~ プロローグ ~ |
浄化師たちがその屋敷に訪れると、無数の死人が折り重なりあい、呪いとなって怨嗟をこだましていた。 |
~ 解説 ~ |
※本文内「演算a??a-?a???。」は、ページ上で実際に文字化けしているわけではありませんので、ご安心ください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
ギヨームさんのイラストをじぃと見つめて書きました。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 袋小路から敵が出るのを妨害する 【行動】 敵を袋小路に誘き寄せたら気づかれないように後ろから通路を塞ぐ 盾を装備し敵が袋小路から出ようとするのを防ぐ 敵が近づいて来たら盾で通路妨害しつつウッドソードで攻撃 【心情】 生贄にする? 生贄にもなった事も無い人が? …勝手過ぎる そんなに生贄が欲しいなら自分がなれば良いのに 私の両親も凄く身勝手だった …愛食い…もしかして、その銀狼食べられた? そして自分も食べて欲しい?(困惑 …どうであれ、理解出来そうに無いなぁ… |
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●セプティム 今回は討伐戦。敵も生きるに値しない悪。ならば遠慮無用で討ち取らせてもらいますよ 敵の数を考慮して袋小路で敵を倒す作戦を実行 「ギヨーム氏がそこに来る」という嘘の情報を拡散したり、焼き討ち用に度数の高い酒を、広範囲に撒けるよう建物の上に用意 作戦実行までは待機 作戦後はグラディウスと戦闘 【裁きⅡ】で強化した【疾風裂空閃】で先制攻撃。打ち上げたところを追撃 敵の反撃も予想されるが、双剣の利点を生かして攻撃を捌いてからカウンターを入れるなどして確実にダメージを与えて討伐します 最後に魔女を討ちとりに向かいます ユウさんに後方支援をしてもらいつつ【裁きⅡ】で強化した身体能力を駆使して接近して切り伏せます |
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目的 魔女を殺す 「大量殺人の常習犯には、いい加減地獄に行ってもらうわよ」 ・指定場所 屋上のある(上に登れる)建物があり、数の優位を生かせない狭い袋小路の中。 ・作戦 敵が予定の袋小路に入ったら、近くの建物等に隠れて待っていたエフドが出口を塞ぐ。ラファエラが伏せて待ち伏せていた高所から酒樽を落として酒をまき散らし、たいまつを投げ込んでゾンビ集団を燃やす。 エフドは主にグラディウスの攻撃を盾で受け、GK4で棍を叩きつける。 魔女には魔法を使ってきた時に盾を投げつけて受けさせ、その間に急接近。 ラファエラは高所からDE6で魔女を直接射る。スクートゥムを魔女の守りに釘付けにするか、魔女を自衛で圧迫するのが狙い。 |
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得られないものを追い求め この先も妄執に囚われて生きる位なら 今ここで引導を渡すのがいいのでしょうか… 尤も そう簡単な相手でもなさそうですが 長く狭い路地へ誘導 ヨナ 協力し浄化師ゾンビを建物の上から魔力感知で探す 発火予定場所の手前で倒し 燃えないようにする FN11 4体を倒したら待ち伏せメンバーの方へ合流 ベ ヨナ達に同行 炎の向きに気を付け 高所での足場探しや移動補助 ヨナ達に集団が向きそうな場合信号拳銃を撃ち発火予定場所に誘導 対ゾンビ以外 盾 同じ場所を集中して叩き脆くなった所をJM11で穿つ 影 顔を重点的に狙い噛みつきの無効化を狙う 魔女 魔法攻撃をまともに受けないよう注意 回避もしくはFN8で相殺試みつつFN11で反撃 |
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~ リザルトノベル ~ |
「ハッピーハロウィン、さぁ、お手並み拝見といこうかな」 ● 死人の腸のなかにいるような、静寂に満ちた夜だ。そこに死臭をかぎ取り、『ヨナ・ミューエ』が顔をしかめた。その横にいる『ベルトルド・レーヴェ』も口から息を吐いている。彼にはこの匂いがキツイらしい。 人払いされた建物のうえで、じっと目を凝らす。 「ううん、見えづらいですね」 と『ユウ・ブレイハート』が呟く。 「そうですね」 ヨナとユウは魔力感知でやってくるゾンビのなかから浄化師の死体のみ探そうとしているのだ。 浄化師の持つ魔力は普通よりも桁が違うので、エレメンツの目が見ればすぐわかる、はずだった。 死亡した人間の魔力は少ない――それは過去の忌むべき文献に記載されている。そのうえ、ゾンビはすべて魔女の魔力によって動いているため、見分けがつかないようにされている。 「困りましたね」 「そう、ですね……みんなが待機しているところまででなんとかしないと」 ヨナが奥歯を噛み締め、苦虫を潰す。 「おい、あれ」 ベルトルドが低い声を漏らす。 闇の中に動くゾンビたちのなかで、鮮やかな教団の制服が目立っていた。 「わざと、でしょうか?」 「わからないが、燃やすわけにもいかないからな」 「はい。得られないものを追い求め、この先も妄執に囚われて生きる位なら今ここで引導を渡すのがいいのでしょうか……尤も、そう簡単な相手でもなさそうですが」 相手は知識があり、見た目は人の姿をしているのだから。 けど、そんな相手は今まで何人も相手にしてきたはずだ。 「行きます」 ヨナが小さく呟き、スカートをひらめかせて闇へと飛ぶ。 ユウは杖をぎゅっと握りしめる。 (アクイの魔女にもそうするだけの理由があるのかもだけど……それは犠牲が多すぎる方法だから絶対認めるわけにはいかない。だから、あなたの願いも想いも踏みにじらせてもらうわ) 腹の底から力をこめて、ファイヤーボールをゾンビ一体へと放つ。 一体を消してしまえば、次が待っている。これでヨナたちが浄化師の死体を狙う手助けになればいい。 次の炎を放とうとした瞬間、鋭い痛みが肩を貫いた。 「っ!」 ゾンビたちの間から一本の矢のように現れた剣がユウの肩肉を抉った。 狙うは浄化師の死体のみ。 回収するためにも一撃で首を叩き落としたヨナに鋭い牙が襲い掛かってきた。はっと息を飲み後ろへと回避しようとするが、頬を掠め、後ろへと叩きつけられる。 「ヨナ!」 ベルトルドが叫ぶ。 黒い狼が佇み、牙を剥く。 「っ、死体の間に隠れて、いた?」 どうして、浄化師の死体のそばに集まっている? ヨナが急いで魔方陣を作り出そうとするのを尻尾を鞭のように振るい集中力を削いでくる。 「くっ!」 ヨナの盾になるためベルトルドが前に出ると巨体を使い、体当たりが襲う。 ベルトルドは腕をクロスさせて盾として防ぐが、後ろへとずるずるとおいやられた。 「きゃあ!」 ユウの叫び声にベルトルドが舌打ちする。 ユウを襲うのはグラディウスだ。鋭い剣の斬りこみを杖でなんとか耐えると、その隙をついてスクートゥムが飛び出し、体当たりをくらわせる。よろけたユウの足をゾンビたちがつかみかかる。 「っ!」 急いでファイアーボールで掴みかかるゾンビを一体倒す。が、足に鋭い痛みが走って、はっと見ればグラディウスが、ユウの足首を深く切り裂く。鮮血。倒れるユウを盾が容赦なく押しつぶす。 「あ、ああっ! ……う、ぐっ……っ」 ぐ、きっ――骨の折れる音、唇から血が吐き出され、ひゅーひゅーとユウの口から息が零れる。 「あちらへ行ってください! 私は平気ですからっ」 焦ったヨナの声にベルトルドがウンブラを渾身の力で弾き飛ばし、ユウに駆け寄る。 「うおおおっ!」 猛る声とともに向かえば、グラディウスに拳の一撃を叩きつけようとするのを察して向きを変えた。 鋭い矛先がベルトルドの拳を貫く。 利き手の肉が裂け、骨にひびがはいる痛みを奥歯を噛んで耐え、左拳を放ち、地面に伏せされる。 がくん、がくんとグラディウスが地面で揺れながら足へと向かってくる。足払いを、とベルトルドの背中に鋭い痛みが走った。見ればスクートゥムが体当たりをして、後ろへ逃げないように密着する。 「っ!」 「足を狙っちゃだめだよ? 逃げれなくなるから」 死闘に似つかわしくない、鈴のような声にベルトルドが視線をそちらへと向けた。 赤い頭巾をかぶった少女が微笑んでいた。 とたんに背中への痛みが消えた――スクートゥムが離れていた。 「さぁ、はやく、倒れている子を抱えて逃げないとゾンビたちが食べちゃうよ?」 「お前は……」 彼女は目を細めて微笑んだ。 ベルトルドは急いでユウに駆け寄った。 「これでっ!」 ヨナがエアースラストをウンブラのむき出しの牙へと放つ。下あごから牙が風によって消し飛び、勢いは衰えたがウンブラの巨体は宙を舞い、のしかかる。 「!」 避けたいが周りをゾンビに囲まれている。 幸いにも狙いが少しばかり逸れて、押し潰れることはなかったが地面に転がったヨナは擦り傷だらけになっても気にせず、急いで立ち上がる。 「あ」 ヨナは小さな声を漏らして、ウンブラの頭を撫でる少女を認めた。 すぐにエアースラストを放とうとするヨナに。 「それを放つとキミの下半身をこの子が吹っ飛ばすことになるけど、構わないかな?」 「……ずいぶん余裕ありますね」 「うーん、ボクが必要としている死体の数を書いた資料はキミたちの手に渡らなかったのかな? それに大量のゾンビでの隠蔽工作とか含めて対応策ぐらい考えると思ったんだけど」 アイボリーの髪を揺らして現れた少女にヨナは息を飲む。 その見た目は自分とあまりにも変わらない。いや、むしろ、ヨナよりも幾分幼い。 年齢としては十歳ほどと聞いたが、痩せた肉体は憐みすら覚えるほど弱弱しくも見える。 「浄化師の死体をボクは必要としている、つまりね」 にっと魔女は笑った。 「ボクの狙いはキミたちなんだよ? 浄化師の死体は囮。少し難しかったかい?」 「っ! まるでヒントを与えているような言い方ですねっ」 「そうだよ」 怒気を孕んだヨナの言葉をあっさりと魔女は肯定する。 「君たちが気が付いて対応してくるか、賭けだけど」 「あなたは……殺したいんですか、それとも殺されたいんですか? または生きたいのか死にたいのかを、聞かせてください。私自身のためです」 「逆に問いかけよう。教団にいる君は生きているのかい? パパとママの希望を叶えるためかい? パパとママの嘘を未だに信じているじゃないのかい?」 ヨナが渋面を作り、魔女をじっと睨みつける。 「心を読んだわけではないよ。ただなんとなくそう思ったから口にしただけさ。ふふ、君の問いへの対価は君のその顔で十分だ。ボクはね、ただ人のように生きたいだけだよ」 「人のように……?」 非難じみた声になるヨナに魔女は小首を傾げた。 「君はまだ心から愛したことがないんだね。……恋をしてごらん、それがきっと答えだ」 「なにをっ」 ヨナが声を荒らげようとした瞬間、ぐいっと肩を掴まれた。周りのゾンビたちをベルトルドがユウを抱えて、牽制しているから自分が無事なのだとヨナは理解した。 「あまり意識を持っていくな、死ぬぞ!」 「ベルトルドさん、わかってます、けど……けどっ!」 牙を剥いて怒鳴ってくるベルトルドにヨナも噛み付いた。 上から下された命令だから魔女と対峙するのではなくて、自分の意思でヨナはここにいるつもりだ。 「過去の教団の所業についてお前が責任を感じる必要はない」 低い声にヨナは下唇を噛む。 「指令だと考えずにやり続けたら、どれだけラクか……けど、それだと……私は人じゃなくなってしまうっ! いいえ、今まではそれでよかったんです、よかった、はずなのに」 「指令の内容通り考えれば人に仇なす狂った魔女の討伐、犠牲者を憐れみ、悪を断ずる」 頭から降ってきた言葉にヨナは反論しようとして、ベルトルドの渋顔を見て口を閉ざした。 「……そんな風に考えられればどれほど楽か……生き残れるほうを選べ」 「考えます。考えて戦います」 誰かに責任を押し付けるのはもう飽き飽きだ。だったら考えて戦うしないじゃないか。 ヨナがエアースラストを放ちゾンビの動きを牽制し、ベルトルドがユウを抱えて仲間たちの待つ場所へと向かう。 走る、走る、ただひたすらに走るしかない。 ● 「まだかしら」 『ラファエラ・デル・セニオ』が小さな声でいらいらと呟く。 今回は袋小路に追い詰める作戦のため、建物の屋上で待機することになっている。一番の肝である彼女は一人だけの待機だ。こんなとき、いつも黙って愚痴を聞いてくれる相棒がいないことがもどかしい。 こんな風に内側から興奮することは今までにない。 人を、殺したことはない。殺したいとも思わない。死に慣れたいわけでもない。 「……大量殺人の常習犯には、いい加減地獄に行ってもらうわよ」 自分自身に言い聞かせる。 「生きてる限り人を食い物にし続ける屑共は間違いなくいるのよ」 それが今回はたまたま人のようなものだっただけのことだ。 「来た……?」 ラファエラは走る仲間を見つけた。 大量の敵を袋小路に追い込めば逃げることは出来ない。挟み撃ちにすれば炎によって燃える。そのための準備は十分にしてきた。 『エフド・ジャーファル』『セプティム・リライズ』は右手の建物、反対側に『ユーベル・シュテアネ』『灯火・鴇色』が待機している。 よく冷えた夜の寒さをエフドとセプティムは武器を手に握り耐えていた。 「ラファエラ、いらいらしてそうだな」 「仲がいいんですね」 「相棒が心配じゃないのか?」 「ユウさんは大丈夫だと思いますが……来たようですが……あれは、ユウさん?」 走るヨナとベルトルドの腕に、ぐったりとしたユウがいたのをセプティムは認めた。 「来たようです、お狐様」 ぐっとユーベルが剣を握りしめる。 生贄にする? 生贄になったこともない人が身勝手なことを口にしている。頭のなかでそんな怒りが広がり、燃え続けている。それを言葉にしてしまったらユーベルは止まれなくなりそうで、何も言えない。 (そんなに生贄が欲しいなら自分がなれば良いのに……私の両親も凄く身勝手だった) 沈んでいく思考を灯火の努めて明るい声が救い上げる。 「そのようだな。聞けば、この魔女は、自分のことを食えというそうだ」 「え?」 「自分を食べろとは面妖だな。戦い方といい、もしや自殺願望があるのでは? まぁ、どちらでも構わないか」 「……理解出来そうに無いなぁ……」 「そうだな。俺はただ、人が平和に暮らせるならそれでいい。来たようだぞ」 ● ヨナたちが進む先は壁だ。 初手で失敗は多少あっても、まずはゾンビをどうにかすることが第一だ。 「ヨナ!」 ベルトルドが手を差し出してくれるのに疲れ果てたヨナは最後の力を振り絞って手を伸ばし、握りあう。 あらかじめ用意していた壁の箇所に重ねておいておいた箱をベルトルドがヨナとともにのぼり、上へと行く。本来は屋上までいく予定ではなかったが、ユウをはやく安全な場所へと運ぶためにも必死に上を目指す。 それを理解したラファエラが手を伸ばした。 「どうしたのよ! 手を、はやく!」 「すまん!」 ベルトルドがラファエラの手を借りて上によじ登る。転がるようにして屋上に到達し、ユウを横にする。 「気道を確保してくれ。ヨナ!」 「はい」 医学をもつベルトルドがユウに応急手当を施そうと必死になるのにヨナも従おうとすると、今さら手が震えた。ぐっと強く握りしめてヨナは息を吸い込み、動いた。 「やってくれるじゃない……!」 傷ついた仲間を見てラファエラが音がするほど奥歯を噛み締め地面に呻くゾンビたちを睨みつけた。 酒樽を乱暴に蹴って転がす。 「帰るべきところにいきなさい!」 強烈なアルコールの香りが広がるのにたいまつを落とす。 あらかじめの打ち合わせ通りゾンビが入りきるのにユーベルと灯火が逃げ道を防ぐ盾となる。その背をエフドとセプティムが守りに入る。 「どちらがいいですか?」 「防ぐなら任せろ。剣はもらうぞ」 「では、僕も」 二人の前に浮かぶ盾と剣。 真っ先に飛んできたグラディウスの攻撃をエフドが防ぎ、『迎エ討チ』で押し返し、さらにダメージを与える。弾かれたグラディウスを横からセプティムが『疾風裂空閃』を放つ。 が、スクートゥムがセプティムの剣を弾くと、大きく垂直に回転した。剣を弾きとばそうとするのにセプティムはバックステップを踏もうと――その足を鋭い爪がひっかいた。 「っ」 黒い猟犬が盾の影に隠れて前へと出る。それを双剣の利点を生かして、捌いてセプティムは後ろへと逃げ切った。 エフドとセプティムは背を預け、息を吐く。 「こいつらっ……!」 「連携してますね」 「多少、厄介かもな。おい、あれが」 「……魔女」 二人の前に赤い頭巾をかぶった少女が現れ、微笑む。 「こら、ウンブラ。足は狙っちゃだめだよ? 逃げれなくなっちゃうからね。ああ、けど、キミたち……思ったよりも、愚かだったようだね」 魔女が小さなため息をついた。 「なんでも燃やせばいいと思うのは自分たちが奪われたから? 自分たちがそうされたから? それで今度は奪う側にまわったのかい?」 「生かす価値もない魔女が、戯言を」 セプティムが吐き捨てると魔女が目を細め、睨みつけた。 確かにそのとき悪寒をエフドとセプティムは背に覚えた。 「……まぁオイタ程度は寛容しよう。ただし、自分たちの行動が招く結果を一寸も考えつかないのはいただけない」 「なにを」 「この世界に炎の被害によってどれだけの人々が苦しんでいるのか知っていてその最終手段を容易く選ぶなら、よろしい、お前たちの愚かさを知らしめよう」 彼女は暗い目をして吐き捨てた。 「なによ、燃えきらないじゃない!」 ラファエラが苛立ちの声を漏らした。 酒をまき散らし、たいまつを落とした。火はついた。しかし、密集したゾンビたちは炎によっても燃えきらない。 ユウの援護がないせいだけではない。 「なんでよ……っ」 早く仲間のフォローにまわりたいラファエラは舌打ちする。 今回は新人もいる。 ユーベルは話した限り、敵に思うところがあるようで、熱くなりすぎて大やけどを負ってしまいかねないと危惧もしているのだ。 炎が。燃える。踊る。死人たちが声なき声をあげ、炎をまき散らし、助けを求めるように体当たりを食らわせる。 ユーベルと灯火は熱を持った体当たりに耐えかねていた。 「っ」 「シュテアネ!」 盾から火の熱がじわじわと伝わり、持ち手を握る掌の皮膚が焼ける痛みに震えるユーベルを見かねて灯火が抱えて離れた。 痛みに気絶するユーベルを灯火が抱える。 自由になったゾンビたちは救いを求めて、焼かれたまま彷徨い始める。 あーあーあーあ。 あーあーあーあああああああ。 救いを求めるような声がゾンビたちからあふれて、響いて、――不協和音となって響く。 ● 「火というものはね、酸素によって燃えているんだよ? いくら魔術を使ってもその原理はかえられない。あんな狭く密集した場所では酸素量が足りない。 それに人の肉体っていうのは1000度から1100度でようやく一時間かけて燃えるんだ。たかだか松明の火程度で全部燃えるはずないんだよ」 魔女がため息をついた。 「急激な温度の変化で声帯をふるわせて零れている声は、まるで歌っているようだね」 魔女は浄化師たちを見据えた。 ● 袋小路に追い込むはずが、逆にあふれるゾンビたちに背をとられて挟み撃ちとなったことにエフドたちは若干の焦りを感じた。 一体、一体を倒すことはたやすいが、いかんせん数が多すぎる。 意識を失くしたユーベルを抱える灯火が目を眇めた。 「どうしたものか」 「確実に首を狙って落とす、ことでしょうか」 セプティムが冷静に言い捨て、ゾンビが手を伸ばしてきたのを剣でつき刺し、もう片方の剣で首を叩き落す。 ぞろぞろと謳いあげるゾンビたちが迫り来る。 ● 「だったら大本を狙えばいいのよ!」 ラファエラがハイパースナイプで真っすぐに魔女を狙う。 それを庇ったウンブラは右前足が吹っ飛ぶが動じることはなく、自分の落ちた前足を踏みつぶす。 ウンブラの目がラファエラの位置を捕えた。 「っ!」 ラファエラが再び狙おうとするのに魔女の身がゾンビたちの間に消えた。 「まずはゾンビを狙いましょう!」 ヨナがラファエラの横に立つと眼下に見える炎の海を見た。 まるで、ああ、これは。 「地獄じゃないですか」 ● 燃える灼熱のなかで盾と剣を振るい、セプティムとエフドは酸欠に陥りかけていた。 その間にゾンビたちがあっちへ、こっちへと彷徨い始める 被害を広げないためにゾンビを狙おうとすると横からウンブラが体当たりを食らわせる。片足のないそののしかかるような体当たりを仕掛けてくる。 セプティムとエフドの二人の間に意識を失くしたユーベルを抱え、庇う灯火は動くに動けない。 仲間を庇うしか選択肢のない状態にエフドが盾で必死に重みに耐える。震える足と手に全身の力をこめる。 腕の骨が悲鳴をあけ、灼熱の痛みが広がる。 セプティムも必死に剣を握り、盾を支える。 「うおおおおっ!」 「っ! 守りをっ!」 セプティムが叫ぶ。 押しのけた重みが晴れた瞬間、何もかも貫こうと浮かぶグラディウスが回転をくわえて落ちてくる。 「っ!」 灯火が鎌を握り、横から叩き軌道を変えようとするが、回転をくわえた勢いは削げることはなく、真っすぐに、命を狙う。 「させないわよっ!」 「させません!」 ラファエラがグラディウスを狙い、ハイパースナイプを。 ヨナがエアースラストを――放つ。 狙いは外れることなく真っすぐに向かっている――が、その前にスクートゥムが飛び出す。二つの攻撃を受け、みし、みしっと音をたててひびをいれ、空中に弾き飛ばされた。 回転をくわえた落下の威力にセプティムとエフドが地面に転がされ、逃げ場がない灯火とユーベルをグラディウスは貫く。 ユーベルを庇った灯火は左肩の肉を抉られる。 「ぐぁああああっ!」 「あ? ……お狐様? あ、あああ! お狐様、お狐様っ! いゃああああ!」 ようやく気が付いたユーベルは血を流し、ぐったりとした灯火を胸に抱き、子供のように泣きじゃくりながら血塗られた剣を睨みつけた。 「っ」 口を開いても、叫びたいのか、怒声をあげたいのか、自分でもわからない。 ● 不協和音のなか、透明なウタが聞こえ始める。 「魔女が、魔法を使おうとしてるの? ……止めなくちゃ、急いで……っ!」 もう立つのすら危ういほど体力も気力もすっからかんのラファエラの手は震えていた。 世界がくらくらと揺らぐ。 ● 息するたびに喉が焼け、苦しくて膝をつくエフドとセプティムは魔女を見た。 アイボリーの髪を振り払い、赤い頭巾の魔女は歌い、そして踊った。 ぶちぶちと。髪の毛を引きちぎる。 「もういい加減、すべてを終わらせよう、か」 魔女は囁き、魔法を発動させた。 ● ぽつん、ぽつんと額に、頬へと冷たい何かがしたたる。 ユーベルが見上げると、真っ黒い雲が広がり、いくつもの雨粒が涙のように零れ落ちる。 「炎はなぜ燃えていると思う? それはね、酸素さ。炎と炎で向かい合えば酸素を互いに食らいつくして消えるしかない。雨はなぜ降ると思う? 水蒸気の発生さ。熱で空気中の水分を浮かせ、ある一定の重みを含んだ水だけが落ちてくるんだよ。……原理を理解していてもこの手の魔法を使うと疲れてしまうね」 アクイの魔女はそう呟いて疲れたため息をついた。彼女の小柄な肉体をウンブラが支える。 「待って! どうして、どうして……っ!」 震える声でユーベルが口にする。 ゾンビたちが密集して炎が小さくなれば、そして雨が降ればこの一帯の被害はないだろう。 「今回は時間切れだよ。約束の時間を過ぎてしまった。……それにボクは君たちみたいにすべてを滅ぼしたいわけじゃないよ? ただ……たった一人だけ恋した相手を取り戻したいだけ。そのための犠牲ゆえに罰を受けることは覚悟している、詰られ様が、罵られようが、殺され様が、ぜんぶ、覚悟している」 アクイの魔女は少しだけ憐みをこめて笑う。 「君たちは幼く愚かだ。自分たちの行動の結果も考えられない。これでは世界を滅ぼしたいと願う者と同じじゃないか。違うというなら、もっと頭を使え。学び、考え、疑い続けて本当を見つけて、信じ、そして識るといい。 それがボクから君たちのプレゼントだよ。ハッピーハロウィン。ああ、ごめんね、銀狼……目の前の子供を優先させて、君との再会はまた、次だ」 アクイの魔女を乗せて狼がよろよろと歩く。それに巨大な盾と剣が寄り添う。 止める間もなく、魔女と使い魔は夜の闇に消えた。 雨が降り、焼けただれた死体ばかりが空虚を抱えて転がっていた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[23] エフド・ジャーファル 2018/11/03-20:14 | ||
[22] ヨナ・ミューエ 2018/11/03-18:19
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[21] ユーベル・シュテアネ 2018/11/03-16:27
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[20] セプティム・リライズ 2018/11/03-14:44
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[19] セプティム・リライズ 2018/11/03-14:44 | ||
[18] ユーベル・シュテアネ 2018/11/03-10:57
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[17] ヨナ・ミューエ 2018/11/03-03:00 | ||
[16] ユーベル・シュテアネ 2018/11/03-01:02 | ||
[15] エフド・ジャーファル 2018/11/03-00:28
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[14] セプティム・リライズ 2018/11/02-18:39
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[13] ヨナ・ミューエ 2018/11/02-18:14
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[12] ユーベル・シュテアネ 2018/11/02-12:25
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[11] ユーベル・シュテアネ 2018/11/02-12:22
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[10] ユーベル・シュテアネ 2018/11/02-12:22
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[9] エフド・ジャーファル 2018/11/02-02:29
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[8] ユーベル・シュテアネ 2018/11/01-22:06 | ||
[7] ラファエラ・デル・セニオ 2018/11/01-20:35 | ||
[6] ユーベル・シュテアネ 2018/11/01-19:24 | ||
[5] セプティム・リライズ 2018/11/01-17:52
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[4] ユーベル・シュテアネ 2018/11/01-00:16
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[3] ユーベル・シュテアネ 2018/11/01-00:16
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[2] ユーベル・シュテアネ 2018/11/01-00:16
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