傷ついた日も
とても簡単 | すべて
8/8名
傷ついた日も 情報
担当 shui GM
タイプ ショート
ジャンル ハートフル
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 なし
相談期間 4 日
公開日 2018-07-28 00:00:00
出発日 2018-08-04 00:00:00
帰還日 2018-08-14



~ プロローグ ~

 暑い夏。僕は阿鼻叫喚を聞いていた。
 もう少し具体的に言うと、怪我をしたパートナーを迎えに病棟を訪れていた。

 教団の医療機関――病棟は、様々な怪我人が運ばれてくる場所だ。
 小さな怪我から、戦闘での重傷まで。対応できる治療は幅広い。
 多くの医療スタッフがせわしなく、患者の対応に追われていのはいつものこと。
 浄化師であれば遅かれ早かれ、一度は来る所と言えた。

 その中の一角から、聞きなれた叫び声。
「いやぁああああ! やめてぇええ!」
「注射はいやだぁああああ!!」
「帰る、かえるぅ……ぎゃぁあああああ!」
 僕のパートナーの声だ。
 結構な怪我であったはずだけれど、思っていたよりは無事らしい。
 治療室の壁越しにでも、彼女のいつも通りの声がはっきり聞こえる。ちょっと元気すぎるほどに。
 ああ、無事ならよかった。指令で子供を庇って怪我をした時はどうなる事かと思ったけど。
 ……とはいえ。医療機関ではお静かに。
「僕の連れが、すみません……」
 待合室で彼女の治療処置を待つ僕は、冷たい目線をひやりと感じていた。
 けど。それ以上に、君を待つ心は温かい。

「お待ちのパートナーさん。怪我の処置が終わりましたから、今日のうちに帰れますよ」
 と、医療スタッフが教えてくれた。胸を撫で下ろすと周囲にも似たような人たちが居た事に気がついた。
 恐らく新米の浄化師だろうか。
 僕と同じで、パートナーの治療を待っているように見える。
 最近は海でひと悶着あったらしいし、そうでなくても浄化師が怪我することは珍しくはない。
 自ら来たのか、パートナーに連行されたのか……はたまた、僕のパートナーのようにナイチンゲール・アスクラピアに見つかって連行されたのかはわからないけど。

 もうじき治療室の扉が開く。
 大嫌いな注射を乗り越えたパートナーはどんな顔をしているだろうか。
 幸い、今日は休暇をとっている。頑張った彼女をねぎらって、甘やかすのも良いかもしれない。
 そういえば、街にオムライスとパフェが美味しいレストランが出来たと言っていたっけ。連れて行ったら喜んでくれるだろうか。

 そして周りの浄化師達は、どう過ごすのだろうか。
 パートナーの傍にいるのも、いないのも、きっと浄化師ごとに違うのだろう。
 けど、出来る事ならば。
 ただでさえパートナーが怪我するなんて不幸があったんだ。
 これからの時間くらい、互いに良い日になったらいいな、とこっそり思っている。
 


~ 解説 ~

 怪我をしたパートナーと、一緒の休日をすごします。

 午前は治療で病棟を訪れており、お昼からは自由行動。
 病棟を後にしてからを書く予定です。

●怪我について
 パートナー、又は自分が、指令で怪我をしてしまいました。
 誰がどのような怪我をしたのか、プランに御書きください。

 怪我の度合いは、入院するほど大きなものではありません。
 戦闘指令で切り傷を負った、麻痺などを解除する為に訪れた、
 軽く手首をひねったなど、比較的軽症のものとなります。

●病棟
 教団にある医療施設。指令で怪我をした教団員の治療や、入院などを中心に医療活動を行っている棟です。
 1階は受付に、待合室、比較的軽症の治療を行う治療室などがあります。
 他の階には入院設備やリハビリ施設などもあります(今回は描写はありません)。
 医療スタッフが働いており、皆さん忙しそうなご様子。
 浄化師なら、誰もが一度は来たことがあるだろう施設です。

●プランについて
 一日休暇を取っていたので、午後は怪我をしたパートナーと自由に過ごせます。

 看病を理由に、パートナーの寮の部屋を訪れるもよし。
 傍にあるレストランや喫茶店に足を向けるもよし。
 新しい包帯などを買いに出かけてもいいと思います。
 ※アイテムとして獲得することはできませんので、ご注意ください。

 ただ、怪我を悪化させるような行為はオススメしません。
(すぐに戦闘や、スポーツを行うなど)

 寮については、予め寮母に許可を得ているので異性の寮でも立ち寄れます。 


~ ゲームマスターより ~

 浄化師だって怪我をします。
 軽症だったり、重傷をおったり。その後どうなったかな、というのは知る機会も少ないかと思い書いてみました。
 怪我は発達した医療のお陰もあって、すぐに治ると思います。
 
 それまでの間は、どうぞ2人でマイペースなひと時をどうぞ。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

アシエト・ラヴ ルドハイド・ラーマ
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / エレメンツ / 狂信者
アシエト利き腕、手の平を怪我
魔物の剣を手の平で受け止めた

ルドの小言を受けてしかめっ面
「うるせーやい。体が動いてたんだ」

「用が済んだら早く行こうぜ。あんまりこの消毒液の匂い好きじゃないんだ」

「レストランに行こう。腹減った」
サラダを注文
と酒
「いーじゃん。一日休暇なんてそうそうないぜ」
「かんぱーい」

気持ちよく飲んでると、ルドのお小言
ルドの言うことは正論だ。黙って聞く

「……ルドさん、もしかして心配してくれた」
「そっかー。心配してくれたか~」
「あ!待て待て、ごめん、いや、でも。心配してくれて嬉しいぜ」

「ルドが怪我したら困るから、俺が全力で守らなきゃって思ったんだ」
「なんでもない!」
テオドア・バークリー ハルト・ワーグナー
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 悪魔祓い
うっかり足を滑らせて落ちるとか、我ながら情けない…

ああ、問題はないよ。
い、いや、別にそこまでしなくても…次から俺が気をつければいいだけの話だから!な!
それよりもハル、お前だよ。
落ちた時、助けようとしてくれたのを俺が下敷きにしただろ?
お前の方こそどこか痛めたりしてるんじゃ…

ハルはああ言ってくれるけど…正直心配になる。
出会ってからハルはずっと俺に尽くしてくれている。
俺のためにと、自分の怪我も厭わずに。
駄目だな…ハルに迷惑かけないよう俺がもっとしっかりしないと。

ああ、悪い、少し考え事してた。
えっと…腹減ったなーって。
そうだ、何か食べて帰るか。
ハルは何がいい?
それじゃ礼にならな…
ハルがいいならいいか。
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
怪我をした方

木から下りられなくなった仔猫を助けに行き 下りる途中転落
ぎりぎりでシリウスが受け止めてくれたものの 念のため病棟へ

お医者様に怒られて しょんぼり医療棟を出る

ごめんなさい 待っていてくれたの?
うん 擦り傷だからすぐに治るって
…シリウス?どうしたの 顔色悪い…
青く強張って見えた顔を覗き込むが 渡された仔猫に笑顔に

中庭 芝生の上でもらってきたミルクをあげ
危ないことしちゃ駄目ですって怒られちゃった
ごめんなさい… だけど、助けられて良かった
このこもわたしも シリウスに助けてもらったのね
ありがとう と笑顔
猫の爪が引っかかって外れた包帯 
巻き直してくれる彼の顔が近くて 頬を赤く
…心配をかけて ごめんなさい
ユン・グラニト フィノ・ドンゾイロ
女性 / エレメンツ / 陰陽師 男性 / 人間 / 断罪者
●怪我
フィノの右足首打撲

●原因
何もなく平和に終わった警備の指令の帰り道
暗くなって来たので、ユンを怪談話で怖がらせ
話に夢中で足を滑らせ畑へ落下

●フィノ
珍しくユンになじられて、ぐうの音も出ない
ごめん
だからごめんってば
(次は気をつけて怖がらせよう、と心の中で呟き)

わっ、林檎!サンキュー
でもユン、皮むき大丈夫?(皮が物凄く分厚く見えるけど)
あーもー無理するからっ(指を怪我されて慌てて止血)
ユン、ナイフ使った事ないの…?まぁ、俺もないけどさ
ふふ、でもきっと俺の方が上手くなるね(林檎は不格好だけど美味しい)

…なんだよ、その目
(愚問だった
俺をネタに変な妄想してる目だ)
だから、ごめんってば!
(振り出しに戻る)
ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
ベルトルド背中に怪我
治療室から出てくるとヨナがいて意外

わざわざ来たのか
ただのかすり傷だ。感染症貰う場合もあるし念の為の検査を、な

…まあ一応。
でも生活に困るような怪我じゃなさそうですね

大怪我ならヨナの方が得意だものな

(ムッ)…その話は、一応反省しているのでわざわざ言わなくても。
元気そうなのでもう帰ります

まあ待て。どうせ午後から暇だろう、昼飯でもどうだ

(少し考え)…おごりなら

怪我人に優しい事だ(肩すくめ

ベルトルド行きつけのスラム近く繁華街の酒場兼飯屋
昼間から気怠い雰囲気
ケバブのランチ2つ

こういうお店が好きなんですね(見回す

まあな。昔から世話になってる

グラマーな女性がベルトルドに親しげに話しかける
ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
ドクターが怪我しなくてよかった
私は腕が取れてもいざとなればくっつくから平気ですよ
それがアンデッドの特性で…お願いですからそんな泣きそうな顔しないでください私が悪かったですから

前に何度か腕が取れたことがあるんだが…それは話さないでおこう。ドクターが泣く
え?ついてくる?
ちょっと過保護じゃ…
…第一私の部屋には何もありませんよ?

何か部屋を見られるのは恥ずかしいな…
はあ、整然としている…ドクターに褒められると照れ臭いですね
そこまで褒められることあんまりなかったもんで…

え? お茶を?ドクターお気をつけ…
…思ったより平気そうだな。ちょっとハラハラするが…これじゃ俺の方が過保護か
…まあ、こんな日もたまにはいいか
アユカ・セイロウ 花咲・楓
女性 / エレメンツ / 陰陽師 男性 / 人間 / 悪魔祓い
怪我をしたのは楓
戦闘中にアユカを庇って腕に切り傷を受ける


◆アユカ
かーくん、今日は部屋でおとなしくしててね

あの時、どうして庇ったの?
前に出て来るなんて珍しいなって思って
わたしがぼーっとしてたから…ごめんね
…ありがとう

それにしてもかーくんの部屋…何も、ないね
わたし?わたしはいろいろあるよ、お菓子の本とか変な骨董品とか
後で見せてあげるね


◆楓
これくらい大したことはないのですが…
まあ、大人しくします

どうしてって…体が勝手に動いたというか
でもパートナーを守るのは当然でしょう
謝ることはありません
これは名誉の負傷と思っておきます

そうですか?普通だと思いますが
アユカさんの部屋はそうでもないのですか?
…では、今度
杜郷・唯月 泉世・瞬
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / アンデッド / 狂信者
◆怪我人:瞬
・久々且つ簡単な戦闘依頼で、何らかの麻痺を受け熱が出る
・『守る』と言おうとした瞬の口を、唯月は泣きながら両手で塞ぐ
唯「はぁ…大事にならなくて良かった…」
瞬「ほんと心配かけてごめんね…いづをまも…むぐ」
唯「もう…言っちゃ、ダメ…」
瞬「??」

・また言おうとした瞬に唯月は感情爆発
唯「瞬さん、わたし…あなたが無事で…本当に、良かったんです
あなたにとっては…大した事ない事かもしれません
実際軽く済みましたし…

でも…あなたがわたしが傷つく事を深刻に思うように
わたしだって…瞬さんに傷ついて欲しくないんです!
あなたが再度貰った命を…どうか大切にして欲しいんです…!
わたしもあなたを守りたいんです…!」


~ リザルトノベル ~


「お前は本当に馬鹿だな」
 治療を終えたアシエト・ラヴと顔を合わせるや否や。パートナーのルドハイド・ラーマからの言葉に彼は面食らった。
「うるせーやい。体が動いてたんだ」
 顔をしかめながら治療した右手をひらひらと振るアシエト。
 包帯が巻かれた掌の怪我は、戦闘の際に獣の攻撃を受け止めた時にできたものだ。
 もし、仲間の支援がなければもっと深手に――と今思えばゾッとする。
「まったく、あんなところで無茶をして」
「すぐ治るってさ」
「……まぁ、酷くなくてよかった」
 密かに安堵するルドハイドが、どんな思いで待っていたかを彼は知らない。
「用が済んだら早く行こうぜ。あんまりこの消毒液の匂い好きじゃないんだ」
「……長居する場所でもないしな」
 言いながら、出口へと足を向ける2人。
 鼻をつくような独特な香りが、嫌な記憶まで刺激するようで。2人にとって病棟は落ち着かない場所だった。

 レストランへ行こうと提案したのはアシエトのほうだった。
 席に着くと、早速サラダやお酒を注文する。
「怪我人が酒とは、感心しないな」
「いーじゃん。一日休暇なんて、そうそうないぜ」
「特別だぞ」
 言いながらルドハイドの赤ワインも追加される。
 お酒が届けば、かんぱーい、とアシエトの陽気な声が響いた。
 軽い音を立てて打ち付けられたグラスをスルーするルドハイド。
 どれだけ飲んでいただろうか。
 気持ちよく酔いながら、アシエトは彼の話を聞いていた。
「ひとつ言っておきたい。今後、あのような無茶をするな」
 ルドハイドの小言は正論ばかりだ。黙って頷くアシエト。
 腕がいくつあっても足りなくなるぞ、と話すルドハイドの表情は真剣だ。
 途中、アシエトが気づいたように尋ねた。
「なぁ、ルドさん」
「ん? なんだ?」
「……もしかして心配してくれた?」
 俺の事を、と自分を指差すアシエトに、図星とばかりにルドハイドが一瞬表情を変えた。
「パートナーだからな。心配は、する」
 アシエトの命はひとつだからな、と落ち着きを払った言葉に、アシエトの口元は緩んだ。
「そっかー。心配してくれたか~」
 笑顔のアシエトは果たして酔っ払ったせいなのか。
 鼻歌を歌いそうな彼に、ルドハイドが眉をよせる。
「調子に乗ると前言を撤回するぞ」
「あ! 待て待て、ごめん、いや、でも。心配してくれて嬉しいぜ」
 ワインを飲み干す彼を見ながらアシエトは続ける。
「ルドが怪我したら困るから、俺が全力で守らなきゃって思ったんだ」
 笑って再び酒を飲みだすアシエトに、ルドハイドは返す言葉を飲み込んだ。
「……何かいったか?」
「なんでもない!」
(こいつは、こういう自己犠牲の塊でもある)
 だから心配なのだ、とは口には出さず。
 代わりにサラダと格闘するアシエトに、あーんとばかりに野菜をさしたフォークを突き出した。


 テオドア・バークリーが病棟を訪れたのは、今朝の事だった。
「テオ君大丈夫? もう痛くない? 気分が悪くなったりとかしない?」
 パートナーのハルト・ワーグナーが付き添う帰り道。
「ああ、問題ないよ」
 答えながら、事故を思い出すテオドアは恥ずかしくてたまらなかった。
(うっかり足を滑らせて落ちるとか、我ながら情けない……)
 教団にはいくつか階段がある。テオドアはものの見事に足を滑らせ、転がり落ちたのだった。
 打撲で済んだのが幸いといえる。
「これはもうアレだな、教団内の階段という階段を全て緩やかで滑らか素材なスロープに変えるよう、お偉いさん方に殴り込……コホン。直談判しに行くしか」
 一瞬、ハルトの目が据わる。
「いや、別にそこまでしなくても……次から俺が気をつければいいだけの話だから!」
「え、いいのー? テオ君が言うのなら」
 と話すハルトに、俺の事よりお前だよ、とテオドアは向き直った。
「落ちた時、助けようとしてくれたのを俺が下敷きにしただろ? お前の方こそどこか痛めたりしてるんじゃないか?」
 ハルトの方が体格がいいとはいえ、男の下敷きとなって無事とは思えない。
「ぜーんぜん! 俺頑丈だし!」
 しかしハルトは明るく笑って見せた。
「テオ君のためにだったら俺いくらでも体張っちゃうよー!」
 だから思いっきり俺に頼ってね! と。
(そしたらテオ君、俺から離れられなくなるぐらい俺が目一杯甘やかしてあげるから)
 砂糖漬けよりも甘く、たっぷりと。
 目論むハルトの隣で、心の晴れないテオドアはそっと目を逸らす。

(ハルはああ言ってくれるけど……正直心配になる)
 出会ってからずっと彼は自分へ尽くしてくれている。
 怪我も厭わない、と笑う彼に申し訳ないのだ。
(駄目だな……ハルに迷惑かけないよう、俺がもっとしっかりしないと)
 テオドアは心に誓う。もっと頼れる存在になろうと。

「テオ君大丈夫?」
(顔が近い!)
 考え事に夢中になっていたのか、気がつくとハルトが顔を覗き込んでいた。
「まさかまだ怪我が?!」
「ああ、悪い。少し考え事してた。えっと……腹減ったなーって」
「そういえばご飯食べそこなったもんねぇ」
 テオドアが距離をとりつつ答えると、人懐っこい笑顔に戻るハルト。
「そうだ、何か食べて帰るか。ハルは何が食べたい?」
「うーん、じゃぁテオ君の好きなものが良いな! だってテオ君の好きな物が俺の好きな物だからね!」
 それじゃお礼にならな……、と言いかけたが、ハルトがそれでよいのならと納得する。
 幸い近くにお店は多くある。
 どれにする? とハルトが聞けば、テオドアが喫茶店に目を向けた。
「「ホットケーキで」」
 二人の声が被る。
 思わず目を合わせると、2人は笑いあった。
 怪我は残念だったが、お陰で大好きな甘い香りが、2人を待っている。


● 
 パートナーを待つ、1人の人影があった。
 心配する仲間達の気遣いを丁寧に断り、シリウス・セイアッドはため息をつく。
 病棟というのは、何処も独特の雰囲気をもっている。
 四方を囲む、白い壁。行きかう医療服。そして独特な消毒液の香り。
(リチェが中にいるとわかっている……が)
 過去の記憶が邪魔をして、どうしても中へ入れずにいるもどかしさ。
 パートナーのリチェルカーレ・リモージュの無事を思いながら、治療が終わるのを待っていた。
 心配する、彼の指は冷たい。

「怒られちゃいました……」
 病棟から出てきたリチェルカーレはしょんぼり小さくなっていた。
 シリウス声をかければ、大きな瞳を丸くする。
「待っていてくれたの? ごめんね」
「……怪我、は?」
「うん。掠り傷だからすぐに治るって」
 彼女の言葉にシリウスは小さく胸を撫で下ろす。
 リチェルカーレは包帯を巻かれた手を、もう片方の手で抱きしめた。
 彼女は木に登って降りれなくなった、子猫を助けようと思ったのだ。猫を抱えて降りる際に、足を滑らせてできた傷。
 シリウスが抱きとめてくれたお陰で、大怪我となならずにすんだのだ。
「……シリウス? どうしたの、顔色悪い――」
「別に、何ともない」
 いつもと違う顔色のシリウスに気づくと、逸らされた目。
 顔を覗き込もうとすると、代わりにもふっとした生き物を渡された。
「にゃぁ」
「まぁ! あの時の!」
 シリウスが差し出した子猫。リチェルカーレにパァッと笑顔が戻った。

 病棟から離れ、景色の良い中庭を見つけると2人は腰を下ろす。
 買った猫用ミルクを与えれば、子猫はすぐに夢中になった。その姿が可愛らしい。
「先生に、危ないことしちゃ駄目ですって怒られちゃった。……だけど、助けられて良かった」
 穏やかに語るリチェルカーレは、シリウスへと向き直る。
「この子も、わたしも、シリウスに助けてもらったのね」
「……助けていないだろう。怪我を、させた」
 包帯を一瞥するシリウスに、彼女は静かに首を振る。
「ありがとう、シリウス」
 柔らかな笑顔に、優しい声。

 リチェルカーレのお陰で、シリウスの冷えた指先へ体温が戻っていく。
(やはり、彼女には傷ついて欲しくない)
 それでも怪我をさせてしまったけれど。次こそは、きっと。

「みゃぉん」
「あら? お代わりかしら」
 猫のてしてしとした仕草にリチェルカーレが手を伸ばす。と、猫の爪で包帯がはらりとほどけた。
「リチェ、貸して――」
 シリウスが包帯を手に取る。
 リチェルカーレは頬を赤らめた。丁寧に包帯を巻きなおすシリウスの顔は、とても近い。
「……心配かけて、ごめんなさい」
 リチェルカーレの言葉に、今度はシリウスが首を振る。
 心配も、感謝の気持ちも、きっとお互い様だから。
 子猫は優しく、2人を見守っていた。


「ねぇユン、この話知ってる?」
 無事に終わった仕事の帰り道。
 意気揚々とフィノ・ドンゾイロがパートナーのユン・グラニトへ怪談話を語っていたのだが……。

 まさか翌日、ユンにお見舞いに来てもらう事になるとは、夢にも思わなかっただろう。
 寮の自室。フィノは自分のベットで大人しく萎れていた。
「……フィノの、どじ」
「ごめん」
「怖がらせ、ようと、するから」
 罰が当たったんだよ、と窘められればぐうの音も出ないフィノ。

 怪談話に夢中になって、足を踏み外して畑に転げ落ちたのだ。
 足のつきどころが悪く、打撲で紫に腫れあがる右足首。
 傍にいた浄化師達からも救助されるなど、昨日はとんだ騒ぎとなった。

「すごく、恥ずか、しい」
 ぷぅと頬を膨らませるユン。
「だからごめんってば!」
 謝るフィノは
(次は気をつけて怖がらせよう)
 と懲りずに心の中で呟いていた。

 とは言えユンも怒りにきたわけではない。
 お見舞いの果物をもってきたのだ。
「わっ林檎! サンキュー!」
「ん。好き、だったよね」
 好物の林檎にフィノの瞳が輝きだす。
 ユンが元気付けようと、わざわざ買って来てくれたのだ。
 果物ナイフを片手に、ベットの隣で椅子に座るとゆっくりと皮をむき出した。
「でもユン、皮むき大丈夫?」
 ぽとり、ぽとり。分厚い皮が皿の上に落ちる。
 むく、というより削るに近いユンの手つきは、明らかに不器用だ。
「あっ」
 皮膚にナイフが当たり、じゅわっと滲む血に声を上げて慌てるユン。
「あーもー無理するからっ」
 フィノに手伝ってもらい絆創膏で止血すると、2人で思わず笑ってしまった。
「ユン、ナイフ使ったことないの……? 俺もないけどさ」
「使うの、初めてで」
 フィノの為にわざわざ頑張ったのだ。と思えば笑みもこぼれる。
「ふふっ、でもきっと俺の方が上手くなるね」
「うぅ、負けないし」
 むけた林檎は不器用なウサギ型になっていた。
 ホッとする彼女の前で、早速フィノがかじりつけば、さっぱりした甘い美味しさが口いっぱいに広がった。

 林檎を食べていると、ユンからの視線に気づいた。
 食べたいのかな? なんて発想は愚問だ。
(こうして動けなくて大人しいフィノくんを見てると、女の子の格好させるチャンスかな、なんて思ったり)
 ユンの顔がふにゃり、と甘く蕩けているのをみて、急に背筋に走る悪寒。
(これ、俺をネタに変な妄想してる目だ!)
(スカートは、どれに……ううん、ダメだよね。同意の上じゃなきゃ)
「……何考えてた?」
 恐れながら問えば、なんでもないのと首を振る。
(きっと、いつか。フィノくん絶対可愛いから)
 忍び寄る女装の危機を彼は知らない。
 フィノが話題を変えようすれば、たちまち怪我話に戻っていった。

「だから怪我はごめんってばぁ!」
 フィノの情けない声が再び部屋に響きわたる。
 空になったお皿をみると、ユンは小さく微笑んだ。


 ベルトルド・レーヴェが治療を終えて病棟から出てくると、意外な人物が待っていた。
「わざわざ来たのか」
 声をかけられたヨナ・ミューエは、まぁ一応、と返事を返す。
「ただのかすり傷だ。念のための検査を、な」
 戦闘で負った背中のかすり傷。小さな怪我でも感染症の危険があるのだから侮れない。
 すぐ治る事を伝えると、ヨナも僅かに安堵する。
「生活に困るような怪我じゃなさそうですね」
「大怪我ならヨナのほうが得意だものな」
 ベルトルドが言えば、ヨナがムッと眉をよせた。
「……その話は、一応反省しているのでわざわざ言わなくても。元気そうなので、もう帰ります」
「まぁ待て。どうせ午後から暇だろう、昼飯でもどうだ」
 肩を叩き優しく言えば、迷ったように視線を巡らすヨナ。
「……おごりなら」
 彼女の返事に、ベルトルドは肩をすくめてみせた。
「怪我人に優しい事だ」

 行きつけの店は、スラム近くの繁華街にあった。
「安心しろ、飯屋も兼ねているんだ」
 中に入れば、酒場も兼ねた店内は、気だるげな雰囲気に包まれている。
「こういうお店が好きなんですね」
「まあな。昔から世話になってるんだ」
 物珍しそうに見渡すヨナ。
 注文を終えベルトルドと席で待てば、ケバブのランチが良い香りと共に運ばれてきた。
 なかなかの味に舌鼓をうつと、綺麗な女性がこちらに声をかけてくる。
(知り合いの方でしょうか)
 ベルトルドに話しかける姿から、親しさが伺える。
 豊満な胸に人懐っこい笑みを持った、ヨナとは違う魅力を持った女性。
「やだぁ、この子が噂のパートナー? 随分可愛いじゃない!」
 駄目よ、こんな若い子に手を出しちゃ。と微笑む女性に、盛大にベルトルドが咳き込んだ。
「お気遣いなく。私にだって選ぶ権利はありますから」
 ヨナが言い返せば、女性が声を上げて笑い出す。
「あはは! だってさ、ベルトルド」
 先ほど治療したばかりの背中を容赦なく叩かれる。
 流石のベルトルドも痛みで顔をしかめるのがわかった。

 マスターに、あの女を追い出してくれ、と抗議するベルトルドから、ヨナは料理へ視線を落とす。
(……ベルトルドさんには仲の良い昔馴染みがいるんですね)
 長く住むのだから当然だけど。
 なんとなく置いていかれたような、疎外感に胸が痛む。
 どうして、こんな事を思うのだろう。

 席に戻る女性を横目に、ベルトルドがヨナを気遣う。
「すまんな、やかましくて」
「いえ。……にしても、ああいう女性が好みなんですか?」
 急な質問に、ベルトルドは再びむせ返る。
「何だ急に」
「一応聞いておいたほうがいいのかな、と」
 答えるヨナは少し意地悪な含みをもたせれば。
「俺の周りには怪我人にやさしい人間はいないのか……」
 察したようにベルトルドは苦笑してみせた。
 お互いどれだけ心配していたかは、今はまだ黙っておこう。


 病棟から寮へと戻る途中。
 ショーン・ハイドの腕に巻かれた包帯をみて、レオノル・ペリエがしゅんとした声をだした。
「腕にこんな怪我しちゃって……」
 ちらちらと心配の目を包帯に向けるレオノル。
 包帯の下には戦闘の最中で彼女を庇って負った傷があった。
 とは言え、すぐ治る傷だ。
 ショーンも、ドクターが怪我をしなくて良かった、と怪我を気に止めてはいない。
「ショーンは平然と治療受けていたよね……」
「私は腕が取れても、いざとなったらくっつくから平気ですよ」
「ピェッ?! う、腕が取れる……? 痛くないの?」
「それがアンデッドの特性で……お願いですから泣きそうな顔しないでください」
 狼狽するレオノルに、思わず苦笑する。
(前に何度か腕が取れたことがあるが……話さないでおこう。ドクターが泣く)
 既に彼女は涙目だ。
「本当に大丈夫? 治療が終わったなら、寮までついていくよ」
「……え? ついてくる?」
 頷くレオノルにショーンが面食らう。
「第一、私の部屋には何もありませんよ?」
「何もないとかそういう話じゃないよ。心配なんだって」
 招いてほしいわけではないらしく、気にしないでと言う彼女。
 どうしようか、とショーンは頬を掻いた。

 結局、レオノルはショーンの部屋を訪れた。
(何か部屋を見られるのは恥ずかしいな……)
 部屋を見渡すレオノルに、ショーンは落ち着かない様子で招き入れる。
「……いい部屋だね、整然としていて」
 整頓された本棚に、掃除の行き届いた部屋をみて、レオノルが頷いてみせた。
「本と文字の練習……いっつも勉強しているんだ。偉いね」
「落ち着いて治療も出来ていたし、ショーンは偉いよ」
 ショーンの日常を垣間見て、口の端々に感想を述べるレオノル。
 段々と居た堪れなくなってきて、ショーンは思わず自分の口元を手で隠した。
「はぁ、整然として……ドクターに褒められると照れくさいですね」
 そこまで褒められる事はあまりなかったもので……というショーン。
 その姿に気づいてか、レオノルは微笑む。
「私は褒めて伸ばすタイプだよ?」
 ショーンにはいいところが沢山あるよ、という言葉が少しむずがゆい。
「よし、今日は私がお茶を淹れてあげよう」
「え? お茶を? ドクターお気をつけ……」
「大丈夫だって。時々ぼーっとしているのは認めるけど、そこまで私は間抜けじゃないよ」
 道具を貸りてお茶を淹れ始めるレオノル。
 背中を不安げに見つめていたが、思ったよりも手馴れた様子にほっと息を吐いた。
(彼女を少し過保護に思ったが……これでは俺の方が過保護か)
 いつもより丁寧にお茶を淹れれば、良い香りが部屋に広がる。
(えへへ。ショーン喜んでくれるかな?)
「……まぁ、こんな日もたまにはいいか」
 肩の力を抜いてお茶を頂けば、穏やかな空気が2人を包み込んでいた。



 アユカ・セイロウが花咲・楓の部屋を訪れたのは、初めてのことだった。
 先の戦闘で怪我をした楓を見舞いに来たのだ。
(ここが……かーくんの部屋)
 寮の部屋は物が少ないせいか、一回り広く感じる。
 アユカは荷物をテーブルに置くと、お茶を淹れようとする楓に心配の目を向けた。
「かーくん、今日は部屋で大人しくしててね。お茶はわたしが淹れるよ」
「これくらい大した事ではないのですが……」
 言いかけるが、アユカの不安げな顔に気がつくと、楓も無理はしない。
「まあ、大人しくします」
「ありがとう。クッキーをもってきたから、今用意するね」

 アユカのクッキーは手作りだった。
 花や格子模様のクッキーを口に運べば、さくりとバターのおいしさが広がる。
 暫く怪我の容態について話していたが、話題は先日の戦いの話へ変わった。
「あの時、どうして庇ったの?」
 アユカが問えば、楓は彼女の方をむく。
「前に出てくるなんて、珍しいなって思って」
「どうしてって……体が勝手に動いたというか」
 楓の腕の怪我は、戦闘中にアユカを庇って出来た切り傷だ。
 他にもいくつかきり傷があるのだが……アユカに見せないよう、包帯を隠すように、楓は気を配っていた。
「でも、パートナーを守るのは当然でしょう」
「あたしがぼーっとしてたからかなって……ごめんね」
「謝ることはありません。これは名誉の負傷と思っておきます」
 楓が返すと、元気の無かったアユカに微笑が戻る。

(本当は、貴方の前に出て盾になりたい)
 楓は思う。2人は後衛を得意とするアライヴだ。
 彼女を背中からしか守れない、もどかしさ。
 願える事なら、彼女の前に立ち、敵から守ってあげたいとずっと思っていた。
(だから……今回の事は寧ろ嬉しく思っているのですよ)
 包帯の上から、優しく怪我をなぞる。

「……ありがとう」
 お礼を言うアユカも、似たようなことを考えていた。
(わたし、かーくんがいつも背中を守ってくれるから、安心して戦えるんだよ)
 信頼からくる安心感。だからこそ、楓の事を心配するし、守ってあげたい。
 今は怪我を見るたびに、申し訳なさがこみ上げるけど……次はきっと。

 パートナーを支えたい思いは、変わらないのだ。

「それにしてもかーくんの部屋……何も、ないね」
 アユカの言葉に、楓はそうですか? と首をかしげる。
「普通だと思いますが。アユカさんの部屋はそうでもないのですか?」
「わたし? わたしはいろいろあるよ、お菓子の本とか変な骨董品とか」
 想像してみる楓。
 自分の殺風景な部屋とは違い、女の子らしい本や小物でいっぱいの部屋なのだろうか。
「今度見せてあげるね」
「……では、今度」
 小さな約束にはにかむ2人。
 お菓子がサクリと軽い音を立てながら、2人の時間は、穏やかに過ぎてゆく。


 病棟からの帰り道。
 まだ高い日差しを避けるように、木陰道を2人が並んで歩いていた。
「久々だったから、油断しちゃったかな~」
 陽気に微笑むのは、泉世・瞬だ。
 依頼での戦いはいつ振りだろう。
 比較的倒しやすい敵を相手に、受けた傷。まさか麻痺毒が含まれていたのは予想外だった。
 治療を終え、手を動かしてみれば感覚は戻り始めている。
「はぁ……大事にならなくて良かった……」
 隣を歩く、杜郷・唯月が胸を撫で下ろす。
 怪我がなくても、暫く前まで色々悩み事が多かった彼女だ。
 今回もどれだけ心配した事か。

「ほんと心配かけてごめんね……いづをまも――むぐっ」
「もう……、言っちゃダメ……」
 瞬の言葉は、唯月の手で遮られた。
 手のひらで口を塞がれたまま彼女を見れば、大きな瞳は涙で揺れていた。
「お願いですから……」
 彼女の言葉に、困惑する瞬。彼女を守っては、いけないというのだろうか?
 ゆっくりと唯月の手をどかすと、再び「いづを守りたい」と言おうとして、とうとう雫が頬を伝うのが見えた。
 風にざわつく木々の中。唯月の声が震える。
「瞬さん、わたし……あなたが無事で……本当に、よかったんです」
「いづ……?」
「あなたにとっては……大した事ないかもしれません。実際軽くすみましたし……。でも」
 瞳が、瞬を映し出す。
「あなたが、私が傷つくことを深刻に思うように、わたしだって……瞬さんに傷ついて欲しくないんです! あなたが再度貰った命を……どうか大切にして欲しいんです……!」
 荒げた彼女の声は、怒り慣れていないような、裏返りそうな、必死に絞り出した声だった。
「わたしもあなたを、守りたいんです……!!」
 瞬が瞳を丸くする。
 彼女は守るべきもので、互いに守りあうという発想がなかったから。

(もしかして、あの時いづが言いたかったのは、この事?)
 瞬の脳裏に、過去のやり取りが思い出される。
 まるで自分を知ってほしい、と訴えていた彼女。
(俺は……パートナーを失いたくなくて……怖くて。過去に縛られていたのかもしれない)
 一度相棒を失った彼には、繰り返したくない惨劇があった。
 自己犠牲を前提にしていた時点で、『彼女のことを考えてなかった』のだと気づく。
(こんなにも涙を溜めて、気持ちを爆発させるまで我慢させていたんだね)
 瞬が、指で唯月の涙をそっと拭うと、先ほどとは違う笑顔を彼女へむけた。
「ごめん……いづ。俺ばっかり、空回りしてた。いづの気持ちに、気づいてなかったんだね」
 止まらない涙に目を腫らしながら、唯月が瞬を見る。
「これからは……守るではなく『2人で頑張ろう』ね!」

 きっと、色んな気持ちを伝えるにはもう少しだけ時間がかかる。
 けど、確かに2人が寄り添っていくのも感じながら。
 唯月が泣き止むまで、瞬はずっと傍にいた。



傷ついた日も
(執筆:shui GM)



*** 活躍者 ***

  • 杜郷・唯月
    瞬さん…?
  • 泉世・瞬
    いづ、ごめん…ホントごめんね!

杜郷・唯月
女性 / 人間 / 占星術師
泉世・瞬
男性 / アンデッド / 狂信者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/07/28-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。