~ プロローグ ~ |
ここは教皇国家アークソサエティ「芸術の街オートアリス」。 |
~ 解説 ~ |
■目的と成功条件 |
~ ゲームマスターより ~ |
秋らしく芸術をテーマにしました。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆劇配役 瞬:謎の男 唯月:グッズ販売スタッフ 主な劇の内容希望:悲恋 ・瞬は自身の演技、歌、ダンスを駆使して演じる 特に演技面では普段とは別人のように真剣に演じ リコリスを自然にフォロー 瞬「狂気に狂いすぎて破滅の道を辿る謎の男ってコンセプトでいこうかな〜? ヒロインが歌メインなら、謎の男も歌を推す演技が良いよね〜? 方向性はこんな感じ〜? 他は監督から何かリクエストあったら、極力頑張ってみるよ〜」 ・唯月は画力とデザインセンスを駆使して商品POPを書いていく 唯「ものをただ置いてるよりも カラフルな文字でいろいろアピールしたら…皆さん買ってくれます、よね? 商品のタイトルの他にも商品のキャッチコピーとかも書こうかと」 |
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1、ヒロイン役 歌はともかく、演技は素人だから 瞬のリードに合わせて、なるべく観客席全体に聞いてもらえるように丁寧に あとはとにかく、台詞を忘れたり、とちらないように気を付ける ダンスも素人だけど、そこは前衛職の身体能力でカバー 脚本は悲恋もの 謎の男に惹かれつつも、ヒロインは恋を諦め舞台を選ぶ その時の別れの歌が私の見せ場ね 観客のために全力で歌うわ …不思議、歌なんて嫌いなはずなのに ヒロインの切ない気持ちを込めるたびに心が熱くなる 気付けば心から楽しんで歌ってる 私、本当は… トールこそお疲れ様 慣れない音響スタッフは大変だったでしょう 問いには一瞬黙って 私のママは昔歌手だったの 歌はママを思い出すから…辛くて、嫌い |
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雲羽 グッズ販売 使用 楽器 会話術 事前に演目で使われる楽曲を教えてもらい 物販コーナーで演目の曲を演奏 さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 此度開かれるは謎の男と美しき歌声の少女が織り成す狂おしき恋の物語! 物語の冒頭部分を簡単に語り観客が物語の世界に興味を持てるよう奏でる 嗚呼この物語の先に待つのは悲劇か、あるいは…(意味深に笑みを浮かべ この続きは舞台の上にて明かされる事でしょう…(お辞儀 内容に興味持ってくれたらチャンス さて皆々様。開演まで暫しお時間がございます 此方には先程語らせて頂いた素晴らしい世界がグッズとして販売されております♪ この機会に是非お買い求め頂ければ幸いでございます♪ 笑顔で客寄せ&接客 |
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~ リザルトノベル ~ |
●開演準備 ~監督、涙する~ ここはオートアリスの小劇場。古びた劇場のステージの上には、7つの影があった。 そのうちの1つ、劇団の舞台監督は残りの6人を見まわし、感激の涙を流した。 「まさかこんなに人が集まってくれるなんて……! これで公演を打つことができる!」 しばらく監督は天を見上げ感謝をささげていたが、はっと我に返った。 「あぁ、ごめんね! あまり時間も無いし、公演の準備を進めないとだった。早速だけど、一言ずつ挨拶してもらえるかな? じゃあ、そっちの君から」 監督に指名され、最初に口を開いたのは『泉世・瞬』だ。 「俺は今回、謎の男を担当するよ~。演技のコンセプトも考えてきたし、良い作品を作れると良いなぁ~。よろしくね~!」 次に、隣に立っていた『杜郷・唯月』がおずおずと口を開いた。 「あの……グッズ販売を担当します……。お役に立てるように頑張ります……! よろしくお願いしますっ……」 唯月に続いて、こちらも緊張気味の『ライラ・フレイア』がぺこり、と頭を下げた。 「私は音響スタッフを担当します。長旅で機械系に触る機会があまり無かったけど……マドールチェの潜在能力を信じて頑張ります……!」 気合の入った挨拶を聞き、『空詩・雲羽』はくすりと笑った。 「張り切っているね、僕の可愛いお人形さん。……僕はグッズ販売を担当するよ。よろしく」 「後は俺達か」 ぐるりと周囲を見回し、今度は『トール・フォルクス』が口を開く。 「俺も音響スタッフを担当する。未経験者だからな……ミスが無いように、確実、堅実にやっていこう。さて、あとは……リコリスだけだな」 トールにそうふられ、『リコリス・ラディアータ』は改めて背筋を正す。 「ヒロインを担当するわ。歌はともかく、演技は素人だから、瞬のリードに合わせて、なるべく丁寧に演じるわ」 全員の挨拶が終わり、6人が舞台監督に視線を向けると、監督はまたも感動の涙を流していた。 しわしわのハンカチで涙をぬぐいながら、監督は6人に告げた。 「こんなにしっかりしたメンバーが集まってくれて……嬉しいよ……! さあ、公演までもう少し、皆準備に入ってくれ!」 監督の号令で、6人はそれぞれの担当場所へと移動を始めた。 そして、6人は劇場のスタッフや劇団員から、仕事に関する説明を受け、練習に励んだ。 気がつけば数時間が経過し、昼を少し回る頃になっていた。 ●昼休憩 ~俳優としての思い~ 「ふぅ……。少し疲れたかも……」 唯月は、劇場の外に出て、休憩を取っていた。 午前中は販売するグッズを運び入れたりと、力仕事が多かった。ベンチに座り、劇団員に貰った水を一口飲み、息をつく。 すると劇場の扉が開き、男が姿を現した。 「瞬さん」 それは彼女のパートナー、瞬だった。 瞬は唯月の姿を見つけると、近づいて声をかけた。 「いづ、お疲れさま~」 「おっ……お疲れ様、ですっ……!」 瞬は唯月の隣に座ると、大きく伸びをした。 「準備はどう? 進んでる~?」 「はいっ……。あの……瞬さんは、どうですか……?」 唯月が聞き返すと、瞬はにっと笑った。 「ばっちり! 監督も俺のこと知っててくれたし、頑張らないと、って気合い入れてたところ~」 楽しそうな瞬の様子を見て、唯月の頬も緩む。そんな唯月の表情を見て、瞬は彼女に言った。 「いづ、この指令に付き合ってくれてありがとう。俺、演劇がやっぱり好きだからさ~。好きなことができる場所を失くしたくなかったんだ~」 その言葉と共に微笑まれ、唯月は顔を赤くして口を開いた。 「瞬さんはいつもはわたしに付き合って下さって……そんな彼の事だから……わたしも一緒にお助けしたいと!」 慌てた様子で言う唯月に、瞬は優しく微笑むと、勢いよくベンチから立ち上がった。 「よしっ! いづのためにも、謎の男、しっかり演じきるからね~!」 「た、楽しみにしてますっ……!」 瞬の演じる謎の男は、どんな風になるんだろう。本番に思いを馳せながら、唯月はまた一口水を飲んだ。 ●開演前 ~色彩の魔術師~ 午後になり、リハーサルを終え、夕方。 いよいよ公演の本番が近付いてきた。 劇場の前に作られた物販スペースでは、唯月が並べられた品物を前に考え込んでいた。 「どうしたの?」 そんな彼女に、劇団のスタッフが声をかけた。唯月はある提案を、スタッフに告げた。 「……カラフルな文字でいろいろアピールしたら……皆さん買ってくれます、よね?私、POPを書いても……いい、ですか?」 「え、書いてくれるの!? じゃあ、せっかくだし……お願いしちゃってもいいかな?」 「はいっ……!」 唯月はスタッフが用意した紙に、自前のペンを使ってイラストを描き始めた。数秒もしないうちに、可愛らしいPOPが出来上がった。 次に唯月は、パンフレットに目をつけると、内容を少し確認した。 少し考え、さらさらと紙に文章を書き込んでいく。空いたスペースには、歌を歌う少女の姿を描いた。 「あとは……少し色を足して……」 最後に文字が目立つように、縁取りをし、POPをパンフレットの横に並べた。 スタッフはその出来栄えに驚いていた。 「絵も上手いし、凄く目を引く色遣い……あなた、何者!? 色彩の魔術師!?」 「えっ、あ、あの……浄化師、です……」 スタッフのテンションに、唯月が若干驚いていると、雲羽がやってきた。 雲羽は唯月の書いたPOPを覗き込む。 「良い出来だね。1枚もらっていいかい?」 そのまま1枚取ろうとした雲羽を、唯月は慌てて止めた。 「あの……公演が終わった後なら、差し上げます、から……」 「そう?それは楽しみだ。……さて、僕もそろそろ仕事をしようかな」 そう言うと雲羽はスタッフの一人に声をかけた。 「今日の演目で使われる楽曲を教えてくれないかな?」 「へ?」 突然予想外のことを問われたスタッフは思わず間抜けな声を上げた。 「雲羽さん……一体何を……?」 唯月も雲羽の意図が読めず、困惑した表情を浮かべた。しかし、雲羽はふふ、と笑い、こう言うだけだった。 「それは、お楽しみに、ね」 ●物販開始 ~幕前の前奏曲~ 雲羽の言葉の意味は、物販開始後、早々に判明した。 「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!此度開かれるは謎の男と美しき歌声の少女が織り成す狂おしき恋の物語!」 雲羽の朗々とした口上が響き渡る。次いで、雲羽は自前のリュートを取り出すと、弦を弾いた。 指先から奏でられる旋律は、公演で使われる楽曲の一部だった。 「綺麗な曲……」 リュートの音に惹かれ、物販スペースの前で、数人の観客が足を止めた。 それを見て、雲羽は曲調を一気に変えた。緊迫感のある、短調の楽曲は、劇の中盤の決闘シーンで使われている。 「少女を思い、狂う男。それでも彼女は、彼を離すことはできない。……嗚呼この物語の先に待つのは悲劇か、あるいは……」 不意にリュートの音が途切れ、しんと辺りを静寂が包む。意味深な笑みを浮かべる雲羽の雰囲気に、観客はごくりと息を飲んだ。 雲羽はたっぷりと間を取った後。 「この続きは舞台の上にて明かされる事でしょう……」 リュートで一音を響かせ、大仰な仕草でお辞儀をした。 ぱちぱち、と観客から拍手が上がる。観客たちの目は、演目への期待で輝いていた。 そこで、すかさず雲羽は彼らに声をかけた。 「グッズを売っているんだ。よければ1つ、いかがかな?」 観客は思わず、といった様子で商品に手を伸ばし、いくつかの商品を購入していった。 その後、唯月のPOPの効果も相まって、物販は開演ギリギリまで多くの人で賑わったのだった。 ●開幕 ~一瞬にかける~ 開演5分前のベルが鳴り、騒がしかった劇場内は徐々に静まり始めた。 いよいよ、舞台の幕が開く。 観客席後ろの音響ブースでは、ライラが緊張した面持ちで舞台を見つめていた。 客席は満席に近い。外で行っていた、物販のおかげもあり、当日券を買い求める客が多く現れたのだ。 満席の客席を見て、ライラはますます緊張が高まって行くのを感じた。 それを紛らわせるために、リハーサルの時のことを思い返した。 数時間前。ライラは劇団のスタッフに、機材の扱い方を教えてもらっていた。紹介される機材は、ライラにとってもあまり馴染みの無い物だった。 ライラはそれらの扱い方や、音響を鳴らすタイミング等をスタッフから学び、しっかりと頭に叩き込んでいた。 (リハーサル通りにやれば、大丈夫) 教わった1つ1つを反芻し、ライラの緊張は少しほぐれた。 「そういえば……」 ライラはふと、舞台監督の言葉を思い出した。リハーサルの最後、監督が皆にこう言っていた。 「舞台は最初の一瞬が要です。最初の1セリフ、一音でお客様を舞台に集中させる……それが重要です」 ライラがこれから行うのは、まさに舞台の一番最初に流れる音楽の操作だ。 ライラはよし、と改めて気合を入れ直した。 「……雲さん達が集めてくれたお客様を最後まで物語の世界に導かないと!」 「間もなく本番です!」 そこにスタッフの声がかかり、ライラは再び意識を舞台へと集中させた。 照明が落ち、しんと劇場内が静寂に包まれる。 こつ、こつ、と靴音が響き、暗闇の中役者が舞台上へと姿を現した。 ライラはそのタイミングで、音量のゲージを上げた。それに合わせ、舞台上の照明もだんだんと明るくなっていく。 やがて役者の一人が、舞台の中央へと立った。それを見て、ライラはセリフに被らないように音量を調整する。 音量が程良く小さくなったと同時に、役者が口を開いた。 「タイミング、ばっちりです!」 脇で照明を操作していたスタッフが、ライラにそう声をかける。 「良かった……」 ライラは思わずほっと息をついた。 その後、ライラは集中を切らすこと無く、任されていた仕事をやり遂げたのだった。 ●一幕 ~愛か、狂気か~ 物語のヒロインは歌手を目指す少女。まだ端役ももらえない彼女は、毎晩一人で稽古をするのが日課になっていた。 ある日、彼女の目の前に、謎の男が現れ、彼女に歌のレッスンを行う。 その男の美しい声と、確実な指導にほれ込み、彼女は人知れず彼のレッスンを受けることになった。 レッスンを通じ、徐々に惹かれあって行くヒロインと男。 男はだんだん、ヒロインへの執着を露わにし始める。 舞台上では、リコリスの演じるヒロインと、瞬が演じる謎の男が歌のレッスンをするシーンが演じられていた。 ヒロインが謎の男の指導を受け、アリアを歌い始める。しかし、最後の高音を外してしまった。 「……集中できていないようだね」 男はヒロインの歌を途中で止めると、ため息交じりにそう言った。 「……ごめんなさい。次はちゃんと歌うわ」 ヒロインはうつむき、唇を噛む。そんな彼女を見て、謎の男は冷たい口調で言い放った。 「男になんて現を抜かしているから……あの男に」 「男……って」 ヒロインは思いがけない言葉に首をかしげる。それを見て、謎の男の表情はますます冷たい物へと変貌した。 「あの男だ。昨晩、一緒に出かけていただろう……剣を持った」 「あれは幼馴染のマキウス。そんな関係じゃ……」 バン、と鈍い音が響く。ヒロインの言葉を遮るように、謎の男は机を乱暴に叩いた。 「君は……私のところに来ればいいんだ。……私のレッスンを受けるだけでいいんだ」 観客は、瞬の表現する束縛や嫉妬、狂気に圧倒され、息を飲んで舞台の行方を見守っていた。 そして、その様子は、舞台上の瞬にも伝わっていた。 (……良い反応だ!) 瞬が監督に提案したコンセプト『狂気に狂いすぎて破滅の道を辿る謎の男』は観客の心を掴んだようだった。 演技を続けながら、瞬はリコリスの様子も盗み見る。 (さすが、良い歌声だなぁ~。それに、ダンスも華やかで見栄えがする。初心者とは思えないなぁ) 歌手としてまだ名の売れていないヒロインは、下積みのダンサーをしていた。 ヒロインが謎の男の前で自分のダンスを披露するシーン。 リコリスは持ち前の身体能力を活かし、難易度の高い振付を見事にこなしていた。 音楽に合わせしなやかに体を動かし、ターンを決める。指の先まで神経の行きとどいた、繊細な動きに、観客の目は釘付けになっていた。 瞬は心の中で感心し、リコリスの動きが目立つように、少しだけ立ち位置をずらした。これで隅の観客にも、リコリスの姿がはっきりと見えるようになる。 瞬のさりげないサポート、そしてリコリスの初心者とは思えない演技が相まって、舞台の一幕は無事に終了した。 ●二幕 ~決闘~ 執着に気付きながらも、ヒロインは謎の男から離れることができなかった。 ヒロインの幼馴染は、この異常な関係が危険だと、ヒロインに訴えるが、ヒロインは聞き入れない。 彼女の身を案じた幼馴染は謎の男にヒロインをかけた決闘を挑んだ。 舞台上では、幼馴染役の劇団員、そして瞬が演じる謎の男が剣を構え、緊張の一瞬を迎えていた。 「僕は……この剣で、彼女を救い出す」 幼馴染のセリフと同時に、両者は一気に距離を詰め、剣を交えた。 キン、と刃のこすれ合う音と役者の吐く、荒い息遣いが鮮明に響き渡った。 鋭い表情で剣を交える様子をすぐ近くで見ていたリコリスは、刺すような殺気を感じた。 (本物の戦闘みたいだわ……。本気で、幼馴染を殺そうとして……) お芝居ではない。命をかけた本物の決闘だ、そう言われても信じ込んでしまいそうなほど、瞬の演技は鬼気迫るものがあった。 「私はお前を倒して……彼女を手に入れるんだ!」 瞬はセリフを叫ぶと、唸るような声と共に大きく剣を振りかぶった。身を翻し、相手の刃を避け、懐に入り込む。 わぁ、と観客から小さな歓声が上がる。 鬼気迫る中にも、瞬の殺陣には美しさがあり、まるでダンスを見ているかのようだった。 決闘のシーンが終わり、舞台の照明が一度落ちる。 観客席から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。 ●三幕 ~別れの歌~ 舞台はいよいよ終盤を迎える。 決闘の末、謎の男は目に怪我を負ってしまう。そして、永遠に光を失ってしまった。 ヒロインはその事実に涙し、同時に絶望した。 「私のせいで……貴方が光を失ってしまった。きっと罰が下ったのよ……恋か、夢か、どちらかを選べなかった私に」 自分のせいで謎の男を傷つけてしまった。 ヒロインは謎の男から離れ、恋を忘れ、歌手としての道を生きることを決める。 そして二人で会う、最後の晩。ヒロインは別れの歌を歌う。 音響ブースでは、トールが次のシーンの準備を進めていた。 いよいよこの舞台最大の見せ場である、ヒロインの別れの歌のシーン。様々な音を同時に流すため、複数の機材を操る必要があった。 「まず、このゲージを上げるだろ……そして、右のボタンを押す」 一つ一つの操作をトールはもう一度復習していた。 リハーサルでもズレや僅かなミスが発生してしまい、最後まで完璧にやりきることができなかった場面でもある。 (1つ1つ、確実に、だな) トールはそう自分に言い聞かせ、その時を待った。 間もなく、スタッフの一人が、トールに手振りで合図を送った。 まず最初は、弦楽器のイントロから。 トールは真剣な表情で頷くと、機材のゲージを上げた。 時は少しさかのぼり、舞台袖。 リコリスは一番の見せ場を前に、少しばかり緊張した面持ちで控えていた。 (別れの歌は最大の見せ場と、監督も言っていたわ……) 失敗はできない。そんなプレッシャーに負けないように、リコリスは一度深呼吸をした。 ぱっと、舞台に再び照明が灯った。 舞台上では、瞬の演じる謎の男が目を閉じて椅子に座っていた。 リコリスはそこに向かって、足を踏み出した。 彼女の足取りに合わせ、徐々に弦楽器の音は大きくなっていく。 そして、リコリスが瞬の前で立ち止まると、一瞬音が消えた。 (トール……リハーサルでも上手く行かなかったのに……!) 絶妙な空白が生まれ、リコリスは息を大きく吸い込んだ。 そして、再び流れ始めた音楽と共に、旋律を奏で始めた。 最初は1挺のバイオリンの旋律と共に、リコリスは声を合わせる。そして、伴奏はだんだんと盛り上がりを見せ、リコリスもそれに合わせて声を響かせた。 そしてサビへとさしかかると、オーケストラの旋律が劇場内に鳴り響いた。その音に押されるように、リコリスは感情を込めて歌う。 どうか許して。貴方を傷つけた私を。 どうか許して。貴方を愛した私を。 罪を背負った私は、それでも歩くわ。 貴方が示してくれた、歌の道を。 ヒロインの心情を歌いながら、リコリスは考えていた。 (……不思議、歌なんて嫌いなはずなのに。ヒロインの切ない気持ちを込めるたびに心が熱くなる) 自分の歌が劇場の空気を震わせる。観客の心を打つ。リコリスはそのことを実感していた。 (私……今、心から楽しんで歌ってる。本当は……私は……) そして、最後のサビも歌いきると、壮大なオーケストラの伴奏は一転し、ピアノの切ない旋律へと切り替わる。場面がまた変わるのだ。 リコリスは、観客に向かって一礼をした。すると、観客席から拍手が起こる。 大きなミスも無く、リコリスは無事に一番の見せ場を乗り切ったのだった。 一方、音響ブースではトールが大きく息を吐いたところだった。 「お疲れ様です。凄いですよ……完璧なタイミングでした! あのシーンは本職の人間でも難しいのに……」 「はは……無事に終わって良かった」 スタッフの称賛にトールは安堵の笑みを浮かべた。そして、先ほどのシーンを思い返す。 (リコの歌……聞けて良かったな) 忙しく動きながらも、トールは何とかリコリスの歌う姿を見ることができていた。 舞台で歌うリコリスの表情は、ヒロインの心情と同じ辛く、悲しげな表情だった。 しかし、どこか希望のような、明るい部分があることをトールは感じていた。 その希望の正体にトールは少しだけ心当たりがあった。 (歌は嫌いだ、って言ってるけど、本当は好きなんじゃないか……?) 普段の彼女を思い出し、トールは苦笑する。 (いくら嫌いと言われても、この歌声を聴けば……分からないな) 演技は確かに危なっかしいところもあった。経験者の瞬や、劇団員に助けられていた場面も少なからずある。 それでもトールは満足していた。 「……良い舞台だな」 トールの独り言は、観客席の拍手の中へと消えて行った。 ●カーテンコール ~拍手~ 舞台の幕が降り、観客席からは割れんばかりの拍手が起こる。 音響ブースにいたライラも、一緒になって拍手を送っていた。 彼女の胸は、達成感や感動や、色々な感情で一杯だった。 夢中になって拍手を送っていると、すっと彼女の横に誰かが並んだ。 「お疲れ様」 「雲さん!」 グッズ販売を担当していた、彼女のパートナーである雲羽だった。 少し離れた所には、唯月の姿も見える。 「すごい……瞬さん……」 彼女もまた、舞台上の瞬を見つめ拍手を送っていた。 ライラは雲羽の方に向き直る。 「グッズ販売の方はもういいの?」 「うん。終演後にも少しやるみたいだけど、そっちは手伝わなくて良いみたいでね。……思ったよりも、評判が良かったみたいだ」 ライラも、雲羽や唯月の客引きの様子は少し聞いていた。 「私、雲さん達の集めてくれたお客様を……ちゃんと舞台の世界に誘えたのかしら」 ぽつり、とライラは無意識に呟いていた。 ライラの言葉に、雲羽は何を言っているのさ、と笑った。 「この拍手が全てだよ」 劇場一杯の拍手。そして、観客の感動。 「そうね……」 ライラは改めてそれを見て、自然と笑みがこぼれた。 「ライラ! 片付けを始めるぞ!」 そこにトールの声がかかる。彼は重たい機材を軽々と抱えあげていた。 「今行くわ!」 ライラは声に応えると、トールを手伝うべく、彼の元に走って行った。 「……気合が入っているみたいだ」 雲羽はそんな彼女を優しく見守っていた。 ●バラシ ~歌への思い~ 終演後、観客の帰った後の劇場では、劇団スタッフや助っ人の6人が、公演の後片付けにいそしんでいた。 機材を抱えながら、舞台裏を歩いていたトールは、楽屋からリコリスが出てきたのを見かけ、声をかけた。 リコリスはすでに衣装から着替えていて、いつもの服装に戻っていた。 「リコ、お疲れ様。とても良い歌だった」 「トールこそお疲れ様。慣れない音響スタッフは大変だったでしょう」 リコリスにそう問われ、トールはああ、と頷いた。 「とても忙しかった……が、無事に終わることができた。リコの歌も、良く聞こえたしな」 そこでトールは言葉を切ると、少し言いづらそうにリコリスに尋ねた。 「なあ、歌が嫌いってなんでなのか、聞いてもいいか…?今日の舞台を見てたらそうは思えなくて」 リコリスはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。 「私のママは昔歌手だったの。歌はママを思い出すから…辛くて、嫌い」 (嫌いな風には……見えなかった) トールはそう思ったが、彼女の答えに何も言うことはできなかった。彼女が強くそう言うのなら。そんな気持ちを込め。 「そうか……」 そう代わりにつぶやいた。 ●撤収 ~劇団の行く末~ 朝と同じく、舞台上には舞台監督と、助っ人の6人の姿があった。さらにもう一人、パトロンの姿もあった。 パトロンは全員の顔をぐるりと見回すと、口を開いた。 「今回の公演、客席はほぼ満席。脚本、演技、演出……全てにおいて観客の心をつかんだと評判になっている。さらに、グッズ販売も好評だったようだ」 「ということは……」 監督が期待に満ちたまなざしでパトロンを見つめた。 「約束は約束だ。……劇団の解散は一時見送りとする」 わっ、と劇場内にスタッフの歓声が響いた。中には涙を流して、近くの人と抱き合うスタッフもいる。 「ありがとうございます! これも皆さんのおかげです!」 監督はまたも涙を流しながら、6人に頭を下げた。 こうして劇団の解散はまぬがれ、劇団はかつてのにぎわいを徐々に取り戻していった。 そして、『鏡の天使』という演目が評判になり、その劇団の名前を世界に轟かせることになるのは……また別の物語。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[7] 泉世・瞬 2018/10/01-09:22 | ||
[6] リコリス・ラディアータ 2018/09/30-00:40 | ||
[5] 空詩・雲羽 2018/09/29-12:52 | ||
[4] 泉世・瞬 2018/09/29-01:54 | ||
[3] リコリス・ラディアータ 2018/09/28-21:29 | ||
[2] 泉世・瞬 2018/09/28-19:51
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