~ プロローグ ~ |
薔薇十字教団に一通の手紙が届いた。 |
~ 解説 ~ |
水上マーケットでお買い物の手伝い、もとい『お使い』をしてください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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祓: まずは見て回って、売り物を把握するとしよう 選ぶも何も、何が売っているかを把握しなくては選びようがない グレールに、どこに何が売っていたかを記憶把握してもらうとしよう 俺も記憶力が疎いという程ではないが、内容は確実な方が良い 「…いつも、その記憶力を含め、助けられてばかりいるな」 感心すれば、自分にはそう思える相手がいるという事実に、心に満足感が満ち溢れた 見つけたのは螺鈿細工のオルゴール ふと浄化師になる前の記憶がかすめた 自分の部屋にも、実母から幼い頃に渡されたオルゴールがある 自分は幼心にその音を聞く度に、彼方の霞んだ過去を思い出していた オルゴールを購入してそっと渡す 今回が素敵な思い出として残るように |
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エキュムちゃんのお願いに 目をぱちくり …一緒に行かないの? お使いをしてくるだけ?本当に? きっと勝手に行っちゃだめと言われているのね と納得 運河の両端に並ぶ品物を目を輝かせて眺める あのネックレス綺麗 あっちのぬいぐるみもとっても可愛い わたしにも妹がいるから 小さい子のお願いは断れないわ ぐらりとして 慌ててシリウスにしがみつく ごめんなさい …ありがとう 青い涙型の石 中に小花が閉じ込めてあるペンダント きらきら光を反射する様がとても綺麗で これなら喜んでもらえるわよね? エキュムちゃんにペンダントを手渡す はい お土産 とても綺麗だったわ 今度は一緒に行きましょう …え? 真実を知って呆然 …今度は違うものを持ってくわ 涙をこらえて |
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エキュムちゃん 小舟から落ちないように、私達が守りますから…一緒に… 手を差し出すもクリスに止められ 分かりました…それじゃ、頑張って探してきます 待ってて下さいね 舟に乗る時、手を取られて ありがとう…今、どんくさいって言おうとしました…? うそ、絶対言いましたよね…(ちょっとむくれかけるも) え、あ、そうですね… でもクリスも結構女の子を喜ばせるの、上手いと…思います、けど… 私、いつも嬉しいとか楽しいって思ってます…と心の中で 小舟の中から真剣に売り物を見つめる 見つけたのは透き通った小さなイルカの飾りが付いた髪飾り これ…可愛いと…はい、喜んでくれるでしょうか… 少女の所に戻って髪飾りを見せ髪を纏めて付けてあげる |
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■目的 素敵な贈り物を買う! ■セアラ 商家の娘としての血も騒ぎ、水上マーケットの様子にすっかり興奮 目についた素敵っぽい物にすぐ決めようとするがキリアンにたしなめられ思い留まる 「やっぱアクセサリーじゃないかな!」 エキュムの髪が中途半端な長さだったのと、背伸びしたい年頃に見えるので ビーズ等を使った少し大人っぽい髪飾りを選ぶ ■キリアン はしゃぐセアラを抑え、一通り回ってから検討の時間を設けるよう提案 手近な小舟で小さな買い物をした上でお勧めを尋ね情報収集 回る範囲と順番を決め効率的な買い物を 休憩時間も含めるがセアラが聞くかは別の話 「客に合わせるのは商売の基本ですわな。ちゃんと覚えてたとは、お嬢にしちゃ優秀だ」 |
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★買 (チェリーのジェラートのカップ片手に) 前に来た時とはまた違った店も出てるわね 流石水上マーケットだわ 取り敢えず一通り見て回ったと思うけど 碧希君、何か目星つけた? そう? じゃあちょっと考えた事があるの 碧希君にもきっといいって思って貰えるわ (悪戯っぽく笑み) さ、確かこの辺りね…… ★贈 これなんかどうかしら ビーズのブレスレットよ (所謂ヴェネツィアンビーズ) 夏は毎年来るけど、今年の夏はこれきりだもの 今のあなたに、って思ったら、これになったの (エキュムが消えてから) ……消えちゃった 何だか夏の白昼夢みたいな子だったわね そうね、そうだったって信じましょ ……おやすみなさい、いい夢を |
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◆トウマル エキュム・ムース嬢? 薔薇十字教団より派遣された浄化師です お手紙ありがとうございます なるたけ早く戻るので人目のないところへ 行かぬように、と念押ししマーケットへ。 少女の喜びそうなものか グラ。何がいいと思う? いや手慣れてそうだなと 俺が素敵だと思うなら食い物だが 飯買うわけにもいかねぇし悩みながら散策 色んなものあるなと眺めていれば 取り取りの色彩に目を奪われ。 あ。これでいこう 少女へのプレゼントは小さな鉢植え。 ボリュームある薄紅の花は満開でこぼれそう。 花とか安直すぎるが、運河の青に映えて 鮮やかで夏って感じが気に入って。 ーーグラ。アンタ知ってたか? 返る笑顔に嘆息して しばらくそこからマーケット眺めてる |
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購入:小さな日傘 日差しが強いから、木陰で待っていて下さいね イザークさん!遊んでる場合ではないです 楽しみに待っているでしょうから レモネード素直に受け取る 今でも自分の分は自分で払うべきだと思ってます けれどイザークさん懲りないじゃないですか、任務中は素直に受けた方が話が早いかと… あくまで任務中の時のみです …おいしいです、ありがとうございます なんとなくですがエキュムさん、あまり陽に焼けていない感じがしたので… これなら日差しの強い日でもお出かけできますよね それに日傘って大人の人が使う感じがしませんか? 少し背伸びしたくなる年頃でしょうし …?わ、私の事はいいんです! …彼女、喜んでくれたんでしょうか? |
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◆アユカ あなたがエキュムちゃんね お姉さんにまかせて、素敵なお土産買ってくるからね! 水上マーケット、小舟に乗って回るっていうのが素敵だね~ それに、いろんなものが売ってて面白いね でも、ついお菓子のお店に目が行っちゃう 特に飴細工の… 職業病、かな? お土産、どうしよっか マーケットの雰囲気が伝わるようなものがよさそうだけど… おおー、かーくん名案!そうしよう! ◆楓 舟に乗りながらの買い物…確かに珍しく、興味を惹かれます あの少女は、一番素敵だと思ったもの、と言いましたが… …舟 アユカさんも、小舟に乗って回るのが素敵だ、と言いましたね とは言え、舟を渡すわけにもいきません この舟を飴細工で作ってもらうのはどうでしょう |
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~ リザルトノベル ~ |
● 「やったわ、本当にきてくれた!」 待ちあわせ場所の、水上マーケットの出入り口のひとつに到着した八組の浄化師に、満面の笑みで少女が駆け寄った。 「エキュム・ムース嬢?」 『トウマル・ウツギ』の確認に、エキュムは大きく頷く。 「薔薇十字教団より派遣された浄化師です。お手紙ありがとうございます」 「こちらこそ、きてくれてありがとう。あのね、早速だけどお願いしたいの。この水上マーケットで、一番素敵だと思ったものを買ってきて。えっと、浄化師様は二人で一組だって聞いたから……、八個!」 「え、お使いをしてくるだけ?」 「付き添いが必要だというなら、俺たちが一緒に行くが」 『リチェルカーレ・リモージュ』は目をぱちくりさせ、『シリウス・セイアッド』は違和感を覚える。『セアラ・オルコット』も首を傾けた。 「わたしたちだけで行くの?」 「あの……、私たちが守りますから……、一緒に……」 手を差し伸べかけた『アリシア・ムーンライト』を、『クリストフ・フォンシラー』がとめた。 「なにか事情があるんだよね?」 クリストフの言葉に、エキュムは小さく笑うだけだ。 「じゃあ、お姉さんたちが素敵なお土産を買ってくるね!」 『アユカ・セイロウ』は少女に笑みを向け、『鈴理・あおい』がちょうど近くにあった木陰を指さした。 「日差しが強いから、あちらで待っていてくださいね」 「できるだけ早く戻るから、人目のないところに行かないように」 「分かったわ、行ってらっしゃい!」 釘を刺すトウマルの隣で、『グラナーダ・リラ』はかすかに目を細める。 「行ってくるね!」 『朱輝・神南(あき・かなみ)』が元気に手を振り、『碧希・生田(あき・いくた)』を連れて小舟に向かう。 「土産……、贈り物か」 目を伏せた『ガルディア・アシュリー』は『グレール・ラシフォン』とともに朱輝たちの後に続く。他の浄化師たちも、思い思いの表情で小舟に足を向けた。 「……よろしくね、浄化師様たち」 ● 「つまり、我々が一番素晴らしいと思う、少女が喜びそうな物、を選べばいいのだな」 グレールの言葉にガルディアは頷く。小舟は他の客や商人が乗った小舟とぶつかることなく、うまく水面を移動していた。 「まずはマーケットを見て回って、売り物を把握するとしよう」 選べといわれても、どこになにが売っているのか把握しなければ、判断しきれない。 「分かった」 応じたグレールは左右に目を向け、商品の傾向と場所を記憶し始めた。こういったことは得意なのだ。それに、今回は特に身が入っている。 (ガルディアが、他人に思考をめぐらせている) 珍しいことだった。適当に買い物を終わらせても利益としては変わらないというのに、カルディアは真剣に贈り物を選ぼうとしている。任務だというのに機嫌がいいのも珍しい。 自然と、グレールも普段以上にやる気になった。 「その記憶力含め、いつも助けられてばかりいるな」 「お互い様だ」 肩を小さくすくめたグレールに、ガルディアは口の端を上げた。 パートナーに対する感心は心底からのものだ。同時に、自分には誇りに思える相手がいるという事実に気づき、ガルディアは温かな感情を覚えた。 「グレール、これ」 船頭が小舟をとめる。ガルディアが指さしたのは、停留中の小舟が販売している、ひとつのオルゴールだった。見事な螺鈿細工が施された美しい一品だ。 ガルディアの自室にも、同じようにオルゴールがある。実母から幼いころに贈られたそれは、ガルディアの心にずっと、彼方にかすんだ過去を浮かび上がらせてくれていた。 贈り物を決めた彼が無意識に浮かべた微笑を見て、グレールはガルディアから以前に聞いた過去の断片を思い出す。 きっと彼は、買い物を自由にできない少女と、買い物ひとつ儘ならなかった自分を重ねているのだ。ならば自分は、その想いを最良の形で結実させたかった。 「先ほど、小さなポプリを売っている舟があった。香りはその時の記憶を思い起こさせるという。一緒にどうだ?」 「名案だ、グレール」 グレールの提案にガルディアは瞬いてから、嬉しそうに微笑んで首を縦に振った。 ● 「すごいわ、シリウス!」 「そうだな」 小舟から身を乗り出すようにして、運河に停留していたり、小舟いっぱいに商品を載せたりしている露店を目に映すリチェルカーレを、シリウスは心配そうに見守る。 「あのネックレス、とても綺麗。でもあっちのぬいぐるみもとても可愛い!」 「熱心だな」 目を輝かせるリチェルカーレは、首を回してシリウスを見た。 「わたしにも妹がいるから。小さい子のお願いは断れないし、絶対にいい物をプレゼントしたいの」 「そういえば小さいのがいたな」 一度だけ会ったことがある、リチェルカーレの妹をシリウスは思い出す。途端に、座席が一瞬だけぐらりと揺れた。 水上マーケットを行きかう小舟には珍しくない揺れだったが、リチェルカーレはバランスを崩しかけて慌てる。 「落ちるなよ」 「ごめんなさい。……ありがとう」 すかさず手を伸ばして支えてくれたシリウスにしがみつき、リチェルカーレは小声で返した。わずかに表情を緩めたシリウスは、少女の頬が赤くなっていることと、思いのほか小さかった体に目をすがめる。 羞恥の限界がきたのか、ぱっと体を離したリチェルカーレは、ちょうど通りすぎかけていた停留中の露店に並べられた装飾品に目をとめた。 「あれ……!」 客の様子に気づいた船頭が、そっと小舟を露店に寄せる。リチェルカーレが手にとったのは、青い涙型の石に細い鎖を通したペンダントだった。石の中には小花が閉じこめられている。 「綺麗だわ……。これなら喜んでもらえるわよね?」 「ああ」 確認をとる眼差しに、シリウスは小さく頷く。 大切そうにペンダントを持つリチェルカーレは、エキュムの笑顔を脳裏に描いているのだろう。少女は今ごろ、木陰でひとりなにを考えているのか。 「水上マーケットがとても楽しいところだったって、お話してあげなくちゃね」 「そうだな」 「今度は一緒に回りましょうって」 「……ああ」 ペンダントを購入したリチェルカーレは、花が咲くように微笑んだ。 「それじゃあ、早くエキュムちゃんのところに戻りましょう?」 ● 先に小舟に乗ったクリストフは、アリシアに手を差し伸べた。 「アリシア」 かすかに顎を引いたアリシアは、慎重に小舟に移る。両足をつける寸前に、わずかに小舟が揺らいだ。アリシアは倒れかけたが、どうにか踏みとどまる。 「気をつけなよ、君は案外どんくさ……」 こほん、と咳払いをしたクリストフが、素知らぬ顔で簡易的な席に座った。 「ありがとう……。でも今、どんくさいって言おうとしました……?」 彼の対面に腰を下ろしたアリシアは、聞き逃していない。クリストフは笑いながら片手を振った。 「いや、なにも言ってない。言ってないよ。落ちたら危ないからね、って言おうとしただけ」 「うそ……。絶対、言いましたよね……」 むくれるアリシアに、それよりも、とクリストフは話題を強引に変えた。 「贈り物を探そう」 「え、あ、そうですね……。なにがいいんでしょう……?」 「女の子の気持ちは、アリシアの方が分かるんじゃないかな?」 「でもクリスも、けっこう、女の子を喜ばせるの……、上手いと……思います、けど……」 「え、そう?」 意外そうにクリストフは瞬く。 「それ、普段、アリシアが喜んでくれてるって意味でなら、嬉しいんだけどな?」 (私、いつも嬉しいとか、楽しいって、思ってます……) 口に出すのは恥ずかしくて、アリシアは胸の内で答え、視線を逃すと同時に真剣に贈り物を探し始めた。 間もなく、停留していた小舟のひとつに目をつける。女性向けの装飾品がずらりと並べられていた。 「あ……、これ……」 ひときわ彼女の目を引いたのが、透き通った小さなイルカの装飾がついた髪飾りだ。 「これ……、可愛いと……」 「うん。いいんじゃないかな。可愛いと思うよ」 「はい。……喜んでくれるでしょうか……」 「きっと大丈夫だよ。あの子に似合いそうだ」 応じるクリストフは、イルカの髪飾りの隣に並んでいた花の髪飾りに目を向けていた。こちらはアリシアに似合いそうだ。 (今度、また一緒にきて買おう) 小さな笑みを浮かべながら、クリストフは密かにその日を心待ちにした。 ● 「あれもいいよね、これもいい! あーでもこっちも!」 水上マーケット特有の空気にあてられただけでなく、商家の娘としての血の騒ぎもあって、セアラはすっかり興奮していた。 「でもさ、やっぱり一緒にきた方がよかったよね。風が涼しくて気持ちいいし」 「お嬢、人には事情ってもんがあるんですぜ。それと、ちょーっと落ち着きなさいな」 『キリアン・ザジ』にやんわりとたしなめられるが、セアラの高揚はなかなかおさまらない。 「あっちもいいなぁ!」 「とりあえず、一通り回ってから検討しやしょう。マーケットは広いってことで、情報収集やら回る範囲と順番の決定やらもしておいた方がいい。休憩時間も必要……って、お嬢?」 「うへぇ……」 貴人用ではないこの小舟に、傘など気の利いた物はない。川風が涼しいといっても限界はあり、照りつける太陽の下、人いきれの中ではしゃいでいれば目も回す。 「言わんこっちゃねぇ……」 急速にしおれてしまったセアラに小さく息をつき、キリアンはちょうど通りかかった軽食店で冷えたレモン水を買った。ついでに、女の子が喜びそうな物を売っているエリアを店主に教えてもらう。 「ほら、お嬢」 「おいしい!」 生気をとり戻したセアラは、今度は真剣に考え始めた。目についた素敵な物に片端から興味を向けるのではなく、しっかりと相手のことを考えて選ぶ方向に舵を切ったのだ。 「やっぱり、アクセサリーじゃないかな!」 「じゃあ、あっちらへんですぜ」 小舟はどこにぶつかることもなく、器用に運河を移動する。 「あ、これがいい!」 「ちょっとおとなっぽくありません?」 「それがいいの。あの子、髪の長さが半端だったでしょ? 伸ばしてる最中だと思うんだよね。あとあれくらいの女の子って、たいてい背伸びしたい年ごろなんだよ」 ビーズと美しい石を組みあわせた髪飾りを、セアラは選んだ。 「客にあわせるのは商売の基本ですわな。ちゃんと覚えてたとは、お嬢にしちゃ優秀だ」 「わたしにしちゃって、なによ」 頬を膨らませたセアラにキリアンは笑声を上げた。 ● ざっとめぼしいエリアを見て回った朱輝は、チェリーのジェラートのカップを片手に大満足で頷いた。 「前にきたときとはまた違った店も出てるわね。さすが水上マーケットだわ」 いつきても新鮮さを味わえる。老舗らしき小舟の露店から、真新しそうな小舟の露店まで様々だ。年中、賑わっているのも頷ける。 「んー! 冷たくておいしい」 碧希はメロンのジェラートに舌鼓を打っていた。カップで売られているのがまたいい。溶けかけても、手が汚れない。 「とりあえず一通り、それらしいところは見て回ったと思うけど。碧希君、なにか目星つけた?」 「俺か……。こういうのは朱輝のが得意じゃない? 相手は女の子だし、俺たちよりちっちゃいし」 子ども心、それも少女となれば、朱輝の方が理解できそうだと碧希は考える。 以前、碧希は朱輝にかんざしを贈ったことがあったが、それも彼女の人となりをある程度知っていたから選べたのだ。少し前に会っただけの少女がなにを欲しがっているのかなんて、よく分からない。 「そう? じゃあちょっと考えたことがあるの。碧希君にもきっといいって思ってもらえるわ」 「お、なになに? 聞かせてよ」 悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女に、碧希も同種の笑顔を返す。朱輝がそう言うなら、自分も気に入るという確信があった。 船頭にエリアを指示した朱輝は、ジェラートを食べ終えて声を上げる。 「あのお店がいいわ」 細い指で指示したのは、このあたりで加工された硝子細工が売られている小舟の露店だった。陽光に照らされ、商品はきらきらと光っている。 「これと、これ。白もちょっとだけ。それと、水色の糸ね」 「ビーズ? ちょっと大きめなんだね」 「そう。このあたりのビーズって、まったく同じ色、まったく同じ大きさ、っていうのがないの。この夏、このお店だからこそのビーズなのよ」 選んだ色は、黄色っぽい金色と緑、そして白。エキュムの髪と、瞳と、ワンピースの色に似ていた。 「さて! それじゃあ作るわよ、碧希君」 できるだけ日陰に寄せた小舟で、二人は贈り物を作り始めた。 ● 「グラ、なにがいいと思う?」 「なぜ私に聞くのですか」 川風に長い髪を遊ばせていたグラナーダが、緩やかに目蓋を上下させる。エキュムに抱いた違和感に関しては、トウマルに話さないことにしていた。 「私に振られても、満足のいく答えは得られませんよ」 「いや、手慣れてそうだなと」 「手慣れ……。人聞きの悪いことを」 額に手を添えてため息をついたグラナーダに、トウマルはおざなりに謝って悩み始める。 「素敵な物な……。俺が素敵だと思うなら食い物だが、飯を買うわけにもいかねぇし」 「先ほどの串焼きのお店、美味しいそうでしたね」 「後で買う」 少女と待ちあわせた場所の近くにあった串焼きの露店に、トウマルが気を奪われていたことにグラナーダは気づいていた。どうにか自制したのは、任務を優先するという意外と素直な使命感が欲に勝ったためだ。 今も、食べ物を売っている小舟の露店が通りすぎるたびに、トウマルはちらりとそちらに視線を向けてしまっている。 「色んな物があるな」 食べ物も、贈り物になりそうな物も。 真剣な表情でなににするか考えているトウマルに、グラナーダは口を出さない。そっと髪を押さえ、青すぎる空に目を細めた。 「あ、これでいこう」 「花ですか」 ひさしで影を作っている小舟に、鉢植えが並んでいた。大きい物から小さい物まで様々だ。注意書きによれば、持ち運びやすいよう、包装してくれるらしい。 「安直すぎるか? これとか、運河の青に映えて、夏って感じがしていいと思うんだが」 たっぷりと薄紅色のつぼみをつけた、小ぶりの鉢植えをトウマルが指さす。二日もすれば満開になるだろう。 「花も、色も構いませんが、こちらにしませんか?」 「そっち、満開だぞ?」 「いいんですよ。たぶん、今、最上の状態の物を選んだ方が」 「そうか?」 首を傾けつつも、トウマルは薄紅色の花が満開になっている小鉢を選び、可愛らしく包装してもらった。 「これを渡して、今回の依頼は完遂ですね」 ひとつの確信を秘めて、グラナーダは呟く。 ● 「このからくり細工、仕掛けは単純ながら実によくできているな!」 露店の店主が披露したからくり細工に興味津々の『イザーク・デューラー』を、あおいは一喝した。 「イザークさん! 遊んでいる場合ではないです」 「分かっているとも」 両手を肩の高さに上げ、イザークはあおいに従う。 「でも俺は、少女が喜びそうな物なんて分からないぞ」 「そうかもしれませんが、あの子は贈り物を楽しみに待っているでしょうから、もっと真剣に」 「あおい、レモネードを飲もう」 「聞いていますか?」 肩を怒らせるあおいをなだめ、イザークは近くの小舟の露店でレモネードを二つ購入した。 「どうぞ」 「……ありがとうございます」 素直に受けとられたことに、イザークは驚いた。いつもなら拒否されるのだ。 驚嘆が顔に出ていたらしく、あおいはレモネードをひと口飲んでから、唇をやや尖らせた。 「自分の分は自分で払うべきだと思っています。でもイザークさん、懲りないじゃないですか。だから、任務中は素直に受けとった方が、話が早いかと……。あくまで任務中のみですから」 「それでも俺は嬉しいよ。レモネード、おいしいか?」 「……おいしいです。ありがとうございます」 緩みそうになる頬を抑えつけている様子だったあおいが、かすかに目を見開いた。 「あれ、どうでしょう?」 船頭が小舟を動かし、日用品や雑貨が売られている小舟に接近する。彼女が手にとったのは、 「日傘?」 「はい。少し背伸びをしたくなるお年ごろに見えたので。日傘って、大人の人が使う感じがしませんか? これがあれば、夏場でもお出かけできるでしょうし」 「ふむ。背伸びは君の経験から?」 くすくすと慈愛がこもった笑みをこぼされ、あおいは少し慌てた。 「わ、私のことはいいんです!」 「でもいい案だと思うよ。ワンピースが白かったし、日傘も同じ色でいいんじゃないか? これなんか、レースや花の刺繍があって、陽光によく映えるだろう」 「いいですね、可愛らしいです」 素敵な日傘を手に、あおいは顔をほころばせた。 ● アユカと『花咲・楓(はなさき・かえで)』は、商品を並べた小舟の露店の数々に目を奪われていた。 「小舟に乗って回るっていうのが、素敵だね~!」 楽しむアユカの意識は、どうしてもお菓子を中心に販売している小舟に吸い寄せられる。今回、特に気を引かれてしまうのは飴細工だった。この炎天下でも溶けないよう、いろいろと工夫されているようだ。 他には骨董品が気になる。お菓子屋さんだったことは覚えているが、骨董品にもかかわっていたのだろうか。 「うーん。お土産、どうしよっか」 「そうですね。アユカさん、とりあえずこちらを」 「ジュースだ! ありがとう、かーくん」 さり気なく購入した冷たい飲み物をアユカに渡し、楓は浅く頷く。水上マーケットの光景そのものは珍しく、興味深いと思うが、物欲が薄い楓にとってはそれだけのことだった。 「ここの雰囲気が伝わる物がよさそうだけど……」 エキュムはきっと、小舟にも乗りたかったのだろうとアユカは思う。どうしてそれが叶わないのかは、分からないが。 「あの少女は、私たちが一番素敵だと思ったものを、と言っていましたが……」 雰囲気が伝わって、素敵な物。 「舟」 楓の呟きに、アユカはきょとんとする。 「アユカさんも、小舟に乗って回るのが素敵だと言っていましたよね。それに、水上マーケットの象徴的なものです」 だが、まさか小舟をそのまま渡すわけにはいかない。 「ですから、飴細工で作ってもらうのはいかがでしょう」 「おおー! かーくん名案! そうしよう!」 行違いかけた飴細工売りの小舟を呼びとめると、店主は快く、そして手早く小舟型の飴を作ってくれた。炎天下でもどろどろになりづらい、独自の製法をアユカは真剣に聞く。 「すごくたくさん、工夫されてるんだね」 「私にはよく分かりませんが、素晴らしい技術でした」 購入した飴細工を自分で作った日陰で守りつつ、真面目な表情で首肯するアユカを、楓は眩しい思いで見つめる。 さり気なく、自分の影にアユカが入るよう、気遣うことも忘れなかった。 ● 「お帰りなさい!」 木陰で待っていた少女に、浄化師たちは購入したものを渡していく。 「私たちからはオルゴールを。ポプリも入っている」 「いい香りだわ」 香りを胸いっぱいに吸いこんだエキュムは、オルゴールを大切に右手で持つ。優しく笑んだガルディアの横顔に、グレールは一瞬だけ瞠目してから目を細めた。 「私たちからは、ペンダントを。マーケット、とても綺麗だったわ。今度は一緒に行きましょう?」 「うん、いつかきっとね」 頬を緩めたリチェルカーレが、エキュムの首に飾りをつける。 「私たちからは……、髪飾りを……」 「かわいいイルカさんだわ」 結んでというエキュムの視線に応じ、アリシアは少女の髪を掬い上げた。 「待って、わたしたちからも髪飾りなの!」 「そっちも素敵! どっちもつけて」 セアラが慌ててビーズと石の髪飾りを出す。アリシアと相談しつつエキュムの髪を結ぶと、髪飾りは最初から二つでひとつだったように綺麗に調和した。 「私たちからはビーズの手作りブレスレット。夏は毎年くるけど、今年の夏はこれきりだから。今のあなたにって思って」 「すごいわ、作ったの?」 朱輝が少女の細い手首にブレスレットを飾る。 「俺たちからは花を」 「素敵だわ」 満開の花が咲く鉢植えを、トウマルはためらいつつ渡す。少女は大切そうに鉢植えを左腕で抱きしめた。 「私たちからは、日傘を」 「お日様によくなじんで、綺麗だわ」 あおいは日傘をぱっと開き、エキュムの左手に持たせてやる。 「わたしたちからは、飴細工よ。小舟の形なの」 「まぁ!」 オルゴールを腕に抱え直し、エキュムはかすかに震える右手で飴細工を受けとった。 「いつか、乗りたかったな」 「……体が……」 ガルディアがかすかに目を見開く。エキュムの体が、半透明になったのだ。 「私、素晴らしい贈り物をたくさんいただいたわ。本当に、ありがとう」 そう言い残して、少女はついに贈り物とともに消えてしまった。 「えぇ!?」 声を上げたのはアユカだ。楓は予想がついていたため、それほど動揺しない。 「そういうことか」 クリストフは呟き、アリシアは衝撃を隠すように片手でそっと口を覆った。 「消えちゃった……。なんだか、白昼夢みたいな子だったわね」 「まァ、夏ですからね。幽霊も出るでしょうよ」 みんなが、大人になれるわけではないのだ。 朱輝の呆然とした声にキリアンが応え、セアラは息をつめた。 「幽霊……」 「白昼夢だったなら、エキュムにとってこれはいい夢だったのかな。夢は、幸せな方がいいからさ」 「そうね。そうだって信じましょ。……おやすみなさい、いい夢を」 碧希の言葉に、朱輝は手を祈りの形に組みあわせる。 「彼女、喜んでくれたんでしょうか?」 「持って行ってくれたからね。喜んでくれたんだと思うよ。彼女はこれから、自由にどこにでも行けるんだ。みんなからのプレゼントを持ってね」 あおいの少し震える声に、イザークは柔らかな声音で返した。 「ここにきたかったんだろうな」 涙をこらえ、しがみついてくるリチェルカーレの背を、シリウスが軽く叩く。 「今度、墓参りに行ってやろう」 「次は違うものを持って行くわ」 リチェルカーレは大きく頷いた。 「素敵な思い出として、残っただろうか」 「ああ。生まれ変わっても忘れないだろう」 切なさを垣間見せるガルディアに、グレールは肯定を返す。 「グラ。アンタ、知ってたか?」 トウマルの問いに、グラナーダは曖昧な笑みで返すだけだった。ただ、普段はすぐに帰る彼は、嘆息するトウマルに珍しくつきあっている。 水上マーケットには喧騒が満ちていた。暑い空気を払おうと川風が吹き、それに人々の賑やかな声が乗る。晴れ渡る空は果てがなさそうなほどに高い。 浄化師たちはしばらく、その美しい光景と騒がしさに身をゆだねた。
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*** 活躍者 *** |
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[7] アユカ・セイロウ 2018/08/15-23:05
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[6] 鈴理・あおい 2018/08/15-22:18
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[5] アリシア・ムーンライト 2018/08/15-08:58
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[4] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/14-20:51
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[3] ガルディア・アシュリー 2018/08/14-09:52
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[2] トウマル・ウツギ 2018/08/14-09:19
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