~ プロローグ ~ |
竜の渓谷とは、ドラゴンたちにとっての楽園だ。 |
~ 解説 ~ |
竜の渓谷にて、知恵熱を出した幼体ドラゴンたちに薬を飲ませる指令です。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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■竜と接触 クッキーを持ち込み、清澄の渓流へ 仔竜を見つけたら名前と浄化師だという事を伝え、意志疎通を試みる 竜が興奮するなら落ち着かせる為、ナツキが咄嗟にカメラを見せ気を引く 落ち着いたら写真を何枚か撮って遊び、写真はいつでも見られるよう管理者に渡す ナツキ:えーっと、ほらこれ!なんだかわかるか?カメラっていうんだぜ! ■薬を飲ませる ルーノがクッキーを取り出し1枚かじってみせる ルーノ:気になるかい?そうだな、薬を飲んでくれたらこれをあげようか ナツキ:見た目はアレな薬だけど苦くないから大丈夫だって! 飲んでくれたらクッキーを食べさせる ルーノ:よしよし、良い子だ ナツキ:こういう物も食うんだな。それ、うまいか? |
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目的 幼体ドラゴンに薬を飲ませる 行動 行き先はニーベルンゲンの平原 黒い子の相手を。 ええと、わたし(ジークリート)は薬を…。 お菓子を作ってその中に混ぜようと思います。あの、混ぜてもお薬、ちゃんと効きますよね…? 作るのは、難しいものはできないので…、クッキーにします…。 材料は、レシピ本で見て準備していきます。…あの、お台所貸してください…。 …もしかして、薬を混ぜると緑色のクッキーになるんでしょうか…? だとしたらプレーン生地とでマーブル模様とか2段にとかでもいいかもしれません。 それから、型で色々な形を抜いてみようかと思います…。 動物とか人とか…? (ウィッシュに続きます) |
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ミーハー根性の灰と孫対応爺 場 平原 魔術真名 指先に触て 灰 遊んでいいんですね?遊びましょう!火を噴くんですよ。飛ぶんですよ! 灯 ミーハーが出てるな(尻尾がみえる 灰はミーハー根性丸出しで遊ぶ やりすぎると躾!(睨み)発動 上下関係が大事 仔竜が殺される!と視線を逸らすまで睨む 避けて頭をぺち 向上した身体能力にて鬼ごっこ ボール投げと遊ぶ 遊び疲れた仔竜に爺が自分のパンに薬仕込んで食べさせる 灯 疲れたろう?爺の膝枕でよけりゃあしてやろう(竜へ 灰 昔を思い出します よくお嬢さんや狼と遊んだ 両親が死んで泣くしか出来ない幼い灰を引き取って育てて戦い生きる方法を教えてくれた灯 妻子は魔物に殺され、守り切れず半死半生の灰を助けたのも灯 |
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平原の花畑にて ヨ (景色に圧倒) ベ 人が踏み込んで来なかった分、こんな景色を見ることが出来るんだな 白い仔竜を見つけ近寄る 軽い羽ばたきのつもりの強風に飛ばされそう ヨ 熱があっても元気そうです…ねっ ベ 違いない ヨ 教団から、あなたとお話しにきました。お、落ち着いて 教団からかごいっぱいの色んな果物を持参 竜とかけてドラゴンフルーツも 竜の渓谷にはない果実は説明を挟み興味を持たせつつ与える 喰人は外の国での話を仕草交え聞かせる(会話術) 喰人の嘘か本当か分からない冒険譚に ヨナも不思議と聞き入る ベ そろそろいいんじゃないか、薬 ヨ あっ、そうでした。苦くないし体が楽になりますよ(あーんと促す 上手に飲めたら鼻先を撫で 褒める |
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~ リザルトノベル ~ |
● 清澄の渓流に赴いた『ルーノ・クロード』と『ナツキ・ヤクト』はどすどすと激しい足音に迎えられた。 「ジョーカシー!」 二人は反射的に後方に飛び退く。突進してきた山吹色の仔竜が急停止。 「ジョーカシ! ジョーカシ、キタ!」 「危ないな!?」 「直撃したらひとたまりもないだろうね」 仔竜は高揚した様子で尻尾を上下に振った。体長五メートルの幼い竜に力いっぱい叩かれた大地は、えぐれる。 「ジョーカシ、アソボ、アソボ」 「近くで見るとやっぱカッコいいな! 俺、竜を見るの、初めてなんだ」 「私も初めてだよ」 ナツキほど堂々と表には出さないが、ルーノも物珍しく思っていた。同時に、侮れないし油断もできないと改めて認識する。 「触ってもいいか?」 「イイヨ!」 伏せた仔竜を、ナツキはおっかなびっくり撫でた。鱗は鎧のように硬く、体は命あるもの特有の温もりを帯びている。 「ルーノ! ルーノも!」 ばたばたと尻尾を振りつつナツキがルーノを呼ぶ。気持ちよさそうに目を細めている仔竜を横目で観察し、ルーノも仔竜に触れた。 「ジョーカシ!」 「うおっ」 「ナツキ!」 急に起き上がった仔竜が尻尾を横に振った。尾の先があたりかけたナツキを、ルーノがぐっと引っ張る。 「アソボ!」 「分かったよ。だからちょっと落ち着いて」 じっとしていられない仔竜は前足で地面を引っ掻いて、催促した。 「えーっと、ほらこれ! なんだか分かるか?」 少し距離をとったナツキが簡易カメラをとり出す。ぴたりと仔竜は動きをとめ、ナツキに顔を近づける。 「ワカンナイ!」 「これな、カメラっていうんだぜ。こうやって撮影すると」 ぱしゃりと一枚。音は決して大きなものではなかったが、仔竜は目を丸くする。 「撮影ができるんだ。あとで写真っていうのが作れるんだぜ」 「スゴイ!」 「よしよし。暴れると撮れないぞー。なにせこのカメラ、あんまり性能よくないからな!」 はっとしたように仔竜が動きをとめる。ナツキがシャッターを切った。 その光景がなんだかおかしくて、ルーノは小さく吹き出す。 「ルーノも撮るか?」 「いや、私はいいよ」 「そうか? なに笑ってるんだ?」 「案外、可愛げがあるなって」 「だよな、仔竜、可愛いよな! カッコよくて可愛い!」 目を輝かせるナツキに、仔竜は首を傾ける。それもカメラに収めた。 「ジョーカシ! カメラ! トル!」 「おう!」 べたりと地に伏せた仔竜を、ナツキが撮影しようとする。仔竜は違うと首を左右に振った。 「ノル!」 「乗るって、君に?」 仔竜は頷く。ルーノはナツキに目を向けた。どうする、危険じゃないか、と眼差しで訴える。 「乗りたい」 ナツキは声に出して応じた。仔竜は翼を動かして急かす。 「……あまり高く飛ばないように。それと、安全を心がけるように」 「ワカッタ!」 分かっていなさそうな返事だったが、歓声を上げたナツキが仔竜の体をよじ登ってしまったのだから仕方ない。 「うおおおっ」 「ナツキ、口を閉じて。舌を噛むよ」 二人を乗せた仔竜は急上昇する。やがてとまり、羽ばたいて高度を維持した。 「ルーノ、すごいぞ!」 「トッテ!」 目を閉じていたルーノはそっと目蓋を開き、瞠目する。 眼下には清澄の渓流が広がっていた。平原や集落も見える。人の姿は豆粒ほどだが、巨体を誇る竜たちの姿は比較的、はっきりと目に映った。 「俺、竜に乗って飛んでる」 「すごいね」 茫然と頷きながら、ナツキが絶景を写し撮る。 どうにか安全に地上に戻り、二人はいよいよお薬の時間にすることにした。 「カメラで撮った写真は、管理者たちに渡しといてやるからな。好きなときに見せてもらうんだぞ」 「ウン!」 「それと、君にお菓子を持ってきたんだ」 「オカシ?」 「クッキーっていうんだよ。甘くておいしいよ」 ぱっと仔竜の顔が輝く。クッキーの袋をとり出したルーノは、それを背中の方に隠した。仔竜が駄々をこねるように尻尾を上下させる。 「気になるかい? そうだな、薬を飲んでくれたら、これをあげようか」 「見た目はアレな薬だけど、苦くないから大丈夫だって!」 濃い緑色のどろりとした液体が入った瓶の栓を、ナツキが抜く。仔竜は薬と二人を見比べて、鋭い牙が並んだ口を大きく開いた。 「おお……!」 「感動していないで。薬、飲ませてあげてね」 「任せろ」 できるだけ口の奥の方に、ナツキは瓶の中身を注ぐ。ナツキが離れてから口を閉じた仔竜は、大きく首を仰け反らせて、ごくりと薬を飲みこんだ。 「ノンダ!」 「よしよし、いい子だ」 再び開かれた仔竜の口に、ルーノがクッキーを投げ入れる。仔竜は喜びを表すように尾を左右に振った。 「こういう物も食うんだな。それ、うまいか?」 「オイシイ!」 「よかった。それ、危ないからやめようね」 おとなしく従った仔竜に、二枚目のご褒美を。 「ナツキ?」 横顔に注がれる視線に気づき、ルーノはパートナーに目を向ける。ナツキは我に返り、首を振った。 「なんでもない」 「そうかい?」 仔竜を褒め、おやつを与えるルーノの表情が、ひどく優しくて。 そんな顔もするのかと驚いていたのだと、ナツキは言えなかった。 「って、あ! クッキー!」 「うん?」 見惚れている間に仔竜はクッキーをすべて食べてしまう。自分もお菓子を食べさせてあげたかったナツキは、がっくりと肩を落とした。 察したルーノが肩をすくめる。 「目的は果たせたんだ、いいじゃないか」 「……まぁ、気に入ってくれたならいいか! うまかったなら、また持ってくるぜ」 「ホント!? ジョーカシ、スキ!」 全身で喜びを表現しようとした仔竜は、ルーノの忠告を思い出し、鼻先を二人に寄せるにとどめた。 ● ニーベルンゲンの平原に赴く前に、『ジークリート・ノーリッシュ』と『フェリックス・ロウ』は集落の家の調理場を借り、クッキーを焼くことにした。 生地に薬を混ぜこみ、二種類のタネを作る。ひとつはマーブル模様、もうひとつはノーマルの生地と薬入りの生地を二層にしたものだ。 少し寝かせて型抜き。ここまではジークリートが手際よく行っていたが、ここからは彼女に求められてフェリックスも手伝った。 人、花、うさぎに猫、犬。 竜の渓谷の外で生きる、様々な動植物の形のクッキーを、こんがり焼いて、目的地へ。 「ジョーカシ!」 ばたばたと突進してきた黒い仔竜を二人とも難なくかわす。夜空を切りとって貼りつけたような鱗で全身を覆った仔竜は、嬉しそうに尻尾を振った。 「ジョーカシ、キタ! イイニオイ!」 「こんにちは、ジークリートと……申します。お菓子を……、焼いてきました……」 「フェリックスです」 「オカシ!」 顔を近づけてくる仔竜にたじろぎながら、ジークリートはまだ温かいクッキーがつまった包みをとり出す。フェリックスは自身の鞄に手を入れた。 お菓子のレシピ本と型抜きを避け、一冊の絵本をとり出す。 「こういうものもあります」 「ナニソレ!」 「絵本、です……」 「エホン! ホアア……!」 目を輝かせる仔竜に、フェリックスは絵本の真ん中あたりを開いて見せる。黒い仔竜が大興奮して声を上げた。 「座ってください……。他にも、いろいろなお話を、しましょう……?」 「シテ!」 どしんと仔竜が地面に尻をつける。振動でよろめいたジークリートを、フェリックスが支えた。 「絵本は……、フェリックスが読んで、くれますから……」 「はい」 「クッキーを食べながら、聞いてくださいね……?」 「ウン!」 小さな三角形を作るような位置どりで、一体と二人は座る。フェリックスが絵本の一ページ目を開いた。ジークリートは、仔竜にクッキーを見せる。 「これは、猫、です……」 「ネコ?」 「にゃあ、と鳴く、とても小さな、生物なんですよ……?」 「ニャア」 無邪気に真似て見せた仔竜の口に、ほんのかすかに笑みながら、ジークリートがクッキーを入れた。 「オイシイ!」 「よかったです……」 目を細めた仔竜に、恐る恐るジークリートは手を伸ばす。白い指先が鱗に触れた。硬いが、温かい。そっと手を動かすと、仔竜は甘えるように顔をすり寄せてきた。 「エホン、ヨンデ、ヨンデ!」 ぼんやりと彼女たちの姿を見ていたフェリックスは、ねだられて瞬く。ジークリートに視線を向けると、はかなげな少女は小さく顎を引いた。 「分かりました」 淡々と、フェリックスは子供向けの物語を読み上げる。ページをめくるたびに、そこの描かれた景色に仔竜が感動した。 ときどきクッキーを口に入れてもらいながら。最初より少し慣れた手つきで撫でてもらいながら。 五メートルという体躯でありながら、まだまだ幼く威厳も感じられない黒の仔竜は、童話の世界にひきこまれる。 「めでたし、めでたし」 「スゴイ、スゴイ!」 最後まで読み終えたフェリックスが絵本を閉じる。仔竜は大はしゃぎだった。 「リート」 あまり近くにいては怪我をするのではないかと案じるフェリックスに、ジークリートは問題ないとわずかに首を左右に振って見せる。 少女が触れると、仔竜はそこにか弱いヒトの子がいることを思い出したように、おとなしくなった。 「いい子なの……」 「そうですね」 紙面を見つつ、彼女たちからも視線を外さなかったはずだが、いつの間にそれほど仔竜を理解し、信頼するようになったのか。 普段は沈みがちなジークリートが、比較的、楽しそうにしていることも含めて、フェリックスは不思議に思う。 「ソトニハ、タクサン、エホン、アル?」 「ええ」 「イキタイ!」 それは、と言いかけてジークリートは目を伏せる。 竜は基本的に、この渓谷から出ることを許されない。彼らの巨躯は人々の営みを壊してしまう。それに、魔法を扱える彼らを狙う者たちは、山のようにいるのだ。 人類と竜。相互の安全のためにも、渓谷にいてもらわなくては困る。 「わたしたちが、持ってくるというのは……、だめですか……?」 「ジョーカシ、マタクル?」 「必ずきます……。ねぇ、フェリックス?」 「はい」 リートが訪れるというなら、と胸の内で足して、フェリックスは頷いた。 「ジャア、マッテル!」 笑った仔竜に安堵して、少しの切なさも覚えながら、ジークリートは薬入りのクッキーを与える。半竜である彼女は、仔竜に親近感を覚えていた。 「コレ、ナニ?」 「これは蒸気機関車といって……、乗ると、遠いところに、早く移動できます……」 ジークリートがつまんでいたクッキーを鼻先で示し、仔竜が問う。少女は答えて、それも仔竜に食べさせてやった。 「外には、他にもいろいろな乗り物や、施設があって……」 「キキタイ!」 「ええと……、じゃあ、アークソサエティの話を……」 ぽつりぽつりとジークリートは仔竜に語り聞かせる。教団のこと、交通手段のこと、街のこと。 仔竜は遠い世界への憧憬を双眸に宿して、クッキーを食べつつそれを聞く。フェリックスも静かにパートナーの声に耳を傾けていた。 「あ……、お薬、全部食べましたね……?」 「オクスリ!?」 そのうちにクッキーがなくなる。驚いた仔竜は、ついで不安そうな顔になった。 「ジョーカシ、カエル?」 「……もう少し、います、か?」 いてもいい? うかがう視線に、フェリックスは頷く。 「夕暮れには帰ります」 喜ぶ仔竜を、ジークリートが柔らかな眼差しで見つめる。仔竜はフェリックスにも顔を寄せた。 ● 転移方舟がある集落から、竜たちが憩うニーベルンゲンの平原に足を踏み入れた直後、『灯・袋野(れっか・ふくろや)』と『灰・土方(ホロビ・ヒジカタ)』は指先を触れあわせた。 「徒花、咲き乱れ」 異口同音に唱えるのは魔術真名。体内をめぐる魔力の量が増幅するのを感じる、と同時に二人は左右に分かれて跳んだ。 「ジョーカシ!」 上空から急降下してきた赤い仔竜がどしんと激しい音を立てて着地。地表を覆うように咲いていた花が花弁を舞わせた。 「仔竜!」 ぱぁっと灰の表情が輝く。高等生物である竜の仔は相手の顔色から的確に好意を読みとったらしく、嬉しそうに尾を振った。 「本物の竜ですよ、すごい……、かっこいい……!」 「でけぇな」 「はい。五メートルほどあるそうです。火を吹くんですよ、空を飛ぶんですよ!」 「火ぃ吹かれたら、さすがにひとたまりもねぇだろうなぁ」 加えて、空を飛んでいた仔竜にもう少しで踏みつぶされるところだったのだが、灰はそんなこと忘れたといわんばかりの喜びようだった。ミーハーなのだ。 尻尾見えそうだな、と灯は灰に目をやる。彼がもしライカンスロープだったなら、今ごろ千切れんばかりにふさふさの尾を振っていることだろう。 「遊んでいいんですよね? 遊びましょう!」 「アソブー!」 きゃっきゃと仔竜は喜んで、灰はいそいそボールをとり出した。灯は少し離れた位置で腰を下ろす。 「じゃ、俺ぁここで見てるから。怪我ぁすんなよ」 「はい」 「ハーイ!」 人懐こい仔竜は構ってもらえるならなんでもいいらしく、自己紹介すら求めてこない。竜にそんな習慣はないのだろうなと、灯は目を細めた。 「じゃあまず、ボール遊びをしようか」 「ボール」 「僕が投げるから、鼻先で返すんだよ。噛むと割れるからね」 「ワレルノ、ダメ?」 「だめ」 深く灰が頷く。仔竜は分かったような分かっていないような顔で、首を上下に振った。 「はい」 ぽん、とボールを放る。仔竜は上手に鼻先でつついて返してきた。 「ジョーカシ?」 「ホロ、落ち着け」 「落ち着いています……」 仔竜とボール遊びをしているという感動と興奮に包まれ、ボールを抱きしめてうずくまっていた灰がどうにか立ち上がる。後ろで灯が小さく笑っていた。 「今度は少し難しいよ」 前回と同じ軌道を描かせる、と思わせて右にずらす。仔竜はしっかりとボールの動きを観察して、ついてくる。次は左に。球はぽんぽんとひとりと一体の間を行き来する。 「ア」 何度かそうしているうちに、仔竜が投げ返した球が灰の頭上を越えてしまった。灯が手を伸ばして受けとめる。 「そのまま持っていてください。仔竜、今度は追いかけっこをしようか」 「スル!」 魔力の生産量を解放することで、身体能力も飛躍的に向上している灰が逃げ、仔竜が追い駆けた。 「元気だな」 微笑ましい光景だ。ときどき仔竜が加減を忘れてうっかり致命的な攻撃をしそうになるが、灰はうまくかわしたり、鋭い目で睨んだりしてそれを制している。 「犬と飼い主か」 素直な仔竜は灰に注意を受けるたび、ふんふんと真剣に耳を傾けていた。次の瞬間には忘れかけて、また灰にたしなめられる。 「おーい。そろそろ休まねぇか。仔竜、お前さんにはおやつも用意してあるぞ」 「はい」 「オヤツ!」 離れていた仔竜と灰が戻ってくる。灯は薬を仕込んだパンをとり出して、隣に座った仔竜の口に投げ入れた。 「うめぇか?」 「オイシイ!」 「そうかい。疲れたろう? 爺の膝枕でよけりゃあ、してやろう」 「ヤッター!」 「仔竜」 一抱え以上もある頭を勢いよく灯の足に落とそうとした仔竜を、灰が低い声で呼んだ。 すっかり躾けられている仔竜は、ぴたりととまってから平原に寝そべる。灯がそっと撫でると、満足そうに目を閉じ、尾を振った。 「ホロも疲れたか?」 「いいえ」 満足げに灰も仔竜に手を伸ばす。仔竜は眠いらしく、あくびをした。 「昔を思い出します。よく、お嬢さんや狼と遊んだ」 両親を亡くし、ただ泣くことしかできなかった幼い灰を引きとり、育ててくれたのは灯だった。温かな愛情も、生きるすべも、戦い方も、灰は彼から教わったのだ。 村が魔物に襲われ、人々が次々と殺されていく中、半死半生になっていた灰を助けてくれたのも灯だった。灯の妻子は、その凄惨な戦いの中で命を落としている。 「結婚して子を作るのが、村では一人前の男だったな」 同性で愛しあうなどもってのほか。子もできない不毛な関係。 まして自分たちは愛ではなく目的から始まったのだ。結んだ縁は常に真偽を問いかける。想いの是非を、問うてくる。 「お前はしっかりと、愛情を与えて育てたつもりだ。至極あたり前の人生を歩んでほしい」 都会では普通であったとしても、彼らの故郷では異端だった愛。 では普通とはなんだろうと、灰は考える。 (この気持ちは) 気がつけば灯を視線で追っていて。名前を呼ぶのも息苦しくて。 あの日、消えゆく命を拾われた。死にかけて救われた。今も浄化師として生かされている。自分の身を惜しげもなく差し出して、灯は灰の道を照らす。 (たとえ間違いでも、構わない) どうして、そんな人を好きにならずにいられるのだろうか。 「あなたが好きです」 胸の深いところまで届けと、願って灰は言う。 「心から、愛しています」 異端でも不毛でも子をなせなくてもいい。ただずっと側にいたいだけ。縁は真で想いは是だ。嘘も偽りもない。自分はこの人を愛し、この人のために生き、死ぬと決めている。 「……寝ちまったな、仔竜」 「そうですね」 「もう少し、ゆっくりして行くか」 「はい」 平原を秋風が走る。 ● 竜の渓谷、ニーベルンゲンの平原。 咲き乱れる花々、くつろぐ大小さまざまな竜。秋風が花弁を舞い上げ、ときおり竜たちの話し声がかすかに聞こえる。空は夏に比べいくらか色を薄めた青。 幻想的な風景に、『ヨナ・ミューエ』はただただ、圧倒された。 「人が踏みこんでこなかった分、こんな景色を見ることができるんだな」 傍らに立つ『ベルトルド・レーヴェ』の声にも感嘆の色がうかがえる。ヨナは茫然としたまま、浅く顎を引いて同意を示した。 「ジョーカシ!」 嬉しそうな声でヨナは我に返る。見回すまでもなかった。純白の仔竜がどたどたと走ってくる。減速、二人の前で停止。 「ジョーカシ、キタ!」 「く……っ」 「風が……!」 喜びを全身で表すように、仔竜はばさばさと翼を動かす。 幼体といっても相手は五メートルもあるのだ。仔竜からすれば軽い羽ばたきのつもりなのだろうが、ヨナやベルトルドは気を抜けば吹き飛びそうになる。 「熱があっても元気そうです、ね……っ!」 「違いない」 必死に踏ん張るヨナに、苦笑しながらベルトルドは返した。 「教団から、あなたとお話をしにきました! お、落ち着いて!」 「ヤッター!」 ひときわ強く仔竜の翼が平原の空気を叩いた。今度こそ耐えきれず、二人は転がる。 「ジョーカシ、ダイジョウブ?」 「なんとか……」 「仔竜よ、次からは加減してくれ」 起き上がったヨナははっとして、荷物を確認した。籠いっぱいに様々な果物が入っている。仔竜を驚かせようと思って布をかけていたことが幸いし、中身は散らばっていなかった。 頭を振りつつ、ベルトルドも上体を起こす。仔竜はここで構ってもらうと決めたようで、翼を畳んで尻を下ろした。 ヨナは籠を脇に置き、その爬虫類に似た顔を見上げてみる。 にぱ、と仔竜が笑う。 「……こほん」 あくまで今は任務中であり、高い知性を有した幻想の象徴のような生命体に浮かれている場合ではない、と自制した。 「改めまして、私はヨナ・ミューエ。こちらはベルトルドさん」 「ベルトルド・レーヴェだ」 「ウンウン」 (名前は憶えてくれそうにありませんね) でも顔くらいは記憶して、また会ったときに満面の笑みを浮かべながら近づいてくれたら、という願望を振り払い、ヨナは果物を隠していた布をとり払う。 「ナニソレ!」 「果物です。これはぶどう。こちらは梨。柿に林檎、キウイとドラゴンフルーツ」 入手に苦労したのはドラゴンフルーツだ。他の果物はちょうど今や、これからが旬になるため、市場に行けば容易に発見できた。 ただ、ドラゴンフルーツはそもそも希少であり、挙句に夏を食べごろとするため、なかなか見つからなかったのだ。最終的に教団寮の料理人たちを頼り、手に入れてもらった。 「ボク?」 「諸説ありますが、この棘の部分が竜のうろこに見えるからそう名づけられたともいわれています」 サバイバルナイフで切り分けようとしたヨナは、仔竜が口を開いていることに気づく。 「入れろ、ということだろう」 「そうでしょうが」 皮をむいて食べる果物と、鋭い牙が並ぶ歯を見比べ、決めた。 指先ごと食べられてしまわないよう気をつけて、突起がついた赤い果物を仔竜の口にぽんと投げる。閉口、咀嚼、上を向いて嚥下。 一連の動作の後、仔竜は尻尾を振った。 「ヨクワカンナイ!」 「そうですか」 味は薄いかも、と料理人に言われていたので、想定内だ。試しにぶどうをひと房投げこむと、こちらは甘くておいしいとのことだった。仔竜に味覚がないわけではないらしい。 「仔竜よ、外の世界の話は聞きたいか?」 「キキタイ!」 「では食べながら聞くといい」 林檎を飲みこんだ仔竜は頷く。ヨナは仔竜の口に二房目のぶどうを入れた。 「もうどれほど前のことか。枯葉が敷きつめられたある森に行ったとき……」 穏やかな声でベルトルドが語るのは、嘘か本当かヨナでも区別できない冒険譚だ。 過剰に感情がこめられているわけでも、大げさな身振り手振りがあるわけでもないというのに、彼の話には不思議な魅力があって、引きこまれてしまう。 難局を何度も迎え、悪を倒し、人を助け、あるいは助けられ。旅路を往くベルトルドの隣に立つのは、ヨナではない。 彼の前のパートナー。その人物について語るとき、ベルトルドの表情には懐古がにじみ、声にはひときわ楽しさが宿った。 「そろそろいいんじゃないか、薬」 「あっ、そうでした。苦くないし、体が楽になりますよ」 あーん、とヨナも口を開いて見せる。仔竜はおとなしく薬を飲んだ。 「上手に飲めましたね」 「エヘヘ。アノネ、ジョウカシ。ボク、オレイスル」 仔竜の鼻先を撫でていたヨナは首を傾ける。ベルトルドも瞬いた。 「ソラニイコウ!」 ばさりと純白の翼を広げ、仔竜は笑う。 まだ、指先に鱗の感触や仔竜の体温が残っている。上空から見た渓谷の風景も、目に焼きついていた。 「ベルトルドさん、あの」 教団とこの地を繋ぐ転移方舟に向かう最中、ヨナは意を決してパートナーを呼ぶ。半歩先を歩くベルトルドが、肩越しに振り返った。 「前のパートナーさんの話、また聞いてもいいですか?」 彼にとって、どのような人物だったのか。もっと知りたいと、思ったのだ。 少しの驚きをベルトルドは隠す。彼女が諸国漫遊の話を真剣に聞いていることには気づいていた。爺さんのことが気になるなら素直に聞けばいいのに、と内心で苦笑してはいたが。 「ああ。興味があるなら、時間のあるとき、いくらでも話そう」 「ありがとうございます」 上機嫌にベルトルドの尾が揺れる。からの籠を持つヨナは、少し歩を速めて、彼の隣に並んだ。
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*** 活躍者 *** |
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[6] ルーノ・クロード 2018/09/25-21:34
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[5] ベルトルド・レーヴェ 2018/09/25-00:32
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[4] ナツキ・ヤクト 2018/09/24-22:22
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[3] ジークリート・ノーリッシュ 2018/09/24-20:09 | ||
[2] 灰・土方 2018/09/24-08:24 |