氷精迎えとかまくらと
とても簡単 | すべて
4/8名
氷精迎えとかまくらと 情報
担当 あいきとうか GM
タイプ ショート
ジャンル ハートフル
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 ほんの少し
相談期間 4 日
公開日 2019-01-26 00:00:00
出発日 2019-02-02 00:00:00
帰還日 2019-02-11



~ プロローグ ~

「雪祭りって知ってる?」
 冬の盛りのある日、食堂でそう声をかけられ、司令部教団員のライカンスロープは手をとめて瞬く。
 昼時を少し過ぎた食堂は空席が目立っていた。そうであるにもかかわらず、口を開いたまま固まる彼女の正面の席に座った女性は、最初から用があったのだろう。
 挨拶もなにもなかったが。
「ノルウェンディの、冬のお祭り、ですか?」
「そう。じゃあその一種で、氷精迎えっていうお祭りのことは?」
 飲み物だけを持ってきた彼女の名を、司令部教団員はようやく思い出した。
 エイバ。世俗派の魔女だ。
 教団本部を気に入っているのか、単に暇なのか、敷地内で見かける機会は多い。
「ヒョーセームカエ?」
「ノルウェンディのトゥーネあたりで行われてる、小さなお祭りよ。雪と氷を司る妖精をお迎えして、おもてなしするの。きちんとできたらその一年は雪害に悩まされないといわれてるわ」
「へぇ……」
「でもねぇ!」
 急に大きな声を出され、司令部教団員は驚く。右手からスプーンが落ちそうになって、慌てて持ち直した。
「人手が足りないのよぉ」
「あー……」
 話が読めてきた。
 なるほど、人手不足を補うために浄化師を動員したいなら、司令部教団員という身分の自分に話しかけるのは実に理にかなっている。
 指令として張り出せ、ということだ。
「もう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか?」
「もちろんよ」
 にこりとエイバは微笑み、穏やかな口調で氷精祭りについて話し始めた。

 曰く。
 樹氷群ノルウェンディ、トゥーネの片隅で行われている、国内でも知る人ぞ知る本当に小さな祭りである。
 参加者はまず、雪を集めてかまくらを作る。形はなんでもいいが、中に椅子と丸いテーブルを置ける大きさでなくてはならない。
 日が暮れると、かまくらに妖精に扮した子どもたちがやってくる。参加者たちはかまくらの中で子どもたちを待ち、やってきた彼ら彼女らに雪餅と呼ばれるお菓子をひとつずつ渡す。
 それを、二十一時まで繰り返すだけだ。

「子どもたちの中にひとりだけ、本物の雪と氷の妖精――氷精が紛れこんでいるのよ。氷精は、まぁ、ピクシーの亜種みたいなものだと思ってちょうだい」
 カップを両手で包むように持ったエイバは、一口飲んでから続ける。
「依頼したいのはかまくら作り。そのあとのおもてなしもお願いしたいの」
「承りました。でもどうして人手が足りなくなったのでしょう?」
「食あたりだそうだわ……。明後日の氷精迎えまでに万全の体調になってるか分からない、って主催者に相談されたのよ。あ、主催ね、私の知りあい」
「それは……。お大事に」
「ほんとね。ってわけだから頼んだわよ」
 用はすんだとばかりに、一息で残りを飲み干したエイバが席を立つ。
 出て行こうとした彼女は、思い出したように振り返った。
「そうそう。今年はモーンガータがランプを提供してくれるの」
「え!? 本当ですか!?」
 シャドウ・ガルデンの有名な照明専門店、モーンガータ。
 本来なら他国の小さな祭りに明かりを提供するほど暇がある店ではないはずだが、かまくら作りに浄化師がかかわると聞き、声をかけてくれたらしい。
「浄化師さんたちの功績よ。お礼言っといて」
「はい!」
 ひらりと手を振ったエイバは食器を返却し、今度こそ食堂から出て行く。
「モーンガータ協力ですか。いいなぁ」
 かまくらの中、美しいランプを見ながらおしゃべりしつつ、子どもたちをもてなす。
 穏やかな夜に思いをはせて、司令部教団員は天井を仰ぎ見た。


~ 解説 ~

 樹氷群ノルウェンディの自然豊かな地域、トゥーネにて行われる祭事、氷精迎えにご参加ください。

●氷精迎え
 もこもこと暖かい格好をした子どもたちを、かまくらの中で迎える祭り。
 うまく子どもたちをもてなせば一年間、雪害に悩まされないといわれている。
 子どもたちの中にひとりだけ雪と氷の妖精が紛れこんでいる。

●現場に着いたら
 かまくらを作成してください。形はなんでもいいですが、
・ランプとお菓子を置く丸い一本足のテーブル
・椅子を二脚
 が必ず設置できる大きさにしてください。
 夜になると合図もなくお祭りが始まります。現場到着からおよそ三時間後です。

 かまくらは風よけ程度にはなりますが、中にいても普通に寒いです。
 風邪をひかないよう、しっかりと防寒してください。
 また、かまくら作りにはスコップなどがあれば便利かと思います。
 他、装飾としてほしいものがありましたらお申しつけください。可能な範囲でご用意いたします。

 ランプはシャドウ・ガルデンの照明専門店「モーンガータ」が提供してくださいました。
 色も形も様々ですので、お好きなランプをお選びください。

●お祭りが始まったら
 子どもたちがやってきますが、かまくらの中には入ってきません。
「はいってたんせ」と声をかけると子どもたちが入ってきます。
 雪餅を渡す際には「あがってたんせ」と言ってあげてください。
 氷精迎えの二つの合言葉です。

 ときおり係の者がホットレモネードやホットワインを持ってきますので、ぜひ召し上がってください。
 また、雪餅(子どもたちに渡す白くて丸い小さな焼き菓子。甘くてさくさくしている)はたくさんありますので、つまんでいただいて構いません。足りなくなったら係の者が補充します。

●氷精
 浄化師様方、特にエレメンツの方は「普通の子どもと少し違う」少年を見分けられるかもしれません。
 ですがどうか、正体は暴かないであげてください。
 彼はこのお祭りを、子どもたちに紛れて楽しんでいます。


~ ゲームマスターより ~

はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。

今回はノルウェンディでかまくら作りです。
うまく作れる浄化師様もいれば、なにやらいびつになる浄化師様もいらっしゃることでしょう。
ランプはお好みのデザインをご記載ください。ご希望がなければこちらで選ばせていただきます。
かまくら作りで疲れ、肝心の氷精迎えの最中は眠っている、という浄化師様もいらっしゃるかもしれませんが……どうか、お二人とも居眠り、という事態にはならないようお気をつけください。

はしゃいでいる子どもも緊張している子どももいます。どうか優しく接してあげてください。
また、子どもたちはすべてのかまくらを回りますので、お菓子は一個ずつで大丈夫です。

それでは、かまくらの中で楽しい夜をお過ごしください。
よろしくお願いします!





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
初めてのかまくら作り 丸く標準的な形
ヨナが雪を運んでベルトルド積み上げる 意外に重労働
雪を一度に沢山運ぼうとして進退きわまり少し慌てる
ヨ 運べるギリギリを見極めようかと思って
ベ 何と戦っているんだ
ヨ 自分?ですかね…
ベ (笑う所だろうか

かまくらは想定より小さくベルトルドは背を丸め自然と身を寄せ合う
ランタン型のモザイクランプを置けば内部を優しく照らす
飲み物とお菓子つまみつつ
ヨ 作っている時は丁度良さそうに見えたのに
ベ 壁の厚さを失念していたな
ヨ ああ(納得)
  ベルトルドさん頭ぶつけないように気を付けてくださいね
  いっそ猫ちゃんになった方が良いのでは
ベ 猫ちゃんではない。…あ(はっと思い出し)
  そうだヨナ。この前の <続>
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
簡単なものなら妹や弟と作ったことがあるけれど 本格的なものは初めて
弾む声をあげる
心配の滲む彼の声に にこり
うん もう平気

シリウスの作ってくれたかまくらに 小さく灯り取りの窓を
出窓の縁に アネモネとカスミソウのブーケ
花の形をしたランプを借りて

灯りをつけて 嬉しそうに見渡す
ありがとうシリウス とても綺麗
これなら子ども達も喜んでくれるわ …冷たかったでしょう?
彼の顔を見つめる
あなたの、怪我は?
気が付いたらいないんだもの 
…無理しないで

子どもの声に我に返る
はいってたんせ ふふ、寒かったでしょう?
小さな手に雪餅を渡し 傍らにしゃがんで笑顔
あがってたんせ?
氷精がきたら目を丸く シリウスと視線を合わせて
雪祭りを楽しんでねと微笑む
神楽坂・仁乃 大宮・成
女性 / 人間 / 人形遣い 男性 / アンデッド / 墓守
【目的】

子供達に喜んで貰える様なかまくら作り頑張ります。


【かまくら】

シャドウ・ガルデンとノルウェンディの融合ということで両国のイメージでかまくらのテーマは『闇夜に光る星』でどうでしょうか。
かまくらの形は丸にランプは青い光の星型にして装飾で壁周りにツリーで使う電飾(青)で星空を再現できれば完璧ですね。


【行動】

机と椅子二脚とランプを置いて必要な面積を確認してからスコップ(大)で雪をかき集めながらワークグローブ着用の手で綺麗に整えます。

作業終了)

疲れからか寝ていたら額に温もりを感じて目覚めたらこっちをじっと見ている男の子が。見られたなんて恥ずかしいんですけど…気を取り直して「合言葉」で招き入れます。
セン・カザミネ カエデ・ミナセ
男性 / 人間 / 陰陽師 男性 / 人間 / 断罪者

可愛い子たちのために頑張らないとね、とやる気満々

途中雪の量が心もとなくなり「元気が有り余ってるだろう君にお仕事だ。
ここで作業してるからあっちの方から雪追加で持ってきてくれ」と力仕事を
カエデに押し付ける。
反発されるがじゃんけん勝負に勝ち、鼻歌交じりで雪を固める作業を続行する

ある程度の量集めカエデが帰ってくるがカエデのマフラーが緩んでいたので
「世話が焼けるな、お前は」と直してあげる。

協力して多少不格好ながらかまくらが完成。
なんかつまらないと出来上がったかまくらに猫耳を生やす

祭り開始後は雪餅とホットワインつまみながら子供たちをのんびり待つ
お菓子渡しながら「食べた後はちゃんと歯磨きするんだぞ」


~ リザルトノベル ~


 吐き出す息も周囲の景色も、一様に白い。
「案外、大変、ですね」
 大量の雪を借り受けた道具で押し出すように運びながら、『ヨナ・ミューエ』は途切れ途切れに呟く。想像以上の重労働に、すでに肩で息をしていた。
 彼女の視線の先で、『ベルトルド・レーヴェ』は雪を積み上げている。こちらも決して楽な作業ではない。
「ぐ、ぬぬ……」
 踏ん張って雪を押そうとするのだが、ついにぴくりとも動かなくなってしまった。両手で道具を握り、ヨナは全身全霊をこめて一歩を踏み出そうとする。足が滑りそうになり、とっさに力を緩めた。
 進退きわまってしまったことに少し慌てれば、それだけで足元がおろそかになってくる。まだ慣れきれない雪原で、ヨナは集めた雪を相手に苦戦した。
「雪を減らせばいいだろう」
 雪山を作っていたベルトルドがなかなか戻ってこないパートナーに気づき、ヨナの往復の軌跡をたどるように近づいてきた。
 貸出物のひとつであるシャベルで雪を減らそうとするベルトルドを視線で制し、呼吸を整えてヨナは普段通りの口調で返す。
「運べるギリギリを見極めようかと思って」
「なにと戦ってるんだ」
「自分? ですかね……」
 果たして笑うところなのか。判断しきれなかったベルトルドは、自身がヨナの進路を塞いでいることに気づいて半身を引く。
 表情をほとんど変えないまま、尖った耳の先を力んでいるためか寒いためか赤く染め、ヨナは所定の位置に向かおうとした。
「諦めどころかと思うが?」
「……そうですね。本当に一歩も進めなくなりましたし」
 ここで疲労困憊するわけにもいかない。これからかまくらを作り、子どもたちを迎え入れなくてはならないのだ。
 胸に敗北を刻むようにため息を吐いたヨナの雪を、ベルトルドは適当に減らした。
「かまくらの形、どうしましょうか?」
「シンプルに半円形でいいだろう」
「そうですね」
 雪はまだ重いが、進めないほどではない。ほっ、はっ、と霧のような息を吐きながら、ヨナは進む。滑らずに歩くコツは体が習得していた。
 ベルトルドは手を貸さず、シャベルを片手にヨナの隣を歩く。
「ひとまず作っていくか」
「はい。雪が足りなくなったらまた補充しましょう」
 祭りの開始時刻までもう三時間もない。半端なかまくらで子どもたちを出迎えるわけにもいかなかった。
 運んできた雪を、ヨナが雪山の側にどさりと放る。
「さて、もうひと頑張りです」
「ああ」
 大まかな形をとるためにベルトルドが積み上げた雪の、すぐそばに突き刺してあったシャベルをヨナは引き抜く。吹いた風の冷たさに、ベルトルドはわずかに首を縮めた。

「作っているときはちょうどよさそうに見えたのに」
「壁の厚さを失念していたな」
「ああ……」
 そういうことですかと納得して、ヨナは低い天井を見る。
 想定より小さいかまくらには、ランタン型のモザイクランプと雪餅がたくさん入った籠、先ほど受けとったホットレモネード二杯が置かれたテーブルがひとつと、二人が座る椅子が二脚、設置されていた。これだけでかまくら内はいっぱいだ。
 自然と二人は身を寄せあうことになった。ヨナより上背のあるベルトルドは、窮屈そうに背を丸めている。
「ベルトルドさん、頭をぶつけないように気をつけてくださいね。いっそ猫ちゃんになった方がいいのでは」
「猫ちゃんではない。……あ」
 黒豹だと訂正しようとして、ベルトルドははっと思い出した。
「この前のあれはどういうつもりだったんだ」
「んんッ」
 ホットレモネードを飲もうとしていたヨナは、吹き出しかけた飲み物を気合で喉に流してむせる。ベルトルドに気遣われながらどうにか落ち着いて、ヨナは改めてかたわらの獣人を見た。
「その話、しないと駄目ですか……?」
 静かにベルトルドが頷く。ヨナは視線を泳がせた。
「あれは……。魔法の作用があるとは思わなくて、つい……。ただの夢だと思って……」
 パートナーが出てくる初夢を見せる薬を、年始早々お騒がせな魔女が浄化師たちに飲ませた事件。
 真相を知らないヨナはその夢の中で、トランス状態のベルトルドのことを撫で回していた。挙句、ベルトルドは視点違いのほぼ共通の夢を見ていたのだ。
「つい、であんなことをするのか……」
「それはっ」
 とっさに言い返そうとしたヨナは続く言葉を見つけられず、口惜しさを噛み締める。
「弁解の余地はない、です」
「あの後、見た夢の内容の報告までさせられたんだぞ」
「もう、そんなに責めないでください。いじわるですか」
「それもあるがそうではなくて。一応俺も」
 男なのだが、と続けようとしたベルトルドはヨナの肘につつかれ、一度口をつぐんだ。ヨナはかまくらのぽっかりと開いた出入り口に視線を向けている。
 夜の帳が下りてなお、しんしんと雪が降る中に、こちらをうかがうようにして立つ子どもの姿があった。
「は、はいってたんせ」
 ぎこちない笑顔を浮かべ、喧嘩はしていないと態度で主張しながらヨナが言う。ぱっと少女が顔を輝かせ、かまくらに足を踏み入れた。
「あがってたんせ」
「ひょーせーのしゅくふくがありますように!」
 ベルトルドの言葉で雪餅をひとつつまんだ少女は、祈りを唱えて去っていく。彼女を皮切りとするように、次々と子どもがやってきては帰って行った。
 途中、二人で他愛もない話を挟むこともあったものの、ヨナはこれ幸いと先ほどの話題は避けた。
「氷精の祝福がありますように」
 少年が嬉しそうに雪餅をひとつ受けとり、軽い足どりでかまくらから出て行く。
「今の子」
 会話を再開する機会を見失い、消化不良気味だったベルトルドと、気づいたヨナは顔を見あわせた。


「あのかまくら、もう完成しそう! 地元の方かしら?」
 白い息とともに『リチェルカーレ・リモージュ』が歓声を上げる。
 氷精迎えの会場には、招かれた浄化師たちの他に、参加できる程度に回復した地元の人々がちらほらといた。慣れた様子でてきぱきと雪を集め、かまくらの形を整えている。
 頷いた『シリウス・セイアッド』は、じっとリチェルカーレの様子を観察した。
 いつも通りに見える。顔色も悪くない。鼻先や頬が赤みを帯びているのは、雪のちらつく北国の寒さゆえだろう。
 シリウスは細く息を吸い、吐く。目を輝かせる少女にあのときの様子が不意に重なって、体の芯が冷え切るような恐怖を思い出し、震えそうになった指を握り締めた。
 血に染まった少女の姿はまだ鮮烈に思い出せる。これからも、忘れられはしないだろう。
「……体の、具合は?」
「うん、もう平気」
 心配のにじむ声に、リチェルカーレはふわりと花が開くような笑みを以て応えた。
 強張っていた体からふっと力が抜け、シリウスはほんのわずかに口許を緩める。少女が持参したスコップをとり出し、シリウスを見上げた。
「わたしたちも素敵なかまくらを作ろう?」
「ああ」
「シリウス、かまくらを作ったことはある?」
「……ないな。リチェは?」
「簡単なものなら妹や弟と。でも、本格的なものは初めて」
「そうか」
 ならば地元の人々にコツを聞いておいた方がいいだろうと、シリウスは周囲を見回す。ちょうど祭りの役員を示す腕章をつけた男が通りかかったので、呼びとめた。
「ありがとうございました」
「助かった」
「ご参加ありがとうございます、頑張ってくださいね」
 ひとしきり身振り手振りの説明を受け、シリウスは自前のスコップを握る。重労働であることに違いはないが、想像よりは簡単にできそうだった。
「わたしも雪集め、手伝うわ」
「リチェには飾りとランプの用意を頼みたい」
 早速、作業にとりかかろうとしているシリウスを見上げ、リチェルカーレは瞬いてから納得した。
 飾りもシャドウ・ガルテンの照明専門店が提供してくれたランプも、ここから少し離れたところにまとめて置かれている。椅子とテーブルは役員の者たちが運んでくれるが、他は自分たちで選んで持ってこなくてはならないのだ。
「分かったわ。任せて」
「ああ」
 にこりと笑んだ少女が、青い髪を揺らしながら小走りで駆けて行く。雪に足をとられて転ばないか、シリウスはしばらく心配そうに見守っていた。

 真剣にランプと装飾を選んだリチェルカーレは、転ばないよう慎重にシリウスの元に戻る。
「わぁ……!」
「お帰り」
「ただいま、シリウス。可愛いかまくらね!」
 丸い山状にしっかり固めたかまくらの出入り口を掘っていたシリウスは、喜ぶ少女に柔らかく目を細めた。
 両腕に抱えたものを一度テーブルに置き、リチェルカーレは花の束を持つ。
「明りとりの窓を作って、出窓の縁にブーケを置こうと思って」
 いい提案だと、シリウスは小さく顎を引く。
 協力して作業を進め、完成したかまくらの中に家具を運びこむ。テーブルにはリチェルカーレが選んできた暖色の布を被せ、花の形のランプを置いた。
 優しい色味の灯りが、出窓の縁に飾られたブーケをそっと照らしている。頃合いを見て係の者が持ってきた雪餅とホットレモネードが、かまくらの中で甘く香っていた。
「ありがとう、シリウス。とても綺麗」
 椅子に座ったリチェルカーレが、嬉しそうにあたりを見回す。
「これなら子どもたちも喜んでくれるわ。……冷たかったでしょう?」
「俺はなんとも」
 少女の細い肩に毛布をかけ、シリウスは首を左右に振る。リチェルカーレは肩から離れようとした手を握った。
 目を見開いたシリウスと、切なげに揺れるリチェルカーレの双眸が交わる。
「あなたの、怪我は?」
 傷を負ったのはリチェルカーレだけではない。激戦の中、シリウスもまた負傷していた。
「気がついたらいないんだもの」
 間近にある少女の顔に、いつかの夢の光景が重なる。
「無理しないで」
「……ああ」
 夢でも、現実でも。
 リチェルカーレは陽だまりに咲く花のように、優しくて温かくて――眩暈がした。
 不意に子どもたちの話し声が聞こえ、リチェルカーレは我に返る。出入り口に少年がひとりいることに気づき、シリウスも彼女からぱっと手を離した。
「はいってたんせ。ふふ、寒かったでしょう?」
 はにかんだ少年をリチェルカーレは手招く。入ってきた子どもの側に屈み、笑顔で雪餅をひとつ渡した。
「あがってたんせ?」
 赤くなった目元を隠すようにリチェルカーレから視線を外していたシリウスは、子どもが被るフードに雪がついていることに気づき、膝を折ってさっと払い落とす。
「ひょーせーのしゅくふくがありますよーに!」
 照れくさそうに祈りの言葉を口にして、少年はパタパタと出て行く。
 入れ替わるようにやってきた次の少年に、リチェルカーレとシリウスは顔を見合わせた。
 雰囲気が違う。
 この子、もしかして。
 声もなく、視線で驚きを交換しあう。
 恐らく間違いない。
 目を丸くしていたリチェルカーレは、はっとして少年を手招く。
「はいってたんせ」
 そわそわしていた少年は、口許を緩めてかまくらに入った。ブーケと花のランプを一瞥して笑みを深め、お菓子を持つリチェルカーレに向き直る。
「あがってたんせ」
 先ほどの少年と同じように、少女は目線をあわせて接し、シリウスも表情こそないもの肩や頭に乗った雪を払う。
「氷精の祝福がありますように」
「雪祭りを楽しんでね」
 雪餅を口に入れた少年は、どこか誇らしそうに首肯して、次のかまくらに向かった。


 万全の防寒装備を整え、スコップもそれぞれ持参した『神楽坂・仁乃』と『大宮・成』は、集めた雪で作った小山を前にそれぞれ満足げな表情を浮かべていた。
「ここからですよ」
「シンプルなかまくらでいいの?」
「初心者ですし、時間も時間ですからね」
 雪集めが意外と重労働で時間もかかってしまったため、あと二時間ほどで祭りが始まる。凝ったかまくらを作るよりは、しっかりと子どもたちを迎え入れられる空間を作ることを仁乃は選んだ。
 異論もなかったため、成は改めて雪山の側にひとまとめにした装飾品や家具類をざっと確認する。
 丸いテーブル、二脚の椅子、ランプ、魔力を流すことで青色にぴかぴか光る、クリスマス用の飾り。お菓子と飲み物は完成次第、係の人が持ってくるらしい。
「にの、テーマはなんだっけ?」
「闇夜に光る星、です」
 雪を固めつつ成形しようとしていた仁乃が応じる。
「シャドウ・ガルテンとノルウェンディの融合ということで、両国のイメージで」
「ちょっと前までなら考えられないこと、だったんだよね」
 長きにわたり鎖国していたシャドウ・ガルテンと、国土のほとんどが閉ざされた氷雪の国、樹氷群ノルウェンディ。
 もしかしたら永遠に交わることがなかったかもしれない両国は、今回、ノルウェンディの片田舎で行われる祭りに、シャドウ・ガルテンの人気照明専門店モーンガータがランプを提供する、という形で連携をとった。
「世界はゆっくりと、変わっていくのでしょうね」
「そうだね」
 常夜の国と氷雪の国が、手をとりあったように。
「ともあれ、まずはかまくらを作りましょう」
「うん。よーし、頑張ろうね、にの!」
「はい」
 頷いた仁乃はスコップで表面を叩いて雪を固め、ワークグローブをはめた手で綺麗に跡を消していく。成も彼女の動きを見つつ、かまくら作りに励んだ。
「けっこう大変だけど、楽しいね」
「そうですね。貴重な経験でもありますし。……ああ、そのあたりを入り口にしましょう」
「はーい」
 笑みを浮かべた成に、仁乃もかすかに口の端を上げた。
 出入り口をくりぬいて中の雪をひたすら掻き出し、スコップで叩き固めつつ内壁を整え、椅子やテーブルを運び入れ、装飾する。
「星空に見えますか?」
「うん、すごくきれいだね」
 丸いかまくらの中。テーブルには青い星の形のランプが置かれている。壁には魔力を流してしばらく光るようにした、クリスマスツリー用の飾りが瞬いていた。
 日が完全に落ち切れば、ここは星々の光る夜空になるだろう。
「雪餅と飲み物、頂きに行きましょうか」
「うん。喉渇いたー」
「二時間以上、作業していましたからね」
 慣れない雪弄りということもあって、二人ともさすがに少し疲れていた。

 氷精迎えの子どもたちはすべてのかまくらを回るため、夜になってもすぐにはやってこない。
「雪餅、おいしそう」
 温度ができるだけ下がらないよう、特殊な加工が施されたマグを両手で包むように持っていた成は、机上の雪餅を見つめる。
「……たくさんあるみたいだし、一個もらってもいいよね」
 そっとひとつつまんで、口に入れる。歯触りはさくさくと軽く、舌の上にじわりと程よい甘さが広がった。
 成の頬が幸福感に緩む。
「おいしいよ、にのも食べない? ……って」
 静かだと思ったら、仁乃はテーブルに突っ伏して眠っていた。
「連日の疲れがたまったのかな」
 任務はしっかりと果たし、休日は修練場で鍛錬に励む。丸一日休むということを、仁乃が長くしていないことを、彼女について回っている成は知っていた。
「にの」
 小さな声で呼び、成は仁乃の頬にかかった髪をそっと払う。
「にのは頑張りすぎ」
 年始早々に起こった初夢の騒動の後、成は仁乃から大切な話を聞いた。彼女が戦う理由のこと。彼女が背負った罪のこと。
 仁乃の淡々とした声音と怜悧な表情は、胸の内で荒れ狂う感情のすべてを押しこめるための蓋としか思えなかった。
「僕のためにそこまでしなくてもいいよ」
 直接言えば、きっと聞き入れてもらえない言葉を囁く。同時に体が動いていた。
 テーブルに手を突いてわずかに身を乗り出し、仁乃の額に口づける。無意識の行動の後から、祈りに似た感情が湧いてきた。
 目を開いた仁乃は、はっとして体を起こす。成はすんでのところで衝突を回避し、椅子に座りなおした。
「おは……」
「入ってたんせ」
 おはようにの、という成の言葉を遮って、仁乃が出入り口に向かって声をかける。こちらをうかがっていた少年が嬉しそうな表情で入ってきた。
「あがってたんせ」
「氷精の祝福がありますように」
 雪餅をもらった少年は二人にそう言い、ぱたぱたと外に出て行く。ほっとしたように仁乃が肩の力を抜いた。
「居眠りしてしまったの、見られてしまいましたね……」
「ああ、うん、そうだね」
「どうかしましたか?」
 小さく息をついて恥じていた仁乃が成の顔を覗きこむように首を傾ける。成は曖昧に笑んだ。
「なんでもないよ」
 仁乃にしたことは見られていただろうか。出て行く少年が、妙に訳知り顔に見えたのは気のせいだろうか。
「先ほどの子、少し不思議な雰囲気でしたね」
「そうかな?」
「……気のせいでしょうか?」
 他のことに気をとられていた成は、記憶をあさって思い出そうとする。とはいえ、ほんの数十秒の滞在だったのだ。顔さえよく覚えていない。
「それと、先ほど額が温かかったような」
「気のせいじゃないかな?」
「そうですか?」
「うん。ほら次の子がきたよ!」
 口早にごまかした成は出入り口に向き直り、子どもたちを迎えるための言葉を口にする。仁乃はひとまず疑問を忘れ、雪餅を少女に差し出した。


 借り物のシャベルを下ろし、『セン・カザミネ』はふぅと白い息を吐く。
 事前に雪を集めておいた場所をちらりと見て、続いてかまくらの壁を下から固めて回っている『カエデ・ミナセ』に視線を移した。
「カエデ」
 呼びかけ、視線で先を促してきたパートナーに、センはにこやかに告げる。
「元気が有り余っているだろう君にお仕事だ。ここで作業してるから、あっちの方から雪、追加で持ってきてくれ」
「はぁ?」
 大量の雪がどれほど重いか、先ほどまでセンと二人で雪集めをしていたカエデは身に染みて知っていた。
 その上でさらりと力仕事を押しつけられ、不満を満面に浮かべてカエデは立ち上がる。
「センが集めろよ。それか二人で集めればいいだろ」
「俺はここで、まだちょっとある雪でかまくら作ってるから」
「俺もかまくら作る方がいいんだが!?」
「じゃあ、じゃんけんして、負けた方が雪集めで。じゃーんけーん」
「まっ、この……っ!」
 拒否する間を与えないセンを睨みながら、カエデは掛け声にあわせてパーを出す。直後、カエデの表情が悔しさにゆがんだ。
「よろしく、カエデ」
「こいつ……!」
 チョキの形にした右手をセンはひらひら振る。
 考える間はほとんどなかったとはいえ、気合を入れて放った自身の手をしばらく眺めていたカエデは、がっくりと肩を落とした。
 あっさりと負けたこともセンのペースに乗せられていることも実に気に食わないが、負けは負けで、仕事は仕事だ。
「雪、運んできてやるから、感謝しろよ」
「してるしてる。ほら、時間なくなるから急いで」
 絶対に嘘だろという思いをたっぷりこめてセンを威嚇してから、雪を運ぶための手押し車に似た道具を手に、カエデは雪が積もっている場所に向かった。
 途中、ちらりと振り返る。
 鼻歌交じりに雪を固めているセンは、楽しそうだった。
「あいつ、子ども好きなんだな」
 納得できる事実の中に、納得できない部分を見つけてカエデは正面に向き直る。雪を踏む足が乱暴にならなかったのは、そうすると滑るということを知っていたからだ。
「子ども好きでも、俺を子ども扱いするのはやめろ」
 目的の場所で雪を集め、重さに歯を食いしばりながらセンの元に運んでいく。かまくらはもうすぐ完成しそうだった。
「持ってきたぞ。こんくらいあれば足りるだろ?」
「お帰り。うんうん、それくらいあれば足りるかな」
「もう俺もかまくら作りに復帰しても文句ないよな?」
 どさりと雪を落とし、カエデは置いたままにしてあったシャベルをとる。かまくらに雪をかけ、シャベルで固めようと叩いた。
 途端につけた量以上の雪がぼろりと落ちて、慌ててくっつける。恐る恐るセンに目を向けると、視線があった。
「壊さないようにな?」
「ここからうまくいくんだよ! 見てろよ!」
「あ、カエデ、ちょっと」
 シャベルを柔い雪山に差しこもうとしていたカエデが動きをとめる。センは彼が抵抗する前に、シャベルと一緒に借りた暖かそうなマフラーに素早く手を伸ばした。
 急にセンの顔が近くなり、カエデはびくりと肩を揺らす。センは慣れた手つきで緩んでいたカエデのマフラーを結び直した。
「よし。世話が焼けるな、お前は」
「……言えばいいだろ、自分で直すし」
 子ども扱いされたのだと知り、むくれたカエデにセンは穏やかに笑んだ。

 完成したかまくらは、少し不格好ではあるものの、広さもそれなりにあって雪風をしのぐには十分だった。寒さも少し和らぐ。
「まだ工夫できるな」
「えぇ……。もういいだろ……」
「耳つけるか。カエデは休憩?」
「俺もやる」
 すでに疲れていたものの、体力勝負で負けた気になるのが嫌でカエデはセンの案に乗る。
 かくして、二人で作ったかまくらの丸い頭にあたる部分に一対の猫耳がつけ足された。夕日を横目にかまくら内に必要なものを運びこみ、センとカエデは子どもたちを待つ。
 金ともオレンジともつかない、暖かな色あいのランプが雪の壁を優しく照らす。ふあ、とカエデがあくびをした。
「……あ、これうまい」
 なくなったら補充してくれるらしい雪餅をつまみ、カエデはかすかに瞠目する。ホットワインを飲んでいたセンもひとつ食べて、頷いた。
「甘くてさくさくしてて、うまいな」
 のんびりと待つこと数分、最初の子どもが出入り口から顔をのぞかせた。
「お。はいってたんせ」
 少女はほっとしたように肩の力を抜き、かまくらの中に入ってくる。センが雪餅の入った籠を、少女の目の前に差し出した。
「あがってたんせ。ただし食べた後はちゃんと歯磨きするんだぞ」
「ひょうせいのしゅくふくがありますように」
 雪餅をひとつ食べ、大きく頷いた少女はくすぐったそうに笑いながら、二人に祈りの言葉を返してかまくらから出て行った。
「氷精の祝福ってなんだ?」
「雪や氷で困ったことになりませんように、ってことじゃないか?」
「もともと、そういう祭りなんだっけ? ってもう次か、はいってたんせ」
 ひとりきたら次々と子どもたちがやってきて、雪餅をひとつずつとっていく。
 少年少女がこのときのために覚えた祈りを必ず言うように、センも歯磨きの注意を全員に飛ばしていた。
「よく言い飽きねぇな」
「カエデも帰ったら歯磨きするように」
「俺を子どもたちと同列に扱うな」
「雪餅を夕飯にするのも感心しないな」
「帰ったらがっつり飯食いますぅ!」
 噛みつくように応えたカエデに、センは余裕を崩さないまま残り少なくなってきた雪餅を指さす。
「食べられるように加減しろよ」
 満腹になりつつあるカエデは目をそらし、教団に戻るまでに腹をすかせると心に誓いつつ、ホットワインを飲んだ。


氷精迎えとかまくらと
(執筆:あいきとうか GM)



*** 活躍者 ***

  • セン・カザミネ
    よーし、張り切っていこー
  • カエデ・ミナセ
    ほんとにやってけんのか?これ

セン・カザミネ
男性 / 人間 / 陰陽師
カエデ・ミナセ
男性 / 人間 / 断罪者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2019/01/26-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。