~ プロローグ ~ |
人々から愛され続け、今なお大いに盛り上がる行事が年に数回、存在する。 |
~ 解説 ~ |
『ハロウィンの夜におもいっきり食べ歩きを楽しんで下さい!』 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは。今回は食欲の秋を仮装と共におもいっきり楽しんでいただければと思います。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 初めてだろうハロウィンを満喫させてあげたい 【衣装】 タキシードにうさ耳 不思議の国のアリスの白ウサギ風に 【行動】 喰人に一緒にご飯を食べるべく町をねり歩く ただし、喰人に付き合えば量が凄い事になるので自分は少な目に 喰人が眠ってしまったらおんぶして帰る 【心情】 ミカゲちゃんは初めてのハロウィンだろうからね 出来れば一緒に楽しみたいな これなら一杯ご飯も食べれるし、きっと喜んでくれるだろう ミカゲちゃん、マミーにしたんだね とっても可愛いよ 僕?可愛い…はあんまり嬉しくは無いんだけど なんでって、そりゃ男の子だからね カッコいいって言われたいよ、やっぱり ほら、ミカゲちゃんご飯食べよう これとかどうかな?(とってあげ |
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ギル 仮装 : ジャックオランタンの人形仮装 人形に仮装するって、なんかスッゲー皮肉だな。 人を殺すための人形として使われてた俺たちからしたらさ。 ま、暗殺でも仮装とかけっこーするし、違和感はないかな。 ってか、なんでも良いから食おうぜ、ナニカ! パンプキンパイやら、シチューやら、かぼちゃ関連など、 ハロウィン系の食事を食べまくる。 ※アドリブ歓迎 |
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仮装 フランケンシュタイン ひたすらに食べる無・名を眺めている ん、ああ 妻が大食いだから、そこまで気にはしない 俺も食べるほうではあるしな 基本肉をメインに食べていく 酒が飲めるならワインを飲みたい 妻のの込み、あいつは……なんでもおいしそうに食べる そう答えたあと、少し苦みの強い果実のパイを食べて 顔をしかめたあと 味覚のない妻のことを思う それでも食べることを辞めずにおいしそうなふりをする彼女を そんな彼女に美味しいと言わせようとする親友のことを考える 「一緒に食べたほうがおいしいのにな」 土産にパイを買う 妻と親友へ、ささやかな土産 三人で食べたいと思って買う |
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~ リザルトノベル ~ |
●世話焼き白ウサギと黒猫マミー 「ああ、ほら。待ってミカゲちゃん」 「うにゃ?」 色とりどりの屋台や料理、そして行き交う人々の仮装は目にも楽しく、至るところから立ち昇って食欲を刺激する香りは嗅覚にも楽しい。 街そのそものが躁状態になっているせいか、生来愉快なことが大好きなミカゲ・ユウヤの尻尾もそれにつられて忙しなく動いている。 あっちへふらふら、こっちへふらふらと足取りも軽くうろつくミカゲが迷子にならぬよう、ラシャ・アイオライトは適度に呼び止めては解けかけている彼女の包帯を直してやる。 食欲に欲望を全振りしているミカゲだが、こうして後ろから呼んでやれば素直に振り向き戻ってくる。 決して暴走しないそのさまはまさに従順な仔猫のようで、きっちりと包帯を整えてやってから、ついでとばかりにラシャはミカゲの頭を――もちろん髪型などを乱さぬように――撫で回す。 (それにしても、) 上から下まで改めてミカゲの姿を眺めて、ラシャは柔らかく微笑んだ。 「ミカゲちゃん、マミーにしたんだね。とっても可愛いよ」 性別が異なる為に、さすがにつきっきりで衣装を選んだり着せてやったりすることはせず、ラシャは相棒のセンスに全て一任した。 ハロウィンという行事自体が初体験である彼女がどんな格好で出てくるのか、戦々恐々としたりもしたのだが、ミカゲはたったひとりでそれはそれは愛らしいマミーへと無事仮装することが出来た。 実際は衣裳部屋の片隅に丸めて保管されていた包帯をボール代わりにして遊んでいたところ、手足に包帯が絡んでしまい、そのままある程度整えただけの偶然の産物ではあるのだが、ハレの日に細かいことは言いっこなしだ。 「ありがとうにゃ! ご主人も可愛いにゃ!」 「僕? 可愛い……はあんまり嬉しくは無いんだけど」 「なんでにゃ?」 「なんでって、そりゃ男の子だからね。カッコいいって言われたいよ、やっぱり」 繊細なオトコ心がわからずに無邪気に首を傾げるミカゲの隣を行くラシャは、頭に付けた白ウサギの長い耳を弄って苦笑する。 案外手触りのいいウサギ耳と、装飾にも凝っているタキシードを身に着けているラシャには、あたかも童話の世界から飛び出してきたような一種の可愛らしさが確かにあった。 とはいえ。 今日のラシャの目的は、格好良さをアピールすることではない。 ハロウィンを初めて過ごすミカゲに、出来る限り楽しんでもらいたいのだ。 「さ、今日は一緒にたくさん食べよう。でもはぐれちゃまずいから、手を、」 「たくさん食べてもいいにゃ?! わーーーいっ」 「繋っ、ぐぇ!」 元々スキンシップの激しいミカゲが、目を輝かせてラシャの首に飛びついた。 感謝の気持ちが半分、残りはお祭り騒ぎでテンションが既にマックス近いせい、でもあったのだろう。 熱烈なハグをなんとか受け止め、どうどう、とラシャは包帯に守られているミカゲの背中を叩く。 しかし、手を繋ぐよりはこちらのほうが安全かもしれない。 身軽なライカンスロープの両足がしっかり地面の上に戻るのを見届けてから、ラシャは軽く折り曲げた左腕を彼女に差し出す。 上質なジャケットに包まれた腕とラシャの顔を数回交互に見遣り、ようやくミカゲはその意味を察して嬉しそうに己の腕を絡ませて寄り添った。 「やっぱりご主人は可愛くてカッコいいにゃ」 「だから可愛さは……まあいいか。ミカゲちゃん、まずはカップケーキなんかどう? 濃厚なカボチャ味だって」 「カップケーキ?! 五つ食べるにゃっ!」 最初からそれは食べ過ぎ、とラシャが嗜める暇もなく、腹ぺこマミーはウサギを引き摺るようにして俊敏にカップケーキ屋の前へ向かった。 二つなら食べていいとお許しをもらい、ナッツやチョコレートでジャック・オ・ランタンのデコレーションを施されたカップケーキを、ミカゲは瞬く間に平らげる。 美味しい美味しいと噓偽りなく称賛するミカゲの笑顔に感化され、屋台の店主も誇らしげだ。 まだ一軒目ではあるが、このままミカゲにいい思い出をつくってやれそうだと、ラシャは幸先の良さに胸を撫で下ろす。 「ご主人! 顔のあるカボチャは美味しいんだにゃ!」 「美味しいっていうか、あれはジャック・オ・ランタンって言ってね――」 「あそこに特大の美味しいカボチャがあるにゃ!」 「え? ちょ、ちょっと待っ、」 何やら間違った情報をインプットしてしまったらしいミカゲに引っ張られながら、ラシャはなんとか最後のひと口を嚥下する。 (特大の美味しいカボチャ? まさかお祭りの飾り付けのことじゃないだろうな) ――飾り付けだったならば、どれほど良かったか。 ウサギ耳のカチューシャが落ちないよう片手で押さえつつ、首を伸ばしてラシャが進行方向を確認しようとするのと、主の手を離したミカゲが前方のターゲットに飛び掛かったのはほぼ同時だった。 それは祭りの飾り付けなどではなく、ジャック・オ・ランタンの被り物をした小柄な誰かの頭部。 「! ミカゲちゃん! 駄目だよ!」 「いただきまー、……にゃ?」 ジャック・オ・ランタンが、瞬きひとつの間に、忽然と消えた。 標的を失ったミカゲは猫特有のしなやかさで何事もなく着地したものの、無念そうに唇を尖らせている。 きょろきょろと周囲を見渡す後頭部に、ラシャは軽く拳を落とした。 「にゃっ」 「こら。ミカゲちゃん、さっきのは僕たちと同じ仮装した参加者だよ。それに危ないから走っちゃ駄目だよって来る前に言っただろ?」 しょんぼりと項垂れるミカゲを立たせ、またもや緩んできた包帯を直す。 「……もう僕の手を離してひとりでどこかに行ったりしないって約束出来るなら、一緒にあそこのキノコスープでもどう?」 ぱあ、と明るくなるミカゲの顔を見て、カップケーキよりも僕のほうが甘いな、とラシャは独りごちる。 再度腕を組んで短い列に並びながら、秘密を共有するかのように顔を見合わせて笑った。 「さっきのジャック・オ・ランタンの人、すごかったね」 「にゃあ。すごく美味しそうだったにゃ」 「いや、そういう意味じゃなくて」 アリスを誘うウサギのように、楽しい楽しいお祭りへ。 そうやって心も胃袋も満たしたミカゲは、どれもこれも美味しくて投票なぞ出来なくなってしまう。 迷う彼女にひとつひとつ食べた料理を思い出させるという難儀を強いられているというのに、ラシャの顔つきは穏やかだ。 やがて。 信頼している少年の隣で、ミカゲの瞬きはだんだんと緩慢なものになり始める。 「ミカゲちゃん、おいで」 彼女の眠気を察したラシャは、優しく言って背中を向けてしゃがみ込む。 返事をするのも億劫なのか、やけにおとなしくその成長途中の背中に体重を預けたミカゲから、すぐさま小さな寝息が聞こえ出した。 どこか誇らしげに立ち上がり、ミカゲの体温をひしひしと感じながら、ラシャは一日限りの喧騒をあとにする。 ●ジャック・オ・ランタン人形と悩める魔女 「待って、キル。もう逃げなくてもいいみたいよ」 「ん。りょーかい」 ナニーリカ・ギルフォードの漆黒のローブの裾と、キールアイン・ギルフォードの闇色のマントの裾が、ひらひらと揺れている。 ふたりは今、とある民家の屋根の上に危なげなく立っていた。 「商売敵の襲撃かと思ったら、まさか腹をすかせた猫だったとはな」 そう洩らしたキールアインの小さな頭部は、すっぽりとカボチャの着ぐるみに覆われている。 フェルトで目や口を施されたそれは、街のあらゆる場所で見かけるジャック・オ・ランタンそのものだ。 首から下は普段と特に変わらない服装と、取り敢えず選んだマント。 マドールチェであるキールアインは今日、その特色を活かしてジャック・オ・ランタン人形という一風変わった仮装をしていた。 カボチャの被り物のせいで全く表情は読めないが、足のラインを見せる形のやや大胆な魔女の格好をしているナニーリカには些かの不安もなかった。 なにせふたりは、少々特殊な家庭で共に育った姉弟なのだ。 そしてその『特殊さ』のおかげで、ふたりは突然の猫の悪戯から風のように逃げることが出来た。 黒猫が白ウサギに連れられて行くのを眼下に確認し、なんの苦労もなく再び地上へと戻る。 「人形の仮装なんだけど、そんなに美味そうに見えたのかな」 やたらと活気のある屋台の前を通れば、パンプキンはパンプキンを食べな! という良くわからない理由で、カボチャ味のとろりとしたシチューの盛られた器を強引に押し付けられる。 あらあら良く出来た操り人形だこと! とパイを。 別嬪な魔女に使役されて幸せだな! とプリンを。 ジャック・オ・ランタン人形は、良くも悪くも目立つらしい。 有り難く頂戴したそれらを抱えて一旦路地裏へと腰を落ち着け、久方ぶりに被り物を脱いだキールアインのその一言に、そうねえ、とナニーリカは頷いた。 「人形に仮装するって、なんかスッゲー皮肉だな。人を殺すための人形として使われてた俺たちからしたらさ」 賑やかで平穏なメインストリートと、地面こそ繋がっているもののひっそりとした影の世界を作り出すこの路地裏は、不思議なことに明確に空気が違う。 まるで光と闇のように。 キールアインに倣い鍔広のエナンを脱いだナニーリカは、困ったように眉を寄せた。 「キル……今日はそういうことは忘れて、楽しもう? 仮装もほら、似合ってるしね」 汗で濡れ額に張り付く弟の白く柔らかな前髪を、姉はほとんど無意識に優しい所作で払ってやる。 されるがままに任せていたキールアインは、膝の上でほこほこと湯気を立てるシチューを一瞥し、気分を切り替えるようにぐるりと肩を回した。 「……、ま、暗殺でも仮装とかけっこーするし、違和感はないかな」 「あー、そうね。たしかに、暗殺者が女装するとか、私たちの世界じゃ当たり前みたいなものだもの」 明るい思い出、とは言い難い記憶も、同じ経験をした者同士で語らえばそこには僅かな懐かしさも混じり、そうそう捨てたものでもなくなる。 暫し仮装だの女装だのにまつわる思い出話に花を咲かせたのち、ナニーリカは座ったまま背筋を伸ばして誇らしげに申告する。 「――とまあ、私が今回魔女の仮装を選んだのはそういう理由なんだけど、それはあくまでも建前で、一回ぐらいこういう服着てみたかったんだよねー。ほら、若いうちなら露出が多くても綺麗、」 「ってか、なんでも良いから食おうぜ、ナニカ! シチューが冷める」 「なんでも良いってひどくない?!」 キルはすぐ食欲に負ける、と不貞腐れ、スカートから伸びる若々しい足で不満も露わに地面に怒りのステップを刻む。 そんな姉など意に介さず、キールアインは早速匙に掬ったシチューにふうふうを息を吹きかけ、ひと口。 それこそ食べ頃のパンプキンのような橙色をした瞳が徐々に輝いていくのを真横から眺め、ナニーリカは息を零すようにして笑った。 「ふふっ、まぁそんなところも可愛いけど。じゃあ、たくさん食べよっか。私はパイからいっちゃおーっと」 「……そのパイをシチューに浸したらもっと美味くなるんじゃない?」 「……天才なんじゃない?」 「知ってる」 建物と建物の隙間からうっすらと、そして燦々と日が差し、風に乗ってたくさんの話し声や笑い声が届く路地裏は、決してじめじめしているだけの場所ではない。 時折小さく笑い合い、感動しつつ、ふたりはまずは軽めに最初の食事を終えた。 さあ次は何を食べようか、と。 仮装を整えて改めて表通りへ繰り出した姉弟の胸中は今や新たな料理への期待でいっぱいだった。 「マスカットと梨のタルト……木苺のムース……柿のソルベ……」 「太るぞ」 「うるさい。帰ってからいつもの倍動けば平気。多分」 若い女性らしく、見た目にも可愛らしいスイーツ類にどうしても視線がいきがちなナニーリカとは違い、食べ盛りなキールアインはやはり豪快なメイン料理の屋台が気になって仕方がない。 どうせならばハロウィン感満載な料理を食べたいが、そこはそれ、まずは何がなんでも肉を味わっておきたいという繊細なオトコ心だ。 ジャック・オ・ランタンの頭を左右に動かし、両目部分のメッシュ生地の向こうに広がる街並みを丁寧に吟味していく途中、座ってゆっくり食事が出来るようにという意図で用意された一画が目に留まった。 公園などで見かけるような木のテーブルは、おおよそ五人ほどが使えるような大きさだ。 現に椅子も四つか五つ並べてあるのだが、そんなテーブルのひとつを贅沢に独占している男――狼男がひとり、もしくは一匹、いた。 テーブルに所狭しと並んだ料理を、急ぐことなく胃に収めているようだ。 汚くも綺麗でもない食べ方だが、旺盛な食欲をマイペースに発揮しているその動きはなかなかに気持ちがいい。 「あの肉、美味そう。どこでもらったか聞いてくる」 「うう……林檎のパンケーキにすべきかパフェにすべきか……」 彷徨う死者の霊と共に暗い過去さえも裸足で逃げ出しそうなこのお祭りの中、ただひたすらに暗殺技術のみを磨いていた頃の本人たちが今のキールアインとナニーリカを見ることが出来たのなら、いったい何を思うだろうか。 人形として生きるのを辞め、戯れに人形に仮装して見知らぬ相手に話しかける様子と、頭を抱えてカロリー計算をしながら真剣に迷う様子を見て。 「屋台の場所聞いてきた! 行くぞ」 「どうしよう、キル。このケーキすっごく美味しい! ひと口食べる?」 「……食べる」 自分で食べる、と付け足すより早く、クリームをたっぷり纏う生地を乗せたフォークが差し出される。 柔和な表情を浮かべる姉に何か言えるはずもなく、キールアインは照れ臭そうにカボチャを脱いで口を開けた。 ●フランケンシュタインと隻眼の狼男 「待てよ、旦那。アンタはもっと野菜も食べたほうがいい。まだ生きてンだから」 「……なら、そのサラダを少しもらおう」 満遍なく、ほぼ全ての屋台の料理を少量ずつ制覇してテーブルに並べた無・名(ウーミン)に指摘され、柔らかく煮込んだビーフシチューと赤ワインを味わっていた藤谷・弦一はおとなしくスプーンを置き、新鮮な野菜が盛られたボウルを引き寄せる。 底なしの食欲でひたすらに食べる無・名が興味を引くのか、立ち止まって眺める住人もいれば、これも食べろとわざわざ新しい料理を運んでくれる料理人もいた。 その真向いに陣取る弦一は、とんでもない量の料理に辟易することもなく、己のペースを守って食事を進める。 無・名には負けるが、弦一も人間という種族の中では大食漢に分類されるようだった。 他のテーブルとは異なり、大いに盛り上がる会話などはないが、しかしそこに漂う空気は剣呑なものでもない。 狼の耳と尻尾を身に着けもりもりと口と手を動かす無・名を眺める弦一の視線には、興味も慈愛もない代わりに敵対心も憎悪もなく、凪いだ湖面のように静かだ。 相棒というよりは雇い主に近い弦一からの視線を、鶏肉を食べ終えた無・名は敏感に察していたが、別段何も言わずに黙って煙草を咥える。 ヘビースモーカーでもある無・名は、食事中とはいえ時折こうして煙を肺に入れねばどうしても落ち着かないのだ。 アンタもどうだ、と尋ねる代わりにひしゃげた煙草の箱を揺すってみせるが、ボルトの飾りや縫合痕のメイクでフランケンシュタインに化けている弦一はすげなく首を横に振る。 人形か何かのように滅多に感情的にならない弦一に、その仮装は良く似合っていた。 「人形と言やあ、さっきのガキはちゃんとローストビーフにありつけたかね」 「さあな」 輪っか状の煙を吐きつつ周囲を見渡しても、先程のジャック・オ・ランタンの被り物は見当たらない。 まあいいか、と話を切り上げ、無・名はまたナイフとフォークを持つ。 弦一は新しいワインのボトルを開ける。 面倒臭がり且つ適当な無・名だが、今日ばかりは折角だからと前菜、スープ、魚料理、ソルベ、肉料理、の順で皿を空にしていた。 女こどもに人気のありそうなデザートに取り掛かる最中、頬についた生クリームを指で拭いながら向かいに座る弦一になんとはなしに尋ねてみる。 「女ってのは甘いものが好きらしいが、旦那、アンタの奥サンはどうだい?」 示し合わせたわけではないが、それこそなんとなく無・名の食事の順番に勝手に付き合っていた弦一が、パイを切り分けていた手をぴたりと止めた。 「……。あいつは……なんでも美味しそうに食べる」 「へえ、そりゃあイイオンナだ」 沈黙。 行き交う人々が奏でる音をBGMに、ふたりは黙ってパイをフォークに乗せ、黙って口へと運ぶ。 同じ屋台で支給されたパイだが、弦一と無・名はそれぞれ別の種類を選んでいた。 甘さ控えめで苦味のある風味のパイにした弦一は、奥歯で噛み締めたそれが予想以上に苦く――そしてもちろん美味だ――、密かに顔を顰めた。 弦一の妻が、なんでも美味しそうに食べるのは本当だ。 けれども彼女には味覚がないこともまた、悲しい事実のひとつ。 それでも食べることを辞めず美味しそうなふりをする彼女と、そんな彼女に美味しいと言わせようとする優しい親友の顔が脳裏を過る。 妻も浄化師になってからは、ほとんど手紙でしかやり取りしていない。 そして妻の唯一の相棒は、外ならぬその親友だった。 (叶うならば、あのふたりとも一緒にここへ来たかった) 頬がとろけるほど甘い、を謳い文句にしたパイを選んだ無・名もまた、その甘さに顔を顰める。 ニコチンを好む舌にはあまりにも甘すぎるそれは、けれどもいつでも無・名の胸中にいる或る女性ならば嬉々として食べるのだろう。 そう考えればこの甘さも悪くはない、と人知れず口角が緩まる。 彼女も同じ浄化師なのだから、もしかしたらこの会場にいるのかもしれない。 女々しいとはわかっていながら、どうしても群衆の中に焦がれる姿を探してしまう。 もしも、いるのならば。 心から祭りと食事を楽しんでいてくれと願わずにはいられない。 (こんなふうに一緒に過ごすなら、あの女がよかった) やがてふたりはパイを食べ終え、そのまま黙々と残りのデザートも味わっていく。 だんだんと空にオレンジ色が染まり出した頃、無・名はテーブルに並ぶ皿をすっかり綺麗にし、食後の一服とばかりに真新しい一本を唇に挟む。 今度は弦一のほうから催促され、一本の煙草と火種を恵んでやった。 「どこの店に投票するつもりだ」 「あー、そうさな……やっぱローストビーフのとこかね。旦那は?」 あれだけの量を平らげたとは到底思えぬ普段通りの歩みで進む無・名の斜め前には、いつも寂寞を背負っているようなフランケンシュタインの背中がある。 互いに同じものを食べ、同じように誰か別のことを想う関係のどこが悪いのだろうか。 満腹になって寝入っている黒猫の少女を背負い、起こさぬようゆっくりと歩く白ウサギの少年の横顔は、どこまでも満足そうだ。 すれ違う。 ああいう関係も美しいのだろう。 だが現状、弦一も無・名も、この付き合い方に不満はなかった。 各々が背負いたいものを背負えばいい。 「金を払えば土産として持って帰られるンだとさ。どうする? 旦那ワイン気に入ってたろ。買うか?」 「ん、いや……そうだな」 投票所として設けられたテントにて一票を投じたあと。 さすがにもう何かを食べるつもりにはなれず、のらりくらりと屋台をひやかしながら無・名は聞く。 少々口ごもってから、弦一はやけにきっぱりとした口調で言った。 「土産はパイにする」 煙草のフィルター部分を噛み締め、立ち止まった無・名は小さく噴き出した。 「俺もちょうど同じこと考えてたぜ」 そしてちょうど、目の前にはパイの屋台。 妻と親友と自分の為に、三人分のパイを弦一は包んでもらう。 三人で一緒に食べる為に。 三人で一緒に食べれば、苦かろうが甘かろうが、きっと美味しいに決まっているのだから。 「うんと甘くしてくれ。ほら、言うだろう? こんな菓子みてぇな夜にしたいって」 店員相手に軽口をたたく無・名は、たったひと切れのパイだけを所望した。 どうせ食べるのは自分ひとりだが、どうせまた彼女のことを考えてしまう。 きっとまた、胸やけしそうなほどに甘く甘く感じるのだろう。 彼女こそが無・名にとっての最高の調味料なのだ。 「っていう、繊細なオトコ心ってやつよ」 「さっきから何を言ってるんだ」
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[3] キールアイン・ギルフォード 2018/10/23-22:37
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[2] ミカゲ・ユウヤ 2018/10/23-01:37
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