~ プロローグ ~ |
「え? 知らないの? 最近教団内でも噂になってるんだよ、その占い師! それがさあ、よく当たるんだって!」 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、GMのozです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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※アドリブ歓迎します ※9話、42話参照 (僕は…ずるくて愚かだ。ララエルにここまで言わせて、 でも意味も教えず体だけは弄んで、彼女が何も言わない事を良い事に深くまでキスして、…僕は、僕は僕は…!) (僕はララエルに言わなければならない) …ララエル…! 君は僕との赤ん坊が見てみたいと言ってくれた。 でも、赤ん坊を作るにはララが気が狂いそうな経験に耐えないといけないんだ。 そうして長い時の後、壮絶な痛みの後生まれてくるんだ。 だから君の歳ではまだ早いんだよ…! これじゃ、君の体が壊れてしまう。 ララ…馬鹿だな、もうっ…! (ララエルの事を抱きしめ涙をひとつ流す) |
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ヨナ てっきり何か占って欲しい事があると思って付いて来たのに 占い師を見たかっただけだなんて 案外俗っぽいですね 相性占い?しませんよ(は?という顔 そうですね…私達の事ではないですが気になる事ならあります 魔女達の今後についてです このカードは良い意味なのですか? 最近色々あったので… 良い兆候があるならそれで充分です お祈りなどではなく実働しないといけないことですので 良くなればいい気持ち先行して食い気味 ベ こういうのは話題性だ。まあ…占い師が美人と聞いてな 蔑みの視線を感じる そういえば何を占うかまで考えていなかった む、では何ならいいんだ カード 別でも可 過去 審判 逆位置 現在 月 正位置 未来 星 正位置 アドリブ〇 |
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~ リザルトノベル ~ |
●たゆたえど沈まず 秋色に染まった銀杏の葉を連想させる天幕の前に『ラウル・イースト』と『ララエル・エリーゼ』は二人でお喋りしながら並んでいた。通りに植えられた広葉樹は紅葉した葉を落とし、寂寞感を漂わせている。 円形の天幕はサーカスのテントのように華やかだ。 ただでさえ目を引く色なのに行列ができていれば、往来する人々も興味深げ視線を向けてくる。 「私達の番まで後少しですね!」 「こんなに多いとは思わなかったよ……一時間ぐらい待ってるよね」 ララエルはワクワクした様子で弾んでいた。彼女のパートナーであるラウルは時計塔で時間を確認しながらもっと早く来るべきだったと内心肩を落としていた。 「ラウルとたくさんお喋りできましたし、待った分だけ楽しみです、私!」 そう嬉しそうにララエルに言われれば、ラウルは何も言えなくなる。 残りは一人となり、落ち着いた黒檀調の扉の前で待つ。 「ラウル、私もカルメンさんに占って欲しいです! いいですか?」 「ああ、構わないよ」 ララエルの腕を引きながらのお願いにラウルは快く頷いた。 「だけど、何を――」 ――次の方、どうぞ。 凛とよく通る声だ。 「私達の番ですね!」 ララエルは楽しそうに天幕へと入っていくので、ラウルは何を占ってもらうのか聞くタイミングを逃してしまった。 (やっぱりララエルも女の子だから、恋愛運とか占ってもらうのかな……?) ラウルは勝手に納得してしまい、ララエルの後をついて天幕へ入る。扉を開けると、天蓋付きのベッドのような空間が広がっていた。 天幕内には円形の蚊帳が釣り下げられており、薄月夜のシフォン生地は繊細なガラスのような透明感と柔らかさ。その透き通った素材を生かすように刺繍が施され、ところどころに星の飾りがあるのも可愛らしい。 深いドレープは誰かが入る度に、風が入る度に揺れる。湖面に移った夜空が揺れているようだ。 「ふわあっ……中は暖かいですね、お外は寒かったので嬉しいです!」 「そうだね、ここはまるで秘密基地みたいだ……!」 閉じきったカーテンを開けて先に進むと、天幕の中は思っていたよりも広かった。 木の棒が細かくひし形に組み合わされ、骨組みができていることが分かる。中央には二本の柱があり、これが屋根を支えているのだろう。その柱の真ん中には薪ストーブが置いてあり、天井の天窓に煙突が通す構造となっている。 ラウルは好奇心を擽られたように、ララエルもまた素朴ながらも素敵な室内に思わず足取りが軽くなる。 「ラウルはテントが好きなんですか?」 「なんだか隠れ家みたいで冒険している気分になるというか、ここにハンモックがあったらいいと思わない?」 「より素敵になりますね! こんなに素敵なテントですものね、……ほらラウル! 上を見てください! 天窓にあるのは宝石でしょうか?」 「ああ、本当だ。六色もあるなんて贅沢だなあ……」 ララエルが指差したのは、円形の天窓だった。天窓の枠には色の違う宝石が嵌められているのを見てラウルは感心していた。 室内は穏やかで優しいのに不思議な華やかさがある。 八角瓶のペンダントライトは美しい光と紫水晶のようなガラスが反射しあい、神秘的な空間を作り出している。 暖炉の奥には底につくほど長いベロア風のテーブルクロスは簡易テーブルを隠してしまっている。 漆黒のテーブルクロスは無地だが布そのものに光沢がある。裾全体に金の刺繍とタッセルがこの部屋の雰囲気によく合っていた。 テーブルの上には満月のランプが月明かりのように辺りを照らし出す。 その後ろに座っている黒いフードを被った女性が静かに椅子の上で二人を待っていた。 噂に違わず、花の女王のように凄艶な女性だった。服装は至って飾り気のない装いなのに本人が大輪の薔薇のように艶やかだからか、服も上等な品に見える。 顔を覆い隠す黒いローブにうっすらと透ける紫のフェイスベール。フェイスベールの奥に見える口元は柔らかな微笑が見える。 彼方の月の下で咲き誇る大輪の薔薇が人になったかのようだった。 不意に繊細で優美な香りが漂うことに気づいた。 落ち着く香りなのに花のように甘く、棘があるように触れがたさが残る不思議な香り。 それは女性の背後にある香炉からだった。年季の入ったチェストの上に綺麗に佇んでいる。香炉から立ち上る煙は羊の毛のように靡かせて天窓へ流れていく。 「お待たせしました。お二方、こちらにお掛けになって」 ふっくらと艶のある落ち着いた声は、人を引きつける響きがあった。 二人は目の前に置かれた椅子に座ると、カルメンは良く通る声で語りかけてきた。 「ようこそいらっしゃいました。私はカルメン、今日は何を見て欲しいのかしら?」 「あの、カルメンさん! 私とラウルに赤ちゃんはできますか?」 「な、ララっ!?」 一瞬静まりかえる室内でララエル一人だけがきょとんとしていた。 「何か私おかしなことでも言いましたか、ラウル?」 「いや、えっと、その……――」 ラウルは何か言わねばと焦れば焦るほどに言葉が出てこない。 「可愛らしいお嬢さんにその手の知識を教えてあげるには男性の貴方には酷と言うものね……」 心なしか目を瞠るカルメンは微笑を浮かべたまま困ったように頬に手を当てる。 その間もラウルは絶句し、口をぱくぱくと鯉のように開けるだけで意味のある言葉を紡ぐことができないでいる。 その蠱惑的な美貌がふんわりと優しげな微笑に変わる様にララエルは思わず見入ってしまう。同性であるララエルもドキッとしてしまう大人の色香だ。 「可愛らしい願いね。貴方にとって大切な願い事も含めて今からこちらも貴方の未来を読み解かせてもらうわ」 カルメンはテーブルの中央に置かれているタロットカードの束を一瞬で円状に崩しててしまうと真剣な表情でシャッフルする。手際よく完全にばらけてしまったカードをまとめ直すとタロットを三つの山に分けていく。そうしてカルメンの指からカードが引かれるのをララエルはドキドキしながら待っていた。 真っ先に死神の絵が現れる。 その不吉な絵柄にラウルはぎくりとした。そんなラウルの内心を見透かすようにカルメンが口を開く。 「大丈夫。この位置は過去ね。これは過ぎ去ったもの。そもそも死神は不吉な印象を受けがちなカードだけど、ネガティブなものじゃないわ」 不安を解消する為、カルメンは分かりやすく説明する。 「確かに死神は死を象徴よ。死とは一つの終焉であり、同時に再生をもたらすもの。死神が凱旋しているように見えるでしょう」 カードを指差すと、死神が白馬に乗っている姿が描かれている。その手に持っているのは命を奪う鎌ではなく薔薇の絵が描かれた旗だ。 「死による勝利とも受け取れるわ。これは貴方の過去。貴方はアンデッドではないかしら?」 ララエルは目を見開き、動揺した気配を露わにする。 「どうやら貴方の触れられたくない部分に触れてしまったようね、ごめんなさい。答えたくないなら答えなくて大丈夫よ」 カルメンは安心させるように微笑んだ。ララエルもぎこちなく笑みを返す。 「死神が正位置にある時は、ターニングポイントや転機を迎えたことを暗示しているわ。貴方に何らかの大きな変化が訪れたのね」 改めてラウル以外の誰かにアンデッドだと指摘された事はララエルの胸に刺すような痛みを与えた。だが、淡々と歌うように紡がれるカルメンの声を聞いているとその痛みが不思議と洗い流されていく。 「それは貴方にとって身を切られるような辛さを伴ったでしょうが、抵抗できない流れに貴方は静かに時が過ぎ去ることを待たなければならなかったのね。同時に一度切れた関係が二度と交わることがないということも示しているわ」 声音にまるで魔力を持っているようにララエルの意識をカルメンの方に引き込んでいく。 「何かを終わらせなければ何も始まらないもの。だから、未来を恐れないで。変わっていくもの、変わらないもの。そのどちらにも悲しみや喜び、不安、恐れが在っていいの。そのままの貴方の感情を認めてあげなさい。大事なものは『今』よ」 自分を卑下するなと力強く言われている気がして、ララエルは無意識に頷いていた。 ラウルはカルメンが占いの結果を語る間、何もできずにいた。 あの全てを見透かすような眼差しに見られるのが耐えきれず、ラウルは隠し事をしたまま黙り込んだ子供のように足下に視線を彷徨わせた。 (僕は……ずるくて愚かだ) 雨に濡れて過ごした一晩の事をラウルは思い出していた、 ララエルの白い雪のような肌に触れた時、後ろめたさと恐ろしい程の歓喜をラウルは感じていた。 雨に濡れて表面が冷えていても身体の奥から熱を発する肌はララエルが生きている証。 手に触れるしっとりと水気を含んだ柔肌の吸い付くような冷たさ。折れそうに細くしなやかな肢体を撫でれば、二人の境界線がなくなり融けてしまいそうな感覚に襲われた。 桜色の唇から発せられた甘い声に息を呑み、上気した頬に欲情し、その白い首がのけぞるのを見て衝動的に噛みつきたくなった。 一方的なキスだった。びくりと細い肩を跳ねさせ、上目遣いでこちらを伺うララエル。 受け身だったララエルに互いの隙間を埋めるように唇を奪った。何処にも行く宛のない口付け。息を弾ませたララエルの吐息が離れていくのも名残惜しみながら唇を離した。 彼にとって未だ庇護対象であるララエルに深く口付けを交わした瞬間、何も知らないララエルの肌に触れたことを後で後悔するだろうと分かっていても、触れずにはいられなかった。ララエルに教えることができるのは自分だけなのだと仄暗い悦びを感じていたことを彼女は知らないだろう。 それでもララエルが無防備に委ねてくる信頼を失いたくないからこそ、それ以上何もできなかった。 そうでなければ自分はどうしただろうか。 愛おしいからこそ心の柔らかい場所を鋭い痛みが貫く。その時を選ばぬ鋭さに胸を掻き毟りたくなる。 (ララエルにここまで言わせて、でも意味も教えずに体だけは弄んで、彼女が何も言わない事を良い事に深くまでキスして――……僕は、僕は僕は……!) 頭の中に自分で自分を詰る声が聞こえる。身体中がカッとなったように羞恥と罪悪感で熱くなっていた。 「あら、世界の逆位置ね」 「それは良いカードなんですか?」 「良い事も悪いことも受け取り手によって変化するのよ」 ララエルはこてんと首を傾げると、カルメンは愛おしげに指先でカードを撫でる。 「後一歩のところで上手くいかなかったり、前に進みたいのに進めない現状を示しているわ」 「なんだか悪い意味です……」 ララエルがあからさまに肩を落とすと、カルメンはくすりと笑ってこう続けた。 「そう落ち込まないで、これはある一面でしかないわ。同時に諦めなければ望みが叶うことも暗示しているわ。実現するまでには長い時間が必要だけどね」 「本当ですか!?」 「ええ。逆位置だからといって必ずしも全てが悪い意味になるというわけではないの」 ララエルが弾むような喜びを表情いっぱいに浮かべる。 「このカードは本当の幸福は自分一人では成り立たないことを意味しているの。幸福は他者との繋がりの中にあることを表しているの。一個人の希求だけでなく、関わり合うもの含めて貴方の生涯かけても成し遂げたいことを大事にしなさいと伝えるアルカナなの」 「悪い意味だなんて言ってごめんなさい。とても素敵なカードですね!」 ララエルがそうカードの頭を下げると、カルメンも心なしか嬉しそうに微笑んだ。 「だからね、子どもが生まれるかどうかではなくて……そうね、貴方がこれまで歩んできた人生を……――貴方が本当の強い願いの為にどれだけ懸命に生きてきたのか。どれだけ必死だったかを労うアルカナでもあるの」 優しい声音だった。それは今まで険しい道をここまで歩いてきたことを同情しているわけでなく、ただカードの声をカルメンが伝えているように聞こえた。 「今は結果が伴わなくて焦ったり不安になったりすることもあるでしょう。独りよがりに願望を満たそうと躍起になって一人で行動してしまうんじゃなくて、貴方が大切な人と一緒に幸せになってゆける道が他にあるのだとカードは伝えてくれているの」 「カルメンさんの言葉を聞いてるとなんだか心がじんわり温かくなって、勇気が湧いてきます!」 「ふふ、ありがとう。そう言ってもらえると占い師冥利に尽きるわ」 ララエルとカルメンが穏やかに盛り上がっている中、ラウルは一人沈み込んでいた。 カルメンが言った「独りよがり」という言葉がラウルには痛烈過ぎるほどに響いた。頭の中を直接殴られたような衝撃だった。 ララエルの顔を見ることができず、ラウルはずっと俯いた。それが卑怯な行為だと分かっているから固く握りしめた両手が震える。 ララエル、ごめんなさい。 心の中でララエルに向かって何度も謝り続ける。頭の中で何度も許しを乞うているのに、ラウルの口は貝のように重たく閉じられていた。 ララエルに抱いている感情は綺麗なものばかりじゃないのは自分がよく分かっている。どろどろとした醜い感情がなくなって彼女を愛することができれば、どんなにいいか。 なんて自分は愚かで弱いのか。 いつも自分一人だけで何もかも背負おうとして失敗して。 その癖、ぎりぎりのところで耐えきれなくなってララエルを拠り所にして。 後少しのところで何かのせいにして決断を投げ出してしまう弱い自分が嫌いだ。 いつだってララエルを守っているつもりがララエルに守られている。 (これじゃあ逆じゃないか! ララエルの隣にふさわしくないのは僕の方だ) あれほど自分を守ると思い詰めて健気なまでにひたむきなララエルがベリアルになろうとするまで追い詰めてしまったのは自分なのだ。 (それでも僕は君の手を離したくない。傷つけたとしても隣にいたい) 取り返しのつかないことをしてしまったと後悔が苦く残り、心に刺さった棘が良心を苛む。 (……僕はララエルに言わなければならない) 「――ええ、きっと可愛い子が産まれるわ」 ラウルはそれ以上聞いていられなかった。ララエルが無邪気に喜べば喜ぶほど自分が汚れているのを見せつけられているようで耳を塞ぎたくなる。 「ラウル、やりました! 赤ちゃんが見れるみた……ラウル?」 ラウルは何か耐えるような表情を浮かべたまま、こちらをじっと見ている。その様子のおかしさにララエルは思わず心配になってラウルの顔を覗き込もうとすると、 「……ララエル……!」 ここがカルメンのいる天幕だという事も忘れて、彼女の名前を呼んでいた。 「君は僕との赤ん坊が見てみたいと言ってくれた」 ラウルは苦しそうな表情で喉から声を絞り出した。 「でも、赤ん坊を作るにはララが気が狂いそうな経験に耐えないといけないんだ。そうして長い時の後、壮絶な痛みの後生まれてくるんだ。だから、君の年ではまだ早いんだよ……!」 切々と苦しげにそれでもララエルから目を逸らすことなく、できる限りのことを告げた。 「これじゃあ、君の体が壊れてしまう」 ララエルが暫く黙り込む。ラウルはララエルに嫌われても仕方ないと歯を食いしばった。 「……ということは……遠くない未来、赤ちゃんが見れるんですね」 ララエルの表情に浮かんでいたのは普段の無邪気な笑みとは違う。ラウルの苦悩ごと抱きしめるような微笑みだった。 ララエルの笑みが、どんな言葉より多くのことを語りかけてくる。 「だから……私は大丈夫ですから、いつでも痛い事、してください」 ラウルは込み上げてくる感情に名前がつけられない。 ララエルはきっと本当の意味でその言葉が何を意味しているのか知らないで言っている――それでも君が笑うから。 「えへへ、私、またまた大人の階段を昇っちゃいますね!」 「ララ……馬鹿だな、もうっ……」 ララエルの腕を引き寄せると、そのまま体を抱きしめた。 「……っ! ラウル? 泣かないでください、ラウル」 顔を見られないように自分の胸に押しつけたが、ララエルは額に落ちてきた滴に気づいて顔を上げる。慌てたように抱きしめられたまま体を捩ると、ラウルの涙を拭おうとする。 ラウルは先程とは違う意味で手が白くなるまで握りしめた。今にも暴れ出しそうに感情を抑える為に。 涙が頬を伝う。 歓喜と己の不甲斐なさと涙が混じり合って自分でもよく分からなくなる。 (勝手に決めつけて、自己否定する僕を拾い上げてくれるのは、いつも君だ) それなのにラウルの葛藤すら飛び越えて、ララエルは無防備に飛び込んで来てくれる。 ――ララエル、君が愛おしい。君の傍にいるだけで色んなものが僕にぶつかって僕を内側から変えていく。これから先も君と一緒にいたい。きっと僕らは互いにぶつかりあって、その度に傷つけあうかもしれない。それでも信じている。ララエルとなら何処までも歩いていける、と。みっともなくて、格好悪いけれど、いつか君に伝えたい――ララエル、君が好きだよ。今はまだ伝えられないけれど、いつか必ず君に伝えよう。 「ふふっ、仲がよろしいことで……私はお邪魔虫かしら?」 二人の世界に入っていたラウルとララエルはからかうようなその声に二人は勢いよく身体を離した。カルメンがその場にいたことに気づき、二人はボッと火をついたように顔が赤くなる。 「それじゃあ蟠りを解消できたようだし、占いを再開してもいいかしら?」 二人はそそくさと椅子に座りなおしたが、顔から熱は引くことはなかった。特に熟れたように赤い頬をしたララエルは自身の手を頬に当てて顔を冷やそうとしていた。 それを見て見ない振りをして話を進めてくれるカルメンには感謝しかない。 「未来にあるのは『星』のカードね」 カルメンが指を指したカードには、大きな星と七つの小さな星の下で大地と湖に水を注ぐ女性が描かれていた。 「天空に輝く星は、古くから希望の象徴とされてきたのよ」 今度はラウルもララエルと一緒になってカルメンの言葉に耳を傾ける 「星は雲がかかって目に見えなくなったりするけれど、信じ続けている限り失うことがないもの。不安な心を奮い立たせて、希望を持とうとしているとも読めるわ。何か一歩踏み出すことができたり、新たな目標をこの先見つけるかもしれないわね」 澄んだ水のような言葉が二人の心に流れ込む。 「不安になったら、何の為にその願いを抱いたのかを己に問いかけなさい。自分が本当に望んでいることに気づくわ」 その言葉はララエルだけではなくラウルにも言っているように聞こえた。 「自分の気持ちに素直になりなさい。そうすれば自ずと進む道が見えてくるはずよ。星は暗闇の中でこそ輝く光。暗闇の中にいても見失うことがないもの。例えどんな環境に置かれても貴方達が希望を失わなければ、必ずその手に掴めるものがある。もっと自分を信じなさい」 二人はカルメンの言葉に一緒に頷いた。 カルメンは二人が手を繋ぎ天幕を出て行くのを優しげな眼差しで見つめる。 次にやって来る客の為にタロットをシャッフルしていると、一枚のカードがテーブルから飛び出すように落ちる。 こういうことは不思議なことではない。タロットで占っていると手のひらから零れるように一枚のカードが落ちる時がある。そういう時は大抵何か伝えたいメッセージをアルカナが知らせてくれているのだ。 カルメンは落ちたカードを拾い上げると、難しげな表情を浮かべた。 吊るされた男。 その意味は―― 「自己犠牲、動くほどに苦しみが増す、見えないゴール、報われない、試練、忍耐、放棄、終わりが見えない、限界、そして可能性の超越」 身動きできない閉塞した状況であっても木に逆さ吊りにされた男の表情は穏やかであった。 「全ては必要なこと――例え犠牲的な試練や苦難であっても――この世に意味のないものなんてない」 これを乗り越えることができるかどうかは、 「すべてはあの子達次第……」 そう呟くとカルメンは拾い上げたカードをタロットの中に戻すのだった。 ●死んで灰になりゃみな同じ 時が経つのは早い。通りは初冬の気配を滲ませ、あれだけ秋一色だったのが今年も終わりに近づきつつある。 「……暇な人が多いんですね」 「それを言うんなら、俺達もその一人だぞ」 「これは指令ですから……それにベルトルドさんが指令を受けたんじゃないですか」 『ヨナ・ミューエ』らしい生真面目な言葉だった。 「お前だって文句は言わなかったじゃないか。案外占いに興味があるんじゃないか?」 「いえ、全く興味はありませんが?」 話の矛先を向けてみたが、関心のかけらもないヨナらしい答えだ。『ベルトルド・レーヴェ』は呆れた目を向けると、逆にそんな目で見られる筋合いはないと言わんばかりの不服な表情を向けてきた。 「それに……てっきり何か占って欲しい事があると思って付いて来たのに、占い師を見たかっただけなんて、案外俗っぽいですね」 「こういうのは話題性だ。まあ……占い師が美人と聞いてな」 ベルトルドが正直に答えると呆れたような視線から蔑みの視線へと変わった。 「……その為だけに私は連れてこられたんですね、ふーん」 こうしてベルトルドは自損事故を見事に起こした。天幕に入るまでの間、久し振りに最初出会った時のような気まずい空気を味わう羽目になったのだった。 「ようやく私達の番ですか……」 「思ったより時間がかかったな……」 ヨナは占ってもらう前から疲れた表情を浮かべていた。かくいうベルトルドも待ち時間の長さには辟易としていた。 扉を開けて入ると天幕は暖かく、思っていたよりもしっかりと占いの館に仕立て上げられていた。 ベルトルドはそれよりも天幕の構造の方が気になった。組み立てるのには少々時間がかかりそうだが、長期間の野外の指令だとこの天幕は使い勝手が良さそうだとつい考えてしまう。持ち運び自体は口寄魔方陣でどうとでもなりそうだ。 室内は無骨さを隠すように女性らしく淡い紫で統一されてあり、床には民族模様の絨毯が敷かれている。 派手すぎず、かといって怪しげな雰囲気というわけではなく、上品な仕上がりで占い師らしい非日常を感じさせる場所だった。 ベルトルドとしてはシンプルで飾り気のない方が好みなのだが、センスがいいのは分かる。 ヨナも珍しく興味深げに室内をじっと見ている。 「こういうのが好みなのか?」 「違います。これ魔術具ですね、防音と遮熱の魔術式がフェルトやカーテンに刺繍で施されていますし、骨組みの木には軽量に加えて堅牢になるように彫り込まれています」 エレメンツでありファナティックであるヨナがそういうなら本当なのだろう。 「上にある――魔結晶をはめ込むことで魔力が循環するようになっているんですね。……指令でこれが使えたら色々と便利そうです」 最終的に自分と似た感想を口にするヨナにベルトルドは微妙な気持ちになる。 「ようこそいらっしゃいました。随分とお待たせしてしまったようで申し訳ないですわ。では、こちらにお掛けになって」 高い響きのよく通る話声だ。早すぎず、遅すぎず、大きくも小さくもない。思わす人が耳を傾けるように計算された完璧な声。 人目を引きつける声というものがあるならば、目の前にいる女のような声なのだろう。 ベルトルドとヨナはカルメンに促されて、それぞれ椅子に座る。 香炉から湯気のように煙が立ち上り、天窓へと消えていく。 悪い匂いではないのだが、ベルトルドの鼻には少々きつい。 だが、目の前の女にはぴったりの香りだ。一見落ち着く香りでいて甘美さが隠されている。それなのに、遅れてから微かに樹木の暖かみのある香りが余韻として残るのだ。 おそらく客を落ち着かせ話を聞いてもらいやすくする為に焚き込めているのだろう。 雰囲気作りの一環だなと身も蓋もない感想をベルトルドは抱いた。 カルメンは黒蝶のローブの下でも成熟した女の肢体がはっきりと分かる葡萄色のマーメイドドレスを着ている。 燃えるような真紅の髪は夜露に濡れた薔薇のようで、眸もまた鮮やかな赤紫がかっていた。 自分の美貌をよく分かっており、自分の魅力をどう生かせばいいのか知っている自信に溢れた女。 女の中でも女が持つ要素を突き詰めたような人間。鑑賞する分にはいいが、あまり関わりたくないタイプの女だ。 そんなベルトルドの考えを読んだようにカルメンはくすりと強気に口角を上げる。 「あら、男性にそうじっと見つめられると照れますわ」 「そんなつもりはなかったんだが……あんたが美人だったんでな」 「ありがとうございます、男前の方にそう言われるなんて女冥利に尽きますわ」 そういった賛辞に慣れているのだろう。不躾に観察していたベルトルドにカルメンは笑顔で応じた。ただ隣に座るヨナの軽蔑の視線がさらに冷ややかさを増していたが。 分の悪い状況にベルトルドは沈黙する事を選んだ。こういう時、何か言おうものならさらに女の機嫌を損ねることをこれまでの経験からベルトルドは知っていた。 「何を占って欲しいのかしら? お二人で来たなら相性占いそれとも対人関係のお悩み相談も人気よ」 艶やかに笑いながら話すカルメン。その言葉にベルトルドもしまったといった表情で頭を掻いていた。 「そういえば何を占うかまで考えていなかったな……相性占いでもするか?」 「相性占い? しませんよ」 ヨナは「はっ?」という顔を浮かべていた。 「む、では何ならいいんだ?」 「そうですね……私達の事ではないんですが、気になる事ならあります」 カルメンは鷹揚に微笑んだまま二人の言葉を待つ。 「魔女達の今後についてです」 ヨナがはっきりと言い切る。すると、カルメンが瞠目したのを見て、ヨナはしまったと思った。隣に座るベルトルドもぎょっとした眼差しでヨナを見ている。 教団内と世間の認識が違うのを忘れていた。今でも世間では、魔女のことを「人喰いの化物」だと思われているのだ。一度根付いた偏見はそう簡単に拭い取れない。 ヨナはどう言い繕うか考えている内に、カルメンが先に口を開いた。 「……分かりました、魔女の今後についてですね?」 感情の読めない微笑を浮かべたまま、あっさりと了承されてしまう。逆にどう反応すべきなのか対応に困ってしまう。いつものヨナではあり得ない失態に隣にいるベルトルドは頭を抱えていた。 「色々な事情を抱えたお客様が来ますからね……もちろん知り得た情報の秘密は守りますわ。仕事上、他者の秘密を知り得てしまうことも多いの」 ヨナはベルトルドの方を横目で見るが、彼は黙り込んだまま口出しする気はないようだった。口から吐いた言葉は取り消せない。ヨナもここまで来たら、腹をくくる。 ベルトルドはこのまま様子を見ることにした。同時にどこか投げやりな気分で成るようになるだろとさえ考えていた。 カルメンは手元でシャッフルしたカードを三つの山に分け、一枚ずつ引いていく。 「『過去』は質問の原因。『現在』は今の状況ややるべき事を、『未来』は解決策や結果を表すわ」 左から順々に三つのカードを指さしながらカルメンは説明していく。 「このカードは審判よ。過去に魔女狩りが行われた事からでも分かるように今回はあまりいい意味ではないわね」 納得した表情でヨナは頷く。 カルメンが手に取って見せた審判のカードには、ラッパを吹く赤い羽根の天使と棺の中から蘇った人間が描かれていた。 「魔女達が不遇の時代を堪え忍んできたのが見えるわ。人として存在を徹底的に否定され、信じていた者に裏切られたり、大切な人を亡くした慟哭を抱えている。無念が残る過去に捕らわれ、縛られ続けている。正論は通ることはなく、自分の身の潔白を示そうとしても叶わなかった。あるいは何らかの方法で自分達の困難を克服しようとしたけど、方法を間違ってしまった」 感情のない声だが、商売柄なのか聞き取りやすい。 ヨナとベルトルドが知る限りの魔女の過去と概ね当たっている。ベルトルドは直感的にこの女は魔女の過去を知っているのではないかと思った。 「やはり魔女達は人間や教団そのものに対して失望していたり、不信感を抱いていることが今の状況を招いているんですね……」 「そうね。他にも要因があるとすれば、失われた幸福に執着し諦めることができないでいるから。過去を引きずっているのね」 ヨナの言葉にカルメンは頷くと、粛々と占いの結果を伝え続ける。 「自分の力ではどうしようもない時代の流れを味わった魔女達は変化に敏感だわ。だからこそ変化そのものを本能的に恐れる者が大部分なんじゃないかしら。つらい過去を忘れないと自分に課した魔女も中にはいるでしょうね」 「つらい過去を忘れない、ですか……?」 ヨナがカルメンの言葉を反復するように呟くと、 「つらい過去だから余計に忘れたくないのよ……失われた幸福に執着し、過去にできないでいる者ほどそう……――本人が望むか望まないかは別として、必ずしも叶えない方がいい望みもある。本当に必要なもので在れば、その望みは果たされることもあるでしょうけど、大抵の場合は叶わなかったでしょうね」 カルメンの言葉には僅かな感傷の色が混じっていた。 「当事者の心の傷や無念が癒されるには時間が必要だわ。分かりあえなくても共感することができなくても相手が許すことがなくても真正面から魔女と向き合った人間はいたかしら。そのまま認めて受け止められる人間がどれほどいるのかしら」 「……少なくとも私達は、私が知っている人の中にはいます」 ヨナ達に問いかけているようでいて、それはカルメンの独白だったのかもしれない。それでもヨナは、はっきりと答えた。 微笑を浮かべているようでいて表情のないカルメンが何を考えているのかはヨナには分からなかった。 すぐにカルメンは先程の表情が嘘のように華やかに真紅の唇が弧を描く。 「じゃあ、次に行きましょうか」 カルメンとヨナの会話を聞きながらベルトルドは静かに考え込んでいた。 大抵本当のことは人を傷つける。 ただのちっぽけな事実ですら切れ味は十分だ。 教団が隠していた魔女の事実だって自分たちを傷つけたではないか。ましてや教団の真実などに至っては、その闇の深さは手に余る。 これまでのベルトルドの人生を振り返ってみても、知らない方がいいことは確実にあるのだ。 だが、浄化師である以上、否応なく向き合うことになるだろうという予感も感じていた。 その真実とやらが明らかにされる時、どれほどのものを破壊していくだろうか。暗い予感にベルトルドは、真綿で首を締め付けられているようで閉口したくなる。 思い返してみれば、ここ最近疲れる指令が多かった。こうも嫌なことばかりが頭に浮かぶのも疲れているからだろう。 (ヨナが魔女に肩入れしているのは分かっていたが、ここまでだったとは……) 魔女に同情するヨナに共感してやるのは簡単だが、それは何の解決にもならない。 ヨナの感情が楽になるだけで、一時的なものに過ぎない。 ここで誤魔化しても、また同じ壁にぶつかればヨナは悩むだろう。 それを本人も望んでいないだろうし、ベルトルドも甘やかしてやるつもりはない。これからもパートナーとして共に戦うならば尚更だった。 結局、ヨナ自身が納得いく答えを見つけるしかないのだ。それはベルトルド自身にも言えることで、魔女の一連の事件を消化するには時間がかかりそうだった。 「この月のカードは、人の潜在的な願望や恐怖、不安、過去のトラウマ――普段は意識されていない内面を司るアルカナ」 「このカードは良い意味なのですか?」 満月とも三日月とも取れる月の下には水から這い上がるザリガニに加えて、犬と狼が遠吠えしているような絵が描かれている。 「月明かりに誘われて湖から這いだそうとするザリガニは、深層意識からの呼びかけのように、秘められた欲求が表に浮かび上がってくることを示しているわ。 不安や復讐の感情に呑まれた魔女が日常生活に混乱をもたらそうとしたり、抑えきれない疑心から人々を試すような行動を取ることが多くなるわ。 過度な攻撃性を見せたり、魔女狩りの時代によって歪められた闇が噴出するわ。そんな時程、秘められた狂気が露わになるわ。その逆で状況の変化についていけない魔女も多い」 不意を突くようにカルメンは問いかける。 「ここ最近に何か魔女達の企てが何かあったんじゃないかしら? なんだか疲れているように見えるもの」 「最近色々あったので……」 カルメンは確信を持った口調にヨナは口を濁らせる。それが雄弁に答えを物語っていた。 「ふふっ、警戒しなくてもいいわ。ここ最近、お客様から魔女の噂話を聞いていたの」 「……本当はどうだかな」 カルメンの笑いを含んだ声にベルトルドが疑わしそうな表情を浮かべる。 「私はただの占い師ですもの。並べられたカードを読み解くことはすれども、事実なのかは確かめようがない」 カルメンは微笑みを浮かべたままそれ以上は答える気はないと言外に告げていた。 「それでは無粋な話はこれで終わり。占いを続けましょうか」 こちら事情に通じているようだが敵意を持っているようにも見えず、ヨナ達はひとまずは話を聞くことにした。 「不安や見えないものに左右されて迷っている。隠された敵、嘘の幻影に振り回されているわ。見えないこと、分からないこと、隠されたこと。いくら考えてみても真実に至ることがなく、己の中にある恐れによって不安を掻き立てられる」 ヨナは警戒しながらも思わず聞き入ってしまう。 花が虫を引きつけるよう彼女もまたその美貌だけでなく声で人の警戒心を溶かしてしまう。 カルメンの言葉に引っかかりを感じたヨナはそれが何なのかを探ろうとする。すると、すぐに思い当たった。 ヨナは以前ほど教団を信じることができなくなった。 正確に言えば現室長ヨセフ・以前の教団の行いに不信感を抱くようになった、というべきか。教団を信じきれずにいる事、教団が今まで成してきた行い。その二つが自身の罪のようにヨナは感じていた。 ――世界を滅ぼしたいと願う者と同じじゃないか。 アクイの魔女の憐れんだ声が蘇る。 自分達が戦っている神の使いとは何だろうと改めて考えるようになった。 以前はベリアルもヨハネの使徒も敵であるから戦うのが、当然であった。人々を傷つけ殺す存在から守る為に、戦うのは当然のことであった筈だ。 だが、魔女に関しては違う。魔女は人よりも力を持った存在。だけど、同じ人間である。少なくともヨナはそう思っている。 魔女には復讐するだけの理由がある。復讐の是非はともかく迫害を受けた魔女達には共感するところがあった。 人が人に害を成す。人の敵が本当に倒すべき存在なのか。教団から指令を下された時、迷うことなく剣を振り落とせるのか。 答えの出ない堂々巡りするばかりでも、ヨナは考え続ける。自分の納得のいく答えが出るまで考えなければならない。それが答えのない問いだったとしても思考を止めないことが意味があると信じて。 「真実を知る勇気は大事だけど、貴方も考えても分からないことで悩んで自分で不安を作り出してはダメよ」 それはヨナの苦悩を読み取ったかのような絶妙なタイミングだった。ヨナは訝しげな表情を浮かべながら尋ねる。 「私のことではなく、魔女のことを占ってもらっている筈ですが……?」 「他者との関わりで己を知ることもあるわ。他者は己の鏡よ」 何か言おうとするヨナにカルメンはただ微笑む。 「貴方も不安があるならば、今は心が静まるまで見定めるときなのかもしれないわね。物事を解決したいと願うことは悪いことではないけれど、不透明な状況が続いている上に全貌が分からない内は慎重に行動した方がベターね。今は自分が手にしている確かなことを信じなさい」 無表情でいてもなんとなく何となく微笑の趣がある。ヨナはその微笑が彼女の仮面であることに気づく。女優のように複数の仮面を被ることに慣れた人間なのだ。彼女にとって占い師も複数ある仮面に過ぎないのかもしれない。 「今求められているのは問題を解決することではなく、問題とどう付き合っていくかが大事ね。解決してもそれは氷山の一角でしかない。現時点では不透明な状況を甘んじるしかないわ。 今は目に見えている部分よりも見えていないものの方が明らかに大きいことを示している。動き出した魔女だけでなく、水面下での動きが活発化しているわ。気をつけて」 「そうか、……こちらも気をつけよう」 純粋に占い師としての助言する言葉が納得いくものだったのかベルトルドが頷く。 「星のカードが出たのならば、未来への期待が生まれるでしょう」 星の下で女性が大地と湖に水瓶で潤しているように見えるカードだった。 「問題は解決に向かって進むわ。新たな希望を見いだしたり、感情に整理が付いたり、気持ちが楽になる魔女もいるでしょう。 それはまだ心の中の話であって、現実はすぐに変化するわけではないでしょうけど、魔女の心に希望が生まれるという変化が訪れようとしている」 魔女決闘のことを指しているのだろうか。ヨナがそう考えている間にも、カルメンは淀むことなく決められた台詞を読むように語る。 「星のカードは答えを示すものではない。けれど、想像もできない絶望のどん底に叩き込まれながらも、立ち上がって前を向いて歩いていくこと。幾千の時を越えて人が空を見上げ星に願いを託す精神こそが、人の根本であることを示していると言われているの。私はこの説が好きだから、信じているの。 希望は人に与えられるものじゃない。私達の心から沸き起こる心の有り様なのよ。魔女達の心に希望の灯火が失われない限り、損なわれることはないでしょう」 「良い兆候があるならそれで充分です」 歌い上げるように伝えられたカルメンの言葉にヨナは内心安堵していた。 「貴方が何かに迷った時、貴方の心が正しい思うことをしなさい。自分の感情に嘘をついて行動するならば、きっと貴方は後悔するわ。これから先のことになるけれど貴方の視野が広がり、今まで気づけなかったものに気づくことができるようになるわ。いつかは貴方が知りたい答えを知ることになるでしょう」 「信じるか信じないかは別としてお祈りしなさいなどと言われても困るだけなので、分かりやすいですね」 ヨナは明け透けに答えると、カルメンは吹きだすように笑う。 「ふふ、ごめんなさい。こんなにはっきり言われると逆に小気味いいわ。私から貴方たちに伝えたい事があるとすれば、そうね……」 「何でしょうか? はっきり言ってください」 珍しく言い淀んだカルメンにヨナは受けて立つと言わんばかりの口調で応じる。 「人の意識を変えることは難しい事よ……それもこんな根深い問題ならば尚更時間が掛かるわ。下手すれば次世代にまで及ぶことも考えられる」 「分かっています、……簡単にはいかない事は。世間では魔女は恐怖の対象ですから、人々の認識を変えるには時間が必要だという事も」 ヨナがこくりと頷く。 「これから魔女狩りを知らない世代を生まれてくるわ。もしかしたら遠い先の未来では魔女と言われても御伽話の住人と考える子供達もいるかもしれないわね。でも、当事者である魔女はきっと忘れない。そんな隔たりが生まれることもあれば、何も知らないからこそ恐れることなく上手く付き合えるかもしれない。未来は誰にも分からない」 「貴方にもですか?」 「そうよ、何でも知っているならそれは神様だけよ」 面白くないジョークでも口にするようにカルメンは大げさに肩を竦めた。 一瞬、カルメンから仮面が剥がれ落ちた。 「……もう二度と魔女を『化物』にしないであげて頂戴」 「あなたは――……いえ、何でもないです」 今何か問いかけたとしてもカルメンは微笑むだけで、占いの結果以外の事には答えてくれない気がした。 占い師カルメンとの対話は二人にとって星のアルカナのように道標と可能性を与えてくれた。魔女決闘は終わりではなく、新たな始まりだと何かを予感しながら二人はここから立ち去るのだった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[5] ヨナ・ミューエ 2018/11/18-12:41
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[4] ララエル・エリーゼ 2018/11/17-22:16
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[3] ベルトルド・レーヴェ 2018/11/17-20:36
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[2] ラウル・イースト 2018/11/13-02:12
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