~ プロローグ ~ |
「たくさんの人たちの笑い声が響く、夏の海が好きなの」 |
~ 解説 ~ |
人が少なくなってしまったべレニーチェ海岸で、朝・昼・夜に分かれてデートをしてもらおう! という指令です。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、もしくはお久しぶりです。あいきとうかです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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目的 『宝探し』に参加するひとたちに楽しんでもらうこと。 行動 時間帯は朝。 夜明け前の暗い間はランタン使用。 浅瀬にもボールを隠すみたいなので水着を借りる。 「…宝物。見つけるの、簡単すぎても面白くないし、見つからないのもダメ?結構難しいかも。(ちょっぴり首を傾げて)」 最初に宝物を隠す範囲を確認。 普通に埋めて隠すつもり。 探す人が集まりすぎないように、ボールは平均的に隠す方がいいのかも? 平均的と言いつつも、大きめな流木とか岩に多少寄せてみたり。 潮の満ち引きがあるなら、動く波打ち際の範囲に埋めるとか。 逆に目標物の中間地点とかも。 埋める深さは、水のある所は浅めに。 |
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◆希望時間:昼 ・朝と夜は寒そうだとこの時間を選択 ・濡れても良いようにと 中に借りた水着を着用したが唯月は恥ずかしい 唯(朝と夜…泳げたとしても風邪をひくかもしれませんし やはりこの時間…と、選んだものの… エクソシストは…目立ちますね…) 瞬「いづ、俯いて大丈夫?…暑い?」 唯「へ?!あっす、すすすみません!!何でもないんですっ」 瞬「そー?じゃあ、宝探し始めよーか!」 唯「は、はい!」 ◆クッキーの為に宝探し ・甘味好きの唯月は例えクッキーでも気合いが入る ・そんな唯月の為にと瞬も気合を入れて 唯(そう、今日はクッキーの為に頑張れば…! み、水着なんて…恥ずかしくありません…っ!) 「瞬さん、宝探し…頑張りましょう!」 |
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■目的 ティ:浄化師の仕事というのなら燃えます ロスさん張り切ってますので遠目から見つつ ロス:じゃ久々狼姿で子供達と一緒に遊っか! ∇ 目的が合わないので無理に一緒にさせずでも ■行動 ∇ロス 狼姿で宝探ししてる子供達を遠巻きしながら見 相手が気付いてから近付く 狼の鼻で宝の場所にあたりをつけ 宝をみつけられない子供の足に纏わりつきながら宝の方へ誘導 ここ掘れワンワンと軽く掘って促す 基本は子供にじゃれ付いて遊ぶ心持ち 終了 「人間姿でどれくれー泳げっかなーとあったんで 全力で遠くの岩を目指し泳ぎ 休憩必要そうなら休憩 なくてもOKならUターン ∇ティ 景品手渡し ロスや子供達の様子を見 ジュース配り ロス海時には本読み のんびり待ち態勢 |
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祓: 水着はあまり馴染みがない。あまり着用したいとも思わないな よって足が濡れないように、砂浜の宝物を優先して探し拾っていたのだが… 「…多少、衣服が濡れるくらいは気にする程でもない、か」 少し躊躇しながらも 月明かりの浅瀬に、まるで誘われるように ロングブーツの高さ以下の浅瀬へ、足を踏み入れてみた 足元に見つけた宝物を見つけて 「グレール、ここにも」 僅かな童心を覚えるように、無心に微笑んで喰に伝えながら ふと、浅瀬から遠くまで広がる海を目に留めた 月明かりで、波全てが煌めく絶景 「グレール、」 呼び掛けかけた言葉が途中で止まった 「悪くない景色だ」 差し示した先を見た喰が頷く この景色が、喰と共有出来る事が、とても嬉しい |
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夜に行動 ◆シュリ 宝探しに来てる人、少しだけどまだいるのね 回収はしなきゃいけないけど、見つけさせてあげたい 「(ボールと貝殻を手にして)宝物のそばにあった貝殻、すごく綺麗… 「他にもキラキラ場所あったし、そこにも宝物があるかもね 海…昼間は、泳いでいた人もいたのよね …泳ぐのって、楽しい? そうなの…うん、じゃあ今度、教えてね ◆ロウハ そうだな…邪魔しない程度に誘導するか 近くを通りかかって聞こえるように会話する 「お嬢、宝物と一緒にいい物見つけたな 「これが残り物には福がある、ってやつだぜ お嬢は海水浴の経験は…当然ないか そうだな…広い海で波に揺られるのは、結構気持ちいいと思うぞ 機会があれば、泳ぎくらいは教えるぜ |
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【朝】 ●ユン 宝埋めるの、大変だったね 楽しんで貰えると、いいな ヒント、用意しよ 大きな落ち葉に、蝋石で描き描き フィノくん、そのカバさん、面白い え、猫さん!? 宝埋め、終わったら、フィノくん、わがままいい? 更衣室、お掃除、しておきたいな 手伝って、ほしいの あっ、朝日 登って、くる すごい …えへへ(肩にそっと置かれた手にそっと触れ) ●フィノ でも、納得できる作戦になったさ 大丈夫、頑張ろう 俺はヒントに猫のイラストを添えて、っと もーカバじゃないよ猫だってば お掃除?これじゃいつもと変わらないなぁ 仕方ない 早く泳ぎたいし、ちゃっちゃと済ませよう …!…うん 朝焼けの海って、こんなに… (海にいい思い出はなかった けど、今は違う) |
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◆リームス 朝行動。 干潮満潮時間を確認し 昼の宝探し時の波打ち際を考慮して宝物を埋めていく。 浅瀬から1mごと等間隔がいいだろうか 「定規?――うん。巻き尺があれば尚いい」 問われたから答えただけなのにカロルは不満なようだ。 そういえば彼女の意見を聞いていなかった。 ごめん。僕はどうすればいい? 二人……カロルの手許を観察。 「カロル。そんなに浅く埋めたら宝物が見えてしまう」 宝物を見つけたら。取ろうとする、だろう。 今の僕達と同じように並んで屈んで、 ……僕の前にも宝物を一つ埋めておく。 そうしたらきっと、二人とも見つけられるから 泳がなくていいの? 危うげに歩く彼女の手を取って。 「さらわれない。僕が手を掴んでいるから」 |
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時間】夜 ・アリシア 服装は短パンとタンクトップにパーカー 水着は頑なに拒む だって、夜ですし…泳ぐのは危ない、ですし… それに、ちゃんと【宝物】を見つけてあげないと… 水着姿をクリスに見られるのが恥ずかしいのは内緒 どうしてこんなに恥ずかしいんでしょう、私… 一生懸命宝を探して手元ばかり見ていたら いきなり口に押し込まれた甘い何か 思わず見上げたら、クリス…? 上ですか…? あ…綺麗なお月様ですね… 私の姓がムーンライトだから、ですか? 私が教団に保護された時もこんな月の綺麗な夜だったそうなんです だから、ムーンライト… お月様は、私のお母さんなのかも、しれませんね… クリスが…お兄さん… どうしてでしょう…それは、何だか…… |
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~ リザルトノベル ~ |
●宝物の隠し方 ふむ、と砂浜を見渡して『リームス・カプセラ』は軽く頷いた。 傍らにはゴムボールがつめられた籠がある。これを適当に埋めて回るというのが指令内容だ。 まだ夜も明けきらない海岸では、同じ任務を受けた二十人近い浄化師たちが立ち回っている。 (満潮と干潮の時間に狂いはない) 事前に調査はすんでいる。宝探しは昼に開催されるため、そのころの潮の具合を考慮しながら、リームスは屈んで静かに作業を開始した。 (浅瀬から一メートルごとの、等間隔がいいか) 距離を測ろうと顔を上げたリームスは、腰に手をあてて立つ少女に気づく。 「リームス。定規が必要かしら?」 『カロル・アンゼリカ』の問いかけに、リームスは一瞬だけ思考し、応じる。 「定規? ――うん。巻き尺があればなおいい」 「はぁ……」 たしなめるつもりが真面目に答えられ、カロルは額に細い指をあてて、小さく息をついた。 問われたがゆえに応じただけのリームスは、その不満そうな態度に首を傾ける。 そして思い出した。そういえば、カロルの意見を聞いていない。 「ごめん。僕はどうすればいい?」 制服姿のカロルは、なにか言いたそうに口を開き、堪えるように閉じる。少女の双眸は思案するように、念のために持ってきたランタンに落とされた。 (自分で考えなさい、なんて厳しく言ってしまおうかと思ったけれど) きっとリームスは太陽が真上にきても考えている、とカロルは即座に結論づけた。 光量を絞ったランタンを砂上に置き、少女は衣服の裾が乾いた砂につかないよう、注意しながら膝を折った。 「宝探しをする人たちのことを考えるの。おひとりさまもいるだろうけれど、家族連れや、私たちみたいに二人で参加する人もきっと多いわ」 「二人……」 カロルの手元を、リームスは観察する。えい、と少女はきわめて浅いところに宝物を埋めてしまった。 「カロル。そんなに浅く埋めたら宝物が見えてしまう」 「見えたっていいの。宝物を見つけたら、どうする?」 「……とろうとする、だろう」 今の二人と同じように、並んで、屈んで。そのときには、ここは波が寄せては返すようになっている。 納得して、リームスは自身の眼前にも宝物を埋めた。二人とも、見つけられるように。 「泳がなくていいの?」 「いいのよ。波にさらわれそうな、この感覚が好きなの」 いつの間にかカロルは海水に素足をつけている。脱いだものはランタンの側に置いてあった。 立ち上がったリームスは、危うい足どりで歩く彼女の手を優しく握る。 「さらわれない。僕が手を掴んでいるから」 ほんの瞬き一回の間だけ、きょと、としたカロルが、嬉しそうに微笑んだ。 「ええ、そうね。ちゃんと掴まえていて、リームス」 気づけば夜が明けている。見惚れるほどに美しい、朝焼けの光景だった。 ●あなたの好きな色 ワンピース型の水着を着用し、パーカーを羽織った『シルシィ・アスティリア』は、波打ち際で周囲を見回した。 「……宝物。見つけるの、簡単すぎても面白くないし、見つからないのも、だめ? けっこう難しい、かも」 足元の籠には今日の主役ともいえる宝物、もといゴムボールがつめこまれた籠がある。夜明け前の海岸には複数の浄化師がいて、それぞれ宝物を埋めるという任務にあたっていた。 「人々に安全な夏の海を楽しんでもらうのも、エクソシストの仕事のうちかな」 (安全、なんだよな?) きょろきょろと宝物を隠す場所を探しているシルシィを横目に、薄手のシャツに腕を通し、ハーフ丈の海水パンツをはいた少年は、眉根を寄せて腕を組んだ。 シルシィのパートナー、『マリオス・ロゼッティ』だ。 「探す人が集まりすぎないように……、平均的に、隠した方がいい?」 「流木の影とか、どうだ?」 「うん」 浄化師たちが散らばって埋めているので、ある程度はばらけるだろう。 とはいえ、このあたりだけ宝物が固まっている、というのは面白くない。 楽しい催しがあるなら準備段階から参加したいと、せっかく早起きをしたのだ。参加者を楽しませるのはもちろん、自分たちも楽しみたい。 大きめの流木や岩の影、波打ち際になりそうなところ、浅瀬などに二人で宝物を埋めていく。海水がかかる位置は浅め、そうでないところは少し掘り返すほどの深さにした。 「ちょうどいい難しさに、なってる……?」 「いいんじゃないか?」 あちらこちらに埋めたおかげで、籠の中身はからになっていた。星月の明かりだけでは心もとないだろうと持ってきたランタンが、屈んだ二人をぼんやりと照らしている。 「お昼の宝探しは、別のところ、探しに行こうね……?」 「もちろん」 このあたりに宝物を隠したのは自分たちなのだ。場所を知っていて行う宝探しなど、つまらないし公平性に欠ける。 一方で、朝に宝物を埋めた浄化師が昼の宝探しに参加してはならない、という決まりはなかった。水着も借りたままで問題ない。 「楽しみ」 口許に小さく笑みを浮かべたシルシィを見て、マリオスも自然と頬が緩む。 「ああ、ほら。シィ」 海の方が明るくなり始めたことに気づき、マリオスは水平線を指さした。 「朝日が」 「……ん」 ゆっくりと、水平線の向こうから朝日が昇ってくる。空は夜の色から朝の色へと塗り替えられ、波頭のきらめきも増した。 「綺麗……。黒から、だんだんといろんな青……。マリオスは、どの色が一番好き?」 「そうだなぁ」 浄化師たちも思わず手をとめて見惚れる光景に目を奪われていたマリオスは、隣のシルシィを見て口をつぐむ。 水色の瞳は、宝石のような輝きを帯びている。 「マリオス?」 少女は首を傾け、少年は曖昧に笑んだ。 ●それは綺麗な朝のこと セーラーワンピ型の水着を着た『ユン・グラニト』と、懐中時計の柄が入ったハーフパンツ型の水着を着た『フィノ・ドンゾイロ』は、満足感を胸に周囲を見る。 まだ夜は明けず、昼間に開催される宝探しの用意として、ゴムボールを埋めて回っている浄化師たちの姿がちらほらと見えた。 早々に海岸に到着して作業を始めたため、二人はずいぶん早く宝物を隠しきっている。 「宝物埋めるの、大変だったね」 「でも、納得できる作戦になったさ」 作戦とは、難易度を三つに分割することで、大人から子どもまで楽しめるように配慮するというものだった。 「楽しんでもらえると、いいな」 「大丈夫。頑張ろう」 「うん。ヒント、用意しよ」 そう、仕事はまだ終わっていない。 二人が宝物を埋めた場所には、貝殻や木の実がさり気なく置かれていた。また、幼い子ども向けに、壁際や木の根元に潜ませたものもある。 さらに、あらかじめ探しておいた鮮やかな緑色の大きな葉っぱに、同じく拾い物の蝋石のかけらで地図を描くことで、作戦は終了するのだ。 砂浜に寝そべり、ユンは宝の地図を描き始める。これをあちらこちらに隠すことで、参加者たちはより楽しめるだろう。 フィノは宝の地図がいっそう華やかになるように、ユンが描き上げるヒントの脇に動物の絵を添えることにした。 「フィノくん、そのカバさん、面白い」 「もー、カバじゃないよ。猫だってば」 「え、猫さん!?」 独創的、といえば聞こえのいいフィノの絵に、ユンは瞬く。そうだよ、とフィノは頷いて、他の地図にも絵を描いていった。 「地図も、隠し終わったら、フィノくん、わがまま、いい?」 「なに?」 「更衣室、お掃除、しておきたいの。手伝って、ほしいな?」 「お掃除?」 (これじゃ、いつもと変わらないなぁ) 唇を尖らせそうになったフィノは、ユンのそわそわしている目を見て、仕方ない、と苦笑した。 「ちゃちゃっとすませよう」 「うん……!」 そうしたら、早く泳げるだろう。 ちょうど地図を描き終えたユンは、わずかに口の端を上げて体を起こす。 「あっ、朝日……、すごい……」 「……っ、うん……!」 同じく起き上がったフィノも見た。 水平線の彼方から、太陽がゆっくりと顔を見せる。空の色が変わり、海はきらめきを増した。 神々しいほど眩い光景に、フィノは無意識にユンの肩に触れる。そっと置かれた少年の手に、少女も自らの指先を重ねた。 「……えへへ」 「朝焼けの空って、こんなに……」 (海にいい思い出はなかった。けど、今は違う) この美しい瞬間を、感動しながら見ている。 感慨深くて、フィノはユンを見た。少女も、胸を震わせているようだ。 間もなく、太陽が昇りきった。 「掃除、行こうか」 「うん」 あとは掃除をして、地図を隠して、遊ぶだけだ。 ●海辺の宝探し 更衣室の鏡の前で、『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』は小さくこぶしを握った。 「こ、これなら水着ってバレませんよね!」 緑色のタンニキは一見すればチェニックにしか見えず、白い短パンも一目で水着と分かるものではない。大丈夫だと、自分に言い聞かせるように胸のうちで繰り返し、唯月は外に出た。 ちょうどそのとき、 (水着なんて雑誌の仕事以来だから、数年ぶりかなぁ。やっぱり夏は海だよね~!) と意気揚々と男子更衣室から出てきた、『泉世・瞬(みなせ・まどか)』と目があう。 「いづ~! 似合ってるよ、かわい~!」 「ま、瞬さん……!」 ぱっと頬を染め、唯月はうつむいた。 宝物は浅瀬にもある。濡れてもいいようにと水着を借りることにしたが、やはり恥ずかしい。 「宝探し、頑張ろうね~」 女主人が貸してくれたパーカーに、同じく青いハーフパンツ型の水着をあわせた瞬に言われ、唯月ははっとした。 周囲を見れば、寂れているという話が嘘だったように感じられるほどの人々が宝物――ゴムボールを探している。景品は教団の料理長お手製クッキーだ。 (朝と夜は……、泳げたとしても風邪をひくかもしれませんし、やはりこの時間……と、選んだものの……) 真昼の太陽の下、遊戯に興じる人々の視線をわずかに感じる。 (エクソシストは……、目立ちますね……) 警備役ではないからと、武器を外して水着を着用していても、雰囲気が違うのだろう。 「いづ、うつむいて大丈夫? ……暑い?」 「へ!? あっ、すす、すみません! なんでもないんですっ」 「そ~? じゃあ、宝探し、始めよ~か!」 「は、はいっ」 (そう、今日はクッキーのために頑張らなくては……! み、水着なんて……、恥ずかしくありません……っ) 羞恥心に意欲が勝る。 「瞬さん、宝探し……、頑張りましょう!」 「ふふ、気合入ったね~!」 短い話しあいの末、いっときだけ離れて宝を探すことになった。 浅瀬の宝物を探していた瞬は、黒い狼に足を撫でられ、驚く。 「あれ……?」 知り合いのような気がしたが、声をかけるより早くその獣は駆け出し、子どもにじゃれつき始めた。 一方で唯月は宝の地図と思しき葉っぱを片手にうろつく。 「唯月さん」 「あ……っ!」 どうも、と景品交換所で会釈をしたのは、『シンティラ・ウェルシコロル』だ。 「大丈夫ですか?」 ジュースを二本、渡しながら聞いてくるシンティラが案じているのは、唯月のことであり、瞬のことだった。彼女は瞬の様子が最近おかしいことを、知っている。 「……はい」 「そうですか」 「いづ~! 宝物見つけたよ~! おいで~!」 「わたしも宝の地図を……っ、あの、では」 「はい。交換、しにきてください」 眉尻を下げて頷いた唯月は、かすかな胸騒ぎを押さえて早足になる。波打ち際で瞬が宝物を持つ手を振っていた。 ●宝物はここにある 休憩所の大きなパラソルの下で、シンティラは海辺を走り回る狼、『ロス・レッグ』を見ていた。 「ロスさん、張り切っていますね」 珍しく狼姿のロスが元気なので、心配だ。 しかし、宝を探している子どもをさり気なく助けて回っている彼を、とめるつもりにはなれない。景品であるクッキーと宝物であるゴムボールを交換しにくる人々の相手をしながら、シンティラはパートナーの様子を観察していた。 「あれは……」 泉世・瞬だ。 波打ち際で宝探しに興じている彼に、ロスが近づく。足元にまとわりつき、問題ないと判断したのか素早く離れた。 狼はまた、宝物を探している子どもの近くに落ち着く。目があえば近づき、嗅覚と直感であたりをつけ、宝物を見つけられない子どもの足に体を擦りつけて誘導し、ここ掘れワンワンとばかりに前足で軽く砂を削る。 じゃれているようにしか見えないが、うまいとシンティラは思った。 「……あ」 不意に見知った影が眼前を通りすぎようとする。 「唯月さん」 足をとめた唯月が、驚いたような顔でシンティラを見下ろした。 「大丈夫ですか?」 主語抜きでも問いかけの真意は汲みとれたのだろう。唯月は一拍おいてから、目をわずかに伏せて返答した。 すぐに瞬が唯月を呼び、彼女は短い挨拶を終えてぱたぱたと駆けて行く。景品の交換を行ったシンティラの目から見ても、瞬はまだ大丈夫そうだった。 (心配ですが) 案じたり、景品を交換したり、ロスや子どもたちの様子を見たり、ジュースを配ったり、本を読んだりしているうちに、景品交換終了の時間がきた。 砂浜を朝から夕方までにぎわせていた人々が帰っていく。片づけは夜の担当者たちに任せ、シンティラは軽食が売られている海の家に向かった。 「ビールと焼き鳥をください」 購入したものを持ち、タオルを肘にかけて、砂浜に向かう。 ちょうど人間の姿になり、全力で泳いでいったロスが、同じ速度で戻ってきたところだった。 「よ、ただいまー」 「お疲れ様です、楽しかったですか?」 「楽しかった、楽しかった!」 まずタオルを受けとったロスが、適当に髪や顔を拭く。休憩はとっていないようだったが、平気そうだ。 濡れたタオルを受けとって、シンティラは代わりに焼き鳥とビールを渡した。 「いい景色ですね」 「綺麗だなー!」 夕日が水平線の向こうに沈んでいく。空も海も赤く染まっていた。じきに夜がやってきて、交代の浄化師たちの姿も見えるだろう。 「もう少し、ゆっくりしましょうか」 「おう!」 砂浜に座ったシンティラの隣に、ロスも腰を下ろした。シンティラの指先に、なにかが触れる。 「……宝物」 「すごいな、ティ! 交換してくるか?」 「交換、終了してますけどね」 小さく笑ったシンティラの髪が、穏やかな潮風に踊った。 ●ともにあること 水着にはなじみがなく、着用したいとも思わなかった。 「……多少、衣服が濡れるくらいは気にするほどでもない、か」 足が濡れないよう、砂浜で宝物の回収を行っていた『ガルディア・アシュリー』は呟くと、靴底を波に濡らした。 日は完全に落ち、月が見えている。白々とした光に誘われるようにもう少し進むと、爪先に異物感。昼間に回収されていなかった宝物こと、ゴムボールだった。 「グレール、ここにも」 「ああ」 少し離れたところでやはり宝物を探していた『グレール・ラシフォン』が短く応じる。その声音には、親しみと温もりがこもっていた。 海面が月光を吸いこみ、白く光っている。 明るい夜だ、グレールの位置から、ガルディアの綺麗な横顔はよく見えた。宝物をとった彼の、童心にかえったような邪気のない微笑に、グレールは満たされていたのだ。 「グレール」 ぱしゃ、と海水を踏んで隣にやってきたパートナーの名を呼んで、ガルディアは一度、口をつぐんだ。 二人の正面に広がるのは、魂まで引きこまれそうな絶景だ。海に月明かりが差しこみ、星が瞬くだけでこれほどに美しい光景になるなんて、誰も思いもしないだろう。 「悪くない景色だ」 「そうだな」 それ以上の返答をガルディアが求めないことを、グレールはよく知っていた。 (この景色を、ともに見られてよかった) わずかに目を伏せ、ガルディアは喜びを噛み締める。グレールもまた、ガルディアがいるこの風景を目に焼きつけようとしていた。 しばらくして、近くに宝物がないことを確認してから砂浜に上がる。宝物を景品交換所の籠に戻し、代わりにクッキーをとったのはガルディアだった。 「食べるだろう?」 「ああ」 余った景品は好きに食べていい、ということになっている。夜に後片づけを担う浄化師の特権だ。 荷物置き場に並んで座り、海を見ながらガルディアは三枚入りの焼き菓子の袋を開いた。一枚つまんで、口に運ぶ。さっくりとした食感と、程よい甘さが口の中に広がった。 「グレール、悪くない味だ」 まんざらでもない表情で、ガルディアはグレールに袋から出した焼き菓子を向ける。グレールも特に意識することなく、ガルディアが持ったままの菓子を口に入れた。 (確かに、悪くない) 咀嚼して、のみこんで、一拍。 「……っ」 幸か不幸か、今夜の空は明るい。事態を把握した二人の顔が、一気に赤くなったのもはっきりと分かるほどだ。 「ない、な」 うつむいたガルディアが笑う。グレールは無言で思い切り顔を押さえた。 波の音が先ほどより小さくなったように感じるのは、心音が大きくなってしまったためだろう。グレールはまだ熱を持っている顔から、そっと手を離す。 海を見つめるガルディアの静かな微笑は、やはり美しかった。 ●残り物の福 夜のとばりが落ちた海岸を歩くのは、ほとんどが宝物の回収にやってきた浄化師だった。 だが、中には昼のうちに安全性が無事、証明されたべレニーチェ海岸に、デートにやってきたカップルもちらほらといる。 すでに景品交換の時間は過ぎているが、彼ら彼女らも宝物を探しているようだった。手伝いをする、という意識はないだろう。ただ楽しんでいるだけだ。 (見つけさせてあげたい) 浄化師として、回収をしないといけないことは、分かっているけれど。 『シュリ・スチュアート』は考えながら歩いていた。隣では『ロウハ・カデッサ』が周囲に気を配っている。 二人とも水着は借りず、軽装だ。ランタンの灯りがなくとも足元が見えるほど、明るい月夜だった。 「宝物……、と、貝殻?」 見つけた宝物の側に、貝殻が置かれている。自然さを装っているが、故意であることが透けて見えていた。 「すごく綺麗……。他にもきらきらした場所があったし、そこにも宝物があるかも……」 きっと朝方に宝物であるゴムボールを隠す役目を担っていた浄化師の誰かが、見つけやすいようにと目印に置いたのだろう。 名案が閃いたロウハは、心の中で手を打った。 「お嬢、宝物と一緒にいいもの見つけたな。綺麗な貝殻だ。これが、残り物には福があるってやつだぜ」 静かな海辺にロウハの声が響く。シュリはきょとんとしたが、すぐにその意図を理解した。 人々が、貝殻を目印に宝物を探し始めている。さり気ない誘導だった。 「すごいわ、ロウハ……、名案……! でも、残り物には福がある、ってどういうことかしら……? 宝物は、みんな同じなのに」 「ニホンの言葉だぜ、お嬢」 褒められたロウハは、少し照れながら説明する。納得したシュリは、昼間に綺麗な貝殻を集めてあったことを思い出し、借り物の上着のポケットから出した。 「見つけた宝物の側に、これを仕込んでおいたら、もっと見つけやすくなる?」 「そうだな。それに、宝物と一緒に綺麗な貝殻も見つかったら、若干のお得感もあるってわけだ」 「でも、この貝殻はわたしがもらってもいい?」 「ああ、その貝殻はお嬢のものだし、遠慮なく持ってけ」 浅く頷いて、シュリは宝物の側に置かれていた貝殻をポケットに入れた。 「海……、昼間は、泳いでいた人もいたのよね。泳ぐのって、楽しい?」 白い月光が差しこむ海を見つめ、シュリが問う。ロウハは瞬いてから、腕を組んだ。 (お嬢は海水浴の経験は……、当然ないか) 「そうだな……、広い海で波に揺られるのは、けっこう気持ちいいと思うぞ」 「そうなの……」 「機会があれば、泳ぎくらいは教えるぜ」 「うん、じゃあ今度、教えてね」 寄せては返す波に、シュリが指先を浸す。 宝物の山のようにきらめく海に、ロウハは目を細くした。 ●天上の月、地上の月 流木や岩の影、壁際や木の根元、波打ち際。目印は貝殻、宝の地図。 今朝、宝物を隠す任務にあたっていた浄化師たちから聞いた情報を、『クリストフ・フォンシラー』は頭の中で反芻する。彼と『アリシア・ムーンライト』は、夜のとばりが降りてから、海辺に残された宝物を回収するという任務に就いていた。 「水着、着なくていいの?」 女主人が用意してくれた、短パンとタンクトップにパーカー姿のアリシアに問う。夜組であっても水着は借りられるはずだった。 一方でクリストフも、水着を着る必要性を感じなかったので軽装だ。 「だって、夜、ですし……、泳ぐのは危ない、ですし……。それに、ちゃんと宝物を見つけてあげないと……」 視線をそらして、アリシアは水着の着用をかたくなに拒否する。 (水着姿を見られるの、そんなに苦手なのかな) 現在の格好とそう変わらないようなデザインのものもあるだろう。もしかしたら泳げないのかもしれないと、クリストフは予想した。 一方で、砂浜に屈んで宝物を探すアリシアは小さく息をつく。 (どうしてこんなに恥ずかしいんでしょう、私……) 水着姿をクリストフに見られるのが、恥ずかしくてたまらない。だから水着を拒絶している、というのが真相だ。 疑問に意識を向けないよう、懸命に任務を遂行していたアリシアの口に、甘いなにかが押しこまれた。思わず噛むと、さくりと軽い歯ごたえがする。 「アリシア、下ばかり見すぎだよ」 仰ぎ見れば、クリストフがそう言って口の端を上げた。 彼の手には、いつの間に入手したのか、宝探しの景品であり、夜担当の浄化師たちは好きに食べていいことになっている、クッキーの袋がある。 「上を見てごらん。アリシアがいるから」 「上、ですか……?」 夜空を見上げたアリシアは、白々と輝く月を見た。 「あ……、綺麗なお月さまですね……。私の姓が、ムーンライトだから、ですか?」 本当は、月明かりを吸いこむ砂浜で、静かに美しく在るアリシアが、夜空の月に似ていると思って出た言葉だった。 素直に伝えるべきかクリストフが迷ううちに、アリシアは続けた。 「私が教団に保護されたときも、こんな月の綺麗な夜だったそうなんです。だから、ムーンライト……。お月さまは、私のお母さんなのかも、しれませんね……」 「だったら俺は、君の兄貴ってところかな」 思いがけない話を聞き、家族がいない彼女を元気づけたくて、クリストフは冗談めかして言ってみる。 (妹だなんて、思ってないくせに) 我ながら嘘くさい、と苦笑する彼に、アリシアは目を伏せた。 「クリスが、お兄さん……」 (それは……、なんだか……) 違う、とアリシアは思う。だが、月を見上げるクリストフを見ると、言葉は音にならなかった。
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*** 活躍者 *** |
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[14] フィノ・ドンゾイロ 2018/07/05-17:50
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[13] 杜郷・唯月 2018/07/05-15:59
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[12] グレール・ラシフォン 2018/07/05-13:34
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[11] アリシア・ムーンライト 2018/07/05-06:36
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[10] シュリ・スチュアート 2018/07/05-04:34
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[9] ロス・レッグ 2018/07/05-03:10
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[8] リームス・カプセラ 2018/07/05-02:03
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[7] フィノ・ドンゾイロ 2018/07/04-12:32
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[6] シルシィ・アスティリア 2018/07/04-06:18
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[5] シルシィ・アスティリア 2018/07/03-22:57
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[4] フィノ・ドンゾイロ 2018/07/03-21:34
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[3] ロス・レッグ 2018/07/03-19:24
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[2] グレール・ラシフォン 2018/07/03-19:22
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