~ プロローグ ~ |
つい最近のことだ。 |
~ 解説 ~ |
このエピソードは基本が個別描写となります。 |
~ ゲームマスターより ~ |
みなさんの浄化師としてのかっこいいお心などをかければと思いますので、よろしくお願いします |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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行動 教団周辺の警備をする。 …もし、アリラさんがトリデカと話をしたいというのであれば、ついていきたいですけど…。心配なので…。 そうでなければ、それにアリラさんが同行を拒否するなら…。警備だけしています。 会話 リート:…アリラさん、どうしているのかな…。元気を出して、とも言えないけど…。 …この刑の執行で、また自分を責めていないと…、やっぱり責めるよね…。 …あ、そう言えば、まだお礼言ってなかった…。フェリックス、あの時教会の前でトリデカの足止めをしてくれて、ありがとう…。 おかげで、アリラさんと話ができたから…。 フェリックス:いいえ、僕は貴方のパートナーですから。…でも…。 リート:…でも? |
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■目的 赴くまま 「ジルドとマダムと話してぇんだけどいっか? ■心証 ∇ジルド 話す内容に世間知らず子供っぽいものを感じ庇護欲有 ∇マダム ジルドがアリラではなくマダムについた事から興味が沸く ■話 ∇マダム ジルドの未来をどう考えているか聞きてぇ 自分と同じ終焉の道を歩ませるか 自由か ∇ジルド なんつーか自分で極刑望んでっように見えっので困るんだけど アリラとマダム立場が違っからどっちを選ぶかで俺の動きも変わる まだ生まれたばかりなのにって極刑すっには待ってってあるだけど 終焉ってアレイスター生き返らせたくて殺しやってっから極刑選ぶのも納得だ アリラと一緒にいたいっつーなら俺のトコ来ねぇ?って誘えるんだけど終焉の道選ぶのか? |
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処刑場のあるエントランスホール地下5Fの出入り口を見回る。証明書と合言葉両方を出せない者は、制服を着ていても門前払い。 両者とも単純な内勤のように淡々とお勤め。 だが集中力が切れてきた頃にラファエラが話し出す。 彼女は終焉の夜明けと癒着していた親を内部告発した身なだけに、受刑者達に同情する気はさらさらないようだ。 エフドは殆ど何も言わずに聞いている。感情的な話に付き合う気はないが、彼にも犯罪者に寛容になる理由はない。 とはいえ、最後に軽くからかってみる。 「お嬢さん、今日はよく喋るな。やっと俺に慣れてくれたかい?」 ラファエラは最後には恥ずかしげに睨みつけて口をつぐむことになる。 |
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●目的 犯罪者を救おうとする敵を警戒する ●行動 ユウさんと共に担当場所に敵の警戒をする マダム・タッツーにジルド・タッツー・トリデカ 報告書を見ましたが、彼らは極刑に処されて然るべき存在です ジルドを助けるよう嘆願した浄化師もいたようですが……僕からしてみれば正気を疑います 経緯はどうあれ彼は無実の人間を数十人も殺した。その事実は変わらないし、変えるわけにはいかない そんな事がまかり通れば、極論ですが同情できる理由さえあれば罪ある者達は許される機会があっていいという事になる そんな事、絶対に許しません なのでマダム・タッツーらの処刑は必ず執行されるよう尽力しますし、邪魔をするなら誰であろうと斬り伏せます |
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◆リームス 執行は本部地下の処刑場かな 持ち場や連絡方法確認し指示通りに警備 相槌を打ちつつ特に感慨は無いはず。 20余名殺害への対価。 教団の判断。 僕は従うだけ。 たぶんそれがこの身の求める最善だから。 前の指令時に下されたのは討伐命令だった。 捕縛でも予想できる結末だった。 手を下す人間が代わるだけだろうと 正義。カロルは違うの? 返答に戸惑う。彼女の言うことは時々理解できない ……僕はきっと誤るよ 盾を強く握る。 “彼”との対峙時から戦い方を 改めて考えるようになった。 マドールチェ。魔術人形。 僕を作った魔術師が“彼女”のようであったなら この身の目的が正義に悖るものであったなら カロルの言葉に身体のどこかが軋んだ気がした |
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あたし達は普通に警備かしら、報告書も読んで…ふむふむ、そんなことが。 ラニ:ラス?なんでそんな顔してるの ラス:……もし、オレが同じような立場だったらって考えてた ラニ:繊細ね、頭打った? ラス:ぶっ飛ばすぞ無神経野郎 そんな事は言うけどあたしだってどうするかは分かんない とは言え他人に手を出していい理由にはならないし …あたし達が一方的に糾弾する理由にもならない なんて!いざ当事者になったら分からないけど! ラニ:それができないからあたし達はこうしてるんじゃない ラス:…そうだな皆の仇を、彼女の仇を取る為に (ああ笑えない) (彼と違って、正義の元にあたしの憎悪は許されてる) (なら正義が無くなれば、あたしは---) |
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教団に反する故に正義の裁きを受ける ジルド・タッツー・トリデカの処刑は止めることは出来ない でも。 彼、ジルドは命令に従っていただけ この偉大な教団で求められることは何だと思う。規律に忠誠を誓うことだ …私は。 全ての規律と呼ばれるものには対抗しうる手段を設けるべきではと 彼だって手段はあった。しかし遅すぎた。 甘言に乗せられて戻れない所までいった。そして彼はそれを理解し裁きを受け入れた 何もできないですね そうだ、何もな。ご丁寧に法の下で処刑されるのを黙って見ているしかな …。 今更処刑するなら現場で命を絶った方が良かったのかもしれません 我々は問題を先送りしているだけ。直接命の責任を負いたくない こういうことですか |
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~ リザルトノベル ~ |
●「罪は生きてこそ償えるもんだろ」(ロス・レッグ) ●「罪の無い人々の平和を守る事。それを仇なすなら経緯、動機、心情全てを考慮する事なく断罪すべきです」(セプティム・リライズ) 「ジルドとマダムと話してぇんだけどいっか?」 『ロス・レッグ』がロリクに詰め寄る。 ロスの横では付き添い役の『シンティラ・ウェルシコロル』は、普段と違い少しばかりバツの悪い顔をしている。 ロスはジルドに対する庇護欲とマダムに対する興味からの面会希望を申し立ててきたのだ。 ロリクが口を開くタイミングで『セプティム・リライズ』と『ユウ・ブレイハート』が装備を整え、やってきた。 「僕たちの警備担当を教えていただきたく……どうしたんですか?」 「悪ぃ! ちょっとロリクと話させてくれっ!」 ロスが片手をあげ、ロリクに向き合う。 「俺個人の意見で殺……被害者からしてみれば、加害者『被害者が悪い』そういう人は多くて牢に放り込まれても言うのは一般的だ。だからジルドみたいに自分が悪いって言い切ってくれるのは救いだ」 ロスが一旦、迷うように言葉を切って視線を下へと向ける。ロリクは言葉を挟まない。ただ待っている。 基本的に直感で動くロスは、今も自分の直感に従った。ただ、それを言葉として相手に伝えることは難しい。手を何度か握っては開いて、言葉を出そうとしては閉ざして、尻尾をふる。 じれったくなる時間。けれど誰も急かしたりはしなかった。 ペットのときは、こんな悩んだりせず、心のままでいればよかったのに。 目を細めて、ぐっと腹に力をこめてロスはロリクと向き合った。 真剣な瞳で、からからにかわいた口で、力なく尻尾をふって。 「だからよぉ、被害者は当然加害者に対して殺意が沸く訳だけど、人を殺してはいけないから『許して穏やかな心を』と周りに言われる。時間が経ち相手の性格を知れば好きになるし自発的に許したくもなる。つまり被害者は自分の中にある殺意と戦わなければならねぇのにそれと比べて加害者が死刑というのは釣り合わねぇ」 「だから極刑を辞めよというんですか?」 セプティムが口を開く。 「報告書を見ましたが、彼らは極刑に処されて然るべき存在です。ジルドを助けるよう嘆願した浄化師もいたようですが……僕からしてみれば正気を疑います」 真っすぐなセプティムの言葉は彼の鋭い刃と似ている。迷いなく、穢れなく、純粋で。 ぶれることのない深い闇色の瞳は何かを見て、何かを見ていない。 「経緯はどうあれ彼は無実の人間を数十人も殺した。その事実は変わらないし、変えるわけにはいかない。 そんな事がまかり通れば、極論ですが同情できる理由さえあれば罪ある者達は許される機会があっていいという事になる。今回の極刑は大賛成だし、むしろ広く知らしめるべきとすら思っています」 そのタイミングで、ぱんと手が叩かれた。 ロリクが二人を見る。 「よし、二人の今回の考えについて聞こう。まずはセプティム」 問われたセプティムは迷いのない瞳で、躊躇いなく口を開いた。 「暗い過去や辛い境遇から敵になる存在がいますが、そんなことは知った事ではありません。人を殺さず、なおかつ軽い罪を犯した人ならまだいいですが、今回のようにケースならもう許されないと思います」 「うん。では逆に問おう。軽い罪とはどれくらいだ? 盗みか? 脅しか? 傷つく者はどんなことであっても傷つくだろう。罪に軽い、重いなんぞ考えるのは傲慢じゃないのか?」 ロリクは鋭く言い返し、片手をあげてセプティムの言葉を封じた。 「ロス、先ほどの問いに答えろ」 「……マダムにジルドのことをどう考えているのかききてぇ。自分と同じなのか、自由なのか」 一旦言葉を切ったロスはつけくわえた。 「なんつーか自分で極刑望んでっように見えっので困るんだけど」 頬をかきながらロスは言葉を続ける。 「アリラとマダム立場が違っからどっちを選ぶかで俺の動きも変わる。まだ生まれたばかりなのにって極刑すっには待ってってあるだけど、アレイスター生き返らせたくて殺しやってっから極刑選ぶのも納得だ。アリラと一緒にいたいっつーなら俺のトコ来ねぇ? って誘えるんだけど……終焉の道選ぶのかってききてぇ」 「アリラは少しこみいった事情があるんだ。それに契約が出来ないことは以前お前に説明したはずだ。ロスの、その真っすぐさと勇気はセプティムの想いの強さと潔白さとともに評価しよう。 今回はもう上が決めたことで、今更どうこう言っても変わらんし、会わせることは出来ない。……では、ユウと、ティはどう思ってる?」 話を向けられたユウは眼鏡越しの視線をセプティムとロスたちに交互に向けて、ゆっくりと口を開いた。 「平穏に生きる人達を守る事が正義と考えてます」 だが、ユウはセプティムほどに思い切ることができない部分もある。 もし、今回の彼にも事情があったとしたら、けれどそれだけで許すには殺された人々が可哀そうだ。 胸の中に秘めた強い気持ちがあるからユウは教団にはいったのだ。ただ自分の甘さもわかっている。きっとジルドに会ったら心が揺らいでしまう。 「私は……ロスさんとここに来ました。ロスさんと同じです。警備の仕事は真面目にします」 シンティラの淡々とした口調には、迷いはなかった。 「ではお前たち、ついてきなさい」 ロスが尻尾をふるわせるのにセプティムは剣に手をおいてぎゅっと握る。 ●「アリラさんが、この刑の執行で、また自分を責めていないと……」(ジークリート・ノーリッシュ) 『ジークリート・ノーリッシュ』、『フェリックス・ロウ』は真面目に警備にあたっていた。 ジークリートの心配は、アリラのことだ。 もし、アリラがジルドと話したいと望めば、出来たら同席してあげたいと彼女は考えていた。 アリラのことをロリクに聞くと、少しだけ憂鬱げな顔をして、今は会えないと言われた。 指令とは関係ないことだからかと尋ねると、違うと言われた。もっとこみいった事情だと言われた。あまり押しは強いわけではないから、アリラがいやがればついていく気はなかった。だから、あえて今回は護衛だけすることにした。 アリラはどうしているのか、元気にしているのか。会っても、自分ではうまく言葉を彼女に向けてあげられる自信はない。けど、気にかかった。 「……あ、そう言えば、まだお礼言ってなかった……フェリックス、あの時教会の前でトリデカの足止めをしてくれて、ありがとう……おかげで、アリラさんと話ができたから」 「いいえ、僕は貴方のパートナーですから。……でも……」 言葉が止まる。 ジークリートはフェリックスを見つめる。 「僕は終焉の夜明け団の拠点で発見回収されました。記憶もありません。もし教団に来ていなければ……今こうしているのと同じように終焉の夜明け団で過ごしていたでしょう」 今と同じ。それはただ些細なきっかけで変化したことを意味している。 フェリックスとジルドの違いはなんなのか。 「……そう、それをフェリックスはどう思う?」 「……分かりません」 きっぱりとフェリックスは答える。本当にどれだけ考えても答えなんて出てこない問いだ。 「そうね。……どう考えるか感じるか、実際に経験したことから、判断していくしかない、のかな」 自分のために契約してくれた彼のことをジークリートは守りたいと思っている。 「……ええと、あの、ね。これから何かあった時に、フェリックスがどう考えたか、どう思ったか、わたしにも、話してくれる? わたしも、一緒に考える、から。あ、えっと、無理に、とは言わないけど……」 「はい、リート」 ちょうどそのとき、複数の足音がしたのにジークリートは目を瞬かせた。 そして、問われた言葉にジークリートはゆっくりと言葉を唇に乗せた。 「アリラさんが……この刑の執行で、また自分を責めていないと……」 きっとアリラは責めてしまうだろうとわかる。 裁きはなんのためにあるのか、まだ答えは出てこない。だからジークリートは迷いながらも、ひたむきに言葉を、自分の進む道を探す。 ●「私の正義はリームスよ?」(カロル・アンゼリカ) 『リームス・カプセラ』、『カロル・アンゼリカ』は淡々と警備の任務についていた。 すでに持ち場や連絡方法などは確認している。 カロルはリームスが考え込むと足が止まるから大丈夫かと思っていたのだが、定点警備で安心した。 「ねえリームス。刑が執行されるのってこの間の指令の犯人達よね。随分早いのね。破壊処置はないと聞いたのだけれど」 「そうだね」 「あれだけの事件だもの。示しがつかないのも分かるわ。あるいは関係者の誘き出しかしら」 「そうかもしれない」 可憐な声の問いかけに淡々とリームスは相槌を打つ。 この件に関して特に感慨はない、はずだとリームスは思う。 殺害された人数、教団の判断。 (僕は従うだけ。たぶんそれがこの身の求める最善だから) 前の指令時に下されたのは討伐命令だったのだ。捕縛でも予想されるべき結末で。ただ手を下す人間が代わるだけだろう。 「教団の正義を見せる機会だし。――正義ねえ。組織と個人のそれは違うのに……リームスは組織寄りね」 「正義……カロルは違うの」 ようやく少しだけいつもの調子で言葉が返ってきたのにカロルは目を細めて微笑む。 「あなたが是と言うならそれでいいわ。間違えたって戻ればいいし、戻れないなら踏み越えていきなさいな」 リームスは戸惑う。 「……僕はきっと誤るよ」 「リームス。あなたはもうただのお人形じゃないの。その身は命令に忠実に動く物じゃないの。理由も、正義も、与えられはしないのだから、あなたが考えるしかないわ」 どこか突き放すような言葉にリームスはますます戸惑う。 自分の持つ盾をぎゅっと握りしめる。 ジルドと対峙したとき、彼は恐ろしく強かった。そのせいでカロルは危険に晒された。あのときジルドから戦い方のミスを指摘されてリームスは考えるようになった。 それは戦い方だけではない。ジルドは自分の作り手のために、この行動に出たのだ。 (僕を作った魔術師が“彼女”のようであったなら、この身の目的が正義に悖るものであったなら) 自分も彼と同じだったのだろうか? わからない。 それを考えろとカロルは口にする。 作り主の思考や思惑ではなくて、ここにいるリームス・カプセラとして。 自分で考える? そう思ったとき、体のどこかが鈍く軋む気がした。 ちょうどそのとき、同じ警備指令を受けた四人がきたのに、カロルとリームスはそちらを見る。 カロルはにこにこと笑って手をふって仲間を歓迎した。 そして、問われた言葉にカロルは可愛らしく微笑んだ。 「リームスと考えていくしかないわ」 ●「あたし達が一方的に糾弾する理由にもならない」(ラニ・シェルロワ) 「あたし達は普通に警備かしら」 『ラニ・シェルロワ』、『ラス・シェルレイ』は二人、担当エリアにいた。 これにかかわる指令はすでに目を通してあるが、直接かかわったわけではない。平和な警備なのにラニのほうが辛抱できずに口を開いてしまった。 「ラス? なんでそんな顔してるの」 「……もし、オレが同じような立場だったらって考えてた」 ぽつりとラスは口にする。 青と赤の瞳が揺らぐ。 同情というとおかしいかもしれないが、考えてしまうのだ。それは許されないと思っていても、自分たちは仇を討つために浄化師となった。命を弄ぶようなことはしてはいけない。 ただ自分が正義と言えるのかがラスには自信がない、迷っている。 「繊細ね、頭打った?」 「ぶっ飛ばすぞ無神経野郎」 いつもよりもずっと冷たいラニにラスは悪態をつく。 だがすぐに黙ってラスは考える。失くしてしまった大切な彼女のこと。思えば思うほどに胸は軋み、今も癒えない悲しみから復讐したいと願うのは、これは正義なのだろうか。正しいのだろうか? こうして向き合う沈黙の時間に不安が襲ってきてうまく言葉にならない気持ちが渦巻いていく。 ラニはラスの悩みを見ているだけでわかる。だって一番理解しあっているから。 この指令を受けて、報告書も読んだラニ自身も思うところはある。だが許容することは殺された人を踏みにじる行為だ。 そもそも失った人は帰ってこない。 それに自分は気持ちを抑えて、復讐という名の正義を掲げているのだとラニは自覚している。 (ああ笑えない) 自分と似ている赤と青の瞳で、真剣に考え続けるラスを見つめてラニは思う。 迷い続けるラスにたいして、ラニはどこか自分の汚さを自覚し、ここにいるのだと理解していた。こんなことをラスにも言えない。 独りぼっちの、抱え込んだ闇だ。 ラニはばれないように唇をぎゅっと噛む。 こんなにも傍にいるのにラスもラニも言葉を、唇にのせ、相手へと向けられない。ただただ悲しいほど、孤独な沈黙が二人を隔て、包み込む。 (彼と違って、正義の元にあたしの憎悪は許されてる) (なら正義が無くなれば、あたしは) 沈み始める思考のなかで、指令を受けた別の浄化師たちがきたのに目を白黒させる。 そして問われた言葉にラニはゆっくりと口を開いた。 「なんて! いざ当事者になったら分からないけど!」 明るく笑い、付け加えた。 ●「他人様の人生を迷信のために奪った奴らが、自分の人生を奪われるときにじたばたするのを見てみたいわ」(ラファエラ・デル・セニオ) 『エフド・ジャーファル』、『ラファエラ・デル・セニオ』の二人にとって、これはひどく退屈といってもいい指令だった。 制服を着ていても合言葉、証明書を持てないものは門前払いするだけでいい。内容としてはシンプルでわかりやすい仕事だ。 「極刑ってどういう最期なのかしら」 ふと、ラファエラが口を開いた。単純作業に彼女の集中力が切れたようだ。 「さぁな」 「黒魔術師と、恋に付け込まれて殺しまくったバカ男だもの。ただの死に方じゃ物足りないわね」 ラファエラの見た目の可憐さに似つかわしくない、一部ものすごく汚い言葉がまじる。聞く者が聞けば卒倒ものだが、エフドはさらりと聞き流している。 気難しいパートナーとはあらゆることで距離があった。今、こうして一人でしゃべりはじめているのは彼女を知るいいチャンスだと思った。 それにエフドも育ちのせいか、自分が品の良くない言動を――主に戦闘中だが――している自覚はあるのでラファエラの言葉はたいして気に留まらない。 「鬼に金棒というか……に刃物というか。何様のつもりなのかしら、ああいう連中は」 やはり一部ものすごく過激な汚い言葉がはいっているが、淡々と、けれど可憐な声は言葉を漏らす。 この仕事のために前の報告書はざっと目を通した。 ラファエラは終焉の夜明け団と癒着していた親を内部告発した身なだけに、受刑者達に同情する気はさらさらない、それが彼女の真っすぐさで潔癖さだ。 心の中に燃える炎のような気持ちがラファエラには存在する。 ただ今までの生活とは一転したプレッシャーは常にラファエラを責めていた。彼女はそれを持ち前の強さで乗り切ろうと必死にあがいていた。 ここで自分の心を、エフドに聞いてもらうことでラファエラはまたひとつ乗り切ろうとしているのだ。 「私のアライブ、拷問官にするべきだったかしら。死にそうな時でも澄まし顔してる気取り屋の屑から、悲鳴と謝罪と命乞いを引きずり出せるようになれば、処刑人に転属できるかな」 「お嬢さん、今日はよく喋るな。やっと俺に慣れてくれたかい?」 からかう声にラファエラはしゃべりすぎたとばかりに口を噤み、恥ずかし気にエフドを睨みつけた。 エフドは決して悪い男ではない。しっかりとした芯の通った、けれど粗削りの無骨さとともにラファエラを受け止めてくれる強さがある。 ただ、あまりにも生まれも環境も違う二人はいつもどこか距離があった。 しかし、今、少しだけ零れたラファエラの素はエフドが近づくことを許した。 二人の距離が少しばかり縮まったことは確かだ。 そこに複数の足音がしたのに二人は仕事モードと切り替えた。 問われた言葉にラファエラは迷わなかった。 真っすぐに。 それがドント・フォーギブ――ラファエラとエフドの二人が決めたスペルをそのままあらわしていた。 ●「知ることで生まれる責任もある」(ベルトルド・レーヴェ) 「彼は命令に従っていただけ」 『ヨナ・ミューエ』がぽつりとつぶやく。 警備にあたっている二人は互いに距離をとっているが、それでも声はちゃんと響いた。 それくらい、穏やかで、静かな空間だ。 真面目に警備に取り組むが、少しくらいのおしゃべりくらいは許される。 「この偉大な教団で求められることは何だと思う。規律に忠誠を誓うことだ」 『ベルトルド・レーヴェ』が断言する。 「……私は。全ての規律と呼ばれるものには対抗しうる手段を設けるべきではと」 彼だって手段はあった。しかし遅すぎたのだ。なにが。どうして。どこから? 「甘言に乗せられて戻れない所までいった。そして彼はそれを理解し裁きを受け入れた」 「何もできないですね」 だから自分たちはここにいるのだとヨナは自覚する。 「そうだ、何もな。ご丁寧に法の下で処刑されるのを黙って見ているしかな」 「……今更処刑するなら現場で命を絶った方が良かったのかもしれません。我々は問題を先送りしているだけ。直接命の責任を負いたくない」 ベルトルドの言葉にヨナは乾いた唇を舌で舐め、必死に思考し、言葉を紡ぐ。 出来るだけ簡潔に、けど、ちゃんと吐き出したいと願って。 「危惧すべきは決定された事に疑問を持たない事なのでは。盲目的に教団の規律に従い、それだけが『答え』として従うのなら彼と変わりませんね」 なんとも皮肉なやりとりだと互いに、どこか心の底で自覚していても、言葉として吐き出さずにいられない。 ここにいるから。 いま、ここにいることを二人が選んだから。 「教団に疑問を抱いた所で外敵に対抗する手段を持つのは浄化師のみ。綺麗事だけでは巨大な組織は動かせない。守るべき秘密だってあるだろう。お前もそれくらいは分かるはずだ」 ヨナから小さな息が漏れた。 「少なくとも。綺麗事に見せる為に『正義』なんて言葉は使いたくないです」 それがヨナの抱える小さな正義のようにきっぱりとしていた。 「……そうだな」 「私たちはもっと、知らなければいけない事が多いのでは」 そこで二人は複数の足音にそちらへと視線を向けた。 そして、問われた言葉は今二人が議論していたことだ。それにベルトルドはまだ迷うヨナのかわりに答える。 「近道なんてしようと思うな。道理を踏まえなければ求める真実など手に入らないものだ」 識ることへの意味を付け加えたベルトルドは少しだけ視線を上へと向けた。 仰いだ空は、皮肉なほどに青い。 指令を受けて警備にあたる浄化師たちを巡り終わり、ロリクは足を止めて、ロス、セプティムたちに向き合った。 「目には目、歯に歯をという言葉がある。これは目を奪われたならば目以上のものを、歯であれば歯以上のものを奪うことは許されないということだ。 そのためにも罪とはなにかを明白化することが必要となる。しかし、この世には多くの種族が存在し、生きている。その数だけ常識と考えは存在することも忘れてはいけない。お前たちは経験が足りず、掲げている正義の在り方も結局は個人のわがままになっている。それが悪いのではない、だから知りなさい、考えなさい、自分たちの属している組織、そして世界について」 ロスも、シンティラも、セプティムも、ユウも、ジークリートも、フェニックスも、カロルも、リームスも、エフドも、ラファエラも、ラニも、ラスも、ベルトルドも、ヨナも、みなが、それぞれに違う正義を持っている。 それらすべてが正義だ。 ここに集った浄化師たち、すべてが。 ただ生まれも、価値観も、種族も違う。 教皇国家アークソサエティは、教皇による絶対主義をベースとしつつ、市民は自由に商業などを行える政治体制となっている。 また教団のありかたも然り。 「別の言葉でいえば罪を裁くことは許されないという、裁く方法、はかる目で己も見られ、そして裁かれることになる。 ロスも、セプティムももうすこし傍らの相手と話すといい。浄化師とはそのためにも一人ではないのだから。話し合っても、答えが出ないときは俺がお前たちの一人ひとりの話を聞こう。俺でよければお前たちと悩んでやることは出来るから」 言葉も、思考も吐き出さなければ伝わることはない。 ぶつかることもあるだろう。けれど、ぶつからなければ相手を知ることもできない。 ここに集まったすべての正義。 それらがいずれは教団をよくしていく未来につながるのだ。
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*** 活躍者 *** |
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[6] リームス・カプセラ 2018/08/04-23:18
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[5] ヨナ・ミューエ 2018/08/04-00:24
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[4] ロス・レッグ 2018/08/03-07:00
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[3] ジークリート・ノーリッシュ 2018/08/03-00:51
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[2] ロス・レッグ 2018/08/03-00:24 |