リコリス・ラディアータのクリスマス!
普通 | すべて
1/1名
リコリス・ラディアータのクリスマス! 情報
担当 あいきとうか GM
タイプ シチュエーションノベル
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 普通
報酬 なし
相談期間 2 日
公開日 2018-12-14 00:00:00
出発日 2018-12-14 00:00:00
帰還日 2018-12-28



~ プロローグ ~

1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。

12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、
今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。

子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、
プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。

そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、
ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。

「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、
エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。

しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。
あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!


~ 解説 ~

現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
七面鳥やシャンパン、ケーキといった定番的な料理を楽しんだり、クリスマスツリーやキャンドルなども国内で飾られます。

また、ヨーロッパ圏であるためユール色も強く、料理を並べたテーブルを「ユール・ボード」を呼称したり、
ケーキはブッシュ・ド・ノエル、肉料理はユール・シンカが主流であるなど、現代日本とは多少感覚が異なる部分があります。

サンタクロースが枕元にプレゼントを置いていく、という伝説も存在します。
教団では、まだ年端も行かないエクソシストには、サンタクロースのプレゼントと称して、プレゼントを渡しているようです。

マリン・ネクタールからは、毎年経費を抑えてと申し出があるものの、
ヨセフ・アークライトは毎年なんとかしてプレゼントをやりくりしています。
(※ファンタジー世界ではありますが、世知辛いことに、プレゼントは保護者などが用意しています)

教皇国家アークソサエティ以外の国を出身としている場合は、ユールやクリスマスを知らないという可能性もありますので、
クリスマスという文化はどんなものなのかわからない、ということを前提としても問題ありません。


~ ゲームマスターより ~

※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜に祝福を!』の対象エピソードです。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

リコリス・ラディアータ トール・フォルクス
女性 / エレメンツ / 魔性憑き 男性 / 人間 / 悪魔祓い
7
故郷では、クリスマスにはパパがお料理やケーキを作って
ママはクリスマスソングを歌ってくれたわ
でも今年は、せっかくだから今までにないクリスマスを味わってみたい
色々と調べていたらコロッセオの情報を見つけ
…これだわ!
闘技場に立ち
剣を振ってみたり観客にアピール
いつも使ってるやつと長さも違うし刃も潰してあるから
ちょっと使い勝手が違うけど、まあ何とかなるでしょ
さあ、行くわよ!
飛んだり跳ねたり縦横無尽
ひらひらと舞うように戦う
途中危ない所もあるけど最終的に勝利
客席に手を振り、トールの方向に投げキッスして退場
あー、スッキリした!
ふふ、とても斬新なクリスマスを味わえたわ
(プレゼントを受け取り)
ありがとう…私からは勝利がプレゼント、でもいいかなと思っていたのだけど…
やっぱり形に残るものもあげたいし
手作り用キットを買ってネックレスを作ってみたの
男の人でも付けられるようなシンプルデザインだから
…つけてね!絶対よ!


~ リザルトノベル ~

 ささやかながら飾りつけられた教団内を見て、『リコリス・ラディアータ』はクリスマスが間近に迫っていることを改めて認識した。
 カレンダーで確認するのと、こうしてリースなどで装飾される様子を見るのとでは、やはり感じ方が違う。
「クリスマスねぇ」
 すっかり寒くなってしまった屋外ではなく、ほんのりと暖かい司令部のエントランスでパートナーの『トール・フォルクス』を待ちながら、天井を仰ぎ見る。
「故郷では、クリスマスにはパパがお料理やケーキを作って。ママはクリスマスソングを歌ってくれたわ」
 思い出すと、苦さと切なさと、砂糖菓子のような幸福感が胸の中で混ぜあわさる。痛みを堪えるように目を閉じたリコリスは、細く息を吐いて目蓋を上げた。
「今年は、せっかくだから今までにないクリスマスを味わってみたいわね」
 少し前にトールに質問された際、返した言葉を今再び口にしながら、壁につけていた背を離す。
 エントランスには、指令の他に各区や近隣諸国で行われるクリスマス限定の行事がいくつか張り出されていた。
「どれも素敵だと思うけど」
 ぴんとくるものがない。ありがちというか、あまりにもクリスマスらしいというか。
 リコリスが求めているのは、そういうものではなかった。
「私もトールも楽しめそうで……、それでいて、なにか珍しい……」
 真剣な表情で広告を吟味していく。
「……これだわ!」
 思わず声を上げる。はっとして振り返ると、受付に立つ司令部教団員に会釈された。
 他に職員たちが偶然にもいないことに安堵しつつ、リコリスは咳払いをして正面に向き直る。
「いいじゃない」
 やや挑戦的に、リコリスの口の端が上がる。

 クリスマスはどうすごすか。
「前に話したとき、今までにないクリスマスがいいって言ってたよな」
 今日の指令の待ちあわせ場所である、司令部のエントランスに向かいながらトールは考える。
 プレゼントは用意してあった。数日前に、さり気なくリコリスにクリスマスの予定を確認したところ、特になにもないとの回答が返ってきたので、一緒にすごせないという心配もない。
 問題はどこに行くかだ。
「今までにない、なぁ」
 どんなクリスマスをすごしたい? という、何気なさを装ったトールの問いかけにリコリスはそう応じた。
「遠出するのもいいな」
 旅人だったトールは、世界中の様々なクリスマスを見てきた。珍しいクリスマスの催しも、いくつか知っている。
 トールの経験が、リコリスに今までにないクリスマスを堪能させてあげられるかもしれない。
「悪くないな」
 方向性は定まった。安堵しながらトールは司令部棟の扉を開く。
 出払っている者が多いのか、人がまばらなエントランスにリコリスの姿があった。
「お待たせ、リコ」
「トール。クリスマスの予定ってもう決まった?」
「え? いや、特には」
 瞬くトールに、リコリスはどこか楽しげな表情で頷く。
「そう。よかったわ」
「どこか行きたいところができたのか?」
「ええ」
 すっかり舞い上がっていたトールは、彼女がどこに行き、なにをしたがっているのか、尋ね忘れているということを失念していた。

「……リコ、ここって」
「コロッセオよ」
「コロッセオ!?」
「言ってなかったかしら?」
「聞いてない! なんで!? コロッセオ!?」
「うるさいわよ。じゃ、私はこっち。トールはあっちね」
「待ってリコ、リコー!?」
 ちらちらと職員たちや客たちに見られながら、受付で別れる。凛々しい足どりで進むリコリスの姿が、扉の向こうに消えた。
 剣闘士控室、と書かれた扉の向こうに。
「どうしてコロッセオ……」
 ロマンチックなクリスマス、という甘い希望が崩れていく音を聞きながら、トールはふらふらと観客席に向かう。もうここまできたら引き返せなかった。
 ルネサンス地区の円形闘技場、コロッセオは、満員御礼でこそなかったが、それに近いほどの席が埋まっていた。
「どうしてこうなった……。確かに、今までになさ加減は最高にあるけど……」
 あまりの熱気に冬の寒ささえ忘れてしまえる客席の一角で、トールは遠い目になる。
 すり鉢型の闘技場の中心に豪奢な格好の人物が進み出て、これから予選を始めると声を張り上げた。客席がいっそう賑わう。

 戸惑いは、一戦目で薄まり、二戦目で消えた。
「リコー!」
 他の観客たちと同じように立ち上がり、トールは必死に声援を送る。
 体格のいい男が棍棒を振り下ろした。リコリスは紙一重でそれをかわし、男の顎を剣の柄で殴り上げる。脳を揺らされた男が気絶。審判がリコリスの勝利を高らかに告げた。
 男を倒した小柄な少女に、観客たちが絶叫に等しい歓声を上げる。
「やだ……リコかっこいい……。じゃなくて、頑張れー! リコー!」
 彼女の戦いぶりに、トールはすっかり心を奪われていた。

 順調に勝ち進み、迎えた決勝戦。
 砂埃が舞う円形闘技場の中央に立ち、リコリスは剣をひと振りする。普段使っている短剣とは、長さも重さも違う闘技場指定の一品だ。剣闘士が致命傷を負わないよう、刃先は潰してある。
「最初に比べれば、慣れたわね」
 こちらに向かってくる決勝戦の相手を見据えながら、リコリスは小さく呟く。連戦であるため、体力的にも筋力的にもつらくなってきているが、負けるつもりはない。
「ここを選んで正解だったわ」
 ちらりと客席に目を向ける。そこに座るトールを見つけたのは、三戦目のことだった。
 観客たちの声は咆哮のように、意味も個々の特徴も分からないほど響いているというのに、不思議とトールの声援だけは別個に聞きとれる。最初から、ずっとだ。
 今だって。
「頑張れー! リコー!」
「ええ。あなたに勝利をあげるわ」
 小声で返す。
 決勝戦開始の鐘が鳴った。

 背丈も体の幅も、倍ほど違うのではないか。
 優勝の座をリコリスと争うのは、コロッセオの常連だという剣闘士だった。無駄な肉をそぎ落とし、筋肉を限界までつけたような体を、鎖帷子で覆っている。
 正面に立つだけでその威圧感に圧倒され、地を穿ち厚い壁にひびを入れるその一撃を見れば、武器を投げ捨て命を乞いたくなるだろう。
 そんな相手を前にして、リコリスは爪の先ほども恐れなかった。むしろ、堂々と立ち向かう。
「はぁっ!」
「効かぬ!」
「どうかしら、ね!」
 リコリスの斬撃を巨躯の男が避け、刃先を潰した大斧を振り下ろす。リコリスはそれを間一髪のところで回避し、土を巻き上げながら地面に刺さった大斧に足をかけた。
 そのまま、柄に向かって最悪な足場を器用に駆ける。途中で跳躍。大男の頭上をひらりと跳び越えて、首筋に一撃。
「ぐぅっ!」
 敵のうめき声に頓着せず、着地と同時に後転。一瞬遅れて、リコリスの着地点に大男が足を振り下ろした。
「やりおるわ」
「あなたもね」
(コロッセオの支給品を借りておいてよかったわ)
 汚れきった服を一瞥し、リコリスは剣を構える。

 飛んだり跳ねたり、縦横無尽にリコリスは動き回る。ひらひらと舞うような動きは、蝶か優美な羽を持つ小鳥を連想させた。
 しかし、凛とした美しさばかりに目を奪われてもいられない。大男の攻撃が一発でもあたれば、リコリスはただではすまないだろう。
 デートだとか、クリスマスだとか、そういうことを完全に忘れているトールは、少女の無事と勝利を一心に願う。
 大男はリコリスの攻撃を何度も受け、すでに足元はふらついていた。しかし、リコリスも動きに疲労が見え隠れしている。
「リコっ!」
 ついに、リコリスが大斧による薙ぎ払いを受けた。少女の小柄な体が吹き飛び、壁にぶつかる。どん、という鈍い音が耳に届いた。
「まずいだろ、これ……!」
 青ざめたトールが観客席の柵に駆け寄る。他の観客たちも押しかけて、決着がつこうとしている戦場を見下ろしていた。
 リコリスは起き上がらない。カウントが始まる。

「負けるな、リコー!」

「負けないわよ」
 トールの声に小さく応え、リコリスは地を這うように低く駆ける。強かに打ちつけた体は隅々まで痛かったが、気にしない。
「ぬぅう!」
「私の勝ちね」
 大男の渾身の一撃を回避。高らかに跳ね、中空で体をひねる。どれほど鍛えていても兜がない限り弱点であるこめかみに、踵を叩きこんだ。
 どう、と大男が倒れる音が響く。カウントが終わっても、彼が起き上がることはなかった。
 建物全体を震わせるような歓声を上げる客席に手を振りながら、リコリスはトールの姿を探す。すぐに見つけた。
 呼吸を整え、指先を自身の唇にあて、離す。
「あーすっきりした! ふふ、とても斬新なクリスマスを味わえたわ」
 大満足でその場をあとにした。

「勝ったぁ」
 手すりに体重を預け、トールは安堵の息を吐く。リコリスは客席に手を振っていた。
 ようやく体から熱が抜けていき、そういえばクリスマスだったのだと思い出す。すっかり熱中していた自分に、トールは苦笑した。
「これは、クリスマスプレゼントと一緒に、勝利のお祝いもした方がいいかな?」
 リコリスを迎えに行こうと、両足に力をこめたトールは、少女の視線がこちらを向いている気がして動きをとめた。
「……え、今こっち見た? 投げキッスした!? わぁぁっ! リコー! かっこよかったぞー!」
 去り行く少女の背に声を投げるトールは、応援している剣闘士にサービスを貰ったファンそのものだった。

 シャワーで汗と土を落とし、簡単な治癒を受けて着替えたリコリスと、落ち着いたトールは闘技場の休憩室で合流した。
「リコ、優勝おめでとう。本当にかっこよかったよ」
「ありがとう。トールも楽しんでくれたならよかったわ」
 優勝賞品がつまった袋を脇に置き、椅子に座ったリコリスが小さく微笑む。トールは彼女の正面に座り、用意してあった小箱をとり出した。
「優勝祝いはまた今度、改めてさせてくれ。これはクリスマスプレゼント」
「……ありがとう」
 予想はしていたが、いざ渡されると少し照れてしまう。リコリスは内心を見抜かれないよう、頬を引き締めて小箱を受けとった。
 開くと、中には短剣のチャームの武器飾りが、薄青いビロードの布の上に鎮座している。リコリスが瞬時だけ瞠目した。
「綺麗ね」
「いつも前衛で戦ってるだろ? だから、お守り代わりになればなって」
「ありがとう」
 細められた目から、本当に喜んでくれていることが伝わってきて、トールの胸がきゅっと締めつけられた。
 想像していたクリスマスとはまるで違ったが、リコリスが楽しみ、プレゼントを嬉しいと思ってくれているなら、トールはそれでいい。
「私からは勝利がプレゼント、でもいいかなと、思っていたのだけど」
 やはり、形に残るものもあげたくて。
 簡易的とはいえ、自分で包装したプレゼントを、リコリスはトールに渡す。開けていいか、と視線で尋ねてくる彼に、頷いた。
 開封したトールが、プレゼントをそっととり出して目を大きく見開く。
「これ……、手作りか?」
「そうよ。手作り用のキットを買って、ネックレスを作ってみたの。男の人でもつけられるような、シンプルなデザインだから」
 恥ずかしくなってきて、口調が自然と早くなる。最後は叩きつけるようになってしまった。
「つけてね! 絶対よ!」
「ありがとう、大事にするよ」
 幸せそうに表情を緩めたトールを直視できず、リコリスは明後日の方を向く。
 顔の熱さには、気づかない振りをした。


リコリス・ラディアータのクリスマス!
(執筆:あいきとうか GM)



*** 活躍者 ***

  • リコリス・ラディアータ
    王子様なんていない
  • トール・フォルクス
    ほっとけないお姫様だなあ

リコリス・ラディアータ
女性 / エレメンツ / 魔性憑き
トール・フォルクス
男性 / 人間 / 悪魔祓い