~ プロローグ ~ |
「お前らにしてほしいのは、今回はスカウトだ」 |
~ 解説 ~ |
今回は村へと赴いての「君は今日から浄化師だぁああああ」(どんどんぱふぱふ)とスカウトするお話です。 |
~ ゲームマスターより ~ |
ハロー、私の運命、あなたに私は抗い続ける。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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目的 ベリアルとヨハネの使徒の討伐 行動 森でベリアルの討伐→寄ってきたヨハネの使徒を討伐→村へ行ってリネリさんの家でお話、の予定。 戦闘 対ベリアル 森へ入ったら周囲に注意。 糸を張る蜘蛛かどうかによって探す場所が違うかも。地上と樹上と…。 見つけたら、アライブスキルも使用してなるべく早く倒す。 魔方陣が見つかれば狙う。 ベリアルを倒したら、ジークリートは高く飛んで周囲を観察(望遠鏡使用)。 ヨハネの使徒が村へ行くようなら、囮になって森へ誘導。 フェリックスは森で待ち伏せ。 対ヨハネの使徒 魔術真名使用。 森の木々を利用して、突進を防ぐ。できれば一体ずつ各個撃破。 コアを狙う。 |
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まず怪物共を片付ける。 森のベリアルをGK4やDE6も使って速攻で倒し、使徒を森に誘き寄せ、森の侵攻に手間取る使徒共を集結前に各個撃破。 ・説得(というよりは状況確認) リネリ達の家で、できれば俺一人(アウェー)で話す。家族や彼氏にも同席してもらいたい。 1.浄化師の諸待遇、役目と制約、死後の扱い(家族を守る為に彼らと自由に会えない。死も知らされない) 2.ならないと予測される結果(少ない余命、凄惨な最期、使徒に狙われる=今回のような事がまた起こり得る、周囲の敵意) 彼等がこれらをどれだけ理解して決断した(する)のかは確かめる。 望む最期を迎える前に皆で村を追われかねん覚悟はあるか。 |
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~ リザルトノベル ~ |
かたん、かたん……目的の村に向かう馬車内は極限まで空気を入れて膨らんだ風船みたいな緊張を孕み、微かな振動で今にも破裂してしまいそうだ。 「ねぇ」 とうとう、耐えかねて『ラファエラ・デル・セニオ』が口を開いた。 「どうして浄化師になったの」 誰に、問いかけるわけでもない。 ただ退屈まぎれに口にしたような言葉のあと、また沈黙が広がりそうになるのを嫌がるようにラファエラは続ける。 「私は、自分で選んだのよ」 自分の父親が行う行動を、ラファエラはどうしても許せなかった。あのまま永遠に自分は変われず、ただ鳥かごのなかで生きる絶望、そして正義感につき動かされた。 「俺も、自分のためだ」 『エフド・ジャーファル』がぽつりと漏らした。 ラファエラの寡黙なパートナーは見た目こそ、やや強面だが、正義感が強く、たまに過激なときもあるが、それでも人を思いやれる優しい男だ。 エフドの理由は母だ。少しでも母を助けたい、いい生活をしてほしいと彼は報酬のほとんどを仕送りしている。 しかし浄化師になると、家族と会うことも難しくなる。 理由は浄化師とは常に狙われる存在だからだ。弱味があるとわかれば利用される。 「僕は……なりゆきです」 黙っていた『フェリックス・ロウ』が、ゆっくりと言葉を発した。 ずっと、ぼーとしているから眠っているのかと思ったが、ちゃんと起きていたらしい。 「なりゆき?」 「はい。たまたまそうだったので、そうなりました」 「はぁ?」 ラファエラが片眉を持ちあげる。 「あ、あの、ちがい、ます……わたしの、せいです」 弱弱しい声を発したのは俯いている『ジークリート・ノーリッシュ』だ。 「わたしが、お願い、したんです」 「そうですね。僕はそういう理由で浄化師になりました」 「……ごめん、なさい」 「礼儀正しいセニョリータ、ぼんやりセニョール、もうやめやめ。やめましょう? こういうのは私の趣味じゃないわ。忘れて。報酬がいいんだし、はやく終わらせましょう」 何度か指令を共にしている気さくさからわざと乱暴にラファエラは話題を打ち切った。 「そうだな。指令だ。ミズ・ノーリッシュにミスター・ロウ……それだけ考えて取り組めば問題はない」 「はい」 「……は、はい、わかりました」 がたん、と大きく音がして、馬車が止まった。 目的の場所に、ついたらしい。 馬車から降りると、背の低い草が伸びた平野が広がる。 四人が来たのは目的の村の一つ手前の村だ。ここから徒歩で一時間ほど歩いたところが目的の場所だ。 えらく遠回りだが、それには理由がある。 「俺たちが行って、あいつらを刺激するのは正直、勘弁ねがいたいね」 エフドが口にしたのは森のなかで目撃された蜘蛛のベリアル、さらに周辺にいると予想されるヨハネの使徒への警戒だ。脅威としてはそれほど高いわけでなく、四名で十分に対応しうる相手だ。 問題はベリアル、ヨハネの使徒は魔力を多く持つ浄化師に引き寄せられる性質があるということだ。 浄化師である四人が村へと向かえば、確実にヨハネの使徒、ベリアルを刺激することになる。村に被害を出すわけにはいかない。 「さっさと叩くぞ」 「人使いが荒いわね」 「そのぶん、報酬はいいんだ」 「がんばりどころよ、おじさん」 馬車でのセリフを言い返すエフドにラファエラはわざと軽口をたたく。 「そっちの準備はいいかしら?」 「僕は構いません。リート」 「わたしも……いつでも」 全員で視線をかわして、頷きあう。 四人の考えた作戦は、まずは森のベリアルを狩ってしまい、それに引き寄せられたヨハネの使徒を森の中で迎え撃つというシンプルだが、確実性をとった。 まず四人は準備を整え、森へと入る。 やや複雑で、自然の迷路ともいえる森のなかだが、ベリアルの位置はあらかじめ調査をされ、地図も渡されているので迷うことはない。 ひんやりとした森を進みながらジークリートは木に注意する。 蜘蛛型ならば巣を作っている可能性が高く、それに自分たちが捕えられてしまう恐れもあるので慎重になる。 「リート」 「……なに、フェリックス」 「あれは」 フェリックスの指さす方向を見て、全員が身をかたくする。 木々の間に張り巡らされた白い糸――それも人を捕えるためのような大きな巣。 幸い、巣のなかにいる蜘蛛はまだ四人に気が付いていない様子はない。四人は目配せをし、慎重に距離をとりながら、囲む。 前線を務めるのはエフドとフェリックスだ。互いに武器を持ち、蜘蛛の攻撃に備える。 「私はいつでもいいわよ。礼儀正しいセニョリータ、ぼんやりセニョール! さぁ、パソ・ドブレとしゃれこみましょう!」 ラファエラが告げるのに、ジークリートが深呼吸をしてボウガンを構え、巣の奥に存在する黒い物体へとありったけの魔力をこめ、淡い弾丸を撃つ――エナジーショットは真っすぐにそれを貫く。 それが獰猛な声をあげ、飛び出した。 長く、グロテスクな足の半分は弾丸によって消し飛んでしまっているが、まだ残る半身をひきずり、牙を噛み合わせ威嚇を放つ巨大な蜘蛛は四つの赤い瞳を爛々と輝かせる。。 ずる、ずると失われた箇所は尋常ではない再生力で戻り始めるのに蜘蛛は地面を蹴って飛ぶ。頭上からののしかかるのをフェリックスが魑魅魍魎ノ壁で受け止め、エフドが横から体当たりで弾き飛ばす。 「っ、見つけました! 足ですっ! 右足の二つ目!」 ジークリートが叫ぶ。 「……これで、終わりよ!」 ラファエラの目が蜘蛛の右足に輝く魔方陣を捕え、狩猟弓を引く。 打ち込まれる一撃が魔方陣を叩き壊し、絶叫が轟く。 静寂を破る恐ろしい声に怯えたように鳥が羽ばたき、一気に森のなかが騒がしくなる。 「ヨハネの使徒は」 エフドが、はっと獣のように荒くなる息を整えながら呟く。 休む間もなくジークリートは翼を広げて、木々を抜けて上へと飛ぶと用意してあった双眼鏡で、周囲の確認を行う。 村のある方向へとヨハネの使徒が向かっている様子がないことに、ほっとしたのもつかの間、すぐに視線を巡らせ、はっとした。 視界の果てに土煙をまき散らし、森へと向かってくる――ヨハネの使徒がいた。 (二体……いる) ジークリートはすぐに下へと戻る。 「来ました!」 ジークリートが叫ぶ。 「休む暇はないぞ」 「わかってるわよ!」 エフドの声にラファエラが怒鳴り返し、すぐにボウガンを持ちなおす。 ジークリートが真っすぐに向かうのはフェリックスだ。 「……フェリックス!」 「リート」 フェリックスの手が伸び、ジークリートの片手の拳と合わさる。 「わたしはあなたを守ります!」 「僕は貴方を守ります」 魔力が肉体を満たしていくをジークリートとフェリックスは感じる。 ジークリートは一度地面に着地すると、すぐに低い態勢で駆け出す。 「わたしが……囮になります! ここに居てください!」 ジークリートは木々の間を抜けて、息を切らし、ヨハネの使徒へと向かっていく。 ぎりぎりまで近づいて、自分を囮に出来ればいい。 (ここに、ここに、わたしは……いる。だから……狙うなら、わたし、を狙ってきて……!) 指令を受けたとき、ジークリートは心の底から恐怖していたことがある。 自分たちのせいでベリアルやヨハネの使徒が村を襲ってしまわないか。 ジークリートの瞼の裏に戦火が広がる。赤、朱、紅へ朽ちていく日常、父と母の背中、逃げろ、と言われた。強くないから、弱い自分を家族が逃がそうと必死になってくれた。村の人たちに手をとられてジークリートは逃げることしかできなかった。 人々を守れ、と言い続けた家族とはもう二度と会えなくなった。 はっと気が付いたとき、ジークリートは横へと逸れた。その真横に突き刺さるのは輝く白銀の前足。 ヨハネの使徒二体と向き合い、ジークリートは息を詰めて、周囲を確認しながら後ろへと下がる。 じわじわと追い込むように前にいる一体が動くのにジークリートは背中を向けて再び飛躍する。 わざと枝の伸びた道を突き進む。そのせいでジークリート自身もまた枝などに肌を傷つけることになる。小さな傷が、まるでじりじりと燃える火の粉のように我が身を焼いてもジークリートは止まらない。 肺が酸欠で痛い。 ばき、めき、背後で破壊の音がするがジークリートはひたすらに進む。 「うおおおっ!」 ジークリートが走り抜けると待っていたエフドが前に出る。 エフドが木々に邪魔されてパワーの落ちたヨハネの使徒の進行を防ぐのにフェリックスが小柄さを生かして懐に飛び込み、鎌で前足を叩き切る。 ラファエラの狩猟弓の矢は狙いを外れることなく、コアを破壊する。 吹き飛ばされるようにして腹をむき出しに機能停止するヨハネの使徒にエフドは、ふぅと深く息を吐いて低く構える。 「次が来るぞ!」 ジークリートが出来るだけ進行しづらい場所を選んだおかげで一気に向かってこないので一体、一体、確実に仕留めてしまえば問題はない。 「……待て、別の方向にいってるぞ!」 エフドの焦った声にジークリートはボウガンを下ろして木々をなぎ倒す音を聞きながらそちらへと走り出した。 ジークリートはそのヨハネの使徒がなにを狙っているのかを確認した――数メートル先に森に不似合いな人影が一つ、映る。 「……っ!」 焼け付くような声をあげて、ジークリートは強く蹴って地面すれすれに飛ぶ。 むちゃくちゃにスピードをあげて、葉っぱや小枝に体中を打ち付けるがジークリートは止まらなかった。 「おい!」 エフドが叫ぶのに立ち尽くす人影――少女がようやく気が付いたとばかりに足を止めて、ヨハネの使徒と向き合う。 「させないわよっ! おじさんも仕事してよね!」 咄嗟のことに反応できない少女を守るためラファエラが魔力弾を放ち、ヨハネの使徒の動きが逸れたのにジークリートが少女の横から体当たりする形で乱暴に押し倒す。 フェリックスがシールド・サイズとともに出て、激突する。 強い力にフェリックスが弾き飛ばされるが、その間にエフドが背後からとびかかる。ヨハネの使徒は前足を浮かせ、暴れ馬のように二人を振り払うのにラファエラがハイパースナイプを発動する。それによって針の穴に糸を通すような正確さで魔力を込めた矢を放ち、コアを破壊した。 「おい、無事か!」 「……問題はありません」 フェリックスがゆっくりと起き上がる。 「っ、大丈夫、ですか」 一瞬、気絶していたジークリートはエフドたちの声に目覚めると、自分の下敷きである少女を見た。 ジークリートは息を飲む。 「……っ、痛い……誰よ、あんた……浄化師?」 ジークリートの前にいるのは、今回の指令で告げられた浄化師候補である――リネリだ。 「いた! ……無事?」 「あ……は、はい」 「また、浄化師がいた」 リネリが顔をしかめるのにラファエラもまた険しい顔をした。 「おい、無事か……!」 駆けつけたエフドとフェリックスがジークリートと共にいるリネリを見て目を丸める。 そんな二人にリネリは眉をひそめた。 「ここで、なにをしてるの」 「なにって」 「浄化師としての仕事だ」 ラファエラの言葉をエフドが奪う形で、言い返した。エフドが視線を向けると、ラファエラは小さく肩を竦めて、そっぽ向いた。それが彼女なりの、よろしく、だ。 「……俺たちがここにきた理由は察しているんだろう?」 「そうね。とりあえず、どいてくれる?」 リネリの強い口調にジークリートは慌てて飛びのいて、俯きがちに「ごめんなさい」と謝った。 「できれば、俺たちは、あと一体いると言われているヨハネの使徒を倒したあと君のいる村に行きたいと思っているんだが」 丁重なエフドにリネリはスカートの埃をぱんぱんと手で払うと頭をかいた。 「今から? やめたほうがいいわよ。迷うことになるし、夜の森は危険すぎるわ」 きっぱりとリネリは告げる。 「本当は馬糞でも投げつけて追い返してやろうって決めてたんだけど……助けてくれた人にそんな非道をするほど私は礼儀知らずじゃないわ。ついてきて、案内するわ」 リネリは背を向けて歩きだすのに全員が視線を交わす。 「ちょっと、はやく! 夜になるわよ!」 急かされるのに、エフドは観念して大股で一歩、歩きだした。 「この森、今はベリアルがいてけっこう危ないのよ。それに村の人間で慣れてないと迷うし」 「どうしてそんな危険な森にいたの」 淡々と説明しながら前を歩くリネリにラファエラが尋ねた。 「森にはいれば食べものがあるからよ。知ってるでしょ? うちの村、いま、ヨハネの使徒とベリアルに狙われてるのよ、私のせいでね」 最後のところだけは、少しばかり自嘲気味にリネリは吐き捨てた。 彼女のその言葉と、ここにいたことを考えれば、村でどのような扱いを受けているかは想像できる。 浄化師は、その性質上危険視される。都会ならまだ知識がある者もいるが辺鄙な村であれば災いとして迫害される可能性も高い。 曲がりくねった獣道や木々の枝に注意して進むこと数分後、ぱっと視界が開けた。 茜色に燃える空の果てに小さな村が見えた。 ● 村に行くと、ぴりりっと肌に痛い視線を一行は感じることになった。 自分たちが村へと足を踏み入れたときから緊張と、嫌悪と、恐れの混じった視線があっちこっちから向けられている。 「やぁね」 「よせ」 ラファエラがはっきりと不機嫌な顔をするのにエフドが視線で窘める。 「まぁ、あまりいいものではないが」 戦うすべを持たない人間にとってヨハネの使徒、ベリアルは脅威だ。それを引き寄せる存在は恐ろしいものなのだろう。 自分たちはたまたま、力を持っていた、否、持つチャンスに恵まれたともいえる。 エフドは拳を握りしめる。 それが幸運だったのか、それとも不幸だったのかはあえて、考えてこなかった。 「リネリ! 森に行ったって……ええっと、その人たちは」 「浄化師よ」 慌てて駆け寄ってきた青年はリネリだけを見て声をかけてきたため、四人に気が付くのが一瞬遅れた。 リネリが呆れて答えると青年は驚いたように四人を見つめた。 「浄化師さま! えっと、はじめまして。リネリの家に行くんですか? 一緒に行っても構わない?」 「構わないけど、えっと」 自己紹介もまだの相手にラファエラがやや困惑したように片眉を持ちあげる。 「ヨハンといいます。あ、リネリの幼馴染で」 「恋人よ」 リネリがつっけんどんに言い返す。 ヨハンはきょとんとした顔をして、リネリを見て、四人を見た。ラファエラは呆れた顔で、エフドは少しばかり視線を逸らして、ジークリートは俯いて、フェリックスはじっとヨハンを見つめる。 「恋人なんですか?」 「え、あ、はい!」 フェリックスの問いにヨハンが大きく返事をして、真っ赤になる。 呆れたリネリがヨハンの手を掴んでずんずんと進む。 「尻に敷かれてるな」 「ホントね」 エフドの呟きにラファエラは言い返す。 気の強そうなリネリに手をひかれていくヨハン――その二人を見て、ラファエラは頭を抱えたくなった。 (正直、我の強い16歳の女が言葉で動くのは期待してないわ) だって。 (私もそういう自棄を起こした結果こんな仕事してる訳だし。あの子死んでも意地を通すつもりね) 自分のことを顧みればわかる。ああいうタイプは面倒だ。 人が愚かだと口にしても、それを貫いてしまう強さがある。 (加えて郷土愛、家族愛、彼氏持ちの鉄壁じゃぁね) 教団で資料をもらったとき、難しいと思ったが、いま、はっきりとラファエラは痛感した。 これならベリアルやヨハネの使徒を相手に戦うほうがまだマシだ。 空が紺碧に染められ、一番星が輝き、肌寒さすら感じる時刻となった。 リネリの家は村のはずれにあった。 庭は耕されて野菜や花が風になびき、木造の家のくすんだ窓からはあたたかな光が零れている。 「ただいま、パパ、ママ!」 ドアを乱暴に開けてリネリが叫ぶとばたばたと音をたてて小さな男の子が出てきた。 「ねーちゃん! もう心配したんだぜ! わ、でかい! だれだよ、このひと!」 「叫ばないの! 助けてくれたんだから、失礼でしょ」 幼い弟はエフド達を見て叫ぶのをリネリは、頭をぺしっと叩いて乱暴に窘める。それに奥から年取った夫婦が現れ、目を見開く。 「あらまぁ」 「おや」 リネリの両親は驚いた顔をして出迎えてくれた。 どんな歓迎を受けるのかと四人は思っていたが、いたって普通だった。リネリの母は嬉しそうに四人を招き、テーブルにあたたなかお茶を振る舞ってくれた。 「こんなにお客さんがくることはないから、椅子、椅子!」 「いや、そんなお構いは」 エフドが丁寧に断りをいれようとするが。 「いえ、ぜひぜひ! 浄化師さんたちは、今日泊まる場所はあるんですか?」 「いや、それは」 「どうぞ。うちに泊まってください。雨露しのぐ場所くらいはあります。あ、夕飯はシチューですが、どうですか? お口にあうといいな」 「野菜たっぷりなんですよ」 とリネリの母親が笑って告げる。 「本当に、そんな」 エフドが再度断りをいれようとすると、腕をひっぱられた。先ほど怯えていたリネリの弟が目をきらきらさせてエフドを見ている。 「座ってよ! でっかい! 浄化師ってそういうのなの?」 「あ? いや、ラファエラ……頼む」 思わずエフドが助けを求めるのに、ラファエラは諦めたように肩を竦めた。 「がんばれ。おじさん。それにもう、仕方ないんじゃないの? 泊まる所はないし、野宿なんていやよ」 「あ、あの、けど……本当に、わたし達のことは、気にしないで、ください……」 結局押し切れる形で夕飯をご馳走された。 素朴の木のテーブルに使われる食器も粗末なものだ。振る舞われるシチューも本部で食べる料理に比べれば、たいしたことはない。量も少なめであるが、それでも歓迎されていることはわかった。 「お酒はお好きですか? 確か、ワインが」 「いえ、結構です。食事など、ありがとうございます」 リネリの父親がいそいそとワインをとりにいこうとするのをエフドはやんわりと、けれどはっきりした口調で制した。 静寂。まるで薄く張った氷の上に立ったような、あやうい足元をエフドは感じる。 「大切な、話があります。出来たらリネリさん本人と家族を交えて、話したい……俺が説明する」 「私たちは席を外すわ」 ラファエラがすぐに立ち上がる。 「この人たちに部屋、案内してあげて」 リネリが弟を促すと弟はきょとんとした顔をしたあと、頷いて、おずおずとラファエラに近づいた。 「こっち」 「ありがとう」 ラファエラに続き、フェリックスが立ち上がり、最後に俯くジークリートがあとに続いた。 「今から説明するのは浄化師についてです」 エフドは乾いた唇を嘗めて、ゆっくりと説明をする。 浄化師の待遇、役割と制限について、その上で死後の扱いも含めて、彼の知る限りのすべてを。 家族に会うことはほぼ叶わず、自分の物という物はすべて教団に預けられる、死んだことすら身内は知らずにいることになる。 それをリネリも、家族も、ヨハンも黙って聞いていた。 「浄化師にならない場合は……死ぬだけだ」 その死が――魔力パンクは早ければ一か月、長くても一年以内には訪れる確実な死。 さらに生きている間中、ヨハネの使徒に狙われ、その脅威から周囲にいる人々に迫害されることになる。 「候補者の死体までは回収の義務ではないが……その場合、死後の扱いはその場の者にゆだねられる。あまりいい扱いは受けることはないと聞いている」 教団が常に候補者を見つけられるわけではない。間に合わず死亡していることもあるそうだ。そういう場合、迫害の対象となっていれば、野ざらしにされることも珍しくはないという。 「このままだと、確実にそうなるだろう」 エフドは声のトーンと、言葉に注意をして語りかけるのにリネリが不意に立ち上がる。 黙って立ち上がった彼女はエフドを冷えた夜のような瞳で見つめると、さっさと踵を返した。 「あ、あの、すいません。娘が」 「いや」 エフドは分厚い唇を前歯で軽く噛んで濡らし、首を横に振った。 ● 「ここ、使っていいの?」 ラファエラは聞き返すとリネリの弟はこくこくと頷いた。 案内された部屋はベッドが一つある。 この部屋を提供するため彼らがどれだけ無理をしているかは夕飯のときからわかっていた。 「そう、ありがとう。さてどうする?」 「えっと……」 「ベッドは私たちで使いましょ。男どもはごろ寝でいいわよね?」 ジークリートがどう返事をしようか迷っていると、弟がフェリックスに近づいてきた。 「床で寝るの?」 「はい。問題はありません」 「……じゃあ、納屋から藁とってきてあげる!」 駆け出す弟の背をフェリックスはじっと見つめるのにジークリートは慌てて。 「あの、手伝います。フェリックス」 「はい。リート」 家の横にある納屋のなかは干した稲穂の乾いた匂いが充満していた。 小さな体を最大限に利用して藁を運ぶ少年を真似て、フェリックスが両腕に抱えようとする。それをジークリートも手伝う。 「リート」 「なに」 「いいんですか?」 「……わたしが、言うと……、リネリさんを脅すことになってしまいそうだし……」 「そうですか?」 「……それより、わたしたちが来たせいで……、村が、危なくなるなら……。わたしは……」 「ねぇ」 突然現れたリネリの声にびくりとジークリートは肩を震わせる。 「アンタだけは私から視線を逸らすのね」 「あ、あの……」 「アンタはさ、浄化師になって不幸なの?」 ジークリートは沈黙する。 「まるで自分こそ救われたいって顔をして、どうしてここまできたの?」 「わ、わたしは……人々を守れって」 「それはアンタが決めたの」 「……父、母がそう口にして」 「アンタ自身は?」 矢継ぎ早に問われてジークリートはますます困惑とする。 「人の言葉じゃなくて、アンタはなにかないの」 「わ、わたし、わたしは」 震える視線を向けるとリネリは苦笑いを浮かべる。 「私に何も言いたくないなら、それでいいけど」 「違います」 フェリックスがやんわりと、けれど、しっかりした口調で言い返す。 「リートは、自分が言うと脅しになると」 「フェリックス!」 ジークリートは思わず叫び、リネリを見るとすぐに俯いていた。 「脅しでも、なんでも、私に言いたいことはないの?」 「わ、わたし、は」 「……別に、言いたくないならいいわ。どうせ、指令ってやつ? 私を教団に連れていくといい報酬がもらえるの? それとも、アンタがいう、パパやママの言いつけを守るため?」 ジークリートは口を開けようとして閉ざした。息があがって、せりあがる気持ちが言葉を押しつぶすほどで、苦しくて、つらくて、たまらない。ただそれが言葉にならないもどかしく、狂おしい。 「アンタが自分から何か言わなきゃ、何も言えないわ。傷つけるとか、脅しとか、成功とか、失敗とか、それってアンタが決めることじゃないでしょ。アンタがここにきた理由、私に会いにきた理由を私は知りたい。指令でも、自分のためでも、アンタから聞きたかっただけ。けど、アンタは私の言葉を聞く気なんてはじめからさらさらないのよ。脅すことになるとか決めつけて、勝手に失敗すると判断して……知りもしないで否定しないでちょうだい。私は一応、知る努力ぐらいして判断するわ」 きっぱりとリネリはいい捨て、背を向けた。 その背をジークリートは見つめ、ぎゅっと両手を握りしめて俯いた。 「リート」 「藁を運びましょう」 「はい……。リート、なにか、音がしませんか?」 フェリックスの言葉にジークリートは眉根を寄せて耳を澄ませる。風と、虫の音、それに交じって地上を震わせて何かが迫り来る音。 ジークリートはその音がなんなのか察すると両手の藁を落とし、翼を広げた。 「リート!」 呼ぶ声も聞かずにジークリートは飛行する。 「リートが、向かいました」 家のなかに入ってきたフェリックスの言葉にエフドは椅子から立ち上がり、ちょうど奥の部屋から出てきたラファエラは瞠目すると、すぐに駆け出す。 (わたしのせいで) 村も家族も滅びたのかもしれない。 そんな思いがずっとジークリートの胸にくすぶっていた。 だから守り続けるしかなくて。 スピードを出しすぎていたため、転がるようにジークリートは村の入り口に着地すると顔をあげる。 もうヨハネの使徒は目の前まで迫っている。 無茶をしていることはわかっている。死ぬかもしれない。だったら死んでもいい、死んでも守る。 ジークリートは再び地面を蹴って飛行し、自らを囮にしようとするよりも早く、ヨハネの使徒が体当たりを食らわせ、地面に叩きつけられる。 「っっ!」 地面に転がされ、痛みに叫ぶことも出来ない。涙が滲む世界は暗く、静かで、迫るヨハネの使徒は容赦なく前足を振り下ろそうとする。 目を閉じたとき、ジークリートは失った家族のことを思った。 「うおおおおおお!」 ヨハネの使徒を乱暴に横殴りにしたのはエフドだ。が、ヨハネの使徒が地面を踏みしめ、前足でエフドを振り払った。 乱暴に地面に叩きつけられエフドが小さな悲鳴をあげる。 「ぐっ!」 ヨハネの徒使の前にフェリックスが出て進行を妨害し、さらにラファエラが魔力弾を連続で撃って時間を稼ぐ。 「はやく起きてよっ! おじさん!」 「わかってる! くそ野郎がぁ! どけっ!」 血を吐き捨てエフドが怒声をあげるのにフェリックスが飛びのくとヨハネの使徒が突撃する。 エフドは腹の底から力をこめて――迎エ討チにより、ヨハネの使徒の突撃を受けた瞬時に攻撃を返した。 宙に浮かんだヨハネの使徒のコアを、ラファエラが撃ち抜いた。 「リート!」 いつもよりも焦った声をあげるフェリックスがジークリートを両腕に抱え上げた。 ● 痛みにジークリートが目覚めると、自分の右手を握ってベッドに身を預けるフェリックスに気が付いた。すうすうと寝息をたてているのにジークリートは安堵のため息をつく。 「気が付いた?」 視線を向けると、リネリがいた。 「その子、とってもあなたのことを心配していたわ。……ああ、起きなくていいわ。そのまま聞いて? ……どうしてそこまでアンタは守るの? 死ぬところだったのよ」 「どうしたらいいのか……ずっと、ずっと考えてました」 家族を失ったとき。 アリラは笑いながら自分を抱きしめて、死んでしまったとき。 罪悪感と孤独感がいつもジークリートを追いかける。まるで姑息な狼のように。逃げても、逃げても。 「なにかしたいことはないの?」 ジークリートは首を横に振る。 「好きなものとかは?」 そのどれにもジークリートはうまく答えられない。 「別に生きてることが罪だなんて誰も思ってないわ。所詮自分は自分でしかないのよね」 どこか諦めた口調でリネリは呟く。 所詮、自分は自分でしかない。 ジークリートはジークリート以外の何者にもなれない。 「背負うって決めたなら、とことん背負いなさいよ。苦しいのも、悲しいのも、どうしようもないのもアンタが決めたことじゃない? いやなら捨てればいいのよ。誰も背負ってくれなんて思ってないし、言ってないでしょ」 「……っ」 「アンタは自分の意思で私を迎えにきたんでしょ? 指令ってやつ、受けてきたんでしょ。だったらなおさら、逃げないで。自分で決めたことなら」 優しくネリネが手を重ねてくる。痛いくらいに握りしめられた手をジークリートはただ黙って握り返す。ごめんなさいと謝れば――違う、そんなものじゃない。 言葉が、見つけられなくて、ただ黙っていた。 ● ヨハネの使徒の討伐が終わり、負傷したエフドをラファエラが肩を貸してリネリの家へと向かう間中、突き刺すような視線を感じた。 「魔女狩りみたい」 ぽつりとラファエラが吐き捨てた。 家に戻ると、リネリの両親は少しだけ驚いた顔で出迎え、居間で傷の手当をしてくれた。 「仕方ないって諦めたら、きっとすごく幸せなんだろうな、って」 ぽつりとヨハンが告げる。 リネリの家族は、エフドたちをねぎらうように笑ってミルクを入れる。 「なによ、それ」 ミルクのはいったコップを両手で包んでラファエラが言い返す。 「選ぶというのは強いことです。自分で、どうしてもなりたい理由やそうしなくてはいけない理由があって」 ヨハンの物分かりのいい言葉に苛立ちを、感じないわけではない。けれどここで否定することも、あざけることも、自分たちの言いたいことを口にするのもどれも正しいとは思えなくて、甘いミルクをラファエラは啜る。 「誰も彼もがそんなに強いわけじゃない……そんな者に対して、この世界は生きる場所があまりにも少ないと思いませんか」 ヨハンは少しだけ悲しそうに笑った。 ラファエラが浄化師になる道を選んだように、エフドが浄化師になるしかなかったように。 「お願いです、リネリを連れていってあげてください。……どんな遠くで、もう二度と会えなくても、それでも生きてくれるなら、きっと……それだけで生きていける」 穏やかな声にラファエラは下唇を噛み締めた。 エフドが気遣う視線を向けるのを振り払うようにラファエラは口を開いた。 「私たちを利用するってことね」 「そんなつもりは」 「いいわ」 きっぱりとした口調でラファエラは言い返した。 「その提案にのってあげる。私たちを利用しなさい。セニョーラ」 ● 「もう浄化師になれとは言わないから、代わりに仕事を頼める? 使徒の残骸を一緒に教団まで運んでほしいの。3体分は4人じゃね」 翌朝、食卓を囲むとラファエラがリネリに、努めて明るく告げた。 「だって外は嫌な空気よ。そのうち魔女狩りでも始まりそう。村を出ないにしても、ほとぼり冷ます為に一時的には離れた方がいいんじゃない? 護衛付きのバイト旅行よ」 魅力的な提案にリネリは目を瞬かせる。 「私は」 「行くといいよ、リネリ」 そう告げたのは両親だ。弟は黙って頷いている。 「……ヨハンは」 朝一でやってきて、一緒に食卓を囲むヨハンは笑顔を浮かべる。それにリネリは黙って小さく頷いた。 「行くわ。このままだと危険だし、パパ、ママは」 「リネリだけで行くといいよ」 両親の言葉にリネリは弾かれたように顔をあげる。 「私たちでは足手まといになります。だから荷台はさしあげます。どうか、娘を、安全に、連れていってあげてください」 「パパ、ママ、けどねヨハン」 リネリが問いかける視線を向けると、ヨハンは悲し気にただ頷いただけだ。それにリネリはもう何も言わなかった。 エフドもラファエラも頷いた。 エフドとフェリックスが協力して荷台にヨハネの使徒の残骸をのせ、出発する。 下手に村人を刺激しないためにも、送り出す者は誰もいない。その寂しい門出にラファエラはリネリに凛とした声をかける。 「司令部員が謝礼の支払いついでに勧誘してくるかもだけど、断固気を変えないならノーと言い張りなさい」 「……ええ、そうね。私は……悪いけど、アンタたちを見ても浄化師のなにがいいのか、どうしたいのか結局決断できなかった。ただ、私の我儘を受け止めてくれてありがとう。ラファエラ」 自分の気持ちを決して否定しないで、尊重してくれたラファエラにリネリは心の底からお礼を口にした。 ● ゆるやかな旅路はすぐに終わりを迎える。ようやくついた目的地――浄化師たちにとっては還るべき場所。 教団の門の前でリネリは足を止めると、振り返る。 「リート」 リネリの声にジークリートは顔をあげる。 早く口に告げた言葉のあとリネリは鮮やかに笑った。 「私の村の古い言葉よ。生きている限り、希望はある……失敗しようと、誰かを傷つけようが、守ろうが、アンタは生きてる。死ぬまで生きるしかないの。だから希望を掴みなさい、この言葉しかあげられないけど、どうか、忘れないで」 リネリはそれだけ言うと、どこか晴れやかな笑顔で教団の門をくぐる。 「ハロー、私の運命。私は生きてる限りあんたに抗い続けるわ!」
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[10] ジークリート・ノーリッシュ 2018/10/01-20:13
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[9] エフド・ジャーファル 2018/10/01-20:07
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[8] ジークリート・ノーリッシュ 2018/10/01-19:51
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[7] エフド・ジャーファル 2018/09/30-21:09
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[6] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/30-20:32 | ||
[5] エフド・ジャーファル 2018/09/30-16:38
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[4] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/30-10:26 | ||
[3] エフド・ジャーファル 2018/09/30-01:44 | ||
[2] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/29-22:25
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