目覚めた世界でみたものは
とても簡単 | すべて
5/8名
目覚めた世界でみたものは 情報
担当 GM
タイプ ショート
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 なし
相談期間 2 日
公開日 2018-11-15 00:00:00
出発日 2018-11-20 00:00:00
帰還日 2018-11-28



~ プロローグ ~

 目覚めた世界は白、白、白……途方もなく真っ白だった。
 天井の白さ、横を見れば真っ白いカーテン、ベッドも真っ白だ。
 不思議に思っていると、薬品の匂いが鼻につく。
 すると、カーテンをひく音とともに現れたのは医療班の濃い緑の制服のスタッフだ。
 無表情で彼はキミを見て。
「失礼」
 額に触れ、手首をとり、さらには腕に器具をまきつけている。
 それをただ見ていると。
「体温、脈拍、血圧ともに正常ですね。おはようございます。……どうしてここにいるのか覚えてますか?」
 冷静な声で尋ねられた。
 ああ、そうだ。
 ここにいるのは――。


~ 解説 ~

 今回のシナリオはずばり【医務室で過ごす】です。

プランにほしいもの
・どうしてベッドの上にいるのか
 倒れた理由は指令中に敵にやられて、連日の疲れで、実は悩んでいることがあって、大食いチャレンジして倒れましたなどシリアスからコメディまでどうぞ。
・誰が倒れたのか
 一人が倒れた場合は、どちらが倒れたのかを記載してください。このシナリオ開始時にパートナーには会わせてくれます。パートナーが運んできた、話を聞きつけて慌ててやってきたなどお好きなリアクションをお書きください。
 二人で倒れた場合は、パートナーは向かいのベッドにいます。

・上記を踏まえた上でのパートナーとの会話、あるいは自身の心情
 大けがをして喧嘩するもよし、倒れた相手を心配して泣いちゃうのもよし……このシナリオでは、お二人しか部屋にいないので存分にやりあってください。あんまり大きな音がした場合は医療班のにーやんの無言鉄槌が下るからね★

★変化球型参加【C参加】
・プロローグを無視して、医療班の手伝いにきた方はプランに【C】と記載してください。
 他の怪我をしている人たちを治癒する医療班を見てなにを思うか、どんな手伝いができるのかを記載してください。

・医療班に訪れ、自分の気持ちの整理整頓をしたい
・プロローグを無視して、医療班に自分から訪れた方はプランに【C】と記載してください。
 パートナーについて、自分のことについて思い悩んでいることを医療班に話を聞いてもらい、アドバイスがほしいが、訪れてカウンセリングを受ける形となります。
相談相手が男性か、女性がいいかも記載してください。とくにないとプロローグで出てきた男性になります。
 この場合、二人のうちどちらが来たのか(二人一緒にきても構いません)。どんなことを聞いてほしいのか、アドバイスがほしいのか記載してください。
 パートナーに秘密できている場合、片割れの出番は少なめになる可能性があるのでご注意ください。


~ ゲームマスターより ~

 点滴をされたとき、ずっとぷるぷる震えていたのは誰でもない私です。あのずらっと並ぶベッドの上でまな板の鯉状態でした。ひよこのはずなのに。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

鈴理・あおい イザーク・デューラー
女性 / 人間 / 人形遣い 男性 / 生成 / 魔性憑き
※ずっとベッドのそばでイザークの手を握っていた

イザークさんが倒れたと聞いたので…何があったんですか?

大変な状況だなんて知らなかった
実家……もしかして私に気を使って内緒にしてた?

私は私の意思で父と会わないと決めてるだけで
イザークさんに無理強いをする気はありません
むしろ家族と会えるのなら会ったほうがいいです
その為に何か手伝える事があればいって下さい

す、すみませんいつまでも手を…っ
手が冷たかったので少しでも

もしかして注射、苦手なんですか?
体中傷だらけだし戦闘で怪我もあるのに?
(笑っちゃいけない…けど、ちょっと可愛いかも)

分かりました
点滴が嫌なら、食堂から何かもらってきます
ご飯はしっかり食べて下さいね
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
■倒れた経緯
指令で敵と交戦、ナツキが敵と相打ちになる形で勝利した
戦闘後、目を覚まさないナツキをルーノが医務室へ運んだ

■医務室にて
ルーノは微笑んでいるようで目が笑っていない
彼が珍しく不機嫌だという事は分かるが、原因が分からずナツキは困惑

ナツキ:なぁ、なに怒ってんだよ?
ルーノ:別に怒ってなどいない
ナツキ:そ、そっか…あーそういや、他の皆はケガとか大丈夫か?
ルーノ:…君は、他人を気にしている場合か!?
ナツキ:なっ、やっぱ怒ってんじゃねぇか!!

しばらく言い合い、頭を冷やしてくるとルーノが退室
その後ナツキが医療班に、目覚める前にもルーノが何度も医務室を訪れていた話を聞かされ驚き
後でルーノに謝ろうと決める
杜郷・唯月 泉世・瞬
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / アンデッド / 狂信者
◆倒れたのは唯月
理由:日頃の疲労
・絵の勉強に加え、最近始めたメイクの勉強
そしてエクソシストとしての仕事、瞬への心配
それらが溜まりに溜まった結果。
・瞬が一緒にいない時に教団で倒れた。
・唯月が起きて早々思った事は「やってしまった」
唯「ここ、は…」
唯(確か教団で依頼を確認しに行った際に…たおれ…倒れ?!)
唯「…わたしはなんて事を…
ただでさえ瞬さんに心配をおかけしているのに…!」

◆女性へ相談
・瞬の存在理由についてを相談する
唯「…無理はしなくちゃ…だって彼の心を乱すのはわたし…
きっとパートナーの存在なんです…
これまで沢山…彼が変わっていく様子を見てきました…
…だから…これ以上怖い夢を見て欲しくなくて…」
ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
指令の待ち合わせに現れなかったベルトルドを探しにくれば倒れて病室にいるという
過労と心労が重なったようだと説明を受け部屋へ急ぐ

確かに最近は指令が立て込んでいたが青天の霹靂

病室で熟睡中の喰人を見てほっ
起こさないように様子見る

疲れていたなら言ってくれれば…いえ、私が気が付くべきでした
特にベルトルドさんは魔女の影響が強く受け 辛そうにしていたのは知っていたのに
溜息
考えてみればどうしてそこまで付き合ってくれるのか
パートナーとは言え元々は縁もゆかりもない関係
けど彼はそういう人なのだ
いい加減覚えなくてはいけない 彼の人となりを

自身もまた疲労困憊な体
午後の日差しが気持ちよく ベッドの端に頭を預けうたた寝
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
先生 シリウスの様子は…
傷は塞いだので安静に という答えにほっと

朦朧とした翡翠の瞳に気づき笑顔
大丈夫 本部の病棟よ
もう無茶ばっかり 心配し、て…?
見る間に青くなる顔に息を呑む
震えてる?
スタッフが部屋を出るのに 慌てて頭をさげる

ドアが閉まって振り返り シリウスの動きに小さく悲鳴
何してるの…!?
振り払われて たたらを踏む
崩れ落ちたシリウスを慌てて支える
過呼吸を起こしているのに気づき
抱き締めて落ち着かせるよう 背中を撫でる

治療が嫌?
違う わたしが手当てをしてもこんな風にはならない
ー病棟が 嫌?

点滴が終わるまで ここにいよう?
体が楽になるはずだから
ゆっくり息をして 
大丈夫 大丈夫だから

歌うように繰り返し 強張る背中をさすり続ける


~ リザルトノベル ~

「イザークさんが倒れたと聞いたので……何があったんですか?」
 勢いよく部屋に飛び込んできた『鈴理・あおい』は、額に薄っすらと汗をかいていた。
 相棒である『イザーク・デューラー』が倒れたと聞いて、慌てて駆けつけたのだ。
 白いベッドで眠るイザークはどこか疲れた表情をしていた。
 医務員の男性は軽い貧血と答えた。
「睡眠不足と脱水症状がみられます」
 命に別状がないと聞いて、ほっとしたのもつかの間。
「何か心配ごとがあったのか、根詰めていたようですね。とりあえず、点滴の用意をしますので、それまで逃げないように見張っていてください」
「は、はい」
 淡々と言われてあおいは背筋を伸ばして一礼をする。
 そのあとすぐにイザークの眠るベッドの傍らにある丸椅子に腰かけ、彼の顔を見る。目のくぼみと、隈……いつも顔を会わせているのに、気が付かなかった。
 イザークの手をそっと握る。男性らしいかたく、骨ばった手だ。
 唇を噛んで、じっと見つめる。
「……ん、あおい?」
 ほっとあおいの顔に安堵の色が零れる。
 薄眼を開けたイザークはあおいを見つめ、そして自分の状況を理解した。
「心配掛けてすまない」
「いえ。どうしたんですか?」
「……実家が軽いゴタゴタにまきこまれて、その対応に追われて食事や睡眠を少しけずっただけだ。養父母や弟に何かあった訳では無いし、事態も収束して気を抜いてしまっただけなんだ」
「大変な状況だなんて知らなかった」
 イザークが気遣うように笑う。
 本来、浄化師になると肉親に会うことはない。浄化師に弱味があると敵対者に判明して狙われる可能性があるためだ。ただし、絶対ではない。
 今回イザークはそうした危険性も考慮し、かなり気を使い対応したのだろう。あおいがわからないくらいに。
「本来はパートナーであるあおいには言うべきだったんだが」
「実家……もしかして私に気を使って内緒にしてたんですか?」
 あおいは背筋を伸ばしてイザークを見つめた。
「私は私の意思で父と会わないと決めてるだけで、イザークさんに無理強いをする気はありません。むしろ家族と会えるのなら会ったほうがいいです。その為に何か手伝える事があればいって下さい」
「あおい……悪かった。この前俺があおいに似た事を言ったはずなのに」
「いえ」
 イザークがふと視線を下へと向ける。あおいはその視線の先に気が付いて、あっと声をあげた。
 手をずっと握り合っていた。
「す、すみませんいつまでも手を……っ、手が冷たかったので少しでもと」
「あ、いや」
 握っているイザークの手が、少しだけ、動いたのにあおいは心臓がどきどきするのを感じた。
 無意識のときは全然気にしなかったのに。
 ドアが開いて医務員が戻ってきた。点滴の用意をばっちりしている。
「点滴を……するのか?」
 イザークの表情がぴくり、と動いたのにあおいは目を瞬かせる。
「イザークさん?」
「いや大丈夫だ。別に苦手な訳では無い、必要に感じ無いだけ」
 いざ、針が腕を突刺そうとした瞬間、イザークの太い腕に引き寄せられ、あおいはぎょっとした。
「……君は思ったりしないか? こんな細い針が、うっかりポキリと折れて血管を通り自力で止める術も無く心臓まで一直線に」
「い、イザークさん? 顔が、その、ち、ちかい……もしかして注射、苦手なんですか? 体中傷だらけだし戦闘で怪我もあるのに?」
 イザークが苦い顔をしているのは真剣に怖いのだ。指令で戦いになれば勇敢な彼が。
(笑っちゃいけない……けど、ちょっと可愛いかも)
 と、あおいが思っているのが伝わったらしいイザークが翼を垂れさせる。
「……笑ってくれ。自分で手当てできる分、剣で怪我した方がまだマシだ」
「えっと、点滴って絶対でしょうか? 栄養と水分をとればいいんですね? わかりました。点滴が嫌なら、食堂から何かもらってきます。ご飯はしっかり食べて下さいね」
 あおいが真剣に告げるのにイザークは深く息を吐いて、大きく頷いた。
「感謝する、あおい」
 心の底から感謝するイザークを見てあおいは唇を緩ませた。



「本当に申し訳ない。手間をかけてしまって」
「いえ、これも仕事ですので……ルーノさん、あなたこそ、大丈夫ですか?」
 『ルーノ・クロード』のかたい表情と声に医務員はそっけなく答え、ベッドに横たわる『ナツキ・ヤクト』のバイタルをチェックする。
 指令で小さな村を襲うヨハネの使徒の戦闘となったのだ。
 逃げ遅れた子供たちを襲おうとするヨハネの使徒にたいしてナツキが制止も聞かず飛び出し、ほとんど相打ち状態で勝利をしたのだ。
 そのあと怪我は回復したが、目覚めないナツキをルーノが仲間たちの手は借りず、自分で運んで医務室に連れてきたのだ。
 医務員はてきぱきと対応してくれたが、ナツキは中々目覚めない。治療の邪魔になってはいけない、他の仲間たちに報告を任せたこともあり、ルーノは一度出ていったが、そのあとも二度、報告書や仲間たちの声かけの合間、合間に足を向けてはナツキが目覚めないのに途方に暮れた顔をした。
「ん……」
 ナツキが薄目を開けた。
「俺、ここは……あれ、ルーノ?」
 呑気な声にルーノは安堵から目を見開き、そのあとすぐに表情をかたくさせた。

「問題はありません。ただ一時間ほどはここで安静にしていてください」
 医務員が出ていってしまったので、二人きりになった。
「痛いところはないんだな?」
「おう、平気、平気、丈夫なのが取りえだし……さ?」
 ナツキは尻尾を小さく振った。なんとなく、ルーノが怖い。いつもの微笑みを浮かべてくれている、労ってくれているのに、目が笑っていない。
「なぁ、なに怒ってんだよ?」
「別に怒ってなどいない」
「そ、そっか……あーそういや、他の皆はケガとか大丈夫か?」
「……君は、他人を気にしている場合か!?」
 怒鳴られてナツキは耳をぴんとたてた。尻尾も驚いて毛が逆立つ。
「なっ、やっぱ怒ってんじゃねぇか!!」
 ナツキが噛み付くのにルーノは言い返そうとしてやめた。他の怪我人や医務員の邪魔になってしまうと配慮して、口を閉ざしたが胸の中にある怒りはどうにも収まらない。
「頭を冷やしてくる」
「あ、ルーノ……」
 ルーノが出ていってしまい、追いかけようとしたナツキは入れ違いではいってきた医務員の睨みにすごすごとベッドに横になった。
「なぁ、俺、そんなにも悪いのかな」
「は?」
「ルーノがなんか怒ってて」
「……あなたが無茶をして一番心配したのは彼ですよ。あなたをここに運び、報告書や他の仲間たちへのフォローをしたり、その合間、合間にここに来てはあなたが目覚めていないのか見てました」
「……ルーノが何度も医務室に? 心配してくれた、のか?」
 きょとんとした顔でナツキは聞き返す。
「ここまで運んでくれたのもルーノだったっけ、そういや指令の後始末も任せきりだし悪い事したな……」
 自分が向こう見ずだということはわかっていたが、言葉にされて申し訳なくなった。
「ルーノがあんな風に怒鳴るの初めて見た……後でちゃんと謝らなきゃな」
 尻尾を力なくふり、ナツキは小さく呟いた。


(何を怒っているのか……そんな物は私が知りたい)
 医務員が走り回る騒がしい廊下に出てルーノは自分の気持ちをうまく整理できずにため息をついた。
(ナツキの負傷はあの状況で効率よく確実に勝利するには必要な犠牲だった。最適な行動を選んだ結果だ、仕方がない事だ……そう思うのに、なぜこんなに苛立つのか)
 子供たちは守れた、仲間もケガ人はいない、ナツキも無事だ。
 けれどベッドで眠るナツキがもう目覚めないのかと不安で、苦しくて、怖かったのだ。
(そうだ、ナツキが死ぬかもしれないと、頭では大丈夫と理解していても怖かったんだ……何をしているんだ私は、これでは八つ当たりだ。後で謝らなくては)

 ルーノが病室に戻り、出迎えたナツキが――ほぼ同時にごめんと口にした。



 目が覚めた『杜郷・唯月』は自分に何が起こったのか理解し、バイタルチェックを行う女医務員に申し訳ない眼差しを向けた。
「ここは?」
「医務室です。あなたは倒れたんですよ」
 その言葉に唯月が思い浮かべたのは。
(やってしまった)
 最近、絵の勉強を本格的に行いはじめたのに追加でメイクの勉強もはじめた。そのうえ浄化師の仕事、瞬への心配……立て続けに起こった新しいことは自分では平気だと思っていたのに、思った以上の負担になっていたのだ。喉が枯れて、息をするのも辛い。
 点滴を打たれると強張っていた肉体が癒されるのがわかる。
「……わたしはなんて事を……ただでさえ瞬さんに心配をおかけしているのに……!」
 ベッドから飛び起きようとしたが思った以上に肉体は疲労していたらしく、ままならず、さらには、女医務員の無言の威圧を受けて唯月はすごすごと体を横にした。
「あの、帰れます、か? 出来たら……日帰りで……す、すいません」
「……点滴が終わり、あなたのパートナーが迎えにくる、という条件であれば返しましょう」
「う、うう……待ってください、瞬さんに連絡を!」
「しております」
 唯月は絶望した表情で下唇を噛む。
「どうして無茶をしたんですか? あなたには自覚があるようですが」
「……無理はしなくちゃ……だって彼の心を乱すのはわたし……きっとパートナーの存在なんです……これまで沢山……彼が変わっていく様子を見てきました……だから……これ以上怖い夢を見て欲しくなくて……」
 ぽつり、ぽつりと零す気持ちは弱くて、とても瞬には見せられない。
「現状があなたには合っていないのでしょう」
 努力を否定されて唯月は肩を震わせた。
「あなたの今の状態は私から見ると逃避に見えます」
「っ……どれも、好きで、……しているつもり、なんですが」
「好きであることと、向き不向きは別です。あなたはもっと時間をかけて、ゆっくりと学ぶタイプなのでは? なぜ焦るのですか? 追い詰めて詰め込むのは逃避と同じです。誉められた行為ではありません」
「それは……はやく、瞬さんに追いつきたくて……強くなりたくて」
 あ、と思ったら頭を撫でられるのに唯月は眼を見開いて、涙がいくつも溢れていくのがわかった。
「わたし、わたし……瞬さんが好き、で、だから」
「もう十分、あなたはがんばりました。だから好きなことをするといい。もっと我儘になってもいいと思います。
 あなたはパートナーを心配していますが、彼はそんなにも弱い人なんですか? 愛とは双方が相手を想うこと、辛いばかりではいつか破綻する。続けるためならばもっと相手に甘え、信用し、無邪気になりなさい」
「瞬さんは優しくて、強くて……けどっ、考えすぎて心が壊れてしまったら、って」
「あなたへの処方はこちらです。『絶対に大丈夫』……どうしようもないときは医務室のドアはあいています。いつでも来てください」 
 洟をすすり、唯月は小さく頷いた。

「いづ!」
 点滴が終わり、ベッドから起き上がった唯月に『泉世・瞬』が駆け寄った。
「ま、瞬さ……!」
「医務室から連絡が来てびっくりしたよ~」
「あ、ご、ごめんなさ」
「大丈夫だよー。いづは俺に心配かけたくなかったんでしょ? 俺の方こそ……無理させちゃってごめんね……さ、帰ろう!」
 一瞬だけ影の見えた笑顔に、辛いのだとわかる。それでも自分のために気丈に平気なふりをする瞬に胸がずきりと痛んだ。
 手をそっと握られる。その手の冷たさに唯月は彼がずっと外で待っていてくれたのだと悟った。
 申し訳なさと甘酸っぱい気持ちが胸に広がる。
 体調管理をもっとがんばろうと唯月は決めながら、それでも医務室での言葉も思い出す。
 まだうまく処理しきれないが、それでも。
「瞬さん……」
(この人はどこまでも優しい人……この笑顔の為にもわたしはもっと頑張らなくちゃ……!)
 そう思ったあとに、唯月はゆっくりとつけくわえる。
(『絶対に大丈夫』、わたしと瞬さんなら)



「す、すいません。ここに、ベルトルドさん……『ベルトルド・レーヴェ』は、いますか?」
 ドアを勢い良く開けて飛び込んだ『ヨナ・ミューエ』は医務員の睨みに、自分がドアのノックを忘れてしまっていたことに気が付いた。
 それほどにヨナにとってはベルトルドが倒れたことは衝撃だった。
 青天の霹靂ともいえる。
 指令が立て込んでいたことはわかっていたが、まさか倒れるとは思わなかった。だから今日も指令を二人で受けるために、いつもの場所――エントランスの大きな柱の前で待っていた。
 あんまりにも遅いので、先に貼りだされた依頼をいくつかピックアップして、ベルトルドを連れていこうか、とも思っていたくらいだ。
 だから、まさか。
 ベッドの上で眠るベルトルドはすやすやと柔らかな寝息をたてている。
 ヨナは用意されていた丸椅子に腰かけて、じっと顔を見る。
「毛に覆われて、顔色なんてわからない、じゃないですか……」
 けれど、ベルトルドの毛先が少しばかり疲れているのか、ぱさぱさしている――ような気がする。
 ちゃんと、食べている、のだろうか? 寝ているのだろうか?
 医務員からは「疲労でしょう」と言われて、ヨナは脱力した。
 よかったと思うが、同時に歯噛みする。
 ここ最近は魔女に関わる指令が多く、その指令はすべてベルトルドの心を抉るものだった。
 過去に夢で彼の悲しみに触れ、自分はベリアルになる恐怖に陥った。そして幼い魔女は自分たちを憐みと侮蔑の眼差しを残して炎と雨の置き土産とともに去って行った。
 嵐にあうように、翻弄され、疲労しないわけがない。
「どうして、そこまで付き合ってくれるんですか?」
 低い声で、詰る。
 パートナーといえど、それ以上のかかわりはないのに、ベルトルドは突っ走っていくヨナに付き合ってくれ、ときには盾になってくれた。
 自分の性格を最近、無鉄砲だと理解しはじめたヨナは――うっすらと存在する無自覚な逃避にも――だからこそ、申し訳なくなる。
 彼は、そういう人なのだ。
 自分も彼について理解して、止めなくてはいけない。
 寝ている顔を見ると、目元のところに幼さを感じる。少し癖毛の前髪かき上げ、手の甲で頬を撫でる。
「あ」
 睫毛は長い事に気がついた。
 体の短毛は髪の毛と違い艶やかで、柔らかい。
 耳は大きい方ではないが口以上に物を言うのを知っている。よくぴこぴこ動いて、猫を連想させる。
 手はヒューマンのそれより大分大きいのは骨格が少し違うのだろうか? ベッドからはみ出て垂れている尻尾は少し毛が長くふかふか。
 優しくなでて、そっとベッドの上に戻した。
「ふふ」
 こんなふうに触れれるチャンスはきっともう二度とない……あったら、困る。今は、困る。
 ヨナは一人で百面相をしてしまい、小さな咳払いをして己をたてなおす。
 優しい日差しを受けて、うとうとと眠気が押し寄せてきた。
 疲労していたのはヨナも同じで、ただ若さと精神力だけでそれを感じていなかっただけだ。
 包まれるぬくもりにヨナはベッドに頭を置いて眠りにつく。
 それを見つけた医務員が小さなため息をついて、毛布をそっとかけた。

 太陽が傾き、空気が冷えてきたのにベルトルドはぴくり、と耳を動かし、薄っすらと目を開けた。
 薄い紅の色に染まった天井が目に飛び込んできたのに、ひゅーと息を吐く。
視線を巡らせ傍らにヨナがいたのにぎょっとした。
 しっ、と唇に医務員が指をあて制すると、ベルトルドにてきぱきと対応してくれた。どうして、こうなったのかも説明を受けた。
 疲労を自覚していたベルトルドはため息をついた。
 ぼんやりとベルトルドはヨナを見る。さらさらの金の髪、細く長い耳――いつも見ているが、思ったよりも綺麗だ。その見た目に反して恐ろしく向こう見ずだが。
「ん? ベルトルドさん?」
「……今日はすまんな」
 目覚めたばかりのヨナは目をこすりながら首を横にふる。
「いえ。暫くはゆっくり休みましょう。今後の為にも」
「ヨナの口から優しい言葉が……」
 驚いて耳と尻尾をぴーんとたてるベルトルドにヨナは腕を組んで怒った。
「休んでいる間に読書課題でも出しましょうか」
「……前言撤回だ」
 二人は視線を交わして、笑いあった。
 太陽が沈むのをただ優しく受け入れた。



 ぐらり、と世界が揺らいだ。痛みはない、傷もない、大丈夫だと思っていたのだ。けれど失ったものは――どんな魔術でも元通りになることはない。
 しまった、と『シリウス・セイアッド』が自分のミスに気が付いたとき、世界は闇に包まれた。

「先生 シリウスの様子は……」
 『リチェルカーレ・リモージュ』が眉をへの字に曲げて、不安げな表情で医務員の男性に声をかける。
 ベリアル討伐の指令を受け、仲間と赴き、作戦をたて、戦闘となった。すべては浄化師側に有利に運んでいた、はずだった。
 後方で仲間たちの傷の手当に勤めていたリチェルカーレを襲おうとするベリアルからシリウスが身を呈して庇ってくれたのだ。
 大量の血を流しながら戦うシリウスをリチェルカーレは見つめていた。
 戦いが終わって、シリウスが倒れたのだ。不安に涙が出そうになるのが、泣いている場合ではないと持ち前の強さで踏みとどまった。

 医務室に駆け込むと素早い手当と対応を行ってくれた。
「点滴を打っていますが……彼が大人しくしているか」
「? シリウスに何か」
「いえ。彼がここを嫌うのは仕方ありませんが……目覚めたようですね」
 その言葉にシリウスの瞳が薄っすらと開いたのを見てリチェルカーレはほっと笑顔を零した。
 輝きを取り戻した翡翠の瞳に駆け寄る。
「……ここ、は?」
「大丈夫。本部の病棟よ。もう無茶ばっかりして心配し、て……?」
 病棟だと理解したシリウスの顔がみるみる血の気がひく。
 シリウスの精神が悲鳴をあげる。肉体が遅まきに薬品の匂いを感知し、瞳が不吉な白を認める。リチェルカーレの後ろで自分を見つめる――吐き気をも催す制服。
「っ!」
「シリウス? 震えているの?」
 おろおろするリチェルカーレに、すべてを察した医務員は小さなため息をついた。
「私はここにいないほうがいいので出ていきます。彼をお願いします。もしどうしても暴れて手に負えないときは叫んでください。多少乱暴でも対応致します」
「は、はい。ありがとうございます!」
 去っていく医務員にリチェルカーレは頭をさげた。
 いろいろと気になるが、それ以上にシリウスが心配で振り返ったリチェルカーレはぎょっとした。
「何してるの……!?」
 起き上がったシリウスが自分の腕に刺さった点滴を抜こうとしているのにリチェルカーレは小さな悲鳴をあげて、駆け寄った。
「だめよ、シリウス」
「放せっ!」
 今までにないほどに強く、はっきりとした拒絶の力にリチェルカーレはたたらを踏む。
 肉体よりも、心がずきりと痛む。

「シリウス? ……シリウスっ!」
 シリウスが口をぱくぱくさせて、ぜぇぜぇと浅い息を繰り返すのは過呼吸になっているせいだ。
 医学の知識があるリチェルカーレは気が付いて、必死に落ち着けようと背中を撫でた。

「こ、は、いやだ」
「治療が嫌?」
 違う。私が手当てをしてもこんな風にはならない。
 必死にシリウスの声を聞くために耳を澄ませ、声なき声を聞き取ろうとする。
 声をかける。
「病棟が、嫌?」
 リチェルカーレは答えにたどり着いた。

「へや、に もどっ……!」
 シリウスは自分を支える柔らかなぬくもりにしがみつかないように必死になる。
 また、不幸にしてしまう!

「点滴が終わるまで、ここにいよう? 体が楽になるはずだから」
 繰り返し、繰り返し。優しい声で。
「っ、楽になん、て」
「ゆっくり息をして、大丈夫、大丈夫だから」
 シリウスはここにいる恐怖を口から吐きだせず――生きた心地がしないとも言えず、自分を支える柔らかな力に寄りかかることを選ぶしかなった。
 細い肩口に汗が浮かぶ額を支えてもらい、歯を食いしばる。
 背中をさする手によって今、ぎりぎりのところで正気でいれるのだとシリウスは自覚し、目をかたく閉じた。





目覚めた世界でみたものは
(執筆: GM)



*** 活躍者 ***

  • リチェルカーレ・リモージュ
    よろしくお願いします、ね
  • シリウス・セイアッド
    …仕事はする。それでいいだろう。

リチェルカーレ・リモージュ
女性 / 人間 / 陰陽師
シリウス・セイアッド
男性 / ヴァンピール / 断罪者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/11/15-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[2] リチェルカーレ・リモージュ 2018/11/19-17:44