タランテラの舞踏祭
簡単 | すべて
8/8名
タランテラの舞踏祭 情報
担当 柚烏 GM
タイプ ショート
ジャンル ロマンス
条件 すべて
難易度 簡単
報酬 少し
相談期間 4 日
公開日 2018-09-21 00:00:00
出発日 2018-09-28 00:00:00
帰還日 2018-10-04



~ プロローグ ~

 ――そこかしこで焚かれた篝火が、天を焦がすようにあかあかと燃えている。
 頭上に重くのしかかる暗夜を祓う為に。或いは闇に乗じて忍び寄る、冷たい死の腕を振り払う為に。
(ああ、どうかこれ以上、大切なひとを連れていかないで)
 毒蜘蛛にも例えられた疫病を、ひとびとは踊ることで鎮めようとした。踊って踊って踊り狂って、毒にその身が侵されてもなお、苦しみながら踊り続けた。
(……運命に逆らえぬのなら、せめて最期まで共にいさせて)
 切ないまでの激情を抱いて、踊り続けた恋人たち――そんな彼らの想いが奇跡を生んで、病は街から姿を消したと言われている。
 タランテラの舞踏と語り継がれるそれは、今は賑やかな舞踏祭となって、ひとびとに希望を与えているのだ。

「場所はルネサンス南部、農業が盛んな街になりますね」
 教皇国家アークソサエティにある、薔薇十字教団本部に持ち込まれた依頼のひとつを、ゆっくりと教団員が読み上げる。
 ――タランテラの舞踏祭。そう呼ばれる祭りが近々開催されるので、是非エクソシスト達の力を借りたいと言うのが依頼の内容だった。
「篝火を焚き、夜を徹して祭りが行われて。街は音楽に包まれ、ひとびとは踊り、歌い、隣人と語り合う……とても賑やかな雰囲気のようですね」
 とは言え、祭りの発祥は哀しいものだ。嘗て流行り病が街を襲い、次々にひとびとが命を落としていった。蜘蛛の毒に例えられたその疫病を鎮める為に、皆で踊り続けたのがそもそもの始まりだと言う。
 ――しかし、病の勢いは止まらなかった。そうして病魔に蝕まれた恋人たちが、最期まで共に居たいと夜を徹して踊り続けた。
「その互いを想う気持ちが、奇跡を生んだと言われています。夜が明けた時、ふたりの身体からは病魔が去り、以降『蜘蛛の毒』で倒れる者は出なかった、と」
 あくまで伝承に過ぎないが、この逸話を元にして、疫病を鎮める為に祭りが行われるようになり――そして今は、恋人たちの絆を深める意味も込められるようになったのだとか。
「大切なひとと一晩中踊り続ければ、ふたりの絆は確かなものになるとかで。この祭りで意中の相手に告白したりする方も、居るようですね」
 ヨハネの使徒にベリアルと、ひとびとを襲う脅威も大きい昨今――世界の救済を遂行する浄化師の皆に、是非とも祭りに参加して希望をもたらして欲しい。要約すると依頼は、そんな感じのもののようだった。
「契約によって結ばれた、喰人と祓魔人……。そこに、運命的なものを感じずにはいられないでしょうし、ね」
 舞踏祭に参加するにあたっては、蜘蛛の意匠があしらわれた装束を纏って踊ること。そして、ふたりの絆を現わすような演出を加えて欲しい、とのことだ。
「例えば、ヴァンピールの方でしたら、毒を吸い出すような口づけを。デモンの方なら身体能力を活かして、パートナーを抱えて華麗に跳躍してみたりだとか。色々工夫してみるのも良いと思います」
 ――何より一番大切なのは、心から祭りを楽しむこと。最後にそう言って、教団員は依頼の説明を終えたのだった。

(踊る、踊る)
 ああ、死がふたりを分かつまで。どうかあなたは、この手を離さないでいて――。


~ 解説 ~

●依頼の内容
ルネサンス南部で行われる『タランテラの舞踏祭』にエクソシストとして参加、パートナーさんと舞踏を披露してひとびとに希望を与える。
より素敵に、ドラマティックに舞踏を披露できれば大成功です。

●タランテラの舞踏祭
祭りの舞台である街をかつて襲った流行り病、それを鎮める為に踊ったのが発祥のお祭りです。伝承では病に侵された恋人たちが、互いを想い踊り続けた結果、流行り病が収まったと言われています。その為現在では、健康祈願の他、大切な人との絆を深める意味合いも濃くなっています。

●舞踏について
お祭りの民族衣装は街の方で貸してくれます。蜘蛛の意匠があしらわれた喪服っぽい黒衣が基本ですが、細部をアレンジしても大丈夫です。
そして『自分たちならでは』の演出をアピールして貰えれば高評価に繋がります。プロローグ文でもあるように種族の特性を活かした演出や、『姫君と騎士』みたいな役割を演じ、お芝居風にアレンジしても素敵ですね。
「恋人を想う余りに死にきれなかったアンデッド」なんていうのも大好物、いやロマンチックです。

●補足
祭りは一晩中行われますが、ずっと踊り続けていなくても大丈夫です。屋台で一息吐いたり、音楽を聞きながらのんびり休憩しても良しです。

●お願いごと
今回のエピソードとは関係ない、違うエピソードで起こった出来事を前提としたプランは、採用出来ない恐れがあります(軽く触れる程度であれば大丈夫です)。今回のお話ならではの行動や関わりを、築いていってください。


~ ゲームマスターより ~

 柚烏と申します。この度『煉界のディスメソロジア』にてGMとして参加させて頂くことになりました。ダークファンタジーの世界観を活かせるようなエピソードを、これから出せていけたらと思います。
 そんな訳でちょっぴりダークな味付けがあるかもしれない、舞踏祭へのお誘いとなります。逃れられない死を前に、互いを想って舞い続けるタランテラ。心情描写に重点を置いた切ない感じになりそうですが、逆に開き直ってからっと明るく振る舞うのもありだと思います。
 エクソシストさん達が、どんな風に過ごされるのか楽しみにしつつ。それではよろしくお願いします。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

シャルル・アンデルセン ノグリエ・オルト
女性 / 人間 / 魔性憑き 男性 / ヴァンピール / 人形遣い
蜘蛛モチーフのゴスロリドレス

踊り明かして蜘蛛の毒ともいわれた病気を追い払う…素敵ですが。
そこにはきっと凄絶な覚悟があった。そんな気がします。
今は健康祈願と大切な人との絆を強くするためのお祭りです。
精一杯楽しませていただきますね♪

歌うのは好きなのですがダンスはまだまだなのですが…ノグリエさんお相手よろしくお願いしますね。
ノグリエさんの考えてくださった設定とても素敵ですからきっと素敵なダンスになりますよ。

歌う、踊る。
蜘蛛の毒よ消えろ。愛する人の身から去って。
蜘蛛の毒よ消えろ。この身の毒よ消え去って。
再び愛を交わすために最後の愛を交わすように踊る。踊る。

死が二人を別つまで…いいえ…死が二人を別つとも
フェイ・ロイ キサ・ロイ
男性 / アンデッド / 魔性憑き 女性 / 人間 / 断罪者
目的
頑張って踊る

衣装
アレンジなし

二人らしい工夫なんてないから頑張って踊ろう

激しい曲にどきどきする
足を踏まれた
今度は押され
次は叩かれた
だんだん激しくなる曲に 迫ってくる
息が乱れる
苦しい、めまいがする
足を絡まれる
後ろにこけてしまう時に背中を抱かれた
絡みつく足に、思い切って足を絡め返す
手を伸ばして仮面をはぎとる
射抜くほどの瞳で見つめられてる
孔の開いている目の、こめかみに触れる
仮面をもらう 
今度は私が死者


ああ
もう他のことはどうでもいい
記憶がない
浄化師のことも
息があがる
めまいがする
肺に呼吸が入らない
スカートが邪魔
手が邪魔
皮膚が邪魔
もっともっと触れていたい
自然と笑える

ほら世界は素敵なものに溢れてるよ、フェイ
杜郷・唯月 泉世・瞬
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / アンデッド / 狂信者
◆衣装の形状
・唯月はワンピース風、瞬は黒いスーツ
唯「喪服のような衣装に蜘蛛の意匠が施されているなんて…
新鮮で…素敵な民族衣装です…!」
瞬「喪服のようなものでもなんだか引き締まった気持ちになるね〜」

◆オリジナルの表現
・演劇『ロメオとギュレッタ』をテーマに
唯月は絵描きのイメージで『描く』動作を
瞬はその演技力を生かした動作で舞い踊る
瞬「いづ、ダンスは…その、スランプ気味だから演劇風でもいーい?」
唯「え?あ、そうだったんですか?!」
瞬「そんなに焦らないで!俺も参加してみたかったから〜」
唯「瞬さん…」
瞬「さぁ、皆の為に演じよー!
演目テーマは…そうだなぁ…あ!あのロメギュレにしよ〜!」
唯「っ!…はいっ!」
リュシアン・アベール リュネット・アベール
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / 人間 / 狂信者
そう気負わずに、今日はお祭りを楽しもう?
大丈夫、僕がリードするからさ
傅いて手の甲に口付けて

緩やかに踊りながら話す
凄惨な病の伝承だけど、賑やかなお祭りになったんだね
僕達も…一緒にいられる事が奇跡だから
このお祭りに、願いたいな

…無邪気な姉さん
一緒に生きるか、二人で死ぬか
その言葉の意味を解っているんだろうか

リュネ、と久々に名前を呼ぶ
君は…共に死ぬまで、僕と一緒にいてくれる?

答えに微笑む
不意に彼女を抱き上げその場で回ってみせて
とは言っても勢いに負けてそのまま転んでしまったけど…
わぁぁ!?ごめん姉さん…!
いずれ軽々とできる位の力は付くよ、僕だって成長期だし

指を絡めて額を合わせる
誓うよ、姉さん
ずっと一緒だ
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
「最期の時まで一緒に」なんて 物語の一場面のよう
…すてきね

シリウスの呟きの中 ほんの僅か困った響きに笑顔
お祭のダンスでしょう?そんなに難しくないと思うの
折角だしやってみたいな
窺うように見上げ 返答にぱっと笑顔
ありがとう
演出?ふふ、うん
頑張って考えてみる

アシッドレインを浴び倒れた恋人を 彼が抱きしめる
強く抱きしめた後 彼女の首筋に唇を
目を開く彼女が微笑んで ありがとうと

傍らのシリウスをちらりと見る
浄化師としての自分の半身
恋人、ではない
どちらかというと 家族のような存在だと思っている
…思っているのに

ぴんと伸びた背筋と 綺麗な翡翠の双眸に頬が赤く
無自覚な想いを抱えたまま 怪訝そうな彼に何でもないと首を振る
アリシア・ムーンライト クリストフ・フォンシラー
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / アンデッド / 断罪者
恋人達のダンスが起源と聞いたので、少し緊張、します
私達は、恋人な訳じゃ、ないですし…

クリスの顔を見上げて目が合い思わず顔を伏せる
私今、ドキッとしました…これって…

あ、はい?
お芝居、ですか?分かりました

頷いた物のダンスの途中で倒れたクリスを見て気が動転
お芝居のことはすっかりどこかへ

クリスっ!しっかりして下さいっ!

縋って泣き出し、頭を撫でられきょとん

そ、そうでした…私…クリスがほんとに倒れたのかと…
ごめんなさい…

抱き締められ安堵の涙

私…こんなに安心してる…この人の腕の中は、心地いいです…

飲み物を口にし落ち着いたら恥ずかしくて

私、こんなに泣いたの初めてかもしれません
絶対に置いて逝かないで下さいね…?
シュリ・スチュアート ロウハ・カデッサ
女性 / マドールチェ / 占星術師 男性 / 生成 / 断罪者
◆シュリ
二人の絆が奇跡を生むって、素敵な伝承ね
わたしとロウハで、そういう雰囲気作れるかしら…

…そうね
わたしたち、今までもいろんなこと乗り越えてきたものね
うん、きっとなんとかなるわ

ロウハと踊りながら改めて思う
…やっぱり、ロウハのそばにいると落ち着く
わたし、ロウハがいないと駄目だわ

◆ロウハ
俺たちらしい踊りかー
多少は物語性を持たせるとするなら…箱入りのお嬢様と、それを攫いに来た賊みてーな感じか?
…あくまで脚色だからな!

あまり気負うことはねーよ、あとはやってみればなんとかなるさ
今までだってそうしてきただろ?

踊りながら、本当にこのまま攫ってしまおうか…なんて一瞬思っちまった
…祭りの雰囲気のせいだ、きっと
空詩・雲羽 ライラ・フレイア
男性 / エレメンツ / 占星術師 女性 / マドールチェ / 魔性憑き
雲羽

使用
楽器


白い蜘蛛の意匠
腰に白布を巻き付け

へ―こういう喪服も何だか新鮮だしとてもいいものさ♪
着た衣装を眺めて一回転

…ふふ、僕の可愛いお人形さん♪起源はどうあれ、今は踊る者見た者皆幸せになれる祭典♪
僕らは只いつものように踊ればいいのさ♪

君がリードしてくれるから大丈夫さ♪


踊り
さあさあ皆々様これより見せるは笑顔の踊り
笑顔が病魔を遠ざける一番のお薬なのさ♪

演奏しながら見様見真似でステップ踏んだり回転したり
歌い踊りながら別の楽器に持ち替えて演奏再開
途中コメディチックにゴリラっぽい動きを取り入れてみたり?


ああやっぱり音楽は楽しい!


いいや?寧ろ楽しすぎて踊り足りない位さ
さあ、このまま朝まで踊り明かそう♪


~ リザルトノベル ~

●舞踏祭の幕開け
 その日、街のそこかしこで篝火が焚かれ、ひとびとは夜の闇を祓おうと歌い、騒ぎ――そして踊る。喧騒と喝采は途切れること無く、様々な旋律が広場を震わせる中、色とりどりの花弁が雨のように降り注いでいた。
「わぁ、素敵だね……! 花弁が灯りに照らされて、うっすらと輝いているよ」
 さあ、とパートナーに手を差し伸べるのは、喰人である泉世・瞬。そのふんわりとした彼の笑顔に誘われるように、杜郷・唯月はおずおずと――けれど確りと、瞬の手を握りしめる。
「ぁ、……ぇと、瞬さん、待って……!」
 器用に人混みを掻き分け、祭りの舞台へと上がっていく瞬とは反対に、唯月は未だ恥ずかしさが抜けきっていない様子。けれどもこの祭りへの参加は、れっきとした浄化師の務めなのだ――契約を交わした祓魔人としての貌を取り戻した唯月は、祭りの民族衣装をひらめかせて石畳を駆けた。
「でも、喪服のような衣装に、蜘蛛の意匠が施されているなんて……新鮮で、素敵ですね……!」
 ――そんな唯月が纏うのは、ゴシック調のワンピース。スカートの裾に施された銀糸の刺繍は、蜘蛛の巣のように美しい幾何学模様を描いている。
「うんうん。喪服のようだと、なんだか引き締まった気持ちにもなるよね~」
 黒のスーツを難なく着こなしている瞬も、ちょっぴり神妙な表情になっていたが、それもその筈――この『タランテラの舞踏祭』は元々、疫病を鎮める為のものだったのだから。
 『蜘蛛の毒』と呼ばれた病を、ひとびとは踊り続けることで祓おうとした。最後は病に抗しているのか、病に苦しんでいるのかさえ判然としなかった――そんな悲劇はしかし、最期のときまで共に居ようとした恋人たちの舞踏によって、終わりを迎えたのだと言う。
「そうだね、じゃあ俺たちは……あの思い出の演劇をモチーフにしてみる? ダンスは……その、スランプ気味だから、ね」
 え? と瞬の言葉に唯月は瞬きをするが、瞬はあくまで朗らかに、自分も参加してみたかったからとパートナーの背を押す。
(それに……いづとなら、これまで諦めてきた事が、出来そうな気がするから)
 ――また、踊れるかな。一歩足を踏み出した瞬は、舞台俳優の如く演技を交えて唯月の手を取り――そして唯月は大好きな絵を描くようにのびのびと、虚空に指先を滑らせていった。
「瞬さん……」
 手元に台本があればなあと思いつつ、唯月と踊る内に瞬の足取りも軽やかなものとなって。縋るように見上げる唯月へ頷きを返し、瞬の歌声が高らかに響き渡る。
「さぁ、皆の為に演じよー!」 


●無自覚な想い
 『最期の時まで一緒に』なんて、物語の一場面のよう――すてきね、と呟くリチェルカーレ・リモージュに、祭りの手順を教えられたシリウス・セイアッドは、その秀麗な柳眉を微かに顰めていた。
「……ダンス?」
「そんなに難しくないと思うの。折角だしやってみたいな」
 此方を窺う小動物のような大きな瞳に、シリウスはそっと溜息ひとつ。足を踏んでも文句を言うなよと告げれば、リチェルカーレの相貌はふんわりと、花が綻ぶような笑みを形作る。
「……演出の方は任せる」
「ふふ、うん。頑張って考えてみる」
 ――そんなやり取りを交わした後、ふたりは祭りの舞台に立っていた。古式ゆかしい礼装に身を包み、揃いで纏うのは蜘蛛の糸に見立てたレースのショールだ。
(さあ、踊りましょう。私たちのタランテラを)
 やがてどちらからともなく手を取れば、指に嵌めた金と銀の蜘蛛の指輪が、篝火に照らされて眩い輝きを放つ。くるくると楽しそうに踊り始めるリチェルカーレをリードしながら、シリウスは己の表情が和らいでいくのを感じていた。
(最期まで共に居るのが難しいことを、身に染みて知っている)
 黒のドレスが翻り、豊かに波打つ蜘蛛糸のショール。可憐な少女が微笑みかける度、シリウスの心は喜びと不安に揺れる。
(……だから大切なものなんていらない。そう思っていたのに)
 ――不意によろめき、地面に崩れ落ちるリチェルカーレ。死の雨を浴びて倒れた恋人を強く抱きしめ、首筋に唇を寄せたのは、お芝居の一幕の筈だ。
(……ありがとう)
 それなのに、目を開いたリチェルカーレが微笑んでくれたことに、シリウスは安堵する。ああ、漂う甘い香りは、彼女が髪に挿した白薔薇のものか――眩暈のような感覚を覚えるシリウスを、ちらりと見遣るリチェルカーレもまた、不可思議な気持ちに心を揺らしていた。
(彼は、浄化師としての自分の半身。恋人、ではないのに)
 そう。どちらかと言うと、家族のような存在だと思っている。――思っているのに。
(それなのに、どうして)
 ぴんと伸びた背筋と、綺麗な翡翠の双眸を見つめれば知らず、頬が赤くなってしまう。熱気に充てられたのかと此方を心配するシリウスに、リチェルカーレはゆるゆると首を振った。
「何でもないわ。……何でもない、筈だから」


●比翼連理
「シ、シア……どうしよう、僕、踊ったことなんてない……」
 これは任務だから、と必死に己へ言い聞かせるリュネット・アベールだったが、伏し目がちの瞳は微かに潤んでいる様子。そんなパートナーの緊張を感じ取ったリュシアン・アベールは、そっと傅いてリュネットの手を握りしめた。
「そう気負わずに、今日はお祭りを楽しもう? 大丈夫、僕がリードするからさ」
 ――そのままリュシアンは、その手の甲に口づけを落として。にこやかに微笑む双子の弟と見つめ合うリュネットは、酷く高鳴る己の鼓動が聞こえまいかと、固まったまま動けずにいた。
(こんな時のシアは……本当に、王子様みたい)
 お姉ちゃんとして、自分がしっかりしないといけないのに――それでもリュシアンの手を取る内に、いつしか緊張は解れ、ふたりは緩やかなステップを踏みながら息の合った舞踏を披露していく。
「……凄惨な病の伝承だけど、賑やかなお祭りになったんだね。僕達も……一緒にいられる事が奇跡だから、このお祭りに、願いたいな」
 踊りの合間、そんなリュシアンの囁きが耳朶を震わせて――リュネットは必死に、己の想いを大切な片割れへと伝えようとした。
「うん……あのね。上手く言えないけど……僕達は、半分ずつ、だから」
 ――二人で、一つだから。だからもし、どちらかでも欠けてしまったら、もう形を保てはしないのだと。
「だから、一緒に生きるか、二人で死ぬか……きっと僕達には、そのどちらかしかないの」
 変な事言って、ごめんね――そう言って無邪気に微笑むリュネットの貌を、リュシアンは真っ直ぐに見つめることが出来なかった。
(……その言葉の意味を、姉さんは解っているんだろうか)
 けれど、その問いは胸の奥に押し込めて、リュシアンはリュネ、と姉の名を呼ぶ。
「君は……共に死ぬまで、僕と一緒にいてくれる?」
「――……っ」
 いつもは姉さんと呼ぶのに、名前を呼ばれて。更に切ない声音で、縋るように乞われてしまうと――目の前の彼は、いつも一緒の弟じゃなくて、知らない男の子みたいだった。けれどリュネットは迷い無く頷き、精一杯の笑顔を浮かべる。
「うん、ずっと、ずっと一緒にいる」
 ――それ以上の幸せなんて、どこにもないから。その答えを聞いたリュシアンは、不意にリュネットを抱き上げてその場で回ろう――としたものの、勢いに負けてそのまま転んでしまって。慌ててふたり一緒にごめんねを言い合った後、やがてどちらからともなく指を絡めた。
「……誓うよ、姉さん。ずっと一緒だ」
「うん、いつまでも一緒。死が僕達を別つまで」


●空と太陽
「へー、こういう喪服も何だか新鮮だし、とてもいいものさ♪」
 纏う衣装を一瞥し、くるりと一回転をする空詩・雲羽の姿に、ライラ・フレイアは一瞬見惚れてしまう。普段は白を纏っている雲羽が、黒衣に身を包んでいると言うのはやっぱり新鮮で――けれど、腰に白布を巻き付けているのが何とも彼らしいと言うか。
「それにしても……病の毒に侵されながらも踊り狂った恋人達が起源……かぁ……」
 賑やかな祭りに秘められた凄惨な過去を思い、そっとライラが溜息を吐く。しかし雲羽は笑みを湛えたまま、彼女の髪を飾る赤い花を優しく整えた。
「……ふふ、僕の可愛いお人形さん♪ 起源はどうあれ、今は踊る者見た者、皆幸せになれる祭典♪ 僕らは只いつものように踊ればいいのさ♪」
 それに、古くから伝わる舞や祭りには、悲劇を偲び死者を弔う為のものも多い――と、自称吟遊詩人である雲羽は語る。まぁそれは話半分に聞いておいて、ライラは今いちばん大切なことをパートナーに聞いた。
「それもそうかもしれないけど……雲さん踊れるの?」
「ふふ、君がリードしてくれるから大丈夫さ♪」
 ――さあさあ皆々様、これより見せるは笑顔の踊り。笑顔が病魔を遠ざける一番のお薬なのさ♪
 朗々たる雲羽の口上が舞台に響き渡った後に、華やかなリュートの調べが祭りを盛り上げる。演奏と共に歌を披露する雲羽の傍で、ライラは伸びやかな舞いを披露していった。
(信頼してくれてるのは、素直に嬉しい……頑張ろう)
 演奏の邪魔にならないよう注意しながら、流れるように雲羽の楽器を入れ替えていくライラ。疲れていないかと合間にそっと問いかければ、寧ろ楽しすぎて踊り足りない位だ、との答えが返ってきた。
「さあ、このまま朝まで踊り明かそう♪」
 興が乗って来たのか、雲羽は見様見真似でステップを踏んだり回転をしたり――そのまま別の楽器に持ち替えるかと思ったら、何やらウホウホと胸を叩いて野生に還りそうになっている。
「そ、その動きはゴリ――いや、無理してるでしょ雲さん!」
 すかさずツッコミを入れて軌道修正を図るライラだったが、そんなハプニングさえも雲羽は楽しんでいる様子。ここまで楽しそうな彼も珍しいと、自然に浮足立つライラへ、蒼穹を思わせる雲羽の声が響いてきた。
「ああ、やっぱり音楽は楽しいね!」


●死が二人を別つとも
 まるで絵画から抜け出してきたかのような、優美な雰囲気を纏った男女が通りを歩く。
 ゴシック調のドレスを纏った少女――シャルル・アンデルセンが陽光を思わせる笑みを浮かべる中、隣のノグリエ・オルトはコートを翻し、影のように恭しくシャルルをエスコートしていた。
「踊り明かして、蜘蛛の毒とも言われた病気を追い払う……素敵なお祭りですが。そこにはきっと、凄絶な覚悟があった。そんな気がします」
 シャルルが歩くたびに揺れる羽飾りを、何ともなしに見遣りながら――にこやかな狐目を更に細める、ノグリエの心境を推し量ることは難しかったけれど。
(……『死が二人を別つまで』好きな言葉です)
 傍らの少女を溺愛する青年紳士は、整った唇をほんの少し笑みの形に変えて、彼女の言葉に頷いてみせる。
(ですが、ボクならきっと『死が二人を別つとも』でしょうかね)
 命を賭けて病に抗い続けた恋人たちの舞も、今は健康祈願と――そして、大切な人との絆を深める為の祭りに変わった。ならば自分たちも精一杯楽しませてもらおうと告げたシャルルへ、ノグリエは苦笑交じりに答えを返した。
「正直ボクの体力的には、一晩は踊り明かせないでしょうがね」
 やる気を見せているシャルルも、その辺は分かっているだろう。ダンスの技術では彼女に及ばなくても、せめて物語を作ってみせようとノグリエは誓う。
「それに沿って演じるというのなら、まだ上手く行けそうですから」
「……はい。ノグリエさんの考えて下さった物語、とても素敵ですから、きっと素敵なダンスになりますよ」
 ――重く垂れこめる闇を祓うように、あかあかと燃える篝火に照らされて、蜘蛛の黒衣が哀しげに翻った。それは歌うことが好きな村娘と、その娘を愛したヴァンピールの物語。
(歌う、踊る)
 種族の違いはあったけど、二人を別つものはなかったのに。だけど今は――『死』がそこまで迫っている。
(蜘蛛の毒よ消えろ。愛する人の身から去って)
 ――だから踊りましょう。そして貴女の首筋に、血を啜るような誓いの口づけを。
(蜘蛛の毒よ消えろ。この身の毒よ消え去って)
 ――ああ、血を啜れば毒が消えるなんて淡い希望。けれど今は、再び愛を交わすために――最後の愛を交わすように踊る。踊る。
(死が二人を別つまで……いいえ……死が二人を別つとも)
 ――想いは溶けて混じり合う。いつも歌を唇に。その歌の傍らに。絆は鎖となりて、二人を強く結びつけていく。だから――。
(死が二人を別つとも、ボクらの愛は消えない)


●箱入り令嬢と人攫いの賊
 二人の絆が奇跡を生む――そんな舞踏祭の伝承は素敵だとシュリ・スチュアートは思うけれど、果たして自分たちでそう言う雰囲気が作れるかどうか。
「あまり気負うことはねーよ、あとはやってみればなんとかなるさ」
 隣で無造作に髪をかき上げる彼――ロウハ・カデッサのいつもの様子に、知らずシュリの不安は溶かされていって。そう、今までだって二人で色んなことを乗り越えてきたのだから、今回も何とかなると信じることが出来る。
「で、俺たちらしい踊りかー。多少は物語性を持たせるとするなら……」
 そう言ってロウハが提案したのは、箱入りのお嬢様と彼女を攫いに来た賊のお話。お嬢様はともかくとして、ロウハが賊と言うのは――ちょっぴり強面で凄みのある彼の貌を見ると、説得力があり過ぎた。
「……おい、あくまで脚色だからな!」
 端正なシュリの美貌に浮かんだ、微かな笑みに気づいたのか、ロウハは慌てて訂正するが、二人で踊るのにはぴったりだとシュリは頷く。
「わかっているわ。……よろしくね、ロウハ」
 ――外の世界を知らぬ令嬢の元へ、突如現れた賊。自分を攫いに来たのだと言う彼に身を委ね、令嬢は閉ざされた世界を抜け出す決意をした。
(不安、なのかもしれない)
 最初はひとりで舞うシュリの元へ、やがてロウハが現れて手を差し伸べる。あくまで物語なのだと言い聞かせてみても、このまま彼の手を取っても良いのかとシュリは悩んだ。
(浄化師として活動する中で、わたしはロウハに負担をかけてしまっているのかも……)
 ――けれど、彼と見つめ合えば憂いは消え去り、今は共に在る喜びが勝るのだ。
(……やっぱり、ロウハの傍にいると落ち着く。わたし、ロウハがいないと駄目だわ)
 しっかりとロウハの手を取ったシュリは、そのまま彼に身を寄せて――やがてロウハの手が腰に回されると、シュリは彼の首に抱きつき、そのまま二人は一気に空へと羽ばたいていく。
(ああ――……)
 街を彩る祭りの灯が、とても眩しくて綺麗だった。このまま本当に、シュリを攫ってしまおうか――一瞬そんな想いが首をもたげ、ロウハは慌ててかぶりを振る。
(お嬢を守り、共に歩むのが俺の使命だ)
 そう、祓魔人と喰人のパートナーとして、シュリを守る――一人の女性として見るなど、あってはならないとさえ思うのに。
(この感情は……いや、祭りの雰囲気のせいだ、きっと)


●死者の戯れ
 ――恋人たちのダンスが起源だと言われる、タランテラの舞踏祭。恋人かあ、と吐息を零すクリストフ・フォンシラーだが、その眼鏡の奥の瞳は何処となく楽しそうだ。
(アリシアは俺の事を、どう思っているのかな。嫌われてはいないと思うけど)
 そんな祓魔人のパートナー――アリシア・ムーンライトの方は、祭りの謂れを聞いてちょっぴり身体を強ばらせていた。
(その、私達は、恋人な訳じゃ、ないですし……)
 ちらりとクリストフを見上げれば目が合ってしまい、アリシアは思わず顔を伏せてしまう。不意に鼓動が高鳴ってしまったことに戸惑うアリシアを横目に、クリストフは鷹揚に首を傾げていた。
(この反応は……どっちなんだろうなあ)
 ――ともあれ、今は祭りの準備をしなくては。ダンスについて軽く打ち合わせをするクリストフは、其処でふと思いつきアリシアに耳打ちをした。
「そうだ、ダンスの途中でちょっと芝居を挟もうかと思うんだけど――」
 そうして二人は舞台へと上がり、情熱的なタランテラの舞を披露する。――ひらひらと蜘蛛のドレスを靡かせながら踊るアリシアの前で、不意にクリストフが苦しみ出すまでは。
「え? クリス……?」
 アリシアが呆然とする間にも、クリストフは舞台に突っ伏して動かなくなって。気が動転したアリシアは、踊りのことも忘れて彼の元へ駆け寄った。
「クリスっ! しっかりして下さいっ!」
「……大丈夫、俺は生きてるよ」
 縋りついて泣き出すアリシアの頭をそっと撫でて、優しい声でクリストフが囁く。きょとんとした顔でクリストフを見つめるアリシアだったが――事前にお芝居をすると言われたことを、其処でようやく思い出したようだった。
 『ほら、俺はアンデッドだから。途中で倒れて、そして蘇るみたいな演出をね』
「そ、そうでした……私……クリスがほんとに倒れたのかと……。ごめんなさい……」
 しおらしく頭を下げるアリシアをそっと抱きしめたクリストフは、恋人の涙で蘇ったかのような演技を続け、やがて二人の舞踏は好評の内に幕を閉じた。
(ああ、私……こんなに安心してる……)
 そして休憩がてら屋台に立ち寄ったアリシアは、クリストフの腕に包まれる心地良さを思い出し――けれど、飲み物を口にして落ち着くと、言いようのない恥ずかしさを覚えて赤面していた。
「本気で泣いてくれて嬉しかった。君を置いて逝ったりしないと誓うよ」
 ――彼の笑顔の裏に隠れた感情を、少しは分かるようになれただろうか。此方に微笑みかけるクリストフへ向けて、アリシアは確りと己の想いを口にした。
「私、こんなに泣いたのは初めてかもしれません。絶対に置いて逝かないで下さいね……?」


●きれいは汚い、汚いはきれい
 一晩中、何があっても踊り続けようと、フェイ・ロイは誓った。自分たちらしい工夫なんて無いから、頑張って踊ろう――片割れのキサ・ロイもきっと、同じ気持ちの筈だ。死人であるフェイが、現世との繋がりを保つ糸が彼女だったから。
 ――篝火の炎を震わせる激しい旋律に、キサの胸が高鳴った。何かに追い立てられるように、二人はひたすらに踊り続ける。足を踏まれ、押され叩かれて――傍から見れば無様で滑稽に見えたとしても。
(激しくなる)
 物悲しくも情熱的なマンドリンの調べが、速さを増した。しゃらん、と打ち鳴らされるタンバリンの音に必死に追い縋り、キサの息が乱れ始める。
(苦しい、めまいがする)
 絡まった足に倒れそうになった時、フェイの手が背中を抱きしめてくれた。けれど彼の唇が項に触れて、そのまま歯を立てられる。
(何を考えてる? 今は俺とダンスしているのに)
 ――浄化師のこと? 指令? 周り? 痛みに顔を歪めるキサを見つめながら、肩を押しやれば――やがて絡み合った足と足がトン、と床を叩いた。
(足を絡めるのはダンスの基本の誘い、今宵もう一曲……通じた?)
 あなたはバカだから、と皮肉めいた表情を向けるフェイの、その顔を覆う仮面をはぎ取ったのはキサ。片目にぽっかりと空いた虚の横、こめかみにそっと触れた彼女は微笑んで、フェイの仮面を己に被せる。
(今度は私が死者)
(今は俺が生者)
 ――世界が反転し、二人はただ互いを想い、激しいリズムに身を委ねていった。ああ今は、他のことはどうでもいい。記憶がないことも、使命のことも、言葉を交わすこともしない。
 挑むように再びスカートを持ちあげたキサの耳に、もう一曲! と地鳴りのような声が響き渡る。息があがって目眩がして、足は痛みを訴えるけれど――もう、そんなことはどうでも良かった。
 纏わりつくスカートが邪魔だった。手が、皮膚が邪魔で、もっともっと触れていたかった。自分たちが本当の兄妹であるかも定かではなくて、確かな記憶さえ持ち合わせていない。だから――抱き寄せて口づけをしても無意味な筈で。
(こんな世界滅んでしまえばいいのに、キサ)
 昏い想いを抱くフェイは、けれど最後の一曲でキサを優しく抱き寄せて、切なげに囁く。――朝には役割は戻るから、と。
 もう、どちらがフェイでどちらがキサなのか、その境界さえ曖昧になっていく中で――踊り果てるその際に、東の空に瞬く光を、二人は見た。
(ほら世界は素敵なものに溢れてるよ、フェイ)


タランテラの舞踏祭
(執筆:柚烏 GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/09/21-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[6] アリシア・ムーンライト 2018/09/27-21:26

こんばんは、アリシア、です……
パートナーは、こっちの…クリスです……。
よろしくお願いします……。

ダンス……やったことないんですけど……
何とかなるって、クリスが言うので……頑張ります。

皆さん、良いひとときになりますように……。  
 

[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/27-19:34

リチェルカーレです。パートナーはシリウス。
どうぞよろしくお願いします。
健康祈願のお祭…すてきですね。
ダンスは上手くはないけれど、楽しんでみたいと思います。

皆様も、楽しい時間をすごされますよう。  
 

[4] 空詩・雲羽 2018/09/27-19:07

やあ♪こんにちは♪
僕は雲羽(くもはね)、こっちは僕の可愛いお人形さん(マドールチェ)さ。

ライラ:ライラです。よろしくお願いします。

病の毒、蜘蛛の踊り。起源はどうあれ今は恋人達の祭典。
う~ん僕達が『自分達ならでは』をするといつも通り過ぎてドラマティックには至らないかもしれないけれど、まあそこら辺は他の仲良しさん達にお任せするさ♪

僕達は僕達で、僕達にしかできない踊りを披露させてもらうさ♪  
 

[3] フェイ・ロイ 2018/09/26-21:16

…よろ、しく…がんばって踊る
他の人たちも………がんばって…?  
 

[2] シャルル・アンデルセン 2018/09/24-11:22