~ プロローグ ~ |
高く昇った太陽の日差しに熱される白い砂浜はキラキラとその光を反射して、透き通ったターコイズブルーの海は奥に行くほど濃いグラデーションを描いている。絶好の海水浴日和だが、ベレニーチェ海岸に見える人の姿はまばらだ。 |
~ 解説 ~ |
パートナーとサップで海上散歩を楽しむエピソードです。もちろん本来の任務である海水浴客の安全のための周囲の警戒も忘れずに。 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは!またはこんばんは、しらぎくです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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海に来ること自体初めて 水着も…一応パレオ付きとはいえビキニはちょっと大胆だったかしら ドキドキしながらトールに見せて聞いてみる ど、どうかしら…変じゃない? ちょっと、どうして目をそらすのよ! べ、別に浮かれてなんかいないわ!警戒任務でしょ、ちゃんとやるわよ! 少し怒りながらもサップに乗り 風が気持ちいいし景色も綺麗…でもやっぱりトールがこっちを向いてくれない 指令で来たのに水着ではしゃいだのを怒ってるのかしら それとも、もしかして、似合ってない…とか…? ぐるぐる考えていたらバランスを崩して倒れかける あ…ありがとう…って意地でもこっち見ないつもり!? ねえトール…ちゃんと私を見て さっきのことだけど… …襲う? |
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カ:水着ボディスーツタイプ(関節部分隠したい為 ア:スポーツタイプ ◇最初は個々で 「カラク、何でそんな上手いんだ?」何故か漕ぐとバランス崩す 「さぁ…誰でも出来るっぽいけど」スイスイと周辺警戒 「ん…分かった。アーロン、翼が変に風の抵抗生んでるのかも…」 「あ゛。無意識に広げてたわ」 しかしつい翼と尾でバランス取ろうとし、おかしな重心に…アーロイン、どぼーんっ 「この安定感で落ちれるの、すごい」 「がぼっ…ぶは!…ほっとけ」 「…二人乗りする?」 「お?いーのか?」 「何度も落ちてたら何かに襲われてるんじゃって、周りの人が不安になりそうだから」 「ぐ…確かに」 ◇カラク操縦で二人乗り 「こりゃ楽ちん♪」 「よかったね」淡々 |
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◆トウマル あっさり諾の返事するなと思ったら。 いってらっしゃい、じゃねーよアンタも一緒だ ボードは二人乗りパドルも二つ 脱ぐの嫌ならボディスーツあるだろ と喰人氏を海に引っ張ってく。 最近わかってきたがアンタ出不精だな? 俺が前……視界開けるしいいけど 身長差は誤差の範囲だ 操作に慣れたら大きくパドル漕いで進んでみる 結構力要るな、とふと後方窺って。 「グラ。今休んでなかったか?」 漕いでるの俺だけだよな? バトンタッチとボードに座り込みグラ見上げる 監督役だ。あと後方の警戒な 陽射し強ぇな。グラ、翼広げる気ないか こうパラソル的な。そっか。小型の帆船になるな んー、いや髪も目も海みたいな色だなと 髪はキラキラしてて綺麗だろ? |
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トランクスタイプ(紺) ※泳げる 水着姿、とても綺麗だよ。良く似合ってる。 どんな姿でもララはララだよ。 孔の事で何か言う奴がいるなら、僕が許さない。 サップか…パトロールは僕がしてくるから、 ララは浜辺で待ってる? 危なくないとも言い切れないんだ。 (ララエルの押しに負けて、彼女を後ろに乗せる) いい? 危ないから、僕の腰に捕まってるんだよ? (しばらく漕ぎ出すと、ララエルが足を滑らせ 海中に落ち、沈んでいく) ララ? ララエル! (海中に飛び込み、ララエルを抱えて浜辺へ) (急いで人工呼吸をする) ララ…頼むよ…目を覚ましてくれ…っ (目を覚まし、水を吐き出すララエルに抱きつく) 良かった…っ、もう戻ってこないと思った… |
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◆アユカ 黄色のパレオ付きビキニ 上に白いパーカーを羽織らされる 前で座って漕ぐ 動かないのはいいけど、大丈夫? やっぱりわたしも立って…わわ!? ご、ごめんね…っ!? (かーくん、なんだか別人みたい…!) 慌てて眼鏡を渡してボードに戻る 今のわたしの顔、なんとなく見られたくなくて ◆楓 黒いトランクスタイプ、丈長め 上に白いパーカーを羽織る 後ろで立って漕ぐ いいですか、座ったままで動かないでください 問題ありません、一人は立っていないと警備になりませんから って、急に動いたら…! 彼女が立ち上がった拍子にボードが転覆、咄嗟に彼女の体を支える 眼鏡が外れ、ぼやけてしか見えない 無事で何よりです 一旦戻りましょう、体を拭いた方がいい |
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水着:パレオ付きビキニ 体型:そこそこあるメリハリついた体型 警備の事はもちろん疎かにしてはダメだけれど 海なんて滅多にくる場所でもないし、遊んでいいっていうのは嬉しいわね 大丈夫だけど…、どうして? 目線を追い合点がいく そういう事ね 猫の時は何だか苦手意識があるのだけど、今の姿なら大丈夫よ …泳げはしないのだけど 心配してくれたの? …こういう素直な所が妙に可愛く思えるのよね。不思議だわ 二人とも一人乗り ね。想像していたよりもお手軽だったわ 本当に海の上を歩いているみたいで、素敵ね 落ちるリスク考えて陸地近くをぐるぐる あ、別に私の事は気にせず好きな所に行っていいのよ 遠慮させてしまったかなと思いつつも気持ち嬉しく思い |
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【目的】 昼間から巡回しつつ、夕方夜ににまだ海に残っている客がいれば、注意喚起を この海岸で夕日を見るのはニ回目だが、このような美しい場で警備任務につくことになろうとは思わなかったな 『平和』と思っていた場所にも、安寧はない。 ここは警備に力を入れるとしよう。 グレールにパドルを任せて、サップに二人乗り 昼間から乗り、辺りを回遊しつつ 日が傾き、夕暮れに染まり始めた頃から、グレールに「背面、5時方向にまだ退けていない客がいる」と、客の位置を伝えそちらへ向かう 客に浄化師である旨を明かして 「夜の海では我々の目が届かない可能性がある。安全の為にそろそろ上がってもらえたらと思うのだが」 と説明し 安全に退いてもらいたい |
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「サップ…って、え、海に入るんですか……? あ、あの……でも今日はベリアルの警戒の為のお仕事、と……」 「もしかして泳げない?」 「え、泳げないわけでは…あまり早く泳ぐことはできません、けど…少しなら……」 「じゃあ、問題ないよね。ベリアルが会場にいるかもしれないし、そっちも見ないとね?」 「え、それはそうですけど…あの……」 クリスに押し切られ、水着を選ぶ なるべく胸の目立たないワンピースタイプにパーカーを羽織って 「その…あまり見ないで下さい……昔から、水着になるとあまりいいことが無くて……」 「どうして?凄く似合ってて可愛いのに」 本気で褒めてるらしいことが分かって真っ赤になるアリシア そのまま二人でボードに |
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~ リザルトノベル ~ |
●揺れ動くオトメゴコロとオトコゴコロ 海に来る事自体初めての『リコリス・ラディアータ』が選んだ初めての水着はパレオ付きビキニだ。 (一応パレオ付きとはいえ、ビキニはちょっと大胆だったかしら) そんな事を考えながらリコリスは先に店を出たパートナーの『トール・フォルクス』の姿を探した。 (トール、なんて言うかしら……) リコリスは、波打ち際にスポーツタイプの水着に着替えたトールを見つけた。 「海だー!」 後ろにいるリコリスに気づいていないのか、潮風に気持ちよさそうに伸びをしているトールにリコリスはドキドキしながら声をかけた。 「ど、どうかしら……変じゃない?」 「リコ、遅かったな……っ!」 サップをやる気満々の様子であったトールだが、リコリスの水着姿を見た瞬間、両手を上げて伸びをした姿勢で固まり、咄嗟に目をそらしてしまった。 「ちょっと、どうして目をそらすのよ!」 わざとらしいトールの様子にリコリスはムッとして語気を強めた。 「き、今日は海岸を警戒するっていう指令だろ?あまり浮かれすぎるなよ」 「べ、別に浮かれてなんかいないわ!警戒任務でしょ、ちゃんとやるわよ!」 リコリスはトールのそっけない態度に少し怒りながら強い口調で言い返すと、トールからボードを奪ってズカズカと海に入っていく。 (まったく、自分だって『海だー!』って叫んでいたくせに。お世辞でもいいから、かわいい、とか言うことないのかしら) 「はぁ……」 せっかく、はじめての水着と海なのに、とリコリスはため息をついた。 (これは怒ってるな……でもヤバイ、リコってめちゃくちゃ肌白い……目のやり場に困る) 怒り肩で進んでいくリコリスを追い、海に入ったトールはそんな事を考えていた。 普段は団服に包まれていて分からなかったが、陽に照らされて輝く白い素肌や、パレオから覗く脚にトールはどこを見たらいいか分からず、困惑していた。 顔を見ればいいのはわかっているのだが、どうしても照れてしまって見ることができないのだ。 「トール、早く来ないと指令終わらないよ?」 「わかってる。今行く」 膝のあたりまで深さのある場所までいき、二人は順にサップに乗った。 (参ったな、リコのことは今まで守る対象だからと自分に言い聞かせて外見だけはめちゃくちゃ好みだったけど口説くのも我慢して保護者として接してきたのに) きらめく波間に反射する陽の光がレフ板のようにリコリスの肌を照らし、いつもより輝いて見える。 (俺はリコの保護者……俺はリコの保護者……) トールはぶつぶつと呟きながらパドルを動かし、二人のサップボードは海上に繰り出した。 ゆらゆらと揺れる波の上を滑るようにボードは進んで行く。 (風が気持ちいいし、景色も綺麗……でもやっぱりトールがこっちを向いてくれない) リコリスは前に立ってパドルを漕ぐトールの細身だけれども筋肉質の逞ましい背を寂しげに見つめた。 いつもの彼ならこう言う時、振り返ってリコリスに「初めての海はいかがですか、お姫様」などと揶揄ってくるはずなのに、今日は水着に着替えてから目も合わせてくれないし、態度もそっけない。 (指令で来たのに水着ではしゃいだのを怒っているのかしら) 正義感の強い彼のことだ。ありえない話ではない。 (それとも、もしかして似合ってない……とか?) 背中にリコリスの痛いほどの視線を受けるトールもまた、ぐるぐると思考を繰り返していた。 (そうだ、別のことを考えて気を逸らそう。海……海洋冒険譚とかもいいよなあ。セクシーなヒロインとかお姉さんとか……) そこまで考え、セクシーなヒロインという単語に脳裏に浮かんだのは水着姿のリコリスだ。 (何考えてるんだ、俺は保護者、俺は保護者……) そんな事をぐるぐる考えていたら、突然大きな波が二人の乗るボードを押し上げた。 「きゃっ……?!」 「うわっ、リコっ!」 バランスを崩して倒れかけたリコリスを間一髪トールが背中に手を回して抱きかかえ、支えた。驚きに見開いたリコリスの茶色い瞳と、慌てたトールの金の瞳が互いを映している。 海に落とすものか、とリコリスを支えるトールの腕に力が込められているのが直に感じられて、ようやくトールが自分のことを見てくれたことにリコリスは嬉しくなった。 「あ、ありがとう……」 しかし、トールはリコリスの姿勢が安定するのを確認するとすぐに腕を離し、ふい、とやはり素っ気なく顔を逸らしてしまう。 「って、意地でもこっち見ないつもり?!ねぇ……トール……ちゃんと私を見て」 せっかくの水着なのに寂しすぎる。 「ねぇ、さっきのことだけど……」 「それ以上はダメだ。君を守る男が君を襲う男になってしまう」 「襲う……?」 リコリスは早口でトールに言われた言葉で唯一聞き取れた単語に首を傾げた。その様子にトールはしまった、と口を押さえた。咄嗟に出てしまった言葉の意味をリコリスに告げるにはまだ早い気がして、トールは冷静さを取り戻そうと首を振った。 「何でもない。水着、かわいいよ。よく似合ってる」 「あ、ありがとう……」 そのトールの真剣な眼差しに本心からの言葉だとわかり、ようやく欲しかった言葉をトールから貰えたリコリスは喜びに彼岸花の髪飾りよりも赤く頰を染めたのだった。 ●安心のためにできること 「カラク、なんでそんなに上手いんだ?」 「さあ……誰でもできるっぽいけど」 ぎこちなく波の上で揺れている『アーロイン・ヴァハム』の乗る、葉巻をくわえたドラゴンが描かれた赤いボードとは対象的に『カラク・ミナヅキ』の乗る黒地に鮮やかな赤いサクランボの飾られたクリームソーダの描かれたボードはぎこちなさはあるものの、アーロインよりもスムーズに波をかき分けて進んでいる。 「異常なし」 ベリアルの警戒という指令をこなすどころではないアーロインを背にカラクは周囲を警戒しながら海岸に視線を移した。そしてベレニーチェ海岸を訪れている人の少なさに肩を落とす。 (『人』はどうすれば安心感を抱くのだろう) 地中海でのベリアル発生の報せは人々の海への不安を抱かせていて、いつもなら海水浴シーズンになると賑わうはずのベレニーチェ海岸は、安全だというのに海で泳いだり砂浜で遊ぶ人々の姿はまばらだ。 白い砂浜から地平線へとグラデーションを描くターコイズブルーの海はとても綺麗で、楽しまないなんてもったいない。カラクは真面目な顔をしてそんなことを考えながら、あいかわらずボードの操作に手間取っているアーロインへと視線を移した。そしてカラクはハッと何かに気付いたように目を見開いた。 「ん……分かった。アーロン、翼が変に風の抵抗生んでいるのかも」 「あ゛。無意識に広げてたわ」 カラクの指摘に半竜半人のアーロインは広げていた赤い翼を畳んだが、やはり無意識のためなのかまた翼が開いてしまう。 アーロインの大きな赤い翼は船の帆のように潮風を悠々と受け、波とともにゆらゆらとボードを揺らす。 「お?!あ……っ?!」 何とか尾も立ててバランスを取ろうとするものの、さらに時折吹く強い潮風に煽られ、アーロインはついにバランスを崩して海面へと豪快に水柱をたてながらダイブしてしまった。筋肉質で大柄な体格のため、少し離れた位置にいたカラクまで飛沫がかかり、彼の藍色の髪をしっとりどころではなくびっしよりと濡らした。 「この安定感で落ちれるの、すごい」 「がぼっ……ぶは!……ほっとけ!」 水面から顔を出したアーロインはカラクの言葉に叫ぶと、その時口に入ったのだろう海水の塩辛さに眉をしかめた。そして元に戻したボードに捕まり濡れた黒髪をかきあげ、顔を手で拭うアーロインの元へとカラクはボードをすいと寄せる。 「……二人乗りする?」 「お?いーのか?」 カラクの提案にアーロインは嬉しそうに赤い目を細め、ニヤリと口角を上げて笑った。大きく安定感のあるサップボードは二人乗りも可能なのだ。 嬉しそうなアーロインにカラクは「それに……」と言葉を続けた。 「何度も落ちていたら何かに襲われてるんじゃって、周りの人が不安になりそうだから」 「ぐ……確かに」 海岸では何事か、とこちらを不安げに見ている人の姿も見え、アーロインは真顔で言うカラクの言葉に苦笑して濡れた頭を掻いた。 アーロインは一旦海から上がり赤いボードを店に返却しに行った。そして今度はカラクのボードの後ろに乗り込み腰を下ろす。立って乗るとまた無意識に翼を広げてしまい、カラクまで巻き添いにして海に落ちてしまう危険があるからだ。 「じゃあ、行くよ」 カラクのパドル操作でボードはスイスイとターコイズブルーの海上を滑っていく。透明度が高いため海底に影が見える。 「こりゃ楽ちん♪」 「よかったね」 先ほどまで感じることができなかった心地よい潮風に上機嫌なアーロインに、カラクは淡々と相槌を打った。 「ヘイヘーイ♪」 アーロインはパドルをカラクの動きに合わせて漕いでみたり歓声を上げている。いい大人が、とカラクは冷めた視線で後ろに座るアーロインを振り返った。 「何してんの?」 「いや、楽しそうにしてた方が興味引けたり安全性アピール出来んだろ」 「なるほど、そう言う考えもあるのか……」 カラクが考えてもみなかった事だ。実際に楽しんでいる様子を他の一般客に見せることも大切だというアーロインの発想と感性にカラクは驚いた。 一般の人々に安心感を持ってベレニーチェ海岸で遊んでもらうためには、海岸を浄化師たちが警備したり、もしベリアルの出現があったとしても浄化師たちがすぐに対応することができる、と周知することも大切だが、それだけではなく、一見大袈裟にも思えるアーロインのはしゃぎっぷりも、人々に海はとても楽しい場所なのだという気持ちを取り戻すのにも役立ちそうだ。 本当はほんの少しだけベリアルの警戒任務よりも楽しむことに夢中になっていたアーロインだったのだが。 (納得された) それを悟られまいと誤魔化し半分に言った言葉に何を深読みしたのか納得してしまったカラクの様子に、彼の真面目で純粋思考な部分が少し理解できた気持ちになったアーロインであった。 ●互いの視線を奪うもの 「海上スポーツをやってみたい?」 ベレニーチェ海岸にあるマリンスポーツ用品店の前で、『グラナーダ・リラ』はパートナーの『トウマル・ウツギ』の申し出に柔らかい笑みを浮かべて頷いた。 「構いませんよ」 グラナーダがそう言うと、トウマルは嬉しそうに店へ入ろうと踵を返した。 「いってらっしゃい」 そんな彼にひらひらと手を振って快く送り出そうとしたグラナーダだったが、物事はそう簡単にはいかなかった。 「あっさり諾の返事をすると思ったら。いってらっしゃい、じゃねーよあんたも一緒だ」 黄色い瞳でグラナーダを見上げながらその口調を真似しつつ、トウマルが低い声で言った。 (……まあそうなりますよね) グラナーダのささやかな抵抗も虚しく、結局彼も共にいってきますの側にされてしまった。しかし元よりトウマルを一人で行かせるつもりはなかったグラナーダだったので、おとなしくレンタル店へ向かうトウマルについていく。 店に入るとドアに付けられたウインドベルが涼やかな音を立てて二人を出迎える。キラキラした余韻を放つ音を聴きながら二人はカウンター脇にあるサップボードのレンタルコーナーに並び立った。 「ボードは二人乗りパドルも二つだ。脱ぐの嫌ならボディスーツあるだろ」 トウマルは全身を覆うタイプの水着をみつけるとグラナーダに手渡した。 「さ、早く着替えて海に行こうぜ」 数十分後、それぞれ水着に着替えた二人は浜辺へと出ていた。 「最近わかってきたがアンタ出不精だな?」 足首までの深さの所でボードを浮かべトウマルがグラナーダに言うが、自覚のないグラナーダは「そうでしょうか」と肩をすくめてみせた。 「では、私が後ろに乗りますのでトーマは前へどうぞ」 「俺が前……視界開けるからいいけど」 「身長差が大きいので……仕方ありません」 不服そうなトウマルにグラナーダは申し訳なさそうに言った。 「待て、グラ。いいか、俺たちの身長差は25センチだ。たったの、25センチ。これは誤差の範囲内だ」 トウマルはムッとしてそう言うとボードに乗った。本当の身長差は30センチなのだが、と思いながらも、グラナーダもトウマルに次いでボードに乗り、二人してゆっくりとパドルを動かし海の上へと滑り出しす。 数分もすると二人ともパドルの操作にも慣れ、行きたい方向へボードを操作できるまでになった。そして慣れてきたのでそろそろ大きく漕いで見ようかとトウマルはパドルを大きく動かしてみた。 「うん?結構力いるな……ん?」 しかし思ったよりもやけに波の抵抗が大きいと不思議に思いながらトウマルが何気なく振り返ると、そこにはぼんやりとしているグラナーダの姿があった。一緒にパドルを動かしているはずなのに、彼のパドルは止まったままだ。グラナーダはパドルを動かすのをやめたトウマルの視線に気づき、苦笑した。 (……見つかってしまいました) 「グラ。今休んでなかったか?」 (漕いでるの俺だけだよな?) ジト、とトウマルがグラナーダを見つめるものの彼はいつも通りの柔らかな笑みを浮かべるだけだ。 実のところ、グラナーダは一生懸命にパドルを漕ぐトウマルの様子が面白くて背後から観察していたら手元が疎かになってしまっていたのだ。トウマルは「バトンタッチ!」と言ってボードの上に座り込んでしまった。 「俺は監督役。あと後方の警戒な」 グラナーダを見上げ、その背後を指差しながらトウマルが言った。指令の一つであるベリアルへの警戒も忘れていないぞ、と暗にいっているのだ。 自分の持っていたパドルも海から引き上げてしまったトウマルからはもう漕ぐ意思は感じられない。海の上でじっとするわけにもいかず、グラナーダは観念してパドルを動かし始めた。 「日差し強ぇな。グラ、翼広げる気ないか?こう、パラソル的な」 海上のはるか高くに燦々と白く輝く太陽を見上げてトウマルが眩しげに目を細めて手をかざした。 「翼は空気抵抗が起こるでしょう?」 風向きによってはバランスを崩したり逆方向へと進んでしまったり、下手をすれば海上で全く進めなくなることになるかもしれない。 「そっか、小型の帆船になるな」 風を受ける方向さえ間違えなければどこまでも行けそうだとグラナーダを見上げながらトウマルは呟いた。 「何か?」 そのまま後方への警戒ではなく、グラナーダをじっと見つめてくるトウマルの視線が気になり、グラナーダはたずねた。 「んー、いや髪も目も海みたいな色だなと」 「髪もですか?」 グラナーダの瞳はこの海と同じような青だが、髪は金色である。これが海みたいだとはどう言うことだろう。 「髪はキラキラして綺麗だろ?」 (……素敵な物言いをする方だと思っていましたが、本人自覚がなさそうなのが始末に悪いですね) 予想外にトウマルからロマンチックな返答が返ってきた事にグラナーダは少し驚きながら、本人無自覚の褒め言葉にくすぐったいような気持ちになったのだった。 ●守りたい人 先に青のトランクスタイプの水着に着替え終えた『ラウル・イースト』は、店内でサップボードを選んでいた。足音がして振り返ると、パートナーである『ララエル・エリーゼ』が着替えを終えて更衣室から出てきたところだった。 「水着姿、とても綺麗だよ。よく似合っている」 だがラウルの言葉にララエルの表情は曇っている。 「でも私、死んじゃってるから……」 パレオ付きビキニに身を包んだララエルは胸元に空いているアンデッドの証の孔が気になっており、その部分を隠すようにルルを抱いた。 「どんな姿でもララはララだよ。孔の事で何か言う奴がいるなら、僕が許さない」 ラウルはララエルの肩を掴み真っ直ぐに見つめて強い口調で言った。 「ラウルにそう言ってもらえると嬉しいです」 真摯なラウルの言葉にララエルは涙ぐみ、微笑んだ。 「そうだ、サップなんだけど、パトロールは僕がしてくるから、ララエルは浜辺で待ってる?危なくないとも言い切れないんだ」 安定感のあるボードとはいえ、高波が来ればひっくり返ってしまうかもしれない。泳げないララエルにとって海の上は危険だとラウルは思ったのだが。 「私もパトロール、行きます!ベリアルが出たら危ないもの!」 大切なラウルを守らなきゃ、とララエルはラウルを見上げた。 「わかった。一緒に行こう」 「はい!」 ララエルのどうしても一緒に行きたいと言う強い気持ちに押し負けてラウルが承諾すると、ララエルはベレニーチェ海岸を照らす太陽のように眩しい笑顔で頷いた。 店を出た二人は海の上にボードを浮かべ、先に乗ったラウルがララエルの手を引いてその後ろに乗せた。 「いい?危ないから、僕の腰に捕まってるんだよ?」 ラウルがそう言うとララエルは素直にラウルの腰を掴み、それを確認してからラウルはパドルを漕ぎ出した。揺れる波の上をゆっくりと進むボードは、ラウルが思ったよりも安定感が高く、これならばララエルが危険な目にあうこともないだろう。 「わあっ風が気持ちいいですね!」 後ろから聞こえてくるララエルの歓声に、一緒に連れてきて良かったとラウルは思っていたのだが。 「きゃ……っ!」 少し大きい波がボードを揺らした時だった。濡れたボードに足を滑らせ、バランスを崩したララエルはラウルの腰から手を離してしまい、海中へと落ちてしまった。 「ララ?ララエル!」 海面の向こうから聞こえるくぐもったラウルの声を、ララエルはぼんやりときいていた。 「ごぼ……あっ」 口から空気が大量に漏れ、気泡が上っていくのが見えた。それと一緒に抱いていたルルも海面へゆっくりと上っていく。 ララエルは苦しさに自分も浮上しようと手を伸ばすが、光が揺れる海面には届かない。 キラキラと日を反射している海面が遠くなり、泳げないララエルは暗い海底へとどんどん沈んでいく。 (私……また死ぬんだ) 意識が遠のいていく中、ララエルに手を伸ばす誰かの姿がぼんやりと見えた。 (王子……さま……?) しかし逆光のためか顔は見えない。でもそれが誰か、ララエルには分かっている。 (ラウル……) (ララエル!) ララエルが落ちた後、ラウルはすぐに海中へ飛び込み、途中浮かんできたルルを掴み、ようやく沈んでいくララエルに追いついた。そして彼女を抱きかかえるようにして水面へ浮上し、浜辺へと急ぎ泳ぎ着いたラウルはララエルを砂浜に横たえ、彼女の口元に耳を当て呼吸を確認する。だがすでに彼女の呼吸はなく、触れた手首の脈も弱まっており危険な状態だ。 一刻の猶予もない。ラウルはララエルの顎を上向かせ、気道を確保して人工呼吸を開始した。 「ララ……頼むよ……目を覚ましてくれ……っ」 必死にラウルはララエルに人工呼吸を繰り返していく。そして何度目かののち。 「ゲホッ!ゲホッ!!」 幸いにもララエルは大量の海水を吐き出し、意識を回復させたのだ。 「ララ!!」 「ラ……ウル……?」 気がつくとララエルはラウルに抱きしめられており、心配そうなラウルの様子にララエルは状況がしばらく飲み込めずにいた。 「良かった……っ、もう戻ってこないかと思った……」 ララエルを抱きしめるラウルの腕に力が込められる。そしてララエルはサップボードから海に落ち、自分が溺れたことを思い出したのだった。 「ごめ、なさい、私……もうムリはしないの……しないから……」 涙を滲ませながら、ララエルはラウルの背に回した腕に力を込める。 「ララ……」 ラウルのそばにいて、彼を守りたい、支えたいと思っているのに、どうしてラウルから手を離してしまったのだろう。もしあの場でベリアルが出現していたら、ラウルはどうなっていただろうか。 彼はララエルをかばって負傷したかもしれない。運が悪ければ命さえ……。 そんなことを考えただけでも恐ろしく、ララエルには自分を抱きしめているラウルの温もりが嬉しくもあり、切なくて。ララエルは彼を失いたくないという思いからラウルの背に回した腕に更に力を込めたのだった。 ●波のように揺れる心 「アユカさんもパーカーを着たほうがいいですよ」 黄色のパレオ付きビキニに身を包んだパートナーの『アユカ・セイロウ』に『花咲・楓』は白いパーカーを差し出した。 丈の長い黒のトランクスタイプの水着を着用した楓自身も白いパーカーを羽織っている。これはかつての戦いで体についている傷を隠すためだ。 「日に焼けるといけませんし」 日焼けは後が辛いですから、と言って楓はアユカの肩にふわりとパーカーをかけた。だが実のところ日焼け対策というのは建前で、正直に言うと恋心を抱く彼女の水着姿が刺激的で照れてしまい、直視できずにいるためでもある。これでは彼女のことが気になってベリアルの警戒任務どころではない。 そしてそんなアユカもまた、初めての水着に若干の恥ずかしさもあったので、楓の申し出に内心安堵していた。 「かーくんはサップやったことあるの?」 パーカーのファスナーをあげながらアユカが楓に尋ねた。 「故郷の川で泳いだことはありますが、サップは初めてですね」 極力アユカの方を見ないようにしながら楓が答える。 「そうなんだ。わたしはどっちも初めて」 アユカには過去の記憶がないので、もしかしたら来たことがあるのかもしれないが、確証はない。 アユカは楓の手を借りてボードの前方に座って乗った。そして楓はその後ろに立ってパドルを動かしていく。息を合わせて右、左と順に漕いでいくとボードはゆっくりと波間を縫っていく。 「いいですか、座ったまま動かないでください」 「動かないのはいいけど、大丈夫?」 「問題ありません、一人は立っていないと警備になりませんから」 楓が水着姿のアユカを視界に入れないように周囲の警戒に集中しているためか、いつもよりピリピリとした空気がサップの上に漂っていた。 (かーくん、すごい集中力……わたしも頑張らないと) 前方と後方に分かれて警戒に当たるのが必要なことだとは分かっているものの、アユカは楓の姿が見えないことに段々と不安を覚えてきた。一緒に立って周囲を警戒したほうが、見える距離も増えるからいいと思うのだが。 「やっぱりわたしも立って……わわっ?!」 「って、急に動いたら……!」 ところがアユカが立ち上がった途端、バランスを崩した二人は海に投げ出され、サップボードはひっくり返ってしまった。 宙に放り出されたことに驚き目をきつく瞑ったアユカは、自分の腕を力強く引く誰かの腕を感じた次の瞬間、海中に沈んでしまった。だがすぐに誰かによって海面に引き上げられ、ほんの少し飲み込んでしまった海水にむせながらも恐る恐る目を開くと、間近に楓の顔があった。 だがなんだかいつもと違う。何が違うんだろう、とアユカは楓の顔をまじまじと眺めた。そして気づいたのは眼鏡だ。眼鏡がないのだ。おそらくアユカを助ける時に海に落としたのだろう。 「ご、ごめんね……っ?!」 「無事で何よりです」 いつもは眼鏡の下に隠れているその整った素顔にアユカの心臓が跳ね上がった。 (かーくん、なんだか別人みたい……!) 鼓動が早まり、頰が熱くなって来て、アユカは自分が赤面していることを自覚した。 楓は濡れた漆黒の髪をかきあげ、眼鏡を探そうと赤い瞳を細めながらあたりを見回す。その仕草すらアユカの鼓動をどんどん早めていく。 「アユカさん?」 距離感も掴めないのか、楓は眉間にしわを寄せて硬直するアユカへ更に顔を近づけてくる。 あまりのその近さにアユカは慌てた。鼓動が落ち着かずに早まり、どんどん顔は熱くなっていく。 「顔が赤いようですが……?」 楓にはぼんやりとした視界の向こうに、やけに赤いものが見えていて、それを囲むように彼女の髪色の紫があるので、それがアユカの顔であることは、容易に推測することができた。 「気のせいだよ。あ、眼鏡あった!」 アユカは自分の近くに楓の眼鏡を見つけ、ホッと胸をなでおろしながら彼に渡した。そして彼が眼鏡をつけている間にボードを戻し、そそくさとその上に乗る。 (今のわたしの顔、なんとなくみられたくない) アユカは頰を両手で包み目をきつく閉じた。しかしまぶたの裏に浮かぶのは、先ほど見た楓の素顔で、それは少しもアユカの心を落ち着かせてくれない。 「一旦戻りましょう。体を拭いたほうがいい」 「う、うん、そうだね」 後ろに乗り込んで来た楓を振り返らずにアユカは返事をした。まだ頰が赤いままのような気がして彼の顔を見る勇気が出ないのだ。急によそよそしくなったように感じるアユカの態度を不思議に思いつつ、楓はパドルを握った。 上に羽織ったパーカーは水に濡れ肌に張り付いて気持ちが悪い。しかも、鮮明になった視界の先に見える、アユカが羽織っているパーカーの背はビキニが透けて見えていて。それはまるで楓の平常心を試すかのようだ。 「今の所、ベリアル出現はなし……か」 「そ、そうだね……」 二人はそれぞれ心を落ち着かせながらパドルを黙々と漕ぐのだった。 ●さりげない優しさに 「警備のことはもちろん疎かにしてはダメだけれど、海なんて滅多にくる場所でもないし、遊んでいいって言うのは嬉しいわね」 猫のライカンスロープである『イザベル・デュー』は、黒い猫耳をピンとたてながら隣にいるはずのパートナーを振り返った。しかしそのパートナーの姿は遥か後方である。 「あら……」 メリハリのある体を包むパレオから覗く黒い猫の尻尾が揺れた。 いつの間にか距離が開けてしまっていたことにようやく気づいたイザベルは、サップボードを抱えなおすと彼の元へと踵を返した。 彼女のパートナーである『セシル・アルバーニ』は黄緑色の髪を汗で額に張り付かせ、ぐったりとした様子で足取りも重く、手をうちわがわりに顔を仰いでいる。 トランクスタイプの水着を着用した色白で細身の彼は、いかにももやしっ子という表現がしっくりくる。ジリジリと暑い陽光に晒されて溶けてしまいそうだ。 (めちゃくちゃ暑い……動くの面倒。警備も遊ぶのもどっちも面倒だけど、どちらかといえばまぁ……) 抱えたサップボードも重いけれど、ベリアルとの戦闘よりもまだ遊ぶほうがマシかな、とセシルは額の汗を拭った。基本的に面倒くさいことが苦手なセシルはウキウキと上機嫌なイザベルとは対照的に、渋々と言った様子で足取りも重く店から浜辺へと歩いており、距離だけではなく気持ちの面からも彼女に遅れを取っていた。 「セシルくん、大丈夫?」 いつの間に戻って来たのか、遥か前方にいたはずのイザベルがセシルの顔を覗き込んでいた。 「あまり大丈夫ではないです……暑すぎて」 心配げな金の双眸にセシルは正直に答えた。 「そういえば、イザベルさんて水平気なんですか?」 「大丈夫だけど、どうして?」 ゆっくりと歩くセシルに歩調を合わせながらイザベルが聞き返す。 (だってほら、猫って水苦手なんじゃ……) イザベルの耳を凝視するセシルに気付き、波が寄せては返す浜辺に視線を向け微笑んだ。 (そういうことね) 「猫の時はなんだか苦手意識があるのだけど、今の姿なら平気よ。……泳げはしないのだけど。心配してくれたの?」 「はい」 潮風に舞うダークレッドの髪を抑えながらイザベルが首をかしげて聞くと、セシルは素直に頷いた。 (……こういう素直なところが妙に可愛く思えるのよね。不思議なことに) 照れて「そういうわけじゃない」などというわけでもなく、セシルがまるで当たり前のことのように自分の特性を気にかけ、それを伝えてくれることがイザベルは嬉しかった。 一方でセシルはイザベルの言葉に彼女がサップを楽しめることに安心しつつも、猫姿の時は水が苦手ということは、今日は絶対トランスをしないんだろうな、と内心がっかりしていた。 実は彼女はとても美しい艶やかな毛並みの黒猫の姿になるのだ。小動物好きとしてはたまらない、彼の好みにどストライクの美猫オブ美猫といってもいいくらいの美猫で、その姿を拝めないのは残念だとセシルは思ったのだった。 あれこれと話しているうちに、二人はようやく浜辺へとたどり着いた。 二人は早速それぞれのボードに乗り、波の上に進んだ。 「思ったよりも簡単ですね。なんというか、不思議な感じです」 「ね。想像していたよりもお手軽だったわ。本当に海の上を歩いているみたいで不思議ね」 ボードに立ち、それぞれパドルを漕ぎながら連れ立って海上を進んでいく。幅広のボードは安定感があって波に逆らわなければどんどん進んでいく。 「向こうよりは涼しい気がするし、いいかもしれないです」 向こう、というのは砂浜の上のことだ。あそこは砂が日に焼けて凄まじい熱さになっていた。海の上は涼しく、どこまでも続くターコイズブルーの景色に癒される。透明度が高く、海底には二人の影が写っているのが見える。セシルはボードの上に座ってぼんやりと海中を見下ろした。海中を泳ぐ小さくカラフルな魚たちは可愛らしく目にも楽しい。 海中から視線をあげて今度はイザベルに目を向けると、彼女も楽しんでいるようだ。だがどこかパドルを操作する動きがぎこちないことにセシルは気がついた。 トランスしなければ水は平気だと言ったイザベルだったが、泳げないので落ちるリスクを考えすぐに陸地へ戻れるように深いところへはいかないようにしていた。それに、やはり猫のライカンスロープなので、平気とは言ったが得意ではないのだ。海に落ちないに越したことはない。 「あ、わたしのことは気にせず好きなところに行っていいのよ」 イザベルがセシルの視線に気づいて言うと、セシルはすぐに首を横に振った。 「いえ、念のために。なんだか動きもぎこちないですし。まあ俺も泳げないですけど、そこはまあイザベルさんより背があるので……」 もしイザベルが落ちそうになっても近くにいれば助けられるだろうというセシルに、彼に遠慮させてしまったかな、と申し訳なく思った。と同時に、素直に告げられたセシルのその思いやりの気持ちを嬉しく思うイザベルであった。 ●守りたい景色 トランクスタイプの水着に着替えた『ガルディア・アシュリー』は、スポーツタイプの水着を着たパートナーの『グレール・ラシフォンと』ともにベレニーチェ海岸を訪れていた。波の音が聞こえるほど、例年人で賑わう海は静かで寂しげに見えた。 ここは教団が管理し、アークソサエティ領内では人々が安心して遊べる唯一の海のはずだった。 しかし地中海でベリアルの出現が確認されたことで、ここを訪れる人々は例年よりも極端に少なくなっていた。幸いにも今のところベレニーチェ海岸ではベリアルが確認されてはいないが、地中海から移動してきたベリアルがここに現れるとも知れない。そのため、教団から海水浴客に遊ぶなどして海の安全を示しつつ、ベリアルからの警備にも当たるようにとの指令が下りたのだった。 「ここは警備に力を入れるとしよう。グレール、パドルはお前に任せる」 ガルディアはそう言ってグレールにパドルを渡してグレールに背を向けてサップボードに乗りこんだ。 「確かに、最初からパドルは自分でも持つつもりでいたが……」 やけにガルディアが任務に積極的だなとグレールは内心不思議に思っていた。 「『平和』だと思っていた場所も、安寧はないのだな」 ボードに乗ったガルディアがポツリと呟いたその言葉に、今回の地中海でのベリアル出現の報せの前に一度二人でこの海岸沿いを訪れ浜辺を歩いたことをグレールは思い出した。ガルディアはここにベリアルが現れたりすることで誰かが犠牲になるなど、思い出の地を血で汚したくないのだろう。 (ならば、協力は惜しまない。喜んで、その足となることにしよう) グレールはそう決意すると、パドルに力を込めてターコイズブルーの海上へとボードを滑らせた。 進行方向の警戒担当はグレール、後方の警戒はガルディアが担当する形で背中合わせに乗った二人は、昼から海上の警備に当たった。途中少しの休憩を挟みながら、シーズン中にもかかわらず人気のまばらな海上を何度も回遊した二人だが、今のところ二人が警備をした箇所の海中にも海上にもベリアルは出現していない。 このまま平穏無事に1日が終わると良いのだが、と二人はそう思いながら警備を続けていた。 日も暮れてきた頃、オレンジから紺色に染まりつつある空の下で、紺が増えるごとに海の色も濃さを増してきている。確実に夜は近づいてきており、昼間は透き通って見えていた海底も見え辛くなっている。 「この海岸で夕日を見るのは2回目だが、このような美しい場で警備任務に就くとは思わなかったな」 「そうだな……」 海上から間近に夕日を見て、ガルディアはかつて丘から見下ろした夕日を思い出した。その言葉にグレールもまた、あのオレンジ色に染まる景色を思い出していた。もっとも、あの頃は地中海でベリアルが発見されたとの報せは出ていなかったし、教団の保護下にある唯一安全な海が不安に覆われることになるなんて思いもしなかったのだが。 あんなにも暑かった気温も日が暮れた今は過ごしやすいくらいに涼しくなり、一般の客たちも続々と海から引き上げていった。海で遊ぶ一般客の姿はグレールの見る沖の方向には既にない。自分たちもそろそろ任務から引き上げ浜辺に戻る頃合いかと思っていた時だった。 「グレール、背面五時方向にまだ退けていない客がいる」 「わかった」 グレールはガルディアの伝えた方向へサップを向けると、パドルを漕いでそこへ向かった。 「すまない、君たち」 ガルディアが声をかけると、シュノーケリングを楽しんでいたらしいカップルたちは上体を起こしてシュノーケルとゴーグルを外した。 「はい?なんすか?」 「我々は浄化師なのだが、夜の海では我々の目が届かない可能性がある。安全のためにそろそろ上がってもらいたいのだが」 楽しんでいたところに見知らぬ二人組から突然声をかけられ、はじめは警戒した様子のカップルたちだったが、二人が浄化師だと知るとその態度は軟化した。 「ヤバイ、もう超暗いじゃん!」 「うっわマジかよ。もうこんなに暮れてたなんて知らなかったッス!ありがとうございます!」 濃い紺色をした空の色に驚いたカップルたちは二人に礼を言うと浜辺へ引き上げていった。 彼ら安全に浜辺までたどり着いたのを確認し、二人は改めて海にほかの一般人が残っていないか見回した。海に入っている一般人は彼らが最後だったようで、海上にいるのはもうガルディアとグレールの二人だけだ。 「俺たちもそろそろ戻るか」 夜の海では視界も限られるし、いくら二人が浄化師といえども夜の海では戦闘になったら不利だ。 「そうだな。借りたものも返さないといけないからな」 グレールはガルディアにうなずくと、パドルを操作してボードを浜辺へと滑らせた。 オレンジを飲み込んだ紺色の空には少しずつ現れ始めた星が光り始めている。 ●辛い記憶を塗り替えて 『アリシア・ムーンライト』はパートナーの『クリストフ・フォンシラー』から聞かされた指令の詳細に驚いて声をあげた。 「サップ……って、え、海に入るんですか?あ、あの……でも、今日はベリアル警戒の任務だと……」 そして二人はサップボードと水着のレンタルができる店の前で二人は押し問答をしていた。 「もしかして泳げない?」 「え、泳げないわけでは……あまり早く泳ぐことは出来ませんけど、少しなら……」 「じゃあ、問題ないよね。ベリアルが海上にいるかもしれないし、そっちも見ないとね?」 「え、それはそうですけど……あの……」 クリストフに押し切られる形で、結局アリシアは店内でレンタルの水着を選ぶことになってしまった。 (誘ってくださったのは嬉しいのですが……やはり恥ずかしいです……!) 先に水着を選び終えたクリストフを更衣室に見送り、アリシアはため息をつきながら自分もまた水着を渋々さがしていた。 「……この水着なら……!」 グラマーな体型のアリシアが選んだのは、胸が目立たないワンピースタイプの水着で、さらにその上からパーカーを羽織って極力体型を隠すスタイルだ。彼女は着替え終えると今度はサップボードを選んでいるクリストフの元へと戻った。 アリシアに気づいたクリストフが口を開きかけたのを彼女は遮った。 「その……あまり見ないでください……水着になるとあまりいいことがなくて……」 「どうして?すごく似合ってて可愛いのに」 実はアリシアは過去に何度か水着を着て海を楽しんだりもしていたのだが、その時に変な男たちから執拗なナンパを受けたことがあり、それがトラウマになっていた。彼らはアリシアの豊かな胸ばかりニヤニヤと見ており、水着を着るとその気持ち悪さと恐怖を思い出してしまうのだ。 (泳げない訳でもないのに、ここまで水着を拒むのを不思議に思っていたんだけど……そういうこと、か) アリシアは落ち着かないようにソワソワとパーカーの前を合わせ、極力体を人目に晒さないようにしてる。もしかして彼女は異性の視線に不快な思いをしたことがあるのかもしれない、とクリストフは思い至った。 (それなら、気をつけないとね。でも……) 「水着やっぱりすごく似合っていて可愛いよ、アリシア」 「あっ……ありがとう、ございます……」 他の男たちのように胸ではなくいつものようにクリストフが自分の顔を見て話してくれることにアリシアはほっとして、そして告げられた褒め言葉がお世辞でないことがわかり、アリシアは赤面した。 「それじゃあアリシア、早速行こうか」 「は、はい……っ!」 二人ははボードを抱えて店の外へ出た。 「大丈夫?気をつけて」 クリストフは波に揺れるボードを抑えてアリシアがその上に乗るのを手助けした。そして彼女がボードの上に乗ったのを確認し、それを波の上に押し出して乗せ、すぐにクリストフもボードの上に乗った。 安定感のあるボードはクリストフのパドル操作で揺れる波の上を移動していく。 「わあ、綺麗……!」 透明度の高い海は水面下を泳ぐ鮮やかな色とりどりの魚やサンゴが見え、可愛らしい光景にそれらを刺繍の図案に使えないかしら、など思いながらアリシアは夢中になってそれをながめていた。 魚たちはサップボードに驚いて離れて行ったり、興味深げに寄ってくる好奇心の強い者もいる。中には何か餌をくれるのかと顔を出す魚もいた。 「アリシア、君も立ってみるかい?」 「た、立つ?」 「すごくいい景色だよ。地平線へのグラデーションがとても綺麗なんだ。俺に捕まっていれば大丈夫だから、ね?」 「は、はい……」 クリストフにつかまりながらおずおずとアリシアは立ち上がった。 「わぁ……っ!」 海底の景色も綺麗だったが、クリストフの言う通り、日の光を受けてきらめくターコイズと青空に溶けあう空と海のグラデーションがとても綺麗で、アリシアの口からため息が漏れた。 「綺麗だろう?」 「はい……とても、綺麗です……!」 そのパノラマの光景にアリシアは夢中になった。 「きゃっ!」 「アリシアっ!」 波がボードを揺らし、海に落ちそうになったアリシアをクリストフが掴む。その予想以上に筋肉質の腕にアリシアは一瞬どきりとした。 時々揺れる波に慌てながらも楽しんでいる彼女の表情は、辛い記憶を語った時の暗い色は消えていた。 そのことにクリストフが安堵していると、突然やってきた大きな波がボードを押し上げ、それによる揺れにバランスを崩したアリシアがクリスの背中に抱きついた。 (これは、さすがに……) 「す、すみません」 パーカー越しからでもわかる、背中に触れるその温かく柔らかな感触にクリストフはどきりとした。 「……大丈夫?危ない時は捕まってもいいからね」 彼女に気付かれないようクリストフは平静を装いながらそう言うと、懸命にパドルを動かしてターコイズの波間を進んでいくのだった。
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*** 活躍者 *** |
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[9] アユカ・セイロウ 2018/07/07-22:11
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[8] トウマル・ウツギ 2018/07/07-20:58
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[7] イザベル・デュー 2018/07/07-20:16
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[6] ガルディア・アシュリー 2018/07/07-11:04
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[5] クリストフ・フォンシラー 2018/07/06-23:17
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[4] カラク・ミナヅキ 2018/07/06-07:40
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[3] リコリス・ラディアータ 2018/07/05-19:51
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[2] ラウル・イースト 2018/07/05-08:52
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