~ プロローグ ~ |
晩夏のある朝、霧深い森の中を、黒い外套に身を包んだ四人の男が音も無く駈け抜けてゆく。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
今回のエピソードのマスターを務めさせていただく、黒浪 航です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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腹の底が透けて見える あの女は俺達を掌の上で踊らせたつもりか 生憎、誰かの勝手な都合に付き合う程、俺は大人じゃないんだ キメラに先制でDE8 その後信者へ説得:奴は禁忌魔術の為に他人を唆し、多くの人を傷付けた。お前達のアジト破壊も許されない 恐らくだが極刑も視野に入れられる…あいつは殺されても当然の人間だ どうだ?お前達の任務、俺達が少し軽くしてやる 真名詠唱後キメラに通常攻撃 キメラ討伐後はルシアを相手に ルシアが倒れたら信者にDE8で隙を作る 裏切りとは人聞きが悪い。表に返ったんだ ドライとフィーア、手負いの方を集中的に攻撃 ルシア、これは慈悲じゃない。どんなに腹が立とうが然るべき裁きの上で処罰は受けてもらう |
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ルシアさんって終焉の夜明け団の人じゃ、なかったんです、か…? 少し混乱しつつもみんなの話に頷き 話すのが上手くないのは自覚してるので信者への説得は黙って聞いている 戦闘開始時、魔術真名詠唱 クリスと共にルシアの方へ 中衛位置からなるべく魔力を使わないように通常攻撃でルシアを狙い援護 信者の中に死にそうな程の酷い傷を負った者が出た場合は天恩天賜で回復 一時的とは言え、一緒に戦う方を見殺しにはできない、です… クリスがルシアを庇って怪我した場合は即座に回復 ルシア捕縛を手伝う キメラ戦が終了し仲間が来るまでルシアを殺させないように 信者戦 鬼門封印を使った後 クリスの援護射撃及びリチェちゃんと合図し合っての回復を中心に動く |
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ルシアさん 夜明け団と行動を共にしているのかと思っていたのに 一体何を考えているのかしら? うん これ以上こんなことをしては駄目 彼女を止めましょう まずはルシアさんとキメラ討伐を優先 確かにわたしたちの任務は 終焉の夜明け団のアジトを確認することです だけど禁忌魔術を目にして それを無視する訳にはいきません きっぱりとそう宣言 夜明け団の人も捕縛しなければだけど それをしないような演技 魔術真名詠唱 キメラ戦 中衛に布陣 光明真言2で能力上げ 体力が6割を切った人を優先で回復 それ以外は九字で攻撃 キメラ討伐後はルシアさん、次に夜明け団の順に戦闘 戦闘方針はキメラ戦と同じ 誰も殺させたりしません シアちゃんと連携 仲間が最後まで倒れぬよう |
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指令を受けて来てみたらよく分からない女の逃亡の手助けをさせられるなんて御免被るわ 私、利用されるのは大嫌いなの とりあえず、そのキメラは禁忌だから壊しちゃうわね 魔術真名唱え 戦闘はキメラ最優先で攻撃 スキルで回避を上げ前衛で攻撃を引き付ける キメラ撃破後 ルシア健在ならルシア狙い 逃走阻止のため退路を断つように動く 信者に殺させないよう注意 ルシア捕縛後 夜明け団に標的変え お疲れ様、ご協力ありがとう …それじゃあ次はあなた達の番ね 鈍重そうなツヴァイを狙う この時も回避重視で、トールが攻撃しやすいように位置取り等気をつける え?共闘? ルシアを捕まえたんだからおしまいよ あとは当初の目的通り、夜明け団捕縛の指令をこなすだけ |
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ルシアと対峙するのは三度目ですね。 彼女の思い通りになるのは癪ですし何か手は打ちたいですね。 まずは信者との一時的な休戦を申し出てみましょう。 三つ巴のままではお互い消耗するだけですそちらがルシアとの戦闘を優先するのならばこちらはキメラの相手はしましょう。懸念は一つ減るでしょう? ルシアを攻撃するのならルシアもキメラを動かさざるえないでしょうし…。 協力の証になるかはわかりませんがルシアにMG8を使用しておきましょう。 キメラはルシアを倒しても無効化されませんし先に倒してしまいましょう。 その間にルシアと信者がお互い上手く消耗してくれればいいのですが。 ルシアとの戦闘になったら支援の頻度を上げます。 |
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情報提供ありがとうございました、あとは見学の予定でしたか? 残念ですが、私達にはあなたの望む物をお見せするつもりはありません。 まずはキメラから、ここでルシアさん達をどうにかしないと この先もっと被害が大きくなりますし頑張っちゃいますよー! グレンの後ろからスキルを使っていきます。 相手の防御は固いです、攻撃を集中させて倒したいですね。 キメラが戦闘中ルシアさんの下へ引き返そうとしたら 攻撃してこちらに注意を向けさせます。 キメラの次はルシアさん、ルシアさんの次は信者の皆さんですね。 攻撃はフィーアさんから。 魔法への抵抗力なら私の方がありますから、グレンはその間に攻撃をお願いしますね。 何とかなりますよ! …多分。 |
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>キメラ戦 愛華 周囲の近接主体の仲間と連携して戦う。 響 遠距離から移動しながら狙撃して、キメラの注意を近接戦をしている仲間に向けさせない。 >信者戦 遠距離系のフィーアと戦う。 愛華が逃がさないように近接戦をし、響が遠距離から削る。 >ルシア戦 魔術真名を唱え、戦う。 |
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*目的 ルシアの捕縛 *手段 まず終焉の夜明け団と共闘してルシアを倒す 見たところ彼らも彼女を殺したがってる様子 それなら僕らも手を貸す理由を言えば無下にしないでしょう 共闘する事になったら僕らはキメラの相手をする ルシアの相手は夜明け団に任せます 目的達成できるのだから拒む理由はないはずです 戦闘時はユウさんに後方から援護を受けて接近 【ソードバニッシュ】で先制後、関節など比較的柔らかい部分を重点的に攻撃 確実にダメージを与えて撃破します 戦闘後、ルシアが倒されてないなら夜明け団を援護する形で撃破 その後、夜明け団の一人フィーアに不意打ちを仕掛けて倒す ルシアが倒されてるなら嘘を教えて夜明け団を制止して時間を稼ぐ |
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~ リザルトノベル ~ |
●敵の敵は 丘の頂上で、女王のように佇むルシアに『リチェルカーレ・リモージュ』は不審の眼差しを向ける。 「ルシアさん……夜明け団と行動を共にしていたと思っていたのに、一体何を考えているのかしら……?」 「さあな……」 『シリウス・セイアッド』は美しい双剣を鞘から引き抜きつつ、呟いた。 「だが、このまま放っておけば、あいつはキメラをつくり続ける。夜明け団はもちろんだが、ルシアも逃がすわけにはいかない」 「うん……。これ以上、こんなことを続けさせてはダメ。彼女を止めましょう」 シリウスは、二本の剣の切先を、ルシアとリザードマンたちに向ける。 「今日は逃がさない! お前を倒すのが最優先事項だ」 シリウスの決然とした宣言に、ルシアはちょっと困ったように目を細める。 (ルシア、悪いけど俺達は君の掌で踊ってやる気は無いよ) 『クリストフ・フォンシラー』は、くすりと笑うと、油断なく武器を構えている四人の信者たちに向かって、両腕を広げてみせた。 「終焉の夜明け団の方々、ここは一旦休戦しよう」 「……なに?」 クリストフの意外な提案に、アインは怪訝な表情を浮かべる。 「ルシアに、痛い目に遭わされたんだろう? 実は、俺達も彼女には辛酸をなめさせられていてね。いつもいつも、いいように利用されて腹が立ってるんだ」 すると、そばにいた『セプティム・リライズ』も頷き、言葉を継ぐ。 「これまでにも、僕たち教団は、幾度も彼女の罠に嵌り甚大な被害を受けてきました。そのため、教団の上層部も先日ついに彼女の抹殺を決定したのです」 「あの女は、教団も敵に回していたのか……まったく、命知らずなヤツだ……」 ドライは、はやくも浄化師たちの言葉を信用したのか、ルシアに視線を向けて不敵に笑う。 「だから、君たちがルシアを倒したいというのなら、俺達はそれに手を貸す」 クリストフがいうと、『グレン・カーヴェル』が愛用のバトルアックスを揺らしながら、思わせぶりな笑みを浮かべた。 「ここであの女を片づけておかないと、色々と困るんでな」 「…………」 予想外の展開に判断を迷う信者たちは、互いに顔を見合わせる。 魔術真名を唱えて潜在能力を解放した『ロメオ・オクタード』は、ルシアを見つめつつ、ゆっくりと息を吐く。 (あの女と戦うのも、これで三度目か……。お嬢ちゃん的には、自分で捕まえたいって気持ちもあるんだろうな……) ロメオが横目で見下ろすと、『シャルローザ・マリアージュ』は決意の表情で一歩前に進み出て、信者たちに語りかけた。 「このままでは、お互いに消耗するだけです。あなた方の目的は、ルシアを倒すこと、ですよね? であれば、私達があのキメラの相手をすれば、あなた方の懸念は一つ減るのではないですか?」 「…………」 信者たちの中心に立つアインは、無言のまましばし逡巡する。 (コイツらは、オレたちを罠に嵌めようとしているのか? いや、しかし、仮にコイツらがあの女と手を組んでいるのだとすれば、このような回りくどいことなどせず、はじめからオレたちを袋叩きにしようとするはず……。でもそうしない、ということは、コイツらがあの女と敵対関係にあるのは間違いない、ということか……いや、しかし――) 信者たちが判断を迷っていると察した『ショーン・ハイド』は、突然、眼にも止まらぬ速さで狙撃銃を構えると、ルシアのそばにいたリザードマンの一体に狙いをつけ、『ソニックショット』を放った。 ギシャアアアァァァアアアッ! 完全なる不意打ちで腹部に銃弾を受けたキメラが苦痛の絶叫をあげると、信者たちと、そしてルシアの表情が一変した。 「これで、俺たちを信用したか?」 ショーンは、冷静にアインを見つめる。 「あの女は、これまでにも禁忌魔術の為に他人を唆し、多くの者を傷つけた。あいつは、殺されても当然の人間だ。だから、お前達があの女を抹殺するつもりなら、俺たちは手を貸す、といっているんだ。どうだ? 悪い話ではないはずだぞ?」 しばしの間の後、アインは、浄化師たちに向けていたナイフをゆっくりと下ろした。 「……わかった、いいだろう。あの女の抹殺に協力するならば、お前達はこの場から見逃してやる。もちろん、お互いに貸し借りは無しだ」 「うん、それで構わないよ」 『レオノル・ペリエ』が微笑んで頷き、浄化師と終焉の夜明け団の信者の間に一時的な同盟が誕生する。 ●ルシアの誤算 教団の浄化師と終焉の夜明け団の信者が手を結ぶの見たルシアは、さすがに少したじろぎ、そして、浄化師たちに軽蔑の眼差しを向けた。 「終焉の夜明け団のアジトを捜索するために派遣されたあなた方が、まさか夜明け団の信者と手を組むとは……。誇りや信念を持たぬ、弱き者たち……。私は、どうやらあなた方を少々買い被っていたようですね……」 「たしかに、わたしたちの任務は、終焉の夜明け団のアジトを確認することです。だけど、禁忌魔術を目にして、それを無視するわけにはいきません。今度こそ、あなたを止める……そのために、最善の選択をしただけです」 リチェルカーレが、きっぱりと言うと、 「情報提供ありがとうございました。ですが、私達はあなたが望む物をお見せするつもりはありません」 『ニーナ・ルアルディ』はルシアに笑みを向けつつかぶりを振る。 「浄化師の前で堂々と禁忌魔術を使っておいて、高みの見物ができるとでも思っていたのか? 貴様も随分と間抜けだな」 『愛華・神宮寺』が、小さく鼻を鳴らすと、 「私、利用されるのは大嫌いなの」 『リコリス・ラディアータ』は、鞘から短剣を引き抜き、その刃の切先をキメラたちに向けた。 「とりあえず、そのキメラたちは禁忌だから壊しちゃうわね」 リコリスは宣言すると、『トール・フォルクス』と手を繋ぎ、 『闇の森に歌よ響け』 魔術真名を唱えて潜在能力を解放する。 「あなた方と戦うつもりはなかったのですが……仕方がありませんね。今日、ここで決着をつけましょう」 ルシアは静かに言うと、浄化師たちを指差し、 「いきなさい」 配下のリザードマンに戦闘命令を出す。 ギシャアアッ! 異形のキメラたちが怒号で応えて、それが戦闘開始の合図となった。 (キメラ相手に時間をかけるわけにはいかないですね……) 双剣を手にしたセプティムは、地を疾る流星の如き素早さで誰よりも速くリザードマンの一体と肉薄すると、 (ここです!) 低い姿勢から『ソードバニッシュ』を発動、神速の斬り上げをキメラの弱点である脇に命中させ、そのまま片腕を両断する。 激昂したキメラが、残った一本の腕を無防備なセプティムめがけて振り上げたとき、 「させません!」 かけつけた『ユウ・ブレイハート』が、『リーフスラッシュ』を発動、魔力で形成した無数の葉をキメラの顔面に命中させ、相手を仰け反らせる。 パートナーとともに魔術真名を唱えて潜在能力を解放したシリウスは、草原を一直線に駈け抜け、 「キメラとの戦い方は、もう学習済みだ」 セプティムの背後で跳躍、愛用の双剣が生む華麗な剣技で、リザードマンの頸や脇、脚に無数の斬撃を浴びせる。 アライブスキルで膂力をあげたシリウスの剣は重く、鋭く、大ダメージを受けたキメラがふらついたところで、 「いきます!」 やや離れた場所にいたリチェルカーレが、杖を振って繰り出した、九字に切り裂くような衝撃が相手に直撃、その場から弾き飛ばす。 「終わりです」 キメラの背後に回り込んでいたセプティムが、二本の剣を勢いよく交差させて相手の頸を斬り飛ばすと、哀れなキメラは絶命し、ドサリとその場に倒れ伏した。 (ルシアさんって、終焉の夜明け団のひとじゃなかったんですね……) 『アリシア・ムーンライト』は緊迫した状況の中で、少々混乱しつつも、 (とにかく、今度こそあのひとを止めないと……!) 決意を固め、パートナーとともに魔術真名を詠唱する。 「いくよ!」 クリストフは、アリシアに声をかけたあと、四人の信者たちに視線を送る。 「あの女は、オレたち四人でやる……邪魔をするな」 アインが暗い口調でいうと、 「彼女をあまり見くびらないほうがいい。それに、俺は君の部下じゃない」 クリストフは肩をすくめ、ひとりさっさとルシアに向かって駈け出す。 「フン、浄化師め……」 アインは不満げに呟くと、部下たちとともにクリストフの後を追う。 先ほど不意打ちを受けて怒ったリザードマンがショーンに襲いかかろうとしているのをみると、リコリスはとっさにキメラの進路を塞ぎ、短剣を構えた。 「いかせないわ」 邪魔だ、と言わんばかりにキメラが大振りのフックを繰り出してくると、アライブスキルで素早さと身のこなしを向上させたリコリスは、相手の攻撃をさらりと躱し、そのまま流れるような動きで、敵の背中に斬りつける。 すでにダメージを受けていたリザードマンが痛みに顔を歪めて足を止めた時、 「そこだ!」 トールのボウガンが相手の胸に命中。 キメラは、激痛に苦しみつつその場から二三歩後退る。 パートナーとともに魔術真名を唱えたレオノルは、 「いま、楽にしてあげるよ」 青い瞳の奥に哀しみの色をみせつつ、杖から魔力弾を撃ち出す。 ショーンも狙撃銃を放ち、二発の攻撃を同時に受けたリザードマンがたまらず地面に膝をついた時、美しく舞うような動きで背後から迫るリコリスがキメラの心臓を深々と貫いた――。 キメラの絶命を確認した浄化師たちの顔にしかし喜びはなく、皆がルシアに怒りの眼差しを向ける。 クリストフたちがルシアのもとへ駈け出したのをみると、シャルローザはすばやく『ルーナープロテクション』を発動、月の女神の祝福によりルシアの攻撃力を下げる。 横目で笑って見せるクリストフに頷きで応えると、シャルローザは眼前に迫るキメラに向かって占星儀を構えた。 「いくぜ、お嬢ちゃん」 ロメオは『ワーニングショット』を発動、正確に相手の頭部に命中させ、敵が怯んだところで、シャルローザの占星儀から撃ち出した魔力攻撃が敵の胸に直撃する。 「一気に倒したいところだが、後のこともあるからな」 パートナーとともに魔術真名を唱えたグレンは、キメラに向かって駈け出し、魔力消費の少ない『暴撃』を発動、渾身の力を込めた苛烈な攻撃を相手の胴に叩き込む。 リザードマンの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられたところで、ニーナが『ワンダリングワンド』を発動、飛翔するタロットカードで相手の身体を切り刻む。 大ダメージを受けたキメラはしかし、しぶとく立ちあがってグレンに襲いかかる。 「くっ………」 グレンが、バトルアックスでなんとか相手の攻撃を受け止めた時、 「そろそろ、眠りにつく時間だ」 ロメオが狙撃銃でキメラの肩を撃ち、相手が仰け反ったところで、 「はあぁぁああっ!」 グレンがふたたびアライブスキルを発動、渾身の一撃でリザードマンの頸を両断した。 「ふたりだけでキメラの相手をするのは、なかなか骨が折れますね」 『響・神原』がリザードマンに狙撃銃を放ちながらいうと、 「泣き言をいうな。すぐに仲間達が来る」 愛華は、キメラと一進一退の攻防を繰り広げながら、厳しい口調で応える。 眉目秀麗の女剣士は気丈に振舞っているものの、リザードマンの鋭い爪による攻撃で、すでに彼女の全身には幾つものが切傷ができて、細く血が流れている。 響は、そんなパートナーの後ろ姿を見つめながら、自分が彼女の代わりになれないことをもどかしく思う。 「うっ……!」 ついに、躱しきれなかったキメラの爪で太腿を深く裂かれ、愛華の身体がぐらりとよろめいた、その時――、突然どこからともなく無数の木の葉が飛んできて、リザードマンの全身を襲い、相手を驚愕させる。 「お待たせしました!」 声に振り返ると、杖を構えたユウがこちらに頼もしい笑顔を向けている。さらに、彼女の前をすばやく疾走してきたセプティムが、『ソードバニッシュ』を発動、怯んだキメラの片腕を斬り飛ばす。 「あとは、任せました」 セプティムの言葉に、愛華は無言で応えてサムライソードを構えると、『エッジスラスト』を発動。瞬時に敵の懐に飛び込んで、相手が意表を突かれている隙に、神速の一閃。リザードマンの頸を見事斬り落とした。 「遅くなってごめんなさい」 リチェルカーレがシリウスとともに駈けて来て、アライブスキルで愛華の回復をはじめる。 「次は、いよいよあの女か」 シリウスは、丘の頂上付近で信者とふたりの浄化師を相手に戦うルシアを見据え、剣を握る手に力を込める。 「前に戦った時より、さらに強くなってるな……」 クリストフは、六人を相手に互角の戦いを演じるルシアを見つめて、賞賛と焦燥が入り混じった複雑な笑みをみせる。 実際、これまでのルシアの戦いぶりは見事と言う他なかった。 彼女は、アリシアとドライ、フィーアが繰り出す魔力攻撃をことごとく躱し、防ぎつつ、クリストフたち接近戦が得意な者たちへは魔力弾の弾幕をぶつけて、彼らに距離を詰められないよう巧みに立ち回っている。 ルシアの膨大な魔力とセンス、そして豊富な戦闘経験があるからこそできる芸当で、クリストフは、そんな彼女をすばらしい好敵手だと認めないわけにはいかなかった。 「できれば、もっと違う形で出会いたかったよ」 クリストフが、残念そうに呟いた時、彼の隣をアインとツヴァイが勢いよく駈け抜けていった。 「集中しろ!」 ふたりを追うように、ドライとフィーアが放った強力な魔力弾が飛んでいき、一気にルシアに迫る。 信者たちは、いよいよ勝負に出たようだ。 「こちらも、本気でいきます」 真剣な表情で呟いたルシアは、迫り来る魔力弾を円形の魔力障壁で防ぐと、次の瞬間、その場から大きく跳躍した。 「ッ!?」 てっきり逃げると思っていたルシアが全力でこちらに向かってきたのをみて、完全に意表を突かれたアインとツヴァイは、攻撃のタイミングがわずかに遅れる。 ふたりは慌ててナイフを構えるものの、時すでに遅し。 「まだまだですね」 信者たちの懐に飛び込んだルシアは、瞬時に両手から高密度の魔力弾を生み出し、放つ。 「ぐぉおっ!」 まともに攻撃を受けたツヴァイは、思いきり宙に弾き飛ばされる。しかし、アインは、 「この程度っ!」 なんと、みずからの左腕を魔力弾にぶつけて犠牲にしつつ、右手に握ったナイフで素早くルシアに斬りつけた。 「くっ……!」 胸から脇腹までを一直線に浅く斬られたルシアは、苦痛に顔を歪めつつ、後方に飛び退る。 「油断しました……」 修道服を裂かれ、白い肌から真紅の血を流す女は、それまでの余裕を失い、はじめてかすかに怯えたような表情をみせた。 アリシアは、倒れたまま動かないツヴァイのもとへ駆け寄って、アライブスキルで回復を試みる。 「なにをしてる……さっさと、あの女にトドメを、刺せ……」 ツヴァイが苦しげな表情でいうと、 「いいえ、あなたの治療が先です」 アリシアはかぶりを振って、はっきりと言う。 (一時的とはいえ、一緒に戦う方を見殺しにはできない、です……) 「ふん……甘いな、お前達は……」 ツヴァイは吐き棄てるようにいったが、あえて抵抗はせず、大人しくアリシアに身をまかせる。 ルシアは、丘のふもとで自分のキメラがすべて倒されたのをみて、苛立たしそうに口元を歪めた。 逃げる素振りを見せないのは、すでに深手を負った体ではどの道この場から逃げ切ることができないとわかっているからだろう。 「覚悟しろ、ルシア」 使い物にならなくなった左腕をだらりと垂らしたまま、アインはルシアにナイフの切先を向ける。 「いいえ、勝負はこれからです」 キメラを相手にしていた浄化師たちがこちらに駈けて来るのをみながら、ルシアは大きく息を吐くと、ふたたび魔力を最大限に高める――。 しかし、その後の戦闘は、大方の予想通り一方的な展開となった。 いくらルシアが強いとはいっても、頼みのキメラも倒され孤立無援となった上、深手まで負わされた彼女には、信者と浄化師合わせて総勢二十名を相手にするだけの力はさすがに無かった。 「いくぞ!」 ロメオが『ソニックショット』で先制すると、遠距離攻撃が得意な者たちが一斉に攻撃を開始する。 「…………っ!」 ダメージのせいで素早い身のこなしができないルシアは、あらゆる攻撃を魔力障壁で防ごうとするものの、すべて防ぎ切ることはできずに強い衝撃を受けて後方に倒れ込む。 「これで決める」 アインが真っ先に駈け出すと、剣や斧を手にした浄化師たちがそれに続く。 「まだです」 ルシアは必死に起き上がり、幾重にも弾幕を張るが、彼女に迫る者たちは、落ち着いてその攻撃を躱しつつ、さらに距離を詰めていく。 そして――、 「終わりだ」 アインが跳躍し、ルシアの喉元目掛けて勢いよくナイフを振り下ろす! ルシアが死を覚悟し静かに目を閉じたのをみて、アインはみずからの勝利を確信した――が、その瞬間、 「やらせるわけにはいかない」 突如、信者たちの眼前に飛び出してきたクリストフが、みずからの剣でアインのナイフをガッチリと受け止めた。 ●信念と覚悟 「なっ……!?」 目の前で起きたことを理解できず、四人の信者全員が一瞬動きを止める。 その瞬間を、セプティムとユウは見逃さなかった。 (ごめんなさい……!) ユウは、悔悟の表情を浮かべつつ、『リーフスラッシュ』を発動、完全に無防備だったフィーアに、強烈な一撃を見舞う。 「ぐああぁぁああっ!」 属性の方陣相生の効果で大ダメージを受けたフィーアに、クリストフが一気に迫る。『ソードバニッシュ』を発動し、閃光の如き素早い一撃を見舞うと、フィーアは肩から血を流しつつ、よろよろと後退する。そこに、 「逃がさないよ」 レオノルは呟いて、『リーフスラッシュ』を発動、さらに、 「覚悟!」 「決めるぜ」 愛華とグレンが同時に迫り、アライブスキルを発動、満身創痍の信者を挟撃し、決定的な一撃を加える。 「ぐ……ぉ………」 浄化師たちの怒濤の攻撃に、フィーアはただの一度の反撃すらできぬまま倒れ伏した。 「お、お前達……裏切ったのか!」 アインが浄化師たちに驚愕と憎悪の眼差しを向ける。 「裏切ったとは人聞きが悪い。表に返っただけだ」 「俺はお前たちを見逃すと言った覚えはない」 ショーンとシリウスが冷静に応えると、ルシアは傷を手で押さえつつ、暗い笑みを浮かべた。 「言わなかったっけ? 俺たちの目的は彼女を捕縛することだよ。嘘は言ってないよね?」 クリストフが微笑むと、そばにいたリコリスも肩をすくめる。 「これまでご協力ありがとう。……次は、あなたたちの番よ、ってもうひとり倒しちゃったけど……」 「くそぉおおっ!」 ダメージから回復したツヴァイが、任務達成の執念を燃やし、ナイフを手にルシアに迫るが、 「おっと!」 その動きを予想していたトールが、ツヴァイの足元にボウガンを放ち、彼をその場に釘付けにする。 「……教団の浄化師などを信用したオレたちが馬鹿だった、ということか」 アインが憎々しげに呟くのを聞いて、ユウはひとり辛そうに視線を落とした。 「すでに仲間はひとり倒れ、お前は片腕が使えない。それでもまだ俺たちとやるつもりか?」 グレンが訊くと、アインは浄化師たちを睨みつけながらナイフを構えた。 「当たり前だ。お前たちをけして赦しはしない」 シリウスとクリストフは、それぞれ剣を構え、アインと対峙する。 アインの強さ、覚悟は相当なものだ。片腕が使えないとはいっても油断できる相手ではない。 「オレたちを欺いたことを後悔しながら、逝け!」 アインが叫んだ瞬間、アリシアが『鬼門封印』を発動、アインの動きを鈍らせる。 「チィ……」 アインは舌打ちするが、構わず浄化師たちに攻撃を仕掛ける。 「っ!!!」 アインのナイフをとっさに剣で受け止めたクリストフは、驚愕する。 (手負いの身体で、まだここまで動けるのか……) シリウスが素早く背後から迫ると、アインはなんと、そちらを一瞥もせずに強烈な後ろ蹴りを繰り出し、シリウスを弾き飛ばした。 「く……」 腹を押さえて顔を歪めるシリウスの側で、リチェルカーレが魔力攻撃を撃ち出したが、アインはそれもギリギリで躱してみせる。 「やるな……」 シリウスは、眼前の敵を真の強者と認め、全身の神経を研ぎ澄ます――。 「お前たち、絶対に赦さない!」 ドライは怒りの叫びをあげつつ、魔力で生み出した無数の火球を浄化師たちへ撃ち出す。 「まったく――」 「派手にやってくれるな」 ロメオとショーンは、攻撃を避けつつ同時に『ソニックショット』を発動、素早く狙撃銃を放つが、 「こんなものっ!」 ドライは、魔術師とは思えぬ身のこなしで、銃弾を器用に躱してみせる。 シャルローザとレオノル、ニーナも加わり、浄化師と信者の間でしばらく派手な遠距離攻撃の撃ち合いが続くが、双方相手に攻撃を当てられず、いたずらに時間だけが過ぎていく。 「闇雲に攻撃を仕掛けても消耗するだけだね。ここは、私が囮になろう」 レオノルが仲間達にいうと、ニーナが前に進み出た。 「わたしもお供します」 「ニーナ……」 「ドクター」 グレンとショーンが心配そうな顔をすると、レオノルとニーナは微笑んだ。 「大丈夫だよ」 「任せてください!」 ふたりは頷き合い、同時に駈け出す――。 ツヴァイと対峙するユウが暗い表情を浮かべているのに気づいたセプティムは、彼女の顔を覗きこんだ。 「ユウさん、戦いに集中してください。でないと、全員死にます」 「はい……」 ユウは、ちいさく息を吐き、杖を構える。 「お前たちには、地獄をみてもらうぞ……」 怒りに顔を歪めたツヴァイが、重い声でいうと、 「そういうのいいから、さっさとかかってきなさいよ」 リコリスは、相手を挑発するように片手をひらひらと振ってみせる。 「浄化師ふぜいがぁあああ!」 ツヴァイが駈け出すと、リコリス、セプティム、愛華の三人が同時に前に飛び出した。 一対三の近接戦闘で、浄化師たちが圧倒的に有利かと思われたが、凄まじい膂力をもつ巨躯の男は、その予想をやすやすと覆した。 「おらあぁあああ!」 ナイフでリコリスの短剣を受け止めたツヴァイは、左から迫る愛華の剣を避けると同時に彼女の腕をつかみ、ぐるんと上半身を回して彼女を投げ飛ばし、右から迫るセプティムにぶつけたのだ。 ドンッ! 愛華を抱きとめる形で激しく地面に叩きつけられたセプティムは、脊椎に強い衝撃を受けて、苦悶の表情を浮かべる。 「す、すまない。大丈夫か?」 起きあがった愛華が心配そうにいうと、口から血を流すセプティムは微笑みを返す。 「大丈夫ですよ……なんともありません」 セプティムは、ゆっくりと立ちあがったが、足元がおぼつかず慌てて剣で身体を支えた。 「……貴殿は下がっていろ。ヤツは私が仕留める」 愛華の言葉に、セプティムはゆっくりとかぶりを振る。 「全員でかからないと、あの人は倒せません」 響とトールが連携して銃とボウガンによる攻撃を仕掛けるが、ツヴァイは、ある攻撃は躱し、またある攻撃はナイフで打ち払い、まったく付け入る隙を与えない。 「アイツ……鈍そうな見た目してるくせに、結構やるわね」 セプティムと愛華を護るように立つリコリスが、少し口惜しげにいう。 「全力でいきましょう、みんなで」 パートナーを傷つけられたユウは、ようやく覚悟を決め、みずからの杖をツヴァイに向ける――。 草地に坐り込んだルシアがどこか面白がるような表情で見つめる中、シリウスとクリストフは、アインを相手に互角の戦いを演じていた。 剣の達人である二人が、手練れとはいえ片腕の使えない相手をいまだに倒しきれないのには理由があった。 二人の仕事は、夜明け団の信者の「抹殺」ではなく、あくまで「捕縛」だ。そのため、相手を殺さぬよう攻撃の威力を加減することで、本来の技のキレや速さが失われてしまっていたのだ。 クリストフの甘い太刀筋を見切って、アインが彼を蹴り飛ばしたのをみたシリウスは、覚悟を決めた。 (ヤツは素早い……。急所に当てることなく相手を無力化するには、こうするしかない――) シリウスは剣を下げたまま、アインに向かって跳躍する。 「捨て身か! 愚かな!」 アインがは叫び、無防備なシリウスにナイフを振り下ろす。 するとなんと、シリウスはそのナイフをみずからの片腕で受け止めた。 ザク……ッ! 前腕を深く貫かれたシリウスは、しかし構わず、剣を捨てたもう一方の腕でアインの利き腕をがっちりと掴む。 「なに!?」 驚愕するアインの前で、シリウスは叫ぶ。 「いまだ、クリス!」 その声に応えて、クリストフは『ソードバニッシュ』を発動。 刃ではなく、剣の腹を使い、隙だらけのアインの身体に強烈な一太刀を与えた。 「っ……ぐはっ!」 口から派手に血を吐いたアインは、すぐに白目をむいて失神し、シリウスの前でずるずると倒れ込んだ――。 レオノルとニーナがなりふり構わず突っ込んでくるのをみたドライは苛立ち、 「舐めるなっ!」 魔力弾を撃ち出そうと両腕をあげる。その瞬間、 「私がふたりを守ります!」 シャルローザが『ルーナ―プロテクション』を発動。月の女神の祝福で、ドライの攻撃力を大きく下げる。 「くっ……この程度でっ!」 ドライは、かまわず無数の火球を撃ち出す。が、レオノルもニーナも、けして足を止めようとはしない。 至近距離で放たれた魔力弾はさすがに完璧に躱すことはできず、ふたりは腕や太腿にいくつもの火傷を負う。 「っ………」 服が焼け焦げ、露出した白い肌が真赤に爛れている様は、見るも痛々しい。 シャルローザの魔術により攻撃力を下げてはいるが、それでもドライの火球の威力は相当なものだ。魔力防御の高いふたりではあるが、まともにくらえば無事ではすまないだろう。 (チャンスは一度きりだね) 痛みに顔を歪めるレオノルは、ニーナと頷き合い、ふたりは同時に左右に跳躍した。 激昂したドライは、一瞬どちらを攻撃すべきか判断に迷う。 その迷いが、彼の命取りとなった。 ニーナは『ワンダリングワンド』を発動。ブーメランのように飛ばすタロットでドライを攻撃する。 ドライはその攻撃をやすやすと躱すが、その直後、レオノルが『リーフスラッシュ』を発動した。 攻撃を避けようとドライが身構えた時、レオノルの放った無数の木の葉は突然散らばって、ドライの視界を覆い尽くした。 「クソッ……!」 ドライが火球で木の葉を焼き尽くそうと腕をあげたとき、 「いまだよ!」 レオノルの声にしたがい、ショーンとロメオが同時に『ソニックショット』を発動。眼にもとまらぬ早業で、相手の足元を狙い銃弾を浴びせる。 「うっ……」 よろめくドライの前で、突然木の葉の壁が破れ、そこからグレンが飛び出してきた。 「やっと捕まえたぜ」 ニヤリと笑うと、『暴撃』を発動。渾身の一撃をドライに見舞う。 ドガッ! 後方に勢いよく吹っ飛んだドライは、そのまま地面に叩きつけられて失神し、動かなくなった。 「さあ来い、卑怯者ども!」 ツヴァイは、両腕を大きく広げ、浄化師たちを挑発する。 「言ってくれるじゃない」 リコリスは口元を歪めつつ、皆の顔を見回す。 「次で決めるわ。みんな、集中して。下手をしたら、こっちがやられる」 全員が頷き、気力・魔力・集中力を最大限に高める。 「いくぞ!」 愛華は叫び、リコリスとともに駈け出す。 「これならっ……!」 トールは、ツヴァイの前方の地面を狙って『トリックショット』を発動。 「フン、どこを狙っている!」 トールの攻撃が外れたと思い込んだツヴァイが馬鹿にしたようにいったとき、絶妙な角度で放たれた矢は、地面に落ちていた小さな石に当たり、軌道を変えて、ツヴァイの左脚に深く突き刺さった。 「な、に……っ!」 驚愕するツヴァイを狙い、ユウは『リーフスラッシュ』を、響は『エナジーショット』を放つ。 無数の木の葉とともに飛んで来た高威力の弾丸を肩に受けたツヴァイは、大きく仰け反る。 「お嬢、あとは任せました」 パートナーの声を背に受けて、愛華はさらに速度をあげる。 「決めるわよ!」 「ああ!」 リコリスと愛華は、左右からツヴァイに猛然と斬りかかった。 「面白いっ……!」 すでにかなりのダメージを負っているはずのツヴァイは、それでも臆することなくその場で仁王立ちになり、ふたりの斬撃をナイフ一本で捌いてみせる。 朝の草原に、無数の甲高い金属音と火花が乱れ飛ぶ。 「なかなか筋がいい。女にしては、な」 豪快な笑みを浮かべるツヴァイに、愛華は無表情で応える。 (悔しいが、私たちの剣は貴殿には一歩及ばない……だが、私たちの仕事は、貴殿を倒すことではない――) 「男のくせに、よく喋るわね!」 リコリスが高く跳躍し、上空から短剣を振り下ろすと、一瞬ツヴァイの上体が浮き、そこにわずかな隙ができた。 (ここだ……!) 愛華は『エッジスラスト』を発動、相手の懐に飛び込み、そのまま勢いを殺さず重い一撃を放つ。 「ぐぬうぅっ!」 ツヴァイは、愛華の剣をどうにかナイフで受けるものの、勢いに押されて、二三歩後方に退く。 しかし、ツヴァイが安全だと思い込んでいたその場所には、ひとりの剣士が笑みを浮かべて待っていた。 「終わりです」 セプティムは呟くと、歯を喰いしばって背中の痛みをこらえつつ『ソードバニッシュ』を発動する。 「しまっ――」 振り向いて悔悟の表情を浮かべたツヴァイに、閃光のような一撃が襲う。 ドンッ……。 肩から脇腹にかけて、強烈な峰打ちを受けたツヴァイは、 「ぐふっ……」 血を吐きつつ、その場で俯せに倒れた――。 ●善と正義 縄で縛られて地面に坐り込む四人の男とひとりの女は、自分たちを囲む浄化師たちの顔を見上げる。 「卑劣な手でオレたちを倒しておきながら、殺さずにわざわざ怪我の治療までしてくれるとは、ご苦労なことだな」 アインが吐き棄てるようにいうと、アリシアとリチェルカーレは、複雑な表情を浮かべる。 「わたしたちは――」 ふたりが言いかけた時、愛華がそこに割って入った。 「これが、私達の『仕事』だ。貴殿には、理解できぬだろうがな」 アインは視線を落とし、口惜しそうに口元を歪める。 「……オレが、甘かった。たとえ一時でも、お前たち浄化師と手を結ぶなど、どうかしていた……まったく、自分のマヌケさに反吐がでる……」 この時、セプティムは、アインを見つめるユウが、しおれた花のようにとても辛そうな顔をしていることに気がついた。 「こうして、私まで捕まってしまったのは計算外でしたが――」 ルシアは、肩をすくめつつニッコリ笑った。 「あなた方のおかげで、終焉の夜明け団に殺されずに済みました。ありがとうございます」 「勘違いするな。お前を助けたのは、慈悲の心からではない。お前には、然るべき裁きを受けさせ、ふさわしい処罰を与える」 女がみせる余裕に違和感を覚えつつ、ショーンが冷静に話すと、となりでレオノルも口を開いた。 「ルシア、君は強い。だけど、私達に負けた。どうしてだか、わかるかい?」 「…………」 レオノルの問いに、ルシアは金色の眼を冷やかに細める。 「君は、人間の本質を理解していない。人間の最強の武器は、魔術じゃない。社会性と弱さへの自覚だ。どの道でも最後まで生き残れるのは、他者を思いやり、自分の限界を謙虚に知れる人間だ。君は魔術意外に、人間の心と弱さを理解すべきだよ」 くだらない、と言わんばかりに視線を逸らすルシアをみて、レオノルはふっと息を吐いた。 「私は、知りたい。深遠を覗くことなら他の学問でもできるのに、どうして君が禁忌魔術に憑りつかれてしまったのか……。だから、君が監獄に入れられても、ときどき会いに行かせてもらうよ」 「……その時は、歓迎いたします」 ルシアは首を傾げて、不敵に笑った。 (どうも気に食わない……この女がみせている余裕は、ただのハッタリか……?) ロメオは、片手で顎をさすりながらひとり考えを巡らせる。 (もしかして、俺たちはまだこの女の手の内で踊らされているのか? ……いや、まさか、な……) しかし、ロメオのそばで、グレンも同じことを考えていた。 (イヤな感じだぜ……この女をこのまま首都へ連れて行くのは、危険な気がする……) 暗い考えにとらわれたグレンは、ふと、隣にいるニーナが自分たちの勝利に満足したような笑みを浮かべているのに気がつき、頭を振った。 (下手なことを言って、皆を不安にさせることはないか……。まあ、たぶん俺の思い過ごしだな……) 「さあ、立ちなさい。ここでだらだらとお喋りしているヒマはないわ。ダメージはちゃんと回復させたんだから、歩けるでしょ?」 リコリスが腰に手をあてながら促すと、ルシアと、四人の男はしぶしぶ立ちあがる。 全員でその場から移動を開始した時、おもむろにツヴァイがそばにいるアリシアに視線を向けた。 「お前たちを赦すつもりはないが……この命を救ってもらったことについては、礼を言う……」 巨躯の男は、背中を丸め、顔をしかめながらぶつぶつと呟いた。 「……はい」 アリシアは、少しだけ救われたような気がして、やさしい笑みを浮かべた。 リチェルカーレは、アインに刺された腕の具合を確かめながら歩くシリウスに、怒った顔を向けた。 「また、あんな無茶をして……」 「あそこでは、ああするより他になかった」 「下手をしたら、死んでたかもしれないのに……」 「いや、そんなことには――」 言いかけたシリウスは、リチェルカーレの眼に大粒の涙が浮かんでいることに気がつき、思わず言葉を飲み込む。 「その……すまない」 リチェルカーレは、小さくため息をつくと、ひとりさっさと歩きだす。 シリウスは、そんな彼女の後ろ姿を見つめて、気まずそうに頭を掻いた。 セプティムは、一行の最後尾をとぼとぼと歩いているユウのそばにいき、声をかけた。 「彼らを騙したことを、まだ気にしているんですか?」 「はい……」 弱々しい声で答えるユウの隣にならんだセプティムは、前を見つめたまま、淡々と話した。 「僕たちがしたことは、たしかに『善い』ことではありません。ですが、確実に任務を達成するには、あれが最も『良い』選択でした」 「そう、ですね……」 哀しそうにつぶやくユウを横目でみたセプティムは、ふたたび前を向いて口を開く。 「ユウさん、あなたが、たとえ無力でも善き人でありたいと思うのなら、戦いなどさっさとやめた方がいいでしょう」 「え……?」 「この世界を救う――そのためには、みずからの手も汚す。その覚悟がなければ、この先とても生き残ってはいけません。覚悟のない者は、自分だけでなく、仲間の命も危険にさらすことになります」 セプティムの、突き放すような厳しい言葉に、ユウはたじろぎ、俯く。 「覚悟を決めなくてはいけません。そしてユウさん、あなたはこの戦いが終わるまで、その優しさを、心の奥にしまっておく必要があるでしょう。捨てる必要はありません、大事にしまっておくんです」 パートナーの意外な言葉に、ユウは顔を上げ、彼の横顔を見つめる。 「戦いが終わり、傷ついた世界で、ユウさんの優しさがきっと必要になる。そして……その世界では、僕のような人間はもう必要なくなっているでしょう」 それだけいうと、セプティムは足を速めて、さっさと先へ歩いていってしまった。 「セプティムさん……」 ユウは、哀しいような、嬉しいような、寂しいような、自分でもよくわからぬ感情に戸惑いながらも、ウン、とひとつ頷き、足の速いパートナーを追って駈け出した。
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*** 活躍者 *** |
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[47] ニーナ・ルアルディ 2018/09/08-23:49
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[46] アリシア・ムーンライト 2018/09/08-23:36
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[45] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/08-21:53
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[44] クリストフ・フォンシラー 2018/09/08-20:58 | ||
[43] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/08-19:11 | ||
[42] ショーン・ハイド 2018/09/08-18:31 | ||
[41] ニーナ・ルアルディ 2018/09/08-18:22
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[40] リコリス・ラディアータ 2018/09/08-16:38 | ||
[39] シャルローザ・マリアージュ 2018/09/08-02:29
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[38] 響・神原 2018/09/08-00:47
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[37] ニーナ・ルアルディ 2018/09/07-23:07 | ||
[36] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/07-22:44 | ||
[35] クリストフ・フォンシラー 2018/09/07-22:15 | ||
[34] セプティム・リライズ 2018/09/07-21:24 | ||
[33] ショーン・ハイド 2018/09/07-20:55 | ||
[32] シャルローザ・マリアージュ 2018/09/07-18:48
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[31] リコリス・ラディアータ 2018/09/07-15:57
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[30] 響・神原 2018/09/06-23:19
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[29] クリストフ・フォンシラー 2018/09/06-21:52 | ||
[28] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/06-21:46 | ||
[27] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/06-21:39
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[26] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/06-21:25
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[25] レオノル・ペリエ 2018/09/06-20:45 | ||
[24] レオノル・ペリエ 2018/09/06-20:44 | ||
[23] ニーナ・ルアルディ 2018/09/06-18:04
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[22] ユウ・ブレイハート 2018/09/06-17:34
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[21] ニーナ・ルアルディ 2018/09/06-02:24 | ||
[20] リコリス・ラディアータ 2018/09/06-01:02 | ||
[19] シリウス・セイアッド 2018/09/05-23:50 | ||
[18] クリストフ・フォンシラー 2018/09/05-23:14 | ||
[17] ショーン・ハイド 2018/09/05-21:26 | ||
[16] ショーン・ハイド 2018/09/05-21:26 | ||
[15] シャルローザ・マリアージュ 2018/09/05-18:31 | ||
[14] 響・神原 2018/09/05-12:23
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[13] セプティム・リライズ 2018/09/05-07:53 | ||
[12] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/05-00:04 | ||
[11] クリストフ・フォンシラー 2018/09/04-22:29 | ||
[10] 響・神原 2018/09/04-14:43
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[9] 響・神原 2018/09/04-14:40
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[8] ニーナ・ルアルディ 2018/09/04-11:16 | ||
[7] シャルローザ・マリアージュ 2018/09/04-05:23
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[6] リコリス・ラディアータ 2018/09/04-00:47
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[5] リコリス・ラディアータ 2018/09/04-00:44 | ||
[4] ショーン・ハイド 2018/09/03-22:52
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[3] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/03-22:35
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[2] クリストフ・フォンシラー 2018/09/03-21:23
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