~ プロローグ ~ |
樹氷群ノルウェンディ。 |
~ 解説 ~ |
樹氷群ノルウェンディのオーセベリにて、雪遊びに参加し、宝物を探してください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ベ いくら大人気のトロール・ブルーといえ浄化師を動員するとは 依頼主は情熱的な人物なんだな ヨ その熱意があればペアリングが無くてもいけそうですが ベ そういう問題ではないんだろう。要は気持ちだ ヨ なるほど… ともかく雪を見るのは楽しみですね ヨナ 一面の雪景色に寒さは吹き飛ぶ 他の参加者に混じり宝探し…の筈だったが子供に雪玉を当てられ 気が付けば混ざって雪玉を投げ合っている 子供たちは手強くなかなか当てられず 子供に雪玉作りのコツや投げ方を教わりと宝探しどころではない ベ ヨナを見れば子供たちと雪合戦中 小柄なせいか違和感が無い事が笑いを誘う 子供相手に本気になるんじゃないぞ と言いながら地道に宝探し 早く温泉に入りたい |
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◆ローザ 「二人の仲は永遠に冷めず、二人を結ぶ糸は永遠に切れない」…か 素敵なお話だな 恋する依頼主の為に、必ず手に入れてあげよう 雪に慣れていないヘイリーへ軽口を叩きながら、宝探しをしよう 子供たちの相手をしだしたヘイリーに文句の一つでも言おうと思ったが …顔面に雪玉をぶつけられた …いいだろう、相手になってやろうじゃないか! 子供たちに狙いの付け方の助言をしつつ戦う いいかい、あの怖い鬼のおじさんを狙うんだよ? …つい夢中になってしまったな。柄でもなかった 一緒に遊んだ子供たちに宝物を譲ってもらえないか交渉しよう …こうやって雪合戦をするのも、楽しいものだな ふふ、貴方も楽しそうだったな ◆防寒 的確に防寒対策 スマート |
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イザークさんは雪だるま作ったことはありますか? うっかり宝物が雪だるまに巻き込まれててはいけないので 宝箱がないか確認しつつ、転がしてる雪玉の補強を。 イザークさんっ!子供みたいなことやめて下さい! ※宝箱発見後 結構大きくなった雪玉を転がそうとして 何度が滑って雪に突っ込んでしまうけれど ここまできたら…ちゃんと雪だるまにしてあげない…とっ イザークさんが欲張りすぎるから…ですっ こんなに雪まみれになったのは子供の時以来 …いえ幼い時もここまで雪に突っ込んだのは初めてかもしれません 悪くはなかったのですが…早く温泉に行かないと風邪引きそうです |
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ふぅん…要するに、私達が見つけた宝をこっそり横流しして、依頼主が見つけたってことにすればいいのね …事実でしょ?(きょとん ふふっ、任せなさい ベリアルに比べれば、こんなものは朝飯前…きゃっ! 幸運にもすぐに宝を発見 掘り返している途中、背後から雪玉に強襲され 振り向くと逃げていく子供たちの背中 あなたたち…よくもやったわね! 怒るより、挑戦を受けたと認識し反撃しようとする 子供を説得するトールに感心しつつ自分も乗る 雪合戦に付き合うだけじゃだめなら、こういうのはどう? 勝った方が、今までに見つけた宝を全部手に入れられるの 雪合戦を楽しめて宝まで手に入る、悪い話じゃないと思うけど? 決まりね 言っておくけど、私強いわよ |
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~ リザルトノベル ~ |
● 入念な防寒対策を施してなお、寒さに辟易していた『ヨナ・ミューエ』は、眼前に広がる光景に息をのんだ。 心の中でも口に出してでも、散々に連ねていた、氷点下の外気への不平不満が瞬時に消し飛ぶ。 「すごいですね……。一面の雪景色ですよ、ベルトルドさん」 「表面が溶け始めているのか。きらめいて美しいな」 青空の下、裸木が立ち並ぶ雪原に、スコップを持つ『ベルトルド・レーヴェ』も目を細くする。 しばらく二人並び、白い息を吐きながら見惚れていた。ひゅお、と走り抜けた風に思わず首を縮めたヨナが先に我に返る。 「探しましょうか」 「ああ。もう始まっているからな」 一点の曇りもないように見えた真白の原には、ぽつぽつと人の姿が見え始めている。みんなスコップを持っていたり、厚手の手袋をはめていたりした。 その中に、二人も入っていく。 「いくら大人気のトロール・ブルーとはいえ、浄化師を動員するとは。依頼主は情熱的な人物なんだな」 適当な裸木の根元を掘り始めたベルトルドの言葉に、あたりを見回していたヨナは浅く頷く。 「その熱意があれば、ペアリングがなくても行けそうですが」 「そういう問題ではないんだろう。要は気持ちだ」 「なるほど……」 実感を伴っての理解はできないが、状況は悪くない。雪、という見慣れないものが見渡す限り広がっている景色には、胸が躍る。 「ベルトルドさん。私はあちらの方を探してきます」 「分かった」 依頼内容はこの雪遊びで優勝すること。すなわち隠された宝をできるだけたくさん見つけることだ。 固まって行動するよりも、分散した方が発見の確率は高くなるだろう。 「さて」 雪原は着々と、雪遊びの参加者たちによって浅く掘り返されたり、雪だるまや雪ウサギの材料にされたりしている。 「器用ですね。葉っぱとこの……赤い実は、どこから持ってきたのでっ」 屈んで雪ウサギを観察しようとしたヨナの後頭部になにかが直撃した。 衝撃で少し前のめりになった体を戻し、慌てて振り返る。 「なにごとで――」 「ごめんなさいー!」 「す、か。子ども?」 鋭さを含んだ声に割って入った謝罪に、ヨナは瞬く。数名の子どもたちが、厚く積もった雪に足をとられそうになりながら駆けてきた。 「雪合戦してたんだ!」 「そしたら、玉、あたっちゃって」 「レレイが投げるの下手だから!」 「ごめんなさい!」 口々に言いながら子どもたちが謝ったり、玉を投げた子どもを前に押し出したりする。 唐突な騒々しさに呆けていたヨナは、今にも泣き出しそうな少年を見て小さく息を吐き出した。 「雪合戦、私、したことないです」 「え、ほんと?」 「やる?」 「やります」 大真面目な表情で頷いたヨナに、子どもたちがぱっと顔を輝かせた。 「お姉ちゃん、僕たちのチームね!」 「雪玉の作り方、分かる?」 「いえ。教えてください」 「こうやって、ぎゅってして」 「こうですか? ……あ」 「あー」 ぼろりと雪玉になりかけていたものが崩れる。ヨナの手を囲むように、円形に膝を折っていた同じチームの子どもたちが、同時に残念そうな声を放った。 「……案外、難しいですね」 「よし、じゃあ僕が雪玉を作るね! お姉ちゃんは投げて!」 「分かりました」 先ほどレレイと呼ばれていた少年の提案を受け入れ、ヨナは彼が手早く作った雪玉をとった。 数メートル先で待機していた子どもたちが雪合戦の始まりを察して、量産してあった雪玉に手を伸ばす。 「いつの間に、ぶっ」 驚きながら投げた雪玉はあっさりかわされた。代わりのように敵の攻撃がヨナの顔に直撃する。 「戻ってこないと思ったら」 少し離れたところでヨナが子どもたちと真剣に雪合戦をしているのを眺め、ベルトルドは小さく笑う。小柄なためか、彼女は幼い少年少女に混じっていても違和感がなかった。 「子ども相手に本気になるんじゃないぞ」 「もちろん、でっ」 心持ち張り上げた声は、喧噪の中でも届いたらしい。ヨナが同じくらいの声量で返してきたが、言い切る前に雪玉を食らった。 「早く温泉に入りたい」 空気に解ける白い息を物憂く見つめ、ベルトルドは宝物探しを再開する。 「ベルトルドさん」 「ん……、ぶ」 しばらく経ち、名前を呼ばれて顔を上げたベルトルドの額に雪玉がぶつかり、弾けるように形を崩した。 「あ、あたった」 きょとんとしているヨナに、ベルトルドは静かに問う。 「……ヨナ。なにしているんだ」 「雪合戦のコツを教えてもらっていました」 子どもたちと別れた彼女は、ベルトルドに近づき得意げに言う。ベルトルドの声はきわめて冷静だった。 「宝探しは」 はっとしたヨナは引きつった笑みを顔に貼りつける。 「……雪玉作りながら探していましたよ。少しだけ……」 「で、見つかったか?」 ぎこちない動きで彼女は目をそらした。そうか、と鷹揚に頷いたベルトルドが、無言でヨナの横にあった裸木に拳をあてる。 どん、と重い音がしたと思うと、揺れた裸木の枝から大量の雪が落ちてきた。 「わ……っ、なにするんですかっ」 「お互い様だろう」 頭や外套に積もった雪をヨナがぱたぱたと払っていく。 果たしてこんなにもはしゃぐ性格だっただろうかと、ベルトルドは内心で首をひねる。 その後、二人は無事に宝物を発見し、依頼人の優勝に貢献した。 ヨナが温かい飲み物を片手にふぅと息を吐く。 「今日は結構、疲れましたね……」 「それは、あれだけ動いていればな。さあ、この後は温泉だ」 「混浴でしょうか」 「さてな」 肩を竦めたベルトルドと、夕日に赤く照らされ始めた雪原に目を細めるヨナは、肩を並べ、ゆっくりと歩きながら、参加賞を受けとりに向かった。 ● 「イザークさんは雪だるま、作ったことありますか?」 真剣な眼差しで宝を探していた『鈴理・あおい』がふと尋ねる。 彼女の隣に屈んでいた『イザーク・デューラー』は、考えるまでもなく首を左右に振った。 「いや。雪だるまどころか、雪自体があまり降る故郷ではなかったな」 「そうでしたか。……作りますか?」 「いいのか?」 真面目に依頼をこなしてください、と言われるものだと思っていたイザークは目を見開く。あおいはかすかに口の端を上げた。 「雪遊びの宝物は、あまり深い場所には埋まっていないそうですから。雪だるまを作っているうちに、見つけられるかもしれません」 「そうか、そうだな。さっそく作るぞ!」 イザークが表情を輝かせる。あおいは指の先の、掘り返した雪を集め、手際よく小さな玉を作った。 「これを転がして、大きくしていくんです」 「なるほど」 「うっかり宝物を巻きこまないようにしてくださいね」 「雪玉が壊れてしまうからな」 真剣な顔で彼が頷く。あおいは目をわずかに細めた。 雪原を前にし、彼が宝石のような紫の双眸をますますきらめかせていたのを、あおいは隣で見ていた。この人はきっと雪で遊びたいのだろうな、とその反応を見れば理解してしまえたのだ。 「あおい、大きくなってきたぞ」 「そうですね。では私が作ったものとこうしてあわせて……」 近くに落ちていた細い枯れ枝を小さく折って、二段にした雪玉の、下段の上部あたりに突き刺す。 手をつけただけでも、ずいぶんそれらしくなった。 「雪だるまです」 「可愛らしいな!」 「そうですね」 感嘆の声を上げながら、イザークは小さな雪だるまをじっくり眺める。面映ゆいような心地になったあおいは、咳払いをひとつした。 「さて、では宝物を……」 「あおい、危ない」 「えっ」 立ち上がろうとしたあおいの後頭部のあたりで、ぱん、となにかが弾けるような音がする。 反射的に振り返り、真っ先に目に入ったのは防寒用のグローブに包まれたイザークの手だった。瞬くあおいの耳に、遠くから甲高い謝罪の声が届く。 「ごめんなさい!」 「痛かったー?」 「……大丈夫ですが、気をつけてください!」 どうやら、雪合戦の雪玉を誤ってこちらに飛ばしたらしい。 人が多い雪遊びの会場で行うのは危険だろうが、参加した子どもたちは早くも退屈しているのだろう。イザークが手を下ろすのにあわせ、あおいはできるだけ穏やかな声で返す。 その光景を見ていたイザークが閃いた。 「ちょっと、イザークさん?」 羽を広げた彼が飛んでいく。目標は――枝に雪を積もらせた裸木の上。 近くでは先ほどあおいに雪玉を投げてしまった子どもたちが、はしゃいだ声を上げながら追いかけっこをしている。 「それっ」 「きゃーっ!」 イザークが木を揺らすと、雪が真下にめがけてどさりと落ちた。子どもたちは突然の出来事に歓声のような悲鳴を上げる。あおいの頬が引きつった。 「イザークさんっ! 子どもみたいなこと、やめてください!」 そのまま遊びに参入しそうだったイザークが首を縮めて、戻ってくる。 「仕返しをと思ってだな……」 両手を肩の高さに上げて弁明しようとしたイザークは、あおいの目を見て視線を泳がせた。遊びたかっただけ、ということが、すでにばれている。 「あー、ほら、せっかくだし、隣にもう一体、作ってみるか」 「……まったく」 浅くため息を吐き出したあおいが、再び雪玉を作り始めた。 「手伝ってくれるのか?」 「もう一体だけですよ。宝物、探しながら作ってくださいね」 「任せろ!」 強気に請け負ったイザークも、雪だるまの頭か胴になる玉の核をせっせと形成した。 すっかり重くなり、大きくなった雪玉を転がす。元は手のひらに収まる大きさだったとは信じられない。 そんな中、イザークのブーツが雪の表面に露出した硬い物を踏んだ。 「あ。……あおい、あったぞ!」 頭の中から半分ほど消えていた今回の目標物、宝物を発見した。離れた位置で巨大化した雪玉を苦心して転がしていたあおいが、肩で息をしながらわずかに瞠目する。 「あ……!」 「無事に見つけられたな。第一の目的は果たしたから、あおいは室内に戻っておくか?」 あおいはイザークの提案を、迷いなく退けた。 「ここまできたら……、ちゃんと、雪だるまにしてあげない……とっ!」 「あおい!」 ずるりと足を滑らせたあおいが、雪に突っこむように滑って転ぶ。イザークは考えるより早く、あおいの元に飛んだ。 「盛大に転倒したが、大丈夫か?」 「大丈夫です」 起き上がったあおいは呼吸を落ち着けながら、雪玉の状態をちらりと確認する。こちらも無事のようだ。 「手伝ってくれるのはありがたいが、うっ!?」 あおいが転んだ衝撃でわずかに揺れたのか、イザークの真横にあった裸木の枝が彼の頭に雪を落とした。きょとんと二人は視線をかわしあう。 弾けるように、イザークが笑った。 「あおいは転倒するし、上から雪は落ちてくるし。雪まみれだな!」 「本当に。こんなに雪まみれになったのは、子どものとき以来……、いえ、それでもここまで雪に突っこんだのは初めてかもしれません」 「楽しいな」 「そうですね。悪くはないです。……でも、早く温泉に行かないと風邪、引きそうです」 「ああ。その前に巨大雪だるまの完成と」 「引き続き宝物探しですね。どちらもやり遂げましょう」 「もちろんだ」 大きな雪だるまを、とイザークが欲張り、それにあわせて際限なく成長を続けた雪玉の表面に、あおいはそっと触れる。 イザークが置いてきた雪玉も無事そうだった。ならば、まずは雪だるまを完成させると、決める。 ● 雪遊びの会場を前に、『ローザ・スターリナ』は張り切っていた。 「二人の仲は永遠に冷めず、二人を結ぶ糸は永遠に切れない。素敵なお話だな」 「そうかよ」 げんなりと『ジャック・ヘイリー』が適当な相槌を打つ。さっさと歩き始めた彼に、ローザは鼻を鳴らした。 「まるで興味はない、という態度だな」 「ねぇからな」 彼にとってはトロール・ブルーのペアリングを欲しがる依頼主の動機など、まったくもってくだらない。それでも指令として張り出された以上、誰かが手に入れなくてはならないからと、参加したのだ。 あしらうような、やや面倒くささが混じるジャックの対応を、ローザは気にしなかった。 「まぁいいさ。しっかり宝物を見つけて、依頼主に優勝賞品を贈ってあげよう」 恋する依頼主をローザは心から応援している。その後に待ち受けるプロポーズも、うまくいけばいいと願っていた。 「チッ、それにしても歩きにくいな」 雪に足をとられそうになったジャックが悪態をつく。 着膨れしている彼に対し、薄着というわけでもないのにすらりとした姿を保っているローザは、揶揄をこめて忠告する。 「転んで雪まみれにならないよう、せいぜい気をつけることだ」 「テメェも木の枝に頭ぶつけて、雪まみれにならねぇようにせいぜい気をつけろ」 「そんなヘマはしないさ」 しばらく軽口を叩きあいながら進み、やがてジャックは足をとめる。 「このあたりにするか」 「そうだな」 スコップをほとんど根元まで地面に突っこんだジャックが、豪快に雪を掘り起こす。ローザはグローブに包まれた手で、穴や雪と土をあらためた。その間に、ジャックは次の穴を掘る。 順調に分担作業を行っていたのだが。 「いてっ! ……なんだ?」 「ごめんなさいー!」 背を丸めて屈んでいたジャックの腰あたりに、なにかがぶつかった。彼と同時にローザも振り返り、ああ、と小さく声を漏らす。 「雪合戦か」 離れた場所で、数名の子どもたちが二人に頭を下げたり、謝罪の言葉を繰り返したりしていた。構わないと伝える代わりに、ローザは片手を挙げる。 その隣で、スコップを片手にジャックが立ち上がった。 「ヘイリー?」 訝しげなローザをその場に置き、彼は子どもたちに近づいて行く。叱られると思ったのか、逃げ出そうとした子どもたちに、ジャックが手とスコップで掬った雪をばさりとかけた。 「そらァ!」 「きゃあ!」 雪遊びに参加し、宝物探しに飽きた子どもたちは、ジャックを遊んでくれる相手だと直感的に判断する。あっという間に彼は幼子たちの輪の中に入れられた。 「おっさんめ、遊んでいる場合ではないという……っ!」 腰を浮かせて、子どもたちの相手をし始めたジャックに文句を言おうとしたローザの顔面に、雪玉が直撃する。 反った首をゆらりと戻し、彼女は半眼で犯人を探した。人相の悪さにもかかわらず、子どもたちにすっかり受け入れられている男が、実に楽しそうにローザを見ている。 ローザの頬がひくりと引きつった。 「……いいだろう。相手になってやろうじゃないか!」 叫びを聞いた子どもたちが、歓声を上げながら素早く二組に分かれる。子どもたちの誘導で両チームが適切な距離をとった。 雪合戦の始まりだ。 「いいかい、あの怖い鬼のおじさんを狙うんだよ?」 「わかったー!」 裸木に背をつけて隠れるローザが、雪玉を量産している子どもたちに優しく言う。ジャックのチームが投げた雪玉が裸木にぶつかった。 器用に攻撃をかわしたローザチームの子どもたちが反撃に打って出る。ローザも雪玉を掴み、ジャックを狙うが、上着の端を掠めただけだ。 出そうになった舌打ちをローザはどうにか堪えた。 一方でジャックチームでも攻撃の指示が行われる。 「いいか、ガキども。あのひょろ長いヤツにあててやれよ」 「はーい!」 両チームの間を雪玉が激しく行きかう。ジャックは合間を見て、スコップで雪の壁を急造した。 「おじさんすごい!」 「姑息な!」 子どもたちの歓声とローザの苦い声が同時に放たれる。 「こそこそしてねぇで出てこい、デカブツ!」 「壁なんて作っていないで正々堂々、向かってきたらどうだ、チビのおっさん!」 ルール無用の雪合戦が白熱していく。 子どもたちが満足したところで自然と戦いは終わった。潰れた雪玉だらけの戦場の真ん中に、両チームのメンバーが集結する。 柄にもなく、つい夢中で遊んでしまったと内心で苦笑するローザの前に、まだまだ元気そうな少年少女が立った。 「あのね、宝物、探してる?」 「いる? あたしたち、もういらないから」 「いいのかい? 譲ってくれると嬉しいよ」 瞬いたローザに、少女が大きく頷いて宝物を渡す。 「いっぱい遊んでくれたから、いいよ!」 「またねー! おじさんにもお礼、言っといてー!」 手を振りながら子どもたちが走って行く。白く染まる息を長く吐いて、ローザは口の端を上げた。 「……こうやって雪合戦をするのも、楽しいものだな」 「テメェもまだまだガキなんだ。もっと楽しめ」 視界に突如現れたカップとそれを持つジャックを、ローザは見比べる。早くとれとばかりに、湯気を上らせるカップを押しつけられた。 「どこに行ったのかと思ったら」 「宝物、見つけたのか」 「子どもたちがくれたんだ。貴方にもお礼を言っておいてくれと」 「そうか」 裸木の幹に背を預け、ローザはホットワインをひと口飲む。ジャックも雪原と人々を眺めながら、同じものを飲んでいた。 彼をちらりと見て、ローザは小さく笑う。 「ふふ、貴方も楽しそうだったな」 「……うるせぇ」 顔をそむけたジャックは、心なしか照れているようだった。 ● 雪遊びの会場である雪原を歩きながら、『リコリス・ラディアータ』は依頼内容を思い出す。 「要するに、私たちが見つけた宝をこっそり横流しして、依頼主が見つけたってことにすればいいのね」 「リコ! 言い方ー!」 「事実でしょ?」 「いやまぁそうなんだけど!」 きょとんとするリコリスに、『トール・フォルクス』は依頼人のフォローを続けようとして、諦めた。彼女が言っていることに、嘘や誇張はひとつもない。 「まぁいいか。宝探し、頑張ろう!」 「ふふっ、任せなさい」 トールの少し前を歩いていたリコリスが肩越しに振り返る。口角が不敵に上がっていた。頼もしさに頬を緩めながら、トールはリコリスを追う。 裸木の根元に屈んだリコリスが、こんもりと積もった雪を浅く掘る。 「雪が降る中で埋めたなら、埋めた痕跡なんて残っていないでしょうね」 「そうだな。そんなに深いところにはないらしいけど」 「さっさと掘って、なかったら次に行きましょう」 「なかなか骨が折れそうだ」 裸木が乱立するそれなりに広い範囲内を、雪遊びに参加している若い男女や子どもたちが、次々と掘り起こしていっている。 依頼を受けた浄化師たちや依頼人本人もいるものの、ほとんどがライバルだ。なかなか大変な任務になりそうだった。 「あったわ」 「早いな!?」 「運がよかったわね」 見つからないと諦めて、少し移動しようとしていたトールは中腰のまま驚く。彼のすぐ近くでひとつめの宝物を発見したリコリスが、小箱を掘り返した。 「ベリアルに比べれば、こんなもの朝飯前……きゃっ!」 宝物に付着した雪を払っていたリコリスの背中に、衝撃が走る。攻撃された彼女と同じくらい驚いたトールも、反射的に周囲に視線を向けていた。 少し離れたところで、子どもたちが嬌声を上げながら向こう側に走って行くのが見える。方向的に、あそこから雪玉でも投げればリコリスに命中するだろう。 「あなたたち……、よくもやったわね!」 「きゃー!」 立ち上がったリコリスは、挑戦を受けたと認識して反撃に打って出ることにした。 悪戯っ子たちは構ってもらえると即座に認識し、はしゃいだ声を上げてさらに逃げて行こうとする。 「君たち、ちょっと待って! 遊ぼう!」 このままでは宝探しどころではなくなる、と直感したトールは閃いた。 子どもたちを追いかけようとしていたリコリスと、走り去ろうとしていた少年少女がぴたりととまり、一斉にトールを見る。 不思議そうな眼差しを一身に浴びながら、トールはひとまず子どもたちを手招いた。顔を見あわせた彼らが、興味深そうに近づいてくる。 「君たち、宝探しの参加者だよな?」 「そうだよー」 「こんなところで雪合戦してるってことは、宝はもういいのか?」 「うん」 「もう飽きちゃった」 「けーひん、いらないし」 「そうでしょうね」 こくこくと首を上下に振る子どもたちにリコリスは頷く。 優勝賞品のトロール・ブルーのペアリングの他に、準優勝賞品なども用意されているのだが、どれも子ども向けではなかった。 依頼主が人海戦術のために浄化師を頼ったのと同様に、子どもたちも家族や親戚たちに戦力として連れてこられたのだろう。すでに戦いを投げ出しているが。 「宝物、見つけられたか?」 「あるよ、いっこ」 小柄な少年が、大きめのポシェットから小箱をとり出す。彼らに目線をあわせたトールは人差し指を立てた。 「それなら頼みがあるんだけど、宝を俺たちに譲ってくれないかな? その代わり、君たちの雪合戦につきあうよ」 瞬いた子どもたちが、顔を突きあわせて相談を始める。 「いいんじゃない」「でも」「見つからなかったってことにしよ」という声が、ひそひそと聞こえてきた。 子どもたちを説得するトールに感心していたリコリスは、自身も便乗することにした。 「雪合戦につきあうだけじゃだめなら、こういうのはどう?」 少年少女に見つめられながら、リコリスは内緒話をするように声をひそめる。 「勝った方が、今までに見つけた宝を全部、手に入れられるの」 「俺たちも宝を見つけたんだよ」 正確にはリコが見つけてくれた、と心の中でつけ足しながら、トールは真後ろの雪上に放置していた宝を軽く掲げる。 「雪合戦を楽しめて、宝まで手に入る。悪い話じゃないと思うけど?」 「やる!」 子どものひとりが手を上げた。それを皮切りに、他の少年少女も賛同する。 「決まりね。言っておくけど私、強いわよ」 「僕たちも強いよ!」 「負けないよ!」 「雪玉あたったら負けね!」 きゃあきゃあとはしゃぎながら、子どもたちが二人から少し距離をとり、雪玉をそれぞれ作った。トールはひとまず宝物を仕舞う。 「これは負けられないな」 「私が囮になるわ。トールは攻撃をお願い」 「ああ。本気で行こう!」 子どもとはいえ雪国育ちだ。油断をすれば負けかねない。 うまく挑発してくれたリコリスのためにも必ず勝つと、トールは雪玉を手早く作りながら誓った。 前に出たリコリスが雪玉を紙一重のところでかわし、トールがその背後から頃合いを見て投擲を行う。雪玉があたった子どもたちは、楽しそうな声を上げながら戦場から少し離れた。 「負けたー!」 最後のひとりになっていた子どもが、笑声交じりに宣言する。宝物を持っていた少年が、リコリスに小箱を渡した。 「ありがと!」 「楽しかった!」 「また遊んでね!」 はしゃぎながら離れていく子どもたちを、二人は息を軽く弾ませながら見送った。 「宝物、渡しに行こうか」 「そうね」 たっぷり動いたためか、晴れやかな表情でリコリスが頷く。トールは目を細め、リコリスとともに歩き始めた。
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*** 活躍者 *** |
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[5] ローザ・スターリナ 2018/12/20-21:06
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[4] ベルトルド・レーヴェ 2018/12/19-20:21
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[3] リコリス・ラディアータ 2018/12/19-00:11
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[2] イザーク・デューラー 2018/12/18-23:14
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