~ プロローグ ~ |
「あれ、まだ寝てなかったんだ」 |
~ 解説 ~ |
▼同人即売会に参加しましょう! |
~ ゲームマスターより ~ |
オタク御用達、夏の一大イベントです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆唯月が売り手として初参加 販売するもの ・水彩画の柔らかなタッチで描かれたイラスト集、少部数。 唯「こう言うイベントは初参戦ですし この数くらいで良い…ですよね?」 ・参加してみたものの自信は皆無 唯(まさかこんな大きなイベントに出る事が出来るなんて…! 生物や背景を中心に描いてみましたが…うぅ こう言ったイベントは漫画の方が目を惹きますし…) ◆瞬は飲み物の買い出しや、ちょっとだけ売り子 瞬「はーい、いづ飲み物〜 室内とは言え籠るからね、暑さ対策だよ〜」 唯「わ!あ、ありがとうございます!」 瞬「俺も手伝うから無理しないでね〜」 唯「はい!」 ◆良い売上だったら 瞬「いづ凄ーい!」 唯「まさか…そんな…びっくり、です…!」 |
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■シンティラ(ティ ∇行動 好みの本を購入しに ∇知人 ・ブースにいれば本は購入 話がどうあれ知人の趣味は知っておきたい所 水・お茶の差し入れも 「頑張って下さい 趣味が合えば無駄に語るような気がします(危険 ・途中で会えば 本系ならどんな本が好みか聞きつつ 可能なら一緒に回り 自分の趣味はマイナー過ぎてお薦めできないが人の話には興味津々 アクセ等は水色の透明感のある大きな石とか アクセよりも置物系が ・ご飯一緒に食べれそうなら食べて ブース組にはサンドイッチでも差し入れを 鞄は2つ 浄化師になって得た賃金握り締め ユンさんが同じ状態のようなので励ましつつ購入 休憩水分補給忘れず 本は重いですが帰れば読み放題 恋愛ものは程遠いだけに憧れ |
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(ララエルに即売会とは何か説明する) 綺麗なアクアマリンのアクセサリーだね、僕がつけてあげる。 うん、とても似合ってるよ。 (漫画をめくるララエルに) ら、ララ、落ち着いて。そうか、即売会には漫画もあるんだな…ってララ! この本はまだ駄目! しかし凄い人の数だな…ララ、一旦外に出て、少し休憩しよう。 (外に出てジュースを飲む) あ、あれは…(コホン)君にはまだ早いよ。 早いったら早い。 まぁ…あれと同じ事はそのうち、ね… …って、何を言ってるんだ、僕は… |
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●喰 ・心情 何だこれ…皆妙に燃えてる感じしない…?(ひそひそ ・即売会 そーいえばユンって!参考書買いに!来たんだよね! やっぱり漫画の!参考書なのっ?!(人の海でもみくちゃ なんでそこだけ聞こえてんだよっ!? わっ!?ごめんなさーいっ! (ユンと手を繋いでたと思ったら別の人だった …落ち着いて…はぐれた時の集合場所は…(不安げにマップ見つつ (集合途中で狼形態のロスさん撫でたり他の浄化師の皆と出会いほっこり これ、ユンに似合うかな(アクセを一つ手に取り ・反応 ユン…?(ユンが手にとった本が見えて悪寒がする …っ!ごめんなさい!(推理系創作小説につい魅入ってはっとする ユン見るな!俺も見ないっ!(大人向けに赤面して逃げ |
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「ロウハ、わたし小説を売ってみたいわ」 「…は?」 ◆シュリ な、なんてすごい人…! 小説をいろんな人に読んでもらえるかもって思ったけど、わたし、場違いじゃないかしら…(そわそわ) ずっと席で接客 誰かが来たらとても緊張しながら応対 浄化師の人だったら来てくれてありがとう…!と喜ぶ ロウハ、わたし他の所も見てみたいんだけど… …むー、わかった、おとなしくしてるわ 面白いものがあったら教えてね ◆ロウハ いきなりこんなイベントに参加とか、大丈夫かお嬢は… 基本お嬢の危なっかしい接客のフォローに回る 他の所?ダメ こんな人込み、絶対戻って来れねーだろうが 何か欲しいものがあったら買ってきてやるから …ついでに飲み物でも買ってくるか |
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~ リザルトノベル ~ |
● 「こういうイベントは、初めてですし……これくらいの数でいいです、よね……」 今回、イベントに参加した浄化師の一人である『杜郷・唯月』は。 テーブルの上にこぢんまりと並べられた、自作の冊子を眺めて、不安な胸の内を鎮めるようにぎゅっと手を握った。 売り手として初参加を決めた彼女が販売するのは、水彩画の柔らかなタッチで描かれたイラスト集だ。 (まさか、こんなに大きなイベントに参加できるなんて……生物や背景を中心に描いてみましたが……うぅ) 参加したものの自信は勿論皆無で、売れるのかどうか、そもそも目を止めてすらもらえるだろうか――こういったイベントは娯楽漫画等の方が目を引く、と理解もしているぶん、場違いにも感じられて。 少部数しか置いてないこともあり、周りに並ぶ多くのブースと作品を目にし、開場前からそわそわしっ放しだった。 「はーい、いづ飲み物~」 「ひゃ……っ!」 緊張しきりの彼女のほっぺたにひやり、と冷えた瓶が当てられて、肩が跳ねる。 ドリンクを片手にブースへ戻ってきたのは、パートナーであり売り子を兼ねて一緒に参加してくれたパートナーの『泉世・瞬』だ。 「室内とはいえ、籠るからね~。暑さ対策だよ~」 「あ、ありがとうございます……」 飲み口のいい果物ジュースに口をつけると、肩の力が抜けていく気がする。 緊張でカチコチの彼女を見かねた、パートナーの配慮がうれしい。 「俺も手伝うから、無理しないでね~?」 「はいっ!」 穏やかに笑って勇気づけてくれる瞬へ、はにかんで大きな返事を返した。 本人の不安などどこへやら、唯月のブースは開場後から大盛況だった。 彼女自身、大きな発表の場へ出す機会がなかったから、自身の技術が客観的に見られず無自覚だっただけで。 こつこつと技術を磨いている間に、着々とその腕は上がっていた。 作品の噂は会場で広まり、卓上の冊子は昼を迎える前にはすべて売れてしまった。 もうなくなっちゃったんですか? と訪れた人に、すみません、と頭を下げる場面も。 「次の機会があったら、もっと多く販売しましょう……」 人波が落ち着き、瞬が食べ物を買うためブースを抜けている間に一息ついていた唯月のもとへ、こんにちは、と声をかける男性の姿があった。 「あ、すみません。もう本はなくなっちゃって――」 「ああ、失礼しました。私、こういうものです」 「……?」 差し出されたのは、男性の身の上が書かれた小さなメモだ。 「優秀な人を雇って、絵のお仕事を任せている企業です。良ければ、うちでもっと腕を積んでみませんか? あなたは将来もっと大物になりそうな予感がします」 「えっ……」 要は、企業からのスカウト、ということだ。それと気付いた唯月の瞳が、まん丸く見開かれる。 どう答えたら良いのか、逡巡して――結局、首を横にゆるゆると振った。 「うれしいお話ですが、わたしはエクソシストで……他の勉強にも興味があって……なので」 ごめんなさい、と丁寧に頭を下げる唯月に、男性も申し訳なさそうに笑った。 「構いません。ですが、あなたはご自分の腕にもっと自信を持っていい。気が向いたら、連絡をください」 「あ、ありがとう、ございます……っ」 去っていく男性の背中と、渡された連絡先のメモを見ながら、神妙な面持ちで思考にふけった。 「いづ凄ーい!」 「まさか、こんなに買ってもらえたなんて……びっくりです……!」 売り上げを集計した結果――完売したのだからなんとなくわかってはいたものの、その数字は二人を驚嘆させるに十分な結果だった。 自分ごとのように喜んでくれる瞬を見て、唯月はある考えを持ち始めていた。 (わたしも、あなたの仕事を手伝いたい……) 先日初めて聞かされた、唯月が幼少期の、父と彼の話。 今日企業からスカウトされた一件は、唯月のぼんやりとした望みを後押ししてくれた。 父に近い仕事、メイクを勉強しよう――そうして、今以上。瞬に寄り添って力になれたら、と。 「……私、もっといろんな勉強、頑張ります」 ぐっと拳を握った唯月に、瞬は「応援するね~」と、変わらず和やかに微笑んでくれた。 ● 「ラウル。そくばいかい、って、なんですか?」 怒涛の如く流れ込んでいく人の波を見て。 くいくいと袖を引き、小首を傾げる人形遣いの少女『ララエル・エリーゼ』に。 パートナーである『ラウル・イースト』は、うーん、と考え込むような仕草をした。 「ええと。自作の書籍や手作りのアクセサリーを販売したり、買ってくれる人と交流を楽しむ場所、って言えばいいのかな。……それにしても」 凄い人の量だね……と、既に雰囲気だけで気圧され気味のラウルとは逆に、ララエルは瞳をきらきらと輝かせている。 「手作りのアクセサリーもあるんですか? 素敵!」 「そうだね。水上マーケットなんかとは、また違った魅力があるんじゃないかな」 「ふふっ、すっごく楽しみです!」 「うん。でも、はぐれないように気をつけよう、ララ」 自然な動作で手を繋ぎ、彼女が行きたい場所を聞いて、先導するように会場内へと足を踏み入れた。 「ねえラウル、これを買ってもいいですか?」 ララエルが手に取ったのは、アクアマリンの石があしらわれたアクセサリーだ。 ブースの主も「お似合いですよ」と笑ってすすめてくれる。 「これは……すごく綺麗なアクアマリンだね。僕がつけてあげる」 「えへへ、ありがとうございます!」 大好きなラウルがつけてくれたアクセサリーの効果で、益々ララエルはご機嫌だ。 浮き足立つまま一切物怖じせず、通りかかったブースで見かけた冊子にふと目を止めた。 「わあ、こういう本も売ってるんですね……これって、読んでもいいんですか?」 「はい、どうぞ」 見本、と書かれた一冊をぱらぱらと捲って、中ほどのページを開いた途端に、ララエルの目がぎょっと見開かれた。 「わわわっ、ラウル、これって、えっと、しょうじょまんが……っていうんですか?」 「うん? どれ」 「その……きっ、きすしーんが、ひゃああっ!」 「ら、ララ、落ち着いて。すみません、ありがとうございました」 キスシーンだけで頬が火を噴いてしまった彼女には、まだこういった本は早そうだ。 あわてふためくララエルを落ち着かせつつ、ブースの主にラウルは軽く頭を下げ、思考を切り替える。 「そうか……即売会には漫画もあるんだな。買った事があまりなかったから――」 「きゃああ! こ、この漫画はっ……!?」 「って、ララ!?」 ちょっと目を離した隙に、すぐ隣のブースに置かれていた――『大人向け』とでっかく書かれている本を広げてしまったらしいララエルの悲鳴に気付き、ラウルがまた大慌てで駆けつけ、この本はまだ駄目っ! と、急ぎ目隠しをした。 「ら、ララ! 一旦休憩しよう! 人波もすごいし、ね!?」 「ひゃいぃ……」 あわや過激な描写を目にする寸前で彼女の救出に成功したが、初めて知る大人の世界に、すっかりのぼせてしまったララエルだった。 「……さっきの漫画は、何をしている所だったんでしょう……?」 休憩所でジュースを飲みつつ、未だに先ほどの書籍の内容が気になっているララエルに、ラウルは答えに詰まって頬をかく。 「あ、あれは……」 ごほん、と一つ咳払いし、平静を取り繕うものの――なんと言うべきだろうか。 まだ駄目、と言った手前、自分にはその知識がある、と認める事になる。いや分かるんだけれど。彼女には無垢なままでいてほしいような、でもいつかは知ってほしいような……。 「君には、まだ早いよ」 「どうしてですか? ラウルは知ってるんですか?」 「それは……っ、と、ともかく! 早いったら早い」 「そうですか……ラウルがそう、言うなら」 ひとまずは納得してくれたものの、ラウルの胸中は複雑だ。 もう、それなりに彼女とは長い付き合いになるし、想いも通じ合っている。 恋人同士が愛を紡ぎあう行為に、本来なら全く欲求がない年頃ではないのである。 「まあ……あれと同じ事はそのうち、ね……」 「おんなじこと、って?」 「っ! なななっ、なんでもない! ……はあ、何を言っているんだ、僕は」 ぐい、と顔を近づけてきたララエルに、もやもやと思考にふけっていたラウルは椅子ごと倒れそうになって。 ぽろっと漏れ出た本音を取り繕うのに、また労力を費やす事になるのであった。 ● 「なんだ、これ……」 目の前に佇む大きな建物――同人誌即売会のイベント会場を前にして。 呆然と見上げるのは浄化師『フィノ・ドンゾイロ』だ。 同じく浄化師でありパートナーの『ユン・グラニト』も、彼の服の裾をきゅっと掴んで、同じ方向を見上げる。 「熱気、すごいね」 「うん。みんな妙に燃えてる感じじゃない……?」 「夏の暑さ、だけじゃ、ない」 たどたどしく答えつつ周囲を見渡せば、なんだか似たような格好と、顔つきの人が多い気がする。 「こわい、けど、がんばる」 ぐっと小さな拳を力強く握り締めて、フィノの手を引き、会場内へと出陣した。 「そーいえばユンって! 参考書買いに! 来たんだよねっ?」 「フィノ、くん、聞こえ、ない」 位置的にはすぐ隣にユンが居るにも関わらず、フィノが大きく声を張り上げる理由は、会場直後からごった返す人の海にあった。 「やっぱり! 漫画の! 参考書なのっ!?」 「それはっ、言っちゃ、ダメっ!」 「なんでそこだけ聞こえてんだよっ!?」 大事な事だけは聞き逃さないユンに、フィノのツッコミが大きく冴え渡る。 結構な声量で話しているのに、周囲はそんな二人をまったく気にかけず、どんどん人の波は増加していき――。 「あ……」 ふらふらのへとへとになりつつ、ようやっと人の空いた空間に放り出されたと思ったら。 見事にパートナーとはぐれたユンは、迷子になっていた。 「ユン見つけた! もー、だからはぐれるなって……」 フィノに掴まれた腕に気付き、振り返った相手はしかし、彼のパートナーではなかった。 「わっ!? ご、ごめんなさーいっ!」 慌てて手を離し、乾いた笑いでそそくさと場を立ち去る。 一度人の少ない空間に出て、会場で渡されたマップを広げた。 「一旦、落ち着こう……はぐれた時の集合場所は、と」 迷子になったものは仕方がない。こういった事態も一通り想定していた。 合流地点に向かう途中、狼形態の『ロス・レッグ』がひなたぼっこしているのに気付いて寄り道したり、他の浄化師を見かけてほっこりしつつ、歩を進める。 「これ、ユンに似合うかな」 足を止めた雑貨屋で見つけたアクセサリーも一つ購入して、また目的地へと急いだ。 「大丈夫……決めた場所に、集合」 同じ頃、ユンもフィノと同じように考え、参加している他の浄化師のブースにもしっかり立ち寄り、合流地点へ向かった。 ふと目に止まった雑貨のブースでは、フィノくんに、と似合いそうなアクセサリーを手に取って。 周囲をきょろりと見渡せば、丁度そこはユンが目指していた場所――フィノとの合流地点でもあり、目当てのブースでもあった。 「あっ……! こ、これ、ください」 赤面しつつ彼女がブースの主へ差し出したのは、女装少年のイラスト集――そこへタイミング良く、フィノが合流してしまう。 何を買っているんだろう? とユンの手元をこっそり覗き込んだが、悪寒を感じ見なかったことにした。 その後は気になっていた推理小説につい魅入ってしまい、ごめんなさいっ! と頭を下げる場面も。 「これは、すごい、ください」 一方のユンもまた、漫画やデザインの参考書を真剣に選び、購入していた。 うっかりその流れで、大人向けや過激な本も開きそうになって――。 「ユン見るなっ! 俺も見ないっ!」 「ご、ごめ、なさいぃっ……!」 二人して真っ赤に赤面し、本を綺麗に戻して足早に立ち去った。 「はあ……すごい所だったな。色んな意味で……」 「うん……でも。いっぱい、買えた」 普段、掃除で体を動かす事には慣れていても、こういった人の多さはまた別で、疲弊しきったフィノとは逆に、戦利品を手にしたユンは満足そうだ。 購入した本の内容には触れない事にして、そういえば、とフィノは一つ、先ほど買った雑貨を取り出した。 「これ、ユンに買ってきた」 「わ、ありが、とう。……あたしからも」 「え、俺にも?」 予想外の贈り物にフィノは瞳を瞬かせる。 互い、迷子になっていた間にも考えていた事は同じだったようで、プレゼント交換を終えたあと、どちらともなく噴出し、くすくすと笑い合った。 ● 『シンティラ・ウェルシコロル』は、会場直後から好みのブースへと一直線に走っていた。 活字中毒で割となんでも好んで読むが、どちらかというとマイナー……王道とは逆を好む傾向にあり、会話や論争になると負けが見えているし、熱弁をふるったところで理解を得られずなんともいえない空気が流れてしまうことが明白なので、普段は遠巻きに眺めているような彼女である。 そんな彼女が好む本が、ここでは多く手に入る。両片思い最高! なんて以前主張したら「子供っぽい」と言われてしまったこともあり、『大人向け』と注意書きされた本もしっかり購入した。これは勉強用だ。好みの傾向の本は勿論、優先して回り死守した。 (鞄は重いですが、家に帰れば読み放題です) ベンチで休憩し、水分補給しつつ、ずっしりと重量感のある鞄を覗く。 恋愛モノは程遠いだけに、いつも心のどこかで憧れを抱いている。妄想して満足するくらい、いいだろう。 パートナーのロスについては、狼姿でひなたぼっこを決め込んでいた。 ペットであった頃から、彼女が何かそういう、薄っぺらい本を好んで読んでいた事はなんとなく知っていたのだが、人でごった返す会場についていくほどでもないので、鞄だけ持ち込んでのんびり過ごしていた。 途中、見知った顔が通りかかると足元にじゃれついたり、かわいいー! と毛並みをなでていく、見知らぬ参加者たちの笑顔も決して悪くない。 「おっ、ロスじゃねえか。もう飯か? 早いな」 「おー。ほうは。ほほほひひゃひ、うっふぇひょ」 「飲み込んでから話せ、飲み込んでから。ったく、本当にすごい人だな。お嬢に回らせなくて良かったぜ……」 昼より少し前、食欲の訴えるまま早めの昼食にありついていた――棒に刺さったお好み焼きを口いっぱいに頬張っていたロスに、『ロウハ・カデッサ』が気付いて声をかけた。 聞けば、シュリに頼まれて買い物に回っていると言う。 初参加らしく、人でごった返す会場内では思うように動けない、と頭をかくロウハを、人型になり手伝う事にした。 「頑張って下さい。応援してます」 「あ、ありがとう……! 感想もらえると、嬉しいわ」 売り手として参加している『シュリ・スチュアート』のブースを訪れたシンティラは、彼女の本を一冊購入し、差し入れのお茶とサンドイッチを渡してブースを後にした。 どんなジャンルであれ、友人や知り合いの趣味は知っておきたいと思った。 途中出会ったユンも一人だったが、パートナーとはぐれてしまったらしく、進行方向が一緒だからと途中まで案内することにした。 性癖――本の趣味に関しては、馬の合う部分もあり話が弾んで、ユンも寂しい思いをせずに済んだらしい。 合流地点の手前で別れたシンティラは「また迷わないように気をつけて」と気遣って別れた。 その後、すれ違ったララエルとラウルにも声をかけたが、あまり本については詳しくなく、代わりに彼女が買ってもらったというアクアマリンのアクセサリーについて話したり、雑談しながら会場内をぶらぶらと歩いた。 「こういう、水色で大きくて、透明感のある石が好きなんです。置物なんかもいいですよ」 「わあ、これ、シンティラさんの瞳の色と一緒ですね!」 「ララエルさんの方が近いんじゃないですか? よく似合ってます」 「ありがとう! ラウルがつけてくれたおかげですっ」 「はは、選んで買ったのはララだよ。僕も似合ってるとは思うけれど」 仲睦まじい二人を見て、やはり程遠い世界ですね……と遠い目になりつつ、心中で呟くシンティラであった。 「おっかえりー。いいもん買えたか?」 「はい、大収穫です。暫くは活字週間ですね」 普段あまり、感情が大きく顔に出ない彼女だが、今日は心なしか満足げに見えて、ロスは大きく伸びをした。 「そんならよかった。半分持つぜ」 「ありがとうございます」 シンティラがごっそりと抱えた鞄の中身の半分を、ロスの鞄へシンティラの手で移す。 家族同然の存在とはいえ、家族だからこそ見せたくない部分と言うか――大人向け、と書かれたちょっとばかり過激な表紙の本だけは、それとなく見えないようにしながら。 ● 「ロウハ。わたし小説を売ってみたいわ」 「……は?」 そんなやり取りが発端で、即売会へと参加を決めたシュリと、そのパートナー、ロウハ。 読書好きが高じて、空き時間にコツコツと小説を書き溜めていた彼女は、それを発表できる場があると知り勇んで参加を志願した。 売り上げよりも、誰かに読んでもらえたら、という強い思いのもとに。 「な、なんてすごい人……!」 創作活動には触れていても、即売会に関しては完全に素人だ。 雰囲気にのまれそうになるが、集まった参加者が皆同じような気持ちを抱えているのがわかって、益々刺激を受けた。 「わたし、場違いじゃないかしら……いろんな人に読んでもらえるだけで、って思ってたけれど」 「まあ、いいんじゃねぇか? アマチュアの集まりだって聞いてるし。倒れないようにしてくれよ」 ロウハはそう軽く声をかけると、緊張と不安で一歩が踏み出せないシュリを手招き、設営へと急いだ。 (いきなりこんなイベントに参加とか、大丈夫か。お嬢は……) いざ開場し、参加者がなだれ込んで来たのを目にしたロウハは、いよいよもってパートナーが心配になる。 シュリが小説を書いている事など全く知らなかった為、今回の話は寝耳に水だった。 ロウハ自身こういった世界とは無縁だったものの、彼女を支えるべく製本と準備には真摯に取り組んだ。 今日は終始、緊張でカチコチな彼女のフォローに回る心づもりだ。 「すみません、これ読んでみてもいいですか?」 「あっ……! え、ええと、どうぞっ」 記念すべき一人目の読者に、緊張しつつシュリが見本誌を差し出す。 彼女が今回出品したのは『バベルの翼』というファンタジー小説だ。獣人や竜人が住む世界を舞台に描いた、ハートフルな冒険活劇。 相場や部数を見聞きして、三十部ほどひとまず用意したが、一冊でも売れれば、という気持ちが正直なところだった。 「これ、おもしろいです。一冊ください」 「……! あ、ありがとうっ!」 お金を受け取り、冊子を手渡す。 本が売れた感慨にふける間も無く、先ほどの参加者を皮切りに、次から次へ彼女のブースには人が立ち寄っていく。 てんやわんやしつつ、ロウハのフォローもありなんとか人をさばいた頃には、昼近くなっていた。 「ロウハ、わたし他の所も見てみたいんだけれど……」 おずおずと申し出たシュリのお願いは「ダメ」ときっぱり一蹴される。 「こんな人込み、絶対戻ってこれねーだろうが。何か欲しいものがあるなら買ってきてやるから」 「……むー。わかった、おとなしくしてるわ。何か面白いものあったら教えてね」 彼女の言葉に頷き、ついでに飲み物も買ってくるぜ、とロウハはブースを後にした。 人並みが落ち着き時間が空いて、入り口で渡されたカタログなるものをぱらぱらと開いていると、シンティラがブースを訪ねてくれた。 「こんにちは。盛況そうですね。ロウハさんは、お留守ですか?」 「寄ってくれてありがとう。そうなの、今ちょっと回ってくれてて――」 いくらか雑談をかわしてから、本を購入するついでに、と差し入れのサンドイッチを感謝して受け取り、彼女とは別れて。 少しして、今度はユンがブースに寄ってくれた。こちらはフィノとはぐれてしまったらしく、心細いだろうと思いきやそれなりに楽しめているようだ。 唯月の出品も気になっていたが、完売だったと聞いて、ちょっと残念なような、喜ばしいような気持ちになった。 「よく売れたな。良かったじゃねぇか」 「ええ……! こんなに手にとって貰えると思わなかった……あ、あの、ロウハ」 これ、よかったら。卓上へ残っていた最後の一冊を、おずおずと彼に差し出す。 「製本も手伝ってもらったし……読んでもらえると嬉しいわ」 「……いいのか? 手元に残らないだろ」 「いいのよ。今日はたくさん、お手伝いをありがとう」 彼の協力なしには、決してここまで頑張れなかったと思う。 こんな世界は全くの未知であったロウハが「お嬢が真剣だしな」と真摯に手伝ってくれた事も嬉しかった。 彼女の申し出には少しの気恥ずかしさと、成長した子を見る親心のような想いで「ありがとな」と受け取った。
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*** 活躍者 *** |
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[13] シュリ・スチュアート 2018/08/28-23:33
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[12] ロス・レッグ 2018/08/28-23:29
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[11] シンティラ・ウェルシコロル 2018/08/28-23:26 | ||
[10] 杜郷・唯月 2018/08/28-23:26
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[9] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/28-22:34 | ||
[8] シンティラ・ウェルシコロル 2018/08/28-20:59 | ||
[7] ラウル・イースト 2018/08/28-20:07
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[6] ロウハ・カデッサ 2018/08/28-19:58
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[5] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/28-19:50 | ||
[4] シンティラ・ウェルシコロル 2018/08/28-19:30
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[3] 泉世・瞬 2018/08/28-10:05
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[2] ラウル・イースト 2018/08/28-06:25
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