~ プロローグ ~ |
トラノの町に、ベリアルの大群が迫っている――。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
まだまだ暑いですね。今回のエピソードのマスターを務めさせていただく、黒浪 航です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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∇守備隊 守りたいと湧き上がってくる感情はねぇか?その精神をこのまま見殺しにする気か! ■前準備 門が破られた時のバリケード製作 テント毛布、人家から布団借りれれば→クッション スキー板ティの盾にオイル塗り滑り効果 盾等を内側に縄工具と日曜大工アビリ使用 形は↑型 突進衝撃を和らげ狭めた袋小路から抜出し辛く 道には木箱等置き↑型へ誘導 場所は後衛攻撃が届く門の後ろ ∇罠作成後警戒 ロス:狼姿で敵の方へ 匂いや音を聞き敵接近時に遠吠え 人間状態で突進 ティ:触手へ符攻撃 ■陣形(詳細は各々個人で 門前:守備隊ライン状に盾構え敵通さず 前衛:守備隊と一緒or敵へ攻撃 負傷時に守備隊後ろへ下がり手当て 後衛:守備隊後ろ壁の上高見台等へ |
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誰も死んで欲しくない そのためにできることをするわ グランさんから避難場所に使える建物を聞く わたし達は東側の地区を担当 隣人愛情使用 警戒心解いてもらい迅速に避難を 守備隊の人と目が合えば 怖いのわかります わたしだって怖いです でも 皆で助かる方法があるから、わたしはそれを選びたい 待ってます と笑いかけ 東地区の逃げ遅れの無いよう 声かけ 合図に注意 避難完了後門の外へ急行 戦闘時は中衛位置で回復と魔法攻撃 守備隊の人がきてくれたら 町に入れないよう守りをお願い 突進しそうな個体めがけ退魔律令 前衛が攻撃する隙を作る 頭部に横から当てるように できるだけ勢いを削ぐよう 万が一敵の侵入を許せば 3体を超えた時点で町へ 内部の敵の討伐 |
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目的】ベリアル討伐 住民に被害を出さない 行動】 守備隊の説得 グランに町の地図が無いかと四方向の避難場所に向いてる所を聞き仲間と共有 仲間が四方に向かった後説得続行 上手くいったらホイッスルで仲間に合図 それぞれ守備隊のメンバー3人と アリシア→南、リス→西へ 先行した仲間と別方向から誘導を 戦闘】 守備隊には門の前を固めて貰う 魔術真名唱え ア: 中衛から小咒で攻撃 傷ついた仲間には天恩天賜で回復 守備隊の方へ抜けた個体がいればそれを優先攻撃 門が破られたらそれ以上行かれないよう門前に立ち塞がる ク: 前衛 疾風裂空閃を使用 突進してくる敵を後ろへ通さないように盾で弾きつつ剣を突き出して攻撃 テオドアが抜けた後は穴をカバーするように |
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説得 命あっての物種も良心の呵責もまあ分かるが お前等、他人からの評価は欲しいだろう? 実績あってのプライドだろう その指標は金、感謝、功績…そういうもんだ 町を守りきれば覚えがめでたいだろう? 然るべき場所に活躍は報告する 待遇への交渉も手伝う なに。俺は腕が取れても町の人間を守るさ お前達もこの町の一員だろ? 説得終了後は東ブロックへ移動 避難誘導の手伝い 俺とドクターは別方角だが、二人ともはぐれた人間の捜索、パニックの人間をなだめるのがメイン その後の戦闘は門の前面で攻撃 仮にイノシシが入ってくるようなら門前で身を挺して、眼前のワーニングショットで怯ませて町中に入らないよう時間稼ぎを 守れるなら腕の一本なぞくれてやる |
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私じゃ相手を逆上させる恐れがあるから、守備隊の説得は得意な人に任せるわ まずグランに、町民を避難させるために町の地理を聞く 地図があれば見せてもらう 4ブロックに分け、南を担当して避難誘導する この区画で一番安全そうな建物はどこかしら? 誘導中は、はぐれた人や遅れた人がいないか確認しながら行く 戦闘 避難終えたら門の前に戻って魔術真名詠唱 前衛担当 シリウスに倣って、敵をなるべく門から引き離すように立ち回る ダメージを与えるよりも撹乱させること重視 挑発してみて、攻撃力の高い味方の方に誘導 哀れなイノシシさん、私はこっちよ 門を突破され町中に入られたら他の仲間に任せて外にいる敵の足止め これ以上中には入らせないわ |
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避難が済んだら逃げていいとでも言って守備隊3人指名し、西側の避難誘導に向かう。 守備隊の補助となることでここの守り手としての自信をつけさせる。 軌道に乗ったら彼らに後を任せ先に門前に向かう。盾役が遅れちゃいかん。 ・戦闘 前衛が交戦する前の段階で、まずラファエラはDE2で命中上げ迫ってくる敵集団の先頭を撃ち、失速、転倒させ、後続と玉突きを起こさせる。 俺はGK3とタワーシールドで門と後衛の守りに徹する。止めたり逸らしたりした敵を倒してもらい、回復等を受ける為にも中衛、後衛から離れないように。 混戦になったらラファエラは門に近い敵、抜けた敵から狙う。防壁の上に立てればどいつから撃つべきかわかりやすいだろう。 |
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俺だって戦うのは怖いさ。 でも町が危ないって聞いたら、気が付いたら体が動いてた。 あの人達に、あの時力があればって後悔をして欲しくないんだ。 協力があればベリアルのとどめに集中して減らしやすくなる。 町の人の不安を拭えるのも余所者より君達だと伝える。 言葉をかけたら一足先に住民の避難誘導をしに北部へ。 合図があったら門へ。 前衛の端で敵の接近をなるべく押し留めよう。 足元が土なら目潰しは効くだろうか…この状況だし使えるものは使わないと。 後衛の攻撃で体力の落ちている敵をスキル交え優先的に狙う、突出は避ける。 ハルの合図で町へ 守備隊の援護があるなら体力削りを頼む 無理はさせない、生きてさえいれば勝機はあると声掛け。 |
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◆事前 門前で見張り リミットまでの前半は門の外でバリケード作成 高所から見渡せる場所がなければロウハはシュリと飛行 ベリアル襲来を確認次第シュリは魔術通信で仲間全員に通達 方向、陣形、勢い等可能な限りの情報を手短に伝える ◆戦闘 戦闘前魔術真名使用 門の外で戦い敵を食い止める 常に二人行動 門に近い敵から攻撃 交戦を始めた敵は倒すまで攻撃の手は止めない 仲間と離れすぎない 仲間と共闘する場合連携を取る 体力が3割を切ったら後退、回復要請 突進回避不可・門が突進の被害を受けそうな場合盾で防御 ・シュリ ロウハを巻き込む形でMG3 接敵したらMG8 それ以外の場合攻撃 ・ロウハ JM9使用 攻撃に専念、壁役にもなる 緊急を要する場合JM8 |
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~ リザルトノベル ~ |
●愛と誇り トラノの防壁の門前で口論をしている者達をみて、浄化師たちは怪訝な表情を浮かべる。 (服装からして、おそらくはこの町の守備隊員なのだろうが……あんなところで一体何をしている?) 近づいてみると、聴こえてきたのは男たちの怯えきった声。 どう考えても無理だ――相手はベリアルの大群なんだ――犬死だけはゴメンだぜ――。 (ああ、なるほど、な……) すぐさま事情を察した『ショーン・ハイド』は、町から逃げ出そうとする者達の前に立ち塞がっている壮年の男のそばにいき、声をかけた。 「救援を求める狼煙を目にしてやってきたのだが……」 「あ、ああ……よく来てくれた。私は、グラン。この町の守備隊長を務めている者だ――」 グランが、トラノに迫る危機について手短に説明すると、たちまち彼の周囲にいる男たちが言い訳がましい言葉を口にしはじめた。 「せっかく来てくれたアンタらには悪いけどよ……今回ばかりは相手が悪いぜ……」 「そうだ! 戦ったって、こっちに勝ち目なんかねえ。悪いことは言わねえから、アンタらもオレたちと一緒に逃げようぜ?」 「逃げるのが、一番賢い選択なんだ……そう、勇気ある撤退、ってヤツだよ。ここで町を見捨てても、誰もアンタらを責めたりしねえよ」 「……お前たち……」 グランは、ベリアルの恐怖に圧倒され、すっかり誇りを失ってしまった情けない隊員たちに、同情と憐憫が入り混じった眼差しを向ける。 状況が掴めた浄化師たちは、互いに顔を見合わせ、頷き合う。 情報が正しいならば、たしかに迫り来る敵は強大だ。今回ばかりは自分たちだけで対処するのは難しいだろう。 時間的に考えて、今から町を捨てて逃げてももう遅い。となれば、なんとかしてこの町を守り切るしかない。 町を守るためにはここにいる守備隊の協力が欠かせないが、おそらく彼らの説得には時間がかかるだろう。 万一、ベリアルが町に侵入した場合に備えて、ただちに町民の避難を開始しなければならない――。 自分たちのやるべきことが明確になった時点で、『リコリス・ラディアータ』と『リチェルカーレ・リモージュ』が誰よりも早く動いた。 「ベリアルと戦う前に、町の人達には安全な場所に避難してもらう必要があります」 リチェルカーレがいうと、 「避難場所に使えそうな建物を教えて」 リコリスが、グランに冷静な視線を向ける。 グランは一瞬戸惑いの表情を浮かべたものの、すぐに嬉しそうに頷いて、 「あ、ああ! 町の中心にある公会堂と教会なら、石造りで頑丈だし、広さも申し分ない。避難場所としては最適だろう」 明るい声でいった。 「わかったわ。それじゃあ私は、町の南から避難誘導をはじめるから」 リコリスはそれだけいうと、守備隊員たちが呆気にとられたような表情で見つめるなか、ひとりでさっさと町の中へと入っていく。 『トール・フォルクス』は、そんなパートナーを少し困ったような眼で見つめたあと、守備隊員たちの方に向き直った。 「これまでずっとこの町の平和を守ってきたアンタらでも、さすがにベリアルだと分が悪いもんな。逃げ出したくなる気持ちもわかる。だけど、今回はオレたちがいる。オレたちを信じてくれ!」 力強くいったあと、トールは仲間達に頷いてみせてから、リコリスを追って走り出す。 気まずそうな表情を浮かべる男のひとりと目が合ったリチェルカーレは、やさしく微笑み、 「怖いのわかります。わたしだって怖いです。でも……皆で助かる方法があるなら、わたしはそれを選びたい。待ってます」 隊員たちに信頼の眼差しを向けたあと、パートナーの『シリウス・セイアッド』とともに門を抜け、町の中へと駈けていく。 『ロス・レッグ』は、パートナーの『シンティラ・ウェルシコロル』と頷き合うと、守備隊の前で仁王立ちになり、 「守りたい、と湧きあがってくる感情はねえか? その精神をこのまま見殺しにする気か!」 強く励ますような声で叫ぶ。 しかし――、待てども待てども、隊員たちから返事はかえってこない。 ロスは、少し残念そうな表情を浮かべつつも、 「……とにかく、俺たちは最後までやる。んで、アンタらが助けに来てくれるのを信じて待ってっから。……たぶん、町のみんなも」 そう言い残して、シンティラとともに町へ向かう。 「俺も、町民の避難を手伝おう。ここにいても、俺にできることはもうないからな……」 グランがそう呟いてこの場を後にすると、残された男たちはいよいよ困り果てたような表情で互いに顔を見合わせた。 『シュリ・スチュアート』は、そんな隊員たちを見つめて、おだやかに語りかける。 「わたしたちが、この街を守るわ。絶対に。でも……あなたたちが、一緒に守ってくれたら、すごく心強い」 シュリの言葉に、『テオドア・バークリー』が頷き、彼女の隣に進み出る。 「君達は、自分にはベリアルと戦う力がない、と思っているかもしれないが、そんなことはない。君達は、たしかにベリアルにトドメを刺すことはできないが、確実にダメージを与えることはできる。そして、君達がベリアルを弱らせてくれたら、俺たちはヤツらにトドメを刺すことに集中できる。そうなれば、戦闘はずっと効率的になるはずだ。……それに、今、町にいる人々の不安を拭えるのも、余所者の俺達ではなく、君達だ。トラノの町は今、君達を必要としているんだ」 「ああ、そうだ――」 腕組みした『エフド・ジャーファル』は、少し遠い眼をしながら呟いた。 「お前達は、国が亡ぶ様を見たことがあるか? だいたい、こんな感じだ。戦う力をもつ者が、戦うべき時に戦わず、真先に逃げ出す。そうして、か弱き者、美しき者ばかりが犠牲となり、やがて、その地から光が失われる……。俺はこの国で育った人間ではないが、もう二度とあんな悲劇を繰り返させたくはない。だから、お前達の力を貸してほしい。残されたわずかな時間で、町民全員を避難させることができるのは、お前達だけだ」 エフドの隣にたつ『ラファエラ・デル・セニオ』は、腰に片手をあて、胸を張って、人差し指を立ててみせた。 「今回の危機の責任は、なんといっても、トラノにこれっぽっちの兵しか置かなかった国の上層部にあるわ。だから、ここであなたたちが活躍して町を救えば、国民の非難にさらされずに済んだ上の連中は、きっと喜んであなたたちの待遇を改善してくれるはずよ」 「…………」 守備隊員たちが依然として沈黙を続けるなか、シュリとエフド、テオドアは、説得役としてここに残る浄化師たちに頷いてみせ、それぞれパートナーとともに町へ向かった。 「……あんたらのいうことは、もっともだよ。まったく、返す言葉もない」 グランと同年代と思われるごま塩頭の屈強そうな男が、俯いたまま口を開いた。 「だが……俺は、やっぱりまだ死にたくない。死にたくないんだよ……」 みじめっぽく弱音を吐く男の前に立つ『クリストフ・フォンシラー』は、しかし、相手を少しも軽蔑することなく、むしろ労わるような声をかけた。 「怖い気持ちはわかる。この戦いに必ず勝てる、とは俺も断言できない。でも、少なくとも俺達が来たことで勝算は生まれたはずだ。……貴方達が守備隊員としてこれまで厳しく鍛錬を積んできていることは、その身体つきをひと目見ればわかる。まちがないなく、貴方達は強い。俺達と貴方達が力を合わせれば、きっと、勝てる。俺は、そう信じてる」 背の高いショーン・ハイドは、守備隊員たちの顔のひとつひとつを見下ろしながら、冷静に、淡々と話す。 「命あっての物種というのもわかるが、ここで逃げ出せば、お前達は命が助かるかわりに、多くの物を失うことになる。たとえば金、地位、名誉……だが、なかでも一番大きいのは、誇りだ。守備隊員として、この町を守ってきたという誇り、プライド。これまでに町民から感謝や労いの言葉をかけられたのも、一度や二度ではないだろう。今、お前達を信じて、頼りにしてきた町の人々を裏切り見捨てれば、お前達のプライドは永遠に失われ、気高き魂は砕け散り、二度と元通りになることはない。お前達は、その命のかわりに、みずからの人生を失うのだ。……守備隊勤めの者の待遇については、俺もよく知っている。だから、ここでお前達が町の防衛に協力してくれたら、その活躍は必ず然るべき場所に報告するし、待遇改善についての交渉にも力を貸す。だから――」 その時、小太りでそばかす顔の若い隊員が、激しく首を振りながら、ショーンの言葉を遮った。 「そうじゃねえ、そうじゃねえよ! オレは……、たしかに守備隊勤めの待遇についてはずっと不満に思ってたし、今も思ってる。でも、給料が少ないから逃げる、とか、そんなんじゃ絶対にねえよ! アンタがいったとおり、オレたちは、この仕事に誇りを持ってるんだ。だけど……だけどよ……」 若者は、大粒の涙を流しながら言葉を続けた。 「オレは、ブリテンに妻と息子がいるんだ……。マリーは気立てがよくて、オレなんかには勿体ねえほどの器量良しだが、昔から病気がちで体が弱い。そして、息子のジャックは、まだたったの三歳だ……。オレが今日ここで死んだら、残されるアイツらはどうなる? なあ? 一体、どこのどいつが、これからオレの家族の面倒を見てくれるっていうんだ? ……オレは、アイツらを守るためなら、なんだってやる。卑怯者と後ろ指さされたって屁でもねえや。誇りや名誉なんか、クソくらえなんだよっ!」 若者の悲痛な叫びに、他の隊員たちも次々に頷く。 『レオノル・ペリエ』は、隣にたつショーンの横顔をじっと見上げたあと、かすかに微笑み、そうして、守備隊の方に向き直って、意を決したように口を開いた。 「今日ここで死んでくれ、なんて言うつもりはないよ。ただ、わかってもらいたい。家族がいるのは、君達だけじゃないんだ。この町の人達にも、そして私達にも、心から愛する者、守るべき家族がいるんだよ」 レオノルの凛とした声に、守備隊員たちは、はっとしたように顔をあげる。 「君達が逃げ出したら、この町で大勢の人々が、自分の命か、あるいは愛する家族の命を失うことになる……。わかるかい? 君達自身が何よりも恐れているモノを、いま、君達は彼らに与えようとしているんだよ。君達は、本当にそれで平気なのかい?」 「…………」 「べつに、責めてるわけじゃない。君達の心情は理解できる。私が求めるのは、ただ『お互いが本来の仕事を全うしよう』という約束なんだ。君達の仕事は、この町を守ること、そして私達の仕事は、この国の人々全員を守ることだ。もちろん、君達を含めて、ね」 守備隊員たちの暗い表情にあきらかな変化が生じはじめたことに気がついたショーンは、レオノルの横顔を見下ろし、誇らしげな笑みを浮かべた。 (まったく……ドクターには敵わないな……) なおも逡巡している若い隊員たちをみた『アリシア・ムーンライト』は、 「皆さん、どうか一緒に戦ってください……っ。あの、頼りないかもしれませんが、私も一生懸命戦いますから……っ!」 本当に、ちょっと頼りない口調で懸命に語りかけた。 外見だけをみれば、グラマーな体つきをしたただの美貌の乙女でしかないアリシアの言葉に、隊員たちも漢のプライドを強く刺激される。 クリスは口の端で微笑し、ダメ押しとばかりに、 「せめて、町民の避難誘導だけでも手伝ってくれないだろうか?」 わざと難易度の低い提案をぶつけてみた。すると、 「……わかった。やるよ」 「そう、だな……」 「しかたねえ」 守備隊員たちは、口々にいって、四人の浄化師たちに頷いてみせたのだった。 ●迫り来る嵐の前に 町の南を担当するリコリスとトールは、住民たちを励ましながら、町の中心部にある公会堂へと人々を誘導する。 「ほ、本当に町から逃げないで大丈夫なのか? ベリアルってヤツは、恐ろしく強いんだろ?」 幼子を抱いた男に不安げな顔で訊かれると、 「だいじょうぶよ」 リコリスは、落ち着いて答える。 「私たちと……ここの守備隊で、必ず町を守り抜いてみせるわ」 「そ、そうか……。頼もしいな。何の力にもなれないが、よろしく頼む」 急ぎ足で避難場所へと向かう父子を見送ったトールは、リコリスに笑いかける。 「必ず守り抜く、か……頼もしいお姫様だ」 「避難を迅速に進めるための、ただの出まかせよ。町を守り抜ける保証なんて、どこにもないわ」 リコリスが冷めた口調で答えたとき、防壁の外からピィーッと、甲高いホイッスルが聞こえた。 「……守備隊の説得が成功したようね。これで、トラノの防衛が成功する可能性は、少し上がったわ」 エレメンツの少女は、呟いてさっさと歩きだしたが、彼女の口元にはかすかに笑みが浮かんでいるようにみえた。 「グラン、この町にベリアルを追い込める路地のような場所はないか?」 町の東部で、逃げ遅れた老人を介助しつつシリウスが尋ねると、そばにいたグランは、しばらく考えたあとで、 「そうだな……。町の北東にある材木置き場なら、大きな迷路のような造りになっているから、ベリアルを上手く閉じ込めることができるかもしれないな」 自分のアイデアに満足したように、ニッコリ笑いながら答えた。 「材木置き場か……わかった。仲間にも周知しておこう」 シリウスが答えた時、通りの向こうから二人の守備隊員が駈けてきた。 「町民の避難、俺たちも手伝うぜ」 「ベン……ハモン……」 グランが喜びに目を見開くと、 「よく来てくれた」 シリウスは、勇気ある者たちに敬意を払い、礼儀正しく一礼する。 「……今日は、たぶんオレの人生最悪の日だな」 ベンがさっそく弱音を吐くと、 「最悪ではないさ」 シリウスは、真面目にかぶりを振る。 「少なくとも、今の俺たちには、やれること、やるべきことがある。できることがあるうちは……まだ最悪じゃない」 「そう、だな……」 ベンは、青ざめた顔に力を込めて、無理に笑顔をつくってみせた。 「門は破られる、ってオレの勘がいってる。だから、門を突破された時に備えて……バリケードだっ!」 元気よく言いったロスは、周辺の民家から毛布やクッションを借りて来くると、自分とシンティラが装備していたスキー板や盾と組み合わせて、門のすぐ内側に↑形のバリケードを造り始める。 「ロスさん、なかなか器用ですね」 日曜大工セットを使い、コツコツとバリケードをつくっていくパートナーをみたシンティラは、作業の手をとめて微笑む。 「このバリケードで、ベリアルを止められたらいいんですけれど……」 「おう! そのためにも、思いっきし頑丈につくらねーとなっ!」 ロスは、金槌を振るう手をとめることなく、シンティラに頼もしい笑顔を向けた。 「それにしても、テオ君が積極的に戦うことを選ぶなんて、めずらしいね」 町の北部で避難誘導をしつつ『ハルト・ワーグナー』が話しかけると、テオドアは少し暗い顔で答えた。 「戦うのはやっぱり怖いさ。でも、この町が危ないと知ったら、考える前に体が動いてた」 「俺達の故郷に、状況が似てるよね」 「ああ……」 「俺、あの時はたまたま外に出てたけど、テオ君がすげー心配だったし、残っていればって後悔した」 ハルトの言葉に、テオドアは頷く。 「だから、彼ら……守備隊の人達には、逃げて後悔してほしくないな」 「説得が上手くいったらしいし、大丈夫だよ」 ハルトは明るくいうと、そばで杖をつき亀のような歩みで進む老婆をさっと両腕で抱えて、避難所の方へと急ぎ足で駈けていく。 テオドアは、微笑んでパートナーの後ろ姿を見送ったあと、自分も逃げ遅れた者を探して、走り出す。 町の西部で避難誘導にあたっていたエフドとラファエラは、クリストフと三人の守備隊員が駈けて来るのをみて、ほっとしたように息を吐く。 「避難を手伝うよ」 クリストフが笑顔でいうと、エフドは頷く。 「では、ここはお前達に任せて、俺たちはバリケードの設置に向かわせてもらう」 「おう! あとは任せろ!」 隊員たちが力強く親指を立ててみせると、エフドとラファエラはロスたちがいる防壁の門へと急ぐ。 エフドたちが到着したとき、すでにロス作のバリケードは半分ほど出来上がっており、彼の手際の良さに二人はすっかり感心させられる。 「俺達にも手伝わせてくれ」 エフドが、バリケードの上でノコギリを振るうロスに話しかけると、 「おう! ふたりともサンキューなっ!」 若いライカンスロープは満面の笑みをみせた。 エフドとラファエラは頷き合うと、突進してきたベリアルに突き刺さるよう、周囲から集めた柱や尖った棒をバリケードに設置していく。 守備隊員たちと避難誘導にあたるクリストフは、町民に励ましの言葉をかけてゆく。 「浄化師と守備隊で、必ずトラノを守り抜いてみせるよ」 すると、怯えた顔の人びとは隊員たちのそばへいき、 「本当に、アンタたちがいてくれて心強いよ……」 「君達は、この町の誇りだ……」 「ありがとう……ありがとう……」 次々に、心のこもった感謝の言葉を述べる。 一瞬、戸惑ったように互いに顔を見合わせていた隊員たちは、やがて、力強い笑顔で、 「任せてくれ! トラノは、俺たちが絶対に守り抜いてみせる!」 思いきり自分の胸を叩いてみせた。 その様子をみていたクリストフは、やわらかな笑みをみせたあと、逃げ遅れた人を探して駈け出す。 町の外でバリケードをつくっていたロウハとシュリは、ベリアルが現れると思われる森を気にしつつ、顔を見合わせる。 「とりあえず、近くにあるモノでバリケードをつくってみたが、やっぱり時間が足りないな」 木材や土嚢を急いで集めてつくったバリケードは、門の内側でロスたちがつくっているものに比べると、かなり貧弱だ。 「仕方がないわ。わたしたちには、他にもやるべきことがあるから。それに……こんなものでも、あると無いとでは大違いよ」 「そうだな……。じゃ、そろそろいくか」 ロウハはそういうと、シュリに近づき、小柄な彼女の体をさっと抱える。 「ちゃんとつかまっててくれよ」 「え、ええ……」 事前に決めてあったこととはいえ、パートナーの力強い腕に抱かれたシュリは、気恥かしさを覚えて思わず視線を泳がせる。 「いくぞ!」 ロウハは、背中に生えた大きな翼を打って、ゆっくりと上空へと昇ってゆく。 ある程度の高度に達したところで、シュリは注意深く周囲を見回し、そして――、 「いたわ! ベリアルよ!」 南の方角のある一点を見つめて、緊迫した声を出した。 そこは、部分的に森が途切れてできた草原のような場所で、よく見ると、草地の上をベリアルの黒い群がゆっくりと移動しているのがわかった。 「南の方角から真直ぐやってくる……群はひとつで……かなり密集してるわね……。町に到達するまで、あとせいぜい二十分、といったところかしら」 「よし、急いで皆に伝えてくれ」 「わかったわ」 シュリは、マドールチェの特技『魔術通信』を使い、発見したベリアルについての情報をただちに浄化師全員に伝える。 「いよいよね……」 「ああ」 二人は、厳しい戦いになることを覚悟しつつ、地上へと戻ってゆく。 決戦に備えて皆が防壁の門前に集合した時、そこには浄化師だけでなくトラノの守備隊員たちの姿もあった。 「今さら逃げても遅いしな……」 「俺たちにどこまでやれるかわからんが……」 「やれるだけやるよ」 隊員たちは内心の恐怖を抑えつつ、無理に笑ってみせる。 「お前たち……本当にいいのか?」 グランが訊くと、ベンは肩をすくめてみせた。 「町の人間は、こんな情けない俺たちのことを心から信じてくれてる……。彼らの信頼を裏切るわけにはいかんだろ」 「……ありがとう、お前たち」 「礼を言うのはまだ早い。俺たちの力でベリアルを見事撃退して、トラノ守備隊の名を国中に知らしめてやろうぜ!」 「おおーっ!」 守備隊が喊声をあげた時――、狼姿で偵察に出ていたロスの遠吠えが、森の奥から聞こえた。 ついに、ベリアルがやってきたのだ。 浄化師とトラノ守備隊はそれぞれ配置についた時、森から一匹の狼が転がるように飛び出てきた。 「来るぞ!」 変身を解いたライカンスロープが叫ぶと、リチェルカーレ、アリシア、リコリス、シュリの四人が、それぞれパートナーとともに魔術真名を詠唱、浄化師の潜在能力を最大限に解放する。 そして――、かすかな地鳴りのようなものを耳にして浄化師たちが一斉に武器を構えた瞬間、森の木々の間からイノシシ型のベリアルたちが勢いよく飛び出してきた――。 ●本当の強さ ベリアルの群を確認したロスは、シンティラとともに魔術真名を詠唱。スキルであげた膂力を頼みにして、敵の群に正面から突っ込む。 装備で向上させた高い物理防御で、ベリアルの攻撃を受け流しつつ、『献魂一擲』で斧による強力なカウンターを放つ。 力任せの一撃は、急所にこそ命中しないものの、凄まじい威力でベリアルを宙に弾き飛ばす。 シンティラは、やや後方からベリアルの触手を狙って呪符による攻撃を放ち、ロスを援護。パートナーが死角からの攻撃を受けないよう注意しながら立ち回る。 ふたりの見事な先制攻撃で、ベリアルたちの勢いを削ぐことには成功したものの、やはり群の進撃を止めるまでには至らない。 スキルで膂力をあげたシリウスは、仲間達とともに前線を形成し、ベリアルの群を正面から受け止める。 (ベリアルを守備隊の方へ向かわせるわけにはいかない……) シリウスは、『ソードバニッシュ』を使用、閃光の如き速さの剣で、周囲にいるベリアルの脚を斬り裂く。 「いきます!」 魔力を高めたリチェルカーレの魔術攻撃も命中し、二体のベリアルをその場に釘付けにすることに成功するが、やはり群の歩みを止めることはできない。 「ペンタクルシールド!」 シュリがすぐそばで物理攻撃を吸収するシールドを展開すると、スキルで膂力を向上させたロウハは、門に接近しつつある敵の前に立ち塞がる。 「ルーナープロテクション!」 シュリのスキルで攻撃力を低下させられたベリアルに対し、 「はあぁぁっ!」 ロウハは渾身の一撃を振り下ろす。 頭部を攻撃を受けて怯んだベリアルに、さらにシュリの占星儀による攻撃が命中、相手はたまらずその場から退く。 シュリとロウハがつくった即席のバリケードが門の前にあるおかげで、ベリアルの群は二つに分かれ、左右への迂回を余儀なくされる。 さらに、群の進攻を止めようと浄化師たちが猛攻を加えるが、やはり敵の数が多すぎて前線を支えることができず、徐々に門前へと後退することを余儀なくされる。 「いかせません!」 アリシアが、スキル『小咒』を使用し、群の先頭にいたベリアルを魔力の炎で灼き尽くすと、クリストフが剣を構えて疾走し、『疾風裂空閃』を発動。眼にもとまらぬ高速の斬撃で追撃を加える。 大ダメージを受けたベリアルは唸り声をあげつつよろめくが、倒れるまでにはいたらない。 (さすがはイノシシ、タフだな。これは、一筋縄ではいかないぞ……) 複数のベリアルが放ってきた触手による攻撃を盾で防ぎつつ、クリストフは焦りの表情を浮かべる。 防壁の門前にたつショーンとレオノルは、黒い津波のように押し寄せて来るベリアルの群を目にして、神経を研ぎ澄まし、集中力を高める。 (俺たちには、町だけではなく、連中を守る義務もある) ショーンは、背後で陣形を組んでいる守備隊を肩越しに振り返りつつ、覚悟を決める。 (そのためなら、腕の一本くらいくれてやる……!) 「いくよ!」 レオノルが、こちらに突進をしかけようとしていたベリアルに対し、スキル『ロックバーン』を使用、魔力で形成した岩を相手にぶつけ、弾き飛ばす。 レオノルの攻撃で浮足立つ群に対し、ショーンは『ワーニングショット』を使用、接近してくる敵に攻撃を集中し、相手の動きを止める。 リコリスは前線に出て、門に向かうベリアルを少しでも減らせるよう立ち回る。 「こっちよ!」 素早く移動しながら、複数の敵に短剣で浅く斬りつけ、相手を挑発。大きなダメージこそ与えられないものの、四体ほどのベリアルが門へ向かうのをやめ、リコリスに攻撃を仕掛けてくる。 スキル『パーフェクトステップ』により見事な足捌きをみせるリコリスは、触手による攻撃を避けつつ、ベリアルを徐々に群から引き離す。 「リコ……」 門前にいるトールは、危険な状況にあるパートナーを気にしつつも、自身の仕事、門に向かってくるベリアルたちへの攻撃に集中する。 前線で戦うテオドアは、トールの攻撃でダメージを受けたベリアルの前に飛び出し、すばやく地面の土を蹴る。 舞い上がった土で攻撃対象を見失ったベリアルに対し、テオドアは『クロス・ジャッジ』を発動、両手剣を二度振り抜き、十字の大きな傷を負わせる。 重傷を負い、ふらつくベリアルに、 「これで決めるぜ」 ハルトが呟き、ライフルを発射、頭部の十字傷の中心に弾丸が命中したベリアルは、ドサリとその場に倒れ伏す。 「これで、やっと一体か……」 剣でベリアルにトドメを刺したテオドアは、背後を振り返り、ニッコリ笑って親指を立てているハルトに頷いてみせた。 スキル『リンクマーカー』で命中率をあげたラファエラは、敵集団の先頭にいる個体に攻撃を集中して群の進攻を食い止めようとしていたものの、いよいよそれが難しくなると、 「ここはお願い」 周囲の仲間に声をかけて、防壁へと駈け寄り、守備隊員のひとりの力を借りて、防壁の上によじ登る。 パートナーが高所から敵を攻撃しはじめたのをみたエフドは、スキル『魑魅魍魎の壁』を展開して物理防御をあげつつ、守備隊の前で巨大な盾を構え、敵の攻撃を一身に引き受ける。 「攻撃は俺達が受ける。お前達は、隙をみて敵の横腹を刺せ!」 エフドの力強い声に、 「わかった!」 「まかせろ!」 守備隊員たちは元気よく答え、愛用の鋼剣を手にベリアルに立ち向かう。 浄化師たちの勇猛果敢な攻撃も一歩及ばず、ついにベリアルの群は門前で構える守備隊のもとへと到達。 守備隊と浄化師たちはベリアルの前進を止めようと密集陣形を組み、その作戦は一時的に成功したかのように見えた。 が、動きを止められ、怒ったベリアルたちが次々に突進をはじめると、事態は急変する。 「ぐぉっ……!」 本気になったイノシシの突進の威力は想像以上で、巨大な盾を装備したエフドでさえ、直撃を受けた瞬間に仰向けに倒される。 前線を形成する浄化師たちがベリアルの猛攻に耐え切れず、バラバラに後退を余儀なくされると、にわかにあたりは大混戦となった。 「く、来るなっ!」 「ぐはっ……」 でたらめに放たれる大砲のようなベリアルの突進を受けて、若い守備隊員たちが次々に倒される。 シンティラとリチェルカーレ、アリシアは重傷を負った者たちにスキル『天恩天賜』で回復を試み、その間、彼女たちのパートナーは負傷者を護る盾となる。 「やっと二体目……」 ロウハとの絶妙なコンビネーションでベリアルを倒したシュリは、すばやく戦場を見回し、表情を険しくする。 浄化師たちは、守備隊を護るように行動しているため、徐々に門そのものの守りが手薄になってきているのだ。 「俺たちがやるしかねえな」 ニヤリと笑ったロウハが、閉じられた門の分厚いカシの扉の前に飛び出すと、すぐにシュリがそのそばに駈けつける。 「ロウハの背中は、わたしが守るわ」 「お嬢が後ろにいてくれれば、思いきり戦えるぜ」 ふたりは頷き合い、迫り来るベリアルに向かって同時に叫ぶ。 『一匹たりとも、町の中へは入れない!』 (いまいくぞ……!) 門を守る仲間達を援護するため駈け出そうとしたトールは、 「う、うああっ!」 「やめろ! こいつめ!」 守備隊員たちがあげる悲鳴を聞き、とっさに背後を振り向く。 (やっぱりこの人たちを見捨てるわけにはいかない……!) 「落ち着いて、相手の動きを見切るんだ!」 叫んだトールは、ジレンマを振り払い、危機に陥った隊員たちをボウガンで援護することに専念する。 リコリスは、守備隊に襲いかかろうとするベリアルを狙って斬りつけ、自身に注意を惹きつける。が、やはり彼女の短剣による攻撃では、ベリアルに決定打を与えることまではできず、徐々に彼女自身がベリアルに囲まれ、追い詰められていく。 「しつこいわね……」 リコリスは、素早い身のこなしで致命傷こそ避けてはいるものの、ベリアルの触手による攻撃を腕や背中に何度も受けて、すでに満身創痍だ。 「っ……!」 一匹のベリアルの触手攻撃を脚に受けて、ついにリコリスがその場に膝をついたとき――、 「おらぁぁああっ!」 斧を手にしたロスが猛然と飛び込んできて、リコリスに噛みつこうとしていたベリアルに強烈な一撃を加え、弾き飛ばした。 「だいじょうぶかーっ?」 「ええ、助かったわ」 笑顔のロスにリコリスが礼をいうと、 「しばらく動かないでください」 シンティラが駈け寄って来て、スキルでリコリスの傷の治療をはじめる。 「くそ……やっぱり、無茶だったんだ……」 ベリアルの触手を必死に剣で捌きつつ、ベンが弱音を吐くと、 「あきらめるな! まだ、門は突破されちゃいない!」 隣にいるグランは、自分に言い聞かせるように叫ぶ。 (まだだ……浄化師たちが必死に戦ってくれてるのに、俺達があきらめるわけにはいかない!) 「うおおぉぉぉおおおっ!」 グランが、門に突進を仕掛けようとしていたベリアルに渾身の一撃を叩きこんだ直後、左右から彼を狙ってニ匹のベリアルが突進を仕掛けてきた。 (ダメだ、避けられない……!) グランが死を覚悟して目を閉じた時――、 「やらせは――」 「しない!」 ショーンとレオノルが、グランの前に飛び出し、迷わずその体を盾にした。 ドドンッ……! 重い衝撃音が二つして、グランがふたたび目を開けたとき、彼の周囲には突進をまともに受けて、酷い裂傷と共に左腕を折られたショーンと、ベリアルに軽々と弾き飛ばされ、地面に転がったレオノルの姿があった。 「まったく無茶して!」 ラファエラとハルトが杖とライフルによる攻撃で一時的にベリアルを追う払うと、グランは倒れたまま動かないレオノルに駈け寄る。 「自分の体を盾にするなんて……華奢なエレメンツがやることじゃないだろ……」 グランがかすれ声で呟くと、口から鮮血を流すレオノルは弱々しく笑う。 「約束、したからね……君たちをまもる、と……」 そこに、片腕をだらりと垂らしたショーンがやってきて、表情にあきらかな動揺をみせながらレオノルの身体を抱き寄せる。 「ドクター……」 「すまない、ショーン……どうやら、私はここまでみたいだ……」 レオノルは、パートナーの腕の中で眠るように目を閉じた。 その瞬間――、若いエレメンツの勇敢な行動を目にした守備隊員たちの胸の中で、何かアツいモノがはじけた。 「……ここでやらなきゃ、漢じゃねえぜ!」 「ああっ! 浄化師たちばっかりにイイ格好はさせられねえ!」 「こっからだ! トラノ守備隊の意地を見せてやろうぜっ!」 「おおうっ!」 逃げ腰になっていた隊員たちは、士気を高めて、全員で攻勢に転じる。 すでに疲れが見え始めていた浄化師たちも、ここを好機とみて集中力を高め、全力でベリアルに立ち向かう。 守備隊が剣でダメージを与えたベリアルに、浄化師がトドメを刺す、という効果的な戦術が機能しはじめ、一体、また一体と、確実にベリアルを葬っていく。 「シアちゃん」 「はい」 すでに意識がないレオノルのそばに駈け寄ったリチェルカーレとアリシアは、レオノルがかなり危険な状態にあることを察して、ふたりがかりでスキルによる回復を試みる。 シリウスとクリストフが走って来るのをみたショーンは、アンデッドの特技である『肉体再生』により、切断に近い裂傷と骨折を治し、立ちあがる。 「ここは、俺ひとりで十分だ。お前達は、町を守れ」 ショーンの言葉に、クリストフは不安そうな表情をみせる。 「しかし、ひとりでは……」 「大丈夫だ。三人には、指一本触れさせはしない」 ショーンの瞳の中に強靭な意志をみたシリウスは、 「……わかった。ここは任せる」 クリストフと頷き合い、門前に群がるベリアルの群へと向かって駈け出す。 シリウスとクリストフが門の前に到着するよりわずかに早く、 「だめだ! もう持たない!」 ロウハの叫び声とともに、何度もベリアルの突進を受けたカシの扉がついに破壊され、あたりに破片をまき散らしながら派手に倒れる。その直後、 「一匹、いや二匹いったぞ!」 ベリアルが町に侵入するのを目撃したハルトが叫んで、信号拳銃を放つ。 「テオ君!」 「ああ!」 テオドアとハルトがベリアルを追って町に入ると、クリストフとシリウスが、ふたりが抜けた穴を埋めるようにベリアルの前に立ち塞がる。 町へ侵入した二匹のベリアルは、しかしすぐにロスたちが設置したバリケードにぶつかり、立ち往生させられる。 ベリアルが唸り声をあげつつ、バリケードに突進しようとした時、 「そうはさせない」 ハルトが、一匹のベリアルの背中に照準を合わせ、ライフルを撃つ。 苦痛の絶叫をあげてベリアルが振り向いた、その瞬間、 「はあぁぁっ!」 テオドアが振り下ろした剣がベリアルの首を見事一刀両断した。 グルゥゥゥウウウ……! もう一匹のベリアルは怒り狂い、そばにいたテオドアに向かって突進しようと身構える。しかし、 「こっちよ! おバカさん!」 防壁の上にたつラファエラが、強力な魔力弾をいくつもベリアルの頭上に降らせる。さらに、 「町の人たちには手出しさせない!」 門の外にいたトールが、遠距離からボウガンを放ち、ベリアルの頭部に見事命中させた。 断末魔の絶叫をあげることもなく二体目のベリアルも倒れ、ラファエラは満足げな笑みを浮かべる。 「こっちはこれでよし、と。さあ、そろそろ仕上げよ!」 テオドアとハルトは力強く頷き、ふたたび防壁の外へと駈け戻っていく。 防壁の外でも、ベリアルたちはすでに劣勢となっており、徐々に門から遠ざけられつつあった。 「うおおぉぉぉおおおっ!」 盾を構えたエフドが、さっきの仕返しとばかりに強烈なタックルをかますと、仰向けに倒されたベリアルの腹にグランの剣が突き刺さる。 瀕死のベリアルに、トールの放つ矢が命中し、これで一体。 「いまのうちよ!」 シュリが『ルーナープロテクション』で一匹のベリアルの攻撃力を下げると、 「まかせろ!」 若い守備隊員ふたりが駈け寄り、弱ったベリアルを左右から滅多切りにする。 「いっちょあがりだ!」 ロウハが、素早い斬撃でトドメを刺し、これで二体。 「こっちよ」 右に左に跳躍しながらリコリスが連続して斬撃を加えると、ベリアルは反撃すらできず、その場に釘付けにされる。そして、 「よいっしょーっ!」 背後から迫ったロスが大きく振りかぶった斧で渾身の一撃を決め、触手ごと背骨を叩き斬られたベリアルは、瞬時に絶命する。これで、三体。 「クリス!」 「ああ!」 シリウスとクリストフは、一体のベリアルに狙いをつけると、同時に駈け出し、ピタリと息の合った連携で、美しき剣舞のごとき攻撃をベリアルに叩き込む。 「これで!」 シリウスが、『ソードバニッシュ』で敵の身体を斬り上げると、 「終わりだ!」 高く跳躍したクリストフが『疾風裂空閃』を発動、神速の剣でベリアルの首を両断した。これで、四体――。 浄化師と守備隊はその後も見事な連携をみせ、ベリアルを一体ずつ確実に葬っていく。そして、 『はああぁぁあああっ!』 最後の一匹となったベリアルに、グランとベンが全身全霊をかけた一撃を見舞うと、瀕死の状態のなった相手の背から魂を拘束する鎖が出現する。そこに、 「この町を、我々を相手にしたことを後悔しながら、逝け」 ショーンが、ボウガンで正確無比な射撃をおこない、瞬時にベリアルの鎖を消滅させて、トドメを刺した。 ●ありふれた、かけがえのない英雄 「ベリアルが、全滅した……」 「勝ったのか……俺たち?」 ぼんやりという若い隊員たちに、グランはぐっと親指を立ててみせる。 「ああ。俺たちは勝ったんだ。トラノを守り抜いたんだ!」 隊長の言葉で、やっと勝利を確信した隊員たちは、 「うおぉぉおおおおっ! やったぜえぇぇえええっ!」 互いに抱き合い、拳を天に突きあげる。 グランは、ショーンの腕に抱かれて横たわっているレオノルのそばで片膝をつき、深々と頭をさげた。 「アンタたちがいてくれたおかげだ……。アンタはこの俺の、そして、この町の人間全員の命の恩人だ……」 ダメージからまだ完全に回復していないレオノルは、青ざめた顔にやさしい微笑を浮かべて、かぶりを振った。 「この町を守ったのは、君達だよ……。君達がいなければ、私達はきっとベリアルに敗れていた……。君達こそ、真に称えられるべきこの町の英雄だ」 「俺たちが、英雄……?」 そばにやってきた隊員たちが不思議そうな顔でいうと、レオノルは、 「ほら……」 防壁の壊れた扉の向こう、トラノの通りを指差して笑った。 全員がそちらに目をやると、ベリアルの脅威が去ったことを知った町民たちが、笑顔で歓声をあげながら大勢こちらへ走って来るのがみえた。 老若男女の町民たちは、たちまちトラノ守備隊を取り囲むと、隊員の肩を叩き、何度も感謝の言葉を述べ、そして最後には守備隊全員の胴上げをはじめた。 「たまにはいいわね、こういうのも」 バカ騒ぎをはじめた町民たちを腕組みして見つめていたラファエラが、くすっと笑って呟くと、 「ああ」 隣にいたエフドも、懐かしいモノを見るような眼で頷く。 すると、 「今夜は町をあげての祝勝会だ! ほら、アンタらもぼんやり突っ立ってないで、こっちへ来いっ!!」 口髭をたくわえた恰幅のいい中年男が、ガハハと笑いながら浄化師たちに手招きした。 「それでは、お言葉に甘えさせてもらいましょうか」 リチェルカーレがいうと、 「そうだな」 シリウスも、彼にしてはめずらしく、少年のような笑みを浮かべて歩きだす。 「パーティだって、テオ君! ほら、急いで!」 「落ち着け、ハル……」 浄化師たちが町へ向かいはじめると、ショーンは、レオノルに肩を貸して、ゆっくりと彼女を立ちあがらせた。 「歩けますか、ドクター?」 「うん、だいじょうぶ――」 言いかけたレオノルはしかし、ふいにいたずらっぽい笑みを浮かべて、ショーンの背に腕を回した。 「いや、やっぱりまだ歩けない、かな?」 「……骨折は治したとはいえ、私も一応怪我人なんだがな」 ショーンは、あきれ顔でため息をつくと、ひょいとレオノルの細い身体を抱きかかえ、いわゆる『お姫様だっこ』の格好で歩きだした。 「悪いね、ショーン」 「今日だけですよ、ドクター」 かすかに頬を染めたショーンはぶっきらぼうにいうと、自分の胸に顔をよせるパートナーから視線を逸らしつつ、仲間たちの待つにぎやかな通りへと歩いていった。
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*** 活躍者 *** |
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[65] シュリ・スチュアート 2018/08/23-23:09 | ||
[64] ロス・レッグ 2018/08/23-22:57 | ||
[63] ショーン・ハイド 2018/08/23-22:54
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[62] クリストフ・フォンシラー 2018/08/23-22:39
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[61] テオドア・バークリー 2018/08/23-22:27 | ||
[60] エフド・ジャーファル 2018/08/23-22:10 | ||
[59] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/23-22:04
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[58] リコリス・ラディアータ 2018/08/23-21:23 | ||
[57] ロス・レッグ 2018/08/23-19:40 | ||
[56] ロス・レッグ 2018/08/23-19:39 | ||
[55] クリストフ・フォンシラー 2018/08/23-18:24 | ||
[54] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/23-17:58 | ||
[53] テオドア・バークリー 2018/08/23-15:37 | ||
[52] ロス・レッグ 2018/08/23-07:42 | ||
[51] ロス・レッグ 2018/08/23-07:38 | ||
[50] テオドア・バークリー 2018/08/23-05:21 | ||
[49] シュリ・スチュアート 2018/08/23-02:47 | ||
[48] ロス・レッグ 2018/08/23-00:25 | ||
[47] ロス・レッグ 2018/08/23-00:10
| ||
[46] トール・フォルクス 2018/08/22-22:37
| ||
[45] クリストフ・フォンシラー 2018/08/22-22:36 | ||
[44] レオノル・ペリエ 2018/08/22-22:20
| ||
[43] シュリ・スチュアート 2018/08/22-03:42 | ||
[42] ロス・レッグ 2018/08/22-00:32 | ||
[41] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/21-23:50 | ||
[40] クリストフ・フォンシラー 2018/08/21-22:54 | ||
[39] エフド・ジャーファル 2018/08/21-22:32
| ||
[38] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/21-20:00 | ||
[37] リコリス・ラディアータ 2018/08/21-13:48 | ||
[36] クリストフ・フォンシラー 2018/08/21-07:55 | ||
[35] ロス・レッグ 2018/08/21-03:39 | ||
[34] ハルト・ワーグナー 2018/08/21-02:44 | ||
[33] クリストフ・フォンシラー 2018/08/21-02:24 | ||
[32] クリストフ・フォンシラー 2018/08/21-01:52 | ||
[31] ロス・レッグ 2018/08/20-23:57 | ||
[30] ロス・レッグ 2018/08/20-23:38 | ||
[29] レオノル・ペリエ 2018/08/20-23:15 | ||
[28] ロス・レッグ 2018/08/20-23:02 | ||
[27] レオノル・ペリエ 2018/08/20-22:27 | ||
[26] クリストフ・フォンシラー 2018/08/20-21:59 | ||
[25] ロス・レッグ 2018/08/20-20:21 | ||
[24] リコリス・ラディアータ 2018/08/20-16:34 | ||
[23] クリストフ・フォンシラー 2018/08/19-22:38 | ||
[22] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/19-21:31 | ||
[21] ロス・レッグ 2018/08/19-14:19
| ||
[20] ロス・レッグ 2018/08/19-10:42 | ||
[19] レオノル・ペリエ 2018/08/19-00:37 | ||
[18] シュリ・スチュアート 2018/08/18-23:58 | ||
[17] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/18-23:31 | ||
[16] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/18-23:08 | ||
[15] ロス・レッグ 2018/08/18-22:46 | ||
[14] クリストフ・フォンシラー 2018/08/18-21:55 | ||
[13] クリストフ・フォンシラー 2018/08/18-21:54 | ||
[12] エフド・ジャーファル 2018/08/18-20:48
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[11] レオノル・ペリエ 2018/08/18-17:07 | ||
[10] レオノル・ペリエ 2018/08/18-17:07 | ||
[9] エフド・ジャーファル 2018/08/18-14:12 | ||
[8] テオドア・バークリー 2018/08/18-13:43 | ||
[7] リコリス・ラディアータ 2018/08/18-13:12 | ||
[6] ロス・レッグ 2018/08/18-13:08 | ||
[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/08/18-11:44
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[4] レオノル・ペリエ 2018/08/18-10:23 | ||
[3] リコリス・ラディアータ 2018/08/18-01:18 | ||
[2] クリストフ・フォンシラー 2018/08/18-00:06
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