~ プロローグ ~ |
これは新人浄化師への洗礼という名の悪しき慣習の話だ。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
ここまでプロローグをお読み下さり、ありがとうございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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※女装する羽目になった理由…先輩に土下座されたから (先輩に椅子にくくりつけられて) やっぱり女装は嫌だっ、嫌だーっ! (椅子をガタガタさせながら) (メイクをされ、衣装を着せられ解放される) (待て…父上はあの時(27話)仰った。 貴族として恥ずかしくない生き方を、と…それならば、僕は) 誰ぞドレスの裾を持て。これよりステージに行く。 (観客の前に行き、優雅に礼を) 私の名はラウル・イースト・ジェノメスティ。 訳あって今は教団に身を寄せている。 そなたたちがベリアルの脅威に遭えば、駆けつけると 約束しよう。 だが今日は、私の演奏を聴いて欲しい(楽器LV2) (ピアノで早弾きを披露し、そのまま優雅に一礼) |
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雲羽 いやぁ~こーんな楽しそうな催し物、見逃すわけないじゃあないか!(キラキラ 準備 さーて何着ようかな?…あ!これ!こーんなキワどい衣装まであるなんてイイシュミしてる~♪ え~いきなり辛辣ぅ~(ケラケラ じゃあ君は僕に何着て欲しいんだい?(傾げ 呟きに笑う 選ばれた服は雪の天女のような白と青のコントラストが美しい羽衣付きのマーメイドラインのドレス ふんふんなーるほど? …うん、折角選んでくれたのだからこれは優勝しなくちゃねぇ?って事で賭事では僕に賭けてくれたまえ! 本番 テーマに合わせて笑みを調節 ハープを携え登場 …ごきげんよう?(こてんと微笑 わたくしは名も無き雲の羽…音楽が得意ですの…♪(楽器+歌(ワントーン高め |
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やっぱり賭事なんて手を出すべきじゃなかった… (姉の数々の言葉が突き刺さる) 褒めてくれるのは分かるけど… 男はそう言われても嬉しくないんだよ姉さん… はは、もう、姉さんが喜ぶなら何でもいいや… ◆衣装 クラシカルな令嬢風 グレー基調のセーラーワンピ 同色のベレー帽 銀の長髪ウィッグ 球体関節タイツ 半ばヤケだけど、どうせやるなら徹底的にやろう 女装の完成度を競うなら “男”が出そうな関節なんかは隠した方が良いと思うんだ ◆本番 姉さんがいつもする様にスカートの裾を摘んで一礼 上目遣いや、はにかんで口元を隠したり ちょっとした仕草も、いつも側で姉さんを見ていて「可愛い」と思ったものを取り入れる 特技はバイオリンを披露(楽器スキル |
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●フィノ ・心情 仲間は全て捕らえられ(男性陣) 敵は嗤う悪魔たち(女性陣) 分が悪すぎる、もう諦めるしかない… わけないだろっ!?離せっ逃げるっ!(じたばた) ・着せ替え中 結局、俺たちは逆らえない気迫にされるがままなのさ 鏡、見たくない!ぐえっ!(強制的に鏡に首を回され) ユン、きみテンション高いね… ・撮影 やめてっ!撮らないで! ほら、あっちのお兄さん達の方が…やめろぉお! ・爆発 …ユン、きみ、調子に乗りすぎ…(ごごごご) (和メイド姿で漆黒の液体入りのグラスをトレイに載せて登場) 「すまうぜご、で、くんりど・とゐゐす、様うぜお」 珈琲にゴーヤの絞り汁をブレンドした特製にがにがドリンクを持って、 ユンを追い回してやる |
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ハンスそんな顔をしないで 私が何とかするから ハンスに恥はかかせられないわ 裁縫の腕の見せ所ね 教団用意のドレスをハンス用にリサイズ バストの仕込みもウエストのくびれも作って… でもハンスの事だからステージで大食いするとか言い出しそう お腹の所はゴムにしとこうかしら でもごめんなさいねハンス メイクの腕は人並程度しか… 化粧品も使い慣れたものじゃないと…私の使ってるもので我慢してね? でも 貴方は肌も綺麗だし ちょっと手を加えるだけで何とかなるわ ウィッグはどれにする? まあ 茶色のロングがいいの? ハンスの希望どおりに茶髪のウィッグを付けてあげる ふふ 何だか私みたいになってきたわ 舞台裏からこっそり見物 女装姿のハンスも…素敵だわ |
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~ リザルトノベル ~ |
今年も女装コンテストの季節がやってきた。 ここは教団御用達の貸衣装店の一つ。この日が来ると教団が店内を貸しきりにする。 店内は異様な雰囲気に包まれていた。 「やっぱり女装は嫌だっ、嫌だー!」 『ラウル・イースト』が叫ぶ。ラウルの他にも『フィノ・ドンゾイロ』も椅子に縛り付けられ、がたがたと暴れている。 「ユン! 覚えてろよなっ! 先輩も先輩もおおおおっ!」 女装に抵抗し続ける者は悉く先輩浄化師の手によって捕らえられ、この有様だ。 先輩浄化師達は女装コンテストの手伝いとして教団から派遣され、参加者の逃亡防止と着せ替えの為に黒子のようにひっそりと佇んでいる。先輩浄化師の誰もが参加者から目を逸らし、とばっちりが来ないように無言で働いていた。 抵抗を諦めた『リュシアン・アベール』や『ハンス=ゲルト・ネッセルローデ』は椅子に括り付けられることなかったものの、死んだ目をしている。 「……ぷっ、あっははははは!」 参加者の一人である『空詩・雲羽』は目の前の光景に堪えきれず、腹を抱えて爆笑していた。 「いやぁ~こーんな楽しくて面白そうな行事、見逃すわけないじゃあないか!」 目をキラキラと輝かせる雲羽に対して彼の喰人である『ライラ・フレイア』は困惑の極みだった。 (祓魔人が喜々として奇天烈な催し物に参加表明をしていた……何故女装? そもそも女装に対する抵抗感ゼロなのこの人?) 疑問しか浮かばない。今でも何故こんな事に巻き込まれているのか理解できていなかった。 「ほらほら、坊ちゃん達も元気出して! 折角のいい機会なんだし、新しい自分を開拓してみるのも一興だと僕は思うのさ♪」 煽っているようにも聞こえる言葉だが、本人は心の底からそう思っているのかニコニコしている。 「これはお嬢さん方にも張り切ってもらわなきゃ損だろうね♪ 息抜き的にもそうだし、なにより自分のパートナーを可愛らしい着せ替え人形にしてしまえるのだから! それに――」 「雲さん! その辺で勘弁してあげて!?」 ライラが心底楽しそうに語る雲羽を止めに入る。 「えー……私のパートナーが開口一番から大変ご迷惑お掛けしました……」 他の浄化師に向かって申し訳なさそうに頭を下げた。ライラは雲羽がこれ以上暴走しないように見張ろうと決心するが、 「空詩さんの、言うとおり、だと思い、ます。楽しんで、いきましょう」 意外なところから雲羽の意見に賛同する者が出た。 『ユン・グラニト』は無表情ながらどこか決意と希望に満ちた顔で、ぐっと両手を握りしめる。 「私もラウルの為に頑張ります!」 『ララエル・エリーゼ』が満面の笑顔で頷く。パートナーの思わぬ裏切りにラウルは放心状態になる。 二人に触発されてか『リュネット・アベール』もリュシアンをじっと見つめ、 「……シア。僕も、服を選ぶの手伝うから、一緒に、頑張ろうね」 「はは、もう、姉さんが喜ぶなら何でもいいや……」 虚ろな目をしたリュシアンが頷く。 「私も皆さんを見習って、ハンスのお手伝い頑張らなくちゃ……!」 「サラ……そこは頑張らなくていい……いや、何でもねえ」 『サラ・ニードリヒ』が真剣な表情で決意するのを止めきれなかったのは惚れた弱みだろう。 「おやおや……総じてまな板の鯉のようになってしまって……可哀想に」 そう言いつつも雲羽の口元はからかうような笑みが浮かんでいるのを見て、ライラは溜息をつくのだった。 ● 絶体絶命。そんな言葉がフィノの脳裏に過ぎる。 あまりに状況はフィノ達に不利だった。 仲間である男性陣は捕らえられ、逃亡する気力すら失っている。敵はそんな中、嘲笑うかのように着々と準備を進めている。 (分が悪すぎる、もう諦めるしかない……) 「っわけないだろ!? 離せっ逃げるっ!」 じたばたと暴れすぎて縛り付けられた椅子ごと倒れ込むが、それでも蓑虫の如く逃げ出そうとする。そんなフィノを哀れみながらも先輩浄化師は倒れた椅子ごとフィノを元の位置に戻した。 悪いと謝りながらも誰も縄を解こうとしない。 「先輩の裏切り者ー! そもそもユンから懐柔するなんて! やり方が汚いんですよ! ユンもユンで俺に了承なくこの指令受けるし! ――は? ……後で奢る? 奢りだけじゃ割に合わなすぎる!」 先輩への敬語を捨て、ついでに敬意までぶん投げて有らん限りフィノは叫んだ。 だが、フィノの危機はすぐそこに迫っていた。 「ムダ毛、処理も、いらなそう? フィノくんなら、いける」 (フィノくんをこの貴重な体験に導いてくれた先輩達には感謝です。頑張ろうね楽しもうね、フィノくん) フィノの抵抗も目に入っていないかのようにユンは目を輝かせて先輩達を心の中で拝む。表情こそ変わらものの、その軽やかな足取りからして彼女のテンションが高いことが読み取れる。 「まずは、王道、教団女子制服……」 「俺は、着ない! 絶対着ないからな!」 諦めることなく抵抗続けるフィノに対して、ユンは先輩浄化師に「お願い、します」と言って衣装を渡した。 毎年抵抗する男性浄化師が出る。その為、教団は仕方なく強制的に着替えさせる手段として口寄魔方陣の使用許可を出していた。 「ま、まさか……」 見覚えのある魔方陣にフィノが青ざめる。 あらかじめ用意された口寄魔方陣の上に服を起き、フィノに指定する。すると、フィノの足下に魔方陣が現れ、体を通り抜けていく。 「うわああああっ!」 「フィノくん、かわいい……違和感、なし」 教団女子制服に着替えさせられ、絶叫を上げるフィノとは対照的にユンは満足げに頷く。 フィノの悲劇を隣で見ていたラウルは蒼褪めていた。ラウルにとっても他人事ではなく、次は我が身だ。 「なんてむごい……ここまでするなんて……やっぱり僕には無理だ……指令を取り消そう、そうしよう」 再び暴れ始めるラウルにララエルが優しく声をかける。 「ラウル、あまり暴れると椅子が壊れてしまいます。それに一度受けたお仕事はきちんとまっとうしなくちゃダメですよ」 「……これは教団の陰謀だ……陰謀なんだ……」 放心状態でぶつぶつと呟き始めるラウル。 「おや、お楽しみの最中失礼」 早速女装した雲羽が声をかける。彼はセクシーキャットの格好をしてララエル達の前に現れた。 黒いライダースーツは体のラインがはっきり出る格好だが、不思議と彼が着ると性別不祥な印象を与える。 胸の辺りには詰め物がされているのか、しっかりと不自然ではない膨らみができていた。 ララエルは雲羽のコケティッシュな姿を見て頬を赤くしたまま呟いた。 「……ラウルもセクシー系を目指した方がいいでしょうか?」 「やめて、ララエル。頼むから、やめてくれ!」 ララエルの恐ろしい呟きに椅子をがたがたと揺らしながら懇願する。 「そんな格好で歩き回らないで下さいっ!」 後ろからライラの必死な叫びが聞こえる。 「え~? そんなにこの格好似合わないのかい?」 「似合っているから問題なんです! 色々な意味で目に毒なんで早急に着替えて下さい!」 ライラに似合っていると誉められ、上機嫌になった雲羽が不思議そうに首を傾げる。 「似合ってるならいいじゃないか。これでも露出度低めにしたんだよ?」 「貴方が着ると際どいんですよ!」 「え~、折角気に入ってたのに残念だ」 雲羽はララエル達に手のひらをひらひらと振ると、嵐のように去って行った。 「ラウルは雲さんみたいなセクシーなのよりキュートなのがいいんですか?」 「……ララ、違う。そうじゃないんだ……」 ラウルは椅子に固定されたまま静かに項垂れるのだった。 ● 「やっぱり賭事なんて手を出すべきじゃなかった……」 リュシアンもまた力なく項垂れていた。 落ち込むリュシアンを見かねてリュネットが一生懸命励まそうとする。 「だ、大丈夫だよ……シア、すごく可愛いもん」 姉の悪意ない慰めの言葉が胸に突き刺さる。さらに追い打ちをかけるように必死でリュネットは言い募った 「背も、大人みたいに高くないし……ほっそりしてて、華奢で肌も真っ白で、指だって細くて綺麗で……どうしたの?」 「誉めてくれるのは分かるけど……男はそう言われても嬉しくないんだよ姉さん……」 そう言ってリュシアンは儚く笑った。 「……そうだね、半ば自棄だけど、どうせやるなら徹底的にやろう」 「徹底的……優勝、目指すのなら、僕も、頑張る、ね」 「うん、姉さん。女装の完成度を競うなら“男”が出そうな関節なんかは隠した方がいいと思うんだ」 「なら、……うん、これが、いいと思う」 リュネットは少し考えた後、球体関節タイツとグレー基調のセーラーワンピースを手に取って戻ってきた。 グレー基調のセーラーワンピースはクラシカルな令嬢風で胸元には紺のリボンが結ばれている。同色のベレー帽がセットになっており、リュシアンやリュネットの年頃なら着てもおかしくない服装だ。 「あのね、シアは、僕よりも背が高いし、肩幅もあるから、襟やリボンがついたものの方が、誤魔化せると思って、選んだの。……着てくれる?」 「分かった、ちょっと待ってて」 リュシアンは口寄魔方陣を発動させ、一瞬で着替えてしまう。 「わぁ……シア、可愛い、凄く可愛い……!」 無邪気に手放しで誉められ、複雑な心境になるリュシアン。 「んと、でも、裾は、もう少し長い方がバランスが良い、と思うの。パニエでふんわりさせて……ウエストも、少し調整……かな?」 「じゃあ、裾は伸ばしてもらえるか店員さんに頼んでみるよ」 店員を探しに行こうとしたリュシアンだが、袖を掴んで引き留められ振り返る。 「……ね、シア。コルセットって、頑張って付けられそう……?」 そう上目遣いで姉に尋ねられ、リュシアンは顔が引き攣らないように頷くのが精一杯だった。 ● 「女装って……俺もうイイ年だぜ!?」 「ハンスそんな顔しないで、私がなんとかするから」 頭を抱えたハンスが苦りきった表情を浮かべているのを見て、サラが宥める。 「けど、しょーがねぇ。男なら潔くだ!」 ハンスは頭をがしがしかき混ぜると、覚悟を決め顔を上げる。 サラもまたハンスに恥をかかせるわけにはいかないと奮起する。 身長が高いハンスにはシンプルで上品なドレスの方が映えるだろう。 (でも、ハンスの事だからステージで大食いするとか言い出しそう……なら――) サラが手に取ったのは繊細なレースのエンパイアドレスだった。 エンパイアドレスはお腹をきっちり締め付けずに着られるドレスだ。シルクの軽く滑らかで肌触りの良い生地の感触が手に伝わる。 サラが選んだドレスを見てハンスが首を傾げた。 「サラが選んだものにケチつきる気はないけどよ、首元隠した方が良くないか?」 「首元を完全に隠してしまうよりVネックみたいに首元が開いていて鎖骨が見えるぐらいの方が、肩幅を強調しなくて済むと思うの。これなら長袖だし腕も隠せるわ」 いつもより饒舌に語るサラにやっぱり綺麗な服とかに興味あるのかなあとハンスは思う。ハンスの脳裏にサラがドレスで着飾った姿が過ぎった時、 「ハンス……ハンス? ドレスが嫌ならはっきり言ってね」 惚れた女に不安そうに上目遣いで尋ねられて嫌と言える男はいないだろう。ハンスもまたそうだった。 「サラが選んだなら文句なんてないさ」 ハンスは覚悟を決めて口寄魔方陣を発動させ、ドレスを纏う。 「あーめっちゃ足がスース―する……落ち着かねえ」 居心地悪げにするハンスにサラは小さく笑う。 「あっ、笑ったな。……まあ、仕方ねえか。俺はネタ枠での出場だろうし」 「私がそんな事させないわ。裁縫の腕の見せ所ね……ハンス、今からドレスの調整するからじっとしててね」 (バストの仕込みとウエストのくびれも作って……裾の長さを短くしなくちゃ) 今のままだとドレスで歩き慣れてないハンスが転びかねない。 エンパイアドレスはウエストのくびれが見えないデザインだが、胸元の切り返し部分に流れるようなリボンを巻きつけたら、より女性らしいシルエットになるだろう。 (いや、あの……跪いて腰回りを触れられると……って俺は何考えてんだバカ!) サラに触れられる度に心臓が激しく脈打つ。 衣装の調整に集中しているサラはハンスの顔がほんのり赤く染まっていることに気づいていなかった。 ● 「王道、セクシー、チャイナドレス。エレガントな、刺繍の、かわいい、チャイナワンピース」 悪魔が恐ろしい呪文を唱えている。 先輩達はすでに悪魔の手先だ。今もいそいそとユンに命じられるままに鏡を運んでいる。先輩を顎で使う己のパートナーが末恐ろしい。 (結局、俺たちは逆らえない気迫にされるがままなのさ……) 「どっちも、フィノくん似合う。けど、新たな、魅力を、開拓して、みるべき?」 手に取ったチャイナ服を見ては悩む。迷った末に赤いチャイナドレスを選んだ。 「フィノくん、なら、ミニでも、似合う、と思うの」 「似合ってたまるかああっ!?」 ユンの言葉に思わず突っ込んでしまうフィノだが、ユンが手に持っていたチャイナドレスはあっという間に先輩達の手で口寄魔方陣の上に置かれ、 「ぎゃあああっ!」 魔方陣が光を放つと同時にフィノは胸元にドラゴンの刺繍がされたチャイナドレスに着替えさせられてしまった。 タイトスリットからフィノの健康的な足が晒されているのに、ユンは満足げに頷いた。 (ちらりと見える胸筋と太股がお色気) ユンはチャイナドレスを着せただけでは満足せず、 「お団子、してみたい……」 用意して置いたお団子のヘアクリップを左右につける。 「鏡、見たくない! ぐえっ!」 頑として鏡から顔を背けるフィノは強制的に首を回され、自分の姿を直視する。鏡に写る自分の女装している姿に物悲しい気分になる。 「完璧な、男の、娘」 「ユン、きみテンション高いね……」 一仕事やり遂げたと言わんばかりのユンに一周回って冷静になったフィノが突っ込んだ。 ● 「さーて次は何着ようかなあ? ……あ! これ! こーんなキワどい衣装まであるなんてイイシュミしてる~♪」 雲羽は自由な散策を終えて、次の衣装を物色し始める。 ライラはパートナーが持ってくる衣装を見る度に胃がキリキリし始めた。 メイド服などまだまともな部類だった。胸元がハートマークに開いたナース服からバニーガール。極めつけはミイラのような包帯だけの衣装まで存在していた。 え、これ、誰が着るの。マネキンに包帯を巻いただけで服じゃないよね。 「ここはいかがわしいお店か何かですか!?」 ライラの悲鳴じみた叫びが上がる。先輩浄化師を縋るように視線を向けるが視線をさっと逸らされた。 もう教団はダメかもしれない。 「どこを見てるの? 僕の可愛いお人形さん、よそ見しちゃ駄目じゃないか」 ライラの顎を持ち上げ、自分の方に振り向かせライラの心臓に悪いことをする。しかし、ライラの目は雲羽が手に持っている衣装に釘付けになる――ピンクのベビードールだ。 「止めて下さい、観客の目が死んでしまいます! むしろ出場停止処分を食らいます!」 「え~いきなり辛辣ぅ~」 ライラの発言に気にすることなくケラケラ笑い出す雲羽は不意に首を傾げる。 「じゃあ君は僕に何着てほしいんだい?」 「え、ええっ、と……?」 思わぬ切り返しにライラは改めて自分のパートナーを観察する。 「……雲さん色白だし……細身だし……黙ってればこのままでもそこそこ見えなくもない……気が……? 際どい衣装が問題なんだし、もっとまともなものを……」 (ふ~ん、なるほどねぇ。そう思ってたんだ……) ライラの呟きに雲羽は口の端を上げる。 ライラは自分が思っていることを呟いているのに気がついていないのか、衣装選びに集中している。 悩んだ末にライラが最終的に選んだのは、マーメイドドレスだった。真珠と海を連想させる白と青のコントラストが美しいドレスには、羽衣のようなベールがついている。男性特有の骨格を隠せるようにと首から腕までをレースの花々で覆われていた。 「ふんふんなーるほど?」 雲羽は選んだ衣装をまじまじと見つめるのを、ライラは不安そうな面持ちで待つ。 「……うん、折角選んでくれたんだからこれは優勝しなくちゃねぇ? ってことで賭事は僕に賭けてくれたまえ!」 一度頷き、雲羽はにっこりと笑うと両手を広げ芝居をするような仕草でそう宣言した。 ● 衣装選びを終え、限り少ない時間でそれぞれの準備を進める。 本番まで後3時間程あるとはいえ、各自準備に追われていた。会場に着くと舞台の段取りを確認したり、参加者にヘアメイクを施したりと忙しない空気が漂う。 「どうして、こんなことになったんだ……」 ラウルは嘆くように呟いた。 あれは司令部のエントランスでの出来事だった。 名前を呼ばれて振り返ると、先輩が土下座していた。大事なことだから二度言う。皆が見ている中で先輩が土下座していた。 突然の出来事にラウルはそれはもう動揺した。 「え、え? 何をしてるんですか!? 土下座なんてやめて下さい!」 「お前が頼みを聞いてくれるまで俺は土下座を止めるわけにはいかないんだ!」 必死に土下座し底に這い蹲るように頭を下げる先輩。異様な光景にどんどん人が集まってくる。 人目に晒されるのに耐えられなくなったラウルは、思わず分かりましたと答えてしまったのが、運の尽き。 その後、なんやかんやあって今こうしてラウルは椅子に縛り付けられている。 遠くでララエルが楽しそうに笑っている。明るい彼女の表情にいつもなら喜ばしい筈なのに、その理由が自分の女装の為なのだから、現実がしんどい。 「ラウル、私がメイクしますね。えへへ……あまり自信がないですけど許してくださいね」 (うーん、お母様がしていたようにメイクをすれば良いかな……?) 当の本人であるラウルは椅子に縛られ、ララエルの笑顔に抵抗ができず為されるがままだ。 母親がやっていたことを思い出すように丁寧に化粧を施していく最後の仕上げにうっすら塗った赤のルージュが一際彼に映える。 (ラウルきれい……私もいつかはお母様のように化粧をするのかな……) 彼の金髪と同じウィッグをつけるとふわふわロングが肩に掛かる。 ラウルの紅玉の瞳が戸惑うように揺れ、困惑混じりの表情を浮かべるとメイクをしたせいもあって、見たことのない彼の姿にララエルは可愛いさと庇護欲のようなものを感じてしまう。 胸の動機が激しくなるのを悟られないようにララエルは選んだ衣装を先輩に渡した。 「ちょっ……待って、ララエルっ!」 悲壮な顔をしたラウルが止める間もなく口寄魔方陣が発動した。 するとロココ調の派手なドレスを着たレディへと変身した。当の本人は呆然自失としていたが。 もちろん犠牲者は彼一人でなく、また新たな犠牲者が生まれようとしていた。 ● フィノは諦めることなく逃亡の隙を窺っていたが現状厳しい。 (というか、参加者一人に監視が二人付くっておかしいだろ! そんなに暇あったら、働け浄化師! って、俺も参加する側だった……) 嫌な事実に気づき落ち込むものの、無理矢理そこから目を逸らし、逃亡について考える。 今フィノは和装メイドの格好をさせられている。 動きづらい着物を着せられ、余計に逃げづらくなってしまった。 それを考えて選んだとしたらあの悪魔はなんと手強いことか。フィノの想像は外れており、ユンはここぞとばかりに自分の趣味を満喫しているだけだ。 「女装らしさ、あまり、ない?」 「どこからどう見ても女装だから!」 「でも、可愛いので、許します」 (……ダメだ、話が通じない……あれ、ユンの奴何を探して……っ!?) しっかりとカメラを大事に抱きしめたユンの姿にフィノは悪寒が止まらなかった。 ● 「え、あれ? なんで胸があるんです? 私準備してませんでしたよね? まさか、雲さん……性転換する薬でも飲んだんですか!?」 「あっははは、それも面白そうだね!」 この人ならやりかねないと思っていただけに、違ったことに安堵する。 「君の目から見てもそう見えるのなら、下着で調整した甲斐があったね」 「はい? ……下着?」 安堵するのも束の間、とんでもない爆弾が落とされ固まる。 「……え、ちょっと待って下さい」 ライラは頭痛を堪える表情をし、ストップをかけるように手を挙げた。 「ずっと聞きたかったんですけど! もしかして、前にも女装したことがあるんですか、雲さん! 答えて下さい、どういうことなんです!?」 ライラは動揺のあまり腕を掴んで問いただす。雲羽はにっこりと笑ったまま答えない。 二人の一方的なやりとりは雲羽の出番が来るまで続くのだった。 ● サラが持ち込んだメイクボックスからハンスが知らない華やかな化粧品が次々と出てくる。 「でもごめんなさいね、ハンス。メイクの腕は人並み程度しか……化粧品も使い慣れたものじゃないと……私の使ってるもので我慢してね?」 高そうな化粧水を手に取り、コットンにたっぷりと染み込ませる。真剣な表情で頬を優しくパッティングする際に彼女の顔が正面に来る。 (近い……今なら事故でもキスできる距離だ……って俺最低だな!) 彼女に優しく触れられ、顔が近づく度に煩悩が過ぎり必死で無心になろうとする。 「でも、あなたは肌も綺麗だし、ちょっと手を加えるだけでなんとかなるわ」 サラのちょっとは全くちょっとではなかった。 ハンスは知らなかった。女の化粧には手間が掛かることを――スキンケアから始まり、崩れないようにベースメイクには特に力を入れ、さらにポイントメイクを施すまでどれだけ時間が掛かるのか思い知ることになる。 どれだけの時間が過ぎただろう。 己の煩悩との戦いは熾烈を極め、彼女からほんのり香る匂いにまで反応する自身をいっそのこと椅子に縛り付けて欲しいとすら願った。 幸福でありながら、拷問のような時間だった。 メイクが終わり、ようやく肩の力を抜いたハンスにサラが尋ねる。 「ウィッグはどれにする?」 「え? 頭どーするって?」 「じゃあ、そこの茶色いカツラにしてくれよ」 「まあ、茶色のロングがいいの?」 今まで何の要望も口にしなかったハンスがそのウィッグを指差したことにサラは驚く。 「ハンスの希望どおりに茶髪のウィッグを付けてあげる。ふふ、なんだか私みたいになってきたわ」 「私みたいって……ハハ、かもな」 (ああそうだよ……お前とお揃いってのを味わってみてーんだよ) ほろ苦く甘やかな本音を胸の奥に隠したまま、ハンスは笑って誤魔化した。 ● 「えへへ、妹だったら、こんな感じだったの、かな」 リュネットの前には自分そっくりの少女がいた。少し背は高くて自分とは正反対の妹の事を想像してみる。 きっと天真爛漫で誰にも物怖じせず会話や仕草はいつもキラキラとしている、まるでリュシアンのように。 「――姉さん? 姉さん、いきなり黙り込んでどうしたの? 何か心配事でもあった?」 「う、ううん、何でもないよ。……えっとね、シアが可愛いから見惚れちゃった」 心配そうに覗き込むリュシアンに慌てて首を振った。可愛いと言われたリュシアンは複雑な表情を隠さず、 「姉さん、僕が男だってこと忘れないでね……」 「うん、分かってるよシア。どうしたの?」 突然の言葉にリュネットは不思議そうに首を傾げた。 ● もう逃げないだろうと判断されたラウルは解放され、項垂れるように椅子に座り込んでいた。 (……逃げ出してしまいたい) 苦境の中に立たされたラウルにある天啓が降りた。 (待て、父上はあの時仰った。貴族として恥ずかしくない生き方を、と。それならば、僕は立ち向かうべきなんじゃないか?) ――貴族として、選ばれた者として、恥ずかしくないように行動しなさい 「そうだ、父上の言う通りだ。どんな時も矜持を手放すことなく誇り高くあらねば」 彼の父もこんな時にその言葉を思い返すとは予想だにしていなかっただろう。 だが、この苦境を乗り越える勇気をラウルに与えた。 タイミング良く出場者の名前が呼ばれる。 「誰ぞドレスの裾を持て。これよりステージに行く」 立ち上がった彼は完全に貴族令嬢に成りきっていた。 「ら、ラウルさん……っ!」 過酷な戦場によって変わり果ててしまった戦友を、フィノはただ見送ることしかできない。 「俺も皆さんを見習って潔く……いやいや、ユンが調子に乗る……」 フィノの葛藤はまだまだ続くのだった。 ● 「女装コンテストの司会を務めさせて頂くのはこの私、ただの名もない浄化師です。お見知り置きを。さて、誰が優勝の栄冠を勝ち取るのか!? 今から楽しみでなりません! では、登場していただきましょう! エントリーナンバー1の方どうぞ!」 司会を務める赤髪の浄化師がステージの奥へと手を伸ばす。 「おおっと現れたのは深窓の姫君だ! 到底手が届かない高嶺の花がこの舞台へと舞い降りてきてくれた!」 ロココ調の豪奢な青いドレスは全体に金糸で刺繍が施されており、下手すればドレスに着られかねない。 だが、赤いルージュを纏ったラウルにとってはドレスすら引き立て役でしかなかった。 茨をモチーフにした赤いチョーカービジューが差し色となってさらに綺羅びやかに飾り立てる。 観客席は満員には程遠いが、ラウルの姿に「お姉さまー!」と黄色い声援が飛ぶ。 たまに野太い声で「女王様ー!」と聞こえるが、きっと気のせいだろう。 俺を鞭で打ってくれ、ピンヒールで踏んで欲しい、跪きたい。 どこからか不穏な声が聞こえる。ここはSM専門店ではない筈だ。 幸いなことに舞台に立つことに必死なラウルの耳には届かなかった。 ララエルはラウルの人気に私のパートナーはこんなに素敵なんだと自慢したい気持ちと私以外に見せたくない仄暗い感情の狭間で揺れる。 「ララエルさん! あたし、皆さんの晴れ姿、撮る係、やります。これは、是非、写真に、納めて、おかなくちゃ」 ユンのはしゃいだ声に現実に引き戻される。ララエルが口を開く前に観客席から声が上がり、舞台へと目を戻す。 ラウルは貴婦人のように悠々と歩く。 一見すれば、姫君のようにしか見えない。だが、紅玉の鋭い眸を見てしまえば、一瞬にして気づくだろう。 高潔な彼の矜持は誰にも汚されることはない。触れることができない冬薔薇だということに。 華やかに淑やかにカテーシーを披露する。 一瞬、観客席から驚嘆とも感嘆とも取れる溜息が漏れる。 この場を一気にラウルが支配してしまった。それを当然だというように彼は笑う。 「私の名はラウル・イースト・ジェノメスティ」 高らかに告げられる名が響き渡る。 「訳あって今は教団に身を寄せている。そなたたちがベリアルの脅威に遭えば、駆けつけると約束しよう。だが今日は、私の演奏を聴いて欲しい」 ラウルの周りに白薔薇が咲き誇っている幻影が見える。 舞台に用意されたピアノの前に座り、繊細なレースの合間から伸びた手が鍵盤をそっと撫でた。 ラウルが演奏を始めると、観客は驚愕する。 その曲名は知られていなくとも、誰もが一度は聞いたことのあるクラシックだった。それもピアノの速弾きの代名詞のような楽曲。 普段は見せない彼の激しさが音楽となって観客の胸に響く。 両手が踊るように鍵盤を叩くと、華やかでありながら迫力のある音色が会場を響かせる。 観客はラウルの演奏に圧倒されたように静まりかえり、彼の音楽に耳を澄ます。冷やかしていた人間も何も言えずに立ち尽くしている。 「……すごい、すごいです、ラウル!」 ララエルはラウルの一挙一動に目が離せない。瞬きすら惜しい。 最後の一音を弾き終え、演奏が終わったことに気づいた観客から手を叩きはじめた。拍手が波のように広がっていく。 ラウルは椅子から立ち上がり、優雅に一礼して立ち去ると同時に歓声が上がった。 「なんということでしょう。華やかで超絶技巧のピアノを披露して下さいました! 今年は期待できますよ、皆さん! 次の方はプレッシャーでしょうが、次は何を披露してくれるんでしょうか!」 司会も盛り上げを高めようとテンションを上げて実況する。 「ラウルさん、背後に、薔薇が、見えます」 「今日のラウルは、ラウリーゼ・ジョセフィーヌ・ドゥ・ラ・メールですから!」 ララエルは胸を張り、目をきらきらと輝かせながら語る。先ほどの仄暗い気持ちもラウルが吹き飛ばしてしまった。 「あのユンさん。後で、私にもラウルの写真もらっていいですか?」 「もちろん、です!」 二人は笑いあいながら、パートナーに内緒の約束を交わす。 一方、舞台裏では、 「やりすぎだよ、ラウルさん……皆開き直りすぎ、もっと足掻いて!」 そっと覗いていたフィノが頭を抱えて嘆く。 ラウルの演奏により疎らだった観客席に人が集まり始めている。観客席の前列にはカメラを構え、夢中で写真を撮っているユンの姿が見え、さらに絶望が深まる。 「くそっ! 俺だけこんな目に遭うなんて理不尽だ! 来年になったら、見てろよ!」 ● 「エントリーナンバー2の方、ご登場ください!」 舞台の奥から人影が現れる。 彼は美しかった。マーメイドドレスを着た彼に余計なアクセサリーなど必要ない。足下の広がりが人形の尾鰭のように見え、さざ波のようにレースが揺れる。 ハイヒールを鳴らす度に、観客の目は吸い込まれるように釘付けとなる。 「これは性別を超越した美です! 女性のようにも男性のようにも見える。まるでだまし絵のようだ。しかし、それがより彼の神秘的に見せている!」 ドレスを見せつけるかのように挑発的に一回転して見せる。 「フロントは清楚なのにバッグの露出度のギャップがすごい! 足下のレッグチェーンが囚われた女神を表現しているのか。彼いや彼女の色香に惑わされ、捕らえたくなってもおかしくない美しさだ!」 観客の目を一通り釘付けにしたところで、雲羽は口を開いた。 「……ご機嫌よう?」 ハープを携えた雲羽はこてんと首を傾げながら微笑を浮かべる。 「わたくしは名もなき雲の羽……音楽が得意ですの……♪」 ハープ特有の透き通った音色が会場に響き、聞く者に心地よさを与える。どこか神秘的であるのに物悲しいメロディーが、観客を幻想的な世界へと連れて行く。 「語りましょう。人魚の恋歌を。人とは違い愚かなまでに一途な恋を奏でましょう。愛する男に受け取られることなく捨てられた愛を。報われることのなかった泡沫の恋の話」 男とも女ともつかないハスキーボイスが手招きするように観客を誘い込む。 ハープの優しい音色に反して、雲羽の歌は残酷なものだった。 セイレーンは一人の美しい若者に一目で恋に落ちた。その恋は報われることなく、男に拒絶されてしまう。 セイレーンは唄う。彼が可愛いと言ってくれた白いワンピースは鮮血に染まっても歌い続ける。泡になって消える瞬間まで謡う。 ――愛してる。貴方と一緒に眠れるなんてとても素敵ね。私人間になったみたい。 ひやりと恐ろしいのに聞くことを止められない。セイレーンの恋情と狂気に引きずり込まれるように耳を傾けてしまう。 女性の中には共感する者もいるのか、悲しげな表情で聞き入っていた。 「これにて物語は終わりとなります。それでは皆さま、次なる機会まで暫しの別れ。そろそろお暇申し上げますわ」 拍手喝采の中、雲羽は優雅に一礼して立ち去っていく。 ● 「げっ、人が集まり始めてる……」 フィノが嫌そうな顔で呻く 疎らだった観客席は埋まり、なんとかステージを見ようとする人だかりが出来始めている。 「この二人の後に出番なんて色んな意味で辛すぎる……よし、お疲れさまでしたー」 フィノは棒読みで挨拶するとすぐさまダッシュする。が、現実は無情。あっさりと先輩浄化師に捕まり、舞台へと突き出される。 「エントリーナンバー3の方……って、もう出てきてますね! おや、可愛らしい和装のメイドさんの登場だー!」 司会の言葉に観客席の目が一斉に自分に向き、フィノは思わず後ずさりする。 え、可愛いんですけど!? 本当に男の子!? 男の娘キター! 観客席から「可愛い」という言葉が何度も何度も聞こえてくる。 「赤と白の格子柄の着物が色鮮やかで奥ゆかしい。清楚なフリルのエプロンが働き者の女給さんを想像させてしまう! 早めに出てきてしまうなどドジっこ属性かつ羞恥心で赤く染まったまま動けないのが、可愛らしいですね!」 司会の言葉が止めだった。 ついにフィノの中で何かが切れた。 怒りのあまり顔を真っ赤にし、観客席を睨みつけた。 「俺は男だああー! 可愛くない! 断じて可愛くないからなああ! それ以上言うなああっ!」 魂の叫びに一瞬会場が静まり返る。だが、それも一瞬のことだった。 フィノの怒りを羞恥心から来るものだと勘違いした観客がさらに盛り上がる。 女装を恥じらう姿が可愛い過ぎる。 これはこれでいい! これが萌えという感情か! 観客は勝手にそんなことを言いはじめる。 「くそぅ……何で盛り上がるんだ! やめろー! 見るなー! 俺を見るなああ!」 もう自己紹介も何もあったものではない。怒りを突き抜け涙目になっているのも逆効果だった。フィノが嫌がれば嫌がるほど、観客はテンションが高まる。 そんな中、フィノの相棒であるユンは感動に打ち震えていた。 「フィノくん、すごい……何も、しなくても、かわいい、なんて……!」 彼の姿を写真に収めなければ。ユンは使命感に突き動かされるように夢中でカメラのシャッターを切る。 そんな相棒の姿を舞台の上から見つけてしまい、フィノは悲鳴を上げる。 「やめて! 撮らないで! ほら、先ほどのお兄さん達の方が……やめろぉお!」 ユンが全く止める様子がないのに、怒りを爆発させたフィノが「こんなコンテストなんて潰れっもごご……うぐう!」と叫びだした時点で強制退場となった。 ● 「す、すごいことに、なってる、ね……大丈夫、シア?」 「……うん、何とかなると思う、多分」 舞台は予想以上のカオスだ。この中に自分が飛び込んで行くのかと思うと憂鬱な気分になる。 姉の為だ、と言い聞かせて舞台へと出て行く姿は騎士のような勇ましさを感じさせた。 「ええっと、何やらアクシデントが起こりましたが……次! 次行きましょ。どんな方が出てくるのか非常に楽しみですね! エントリーナンバー4!」 舞台に上がったのは、一人の可憐な少女だった。聡明さを伺わせるビジョンブラッドが小動物のようにきょろきょろと辺りを見回す。 雪のような肌を薔薇色に染めて一瞬はにかむと、すぐに照れたように袖口で口元を隠してしまう。 盛り上がっていた観客席がさらにざわつき始める。 「定番の学生服! いやこれはセーラーワンピースだー! 可愛らしいのにどこか気怠げで憂い帯びた姿。初恋の少女を思い出した方も多いでしょう!」 司会は熱が入ったかのように喋り倒す。 両手でヴァイオリンの入ったケースを持つ姿はまるで血統書付きの子猫のように愛らしい。仕草から育ちの良さが分かるのに、どこか陰のある儚い雰囲気が人々の庇護欲を誘った。 少女は歓声を上げる観客に向かって人差し指を口元に当て、シッーという仕草を見せる。その仕草に釣られるように歓声は徐々に静まり始めた。 にっこりと笑って、リュシアンはヴァイオリンの演奏を始めた。 その演奏は予想を裏切るものだった。 疾走感がありかっこいい曲が鳴り響き、外見とのギャップに観客は目を白黒させる。段々とギャップに慣れてくると観客は楽しげに聞き入り始めた。 ハスキーな声で歌うように奏でられる演奏はケルト音楽とロックを融合して作られた曲だ。アップテンポで踊りたくなる曲はケルト音楽の特徴だ。そもそもこの民族音楽はダンス曲でもあるので当然なのかもしれない。 演奏が終わると照れたようにはにかむとスカートの裾を摘み、ぺこりとお辞儀する。演奏だけで、一言も喋らなかったことがよりミステリアスな印象を持たせていた。 「とても可愛いのに演奏時のギャップがすごい! これがギャップ萌えなのかー!? ハートを撃ち抜かれ死屍累々だあ! 歓声もすごいぞお!」 観客席の盛り上がりはピークへと達していた。 舞台を終えたリュシアンを頬を上気させたリュネットが舞台上で待っていた。 「シア演奏すっごくよかった、よ……! でも、……何処で練習してきた、の?」 (姉さんの真似をしてただけなんだけどね……気づいてないんだろうな) リュシアンは内緒と言って人差し指を口元に当てるのだった。 ● 「よりによって俺が最後かあ……」 「大丈夫よ、ハンス。できるだけのことはやったんだから」 「そうだな、サラが頑張った分、今度は俺が頑張る番だな」 サラに励まされ、ハンスは気合いを入れるように頬を叩いた。 「ハンス、まるで花嫁さんみたいね」 肩の力が入ったハンスに冗談を言ってリラックスさせようとしたサラだが、 「……俺よりお前の方が似合うよ」 「え?」 「あ、いや、何でもない! じゃ、言ってくるな!」 サラが聞き返す前に、ハンスは舞台へと駆けだして行ってしまった。 「最後まで可愛らしかったですねー、それでは残念ですが、次で最後となります! エントリーナンバー5!」 どうぞ、と言って司会は舞台奥へと片手を伸ばした。 登場したのは、小花のレースが可愛いウェディングドレスを着た成人男性だった。ライカンスロープの証しである銀の獣耳。亜麻色の髪にはかすみ草が編み込まれている。 サラの頑張りはあったが、鍛えられた身体を完全に誤魔化すことはできなかった。 舞台に出たハンスは、歩きにくそうな表情を隠さず堂々と前に歩みでる。 観客は次は何をしでかすのかとワクワクと待っている。 (えーと、自己紹介と特技披露だっけ? 俺の特技って言ったら……よし!) 「俺の名前はハンス! 肉だ、肉持ってこい!」 男らしさの残る女装を好む層の歓声と冷やかしが飛ぶ中、怯むことなくハンスは名乗りを上げた。 「大食いだけは自慢できる特技なんだ!」 女性の言葉づかいも仕草なんて知らんと言わんばかりの潔さに、観客席から「兄貴ー!」とノリのイイ声が聞こえてくる。 舞台にはテーブルが運び込まれ、大皿の上には大量のホットドッグが山積みに積み重ねられていく。 いつから大食い大会へと変わったのか。首を傾げる観客もいたが、その疑問もすぐに忘れさられた。 用意された椅子にどすりと座り、ハンスは栗鼠のように頬一杯にホッドドッグを詰め込んでいく。 ハンスの気持ちのいい食いっぷりに見ていた観客も徐々に彼を応援し始めた。 「兄貴ー!」コールが観客席で沸き起こる。 あっという間に平らげると観客から歓声が上がり、ハンスは拳を天に向かって振り上げて応えるのだった。 ● 「皆さまご投票下さりありがとうございます。賭事の方でも誰が優勝するかで盛り上がっていますねー、盛況でなによりです。賭事で得た収益金はベリアルやヨハネの使徒に襲撃された町や村への援助金などをはじめ様々なところに使われます。なので、夢を買うついでに是非社会貢献して下さいね」 女装コンテスト自体はアレだが、目的は非常にまともなのである。なので、教団側としても無碍に依頼を断れないのだ。 「おっと! ようやく集計が終わったそうです。それでは優勝者の発表となります! 今年は誰が優勝杯を手にするのか!?」 最後は全員が登場し、優勝発表を待つ。 盛大な音楽とともにスポットライトが当たったのは、リュシアンだった。 「エントリーナンバー4! リュシアンさん、優勝おめでとうございます!」 全員色んな層から人気があったが、僅かな差で観客が満員時にパフォーマンスを披露できたリュシアンに軍配が上がった。 だが、運も実力のうちだ。 観客から熱烈な声援を受けながら、優勝杯をはにかみながら受け取る。 他の参加者も拍手を送る。 リュシアンは観客席に花のような笑顔を向けると、ありがとうございましたの意を込めて優勝杯を抱きしめたままお辞儀する。彼のプロ根性には賞賛を送りたい。 「では、名残惜しいですがお別れの時間です。来年の女装コンテストで会いましょう。今年の参加者がまた参加してくれたら嬉しいですね!」 おい、司会。余計なことを言うな。 参加者達は舞台を去る。約一名を除き参加者の誰もがもう二度と参加してたまるか、と思いながら。 こうして波乱に満ちた女装コンテストは無事終わりを迎えることができたのだった。
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*** 活躍者 *** |
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[13] ユン・グラニト 2018/09/07-23:29 | ||
[12] 空詩・雲羽 2018/09/07-19:10 | ||
[11] サラ・ニードリヒ 2018/09/07-11:08 | ||
[10] 空詩・雲羽 2018/09/07-00:20
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[9] ユン・グラニト 2018/09/06-01:54 | ||
[8] フィノ・ドンゾイロ 2018/09/06-01:34
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[7] ラウル・イースト 2018/09/05-20:15
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[6] ララエル・エリーゼ 2018/09/04-20:55
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[5] 空詩・雲羽 2018/09/04-18:54 | ||
[4] リュネット・アベール 2018/09/04-16:23
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[3] ラウル・イースト 2018/09/04-13:57
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[2] ララエル・エリーゼ 2018/09/04-01:33
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