~ プロローグ ~ |
太陽の光が強くなり始めた季節。 |
~ 解説 ~ |
ベレニーチェ海岸で行われる「ベレニーチェ海岸・夏の演劇祭」での警護・巡回任務です。 |
~ ゲームマスターより ~ |
いつもお世話になっております、北乃わかめです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
【目的】 午前の部の、警護・巡回任務。 【会話】 ル「それにしても海岸で催しとは、さほど此方では脅威は無いのか? お前、どう思う」(解って水を向ける ひ「(一つ瞬き)、この国は使徒が少ないですから。 海の近くでも平気なん、だと」(無意識に眉が下がる ル「そうだな。彼方ではいつ出くわすかわかったもんじゃない」 ひ「(みんな、楽しそう)」 ル「喩えるなら、か」(舞台から聞こえた言葉に、口の端を上げる ひ「……」(好くない予感 ル「お前は、里子に出された子猫のようだ」 ひ「?」(好い喩えじゃないのは理解 ル「慣れぬ環境に怯えている」 ひ「そういう、あなたは。(一拍溜める) 獅子のようです」 ル「ははっ、そいつぁ良い!」(気に入った |
||||||||
|
||||||||
今日は演劇祭の警護、巡回任務です!頑張りましょうね。 時間は午後からの部になります。 はい♪水分補給もしっかりしましょうね。 そうですね暑いですから体調の悪い人とかいないかも見ていけたらいいですね。 (気が付いたら演劇に見入ってる) …ずび。 あ、いけないお仕事中なのに。でも「人魚姫」の演技すごくよくて。 前に…演劇に誘って頂いた時実はすごく嬉しかったんですよね。 今、思えば何をあんなに警戒していたんでしょうかね…。 人魚姫には向いてないって酷いですよー(でも笑ってる) 自分でも分かってますそんな儚い存在じゃないって。 私は小鳥のみたい?そんな可愛らしいものでいいんですか? じゃあ、ロメオさんはアライグマですかねー。 |
||||||||
|
||||||||
※午後の部の警備 (…全く、警備はともかく、どうしてあんな教団からの指令で 動かなければならないんだ) まあ、出ないにこした事はないけれどね。 (劇をチラリと見て) そう言えば、この前結婚式に参列しただろ?(23話) ララは例えるなら、姫のようだね。 青い瞳は海のようだし、銀の髪はシルクのようだし 綺麗だと思うよ。 (意地悪そうに笑って) 僕が王子だったら、姫は王子と結婚することになるよ? それでも良いの? なっ…幸せに暮らすとは限らないじゃないか、 もし王子の独占欲が強かったら? 姫を自分だけのものにしようと思っていたら? (喧嘩か喧嘩か? 小さい女の子をいじめるなと周りに人だかりができる) |
||||||||
|
||||||||
◆午後の部を警備 ・警備中に劇のひと幕が聞こえ、唯月は瞬の事も聞いてみる。 唯(瞬さんと以前色々あったので気まずい… で、でもお仕事ですからね…頑張らないと…) 唯「…今は演劇の時間なんですかね?」 瞬「そうみたいだねー」 唯「瞬さんもあんな感じの演劇役者さんなんですか?」 瞬「うん、そうだよー ドラマとかにもたまに出た事はあったけど …演劇は…心から楽しいと思ったからねー」 唯「そうなんですね…! (ボソリ)いつか…見てみたいな…」 瞬「本当?いづが見に来てくれるなら、いつもよりもっと頑張っちゃうよ!」 唯「え…行ってもいいんですか…?」 瞬「うん!」 唯(暫く隠してたからと思ってましたが、見られたくない訳では無い…?) |
||||||||
|
||||||||
■会話 「劇ですか 華やかに見えて過酷という 「過酷? 「腹筋を鍛えるのにお腹の上でボールを弾ませるとか 体型や美容とか 裏方さんは当然大変ですし 「…有志っつーから趣味範囲で んなプロじゃねぇんじゃ? 「趣味でやるには楽しいかもです 「しっかしシンデレラか もっと早くにシンティラとシンデレラが似てっと気付けばっ! 「(ロスが名前で舌噛んだのを思い出し)ティで良いです そういえばロスさん赤頭巾の狼らしいですよ 「は? 「外見が 「あー 「で童話コンビかと突込まれました 「それは暖かけぇ突込みで 「ロスさん見た時に何故赤頭巾の狼を思い出さなかったのかと 「俺普通に狼だから!?気付け!? ■巡回 ロスは狼姿でティの横歩き ティは真面目に見回り |
||||||||
|
||||||||
午後の部の警備 ◆シュリ 演劇…面白そう 何かを演じるのが好きな人、たくさんいるのね 楽しいのかしら この劇は海賊ものね そういえばロウハって、海賊みたいよね 気風のいい所とか、ガラが悪い所とか 砂漠の生まれなのに、海も似合う気がするの…不思議 アストロラーベ… 大雑把っていうのが引っかかるけど でも、喜んでおくわ ◆ロウハ お嬢、劇を見たいのもわかるが警備を忘れんなよー 新人歓迎会でやったマジックも、演技みたいなもんだし 楽しかったろ? 海賊?そうか? まあ故郷じゃ賊みてーなもんだったし、間違ってねーけどな ガラが悪いは余計だっての 俺が海賊なら、お嬢は… アストロラーベって知ってるか? 昔の船乗りの指針になった道具だ 大雑把だけどな |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
● 日が昇り始めた時分でも、強い日差しが白い砂浜をじりじりと焼いている。 素足で歩くのは憚られるような熱に負けないくらいの熱量が、このベレニーチェ海岸の一角にはあった。 仮設とは言え組み立てられた小さな劇場。 それなりに広いステージと屋根付きの観客席。終始海風が吹こうと、砂が巻き上がろうと、舞台上で繰り広げられる世界が中断されることはないのだ――。 ● 吸って、吐く。ただそれだけなのに、随分と億劫に感じられた。肺に取り込まれた熱が、内側から体を焼いてしまいそうだ。 『最上・ひろの』は、しっかり砂を踏みしめながら仮設のステージの周りを歩いていた。まぶたに太陽の光が当たろうとも気にせず、黙々と歩を進める。 今日は、「夏の演劇祭」の警護・巡回のためベレニーチェ海岸を訪れていた。今は午前の部――学生たちを中心としたプログラムが進められている。背に当たる声から、おそらく14、5歳くらいだろうか。 観客は、彼らの親が中心ではあったが、ベリアルへの恐怖に脅えていた人々も、エクソシストが警護していると気づき足を運ぶようになっていた。 「それにしても海岸で催しとは、さほど此方では脅威は無いのか? お前、どう思う」 観客には届かないくらいの声量で、前を歩いていた『ルシエロ・ザガン』が振り向き問う。 一瞬目が合いかけたが、瞬きの間に逸らされた視線。 「この国は使徒が少ないですから。海の近くでも平気なん、だと」 「そうだな。彼方ではいつ出くわすかわかったもんじゃない」 「……そう、ですね」 視線に合わせるように、ひろのの眉が下がっていく。ルシエロもいつの間にか前を向いていたが、二人の脳裏には故郷である東方島国ニホンの風景が浮かんでいた。 「希望の塔」――未だ謎の多い塔ではあるが、ヨハネの使徒が悍ましいほど存在していることは確認されている。ニホンは希望の塔に近く、特に塔に面した南側はヨハネの使徒の出現が多く報告されているため、近づく者などほとんどいない状況だ。 環境の違いではあるが、二人にとって今のベレニーチェ海岸は「珍しい」の一言だろう。 「あぁ、勇敢なる若者よ! 喩えるならばその強き瞳は、海を割り、やがて我らを導く者となろう!」 わっと近くの劇場から歓声が上がる。それを聴いて、ルシエロは口の端を上げた。 「喩えるなら、か」 「……」 あまり良いとは言えない予感がして、ひろのが僅か後ずさる。だがそれに気づいてか、ルシエロの声が投げかけられた。 「お前は、里子に出された子猫のようだ」 「?」 「慣れぬ環境に怯えている」 首を傾げる姿がますますそれらしい、とくつくつ笑うルシエロ。その様子に、あまり良い意味での喩えではないのだということは理解した。 慣れない相手に対し、フレンドリーに接するほどのコミュニケーション能力は無い。むしろ、慣れるまでは何の感情も抱けないため、ある程度の距離感があるのは仕方がないと言える。 だが。 「そういう、あなたは。――獅子のようです」 指摘され、笑われて。それを何の感情もなく、愛想笑いで流せるというわけではないのだ。 まっすぐ視線を合わせ、はっきりと放たれた言葉。普段伏し目がちなひろのの瞳が、今はっきりとルシエロを映している。 「ははっ、そいつぁ良い!」 気に入った、とルシエロが目を細める。猫が自身を獅子と呼びながらも、その実怯えた様子はない。ただ気弱なだけの少女ではないのだと、ルシエロは認識を改めた。 上機嫌になり、本来の任務に戻るルシエロの背中を見やる。先程よりも楽しそうに見えて、ひろのは溜まっていた息を吐いた。 「どうした、ひろの」 「……何でも、ないです」 威風堂々と振り返るルシエロを見て、やはりこの人は獅子だと感じたのだった。 ● 「今日は演劇祭の警護、巡回任務です! 頑張りましょうね」 「はい、はい、今日も頑張りますよ」 夏の暑さにも負けないくらい、やる気を見せる『シャルローザ・マリアージュ』。そんな彼女とは正反対に、茹だるような暑さに『ロメオ・オクタード』はハンカチで額の汗を拭った。 「仕事も大事だが、暑いからちゃんと水分補給はするようにな」 「はい♪ ロメオさんも気をつけてくださいね?」 「わかってるって」 暑さに参っている人も多く、近くに出店された仮設の売店で飲み物を買っている人も多い。 人が集まれば、どんなトラブルが起きるかわからない。注意深く見回りながら、二人はさくさくと白い砂浜を歩く。 「日差しが結構強いな」 「そうですね、暑いですから体調の悪い人とかいないかも見ていけたらいいですね」 「今のところは問題なさそうだな。不審者もいない、か」 帽子をかぶってきて良かった、と空を仰ぐ。ちぎれた綿あめのような雲が若干浮かんでいるくらいで、視界いっぱいに澄んだ青い空が映る。 真剣に巡回任務につとめるシャルローザを見て、ロメオはなんとなく帽子をかぶり直した。 (お嬢ちゃんとのパートナーとしての仕事が多かったからかねぇ……俺もすっかり真面目になったもんだ) のらりくらりと生きていたつもりだったが、気づけば炎天下にも関わらず仕事をしている。いつもの煙草も今はポケットの中だ。 いくつになっても変われるもんだ、とシャルローザを再度見れば。 「……ずび」 「……お嬢ちゃん、泣いてるのか?」 「あ、いけないお仕事中なのに」 なぜか、舞台を見上げぽろぽろと涙を流していた。 ロメオの問いにハッとしたシャルローザが、慌てて涙を拭う。 「すみません、でも『人魚姫』の演技すごく良くて」 「あーあの舞台が原因か……『人魚姫』ねぇ。確かに悲しいし綺麗な話だが……」 シャルローザが夢中になっていたのは、演劇を見ていたからだった。 今回の演劇祭のために集まった急造の劇団だが、実力とやる気は折り紙付きだ。そんな劇団が演じていたのが『人魚姫』。人間に恋をした人魚姫の、切なくも美しい物語だ。観客の中にも、シャルローザと同じく感動して泣いている人が何人もいた。 「そうか、お嬢ちゃんこういう劇が好きだったな」 「前に……演劇に誘って頂いたとき実はすごく嬉しかったんですよ?」 「そういえば、あれから機会もなくて行ってなかったな」 以前、ロメオが誘い観に行ったラブロマンスの演劇。ロメオの人となりを掴みかねていたシャルローザには、どう接していいかわからず戸惑いもあったが。 (今思えば、何をあんなに警戒していたんでしょうかね……) 出会ったばかりということもあったのだろう。今では良い思い出である。 「お嬢ちゃんは人魚姫って柄じゃないな……そんな儚い感じじゃなくて……」 「人魚姫に向いてないって酷いですよー。自分でもわかってます、そんな儚い存在じゃないって」 「あぁ、悪い意味じゃないんだ」 何か言いあぐねて、ロメオが口ごもる。 シャルローザ自身、特に気にしていることではなかったのだが、ロメオが何を言おうとしているのか気になり、言葉を待った。 「……お嬢ちゃんは、『小鳥』ってのがぴったりかな」 「小鳥? ……そんな可愛らしいものでいいんですか?」 「あぁ、小さくて一生懸命飛んでいるところとか、そっくりだ」 腑に落ちたロメオの言葉に、そうですか? とシャルローザは首を傾げる。 ただ、悪い意味ではないので、素直に受け取ることにした。 「じゃあ、ロメオさんはアライグマですかねー」 「なんかちょっと印象悪くないか?」 「そんなことないですよ、アライグマは賢いんですから」 そうして語り合いながら、二人は任務の時間を終えたのだった。 ● (……全く、警備はともかく、どうしてあんな教団からの指令で動かなければならないんだ) はぁ、と夏の暑さとは別の嫌悪感と共に、『ラウル・イースト』の口からため息が漏れる。薔薇十字教団を毛嫌いしているため、教団からの指令、というだけで苛立ちが増していた。 ただ、ラウル自身の性格として、決して他者を蔑ろにしているわけではない。ベリアルを駆逐せんとする彼ならば、ベリアルの影に脅える人々の依頼を無碍にすることはなかった。 今だって、注意深く海や周辺の様子を窺い、しっかりと警備に当たっているのだから。 「ベリアル、出ませんね……」 「まあ、出ないに越した事はないけれどね」 「えへへ、そうですね。向こうで劇をやってらっしゃるし。出ない方がいいですよね」 ラウルのとなりを歩く『ララエル・エリーゼ』が柔らかな笑顔を向ける。彼女が歩くたび、夏の日差しにきらめく銀色の髪が、寄せては返す波のように揺れていた。 ステージでは、海底の国の王女と陸の国の王子がひっそりと逢瀬を楽しんでいる。 「そう言えば、この前結婚式に参列しただろ?」 「はい、お嫁さんとってもきれいでした!」 ちらりとステージへ視線を向けたラウルが、そのままララエルに声をかける。 偶然にも行われていた結婚式に参列したことがあった。笑顔で寄り添い合う新郎新婦が、何より幸せそうだったとララエルは覚えている。 「ララは例えるなら、姫のようだね。青い瞳は海のようだし、銀の髪はシルクのようだし――綺麗だと思うよ」 ふわり、と自然に上げられた口角。細められた夕日色の瞳が、冗談などではないと物語る。 突然手放しに褒められたララエルは、咄嗟に言葉も出ず、声にもならない声を漏らした。 「なっ、な、……そ、そうしたら、ラウルは王子様みたいです!」 「僕が王子だったら、姫は王子と結婚することになるよ? それでも良いの?」 ララエルの必死の抵抗も、ラウルは意地悪な笑みで返す。 ぷるぷると顔を真っ赤にして震えるララエルは、両手を握りしめ、堰を切ったように訴えた。 「お姫様と結婚する事になってもいいんです、物語ではいつも、王子様とお姫様は幸せに暮らすんです!」 「なっ……幸せに暮らすとは限らないじゃないか」 今度はラウルが狼狽える番だ。 「もし、王子の独占欲が強かったら? 姫を自分だけのものにしようと思っていたら?」 まさかそうはっきりと言われると思っていなかったために、つい子供っぽく反論する。 だが、ララエルはそれをものともせず、首を横に振る。 「お姫様は喜んで王子様だけのものになりますよ! そして幸せに暮らすに決まってます! それはきっと、お姫様が王子様のことを好きだから……!」 ここで、折れるわけにはいかないと。そう思ってララエルの手に力が入る。気づけば頬には、涙が伝っていた。 「ララ……」 「あ、こ、これは……最近読んだ童話のお話、です……」 二人の声が大きかったせいか、周りには人だかりができていた。女の子がいじめられているのではないかと心配して集まってきたのだ。 誤魔化すのが下手な姿を見て、ラウルがようやく深く息を吐く。思考は冷静になり、ララエルの顔がはっきりと見えた。 「……馬鹿だな」 「え、あ……ごめんなさ――」 「ララのことじゃないよ。……僕の方こそごめんね」 そっと、ララエルの頬を拭う。それからきつく握りしめられた手を解き、くっきりと残る爪の跡を撫でた。 「ありがとうございます、ラウル」 えへへ、とくすぐったそうにララエルが笑う。そんな彼女につられて、ラウルも困ったようにはにかんだ。 途端、集まっていたギャラリーから拍手が巻き起こる。二人の仲直りに向けてのものだったが、居たたまれなくなったラウルはすぐさまララエルの手を取ってその場を離れたのだった。 ● ぴん、とトランス状態の『ロス・レッグ』の耳が立つ。 赤い顔のエクソシストが、手を繋いで走っていくのが見えて、ついそちらへ鼻先を向けた。 「ロスさん、こっちですよ」 「おう」 ふらりと追いかけそうになるロスを、『シンティラ・ウェルシコロル』が呼び止める。先程通り過ぎたエクソシストと入れ替わるような形で、仮設の劇場の巡回任務に当たった。 舞台上では、ちょうど小さな劇団の演劇が始まったところだ。 「劇ですか。華やかに見えて過酷という」 「過酷?」 「腹筋を鍛えるのにお腹の上でボールを弾ませるとか、体型を維持したり美容に気を使ったりとか……裏方さんは当然大変ですし」 ふぅん? とロスがシンティラを見上げる。 シンティラは既に警護の任務として周囲に意識を向けていた。劇が始まったこともあり、人が劇場へ流れている。 「……有志っつーから趣味範囲で、んなプロじゃねぇんじゃ?」 「趣味でやるには楽しいかもです」 のんびりとした返しは、二人にとっていつものことだ。ロスは再び舞台を見る。 意地悪な継母と姉たちにいじめられる少女が、せっせと床を磨いていた。 「しっかしシンデレラか。もっと早くに『シンティラ』と『シンデレラ』が似てっと気づけばっ!」 「ティで良いです」 シンティラの脳内では、過去にロスが名前を呼ぶ際に舌を噛んだことを思い出していた。 呼びやすさはあるのだろうが、さすがにシンデレラとは呼ばれたくないシンティラは即答だ。 「そういえばロスさん、赤ずきんの狼らしいですよ」 「は?」 「外見が」 「あー」 「で、童話コンビかと突っ込まれました」 「それはあたたけぇツッコミで」 「ロスさん見た時に、何故赤ずきんの狼を思い出さなかったのかと」 「俺普通に狼だから!? 気づけ!?」 シンティラがシンデレラならば、ロスは赤ずきんに登場する狼だ。体高もそれなりにあるため、配役としてはピッタリかもしれない。 淡々と話すシンティラに、ロスの鋭いツッコミが冴える。 「――ん」 「ロスさん?」 「ティ、あっちだ!」 ふと、歩を止めたロスが方向転換する。何が、とシンティラが問う前に駆け出した。 状況が掴めないシンティラだったが、ロスを信じて後ろを追うと―― 「……子ども、ですね」 「どうした、はぐれちまったのか?」 走っている途中からシンティラの耳にも届いていた、すすり泣く幼い声。泣くのを我慢していたのか、見つけた女の子はうずくまって目を強くこすっていた。 「おか、おかあさん、と」 「そうか。よっし、俺とティに任せとけっ!」 にかっと笑うロスに、女の子が目を丸くする。どうやら、涙は引っ込んだようだ。 「ひとまず、迷子の預かり所があるのでそこに行きましょう。もしかしたら、お母さんが来ているかもしれません」 シンティラの助け舟に、女の子の表情に明るさが戻る。ロスの後押しもあり、女の子はようやく立ち上がった。 女の子は、午前の部で舞台に立っていた子だった。劇も終わり、売店を回って帰る途中、人の流れに紛れ、はぐれてしまったらしい。 「あんまり目を擦っては駄目ですよ。ちゃんと冷やしてくださいね」 「う、うん」 「ティ、預かり所ってあれか?」 しばらく歩くと、主催者側が用意していたテントがあった。大きく『迷子預かり所』と書かれた看板もある。 後は女の子の母親を探すだけ――と思ったが、それはすぐに解消された。 「おかあさん!」 「あぁ、マリー! もう、心配したんだからね……!」 預かり所の前、青い顔で右往左往する女性を見つけたのだ。 途端に駆け出す女の子。二人はようやく再会を果たすことができたのだった。 「狼は狼でも、ロスさんは赤ずきんの狼ではないですね」 その言葉に、ロスは誇らしげに鼻を鳴らした。 ● どれだけ鬱陶しそうに見上げようと、この炎天下が涼しくなるはずもない。『杜郷・唯月』が仕方なく帽子を深くかぶり直せば、幾分か暑さも和らいだ気がした。 となりを歩く『泉世・瞬』は涼しい顔……とまではいかないが、にこやかに辺りを窺っている。 「大きなトラブルもなさそうだし、良かったね~」 「は、はいっ、そうです、ね……!」 突然顔を覗き込まれ、唯月の肩が跳ねる。たどたどしい返答になってしまったが、瞬は特に気にしていないようだった。 (この前、色々あったので気まずい……で、でもお仕事ですからね……頑張らないと……) 海辺に来ると思い出してしまうのは、たまたま行われていた結婚式に参列したあの日。 ――俺、いづが好き! 繰り返される言葉と、手のひらに伝わる熱。とても熱くて、熱くて、――熱い、はずなのに。心の内の靄が晴れないまま、また海辺に訪れていた。 少なくとも、暗い表情では人々が安心できない。唯月はかぶりを振って、しっかりと前を向いた。 「――あぁ、必ずこの海を渡り、君を見つけてみせる……!」 「君が、……君のことが、何よりも愛おしいんだ!」 気持ちを落ち着かせると、周りの声が先ほどよりもはっきりと聴こえてきた。情熱的な愛を表現する舞台上の俳優に、観客も引き込まれているようだ。 「……今は演劇の時間なんですね?」 「そうみたいだね~」 「瞬さんも、あんな感じの演劇役者さんなんですか?」 「うん、そうだよ~。いろいろやったけど……演劇は……心から楽しいと思ったからね~」 「そうなんですね……!」 瞬の返事に、唯月の声が弾む。大きく広い舞台の上、スポットライトを浴びて演技をする瞬を想像し、目を輝かせた。 以前、急遽劇の代役をしたことがあったが、瞬の迫真の演技は素人目から見ても群を抜いていただろう。 そんな瞬が、心から楽しいと思う演劇をするのなら―― 「いつか……見てみたいな……」 「――本当? いづが見に来てくれるなら、いつもよりもっと頑張っちゃうよ!」 知らず声に出ていた言葉を拾われ、目を丸くする。 だが、前のめりにやる気を出す瞬を見て、気分を害しているようではなかった。 「え……行ってもいいんですか……?」 「うん!」 (見られたくない訳では無い、のかな……?) 出会った頃、それこそ劇の代役をした際も、瞬は自身が役者であることを明かさなかった。てっきり意図的に隠しているものだと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。失言では無かったのだと安堵した。 「――忘れないで。貴方が信じてくれるなら、どんな嵐をも越える渡り鳥になってみせるわ」 劇はいよいよクライマックスを迎えている。もうすぐ巡回の交代の時間だ。 ふと、自身が演じたヒロインを思い出す。彼女もまた、強い意思を持っていた。 ――ひとつ、息を吸って。 「『弱いだけの小鳥じゃないんです』……覚えてます?」 「ふふ、懐かしいね~あの時のラストシーン!」 ぱちぱちと目を瞬かせた瞬が、にっこりと笑うのも束の間、途端に憂いを帯びた瞳で唯月の手をすくい上げる。 儚げに、それでも柔らかく誇らしげに微笑む瞬は、正しくあの時のロメオそのものだ。 「……『君は強いよ。世界で一番……』」 次いで、手の甲に触れる瞬の唇。 「なっ! あっ……そ、そそそこまで再現しなくても……っ!」 「ごめんごめん、覚えててくれたのが嬉しかったから」 ふふ、と笑う瞬は、言葉ほど悪びれていない。むしろ、わたわたと動揺する唯月がかわいいなあ、くらいに思っている。 「いづ、あの時以上に真っ赤~?」 「か、からかわないでください……っ!」 そんな二人の様子に、近くにいた観客たちが囃し立て、唯月はさらに顔を真っ赤にするのだった。 ● 警護・巡回任務としてベレニーチェ海岸に訪れていた『シュリ・スチュアート』は、興味深げに舞台を見上げていた。 有志の劇団による、世界中に散らばる財宝を求めて航海する海賊の話だ。快活に歌いながら、船員たちが航海の準備を進めている。 「演劇……面白そう」 「お嬢、劇を見たいのもわかるが警備を忘れんなよー」 そんなシュリの様子をしっかり見ていた『ロウハ・カデッサ』の声に、シュリは徐にロウハに向き直る。 「何かを演じるのが好きな人、たくさんいるのね。楽しいのかしら」 「新人歓迎会でやったマジックも、演技みたいなもんだし。楽しかったろ?」 「あ……確かに、そうね。楽しかったわ」 シュリの視線は真剣そのもので、強い興味からのものであるとロウハはわかっていた。 新人歓迎会で披露したマジック――あれはロウハの手を借りて行ったものだったが、マジックの種がバレないよう振る舞うのは、確かに演技と言えるだろう。その事実に、シュリはますます演劇に興味を持ったようだ。 いつの間にか、シュリの目線は舞台に向けられている。 「この劇は海賊ものね。……そういえばロウハって、海賊みたいよね」 「海賊? そうか? まあ故郷じゃ賊みてーなもんだったし、間違ってねーけどな」 美しい翡翠色の瞳に、ロウハの姿が映る。ロウハの言葉に、シュリは違うわ、と首を横に振った。 ロウハの言う通り、賊らしく略奪し残忍さを持ち合わせた海賊もいるだろう。 だが、シュリの思い描く海賊像は違った。大海原を股にかけ、勇ましく乗組員を先導する……そんなかっこいい姿。少なくとも、今まで読んできた物語には、そんな海賊が多く存在していた。 「気風のいいところとか、ガラが悪いところとか。砂漠の生まれなのに、海も似合う気がするの……不思議」 「ガラが悪いは余計だっての」 じっとロウハを見つめるシュリ。その視線が気恥ずかしくなったのか、ロウハもシュリに倣って舞台を見上げた。 舞台では、豪胆な海賊たちが意気揚々と航海しているシーンが演じられている。次に目指すのはあの島だ、と船長が行き先を指差した。 「俺が海賊なら、お嬢は……アストロラーベだな。知ってるか?」 「えぇ、あの劇でも置いてあるわね」 「そうだな。昔の船乗りの指針になった道具だ、大雑把だけどな」 アストロラーベは、星と照らし合わせて方角を計算するのに使う道具だ。ロウハの言う通り大雑把なものではあるが、航海においては主要な測定機器としても用いられた重要な道具である。 海賊と言うならば、この道具は必要になる。それに喩えたということはつまり、自分にとってシュリの存在は大きく占めているということに他ならない。 「アストロラーベ……大雑把っていうのが引っかかるけど」 シュリは占星術師であり、本でも読んだことがあるためその道具を知っていた。もちろん、どんな道具であるかも。 海賊の指針である、アストロラーベ。それが、自身であると。 「でも、喜んでおくわ」 素直ではない、とはわかっている。だが、ほんの僅か上がった口角が、どれほど嬉しかったかを如実に表していた。 アストロラーベで、進むべき方向を示すように。シュリが指差す方へ進んでいく。 もうすぐ夏の演劇祭も終わる。大きなトラブルもなく、盛況に終えることが出来たと主催者も満足していることだろう。 ぞろぞろと帰る観客や舞台上で懸命に演じた劇団員たちを見送りながら、シュリとロウハは任務を果たしたのだった。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||
該当者なし |
| ||
[7] シュリ・スチュアート 2018/07/19-23:35
| ||
[6] シャルローザ・マリアージュ 2018/07/19-16:52
| ||
[5] ロス・レッグ 2018/07/19-00:06
| ||
[4] 最上・ひろの 2018/07/18-13:22
| ||
[3] 杜郷・唯月 2018/07/18-08:02
| ||
[2] ララエル・エリーゼ 2018/07/17-12:20
|