~ プロローグ ~ |
ちらちらと雪が降っている。 |
~ 解説 ~ |
◆天気 |
~ ゲームマスターより ~ |
聖夜を超えてのサクリファイスとの戦い、日々の任務、大変お疲れさまです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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アドリブ◎ ノルウェンディって本当に寒いわね…! 灯台の時も寒かったけど、質が違うというか… 泊めてくれた家主に感謝しつつ キャンドルの話を聞き 願い事といってもね… あれこれ山のようにある! もっと強くなりたいーとか、美味しいもの食べたいーとか …ばかねぇ!そういうのじゃないことぐらい分かってるわよ! えーと、とりあえずこれを入れて燃やして… 試しにやってみるも、わりと早い段階でキャンドルが壊れる ……あー壊れた そりゃそうよね、叶わない方がいい 紙に書いたのは「おもいだすな」 …ごめん こんなこと願う方が間違いなのよ (最初から、全部まちがっている) お願い、一つだけ約束して 全部思い出しても、いかないで |
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…ほう、祭か…楽しそうだが… 「…メルキオス、お前はどうする?」 だろうな。 …とりあえず、小屋の近くまで持ってきていいか聞いてみよう 私は着こめば耐えられないと思うほどではないが、私のパートナーには耐えがたい寒さらしい グリューワインも一緒に貰おう 「すまない、青色と緑色のキャンドルを貰えないだろうか」 しかし、また寒そうな色を指定するのだな? …そうか。お前にとって大切な想いが詰まった色なのだな… 私に願いなどあるだろうか? いや、ない 名前も、家族も、頭の中に居ない私は… …記憶を、取り戻したい、だろうか? 緑色のキャンドルをじっと見る 「…でも、ないからこそ今、お前と居るのだと思う」 だから、別にどうでもいい、かな |
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透き通りそうな空の色 と空色のホルダーを選ぶ ヨナ/ココア 願掛け?いいじゃないですかやりましょう。それでベルトルドさん何を? それ願い事じゃなく今思ってる事では…? 私は特に面白い事は書いてませんよ。明日晴れますようにって。 べ、別にいいじゃないですか、切実ですよ、帰れないんですから。 そうですよ、慎重に燃やさないと ベルトルド/ワイン 美味しいものが食べたい これでは駄目か? そういうヨナはどうなんだ …って、お互い様だろう。現実的すぎる。趣が無い しかし逆に考えれば燃やし切れなければ美味しいものも食べられず明日も雪か これは失敗できないな 至って真面目な面持ちでふざけ合い 努力の甲斐あって2つとも無事燃やし切る |
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幻想的なキャンドルの灯りに小さく歓声 すごく綺麗…! 氷の中に炎があるなんて不思議ね なんて素敵なお祭りなのかしら 参加してみたいな とシリウスを見上げて 返ってきた苦笑と頷きに ぱっと笑顔 淡い金色のキャンドル(陽属性) 青い氷の炎は シリウスに似ている とても綺麗で目が離せない …目を離すと壊れてしまいそうなところも、似ている気がして 前にもこんな風に思ったことがある(依頼65) あまり覚えていないけれど 呼びかけにふるりと首を振り シリウスを見る ううん シリウスがいてくれるから寒くない ーあなたは? 僅かに浮かぶ彼の笑みに 頬が熱くなる 「シリウスとずっと一緒にいられますように」 願い事はないしょ 燃え尽きるのを見て ぱっと笑顔 |
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~ リザルトノベル ~ |
●願い重ね 「はあ……! あったまる~……! 突然訪ねちゃったのに、色々とありがとうございます!」 暖炉の傍の席に並んで腰かけて、塩味と肉の旨味の染みたスープを口にする。 『ラニ・シェルロワ』と『ラス・シェルレイ』は家主の歓迎を受け、旅の疲れを癒していたところだった。 「ノルウェンディって本当に寒いわね……! 灯台の時も寒かったけど、質が違うというか」 「寒さより吹雪がな。前に来た酒場もだったけど……。人はあたたかいんだけどな」 ラスは、膝を抱えて蹲るラニの顔をそっと盗み見た。炎の照り返しで多少血色がよく見えるものの、瞼の下には薄くクマが残っている。おそらく、慣れない環境下での任務による疲労――だけとは考えにくい。 その時、外から窓がこんこん、と叩かれた。何事かと出ていった主人がすぐに戻ってきて、二人を見て「二人もどうだ?」と表を指さす。 二人は顔を見合わせてから、『雪まつり』について語る主人の後をついていくことにしたのだった。 外には深い闇と、柔らかく幻想的に色づいた景色が広がっていた。 寒さをしのぐための飲み物を――二人は揃ってココアを選んだ。 「あら? ちょっとラス、あんたホットワインじゃなくていいの~?」 「だから! 酒は飲まない!」 そんな風にふざけあいながら、キャンドルの配布所へ向かう。適当なアイスホルダーを選んだ。火を灯すまで色は『お楽しみ』だという。そこで願い事の紙についての説明も受けた。 「へえ、願い事か。いいじゃないか」 「とはいってもね……あれこれ山のようにあるわ。もっと強くなりたいーとか、美味しいもの食べたいーとか」 「お前……ちったぁまじめに考えろよ」 「馬鹿ねぇ! そういうのじゃないことぐらい分かってるわよ!」 口を尖らせたラニに、呆れ交じりの苦笑を見せて、ラスは心配そうな視線を投げた。ひとまず元気そうではあるが――まるで切り立った崖の際を歩くような、不安定な危うさが滲んでいるような気がしたのだ。 マッチを擦り、ホルダーに入れたキャンドルに火を灯す。 ほわ、と辺りが明るくなって、柔らかな熱が二人を包んだ。 「この色、まるで……」 (……あたしたちの、瞳の色みたい) 浮かび上がった光の色は、炎のように揺らめく赤と、水面のように澄んだ青だった。互い違いの赤と青が揺れて、混じり合った部分が柔らかな紫を滲ませている。 なんだか――ひどく感傷的になる光景だった。 「えーと、とりあえずこれを入れて燃やして……」 はっと我に返ったラニが、小さく折りたたんだ紙を赤いホルダーの中に落とす。ラスもそれに続いて、青いホルダーに紙を入れた。 互いに、じっと、自分の願い事の行く末を見守る。変な気分だった。ただのおまじないであるにも関わらず、祈るような気持ちで、揺れる光と、炎を見つめた。 紙はなかなか灰にならない。じわじわと炙られたように焦げてゆくばかりだ。 そうして、少し経った頃。 ラニの赤いホルダーに穴が開き、キャンドルが傾いて、火が、消えた。 「……あ、壊れた」 ラニが呟くのを聞いて、ラスがはっと顔を上げる。そして困ったように眉尻を下げた。 「……残念だったな」 ラスがぽつりと声をかけるが、ラニの視線は潰えたホルダーの中で燻る、紙をとらえたままだ。 (そりゃそうよね。叶わない方がいい) 願い事は『おもいだすな』だった。 それはラスへ向けた願い。叶ってほしいけれど、叶わない方がいい。 同時に、突然、彼のキャンドルの火がふっと消えた。どうやら火の勢いが強すぎて、ろうが尽きてしまったらしい。 残された紙は、全体が真っ黒に焦げてしまっている。 「……願うんじゃなくて、自分で叶えろってか」 ラスの呟きは、誰の耳に入ることなく、降り積もった雪に溶けいって消えた。 『おもいだす』――それが彼の願いだった。他力本願ではいけないということなのだろう。けれど、焦げたというのが何となく不吉なように思えた。 (もしこれが、思い出すべきじゃない、というのを暗示しているのだとしたら――) 思案を始めながら、予備のティーライトキャンドルに火を灯して、灯りを確保する。 その様子を見ていたラニが、ぎゅっと膝を抱いて顔をうずめた。 (……ごめん。こんなこと、願う方が間違いなのよ) ――どこから間違えたんだろう。 (最初から、全部まちがっている) ラニは顔をあげると、仄かな光を受けて、どこか遠くを見るラスの顔を見た。 「ねえ、ラス。お願い、一つだけ約束して」 「はぁ? 約束?」 突拍子もない言葉に目を丸くしたラスが、ラニの顔を見て息を呑んだ。 「全部思い出しても、いかないで」 ひどく真剣な表情だった。いつもの、ふざけあう時の調子ではない。 ラスは一呼吸おいて、力強く頷いて見せた。 「わかってる、いかない。オレは、どこにもいかないから」 ラニが、少し落ち着いた様子で小さく頷き返す。 (…元はと言えば、オレのせいか) 自分が記憶を失ったりしなければ、きっと彼女も、こんな思いをせずにすんだのだろう、と。 (思い出したら、消えると思われてるのか……最初に追い詰めたのは、オレなのか?) 分からない。分からないから、思い出さなくては、知らなくてはならないのだ。 「……また寒くなっちゃった。一通り終わったし、家に戻りましょ。明日も早いわ」 「ああ、そうだな」 静かに降る雪が、地面を覆い隠していく。 彼の心に積もった雪が溶けなければいいのにと、ラニは心の片隅で、一人、願いを重ねた。 ●記憶の色は 暖炉の炎がめらめらと燃えている。 「寒い~、寒いね……これが常冬……くふっ……いやはや、恐れ入ったよ……!」 「……そうか」 『クォンタム・クワトロシリカ』はテーブルで暖かいスープを啜りながら、ブランケットを羽織りもくもくと火に薪をくべる『メルキオス・ディーツ』の様子を見ていた。 薪は、メルキオスが寒さに弱いと聞いた家主が用意してくれたものだ。 二人がぼんやり眠気が来るのを待っていると、部屋に家主がやってきて『雪まつり』のことを伝えた。 「ふむ……ありがとうございます」 ささやかな祭りではあるが、催しものもあるようだ。今夜は他に任務もなく、あとは就寝するばかりとなっている。 (祭りか……楽しそうだが……) クォンタムは、ドアを閉じてメルキオスの方を見やった。 「メルキオス、お前はどうする?」 メルキオスは眉尻を下げて思案を始めた。 彼は砂漠の生まれで、寒さにめっぽう弱いのだ。このノルウェンディでの任務も最初こそ物珍しさも相まってやり過ごしていたようだが――。 「さ、さむいから、いい」 「だろうな」 少なくとも、紙が燃えるのをじっくり待つ、などと時間を要すものには参加できなさそうだ。 そうクォンタムが思案したところで、メルキオスが小さく唸った。 「うーん、まあでも、少しだけ、なら、いいかな~」 クォンタムに気を使ったのか、彼なりに束の間の余暇を楽しもうとしているのか――何か思うところはあるようで、ブランケットを重ね着して身支度を整え始めた。 クォンタムは小さく苦笑する。 「とりあえず、キャンドルを小屋の近くまで持ってきていいか聞いてみよう」 「それぐらいなら僕も一緒に行くよ。外の景色はちょっと気になるしね」 「そうか」 メルキオスが名残惜しそうに暖炉の炎を見るのを黙殺して、クォンタムは玄関のドアを開いた。 さく、さく、と降り積もったばかりの雪を踏みしめて、民家の軒下に設置された配布所に向かう。 正方形のテーブルの上に、既にいくつかキャンドルの入ったホルダーと、まだ使用されていないホルダーがいくつも並んでいた。ふつふつと煮える大鍋ではココアやワインが温められていて、それらを妙齢の女性が管理しているようだ。 「おや、エクソシストの方々だね。さあさあ、楽しんでってねえ!たくさん色が……おや、そっちのお兄さんはまるで雪だるまだねえ!」 「ああ。私は着こめば耐えられないと思うほどではないが、私のパートナーには耐えがたい寒さらしい」 「このまま凍ったら、文字通り雪だるまになっちゃうねえ、ぐふっ」 そうけらけらと笑ったメルキオスの声は、凍えてすっかり震えている。 クォンタムはそれを聞きながら、淡く輝くキャンドルを眺める。横からひょっこり顔をのぞかせたメルキオスが、小さく呟く。 「あ、青色がいいな」 「ふむ……すまない、青色と緑色のキャンドルを貰えないだろうか」 「はい! これとこれね!」 「ありがとう。ああ、それからグリューワインも一緒に貰おう」 クォンタムがキャンドルとホルダーを、ワインをメルキオスが受け取り、家の傍へ戻る。 寒さに耐えられなくなったらすぐに暖炉にあたれるようにするためだ。 湯気の立ち上るワインに口をつけて、メルキオスがほっと息をつく。 「ああ。しかし、また寒そうな色を指定するのだな?」 クォンタムが、メルキオスの選んだ青のキャンドルを見やって呟く。雪の上を波打つ青は、まるで水面のようだった。 「……青は、水の色、だからだよ」 メルキオスの落とした声は、いつになく落ち着いて、澄んでいた。クォンタムが少し驚いて顔を上げると、まるでどこか遠くを見やるような、何かを懐かしむようなまなざしが――、メルキオスが、揺れる炎を眺めていた。 「砂漠での水は貴重で、尊ぶべきモノ、だから。 だから、僕の部族は、青を纏う。他の所は、女の人が凝った刺繍の布や服を身に着けて殆ど肌を露出しないけど、僕の部族は逆でね。青系の服や布を身に着けて、肌を隠すんだ。陽射し除けでもあるし、夜の寒さ除けでもある。男はラクダに乗って戦いや行商とかで長く外にいるからね」 そこまで一気に語って、メルキオスははっと我に返ったあと、不敵に笑った。 「……そうか。お前にとって大切な想いが詰まった色なのだな」 「そういうコト!」 雪原から砂漠へ想いを馳せる――なかなかに詩的な情景だ。 「そういえば、さっき紙を配ってたね。クォンは願い事、ある?」 「……私に願いなどあるだろうか?」 クォンタムはキャンドルを見つめて、ぼんやりと考えた。 (……いや、ない。 名前も、家族のことも、記憶の中にない私には) ああ、けれど強いて言うならば、と、思い至って、感情の読めない微笑みを浮かべたメルキオスを見る。 「……記憶を取り戻したい、……だろうか?」 「なるほどねえ」 メルキオスは小さく何度も頷いた。 クォンタムは「ああ」と小さく返して、緑色のキャンドルをじっと見た。キャンドルの熱で、ふちが少しずつ溶け始めている。 「……でも、ないからこそ今、お前と居るのだと思う」 「ぐふ、そっか!」 上機嫌にメルキオスが笑うのを見て、クォンタムも小さく微笑みを返す。 (だから、別にどうでもいい、かな) 「メルキオス、お前の願いは?」 「僕の願い事? そりゃ勿論、冬が早く終わるように、だよ!」 常冬に居ながら、なんとも彼らしい願いだ。 「それより暖炉にあたりたい、手が死んだらハープ弾けなくなる!」 祭りも楽しんだことだし、もういいだろう、とクォンタムは立ち上がって、辺りをぐるりと見回した。 様々な色のキャンドルが、地面を照らし、混じり合い、闇を照らし出している。 (まっさらな過去にとらわれず――この景色のように、色々な記憶と思い出を、これから重ねていけたらいい) クォンタムはそう決意を新たにして、メルキオスに続いて、屋内へと戻ったのだった。 ●変化のきざし 二人が家主に話を聞いて外に出ると、しんしんと雪が降り注いでいた。 『ヨナ・ミューエ』は空を仰いだあと、同じように点を仰ぐ『ベルトルド・レーヴェ』の顔――その黒い毛並みにぽつぽつと落ちる白い斑点を見て、視線を再び地上に戻した。 昼間までは白銀に輝いていた地面が、七色の光を放って、混じり合い、辺りを照らし出している。そこに静かに雪が降り積もるさまは、何か、そういう特殊な絵画でも見せられているかのようだ。 ヨナが、ベルトルドの鼻先についた白花をそっと拭い去る。されるがままになったベルトルドは、先日の『夢』のことを思い出して、少しだけ身をのけ反らせた。ヨナがはっと我に返って顔をそむけたのを見て、「何でもない」と返し、苦笑する。 そうして二人、静かに歩きだして、キャンドルの配布所へ足を運んだ。 赤、青紫、赤紫、黄緑、黄色――それぞれ微妙に色合いの異なる光を放つホルダーが、テーブルの上に所狭しと並べられている。辺りからは、ワインやシナモンの芳醇な香りと、甘いカカオの匂いが立ち込めている。 「うーん、どれにしましょう? ベルトルドさん、特に好きな色はありますか?」 「そうだな……お前に任せる」 「……では、この二つを」 ヨナが指さしたのは、透き通りそうな空の色のホルダーと、それより深い空の色のホルダーだった。彼女の両手が塞がったのを見て、ベルトルドが配られている飲み物を見て鼻をすんすんと鳴らした。 「ああ、それと俺はワインを。……ヨナはココアでいいか?」 「はい、ありがとうございます」 ヨナが小さく微笑む。ベルトルドも思わずはにかんだ。 「はい、ワインとココア! 熱いから気をつけて。ああ、願いごとの紙もあげるよ」 「願い事、か?」 一通り説明を聞いて、紙を受け取った。 「願掛け?いいじゃないですかやりましょう」 目を輝かせるヨナに、ベルトルトは少しだけはにかんだ。 (なんとなく、ヨナは変わったように感じる。知らないことにも興味を示して――いい変化だ) 他のキャンドルの邪魔にならない場所を探して、二人で願いをしたためる。 それぞれの炎に紙を投じた頃、ヨナが徐に口を開いた。 「それでベルトルドさんは何を?」 「美味しいものが食べたい」 ベルトルトが真面目に答えるのを見て、ヨナは思わず目を丸くした。 「それ、願い事じゃなく今思ってる事では……?」 「これでは駄目か? そういうヨナはどうなんだ」 ベルトルドが首を傾げると、ヨナが小さく呟くように言う。 「私は、特に面白い事は書いてませんよ。明日晴れますようにって」 「……って、お互い様だろう。現実的すぎる。趣が無い」 そう嘆息したベルトルドに、ヨナが慌てて言いつのった。 「べ、別にいいじゃないですか、切実ですよ、少なくとも今日は、ここから帰れないんですから!」 困ったように言うヨナを見て、ベルトルドは思わず目を細めた。 「しかし逆に考えれば、燃やし切れなければ美味しいものも食べられず、明日も雪か」 「そうですよ、慎重に燃やさないと」 「これは失敗できないな」 ベルトルドが苦笑すると、ヨナが満足げに頷いて微笑んだ。 そんなヨナを見て、ベルトルドは思わず――本当に無意識のうちに、呟いていた。 「……最近変わったな」 ヨナが少し目を丸くした後、少しだけ考え込むようなそぶりを見せる。 (それはきっと、ベルトルドさんのおかげ……でも、どうしてこんなにも良くしてくれるの。私には、まだ、わからない……) ヨナは胸に滲んだ苦い問いかけを飲み込んだ。 「否定したい所ですが そうですね。自分でもそう思います。ベルトルドさんはあんまり変わりませんね」 心なしか尖る声を、鋭くなる言葉を、彼に気づかれないように、慎重に紡ぐ。ベルトルドはそんなヨナの心情に気づかず、静かに余裕の微笑みを浮かべている。 「変わった方がいいか?」 ヨナは返答に逡巡して、戸惑った。 「いえ。変わらずにいたからこそ 私は安心して変わろうと思えたというか……」 「……そうか」 ベルトルドは小さく苦笑した。 たじろぎながら口にしたヨナを見て、ふと、十代の頃に辛抱強く自分に向き合ってくれた、師のことが脳裏を過った。パートナーの成長を、心から嬉しく思う。 (――あの頃の爺さんもこんな気分だったのかもな) 「あっ、変わらないで欲しいって話ではないですよ?」 「分かっている」 さらに狼狽えたヨナの背中に、雪が降り積もっているのが見えた。 ベルトルドは手を伸ばそうとしてやめて、そっと尾で雪をはらってやる。 (……このまま身を引くのも、なんだかおかしい。ああ、引き際を見失って、まるで彼女に寄り添うような形になってしまった) ヨナも、そんなベルトルドの戸惑いを感じ取ったのだろうか――視線を逸らしたまま、小さく呟いた。 「……早く教団に帰って美味しいもの、食べましょう」 「ああ、明日は晴れるといいな」 視線を彷徨わせたベルトルドを見たヨナが、少しの間をおいて苦笑した。 そしてそっと、火が灯されたままのキャンドルを指し示す。 「晴れますよ。……願い事は燃え尽きたんですから、ちゃんと願い事は届くはずです」 キャンドルの中には、消し炭一つ残っていない。 一度目を丸くしたベルトルトは、満足げに微笑むヨナを見て、「そのようだ」と目元を和ませた。 ●あなたの色 『リチェルカーレ・リモージュ』は、眼下に広がる光景にはっと息を呑んだ。 「すごく綺麗……!」 はしゃぐ彼女の様子を見た『シリウス・セイアッド』は、思わず目を細めて、雪に足元をすくわれぬよう、そっと手を添えてエスコートした。 「氷の中に炎があるなんて不思議ね」 目を輝かせて感動を露わにするリチェルカーレが、足元で淡く光を放つ青色のキャンドルをそっと手にした。そしてたゆたう青を見つめて、はかなげにため息をつく。 「……魔女とも、ここは上手くやっているんだな」 シリウスは差し出されたキャンドルのふちをそっと指先でなぞりながら呟く。 「なんて素敵なお祭りなのかしら」 参加してみたいな、という想いを込めて、リチェルカーレはシリウスの顔をそっと見上げてみた。 少女の大きな瞳の中で、青白い光が揺れているのが見えた。 切望するような、こちらの情に直接訴えかけてくるような表情だった。 (――こんなに期待するような眼差しを向けられて、否、なんて言うわけがない) シリウスが苦笑して頷くと、リチェルカーレはぱっと華やかに笑った。 二人は、配布所でまだ色のないキャンドルホルダーを二つ、入手した。願いごとに関する説明も聞いて、紙も二枚ある。 「願いごと……どうしよう。シリウスは何かある?」 「そう、だな……まあ、無難なものにしようと思う」 「そっか……」 リチェルカーレはきゅっ、と唇を引き結んで、何度かシリウスの方をちらちらと見た。 (……あなたも関わることを願っても、いいかしら) 切ない感情を黙殺して、リチェルカーレはペンを走らせた。途中シリウスと視線が交差した。動揺を悟られないようはにかんで、彼も書き終えるのを待った。 「あとは火を入れるのね? ちゃんと燃え尽きてくれると嬉しい」 「……そうだな。叶うといいな」 シリウスは一呼吸ぶん間をあけて、言った。 「ええ。シリウスの願いごともね」 キャンドルを地面に置いて、シリウスが火を灯すと、柔らかな光が二人を包む。 淡い金色と澄んだ青――それぞれ、リチェルカーレとシリウスの、属性を表す色だ。 火を入れるまで、ホルダーの色は分からなかった。二人はその偶然に息を呑んで、視線を交わし合った。 そして折りたたんだ紙をホルダーの中に落とす。紙はじわじわと端の方から焦げ始めた。あとは時を待つのみだ。 リチェルカーレは祈るような気持ちでホルダーの様子を見守って、――ふと、こんなことを思った。 「青いホルダーの光は、まるでシリウスみたい」 そう呟いて、リチェルカーレが微笑む。 (とても綺麗で、目が離せない。……目を離すと、壊れてしまいそうなところも、似ているきがするの) リチェルカーレは、以前の任務でも、こんな想いを抱いたことを、仄かに思い出していた。 彼女の言葉を受け、シリウスは目を瞬いて、彼女を見た。 「そうだろうか」 視線をついと落として、並んだ金と青の光がゆらゆらと地面を彩るのを見つめた。 (……ならばこの柔らかな金の灯は、リチェにこそ、似合う) 暖かく優しい、人々に希望をもたらす光は、彼女と同じだ。 そこでふと、彼女と視線が交差した。 夢の中で、唇に感じた温もりを思い出し、そっと唇を噛んだ。 胸に滲んだ感情を押し殺して、目を伏せる。 (持ってはいけないと、わかっている願いだ) 「……馬鹿じゃないか」 そう口の中で呟いた言葉は、誰の耳に届くこともなかった。 紙を燃やし始めて、だいぶ時間が経過した頃。 「リチェ、寒くないか」 シリウスがそう呼びかけると、リチェルカーレはふるりと首を振って彼を見た。色合いの異なる澄んだ双眸が、和やかに細められている。 「ううん シリウスがいてくれるから寒くない。――あなたは?」 こちらを気遣う彼女の様子に、シリウスは微かに微笑した。 「俺は平気」 「……そう、良かった」 僅かに浮かぶ彼の笑みに、リチェルカーレは頬が熱くなるのを感じた。 その表情をよく見ておきたいのに、なんだか気恥ずかしくなって直視できない。 「キャンドルホルダーごと壊れてしまいそう。もう少しなのに……頑張って……!」 祈るように手を組んでキャンドルに熱い視線を注ぐリチェルカーレに、シリウスが疑問を口にする。 「随分真剣だな。何を願ったんだ?」 「な、内緒……」 本人を前に、言えるわけがない。 『シリウスとずっと一緒にいられますように』――なんて。 それでも、これは本心からの願いで――。 「あ……燃え尽きた、かしら……!」 キャンドルの火は灯ったままで、紙が跡形もなく消えている。リチェルカーレは感動のあまり口もとを両手で覆った。 「本当だ。良かったじゃないか」 「ええ! 本当に嬉しい……!」 リチェルカーレは、にこ、と満面の笑みを浮かべていた。 心の底から喜ぶ彼女の様子に、シリウスの胸まで温かくなっていくようだった。 (リチェの方は、無事燃えたか) シリウスは、自分の願いが天へと上るさまを、食い入るように見つめている。 これは所詮、おまじないの類にすぎない。必ず願いが叶うわけではない。理解していてなお、縋らずには、いられないのが人間というものなのだろう。 ――『リチェが消えてしまわないように』――。 そう願いをこめた紙は、まだ、ホルダーの中で燻っている。 「……あら、シリウス。空を見て」 リチェルカーレに導かれるまま見上げた空には、無数の星が散らばっている。 「ああ、晴れたのか。星が出ている」 とても綺麗――と目を細める彼女を見て、安心感と、不安がない交ぜになって脳裏を過る。 (リチェが消えてしまわないように) シリウスは目を伏せて、心の中で、何度も願いを繰り返した。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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