~ プロローグ ~ |
教皇国家アークソサエティ南部の大都市・ルネサンス。 |
~ 解説 ~ |
相手が不機嫌になったところからその機嫌を直すまでの経過で互いの絆を深めましょう。 |
~ ゲームマスターより ~ |
マスターの北織です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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目的 おっさんと仲直りする ていうか、喧嘩した? 手段 じっと表情を見て、表情を窺う 「イダ、何頼む?飲み物?軽食?」 じっと見つめ返されて戸惑う メニューで口元を隠して、知らず眉が寄る 問いかけに首を傾げる 怒らせた、こと? 記憶にない 一生懸命考える 朝、会ってからいつも通り 普段と違うことなんて何もしてない イダの言葉にちょっとびっくりする 確かに言った記憶がある あたしの代わりは、いない… 「ごめん、イダ。契約を結んだ時、イダしかいないと思った」 「ひとりにするのが、ひとりになるのが怖くて言った」 「反省してる」 ほんのちょっと、怖かっただけ 頭を下げて謝ると、イダはいつもみたいに笑って許してくれた あたしも笑顔になる 嬉しい |
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不機嫌になる側 別に、怒ってないよ だから怒ってなんか…… はあ……もう。分かったから ミハエル。アクセサリー見るのに一体何時間費やすの? ちょっと時間かけすぎだよ。まあね、あなたが宝石好きなの知ってるけど…… ううん。良いよ、もう…… は、はい? 甘いもの? 好き、だよ? えっと……? な、なに、突然……(困惑 ……ケーキが食べたいかも…… えっちょっ! 酷くない!? もうっ……! ミハエル、待ってよ………! 慌ててミハエルを追いかける 食べ物でつられた感はあるが、仲直りが出来たので良しとしよう |
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(不機嫌になった薙鎖視点) 夜更かしが祟り遅く起きると、寮母の許可を得て上がり込んだモニカさんが、 汚れ放題だった僕の部屋を勝手に片付け、溜まってた洗濯物も洗ってしまった。下着も。 おまけに汚部屋化がバレた僕は寮母に大目玉。 浄化師活動の為の勉強や準備諸々の中で、掃除等が後回しになってただけなのに。 割と立つ瀬が無く不機嫌を隠す余裕もないまま、 気まずい空気の中僕はモニカさんの前で遅い朝食をとる。 モニカさんの腹の虫が鳴った。 聞けば、朝起きてこない僕を心配して来てから何も食べてないという。 なんて事だ。慌ててメニューを彼女に渡す。 お礼とお詫びを兼ねて僕が奢りますから、何でも頼んで下さい。 それ位はさせて下さい。 |
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PCの行動 ねえグレン、こっち向いてくださいよぉ 約束してたカフェへのお出かけ、出かけるって言ったら こうして付いてきてくれてるから 聞こえていない訳ではないとは思うんですけど。 あっ、そうだ! 私のパフェのアイス一口あげますからこっち向いてください! ほら、おいしいんですよこのアイ…あ。 あああおもいっきりグレンのコーヒーの中に落ちちゃいました …あああ溶けちゃううう! こうやってカフェに来ていても、これじゃつまらないです… もう一度謝りましょう。 きちんと姿勢正して…あのっ、ごめんなさい! 今度から触るなって言われたら触りま…触らないように最大限気をつけますから! …よかったぁ、いつものグレンです、安心しました。 |
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~ リザルトノベル ~ |
●代わりはいない 「イダ、何頼む? 飲み物? 軽食?」 アラシャ・スタールードは、カフェのメニュー表を開きつつイダ・グッドバーに問い掛ける。 彼の表情をじっと見つめ、窺いながら。 普段のイダなら「よし、軽く何か食べるか」と軽快に乗ってくる……筈だったが。 「……」 イダは上体を椅子の背もたれに預け、無言でじっとアラシャを見つめている。 (機嫌、悪い?) アラシャがそう悟るのに難しい事は無かった。 イダの眼光には明らかにいつもとは違う静かな怒りが滲み、口も真一文字に結ばれている事が、それを如実に物語っている。 (喧嘩なんか、した? ……ううん、してない、筈) いたたまれなくなったアラシャは持っていたメニュー表をススーッと上げてイダの視界から逃れようとするが、彼の様子も気になってしまい、結局口元を隠すに留まりメニュー表の上からイダの表情を覗いた。 その眉間に深い皺を刻ませながら……。 とはいえ、このままでいる事が決して良いとは思えない……と言うより、アラシャはイダとこのままの状態でいたくはなかった。 「何で怒ってるの? あたし、何か悪い事をした?」 アラシャが尋ねると、今度はイダの眉間に皺が寄る。 「俺を怒らせた事、覚えてないのか?」 淡々とした口調ではあるが、イダの語気にはどこか切なさが漂っていた。 そう……「怒らせた」と言っている割には、何となく悲しげな。 「怒らせた、事?」 アラシャは首を傾げながらここまでの記憶の糸を懸命に手繰るが。 (記憶にない……) 少なくとも朝会ってから暫くは普段と変わらぬ調子だった。 他愛のない会話の合間にアラシャが突拍子もなくボケると、イダが「オイオイ」と突っ込んで、二人して笑い合う……そう、いつもと同じだった。 同じような時間が過ぎていたから印象が薄くて詳細を覚えていないだけで、ここに来るまでイレギュラーな事などしていない筈だ。 「あたし、イダとちゃんと仲直りしたい。怒ってる理由を教えて?」 「……さっき俺に言っただろ、『あたしがいなくなっても、代わりがいる』って」 苦しげに絞り出されたイダの一言が、アラシャの胸に刺さる。 「あっ」 ここに来るまでの会話の記憶は曖昧だが、そんな一言を確かに言った、その記憶だけは鮮明だった。 そう言った時、微かに背筋が粟立ち胸の奥が軋むのを感じたから。 「どんな流れであの一言が出たのか正直俺も覚えてない。けれど、俺にはアラシャの代わりはいない。それを分かってもらいたくて……大人げない事をしたと思ってる」 カフェに来て初めてイダが俯いた。 (あたしの代わりは、いない……あたしだって……あたしにだって、本当はイダの代わりなんていない) アラシャの中に込み上げてくる想いが、言葉となって彼女の口から迸り出る。 「ううん、ごめん、イダ。契約を結んだ時、あたしもイダしかいないと思った。ただ、怖いんだ」 「……怖い?」 「うん。ひとりにするのが、ひとりになるのが」 「アラシャ……」 アラシャの言葉に顔を上げたイダの瞳が揺れた。 浄化師として戦っていく事は即ち敵との「命の奪い合い」に身を投ずるという事だ。 大切なものを奪われる恐怖と絶望を知るアラシャにとって、いつ訪れるやもしれぬ「喪失」は何よりも怖いものなのだろう。 「反省してる。ほんのちょっと、怖かっただけ」 言葉にしてしまえば、少し軽くなる気がした。 「あたしがいなくなっても、代わりがいる」と思えば、彼を残して先立つ事があっても、彼に先立たれる事があっても、この胸が潰されずに済む、互いを忘れて前に行ける……そんな気がした。 少しの強がりと共にアラシャが謝った直後。 彼女が下げた頭にぽんと温かな感触が舞い降りた。 「何も怖くない」 「え……」 アラシャが上目遣いに見上げると、そこにはいつもの笑顔でそう言ってくれるイダがいて、彼の広い手の平がアラシャの頭をぽんとひと撫でしていた。 「俺はアラシャをひとりにしないから」 やけに冷えた胸の内に温かな何かが流れ込む、イダの笑顔と彼の手の平の温もりにアラシャはそんな心地良さを感じずにはいられない。 「イダ……」 (やっぱり、仲直り出来て良かった) 込み上げる嬉しさをアラシャは笑顔に変えた。 (『ほんのちょっと』じゃなかっただろ、絶対……) ……イダは気付いていた。 「怖かった」と言った時のアラシャの唇が、彼女の指先が、微かに震えていた事に。 だが、彼はあえてそこに触れるような事はせず、何食わぬ様子でひょいっとアラシャの手からメニュー表を取り上げる。 「そろそろ腹減っただろ? 何か頼むか」 「じゃあソルベでも」 「いやいや、ここは普通ドリンクと軽食注文する流れだろ」 苦笑しながら入れられるイダのツッコミに、アラシャは改めていつもの彼との関係を取り戻した安堵を覚えるのだった。 ●振り回されて、釣られて アニ・リカリエの透き通るような色白の頬は心なしか紅潮し、膨れている。 彼女の愛らしい唇も、僅かに尖っているような気がした。 (アニ、怒ってるかな? うーん、怒ってるよね、うん) カフェのテーブルで向かい合わせに無言で腰掛けているアニに、ミハエル・ルビィは静かに問う。 「アニ、怒ってる?」 アニが怒っているのは見れば分かるが、その理由をすぐに察してやれる程ミハエルも彼女を知り尽くしているわけではない。 「別に、怒ってないよ」 「でも、言い方に棘があるよ」 「だから、怒ってなんか……」 「んー……そうかな」 口調はマイペースで穏やかながらも、ミハエルは一歩も引かずに食い下がる。 一方、アニはミハエルとは対照的にその表情や言葉の端々に苛立ちが混じり、「怒ってない」とは裏腹の本音が丸見えだ。 (ううぅ、やっぱりミハエルって、イマイチ読めない……) ここまで来ると、もう怒りと言うより半ば呆れた面持ちでアニは小さく溜め息を吐いた。 「はぁ……分かった。もう分かったから」 「やっぱり、怒ってたんだね。どうして?」 (『どうして』って……うーん、ちゃんと言わないと気付いてくれないかな) アニは意を決して打ち明ける。 「この際だからはっきり言うけど……ミハエル、アクセサリー見るのに一体何時間費やすの? ちょっと時間掛け過ぎだよ」 簡潔明瞭直球の回答に、さすがのミハエルも僅かに目を見開いた。 (ああ、待ち合わせた後に立ち寄ったアクセサリーショップでの事か……) ミハエルの脳裏に、ここまでに費やした二時間と少しの間の出来事が甦る。 アニと待ち合わせ、無事に合流出来たまでは良かったが……。 (二時間も待たせっぱなしは確かに酷かったかな……) 愛する姉の瞳を彷彿とさせるような煌めかしい宝石をこよなく愛するミハエルは、途中で見つけたアクセサリーショップについつい立ち寄り、アニをそっちのけで店内の商品を愛で始め没頭する事かれこれ二刻……。 その間アニは店の外に置いてあったベンチに腰掛け待ちぼうけ。 勝手にふらりとどこかに行くわけにもいかず、かと言って二時間も熱心に宝石を見ていられる程強い興味があるわけでもなく、アニは溜め息を吐きながらあくびをしながら首が伸びきってしまうのではないかと思うくらい待って、待って、待ちわびた。 そんな彼女が怒るのも無理はない。 「うん。ごめん、確かに時間掛け過ぎた」 ミハエルは反論も言い訳もせず謝る。 (あれ……ミハエルって、こんなに素直で真っ直ぐな一面も持ってるんだ……) 「ま、まあね、あなたが宝石好きなのは知ってるけど……いいよ、もう」 アニが完全に毒気を抜かれ苦笑すると、それを見たミハエルは思い付いたように 「アニ、甘いもの好きだよね」 と尋ねた。 「は、はい?」 (ちょっと待って……何か、話の流れがいきなりぶった切られたような……?) いきなり別方向からのベクトルが刺さりアニは面食らってしまうが、素直な彼女はミハエルが新たに生み出した奔流に流されてしまう。 「甘いもの? 好き、だよ? な、何、突然……」 アニにとってはわけの分からない展開でも、ミハエルにとってはいつものペースだ。 「買ってあげる。何が食べたい?」 そして、彼のペースにアニが振り回されるのもいつもの事。 「……ケーキが食べたいかも」 「太っちゃわない?」 要望を聞いたミハエルはどこか悪戯めいた笑みを浮かべた。 「えっ、ちょっ! 酷くない!?」 (やっぱりこの子面白いな。口調も表情もコロコロ変わって、ほんとに素直な子) 「アハハ、冗談だ。ほら、行こう」 ミハエルは伝票を手に立ち上がる。 「もうっ! ミハエル、待ってよ……!」 待たせる側と待たされる側が、いつの間にか逆転していた。 とはいえ、片や二時間、片や数秒なのだが……。 (ケーキで釣られた感はあるけど、仲直りも出来たし、良しとしよう……うん!) 次の店でケーキを食べる頃には、アニの膨れた頬も元に戻りその面には笑顔が浮かんでいた。 「フフ、足りないでしょう? 何なら、ホールで注文する?」 好物のケーキを頬張るアニの笑顔に気を良くしたのか、ミハエルはまたも悪戯っぽく口角を上げる。 「ホ、ホールでなんて、食べきれるわけないでしょ!」 「冗談だよ。ほら、そんな風に慌てるからクリームが付いちゃってる」 ミハエルはアニの口元に付いた生クリームを指先で掬い、ペロリと舐めた。 「ちょっ、な、何してるのっ!?」 ミハエルの大胆な行動に、アニは困惑し奇声を上げる。 (ハハ、ほんと期待通りの反応をしてくれるから可愛いな。機嫌直してくれて良かった) ミハエルはアニの反応を面白がりながらも、彼女の機嫌が直った事に安堵の笑みを湛えるのだった。 ●間を取り持つ「虫」 カチャカチャとフォークが皿に触れる無機質な音ばかりが響く。 薙鎖・ラスカリスは遅い朝食を無言で口に運んでいた。 「ナギサ、良く噛んで食べないとダメよ?」 皿と口の間でひたすらフォークを往復させ続ける薙鎖を見かね、モニカ・モニモニカがそっと窘める。 すると、薙鎖の手が止まった。 「……ほんと、無神経ですよね」 「無神経?」 聞き返すモニカに、薙鎖は声量を抑えながらもつい刺さるような口調で返す。 「だってそうじゃないですか。百歩譲って寮母さんに連絡入れるのは仕方ないですよ、ええ、寝坊してたのは僕の方ですしね。でも、ゴミや洗濯物を寮母さんから引き取るとか、どう考えても行き過ぎでしょう……」 「……まぁ、確かにそうかな……」 ここでモニカがさっさと謝ってしまえばこの一件は表面上片付くのかもしれない。 だが、それはモニカの望む所ではない。 鎮火したと思っていても燻り続け後々燃え上がる見えない火種の如く、ちゃんとした解決を見ない和解はいつ綻び瓦解するとも限らないのだから。 不満という名の「燃料」は、出し尽くすに越した事はない。 「お陰でこっちは寮母さんの怒鳴り声で起こされるはめに……その後だって大目玉食らったんですからね……」 「……」 「……何か言ったらどうなんですか……いいえ、やっぱりいいです、今何か言われると余計ぶつかっちゃいそうですし……」 「……」 無言のモニカを前にして、薙鎖は食事を続ける。 時折重々しい溜め息を吐きながら。 その度に2人を包む空気も淀んでいくが、薙鎖にはそれを何とかしようという気にはどうしてもなれなかった。 (僕だって、あの汚部屋をどうにかするつもりだったんです……ただ、浄化師になった以上はその勉強とか準備とか諸々ちゃんとしなきゃと思って、それでつい昨日も夜更かししちゃって。遊び呆けてたわけじゃないのに、ただ掃除や片付けが後回しになってただけなのに、それなのに怒られて……) 自身に非がある事は分かっているが、モニカのみならず寮母にまでプライベートに踏み込まれた事で薙鎖は完全に余裕を失い、不機嫌な気持ちを抑える事が出来ない。 「立つ瀬が無いって、こういう状況の事言うんでしょうね……」 ぼそりと呟きながら、薙鎖が苛立たしげにソーセージにフォークを突き立てた時だった。 「ぎゅるぅ~~~……」 何とも言えない突然の「切ない虫の声」に、薙鎖の手がぴたりと止まる。 自分は今まさに朝食の最中、お腹の虫が訴えてくる筈はない……が、己の腹の虫かと思う程の「大声」に、薙鎖は思わず周囲を見回した。 そして、その視線が正面のモニカにぶつかると、彼女が 「あはは……」 と気まずそうに苦笑するではないか。 (まさか、今の盛大なお腹の音はモニカさん……!?) モニカの腹の虫と苦笑する彼女、この2点からモニカの空腹を推測するのは薙鎖には容易だった。 だが、明らかに自分よりも早く起きて動いていた彼女なら、朝食を摂る時間になど困らなかった筈だ。 ならば、何故彼女の胃は空腹を訴えるのか……? 「あの……モニカさん、もしかしてお腹空いてるんですか?」 もしかも何もしないだろう、彼女が腹を空かしているのは明白だ……と分かっているのに、自分がここまで空気を重くした自覚のある薙鎖はなかなか気持ちの切り替えが出来ずにいる。 だが、モニカはそんな薙鎖の心情を丸ごと受け入れるかのように変わらぬ穏やかな口調で答えた。 「はは……情けないけど、ナギサの事で頭が一杯になっちゃって朝食食べるのすっかり忘れてたんだよね」 「……え?」 「もっと心に余裕持って構えてなきゃいけないのに、ナギサがいつもの時間に起きてこない、連絡がつかないってだけでどうしようもなく心配になっちゃって、ごはんどころじゃなくなってたの……って、ワタシもお腹が鳴ってやっと思い出したんだけど」 「……」 打って変わって今度は薙鎖の方が無言になる。 (モニカさんは、僕の事を心配して朝食も摂らずに……寮母さんからただの寝坊だって聞いた後も、受け取った洗濯物の山を何も食べずに洗ってたんですよね……僕は、そんなモニカさんの前で何て態度を……!) 薙鎖は「はぁっ」と自責の息を吐き出し首を横に振ると、慌ててテーブルのメニュー表を手に取りモニカに差し出した。 「モニカさん、僕……っ! あの、何でもいいです、何でも奢りますから」 「えっ、ナギサ、どうしたの? ワタシは別にいいよ……」 微かに驚いた表情を浮かべるモニカに、薙鎖は差し出したメニュー表をこれでもかと開いて渡す。 「良くありません。何でも頼んで下さい、それくらいはさせて下さい。お詫びと、その……」 薙鎖は気恥ずかしげにモニカから僅かに視線を逸らした。 「……お礼も兼ねて」 「ナギサ……」 不満を燃やす火種が鎮火した事を悟ったモニカは、微笑みながらメニュー表を受け取る。 「ありがとう。それじゃ……」 結局、モニカは腹の虫を黙らせるために相当な数のメニューを頼み、薙鎖の財布では精算出来ず割り勘となった。 だが、注文の数や金額からして薙鎖が割を食ったのは明白で、モニカは勘定の面倒まで見てあげたいという自身の欲求と薙鎖の「奢りたい」という気持ちの両方を満たす事が出来たのだった。 ●たなびく白雲 「ねえグレン、こっち向いて下さいよぉ」 「……」 ニーナ・ルアルディが呼んでも、グレン・カーヴェルはフイッと視線を明後日の方に向けたままだ。 (こうしてカフェまで一緒に来てくれたわけですし、聞こえてないわけではないとは思うんですけど……) カフェでニーナと向かい合って座るグレンの視線の先には、給仕をする従業員の姿。 従業員の持つ盆に載る食器を見て、グレンは深く長い溜め息を吐いた。 (あー、もう暫く皿は見たくねぇ……) ……なんて思っていると、厨房の方からは何やら食器の割れる音と「すみません」という従業員の声。 (あー、出来ればそのサウンドもいらねー……) グレンはうんざりして額に手をやり瞼を閉じる。 (ったく、その「ガシャーン」てのがもうずっと俺の中でリフレインしてやがる……勘弁してくれよ……) そんなグレンの様子に、ニーナはしょぼんと肩を落とす。 (ああ……どうしたらいつものグレンに戻ってくれるでしょうか……) ニーナはグレンと一緒に今日このカフェに来る約束をしていた。 約束した時はグレンも口では「はいはい」と面倒くさそうにしながら、家事や買い物を前倒しで手際良く片付けお出かけの時間を確保してくれた。 何だかんだ言いながらいつも傍にいて世話を焼いてくれる、グレンはそんな人だ。 ここまで機嫌を損ねた事は……これまであっただろうか? そもそもグレンが不機嫌になった理由はニーナにあった。 ニーナはそっぽを向くグレンを悲しげに見つめながら昨晩の悲劇を思い返す。 昨晩―― 「はぁー、今日もとっても美味しい夕飯でした! さすがグレンです。でも……」 ニーナは台所の流しに積み上がった皿の山を見た。 (「触るな」とは言われましたけど、これをグレン一人に片付けさせるのは気が引けます。私もお手伝いを……) ……直後、惨劇が起こる。 「今の音は何だっ!?」 響く破壊音、ニーナの悲鳴……只事ではないと感じたグレンは畳み始めていた洗濯物を放って台所に駆けつけた。 ドアを開けるなり彼の目に映ったのは、流しにあった筈の皿の山が悉く割れて台所中に散乱し、その中で半べそをかくニーナの姿だった―― ニーナが昨晩の惨劇を思い出していた頃、グレンもまたその後処理を脳内で反芻していた。 (ったく、あの後床中に散乱した破片を掃除して、新しい皿を買いにいかされ……どんだけ大変だったか……) グレンは小さく溜め息を吐く。 ニーナの度を超えたドジはいつもの事だ、慣れているつもりだった。 だが、さすがに昨晩のあれは彼にも堪えた。 (こんな風にシカトとか大人げないとは自覚してるが、最低限ニーナの護衛はこうして果たしてる……果たしてる……) 「お待たせしました、不機嫌ドリッパーのほろ苦哀愁コーヒーと気分屋シェフの気まぐれパフェでございます」 従業員がグレンの前にコーヒーを、ニーナの前にパフェを置く。 (メニュー表見た時から思ってたが、何でこのカフェのメニューはこうもふざけたネーミングなんだよ……不機嫌とかほろ苦とか、シャレになってねぇだろ) ほろ苦どころか苦虫を噛み潰したような顔になりつつあるグレンを見て、ニーナはパフェを前にあたふたし始めた。 (これ以上グレンが怒ってしまったらどうしましょう……あっ、そうだ!) ニーナはパフェのてっぺんに鎮座するアイスをひと掬いすると、 「グレン、私のパフェのアイスひと口あげますからこっち向いて下さい!」 とグレンに差し出す。 「ほら、美味しいですよこのアイ……」 と、あと少しでグレンの口元に近付きそうなアイスだったが……。 「ぽちゃん……」 「「あ」」 二人は揃ってカップの中に視線を落とした。 波紋を刻む「不機嫌ドリッパーのほろ苦哀愁コーヒー」に白雲がたなびき始める。 「あああっ、溶けちゃうううっ!」 またも半べそをかき始めるニーナ。 「もう……こんなの嫌です。せっかくカフェに来ていても、これじゃつまらないです……」 (もう一度ちゃんと謝りましょう!) ニーナは匙を置くと姿勢を正し真っ直ぐにグレンの方を向いた。 「あのっ、昨日は本当にごめんなさいっ! 今度からは『触るな』って言われたら触りま……触らないように最大限気をつけますから!」 「触らないって断言はしねぇのかよ!」 盛大に頭を下げるニーナの言葉にグレンは思わずいつもの調子で突っ込む。 だが、突っ込んだ途端グレンの中で何かが吹っ切れ、溜め息ばかり漏れ出ていた口元が緩んだ。 (ニーナの奴、必死に俺の機嫌を取ろうとしたり落ち込んでしょげたり……何だか、シカトしてるのが馬鹿らしくなってきた。止めた止めた) 「ほら、いつまでもしょげるな、パフェ溶けるぞ」 ニーナが恐る恐る顔を上げると、苦笑しながら匙を差し出すグレンが目の前にいる。 「……よかったぁ、いつものグレンです、安心しました」 グレンは、心から安堵したかのような満面の笑みを浮かべるニーナと、溶けきったアイスの白雲に覆われた「不機嫌ドリッパーのほろ苦哀愁コーヒー」を交互に見つめた。 (俺も大概甘いよな……つーかどうすんだ、飲めんのかこのコーヒー?) しかし、数日後。 「だから洗い物は後で俺がやるから触るなってあれ程言っただろうがっ!」 「ごめんなさぁいっ!」 またも台所は惨状と化していた……。
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*** 活躍者 *** |
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[4] アラシャ・スタールード 2018/03/23-19:12
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[3] アニ・リカリエ 2018/03/23-01:15
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[2] 薙鎖・ラスカリス 2018/03/23-00:07
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