~ プロローグ ~ |
●ある男の悲劇 |
~ 解説 ~ |
●成功条件 |
~ ゲームマスターより ~ |
戦闘依頼をだしてみました。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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町でレモン、酒、多目的発水符購入 道中燃えるものを集める 小屋の近くで焚火 山火事と嘘で相手を混乱作戦 焚火のなかにレモン、酒をいれて犬の嗅覚を利用してダウン だめなら煙草 野良犬の遠吠えを真似て興奮させる ゴーグル、ハンカチで煙対応 他の方と情報共有希望 灰 野犬相手 前線、挑発し的になる わざと襲わせ、一匹一匹を確実に頭、腹を狙い殺す スキルも温存せず使用 タイミング重視 エリィ、ルーノが魔術を使いやすいようにフォロー 腕足を噛まれても仲間の盾になる 灯 レイと一緒に窓へと移動 盾役 窓から逃がさないようにする レイ、響との連携重視 戦闘前 隠れて灯が灰を抱き寄せて深くキスして魔術名宣言 「他の浄化師も毎回これを…!」 「してるらしいな」 |
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小屋の入り口が見えるよう森の中で他のメンバーが揃うまで待機。 万が一準備が整うまでにザック達が小屋を出た場合には、響がリンクマーカーを使った後、ザックの足を狙う。その後、愛華がザックを取り押さえた後レガート親子の安全を保障する形で説得。 準備が整った場合、事前の作戦どうり犬が無効かされたら、愛華が教団所属だと名乗りレガート親子の安全の保障とザックへの降伏勧告を行う。ザック達の返答を待たずに愛華が小屋に突入。響がリンクマーカーをザックとレガートに使った後小屋の中に信号弾を撃つ。ザックが逃げ出そうとすれば、ザックを響が狙撃して無力化する。 戦闘が終わった後は、ザックを捕縛しレガート達親子を救出する。 |
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■ルーノ 魔術真名使用、小屋外で番犬対応 味方と同じ番犬へ攻撃 味方体力半分以下でSH4 捕獲対象の進路と退路を塞ぎ逃走警戒・妨害 味方に倣いレガートへ投降するよう言葉をかける 人質保護はナツキが気を逸らす隙に動く ■ナツキ 事前にトランスで変身、犬形態で行動 火の準備中にバレないようその場から犬の聴覚と嗅覚で小屋にいる者を探り ロスの情報と合わせ味方に伝達 レガート近くで爆弾警戒 使われそうなら目の前で人の姿に戻って驚かせ隙を作り妨害 発水符や水筒の水で消火、導火線切断で無力化、可能なら奪取 ザックに人質を取られたら犬形態でそっと背後へ回り吠え立て気を引く 進路妨害&人質から気を逸らす 犬形態での逃走を警戒 脚へJM8で妨害 |
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◆目的 ザックとレガートの捕獲 レティの保護 ◆行動 日中のうちに犯人の情報収集 ザックの人相や特徴 レガートの親子関係や行方不明前後の行動 など分かる範囲で残党やご近所さんに聞き込み 現場到着後、魔術真名を発動 焚火作戦中は風上に隠れて待機 ザック対応 彼が外に出て来たら逃げ道を塞ぐよう、戦闘に持ち込む 小屋内に残る場合、広さが十分でないならドア付近で待機 野犬に注意しつつ出てくるのを待つ 戦闘時はスキルで顔や足などを狙い、怯んだところに追い打ちをかける 万一逃走させてしまうようなら生死問わずに攻撃 ここで逃がしてしまっては次はどんな行動にでるか… すすんで人殺しする気はありませんが、みすみす逃がすくらいなら殺りマス! |
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■ロス ザックってすっげ同種族っぽいな ∇準 狼状態 五感鋭く 登山アビリ知識で抜け道逃走経路見ておく 耳を澄まし人・犬の位置や話を聞く 情報は仲間達と共有 ∇戦 犬が吠えたら全力疾走 耳鼻を利かし外へ出てくる敵の動きを把握し 立ち塞がり人間形態へ 献魂使用 盾で攻撃を防ぎ相手の動きについて行き 隙見て地烈攻撃 踏込みゼロ距離いければ 相手の攻撃避けず下から斧攻撃 ∇爆弾 爆発する危険があっても持っている手を猛攻撃 拾えればナツキへ ∇人質 逃走すっのが得意って聞いたんだけどな? 人質とって逃げられっのか? 挑発しつつ武器を落として両手を上へ 隙みて突進し人質確保 ∇逃 エリィ達の妨害へ誘導するようにナイフを投擲 釣りの要領で釣竿糸を絡みつかせる |
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~ リザルトノベル ~ |
浄化師が小屋を発見する頃。日は傾き、森は静まり返っていた。 小屋は無人のはずだった。しかし、不自然な明かりが窓から漏れて、人がいる事を告げている。 オレンジ色の中に見える、微かな人影。 恐らく1人は、元花火師のレガートだろう。 「もう1人は、ザックか?」 小屋から十分な距離をとりながら、愛華・神宮慈が犯罪者の名を口にする。 隣で響・神原が、静かにうなづいて見せた。 「あの背格好なら、可能性が高そうですね」 顔まではわからなくても、大人の影であることは確実だ。 近づいて確認できればいいのだが、小屋の周りにはザックの番犬と思わしき犬たちがうろついている。 浄化師達は気づかれないよう、森に身を潜めて様子を伺った。 「それで、調査の方はどうだったんだい?」 ルーノ・クロードがパートナーのナツキ・ヤクトに目をやった。大型犬にトランスしていた彼が口を開く。 「ロスと周辺を調べたけど、小屋の中には最低三人はいるはずだぜ。残り香と足跡を見つけたんだ」 だろ? と促すようにナツキがロス・レッグの方を見る。 「ザックって、すっげ同種族っぽいなーって感じ。犬のライカンスロープ」 「番犬の話を盗み聞きした情報だと、番犬と同じ犬種みたいだな」 犯罪者のザックが2人と同じ、ライカンスロープと言う話は聞いていた。が、犬種の話は初耳だ。 「番犬と同じ、です?」 シンティラ・ウェルシコロルが、狼姿のロスと番犬を見比べた。 ふさふさした毛のロスと違い、短毛にスラリとした外観をもつ犬が5匹。周囲を警戒している。 「ありゃ、狩猟犬じゃねーかな。俺より足速いかもしれねー」 「逃げ足はお墨付き、ということですか」 「だけじゃなくって。森の奥を調べたけっど、奥に行けば行くほど地形が複雑っぽい。地の利がねーと簡単に巻かれるだろーな」 逃げ道も多く、最初から計略的にこの場所を選んだのだろう。 伊達に浄化師から逃げ延びてないということか。 「ライカンスロープも色々だな……」 ルーノもナツキたちと敵を比較していた。種類と言う意味でも、日ごろの行いと言う意味でも。 散々見られてからロスが気づいたように言う。 「ティ。なーんか、もふもふ感で比べてねー?」 「……ソンナコト、ナイデスヨ?」 「ザックだけじゃなくて、レガート親子のことも調査済みデスヨ」 メモを取り出しながらエリィ・ブロッサムが話す。 レイ・アクトリスと一緒に、街で聞き込みしてきたのだ。 「街の人の話によると、レガート親子は親切で有名だったみたいデス。臆病だけど困ってる人を見過ごせない性格みたいデスネ。互いに仲も良く、特に娘のレティは大事にされていたようデス」 「それと、失踪前に怪我人の看病をしていたらしいこともわかりました。恐らく、悪党と知らずザックを助けたのでしょう」 で、興味深いのは此処からデス、とエリィが言う。 「実は姿を見せなくなったのは、娘のレティが先なんです」 「同時に失踪したわけじゃないのか?」 ルーノの問いに頷くエリィ。 レイは悩むように続きを語る。 「これは憶測ですが、恐らくザックがレティを捕まえ脅し、レガートを恐喝したのではないかと」 「で、臆病なレガートが娘を取り返す為にテロに協力した、って訳デスネ。ザックは平気で恩を仇で返す人間みたいなので、ありえる話でショウ」 強要の線を疑うのは二人だけではなかった。 皆も『なぜ親子で失踪したのか』が引っかかっていたのだ。 捕縛だけではなく、レティの保護も視野に作戦を共有していく。 「よし、準備が出来たぞ」 策が纏まると、仲間に向かって灯・袋野が用意された薪を指差した。 焚き火で煙を起し、小火に見せかけ敵を誘き出す狙いだ。 先のテロで商店や施設が破壊されており、街での買出しが空振りに終わったときは焦ったものの。 灰・土方が植物学に詳しかったお陰で最低限の準備が間に合ったのは幸いだった。 「……指令はこなします、皆も守ります。必ず、敵を捕まえましょう」 灰の言葉に一同が頷く。 夜が訪れる前にはじめよう、と。戦いへ向けて魔術真言を唱えだす浄化師たち。 『右手に祝福を 左手に贖罪を』 触れ合う掌。 『その牙は己の為に』 交わした拳。 『我ら天に挑み天を罰する者なり』 繋いだ片手。 『楔と共に誓いを』 叩きあう腕。 触れた箇所を基点に、満たされていく魔力。 唯一、不慣れな灯と灰のペアだけ、キスをするか否かで軽く揉めた。今回は頬に口付けるという形で納まる。 『徒花、咲き乱れ』 仲間に隠れて行ったせいか、耳まで赤くした灰が灯に抗議する。 「他の浄化師も毎回これを……?!」 「しているらしいな。男同士でも」 しれっと放つ灯の発言に、本当か? と問う様に灰が仲間へ目を向ける。 この2人だけは、何故か『浄化師=婚約者』という誤解にとらわれていた。 仲間の魔術真言を見ていれば、こうはならなかったのかも知れないが。 視線に気づいたルーノとナツキが、後であらぬ誤解に動揺したのは此処だけの話。 ●対 番犬戦 敵陣で最も早く状況の変化を察知したのは、5匹の番犬たちだった。 小屋から離れた箇所から、白い煙が燃え上がる。 浄化師達が起した小火だ。犬達はすぐに飼い主に危険を知らせるべく、遠吠えを響かせた。 しかし。遠吠えの中に、明らかに自分達とは違う――灰の声が混じっていることに気がつくと、すぐに吠えるのを止め唸り声へと代わって行った。 「ガルルルルル……!!」 (上手くいったようだね) 犬が自分を睨む姿に、マスクとゴーグルで煙を防ぎながら、囮の灰が走り出す。 戦闘地点は柔らかに光るランタンが告げている。 小屋の窓から死角となるポイントへ、シンティラが用意してくれたのだ。 開けた小屋の周囲の中でも、広く戦いやすい場所はありがたい。 追って番犬達も動き出す。 焚きあがる白煙も気にせず、弾丸のように灰を目掛けて一斉に地を蹴った。 その速度の速いこと。 僅かな距離だったにも拘らず、灰が後ろを振り返る頃には1匹の番犬が飛び掛っていた。 「くっ!」 盾を握るが間に合わない。 眼前の鋭い爪に息を呑んだ瞬間。 「キャィンッ!」 空を切る音に、敵の悲鳴。 横から弾かれた様に、番犬が地を転がった。 ルーノの杖から放たれた魔力弾が命中したのだ。 「助かった、ルーノさん!」 「構わないよ。それより、次が来る!」 再び前を向けば、煙の中から残りの番犬達も容赦なく襲い掛かってくる。 体当たりの衝撃。灰が1歩後ずさる。 今度は剣と盾で攻撃を凌ぐも、防ぎきれなかった1匹の番犬が灰の左腕へと噛み付いた。 食い込んだ牙が、赤黒いシミを作リ出す。 更に別の1匹が灰の横をすり抜け、後衛にいた仲間を襲う。 狙いはシンティラだ。 「させませんっ」 首を狙った攻撃を、踊るように避けてみせたシンティラ。すれ違いざまに番犬をめがけて呪符を放つ。 しかし、呪符は番犬の耳を掠めた。すぐに距離をとって犬が睨んでくる。 「ナツキの言う通り、良く躾けられてるみたいだね」 ルーノが冷静に分析しながら話す。 番犬には『危険があれば知らせ、敵が来たら襲え』とザックから命令を受けている事は、既に仲間が調べ済みだった。加えて勇敢だとも。 もし野犬が相手だったなら、倒された犬を見るなり尻尾を巻いて逃げ出す所だが、番犬にその気配はない。 だが状況は不利ではなかった。 シンティラがちらりと小屋へ視線を投げる。既に他の仲間たちがザックを捕獲すべく動き出しているのが見えた。 番犬たちは仲間に気づいていない。煙の中に仕込んだタバコの香りで、嗅覚が麻痺していたからだ。 「今の隙に、私達で片付けましょう」 「あぁ、回復は任せて」 後衛の会話を聞きながら、灰もウッドソードを握りなおす。 初陣でもある彼にとって、恐怖がないといえば嘘になるかもしれない。だが。 (僕の大切な人はみんな火によって奪われたんだ。ここは戦場だ、お前がそう望んだんだろう?) 自分が選んだ戦いから、逃げるつもりは毛頭ない。 (――徒花に終わる覚悟ぐらい、したのだろう?) 自らの問いに答えるべく、踏み出した1歩。 それは先ほど後ずさったものよりも、大きな1歩だった。 十字の斬撃が番犬を襲うが、あと僅かのところで避けられる。 だが、それでいい。 番犬が灰に気を取られた瞬間を狙い、再びルーノの魔力が敵を襲う。 「今度こそ!」 シンティラも敵の攻撃を避けながら、リズム良く呪符を放った。 番犬の額に当たれば、声を上げながら昏睡したのか。番犬は動かなくなる。 「あと2匹!」 叫ぶ灰へ容赦なく噛み付く番犬。 爪は足を裂き、食いちぎろうともがく牙。激痛が体を襲う。 それでも臆することなく振り上げた剣が、片方の腹を強く殴った。 「天恩天賜!」 駆け寄ったルーノが優しい光で灰を包み込むと、瞬く間に傷が癒えていく。 「これで終わりですっ」 最後の番犬は、シンティラの蠱霧散開によって毒に犯される。 間髪いれずに灰がトドメの剣を振り下ろせば、獰猛な犬は地に沈んだ。 番犬たちは動けずとも、まだ微かに息があった。 シンティラが犬達を解毒すると、医療スキルも応用し、テーピングで手際よく縛り上げていく。 「助かりました」 と治療を受けながら礼を言う灰に、気にするなとルーノが口にする。 「さぁ、私達も他の仲間と合流しましょ……え?」 シンティラが言いかけたのと、同時に――小屋の反対から銃声が鳴り響いた。 他の仲間は小屋の入り口側にいるのか、こちらからは視認できずにいる。 「急ぎましょう。もう、戦っているみたいです」 「爺が無茶してないといいんだけどっ」 治療もソコソコに。3人は仲間の元へ走り出す――。 ●対 ザック&レガート戦 番犬の誘導が始まった頃。小屋の中では既にザックたちが動き始めていた。 「なんだ、今の遠吠え……?! 何があったんだ?!」 事態が把握できずに狼狽するレガートと違い、ザックは察したように大きな舌打ちをする。 「お、おい。ザック!」 「うるせぇ! 今すぐ逃げる準備をしろ! もたつくんじゃねぇ!」 番犬の交戦状態は、小屋からは見えないはずだ。 しかし番犬の姿が見えないからこそ、敵襲があったのだという確信がザックにあった。 乱雑な音を響かせながら準備を行う彼らの会話を、小屋のすぐ外で狼姿のロスが耳にしていた。 隠れている仲間達へ、動きを知らせるサインを送る。 「逃亡する気か」 合図を受け取った愛華は口寄魔方陣を展開させる。引き抜いた異国の剣を構え、出てくる敵を警戒する。 「犬を討伐してから作戦を展開するつもりでしたが……」 「敵も案外、頭が悪いわけではなさそうだ」 「ですね」 響が信号銃に代わって銃を構える。 小火……と見せかけた焚き火の煙も、ここからなら視界を妨げることはないだろう。 「『生贄』なんて冗談じゃねぇ、爆弾なんか使ったらどれだけ犠牲が出るか……!」 だからレガートの犯罪を、爆弾を止めてやろう。意を決したナツキは犬の姿のまま走り出す。 「レディ、私達も行きましょう。後ろに回りこみますよ」 「えぇ! 何としてでも捕まえマス!」 レイとエリィも足音を立てないよう移動を開始する。 途中番犬に目を向けたが、上手く仲間たちが引き付けているのが見えた。 ならば自分達は、ザックたちへの対応に集中しよう。 「ここで逃がしてしまっては次はどんな行動にでるか……。すすんで傷つける気はありませんが、みすみす逃がすくらいなら殺りマス!」 ザックの性格が調査どおりなら、次のチャンスを与えてはならない相手だ。 「うんうん。頼もしい心意気だね」 同行する灯もまた、似たような心境だった。 声こそ穏やかに言って見せたが、その表情は硬い。 (他人を利用して安全地帯であざ笑う、外道は心底嫌いでね) 敵を捕まえる為ならば、怪我も覚悟の思いだった。 小屋から周囲を窺うように出てきたレガートとザック。2人が状況を察したのは、響のリンクマーカーの効果が発揮されたのと同時だった。 ザックたちを逃がさないよう、隠れていた浄化師がすぐに周囲を包囲する。 「薔薇十字教団だ。サクリファイスのザックと、花火師のレガートだな」 正面を陣取った愛華の凛とした声が響く。 「教団だって?!」 声を聞いたやせ男――レガートは酷く狼狽して見せた。 レガートの視線の先には、ザック。そしてザックに乱暴に髪を捕まれた愛娘のレティの姿がある。 ザックの反対の手には、磨かれた片手斧も。 「違うといったら? ただのキコリかも知れねーぜ」 「嘘は止めておけ。顔が割れているからな」 含むように笑ったザックだが、愛華の言葉にすぐ苛立ちを見せた。 「レティさんが人質という予想も、当たったようですね」 敵の後ろに立ちながら、レイが呟く。 レティはまだ小柄な少女だった。縄で縛られているのでわかりにくいが、情報よりも痩せ細っている様に感じる。動きも鈍い。 恐らく、衰弱し始めているのだろう。暴力も振るわれていたのかもしれない。 エリィが、ぎゅっと武器を握り締める。 『もし大人しく降伏して下さるのなら、命は保障します』 という意味の声かけを響が行う隣で、ロスと愛華が攻撃の隙を窺う。 ――返答する前に、罪人を斬り付けてしまおうか。 愛華の瞳が正義に燃える。 だが敵も感が良いようで、斧の刃をレティの首に添えていた。 相手が動けばこちらも動く。一触即発の空気が、互いの肌をひりつかせていた。 緊張の最中、口を開いたのは爆弾を抱えたレガートだった。 「た、頼む……娘だけ、は」 傷つけないでくれないか――と、降伏したくとも、迷う言葉。聞いたザックが口角を吊り上げた。 「ああ、そうだよなレガート。お前の娘は大事だもんな? だったら俺の指示に従え。浄化師の言葉を信じたところで、娘が死んだら意味がねぇ!」 「こいつ……!」 「黙れ浄化師! 誰が降伏なんぞするか! 俺は逃げ延びるぜ。どんな手段を使ってでもな!」 響の反論より早く、ザックが怒鳴り散らす。 「逃走すっのが得意って聞いたんだけどな? 人質とって逃げられっのか?」 包囲されたこの状況で、と人型に戻ったロスが挑発する。 しかし敵は不気味な笑みを湛えたままだ。 灯に嫌な予感か駆け巡る。 「逃げられる? 違うな。逃がしてもらえるのさテメェらに――さぁレガート! 爆弾を爆発させろ! 浄化師もろともブッ飛ばせば、娘は解放してやるよ!!」 「な――」 「動くな! 動けば別の花が咲くぜ!」 自爆命令に震え上がったのはレガートだ。ザックは人質を盾に浄化師から距離をとりはじめる。 死の恐怖に脅えながら、調理用発火符を取り出すレガートに浄化師も慌てた。 指を鳴らせば魔方陣から発火するよう魔術式が組み込まれた符は、誰もが知っているものだ。 「早まるな!」 ロスが武器を投げ捨てる。開いた両手をレガートに向けるが、ぎこちない動作で符から火を灯す。 「そうデス! 敵の思う壺デスヨ!」 エリィが叫ぶ。灯もレガートを向き直った。 「お前さん、花火師としてのプライドはねぇのか!」 灯の言葉に、ビクリと肩を震わせた。 「夢与えるもんで人の命奪って壊してんじゃねぇ! 才能あんなら意地をみせな! それで娘に顔向けできんのか?」 「くっ……」 活を入れる灯の声。レガートの目に涙が浮かぶ。彼の肩は震えていた。 灯の言葉は、誰よりもレガート自身が抱いていた思いなのだから。 「俺だって、やりたい訳じゃないんだ……! でも、どうしたら……」 「レガートさん。娘さんの前でこれ以上、後悔を重ねるのは、もうやめませんか」 諭すようなレイの言葉。 自爆も逃げることもままならず、レガートが長く沈黙し、符の炎も揺らぎながら消えていった。 「は、やってろ馬鹿共が」 少しでも時間が稼げりゃ十分と、人質を引っ張りながらザックが毒づいた。 ザックが包囲から抜け出し指笛を吹く。番犬と共に姿をくらませば俺の勝ちだ、と言うように。 走ってくる動物の音に安堵し、浄化師へ暴言を吐く。 しかし次の瞬間、形勢は逆転した。 「させるかよ!!」 「なんだと?!」 小屋の影から飛び出してきたのは。ザックが呼んだ番犬――ではなく、犬にトランスしたナツキだったのだ。 「強要? 人質? ますます許せねぇ! 人をなんだと思ってんだ!」 唐突な叫びと突進を背後から受け、ザックは大きくバランスを崩す。 同時に手放した人質。 レティはよろける様に、地面へと投げ出された。 このチャンスを逃がさないと、ロスが一気に間合いをつめる。 「くっそ!」 ザックが手を延ばすよりわずかに早く、ロスがレティを引き寄せた。 「おっしゃ! 返してもらうぜ!」 回収された人質。 幼い体を抱きかかえると、奪い返されないよう、ロスが力強く大地を蹴る。 レティの開放にレガートが娘の名を叫んだ。 「もう一発食らえ! ソードバニッシュ!」 間髪いれず。人型に戻ったナツキが、たて続けに素早い剣を振りかざす。 切り裂かれた足。舞い散る血と共にザックがとうとう転倒する。 「ぐっ?!」 舞い散る砂埃の向こう側で、エリィが詠唱する姿が見えた。 「脅迫に爆弾魔……図体のわりにやってることは小さいですね!」 レイが挑発する。敵をこの場に引きとめるために。 此処で逃がすわけには行かないのだ。 「ふざけ、んなぁああああ!」 ザックが乱暴に武器を投げた。 力任せに投げられた斧は弧を描いて、エリィ目掛けて飛んでいく。 しかし、斧が届くことはない。 高い金属音を響かせて、灯の盾で弾かれた。 「年貢の納め時ってもんだぜ」 剣先を向ける灯の、怒りをこめた声。 「いきますよ、ワンダリングワンド!」 「アクアエッジ!」 レイがカードを放ち、エリィが水の刃で追撃する。 攻撃は仲間の間を縫うようにして命中した。視界を奪われたザックが醜い悲鳴を響かせる。 討ち取ったか? いや。 それでも逃げる気だ。 トランスしようとするザックを、響はスコープ越しに捕らえていた。 冷静に引いた引き金。鳴り響く銃声。 貫かれたのは獣の腕。 最後にトドメとばかりに愛華が渾身の一撃を加える。 走ってきた勢いのままに、刀の峰で激しく身を打たれ、とうとうザックは動かなくなった。 怒涛の逮捕劇に、レガートは膝から崩れ落ちていた。 箱型を模した爆弾が、音もなく草の上へと転げ落ちる。 「よかった……本当に良かった……」 ボロボロと涙をこぼす男。 番犬を倒し終えたルーノ、シンティラ、灰が仲間達と合流する。 「どうにか、なったみたいですね」 シンティラの言葉に灰が頷いてから、必要なくなった爆弾を、そっと回収した。 ロスが娘のレティを連れてきて、丁寧に拘束を解く。親子は暫く泣きながら抱きしめあっていた。 「捕まえられたんですね」 安堵するシンティラに、ロスもうーんと背伸びをする。 「ま、俺も一発殴りたかったけどなー」 視線をやれば失神したザックを、エリィと愛華が容赦なく簀巻きにしている。 響の話だと、特に正義心の強い愛華には許せないものがあったらしい。 しかし絞め過ぎでは――、と言うより先に鈍い音が聞こえてきた。 ぐきっと。 「あっ」 ……ちらり。 愛華の目線から響がそっと目を逸らす。 「ザックの自業自得ってことで……」 2人の姿に、周囲は思わず苦笑した。 「お、相棒無事だったかー!」 「ああ。ナツキも怪我がなくて何よりだよ」 パートナーと言葉を交わしてから、ルーノは親子の方を見た。 ――現状打破を望むなら、チャンスは今だ。私達が手を貸そう――と、説得するつもりでいたがその言葉はもう必要ないようだ。 代わりにレガートの肩を叩く。 「良ければレティの体調も見よう。……彼女が負傷していては私も寝覚めが悪いからね」 優しく言えばレガートが深く頭を下げる。 「だから教えて下さい。この事件の詳細を。事情がわかれば刑も軽くなるかもしれない」 「私も同感です」 ルーノに続いてレイも声をかける。 「どんな事情であれ罪は免れません……が、親としての気持ちも分かるので、罪は軽くなるよう然るべき場所に提言はしてみます」 レガートの目が、少し揺らいだ。 2人の言葉に、彼は申し訳なさそうに真相を話し出す。 そして最後に、娘は頼みますと告げて。浄化師たちへ自分の両手を差し出した。 こうして、元花火師とサクリファイスは捕獲されたのだった。 ●後日談 無事に捕獲したザックとレガート、そして番犬を本部に届けた浄化師たち。報告書を提出する頃には、既に日付が変わっていた。 そして、レガートの処分だが、皆の申し出を受けて尚、罪が軽くなることはなかった。 これは立場の問題と言うよりも、レガート本人が『ちゃんと罪を償いたい』と申し出たところが大きい。 代わりに娘のレティには、十分な治療と、レガートが投獄されている間も面会が許される流れとなった。 「父親として胸をはれるように、と言われたら仕方ないよね」 灰が呟けば、隣を歩く灯が頷いて見せた。 「ま、来年は楽しい方の花火を見たいもんだ」 「あぁ、本当に」 教団本部の出口を抜ければ、眩い朝日が皆を出迎える。 高く澄んだ青空は、静かに夏の終わりを告げていた。
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*** 活躍者 *** |
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[31] ナツキ・ヤクト 2018/09/03-23:34
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[30] 灯・袋野 2018/09/03-23:26
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[29] ロス・レッグ 2018/09/03-21:54 | ||
[28] ナツキ・ヤクト 2018/09/03-20:17
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[27] ロス・レッグ 2018/09/03-19:29
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[26] 灯・袋野 2018/09/03-19:23 | ||
[25] ロス・レッグ 2018/09/03-18:24 | ||
[24] レイ・アクトリス 2018/09/03-14:24
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[23] 灰・土方 2018/09/03-12:27 | ||
[22] 響・神原 2018/09/03-12:19
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[21] ナツキ・ヤクト 2018/09/03-12:00 | ||
[20] 灯・袋野 2018/09/03-08:24 | ||
[19] ロス・レッグ 2018/09/03-00:43 | ||
[18] ナツキ・ヤクト 2018/09/03-00:17
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[17] 灯・袋野 2018/09/03-00:08
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[16] 灰・土方 2018/09/02-23:37 | ||
[15] エリィ・ブロッサム 2018/09/02-23:28 | ||
[14] ナツキ・ヤクト 2018/09/02-22:38 | ||
[13] ルーノ・クロード 2018/09/02-22:33
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[12] エリィ・ブロッサム 2018/09/02-22:20
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[11] 響・神原 2018/09/02-19:32
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[10] 灯・袋野 2018/09/02-08:14 | ||
[9] ナツキ・ヤクト 2018/09/01-23:14
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[8] ナツキ・ヤクト 2018/09/01-22:49 | ||
[7] 灰・土方 2018/09/01-10:39 | ||
[6] 響・神原 2018/09/01-01:30 | ||
[5] 灯・袋野 2018/08/31-08:34 | ||
[4] 響・神原 2018/08/30-23:47 | ||
[3] 灰・土方 2018/08/30-23:00 | ||
[2] 灯・袋野 2018/08/29-10:42 |