日付を確認してみれば、今夜だ。  慌てて受付を見ると、眠そう顔をした司令部教団員と目があった。 「三時間ほど適当に巡回してください~。たぶんなにも起こらないので~」  なんて、適当なことを言ってくる。とはいえ浄化師は二人一組で行動するもの、と思っていたところで。  以心伝心でもしたのか。ぬっと隣に現れた人物が、あまりにも見慣れたいわゆるパートナーが、片手を上げた。 「奇遇?」 「どうだろうねぇ」  肩をすくめ、夜警の依頼を受ける。どうやら教団本部周辺の夜警担当だった警備員が何名か、風邪で休んでいるらしい。代役として浄化師を立てようというわけだ。  白い満月が空に浮かぶ夜。気の抜けた夜警の指令。  さて、なにを話そうか。
メディコ・デッラ・ペステの泡沫の夢
普通|すべて

帰還 2018-09-22

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
「お前たち、そろそろ、こういう仕事をまわそうかと思う」  エントランスにやってきた浄化師たちは、いつものように指令を受けようとすると、ロリクに呼ばれた。 「ちょっと精神的に危険なやつがいて、その対応をお願いしたいんだ。もしかしたらそいつは自分の行いに固執しすぎているのかもしれない」  自分の存在意義。  それにあまりにも固執しすぎるとそのことだけしか考えることができず、逆に蔑ろにすることで、どうしてこの世に存在するのかが見失い、精神が不安定となる。 「今回、気になっているのは今年の春に浄化師になったルイ・シュナイダーという男だ。  種族はヒューマン、もともと医者を目指していたそうだが……相棒はリリカ・ルルで、こっちはベリアルに村を滅ぼされたことから浄化師を目指してきた。  相性は悪くないんだが……リリカは無鉄砲でけっこう傷を作ることが多く、ルイはしょちゅう、彼女の治癒にあたっていたらしい。  その上、今年はタチの悪い夏風邪がはやってなぁ」  ああ、ロリクもかかっていたよなぁ。 「そう、それにリリカもかかったらしい。らしいと……曖昧なのは彼女は寮以外のところで暮らしていて、一週間ほど姿を見ていない。そして、ルイ・シュナイダーの姿も」  ふぅとロリクはため息をついた。 「ルイ・シュナイダーは病を治すことを志して浄化師となったんだ」  浄化師のなかでも人々の命を尊み、病を憎むことを行動概念、信念とする者が掲げるのが『病魔根絶』の精神だ。  自分の信念を蔑ろにすれば、その者は人を癒す意味を見出せず、己の命の尊さすら忘れて廃人となってしまう。  逆に人々を癒すことにのみ心を砕き、行動するといずれは正常をなくし、ささいな傷でもオペをはじめてしまうほどの狂気を出してしまう。 「先ほども言ったように、ルイは指令のたびにケガをするリリカや他の仲間たちの治癒に専念していた。  まぁもともと過去に起こったデス・ワルツを話で聞いて、二度と起こしたくないと思って医者志望となったそうだ。  医者志望だと、どうしてもあの事件のことを勉強するからな、人一倍病に対しては敏感になってしまうからなぁ。  しかし、今はペストにしろ、他の病気にもきちんと対処法があるんだが……彼はあまりにも命を守ることに固執しすぎて、常識を忘れ、  手段を択ばなくなっているのではないかと思われる。  ちょっと前から少し気にはなっていたんだが……お前たちにお願いしたいのは、リリカ・ルルの住まいへと訪れ、無事かの確認。  そしてルイがいれば、彼の状態を確認し、彼への説得を試みること。  リリカがいるなら彼女にも事情を説明し、一緒に説得にあたること。精神的に追い詰められて、精神が暴走状態にあるやつはベリアル化の可能性もあるが、  絆を結んだパートナーの声で戻ってこれる。ただリリカも突然のことでびっくりして説得もなにも考えつかない可能性は高いから、  お前たちがあれこれとアドバイスしたり、サポートしてやれ。  これは他人事じゃない。お前らだってある可能性があるんだ。今後のためにもきちんと対応してこい」 ●  光を嫌い、彼はカーテンをしっかりと閉めた。薄暗い部屋のなか。  彼はマスクをかぶる。自分が病にかかってはいけない。病から守らなくては。大切な人たちを。  強い香辛料の匂いが漂う、鳥のようなマスクをつけて彼は助けるべき患者を見る。 「だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ、たすける、たすける、たすけてみせる」  メスを握りしめ、彼は告げる。 「いのちをたすけてみせる。きみをすくってみせる。やまいよ、きえろ」  救うための、その指先は、黒く染まり、ひび割れていた。
スリーサイド・デスファイト
難しい|すべて

帰還 2018-09-22

参加人数 8/8人 黒浪 航 GM
 晩夏のある朝、霧深い森の中を、黒い外套に身を包んだ四人の男が音も無く駈け抜けてゆく。  一定の速度で、息も乱さず、木々の間を滑るように疾走していく彼らの姿は、さながら死神か、幽鬼のようだ。  全員が終焉の夜明け団の信者だが、巨大で異様な組織の中でも、彼らはひときわ異彩を放っている。  彼らは、組織の裏切り者や、敵対者の抹殺を主な任務として活動している信者たち――いわゆる処刑人、暗殺専門のスペシャリストなのだ。  当然ながら、その実力は折り紙つきで、彼らに狙われて命を落とさずに済んだ者は、数えるほどしかいないという。 (そろそろ、か……)  四人の先頭をゆくアインは、ターゲットが近いことを察して、後方の部下たち――ツヴァイ、ドライ、フィーアに注意を促すハンドサインを送った。  経験豊富で、普段は常に冷静沈着な三人の部下も、今回ばかりは内心の不安と緊張がはっきりと顔に表れてしまっている。 (まあ、無理もないな)  アインは、五感を研ぎ澄まして前方の気配を探りながら、乾いた唇を舐めた。    組織のアジトのひとつが、ひとりの女によって壊滅させられた――数日前、本部にその情報が届いた時には、アインも思わず自分の耳を疑った。  やられたのは、辺境にある小規模な拠点ではあったが、それでも常に十名以上の魔術師が所属し、防衛にあたっていたはずなのだ。それを、まさかたったひとりの女に潰されるとは――。  敵の正体は不明だが、相当な実力者であることだけは間違いない。  油断すれば、こちらがやられる――アインが額に浮いた汗を無意識に拭いながら、木々の間を抜け、小さな丘の上に出たとき――、 「待っていましたわ」  突然声がして、慌てて見上げると、丘の頂上にたっている若い女が、こちらを見つめて微笑んでいるのに気づいた。 「……っ!!!」  四人の男は驚愕し、不用意にもその場で硬直してしまう。 (ばかな……この俺が、まったく気配を察することができなかったというのか……)  アインは、信じられないような表情で女の柔和な顔を見つめる。  女の周囲には、キメラと思われる異形の怪物が、三体。  大きさは、大人の人間とほぼ同じ。爬虫類の顔と皮膚をもつ、二足歩行のモンスターだ。おそらくは、トカゲとサルを合成して生み出したキメラだろう。  あえて名付けるなら、リザードマン、といったところか――。  なるほど、キメラを引き連れていたのだとすれば、女ひとりにアジトが壊滅させられた、というのも納得がいく。 「……我々のアジトを襲ったのは、お前か」  アインの隣にたつツヴァイが、重たい声で訊くと、 「ええ、そうです」  着古した修道服に身を包んだ女は、金色の眼を細めて余裕たっぷりに答えた。 「なぜだ……なぜ、我々の敵となる?」  四人で一番若いドライが口を開くと、女は小さく肩をすくめた。 「ここで命を落とすあなた方が、それを知る必要はありません」 「なるほど……」  フィーアが殺気を放ちながら不気味な笑みを浮かべると、アインはしずかに腰のナイフに手をかけた。 「女……殺すまえに、お前の名を聞いておきたい」  アインの問いに、女は、軽く笑って、 「ルシア……それが、わたしの名です」  意外にも素直に答えた。 「そうか……。では、覚悟しろ。ルシア」  アインがそういって、ナイフを手に駈け出そうとした、まさにその時――、 「ま、待てっ!」  油断なく周囲に気を配っていたツヴァイが、緊迫した声をあげた。  アインがとっさに振り向くと、部下の視線の先に、今しがた森から出てきたばかりの一団の人間がいるのが目に入る。 「!? ……教団の浄化師が、なんでこんなところに……?」  アインが苛立たしそうにつぶやくと、 「わたしが呼んだのです」  ルシアが、金色の眼を細めて、嬉しそうににいった。 「なに……?」 「終焉の夜明け団のアジトを襲えば、あなたたちが追ってくることは、はじめからわかっていました。ですから、アジトを襲う前に、教団に情報を流しておいたのです」 「…………」 「わたしは、今まであなた方からただ逃げていたわけではありません。彼ら――教団の浄化師たちをずっと探していたのです。わたしに代わって、あなた方を倒してもらうために」 「なんだと……」 「あなたたちと、薔薇十字教団の浄化師……はたして、どちらが強いのでしょうね……」  ルシアは、頬に手をあてながら、不敵な笑みを浮かべる。  浄化師たちは、終焉の夜明け団の信者とおぼしき男たちと、キメラを従えている女を交互に見つめつつ、武器を構える。  数日前、「ソレイユ地区の北部にある廃村に終焉の夜明け団のアジトがある」という未確認の情報が教団の本部に入り、その真偽を確かめるために派遣されてきたのだが――どうやら、今回はあの女に利用され、上手く操られていたらしい。  まったく、不本意で癪に障ることこの上ないが、こうして終焉の夜明け団の信者と、禁忌魔術を使用する者を見つけた以上、浄化師としてやるべきことはひとつしかない――。 「面倒だが、両方やるしかないな……」  アインはナイフを構えつつ、部下たちに頷いて見せる。  ルシアと、教団の浄化師を同時に相手にするのは厳しいが、かといってここで尻尾を巻いて逃げ出すわけにもいかない。  見たところ、女と浄化師たちは、友好関係にあるわけでもなさそうだ。となれば、こちらにも十分つけ入る隙はある――。  朝霧の流れる草原の丘で、今、奇妙な三つ巴の戦いがはじまる――。
汝を守り、支えるもの
普通|すべて

帰還 2018-09-20

参加人数 6/8人 北野東眞 GM
「お前らは、自分の武器って大切にしているか?」  指令受付口でロリクが問うた。  浄化師たちの使う武器――魔喰器は、生け捕りにしたベリアルを武器へと変えたそれは魔術鍛冶職人ヴェルンド・ガロウなどの一部の腕のよい鍛冶職人によってつくられたものだ。 「魔術鍛冶職人はわりといるが、魔喰器を作れるのはとても少ない。それだけ大変難しい技術によってつくられている。  うん、たまに、ハリセーンとかよくわからないものがあるが、本当にたまによくわからないおたまとかあるが、あそこらへんはほんとよくわからないけど、ヴェルンドのおちゃめもたまに理解できないもんだ。疲れていたのか? いや、ほんと」  ロリクはこほんと咳を一つしたあと話を戻した。 「今回はその魔術鍛冶職人からの依頼だ。あ、といっても魔喰器を作れるやつじゃない。将来的にはなりたいとは口にしているが、将来的にどうなることやら」 「どうなることとはなんザマス! 僕は必ず魔喰器を作るザマス!」  いきなり声をあげたのは金髪に青い瞳、とがった耳の――エレメンツの青年だ。ほっそりとした肉体の青年は胸を反らした。 「はじめましてザマス! 僕はウィリ・ウィリカ・レイド・ノルト・ヴァ」 「長い、長い、長い! 気軽にウィリでいいだろう!」 「むぅ。自己紹介くらいはきちんとしようと思ったザマスが、まぁ、本気出してやったら一日かかっちゃうザマスからねぇ」  ウィリはロリクを睨みつつ、笑った。 「将来、世界一の魔術鍛冶職人になる僕のことをきちんと覚えておくザマス!」 「今は見習いだろう」  ロリクが冷たくつっこんだ。 「今回の依頼人はこいつだ。なんでもここから一日ほどかかる距離に森があって、そこを抜けたところにある崖にいい魔結晶があるそうなんだ。  ただこの崖はちょっと危険でな、実はソードラプターの巣があって、二羽ほど目撃されてる。  ちなみに巣はちょうど崖の中央部で、上から紐を吊るして降りるなんかは危険すぎるし、下からのぼるのも険しすぎて困難だ。デモンなんかで飛べるやつがいたらぎりぎり手が届く、ぐらいの高さの場所だ。  ソードラプターを退治しつつ、魔結晶を集めるのを手伝ってほしいというものだ」 「野宿の準備はばっちりするザマス! 調理用発火符なんかは僕が用意しておくザマス。  なんでついてくるかって……道具となる大本の素材はぴちぴちなときがいいザマス! それに素人が乱暴にやって傷がついても困るザマス! といっても僕は戦うなんて野暮なことはしないザマスからしっかりと僕のことを守るのはお願いザマス。  武器や道具を粗末に扱うやつは軽くおしおきしちゃうザマスよ?」
森の蠢き
難しい|すべて

帰還 2018-09-19

参加人数 4/8人 春川ミナ GM
「なぁなぁ! おもしれーもん見つけたんだ!」 「何よ? アンタが言う面白いものってどうせ熊のフンとか変な色のカエルでしょ? 早くお仕事して帰るわよ!」  年の頃は12、3歳くらいだろうか。活発そうな男の子と真面目そうな女の子が山道を歩いている。  背中には柴(しば)が入ったカゴ。恐らくは家の手伝いなのだろう。    ここはミズガルズ地方、ソレイユ地区の端。木々が生い茂る小高い山に隣接するように村があり、村人達はその恩恵を受けて生きている。主にここで採れるのは質の良いナッツで、その実を加工した工芸品や食料品で生計を立てているが、あまり裕福では無い為に成長したらこの村を出て行く若者が多く、過疎化に悩まされているのが実情だろうか。 「ほんとだって! 今度は変なものじゃねーよ! 白くてツヤツヤスベスベな岩なんだ! 姉ちゃんもきっと気に入るし、もしかしたらなんかの宝石かもしれねぇ。そしたら俺達お金持ちかもよ?」 「はぁ……。アンタねぇ。ここの山は土は良いけど鉱石の類いなんて出ないって昔に偉い学者先生が言ってたでしょ? ホラ、そんな事よりこのカゴいっぱいにしなきゃ、またお母さんに叱られるよ?」  姉と呼ばれた少女は溜息を吐いて柴を拾いながらカゴに入れていく。きょうだいの家はナッツの加工を主に請け負っており、ローストする為に大量の質の良い焚き木や柴が必要なのだ。なので他の村人達よりは比較的に山の中を歩くのは得意としている。弟が変な石だか岩だかを見つけたのは山を遊び場にしていた事もあるのだろう。 「姉ちゃん! こっちこっち! ……あれ?」  男の子が得意気に先導するが、次の瞬間、怪訝な表情になった。 「何よ、どうしたの? アラ、本当に綺麗な岩ね。石灰が混じっているのかしら。大理石の材料にはなりそうもないけれど、これはこれで良いわね」 「う、うん。……あんなところにあったっけ? 俺が見た時はあの大きな岩の影にあったんだけど」  首を捻る男の子だったが、少女はゆっくりと岩に近づく。大きさは今少女達が背負っているカゴにかろうじて入るくらいだろうか。 「丸いからちょっとした事で転がっちゃうのかもね。でもここは平坦になっているから大丈夫よ」  手に持った小枝で岩を軽くつついたり、叩いたりする少女。動いたりしないと解ると、直に手で触り始めた。 「わ、本当にツヤツヤしてスベスベ! これって削ったら美白の化粧品にならないかな?  うーん。……石灰だったら無理ね、かぶれちゃうから」 「姉ちゃんってホントに金の事しか興味無いんだな」 「当たり前よ。私はこんな村早く出て都会のお金持ちと結婚するんだから」 「出たよ出たよ。姉ちゃんの妄想が」  岩を撫でさする少女は何とか岩を持ち運べないか試行錯誤しているようだ。 「ねぇ、アンタ。私のカゴに入っている柴を全部そっちに移してくれない?」 「え、まさか」 「まさかよ。持って帰るの。ホラ、キリキリ働いて」 「うぇぇ……。マジかよ」  文句を言いつつも弟は姉のカゴから柴を全部自分のカゴに移した。おかげで姉のカゴは空。 「じゃ、この岩を私のカゴに入れるから手伝ってちょうだい。帰ったらナッツクッキー焼いてあげるから」 「ヘイヘイ、全く人使いの荒い姉ですこと」  そう言いつつも弟の顔は笑顔だ。お菓子に釣られたのかもしれない。 「ありがと。……ッ! 結構、重い、わね!」 「っとと! 姉ちゃん足元!」 「えっ!? うぐっ! カハッ!」  姉が木の根にひっかかり、転ぶのに釣られる形で弟も倒れる。 「ってて……。姉ちゃん、大丈夫か? ……姉ちゃん?」 「……」  しかし姉の顔は目を見開いたまま瞬き一つしない。腹部の上には先程二人で持ち上げようとした岩。 「オ、オイ……。冗談やめろよ、姉ちゃん、こ、これどかさなきゃ……」  弟は慌てて姉の腹の上に乗っている岩をどかそうと押すがびくともしない。 「なんでだよぉ……」  半泣きで岩を押す弟。しかし視界が歪んでいるために岩の変化には気が付かなかった。弟の死角になっている部分がピキリパキリと音を立てて罅割れて行く事に。 「ね、ねぇちゃあん。……ウオッ!?」  弟が岩の変化に気付いた時にはもう遅かった。 「ミイィィイイイイ!」 「ぎゃあああああ!」  緑色の何かが弟の視界を埋め尽くしたのだから……。  *** 「おーい! ったく、アイツラどこまで行ったんだ? 村の皆にまで迷惑かけやがって」 「まぁまぁ、もしかしたら怪我でもして動けないかもしれないし、父親なんだから理由も無く頭ごなしに叱ってやるんじゃねーぞ」 「チッ! 分かってるよ。……すまんな、手を貸してもらって。アイツらが怪我でもしてたら背中に担いで帰ってやるよ。……小さい時のようにな」  山火事防止の為だろう。柄の短い松明を掲げた大人達が総出で森の中を捜索している。  その中にはきょうだい達の父親も居た。  しかし、少し先から男の野太い悲鳴が聞こえて来た。その声に父親は駆け出した。 「見つかったか!?」 「オイッ! 待てッ!」  隣に居た友人であろう男の制止を振り切って。  ……しかし辿り着いた父親は絶句する。 「……なんだよ、これは」  そこにあったのは無残に食い散らかされた子供達の遺体。そして卵の殻のような白い破片。まるで遺体を白い花が飾るように、ばら撒かれていた。 「なんだよ、これはぁあああ!?」  父親は同じ言葉を繰り返すとその場にくずおれた。 「……獣にやられたか。この近くには凶暴な種は居なかったんだがな。巣を追われたクマかもしれん。人の味を覚えた獣は凶暴だぞ。悲しいかもしれんが、一旦村に……ってなんだこりゃ」  父親の肩にそっと手を置く友人だったが、自身の体に纏わり付くナニカを感じ、振り払おうと松明を振る。しかし何かに絡め取られるように、その腕は中空で止まった。  見回すと周りの男達も皆一様に妙な体勢のまま固まっている。複数の操り人形の糸を絡め合わせたらこんな感じに見えるだろうか。  ……糸!? まさか! 「おい! 皆! 気をつけろ! コイツは獣じゃない!」  友人が何かに気付いて警告を発した時にはもう遅かった。すでに全員が罠にかかっていたのだから。 「ミィイイイイ!」 「ぎゃあっ!?」  それは例えるならば大きな緑色の芋虫だった。ただただ巨大である以外は。  捜索に来た男の肩にじゃれつくように乗る姿は愛嬌があるかもしれない。……首筋に噛み付いていなければ。 「ぎゃあっあっッッァッ……!」  芋虫が口から白い糸を出し、男の顔に吹き付ける。悲鳴をあげていたが、頭全体を覆うように糸が巻きつけられ、やがてガクリと力無く首が垂れ下がった。  男から離れた芋虫は地面に落ちた松明を避けるように進み、次のターゲットを物色しにかかる。 「ッ!? オイ! いつまで放心してやがる! コイツは手に負えねえ! 背を低くしてるお前は糸にかかってねぇ! こいつはベリアルだ! そのまま伏せながら逃げて教団に応援を、ギャアッ!」  友人が父親に声をかけるが、生気に満ちたと判断されたのか友人の首に芋虫が噛り付く。そのまま糸を吐き、友人は物言わぬ屍になった。 「スマン……! すまない!」  泣きながら這い蹲り、逃げる父親をその場で縫いとめられた村人達は諦めと縋る様な感情が入り混じった視線で見送るのみだった。  誰も言葉を発しない。何故ならば声を出した瞬間に自分の死が確定するのだから……。
女装コンテストからは逃げられない。
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-17

参加人数 5/8人 oz GM
 これは新人浄化師への洗礼という名の悪しき慣習の話だ。  真夏。それは人を開放的な気分にさせる季節。夜更けの寮で男たちは大盛り上がりでゲームに興じていた。  始まりは先輩浄化師の誘いからだった。 「お前ら、今暇か? ちょっとこっちでカードゲームやらねぇ」  いつもお世話になっている先輩達から新人達にゲームを持ちかけられた。  それは徐々に白熱していき、誰かが負けたら罰ゲームをしようと言い出す。 「安心しろ。お前らが勝ったら俺らが何でも奢ってやるよ。その代わり負けたら、……そうだなあ。指令を手伝ってもおうかな」  先輩の一人がそうフォローする  日頃頑張ってるからな、というお言葉と共になんか賭けた方が面白いだろとトランプをシャッフルし出す。 「今は夏だし祭りやイベントが多いからな。浄化師が駆り出されることも多くて人手が足んないんだよ」  人当たりのいい笑みでそう言われ、罰ゲームに身構えた者も肩の力を抜いた。ゲームは口実で人手が欲しいのだろう。  もし負けても指令を手伝ったら先輩が奢ってくれるかもしれないという打算が働いた者もいた。  その場の空気に流されて、賭事は始まったのだ。  10回勝負で新人と先輩に分かれて勝ち数が多い方が、先ほどの条件が叶うということに決まり、最初は新人達が勝っていた。これなら勝てるかもしれないと言う空気が漂う。だが、中盤になると勝ったり負けたり繰り返す。  夏の暑さにも負けずヒートアップしていくゲーム。負けた者は次こそ勝つべく勝負に乗る。そうしてゲームはさらなる泥仕合へと突き進んでいく。  賭事に勝者と敗者はつきものだ。今回のゲームもはっきりと勝者と敗者に分かたれた。 「いやー、負けちゃいましたね……せっかく先輩に奢ってもらえると思ったのに」  負けた新人浄化師が残念そうに頭を掻く。 「それで、何を手伝えばいいんですか、何でもやりますよ」 「なら、女装コンテスト頼むな!」 「え?」  どうにも耳に何か詰まっているらしい。よく聞き取れなかった。 「すみません、よく聞こえなかったんでもう一度言ってもらっていいですか?」 「お前らは女装コンテストに出場するんだ」  先輩は真顔。逃げようにも肩を強く掴まれ逃げられない。 「男に二言はない筈だ。負けたら指令を手伝ってくれると言ったよな」  先ほどの人当たりの良さは彼方に飛んでいき、いつの間にか用意されたエントリー用紙を目の前でひらひらさせる。まるで連帯保証人に借用書を突きつける高利貸しのようだ。 「ひでー、あんたら俺らのことハメたな!?」 「何言ってんだ。賭事に乗ったのはお前らだろ」 「そんな指令だって分かってたら絶対に乗らなかったのに!」 「事前確認が大事だと学べて良かったじゃないか」 「イヤだー、女装はイヤだー!」  それでも往生際悪く新人は足掻く。 「俺らも申し訳なく思ってるんだよ」 「申し訳なく思ってんなら参加しなくていいですよね」 「それは無理な話だ。毎年この指令は来るんだよな。でも、やりたがる者は中々いない」 「そりゃそうでしょうよ」  新人は荒んだ顔で吐き捨てる。そこに先輩への敬意は全くない。 「ってわけで、毎年新人から尊い犠牲、ゴホンッエントリーされるわけだ」 「犠牲!? あんた犠牲って言っただろ!?」  新人は不意にあることに気づく。 「それならあんたらも新人時代にしたってことか!?」  先輩方は無言の笑みを浮かべる。 「自分がされて嫌なことは人にしないで下さいよ!」 「ふざけんなっ! 俺らだけがあんな目に遭うなんて納得いかねー、逆に後輩ができたら絶対に参加させてやると決意したわ!」 「最悪だな! そこで止めろよ、俺らを巻き込むんじゃねえ!」 「だが、断る! さあ、とっととエントリー用紙に名前を書くんだ」  先輩と新人の醜い争いが深夜に響く。それは寮母であるロードピース・シンデレラが駆け付けるまで続けられた。  毎年夏になると、ピットーレ美術館で開催される同人即売会の運営から教団にある依頼が来る。  女装コンテストを盛り上げる為に浄化師に参加して欲しい、と。  市民にもっと親しみを持ってもらう名目で毎年新人は強制参加させられる。  そうこの為に、あらゆる手段を使って新人浄化師の中から生け贄を選出するのだ。いつから始まったかは分からないが、毎年密かに行われている選出の狂乱騒ぎは教団内では夏の風物詩であった。  新人時代に女装コンテストに出場させられた歴代の先輩方が、絶対に他にも道連れをつくってやるという決意の元、負の連鎖が毎年起こっているのだ。  結局、一悶着あって女装コンテストに出場することになったあなた。  ある者はハメられたと頭を抱えたり、未だに放心状態でいる者、パートナーに泣きつく者、嬉々として楽しむ者、自分でなくて良かったと内心安堵する者といった悲喜交々な人間模様が繰り広げられる。  賭事に負けて参加することになった者もいれば、先輩に公衆面前で土下座されて否とは言えず流された者、あるいは借りの清算を求められ嫌々参加することのなった者、パートナーが面白がって勝手に了承された者と参加理由は様々だ。  もちろん女性陣の方にも話は伝わっており、彼女達は彼らが着る服のコーディネート、化粧を施す手筈となっている。  パートナーにばれたくないと隠そうにもエントリーされた――指令を受けた時点でパートナーには知らされており、どこにも逃げ場はない。  夏のバカ騒ぎ。これもあなたたちにとっていろんな意味で忘れられない思い出となることだろう。  さあ、楽しい楽しい女装コンテストの始まりだ。
歌う骨の鯨
とても難しい|すべて

帰還 2018-09-17

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
 海洋に住む生物を元にしたベリアルが出現した、と報せが広まったのはつい先日。その情報から海辺の街は警戒を強めた。  むろん、浄化師たちの活躍もあるが、自衛も必要と海辺の街にある自警団たちは、昼間と夜と海辺の警戒を行っていた。  夜。自警団たちは警備のため海岸近くにテントを張り、松明を焚いて夜の海を警戒していた。  光のない暗闇に、めらめらと燃える炎。  何事もないようにと祈る、のだが。  くおおおおおおおおおおおおおおおおおん。  海から不気味な声が轟き、その場にいた者たちは驚いき視線を向け、それを見た。  暗い闇のなかに白くうごめく巨大なそれを。 「山? 違う、あれは……悪魔っ!」  一人が蒼白に顔で叫んだ。  白い骨の山だった。否、骨と骨が組み上げられ、なにかの力によって生き物の形をしている――20メートルほどのそれは炎に照らされるとわかるが、透明に近い。  骨以外はほぼすべて透明で、ぶよぶよとした水の塊。 骨と透明なぷよぷよとした塊の中心――人でいうところのあばら骨に守られた、心臓部分には青い石がきらきらと輝いていた。まるで魂のように。  それは目もなく、鼻もない。ただ口らしいものは存在し、そこから不協和音を漏らす。  くおおおおおおおおおおおおおおおおおん。  ただの大声なのだろうが、一定の音を越えたものは鼓膜にダメージを与える。たいした装備もしていなかったなら余計に。  音のせいで動きをとめた人間を殺すのに、それは動くだけでよかった。体をくねらせるだけで穏やかだった波は嵐のごとく大きくうねりあげ、その場にいた人間を、ものを無造作に襲う。  塩辛い大きな波の一撃は人々の体力をそぎ落とし、歌うように紡がれるその声は疲弊した肉体に恐怖という精神的ダメージを与えるには十分だった。  サミシイ。  サミシイ。  トテモ、  サミシイ。  何度も押し寄せる波によって蹂躙される人々には絶望が広がった。 「だめだ、一時撤退! おい、確か、調査にきている浄化師がいるって聞いたぞ! そいつに助けを求めてこい」 「はい!」  足の速いものが急いで街へと走り出す。その間も波は荒れ、一人、また一人と倒れて、ランプを持つ者が仲間を抱えて逃げようとしたとき、それが歌をやめた。  透明なそれは闇に溶け、姿が見え難い。  海は波打つ。  静寂。  ざばん、と海から顔を出したのは大きな穴だった。  穴が、迫る、迫る、迫る――。 「ひぃ!」  もうだめだ、と仲間を抱えて目を閉じた。  炎が飛び――ぐしゃりと血肉が砕けた。  ● ● ●  浄化師たちへ指令発行を行うロリクは少しばかり憂鬱そうな顔をして告げた。 「海辺の街がベリアルに襲われている。  今回、たまたま他の調査にこの街に立ち寄った浄化師のユギルが、自警団たちは守り切ったそうだが……」 「守り切ったとは優しい言い方じゃのぉ。ストレートに根負けして逃げかえってきたと言ってもいいぞ?」  ロリクが説明していると、奥から狐の面をつけたユギルが出てきた。その片腕は折れたのか、肩から吊るされている。 「ユギル! お前、安静にしろって」 「仕方なかろうが、あれを見たのは吾なのじゃから、かわいい子らへ説明せねばなるまいよ。  今回の討伐対象はただの鯨を元にしたベリアルではない、白い……骨の鯨を元にしているようじゃ。元は骨鯨という生き物じゃろう。  大きさとしては20メートル程度で、骨はむきだしじゃが、その骨を白い膜のようなもので覆われ、ぶよぶよしたクラゲのような見た目をしておる。  その中心部……人でいうところの心臓があるところじゃ、あばら骨に囲まれるようにして青く輝く石が存在した。  骨鯨は大きな声で、人の動きを止め、暴れまわり、疲労して疲れたところに大口を開けて、その場におった自警団らを食べようとしておった。  ふふ、片腕は犠牲となったが、その場にいた人間はみな無事じゃ。  しかし、いつ、あれが命を貪るために街へと入らんとも限らん。  あのベリアルはカタコトとはいえ言葉を語るゆえ、スケール2よ。お前たち、スケール2と戦ったことは?  あいつらは子供並みとはいえ知識を持っているから、きちんと討伐方法を考えて挑まねば、食い殺されるゆえ注意しておいき。  腹が立つことに鯨が出るのは、夜よ。今回、自警団が松明を灯した海岸へとやってきよったわ。  目も鼻もないが、皮膚でそうした温度を感じているようじゃな」  ユギルの説明を受けている浄化師たちに、ロリクが続けた。 「一応、こちらの用意している討伐方法としては、海岸際で焚火をして鯨を寄せての待ち伏せだ。  昼間のうちに罠や鯨の動きを止めるか考えるといいだろう。  鯨のでかさと強さは半端ないが、骨鯨を元にしているからには、水気の少ない海から遠く離れることはほぼないだろう。  なんとか海から引っ張りだして一斉攻撃できるようにもっていくんだな」 「かわいい子らよ、真正面からいけばみな無事ではすまんことになる。よぉく策を練っておいき。この周囲についてはすでに調べておるので、地図を持っておいき。  海じゃが、すでに時期なのかクラゲが多くての、こやつらは透明で照らせば輝く性質を持つが、毒を待つ。長居すれば刺されて動きが鈍くなるじゃろうから、気を付けるんじゃ。  岬には灯台がある。照らすことで攻撃をしやすくすることは出来るじゃろう。  この海岸の端には洞窟があっての、普通の人間なら四人くらいなら入れる。入り口は奥へと進めば進むほどに狭くなり、さらに海水がなくなる作りじゃ」
夏風邪にご用心
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-15

参加人数 7/8人 蛯沢真尋 GM
 教皇国家アークソサエティ。薔薇十字教団。司令部。 「おー、お前ら、今回は大活躍だったな」  与えられた指令を完遂し、パートナーとともに報告を済ませたあなたは、先輩の浄化師の男性からそんな労いの言葉をかけられていた。 「さすがに疲れただろ。今日はゆっくりと休んどけよ。最近は、気温が下がったり上がったりで、体調を崩し易い。浄化師といえども、人の子だからな。健康管理には充分に……」  と、まさにそのとき、あなたの隣でパートナーがゴホゴホと咳き込む音が聞こえた。  大丈夫?  あなたが訊ねると、パートナーは大丈夫と頷く。  しかし、その辛そうな顔や、さっきの苦しそうな咳のことを思うと、あまり大丈夫そうには見えない。 「あー、噂をすれば何とやら、だな……。とにかく今日は寮に帰ってゆっくり休んどけ」  くしゃくしゃと髪をかきまぜながら、先輩の浄化師が早く寮に戻って休むように促した。  あなたとパートナーは、一礼し、その場を辞そうとする。  と、そのとき。 「え……?」  あなたの隣で、ガクリとパートナーがその場に膝をついた。 「……って、おいおい。全然大丈夫じゃないじゃねーか……。自分やパートナーの体調の変化を察するのも浄化師の実力の内だぜ?」  少し呆れたように、どうしてもっと早く気づいてやらなかったと咎めるように、先輩の浄化師がぽつりと呟く。 (……私のせい?)  あなたはその言葉に、ズキリと胸の奥が痛むのを感じる。  パートナーは、そんなあなたを気遣うように、大丈夫ですからと立ち上がる。  けれども、その様子はやはりどう見ても大丈夫そうではない。  パートナーは、自分に余計な気を遣わせまいと必死で体調不良を押し隠しているのが見え見えだ。 「あー……。まあ、本人が大丈夫って言うなら野暮は言わねぇけどな。でも、一応、検査だけでもしてもらっとけ。  あと寮の部屋まではちゃんと連れていってやれよ? パートナーの看病ってことなら、許可も下りるだろ」  その先輩の言葉に、あなたは一も二もなく頷いた。  言われなくても、たとえロードピース・シンデレラにぶん殴られて部屋から追い出されそうになっても、徹夜で看病でも何でもするつもりだった。  かくして、あなたとパートナーの長い一夜が始まる。
毒花の森のコブリン
普通|すべて

帰還 2018-09-15

参加人数 4/8人 内山健太 GM
 教皇国家アークソサエティのブリテンで薬屋を営んでいるアルフは、傷口によく効くという薬を作り評判である。今回、彼は新しい薬を作るために、薬草や薬樹などを探していた。  調査してみると、ブリテンの奥地にある『毒花の森』に、新しい薬に使えそうな、薬草や薬樹などがあると判明する。ただし、毒花の森は危険地帯であるため、一般の人間は立ち入りが禁止されている。  新しい薬を作れば、今よりもたくさんの人々を救えるかもしれない。そのように考えたアルフは、薔薇十字教団の門を叩く。彼は、エクソシストたちを護衛として、毒花の森に立ち入ろうと考えたのである。  当初、毒花の森への立ち入りは、危険であるので門前払いされてしまった。しかし、アルフは熱心に薬の重要性を説いた。新薬の開発は、戦闘に赴くエクソシストたちにも有効に働くはずである。その結果、ようやく毒花の森への通行許可が下りたのだ。  毒花の森は、至る所に毒花が咲き、危険な地区として認知されている。基本的には、毒花が危険とされているが、それ以外にも問題がある。この森には、ゴブリンが棲みついているのだ。  ゴブリンは単体ではそれほど危険にはならないが、毒花の森のゴブリンは集団で冒険者を襲うと言われているのである。それを知ったアルフは、毒花の森へ行くために、教団のエクソシストたちに護衛を頼んだ。  エクソシストたちに護衛を頼み、いよいよ毒花の森に入る。  その日は、天気の良い日で、燦々とした陽射しが降り注いでいた。ここが毒花の森でなければ、気分良く散策ができるだろう。毒花の森の奥まで入っていき、アルフは長年の知識を基に、草花を採集する。毒の危険があるため、手袋をして細心の注意を払っている。毒花が咲き乱れる森であるが、治療に有効となる草花や樹木も多いのである。アルフはエクソシストたちの護衛をバックに、速やかに草花を採集していく。  途中まで、何の異常もなく事は進んだ。しかし、魔の手はすぐそこまで迫っていたのである。草花を採集し始めて数十分。突如、森の奥から足音が聞こえていた。  なんと、五体のゴブリンが襲い掛かってきたのである。  通常、ゴブリンは気が小さく、人を襲うことは滅多にない。しかし、毒花の森のコブリンは、敵を倒す行為に慣れており、それを快楽として楽しんでいた。手斧を持ち、集団で襲い掛かってくるゴブリンたち。  それを見たアルフは腰を抜かしてしまった。  ここで登場するのが、歴戦のエクソシストである。  アルフを守り、ゴブリンを倒し毒花の森から薬草を持ち帰れるのか? すべてはエクソシストたちにかかっている。辺りは騒然としたムードに包まれ、戦闘が始まろうとしている――。
二人の記念日
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-15

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
 指令を受け取るためにエントランスホールを歩いていると。 「子ら、今から仕事か? 精進しているな」  声をかけてきたのは現在、メインが調査員であるユギルだ。  指令発行をメインに行っているロリクとは浄化師としてパートナーかつ、夫婦という二人だ。  狐面に口元だけ見えている、多少個性的な先輩はふふふと楽しそうに笑っている。 「ん? ようやく仕事を終えたところだ。今回はある結婚式やら誕生日をお祝いされなくて恨んでいる呪いがあっての」  あー。そういえば、お二人は結婚式とかしたんですか? 「……は?」  いや、だから、結婚式とか、確か、二人は結婚して一年くらいたってるって聞きましたよ? 「ん?」  お? 「……しもたぁ! 吾、プロポーズすら妻にしとらん!」  ふぁ! それでどうやって結婚したんですか! 「そ、それはノリと勢いとタイミングが合って……わ、吾が妻を押し切って勝手に結婚手続きやらその他いろいろを」  おっと! なんかわりとてきとーだった、この人たち! 「……誕生日……祝ったことないなぁ。出会ってからすでに六年目であるが」  やらかしてますよっ! それ! 「おー、お前たち、指令をよういって、ユ、ユギル、どうした!」 「ロリク、吾、やらかしたかぁ!」  飛びつく勢いで迫るユギルにロリクが驚き、浄化師たちに視線を向ける。  かくかくしかじか。 「あー……そんな今さらなぁ」  ロリクが呆れてため息をつく。 「浄化師として契約を交わしてからはや六年……今年で七年かぁ。誕生日やら結婚式やら結婚記念日やら……いっぺんもねぇなぁ」 「……ろ、ロリク」 「ふつーに愛想つかすレベルだよなぁ。はははは」  ああ! ユギルさんが倒れてる。倒れてます。ロリクさん! そ、そこまでショックを! いや、気持ちわかります。パートナーに、実は内心嫌われていたらとか、記念日を忘れていたとかなにげにやらかしたって結構ダメージに 「ユギル、おーい、ユギルって、はぁ、反応でかすぎだろう。俺はそんなの気にしないっての……ん? お前たちも仕事に忙しくて大切なパートナーの誕生日やら二人の記念やらお祝いしてないってことはないよなぁ? 運命としてつながっていても、そういうささいなことをしないと愛想つかされて捨てられるぞぉ」
青の音色
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-14

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 ソレイユ地区の一角。樹梢湖を囲う森林の、すぐ近く。 「なんだこれ?」 「洞窟?」  この付近のジェルモンスター相手に戦闘訓練を行おうとしていた浄化師が、それを見つけた。  一言で表すなら空洞だ。ちょっとした丘のように盛り上がった土地の脇腹に、ぽっかりと穴が開いている。浄化師はまだ見たことがなかったが、洞窟はこれに近い形をしているのだろうな、と思った。 「こんなところにあるって、報告されてたっけ?」 「いや、聞いてない」  周囲を見回す。このあたりはジェルモンスターやフシギノコの生息地から外れており、魔物の気配はない。だが、内部までそうなのだろうか。  そもそも、十歩も歩めば暗闇になりそうな洞窟は、どこまで続いているのか。 「ランタンあるけど……、調査……」 「もっと人数、集めた方がいいんじゃない? 魔物がいたら手に負えないかも」 「だよな」  うん、と頷きあった浄化師は踵を返そうとして。  ――きん。  と高い音を聞いた。 「なに!? 洞窟から聞こえた!?」 「待って待って怖い。逃げよう」  手をとりあって二人は逃げる。ぽっかりあいた洞窟の口からなにかが出てきそうで、ひたすらに怖かった。  とめていた薔薇十字教団の浄化師用の馬車に飛び乗り、本部に戻って。 「変な洞窟見つけた!」 「調査隊を派遣してください!」  半泣きでエントランスホールの司令部教団員に叫んだのだった。
嘆き
普通|すべて

帰還 2018-09-14

参加人数 5/8人 shui GM
●ある男の悲劇  自分の才能というものを、後悔した事があるだろうか。  古い埃を被った小屋の中、男は自分の両手を眺めていた。  黒ずんだ火薬の染み付いた掌。昔はそれが誇りに思えて、彼の自慢だった。  なのに、今は。  笑顔を作る為にあったはずの腕によって、悲劇が作られている。  それは男にとって、耐え難い苦痛に他ならなかった。  涙の代わりに止まらない震えを眺めながら、どうか惨劇が終わって欲しいと願っていた。 「おい、何時までボケっとしていやがる」 「ひっ」  野太い声をかけられて、男の肩が跳ねた。  振り向けば、細身の彼より2回りは筋肉がついた、図体の大きな男が苛立ちを隠さずに見下ろしている。 「よぉレガート。話が違うじゃねーか。今回の爆弾は不発だったって? 俺はお前に玩具を作れといっているんじゃねぇんだぜ?」  大男――特徴的な耳や尻尾からして、犬系のライカンロープだろう――は持っていた新聞を汚い机に叩きつける。  新聞の見出しは『サクリフェイスによる連続爆弾テロ』の文字が躍っていた。  今回は爆発する前に爆弾を回収できたとも。 「す、すまない。こんな予定では」 「謝罪なんかいらねぇんだよ! 俺は確かに『人を殺す為の爆弾を作れ』って言ったはずだぜ! それともお前の娘がどうなっても良いってのか?」  怒鳴り散らされて、細身のレガートはすくみあがる。  舌打ちをする大男。  大男が斧を片手に隣の部屋へ行こうとすれば、レガートが驚いたように縋りついた。 「やめてくれ! 娘には、娘にだけは手を出さない約束じゃないか!!」 「それはお前が俺の言う事を聞いたらの話だ!」 「お願いだ、本当に娘だけは……! 娘だけは! も、もう4つ目の爆弾も完成したんだ。今までよりも広範囲を吹き飛ばせる、とっておきのやつが……」  言葉を聞くなり、ニタリと口端をあげる大男。  同時にレガートの顔はどんどん青ざめていく。 「……ば、爆発すれば10人……いや、20人は吹き飛ばせる威力を持っている、んだ。だから……、だから娘にはこれ以上」 「ほう、そいつはいい。だったら早速、派手に使わせてもらおうじゃねぇの。明日の朝までに次の場所へセットしておけよ」 「わ、わかった」  斧を下ろす姿を見て、レガートはへたり込む。  もう、こんな日常は終わって欲しいと願いながらも、その糸口が見つからない。 「俺が人助けをしようなんて、コイツを助けちまったばっかりに――」  悔しさを嘆いても、彼の力では現状を打開する案が浮かばない。  呟きながら小屋から見上げた三日月は、何とも不気味な色で鈍く輝き始めていた。 ●薔薇十字教団  時間は少し巻き戻り、教団には1つの依頼が舞い込んでいた。 「至急、連続爆弾魔を捕まえて欲しく思います」  依頼の説明をする教団員は、険しい顔をして話す。  ここ数日で3件、エトワールのとある都市、リファンで爆弾が発見されていた。  うち2件は爆発し、建物などに被害が及んでいる。  昨日は幸いにも、爆弾が起爆するまえに発見され回収されたところだ。  そしてどの事件にも同じように、爆弾の傍にメッセージが添えられていたという。 『世界を救済するための生贄を』 「敵はサクリフェイスと思われます。幸い、今のところ被害者は出ておりませんが、事件が続けば時間の問題かと」  サクリフェイス――有名で狂信的な宗教組織だ。  ロスト・アモールの戦禍の中で発生したラグナロク。  その被害は、神が人間達に与えた罪であり、滅びることに抵抗することは神に背く行為だと考えている集団。  要するに、人の命を奪うことが善だと心酔する、危険な輩だ。  今までの爆弾は人の少ない場所や、人のいない時間帯で爆発していたが、次はどうなるかはわからない。  サクリフェイスに心当たりがないか、浄化師が問えば。教団員は頷いて見せた。 「実は数ヶ月ほど前に、この街に隠れていたサクリフェイスの集団を逮捕しているんです」  そのときに逃げた残党が恐らく主犯だろう、というのが教団の考えだ。 「取り逃がした残党の名前は、ザック。サクリフェイスのメンバーの1人で、大変逃げ足の速いことが判っています」  ザックが何らかの手を使って、爆弾を入手し、復讐とばかりに起爆させているのか。  それとも協力者が爆弾を爆発させているのだろうか。 「また、もう1つ。関係者と思われる人物がおります」  提示された資料写真に目を通せば、其処にはやせ男の顔。  花火師のレガート――娘のレティと一緒に行方不明になっていた人物だ。 「彼を爆発現場付近で見かけた、という目撃情報が寄せられています。もしかしたらサクリフェイスと関係あるかもしれません」  レガートが爆弾を提供している、と考えるなら可能性は高い。  幸いにも、レガートの居場所は大まかに見当が付けられている、とも団員は話す。 「皆さんには至急、レガートが隠れていると思われる現場へ向かっていただき、爆弾事件と関係するようであれば捕まえて欲しいのです」  最悪、生死は問わないそうだ。  教団を後にする浄化師達。  たどり着く頃には、既に日は傾きかけていた。  目的の現場は、リファンの街から離れた森の中にあった。  元は伐採などの森仕事で使われていた古い道具小屋だ。今は破棄され無人のはずだが、なぜか窓から光が漏れている。  野良犬とは思えない、番犬らしき犬の姿も見える。  浄化師達は目を合わせた。  さて、この依頼。どうやって乗り切ろうか――。
紅白輪舞
普通|すべて

帰還 2018-09-13

参加人数 6/8人 ぽた GM
 最近、教団内である噂が目立つようになってきていた。  教皇国家アークソサエティは郊外にある誰も近寄らない山奧に、廃れた小さな屋敷があって、何でもそこにヴァンピールと思しき肌の白い少女が目撃されたのだとか。  ただ確認された、というだけの話であれば、別段気にする必要もないのだが。  噂には、続きがあった。 『そこに行った奴の話じゃあよ、ちょっと奇妙なもんを目にしたらしいんだ』 『奇妙?』 『あぁ。全く同じ姿をしたもう一人の女の子が、同じ屋敷の敷地内にいたんだってよ』  双子か、あるいは、教団に所属する者であれば、それが恐らく”人形遣い”なのだろうと予想も出来るが、情報にあるその少女は、教団には所属していない。  加えて、まったく同じ姿であるということが問題でもある。  同じ背丈に同じ顔——全て、まるでその少女のコピーや分身であるかのように、その屋敷にいるのだ。  故に、その事象を表す為に皆が用い始めた言葉は。  —―—幽霊屋敷——―。 『逃げなさい、ミオ。逃げるのです。逃げて、せめて何も近付かない場所で生き長らえるのです』 『で、でも、それじゃあ先生が……』 『私なら大丈夫。きっと追い付いて、また貴女を護ると約束しますから。あるいは、別のエクソシストの誰かが——』    本当に人形遣いなのであれば、可能性とは言え、それには魔術的要因が絡んでいそうである為に、教団がそれをただの噂と放る筈もなく。  調査や保護目的で、正式な仕事として考えられていた。  そんな折。  時を同じくして、その屋敷付近で”ヨハネの使徒”が目撃されたという報告も入って来ていた。  今はまだ被害こそ出てはいないが、情報の少女が人間である以上、ヨハネの使徒と相対してしまえば状況は最悪だ。  魔術の才ある可能性の少女。そして、ヨハネの使徒。  教団は、任務の内容を《少女の保護・必要時教団への引き入れ、及びヨハネの使徒討伐》と決定し、エクソシストの作戦参加を募った。
スナック『マリアの夜』
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-12

参加人数 8/8人 北野東眞 GM
 唸るように暑い日差しを受けて、指令をひとつ終えて報告を提出したのは夕方。  キャバレーにくりだすぞーとどこぞの浄化師が叫び、経費で落ちないとか叫んでいる人がいる。本部も大変だなぁ。  ようやく帰れる……と思った矢先のことだ。 「おや、かわいい子ら。日々鍛錬しておるか?」  声をかけてきたのは狐面で顔の半分を隠している調査員のユギルだ。  指令発行前の事前の調査などを行う彼は基本的に本部にいることはないのだが、本日は珍しくいたらしい。 「うむうむ。良い子、良い子。そうじゃ。よければこれからもう一つ指令に付き合ってくれぬか?」  え、これから指令ですか!  スナック『マリアの夜』。  リュミエールストリートの一角にちょこんと存在する、その小さな店のドアを開けると、むきむきのフリルエプロンの男……ママが出迎えてくれた。  おっと! 「あらぁん、ユギルちゃん、それに後輩まで連れてきてくれたのぉ? やぁん、かわいい人たちねぇ」  とっても濃ゆいが可愛らしい化粧をしたママが手をふってくる。二の腕もむきむきだ。 「うむ。マリアママ、人は多いほうがよいじゃろう? ああ、指令の内容は、この店を楽しむ、ことじゃ。  ここは好い酒場じゃが、いかんせん、マンネリ化しておってのぉ。  今宵楽しんだあと、レポートを提出しておくれ。  マリアママ、吾はニホン酒「大魔王」を一つ。あと、つまみは適当に頼む。  吾は店の端におるゆえ、すきに飲んで、食べよ、子らよ」 「やぁねぇ、ユギルちゃんたらほんとぉ酒豪なんだからぁ。あ、ほかの子たちは楽しんでねぇ。ママがなんでも用意してあげるわぁ~。いいのよ、日々の愚痴やらなんやらママが聞いてあ、げ、る」
忘却の森
普通|すべて

帰還 2018-09-11

参加人数 6/8人 北野東眞 GM
 指令を受けにエントランスへと訪れると、薔薇十字教団本部にて司令部受付を行っている教団員ロリクが、いつもの微笑みを浮かべて浄化師たちを出迎えてくれた。 「今回の依頼はちょっと精神的にタフなやつ向きかなぁだが、お前たち大切な相手はいるか?」  いきなりそんな問いかけのあと、指令の内容が口にされた。  ソレイユ地方の西の果てに存在する森には湖があるのだが、そこでその現状は起こっているそうだ。  見た目はただの森とかわらない。しかし、そこに足を踏み入れた者は必ず、【大切なもの】のことを忘れてしまう。  本人は必死になって思い出そうとしてもどうしても思い出せない。自分にとても大切なものが存在したことはわかるし、覚えている。だが、それがなんなのかがわからなくなってしまう。 「恐れることはない、この現象はニムファのせいだ」  ニムファは湖や泉に存在する睡蓮の見た目をし、近づかなくては害のないモンスターだ。しかし、水を汚す者や攻撃してくるものには容赦なく、根を鞭にして攻撃してくる。  ニムファは古来より薬にしたり、香水の原料として使われる。  またニムファは香りをかいだものに幻覚を見せる効果がある。 「この泉を調査してもらったところ、かなりの数のニムファが存在していてな。  その匂いに騙されて混乱した奴らが泉にはいって死にかけるといった事故が多発している。  このままじゃあ、死人が出ちまうかもしれない。  全部を討伐するのはさすがに難しい。数が多いせいで幻覚作用が強く出ているから、お前たちの手の届く範囲にあるニムファを刈り取ってほしいんだ」  それでな、とロリクはさらに注意してきた。 「今回出現しているニムファの匂い、恐らく生息域の影響なんだろうが、喰人と祓魔人で影響力が異なる。  どうやら喰人側がかかりやすく、祓魔人には効果が薄くかかりづらいようだ。  喰人は注意し、祓魔人はパートナーをいかに正気に戻すか、よく考えるんだな。  まぁ匂いでの軽い混乱だから多少乱暴でも殴ったり、小さな衝動があれば戻るだろうが注意しておくにこしたことはない」
轟雷、竜を穿つ
普通|すべて

帰還 2018-09-09

参加人数 8/8人 鳩子 GM
 果て無い蒼穹を純白の雲が千切れながら飛んで行く。茫漠たる草原は大海原の如く波打ち、木々は倒れんばかりにしなっている。 「嵐でもやってきそうだな……」  今はまだ雨の予感すら感じさせない空を見上げ、ワインド・リントヴルムは呟く。  不意に、その視界を黒点が横切った。  鳥の陰――否。それは前触れなく進行方向を転じたかと思うと、ワインド目掛けて急降下してくる。次第に見えてくる大きさは、鳥の比ではない。  両足を踏ん張り、その突風の塊とも言うべき存在を受け止める。 「ひとりで散歩か、幼き竜よ」  全身を覆う鱗に一対の翼、鋭い爪――太古より天に君臨する神聖なる生き物、竜である。  ロスト・アモールによって世界が混迷するよりも遥か昔、人と竜とは相争う関係だった。  強力な魔法を行使する竜は、魔術の貴重な材料となる。死後、その体は時間を掛け個々の魔力属性に応じて自然へと還るが、そうして変じた土や水、竜の遺骸を苗床とした植物にすら利用価値があった。  人間は竜を魔術の道具とみなし、竜は人間を害悪とみなし、多くの血が流れた。  だが、現代においては違う。  此処は、竜の渓谷。騒乱の時を越え安寧を望んだ彼らが選んだ、終の棲家。  そしてワインドは額に角を、背に翼を持つデモン――ドラゴンとヒューマンが愛を育んだことで生まれた種族であり、この渓谷の守護者たるリントヴルム家の当主だった。 「アソブ、イッショ」  成長すれば体長二十メートルほどの堂々たる体躯となるが、ワインドに擦り寄るのは未だ三メートルにも満たない仔竜だ。発話も幼子めいてたどたどしい。鱗と同じ深緑の瞳が瞬く。  ドラゴンは名づけの文化を持たないが、ワインドはこの仔竜をヴァージャと呼んでいた。草木の緑を意味する名だ。  ヴァージャはしきりに自身の角とワインドの角とを合わせて、コツコツと音を立てる。これが彼の親愛表現なのだった。 「すまんが、私は仕事中だ。だが、そうさな……共に見回ってくれるか」  ワインドの役割はいくつかあるが、もっとも重要なのは渓谷の警備である。暗黒の時代が過ぎ去ってなお、私欲から竜を害そうとする不埒者はいる。広大な土地を隈なく見回るため、ワインドの一日はほとんど移動に費やされるのだ。 「イッショ、イク!」  ヴァージャは喉を鳴らして翼を広げ、再び空へ舞いあがった。  至近距離で羽ばたきの衝撃を受けたワインドは、苦笑して乱れた赤毛を掻く。  これが大人の竜であれば羽ばたきは人間にとって攻撃に等しい。竜のいう『アソビ』が大抵の場合人間にとってみれば命懸けになってしまうことも、仔竜が理解するには時間がかかりそうだった。  仔竜の影を追い、ワインドは力強く地を蹴った。無論、ヴァージャの飛行速度の方が勝るため、あっという間に仔竜の姿は遠くなってしまう。 「しようのない……」  口ではぼやいても、幼い竜の無邪気な奔放さは微笑ましいものでしかない。ワインドは頬を緩めたが、次の瞬間、その笑みは凍りついた。 ――ドカンッ!  激烈な雷光が、小さな影を貫くように直撃する。 「ヴァージャ!」  仔竜の幼い翼は力なく風に煽られ、そうして、この土地の名の由来となった大地の裂け目、深い深い谷底へと落ちていく。 ――キィァァァァ!  悲痛な叫びが、渓谷に響き渡る。  全力疾走の勢いそのままに崖から身を躍らせる。黝い翼を広げて滑空するワインドの目に映ったのは、川辺に倒れ伏すヴァージャ、そして黒い帯状の魔力に拘束された深紅の竜と彼らを取り囲む黒衣の集団だった。  囚われの竜――ワインドがグラナトと呼んでいる成竜は、巨体を揺らし咆哮と共に火を吐くものの杖を掲げた複数の侵略者によっていなされてしまう。 「何者だ!」  着地と同時に一喝したワインドに、悪辣な女の笑い声が応じた。 「あっは、なんだなんだぁ? 丁度良い獲物を落としたと思ったら、余計な奴までついてきちまった」 「貴様らっ……終焉の夜明け団か!」  フード付きの黒衣、そして左手に埋め込まれた銀の十字架。魔術の開祖アレイスター・エリファスを狂信し、その蘇生を目的とする異常者集団だ。  痛みの記憶が蘇り、かっと血が頭に上る。 「水よ、穿て!」  ワインドの詠唱に応じ、無数の鋭い水の杭が女を襲う。だが閃光がその全てを撃ち落とした。  殺意を楽しむように、女は甲高く笑う。 「なに、お前! 遠慮の無ぇ攻撃! シビれる予感がするんですけど~!」  衝撃波でフードが外れ、その顔が露わになる。胸元までイエローの髪がうねり、同色の双眸が爛々と輝く。左の頬には稲妻型の刺青。  顔を見られることを、女はどうとも思っていないようだ。 「やけに上手くいっちまって、時間までまだあるなって退屈してたんだ。暇潰しに、アタシの愛、受け止めてくれよなぁ!」  雷光が降り注ぐ。  ワインドは咄嗟に跳躍して回避しながら、周囲を見廻した。  女が主犯格なのか、他の黒衣の者らは口出しせずに黙している。その多くが杖や魔導書を携える魔術師だ。川岸には舟が二艘。しかし、アークソサエティの国土を囲む隔壁の外にある竜の住処は、独自にバリケードを持っている。単純に上流から川を下れば侵入できるというわけではない。それに、竜を拉致する腹積もりらしいが舟では到底運搬できない。  須臾の間に思考を巡らせ、ワインドは息を呑んだ。 「口寄魔方陣か!」  特殊な魔方陣を用いて物質を転移させる禁忌魔術だ。教団が所有する転移方舟に似たものだが、方舟とは異なり人を移動させることはできない。しかし、人間以外の生き物や物質であれば使用可能だ。  刻限になればバリケードの外で奴らの仲間が魔方陣を発動させ、竜を転移させる算段なのだろう。 「ご名答~! お前、頭良いなぁ」 「させるかッ!」  無数に出現させた水の杭を炸裂させる。今度は女のみならず周囲の者も武器を構えたが、その半分は即座に薙ぎ倒された。幾重もの拘束を受けながら、グラナトがその長大な尾で打ち払ったのだ。戒めに抗った鱗から血が流れている。 「我らが同胞よ、こやつらを許してはならぬ」  重々しい竜の声が告げる。  その怒り、悲しみを、ワインドは余さず理解することが出来た。  痛み――悼みの記憶を抱えてきたのは、ワインドだけではないのだと思い知りながら、詠唱を繰り返す。  幼い頃、ワインドには特別仲の良い竜がいた。親愛を込めディアと呼んだその竜は、ある時、渓谷に侵入した終焉の夜明け団によって意図的にベリアル化された。幼かったワインドは、親しい竜の姿をした化け物に襲われて尚、救うことができると信じた。その結果、両親は自身を庇って目の前で死に、ベリアルは他の竜をも食い散らかして成長してしまった。  最終的にベリアルは駆けつけた浄化師によって拘束され、後に処分されたが、ワインドは多くを喪い、暗く重い悔恨を抱えることとなったのだった。 「天空に告ぐ!」  信号用の呪文を唱え、頭上へ魔力弾を打ち上げる。蒼い魔力は崖を超え、更に高く昇りつめると派手に爆ぜた。  いまやリントヴルム家はワインドただ一人だが、渓谷には志を同じくするデモンの仲間が複数おり、随所に設置された見張り台に待機している。有事の際は固定魔信を用いて教団本部に連絡する手はずだった。転移方舟であれば本部から渓谷までは一瞬だ。 「閉じよ、綴じよ、鎖じよ!」  水の杭を渓谷の四方に打ち込み、詠唱と同時に魔力を込める。 「へぇ、結界か。でも、お前を殺せば問題ないよなぁ?」  女は動揺するどころか愉快そうに言って、凶悪な笑みと共に雷光を迸らせた。
弔花
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-08

参加人数 8/8人 久木 士 GM
 久方ぶりの雨が降った翌日。白い造花を手にした教団員が一人、エントランスホールを歩いていた。彼はゆっくりとした足取りでホールの奥へ向かう。その先には、いつの間にか設置されていた小さな祭壇があった。首都内での任務を終えて本部へ戻ってきたあなたたちはそれを不思議に思い、その教団員の後を追う。彼は祭壇の前で足を止め、そして振り向く。どうやらあなたたちに気づいたらしい。軽く会釈をする彼に、あなたたちは造花や祭壇について尋ねる。彼は口を開いて、低く落ち着いた声で話し始めた。  彼は教団本部の病棟地下にある大聖堂で勤めている教団員で、普段は教団のために命を捧げた死者に祈りを捧げているのだという。そんな彼がエントランスホールまで赴いてきた理由は、どうやらこの祭壇にあるらしかった。  毎年8月頃になると、アークソサエティ各地では慰霊祭などが多く営まれる。それは『ロスト・アモール』に始まる一連の大災厄や、その後の混乱によって失われた人命を弔うためのもので、華々しい復興を遂げたここ首都エルドラドとてそれは例外ではない。首都では主に貴族階級・支配階級の者が、大戦で散った祖先や親族・友人などのため、合同で慰霊祭を開くケースが多い。薔薇十字教団に所属する軍事階級の者たちもそうした慰霊祭を執り行ってはいるが、彼らは長期の任務や緊急の出動などで本部に居ないこともままあり、数日ある慰霊祭に参加できない者も少なくない。そんな彼らのために設けられたのが、この小さな祭壇だという。 「これは本来ならば、病棟に設置すべきものであるかもしれません。ですが病院にお越しになる方々――特に入院中の方々は、『死』というものについて非常にデリケートになっておられます。それを強く想起させるものを置くべきではないという判断により、ここへ設置されたのです。例え、病棟地下に火葬場と霊安室が設置されていようとも、です」  彼の言葉に、あなたたちは病棟の構造を思い出す。地上は治療室や病室などばかりだが、病棟は地下へ行くにつれて死の気配が濃厚になる。解剖用の手術室の下には研究室があり、その下層には火葬場、霊安室と続く。そして彼が働いているのは、最下層付近にある大聖堂。薔薇十字教団本部で、最も冥界に近い場所だ。  浄化師は死した後も、自らの運命と教団に縛られ続ける。彼らの遺したものが、故郷や親しい者たちの手に渡ることはない。遺体の状況や遺品からは教団内部の情報が漏洩するおそれがあり、死者の家族構成を知られれば、遺された者たちが報復などの悪意に晒される危険性がある。そのため教団員の遺体や遺品は全て持ち帰ることが絶対となっており、遺体は病棟地下で火葬された後、霊安室に埋葬される。薔薇十字教団に入り、世界救済の為に命を捧げるとは、こういうことでもあった。  霊安室や礼拝堂には勿論、普段から祭壇が設置されている。だが、ここを訪れる者は少ない。そこがあまりにも、死を想起させる場所であるがために。 「ここへ仮の祭壇を設置すれば、多くの方の目に留まるでしょう。そしてこのエントランスホールは何よりも、地上1階にある。天国に近くもなければ、地獄に近くもない。花を捧げれば、すぐ太陽の下へと戻って行ける。魂が天上へ惹かれることも、地獄へ手招きされることも、ここでは無いのですから」  彼はあなたたちをちらと見、そしてまた祭壇へ目を落とした。 「かつて私はここへ赴任する際、浄化師に命を救われています。一人の『喰人』の命と引き換えに」  遠い過去を見遣るように、彼は僅かに顔を上げる。表情は変わっていないが、瞳だけは僅かに悲しそうな色をしていた。  彼は十年前、病棟地下聖堂の聖職者として教団に職を得、故郷からはるばるアークソサエティへと旅をしていた。当時は『ヴェルンド・ガロウ』の手により『魔喰器』が生み出されたばかりで、大半の浄化師たちの装備は今よりずっと悪いものだった。そんな状態で戦っていた当時の浄化師たちの死亡率は、やはりかなり高かったらしい。  交通の整備されていない片田舎の町から、彼は歩いて旅をしていた。最寄の駅までは山を一つ越え、それから歩いて数時間を要する旅程だ。そしてそんな山中で、彼はベリアルの群れと、それを討伐すべく派遣された浄化師に遭遇した。戦闘は激しく、彼は大木の傍で頭を抱えて震えることしかできなかった。そしてその戦闘で、一人の命が失われた。  そもそも通常の民間人は、ベリアルなどと戦う術を持っていないことがほとんどだ。彼がこれについて気に病む必要は無いのだが、生真面目で優しい彼はそうではなかった。彼を守って若い命を散らした喰人は、当時の彼より十歳も若い女性だったのだから。過去の出来事について淡々と語る教団員は、白百合の造花を手でくるりと回した。 「命からがら教団本部へ赴いた私が初めて行った仕事は、私を守って命を落とした浄化師の葬儀だったのです」  そう言って彼は、手にした造花を魔方陣の描かれた小さな台座の上へ置いた。透き通るように白い紙でできたその花は、しばらくすると花弁の先端に僅かに色をつけ、そして間もなく青い炎に包まれて消えた。灰のようなものは見当たらず、どうやら跡形もなく燃えてしまったらしい。 「彼女は白百合のブローチを左胸につけていました。それが彼女の好きな花であったのかどうか、私は知りません。それでも私は、毎年これを捧げているのです。彼女と引き換えに生き延びたことの意味や、彼女の犠牲に報いるために自分ができることについて、忘れないように」  言い終わると彼は瞑目する。祈りを捧げ、誓いを新たにするかのように。そして彼は胸につけられた団章を優しく撫で、あなたたちに向き直って頭を下げた。 「その、縁起でもない話をお聞かせしてしまいまして申し訳ありません。花はエントランスや司令部の受付にありますから、祈りを捧げる際はご自由にお持ちになってください。先に行ってしまった親しい人々や、ロスト・アモール以来の全ての犠牲者を悼むのでも結構です。ご自身の決意を新たにされるのも良いかもしれません。あなたがたのお持ちになっている祈りのかたちを、どうか捧げてください」  彼は説明を終えると、あなたたちに会釈してから去った。静かなエントランスホールを、規則正しい靴音が過ぎて行った。  祭壇に造花を燃やして捧げるのは、火葬された教団員たちに届くようにとの願いを込めて。それが紙製であるのは、今の命も仮初のものにすぎないからと再認識するためだという説があるが、その由来は不明だ。遠い昔に誰かが始め、いつの間にか習慣になっただけかもしれない。  大聖堂に勤めるあの教団員も、今このホールを行き交っている人々も、死後は皆灰となって病棟地下に埋葬される。彼らが故郷へ帰って安息を得る日は、二度と訪れない。それはあなたたちも同じだった。だがそれが明日なのか、来年なのか、あるいはもっと先の事なのか。それを知っている者は、誰一人として居ないのだから。  振り向くと、エントランス脇のテーブルに造花が置かれているのが見えた。あなたたちはそれを目指して歩き出す。白い弔いの花を誰に、あるいは何に捧げ、何を祈り、何を誓うのか。短く鮮烈な生の中で何を求め、避けられぬ終わりの時までに何を為すのか。死と隣り合わせの日々を生きる浄化師であれば、この機会にそれを見つめ直すのも、悪くないだろう。
酷暑の戦場デート
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帰還 2018-09-07

参加人数 5/8人 梅都鈴里 GM
「あれ、まだ寝てなかったんだ」  夜もとっぷり更けた頃、煌々と明るいデスクに向かうパートナーに気付いて、様子を見に声をかける。 「修羅場なんだよ……今夜中に仕上げないと落とす……」 「あ、新刊? 大変だな~俺一般枠でよかっ」  ――ガンッ!!!!!  先の尖ったペンを机にぶっ刺した相方の目は、ベリアルを相手にした時よりも狂気に満ちていた。  なんといっても明日は――もう日付は変わっているので今日だが――二人が待ちに待ったイベントの開催日なのである。 「いいよねぇ、締め切りのない人は……あー、字が書きたい……推しが書きたい……」 「今書いてるじゃん」 「文字を書いてるときは文字が書きたくなるものなの……」 「へ、へぇ……?」  なんだかよくわからないが、同人作家特有の発作みたいなものだから気にしないでと返されて納得した。  手伝おうかとも思うが、彼は言葉通り今回は買い専なので、してやれることは特別なさそうだ。 「買い物くらいは行ってやるから、無理すんなよー?」 「ありがと……壁は任せるからね……あたしもお昼になったら回るから……」  ひらひらと手を振るパートナーにおやすみと声をかけて、戦に備え早めに就寝した甲斐もあり、翌朝は良い目覚めだった。  パートナーも眠い目を擦りつつしっかり定刻に目覚めた。昨晩作業にふけっていたものはなんとか仕上がったようだ。  早朝、人でひしめく会場を前にして、二人の瞳は狩人へと色を変えた。 「途中で倒れるなよー? イベントで倒れてアライブスキル使うなんてごめんだぜ」 「そっくりそのまま返すわ。サークル入場分の働きは、しっかりして来てよね」  夏と冬の一大イベント。創作するもの、または性癖に従い薄い書籍を手に取るもの。  過酷な夏の戦が今年も始まる――! 
急募!グルメリポーター
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帰還 2018-09-06

参加人数 3/8人 海無鈴河 GM
 ――月刊誌の臨時記者を募集します。詳細はアークソサエティ出版まで。  そんなポスターを目にしたあなたとパートナーは、早速出版社へ詳細を聞きに行くことにします。 「やあ、待ってたよ。早速だけど、君たちにはグルメ記事を担当してもらうよ」  出版社の担当者は、『グルメフェスティバル』と書かれたパンフレットをあなたたちに渡しました。 「ブリテンで開催されているこのお祭りに行って、出店の取材をしてきてほしいんだ。といっても、難しく考えないで、観光気分で楽しんで来てくれて構わないよ」  担当者は軽い調子でそう言うと、あなた達に取材先のお店のリストも渡してくれました。  『出張カフェ・リリアス』  普段はルネサンス地方の海沿いで営業しているカフェが特別出張。オススメは海の幸をたっぷり使った、『ピリ辛海鮮スープ』。  更に『ある試練』をクリアすると特別メニューが食べられるようです。  『たいよう農園』  ソレイユ地区の農場で採れた、新鮮な野菜や乳製品を使用。目玉は『オンリーワン・ピザ』。なんと自分で好きな具材を選んでトッピングできます。美味しいピザになるかは、あなたの腕次第!?  『くらげ酒場フェスティバル支店』  庶民派酒場がフェスティバルのために特別営業。オススメは、女将が丹精込めて煮込んだ『ことことシチュー』。まさにおふくろの味。  また、元伝説の賭博師と名高い大将とカードゲーム勝負も楽しめます。  『カルディアスイーツショップ』  数量限定で販売される、『天使のチョコレート』はフェスティバル内でも一番の人気商品。食べると幸せになれる、との噂も。  他にもホットチョコレートや、チョコレートケーキを販売。 「この4つの店の中から、君たちの好きな1か所を選んで取材してほしい」  担当者はここでああ、と声を上げて手を叩きました。 「大事なことを忘れていた!『店主の名前』と『お店の出店番号』は必ずお店の人に聞いてね。記事にも載せるから。それと、良い記事を持ってきてくれたら巻頭の一番目立つところに載せるよ」  依頼主はそう言うと、あなた達を笑顔で送り出しました。  あなたとパートナーは再び取材先リストに目を落とします。  どのお店も個性的なサービスを行っています。どこを取材しても、パートナーと仲良くなれそうです。    さて、どこに行こう?
精霊流しを楽しもう
簡単|すべて

帰還 2018-09-04

参加人数 2/8人 春夏秋冬 GM
 8月。今の時期には「精霊流し」と呼ばれる風習がある。  それは多くの命が失われた世界大戦「ロスト・アモール」の死者を悼むために始まったものだ。  発祥の地は東方島国ニホン。  ロスト・アモールにより死に、呪いとして幽霊になってしまった者達を成仏させるために始まった。  呪いとなってしまった無数の幽霊たち。  彼ら、そして彼女達が解き放たれることを願って、紙で作った船を川に流して鎮魂の祈りを捧げたのだ。  船には火を灯した蝋燭を載せ、死者への思い出や鎮魂の思いを記した文と共に川に流す。  夜闇の中、川に浮かぶ船の灯りは、死者を導く道しるべのように見えたという。  この時、川に流した紙舟は、今では「精霊船」と呼ばれている。  それは死者を悼んだ皆の想いが幽霊に通じ、呪いから解き放たれた無数の魂が空に昇っていく様子が、精霊が舞っているかのように見えたことが理由のひとつだ。  もうひとつの理由は、紙船にピクシーが楽しげにちょこんと座っている様子から、今では「精霊船」と呼ばれている。  それらが合わさって、一連の紙船を流す風習は「精霊流し」と呼ばれているのだ。  ニホンが発祥の精霊流しが広まったのは、教皇国家アークソサエティでも、それだけ多くの命が失われたという事でもある。  それほどにロスト・アモールは、多くの悲劇が生まれていた。  その悲劇を忘れぬ為に。  そしてこの世を去った死者を想うためにも、今でも精霊流しの風習は続いている。  とはいえ、悲しむだけが人間ではない。  死者を悼み、そして生きる今を楽しむのも人間というものだ。  弔いとしてだけでなく、イベントとして今では楽しんでいる。  そのひとつが、精霊船の出来栄えを競うお祭り。  リュミエールストリートのお店が協賛し、出来あがったものをお店に飾り、お客さんに票を入れて貰うというものだ。  精霊船の謂れのひとつである、紙船にピクシーが楽しげにちょこんと座ったことにちなんで、実際にピクシーに協力して貰う所もある。  リュミエールストリートにある、冒険者ギルド「シエスタ」に居るピクシー達も、そのために集められていた。 「それで、楽しいことはいつ始まるの?」  テーブル席のひとつ。  そこには3人の冒険者達と何人ものピクシー達が居た。  冒険者に連れて来られたピクシーの1人が、自分を連れて来た冒険者の1人に問い掛ける。  これに20そこそこの見目良い美女といった姿をしたセパルが返す。 「これからだよ。浄化師の子たちにも協力して貰えるよう頼みに行ってるから、ちょっと待ってて」 「えー、まだなのー」  拗ねたように言うピクシーに、さくらんぼをひとつセパルは上げて機嫌を取る。 「あー、私も私もー」  セパルにさくらんぼを貰ったのを見て、他のピクシーたちが騒ぐ。  そこに冒険者のひとりである涼やかな美女セレナが、リンゴをうさぎさんの形に切り分けて振る舞う。 「他にも欲しい物があったら言って。切ってあげるから」 「は~い♪」  喜ぶピクシーたちに、目を細めるセレナとセパル。  そんな2人に冒険者の最後の1人、20代半ばの厳ついにぃちゃんといった見た目のウボーは、頭にうつ伏せで乗ったピクシーに髪を三つ編みにされながら言った。 「そろそろ、クロアさんが頼んだ浄化師達が来てくれる頃だな」 「うんうん、そろそろだね」 「状況説明とか、した方が良いかしらね?」  3人が浄化師達を待っているのは、精霊船の出来栄えを競うイベントに協力して貰うためだ。  浄化師も参加するイベントとして箔を付ける、ということで毎年協力を求めているのだ。   そんな、精霊船の出来栄えを競うイベント協力指令を、アナタ達は受けました。  精霊船の制作と、それに乗るピクシーに何かしてあげて欲しいとの事でした。  ピクシー達に何か服やアクセサリーを付けてあげて、船と共に見栄えを良くしてあげる。  船の見た目に凝ってみる。  他にも何かアイデアがあれば、してあげて欲しいとの事です。  必要なものは、リュミエールストリートのお店から依頼を受けた冒険者達が用意してくれます。    この指令に、アナタ達は――?
強き者の言葉
難しい|すべて

帰還 2018-09-04

参加人数 8/8人 黒浪 航 GM
 トラノの町に、ベリアルの大群が迫っている――。  森で暮らす狩人からその報せが届いた時、町の守備隊長を務めるグランは、頭を抱えた。  青霧の谷を抜けて、ぞろぞろと町へ向かってくるベリアルどもの数は、少なく見積もっても二十を下らないという。一体だけでも恐ろしいベリアルが、二十体だ。  かたや、グランが指揮する守備隊は、数日前に入隊したばかりのトムを入れても、たったの十二名。  戦力の差は歴然としており、まずまともな戦いにもなりはしないだろう。 「絶望的、だな……」  グランは自嘲気味に呟くと、オンボロ隊舎の端にある狭苦しい隊長室を出て、食堂と会議室を兼ねる薄汚れたホールへと向かった。  隊長がホールに姿を見せると、しばらく前にそこに集合して小声で何やら相談を始めていた隊員たちが、一斉に顔をあげる。 「グラン……今回ばかりは、相手が悪いぜ……」  グランに次ぐ年長者で、守備隊の副隊長も務めるベンが、開口一番あきらめ顔でいう。すると、 「そ、そうだ! ベリアルの群なんて、俺たちじゃ勝てっこねえよ!」 「こんなクソ田舎で、無駄死にするのはゴメンだぜ!」  若手の隊員たちが、怯えた顔で次々に叫ぶ。 「逃げよう! 町を捨てて、みんな一緒に逃げるんだ! そうすりゃ、全員生き残れる!」  ふとっちょのハモンが、ヒステリックな甲高い声でいうと、 「……いや、そう上手くはいかない」  グランは、疲れた顔でかぶりを振った。 「馬に乗る者や、脚に自信のある者なら、あるいはうまく逃げおおせるかもしれない。だが、年寄りや子供は、今から町を出てももう遅い。すぐにベリアルどもに追いつかれて、喰い殺されてしまうだろう」 「そ、そうだとしても、全員ここで死ぬよりマシだ!」 「そうだぜっ!」  隊員たちは、すでに自分が助かることしか頭に無いようだ。  まあ、無理もないか――。  グランは、臆病風に吹かれた彼らに同情する。  田舎町の守備隊勤めなど、給料はスズメの涙で、身分的にも町の道路清掃人と大差ない。町を守るために命を捨てろ、と言われても、迷わずに首を縦に振るのは容易なことではない。 「俺は、この仕事に誇りを持ってる。だから、戦って勝てる見込みが少しでもあるなら、俺は戦うよ……だが、今度ばかりはな……」  みじめそうにいうベンをみて、グランはため息をついたあと、口を開いた。 「町を捨てて逃げる、というのが、ここにいる全員の一致した意見なんだな?」 「………………」  無言で俯く隊員たちを睥睨した後、グランは深く頷いた。 「そうか、わかった……。お前たちには皆、故郷に愛する家族がいる。だから、この町を捨てて逃げるお前たちを、俺は責めたりはしない。トラノの守備隊は、ただ今をもって解散する! お前たちは、今すぐ好きなところへ逃げていい」 「……グラン、お前はどうする?」  ベンがぎこちなく訊くと、グランは片方の眉をあげて、ニヤリと笑った。 「幸か不幸か、俺には守るべき家族などいない。それに、俺はこれでもトラノ守備隊の隊長だからな。町にひとりでも守るべき住民が残っているなら、俺は最後まで戦うさ」 「……そうか……すまない」  ベンが俯いたまま足早にホールを出て行くと、残りの隊員たちも皆それに続き、グランひとりがそこに残された。  しばらくの後、トラノの町を囲む防壁の大きな門の前で、グランは町を去る仲間たちを見送った。  町民たちは、まだ家財道具などの整理に手間取っているらしく、なかなか町を出てこない。町を守るべき守備隊員が誰よりも早く町から逃げ出す、というのも皮肉な話だ。 「じゃあな、ベン」 「ああ……」  十年来の友をグランが笑顔で送りだした時――、街道の向こうからこちらへとやってくる一団の人影が目に入った。 「あれは……、教団の浄化師たちだ!」  グランは、近づいてくる者達の正体に気がつき、歓喜の声をあげた。  ベリアルが町に迫っているという一報を受けた時、ダメもとで町の危機を伝える狼煙をあげてみたのだが、どうやらそれが役に立ってくれたらしい。  時間的に考えても、首都から救援にやってきた者達ではないだろう。おそらくは、たまたまこの近くで調査活動でもしていた一隊にちがいない。 「浄化師たちがいれば、百人力だ」  グランが興奮気味にいうと、 「浄化師といったって、あれっぽっちの人数だ。ベリアルの大群相手に勝てるわけないぜ」  ベンも、そして他の元隊員たちも、力無く首を振る。  たしかに、いくら浄化師たちが強いといっても、彼らだけでベリアルの大群を相手にするのは厳しいだろう。  だが、もし……俺たち守備隊が彼らに力を貸せば――。  グランは、希望を捨て、守るべき町を捨てようとしている仲間達の前に、ゆっくりと立ち塞がった――。
初恋レモネード
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-03

参加人数 2/8人 留菜マナ GM
「あ、あの、このお店のスイーツ、ずっと食べに来てもいいですかーー!!」  かって、アレックスは初恋の相手にそんな告白をしたことがある。  あれから一週間が過ぎた。  結論から言えば、まだ初恋の相手とは交際に至っていない。  そして、アレックスの恋路と、彼を振り撒く環境は、どちらも最悪の一言に尽きる。 「おわあああああっ!」  人力車から、スプラッタ映画さながらの悲鳴が轟き渡る。  アレックスのペットである、空を泳ぐふぐ――もとい、パフィーフィッシュが毒針を飛ばしてきたのだ。  ここは、教皇国家アークソサエティの南部に位置する大都市ルネサンス。  アレックスはその日、初恋相手との交際を始めようとして、相棒のサムが引く人力車に乗ってヴェネリアの街中を駆け回っていた。 「よお、お嬢ちゃん。誰に許可を得て、ここでままごと遊びをしているんだよ!」 「うわあああん、ママ!」  ままごと遊びをしていた少女が泣きながら立ち去ると、アレックスはパフィーフィッシュの毒針を必死に避けながら腕を組んで高笑いを始めた。 「おら! そこの猫ども、戯れているんじゃねぇ!」 「にゃー!?」  アレックスが噴射した水鉄砲を浴びて、路上に戯れていた猫達は一目散に逃げていく。 「やめろ!」 「何だ、貴様は?」  しかし、突如、人力車の行く手を阻む存在が現れたことに、アレックスは目を見開いた。  サムが怯えたようにアレックスに助言する。 「あ、兄貴。あいつら、どうやら浄化師のようですぜ」 「な、なにいーーーー!?」  衝撃度満開なフレーズに、アレックスは全身を震わせた。 「兄貴、さすがに浄化師相手はやばいんじゃ……」 「心配するな、サム。アレックス団はな、ベリアルやヨハネの使徒からも、ファンクラブが結成されるほどの人気ぶりなんだよ!」 「さすが、兄貴!」  慣れた小言を聞き流す体で、アレックスはサムに人差し指を突きつけると勝ち誇ったように言い切った。 「さあ、いつものように行くぜ!」 「はい、兄貴!」  アレックスの言葉に釣られて、サムは浄化師達へ視線を戻した。  そして二人、声を合わせて叫ぶ。 「「ごめんなさい!!」」 「はあ……?」  刹那、場の空気がシンと静まり返る。  土下座をして何度も請うように頼むアレックス達に、浄化師達は言葉を失って唖然とした。 「実は、初恋の相手に交際の申し込みをしに行く途中だったんです」  アレックスにそう告げられても、浄化師達はあまりの滑稽無稽さに正気を疑いたくなった。 「普通に会いにいくことはできなかったのか?」 「これが、俺達の普通です」  間一髪入れずに即答したアレックスは、真顔で浄化師達を見つめてくる。 「頭が痛くなってくる…‥…‥」  あまりにも突拍子がない話に、浄化師達が思わず頭を抱えた。 「で、初恋の相手というのはこの街にいるのか?」 「はい。この街の外れにあるスイーツショップにサニスさんという方がいます。その方が、俺の初恋の相手です」  突然の展開についていけず、浄化師達がなんとも言い難い渋い顔をしていると、アレックスは得意絶頂でこう続ける。 「前に、俺が『このお店のスイーツ、ずっと食べに来てもいいですかーー!!』と告白したら、食べに来てもいいと了承の返事を頂いたんです。それからは毎日、サニスさんのお店に通わせてもらっています」 「……いろいろと前途多難だな」  言葉の意味を一瞬にして悟ると、浄化師達は目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。  どうみても、ただの店員と客の関係である。  アレックス達は、サニスと付き合う前提で話を進めているみたいだが、街中の騒動のことといい、このままでは彼女から敬遠されかねない。 「浄化師様、どうかお願いします。いろいろと問題があるかもしれませんが、兄貴の恋路、どうか手伝ってもらえませんか!」 「なっ――!?」  予想以上の前途多難な恋路ぶりを目の当たりにして、浄化師達は困ったように眉根を寄せたのだった。
トマティーナ・クッキング
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-01

参加人数 3/8人 あいきとうか GM
「困った」  教皇国家アークソサエティ、薔薇十字教団の教団寮の食堂、調理室。八月某日の真夜中、ただひとりそこに残った青年はペンを握り締めたまま頭を抱えた。 「トマト……。トマトってなんだ……?」  あまりにも悩みすぎて、眼前の食材がもうよく分からなくなっている。このままではだめだと、まだまだ見習いだという自負がある料理人は目を閉じた。 「頼るかぁ」  本当は自力でどうにかしたかったのだが、ことここに至っては仕方ない。自分ひとりではもうなにも浮かばないのだ。幸い、この職場には頼りになる者たちが揃っている。  もちろんそれは、ライバルになりうる料理人たちではなく。 「ってわけで、知恵を貸してほしい」  ぱん、と手をあわせて頼みこんだ先は、浄化師だった。教団本部のエントランスホールに新規の指令の確認にきていた浄化師を適当に捕まえては、若き料理人はこうしてお願いをし続けている。 「トマト祭りで出す新作料理のメニュー開発、手伝ってくれ!」  八月下旬に、ヴァン・ブリーズ地区を中心に開催されるトマト祭り。収穫したばかりのトマトを街中でぶつけあい、豊作を祈るという行事なのだが、もちろんこれだけの催しではない。  トマト合戦の他に、トマト料理を出す多種多様な屋台が出たり、トマトを模した雑貨が販売されたりと、とにかくトマト尽くしの賑わいを見せるのだ。  またの名を、トマティーナ。 「そこでトマトの新作料理の屋台を出して、料理長に振舞いたいんだよ。ほら俺、料理長のこと大好きじゃん? 新鮮ですごいトマトの料理、食べてもらいたいじゃん?」  その情報は知らなかったし、特に興味もなかった、と浄化師の顔にはかかれていたが、青年はまるで気にしない。 「レシピを考えてくれるだけでいいから! もう俺だけじゃアイデアの限界なんだよー!」  情けない声を上げる料理人は、どうしようもなく必死だった。
戦闘訓練だよ! ぶんぶん編
とても簡単|すべて

帰還 2018-09-01

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
「汝らに依頼じゃ。くくく、このように指令を言い渡す仕事は久々よ。  なぁに、妻が夏病にかかっておので、暇で暇で暇で死にそうで、仕事をかわっておるのよ。  ……はぁ、久々に調査から帰れば……はぁ」  指令を通達するのはユギル・霧崎である。  顔の半分を隠す狐面、唇しか見えないが、面白がるようににやにやと浄化師たちを見ている。  どうも新人が多くなった、というので、その品定め的な視線を感じる。 「今回の依頼は、ずいぶんと容易い依頼よ。新人の経験を積ます目的としては理にかなっておる。  むろん、手練れであっても油断すれば大けがの元、しっかりと精進するがよい」  都市部から数キロほど離れた森が近い村で、キラービーが現れたそうだ。森で遊んでいた子供が二人ほど刺され、毒による高熱に苦しんでいるそうだ。 「キラービーについては知っておるな? 魔力の影響を受けた蜂よ。  普通なら、毒よりナイフのような毒針に刺されて出血で死ぬのだが、幸いにも子らは急いで逃げたおかげで毒の苦しみだけのようじゃ。  調べてみるとキラービーが現れたところ、洞窟があってのう、長年森のなかでたまった魔結晶が見受けられた。  今回は、キラービー退治と魔結晶の回収よ。  キラービーは基本的に巣から離れん、巣のあるところは地図に描いて渡すゆえ、参考にするが良い。  ああ、ここの調査をした吾が言うのもなんじゃが、洞窟は二人の人間が並んではいればそれだけでいっぱいになる程度の広さしかない。  松明なんぞもっていけばかっこうの的となるだけゆえにすすめはせんよ。  外におびき出すか、それとも中で退治するかは自由じゃが、よく考えて行動することをすすめよう」  にこりとユギルは微笑んだ。
あなたへの想いを花に込めて
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-31

参加人数 2/8人 茸 GM
 『放浪王子と毒舌娘』――開演です。  ……――。 「ちょ、ちょっと待って。全然ロマンス感ないんだけど!」 「でも一応ロマンス劇場って……ほら」 「確かに書いてあるけど、大丈夫なの? このタイトルで」  ブリテンに存在する、民衆のための観劇場。  不定期に訪れる旅の劇団によって催される劇なのだが、今回の演目には驚く観客も少なくはない。  ――とある王国の放浪王子と、小さな村で暮らす毒舌娘の恋物語。  (劇は佳境に差し掛かり、再び幕が上がる。)  自由気ままな放浪王子は、旅先で出会った村の娘と仲良くなり、数年が経過しました。  再び訪れた娘の家で、王子は衝撃を受けます……。 「貴方とは一緒になれません」 「それは何故?」 「貴方と私では、あまりに違いが有り過ぎるからです」 「身分の差かい? 今時そんなことを気にするなんて、キミらしくない」 「王族としての責務を放棄して放浪の旅に出ている貴方が身分を語るんですか……、片腹痛いわ」  と言いつつも一切嘲笑すら浮かべていない彼女に放浪王子は焦ります。 「放浪しているのには訳があるんだ。こうして各地を視察して回ればいろんな物が見えて来る。きっとこの国の為に何か役に――」 「十年も帰らずにどう役に立っていると?」 「!? ……や、僕が城に帰らずとも書状で全て――」 「これでもですか?」 「な、何だい、それは!?」  娘が取り出したのは一枚の似顔絵入りのビラ。 「国王様が貴方をお探しの様ですが。書状を送られているのなら何故このような物が配られてくるのでしょうね」  王子はビラを手に、わなわなと震えます。 「ぼ、僕が……こんなっ、……こんなに老けているわけがない!!」 「……」 「一体何を見たらこんな不細工に描けるんだ!?」 「頭の中まで放浪していらっしゃるようで」 「酷い!」 「当然です。放浪の旅に出て十年も経っているんですよ? 今現在の貴方を想像して描くしかなかったのでしょう……御用絵師様もお気の毒に」 「気の毒なのは僕じゃない!? こんな風に描かれてさ。どうせ誇張して描くならもっとカッコイイ方向に誇張して欲しかったよ」 「いえ、案外特徴を捉えていると思いますよ? この辺の髭なんて旅人感満載で、あとはもう少しボサボサに髪を伸ばして……顔に傷なんかも入れておくとグッと悪人面に――」 「何を勝手に描き込んでるんだい! これじゃあお尋ね者の手配書になってしまう。未来の夫を犯罪者呼ばわりするなんて、なんて妻だっ」 「相手の同意も無く妻呼ばわりする男は犯罪者で充分かと」 「すまない、先走り過ぎたね。キミは可愛い僕の婚約者だった」 「頭の中ではスキップまでなさっているようで。恋人でもなく、ましてや三年も音信不通になるような方と一体いつどうやって婚約まで至ったのでしょうか」  王子が最後にこの村を訪れたのは三年前。――だというのに王子の発言はあまりにも自分勝手。  娘が怒っても無理はありません。 「僕たちが友達以上恋人未満だって言うのかいっ?」 「いえ、それも行き過ぎかと。百歩譲ってただのご友人、それ以上でも以下でもないですね」 「譲歩された友人なんて、最早以下ではっ? なんてことだ……僕は恋人のつもりでいたよ」 「とんだ妄想ですね。告白のコの字もない相手とどう恋人になれというのでしょうか」 「なら今告白したらキミは頷いてくれるということだね……?」 「……」  一瞬押し黙る娘は気恥しそうに視線を逸らします。  彼女も少なからず王子のことを想っていたのだが、彼の頭の中が解読不能でずっと戸惑っていたのでした。 「……それなら何故、一緒になれないなんて言うんだい?」 「放浪している貴方とは、流れる時間が違うからです。いつも置いていかれている気がして……」 「ハっ! ――だから『この僕』はこんな老け顔なのか!」  お尋ね者の手配書と化したビラをくしゃくしゃと丸める王子に、娘からは溜息が一つ零れます。 「……根に持ち過ぎです」  放浪の旅をしているだけあって、言動がふらふらと飛んで歩く王子。  ――しかし次の瞬間、娘は驚きに目を丸めます。  突然テーブルに置かれた見慣れない植物。緑色の葉の中に白い花が覗きます。 「ドラセナ。幸福の木とも言われている植物だよ」 「とても、甘い香りがします……」  ポンポンのように小さな花がいくつも集まって咲く可愛らしい姿は、彼女の心を魅了しました。 「数十年に一度しか咲かない花なんだ。これをどうしてもキミにプレゼントしたくてね」 「まさか、それで三年も?」 「見つけても持ち帰るまでに枯れてしまっては元も子もないからね。大好きなキミの為ならなんてことはないさ。――どうか、僕と恋仲になって欲しい」  自分のためにしてくれたことだと思うと、娘はこれ以上怒る気にはなれません。 「仕方のない人ですね。でも、嬉しいです。ありがとうございます」 「こちらこそ。それと、この花には素敵な花言葉があってね。『幸福』『永遠の愛』『幸せな恋』そして『隠し切れない幸せ』!! どれも僕たちにピッタリだと思わないかい?」 「ええ、確かに隠し切れていませんね。恥ずかしいので、出来ればその緩み切った不細工な顔だけでも隠して頂けたら助かるのですが」  告白を受けても毒舌は健在のようです。 「実物見て不細工ってあんまりじゃないかい!? 自分で言うより酷い衝撃が胸にっ。――それより、 良かったらキミも探しに行かない?」 「え……?」 「この植物は低木種だけでも五十種類以上あるとされているんだ。キミと幸せを探しに、是非行きたいね」  娘は暫し考えます。 「悪くない提案ですね」 「本当かい!? じゃあ……!」 「ただし、一度お城に戻られてからというのが条件です」 「あ……はい」  しゅんとする放浪王子に微笑む毒舌娘。  こうして、今度は愛しい恋人を連れて放浪の旅に出ることになったのでした……――。  ――コミカルなロマンス(?)劇場、閉演後。 「あの似顔絵は傑作だったわね!」 「ふふ、本当に良く描けていたわよね」 「ねえ、見て? 好きなお花を持って帰れるんですって!」 「ちゃんと花言葉も添えられているのね……素敵だわ」 「こんな花見た事無いよ。あいつにプレゼントしたらきっと喜ぶぞっ」  観劇の感想を交わしながらそれぞれ好きな花を選んで帰って行く人々。  そして明日は千秋楽。多くの来観者を見越して沢山の花が用意された――。
新人だってかっこよく戦いたい
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帰還 2018-08-31

参加人数 5/8人 あいきとうか GM
「戦闘がさぁ……。なーんかよく分かんないっていうか、うまくいかないっていうか」  教団寮の食堂で、新人浄化師の片割れ、祓魔人クラウジオ・エイツがテーブルに突っ伏した。 「アライブスキルとか立ち回りとかさぁ……。なんかいろいろ……」 「いろいろ、ですか」  テーブルを挟んで向かい側に座るクラウジオに上目遣いに見られ、司令部教団員はそうめんを飲みこむ。 「なんか教えて……。いろいろ……」 「漠然としすぎていて分からないんですけど。っていうかほら、浄化師になられたときに、一通りの戦闘マニュアルは目を通してますよね?」 「読んだけど、分かんないっていうか」 「困りましたねぇ」  トマトを口に入れて咀嚼し、嚥下。よし、と司令部教団員は頷いた。彼女もまた新人ではあるが、どうにかしたいという思いだけは一人前だ。 「まずは『装備』の話です。身につけてますか? 装備。武器、防具、その他の携帯品。指令に行く際には、装備は整えないと。これは戦闘指令以外にも言えることです」 「ふむふむ」  続けて、とクラウジオは視線で促す。 「あと『アライブスキル』。浄化師さんたちが使う、特別な魔術ですね。魔力が枯渇しない限り使えます。浄化師さんとして経験を積めばあれこれ習得できるものです」 「そういえばそういうのもあったな……」 「それと『魔術真名』なんかもありますね。これはパートナーの方と契約する際に決めていただいた、特別な合言葉のようなものです。発すればお互いの能力を最大限に解放できますが、パートナーと触れあうこと、が条件に入っていることをお忘れなく」 「手をつなぐとか、ハグするとか、だっけ?」 「そうです。ちょこっとでもいいので、触れあってくださいね」  お箸の使用に慣れていない司令部教団員は、フォークにそうめんを絡ませながらさらに考える。  これ以上、説明すべきことはあっただろうか。 「あとは、会敵したときどうするのかとか、どんな風に戦うのかとか、そんなことを考えておけばいいと思いますよ」 「ふぅむ……」  ごちそうさまです、と手をあわせた司令部教団員は、食器が乗ったお盆を持って立ち上がる。 「難しく考える必要はないのです。あとは経験って感じですから。ちょうど簡単そうな指令があるので、出しておきますね。参加してみてください。大切なのはー?」 「装備、アライブスキル、魔術真名、それとやる気?」 「そんな感じです。他の浄化師さんたちとも、作戦会議をしたり、協力したりして、勝利を掴んでください。戦いだって浄化師さんの本分ですから」 「だよねぇ」 「帰ってきたらレポート、よろしくお願いしますね。ご武運を」  会釈をして去っていく司令部教団員を見送って、クラウジオはようやく上体を起こした。 「あ、やっば。たぶん指令のタイミング、被るわ。参加できないな、これ」  心の中で司令部教団員に謝って、新人浄化師の祓魔人もそうめんを食べることにした。
パートナーには秘密のおはなし
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帰還 2018-08-29

参加人数 5/8人 北野東眞 GM
 今日も今日も指令を受け取りにエントランスへと向かうと……。 「はぁ? またお前、出張! てめぇいい加減にしろよ! ようやく帰ってきたと思ったらまたかよ! いい加減にしろ! 離婚するぞ! このイケメンがっ!」 「仕方なかろうが! 浄化師は万年人手不足ゆえ! 吾のような有能な者はもれなく社畜じゃあ! 離婚したらまた求婚するぞ、この愛い者め!」  うわぁ……いつも指令出してくれるロリクと、調査担当のユギルさんが、なんか喧嘩してる。あれって深刻な喧嘩? いや、痴話げんか?  そういえば、あの二人、浄化師としてパートナーで、夫婦だったけ? これは犬もくわぬなんとやらでは? 「あー、気にしないで、気にしないで。あの夫婦、二人とも仕事が忙しいせいで、しょっちゅう喧嘩してるんだ。すべて、仕事がいけないんだ。せめて、週七日休みの仕事なら」  などと通りすがりの他の職員は言うが――あ、この人も疲れてる。  そんななか、二人の言い合いがヒートアップしていく。 「結婚のとき寂しい思いはさせないとかぬかしやがったくせに仕事、仕事、仕事で、てめぇ本当にいい加減にしろよ。仕事と結婚しろぉ!」 「は! その言葉そのまま返すぞ! そのうえ汝、顔がいいと室長のことをほめておったな。浮気か!」  これは、出直しておいたほうが、あ、やべ。ロリクに見つかった。 「おー、ちょうどいいところにお前らきたなぁ~。今日の指令、きてるぞ~」  うわぁ。こわい。 「待て、まだ話は終わっておらんぞ!」  ひぇ。まだ喧嘩続行ですか? 「……今日の指令は俺が依頼主になる! 悪いが、喰人だけ、俺ときてくれ。ちょっと話にのってもらおうか」 「汝……ふん、では、祓魔人側は吾とこい。汝らに話がある」  あ、やばい。これ、断れないやつだ。  そんなこんなで依頼というわけで、いつもは一緒にいるパートナーと引き離されてしまった。  呼ばれたのは広い部屋で、紅茶とクッキーが用意されている。 「本当に、あの旦那は嫉妬深いし、束縛は強いし、しょっちゅう仕事でいない、結婚前は優しかったし、気が利いたっていうのに」  はぁ。 「お前らへの依頼は別に愚痴を聞いてほしいわけじゃない。今回はパートナーに思うところがあるだろう。ここでがっつり語れ! 同じ喰人同士だ。いろいろと思うところあるだろう」  パートナーについて語るかー……。 ● 「妻はこう、働き者なのだが、がんばりすぎて心配なのだ。はぁ仕事で忙しいことは悪いとは思っておるぞ? 料理はうまいし、配慮はある、ゆえに浮気せんか心配なのだ。忙しくてかまえんからなぁ……なに、のろけではないさ。妻のことだ、どうせ、喰人どもにパートナーのことを語らせておるだろう。汝らも日ごろ、いつも一緒のパートナーに対して思うことがあるのではないのか? ここでは鬱憤晴らしじゃ、語るがよい」  パートナーについて……。 「愚痴でも、心配でも、のろけでも。ここには同じ祓魔人しかおらん。初対面かもしれんし、依頼で何度か顔を合わせたものもおるじゃろう。こういうときこそ、好きに語るがいいし、聞きたいこともあるだろう? 内緒話というところじゃ」
戦闘訓練だよ! ヨハネの使徒!
普通|すべて

帰還 2018-08-23

参加人数 4/8人 北野東眞 GM
「今回は、実戦訓練だ。だいじょうぶ、だいじょうぶ、危険なことはないから、たぶん」  いつもは受付で指令を渡してくるロリクが珍しく、浄化師たちを率いて平野の道を進む。  今回は「新人も増えたことだから、そろそろ戦闘訓練の一つもするかなぁ」と言い出したのだ。  目が眩む晴天。  緑豊かな、平坦な道を進む。 「俺も一応浄化師のはしくれだから戦えるんだが、今はパートナーのユギルが別地方の調査に出ていてなぁ。  最低限のサポートと助言しかできんが、まぁ、お前たちならいけるだろう。  最悪、危険だと思ったらお前ら全員連れて逃げるくらいなら今の俺でもできるからな」  からからとロリクは笑って、ろくでもないことを口にする。  ふ、と彼は真顔になってここに集まった浄化師たちを横目で見る。 「浄化師っていうのは命をかけて正義と平和を守る。だからこそお前たちはある程度の自由と守るべきルールが存在する」  淡々とロリクは説明をする。  それは、たぶん、浄化師となったときにはいやでも習うことだ。  浄化師はベリアルやヨハネの使徒といった世界の脅威を討伐し、世界の救済を遂行する存在である。  いろんな理由でここに集まった者たちは浄化師となった。 「今回はいろんなパターンがあるがオーソドックスな敵にしようと思う。  ヨハネの使徒の討伐だ。なんでも今朝がた、平野にいるのを見かけたという。数は三体」  ロリクはそう告げるといきなり立ち止まり、振り返った。 「さて、ここでヨハネの使徒についてのおさらいだ。あいつらは3パターン存在するが、今回は地上稼動型だ。  スピードとしては最高で60キロは出る上、なかなかちょこまかと動く。今回の個体の大きさは3mのものらしい。  あいつらはだいたい500kg~2000kgほどの重さもあるから潰されないように気を付けろ。  あいつらはコアがある。それさえ破壊すれば停止する。  逆を言えばそれを破壊しない限りは動き続けるから注意がいる。  さて、俺からの助言は以上だ。もっと聞きたいことがあれば今の内にな。向こうもこちらに気が付いたようだ」  ロリクが腰からジャマダハルをとりだし、低く構えた。  戦いの前の高揚と緊張が走る。  風の唸る音を浄化師たちは聞いた。  見ると、5キロほど先でも、わかる。その白い光沢の化物――犬と馬が合体したような、どこか不格好な化け物。  3体のヨハネの使徒。  白と金色の神々しい化け物の顔といえばいいのだろうか、そこに青く輝く宝石――コアが浄化師たちを捕えている。  彼らは土煙をまいあがらせ、真っすぐに浄化師たちに突撃してくる。  すべての命を、刈り取るために。
クローネ鍾乳洞の救出作戦
普通|すべて

帰還 2018-08-23

参加人数 4/8人 内山健太 GM
 夏場のクローネ鍾乳洞にベリアルが棲みついたという連絡が薔薇十字教団に入る。  クローネ鍾乳洞は、夏場のリゾートとして人気の観光スポットであるが、今回ベリアルが棲みつき、かなり危険な場所と化してしまったとのことだ。    どうにかしてベリアルを討伐し、観光ができる状態を取り戻してほしい。それが今回薔薇十字教団に依頼された指令である。  エクソシストたちが討伐に乗り込もうとした時、更なる連絡が入る。物見遊山でやってきた若者がベリアルに襲撃されて、鍾乳洞の中に閉じ込められてしまった。    若者は二人。一人は鍾乳洞の奥の方に逃げ、ベリアルの魔の手から逃れている。もう一人は、一瞬の隙を突き、鍾乳洞の外に逃げ延びていた。  そして、仲間が一人閉じ込められていると連絡したのである。    鍾乳洞の奥は深く、人がギリギリ入れるくらいの地帯もある。ちょうど、そのスペースに若者は逃げ込んだため、ベリアルの攻撃から逃れられた。  しかし、ベリアルは鍾乳洞の壁に突進し、若者を食い殺そうと躍起になっている。現在のところはまだ壁は厚く、時間的な余裕はあるが、そう長い間逃げられないだろう。    壁が崩れてしまえば、若者の命はない。  そのため、早急に若者を救出し、ベリアルを討伐してほしい。ベリアルは一体であり、エクソシストたちが協力し合えば、攻略はそれほど難しくはないだろう。  ただ、鍾乳洞の中は若干薄暗い。日差しの角度により、鍾乳洞内は幻想的なムードに包まれるが、時間的な猶予はあまりない。早急に救出作戦を遂行してもらいたい。    ベリアルは基本的に不死であり、一般的な攻撃では攻略ができない。ベリアルが死に瀕すると、その身から鎖に捕らえられた魂が出現する。  この際に出現する鎖を魔喰器で喰うことで、魂は光となって天へ帰っていく。    ベリアルがいる一帯は、それほど、大きなスペースではなく、観光スポットでもあるので、あまり派手な魔術を使うのは推奨されない。  武器を使い、ベリアルを攻撃しつつ、鎖を喰うとよいだろう。但し、ベリアルは絶えず飢えているので、エクソシストを見ると、目の色を変えて攻撃してくるはずである。    今回のベリアルは、元が狼であり、それがアシッドの影響で魔物と化してしまっている。  鉤爪のようになった前足の攻撃は鋭く、触れてしまうと大きなダメージを負うだろう。  また、スピードも速く、一瞬の隙が命取りになる。基本的には四足歩行であり、爪による引っ掻きや、鋭い牙による噛みつきが主な攻撃になる。  鍾乳洞内はそれほど広くないので、ベリアルのスピードはそれほど発揮されないが、狼を元としているため、夜目が利き、薄暗い中でも活動するのに優れている。  まずはスピードを殺し、着実にダメージを与えていくとよいだろう。    鍾乳洞内を破壊しないのであれば、多少の魔術を使うのは可能である。  魔術を行う者、武器を使う者、それぞれが協力し合いベリアルの討伐をしてもらいたい。
流し……そうめん?
簡単|すべて

帰還 2018-08-22

参加人数 3/8人 茸 GM
 盛り上がりを見せた七夕祭りが終わり、七月も残すところ数日と迫った頃――。   「こんなに沢山余っちまって、どうしたもんか……」 「これは処分するしかないんじゃないか?」  場所はアークソサエティの中心街から離れたとある小さな村。  六十過ぎのしゃがれ声で話す村長とその息子が、庭先で頭を抱えていた。 「処分っつってもなぁ。こんな立派な『竹』、使わずに捨てちまうのは勿体ねえだろ」 「そうは言っても……、じゃあ何かいい案でもあるのか?」  息子に問われ、顔の皺を更に深く刻んで考え込みながら、十本近くある竹をジッと睨みつける。  村の七夕祭りの後、余った竹を庭に借り置きしたはいいが、使い道が思い浮かばないまま今に至ってしまった。 「……そうだ!」 「っ? 親父、何か思い付いたのか?」  ポンと手を打つと、驚いたようにこっちを見る息子にニヤリと笑む。 「流しそうめんだよ! 夏にはもってこいだろ」 「ナガシソーメン?」 「何だ? 知らねぇのか。この竹を縦に真っ二つに割ってそこに素麺を流して食うんだよ」  呆れ半分と、少し得意げに説明すると……、 「それってもしかして、麺を織姫の織り糸に、麺が竹の水路を流れて行く様を天の川に見立てたっていう七夕と一緒にニホンから伝わってきた夏の風物詩……!」 「……知ってんじゃねえか」  しかも思いの外詳し過ぎる解説に驚き半分、悔しさ半分。 「親父の話を聞くまで忘れてたんだよ。でも流しそうめんか、俺もまだやったことないし、いいんじゃないか?」 「そ、そうか」  息子の賛同を得て、打開策が見えてきたことに安堵する。 「そうと決まったら早速準備だな!」 「ハッハッハ、お前もやる気じゃねえか」  善は急げと作業に取り掛かる息子と一緒に、竹を切る音を庭に響かせたのだった。  ――数日後。 「これはまた立派なモンができましたねぇ」 「本当、凄いわ!」 「当然だろう。誰が作ったと思ってんだ」  真っ二つにした竹を繋ぎ合わせて長く伸びた竹水路が三本完成した。  それを取り囲む村人達。  村長自身、使い捨てにしてしまうには勿体ないほどの出来栄えだと自負している。 「俺も驚いたよ。しかも、余った竹を刻んで器にするなんて、親父もセンスあるじゃないか」 「ここまで来て余らせちまったら格好悪ィからな。少し作り過ぎちまったが、まあいいだろ」  息子に褒めちぎられ、自慢げに胸を張ると、周りから笑い声が上がる。  集まった二十人ほどの村人に対し、器が少し余ってしまっているのは確かだ。 「私達まで招待してくれて嬉しいわ」 「本当よね。流しそうめんなんて初めてだから、凄く楽しみにしていたのよ」  女性達の好感触の声が照れ臭くて、鼻の下を擦る。 「ありがとよ。じゃんじゃん食べてってくれ」 「親父、鼻の下伸びてるぞー」  すかさず息子に茶々を入れられ、「煩ぇ」と尻を叩く。 「ダラダラ喋ってねえで、お前はさっさと準備に取りかかれ!」 「わ、分かったよ。……まったく、直ぐ手が出るんだからなー」  そうこうしている内に着々と準備は進み、竹の水路に水を流し始めると歓喜の声が上がった。 「そうめんも瑞々しいわね」 「どうせ水流すなら、持ってきた野菜でも冷やしておくか」 「それは良い考えね!」  各々が持ち寄った食べ物や飲み物などでテーブルが溢れ返っている。  なかなかに豪勢な流しそうめんの会だ。 「見て! 私は六色そうめんを持ってきたの」 「六色そうめん?」  村娘の手元を覗き込むと、六つの色の素麺が木箱の中に綺麗に並んでいた。 「こりゃ凄いな。どうすりゃこんな色になるんだ?」 「緑は抹茶、赤は紅花、茶色はそば粉、青が高菜で黄色がクチナシ、そして紫は紫芋で色をつけたの。最近では果物で色付けすることもあるそうよ」 「なるほどなぁ、色が違うってだけで賑やかになるな」  顎を擦りながら感心していると――、 「六色そうめんって言ったら……」  と、息子が横から口を挟んできた。 「七夕さまの歌にもある『六色の短冊』だな。魔術六方陣思想と同じ六色にしたのは厄除けの意味が込められてるって話だ」 「お前はいつからウンチク野郎になったんだぁ?」 「親父……、せめて博識って言ってくれよ」 「でも本当、良く知ってるわよね」  六色そうめんを持ってきた娘が感心したように言う。 「まぁ、昔ばあちゃんから聞いた話だけどさ」  と、鼻の下を指で擦りながら呟く息子。――何処かで見た光景だ。 「あと、白を加えた七色を七夕の日に食べると更に縁起がいいとか、ばあちゃん勝手に言ってたな」 「それは素敵ね! 私も来年からそうしようかしら」  そんな中、話を聞いていた村人の一人が徐に手を挙げた。 「陰陽とか厄除けで思い付いたんだが、この流しそうめん、浄化師さんにも食べてもらわないか?」 「流しそうめんを?……それは、ここに招待するってことか?」 「ああっ。街や村の為に危険な仕事だって沢山請け負ってくれてるんだ。いつか恩返ししたいと思ってたんだよ」 「私も賛成よ! 六色そうめんなら任せて。まだ家に沢山あるから」 「俺も賛成だな。浄化師さん等の無事を祈って、盛大にやろう!」  集まった村人全員が頷き、多くの目が此方に集中する。  もちろん、反対する理由などあるはずがない。 「よぉし、分かった! 手伝える奴は前に出てきてくれ」  こうして村長の呼び掛けに応えた村人達により、この後準備が進められ、八月の初めに薔薇十字教団に一通の招待状が届けられた……――。
存在理由と向かい合おう
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帰還 2018-08-22

参加人数 8/8人 春夏秋冬 GM
 教団本部の一室で、1人の浄化師が助手の浄化師に声を掛けた。 「そろそろルーキーの中にも、慣れて来たのが出てくる頃だなぁ」  四十を過ぎたヒューマンの浄化師は、椅子にだらしなく座りながら続けて言った。 「良いことだぜぇ。浄化師として腕を磨いて、腕を上げてきたってことなんだからなぁ」 「ええ、良いことですね。そういう点では」  この場にいるもう1人、若いライカンスロープの浄化師は用意した書類に抜けがないか確認しながら返す。 「でも、良いことばかりじゃないですよね」 「ああ、まったくもってその通り。だから俺達に、ルーキー達に説明する仕事が回って来たってわけだ」  浄化師の男性は、女性から書類を一枚受け取り内容を確認する。  そこには『存在理由の偏りによる変調の対処法』と書かれていた。 「人間、存在理由は大事だけどねぇ。俺たち浄化師は、常に中庸を心がけなきゃならない。でなきゃ、最後の最期はべリアルになっちまう」  いま男性の浄化師が話していることは事実だ。  浄化師は、ある条件によりべリアルと化してしまうことがある。  ひとつは、べリアルを倒さずに魔喰器にべリアルを食わせない状況が長く続く場合。  これは教団に所属していれば定期的にべリアル駆除の指令が出されるので気にする必要はない。  しかし、もうひとつ。こちらが問題だ。  それは浄化師が自身に課した存在理由。  つまりはレゾンデートル。その偏りによる変調の行きつく先だ。  自身の存在理由に偏り過ぎる、あるいは掛け離れ過ぎることで、それは1つの症状となって現れる。  それが「アウェイクニング・ベリアル」だ。  これには2つの症状がある。   ひとつ目が「自身の存在理由」を見失ってしまったことで発症する「アムネシア・ベリアル」だ。  戦闘能力が低下し、『目的』に対する感情や意識が薄れていき、記憶が薄れるといった症状が起る。  例えば、パートナーを守ることを存在理由に持つ者が居れば、症状が進めばパートナーへの興味をすべて失ってしまう。  ふたつ目が「自身の存在理由に傾倒しすぎる」ことで発症する「ルナティック・ベリアル」だ。  戦闘能力が向上し、「すべての『目的』を同時に遂行しなければ、すべてを失うだろう」という強い焦燥感と絶望感に襲われ、発狂状態になってしまう。  例えば、パートナーを守ることを存在理由に持つ者が居れば、症状が進めばパートナーに拘り過ぎ、パートナーに近付く者全てを攻撃することさえある。  ひとつ目の「アムネシア・ベリアル」の行きつく先は、心の死だ。  最終的に廃人となり、戻ることはない。  ふたつ目の「ルナティック・ベリアル」の行きつく先は、べリアル化だ。  しかも戦闘経験などをそのまま保持した、低スケールのべリアルなど比べ物にならない凶悪なべリアルが発生することになる。 「べリアルを狩り獲る浄化師がべリアルになっちまったら洒落にならねぇ」 「だから、そうならないように指導するんですよね」  2人の言葉通り、存在理由の偏りによる変調は避けることができる。  方法は、難しい訳ではない。  常に中庸であることを心がけ、行動に移しさえすれば良い。 「とはいえ存在理由なんてのは、心の問題だ」 「ええ。だから分かっていても偏り続けてしまうこともありますね」 「ああ。特にパートナーを守りたい、なんてのは悪いことじゃないしな。それだけに譲れず、アウェイクニング・ベリアルを発症させちまうことがある」 「そうなっても、まだ諦める必要はないんですよね」 「おお。そのためのパートナーなんだからな」  2人の言葉は事実だ。  存在理由の偏りによりアウェイクニング・ベリアルを発症させたとしても、即座に廃人になったりベリアルと化してしまう訳ではない。  たとえ発症しても、パートナーとの絆次第で元に戻れる可能性は残っているのだ。  心からの呼び掛け。  あるいは行動。  パートナーを思う心をぶつけることで、中庸に引き戻すことができるようになるのだ。 「ま、チャンスは無限じゃないがな」  それもまた、事実だ。  パートナーとの絆による引き戻し。  それが立て続けに失敗すれば、もはや手遅れだ。 「今までの統計からすると、指令を4つこなし続ける間に引き戻せなければ、2度と機会は訪れません」  そうなれば、心の死が訪れ廃人となるか、べリアルになるしかない。 「決して少ないチャンスじゃない。だが、多い訳でもない」 「だから、そういうことにならないように、普段から気を付けてもらう必要があるんですよね」 「そういうこと。だからこその教習だ。せいぜいルーキー達には勉強して貰わないとな」 「そのためにも頑張りましょう」 「へいへい。分かってますよ」  そんなやり取りがあった数日後。  アナタ達は、教団の一室に集められ存在理由に関する話を聞くことになります。  その後に、それぞれパートナーごとに個室に分けられ話し合いをするよう求められました。  話し合いの内容は、次のようなものです。  もし存在理由の偏りにより「アウェイクニング・ベリアル」を発症させてしまった時にはどうするのか?  自分だけでなくパートナーを守るために、アナタ達は話し合うことが求められています。  この指令に、アナタ達は――?
かき氷パーティへようこそ!
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-21

参加人数 8/8人 oz GM
 連日、茹だるような暑さが続くこの夏。  地獄の釜に全身浸かっているような炎天下、疲労感が取れない浄化師も多いだろう。  この酷暑の中でも働く浄化師や教団員達を労う為、料理人達が教団寮の食堂で「かき氷パーティー」を開催することになった。  浄化師の息抜きになるだろうと司令部からもあっさりと許可が下りた。  この日の為に料理人達が研究してきたかき氷の発表の場でもある。かき氷と言っても侮る事なかれ。  お店で売っているような天然氷を使ったものは用意できないものの、負けず劣らず「美味しいもの」を食べさせたいのは料理人としての意地だ。多目的発氷符を使い発生した氷で、如何にふわふわとしたかき氷を作るかに腐心してきた。  濃厚でありながら雪のようにふわりと溶ける魅惑の口溶け。この触感を得る為、何度も味見してきた料理人達は頭をキーンッと痛めたり、お腹を壊したりしながらも完成させた。  もちろんかき氷に大事なシロップに加えて様々なトッピングも用意されている。  シロップにはまず王道であるイチゴ、ハワイアンブルー、メロン、マンゴー、オレンジ、レモン。  別の味が食べたい方の為に、グレープ、青リンゴ、パイナップル、アプリコット、蜂蜜レモン、パッションフルーツ、ライム、紅茶等もあるので、様々な味のシロップに迷ってしまうかもしれない。  さらにカルピスやラムネ等のジュースをかき氷にかけても美味しいだろう。忘れてはいけない練乳は標準装備だ。  かき氷には無限大の可能性がある。アイディア次第で様々な変化を遂げるデザートだといっていい。  では、食べたくなるように例を挙げていこうか。  まず、最初に紹介するのは旬の果物を使ったかき氷。  生の桃を加工し作った特製のシロップは果肉がごろりと残っているお得感。シロップを覆い貸すように生クリームがかけられている。上の飾りには、桃の果実で作られた花が美しく咲いている。  暑さで食欲が減退している人もこの桃の香しい匂いを一口食べてみたくなるのではないだろうか。旬の果物を味わいたい方におすすめの一品だ。  甘いものが苦手で大人な味をお求めの方は、コーヒーフロートのかき氷はいかがだろうか。コーヒーの苦みに加えてラム酒がほんの少し入っている。甘さが欲しい方にはバニラアイスを。生クリームを加えれば、まろやかさになるだろう。トッピングにはコーヒーゼリーを上にのせると、洒落たかき氷の出来上がりだ。  こんなときこそ、ニホンの味を楽しんでみてはどうだろうか。  宇治抹茶。東方島国ニホンからわざわざ取り寄せた抹茶をかけた一品。  トッピングには白玉と餡子がおすすめだ。練乳はお好みでかけるといい。  まずは、そのままの素材の味を試してほしい。するとひと味もふた味も味の変化を楽しめる。  最初の一口は抹茶のほの苦い甘さがじんわりと広がり、そこに練乳を絡めるとさらに美味しくなる。あんこは、こしあんかつぶあんか選ぶことができる。白玉以外にもあんみつ、まめかん、わらび餅、磯部餅、きなこ等があり、どこまでも味への追求ができる。  宇治抹茶以外にもきなこ&黒蜜はまた違ったニホンの味が楽しめる。醤油と黒蜜をブレンドしたソースの上から香ばしいきなこがどっさりとかけられている。上品な味わいはかき氷と言うより和菓子を食べている気分になれるだろう。  さらにこっそりと漬け物が用意されている。甘いものを食べた後にはしょっぱいものが食べたくなる心理を突いた心憎い気配りだ。  成人済みでお酒が大好きな方には、お酒をかき氷にかけるのはどうだろう。  リキュールにアイスワイン、ウィスキー、梅酒、日本酒、焼酎等選び放題だ。冷え切ったかき氷にお酒をかければ、冷たい風味が増す。大人だけが味わえるリッチなかき氷。きっとお酒好きにはたまらないはずだ。  みぞれ酒として飲んでみるなんて、今だけしかできない贅沢だ。  「昼間からお酒なんて……」なんて文句を付ける奴は今日ばかりはいやしない。息抜きという名の大義名分を掲げて存分に楽しんでほしい。  ところでかき氷のトッピングには何を思い浮かべるだろうか。  思いつくところで言えば、冷凍フルーツ、ジャム、ゼリー、チョコ菓子、タピオカ、ウェハース、シリアル等であるだろうか。安心してほしい。あなたたちの為に全部揃えてある  変わり種ではチーズクリーム、フロマージュ、綿菓子、マシュマロ、ヨーグルト、マシュマロ等もある。  冷凍フルーツにはイチゴやラズベリーを始めとしたベリー系に、角切りにしたマンゴー、スイカ、キウイ、蜂蜜付けしたレモンの輪切り等の各種用意させてもらっている。  さらに彩りを加える為に果肉を残したフルーツソースの準備もばっちりだ。  あなたが想像するかき氷が作れる準備は万端だ。  料理人達のやりすぎ――……こだわりによって用意された。料理人達も好奇心でやらかしたわけではない。全て善意によって用意された、筈である。  様々なカスタマイズができる分、あなたのセンスが問われるのでそこは注意して頂きたい。  「おすすめで」の一言を料理人に言えば嬉々として作ってくれる。だが、食べることが好きならば全く問題ないが、個性的なかき氷ができあがるだろう。ただし、味は保証できる。  それでは長々と話してしまったが、かき氷パーティーへようこそ!
真夏の夜の夢?
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帰還 2018-08-21

参加人数 3/8人 江戸崎竜胆 GM
 教皇国家アークソサエティ内ブリテンのエクリヴァン観劇場――。  其処で上演されると言う喜劇があると噂が立った。  なんでも、ヒューマンとエレメンツとピクシーとの風変わりな恋愛物語だとか。然も、格安での観劇が可能で、美味しい屋台も並ぶとも。  わいわいと噂を聞きつけて集まってくる人々の中にも、チラシを見て首を傾げる者もいる。 「ピクシーが関係してるって書いているけど、悪戯しないよな?」 「まさかー。ピクシーが関わっているからって疑ったら可哀想よ?」 「それもそうだなー」  チラシには大々的に『ヒューマンの描いた、エレメンツとピクシーによる、皆様への熱く楽しい一夜を提供致します! 是非、恋人同士でどうぞ!』と書かれている。  なんとなく引っ掛かる文面だが、エレメンツ達は兎も角、ピクシー達が悪戯をしないで済むだろうか? いや、無い。 「恋人同士をいちゃいちゃさせるのだー」 「そうなのだー」  小さな瓶に詰まった惚れ薬を持って、ピクシー達が演劇の準備をしている。  ピクシー達に悪意はない。純粋に恋人達が仲良くしてくれれば嬉しい、と言う内容の悪戯だった。  無邪気な悪戯だが、悪戯には変わりない。  この演目は喜劇となるか? ある程度はエレメンツが止めてくれるので、悲劇とはならないとは思うが――。  真夏の夜の夢は一夜で終わるのだろうか?
星に願うのは遠すぎる
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帰還 2018-08-20

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
「今回は星祭りの警備だ!」  かっ! と目を見開いて、薔薇十字教団司令部受付担当の教団員ロリクが告げた。どうも最近、仕事が立て続けで、社畜のお疲れですオーラがぷんぷんしている。 「ここから数キロほど離れた山の上にある村で星を愛でる祭りがある。まぁ、ようは七夕のようなものだ。  で、今回、その祭りの警備を頼まれた。警備といってもそこまで緊張感のあるものじゃない。ただ酔っ払いが暴れたりとかしないように見張ってほしいってことだ。つまりは、お前らがいるだけで十分警備になるから、好きに観光してこいよ。ごほごほ」  え、ロリク、大丈夫? 「気にするな。最近、忙しくて……ちょっと夏風邪だ。  ごぼ、ごほ……えーとな、ここの祭りは星がきれいでなぁ、星の下、村の近くにある天の星という川に自分たちが紙で作った願いのかいた船を流す習慣があるそうだ。  ぜひともお前たちのお願いを流すといいぞ。俺? 俺は週七日休みの仕事につきたい。  または出張続きの旦那がさっさと帰ってくるように祈るに決まってるだろう!」
私に贈り物をくださいな
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帰還 2018-08-20

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 薔薇十字教団に一通の手紙が届いた。 「親愛なる浄化師様方。手紙の書き方なんて知らないので、用件のみお伝えさせていただきます。ルネサンス地区ヴェネリアの水上マーケットはご存知ですか? とてもいいところですよ。いろんなものが売っています。なので買い物を手伝ってください」  差出人の名前はエキュム・ムース。丸みを帯びた稚拙な字体から、少女だろうと司令部は予想した。  待ちあわせの時刻も記載されている。某日昼頃、水上マーケットの北側の入り口近く。すぐ側に串焼きの屋台があるので分かるだろう、と手紙には書かれていた。当日、エキュムは白いワンピースを着て、川を眺めているらしい。  水上マーケットと言えば、水の都とも称されるヴェネリアでも一、二を争う観光名所だ。  大小さまざまな運河を、船頭が操る小舟で渡っていく。同じく小舟に商品を並べた店がところ狭しと並んでおり、世界各国の美味しい食べ物や海産物、珍しい骨董品、貴重な品々まで取引され、常に賑わいを見せていた。  一方で、そういった品々や観光客を狙う悪党も問題になっている。 「この女の子は、水上マーケットで買い物をしたいけれど、守ってくれる人がいないと怖いか、危ないから近づいてはならないと説得されているのでしょうね。それできっと、教団を頼ったのでしょう」  指令を張り出した教団員は、近くにいた浄化師にそんな言葉をつぶやいた。 「夏の暑い時期、川風が涼しい水上マーケットで、お買い物のお手伝いをしてあげてくれませんか?」  少女の無垢な願いを、叶えるために。
魔狂の城主
普通|すべて

帰還 2018-08-19

参加人数 8/8人 黒浪 航 GM
 教皇国家アークソサエティ、アールプリス山脈の東端に黒々とそびえる孤城――ベルハルト城。  ロスト・アモールの時代に落城して以降、すっかり朽ち果て廃墟と化してしまっていたその城は、じつは今より数カ月前にひっそりと新たな主を迎えていた。 「ついに……完成だ………」  城の最上階、ロウソクの灯が揺れる殺風景な部屋。  青白い肌をした痩身の青年は、狂気を宿した瞳で、みずからが手にした真紅の石をじっと見つめている。  トレードマークとなる黒い外套こそ纏ってはいないが、左手の甲に埋められた十字架をみれば、この青年が『終焉の夜明け団』の信者であることはまず間違いない。 「これが……これこそが、エリクサーだよ……ルシア」  青年は背後を振り返り、壁際に佇んでいる修道服姿の女に暗い笑みを向けた。  銀髪の女は、淡い金色の眼をやさしく細めて、頷く。 「ええ……ついにやったのね……ロナーク」 「ああ……。すべて君のおかげだよ、ルシア。僕は、もう何年もパラケルススを研究してきたけど、これまではエリクサーの紛い物すらつくりだすことができなかった……。ここで君が僕に力を貸してくれなければ、僕は永遠にこれを完成させることはできなかっただろう」 「そういってもらえると、うれしいわ」  女は、聖母のような微笑みを浮かべる。 「もともとは組織の人間に命じられて始めた研究だけど、こうして本物のエリクサーを手にした以上、もう組織に戻る理由はない……。もう誰かに命令されるばかりの人生なんてまっぴらだ。僕は……いや、僕と君は、このエリクサーの力を使って、これからこの世界の王になるんだよっ!」  ロナークはそう叫ぶと、真紅の魔石を手にしたまま女の方へ近づいていき、彼女の肉感的な肢体を強く抱きしめようと腕を伸ばした――、が、 「そう簡単には、いかないみたいよ」  女は醒めた口調で呟くと、さりげなく青年の腕から逃れて窓際へと歩いていき、眼下の闇を見つめた。 「あなたは、すこし派手に動き過ぎたみたい……。ほら、教団の浄化師たちが、あなたの研究を嗅ぎつけてやってきたわ」 「なんだって!?」  ロナークも慌ててそばにやってきて窓から下を覗くと、城壁の外で揺れているいくつもの松明の灯が目に入る。 「くそ、くそっ! アイツら、どうしてここがわかったんだ!?」 「あなたは、そのエリクサーを完成させるために、これまで無数の人間の命を犠牲にしてきた。そのほとんどは、ならず者や犯罪者で、本来ならあまり目立たないはずだったけど……さすがに数が多すぎたのね」  ロナークは俯き、怯えた表情で歯噛みしていたが、しばらくすると、ふたたび顔をあげ、見る者の背筋を凍らせるような恐ろしい笑みを浮かべた。 「ふ、ふふ……こんなこともあろうかと、中庭には僕が造ったゴーレムを配置してあるんだ。それに……たとえそのゴーレムを倒されたとしても、エリクサーを手にした今の僕には、教団の浄化師なんて敵じゃないよ……」  青年は震える声でそういうと、下へ降りる階段の方へふらふらと歩き出した。 「さあ、いこう、ルシア……。僕がこのエリクサーの力で、アイツらをあっさり全滅させるところを、君にみせてあげるよ……」  女は、感情の読めぬ薄い笑みを口の端に浮かべると、落ち着き払った足取りで青年の後について歩きだした。  城の中庭に侵入した途端、四体のゴーレムを目にして、浄化師たちは足を止める。  よく見ると、ゴーレムの背後には、エリクサーと思しき魔石を手にした青年と、修道服を身に纏った謎の女。  最近この地方で発生していた大量の失踪事件について調査している途中で、この古城に辿り着いたのだが――どうやら、見事にビンゴを引き当てたようだ。 「いけ、ゴーレムたち! 教団の浄化師どもを皆殺しにしろ!」  青年の命令に従って、ゴーレムたちがゆっくりと前進を開始する。  覚悟を決めた浄化師たちは、強大な敵を迎え討つ――。
夏色のプラージュ!
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-19

参加人数 1/1人 oz GM
ベレニーチェ海岸に存在するホテル『プラージュ』は、貴族階級層の人間が利用するような、高級リゾートホテルです。 非日常を演出したホテルルームや、豪華な食事、地中海を一望できるオーシャンビューなどが魅力となっています。 ※【ダンジョンキャンペーン】『夏色のプラージュ!』対象エピソードです。
バイバイ、運命
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-17

参加人数 8/8人 北野東眞 GM
「悪いな、今回は、ある……女性が里へと帰る。その道中の護衛だ」  ロリクは憂鬱な顔をし、言いづらそうに告げた。  その里というのは山を一つ越えた、一日でつく距離にある。それに目的地は特に危険と言われる場所でもないことに集まった浄化師たちは不思議な顔をする。 「その子は、エクソシストを辞めるんだ。  パートナーがベリアルに殺されて……いろいろとあってなんとか助かったんだが、彼女は新しいパートナーを得ることを拒絶した。  そのままエクソシストを辞めて、里に帰って死ぬまでの僅かな時間を過ごすと口にした」  それが、なにを意味するのかはわかるな、とロリクは視線で問うてきた。  浄化師は二人で一つの存在だ。  教団にとっては戦力となるものを欲して――しかし、当の喰人、祓魔人からしてみればもともとの性質である、魔力回路で必要以上に生産される魔力量を、正常に安定させるため――命にかかわる問題で契約を交わす。  ゆえに契約相手に恋人同士や気の置けない相手を選ぶことが多いのが常だ。  本来、浄化師になったものは死ぬまで、その任を解かれることはない。  理由としてはヨハネの使徒に狙われる性質を持つ危険性、教団の内部を知っていること――などの危険か挙げられる。 「今回護衛するアリラのパートナーも恋人だったんだ。その恋人はアリラをかばって死亡した……彼女は自分のせいだと悔いている。  そのとき彼女は精神的ショックで、教団を裏切ろうとした行動も見受けられ、危険と判断しているから本来は身柄を拘束し続けるんだが……。  ただもう彼女は……終わりを迎えようとしているんだ」  指令のために集まった浄化師たちは口を閉ざす。  そこへ。 「暗い雰囲気だが、どうした? 我が妻と、おお、かわいい子らか!」 「ユギル、お前調査の仕事は」  ロリクが驚いた顔をする。顔に狐面をつけて、口元だけ見えるユギルだ。  ――基本的に浄化師たちが赴く依頼の事前調査を引き受けている彼は、ロリクの浄化師としてのパートナーで、結婚相手だ。 「仕事は終えたので妻を迎えに来たんだが……ん、護衛の依頼か?  この娘はパートナーを失くした……ふむ。吾も、妻の前に契約を交わした相手を殺した過去がある。  浄化師は理想と平和のために、常に危険が付きまとう。いつ、なんどき、横にいる相手を失くすともわからん。  浄化師の運命とはかくも残酷よ。片割れがいなくては生きれない。まるで置いていかれることを嫌うように、な。  とはいえ、新たな未来も存在し、あがくことも出来る。……献身と依存は違う。愛にもさまざまな形がある、想う方法も。  浄化師とは二人で一つのように存在するが、所詮は自分の運命は自分でしか決められない。  この娘は自分で運命を決めたのだろうよ。哀れみも、同情もすべきではない」  淡々と語るユギルに、すぐにからからと笑い始めた。 「ふふふ、吾は今の妻と会えて幸福だ。愛することは実にすばらしい。  せっかくの指令、自分たちのことを改めて考えてみるといい。今のパートナーをどう思っているのかを、な。  この娘は決してお前たちではない、けれどお前たちかもしれない可能性もあるのだ。  妻よ、この娘の見届け役は吾がやろう。子らには護衛の任だけ与えておあげ」 「ユギル、いいのか」 「どうせ、仕事が一つ終わった。ここに集まった子らにはいい経験となるだろうが……見届け役は代わってやるくらいはしてやってもいいじゃろ。  なぁに、吾は何度かしたことがある。安心おし」 「お前がそれでいいなら、悪いが終わりの役は頼む……報酬は弾む。受けるか受けないかはお前たちが決めろ」  ロリクが静かに問いかける。  ここに集まった浄化師たちは傍らにいる相棒を見る。  迷うような、探るような、視線が合う。  ● ● ●  馬車の前に黒髪のほっそりとした女性が立っていた。  白いワンピース姿の彼女は麦藁帽子をかぶり、小さなトランクを手に浄化師たちに頭をさげた。 「今日は……護衛をありがとう。短い時間だけど、よろしく……お願いします」
愛を叶える花
普通|女x男

帰還 2018-08-17

参加人数 8/8人 黒浪 航 GM
「そ、それが……伝説にまで謳われた媚薬、マリスメアなのですねっ!?」  金髪碧眼の少女は、浄化師たちが手にしている紫色の花を見つめて、歓喜の声をあげた。  ここは、アークソサエティの主要都市のひとつであるルネサンスの中心地にたつ、とある大富豪の邸宅の一室だ。  まあ一室、といっても、中流家庭の住宅が三、四軒すっぽり入るほどの広さがあり、この巨大な部屋を自室の「ひとつ」にしている少女を前にして、浄化師たちは軽い眩暈をおぼえる。  金糸で美しい装飾を施した真紅のソファに腰掛けて目を輝かせている愛らしい少女の名は、アリス・バーランド。この宮殿と呼びたくなるような大豪邸の主、ドレモ・バーランドの一人娘だ。  浄化師たちは今回、このアリスの、「伝説の媚薬マリスメアが欲しい、絶対欲しい! 今すぐ!」という、純度100パーセントのワガママな依頼を受け、はるばるアールプリス山脈の険しい断崖まで出掛けて、件の花をせっせと採集してきたのだ。 「ああっ! なんとお礼をいったらいいのでしょう。本当に御苦労様でした。あなた方には、心より感謝いたします」  アリスは、長い旅から帰還した浄化師たちに、真摯な態度で礼を述べた。  なるほど、ワガママではあるが、案外、根はいい子なのかもしれない。  すっかりくたびれた浄化師たちは、マリスメアの花をアリスに渡したらすぐに帰るつもりでいたのだが、少女はこの時、まったく予想外のことを口にした。 「じつは……あなた方にもうひとつ、お願いがあるのです。その花、伝説の媚薬の効果を、ぜひとも今ここでわたくしに見せて欲しいのです」 「……………!」  浄化師たちは驚き、互いに顔を見合わせる。 「マリスメアの花を口に含むと、その瞬間、眼の前にたっている異性がどうしようもなく魅力的に見え、相手の全てが欲しくて欲しくてたまらなくなる、といわれています……。都合よく、あなた方は皆男女でペアになっていますし……ここで、わたしに、媚薬の効果を実演してみせてはくれませんか? もちろん、その分仕事の報酬はしっかり上乗せさせてもらいます」 「…………」  浄化師たちは、小さくため息をついたあと、頷く。  まあ、伝説の媚薬などといったところで、この手のモノの大部分はインチキで、効果など知れたもの、むしろまったく効果がない方が普通だ。依頼主がそれで満足するのなら、適当に余興に付き合ってやっても損はない。  この場にいる浄化師の半分が、多少気まずさを覚えつつパートナーの顔を見つめながら紫色の花弁を口に含む。 「………………」  ほら、やっぱり何も起こらない……。  浄化師たちが、醒めた表情で肩の力を抜いたとき――、 「………………!?」  突然、媚薬を口にした浄化師たちに異変が起こった。  頬を紅く染め、眼を見開き、パートナーを恍惚の表情で見つめて荒い息を吐きながら、ふらり、ふらりと近づいていく。  オイオイオイ……どうやら、この『伝説の媚薬』とやらの効果は、本物であったらしい。 「っ…………」  相棒の豹変ぶりに、残りの浄化師たちが戸惑いの表情を浮かべたとき、 「あら、たいへん……」  アリスが首を傾げて、困ったような声を出した。  彼女の手の中には、開かれた一冊の本。タイトルは『決定版 世界の秘薬』。 「どうしましょう。マリスメアはとても強い効果を持つので、媚薬として使用するときはその匂いを相手に嗅がせるだけで十分だとあります。間違っても、花弁を口に入れたりしてはならない、と……。もし、花そのものを口に入れてしまうと、効果が強すぎて、脈拍が激しく上昇し、その者はやがて死に至る、と書いてあります……」 「…………っ!?」  浄化師たちは驚愕し、絶望する――自分の相棒が、もうすぐ、死ぬ……。  しかし、その時、アリスが本のページをめくって、明るい声をあげた。 「……あ、でも、花を口に入れた人間をどうにかして正気に戻すことができたら、媚薬の効果も消えて、命が助かる、と書いてありますね!」  少女の言葉に、浄化師たちの瞳が希望の光に輝く。  なんとかしてパートナーを正気に戻し、その命を救わねばならない――。  浄化師たちの困難な挑戦がはじまった。
ふしぎなおくすり
簡単|すべて

帰還 2018-08-17

参加人数 2/8人 春川ミナ GM
「ふはははは! ついに、ついにできたぞ! ポルテ君!」 「フォルテです。何が出来たんですか?」  ここは教皇国家アークソサエティ、首都エルドラド。薔薇十字教団本部病棟地下2階第一研究室。  女性の哄笑が響き渡った時に周りの研究員達の注目を集めたが、それがいつもの人間であると分かるとすぐにそれぞれの研究に戻った。 「聞いてくれ、トルテ君! この薬は対象の精神に作用し、沈静させる効果と高揚させる効果、二つの側面を持っているんだ」 「フォルテです。それは凄いと思いますが……そんな事可能なんですか?」  助手のフォルテは彼女が手に持っている試験管に入ったいかにも毒々しい液体を胡散臭げに見つめた。 「あぁ、この薬はだね。生物が持つ精神の平均値を判断してくれるものなんだ。つまり、怒っている者には沈静させて、やる気が出ない者にはやる気を起こすという風にね」  得意気に試験管を振り回しながら歌うように語る。  この人物こそ奇才と呼ばれる薬学者であり、教団員でもあるクラレット・オリンズだ。最も悪評の方が多いが……。  曰く、楽しい薬を作る者。薬学狂い、略してヤクルイ。実験の墓標、教団の闇鍋などなど……。 「それって副作用がかなり多いのでは? その説明を聞く限り、民間で伝わっていた脳の手術を彷彿とさせますが」  フォルテはクラレットの手で踊る試験管の中の液体から机の上にある書類を守るように脇にどかしながら聞いた。 「良い所に目を付けたね、ソルテ君。確かに脳の手術は数百年前から存在している。それについては私は特に否定も肯定もしない。だが、凶暴性や無気力、両方の感情が劇的に高まる例もあるし、感情が全く平坦になった例もある。これらの実験結果から凡そ治療とは言えないのではないかと思ったんだ」 「……フォルテです。では開発された薬は治療が出来ると?」 「そうだね。まずは見た方が早いか。ここに二匹のモルモット、セサミとサラミが居る。この子達は恋人同士だが、わざと引き離して反応を見るとしよう。ん? 七夕? 私は天邪鬼でね、私が好きな物の名前を付けているんだ」  クククと笑いながらクラレットは檻に入っている一匹のモルモットを抱き上げると、隣の檻に入れて柵を閉めてしまった。  当然、離れ離れになったモルモット達は物悲しい声でキューキューと鳴き始める。 「そして一匹に興奮剤を与えると……」  クラレットは液体が入った針の無い小さな注射器を手に取ると、片方のモルモットの口に運んだ。最初警戒していたが、糖蜜が入っているのだろう。甘い香りに誘われる様に飲み始めた。 「モルモットは大切に扱ってください。食用にする地方もあるとは聞きますが、愛玩動物としての地位も確立しているので」 「解っているよ。何、無体な事はしないさ。マウスでの実験は成功だったんだから」  フォルテに苦言を呈されるが、特に気にした風も無く返すクラレット。  やがて直ぐに興奮剤を与えられたモルモットに変化が起こった。檻に自分の体を当てて何とか破ろうとし、ガシャリガシャリと耳障りな音が研究室に響き渡る。  その一方で引き離されたモルモットはキーキーと心配する様に鳴いている。 「……少し可哀想ですが」 「そうだね。じゃあこの薬を経口投与してみよう。本来なら皮下注射にした方が良いかもしれないが、安全の為だね」  フォルテの声に悪びれる様子も無く、クラレットは暴れるモルモットを押さえつけて怪しい液体の入った針の無い注射器を口に運ぶ。  すると先程まで暴れていたのが嘘のように大人しくなると、再び檻にすがって物悲しい声で鳴き始めた。 「とりあえず元の檻に戻しますね。……ほぉら、ごめんな。恋人と離れ離れにさせてしまって」  フォルテはモルモットをヒョイと抱き上げると元の檻に戻してやる。すぐに一匹が寄り添って薬を投与されたモルモットを心配するように、においを嗅いでいた。 「凄いですね。今のがこの薬の効果ですか?」 「あぁ、そうだね。ただ、一つだけ問題があるんだ」  感心するフォルテだったが、珍しく歯切れの悪いクラレットの言葉に何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。 「……実はまだ人間では試した事が無くてね。これから治験を募集しようかと思っているところなんだ。できれば健康体であり、色々な種族を集めたいね」 「そうなると、ある程度の報酬が必要ですね」  フォルテはポケットからメモを取り出すと、幾つか書き込む。 「流石はカルテ君。キミ、良いお嫁さんになるよ!」  クラレットにパシパシと肩を叩かれ、嫌そうな顔をするフォルテだったが、我慢のできない文言があったので訂正をする。 「……僕の名前はフォルテです。それから女顔ですが、男です」  その言葉に何かを閃いたクラレット。瞳の奥に輝きが見て取れる。こういう時は碌な事が無いのでフォルテは研究室から出て行こうとするが、肩を強い力で掴まれた。不機嫌さを隠す事も無く、振り向いて肩に置かれた手をそっと外す。 「何ですか」 「良いアイディアを思いついたんだ、ピアノ君。女の子の身体になれる薬って興味ないかな?」  ニイと笑みを深くしたクラレットにフォルテは溜息を一つ吐く。 「……わざとやっているでしょう。僕の名前間違えるの。それから僕はあなたの玩具じゃありませんよ」 「うむ、ばれていたか。だが、そういう事は私の家に借金を返してから言うべきだね」 「ハァ……」  フォルテ・スロウリッド、とある没落貴族の三男でクラレットの家にほぼ金で買われたと言っても過言では無い。が、彼女の近くに居られる事でその状況に満足している自分に今日何度目かの溜息を吐くのだった。
ジェルモンスター大量発生の原因を調査せよ
普通|すべて

帰還 2018-08-15

参加人数 5/8人 oz GM
 冒険者ギルド「シエスタ」は鑑定士や情報屋、酒場の店主が同業者組合として組織化されたことが始まりだ。今では冒険者が集う酒場兼情報交換の場として、冒険者に依頼書を出したり、発見した財宝の換金をしたりしている。  冒険者にとっては欠かせない場所。  ここの酒場もまた冒険者ギルドに加盟している店の一つだ。  リュミエールストリートの片隅にぽつんと佇む酒場。仕事に疲れた人々を暖かくも賑やかに迎えてくれる。酒場は濃密な夜の気配を含んだように適度に暗く、乱雑とした空気が漂う。  店長であるヨルンダ・ビュランは世の中の酸いも甘い噛み分けたといった気っ風のいい妙齢の女性である。酒とつまみ以外には拘らないあっさりとしたヨルンダの性格が店の雰囲気に投影されているように、どんな人間でも受け入れるような懐深さがあった。  ここの酒場は冒険者の常連客も多く、無事帰ってこられたことを喜び、酒で疲れを癒す人々で詰め合っていた。酔っぱらいの笑い声や徒労に終わった依頼の愚痴で今日も酒場は騒がしい。  今夜もヨルンダは忙しなくカウンター内で働きながら、客の話を快闊に受け止める。その日は珍しい顔がバーカウンターの止まり木に腰を下ろした。 「おや、ランス。アンタいつこっちに戻ったんだい?」 「ついさっきだ」  ランスと呼ばれた冒険者は憮然とした顔で返事する。この男は自分の名前が嫌いだ。自分のような凡庸な男にランスロットのような仰々しい名前は似合わないと常々愚痴っている程だ。 「どうせ用事を済ませたら出て行くつもりだろ?」 「……お生憎様、暫くここに滞在するつもりだ」  男は肩をすくめる。思わぬ返答にヨルンダが瞠目する。 「アンタはソレイユが根城だろう。何かあったのかい?」 「樹梢湖の件だよ。あのジェルモンスターが大量発生してるとこだ」 「ああ……そういえばアンタが発見者だったっけ。本当に巻き込まれやすい奴だねえ、アンタは」 「……今回は巻き込まれてねえ」  ヨルンダは腑に落ちたように頷く。男は言い訳するように呟くと、やけ酒を煽る。  冒険者ギルドは横の繋がりが強い。ソレイユにある樹梢湖での異常事態の情報は冒険者ギルドでも噂になっていた。  そう強いものもおらず、新人でも行ける樹梢湖は冒険者ギルドにとっても貴重なダンジョンだ。  さらに樹梢湖では水気の魔結晶が発見されやすい。元々水気の魔力が強く、蓄積しやすい土地の為、湖の底に魔結晶ができやすいのだ。  魔結晶が得られるというのは、冒険者ギルドにとっても得られる利益が大きい。それは冒険者にとってもだ。売れば金になる上に、魔術をかじっているなら魔術の威力を増幅できるため、いざというとき持っておく者も多い。  魔結晶は魔力が結晶化したもののことを指す。魔術に関するあらゆる分野で重宝される宝石の為、魔術師だけじゃなく様々な人間が買い取っていく。  魔結晶は六つの属性に分かれており、形状と魔力量から等級がつけられている。  等級が高ければ高いほど高値で取り引きされ、内包された魔力は濃縮されたものほど、形状も美しい宝石のような輝きを放つ。  慣れた者でないと湖の底に魔結晶を取りに行くのは無理だが、新人に場数を踏ませるのにはいいダンジョンだった。  ジェルモンスターを倒すのは簡単だが、消滅させるのは少々手こずる。  核である魔結晶を壊さない限り、消滅したように見えてまだ生きている。実にしぶとい。  核である魔結晶を破壊しないと、水気の魔力と水分を長い時間をかけ、吸収することで、水の塊となり、ジェルモンスターとして戻ってくる。  ジェルモンスターが消滅するには周辺の水が全てなくなってしまうか、核となる魔結晶を破壊されるかしかない。  だが、ジェルモンスターの核である魔結晶は水と同化していてエレメンツの「魔力探知」などでなければ、見つけるのは容易ではない。  だからこそ、水気の魔力で溢れる樹梢湖はジェルモンスターにとって生息しやすい場なのだ。それでも今回の復活の早さは異常といえた。 「魔結晶が手には入らないのはアンタとしても痛手ってことかい」 「……そうだな。新人はジェルモンスターからは屑結晶しか手には入らねえって言うけどな。俺にとってはいい穴場だ。運が良けりゃあシーズエレメントに出くわすこともあるしな」  ジェルモンスターからも魔結晶を得られるが、小さく質も悪いので流通されることはない。  逆にシーズエレメントからは等級の高い魔結晶が得られる。シーズエレメントは透き通った青色のクリスタルのような生物で、冒険者からは宝箱扱いされている。 「そういやあの時、いつもより湖に魔力が集まってた気が……いってっ! 何すんだ!?」  ヨルンダが冒険者の頭を叩く。 「そういう情報は早くお言い! だから、アンタはうだつが上がらないんだよ!」 「……そんなに重要なことか、これ?」 「勘は鋭いくせに、もう少し頭を働かせな。そうすりゃ、もっと上にいけるだろうにねえ……」  残念なものを見る視線から気まずげに顔を逸らし冒険者の男は頭を掻く。 「これ以上、上を目指す気はないんでね。俺は食い扶持が稼げりゃ、それでいい」 「……まっ、アンタはそれでいいんだろうさ。冒険者として慎重なのは悪いことでじゃあない。命あっての物種だ。慎重すぎるほど慎重でいい」 「俺が新人の時によく聞かせてたなあんた……懐かしい」 「アタシは、アンタの引き際を見抜く眼は信頼してるよ。だから、今樹梢湖はマズいことになってんだろうさ」  冒険者は利に敏い。目の前の男のように人助けをするお人好しもいないわけではないが、儲けのでない仕事はしたがらない。  上から指令を受けたらこなさなければならない浄化師とは違い、冒険者は誰の命令にも従わない。自由である反面、衣食住が保証されることはない。一旦怪我をしたら、再起するのにも金と時間がかかる。全ては運と己の実力次第。 「このことはアタシから報告しとくよ。教団にも情報が行くだろうねえ……」 「助かる。怒られんのは御免だからな。でも、あんた冒険者ギルドに情報を売るつもりだろ」 「何聞いてんだい、報告だよ。売るなんて真似はしないさ、信頼を買うだけだよ」 「ものは言いようだな」  ヨルンダがにやりと悪ガキのような笑みを浮かべると、冒険者は苦笑いする。 「それにしても全部、教団任せか?」 「そうだよ、治安維持は向こうの仕事だ。ダンジョンは誰のものでもないからねえ……」  含みのある笑みを浮かべるヨルンダに冒険者は呆れた顔をする。  浄化師のみしか行けない封印の魔宮などのダンジョンとは違い、樹梢湖はどこの所有のものではない。 「溢れ出したジェルモンスターで近隣の村からも被害が出てるって話だしな……」 「そっちは自警団が対処しているようだよ。近々原因を探るために教団の方から調査団が派遣されるそうさ」  冒険者が殆ど常連だけあってさすが耳聡いと男は感心する。 「……どんなに弱いやつだって徒党を組めば厄介なものさ」  独りごちるヨルンダに男は感じ入るものがあったのか深く相槌を打つ。  ヨルンダは他の客に呼ばれ話は中断し、男はピクルスをつまみながら酒を存分に味わい始める。酒場の夜はこれからなのだ。
正義
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帰還 2018-08-15

参加人数 7/8人 北野東眞 GM
 つい最近のことだ。  教皇国家アークソサエティ薔薇十字教団本部に身柄を拘束された、終焉の夜明け団に属しているジルド・タッツー・トリデカ、およびマダム・タッツーの極刑が決定した。  彼らはアールプリス山脈の根本にある小さな村に住んでいた村人――おおよそ20名を殺害。  浄化師により調査の末、捕えられた後、危険である報告のもと詰問を行い、すべてにおいて黙秘を貫いた。  マダム・タッツーの手がけたと思われる、すべてのマドールチェは速やかに討伐が行われた。  正義は遂行されなくてはいけない。  今回、マダム・タッツー、ジルド・タッツー・トリデカの極刑における、それを阻止しようとする魔術師の襲撃などの警戒をして、教団近辺を対象とした警備を行う指令が発令された。 ● ● ● 「マダム・タッツー……ごめんなさい。俺が我儘を口にしたから、俺が、アリラを……救いたいと思ったから……浄化師たちとの闘いを途中放棄してしまったから。けど、彼らのことを殺したくないとも俺は思ったから……本物になれなくて、弱いからあなたからこんな目に合わせてしまって……あなたは俺に涙もくれたんですね。……ごめんなさい。ごめんなさい、マダム……母さん」  ジルド・タッツー・トリデカは泣きながらそれだけ告げると、極刑を受けた。  彼の罪は裁かれるべきものだ。 ● ● ●  正義は遂行されなくてはいけない。  薔薇十字教団――浄化師たちと共に、世界の救済を遂行する存在だ。
向日葵は秘密を求める
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帰還 2018-08-14

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 それはひと夏の怪奇譚。  ソレイユ地区、チェルシー植物園から少し離れたところに、お化けヒマワリは咲いている。見た目は普通にヒマワリだ。だいたい百メートル四方くらいの範囲に、二メートル前後のヒマワリが密集して咲いている。その一画を、近隣の人々はお化けヒマワリと呼ぶ。  いつ咲き始めたのか。誰が管理しているのか。誰も知らない。  ただ、ひとつ。実に夏らしく、薄ら寒くなるような噂が広まっていた。  曰く。  お化けヒマワリに入ると、出てこられない。  おかしな話だ。ヒマワリは百メートル四方にしか咲いていない。確かに背は高いが、まっすぐ歩けばすぐに出られてしまうだろう。それなのに、出られない。  上から覗きこめばいい?  残念なことに、どれほど背伸びをしても、どれほど背の高い人でも、お化けヒマワリに入るとヒマワリより高い位置に顔を持ってくることはできない。  もっとも、お化けヒマワリに捕まるには条件がある。二人で入ること。ひとりだったら大丈夫。  二人で入ると、いつの間にかひとりきりになっている。これがお化けヒマワリに捕まった証。  すぐそばにいた人の声は聞こえず、姿は見えない。ヒマワリの中、ひとりでさ迷い歩くことになる。  脱出?  簡単だとも。二人で入って、どちらかが秘密を告白すればいい。どのような内容でも構わない。昨日のお菓子、こっそり食べたのは私です、とか。もちろんもっと重い内容でもいい。  相手が知らないことを口に出す、というのが大切なのだ。  以上がお化けヒマワリの噂であるわけだが。  さて、これが真実なのかどうか。ぜひ確かめてきてほしい。  夏が暮れて花が枯れれば自然と掻き消える怪奇譚の真相を、夏の最中に暴くことはきっとできないだろうけれど。
傷ついた日も
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帰還 2018-08-14

参加人数 8/8人 shui GM
 暑い夏。僕は阿鼻叫喚を聞いていた。  もう少し具体的に言うと、怪我をしたパートナーを迎えに病棟を訪れていた。  教団の医療機関――病棟は、様々な怪我人が運ばれてくる場所だ。  小さな怪我から、戦闘での重傷まで。対応できる治療は幅広い。  多くの医療スタッフがせわしなく、患者の対応に追われていのはいつものこと。  浄化師であれば遅かれ早かれ、一度は来る所と言えた。  その中の一角から、聞きなれた叫び声。 「いやぁああああ! やめてぇええ!」 「注射はいやだぁああああ!!」 「帰る、かえるぅ……ぎゃぁあああああ!」  僕のパートナーの声だ。  結構な怪我であったはずだけれど、思っていたよりは無事らしい。  治療室の壁越しにでも、彼女のいつも通りの声がはっきり聞こえる。ちょっと元気すぎるほどに。  ああ、無事ならよかった。指令で子供を庇って怪我をした時はどうなる事かと思ったけど。  ……とはいえ。医療機関ではお静かに。 「僕の連れが、すみません……」  待合室で彼女の治療処置を待つ僕は、冷たい目線をひやりと感じていた。  けど。それ以上に、君を待つ心は温かい。 「お待ちのパートナーさん。怪我の処置が終わりましたから、今日のうちに帰れますよ」  と、医療スタッフが教えてくれた。胸を撫で下ろすと周囲にも似たような人たちが居た事に気がついた。  恐らく新米の浄化師だろうか。  僕と同じで、パートナーの治療を待っているように見える。  最近は海でひと悶着あったらしいし、そうでなくても浄化師が怪我することは珍しくはない。  自ら来たのか、パートナーに連行されたのか……はたまた、僕のパートナーのようにナイチンゲール・アスクラピアに見つかって連行されたのかはわからないけど。  もうじき治療室の扉が開く。  大嫌いな注射を乗り越えたパートナーはどんな顔をしているだろうか。  幸い、今日は休暇をとっている。頑張った彼女をねぎらって、甘やかすのも良いかもしれない。  そういえば、街にオムライスとパフェが美味しいレストランが出来たと言っていたっけ。連れて行ったら喜んでくれるだろうか。  そして周りの浄化師達は、どう過ごすのだろうか。  パートナーの傍にいるのも、いないのも、きっと浄化師ごとに違うのだろう。  けど、出来る事ならば。  ただでさえパートナーが怪我するなんて不幸があったんだ。  これからの時間くらい、互いに良い日になったらいいな、とこっそり思っている。  
背後にご用心
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帰還 2018-08-13

参加人数 4/8人 茸 GM
 ソレイユに流れる綺麗な小川。その源泉となる滝が、この深く生い茂る緑の先にある。 「さすがに夜は暗くて不気味ね……」 「普段は観光地として賑わっている分、余計そう感じるのかもしれないな」  男女のペアがぴったり寄り添い、ランプ一つの灯りだけを頼りに徐々に深くなる森の中をゆっくり進む……。 「――キャっ!」 「っ……大丈夫?」 「え、ええ……滑っただけみたい」 「そ、そうか……。この辺りは滑りやすくなっているから気をつけて」  不安げに腕を絡めて来る彼女の体をしっかり支えて歩くが、正直この状況は怖い。  辺りは真っ暗、自分達以外人っ子一人居ない所為か異様に静かで……。 「ねぇ……今、何か聞こえなかった?」 「!? な、何かって……?」  言葉を切れば、ザワザワと風に揺れる木の葉の音さえやたらと耳につき、要らぬ恐怖心を煽られる。 「………た、ただの風だろ……」 「そう、かなぁ? 後ろから何か聞こえた気がしたんだけど……」 「っ! 多分、次のペアが追いついてきたんだろ」  後ろを振り返ろうとする彼女の手を強引に掴み、少しペースを上げて先へ進む。 「もしかして、怖がってる?」 「俺が!?……まさかっ、肝試しなんて子供のお遊びだぞ」 「その割には……――ひゃ!」 「うわっ!? 今度は何だっ?」 「そこに白い影が……っ」 「はあ!? ――ど、どこだよ……ッ?」 「ほら! あそこに!」 「――ヒっ!」 「………あ、なぁんだ……ただの布切れじゃない」  ランプを近付けて確認すると、長く伸びた木の枝に、ゆらゆらと夜風に揺れる白い布。  仕掛け人がわざと括りつけたドッキリだ。 「こういう単純なのがやたら怖かったりするのよね。さっきの青白い火の玉だって、仕掛け人のおじさんが棒と紐で操っていただけだったし」 「…………」 「ちょっと、大丈夫?」  彼女に顔を覗き込まれ、漸く自分が尻餅をついていたことに気付いた。 「ハァ……恥ずかしいところを見られたな」  今更格好付けても仕方がない。  立ち上がってズボンについた土をぽんぽんと掃い苦笑いを零す。 「怖い事が恥ずかしいなんて思わないわよ。男でも女でも、怖いものは怖いもの」  気にしていないどころか受け入れてくれる彼女に安堵する。 「……そうだな。ありがとう」 「それじゃあ急ぎましょう? 滝の水を汲んだらゴールは直ぐよ!」  途中、幾度となく悲鳴を上げては「吃驚した~」と笑い合う二人。  そして漸く、高所から落ちる水の音が聞こえてきた。  ルール通りに水筒に滝の水を汲み、帰りは別の道を通って戻る――。 「っ!」  不意に彼女がピタッと立ち止まった。 「どうした?」 「今、何か聞こえたのよ。何かを引きずるような音が……」 「ま、まさかだろ……?」  恐る恐る振り返るが、視線の先は闇に閉ざされていて何も見えない。 「気のせいじゃないのか?」 「そんなことないわ。だって、来る時に聞こえた音と似てるもの」 「きっと仕掛け人が俺たちを怖がらせようとしてるだけだよ。ゴールは直ぐそこだ。急ごう」  また歩き出して数メートル進んだ時。  ――ザザ……ザザ……。 「な、何の音だっ?」 「ね! 聞こえたでしょう? この音よ、私が聞いたのは!」  兎に角急ごうと彼女の手を引いて走り出すが……。  ――ザザ……ザザザザ……。  明らかに背後の音も速度を上げたようだった。  そして、何かに肩をガシッと掴まれ、―――。 「っ!!!!??」 「きゃぁぁああああ!!」  ――翌日。  怖すぎる肝試しだという噂が村中に知れ渡り、それは教団にまで届けられたのだった――……。
あつい、だるい、だからすずみたい
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帰還 2018-08-11

参加人数 3/8人 北野東眞 GM
「あっちーぃ」  指令受付口のロリクが顔をしかめた。汗がだらだらと流れている。  確かに、とても暑い。  だって、夏だもの。  あつい。  だるい。  やる気がでない。 「こんなのだとやる気にもならないな」  まったくです。 「ということで仕事だ」  ……言ってることと、やっていることがわりとズレてませんか。ロリクさん! 「話は最後まで聞け! 今回、お前たちに回す仕事はヴァン・ブリーズの巡回だ」  汗をだらだらかきながらロリクがにやりと笑った。 「ヴァン・ブリーズは中心部から北部にある部分で、市民階級が中心でわりと穏やかな土地だ。  ちなみに海に面しているから遊覧船や水族館などのレジャー施設、海産物が比較的多い。  まぁ、そのぶん、この季節には観光客も多いから注意はいるが、巡回中に観光の一つをしたり涼んだりしてもいいぞ~。  これは俺からのお前らのサービスだ。暑さでやる気もおきんだろう?  少し涼んで、リフレッシュしてこい。そしたらまたばりばり働け!」  にこりとロリクは笑って言ってくれた。
たとえば、君の見ている世界
簡単|すべて

帰還 2018-08-08

参加人数 6/8人 留菜マナ GM
 ピクシー。  それは、人間のように森に集落を作って暮らしている種族である。  人里に現れて、悪戯をしたり人間と遊んだりと人懐っこい個体が多い。 「ふわふわ~ひらひら~。今日は、誰と遊んでもらおうかな?」  カノンも、そんな悪戯好きなピクシーの一人だ。  鍾乳洞の奥で、今日も人間に悪戯をしようと企んでいた。 「……困ったな」 「……はい」  その日、教団である噂を聞いたあなたとパートナーは、鍾乳洞内で途方に暮れていた。  ここは、教皇国家アークソサエティの南部に位置する大都市ルネサンスに存在するクローネ鍾乳洞。  最近、クローネ鍾乳洞の奥で不思議な現象が起きている。  その話の真相を確かめるためにクローネ鍾乳洞を訪れたあなたとパートナーは、鍾乳洞の奥で蒼く光る鍾乳石を発見した。 「何かしら?」  パートナーがそうつぶやいて、鍾乳石に触れたその時である。  ポン、とクラッカーでも鳴らしたような、どこか可愛らしい爆発音が洞窟内に響いた。  同時に二人の周りが霧に包まれる。 (何が起こったんだ?)  緊張で研ぎ澄まされた耳を、唐突に弾ける声が打つ。 「えっ? 何これ?」  それは薄暗い洞窟には不釣り合いで、可愛らしさを感じさせる声だった。  聞き覚えのあるその声に、あなたは思わず、目を見開く。  そこには、パートナーが困り果てたようにおろおろしている。  しかも、パートナーには何故か、妖精のような羽が生えていた。  ――いや、パートナーだけではなかった。  自分にも、同じように羽が生えている。  しかも、まるでピクシーの大きさになってしまったように、先程までの鍾乳洞が広く感じた。  なんだ、なんだ。  何なんだ。  これは――。  驚きのあまり、悲鳴を上げることもできず、あなたは糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちるしかできなかった。 「浄化師さん達だ~」  そんな彼らの様子を、カノンが楽しそうに見つめていた。  こみ上げてくる喜びを抑えきれず、カノンはにんまりとほくそ笑む。 「浄化師さん達もまさか、これが私の仕業とは思わないわよね」 「君の仕業なのか?」  その時、やや冷めた声が上から聞こえてきた。  カノンが恐る恐る顔を上げると、カノンのいる場所まで飛んできたあなたとパートナーが目の前に降りてきた。 「あっ、ばれちゃった……」  決まりの悪さを堪えるように、カノンがおろおろとしながら口元に手を当てる。 「どうして、こんなことをしたんだ?」 「それは――」  痛いところを突かれて、カノンは言葉を詰まらせる。 「悪戯してごめんなさい! でもでも、私、友達がいなくて、誰かと一緒に遊んでほしかったの!」  あなた達が態度で疑問を表明していると、カノンは手を合わせて謝罪した。  そして、鍾乳洞内を指し示す。 「だから、その……浄化師さん達、お願いします! 私と一緒に遊んで下さい!」 「なっ!」 「ええっ!」  さらりと告げられたカノンの衝撃発言に、あなた達は輪をかけて動揺した。  どうやら、しばらくは、このままの状態が続くようだ。  しかもその間、カノンと一緒に遊ばないといけないらしい――。
いぶんかにふれる ニホンだよ!
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-07

参加人数 5/8人 北野東眞 GM
「お前たちは東方島国ニホンの文化を知っているか?」  唐突に指令受付口でロリクが聞いてきた。 「ロスト・アモールが開戦直前から鎖国していたが、それを解いて浄化師がやってきたり、支部ができたりしたんで、まだ完全にわからないことも多いんだよ。  エド? キョウトとか、セップク? ハラキリ? テンプラはおいしいらしい。なんでも高熱でいろんなものをあげるとか……怖い文化だな」  ロリクはとりあえず、ニホンの知っている単語をぽんぽんとあげていく。彼自身は異文化に大変興味があるらしく、あれこれと手をつかって調べているらしい。 「ん、ああ、いきなり、その話題を出したのは……ヴァン・ブリーズにジンジャがあるそうなんだ!」  ヴァン・ブリーズは中心部から北部に位置し、海面よりも低い土地に存在する地区だ。  海に面しているため、海産物が比較的多く存在している。 「いや、なんでも旅好きの貴族どもがニホンの神事を執り行う社をたてようなんてほざいてたてたらしい。  現在はハツモウデ、擬似結婚式とか体験できる場所らしい。巫女服や十二単などの貸衣装もあるらしくてなぁ……。  ただこう、見様見真似のせいで間違っているところもわりとあるらしい」  ロリクは苦笑いをこぼした。 「で、お前たちにそのジンジャの一つに行ってきてほしいんだ、ジンジャらしいイベントを体験してきてほしいんだよ。  実は……今回の依頼のジンジャをたてた貴族っていうのが俺のダチでな。ニホンの文化をもっと広めたいとかのたまわってな。  確か、浄化師のなかにはニホンの者もいるだろうから、よろしくーとか言い始めて……とりあえずジンジャのイベントを楽しんでくるといい。  もしイベントでこういうのがあればいいと思えばまとめて出してくれ。あとテンプラ……油であげる拷問なのか本当に……お土産よろしく」
にゃんにゃんにゃあん!
普通|すべて

帰還 2018-08-05

参加人数 6/8人 北野東眞 GM
「お前ら、猫は好きか?」  指令書の発行を行うロリクはいつものいかめしい顔をでれでれに溶かしてそんなこと聞いてきた。  え、やだ、なに、これ、こわい。  そう思った浄化師たちの返事なんぞ、彼は聞かない。 「そうか、そうか、好きか? 俺も好きだ。仕事が忙しすぎてついうっかりネコカフェに通えなくて軽くストレスフル過ぎて暴れそうになるくらいに」  はい? 「ということで! 今回は! 猫だ!」  はい?  意味がわからない。そう言おうとした瞬間、  にゃあん!  猫である。  真っ黒い毛の猫がロリクの横に現れる。黒猫はにゃんと鳴いた。――しっかし、このネコ。でかい。だいたい二頭身くらいあるデブネコ。それがいきなり現れてびっくりした。 「にゃんこはにゃんこなのだー! えらいのだぞ! えっへん」  しゃべった。  ネコといわれる種族は九つの命を持っているといわれ、四つ目以降からはしゃべることができる……とは聞いた。聞いたが……。  でっぷりとした黒猫はえっへんとしゃべりだす。 「くろにゃんこといいますにゃあ。今回はおまえたちの力、にゃあん! ツルツルどもはじめまし」 「ああん、もふもふもふもふもふ」 「やめろにゃあ、わぁん、なんだなゃあ、このツルツル! おまえたち、助けるにゃあ!」  仕事に疲れたロリクがご乱心してる!  まぁ、そんなこんなで。 「実は……仲間を探してほしいにゃあ。にゃんこの仲間、何人かいるにゃあ。けど、最近、仲間の姿が見なくなったにゃあ」  くろにゃんこがめそめそと、ひげを震わせて、大きな目から涙をこぼして鳴いている。よほどに仲間のことが心配なのだろう。  そこに。 「許せないだろう! こんな人類の宝に対して! お前ら、全力で探して、この件にかかわっているだろう敵を特定、必ずや捕獲し、俺の前に引きずり出してこい。大丈夫だ。殺すようなことはしない。地獄は見せる。あ、もちろん、助けたにゃんこはもふるぞ! 連れてきてくれ」  あー、ロリクがご乱心してるー。  落ち着いて? 落ち着いて。ねぇ、落ち着こう? だめだ、こいつ、どうにかしないと。 「にゃんこたち、普段はリュミエールストリートにいるにゃん。夜のお店でごはんもらってるにゃん。そこを一緒に探してほしいにゃん。  うう、にゃんこの友達も、夜にいつも酒場にごはんをもらいにいったにゃん。いつもみたいにごはんをもらっていたのにゃ。  そしたら黒い服をきたツルツルと、お酒の匂いをさせたツルツルたちが三人いて路地から出てきて袋に仲間をつめたにゃあ! 今日までににゃんこの仲間、五匹ぐらいいなくなったにゃあ」  先ほどからツルツルといっているのは人間のことらしい。まぁ、ネコと違って毛がないもんなぁ、人間は。 「にゃんこの話を聞く限りだと、野良猫だけを狙った犯行のようだ。そのうえ、数匹ほどいなくなったという証言を信じるとしたらどこの建物のなかに捕えているんだろう」  もふもふもしながら、真面目な話をしないで、ロリク。あなた、疲れてるのよ。 「ああ、いやされるぅ~。……で、真面目な話、『四つ目以降の命』を持つネコは魔術道具の材料になる。話しから察して、終焉の夜明け団……または協力者もかかわっているみたいだな。  生物捕獲をするやつは、わりと戦闘能力が高い魔術師である可能性があるから、注意しろ。あー、もふもふもふもふ」 「もういいかげんにするにゃあ! こいつ、どうにかするにゃあ!」
受付嬢の夏休み
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-04

参加人数 5/8人 久木 士 GM
 夏の大きな雲が、広い青空に浮かんでいる。手入れをされた冬服はクローゼットに仕舞い込まれて久しく、洗濯物は半日ですっかり乾くようになった。家々の窓からは物干し竿が突き出し、色とりどりのタオルやシャツをはためかせている。野山の緑は今を盛りと眩く輝き、強い日差しは石畳の白と影の黒との美しいコントラストをあちこちで生み出していた。  あなたたちが訪れたのは、ソレイユ地区アールプリス山脈のふもとにある小さな町。任務を終えたあなたたちは、久々の休暇を利用して遠出していた。町を歩いていると、街路樹で日差しを遮られたテラスのあるカフェを見つける。そこに空席があることを確認したあなたたちは、そのまま席に座って給仕を呼んだ。彼はライムを絞った水をあなたたちにサーブし、メニューを置いて店内へと戻る。穏やかな葉擦れと、近くの広場で演奏される音楽を聴きながら、あなたたちは注文を考える。穏やかな夏の一日だ。あなたたちはメニューから一旦顔を上げ、店の雰囲気を知るためにテラス席を眺めていると、この場所にあるはずのないものが視界に飛び込んできた。あなたたちは目をぱちくりさせ、互いに顔を見合わせてもう一度「それ」を見る。間違いなかった。はす向かいの席で一人座っているのは、普段司令部で受付をしている教団員だった。 「あー、浄化師さんですかあ。どうしてこんなところに……」  普段は溌剌としているはずの彼女が、今日は海岸に打ち上げられた海月のようにぐったりとしている。それはこちらの台詞だと言わんばかりに、あなたたちは同じ質問を返した。 「私は早めの夏休みです。司令部の人間が同じ時期に休暇に入ったら、皆さん困っちゃいますからね。でもそれが、どうしてこんなことに……」  彼女はすっかり温くなったレモネードのグラスを握って、遠くをぼんやりと眺めている。どうやら彼女には深刻な問題がありそうだった。しかし、彼女は何故休暇中に制服を着ているのだろう。彼女はそこまで仕事熱心なのだろうか。そう考えたあなたたちは、席を移動して彼女の話を聞くことにした。注文はとりあえず、シャーベットを二つにした。 「せっかくのお休み中にすいません。なんか邪魔しちゃったみたいですよね……」  休暇中の教団員は、追加のバニラアイスをスプーンの先でつつきながら話す。やはり今日の彼女は精彩を欠いている。少しずつ、しかし着実に溶けていく彼女のアイスを見ながら、あなたたちは考えた。給仕の男性がシャーベットを二皿運んでくると、あなたたちはそれを一口食べる。滑らかで程よく甘い氷が口から喉へするりと落ち、体を内側から冷やしてくれるようだった。 「先ほどもご説明しましたけど、私は休暇でここに来ていました。でも今、ちょっとした仕事に巻き込まれてまして……」  消え入るような声で彼女は言う。アイスクリームのてっぺんに乗ったチェリーが、皿の上にぼとりと落ちた。旅行先で仕事に巻き込まれるとは、これ以上ない災難と言っていい。休暇中と言った割には制服を着用していることについても、これで腑に落ちた。あなたたちは彼女に深く同情する。地元産の果物を使ったシャーベットは、後味がすっきりとしていておいしかった。次は店主こだわりのブレンドという触れ込みのアイスコーヒーでも頼むべきだろうか。あなたたちはメニューを開きつつ、彼女の話に耳を傾けた。 「実は今、町の周辺である生物が大量発生してるんです。カリュウモドキって言うんですけど」  彼女は鞄から一枚の紙を取り出し、あなたたちに見せる。そこには一般的に「ニセサラマンダー」と呼ばれる生物のスケッチと、その生物の特徴が印刷してあった。そういえばテラスの掲示板にも、同じ紙が貼られている。彼女の口にしたカリュウモドキというのは、正式な名前なのだろう。 「全ての生物には魔力回路があって、魔力(マナ)を生成する器官があることはもうご存知ですよね」  いつもの調子を少しだけ取り戻した彼女は、受付をしている時と変わらぬ口調で説明を続ける。  カリュウモドキはその名の通り、火気の魔力を多く持つ、トカゲのような姿の生物だ。体長は5~8センチほど、くすんだ赤煉瓦のような体色で、噴出孔と呼ばれる部分は燃えるような赤色をしている。カリュウモドキは一般的な生物で、日当たりの良く乾燥した場所に多く生息するが、数が多くなりすぎると山火事や森林火災の原因になることもある。そのためアークソサエティでは、カリュウモドキを見かけることが多くなった場合、教団へ連絡を入れるよう通達されていた。  町でカリュウモドキが増えたという連絡が入ったのは三日前。教団は捕獲班を編成して現地へ派遣し、彼らと共に現地や周辺に居る教団員が捕獲を行うことになっている。一週間前から休暇でここへ来ていた彼女も、それに巻き込まれたというわけだ。 「皆さんにお手伝いいただきたいのは、このカリュウモドキの捕獲です。道具はこちらで貸し出しますので……」  声の調子が次第に下がる彼女に、あなたたちはいくつか質問をする。 「これは休暇中の任務ということになりますので、教団から申し訳程度の手当てが支給されます。滞在中はデザートを一品増やせるくらいですね……。お手伝いいただける場合、書面での手続きは私のほうでしておきます」  彼女はすっかり溶けたアイスをスプーンに掬い、ぼんやりと口に運ぶ。長期休暇を邪魔された彼女の消沈ぶりは、見ているだけでも辛かった。あなたたちは注文したアイスコーヒーを飲む。夏にふさわしいすっきりとした味わいで、フルーティーな芳香が口の中に広がっていく。店主こだわりという触れ込みも頷ける。ところで、捕獲したカリュウモドキはどうなるのだろうか。あなたたちはそれを尋ねると、彼女はどこか遠くを眺めて言った。 「さあ……。そこまでは聞いてないですけど、調査した後は魔術道具とかの材料にでもなるんじゃないんですか……」  うわの空の彼女は、アイスのトッピングだったはずのチェリーをスプーンの先でころころと転がす。シロップ漬けのその果物は今や、かつて氷菓子だった乳白色の水たまりの中に沈んでいる。魔術道具は用途に合わせて様々な種類があるが、機密扱いのため製造方法は公表されていない。カリュウモドキは特殊なポーションの材料に使われているという噂もあり、彼女はその事を言っているのだろう。あるいは彼女は暑さと休暇を失ったショックでうわ言を口にしたのかもしれないが、今このことはどうでもいいはずだ。  あなたたちはコーヒーを飲み干すと、彼女に協力を申し出た。薔薇十字教団に所属する者は皆、世界救済のために昼夜を問わず連日働いている。だからこそ、教団員の休暇は守られなくてはならない。彼女は涙ぐみながら何度も感謝し、捕獲班本部が設置されている町役場に午後から来るようあなたたちに伝えた。行動開始は明日以降だが、手続きに自筆のサインが必要らしい。  あなたたちは彼女を励まし、決意を胸に再びメニューを開く。そうと決まれば腹ごしらえが必要だ。今日の昼は何を食べようか。ソレイユ地区での休暇は、まだ始まったばかりだった。
氷菓子は半分ずつ
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-03

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 無事に指令を終え、報告のため教団に戻ったあなたとパートナーに声をかける男がいた。 「ごくろうさん。なぁ、小腹すいてないか?」  コック服に身を包んだその人物は、薔薇十字教団の教団寮で腕を振るう料理人だ。 「氷菓子、食わねぇ?」  よく見れば、彼は一般的に普及している魔術道具、多目的発氷符で作った氷をつめた、保冷効果の高い箱を両手で持っていた。中には氷の他に、氷菓子らしきものが入っている。 「暑い夏を乗り切るために、新作の氷菓子を考えろって料理長に言われてさ。今、試行錯誤の最中なんだ。これは失敗作。でも味の保証はするぜ?」  片手で保冷箱を持ち直し、見習いらしき料理人は無造作にひとつ、氷の中から引き抜いた。  横に少し長い長方形の、透明の氷菓子だ。ひと口大に切られた干した果物が、ただの氷にも見える冷たい菓子に彩を添えていた。  木の棒が二本刺さっており、半分に割れるよう真ん中に真っ直ぐ溝が作られている。涼やかでおいしそうな見た目だった。 「砂糖水の中に干した果物を混ぜて、凍らせてあるんだよ。面白いかなって思って、二人で分けられる形にしたんだけど、評価はイマイチって感じでさぁ」  よほど自信があったのか、まだ二十代半ばに見える料理人は肩を落とす。 「ってわけで、好きなの持ってけ」  時刻は夕暮れ、夏の最中。  パキンと二つに割れる氷菓子を、浄化師は押しつけられるような形で手にすることになった。
ちょっとしたお願い事を、君と
簡単|女x男

帰還 2018-08-01

参加人数 3/8人 ぽた GM
「そうか、もう七夕か」  ふと聞こえて来たのは、道行く人々の話し声。  そう。今日は――七夕。  織姫と彦星の二人のように願い事が叶うよう、短冊に各々の願い事を書いて、笹や竹の葉に飾り付ける行事だ。  広場や公園には沢山の人が集まっている。  老夫婦に新婚さん、幼い兄弟に姉妹、家族で、と。  皆それぞれの大切な人たちとのひと時を楽しもうと、普段は見られない程の人々で賑わっている。  そんな七夕祭りに訪れるのは、まだまだ恋愛には初々しい男女のパートナー。  折しも教団の仕事がないということで、「楽しそうだから、せっかくなら」と参加することを決めたのだ。  ただ。 『ずっと一緒にいられますように』 『どうかあの人と結ばれますように』 『世界平和!』  ちらと目をやった、もう既にくくりつけてある願い事の数々。  他の人たちのそれらを見た後だと、いざ自分たちのお願い事をしたためんとしても、具体的にどうとは、少しばかり恥ずかしくて書きにくい。  かと言って、それぞれが抱くことならあるにはある。  もう少しあれを――もう少しそれを――と思う程度のことなら、口に出したことはないけれども感じていた。    だから願うのは、あまり贅沢はしない、二人分の手で足りる願い事。  今すぐにでも叶うような『ちょっとしたお願い事』を考えるのだった。
【海蝕】海辺のヒーローショー
とても簡単|すべて

帰還 2018-08-01

参加人数 3/8人 ナオキ GM
 夏。  老若男女、種別も問わず、太陽の下で肌を輝かせて水と戯れる観光客たちの姿で、ベレニーチェ海岸は今日も盛況である。  しかし、 『きゃー! 誰か! 誰か助けてっ!』 『“ゲリアル”よ! ゲリアルが出たわっ』  人々の平和な時間を破壊しに、恐るべき“ゲリアル”たちが次々に現れたではないか。 『ふっふっふ、オレ様は大事に取っておいたアイスをおふくろに食われた恨みで魔物となったゲリアル! 今すぐ貴様らから全てのアイスクリームを奪ってやる』 『わたくしは夏だというのに恋人も出来ずに、目の前で暑苦しくイチャイチャイチャイチャしやがる不届き者を滅却する為に生まれし魔物! 覚悟しなさい、愚かな生き物たち。爆発しなさい!』  まるで花の蜜に吸い寄せられる虫のように。  人々が砂浜で放っていた幸福感たっぷりのオーラに釣られたのか、わらわらと出現し、そして卑怯にも人質をとるゲリアル。  恐怖から泣き出す子どもたち。  寄り添っていた恋人と引き離されるカップル。  海岸一帯に絶望が満ちようとしたそのとき―― 『待てぃ!』  観光客と同じく水着に身を包みつつも、精悍な目をした数人がゲリアルたちの前に躍り出た。  彼らからは、そのやや狭い布地の面積では覆い隠せないほどの正義感が迸っている。 『き、貴様らはまさか……』 『そうだ! こんなこともあろうかと完全に一般市民に擬態して海で遊びながら片時も油断することなく様子を窺っていたエクソシストだ!』 『く、くそ……まさかこんな場所も抜かりなく警護していたとは……! ええい! ここで決着をつけてやる!』 「――っつー感じでこのあとはちょっと派手めにアクションシーンやってもらってえ、なんなら水鉄砲とかでお客さんも濡らして盛り上がってえ、好きにアドリブもやってもらって無事に人質も解放して勝利してハッピーエンド! みたいなヒーローショーをやればさ、お客さんも安全性を再確認してまた例年通りに遊びに来てくれると思うわけよ。ど? ステージならほら、去年まで水着コンテストとかで使ってたやつをまた組み立てればいいじゃん? もちろんエクソシストの人たちには報酬も支払うしさ。まあマイクなんかはないし設備もほとんどないようなもんなんだけど」  水と戯れる観光客たちの姿がまばらにしか目視出来ない、現実のベレニーチェ海岸。  客寄せの為の案を仲間に披露して、海の家のオーナーである男性は満足げに胸を張る。  聞かされた従業員はやや困ったように眉を下げながらも、じゃあ一応教団のほうに頼んでみましょうか、と請け負った。 「来て下さるといいんですけど……」 「でももう告知しちまったからなあ」 「……、はい?」 「いやだから、もう日時も決めて告知しちまってるから。出演者にはほぼぶっつけ本番で頑張ってもらうことになっちまうんだよ」 「ええええぇぇえ?!」
【海蝕】その身を何に喩えよう
とても簡単|すべて

帰還 2018-07-31

参加人数 6/8人 北乃わかめ GM
 太陽の光が強くなり始めた季節。  額に滲む汗を拭いつつ、あなたは背すじを伸ばす。パートナーはとなりで恨めしく空を仰いだ。 「はー、あっつ……」 「ちょっと、だらけないでよ」 「そうは言ってもなあ」  うちわ代わりに、と手で扇いでみるものの焼け石に水だった。  今日、あなたとパートナーはベレニーチェ海岸に来ていた。と言っても、観光や海水浴目当てではない。  地中海に侵入したというベリアルの情報により、海水浴場として知られていたこの場所には人が寄り付かなくなってしまった。  そんなとき、ブリテンのエクリヴァン観劇場を中心に活動していたひとつの劇団が声を上げた。 『こんな時こそ、人には娯楽が必要なのだ!』  それは、同じく演劇や歌劇を嗜む者に深く突き刺さり。誰もが遠目で眺めるだけのこの海岸に、仮設ではあるが小さな劇場を造ったのだった。  規模は小さいが、しっかり幕もあれば観客席もそれなりに用意されている。  朝は役者や歌手を目指す学生を中心に、夜は有志で集まった劇団や急造のグループが、大粒の汗をかきながらも海辺の舞台に立った。  「ベレニーチェ海岸・夏の演劇祭」と名付けられたその噂を聞きつけ、やがて人の足も最初に比べれば増えるようになった。 「だけど、ベリアルに対する不安が無くなったわけじゃないし。だからわたしたちが、少しでも不安を取り除くために、小劇場近辺の警護にあたってるのよ?」 「わかってるってー。ただ、今日が異様に暑いなってさあ」 「いっつもギラギラの太陽みたいに元気なクセに」 「そう言うお前は――」  小劇場を背に、パートナーが口を開き、止まる。  何事かと顔を向ければ、パートナーは何か企むようにニヤリと笑った。 「……まるで水辺に佇む白鳥のように、涼やかな美しさがありますね」 「なっ……」 「あ、今グッときた?」 「バッカじゃないの、劇の受け売りだって丸わかりよ」  ちょうど聴こえてきたセリフを拝借したのだろう。それはあなたの耳にも届いていた。  だが、どうだろう。  パートナーから言われたというだけで、季節のせいとは言い難い熱を感じてしまうのは。  少しだけ背すじを伸ばしたのだって、しょうがないことなのかもしれない。
【海蝕】セイレーンの魅せる甘美
簡単|すべて

帰還 2018-07-30

参加人数 8/8人 北野東眞 GM
 ルネサンスのヴェネリア地区、ベレニーチェ海岸にセイレーンが現れる。  セイレーンの歌声は美しく、人々の心をとろけさせ、魅了し眠りへといざなうとされる。  指令斡旋をするロリクが渋い顔で告げたのは、セイレーンの伝説だ。  歌声で人々を惑わせ、魅了によって眠りにつかせ、海へといざなってしまう。 「まぁ、この海にいざなわれたら一巻の終わりなんだよなぁ。ここ最近、漁師が魚を捕えようとするタイミングで現れる。漁師たちは一同に幸せな顔をして眠り、そして……目覚めない」  憂鬱な顔で、ロリクはため息をついた。  ここ数日で漁師のほとんどは眠り、目覚めないそうだ。ごく一部――僅かな人数だけが目覚めた。 「目覚めた者には共通点があった。心から信頼する相手に起こされることだ。たとえば親友、恋人、相棒といった心をきつく結んだ相手の切実な言葉と物理的な……んまぁ、殴るわけだよ。それで目覚めているらしい。  まぁセイレーンは魅了持ちだからな。今回は魅了されている相手をそれ以上の魅力でたたき起こすってことだ。もちろん、殴らなくてもなにかしら衝撃があればいいわけだ」  そのあと、というようにセイレーンに対して説明がつけくわえられた。 「このセイレーンの歌、聞くとどうしても眠ってしまう。保有している魔力が多いほど効果が強く、祓魔人は眠りにつきやすいから注意が必要だ。  起きたものがいうには、過去の……なくしたものがなくなっていなかった、正したいと思っていた過去の過ちがなかったことになった未来の夢を、それはとても幸せな夢を見るそうだ。  つまり、今回はセイレーンと戦うが、まず、確実に祓魔人は眠る羽目になる。その間、喰人は海へと引きずり込もうとするセイレーンを制しながら、相棒である祓魔人を起こすんだ。  思わず起きちまうくらいに情熱的な告白をして、相手になにかしら衝撃を与えるんだ。殴ってもいいし、揺さぶるのもいいし、キスしてもいいんじゃないのか?  で、二人そろっていれば難なくセイレーンを倒せるだろう? そうすれば今眠っている人々は起きるだろう。浄化師らしい仕事だろう? がんばれ」 ● ● ●  ざ、ざ、ざ……ほの暗い闇の広がりを照らすのは満月。  海の満ち引きのなか、悲しく、美しい声が響く。  その声に誰もが眠りへといざなわれていく。  眠りのなかへ、そして、それは深い眠りへと。
【海蝕】老騎士と海
普通|すべて

帰還 2018-07-28

参加人数 8/8人 黒浪 航 GM
 夕方、海の見える丘にたつ丸太小屋で貧しい夕食をとった後、丘を下って、人影のない海岸をひとりのんびりと散歩するのが、その老人――ガレインの日課だった。  ガレインは孤独であり、また、その孤独を彼自身愛してもいたが、彼とて生涯ずっと寂しい独り身だったわけではない。   老人が、その人生でただ一度本気で愛し、永遠を誓い合った女――エメリアが、流行り病で亡くなって、もう五年になる。月日の流れるのは早いものだ。  ガレインは、エメリアが愛した海のそばに彼女の墓をたて、その墓のそばに小屋を建てて、それを終の棲家とした。  小屋に住み始めた頃、一度犬を飼おうかと思ったこともあるが、結局やめた。  相棒は、こいつだけで十分だ――老人は、腰に下げた長剣をじっと見下ろす。  それは、今より数十年前、老人がルネサンスのコロッセウムで剣闘士をしていた時からずっと使っている愛剣で、彼が剣闘士の身分から解放された時、新たな門出を祝う品として当時の主人から与えられたものだった。 『我が盟友にして、最高の男――騎士ガレインへ』  鞘に納まっている鋼鉄の刃には、そう刻まれている。  剣闘士時代の彼は、その洗練された剣技と、紳士的な戦いぶりから、彼を愛する観客たちから「騎士(ナイト)」の愛称を与えられていたのだ。  ガレインは、剣闘士をやめ、街で大工として働くようになってからも、その武骨で実用的な愛剣を自身の分身のように感じて、いつも肌身離さず持っていた。 「風が、重いな……明け方までに嵐になるか……」  湿った南風の吹きつける夕暮れの砂浜を歩きながら、ガレインが剣に語りかけた、その時――彼の視界の隅で突然黒い影が膨れ上がった。 「………っ!」  瞬時に身の危険を察知した老人は、影の正体を確かめる前にさっとその場から退き、腰の剣に手をやる。 「……コイツは……!?」  夕陽の残り火で紫色に染まった海からのっそりと姿を現したのは、巨大な怪物――紅い眼をもつ青黒いカニのような姿のベリアルだった。  ガレインは、咄嗟に腰から剣を引き抜き、身構えるが、カニ型ベリアルは老いて干からびたちっぽけな人間のことなど気にも留めず、砂浜をのそのそと横歩きしはじめる。 「まずいな……」  ガレインは、ベリアルが向かう先に、かつて彼がエメリアとともに暮らした町があることに気がつき、口元を歪めた。 「そちらに行かせるわけにはいかん……」  ガレインは、素早く剣を振るい、鋭い斬撃をベリアルの脚に打ち下ろす――、が、  ガキンッ……!  老人の必殺の一撃は、カニの恐ろしく硬い甲殻にあっさりと弾かれる。 「くっ……」  しかし、カニ型ベリアルは、ダメージこそ負わなかったものの、、町へ向かうのをやめて、ちっぽけな老人と向かい合った。 (よし……)  ガレインは、小さく笑みを浮かべる。 (ここ数日、このあたりの海岸は、教団の浄化師たちが警戒にあたっている……。ここでコイツをしばらく足止めしておけば、そのうち、彼らが駈けつけて来てくれるだろう……)  カニ型ベリアルの巨大なハサミによる攻撃を左右に躱しながら、ガレインがそう考えたとき――、彼の視界の中にさらなる悪夢のような光景が広がった。 「ばかな……っ!」  彼が相手にしているベリアルの背後に、もう一体、同じカニ型のベリアルが出現したのだ。  バシャバシャと飛沫をあげて海から上ってきたベリアルは、真っ直ぐに町へ向かって悠々と横歩きの前進を開始する。  ガレインは、目の前の敵の相手をするのに精一杯で、もう一体のベリアルはただ黙って見送ることしかできない。 「おのれっ……」  老人が、口惜しげなつぶやきを洩らした時、ふいに、砂浜を遠くからこちらに駈けて来る一団の人影が目に入った。  その瞬間、老人の瞳に希望の光が灯る。 「ようやく来たかっ!」  強力な武器を手に砂浜を一直線に疾走してくる教団の浄化師たちに向かって、老人は大声で叫ぶ。 「コイツの相手は、ワシひとりで十分だ! お前たちは、町に向かったヤツを止めろっ!」  その言葉に、浄化師たちは一瞬戸惑う。  老人の身のこなしからして、相当な剣の達人であることは一目でわかる。しかし、どれほどの達人であっても、魔喰器を持たない者がベリアルを倒すことは絶対にできない。  長期戦になれば、老人はいずれ力尽き、ベリアルに無残に殺されてしまうだろう。    この場で老人とともに戦うか、それとも、ただちに町へ向かったベリアルを追うか――浄化師たちは、苛酷な選択を迫られた。
七夕祭りを守れ
普通|すべて

帰還 2018-07-28

参加人数 6/8人 内山健太 GM
 七夕祭りが行われているセーヌ川にヨハネの使徒が一体出現。観光客や住民を襲っているという情報が薔薇十字教団に入る。ヨハネの使徒を殲滅せよ。 「ヨハネの使徒だぁー!」  穏やかな雰囲気が漂っていた七夕祭りのセーヌ川の畔に、人々の絶叫が轟く。  観光客や近隣の住民たちで賑わっているセーヌ川にヨハネの使徒が現れたのである。  男集が協力し合い、ヨハネの使徒と交戦するが、全く歯が立たない。ヨハネの使徒は、人々を襲うために、突進を武器にして攻撃を繰り出してくる。必死に交戦する住民たちであるが、徐々に追い詰められていく。やはり、戦闘経験がほとんどないため、このままでは敗北してしまうだろう。  事態を重く見た七夕祭りの運営委員長であるハンス老人は、薔薇十字教団に助けを求める。  このままでは祭りは、滅茶苦茶になってしまう。人々の安全を考えるのなら、ここはエクソシストたちに頼るのが一番効果的である。そのようにハンス老人は考えた。 「薔薇十字教団に助けを求めよう」  と、ハンス老人は提案する。  すると、近くにいた商人が声を大にして言った。 「私が薔薇十字教団に助けを求めに行きましょう。こう見ても足には自信があるんです」 「うむ。では我々は何とかこれ以上被害が出ないように、ヨハネの使徒を食い止めよう。なるべく早く頼む」 「わかりました。では行ってまいります」  そう言うと、商人は韋駄天走りで走り始めた。  商人の足は速く、すぐに薔薇十字教団の門を叩いた。 「助けてください! 大変なんです」  商人の苦しむ声に、教団にいたエクソシストたちが反応する。  すぐさま事情を聴き、対策が立てられる。至急、セーヌ川に向かわなければならない。  一方、エクソシストたちが駆け付けるまで、セーヌ川では有志による戦闘が行われていた。対するヨハネの使徒は一体であるが、やはり戦力差は否めない。じりじりと追い詰められていく。 「ぐぅ。もはやこれまでか……」  ハンス老人が諦めかけた時、とうとう、エクソシストたちがやってくる  ハンスは彼らに駆け寄り、助けを請うた。 「このままでは七夕祭りが滅茶苦茶になります。どうかヨハネの使徒を倒してください」  エクソシストたちは頷くと、ヨハネの使徒との交戦を開始した。  情報が早く伝えられたため、それほど人的被害はないものの、ヨハネの使徒を食い止める必要がある。  セーヌ川では、恒例の七夕祭りが行われており、人の数が多い。まずは、人々の安全を確保するために、ヨハネの使徒と交戦しながら、人々を避難させる必要がある。幸いなことに、ヨハネの使徒は一体のみなので、協力し合えば、人々を避難させ、戦闘を行うのは容易である。    勇気ある人間たちが戦っていたため、今のところ甚大な被害は出ていない。首尾よくヨハネの使徒を倒せれば、再び七夕祭りが催されるだろう。そのためにも、エクソシストたちが速やかにヨハネの使徒を倒す必要がある。  人々を安全な場所に避難させ、同時にヨハネの使徒を殲滅する。それがエクソシストたちに課せられた使命である。健闘を祈る。
【海蝕】鐘を鳴らそう
とても簡単|すべて

帰還 2018-07-27

参加人数 7/8人 北野東眞 GM
 ヴェネリアの青い海辺に面したベレニーチェ海岸。  地中海にベリアルが進入してしまっていると情報が入り、目撃情報からエクソシストたちにも警備の依頼が舞い込んできた。  白い砂浜に面しているだけあって、新鮮なフルーツ、色とりどりの花が咲き乱れている。  現在は警戒されているため、街はいつもよりもずっと人の数は少ないが、普段命がけの指令と向き合っているエクソシストたちには物珍しく、興味をそそられるものばかりだ。  そのなかでも、この地の観光名所として名高いのが【幸福の鐘】だ。  砂浜を進み丘に上がった所へ、恋人達が鳴らすと幸せが訪れるとされる『幸福の鐘』が存在する。  鐘を鳴らすのが別に同性であっても構わないし、友人同士で鐘を鳴らし、友情を深め合う目的で訪れる者も多いといわれているのだから。訪れるものがどんな気持ちで、そこへと赴き、どんなことを語り、どんな経験から、その鐘をとどろかせるのかも自由だ。  現在は警備中だが、その休み時間の合間を縫って、ささやかな観光と幸福の鐘へと向かうことは難しくはない。  どんな音を、どんな気持ちをこめて、鳴らすだろう。
【海蝕】空に福音は響いて
とても簡単|すべて

帰還 2018-07-27

参加人数 5/8人 十六夜あやめ GM
 天高く昇った7月の太陽から燦々と降り注ぐ光を浴びてきらきら揺らぎ輝く、澄んだターコイズブルーの海。海底まで見える透明度の高い海水を無数の魚達が優雅に泳いでいる。真っ白な砂浜が広がるビーチに打ち寄せるさざ波は海水浴客を歓迎しているかのようだ。  ここは『教皇国家アークソサエティ』首都エルドラドより南部に位置するルネサンスの地中海に面した、世界でも有数の美しい海岸『ヴェネリア』のベレニーチェ海岸だ。その有名なはずのベレニーチェ海岸には何故か殆ど人がいない。まるでプライベートビーチのような空間が広がっていた。  その原因は、ここ最近海にベリアルが現れるようになったという報せがあったからだ。人々は不安がり、寄りつかなくなってしまった。現状を改善すべく、浄化師たちは薔薇十字教団より「人々の安全・海水浴場の管理」を命じられ派遣された。市民や海水浴客に安全をアピールすることが今回の狙いであるため、浄化師たちは海の安全を監視しつつ、率先して海で遊ぶこととなった。薔薇十字教団の指令というのは名ばかりで、実際のところは一つの休暇である。日頃より指令を頑張っている浄化師たちへのささやかなプレゼントというわけだ。  浄化師たちは「人々の安全・海水浴場の管理」という大義名分を掲げ、各々行動する。  水着に着替えて眼前に広がるターコイズブルーの海に飛び込む者、浮き輪を浮かべてゆらゆらと流れに身を任してくつろぐ者。砂浜では砂のお城を作ろうと頑張る者、日焼けしないようパラソルの下、椅子を並べて寝そべったり本を読んだりする者もいる。 そんな中、砂浜を進み丘に上がった所へ向かう者もいる。そこには恋人たちが鳴らすと幸せが訪れるとされる『幸福の鐘』がある。友人同士で鐘を鳴らし、友情を深め合う目的で訪れる者も多い有名なスポットだ。稀に隣にある教会で結婚式が行われていることがあるようだ。その光景を見た者は幸せになれるという噂がアークソサエティの若い女性たちの間でまことしやかに囁かれている。  あなたたちに与えられた夏のひと時。海に入ったり砂浜で遊んだりするのも良い気晴らしになるだろうし、パラソルの下でひと休みしつつ丘の上の『幸福の鐘』を鳴らしに行くのも良いだろう。2人の会話も弾むかもしれないし、距離が近付いたりするかもしれない。  素敵な1日になることを祈っています。  最高な夏の思い出を作ってください!
森の中の幸せ?
簡単|すべて

帰還 2018-07-26

参加人数 4/8人 あいきとうか GM
 ローレント・ディーレは夏のある日、森で幸せを探していた。  それは白くてふわふわ。たんぽぽの綿毛のようで、見ると幸せになるらしい。幸運を呼ぶ生き物の名前は、ケセランパセラン。 「いると思うんだよなぁ。だから入っちゃダメなんだろ、分かんないけど」  ソレイユ地区、ピストーラ狩猟場からいくばくか離れた森林の、立ち入り禁止区画だ。狩猟場は今日も盛況だが、その楽しげな声もここまでは響いてこない。  狩猟場の監視員という仕事をこっそりと放棄して、ローレントはケセランパセランを探しているのだった。 「あれが見つかればきっと今年こそ彼女ができて、一緒に海に行ったり、水族館に行ったりできるから……」  誰が保証したわけでもないが、綿毛のような生物の伝承を耳にして根拠もなく確信してしまった素晴らしい未来を胸に、男は意気揚々と邪魔な枝葉を掻き分けて進む。  仕事を放棄した報いだろうか。努力のひとつもせず、他力本願に恋人を欲しがってしまった罪へのさばきだろうか。それとも、ただの不運か。 「……え……?」  開けた場所に出たローレントの前に、化け物が現れた。 「えぇぇ!?」 「ゴゲエエエ!」  けたたましい叫び声を上げ、このあたりを根城としている四体のコカトリスがローレントに殺到する。男は反射的に近くの大樹にのぼった。  オス鳥の上半身に蛇とトカゲの下半身と尾をつけた、全体的に鶏に似た化け物は飛翔することができないらしく、大樹をくちばしでつついたり、ローレンスを威嚇したりしている。 「助けてー! 浄化師様ー!」  情けない悲鳴が森林にこだました。
【海蝕】落とし穴に落ちました
とても簡単|すべて

帰還 2018-07-26

参加人数 8/8人 瀬田一稀 GM
 ざあざあと、寄せては返す波の音を聞きながら、あなた達はベレニーチェ海岸を歩いていた。  吹く風は、昼の暑さを忘れたような、涼やかさ。  ベリアルが現れるどころか、人の気配もまったくなく。  見上げる空には、黄金色に輝く月。  しかし。 「綺麗だな」 「そうだね」  二人がそう口にした、直後。 「うおっ!」 「えっ!?」  なんと、あなた達は、海岸片隅に掘られていた落とし穴に、すっぽり落ちてしまった。 「くそ、誰がこんなところに……!」 「ちょっと! 今変なとこ触らなかった?」 「は? ちょ、お前こそ今俺の足、蹴っただろ!」 「あ、やめてよ、こんな狭いところで暴れたら……って揉まないで、それお腹だからっ!」 「えっ、胸かと思った……」 「まったく、デリカシーの欠片もないっ!」 「わ、悪い! 待て、落ち着け! 叫ぶな殴るな、暴れるなあああっ!」  狭い落とし穴に、どうやって落ちたのか。  団服を着た二人の体は、すっかり絡み合っている。  落ち着けばあっさり手足をほどいて起き上がれるだろう。  ただ薄闇と、手に触れるあれこれのせいで、なかなか冷静になるのは難しく――。 「あっ、ホントに待って、スカートがめくれっ……」 「おま、そいういうこと言うなよ、言わなきゃわかんねえんだからっ」  強制的に、狭い場所で二人きり。  さあ、どうなるでしょうか。
【海蝕】釣り場の怪
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帰還 2018-07-23

参加人数 5/8人 あさやま GM
 良く晴れた日のことだった。  波も穏やかで、風も弱い。深くまで見通せる澄んだ海の輝く地中海。ベレニーチェ海岸の岩場で、男は釣りを楽しんでいた。海水浴場と呼ばれる範囲からは若干外れた、浄化師の目が届きにくい場所で1人海に近づくというのは褒められたことではないだろうが、真昼間、地中海という場所、海水浴場のすぐ近くであれば大丈夫だろうと軽い気持ちで糸を垂らす。釣果が良いとは言えなかったが、男は久しぶりの趣味に興じた。  そして、太陽も傾きそろそろ空は赤くなるかといった時刻。暗くなる前に切り上げようと、男は片付けを始めた。投げていた竿を回収しようとした時。何かに引っかかったように、竿が引かれる。どこかに引っかかったのとも違うようだったが、どうにも回収できない。何とかならないものかと、男は海を覗き込みながら色々と試し、それから諦めて渋々糸を切ろうとした。  その時だ。深い海水の濁りの奥に、糸を掴む白が見えたのは。男によれば、それは「手」に見えたという。青白い、また黒く変色したような手。海の底からいくつか伸びた「手」は縋るように、招くように釣り糸を掴み、ゆらゆらと揺らぎ、ゆっくりと近づくようにも見えた。水底からは何か囁くようにこぽこぽと大小の気泡がのぼって来る。  ぐい、と強く糸が引かれ、竿がしなる。それを持つ男を手繰り寄せるように。彼は釣竿を放り出して逃げ、その足で浄化師へ依頼を持って来た。幸いにも、被害は持参していた釣り具だけだったようだが。  依頼に来た男は動揺しつつ「幽霊を見た」と述べた。良くある怪談話だ。美しいマリンブルーの底へ沈んだ誰かが、まだ「此方」にいる誰かを手招く話。浄化師諸君には、その白い「手」の正体を確かめ、ベリアルかそれに準ずる何かなら討伐してもらいたい。  健闘を祈る。
もしも、君じゃなかったら
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帰還 2018-07-23

参加人数 8/8人 shui GM
 可憐な星々が、夜空に踊る。  街は七夕で賑わっていた。  出歩けば家族からカップル、あるいはそんな仲を羨む人まで。様々な人がこのイベントを楽しんでいる。  七夕。ズラミスとサラミという仲睦まじい夫婦が亡くなって尚巡り合う為に、星屑を集めた物語。星で出来た橋によって、2人は再び出会い、結ばれるのだ。  その文化に、ニホンから笹と竹に短冊を飾る催しが入ってきたことにより、現在のスタイルが確立したといわれている。  ある公園では、七夕に合わせて願い事を書いた短冊を笹に飾る催しが行われていた。  参加はもちろん無料で、後日、笹を飾りごと川へ流すのだと言う。  屋台なども出ており、星にちなんだお菓子や料理が振舞われていた。  楽しい時間に、大勢の人の顔がほころぶ。  しかし、雑多な人並みの中に、浮かない顔をした少女の姿がまぎれていた。 「一緒に七夕のお祭り来ようって言うたやん……」  涼しい夜風に、彼女の髪がなびく。寂しげに呟く少女は、どうも彼氏に約束をすっぽかされたらしい。  折角お洒落してきた洋服も、頑張って結った髪も、彼がいないとなれば台無しに思えた。  いや、もしかしたら、約束を守らなかったのは今回だけではないのかもしれない。  悔しくて、寂しい。彼女の表情によく現われていた。  これなら友人と出かければよかったか。  いや、それともまた別の人と……?  じゅわり、と浮かぶ涙を拭うと、七夕用の短冊を配る列に加わる。  短冊を貰うと。彼女はとても悔しそうに、そして自棄を起したように短冊へ文字を書きなぐった。 『今のパートナーと違う人と結ばれたら、どうなるか知りたい』  名前を書き忘れた短冊を、彼女は笹の最上部近くへと何とか結びつける。  そして念押しするように両手を合わせお願いすると、少女は屋台の方へと消えていった。  その夜、彼女は違う恋人とデートする夢を見るのだが――――。  残念な事に。  その願い事に巻き込まれた人たちがいた。  君達、浄化師だ。  七夕の笹が飾られた公園を訪れたのが切欠で、何の因果か、あるいは偶然か、その夜に奇妙な夢を見てしまう。 「申し訳ありませんが、貴方より適性のあるパートナーが見つかりました」  と、唐突に告げられるパートナーの交代。それも強制的に。  其れは勿論、実際にはありえない話だ。  けれどもこれは夢。  君はパートナーと引き離されてしまう夢を見るわけだが……。  普段と違う人の隣を歩いて、何を思うだろう。  そして本来のパートナーは、それを見て何を思うのだろう。  一体、2人はどうなってしまうのだろうか。  全ては星のみぞ知る。
【海蝕】星合の宴
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帰還 2018-07-21

参加人数 8/8人 鳩子 GM
 麗しき水の都ヴェネリア、その中でも一際名を馳せるベレニーチェ海岸は、アークソサエティで安全に海水浴を楽しむことのできる場所として知られている。ルネサンス地区の代表的な観光地だ。  しかし先日、地中海に強大なベリアルが侵入したという知らせが広まって以降、客足は伸び悩んでいた。  ベリアルへの用心と対処が重要であるのは勿論だが、過剰な警戒によって経済活動が委縮しては、地域の、ひいては国力の衰退へと繋がってしまう。  現在も、ベレニーチェ海岸の安全性に揺らぎはない。そのことを広く喧伝する必要があった。 「ねえ、あなた。今年の宴には浄化師の方を招くのはどうかしら」  ベレニーチェ海岸に面する館のひとつ、通称『星彩館』では、主であるリベラトーレ・アンジェリーニとその妻アヤコ・アンジェリーニが憂い顔を向い合せていた。  リベラトーレはソレイユ地区出身で、小麦をはじめとする穀類の交易で資産を築いた男である。次第に事業を広げていく中で海産物を交易品に加えるために訪れたルネサンス――特にヴェネリアの美しさに魅了されて、十年前に妻を伴い移住してきた大商人だ。ヴェネリアを愛する気持ちは地元民に勝るとも劣らない。ヴェネリアに住む人々と、訪れる観光客へのもてなしを惜しまず、地域の活性化に貢献してきた。  その活動のひとつが、星彩館で行う『星合の宴』である。 「ふむ。そうだな、浄化師が来てくれるならば、皆にも安心してもらえるだろう」  妻の提案に、リベラトーレは顎鬚を撫でながら一考し、頷いた。 「浄化師の方にとっても、よい休養になると良いですわね」 「ああ、今年は一層、趣向を凝らさねばな」  アヤコの故郷である東方島国ニホンに伝わる彦星と織姫の伝説と、リベラトーレの故郷であるソレイユ地区に伝わるズラミスとサラミの逸話。その類似性に驚き大いに感銘を受けた二人は、ヴェネリアに移住してからも、星合、つまり七夕を祝う宴を開き、数多の客を招待して夏の一夜を楽しんできた。  宴は日没から始まる。  星彩館の広大な庭園にはニホン風の灯籠が多く設置されており、和紙を通して温かくゆらめく蝋燭の光が地上を照らす。足元では待宵草が月光を浴びて花開き、四阿の柱には朝顔の蔦が這う。  人工的に作られた小さな小川のせせらぎを聞きながら、親しく語り合うのも、静かに夜を味わうのも良い。  隅の一画には笹竹が伸び、短冊を掛けられるようになっているが、それを除けば庭の周囲に視界を遮るような背の高い木々や塀は無い。天候にさえ恵まれれば、天に輝く恋人たちを繋ぐ橋――天の川を頭上に仰ぐことが出来るだろう。  目の前にはベレニーチェ海岸が広がり、少し歩けば浜辺へ降りることが可能だ。遠くには恋人たちが鳴らすと幸せが訪れるという『幸福の鐘』の影が小さく見える。  館にほど近い一画では、リベラトーレが全国から取り寄せた食材をふんだんに使った祝いの食事が並び、特に、アヤコの生国の文化を取り入れた流しソウメンは毎年一番の注目の的だった。 「キモノも評判がよかったな。今年は種類を増やそう」 「ふふ……服の上から羽織るだけの、簡易なガウンのようなものですけれど。夜風を避けるのにも丁度よいですし、皆さま物珍しげに着てくださいますわね」  夜空を写し取ったような濃紺、凛とした桔梗柄、可愛らしい金魚柄や、涼しげな朝顔の花模様。絽や紗衣などといった夏の着物を参考にアヤコが考えたガウンは、透けるほどに薄く軽やかで、その異国情緒と品のある華やかさが殊更女性たちによく受けた。 「早速、教団へ手紙を書くとしよう」 「ええ。良い夜になりますように……」 「勿論、なるとも」  二人は見つめ合って、にっこりと笑みを交わした。
【海蝕】巨大オクトパス型ベリアルとの遭遇
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帰還 2018-07-20

参加人数 8/8人 oz GM
 白い砂浜が広がるビーチ。7月の海がエメラルドグリーンに輝いている。  海はつかの間の微睡みを終え、眩いばかりの陽光を浴びて、きらきらと磨き上げられている。  ここは地中海に面した浜辺。遠くから流れる風が潮の匂いを含んで肌にまとわりつき、海へと誘う。一定のリズムを刻むさざ波があなたたちを歓迎しているようだ。  海には殆ど人がいない。さながらプライベートビーチのようで独り占めしているみたいだ。  それには理由がある。普段ならば穴場スポットであるここにも近隣に住むものが遊びに来るのだが、ここ最近海にベリアルが現れるようになって人々は不安がり、寄りつかなくなった。  浄化師達は「人々の安全・海水浴場の管理」の為、ここに派遣された。浄化師達が率先して海で遊ぶことで市民に「安全ですよ」とアピールすることが今回の狙いなのだ。  要するに指令という名の息抜きだ。指令を頑張っている浄化師へのちょっとしたご褒美といってもいい。  「人々の安全・海水浴場の管理」という大義名分を掲げ、浄化師達は思う存分、羽を伸ばす。  開放的な海を前にしてビーチボールを持っていたり、浮き輪を腰にはめて泳ぐ準備万端な者もいる。透き通った海に目を輝かせて見ている者もいれば、海に興味を示さず、パラソルの下で椅子に寝そべっていたり、本を読んでいたりと、それぞれが海を前にして様々な反応をする。  どの浄化師も今日ばかりは教団の制服を着ておらず、私服だ。中にはもう水着姿の者もいる。  その日は楽しい海辺での思い出ができる筈だった。  誰かが待ちきれないとばかりに海へ飛び出そうとしたとき、それは起こった。  突如、海面から不自然なあぶくが浮き上がる。 「何だ?」  訝しげな声が聞こえたのか、他の浄化師達も異変に気づいた。  あぶくから海を引き裂き、小島が現れた。その衝撃で波飛沫が起きる。黒土で覆われた小島はぬうっと静かにこちらに近づいてくる。  よくよく見れば、あれは巨大タコだった。それもベリアル化した。  その証拠にベリアルは海中に根を張るように黒い触手を伸ばす。成人男性の二回りもある触腕からも触手が生えていた。  人の身長を優に超えた巨大タコは海中から全容を現す。  その奇怪な姿は、もはや別の生物に見えた。  タコの頭部に巨大な触手の塊。ぬらぬらとしたタールのような粘液が不気味に光る。  軟体動物特有の動きをする度に触腕にある吸盤がさざめく。吸盤のところだけ色が薄く、まるでいくつもの巨大な目があるようにも見えた。本物の目は上下左右に目玉をぎょろりと動かすと、ある一点で止まった。  その視線の先には浄化師達がいる。  ベリアルの無機質な目。ベリアルに見慣れている筈の浄化師でも思わず目を逸らしたくなる。  生理的に、としか言いようのない嫌悪感がわくのだ。  詳細が分かってくる内に何ともいえぬ恐怖心がわく。それほど禍々しく不気味な姿だった。  眼で見ていながら現実味がない。さながら悪夢を見ているようだった。  一人が我に返ると、次々と正気に戻る。  幸い教団から事前に警備が目的である為、条件付きで口寄魔術陣の使用許可が下りている。その条件とは、ベリアル及びヨハネの使徒に遭遇したなどの不測の事態に限り、現場の判断に任せるというものだ。  こうしてベリアルに遭遇した以上、戦うしかない。  このままいくと沖に上がってくるだろう。ここには船もなく、海中戦は向こうの独断場だ。都合のいいことに海の家から離れており、ベリアルを迎え撃つには絶好の場所だった。浄化師達は静かな脅威との激闘を予感していた。  こうしてあなたたちの楽しい休暇は終了した。
【海蝕】特製フルーツジュースを召し上がれ
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帰還 2018-07-20

参加人数 7/8人 茸 GM
 ターコイズ色の美しい海の広がるベレニーチェ海岸。  ベリアルの姿もなく安全に海水浴を楽しむ事が出来る場所なのだが――……。 「真夏だっていうのに、地中海にベリアルが出現してからお客が減っちまった……。まったく、商売上がったりだ」  浜辺に開かれたとある小さな海の家で、こんがりと日焼けした男の店主が腰に手を当て溜息と共に嘆く。 「教団からの警備も増えたし、より安心して遊べると思うんだがなぁ。不安はそう簡単には拭い去れねぇってことか」 「――こんにちは。今日も調子悪いみたいね」 「ああ、あんたか」  話しかけてきたのは若い女性。何度も足を運んでくれている常連さんなのだが、服装からして今日も海に泳ぎに来たわけではないようだ。 「私も海で遊びたいところなんだけど、怖くて海に入る人なんてほとんどいないじゃない? だからどうしても遠慮しちゃうのよね」 「だがこの海岸では目撃すらされてないんだ。不安なのは分かるが、折角の夏を楽しまねぇなんざ勿体ねぇってもんだろ」 「仕方のない事だけど、確かに足が遠退いてしまうのは寂しいわね……。せっかくのフルーツも活躍できなくて可哀想だわ」  海の家のカウンターに置かれたまま使われずに鎮座している南国フルーツ。  白髪交じりの頭を掻きながら店主も「まったくだ」と肩を竦めた。 「朝一番に収穫してきたんだが、こうもお客が来なけりゃ無駄になっちまう」 「海の家特製フルーツジュースでしたっけ? そろそろ秘密のシロップとやらが何なのか教えては頂けないのかしら」  カウンターに寄りかかり、人の頭一つ分はある大きさのフルーツをツンと指でつつく彼女。  それを店主はカハハと笑う。 「駄目だ駄目だ! どこかで聞き耳を立ててる輩がいるかもしれん。真似されたらこの店は終わりだ」 「そんなこと………無いとも言い切れないわね。本当に美味しいもの」  前に飲んだ事のある彼女だからこそ、大袈裟な店主の台詞もすんなり納得できてしまう。 「甘酸っぱくてとろける様な舌触り……。何より見た目が綺麗よね。今日も頂いて帰ろうかしら」  外見は焦げ茶色でザラつきがありとても美味しそうには見えないが、中身が白くパールのような輝きがある。しかしそのまま食べようものなら酷過ぎる酸味に舌がやられてしまう。 「それがあなたの手に掛かればまるで魔法が掛けられたかのように甘みが生まれて信じられないくらいに美味しくなるのよね……」  うっとりと語る彼女に店主は呟く。 「シロップ掛けただけだがな」 「もう! 夢をブチ壊さないでよ! だけって言うならシロップの秘密教えてくれてもいいじゃない」  ぷりぷりと不満を漏らす彼女だが、不意に両手をパン!と打ち合わせた。 「そうだわ!」 「!? 吃驚したなぁ。どうしたよ、急に……?」  彼女の豹変ぶりに店主は目を丸める。 「お客さんが来ないなら、こっちから出向けばいいのよ!」 「はあ? ……出向くって、売り歩くってことかぁ?」  彼女は目を輝かせ大きく頷く。 「近頃エクソシスト様が増えたじゃない? もちろん遊びじゃなくて警備でいらしてるようだけど、彼等にこの特製ジュースを飲んで頂くの!」  拳を握って意気込む彼女に店主は腕組みをして片眉を上げた。 「良い考えだとは思うが、仕事の邪魔になり兼ねんだろう……」 「事情を話せばきっと大丈夫よ! お代を頂戴しないかわりに宣伝して頂くの、どうかしら?」 「お代を頂戴しない!? それはさすがに……」  売り上げが右肩下がりの今、彼女の考えにはすんなり頷けない。それでも彼女は食い下がる。 「想像してみて? エクソシスト様が海でこのジュースを飲んでいたら人々の目にはどう映るかしら」 「どうって………」  店主は頭に思い浮かべた。  ――フルーツを半分に割り、中身だけを潰し、頑丈な皮を器にして最後に秘密のシロップを混ぜ合わせれば完成する特製フルーツジュース……。 「ふむ……あれを抱えていたら、さすがのエクソシストさんも硬さがとれて雰囲気が緩む……か」 「その通りよ! 彼等が飲んでいたらきっといろんな人の目に留まるわ。エクソシスト様たちの楽しそうな姿に自分も飲んでみたいって足を運んでくれること間違いなしよ!」 「そう上手くいくかねえ……」 「やってみないと分からないわ! 題して『エクソシスト様おすすめフルーツジュース』よ! それに、こんな暑い中頑張ってくれてるんですもの、このとびっきり美味しいジュースを振る舞ってあげたくなるじゃない」  勝手なネーミングをつける彼女だが、この提案はそれほど悪くはない。  そう思った店主は、商売繁盛の為にもやれることは全てやろうと重い腰を上げた。 「よし、一丁やってみるか!」
星の海に願いを込めて
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帰還 2018-07-19

参加人数 6/8人 春川ミナ GM
「いらっしゃい! いらっしゃい! 安いよ! 美味いよ!」  とある屋台から威勢のいい声と美味しそうな匂いが漂ってきます。  ここは教皇国家アークソサエティ、ソレイユ地区。小さな村が主催した七夕祭。大人も子供もこぞってたくさんの屋台を見たり、会場の中央に立てられている笹に付ける短冊に願いを書いたりして賑わっています。 「ねぇ、あそこに人だかりができているよ」 「面白そうだね。ちょっと行ってみよっか」  あなたはパートナーの手を引きながら屋台に向かいます。そこには小さな池があり、何人かが笹船を浮かべています。その上には色とりどりの金平糖が乗っていました。 「いらっしゃいませ。ここでは占いをやっていますよ。お二人ともいかがですか?」  池の傍に建てられた屋台には占星術師の服装をした人物が座っていました。この人物が屋台の店主なのでしょう。この服装は占いに神秘性を求める為の余興なのか、それとも本当に占いを生業としているのかは判りません。 「占いかぁ。面白そうだしやってみたいかも」 「ははは、キミは本当にそういうものが好きだなぁ」 「ぶぅぶぅ。良いじゃない。こういうものは楽しんだものが勝ちなのよ」 「ゴメンゴメン。じゃあやりかたを教えてもらえるかな?」  パートナーを少しだけからかったあなたは店主に問います。 「ありがとうございます。では、やり方を説明いたしますね。まずはこちらの短冊に願いを書いて下さい。そして、書かれましたらこの様に船を折ります。そして金平糖を一粒、乗せて池に浮かべて下さい」  店主が鈴のような凛としながらも神秘的な声で語ります。その手には金平糖を乗せられた船があり、そっと池に浮かべられました。 「浮かべて、その後はどうするんだい? 遠くまで行った方が縁起が良いとか?」  あなたは店主が浮かべた船を見ながら聞きます。周りには先客が居て、浮かべた船の動向に一喜一憂しているようでした。 「いえいえ。逆で御座います。船が近くであればあるほど、早く星の中に届く事ができるほど、良いとされています」  店主が池をそっと指差すと天の星々が池に映りこんでいました。 「ふむふむ。何か意味があるのかい?」  あなたは澄んだ池の中に映りこんだ星々と底に留まっている空に輝く光と同じ形をした色とりどりの金平糖の美しさに見とれながら聞きます。 「はい。距離は願いの叶いやすさ、そして星の中に混じる早さで願いが叶う時間を示しております」  店主が浮かべた船はゆっくりと水に溶けて、上に乗っていた星も水底の仲間達に混じって行きました。 「どうする? やってみる?」 「勿論! 面白そう!」  あなたはパートナーに声をかけると、瞳をキラキラさせて返してきました。 「ふふ。あなた方の未来と願いに幸多からん事を……」    ここは七夕祭。今だけは二つの星が一つになる時。二つの願いが形になる夜。  さて、あなたは何を願いますか?
【海蝕】探偵マウロの事件簿~海水浴
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帰還 2018-07-19

参加人数 4/8人 弥也 GM
 ブリテンのジョンソン家。  Jマーク鍋で御馴染のジョンソン家だ。 「表向きはね」  そう言ってマウロに微笑むのは、ジョンソン家の一人娘ライリー。  つい先日誘拐され教団のエクソシスト達の働きで、無事救出されたが主犯はジョンソン家に長く務めるメイド長だった。  新聞でも大きく報道され、家出猫探しと看板を磨くしか仕事のなかった探偵マウロにも仕事が入るようになった。 「誰のおかげ?」  そう言ってライリーがマウロの事務所に入り浸る様になって数週間。 「こんなトコロで油を売ってないで、子供は勉強をしないといけないよ」  マウロがそう言っても、お目付け役のメイド長が居なくなったことを良い事に、糸の切れたタコである。 「だってパパがここなら遊びに行っても良いって言うんだもの」  16歳。大人と子供の境目。時々見せる亡き母メラニーに似た大人っぽい表情はマウロをドキリとさせる。  メラニーとマウロは、昔何かあったようだが、今となってはマウロと神のみぞ知る、である。 「おー! ライリーちゃん、来てたか! 今日のおやつはミートパイだ!」  大きな身体、大きな声、そしてその大きな手にミートパイを持って現れたのは、マウロの幼馴染精肉店店主テオだ。 「やったぁ!」  何がジョンソン氏を安心させたのか、誘拐事件以来すっかり信頼を得てしまった。 「で、ヴェネリア行きは、パパさんOKしてくれたのか?」  切り分けたパイをテオがライリーに手渡す。 「全然ダメ。ほらウチ使用人が1人減ったでしょ? 海何て危ない場所、御付きもなしに行ってはダメって」  母親代わりだったメイド長が居なくなった今、ライリーが自由に行き来できるのは事務所(ここ)だけか。見た目は成長しても、まだまだ遊びたい盛り好奇心旺盛の子供だ。 「一緒に行こうか?」  口の両端にパイを着けたライリーを見て、つい、マウロは言ってしまった。  ライリーの動きが一瞬止まったかと思うと、手にパイを持ったままマウロに抱き着いていた。 「ほんとに? 本当なの、マウロ!」  頬張ったパイを飛ばしながらライリーが叫ぶ。 「おい、俺は無理だぞ。七夕で店が忙しい時期だ」 「分かってるよ」  ライリーを引きはがしたマウロは、ライリーが口の中のパイを飲み込むのを待った。 「じゃぁ、ジョンソンさんに私と一緒なら良いか確認して、予定を決めよう。私も仕事があるしな」 「仕事ったって、どこぞの奥様の愚痴聞きだろう」  ガハハと笑うテオを、ライリーが軽く睨む。 「奥様の愚痴聞きだって、立派なお仕事です! だめよ、人のお仕事をそんな風に言っちゃ!」  ライリー、残りのパイを口に押し込むと父親の元へと飛び出して行った。  大人の男二人が思わず顔を見合わせて、吹き出す。 「育ちが良いんだか、悪いんだかわからないな、あの子は」  マウロは、床に散らばったパイの食べカスを見て苦笑いをした。   「じゃーん!」  浮かれた声と共に事務所に入って来たライリーは、一枚の紙をマウロに差し出した。  ジョンソン氏からヴェネリア行きの許可を貰ったライリーは、ここ数日冒険のスケジュール調整に没頭していたのか事務所に姿を見せていなかった。 「久しぶりに来たと思ったら、もう予定を決めてしまったのか」  受け取ったスケジュール表を見て、マウロの顔色が変わった。 「海は危ないよ、ライリー」 「大丈夫よ。マウロは海が怖いの?」  ライリーに顔を覗き込まれたマウロは、自分の顔が赤くなるのを感じた。 「ち、こ、怖いとかではなく、行った事がないだけだ」 「だったら、良い機会じゃない! じゃ、けってーい!」  無邪気で強引なライリーに逆らえないのは、やはりメラニーに似ているかだろうか……。 「し、しかし私は水着を持っていないぞ」 「大丈夫、向こうで貸してくれるんですって!」 「ベリアルが出るって話だよ」 「あら、それだって大丈夫よ。パパが教団にお願いをして一緒に来てもらうように手配したわ」  抵抗する材料が尽きたマウロは、人生初の海へと挑む事になってしまった。 <ジョンソン氏からの依頼書>  ブリテンのジョンソン家当主ジョンソンです。  先般は娘ライリーを救助いただきありがとうございました。  実は、娘が生まれて初めて旅行をします。  これまで、大変な思いをして来たライリーに是非楽しく・安全な旅をしてもらいと思っております。  目付け役に探偵マウロが同行いたします。  非常に信頼できる男なのですが、正直頭でっかちで面白みに欠けます。是非皆さまでフォローしていただければと思います。
一夜限りのキャンドルナイト
簡単|すべて

帰還 2018-07-18

参加人数 4/8人 桜花 GM
 七月七日は七夕の日。  元々は東方島国ニホンの風習で、短冊に思い思いの願いを書いて笹や竹に飾るイベントだったらしいが、七夕という風習は形を変え、ここアークソサエティにも伝わっていた。 「ねー、ママ。このろうそくなぁに? なんでこんなにたくさんあるの?」 「これはね、キャンドルナイトっていうのよ。綺麗でしょう」  七月七日の前後にはアークソサエティの至る所でお祭りが開かれており、年に一度しか会えないズラミスとサラミの再会を祝う。  ニホンで行われている七夕のように笹と竹に願いを込めた短冊を飾ったり、その笹と竹を川に流したり、ズラミスとサラミの逸話にちなんで天の川に向かって大切な人を想ってお祈りをしたりと祝い方はいろいろだ。  街によれば七夕の日は一日中踊り明かすような街もあるらしいが、どうやらあなたが訪れたこの街では川沿いに並べられた蝋燭に火を灯し、キャンドルナイトとしてお祝いをしているらしかった。 「こんなに綺麗なんだから毎日お祭りしてたらいいのに。そしたらみんな楽しいよ」 「ふふっ、それもそうね。けど、特別な日だから楽しめることだってあるのよ」 「ふーん……」  と、少女は川沿いに並べられているキャンドルの一つに顔を近づけ、不規則に揺れるキャンドルの火をじっと見つめる。  目を凝らしてよく見てみると、キャンドルが置かれている器には黒い文字で『エクソシストになりたい!』と書かれていた。 「ねーー、器になんか書いてる!」 「きっとそれは願い事ね。キャンドルを置く器に自分の願い事を書いてそれが叶いますようにってお祈りするの。桜ちゃんはどんなお願いをするのかな?」 「私? うーん、えっとね……、私はね……」
【海蝕】波に身を任せて
とても簡単|すべて

帰還 2018-07-18

参加人数 8/8人 しらぎく GM
 高く昇った太陽の日差しに熱される白い砂浜はキラキラとその光を反射して、透き通ったターコイズブルーの海は奥に行くほど濃いグラデーションを描いている。絶好の海水浴日和だが、ベレニーチェ海岸に見える人の姿はまばらだ。  実は今夏、地中海でベリアルが出現したとの報があり、それは人々の間に瞬く間に広まった。ベレニーチェ海岸は幸い平穏なものの、いつこの海岸にもベリアルが現れるかという人々の不安を、この海岸を訪れている人の少なさが物語っている。 「あんたたち、時間があるならサップってのをやって見ないか?」  そんな中、海水浴客に紛れて湾岸の警戒にあたっていたあなたたちに海の家の店員が声をかけた。 「サップ?」  首をかしげると、店員は側に立ててあるボードをコツコツと叩いた。 「このボードに乗って、パドルで操作するスポーツさ。波の上を散歩するように進めるんだ。サーフボードより安定感もあるから二人乗りもできるぞ」  そして店員は後ろに立つ店を指差してあれは俺の店だと言った。 「水着は店でレンタルできるから、試しにやって見ないかい?」  小麦色の肌と、それとは対照的な白い歯を見せてニカッと店員が笑った。  ベレニーチェ海岸の安全を人々に示すのも浄化師の役割でもある。浄化師二人の返答に店員は嬉しそうにまた白い歯を見せ頷くと、 自分の店へと案内するのだった。
【海蝕】波打ち際の宝物
とても簡単|すべて

帰還 2018-07-16

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
「たくさんの人たちの笑い声が響く、夏の海が好きなの」  べレニーチェ海岸の近くで服屋を営む女主人は、そう言って寂しそうに肩を落とした。 「でも、今年はこの通り。もうすっかり暑くなっているのに」  海洋に住む生物を元にしたベリアルが地中海に侵入した、という報せは瞬く間に国中を駆け巡った。  地中海の一部であり、薔薇十字教団の管轄下、さらに教皇国家アークソサエティ唯一の安全な遊泳が保証されたこの海岸は、夏も盛りを迎えようという今、かつてないほど寂れてしまっている。  ベリアルが地中海に現れたとはいえ、べレニーチェ海岸から離れた位置でのことだ。この美しい場所は変わらず平和が保たれていた。しかし、人々の胸に一度でも根差した不安と恐怖の芽は、そうやすやすとは消えてくれない。 「だからね、考えたのよ」  服屋の女主人は目を輝かせる。 「小さなころ、絵本で読んだの。『宝探し』っていう海の遊び。とても素敵なのよ。それを、浄化師様主催という形で執り行うのはどうかしら」 『宝探し』とは、浅瀬や砂浜に子どもの手のひらほどの大きさのゴムボールを埋め、見つけるという簡単な遊びだ。ゴムボールを宝、あるいは宝石に見立てることから、『宝石探し』ともいう。  それを浄化師――薔薇十字教団が主催することで、べレニーチェ海岸の安全性をアピールし、例年通り人々に楽しんでもらおうというのだ。 「水着はうちがお貸しするわ。ね? お願いよ、いつもの楽しい海岸にしてちょうだい?」  かくして、夏のべレニーチェ海岸を盛り上げるための指令が下された。
【海蝕】アイの海
難しい|すべて

帰還 2018-07-13

参加人数 8/8人 春川ミナ GM