~ プロローグ ~ |
シャドウ・ガルテンの片隅にある町。この町を歩くと至る箇所に星と月をモチーフにしたオーナメントが飾られている。表通りには作り手の個性が見える星のランプが並べられており、祝祭になれば圧巻の光景が見られるだろう。 |
~ 解説 ~ |
●目的について |
~ ゲームマスターより ~ |
ここまでプロローグをお読みくださり、誠にありがとうございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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目的 キラービーの巣の撤去 ピクシーが世話をしている大樹なんて、お伽話に出てきそうな光景ですね それに巣食ったキラービーの巣で現実に引き戻されますけど… ピクシーって初めて会いました 案内宜しくお願いしますね 握手代わりに人差し指を出す 厚手の服や帽子で肌の露出少なく 戦闘 ヨナ 遠距離からFN11で巣を切り崩し地面に落とす 大樹と密着している部分を狙いたい 難しいなら近接職に任せる 過程で飛び出して来たキラービーにはFN10 囮に多く群がるようなら加勢 大樹や果実に被害がでないよう注意 ベルトルド ヨナの行動を待って巣に近付き駆除 邪魔をしてくるキラービーにJM5or10 女王蜂を見つけたら優先して攻撃 巣の残骸は麻袋に詰める |
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■巣の撤去 囮の行動の後、巣の駆除開始 ルーノは巣へ通常攻撃、撃ち落せないか試す また巣の撤去に動く味方を狙う蜂を攻撃し妨害 味方体力半分以下でSH11 毒はSH6で解毒 ナツキは最初ルーノを援護 遠距離攻撃では落ちない場合、囮と反対から木を登り直接巣を叩く ルーノ:ナツキ、木登りは得意かい? ナツキ:おう、昔よく登ったぜ(巣を見て頷き 囮や遠距離攻撃で蜂の注意が逸れている隙に、 巣の中の蜂を刺激しないよう近付きJM8で巣を木から切り離す 女王蜂は味方と協力して倒す スキルも使用し巣の駆除を邪魔させない ■ピクシー 危険を冒して案内してくれるピクシーには失礼の無いよう接する 危険が及ぶなら守り、木もなるべく傷付けないよう注意 |
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【目的】 キラービーの大群に対して囮になり巣から少しでも多くの敵をおびき寄せる 巣を駆除する時間を稼ぐ 【行動】 アブソリュートスペルを唱えておく 『浄化の焔』に灯りを灯しておく ペンタクルシールドを使用し待機する キラービーが来たら喰人と一緒に逃げる タロットカードで攻撃、牽制しつつピクシー達の集落になるべく被害を与えないように遠くへ誘導する ペンタクルシールドが無くなる時、ウィルに時間を稼いで貰いはり直す 【心情】 シャドウ・ガルテンの方々は、まだ私達を怖がって居る人も居ると思うけど… それを払拭してあげられないかと思ったんですの だから約束しますわ アブソリュートスペルに誓い、私達はあなた方を助けたいだけなのだと |
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~ リザルトノベル ~ |
くらがりの森は夜の漆黒を内側に抱え込み、ランタンの灯りが届く範囲だけしか見えない。見通しが悪いと言うより、まるで真っ暗闇の中を歩いているようだった。月明かりも届かない森の影に呑み込まれている感覚に陥る。 常夜の国シャドウ・ガルデンに滞在して暗闇に慣れたというのに、この森の暗さは別格だった。 「……娯楽の少ない国だ。催し物を楽しみにしているものは多い。指令を成功させてスターリーナイトを開催する手助けをしたい」 「そうだな、楽しそうにお祭りの準備してたもんな、中止になるなんて考えたくないぜ。それにそんなに困ってるならほっとけねぇよな!」 「君らしいな」 どこまでも前向きな『ナツキ・ヤクト』の言葉に『ルーノ・クロード』の顔は僅かに綻ばせる。 「ルーノさん達が集めた情報を共有してもらってもいいですか?」 「ピクシーさん達のことなら私も気になりますわ」 「アリスはピクシーと仲良くなれないかと随分気にしていましたからね……」 『ヨナ・ミューエ』の質問に便乗するように『アリス・スプラウト』がワクワクした表情を向ける。そんなアリスにパートナーである『ウィリアム・ジャバウォック』は苦笑いしている。 「ああ、その前にこの依頼を出された経緯を改めて話した方が分かりやすいかもしれない」 仲間たちの疑問を一身に受けたルーノは顎に手を当て、少し考え込んでいた。 「何かこの依頼に裏でもあるのか?」 「いや、誤解を招いたのならすまない。ただどこから話すべきか迷っていただけだ」 懸念の色を見せる『ベルトルド・レーヴェ』にルーノは慌てて口を開いた。ナツキも明朗な笑顔で、 「そうそう、心配いらねぇよ、本当の依頼人はピクシーだったって話だしな!」 それにルーノも頷き、「ナツキの言う通りなのだが」と前置きし話し始めた。 「国交が開かれたばかりで戸惑っている者も多い。不安がるヴァンピールを心配したピクシーが今回の依頼を出すようにせっつかれたそうだ。 キラービーに困っているのも本当だが、ピクシー達が浄化師に会ってみたいと言い出したことから依頼を出したそうだ」 「どんな奴が来るのか見極めてやると意気込んでるって依頼人が苦笑いしてたよな」 ――というのはきっと半分は建前なのでしょう。閉鎖的な場所ですから、ピクシー達は目新しいものには弱いんです。 さらに名士の言葉を続けてナツキが他の仲間達に伝えると、 「つまり娯楽に飢えたピクシーが呼び寄せたということか……」 ベルトルドの憮然とした表情にルーノが肩を竦めながら、そうなるねと返す。 「それに彼の館にはミニチュアの家具が屋敷のあらゆるところに置かれただろう」 「……そうだっけ?」 ナツキは思い出そうとするが、首を傾げたままだ。 「そうですね、窓の横に小さな扉とか棚の中にミニチュアの小さなテーブルとティーセットが置かれているのを見かけました」 「あれはピクシーのものだったんですわ。そういえば、お店にも売ってありましたよね、可愛らしかったですわー」 ウィリアムが思い返すように呟くと、アリスが感動したように両手を合わせて楽しそうに話す。 「てっきり、私はこの町の特産品だとばかり思っていました……」 ヨナが呆然とした様子で呟くと、ベルトルドも無言で頷く。 「ドールハウスのお店が妙に多いなとは思っていたんです。あれはピクシー向けのお店なんですね……」 「素敵ですわね、ピクシーと共に生きる町だなんてお伽噺のようですわ」 どこか夢見心地な目でアリスはうっとりとする。 「ああ、妖精と共存する町というわけだ。あの町にはヴァンピール以外にもピクシーが隠れていたんだ。エレメンツの魔力探知を誤魔化せたのはピクシー独自の魔法かもしれないな」 ルーノの言葉にエレメンツであるヨナが驚く。 複雑な魔術式を必要とする魔術と違い、魔法は自然の力を借りたり、他者の力を借りたりする故に魔術では起こせない現象を容易く起こせてしまう。 「あの町ができる前よりもピクシーが住んでいたんだってよ。森の一部を分けてもらってさ、町に発展するまで随分ピクシーに世話になったって話しだぜ」 「あの町ニュンパリアの住人にとってピクシーは良き隣人というわけだ」 ナツキとルーノの補足に、ピクシーをないがしろにすれば、町の住民と教団の不和に繋がりかねない事が判明する。 「ただの案内役というわけではないのか。あの町とピクシーは切っても切れない結び付きがあるというわけか……」 「ああ、危険を冒して案内してくれるピクシーには失礼がないようにしなければ」 ベルトルドが腕を組みながら話すとルーノも重々しく頷き、この森で行動する上での注意点を仲間に説明する。 「今この森に落ち葉が積もって燃えやすい状態になっている。特にこの季節は空気が乾燥して燃えやすい環境だからか、ピクシーは森での炎には過敏になっている。それにこの森には火気属性の生物がいないから尚更だ」 「炎が嫌いということですか?」 ヨナが疑問を口にすると、ルーノは首を振る。 「この季節、街では暖炉の側で暖を取ったりしていると聞いている。だが、この森を住処としているピクシーの為にも火の取り扱いには細心の注意をして欲しいと依頼人に頼まれたよ」 「確かに自分達の住処を燃やされでもしたら嫌ですよね。他にはピクシーが嫌がるような注意点はありますか?」 ピクシーと接した事がないヨナは抜かりないよう問いを重ねる。 「ああ、住処を荒らされる行為や無礼な行いをされると怒るそうだが、変に気負わずに接してほしいと頼まれたよ」 ヨナは困惑したように黙り込み、逆にアリスが嬉しそうに口を開いた。 「まあ、ならお友達になれるといいですわね、ウィル」 「アリスなら友達になれますよ。……さて、どこまでがピクシー達にとって無礼に当たるかが問題ですね」 アリスの無邪気な笑みにウィリアムは笑みを浮かべて同意する。 「それにせっかくだし、ピクシーとも仲良くなりたいしな。それにしても案内役のピクシーはいつ現れるんだ?」 「ピクシー達はもう私達の前にいるよ」 「へ?」 ルーノの言葉にナツキは周囲を見渡すが、暗がりの中では何も見えない。 「ルーノ、どこにもいねぇぞ」 「いるさ、……隠れているだけで私達の側にずっといたよ」 ルーノが不意に足を止める。 「ここにお招き頂きありがとうございます」 そう言ってルーノが礼を取ると、たくさんの淡い光が蛍火にように森に漂い始める。 ――お客様が来たわ。本当ね。客人がやって来たぞ! ――良い子悪い子どちらかしら? どっちだ? どちら? どこまでも無邪気な声。コーラスのように複数の声が重なり歌のように聞こえる。 ルーノの前に銀のピクシーが光の中から現れる。月輝花をモチーフにしたドレスが揺れ、菫色の二枚羽が羽ばたく度に、月光のような燐光が空に散らす。 月輝花はシャドウ・ガルテン固有種の純白の花だ。百合に似ているが、茎も葉も闇の中でもぼんやりと浮き上がるほどに白い。そのことから、「道標」という花言葉もあるが、これほど案内役にぴったりの言葉もないだろう。 「いらっしゃいませ、賢いヴァンピールの子。そして、おかえりなさい」 ルーノはピクシーの言葉に目を瞠り、 「私はこの町出身ではないんだが……」 「でも、シャドウ・ガルデンが故郷なんでしょ。なら、細かい事はいいじゃない」 「良かったじゃねぇか、ルーノ!」 ナツキが自分の事のようにルーノが歓迎されている事を喜び、ルーノも口元を綻ばせる。 「……美しい方ですわ」 アリスが美しい銀のピクシーに感嘆の溜息を漏らし、ウィリアムはアリスに倣うようにピクシーを褒め称えた。 「ピクシーは可愛らしい方だとばかりだと思っていたんですが、君のような美しい方もいるのですね」 「ありがとう、礼儀正しいアリスにお人形さんのウィリアム」 ドレスを摘んでお礼を言うところを見ると、誉められ慣れているのが分かる。 「ピクシーって初めて会いました。案内宜しくお願いしますね」 「私は月夜のピクシーのニアよ、よろしくね」 ヨナは握手の代わりに人差し指を差し出すと、ニアは凄艶な姿に似合わぬ人懐っこさで小さな手で握り返した。ほんのりとその小さな手が温かくてこの幻想的な生き物は生きているのだと実感する。 「あっ、私達の名前は……」 「ヨナにベルトルドでしょう、知ってるわ」 ずっと見ていたものとニアは歌うように答える。 「そのイヤリング素敵ね。あの子の葉っぱみたい」 ――本当だわ、素敵。キラキラしてるわ。 困惑したヨナに構うことなく彼女がしていた楓の音色にニアを含めたピクシー達が集い始める。 隣にいたベルトルドは腕を組んだまま、見えない誰かに悪戯されるがままだった。 「……あの子?」 「ポムドールのことよ。ポムドールとは友達なの」 ヨナの反芻した言葉にピクシー達はすぐさま反応する。 ――ポムドールは私達の友達。ポムドールには長老がいるんだ。 「ポムドール達の傍はとっても居心地がいいの。彼らはとっても優しくて穏やかなの」 どうやらピクシー達のリーダーはニアのようで彼女が話す時は、お喋りなピクシー達も口を閉じる。 「あの、確認しておきたいことが……ポムドールは意志を持つ植物なんですか?」 「そうよ、私達はお喋りできるけど、勘のいい人間ならなんとなく感情が分かるわ。でも今は滅多にそんな人間はいないわね」 当たり前の事のように告げられた事実にヨナは難しい顔をする。 それならば猶更ポムドールを傷つけないように戦わなければならない。傷つけでもしたら罪悪感が酷い上に、ピクシー達の怒りも怖い。 「ポムドールさんのことが大切なのですわね……」 「友達ならそうだよな!」 ピクシーに共感するアリスにナツキが素直に頷いている。この二人以外は、ヨナと同じ考えに至ったのか仲間達は頭を抱えていた。 ニアはそんな浄化師に構うことなく、マイペースに話を進める。 「ここの冬は寒いの。女王蜂は越冬の為に冬眠するでしょうけど、働き蜂は寿命よ。まさかスターリー・ナイト間近になるまで動いているとは思わなかったわ」 どうしてなのかしらと首を傾げるニア。ニアの話が終わったと同時に他のピクシー達も次々と浄化師達に訴えてくる。 ――あそこは私達にとっても大切な憩いの場なの。 ――キラービーが奪ったの。少しでも近づこうものなら、攻撃してくるんだ! ヒドい奴らだ。 ――だから、近づけなくて困ってるの。スターリーナイトも近づいてるのに! 「友達と会えなくなるのは寂しいですわね……――約束しますわ」 アリスはピクシー達の訴えに決然とした面持ちで顔を上げる。 「アブソリュートスペルに誓い、私達はあなた方の力になりますわ」 「その誓いを受け取ったわ。森の扉を開くわよ」 随分と歩いてきたが、変わらぬ光景が続くばかりでちゃんと前に進んでいるのかも曖昧だったが、 「『お客様が来たわ。さあ、扉を開けて頂戴』」 ニアがそう唱えると、常闇の幕が開いたように光景が一気に変わる。 ポムドールの木は一本だけではなかった。それは黄金の森だった。 森が闇の中から浮かび上がる。ポムドールの木そのもの――葉や果実が淡く月灯りのように輝いている。 樹木には琥珀のような結晶が生えており、より幻想的な光景だった。 「ここがポムドールの庭よ」 「素敵ですわ! まるで絵本の挿し絵のよう――」 黄金の森を飛ぶピクシーを見てアリスが興奮したように声を上げる。ウィリアムに慌てて口を塞ぎ、ウィリアムが小声で注意する。 「アリス、キラービーに気づかれます!」 「キラービーの巣はもう少し奥ね」 ニアの言葉に二人はホッと息を吐き出す。 足元には黄金の絨毯が敷かれていた。 黄金の葉が夜風に揺られて落ち葉の中に隠れる。楓に似た葉は落ち葉になってもほんのりと淡く光沢を帯びている。 果実は一際優しげな淡い光を纏っている。それは内側から輝いているようにも見えた。宝石のような美しさに人の食欲を擽るような甘酸っぱい果実の匂い。 「ピクシーが世話をしている大樹なんて、お伽噺に出てきそうな光景ですね。それに巣食ったキラービーの巣で現実に引き戻されますけど……」 「まあお伽噺のようにはいかないと言うことだ……」 ヨナのどこか呆然とした言葉にベルトルドも頷く。 黄金の森の先には、長老の如くどっしりとしたポムドールの大樹があった。 大樹が天蓋のように覆っており、生命の鼓動を感じさせるように黄金の果実がたわわになっている。大樹の根は大蛇のごとく、のたうつように大地にしっかり根を張っている。 それに負けずと左の太い枝にキラービーの巣がしっかりとできかけていた。 「後は任せたわよ!」 ニアはウィンクすると月夜に溶けるように消え、他のピクシーも同じくどこかに隠れてしまった。 「囮役頑張りましょうね、ウィル!」 「全く……私は、あまりこういうのは得意ではないんですが……聞いていますか? アリス」 「ウィルには感謝してますわ。私のわがままに付き合って下さって……」 「はあっ……仕方ないですね。アリスがこう言ったら聞きませんから」 溜息を吐きながらもすぐに全てを覆い隠す微笑みを浮かべる。 「アリスがそう言うのであれば、私はそれに従うだけですよ」 ウィリアムが差し出した手にアリスがそっと手を重ね、 「さぁ、お茶会を始めましょう!」 二人の声が重なり合い、魔力が解放される。 「アリス無理はしないように、私達はあくまで囮。出来るだけ怪我をしないように」 ウィリアムは少し心配そうな表情を作りながら、アリスにそう言い含める。 紫とピンクの縞模様をしたチェシャ猫をウィリアムが魔力の糸で操り始める。 キラービーが威嚇していようがお構いなしに優雅に大樹へと近づいていくと、チシャ猫は知らんぷりしたまま気ままに大樹の根本でごろりと横になると悠々と毛繕いし始めた。 さらにチシャ猫がからかうようにキラービーの前でふわふわとした尻尾を振る。 キラービーはナイフのような針を突き刺そうとするが、チシャ猫はぴしゃっと体を起こすと、素早い動きで走り出してしまう。それをキラービー達が集団で追いかける。 囮となった二人がキラービーを引き連れて逃げ始めると、隠れて待機していた他の仲間達が一斉に巣に向かって走り出す。 アリスは予めペンタクル・シールドを張ったまま、浄魔の焔を振ってキラービーの誘導を開始する。 「は、速いですわ! あっという間に追いつかれてしまいました!」 ペンタクルのタロットカードを宙に舞わせたアリスがウィリアムの盾になり、時間を稼ぐ。 「あぁっ……!」 パリンっとガラスが割れたような音を立てる。シールドはキラービーの一撃により力を失い、タロットカードは占星儀へと戻る。 すぐにタロットを投げつけつつ、牽制するアリスの横でウィリアムがアライブの発動準備を完了させる。 「さあ、踊りなさい。傀儡繚乱!」 周囲を飛ぶキラービーにチェシャ猫は優雅に踊るように爪で敵を引き裂いてしまう。 「まだたくさんいますわ~!?」 「だから、あれほど言ったのに……」 二人の囮作戦はまだ終わりそうになかった。 「はあっ!」 虎尾脚――ベルトルドが地を蹴る。その勢いで横回転しながら足の裏でキラービーを蹴りつけようとするが、キラービーは高度を上げる事で避けられてしまう。 「……やはり空を飛ばれると、攻撃が当たらんな」 ベルトルドは敵の攻撃を利用したカウンター技の方へと切り替える。 襲いかかってきたキラービーを自分の間合いまで引きつけるとベルトルドはその身軽さを生かしてバク転しながら制裁の力を上乗せし、強烈な蹴りを叩き込んだ。 別のキラービーが再び数体襲い掛かってくると、ぎりぎりまで引き寄せ、その直前で交錯するように回避しながら、キラービーを蹴り落とす。 ナツキも苦戦していたが、だんだんとキラービーの動きが掴めてきたのか閃光の一撃で屠っていく。 巣の周りを飛んでいるキラービーが減っていくのを見て、ヨナが動く。 「これを機に巣を打ち落とします」 「ああ、お前に攻撃するキラービーは俺が引き寄せよう」 ベルトルドの言葉にお願いしますとヨナは返事すると、黄昏の魔導書に魔力を込める。 限界ギリギリまで範囲を引き絞り巣だけを狙いを定める為、神経をそそぎ込む。 周囲から音が消える。匂いが消える。色が消える。 「風よ、我が声を聞き、意のままとなれ」 ――エアースラスト! 初めての感覚。だが、必ず成功するだろうと言う確信があった。渾身の魔術はヨナの狙い通りポムドールを傷つける事なく、風の斬撃が巣の大部分を破壊した。 無事、巣の撤去を出来た事を喜ぶ時間はない。巣が破壊された事で女王蜂が目を覚ました 最後の傀儡繚乱を発動したウィリアムは魔力切れの脱力感を感じながらも、人形を操る手を止めない。 (囮役だなんて……考えてみれば一番危ない役ではないですか。やはり止めておくべきでした。一人で逃げようにもこれだけ引きつけていたら逃げることもできない) アリスは愚直にウィリアムの盾になり続ける。ペンタクルシールドを張り直してもすぐに壊されるというのに、それでも身を挺してウィリアムを庇い続ける。 そんな事を考えていたウィリアムの眼前にキラービーのナイフのような針が迫る。 「ウィル!」 アリスの叫びが聞こえる。 (……私としたことが……) アリスの守護をくぐり抜けてきたキラービーの針が右腕を切り裂く。 右腕が熱い。言葉にできない激痛が腕から全身に奔る。発熱したように体の熱く、眩暈がするのも毒のせいだろう。刺された右腕は一回り赤く腫れているのが分かった。 右手の動きが鈍いのを左手でカバーしながら、敵を倒す。 「もう少し待っていて下さい。ルーノさんがこちらに来てくれますから、だから――それまで私が守りますわ」 アリスの水晶の占星儀がその想いに応えるように輝いた。 ライトブラスト。 光弾でキラービーを撃ち落としながら、その眩い光で敵を引きつける。 四神浄光・壱 ルーノが詠唱を唱え解毒すると、ウィリアムの顔色が徐々に良くなっていく。 それでもキラービーは連携攻撃を仕掛けて来る為、未だ女王蜂は守られたままだった。 ヨナが焦りを感じ始めていると、突然ニアが姿を現した。 「助けてあげましょうか? もちろん見返りにお願いをさせてもらうけど」 「必要ありません。ここは危険ですから隠れて下さい!」 下手に戦闘に介入されても困るヨナは動揺しながらもそう答える。 「なら、悪戯とお手伝いならどっちがいい」 ニアはこんな状況でも無邪気に微笑みながらそう尋ねてくる。 実質的に選択肢がないではないか。 ヨナは苦渋の決断の末に後者を選んだ。 「……お手伝いでお願いします」 ヨナが苦悩しているのを愉快そうに見ていたニアは、その返答に微笑む。 「お手伝いね、みんなお手伝いですって!」 「ま、待って下さい、何をする気ですか!?」 「何ってあなた達のお手伝いよ。きっと邪魔にはならないわ」 ニアが他の仲間に呼びかけると、慌ててヨナは問いつめる。そんなヨナの慌てようすら楽しげにニアは見つめている。 「お願いとやらは何ですか?」 「駆け引きを楽しみたいところだけど、無粋な蜂がいてはできないわね」 口元に人差し指を当てて、ニアは唱える。 『息を潜めるように、闇の帳を下ろしましょう』 突然蜂たちは混乱したように見当違いな方向に飛び始めた。おそらくニアが魔法を使ったのだろう。 「これで話ができるわね。私達ね、ライカンスロープに会うの初めてなの。だから、トランスが見たいのよ」 どんなお願いをされるかと身構えていたヨナだが、思わぬ可愛らしいお願いに、 「……ベルトルドさんが好きなだけお願いを叶えてくれます、きっと」 「おい!?」 ヨナは目を逸らしながらベルトルドを売り払った。 ピクシー達はわくわくとした目で見ている。 「いいですよね、ベルトルドさん」 「はいかイエスしか選択肢が用意されてないんだが……」 「これも指令の為です」 しれっとヨナが答える。 「おう、それぐらいなら構わねぇぞ」 話を聞いていたナツキは気楽に了承し、ベルトルドは天を仰ぐ。 ――お耳に触ったらどんな反応をするかしら? 僕はシッポ! 「いいも何もここに来る途中で耳を引っ張られたり、尻尾を触られたりしたんだが……」 ――え、抜け駆けした奴、誰よ? 私じゃないわ! 僕我慢してたのに! ピクシーがわっと騒ぎ出し、ベルトルドは頭が痛くなる。 「俺はここに子守をする為に来たのか?」 戦闘後、ピクシーの遊び相手になることが決定したベルトルドの背は煤けていた。 「おーい! ケンカするなって、戦いが終わったらトランスしてやるからさ」 ――早く終わらせよう! そうね、早く終わらせなくちゃダメよね。 ナツキの一声にピクシー達の手のひらを返す。ピクシー達は女王蜂の近くにいるキラービーに暗闇の魔法を飛ばす。 混乱状態に陥ったキラービーを尻目に、一気に駆け抜ける。 「うぉおおおっ!」 一閃。ナツキが一撃で女王蜂の羽を切り落とす。墜落する女王蜂に近づく影がある。 「後は頼むぜ、ベルトルド!」 「疾風烈空閃!」 嵐の如き速さによって拳を槍のように突き上げる。再び舞い上がった女王蜂に斬りつけるような鋭い蹴りで地面へと叩きつけた。 女王蜂を失ったことで働き蜂は急激に力を失い、浄化師達に片付けられていく。 最後の一匹に止めを刺したナツキに、ピクシー達が歓声を上げる。 その後、ルーノが毒を解毒したり、仲間達に回復魔術をかけているとピクシー達が出血や毒に効く薬草を大量に運んでくる。アリスやヨナが麻袋に巣を詰めている横で、ベルトルドは先にトランスし、ピクシー達につどられていた。 早くトランスしてと急かすニアを含むピクシー達をナツキは宥めながら、 「なぁ、気にくわない奴だったらどうするんだ?」 不意に思った事を口にする。 「……どうしようかしら? 姿を現さないだけかもしれないわ」 ――ウソばっかり。気に食わなかったら森から出られなくなるだけ。 ――そうね、ずっと森を彷徨うの。ぐるぐると歩き回るの。餓死するまでね。 くすくすと楽しげにそう囁きあう。 夜闇に沈み込むようでいて華やかな微笑。 人とは隔絶した人外の笑みはただただ美しい。 人間はそれを子供のような無垢さと捉えるか、もしくは残酷さと捉えるのかもしれない。 それでもナツキは彼らのことが嫌いにはなれなかった。きっと町の住民もそんなピクシー達の性質を分かった上で受け入れているのだろう。 こうしてスターリーナイトの前日譚は波乱を含みながら幕を下ろすのだった。
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*** 活躍者 *** |
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[12] ヨナ・ミューエ 2018/12/13-22:35
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[11] ルーノ・クロード 2018/12/13-18:26 | ||
[10] アリス・スプラウト 2018/12/13-06:01
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[9] ヨナ・ミューエ 2018/12/13-00:14 | ||
[8] ルーノ・クロード 2018/12/12-23:53
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[7] アリス・スプラウト 2018/12/12-21:43 | ||
[6] ナツキ・ヤクト 2018/12/12-19:17 | ||
[5] ヨナ・ミューエ 2018/12/12-07:09
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[4] ヨナ・ミューエ 2018/12/12-07:07 | ||
[3] ナツキ・ヤクト 2018/12/11-21:51
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[2] ヨナ・ミューエ 2018/12/11-12:32
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