~ プロローグ ~ |
焼けるようだった夏が終わり、涼しい秋がやってきた。 |
~ 解説 ~ |
秋の夜長に、おしゃべりをする指令です。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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目的 街部をまわる 眠れない灰が灯に夢の話をする 灰 同胞が魔物に殺される夢を見ます 雪に覆われた故郷 儚い命を繋ぎ止め あの人を抱えて白い死人花のなかをさ迷った 隊長 ごめんなさい 灯 ホロ、この片腕はお前のものだ 灯が左腕を差し出す 腕に葉を絡ませて咲く鮮やかな白のブライダルベールの刺青に灰は驚愕 灰 (微動だにしないが涙を零す 左腕だけでいい 右腕も背も別の奴にやるから) 灯 お前はいい加減に死者と自分のことを許してやれ 灰 許せません。貴方を死なせた自分を、みんなあなたのようにまだ生きてる。常夜の戦場で生きるんです。だって隊長は生き返った 灯 俺もいつかは死ぬんだ 灰 どうして、そんなこと言うんですか 灯 狂わせる俺の今は間違った存在だな |
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アドリブ大歓迎 気の抜けそうな警備ね 場所:時計塔 夜の街を見下ろす 素敵な場所ね 昼に来たら見晴らしいいんだろうな あら、月が綺麗ね そういう意味じゃないわよ いつも通りのやり取りでふと自分達の関係を考える 幼馴染とかパートナーなんだろうけど しっくり来ないのよねぇ あぁうん、共犯者? ラスの言葉を聞いて目をぱちくり あんたそーいうことをストレートに言うの本当に… なんでもない!あんたらしいなって思っただけ! ラスの小言に対してむくれつつ そういえば思い出した 浄化師って剣と鞘なんですって(5話参照 あたしとあんたは剣と斧だろうけどね! ……は?(ラスの言葉を聞いて一瞬無表情に 全く!そこまでダークじゃないわよ!(いつもの調子 |
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時計台 こんな夜中に出かけるなんて、夜更かししたらまた翌朝…!? …すみません。突然抱き寄せて… ドクターが、ここから飛び降りる光景が見えた気がして ……。 今、ふと感じたんです 貴女を拉致した直後も今も、私の気持ちは変わらない 貴女を死なせたくはない、と… この教団に居れば貴女の自由が奪われることも分かっています 勿論私のこの感情がエゴだというのも ただ… 私は貴女と会えて幸せです。だから、貴女が「ここに来て幸せだった」と言えるように、私は貴女を支え続けたい …へ?意中の…? ドクターは何を言ってたんだ…? 別にドクターを口説いていた訳じゃあ… す、好きな人まで心配されて… …お、俺はドクターを意識してないぞ…!?多分!! |
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■警備場所 教団本部近くの街路 ■目的 (共通)互いの存在に慣れる ■会話 喰人「おい、そんなに離れたらツーマンセルにならないだろ 傭兵なら任務はちゃんとしろよ」 祓魔人「…(物陰から窺う」 喰「悪かったよ(苦笑 もう言わないから機嫌直せ」 祓「俺、彼女いるからな(むすっ」 喰「愛する人がいるのは良いことだ しっかり護ってやれよ」 祓「お前に言われなくても」 祓「綺麗な人だって話に聞いたから 可愛い女の子だと思ったのに…(落胆」 喰「浮気せずに済んで良かったな」 祓「まあ、戦闘前提ならバディは男がいいけどな うっかり死なせても大して心が痛まねえし」 喰「概ね同意だ。だが、私は墓に花くらいは手向けるぞ?」 祓「ありがとよ(低い声」 |
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◆シュリ 金木犀の香り…もう、すっかり秋ね 浄化師になってから、半年近く経つのね …ねえ、ロウハ ここから、手分けして回らない? わたしがこっち、ロウハがあっちに行くの 二人で回った方が効率いいでしょ? だって…わたし、一人でも大丈夫だもの ロウハに守ってもらわなくたって… 本当はロウハと一緒にいたい でも、あなたを苦しめたくないから… ◆ロウハ そうだな気付けばすっかり秋だ 空気も冷えて、星も高くなってきた …は?手分け? なんでだ?別にそこまで… そこでなんとなく気付いた お嬢が俺に気を遣ってることに …ああ、わかったよ お嬢も随分自立心が芽生えたみてーだな、頼もしいことだぜ 気をつけて…いや。お嬢なら心配しなくても大丈夫だな |
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眠れなかったので司令部の方に来てみたんですがロメオさんも眠れなかったようで一緒に夜警をすることになりました。 私はたまたま寝付けないだけだったんですが… ロメオさんはもしかして最近あんまり眠れてなかったりするんでしょうか? そういう時はハーブティーとかホットミルクとかおすすめですよ。 …自分で言っといてなんですがロメオさんがホットミルクを飲むところが想像できないですね…ふふ、冗談です。 何か悩みがあるなら伺いますよ…その原因は私でしょうし。 私、占い師ですからね過去は完全に占えませんが今のロメオさんをみて判断するってことはできますから…。 私は嬉しかったんですよロメオさんの「大切」になれたこと。 |
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眠気が全くねぇ うん、まあ、こういう日も悪くないか ルドも付き合ってくれるみたいだし ルドのほうから語られる いつか聞いた、家族と集落を喪う話し …敵討ちとか考えてたのか? いやてっきり考えてるもんだと も…そうか ……しんどかったな もうしんどくないか?いや、そんなことないか ごめん 俺の話?全部話しちまったぜ 隠し事するのは苦手なんだ 生んだ親をみつけようとは思ってない めんどくさいだろ、そーいうの それなら今いる家族を大切にしたいし つーか生きるので忙しいしな! お互い何かの縁でこうなったんだし、よろしくしてやってくれよ ん!握手! へへへ… なんだよ気持ち悪いってうっさいわディスるのやめて ん?お、おう、眠れそう |
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最近は忙しかったからな、やることがないと落ち着かなくてさ。 本部の周りでも歩くか? 歩いている途中、時折ハルが名前を呼んできては答えるのを繰り返す。 それだけなのに、ハルが楽しそうにしてるのを見て嬉しくなる。 心のどこかで不安に思って来たことをハルに聞いてみることにする。 「なあ、俺についてきて後悔はしていないか?」 俺の都合に巻き込んでしまった。 そんな思いが、契約してからずっとどこかで引っかかってた。 でもこんな幸せそうな顔して言われたら、迷いなんてなくなる。 「……馬鹿だな、ハル」 自由になれたはずなのに。 でも、それでも共にあると言ってくれるなら、もっと色んな物を見に行こう。 色んな物をハルに見せてやろう。 |
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~ リザルトノベル ~ |
● 夜警の依頼を受け、『ショーン・ハイド』と『レオノル・ペリエ』は時計台にやってきた。 「今日は気分がいいんだ。夜更かしできそうだ」 先を行くレオノルがくるりと回る。丸くて大きな明るい月が、レオノルの髪を銀糸のようにきらめかせていた。 「空気が澄んでいて気持ちいいだろう?」 「こんな夜中に出かけるなんて、夜更かししたらまた翌朝……っ!?」 数歩後ろを歩んでいたショーンは、苦言をのみこんで駆ける。伸ばした腕がレオノルの体を捕らえた。 「どうしたの、ショーン?」 きょとんとしたレオノルに見上げられ、ショーンはようやく自分の行動と体勢を理解した。視線を逃し、ショーンはそっとレオノルを解放する。 「すみません、突然、抱き寄せて……。ドクターが、ここから飛び降りる光景が、見えた気がして」 「死ぬと思った? ふふふ。そんなわけないじゃないか。本当に死ぬつもりなら、教団に連れてこられた直後にどんな手を使ってでも、死んでたよ」 悪戯っぽく笑ったレオノルの言葉に、嘘はない。 黙したショーンは、やがて硬い表情で口を開いた。 「今、ふと感じたんです。貴女を拉致した直後も、今も、私の気持ちは変わらない。貴方を死なせたくはない」 強い決意と真摯さを双眸に含め、ショーンは思いを告げる。 「この教団にいれば、貴女の自由が奪われることも分かっています。もちろん、私のこの感情がエゴだということも。ただ」 ふっと、ショーンの目元がわずかに和らいだ。 「私は貴女と会えて幸せです。だから貴女が、ここにきて幸せだった、と言えるように、私は貴女を支え続けたい」 静かに話を聞いていたレオノルは、目蓋を上下させて、吹き出した。 「ふふ……っ、ショーンったら、そういうのは意中の淑女に囁く言葉だ」 「……へ? 意中の……?」 きょとんとするショーンに、レオノルはますます笑う。 「ふ、あはは……っ!」 (ドクターはなにを言っているんだ? 意中の女性に囁く……、別に、ドクターを口説いていたわけじゃあ……) ない、はず、だ、と、笑声を上げるレオノルを見つつ、ショーンは考える。 「笑っちゃ失礼だね。でもすごく嬉しいよ。それだけ私を大切にしてくれてるんだもんね」 乱れた呼吸を整えて、レオノルは眩そうに目を細めた。 「うん。そういう風に想ってくれる人がいるだけで、私は幸せだよ?」 「……そうですか」 「ショーンももっと幸せになれるといいね。好きな人ができたら相談するんだよ? ショーンぐらい優しければ、成就するだろうけどね」 「す、好きな人って」 「ほら、巡回に戻ろう!」 ぽんとショーンの背を軽く叩き、レオノルは時計台の出入り口を目指す。 (お、俺はドクターを意識してないぞ、多分……!) 動揺しつつ、ショーンは足どり軽く歩む彼女の背を追いかけた。 ● 真夜中の時計台で、『ラニ・シェルロワ』は目を輝かせる。 「素敵な場所ね」 昼にきたら、きっと見晴らしがいいのだろう。夜の底に沈んだ首都の街並みを、少し残念な思いで見下ろす。 「でも、月が綺麗だから、これはこれでいいかな」 「月が綺麗ですね、ってか? 馬鹿言え、お前のことは大切だけど、そんなじゃない」 「そういう意味じゃないわよ」 茶化すような口振りに、振り返る。『ラス・シェルレイ』が月を一瞥して、のんびりと隣まで歩いてきた。 二人で、秋の夜風に吹かれる。 「なんだよ。変な顔して」 「してないわよ。あたしたちの関係について考えてたの。幼馴染とかパートナーなんだろうけど、しっくりこないのよねぇ」 一般的には、そういった関係性で括られるのだろう。だが、なにか違うのだ。 「共犯者?」 「少し物騒だろ」 首を傾けたラニに、ラスは応じてから逡巡し、 「運命共同体、とか? ……少し言いすぎか」 素早く瞬きしたラニは、肺の中が空になるほど大きなため息を吐き出した。ラスはなにがおかしいのかと、眉根を寄せる。 「少なくともオレはお前のためなら死ねるし、お前が死んだらオレも死ぬ」 「あんた、そーいうことをストレートに言うの、ほんとに……」 「ほんとに?」 「なんでもない! あんたらしいなって思っただけ!」 叫び、がっくりと肩を落としたラニを、ラスは鼻で笑った。 「こうでも言わなきゃお前は突っこむだろ。少しは学習してるみたいだけどな」 突撃しないこと、無謀な特攻はしないこと、周囲を観察すること、仲間と協力しあうこと。 戦場で学ぶことはまだまだ多く、知らなくてはいけないことも星の数ほどある。 「そういえば思い出した」 パートナーの小言にむくれていたラニが、ぱっと表情を明るくした。元気で明るい彼女の顔色は、ころころとよく変わる。 「浄化師って剣と鞘なんですって。あたしとあんたは剣と斧だろうけどね!」 「剣と鞘? あぁ、なるほど。オレたちは剣と斧だな」 剣と鞘は二つでひとつ。互いにぴたりとおさまり調和する存在。どちらが欠けても壊れてしまうもの。 しかし、剣と斧は戦場でぶつかりあい、その末に壊れるものだ。ラスとラニには、後者の方がふさわしい。 「でも……、そうか。お前は諸刃の剣だな」 月を見上げ、その眩いばかりの白さにラスは一度、目を閉じた。 ここ最近、胸に抱いていたもやのような感情が、なんとなく形になる。やがて名前をつける日もやってくるのだろう。 「だからきっと、オレとちが……」 「は?」 「ラニ?」 ほんの一瞬だけラニが表情を失ったのを、ラスは見逃した。ただ、感情を欠落させた小さな声に、違和感を覚えただけだ。 「諸刃の剣って! そこまで危なくないわよ!」 「……あ、あぁ」 いつもの調子でラニは言い、笑う。ラスは曖昧に頷いた。 ● 「月が綺麗だな。でも君の方がもっと綺麗だ」 「気持ち悪いわ! 目ぇ腐ってんのか! とっとと墓場に逝っとけ、この腐乱死体!」 教団近くの街路に悲鳴じみた声が響く。 思いきり距離をとった『レオン・フレイムソード』の過剰な反応に、『アルフレッド・ウォーグレイヴ』は密かに満足感を抱いた。からかい甲斐があって実にいい。 「おい、そんなに離れたらツーマンセルにならないだろ。傭兵なら任務はちゃんとしろよ」 物陰から睨みつけてくる元傭兵、現浄化師のレオンに、アルフレッドは余裕綽々で声をかけた。 お前がああいうこと言ったんだろ、ほんとにこれでやっていけんのか、とレオンは喉の奥でうなる。 「悪かったよ。もう言わないから機嫌直せ」 威嚇してくるレオンにアルフレッドが苦笑する。 それでもレオンは全く警戒心を解いてはいなかったが、不意にその表情が変わった。 「にゃあ」 「猫……!」 天上の月のように白い毛色の猫が、アルフレッドのすぐそばを通過しようとして、気まぐれに立ちどまったのだ。 逡巡したレオンは、じりじりと猫に近づきながら、パートナーに憮然と釘を刺す。 「俺、彼女いるからな」 「愛する人がいるのはいいことだ。しっかり護ってやれよ」 「お前に言われなくても」 ほんの一瞬だけ、レオンの表情が真剣なものになった。アルフレッドは目を細める。 彼はきっと、大切なものを護るためならためらいも恐れもなく、剣をとる。命を散らすことを惜しまない、戦士として振舞うのだ。 「おーよしよし。怖くないぞー」 屈んで猫を招こうとしている姿は、あまりに平和すぎるが。 「人懐こいな。飼い猫か、……っ」 「お前、下手だな」 レオンの腕におさまった白猫を撫でようとしたアルフレッドは、指先を前足で叩かれる。 けらけらとレオンは笑って、猫を落ち着かせた。 「このへんを撫でるんだよ。そっとな」 「……いい毛並みだな」 「飼い猫だろうなぁ。首輪、してるし」 恐々とアルフレッドは小さな生き物を撫でる。レオンは嘆かわしそうに息をついた。 「契約のとき、綺麗な人だって聞いたから、可愛い女の子だと思ったのに」 「浮気せずにすんでよかったな」 現実感を失うほどの美貌を持つ男の返答に、レオンは唇を尖らせた。 「まぁ、戦闘前提ならバディは男がいいけどな。うっかり死なせても大して心が痛まねぇし」 「概ね同感だ」 「お前なら死に直しても、放置できるし」 「私は墓に花くらいは手向けるぞ?」 「ありがとよ」 きらめくような笑みを向けられ、レオンは低い声で礼を言う。発言と表情がわずかも噛みあっていなかった。 ぎりぎりと歯を軋ませる音が聞こえてきそうな顔に、アルフレッドは笑いを堪えきれなくなる。本当に、見ていて飽きないパートナーだ。 どこかの家の白猫が、眠たそうに鳴いた。 ● 眠れない。 ベッドで転々としていた『シャルローザ・マリアージュ』は諦めて、制服に着替えた。 ふらりと司令部を訪れ、瞬く。 「ロメオさん?」 「お嬢ちゃん? どうしたんだ?」 掲示されている指令を眺めていた『ロメオ・オクタード』が目を丸くする。小走りで近づいたシャルローザは、困ったように笑んだ。 「ちょっと寝つけなくて。ロメオさんは?」 「……ああ、俺も似たようなものだ。眠れなくて、うろうろしてた」 「では、うろうろついでに、夜警の依頼でも受けませんか?」 断る理由もなかったので、ロメオは頷く。二人は教団付近の街路を回ることになった。 「ロメオさん、もしかして最近、あまり眠れていないのではないですか?」 しばらく歩いたところで、シャルローザが切り出す。 綺麗な月夜だな、とぼんやり思っていたロメオは、不意の言葉に口を開いて、閉じた。嘘やごまかしは、シャルローザに対しては悪手だ。 「そうだなぁ……」 「眠れないときは、ハーブティやホットミルクがおすすめですよ。効かないこともありますが」 「今夜のお嬢ちゃんみたいにか」 「はい。あと、自分で言っといてなんですが、ロメオさんがホットミルクを飲むところが想像できないですね」 似合わない姿をシャルローザは思い描いて、小さく笑う。 「まぁ、その通りかもしれないが」 「ふふ、冗談ですよ」 肩を揺らしたシャルローザは、穏やかな双眸のままロメオを見た。 「なにか悩みがあるなら伺いますよ。……その原因は、私でしょうし」 足がとまる。ロメオにつられるように、数歩歩いてからシャルローザも立ちどまった。 頭が考えることをやめてくれなくて、寝つけない。ロメオが抱える症状の根本に自分がいることを、彼女はしっかり理解している。 敵わないと、ロメオは体の力を抜いた。 「私、占い師ですからね。過去は完全に占えませんが、今のロメオさんを見て、判断するってことは、できますから」 「まったく、侮れない占い師さんだよ」 「……話して、くれますか?」 月明かりを吸ったアイスブルーの瞳が、緊張でかすかに震える。ロメオはつとめて軽い口調で、話し始めた。 「ニムファの効果で忘れた、大切なものが、お嬢ちゃんだったことに驚いたし、納得もした」 シャルローザは静かに耳を傾ける。 「ずっと教団から隠れてすごしてて……、自分の過去も不安で。そんな日々の中では、大切なものなんて生まれなかったのに」 「ロメオさん……」 「ちょっとお嬢ちゃんと一緒に任務こなしたくらいで、こんなに大切になるなんて、思わなかったんだ」 それだけのことだと、言外に告げる。歩き出したロメオの背に、シャルローザは凛と言い放った。 「私は嬉しかったんですよ。ロメオさんの、大切になれたこと」 強く優しい言葉が、ロメオの胸にそっと触れる。 ● 白くて大きくて、丸い月が空に浮かんでいた。 「金木犀の香り……。もう、すっかり秋ね」 「そうだな。気づけばすっかり秋だ。空気も冷えて、星も高くなってきた」 「浄化師になってから、半年近く経つのね」 「あっという間だったな」 「毎日、忙しいものね」 くすりと『シュリ・スチュアート』は笑う。『ロウハ・カデッサ』も口の端を上げた。 「ねぇ、ロウハ」 今夜の任務は、夜警。どうやら危険はないらしいが、浄化師は二人でひとつの任務を受けることになっている。 それは、互いの目に入る範囲にいなくてはならない、ということではない。 「ここから、手分けして回らない?」 背筋を伸ばして立ちどまったシュリは、その制度に少しだけ感謝する。ありがとう、おかげでこんな提案もできるわ。 「……は? 手分け? なんでだ?」 一拍遅れて、言葉をのみこんだロウハが眉をひそめた。二人の眼前には、二股の分かれ道。 「わたしがこっち、ロウハはあっちに行くの。二人で回った方が、効率いいでしょ?」 「別にそこまで……」 「わたし、ひとりでも大丈夫だもの。ロウハに守ってもらわなくたって……」 そこから先は、続かない。 シュリは表情を見せようとしない。ロウハは疑問を重ねようとして、察した。察したなら、承諾するしかなかった。 「ああ、分かったよ。お嬢もずいぶん、自立心が芽生えたみてーだな。頼もしいことだぜ。気をつけて……、いや。お嬢なら心配しなくても、大丈夫だな」 いつもと変わらない口調で言ったロウハが、ひらりと手を振って歩いて行く。ぎこちなく頷いたシュリは、別の道を選らんだ。 本当は、ロウハと一緒にいたい。 「でも、あなたを苦しめたくないから」 黙々と夜道を歩く。思い出すのは、最近の彼の身に起こった不調の数々。 幻術にかかり、記憶を失い、風邪をひいて。家にいたころよりもずっと、シュリという存在は、彼の負担になっている。 きっとそう。 「寂しいわ、ロウハ」 こうしてただ離れることが、正しいのかも分からない。名前を呼んでも、返事はない。 胸が痛い。寂しい。苦しい。 「ロウハ」 少女は臆病な自分を押し殺して、進む。 「くそ……!」 誰にも聞かれないよう、ロウハは小声で悪態をつく。自分が情けなくて仕方なかった。 「お嬢は俺のために、あえて離れた」 彼女に自立心が芽生えるのは本当に喜ばしいことだ。でも今回は違う。 「今までみたいに、お嬢を護ることは負担でもなんでもねー」 それは当然のことなのだから。 一方で、浄化師としてはそうはいかない。シュリを守るたびに、心のどこかがおかしくなっていく。 「こんなに自分に嫌気がさしたのは、初めてたぜ」 こぶしを握る。爪が手のひらに突き刺さった。 「お嬢」 同じ空の下、道を一本違えただけ。 それだけなのに、こんなにも遠い。 ● 「ルド、夜警行こうぜ」 眠気がこなかった『アシエト・ラヴ』は、司令部の掲示板で発見した夜警の指令に『ルドハイド・ラーマ』を誘う。 断られるかな、と思ったが、意外にもすんなり了承してくれた。彼もまた睡魔がやってこないらしい。 こういう夜も悪くない、と気楽に教団付近の街路を歩いていたアシエトに声がかかる。 「アシエト」 「んー?」 「俺は家族と集落を喪った」 ぴたりとアシエトはとまった。ルドハイドが隣に並ぶ。 それはきっと、ルドハイドが触れてほしくなかった話だ。そして今夜、教えておいた方がいいと思ってくれた、話だった。 「狩りに出て戻った俺を、焼け落ちた集落と、亡くなっている仲間たちが迎えた」 いつか、聞いたことがあった。詮索はするまいと、アシエトは誓っていた。 今、真剣に聞かなくてはならないと、アシエトは返す言葉を選ぶ。 「……敵討ちとか、考えてたのか?」 「敵討ち?」 「いや、てっきり考えてるもんだと」 「もう討った」 「も……、そうか」 「集落の側の大きな都市に、略奪したものを売り払っていたからな。足はすぐついた」 考えて、考えて。でも結局、自分に気の利いた返答など無理なのだと、アシエトは諦める。それに、ルドハイドに格好をつけても鼻で笑われるだけだ。 だから、思ったことを口にする。 「しんどかったな」 「そうだな、つらかった。今も思い出して、うなされる」 「……ごめん」 「なんでお前が謝るんだ」 分からない、とアシエトは首を左右に振る。ただ、申しわけなさが胸に湧き出ていた。 「お前の話は? アシエト」 「全部話しちまったぜ。隠しごとするのは、苦手なんだ」 「そんなことだろうとは思ってたが。生みの親とは会いたくないのか?」 「あんまり。見つけようとは思ってないし。めんどくさいだろ、そーいうの。それなら、今いる家族を大切にしたいし。つーか生きることで忙しいしな!」 (らしい、な) 笑い飛ばすような口調で言ったアシエトに、ルドハイドはそれだけの感想を抱く。本当に、彼らしい。 「まぁ、さ。お互いなにかの縁でこうなったんだし、よろしくしてやってくれよ」 「……なんだ、その手は」 「ん! 握手!」 差し出された手を、ルドハイドは眺める。引っこめるつもりはなさそうなので、仕方なく握った。 「へへへ」 「気持ち悪いな」 「なんだよ気持ち悪いって。うっさいわディスるのやめて」 (そういうところも、らしい) 不満だと喚くアシエトの手を、もういいだろうと離す。 「アシエト、眠れそうか?」 問いに不意を突かれた彼は、きょとんとしてから頷いた。 「ん? お、おう。眠れそう」 「そうか。よかったな」 「ルドふぁ?」 問いながら、アシエトは大きなあくびをこぼす。夜警の時間はまだあるが、途中で寝そうな様子に、ルドハイドは少し呆れた目になった。 ● 夜だというのにすんなり眠れないのは、きっと最近忙しかったからだ。やることがない、という状況が、どうにも落ち着かない。 そういうわけで、『テオドア・バークリー』は同じく起きていた『ハルト・ワーグナー』とともに夜警の依頼を受け、教団本部の周辺を歩いていた。 「テオ君」 「おう」 「テーオ君」 「なんだよ」 弾んだ声に笑いながら、テオドアは振り返る。ハルトが満ち足りたような笑顔を浮かべていて、テオドアまで嬉しくなった。 「なぁ、俺についてきて、後悔はしてないか?」 心のどこかで抱えていた不安が、自然に口から出る。見上げた空では白くて丸い月が輝いていた。テオドアは視線をハルトに戻す。 質問の意図が分からず、ハルトは戸惑っていた。テオドアが不安そうなのは、見れば分かる。 だが、なにをどうすれば、テオドアとともにいることを悔いるという発想に繋がるのだろう。 「……なんで?」 「俺の都合に巻きこんだだろ。だから」 契約したときから、テオドアはずっとそう思っていたのだ。ああ、とハルトは納得する。同時に、そうじゃないよと笑ってしまいそうになる。 「ハル?」 「俺はね、テオ君の傍にいたいだけ」 そっとテオドアの手をとって、出会ったころから変わらない気持ちをハルトは伝えた。 「あの冷たい路地裏で、テオ君に拾われたあの日から、俺はテオ君のもの。この命尽きるまで、テオ君とずっと一緒にいることが、俺の望みだよ」 「……そっか」 幸せそうな顔で言われ、テオドアの肩から力が抜けた。 「そうか」 迷いがテオドアの中からふっと消える。胸が軽くなると、自然と笑顔がこぼれた。 「馬鹿だな、ハル」 自由になれたはずなのだ。ハルトはハルトの道を歩めたはずなのだ。 その未来を惜しげもなく放棄して、ハルトはテオドアが笑ったことが幸せだという風に、とろけるような微笑を見せる。 それがどれほどの幸福か、テオドアは知っていた。ゆえに、ひそかに誓う。 ともにあると言ってくれるのなら、彼ともっといろんなものを見に行くと。いろんなものを見せてやろうと。 「ねぇ、二人きりでさ。もうちょっとだけ、隠れてよ?」 自身の唇に人差し指をあて、ハルトが悪戯っぽい顔になる。夜警といっても、今夜、危険なことが起こる確率は限りなく低いとのことだ。 最近はまじめに仕事をしていたのだから、少しくらい夜更かしして遊んでも、咎められないだろう。 「ああ。もうちょっと、話そう」 「あっちにガゼボがあったよ、テオ君」 ぱっと表情を輝かせたハルトに、テオドアはついていく。秋の夜風が金木犀の香りを運んできた。 「月が綺麗だね、テオ君」 「そうだな」 どうかもう少しだけそこにいてくれと、テオドアは月に祈る。 心地よくて美しい夜を、終わらせてしまうのが惜しかった。 ● 綺麗な月夜だと、『灯・袋野(れっか・ふくろや)』は夜空を見て思った。 眠れない『灰・土方(ホロビ・ヒジカタ)』とともに、教団本部周辺の夜警の任務にあたっている。 「悪ぃ夢でも見たか、ホロ」 一向に口を開く気配がない灰に、灯が静かに声をかけた。視界の端で、びくりと灰の肩が揺れる。 「……みんなが、魔物に殺される、夢を」 夢の中で、灰は故郷にいた。死灰のように雪片が舞い、足元では白い死人花が揺れる。灰はかき集め、縫いあわせた灯の死体を抱えて、そこをさまようのだ。 ごめんなさい。隊長、ごめんなさい。 そう、繰り返しながら。 同胞の死体と死人花が広がる、灰色の冷たい故郷を、歩く。 「ホロ」 「はい」 応えた声は我ながら頼りなくて、灰は奥歯を噛んだ。 するりと灯は左腕の袖を捲る。灰が息をのんだ。 「この片腕は、お前のものだ」 そこに彫られていたのは、皮膚に葉を絡ませて咲く鮮やかに白いブライダルベールだった。二人の故郷では、結婚相手に見あう花の刺青を体の一部に彫り入れる習慣がある。 灯は利き腕に、灰を想って花を刻んだ。 「……っ」 (左腕だけでいい。右腕も背中も、他の奴にやるから) 驚愕のまま、灰は立ち尽くして涙をこぼす。自分には十分すぎるほどの、高潔な証が目の前にあった。 「お前はいい加減に、死者と自分のことを、許してやれ」 「許せません」 柔らかな言葉に、灰は首を振る。 「貴方を一度でも死なせた自分を、許さない。それにみんな、まだ常夜の戦場で生きているんです」 しかし灯は生き返った。 ならば同胞たちも、そうなる。 信じて疑わない灰に、灯は口の端を上げる。 「俺もいつか完全に死ぬんだ」 「どうして、そんなこと言うんですか」 受け入れようとしない灰に、灯は目を伏せた。彼をそんな風にしてしまったのは、自分だ。 「今の俺は、間違った存在だな」 死して、よみがえって、狂わせた。 虚ろに呟く灯の左腕に、灰の指が縋りつく。 「お願いです、お願いですから……、今を否定しないでください」 至宝のような、今を。 「奪うやつは、みんな殺してやる」 「なら俺を殺すか」 灯もまた、灰のために今を否定し奪い壊すことを厭わない。静かな発言に、灰の顔に怒りが満ちた。 「僕が! どんな気持ちで……っ!」 貴方の死体を集めて繋ぎあわせたのか。 言えず、灰は言葉をのんで目をそらす。灯の腕は冷たく、硬く、死そのもののようだった。 「俺がお前を許す。この生を全部使って」 手に入るはずもない月を欲して泣く幼子のような灰を左腕に抱き締めて、灯は誓う。 死者に限りなく近い自分たちに、夜はひどく似合いだと思った。 「だから、生きろ」 切願に灰は答えない。 胸に渦巻く感情は、喜びでも、憎しみでも、愛しさでもない。常夜の戦場に心だけが連れて行かれたのだと、灰は知った。
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*** 活躍者 *** |
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[5] シャルローザ・マリアージュ 2018/09/15-05:23
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[4] ラニ・シェルロワ 2018/09/13-12:22
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[3] 灯・袋野 2018/09/13-08:40
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[2] レオン・フレイムソード 2018/09/13-00:41
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