~ プロローグ ~ |
連日、茹だるような暑さが続くこの夏。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
ここまでプロローグを読んで頂きありがとうございました。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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このかき氷…綿雪の様だね 二ホンでも中々見ない物だね…! よーし、張り切って自分だけのかき氷を作ろー! ベースは抹茶。 あんこは粒あん。粒あんに使用する小豆って精鋭揃いなんだよねぇ 白玉も忘れずにね!みかんとさくらんぼのシロップ漬けもトッピング 一見普通の宇治金時だけど…ふっふっふ。これで終わりじゃないよ! チーズクリーム入りホイップクリームを上からかける! そして味変様に苦めのコーヒーシロップを別器に…あんことコーヒーって合うんだよね 朝日印の和洋折衷かき氷完成だよ! ◆ ある程度食べたら匙を真昼くんに差し出すよ 真昼くん、あーん 味見したいよね?はい、あーん 次は私の番と、口を開けて待つよ んーこのかき氷も美味しいねぇ |
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かき氷:おすすめで 好き嫌いなし・ヨーグルトなど乳製品好き かき氷は美味しく頂く シェア可 これだけあると目移りしちゃうわね 折角だしプロにお任せしようかしら 何ができるかの楽しみもできるし セシルくんは決まった? あ、ごめんね。急かすつもりではないからゆっくり選んで いろんなものがあるもの、悩んじゃうわよね 暑い日が続いているし、こういう催しは嬉しいわね あ、美味しそうだけど、だからといって一気に食べちゃだめよ 後で後悔する事になるから ええ、妹が二人いるけど なんでそんな納得したって顔してるのかしら…? あ、もう。だから言ったのに こういう時はこめかみを冷やすといいんだったかしら はい、ちょっとかがんでね |
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※極度の甘い物好き (アブナイ目で料理人に)『チョコレートソースましましメープルシロップがけシロップ全盛りスペシャル』で…! (料理人に甘い物を摂りすぎと注意されつつも構わず一口) 美味しい…冷たい…幸せだ… ほら、ララ。君も、あーん(スプーンにかき氷を乗せてララエルに差し出す) そうだね、間接キスだね。 大丈夫だよ、それにそうなったら 君が看病してくれるんだろ? (かき氷を食べながらクスクス笑い) 嘘つけ、僕だって君を放っておけないのに。 ララは甘いかき氷みたいだね。どんどん欲しくなる… って、何を言っているんだ僕は…! わ、忘れて。 僕のかき氷も折角だから皆にシェアしてこようかな? |
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かき氷 半おまかせ ヨ シンプルでさっぱり系 酒× ベ 桃にアルコールどばー ヨ:これは教団での正式な催しですし参加するのが務め… べ:(面倒臭い奴だ ヨ:ベルトルドさんそれお酒じゃ(非難の目 ベ:何だ、味見したいのか? ヨ:違います 少しだけ良い気分になってるベルトルド ベ:大体、お前は何でもかんでも真面目に構えすぎなんだ ヨ:もう。何ですか、別に悪い事じゃないでしょう ベ:(大げさな溜息)この間の夜はあんなに可愛らしかったのにな スプーン落とし ヨ:…は?え、ちょっと…、な、なんて言い方してるんですかっ ベ:(にこ)いつもそういう素直な反応の方がいいと思うぞ ヨ:…スプーン取り換えてきます(逃げ 両者シェア可能な範囲で〇 |
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※交流・アドリブ歓迎 一杯目(少量:スイ 二杯目:白熊風(デザインも白熊) 料理人の人達が懸命に準備してくれたのなら、氷もおいしいと思って まずはそれを味わおうと…っ シェアですか?さすがにスイだと寂しいですよね では白熊風に。 形も熊の顔にして目や頬も飾付け、くずせば中に冷凍フルーツ 誕生日でもないのに豪華なトッピングにしていいんでしょうか… 男の人ってかき氷もいっぱい食べるんですね 父は病気味で小食だったし、一人っ子なので分け合う事も無かったです …ではいただきます(少量づつもらう 温かいお茶もってきますね、お腹壊すかもしれないから (他の人達も用意する) 人と色々違うって…決して悪い事ではないのかもしれないですね |
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●ユン (シロップ選びに悩むフィノの姿をぽけ~と見つめ) 可愛い… えっ、なんでも、ないない あたしは、濃ゆい、抹茶の蜜を、たっぷり 周りに、白玉、小倉、抹茶餡 てっぺんに、小倉ホイップ、抹茶ホイップ、盛り盛り ニホン風、かき氷、です フィノくん、かき氷まで、可愛い 完成、したら、皆で、試食会 目指すは、制覇 でも、食べちゃう前に、お写真、お願いします、えへへ この機会に、勇気、出して、皆さんとも交流、したいな(ぐっと気合入れ) あたし、デフォルメで、モノクロだけど、覚えた皆さんの、かき氷の絵、描きます 狼ロスさん、もふもふ、撫でながら お片づけも、手伝うね あたし、お腹平気、なので (フィノに勝ち誇りながらモップ掛け開始) |
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◆トウマル うーまーそーうー。 飯の時間だぞ、と寮室に声掛けたら 首尾よく釣れたグラ引っ掴み食堂へ。 水分補給大事だぜ? ご希望は? 苦手な物はございますか? 返答に満足しグラは席につかせとく 俺用、一皿目は素氷でふわっふわ堪能。 二皿目は全盛り……皿から食み出そうだな、 半分盛り×2? 次は「おすすめで」好きにやってくれ グラ用は果物や白玉を少量ずつ でも出来るだけ多くの種類盛り付け 最後に氷ふんわり乗せて貰う 2、3杯しか食えないだろうし 1皿で色々味わえる方がいいだろ 俺まだいけるかな ハワイアンブルーにマンゴー乗せて 夏の定番押さえときてぇし……美味いぞ? アンタにそっくりな色なのに嫌うなよ 目。全然あったかそーじゃないとこも |
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■目的 ロス:まったり ティ:キラキラ綺麗なカキ氷!(目輝かせ ■カキ氷 ロス:珈琲フロート 「甘いモノ嫌いじゃねぇけど珈琲には弱ぇ滅多に飲めねぇしなー(ほんわり ティ:ブルーハワイをベースに凍ったベリー(主にブルーベリー・ラズベリー)乗せてく 「こうシャリシャリ感と鮮やかな青!シロップはともかくベリーが余り甘くないのが難点です ■シェア ロスは苦め、酒系、腹が膨れそうなのから ティは甘そうなのパフェっぽいのから ■狼・スキンシップ ヨナの隙をついて狼形態で足元にじゃれ付き そのままグイグイと皆の方へ押しやる ワリと遠慮なく 場合によっては背中に圧し掛かってGOGO フィノやユンが近付き次第巻き添え 俺の天国! スキンシップ好き |
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~ リザルトノベル ~ |
「夏といえばかき氷だな!」 「よーし、張り切って自分だけのかき氷を作ろー!」 「おー!」 常よりもテンション高めの『降矢・朝日』に合わせて、パートナーの『籠崎・真昼』も腕を一緒に挙げる。 カウンターに「かき氷二つお願いしまーす!」と朝日が指を二本立てる。 「このかき氷……綿雪のようだね」 削られた氷がガラスの器を雪化粧していくのをワクワクしながら朝日は眺める。 「ニホンでも中々見ないものだね……!」 朝日が感嘆の声を上げながら、山盛りのかき氷を受け取る。 「真昼くんはおすすめだっけ?」 「ああ。酒も気になるが……俺は旬の桃を贅沢に使ったかき氷に惹かれたよ。ただ……何か一捻りしたいな」 「真昼君印のかき氷楽しみにしてるね!」 弾んだ声の朝日に真昼をつられて笑みを浮かべる。 「朝日ちゃんは、どんなかき氷を作るんだ?」 「ふっふっふ。それはできたときのお楽しみだよ、真昼くん」 「そうか! 楽しみにしているぞ」 にっこりと満面の笑みを浮かべた朝日が大きく頷く。 そのまま嬉しそうにかき氷を持った朝日がビュッフェの方に小走りで去っていく。 「見本にあった桃のかき氷を……飾りの桃を炙るって可能だろうか?」 真昼が尋ねると、料理人はできますよと返事する。 「かき氷では中々香ばしさを味わえないから挑戦してみたいと思ってな」 それならと料理人はある提案をするのだった。 一方、朝日はウキウキとした足取りで、かき氷を盛りつけ始めていた。 ベースは抹茶。故郷を思い起こす馴染み深い味。自分も好きな味だが、どうせなら真昼にも味わって欲しかった。 「あんこは粒あん、と。粒あんに使用する小豆って精鋭ぞろいなんだよねぇ」 初夏の新緑を思わせる抹茶の横に粒あんを添える。 みかんとさくらんぼのシロップづけもトッピングして彩りを鮮やかに。もちろん白玉は忘れずに。 一見普通の宇治金時だ。これで終わる筈がなく、さらに上からチーズクリーム入りのホイップクリームをかける。 後から味を変えて楽しむことができるように苦めの珈琲シロップをソース入れに。 あんこと珈琲。意外な組み合わせだが、よく合うのだ。 「朝日印の和洋折衷かき氷の完成だよ!」 朝日は額を拭いながら、出来上がったかき氷に満足げに見る。カウンターの方から真昼が自分を呼んでいることに気づいた。 「朝日ちゃん、ちょっとこっちに来てくれ」 「どうしたの、真昼くん? わっ、すごい!」 真昼が手招きすると、カウンターの奥を指さした。 渋い陶器に盛られたかき氷をふんわりとしたメレンゲが覆う。それを料理人が唱えた魔術が発動し、青い炎に炙られて焦げ目がつけられていく。 炙り終われば、その上から料理人が薄くスライスした桃を花状に盛りつける。 完成すると、再度青い炎で桃を炙る。鼻先をくすぐるのは芳しい香り。予めキャラメリゼできるよう下準備されていた桃は表面をカリカリに焼き上げられていく。 朝日は子供のように夢中で作業を見ていた。そんな朝日を見守りながら真昼も楽しげだ。 パシャッ。 どこからかそんな音が聞こえた。音が聞こえた方向を見ると、『シンティラ・ウェルシコロル』が写真を撮っていた。 「あ、すみません。勝手に撮ってしまって、素敵な光景で、つい……」 「気にしなくとも大丈夫だぞ」 カメラを抱えたままぺこりとお辞儀するシンティラに真昼が軽く手を振る。 「おぉ、スゲーいい匂い。桃の匂いとめっちゃ甘いいい匂いがする!」 『ロス・レッグ』も先ほどの光景を見ていたのか、尻尾をぶんぶんと振る。 出来上がったかき氷がカウンターに置かれると、すぐさまシンティラが写真を撮り始める。ロスの方は今にも涎を垂らしそうな顔でじっとかき氷を見ていた。 「どうせなら、食べるか?」 「おう! って、マジで!? ありがとな、真昼!」 かき氷をじっと見ていたロスがぐるりと振り返ると、上機嫌に尻尾を先ほどよりもぶんぶん早く振る。 苦笑い気味の真昼が持ってきた二つのスプーンの片方をロスに渡す。 「あ~いいなぁ。私にも後で分けてね、真昼くん。私の分も分けるから」 「うん、後で交換しような」 朝日と真昼がお互いに約束していると、 「ロスさんがすみません。……ところで、朝日さんのかき氷も写真に収めていいでしょうか?」 朝日印のかき氷に目を輝かせて見つめるシンティラ。朝日は一にも二もなく満面の笑みを浮かべて了承した。 「写真ができたら、後で見せて欲しいな」 「はい、是非!」 二人は楽しげに笑い合った。 ● 「これだけあると目移りしちゃうわね」 『イザベル・デュー』はビュッフェ形式のテーブルを回りながら困ったように頬に手を当てた。 (とりあえず桃……、ああリンゴも捨てがたいし。いっそ全部、はちょっと食べきれないかもしれないし……) 隣を歩く『セシル・アルバーニ』はもっと真剣に悩み込んでいた。イザベルの言うとおり、あれもこれもと目移りしてしまう。自分の腹の許容量を考えるとぐっと我慢して、どれかに絞らなければ食べきれないだろう。 何にするべきか考え込むセシルにイザベルが声をかける。 「セシルくんは決まった?」 「あ、すみません。まだです」 「あ、ごめんね。急かすつもりはないからゆっくり選んで。いろんなものがあるもの、悩んじゃうわよね」 はっと振り返ったセシルに、イザベルが優しく微笑む。 「折角だしプロにお任せしちゃおうかしら。何ができるかのお楽しみもできるし」 「そうですね。うーん、俺もお任せにしてみます、これだといつまでも決まらなそうで……」 困ったように頬をかくセシルに、イザベルも分かるわと頷く。二人はかき氷を頼みにカウンターに向かうのだった。 ● 「『チョコレートソースましましメープルシロップがけシロップ全盛りスペシャル』で……!」 呪文のような言葉を詰まることなく注文する『ラウル・イースト』は明らかに危ない目をしていた。 最初料理人は冗談だと思い、真剣に受け取らなかった。むしろ食べ物で遊ぶのはやめなさいと窘めさえした。 だが、残念なことに彼は本気だった。 甘いものの摂りすぎは良くないと注意しても「大丈夫です」と繰り返すラウルに次第に料理人も顔を引き攣らせる。 あ、やべえ。本気で言ってるわ。 トッピング全盛りなら、百歩譲って理解できる。だが、シロップ全掛けにチョコレートソースやメープルシロップまでかけるなど、もはや甘味の暴力だ。 若人よ、それは蛮勇だ。今ならばまだ引き返せる。 料理人もそう忠告したかったが、ラウルが「僕の考えた最高のかき氷なんです」と満面の笑みと共に告げられ、目を逸らした。諦めた、とも言う。 ……もう手遅れだったんだ。 そう自分に言い聞かせて真顔で凶器――狂気のかき氷を作り始める。 調理人がせめて食べられるものをと修正をはかろうとする瞬間を狙ったかのように、さらなるラウルの追加注文が飛ぶ。 ところでシロップのラインナップから想像できると思うが、シロップ全掛けはただのダークマターである。 何事にも限度というものがあるのだ。 ラウルのパートナーである『ララエル・エリーゼ』がカウンターに顔を出したとき、料理人の間に緊張が走る。 「料理人さん、えっと……夏だから、メロンのシロップとかありますか?」 料理人達は歓喜した。 もちろん「あります!」と即答だ。 「わーいわーい、じゃあそれをお願いします!」 まともだ。まともすぎるぐらいまともなかき氷だ。 やっぱりさっきの注文がおかしかったんだよ。 料理人達は感謝の念を込めて素早く作り上げると、メロン味のかき氷をララエルに手渡した。 「ありがとうございます」 可憐に微笑むララエルに料理人達はこちらこそ常識を取り戻してくれてありがとう、と言いたい気分だった。 少し遅れて、ラウルの方もかき氷が出来上がっていた。 彼のかき氷の周辺だけ異様な気配を纏っていた。何ともいえないどす黒い色味のかき氷にどろりと流れるチョコレートシロップとメープルシロップが嫌なアクセントをつけていた。 上機嫌にかき氷を持つラウルは、渡した料理人の目が死んでいることに気づかない。 先にテーブルについていたララエルの目は否応なく暗黒物質――ラウルのかき氷に引き寄せられる。 「ひっ……! あ、あの、ラウルそれは……」 「え? かき氷だよ」 「わ、私が知ってるかき氷と違います……!?」 怯えた様子のララエルに気づくことないまま、ラウルは何の躊躇もなく口に含む。 「美味しい……冷たい……幸せだ……」 恍惚とした目で幸福に包まれた表情を浮かべるラウルにララエルはがたがたと震えていた。 「だ、誰かー! ラウルがラウルが……!?」 ララエルの悲鳴に気づいたロスとシンティラが何だ、何だと駆けつける。 「ロスさん、シンティラさん、助けて下さい! ラウルがっ……!」 ララエルは飛びつくように狼姿のロスに抱きつくと、悲痛な声でラウルを指さす。正確にはラウルが食べているかき氷を。 「……おおぅ、これは暗黒物質?」 「ロスさん、しっ!」 ロスの素直な感想にシンティラが人差し指を口に寄せる。三人はうっとりと食べ続けるラウルを余所に、こそこそ話し合いを始める。 「このままじゃラウルがとーにょー病になっちゃいます! そんなの嫌です~!」 「どうしたらあんな色になるんですか?」 泣きつくララエルの頭を撫でながらシンティラが冷静に観察する。 「うぅ、ラウルったら、シロップを全部かけたみたいで……」 「それだけですか? 見る限り白っぽいのが練乳でしょうか。あの紫っぽいのは一体なんでしょう? もはや色々混ざりすぎて謎の液体に見えますね……」 「でも、見た目はアレだけどラウルがばくばく食べてるところを見ると、意外と美味いんじゃねえの? すっげー鼻が利かなくなるくらい甘ったるい匂いがするけどな!」 好奇心を刺激されたのか、ロスは人型に戻り、 「なぁ、ラウルー、俺にも一口くれよ」 「ロスさん、あなた勇者ですか!?」 シンティラが止める暇もなく、ロスが口を開ける。 「どうぞ、ロスさん。とっても美味しいですよ」 ラウルはスプーンいっぱいに掬うと、善意でスプーンを差し出す。 食べた瞬間、ロスの舌は痺れた。そう甘味の爆弾が暴発したのだ。ロスは急に地面にごろごろ転がると、弱々しい声で「水ぅ……水をくれ……」と呼びかける。 シンティラは慌てて水を持ってくると、奪うようにがぶ飲みする。まるで砂漠の遭難者のような有様だった。 「ヤバい。脳味噌がとろけるかと思うくらい甘かった。マジでヤバい。とにかくヤバい。ヤベェ……」 語彙力が死んだように真顔で「ヤバい」と言い続けるロスに、シンティラとララエルは戦慄する。 そんな中でラウルだけが幸せそうにかき氷を頬張っていた。 ● 「これは教団での正式な催しですし、浄化師として参加するのが勤め……」 『ヨナ・ミューエ』は、そう自分に言い聞かせるように呟くが、賑やかな食堂を前にして居心地の悪さを感じていた。 (……面倒臭い奴だ。楽しめる時こそ純粋に楽しむべきだと思うんだが、俺が言っても反発しそうだな) 入り口付近で中の様子を伺うヨナに気づいたが、どうにも『ベルトルド・レーヴェ』は相方を持て余していた。 先に催しものに参加していたベルトルドの手には、ブランデーの掛かったかき氷がある。 どっぷりと掛かったブランデーは贅沢でこんな時でなければ、飲めない品だ。琥珀色に美しく輝くブランデーは、口当たりがよくまろやかだ。そのブランデーに予め漬けておいた桃もかき氷の中に入っており、桃の香りと味が混ざり合って、豊かに膨らんでいく。 良質な酒の味わいに上機嫌なベルトルドはヨナに近づく。 「中に入らないのか? かき氷美味しいぞ」 「……ちょうど入ろうと思っていたところです」 不意に、ベルトルドから嗅ぎ慣れない木樽の香りがする。 ベルトルドの持っているかき氷から香りが発するのに気づき、ヨナは目を細める。 「ベルトルドさん、それお酒じゃ」 「何だ、味見したいのか?」 「違います」 非難の眼差しもあっさりと受け流すベルトルドに、ヨナは憮然と答える。ヨナがひっそりと末席に着くのに付き合って、ベルトルドも隣に座る。 「大体、お前は何でもかんでも真面目に構えすぎなんだ」 「もう。何ですか、別に悪い事じゃないでしょう」 眉根を寄せるヨナにベルトルドが大げさに溜息をつく。 「この間の夜はあんなに可愛いらしかったのにな」 がたりと席が揺れ、テーブルに手を突いたままヨナは立ち上がった。ベルトルドの聞こえよがしな言い方に動揺し、ヨナの顔は耳まで真っ赤だった。 「あの時、俺の尻尾を握りしめて離さなかったじゃないか」 「……は? え、ちょっと……、な、なんて言い方しているんですかっ」 「いつもそういう素直な反応の方がいいと思うぞ」 先日の肝試しのことを揶揄っているのだとすぐに分かった。ベルトルドの余裕ありげな笑みが腹立たしい。 今すぐ否定したいけれど、これ以上このことを蒸し返されるのも嫌だった。 「……かき氷頼んできます」 そのままヨナは逃げるように立ち去った。 ● 「スイって砂糖水?」 「はい、料理人の人達が懸命に準備してくれたのなら、氷も美味しいと思って。まずはそれを味わおうと……」 小さな器にこぢんまりと盛られたかき氷は色味もなく素氷のようだった。 「いつもの余計なものは必要ないという話かと思ったら……本当だ。素直に氷の味を感じられるね」 一口含むと、ふんわりと舌で溶ける氷の仄かな甘み。 『イザーク・デューラー』は感心したように声を上げる。その横で、パートナーの『鈴理・あおい』はちまちまとスイを味わっていた。 「……こういうのを粋っていうのかもしれないな」 「粋なのかどうかは分かりませんが、小さい頃から食べ慣れた味なので」 「思い出の味ってことか。どうせなら、皆にもこの味を知ってもらったらどうだろう?」 ほら、と目を向けた先には楽しそうにかき氷を交換しあう浄化師達の姿があった。珍しくあおいも興味を引かれたようでじっと眺めている。 「他の人がどんなかき氷を作るか気にならないか。皆楽しそうだ」 「シェアですか? ……私はいいです、そんなに食べられませんし」 あおいは困惑したように食べ終わった小さな器を見る。 「だからこそシェアしあうんだろう?」 イザークの不思議そうな顔にあおいは口ごもる。 「それに知らないことを知るというのは、自分の世界が広がった気がしないか?」 「そういうものでしょうか……」 「せっかく料理人が用意してくれてるんだし、色々選んだ方が喜ぶと思うよ」 「なら、さすがにスイだと寂しいですよね。では白熊風にしてみます」 「俺は色々と珍しいトッピングも入れてみようかな」 イザークに後押しされ、あおいは二杯目のかき氷を作り始める。 スイのかき氷をベースに。かき氷の中にも冷凍フルーツを。 中を崩して見たとき、彩りが鮮やかに見えるようにとイチゴやパイナップル、キウイ、桃など様々な果物を迷いながら選んでいく。 再びかき氷を丸くなるように盛りつける。顔の中心部にバニラアイスを、耳にはオレンジ。白熊の形ができあがり、目と鼻にはチョコレートを置く。マシュマロにチョコレートペンで肉球をかき、左右に添える。 そうしたら、愛らしい白熊の出来上がりだ。 「誕生日でもないのに、こんな豪華なトッピングにしてもいいんでしょうか……」 作業中は楽しんでいたあおいもかき氷が出来上がると、なんだか後ろめたいような罪悪感を覚えてしまう。 そんな感情も背後から聞こえた黄色い声に吹き飛んでしまう。 「わあ、可愛いです! シロクマがいます!」 「きらきらしてるだけじゃなくて、こんなに可愛らしいかき氷もあるんですね」 愛らしい白熊のかき氷に目を輝かせたララエルとシンティラが興奮気味に声を上げていた。特にシンティラはうっとりした目で白熊を眺めている。 自分が作ったかき氷を誉められて嬉しいやら照れくさいやらで。どんな顔をすればいいのか分からず、あおいは困ってしまった。 「あおいさん、是非写真を撮らせて下さい!」 「は、はい! どうぞ!」 シンティラの勢いに押されて、あおいは思わず頷いてしまう。 すると、シンティラはすぐさまカメラを構え、いろんな角度から写真を撮り始めるのをあおいは呆然と見ていた。 ● 「うーん、どれにしようかな。多すぎて迷う」 『フィノ・ドンゾイロ』シロップを前にして「これもいい、でもあれも」と悩む。その姿を『ユン・グラニト』はぽけーと見つめ、 「可愛い……」 「なんか言った、ユン?」 「えっ、なんでも、ないない」 振り返ったフィノにどきりとしつつ慌ててユンは首を振る。 思わず本音が零れてしまった。幸いなことにフィノには聞こえていなかったようで、ユンは胸を押さえてほっと息をつく。 シロップ選びに戻ったフィノは首を傾げつつ、 「? なんだよユン、ヘンなヤツ。いつもだけど」 そう呟くと、いくつかのシロップに目当てを絞り始めた。 「決まり!」 フィノが手に取ったのは桜シロップだった。桜シロップは糖蜜と桜の花だけのシンプルなフレーバーだ。 ふわふわのかき氷の周りにある桜の花と葉の塩漬けが桜の枝を連想させる。その合間にチェリーを飾る。 フィノはシロップを豪快にかけるとほんのりと淡い桜色に染まる。そこに練乳をかけ、桜色のフジヤマの完成だ。 夏に在る 春の陽気の 和の風味。 「……なんてね」 「フィノくん、かき氷まで、可愛い」 背後から急にユンの声が聞こえて、さっきの聞かれたかと慌てて振り返る。 「何だよユン。までって何さ」 聞かれてはいなかったことに安堵すると同時に、フィノは可愛いと言われてふてくされる。 「あ! ユンもニホン風かよ」 「あたしは、濃ゆい、抹茶の蜜たっぷり、てっぺんに、小倉あんホイップ、抹茶ホイップ、盛り盛り。トッピングは、白玉、小倉、抹茶あんだよ」 一息で言い切ったユンはかき氷を大事そうに抱えて、えへんと胸を張るのだった。 ● 「うーまーそーうー」 『トウマル・ウツギ』がビュッフェを目にした途端、目の色を変える。端の方にある温かい飲み物や食べ物もしっかりとチェック済みだった。 飯の時間だぞ、との相方の寮室に声を掛け、首尾良く釣れた『グラナーダ・リラ』の首根っこを引っ張り、意気揚々と食堂に向かう。 食堂までの道のりで、 「水分補給は大事だろ?」 真面目な顔してそういうトウマルに、リラは抵抗するのは無駄だと悟った。 (時間の感覚が鈍っていたせいか、うっかり引っかかってしまいました。しかし、本当に食べ物のことに関しては目敏いですね……) 食べ物を前にしてご機嫌なトウマルは、執事のように椅子の後ろに回って引き、リラが腰を下ろす。 エスコートするトウマルは、冗談めかして尋ねる。 「ご希望は? 苦手なものはございますか?」 「……食べられないものはありませんが、量はくれぐれも少な目で」 リラからのオーダーに満足げに頷いたトウマルは足取り軽く歩いていく。 最初はふわっふわのかき氷を堪能する為、素氷だと決めていたトウマルは時間のかかるリラ用を作り始める。 最初は半分ほどふんわりとした氷をいれ、様々な果物を入れようとした手が止まる。 (2、3杯しか食べれないだろうし、1杯で味わえる方がいいだろ。なら、味変か?) 果物の代わりに少量の白玉とわらび餅。隠し味にレモンピールを少々。 再度ふんわりとかき氷をかけてもらい、さっぱりとしたほうじ茶のシロップをかける。最後にきらきらと光るレモンゼリーをてっぺんにかけ、輪切りにした蜂蜜レモンを飾る。 ソース入れは二つ。レモンのさっぱりしたさわやかな味を楽しんだ後に、ミルクティー風を楽しめるように生クリームをたっぷりと。 トウマルから渡されたかき氷は、存外見目よく盛りつけられていた。 リラは香ばしいほうじ茶のかき氷を一口含む。 氷が口の中で儚く融けていく感覚は心地よく、ほうじ茶の蜜は苦みや渋みが殆どない。ほうじ茶本来の甘みを楽しめるかき氷だ。 「……思ったより喉の渇きを覚えていたようです」 ほっと一息つく心地を覚えている間にも、トウマルは素氷をあっという間に食べ終わり、もう一皿取ってくると言って、ビュッフェの方へと行ってしまった。 「よく働くしよく食べますね……」 自身も温かい飲み物を確保しておく為に、席を立つのだった。 ● 「わ、ちょっ、ロスさ……」 もふもふからの不意打ちを食らったヨナは、最後まで言葉を言えず、されるがままじゃれつかれる。 暫くして解放されたヨナは、ロスと目線を合わせるようにしゃがみ込み、 「もう何ですか、いきなり……」 触り心地のいいロスの頬をむにむにと変顔にして遊ぶ。今度はロスがされるがまま遊ばれるが、抵抗することはなく見事にだらけていた。 「ロスさん、ここにいたんですか。ヨナさんに遊んでもらってたんですね」 「この間はその、ご迷惑おかけしました」 ロスの頬で遊ぶのを止めて立ち上がると、シンティラに向かって申し訳なさそうにヨナは謝った。最初は何のことを謝っているのか分からなかったシンティラだが、先日の指令の件を思い出す。 「ああ、猫さんの時のことですね。あれはロスさんも悪いのでお相子です。気にしないで下さい」 二人は犯人を捕まえるために、路上で大騒動を起こした。 もちろん教団からは厳重注意。何時間もの説教を正座で受けることになった末に拳骨を一発もらい、反省文を書かされた後日談が残っている。パートナーも一蓮托生だっただけに余計に申し訳なかった。 「私達写真を撮って回っていて、今からかき氷を頼みに行くんです。ヨナさんは?」 「ティが写真撮ってる間、俺はいろんな奴から一口もらったけどな」 「ロスさん皆さんの分まで食べ過ぎないようにして下さいね」 「おう、分かってるって。一口だけって約束だもんな!」 楽しげな二人にヨナがおずおずと口を開く。 「……あの、私も一緒に行っていいですか? まだかき氷頼んでないんです」 「じゃあ、一緒に行こうぜ!」 ロスが鼻先を押しつけて、ヨナを引っ張る。 「ヨナさんは何を頼むんですか?」 「私はおまかせで、さっぱり系にしてもらおうかと」 「それもいいな! 俺は珈琲フロートだ。甘いモノ嫌いじゃねぇけど珈琲には弱ぇ、滅多に飲めねえしなー」 場に馴染めなかったヨナもロスのほんわりとした雰囲気に肩の力が抜けていく。 「私はブルーハワイをベースに凍ったベリーを乗せます。こうシャリシャリ感と鮮やかな青! シロップはともかくベリーが余り甘くないのが難点ですね」 カウンターの前で三人はどんなかき氷にするか盛り上がりながら、料理人が氷を盛るのを眺めていた。 ● 「わっ! カメラ初めて見ました!」 シンティラの持ったカメラを興味深そうにフィノは見る。 「おっと危ない……食べちゃうトコだった!」 「食べちゃう前に、お写真、お願いします、えへへ」 フィノとユンが照れたようにかき氷を持って笑う姿を写真に収める。 「この機会に、勇気、出して、皆さんとも交流、したいな」 ぐっと両手に握りしめて気合いを入れるユンにフィノが水を差す。 「そんなこといって、『試食会、目指すは、完全、制覇』とか言ってたの知ってるからな。ユンはそっちが目当てだろ」 ユンの口真似をしながら、意地悪げな笑みを浮かべるフィノ。その顔を思いっきりユンは抓る。フィノも負けずクロスカウンターで、すかさずユンの頬を引っ張る。 「おおぅ、二人のかき氷も美味そうだな!」 「ナイスです、ロスさん」 喧嘩し始めた二人は狼姿のロスの登場で気が逸れる。タイミングよく現れたロスにサムズアップするシンティラ。 「お二人ともまだかき氷食べてなかったんですか?」 「写真を撮るのに夢中になっていましたから……」 シンティラがそっとカメラを撫でる 「可能な限り沢山撮って、後日この日を思い出して皆で語れれば、と思いまして」 「あたしも、デフォルメで、モノクロだけど覚えた皆さんの、かき氷の絵、描きます」 狼姿のロスをユンがもふもふと撫でていると、 「あ、ユンずるいぞ、俺も狼ロスさんを撫でさせて!」 フィノも加わり暫くロスを思う存分もふり、満足したフィノが顔を上げた。 「そうだ! 俺達のかき氷食べませんか?」 「おっ、いいのか?」 狼姿のままフィノにあーんしてもらうと、 「うめぇ! こう桜の香りがぶわーっとしていいな、これ!」 ロスが叫ぶのを、フィノが「そうでしょう」と嬉しそうに笑う。 「俺のも食っていいぞ、あそこにある珈琲フロートだ」 ロスが前足を上げた先には、珈琲フロートとブルーハワイのかき氷が並んである。 ガラスの器の真下には、珈琲ゼリーが敷かれ、上には深煎り珈琲がたっぷりとふわふわのかき氷にかけられている。てっぺんのバニラアイスにはミントが飾られていてお洒落だった。 「じゃあ、遠慮なく」 「無糖の珈琲だからバニラアイスと一緒に食べた方がいいぞ」 (ロスさん大人だぁ……俺ももう少ししたら、きっと……いける筈だ) ロスの助言通り、バニラアイスと一緒にかき氷を食べる。珈琲のいい香りが堪らず一口含むと、まろやかで甘いバニラアイスとコーヒーの苦みがうまくマッチしている。特に珈琲のコクが後を引く。 一緒に食べてみるとカフェオレのような味でフィノでも美味しく食べられた。こうして食べていると自分も大人になったような気分になれる。 「美味しいです、ロスさん!」 「おう、そりゃ良かった。俺は酒のかき氷を頼むって言ってたベルトルドの所に突撃してくるぜ!」 ふははは、と笑いながら狼姿で駆けていく。 「……俺ももう少しで、ほんの少しで大人だ。それまで我慢我慢……」 ベルトルドのお酒のかき氷を味わっているロスの姿を羨ましげに見るが、すぐにくっと悔しげにフィノは目を逸らすのだった。 一方で彼らのパートナーであるユンとシンティラはというと、互いのかき氷を交換し合っていた。 「自信作、どうぞ」 「では、一口だけ」 シンティラはユンから差し出されたかき氷を受け取り、一口含む。 「抹茶の苦みとあんこの甘さが素晴らしいです。和風は心が静まるまろやかさがいいですね……」 シンティラ頬に手を当てて、ほおっと幸せな気分を味わう。 「ソーダ、味の、かき氷、おいしい、です。すごく、夏っぽい……」 涼しげなブルーハワイはすっと口の中を溶ける。食べていると夏の暑さを和らげて喉の渇きを癒してくれている気がする。 ● 「同じ抹茶を頼んだ同士がいると聞いてやって来たよ!」 「なんだか楽しそうなことやってるみたいだな」 うっとりしていた二人に朝日が元気よく声をかける。その連れである真昼も後ろにいた。 「本当、だ。同じ、抹茶、だけど、違い、ますね」 「トッピングが違うだけで大分違うね。味の方も違うのかな?」 「シェア、しても、いいですか?」 「いいよー、実は気になってたんだー」 ユンが遠慮がちに頼むと、朝日は満面の笑みを浮かべて頷く。 「美味しいよ! ホイップが口の中をまろやかにしてくれてる! ホイップを生かす為に私のより苦みのある抹茶を使ってるんだね」 「朝日ちゃん、なんか食レポみたいになってるぞ」 饒舌に語り出す朝日に真昼が突っ込む。 「あたし、抹茶に、レアチーズ、ホイップ、考えたこと、なかった。でも、すごく、合います」 「珈琲とあんこも合うんだよ、是非試してみて!」 「抹茶、奥深い……」 抹茶のかき氷について語り出す二人を真昼は微笑ましく見守るのだった。 ● 「イザベルさんのルビーみたいできれいです!」 「そうかしら、食べてみる?」 「えぇ、いいんですか! なら、私のかき氷も食べて下さい!」 嬉しそうにはにかむララエルにイザベルは妹達のことも思い出してしまう。 イザベルのかき氷は可愛らしく飾られたイチゴシロップの上に、マスカルポーネ、イチゴ、ミルキッシュヨーグルトが添えられていて大人っぽくてお洒落だ。 美しい宝石箱のようなかき氷をスプーンで掬う。 崩すのがもったいない気持ちとこのかき氷を食べられるなんて、と胸が踊る感覚に揺れながら一口食べる。 濃厚クリーミーなマスカルポーネにイチゴの甘酸っぱさ広がる。想像していた以上の美味しさにララエルは目を輝かせながら、感激する。 不意に自分のシンプルなメロン味と比べてしまうと、急に不安になった。様子の変わったララエルをイザベルが心配そうに顔をのぞき込んでくる。 「……どうしたの? 美味しくなかった?」 「そんなことないです! すっごくすっごく美味しかったです!」 「なら、良かった」 イザベルの優しげな微笑みにララエルは心のどこかが暖かくなる。 「あの、私のふつーのメロン味のかき氷なので……」 しょんぼりとするララエルを優しく励ます。 「そんなことないわ、美味しかった。何よりも懐かしい味だったわ」 優しく微笑むイザベルは姉のようだった。身長差もあり、まるで姉妹に見える。 二人のやり取りに隣でずっと見ていたセシルはかき氷を食べながらそんなことを考えていた。 ちなみにラウルはというと。彼が善意で勧めるあのかき氷は、興味本位で手を出した者を撃沈し続けていた。 ● 「おーい、ヨナのかき氷レモン味だって! 食べたい奴は来るんだな、ふははっ!」 「ロスさん! 急に何を言い出すんですか!?」 ロスが皆に聞こえるように叫ぶ。抗議しようとしたヨナだが、その前に興味引かれた他の浄化師がやってきてそれどころではなくなる。 「レモン味なんですか、本当だ!」 「夏に、さっぱり系は、合う……!」 ロスの叫びに最初に釣れたのはフィノとユンだった。 「僕も一口もらっていいですか?」 甘いものに目がないラウルも他の味が食べられると聞き、目を輝かせる。 ヨナは周囲の圧力に負け、自身のかき氷をそっと差し出す。 ヨナのかき氷はさわやかなレモンシロップがたっぷりかけられている。その上にレモンジュレがぷるりと揺れ、輪切りの蜂蜜レモンが飾られている。酸味の強い清涼感のあるかき氷は夏にぴったりだ。 ロスは中々皆の所に混ざりきれなかったヨナの背中にのし掛かったり、ぐいぐい皆の方へと押し出したりしていたが、それでも躊躇するヨナに痺れを切らして最終手段に出たのだ。 多少強引だったがその結果、ヨナも他の仲間達とかき氷を交換し始めるのをのんびりと見守る。 ロスの頑張りにベルトルドがもう一口ブランデーのかき氷をくれた。 ● 「もう混ざらなくてもいいのか?」 「シンティラさん達から一口もらってきたので十分です」 「いや、そっちじゃなくて、てっきりロスを撫でたかったんじゃないかと思ったんだが」 「ち、違います!」 即答する辺り図星をつかれたのだろう。あおいは顔を真っ赤にした。 「そ、それにしてもイザークさんのは豪快な飾り付けですね」 話題を変える為、強引だがイザークのかき氷について言及した。 「だが、あれには負けるよ……」 苦笑したイザークの目線の先には巨大ホールケーキが制作されていた。 「あれはかき氷なんですか?」 「途中から見ていたんだが、スポンジの代わりにかき氷を使っているようだ。あの発想はなかったな」 そのかき氷制作の依頼主はトウマルだった。 最初は彼一人で作ろうとしたのだが、巨大なボールを持ってかき氷を頼んだトウマルに料理人達の間に緊張が走る。 全盛りする、トウマルが口走ったところでその緊張はピークに達した。 先ほど起こった悲劇の二の舞になるまい、と料理人たちが素早く目配せする。 料理人が一人では大変だろうから、と手伝いを申し出る。最初は断ったトウマルだったが、料理人達の異様な熱意に負けて押し切られた。 代わりにトウマルはトッピング用の材料をせっせと運んでいる。 全体はホールケーキのように生クリームで覆われていて、中はイチゴシロップと氷でミルフィーユ状にされ、フルーツタルトのように様々な果物が敷き占められている。 上にはトウマルご希望の全盛りトッピングを料理人が趣向を凝らして、西洋風に飾り付けられている。もう片方のホールケーキ型かき氷はこれの和風バージョンである。 ワクワクしているのはトウマルだけでなく、食堂にいる全員の注目を集めていた。 ● 試食会が一段落した頃、 「真昼くん、あーん」 朝日が真昼に匙を差しだした。突然のことに真昼は動揺する。 「いや、味見したいけど、その形でなくとも……」 「皆のは食べたけど、真昼くんとは交換してなかったと思って。味見したいよね? はい、あーん」 「……あーん」 全く照れた様子のない朝日に動揺している自分の方がおかしいのでは、と思い始めた真昼が口を開く。 「次は私の番だね、あーん」 まるで雛鳥のように口を開けて待つ朝日。上目遣いで見つめられるのに耐えきれず、真昼は目線を逸らしながら匙を運ぶ。 「んー、このかき氷も美味しいね。温かい桃と冷たいかき氷の組み合わせには無限の可能性を感じるよ」 朝日の言葉にも上の空で相槌を打ちながら、真昼は頬の熱さを冷やす為にかき氷を食べるペースを速めるのだった。 ● 「暑い日が続いているし、こういう催しは嬉しいわね」 「そうですね、こういうことなら大歓迎ですよ」 セシルは幸せな気持ちで白桃のかき氷を食べる。とろとろの白桃のシロップは白桃果汁に、すりおろした白桃を合わせてあり、瑞々しい桃の旨みがこれでもかと濃縮されている。 その横には白ワインを使った桃のコンポートの柔らかな歯ごたえが残り、優しい味わいとなっている。シンプルだけど、これならいくらでも食べられそうだった。 「あ、美味しそうだけど、だからといって一気に食べちゃだめよ。後で後悔することになるから」 イザベルから忠告されていたものの、少し遅かった。 溶ける前に早く食べなければと急いで食べていたのが悪かったのか、キーンと頭痛が響き頭を押さえる。 「あ、もう。だから、言ったのに……」 イザベルが眉を下げて笑う。 「こう言うときはこめかみを冷やすといいんだったかしら……はい、ちょっとかがんでね」 イザベルが言われたとおり背を少し曲げると、そっとこめかみの辺りを白い手で触れる。ひんやりとした手は気持ちがよく、なんだか痛みが和らいだ気がした。 (兄よりこういう姉が欲しかった……) 近くに寄ったイザベルからほんのりと甘い香りがする。 「イザベルさんって下に兄弟とかいます?」 「ええ、妹が二人いるけど」 年の差はないのにやけにお姉さんっぽく感じていたのはこれかとやっと腑に落ちた。 「なんでそんな納得したって顔してるのかしら……?」 首を傾げるイザベル。セシルの頭痛は治まっていたが、ひんやりとしたイザベルの手が離れるのが惜しく、暫く黙っておくことにした。 ● 「みなさんのかき氷おいしかったですね、ラウル」 「そうだね。それにしても僕のかき氷だけ何で皆遠慮するんだろう?」 「ええっと……」 首を傾げるラウルから目を逸らし、ララエルはどんな言葉を掛けていいか迷った。 「そういえばララも食べてなかったよね。ほら、ララ。君も、あーん」 「えっ!? 私は大丈夫で……むぐっ」 スプーンにかき氷を乗せてララエルの口を突っ込む。ぐっと飲み込んで涙目になったララエルが叫ぶ。 「あ、あっまーい!? あまい、すっごく、お口の中があまいですっ!?」 「かき氷なんだから甘いのは当然じゃないか?」 痺れるような甘さに混乱するララエルは間接キスをしたことに気づかない。そんなララエルにラウルは少し残念な気持ちを覚える。 「ラウル、こんな……こんなに甘いと体に悪いですよ! ちゅーどくを起こしちゃいます!」 「大丈夫だよ、それにそうなったら君が看病してくれるんだろう?」 「もう、私は知りませんっ!」 ラウルはかき氷を食べ続けながらクスクスと笑い続ける。心配しているこちらの気も知らず笑うラウルに腹が立って、ララエルはぷいっと顔を背ける。 「嘘つけ、僕だって君を放っておけないのに」 「あ……う……」 さらりと言われた言葉にララエルは言葉を失う。未だに口の中を痺れるような甘さが全身に走った気がした。 茹で蛸のように赤くなったララエルをラウルは熱に浮かされたような目で見つめる。 「ララは甘いかき氷みたいだね。どんどん欲しくなる……」 「どんどん欲しくなるって、それって……」 ララエルが反芻したところでラウルは我に返った。 「って、何を言っているんだ僕は……! わ、忘れて!」 温かい飲み物を取ってくるといって席を立ち去る。ララエルは呆然とラウルの背中を見ながら、体中から力が抜けていくのを感じていた。 (やだ、私ったら体が熱くなってる気がします……ラウルからもらったかき氷を食べたせいかな。なんだかすごくあまくてくらくらする……今は冷たいものほしいかも) ララエルはメロン味のかき氷を両手で持って、熱を冷やすのだった。 ● 「俺のは遠慮せず食べていいから」 あおいとイザークは互いのかき氷を交換し合っていた。 「男の人ってかき氷もいっぱい食べるんですね」 あおいはイザークのかき氷を見ながら独り言のように呟いた。 「父は病気気味で小食だったし、一人で分け合う事もなかったです」 「俺とは正反対だな。うちは弟と分け合うのが多くて、多少形が崩れても美味しければよしという考え方だったから」 それはイザークのかき氷を見ていれば、なんとなく想像がつく。 ミルクと蜜がたっぷり掛けられたかき氷には、大きめにカットされたスイカやメロン、バナナ、マンゴー等の様々な果物が乗せられている。さらにシロップ付けのチェリーやレーズン、みかん、四角い寒天が雪の中に埋もれていた。 「……では、いただきます」 かき氷をそっと掬って口に含む。豪快な見た目に反して、素朴で優しい味わいだ。ちぐはぐな感じに思わず笑みが零れそうになってしまいそうになるのを取り繕う。 「あおいが教えてくれなかったら、スイの味も知らなかった」 「人と色々違うって……決して悪い事ではないのかもしれませんね」 「みんな好みは違うけど、その分楽しむことが増えるって事でいいんじゃないか」 イザークの言葉は時折あおいの胸を突く。今まで考えもしなかったことを考えさせられる。夏のひとときはあっという間に過ぎていくのだった。 ● 「トーマにも食べられないものがあるんですね」 「あれはかき氷をしたナニカだ」 真剣な表情でそう訴えた。トウマルはラウル専用かき氷にチャレンジしてみたが、一口で断念した。 (彼が食べられないのだから、よっぽどの味なんでしょうね……) そんなことを他人事のように考えながらリラは温かいお茶を飲む。 トウマルはホールケーキ型のかき氷を食べながら、温かいフライドポテトを交互に食べていた。 「やっぱり甘いものとしょっぱいもの組み合わせは最高だな」 「よくそんなに食べられますね。見ているだけでお腹いっぱいになりそうですよ」 「そうかあ? 西洋風はみんなと分け合ってすぐになくなったし。和風を食べ終わったら、ハワイアンブルーでも食べようかな」 まだいけるな、と平然と呟くトウマルに呆れるのを通り越して感心すら覚える。 「ハワイアンブルーにマンゴー乗せて、夏の定番押さえときてぇし……なにより美味いぞ?」 「青い氷……美味しいですかそれ」 リラは訝しげな表情を浮かべる。 「アンタにそっくりな色なのに嫌うなよ」 「瞳の青色のことですか?」 「そう目。全然あったかそーじゃないとこも」 「その説明ではまったく好きになれそうにありません」 リラはそう言いながらも悪い気はせず、窓から入ってくる夏の日差しに目を細めた。 ● 催しものも終わり人が少なくなる中、参加した浄化師達は片づけを手伝っていた。 一人だけお腹を抱えて背を丸める者がいた。 「うぅお腹が……皆、平気?」 フィノは心配しながらも自分と同じ境遇の仲間を捜すが誰もいない。 (皆結構食べた筈なのに、どうして俺だけ……) 「あたし、お腹平気、なので」 「ユンも平気かよ……誇らしげなのがむかつく」 フィノに勝ち誇りながらモップで掃除するユンに文句を付けるが、ぎゅるるとお腹が鳴る。 「うーっ!?」 腹痛に耐えながら食器の片づけを終えると、心配した仲間達から医務室に行くように促される。片づけを終えたユンと仲間達がフィノを見舞うまで後少しのことだった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[18] シンティラ・ウェルシコロル 2018/08/13-23:33 | ||
[17] イザベル・デュー 2018/08/13-23:02
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[16] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/13-22:40 | ||
[15] ロス・レッグ 2018/08/13-20:41 | ||
[14] ベルトルド・レーヴェ 2018/08/13-19:56
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[13] ロス・レッグ 2018/08/13-18:14 | ||
[12] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/13-14:06 | ||
[11] ロス・レッグ 2018/08/13-08:01
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[10] ベルトルド・レーヴェ 2018/08/13-06:01 | ||
[9] ラウル・イースト 2018/08/13-04:29
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[8] ユン・グラニト 2018/08/13-01:56
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[7] トウマル・ウツギ 2018/08/13-00:10
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[6] 降矢・朝日 2018/08/12-22:42
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[5] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/12-21:04
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[4] イザーク・デューラー 2018/08/12-18:54
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[3] ララエル・エリーゼ 2018/08/12-12:41
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[2] ベルトルド・レーヴェ 2018/08/12-10:21
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