~ プロローグ ~ |
●トラブルメーカー卿の来訪 |
~ 解説 ~ |
【概要・目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
御閲覧ありがとうございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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北1 北3 イザークさんの言う猪を想像して少し笑う 地図は最新版ではないそうですが、ある程度は把握できると思いますので書き足しながら進みましょう。逃げられても先回りできるかもしれませんし 猪を発見したらイザークさんと連携 「誘囮糸」で意識をこちらへ向けさせるか、絡縛糸で捕まえます 暴れるなら抱きしめてなでてやりつつ、落ち着かせて呪符をはります 「壊しにきた訳ではないので落ち着いてくださいっ」 水場…飛んでいけばぶつかる危険はないですが、なんだか嫌な予感が (念の為水に濡れた時用にハンカチ持参) 不意打ち時: とっさにスキルを発動させて、ダメージを少しでも軽減させるように動きます (イザークさんの方へ向かった時も同様) |
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東4 南2 群れの対応 ジークリート 「天空天駆」で回避、そのまま飛んで追いかけて符を貼る。 フェリックス 「魑魅魍魎ノ壁」で防御しつつ、横道を探して飛び込んで避ける。 避ける時に符をばらまいてみる。 行動 灯りにランタンを使う。 もらった地図を、実際の様子と照らし合わせてペンで訂正しつつ進む。 うりぼうが走ると音がするかもなので、耳を澄ませておく。 突進を避けられるように横道とかを覚えておく。 うりぼうを見つけたら、行き止まりに追い込む。 なるべくそうっと近づき、自分たちをかわして逃げようとする時を狙って府を貼る。 ジークリート 地下迷宮、塞ぐのじゃ…、やっぱりダメですよね。はい、捕まえてきます…。 フェリックス …。 |
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まあ、可愛いうりぼうちゃん こんな愛らしい生き物なら 町中に出ても怖くないんじゃ… どうしたのシリウス そんな顔して 何だか疲れたような彼の声に 少し頬を膨らませて ちゃんと捕まえるわ シリウスも、怪我をさせないようにしてあげてね 灯り対策にランタンを持っていく 東4と南2 光明真言2で集中力アップ 鬼門封印で回避をさげ うりぼうちゃんを捕まえやすくして符を貼ります ほら こっちにおいで? 大丈夫 怖いことは何もしないわ 見つけたら優しく話しかける 不意打ちを喰らったら きゃあ、と小さく悲鳴 勢いに押されてころんとひっくり返るものの うりぼうはぎゅっと抱きしめて 捕まえたと笑顔 慌てたようなシリウスにも笑いかけて ありがとう シリウス |
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目的 うりぼうの捕獲 東3北1 ベ 今回の依頼者は愉快な人物らしい うりぼうのゴーレム捕獲の為に地下迷宮をうろつく事になるとは ヨ 個人の屋敷の下に地下迷宮を…わざわざ作ったのでしょうか? ベ 地図が最新版ではないとかどうとか言っていたし今も作って広げているようだ ヨ え、あっ。貰った地図と道が違う場所が… これは思ったより大変そうですね(天井を仰ぐ ヨナ 地図と違う場所や同じ道を何度も回らないようメモを取り メモ帳から切り取って目印としていく 紙切れを見えやすい位置で釘で打ち付けるのはベルトルドさんがやってください 猪の逃げる先にFN8を放ち目眩ましで足止め狙う どれほどの数のうりぼうが逃げ出したのでしょうね? |
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~ リザルトノベル ~ |
●ラクロワ邸の地下迷宮 「年ごとの守護動物か……例えば、羽が生えるとか魔法を使うとか?」 急な階段を下りながら、『イザーク・デューラー』はジュウニシというものについて想像を巡らせた。守護動物というからには、きっと通常とは異なる特別な姿や能力があるに違いない――翼を持つうりぼうの姿を想像して、『鈴理・あおい』はくすりと笑った。 最後の一段を降りると、そこは東側と北側に扉があるだけのがらんとした小さな部屋だった。壁掛けの照明――本物の炎ではなく、魔術的な光のようだ――が点々と設置されているが全体的に薄暗く、部屋の四隅には黒々とした影が落ちていた。 後続の仲間たちの邪魔にならぬよう、留まらずに先へ進む。 「地図は最新版ではないそうですが、書き足しながら進みましょう。上手くいけば、先回りできるかもしれませんし」 「そうだな。鳴き声……があるかは不明だが、足音などに注意しながら目星を付けよう」 方針を確認し、頷き合う。イザークは浄魔の焔と名付けられたランプを掲げ、前方を差し照らした。ジャック・オー・ランタンを模したデザインは季節外れだが、魔結晶を糧に輝くランプは万が一落としたとしても火災の心配が無い。何が起こるかわからない地下探索にはうってつけの光源だ。 ペアごとに手分けして探索を行うことになっているので、合流を待つ必要はない。二人はあたりの気配を探りながら、迷宮へと足を踏み入れた。 ●東・太陽が昇るこの方角は、物事のはじまりを暗示する 「今回の依頼者は、ずいぶんと愉快な人物らしい」 道幅も天井の高さも一定せず、右へ左へと曲がりくねった道を浄魔の焔で照らしながら『ベルトルド・レーヴェ』は慎重に歩を進めた。悪党の根城にでも潜入するような雰囲気だが、そうではない。 「うりぼうのために地下迷宮をうろつくことになるとは」 「個人の屋敷の下に迷宮を……わざわざ作ったのでしょうか?」 一体何のために、と『ヨナ・ミューエ』は首を傾げた。 降りてきた階段の段数からいって、かなりの深さである。地図を見る限りでは広さも相当のものだ。 「地図が最新版ではないとかどうとか言っていたし、今も作って広げているようだ」 床や壁をよく見ると、古ぼけた箇所と比較的新しい部分とがつぎはぎになっていた。 「え、あっ。貰った地図と違う道が……」 目の前の三叉路に対し、地図にある道は二本だけだ。区画ごとに見慣れぬ異国の文字や薀蓄めいた文言が記されているくせに、肝心の地図としての実用性に不足がある。 「これは、思ったより大変そうですね……」 ヨナは天井を仰いで嘆息した。 「目印をつけながら進みましょう。メモを渡すので、打ちつけるのはベルトルドさんがやってください」 切り取った用紙をベルトルドに渡し、地図の方にも印をつける。まずは地図にもある道を確かめようと直進した矢先、揺らめく照明の端で小さな黒い影が動いた。ヨナはすかさず魔術書を掲げ、呪文を唱えた。 「光よ、爆ぜよ」 威力を押さえた光弾が通路を穿ち、キィ、と高い鳴き声が響く。正体を知らねば本物のうりぼうにしか思えない。 「ベルトルドさん」 「まったく、人使いが荒い……」 ベルトルドは片手に工具を持ったまま大股に跳躍すると、光弾で居竦まるうりぼうに呪符を貼りつけた。小さな獣はあっという間に掌サイズの陶器となり、こてんと転がった。 「まずは一体、だな」 拾いあげた依代を麻袋に入れる。ぶらぶらさせておくと装備や壁にぶつけて割ってしまう恐れがあるので、ひとまず袋の余った部分で中身を巻くようにして畳み、懐へ収めた。 「どれほどの数のうりぼうが逃げ出したのでしょうね?」 ラクロワは、出来るだけたくさん捕まえてくれ、としか言わなかった。まさか、魔術師本人も把握していないのでは――確信めいた予感に、二人は口を噤んだ。 同じ頃、依頼主への憤りを募らせている男がいた。最近になって増設された部分に入り込んでしまったのか、先ほどから全くと言っていいほど役に立たない地図を『シリウス・セイアッド』は無言で握り潰す。地図上にはない、十字路に差し掛かっていた。 額に青筋を立てるシリウスをよそに、『リチェルカーレ・リモージュ』は何気なく崩れた壁を覗きこみ、まあ、と声を上げた。 「可愛いうりぼうちゃん」 下半分だけになった石壁と歪な土の壁の間で、行き場を無くしたうりぼうが悲しげに身を竦ませている。ランタンの光を反射するつぶらな瞳が、リチェルカーレを見上げていた。 「こんな愛らしい生き物なら 町中に出ても怖くないんじゃ……」 「……そういう問題じゃ、ないだろう」 見目がどうあれ、主人に従わない使い魔なんて冗談ではない。シリウスとしては頭の痛い話だったが、リチェルカーレはきょとんとしている。 「どうしたの、シリウス。そんな顔して」 「……捕まえるんだぞ。わかっているな?」 パートナーの念押しに、リチェルカーレはぷくりと頬を小さく膨らませた。 「わかってるわ。シリウスも、怪我をさせないようにしてあげてね」 シリウスは深々と溜息をつき、狭い隙間に腕を差し入れて小さな獣をすくい上げる。 「大丈夫、怖いことは何もしないわ」 リチェルカーレは優しく話しかけ、その縞模様の愛らしい背中へぺたりと呪符を貼った。 迷宮は、地図にない道が増えていることもあれば、有るはずの道が無くなっていることもある。 「行き止まり……」 ランタンを手に進んでいた『ジークリート・ノーリッシュ』は、地図と目の前の袋小路とを見比べて戸惑った。此処に来るまでにまだ一度もうりぼうの姿を見ていない。その上、道に迷ったとあっては指令を果たせるか不安になってくる。 「もういっそ、地下を封鎖した方が……」 どこにいるかわからない式神を探して回るよりもその方が楽なんじゃないかと、思わず呟く。一歩後ろを歩く『フェリックス・ロウ』は何も答えない。感情の乏しいマドールチェであるこの少年は、意図の曖昧な声掛けには反応しないのだ。沈黙が気まずくなり、ジークリートは提案を自分で却下した。 「やっぱりダメですよね。はい、探します……あれ」 地図にバツ印を書き込み、ひとまず戻ろうと身を翻した拍子に壁の一部が崩れているのに気がつく。 「この穴の中に、いたりしない、よね……?」 今度は明確な問いかけの形をとっていたので、フェリックスは金の瞳を機械的に瞬かせた。 「どうでしょうか。覗いてみましょうか?」 「うん、一応……。あ、でも、飛び出して来たら危ないから、横からそうっと覗いたほうがいいよね」 フェリックスも避けておいてね、と注意を促してから、そっとランタンを掲げる――キイッと声がした直後、茶色い塊が二つ、続けて飛び出した。 慌てて呪符を構えるが、うりぼうの逃げ足の方が速かった。小さな影はあっというまに暗い道に紛れて見えなくなる。 「に、逃げちゃった……」 「……」 悄然と振り返ったジークリートは、フェリックスを見て驚いた。彼の両腕が、一頭のうりぼうをしっかりと抱いていたのだ。偶然自分の方へ飛び出してきたのを、捕まえたらしい。短い脚がじたばたと暴れている。動物好きのジークリートではあるが、今回ばかりは愛でる前に急いで呪符を貼った。 ●西・太陽が去るこの方角は、物事の衰退を暗示する ●南・聖人南面して政を聴けば、天下は明るい方向へ治まる 枝分かれしたかと思いきや、すぐに行き止まりになっている道も多い。そうした横道も逐一地図に書き込みながら進んだジークリートは、左右へ長く伸びた道を前に立ち止まった。 「どっちに行こう……」 姿勢よく立ち、静かに控えているフェリックスを振り返る。 「フェリックスはどう思う?」 「地図は……、載ってませんね」 「そう……」 ジークリートは左右を交互に見比べたのち、束の間耳を澄ませた。うりぼうの足音や鳴き声が聞こえてくるのを期待したのだ。 「何か聞こえる?」 「……左の道から、微かに。ターゲットかどうかはわかりません」 地下に棲みついた蝙蝠の類かも知れないし、他の浄化師の足音という可能性もある。だが他に何のあてもない。 「ええと、じゃあ……とりあえずこっち、かな」 左の道を指差したジークリートにフェリックスも頷き、二人は再び歩きはじめた。 暫くすると、急に道幅が広くなった。資材の余りなのか、角材が詰まれている。その陰から、キィ、と鳴き声が上がったのを、ジークリートは確かに聞いた。目配せを交わし、そっと近づく。 「えい……!」 複数の影がさっと駆け抜けようとするのへ、呪符を持った手を突き出す。一体のうりぼうが、ころんと小さくなって転がった。それをすかさず拾いあげ、残りのうりぼうを追う。小さく機敏な獣は、広い場所では捕まえにくい。来た道を引き返す形になったのを幸いに、フェリックスは先行すると分かれ道の片方を塞いだ。臆病なうりぼうはフェリックスを避け、残りの道へ逃げる。ここへ来る途中記憶に留めておいた袋小路へと追い立てるのに、そう時間は掛からなかった。 「お願いだから、じっとしててね……」 行き止まりの隅でぐるぐると戸惑っているうりぼうへ宥めるように声をかけ、呪符を貼る。陶器へと戻ったそれを拾いあげて、ジークリートはほっと胸を撫で下ろした。 左に伸びる角を曲がりきった先、あちらこちらに転がる廃材と荒れた舗装を見て取って、リチェルカーレは真言を唱えた。物陰が多く足場が悪いので、精神を落ち着かせて集中力を高め、気配を探る。シリウスも深呼吸をして意識を集中した。 「……シリウス」 「ああ」 小声で短くやりとりし、頷き合う。頼りない照明が、廃材の影を落としている。その一部が不自然に動いていた。ちろちろと揺れているのは、うりぼうの尻尾だろう。 「うりぼうちゃん。ほら、こっちにおいで?」 ゆっくりと近寄りながら、優しく声を掛ける。影が跳ねたかと思うと、廃材の向こうから小さな顔が二つ、ひょこりとのぞいた。警戒心と好奇心がせめぎ合った様子で落ち着きなく鼻先を動かしている。 「大丈夫よ。ほら、いらっしゃい?」 逡巡の後、二頭のうりぼうはそれぞれ別の行動をとった。一頭は二人の方に、もう一頭は道の奥へ向かって駆け出す――リチェルカーレは手印を結んで呪文を唱えた。 「艮の戸、封じて我が幸いとなす」 逃走した一頭の足取りが遅くなったのを確認して、すぐに組んだ手をほどく。なんとか飛び込んできたうりぼうを捕まえるのに間に合った。大人の猪とは違って愛らしい背中を撫でる。思ったより硬い毛をしているが、毛並みにそって撫でれば触り心地はそれほど悪くない。 一方、シリウスは先制攻撃をする要領で間合いを詰めると、もう一頭へ素早く短剣を振るった。灯りを反射した剣身が半月型に煌めく。無論、充分に手加減した上での峰打ちだ。目を回したところを掴みあげる。 「驚かせてごめんね」 リチェルカーレは、キゥ、と小さく鳴くうりぼうの額を軽く撫で、呪符を貼った。 ●北・この字は「にげる」という意味を持つ 「余計な事ばかり書いてありますね、この地図……」 呆れた声で言うヨナに、ベルトルドは肩を竦めた。 「今回に限っては、訓戒と読めないこともないがな」 「そうですか? ……ここも、新しい道ですね」 左右に伸びた道を交互に見比べる。地図にあるのは右の道だけだ。あらかじめ把握できている道の方が迷うリスクが少なく、うりぼうを追い詰める際にも有利なので、二人は古い道を優先して調べることにしていた。 右に曲がって暫くのち、ぼんやりと照らされた通路に二つの動くものを見つけ、狙いを外して光弾を打ち込む。猪突猛進という言葉があるが、うりぼうの行動もとても単純だ。逃走経路を誘導するのはたやすい。一頭は走り出したところをベルトルドに捕まり、もう一頭は石畳が剥がれて落とし穴のようになったところへはまり込んだ。 「こうしてみると、本当に生きているみたいですね」 ふと好奇心に駆られ、ヨナは窪みで震えるうりぼうを抱き上げた。どういうわけか、ほんのりと体温も感じられる。小さな黒い瞳が見上げて来るのに、知らずしらず笑みが浮かぶ。 「そんなに動物好きだったか?」 「確かに、以前はそれ程……。ベルトルドさんの影響でしょうか」 「なぜ俺が」 ベルトルドの怪訝そうな声音に、ヨナははっとした。何気なく零した言葉だったが、俄かに妙なことを口走ってしまった気がして咳払いする。だが、ベルトルドは誤魔化されてくれなかった。 「薄々感じてはいたが、そういう目で見ていたのか……。お前な」 「ち、違いますっ」 ベルトルドの考えた事が全くの間違いだとは言わないが、それだけではない。それだけではないのだ。しかし、うまく纏まらずに口ごもる。 「……とにかく、違います」 それだけ言って黙ってしまったヨナに、ベルトルドは小さく笑って麻袋を差し出した。ヨナは少しばかり気まずく思いながらうりぼうに呪符を貼り、依代を麻袋へと収めた。 ちゃぽん、と水音がした。このような地下で水音とは――訝しく思いながら角を曲がったあおいとイザークの前に、大きな水溜りが忽然と現れた。 「わあ……池みたいになってますね」 進むうちになんとなく湿気が増しているのには気づいていたが、予想外の様相に驚く。 「陥没しているな。掘るうちに地下水脈とぶつかったんだろう」 「向こうがどうなってるのか、ここからでは見えませんね」 水溜まりの奥はまたすぐに角になっており、先がどうなっているかはわからない。地図を見ても、そもそもこの通路が載っていなかった。あおいは道を描き足し、水溜りがあると分かるように丸を描いて中を塗りつぶした。 「俺が見てこよう」 半竜であるイザークはその背の翼を大きく広げた。軽く様子を見て、奥も探索が必要だと分かればあおいを抱えて水溜りを越えれば良い。 道幅は広いが天井の高さに余裕が無いので斜め上方へ向けて地を蹴り、低空を滑るように移動する。難なく対岸へ踵をつけようとした時、ざばりと水中から現れるものがあった。 見守っていたあおいは、慌てて声を上げた。 「お願い、マヤ……!」 マリオネッターの相棒である人形が、魔術の光を帯びる。飛沫を上げて顔を出したもの――二頭のうりぼうの視線が、あおいの持つ人形に惹きつけられ、動きが止まった。 翼を畳んで振り返ったイザークは、紫の双眸を瞬かせた。 「水棲のモンスターでも出たかと思ったが……泳げたのか」 「は、はい、そうみたいですね。私も慌ててしまって……」 「いや、助かった。足に噛みついてきそうな勢いだったからな」 二頭のうりぼうは、短い前脚でぱちゃぱちゃと水面を漕いでいる。好奇心旺盛な個体なのか、一頭があおいの方へ泳いで行ってしまったので、イザークは手近にいる方をむんずと掴みあげた。雫を滴らせるうりぼうは一見、本物にしか見えない。つついてみると、キィ、と哀れっぽく鳴き声を上げた。 「マヤ、そっと引き寄せて」 あおいは人形で繰糸を放つと、泳いでくるうりぼうの体を絡め取り、陸地までそっと引きあげた。糸が気になるのか、ぷるぷると胴体を震わせて右往左往するうりぼうの毛並みを、ハンカチで拭きながら撫でてやる。なおも暴れようとする体を、ぎゅっと抱きしめた。 「壊しにきた訳ではないので落ち着いてくださいっ」 糸を外して宥めると、まだ鼻息はフンフンと荒いままだったが、ひとまず逃げ出すそぶりはなくなった。ほっと息をついたあおいの元へ、再び水溜りを飛び越えたイザークが着地する。手には呪符の貼り付けられた依代を持っている。 「このうりぼうがそんな風になるなんて、不思議ですね」 「そうだな」 世の中には色々な魔術があるものだ。感心しながら、あおいも呪符をぺたりと貼った。うりぼうはあっというまに縮んで、こつん、と硬質な音を立てて転がる。 二個の陶器は、ふわふわボディバッグへと収められた。 ●中央・この場所は人間の思慮、願いと結びつく 八名の浄化師が銘々地下迷宮を一周して中央――地上と繋がる階段がある部屋へ戻ってくると、そこにはモノクルをはめた体格の良い男が立っていた。依頼主ラクロワ本人だ。 「諸君! 実にご苦労だった!」 複数の冷たい視線をものともせず、ラクロワは胸を張る。 「如何だったかな、吾輩の地下迷宮は。そしてゴーレムと式神、技術の融合によって生み出された愛くるしさの権化ウリボーズは! いやあ、事に気が付いた時には焦ってしまったが、諸君に我が研究の成果、その一端を見てもらえたという点ではこれぞ不幸中の幸い、怪我の功名……」 とめどない演説を打ち切ったのは、キィイ、という鳴き声だった。探索中に何度となく聞いたうりぼうの声――しかし今回のそれは、随分と声量がある。空気がびりびりと震えるようだ。異変を察した浄化師たちが身構えた瞬間、ドカン、と西側の壁が打ち砕かれた。 現れたのはうりぼう――縞模様のある姿はそのままに、しかし成獣よりもさらに二回りほど大きいうりぼうだった。 「あおい!」 イザークは咄嗟にあおいを庇い、パートナーを抱いたまま退いて突進を避けた。壁の破片と土埃が舞う中、あおいはスキルを発動する。 「マヤ、捕まえて!」 魔術の糸が巨大なうりぼうに絡みつき、勢いを殺す。 「はっ……!」 蹈鞴を踏んだうりぼうへ向け、シリウスは躊躇いなく短剣を振るった。指令は討伐ではなく回収であり、依代が割れぬようにと手加減してきたが、巨大うりぼうに対しその遠慮が必要とは思われない。鼻面を打たれたうりぼうは、キィ、と声をあげ――ぽんっと気の抜けるような音を立てて分裂した。通常サイズのうりぼうが四方八方に散開する。そのうちの一頭を胴で受け止め、シリウスは呪符を貼りつけた。 「きゃあっ」 はっとして視線を巡らすと、すぐ横で突進を受けたリチェルカーレが勢いに押されてよろめいた。その背に腕を回し、小柄な体を支える。リチェルカーレは腕の中のうりぼうをぎゅっと抱きしめ、捕まえた、と笑う。そうしてしっかりと立ち直すとパートナーを見上げた。 「ありがとう、シリウス」 シリウスは頷いて、残りのうりぼうに向き直った。 「壁よ!」 フェリックスの詠唱に合わせ、禍々しい形をした魔術の盾が出現する。 「ふんっ……」 ベルトルドは拳で軽く地面を打った。魔方陣が展開した直後、雨後の筍の如く出現した岩が壁を形成する。 二人のスキルによる障壁が、うりぼうの退路と進路を断つ。 「捕まえましたっ」 包囲網から漏れたうりぼうを、白銀の翼を広げて退避していたジークリートが追い、呪符を貼った。 「ラクロワ卿、何かご弁明は」 巨大化するなどという話は、事前情報に無かった。厚い壁をぶち抜くほどの攻撃力を持つとも、聞かされていない。戦闘慣れした浄化師の咄嗟の対応でおおごとにはならずに済んだが、一歩間違えば怪我人が出てもおかしくは無かった。 障壁の中で渋滞を起こすうりぼう達を見ながら冷やかに問うヨナに、ラクロワ卿は背を反らして大笑した。 「はっはっは! すっかり紹介が遅れてしまったが、今のは東方島国ニホンで尊ばれる浪漫のひとつ、合体機能! である!」 トラブルメーカー卿という綽名が、司令部だけでなく浄化師の間にも実感と共に深く刻み込まれた瞬間であった。 およそ十分後、一方の壁が破壊されていることを除けば、部屋には平穏が取り戻されていた。キィキィと鳴き声をあげていた無数のうりぼうも、今はみな、物言わぬ陶器へと姿を変えている。 迷宮に残っていたうりぼう達が合体して巨大化し浄化師を襲ってきたのは、彼らが作り出された本来の目的、つまり屋敷を守る番犬――ならぬ番猪としての機能が作動した結果らしい。うりぼう同士は魔力によって仲間の位置を把握しており、浄化師が回収した依代を迷宮の出口付近へ運んだことで、自衛システムが働いたとかなんとか――とにかく、大体ラクロワのせいである。 地上へあがる階段に被害が無かったのが幸いだ。 「どうなることかと思ったけど……なんとか終わったね。何体回収できた?」 ジークリートに問われ、フェリックスはクラッチバッグを開いて見せた。中には、呪符の貼られた依代が四体。ジークリートのバッグには、三体。 「合計七体です」 「まずまず、かな。フェリックス、怪我してないよね?」 「はい」 二人とも多少埃っぽくなってはいるが、怪我らしい怪我は無い。頷いたフェリックスにジークリートは安心して、はにかむように笑った。 「マヤ、お疲れ様」 あおいは片腕に抱いた人形へ友人にするように声をかけ、小さな頭を撫でた。砂埃を払い落し、帽子の位置を直す。金色の髪は、寮へ戻ってから丁寧に梳いてやらないといけないだろう。 「汚れてしまったな」 「イザークさん。はい、……私たちも、シャワーを浴びないとですね」 暗い地下迷宮はどこも狭苦しく、特に水溜りがあった通路の周辺は少々カビ臭かった。地上の、広く清潔な空間が恋しい。集めた依代は全部で八体。十分な成果だと二人は小さく笑って、お互いを労いあった。 「なんだか、最後まで振り回された気がしますね……」 はあ、と嘆息したヨナに、ベルトルドは苦笑した。 傍迷惑な依頼主は、浄化師たちが呪符を貼ってまわる間に一人さっさと地上へあがってしまった。 「俺たちの書き込みを参考に、最新版の地図を作るそうだ」 「ふてぶてしいというか、なんというか……」 「貴族で魔術師だというのだから、あれくらい強かで当然かもしれんな」 麻袋に集まった依代は十二体。地図は記載になかった道や崩落していた箇所などを示す書き込みでぎっしり埋まっている。危険度が低い割に報酬の良い指令であったが、今となっては妥当な額だと言えるかも知れなかった。 「シリウス、疲れた顔をしてるわ。大丈夫?」 リチェルカーレに気遣われて、シリウスは僅かに首を横に振った。地下迷宮は広かったが戦闘があったわけでもなし、この程度で疲弊するほどやわではない。ラクロワに二度と関わりたくないと思っていただけだ。 「うりぼうちゃん、可愛かった。……これも、魔術の道具だというけれど素敵な形ね」 二人が集めた依代は十三個。そのうちのひとつを、リチェルカーレは取り上げた。丸みを帯びたフォルムの陶器は、確かに置物として部屋に飾ってあっても違和感の無いデザインをしている。リュミエールストリートで雑貨として売られていてもおかしくはない、が――。 「……」 一つ欲しいなどと冗談でも思ってくれるなよ、と願うシリウスであった。
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*** 活躍者 *** |
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[5] ベルトルド・レーヴェ 2019/01/03-10:12
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[4] 鈴理・あおい 2019/01/02-10:16
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[3] リチェルカーレ・リモージュ 2019/01/01-21:11
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[2] ジークリート・ノーリッシュ 2018/12/31-23:47
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