~ プロローグ ~ |
秋が終わろうとしていた。 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
初めまして。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】今日は両親の命日 祓魔師になった報告も兼ねていつものように墓参りに行きます 【行動・心境】墓参りに行きたいけど成に墓参りで泣いているところは見られたくないからこっそり墓参りに行こうと思ったんですが先に成がどこかにいったのでその後、墓参りに行くことにします。 毎年のようにお供えのために両親が好きなブルースターを買おうと花屋に寄ったのですがそこで同じくブルースターを買おうとしていた成に遭遇しました。 成の目的も両親の墓参りだそうで結局一緒に墓参りに。 両親の眠る所にブルースターを添えて仇をとることを誓おうとしたとき成には見られたくないと思ったのに涙が止まらなくて成子を抱きしめた。 |
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訓練に、斧の素振りしてたけど…ただ素振りしてたんじゃなぁ… 寮母さんか料理長さんに聞けば、割る薪あったりするかな? …と考えていたら、庭園の端に見慣れた青を見る 「あれ、カグちゃんだ…どこ行くんだろう?」 振るっていた斧は口寄せで部屋に戻して、カグちゃんの元へ行く 「カグちゃん!どこいくの?」 お墓、と聞いて考える…確か、カグちゃんにはお母さんがいない 簿kの家族は今もルネサンス北部のあの村で畑仕事してるだろう 「うん、行こう」 8歳の時に祓魔人だと判って家族とは別れてきた でも後悔はしていない その代わりに大事な人と出会えた…まぁ、ちょっと死にかけたけど 「僕は、何時だってカグちゃんの側に居るよ」 |
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~ リザルトノベル ~ |
●神楽坂・仁乃&大宮・成の場合 秋が、終わろうとしていた。 冷たい風が吹く中、木々の葉は散り果て、花々はその花弁を落としている。空は灰色の雲に覆われ、いつ白の便りが来てもおかしくない気配が漂っていた。 ここ、薔薇十字教団本部の庭園も例外ではない。 この間まで色鮮やかな紅葉と秋の花色に彩られていた場所は、今ではすっかり冬の装いに姿を変えている。 それでも、その様が寒々しく感じられないのは、管理する庭師達の腕が良いからだろう。 流石ですね、などと感心しながら『神楽坂・仁乃(かぐらざか・にの)』は庭園の中を門に向かって歩いていた。 今日は、彼女の両親の命日だった。 この日、仁乃は毎年休暇を取る事にしていた。亡き両親に、花を一輪手向ける為に。特に、今年は祓魔人になると言う大きな出来事もあった。その報告も、しなければならない。 この事は、パートナーである『大宮・成(おおみや・なる)』には内緒にしていた。幼い日の事とは言え、その時の記憶はまだ生々しい。思い出す度に古傷は疼き、涙がこみ上げる。両親の墓の前では、尚更堪える事は出来ない。そんな弱い姿を、成に見せるのは嫌だった。だから、一人で行こう。仁乃はそう決めていた。 とは言え、成に見つからない様にするのは至難の業。仁乃を己の存在理由とする彼は、いつでも必ず仁乃を見つけて寄り添ってくる。勿論、嫌ではない。いや、むしろ嬉しいと言っていいだろう。けれど、こんな時には厄介である。彼の目を逃れる為に、細心の注意を払わねばならない。仁乃は、朝からそんな事ばかり考えていた。考えていたのだが―― 「にの。僕、用事があるから、ちょっと出かけてくる」 先刻、成は顔を合わせるなりそんな事を言って、出て行ってしまった。 珍しい事も、あるものである。 まあ、都合がいいと言えば都合がいい。今のうちに、出かけてしまおう。 そんなふうに考えて、仁乃は手早く準備を済ませると成に続く様に本部を後にした。 外に出た仁乃は、その足を街の方へと向けた。両親の元に行く前に、欲しいものがある。街へと続く道を歩きながら、空を見上げる。空は一面、灰色の雲に覆われている。 「雪になるかもしれませんね。成子」 腕の中の人形にそう語りかけると、彼女は足早に歩いていった。 その頃、成の姿は街の中心部からは少しそれた場所に通る街路、『レティセンスストリート』にあった。ここは、街の中でも古い街路で、賑やかな中心街に比べて寂れた雰囲気が漂っている。 ただ、その一方で有名な老舗や隠れた名店などが並ぶ通好みの道でもある。その中の一軒に成の目当てはあった。 「あ、あったあった。おばちゃん、これちょうだい」 「はいはい。『ブルースター』だね。少し、待ってね」 ここは、花屋『サイレントリースマイル』。個人営業の小さな店だが、独自の仕入れルートを確立していて、随時珍しい品が並んでいる。 そんな店で成が求めるのは、『ブルースター』と呼ばれる冬の花。その名の通り、青い花弁が星の様に開く美しい花。それを小さな花束にしてもらうと、成は嬉しそうに受け取る。 彼が、この花を求める理由は一つだけ。 それは、これが仁乃の両親が愛した花だから。 仁乃と成は幼馴染み。彼女の両親にも、面識がある。否、面識があるどころではない。実の親を亡くし、養子として孤独な生活を強いられていた成。そんな彼に、仁乃の両親は家族のように接してくれた。短い間であったとは言え、その温もりを忘れてはいない。 自身が死に、アンデッドの身になってからもその想いは同じ。毎年、仁乃の後をこっそり追いかけては彼女の後に花を手向けていた。その際、墓を前にして涙を流す仁乃の姿を何度も目にしている。彼女の傷は、まだ癒えてはいない。そして、必ず一人で行くのはそんな姿を自分に見せたくないのだろうと、成は理解していた。だから今日も、仁乃が気兼ねなく出かけられる様に、こうして先んじて出かけたのだった。 もっとも、世の中そうそう思い通りにいかない事を、成はこの後知る事になるのだが。 「はい。お待たせ」 「ありがとう」 店主の女性からブルースターの束を受け取り、成が振り返ったその時、 「あ……」 二人の声が、綺麗にハモった。 「それじゃあ、なるはいつも後をついてきてた訳ですね?」 「うん……。ごめん……」 「いいです。変に隠そうとした私も、良くなかったです」 パートナーなのに、ごめんなさい。そう言って頭を下げる仁乃に、成はバツが悪そうに頬を掻いた。 そう。先にも言った様に、ブルースターは仁乃の両親が好きだった花。そして、この近隣でブルースターを扱っている花屋はサイレントリースマイルだけ。 双方が件の花を求めれば、鉢合わせするのは自明の理である。むしろ、今までこうならなかった事の方が不思議というもの。 「仕方ないや。僕はここで時間を潰してるから、にのは先に行ってきて」 そう提案する成。けれど、仁乃は首を振る。 「いいえ。そんな事をしていたら、日が暮れてしまいます。一緒に、行きましょう」 「でも……」 「こんな事になったのも、きっと母さん達が一緒においでと言っているからだと思います。二人で、浄化師になった報告をしましょう」 「……分かった」 そして二人はそろって、その場所へと足を向けた。 しばし進むと、街並みが途切れた。先に広がるのは、冬枯れた草原と一本の道。この道の向こうに、かの場所があるのだ。仁乃が、ふと空を見上げる。空を覆っていた雲はより厚くなり、一面を濃い灰色に染めていた。 「やっぱり、雪になりそうですね。少し、急ぎましょう」 「うん」 そう言い合うと、仁乃と成は冬枯れの一本道に足を踏み出した。 それから、しばらく。二人の眼前に、幾つかの建物が見えてきた。民家の様だが、その荒れ具合から空家である事が分かる。そのうちの一軒の前で、仁乃が足を止めた。 「ここ、まだ野晒しになっているんですね」 「うん。ベリアルが巣にしてるならともかく、こんな街外れまで整備する余裕はないって事なのかな……」 成の言葉に頷きながら、仁乃はジッと空家を見つめる。 件の民家には、数年前まで確かに人が暮らしていた。けれど、いつしかこの周辺に何体かのベリアルが巣食い、それに襲われて住民達は全滅してしまった。たった一人の、少女を除いて。 「生き残った娘は、どうしているのでしょう」 「さあ……。ベリアルを殲滅した時、教団が保護したらしいけど……」 「心安く、過ごしているといいのですけど……」 そう言って、目を伏せる仁乃。 幼い頃に、自分の祓魔人体質によって両親を亡くした仁乃。 自身と似た境遇となった少女に、己の過去を重ねているのかもしれない。そんな事を思いながら、成は仁乃に寄り添った。 どれほど歩いただろう。いつしか細かった道は広がり、小さな広場の様になった。その広場の中程には、数本の木がまとまって生えている。明らかに人為的に植えられているそれの元に近寄ると、仁乃は腰を屈めて、抱えていたブルースターの花束を幹に立てかける様に置いた。 「お久しぶりです。お父さん、お母さん……」 「おじさん、おばさん。僕も、来たよ……」 そう言いながら、成も習う様に花束を置く。 そう。この広場が、仁乃の両親が眠る場所。そして、この木々が彼らの墓標だった。生きた木の墓標は、亡き人の命が滞りなく流転する事を願うものと言われる。 今では相応の大きさに育った木。その幹に仁乃は手を添える。冷たいけど温かい、生きた木の体温が肌に染みるのを感じながら、彼女は語りかける。 「お父さん、お母さん、私、祓魔人になりました。パートナーは、なるですよ」 答えは返らない。返る筈もない。だから、仁乃は考える。両親が生きていたら、この道を選んだ自分達をどう思うだろう。祝福してくれるだろうか。それとも、危うい道と叱責するだろうか。元から、望んでいた道ではない。けれど、後悔はしていない。かつて自分から全てを奪った存在。それに抗う力を。それから、守る力を。自分は、手に入れられたのだから。故に、仁乃は伝える。今の自分の思いを、はっきりと。 「私は、力を得ました。そして、これからもっと強くなります。だから、必ず……」 ――仇を取ります―― そう誓おうとした瞬間、両親の顔が頭を過ぎった。途端、みるみる熱くなる目頭。駄目だと思った。お父さんとお母さんが見てるのに。成もいるのに。こんなに、弱い自分を晒しては。けれど、切れた堰は止まらない。ポロポロと、溢れ出す涙。 仁乃はせめてもそれが分からぬ様にと、腕の中の成子を抱きしめた。 目の前で仁乃が泣く様を、成はやるせない想いで見つめていた。 分かっていた事ではあった。いくら浄化師となったとは言え、仁乃はまだ15歳。心の傷を癒すには、あまりにも若すぎる。けれど、気丈な彼女は涙を見られる事を良しとしない。分かっていたから、成は今まで一緒にくる事を避けていた。けれど、理由はそれだけではない。 (もどかしいな……) そんな事を考えながら、成は自分の手を見る。 小さな手。小さな小さな、子供の手。成の年齢は、仁乃と同じ15歳。けれど、彼はアンデッド。その成長は、享年である10歳で止まったまま。 (にのと同じ位の背丈があれば、涙を拭いてあげられるのに……) けど、それは今の彼には叶わない事。アンデッドとなった事を悔やむ事はないが、こんな時ばかりは少しだけそれを呪う。 だから、今はせめても出来る事を。 成は両手を伸ばすと、仁乃の身体をギュッと抱きしめる。 背丈のせいで、小さな弟が姉に甘えている様にも見えるけど、今はこれで精一杯。 それでも、仁乃は笑ってくれる。 ポロポロと涙を零しながら、「ありがとうございます。なる」と。 だから、成も笑顔で返す。 「どういたしまして」 それからしばし経ったけど、仁乃の涙は止まらない。 困ったな。 考える成。考えて考えて考えた末、思いついた。 「そうだ! 仁乃、『スィートドリーム』に行こう」 「え?」 突然の提案に、ポカンとする仁乃。 スィートドリームは、アークソサエティ建立時から続く老舗の甘味処。渋めの甘味が女の子に人気なのだ。 「ね、甘いもの食べたら、きっと涙も止まるから」 何処となく、子供らしい発想。らしいと言えばらしいが、今はその昔通りの優しさが温かい。 仁乃は涙を拭うと、成に向かってもう一度笑いかける。 「そうですね。名案かもしれません」 「でしょ? じゃあ、行こう」 「ああ、ちょっと待ってください。なる」 急かす成の後を、仁乃が追おうとしたその時、 「あ……」 「わぁ……」 そう声を上げて、二人が空を仰ぐ。 一面灰色の空。そこから、小さな白片が一つ、また一つと降り落ちてきていた。 「……降ってきて、しまいましたね」 「初雪だね」 そんな事を言い合いながら、二人は落ちる氷の欠片をその身に受ける。 「急ぎましょうか。ゆっくりしていたら、積もってしまいそうです」 「そうだね。じゃあ、行こうか」 そして、二人は花を添えた木に向き直ると、一緒にお辞儀を一つ。 「お父さん、お母さん、また、来年……」 「じゃあね。また、来るからね」 そう言って、二人は歩き出す。灰色空の下、白く染まり始めたその道を。 「なる、寒くはありませんか?」 「大丈夫だよ。僕、アンデッドだし。仁乃こそ、寒くない?」 「着込んできましたから」 「ああ、それで。どうもいつもよりふっくらしてるな~って……」 「……成子……」 「あいてて、ゴメンゴメン」 雪降る世界を、じゃれあいながら遠ざかっていく二つの声。その後ろ姿を、氷でその身を飾った花が、青く輝きながら見送っていた。 ●ヴォルフラム・マカミ&カグヤ・ミツルギの場合 「ごめんね……、ヴォル……。折角の、お休みなのに……」 「何言ってるの? 僕は、何時だってカグちゃんの側に居るよ」 そう言いながら香ばしい香りのする焼き菓子を頬張る相方を見て、勿忘草色の髪の少女は小さくはにかんだ。 ここは、甘味処『スィートドリーム』。皇都・アークソサエティに無数にある街路の一つ、古路・『レティセンスストリート』に並ぶ老舗の店。そこで名物のスィートポテトをお供にお茶なぞ飲みながら、『ヴォルフラム・マカミ』とそのパートナー、『カグヤ・ミツルギ』はこれからの事について話していた。 「じゃあ、お母さんに僕の事、紹介してくれるんだね?」 「うん……。きっと、かあさまもヴォルの事、見たいと思うし……」 そんな会話を続ける様は、まんま入籍直前のカップルのそれ。 周囲からは「リア充、爆ぜろ」の視線が此処彼処から降ってくるが、当の本人達には柳に風である。 しかし、これは誓って婚前カップルの約束事の話ではない。 話は、数刻前まで遡る。 「う~ん。ただ素振りするだけじゃあ、やっぱり張り合いないなぁ……」 そんな事をぼやきながら、ヴォルフラムは振っていた両手斧(シーラビリンス)をズシリと地面についた。 この日、休日だった彼は些か暇を持て余していた。教団本部の庭園で自主練習を始めてみたものの、イマイチ興が乗らない。 「寮母さんか料理長さんに聞けば、割る薪あったりするかな?」 そんな事を言いながら、空を仰ぐ。朝まで晴れていた筈の空は、いつしか灰色の雲に厚く覆われていた。 「雪、降るのかなぁ……」 何となく、そう独りごちる。 その言葉の通り、季節は秋から冬へと移ろいかけていた。木々を飾っていた紅葉は散り果て、冷たく透明な大気が世界を満たしていく。世間は来る氷の季節への備えに忙しなく動き、後は白の華が天を飾るのを待つばかり。 そんな空気は、ここ薔薇十字教団本部も然り。見回せば、辺りでは数人の庭師達が庭園の木々に冬支度をさせるために忙しなく動いている。その様を見ていると、ボ~ッと立っているのも申し訳なく感じてくる。仕方なく、ヴォルフラムがもう一度斧を持ち上げたその時、 「あれ?」 その手が、ピタリと止まった。 彼の目に入ったのは、庭園の端を歩く勿忘草の色。見間違える筈もない。それは、ヴォフラムのパートナーにして、唯一無二の想い人。 「カグちゃんだ……。何処行くんだろう?」 彼女の事となると、ヴォルフラムの行動は早い。手にしていた斧を口寄で自室に戻し、かの少女の元へと飛んでいく。 「カグちゃん! どこいくの?」 突然かけられた言葉に、カグラは驚いた様に振り向いた。もっとも、その驚きも相手が分かればあっという間に溶解してしまうのだが。 「あ、ヴォル……。あのね、お墓参り、行こうと思って……」 そんな言葉に、ヴォルフラムは小首を傾げる。 「お墓? 誰の?」 「かあさま……」 返って来た答えに、ハッと思い当たる。 そう。カグラには、母親がいない。つまりは……。 「ごめん。無神経な事、訊いちゃったね……」 あやまる彼に、それでもカグラは優しく笑いかける。 「大丈夫、だよ……。それより……」 カグラが、ヴォルフラムの顔を見上げる。銀色の瞳に間近で見つめられ、蕩けそうになる顔を懸命に抑えた。 「ヴォルは、訓練してた、の……?」 「うん。そうだよ」 「忙しい……?」 「ううん。そんな事ないよ。訓練だって、暇だからしてただけだし」 答えを聞いたカグラの顔が、嬉しそうに綻ぶ。 「それじゃあ、一緒に、お墓、行こう……」 「え? いいの?」 「うん……。きっと、かあさまもヴォルのこと、見たいと思うし……」 そんな彼女の言葉に、ヴォルフラムは微かに心臓が高鳴るのを感じた。 「うん、行こう」 迷う理由など、ある筈もなかった。 そして、話は冒頭に戻る。 初冬の空の下。道中は冷えるだろうから、その前に身体を温めておこうと言う事になった。それで二人は、今こうして温かいお茶を嗜むくだりとなっていた。 「じゃあ、本当に久しぶりなんだ。お墓参りに行くの」 「うん……。浄化師のお仕事し始めてから、あんまり行けてないから……」 「そっか……」 カグラの言葉に、ヴォルフラムは頷く。 確かに、浄化師になってからは何かと多忙な日々が続いていた。たまの休日も、半ドンだったり、急な任務が入ったりで、まともに過ごせた記憶はあまりない。 「それで、久しぶりのお休みだったし……。ユールの前には、行きたいなって思って……」 「ありがとう。カグちゃん」 「え……?」 ポカンとするカグラに、ヴォルフラムは言った。 「そんな大事な機会に、誘ってくれて」 「!」 本当に嬉しそうな顔のヴォルフラムに、カグラは少し恥ずかしそうに目を伏せた。 「やっぱり、外は少し冷えるね」 お茶を飲み終え、店の外に出たヴォルフラムは、吹き渡る木枯しからカグラを守る様に立ってそう言った。 「さて、それでは行きましょうか。お姫様」 「うん……」 そう言い交わして、二人は歩き出す。 つい最近まで秋の実りに賑わっていた筈の街も、今はすっかりその装いを変えている。街ゆく人々の服装は一様に温もりを込められるものに代わり、軒を連ねる店々の窓辺はもうじき訪れるユールを祝う装飾に飾られていた。 「ヴォル……。寒く、ない……?」 「全然。平気だよ」 常に自分の風除けになる様に立つ、ヴォルフラム。そんな彼を気遣うカグラの言葉に、半獣の青年は揚々と答える。寒さに強い動物の血を引いていて、良かった。こんな時、自分の出自にちょっと感謝したりするヴォルフラムだった。 そうやって、しばし街中を歩いていると、 「あ……」 カグラがそう呟いて、何処かへ走っていく。 「どうしたの? カグちゃん」 後を追ってみると、カグラが立っているのは古びた花屋の前だった。看板に書いてあるのは、『サイレントリースマイル』の文字。彼女の目はその店先に飾られている、青い花弁の花に向けられていた。 「綺麗な花だね。何ていうの?」 「氷華(スノーポール)……。アールプリス山脈で、この季節にだけ咲く花なんだって……」 そう言うと、カグラは店の中にいた店主らしい女性に声をかける。きっと、母親への贈り物にするのだろう。しばらくして、青く輝く花束を持って出てきたカグラを見て、ヴォルフラムは呟いた。 「綺麗だ……」 「そうだね……。とっても、綺麗……」 (綺麗なのは、君だよ)なんて言葉は、流石に恥ずかしくて言えなかった。 それから、またしばし歩いた。建物は少なくなって行き、いつしか二人は枯れ色の草原とその中を通る一本の小道の前へと出ていた。 「こんな所が、あったんだね」 「うん……。この道の向こうに、かあさまのお墓があるの……」 「そうか。それじゃあ、行こう」 そして二人は、灰色空の下を寄り添って歩き始めた。 「寂しい所だね。こんな所に、お母さんのお墓が?」 「うん……。普通のお墓とは、ちょっと、違うけど……」 「?」 そんな会話を交わしながら歩いていると、眼前に数件の民家らしき建物が見えてきた。さらに近づくと、それが酷く荒れているのが分かる。どうやら、空家らしい。すると、最初の一軒でカグラが足を止めた。従う様に、ヴォルフラムも足を止める。 「ごめんね……。ちょっと、待ってて……」 そう言うと、カグラは持っていた花束から数輪抜いて、家の前に置いた。 ヴォルフラムは、問う。 「カグちゃん、ここは?」 「少し昔は、人が暮らしてたの……。でも、ベリアルに襲われて……」 「!」 言葉の意味を察し、言葉を失うヴォルフラム。そんな彼の目の前で、カグラは次々と家に花を添えていく。 「その時、女の子が一人だけ、助かったんだけど……」 銀色の瞳が、主達を亡くした家々を見上げる。 「その娘のご両親が、まだ彷徨っているの……その娘を、案じて……」 「……そうなんだ……」 その身に霊媒師の血を引くカグラは、死せし者の声を聞く。今も、その耳には娘を求める親達の声が響いているのだろう。 彼らの為に祈るカグラ。その傍らで、ヴォルフラムもまた静かに目を閉じた。 そこからまたしばらく歩くと、小さな広場に出た。道は、そこで終わっている。見回してみたが、墓標らしきものはない。樹が数本、生えているだけ。 「ヴォル……。これが、かあさまだよ……」 彼の疑問を読み取る様に、カグラが樹に触りながら言った。 「これが?」 「うん……。樹にはね、亡き人の魂が宿るの……。樹は、その身の中で次の時が来るまで、魂を守ってくれる……」 白い手が、樹の根元にそっと花束を添える。 「かあさまの気配が、この樹から一番するから、いつもここに花を置くの……」 そして、カグラは樹の梢を見上げる。その銀の瞳の中に、かの姿を映しながら。 「かあさまは、私を生んだ翌日に死んでしまった……。だから、生きてるかあさまは、見た事ないけど……心配して、魂はいてくれたの……」 「そうか。カグちゃんのお母さんは、ここにいるんだね」 そう言うと、ヴォルフラムは灰色の空に枝を広げる樹に向かって語りかける。 「お母さん、僕、ヴォルフラム・マカミと言います。八歳の時に、祓魔人だと判って家族とは別れてきました。でも、後悔はしていません。その代わりに、大事な人と出会えましたから。まぁ、ちょっと死にかけましたけど」 少し笑って、彼は続ける。 「貴女には、感謝します。僕の大事な人を、この世に産んでくれて。本当にありがとうございます。それに報いるためにも、この娘は、カグちゃんは、命をかけて僕が守ります。だから……」 ――安心してください―― そう言って黙祷する、ヴォルフラム。そんな彼を見ながら、カグラもまた、想いの中で『彼女』に語りかける。 (ねえ、かあさま。分かるでしょ。私、大丈夫だよ。相性のいい祓魔人(ひと)になかなか出会えなくて、泣いてたけど。今は、こうしてヴォルに出会えたから) と、厚く空を覆っていた雲が切れ、一筋の光が差し降りる。見上げるカグラ。降り注ぐ光の中に、彼女は優しい微笑みを見る。それに向かって、彼女は言った。 「かあさま、私、厄介な子じゃ、なくなったよ」 やがて、光は静かに消えていく。まるで、何かに満たされた様に。そして、代わりの様に降り始めるのは、白い、白い、天の欠片。 「初雪だね」 「うん……」 カグラに歩み寄りながら、ヴォルフラムは細い肩に手を置く。 「行こう。きっと、積もるよ」 「うん……」 頷く少女。寄り添う青年。そして、彼らはまた歩み出す。離れる事なく、固く、優しく、つながり合って。 やがてその姿は、灰色空の道の向こうへゆっくりと消えていった。 後に残るは、深々と積もる雪の中、青く光る華が数輪。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[2] カグヤ・ミツルギ 2018/12/14-01:38
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