探偵マウロの事件簿~もふもふをもふもふ
とても簡単 | すべて
2/8名
探偵マウロの事件簿~もふもふをもふもふ 情報
担当 弥也 GM
タイプ ショート
ジャンル ハートフル
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 少し
相談期間 4 日
公開日 2019-02-05 00:00:00
出発日 2019-02-12 00:00:00
帰還日 2019-02-21



~ プロローグ ~

 教皇国家アークソサエティのブリテン。技術革新の為の特区で、その技術力で栄え得た富は文化を育て、観光客も多く訪れる街。
 そんな街の住宅街にある、大きな屋敷の立ち並ぶ一角。
 お手入れ簡単長持ちJ印の鍋、で有名なジョンソン家の別荘の玄関扉が長らくぶりに大きく開かれた。
「まったく、せめて冬が終わってからにしていただきたいものだ」
 いたく不満げに別荘の中を歩き回っているのはジョンソン家の執事フランツ。
 数日前ジョンソン家の一人娘ライリーが突然
「私、別荘でお友達とパジャマパーティーをするわ」
 と言い出したのだ。
 ライリーの母が亡くなって以来使われる事がなく、最近では少し前にライリーが誘拐された際にエクソシストが捜索に来ただけで、メンテナンスが行き届いていない空き家の状況になっていた。
 そんな場所に友人を呼ぶと言うので、慌てて状執事が態の確認に来たのだ。
 玄関ホールの壁にはライリーの父リンク・ジョンソン氏と亡き母メラニー・ジョンソンの大きな肖像画が掛けられている。
「旦那様、奥様、失礼いたします」
 肖像画であってもつい声をかけてしまうのは執事の職業病なのか、それとも感じてしまっている何かを気配に語り掛けたのか。


 別荘はそれほど広くはない。リンクとメラニーの若い夫婦の新居として建てられ、当時ジョンソン家で副執事だったフランツが執事に昇進しジョンソン家の若い跡継ぎ夫妻と共にこの屋敷へと移って来た。しかし、小さな天使ライリーが生まれて間もなくリンク氏は相次いで両親を亡くし、ジョンソン家の当主となり生まれ育った屋敷へと戻った。
 以降、この屋敷はジョンソン家の別荘という扱いになっている。
「なつかしいな」
 小さなメラニーが手に絵具を塗り、屋敷中を歩き回った後がまだ少し残っている。
「大きくなったら、どんなにいたずら天使だったかを教えてあげるのよ」
 ライリーを愛おしそうに抱きしめたメラニーはそう言って微笑んでいた。
 そのメラニーも今は居ない。十年前サクリファイスによって殺されてしまった。
「奥様……」
 歳のせいか、最近は直ぐに感傷的になってしまう。
 にゃぁぁん……
 フランツが声に驚いて振り返ると、白い猫が長い尻尾をピンと上に立て一目散にフランツの方へと向かってきている。
 すっかり忘れていたが、以前この別荘を捜索したエクソシストから猫が居ると聞いていたのだ。
 ――何たる失態! しかし、今更思い出しても手遅れだ。
 子供の頃、大きな猫に襲われ大泣きして以来フランツは猫が苦手なのだ。今思えばあの猫はフランツと遊びたかっただけなのだが、やはりあの時の恐怖が蘇る。
 他に使用人が居れば、何とかしてもらえるが今この屋敷にいるのはフランツただ一人。
 歩みよる猫と、距離を保とうと後退るフランツ。
「た、頼む。こちらへ来ないでくれ」
 なんとか距離を保ち、一度玄関を出て誰かを連れてくれば、と思ったのだが……。
「にゃ!」
 どこから現れたのか、いつの間にか3匹の白い仔猫がフランツの足元でじゃれていた。
 しかも、その中の一匹が
「ねぇ、おじちゃん、遊ぼうよ」
 と、フランツに話かけてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ジョンソン家の別荘に、フランツの悲鳴が響き渡った。


 昼下がりの裏路地に掲げられた看板。
 ――探偵マウロ どんな仕事も断りません――
 その看板を見ているフランツ。よく見ると、その頬には少し血がにじんでいる。
 扉に手をかけようとするも、思いとどまり背を向け立ち去ろうとした瞬間
 ドンッ!
「きゃぁ、ごめんなさいっ!」
 扉が開き、中から飛び出して来たライリーがフランツの背中に激突した。
「お嬢様っ!」
「やだ、フランツ。こんなところでどうしたの? 別荘に行ったんじゃなかった?」
「いえ、その……」
「その顔の傷どうしたの? 血が出てるわ! こちらへ来て!」
 そう言って、今出てきたばかりの扉を開け、フランツを中へと促した。


「喋るねこ……ですか」
 この探偵事務所の主マウロが、小さく身震いをしながら言った。
 そんなマウロを見て「ガハハハ」と大きな声で笑うのは、声同様大きな身体のテオ。彼はマウロの幼馴染で、近くの肉屋の店主だ。
「笑うな」
 マウロがテオを睨みつけたが、テオは一向に気にしている様子がない。
「執事さん、この探偵も猫が苦手なんですよ」
 テオの言う通りなのだ。しかも、苦手にもかかわらず、依頼案件の2割ほどが迷子猫の捜索である。多少扱いに慣れたとはいえ「苦手」と言う気持ちが相手にも伝わるのか「こっちも苦手だ!」と言わんばかりに毎回爪をお見舞いされているのだ。
 しかも、今回はその猫が喋ると言うのだ。
「そうなんですか。では、お願いするのは難しいですね……」
 そう言って肩を落とすフランツの頬には、大きな傷テープが貼られており、その隣にはライリーが満足気に救急箱を手に座っている。
「あら、猫ちゃん、可愛いのにどうして苦手なのかしら。大丈夫よ、フランツ。別荘の猫ちゃんは私が何とかするわ」
「それはいけませんお嬢様」
 フランツがきっぱりと言い放った。
「そうだよ。猫ならネズミ対策にウチにもいるけど、知らない猫は気を付けないと危ないな。その猫を狙ってる奴らもいるしな」
 珍しくテオまでか慎重な態度を見せるため、ライリーが残念そうな顔をした。
「猫ちゃん、可愛いのに」
「可愛いかどうかは主観の問題だが、中には危険な猫もいるし、それを狙って危ない連中も寄って来るからな」
 マウロの真剣な声に、流石にライリーも異議を唱える事を諦めた。
「あの人達に頼むしかねぇのかもなぁ」
 テオの言葉に、一瞬フランツの眉間にシワがより厳しい顔になった。
「ダメよフランツ。もう、エクソシストは信用できない、なんて言わせないわよ」
 ライリーにそう言われて、フランツが笑顔になった。
「そうですね、お嬢様の誘拐事件以降短い期間に何度も助けていただいておりますからね」
「では、私の方から教団にお願いしておきましょう」
 安堵顔のマウロがポンと膝を打った。


~ 解説 ~

 探偵マウロを通じて、あのJ印の鍋で有名なブリテンのジョンソン家からの依頼です。
 が取れるし、何より焼き、煮込み、揚げ、なんでも使える素晴らしぃ……、失礼いたしました。

 そのジョンソン家の別荘に住み着いてしまった猫達の捕獲をよろしくお願いいたします。

●猫について
 猫は「九つの命」を持っており「一つ目」「二つ目」「三つ目」までは普通の猫ですが「四つ目の命」以降は言葉を話すとか。
 ただ話せる猫は魔術道具の材料として狙われることが多く、普通は話せても喋る事はないと言われているのですが……仔猫だからですかね?
 「六つ目の命」以降は、猫自信が魔法を使えてしまう場合もあるとか。
 フランツがエントランスで遭遇したのは白い猫と仔猫三匹。
 それ以外にも居るかもしれません。
 捕獲した猫は、飼い主を探してくれる保護団体へ預けられます。
 会話が出来る大人猫が居れば、説得しやすいかもしれません。

●ジョンソン家別荘間取りについて
 ・一階
  玄関ポーチ
  エントランス(白い猫一匹・白い仔猫三匹目撃)
  ホール
  娯楽室兼応接室
  食堂
  キッチン
  地下への階段
  二階への階段
  庭(花壇・プール)

 ・二階
  書斎兼居室
  バルコニー(書斎兼居室から出られます)
  居室四部屋
  一階への階段

 ・地下
  食品貯蔵庫
  使用人用食堂
  使用人居室五部屋
  一階への階段


●手順
 捜索……別荘をくまなく捜索して猫を探し出してください。方法は問いません。
 説得・捕獲……好きなだけモフモフって説得・捕獲してください。猫が暴れても責任は取れません。

 あとフランツからの追伸なのですが、調度品は高級で珍しい物がありますのでお気をつけ下さい、との事です。
 猫が壊してしまったのなら仕方ないわよ、本当ならそのまま住まわせてあげたいくらいだもの、とライリーが言っています。


~ ゲームマスターより ~

 別荘に住み着いてしまった猫の捜索捕獲をよろしくお願いします。
 
 ライリーのパジャマパーティーも気になりますが……。

 皆様のもふもふプラン待ってます!





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
目撃された猫たちは親子でしょうか?
居心地は良いのでしょうが、別荘の持ち主からの依頼ですしね
調度品も高価なものが多いようですし
悪い人達に家ごと荒らされる前に猫たちを見つけましょう

間取り図があれば預かり
1階を皆一通り捜索したあと分かれて地下へ
壁や扉に猫が通れそうな空間または通り道が無いか調べる
住み着いてるという事はどこか出入りできる場所がある?
見つけたら怯えさせないよう優しく呼びかけて捕まえ
大人猫を見つければここでの生活は危ないと話し仔猫達の保護の協力仰ぐ

ヨ 使用人部屋まであるんですね 流石ジョンソン家の別荘と言いますか
ベ J印のあの鍋はどこでも見かけるしな
  流石に隠し部屋なんてのはない、か?(壁叩く
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
仲間と協力して猫を捕獲
1階を手分けして確認後、2階を探す
喋る猫発見時は仲間に知らせる

猫が好きな陽当たりが良い場所や狭い場所を中心に、高所や物陰も確認
ナツキはトランスして犬の聴覚も頼りに探す
ナツキ:いねぇなぁ…おーい猫ちゃーん
ルーノ:(猫ちゃんはどうなんだ、という顔)

猫を見つけたら捕獲
ルーノは猫の退路で待ち構え逃走を防ぎ、ナツキが人型に戻って猫を抱き上げる
ナツキが近づく時は姿勢を低くゆっくり、警戒するなら止まって声をかけたり食べ物で釣る

喋る大人の猫には仔猫が逃げないように声をかけてもらえるよう頼む
ここに留まれば良くない事を考える連中に利用される危険があると伝え、
安全な住処を探す手伝いをすると提案


~ リザルトノベル ~

●ジョンソン家別荘一階エントランス
 広々としたエントランス。そこに、どーんと置かれた大きな箱。中には、猫じゃらし、最近猫界で噂の猫用おやつ、ふかふかの毛布、柔らかそうな生地で出来た大きなリボンのついた首輪等、いわゆる猫グッズ。

 ――エクソシストの皆さま
 お世話になります。
 この度は猫ちゃんの保護にご協力いただき、ありがとうございます。
 必要そうな物は、揃えておきましたのでご自由にお使い下さい。
 それでは、よろしくお願いいたします。
       ライリー・ジョンソン――

 丁寧な字で書かれた手紙に、この別荘の間取り図が添えられていた。
「使用人部屋まであるんですね。流石ジョンソン家の別荘と言いますか」
 幼さを残す小さな顔に金色の豊かで長い髪、その青い目でしげしげと間取り図を見つめるのは『ヨナ・ミューエ』。
「J印のあの鍋はどこでもみかけるしな」
 ヨナの頭上から声がした。頭越しに間取り図を覗き込んでいるのは、ヨナのパートナー『ベルトルド・レーヴェ』だ。
 嬉々としてライリーの用意した物を一つ一つ手に取り吟味しているのは『ナツキ・ヤクト』。
「使えそうモノはあるか?」
 ナツキを横目に、涼し気な表情でしかしその目は真剣にヨナが広げている見取図見ているのは『ルーノ・クロード』。
「そうだな、これと、これと……」
 ヨナはベルトルドの手に間取り図を押し付けると、ナツキと一緒に物色を始めた。
「目撃された猫たちは親子でしょうか?」
 ヨナの問いかけに、猫のおやつの匂いをくんくんと嗅いでいたナツキが顔を上げた。
「そうかもしれないな」
「居心地は良いのでしょうが、別荘の持ち主からの依頼ですしね」
 ヨナがふとため息を漏らした。
「はじめようか」
 ベルトルドの言葉に、かがみこんで箱の中を物色していたヨナとナツキが立ち上がった。
 エントランスの正面には二階へと上がる階段、右手には食堂、左手には娯楽室兼応接室、階段の奥にはキッチンと地下へと続く階段がある。
「手分けをしよう」
 ルーノの意見に全員が目で同意した。
相手に気配を悟られないように、驚かせないように、それが猫捜索の鉄則。
ヨナは浮き立つ気持ちを抑え、静かに静かに歩みを進めた。つい暴走してしまう自分に倒れるまで付き合ってくれたベルトルドを思い、パートナーとして在り方を考え直していたところだったのだが、猫、と聞いてつい受けてしまった。
 ――きっと、ベルトルドさんも猫ちゃんに癒されますよね――
ふわふわボディバッグに何かをしまい込み、辺りをくまなく探りながら歩みを進めるベルトルドと捜索を始めた。
エントランスの左側にヨナとベルトルトが、ルーノとナツキは右側へ。
よく見るとエントランスの床には、小さな肉球の跡と、それよりも小さな肉球の跡がある。
肉球の跡に気が付いたナツキが、無言で床を指さす。
ヨナ、ベルトルド、ルーノも足跡に気付いた。どうやら足跡は無限にあるが食堂の扉は固く閉ざされており、足跡の数も極端に少ない。どうやら食堂へは立ち入っていないようだ。
ベルトルドが娯楽室兼応接室の扉がほんの少し猫が通れる程度開いている事の気付いた。そこには、他とか比べものにならない数の肉球跡。
 ――住み着いてるという事はどこか出入りできる場所がある?
 ベルトルドは見取り図を見て確認した。扉の開いているこの部屋には庭へと続く大きな掃き出し窓があるのだ。
ベルトルドが、そっと扉を押す。
扉は少し音を立てそしてゆっくりと開いた。
音に気付いた他の三人もベルトルドの後に続く。
そっと中へ入ると、誰かの悪戯なのか掃き出し窓の下のガラス一部が割れてしまっている。
猫はこの割れた掃き出し窓から出入りしているようで、汚れた足で出入りしたのであろう跡がある。
「しっ!」
 そう言うとナツキがトランスし黒い毛色の大型の犬へと姿を変えた。
「来るぞ」
 猫のにおいがが近付いている。
ナツキが三人を制止した。四人は慌てて物陰に隠れる。
その瞬間、割れた窓から白い猫が姿を現し、その後に黒い仔猫、三毛の仔猫、ハチワレの仔猫と続いて入って来た。
猫達は四人に気が付くことなく、扉へと歩いて行く。
 猫の後ろ姿を見つつ、ヨナが割れた窓へと静かに移動した。
これで猫達の退路は一応断った。

ちりん
ヨナのふわふわボディバッグから、かすかに鈴の音が鳴った。
猫達が一斉にヨナの方を見た。
四人の侵入者の姿にパニックになった猫達は閉め忘れられた扉から一斉に走り抜け、白い大人猫と黒い仔猫は地下へ降りる階段へ、三毛の仔猫とハチワレの仔猫は二階へと駆け上がった。
その後を追って、ルーノとナツキは二階へ、ヨナとベルトルドは地下へと向かった。


●地下
 猫の後を追って地下まで来たものの、足元が薄暗く猫の姿も肉球も確認できない。
階段を降りると目の前は、使用人用のリビングダイニングになっている。扉はないため、猫も自由に出入りできる。
ヨナが明かりをつけ、中を見渡すと埃の中に肉球の跡は無数にあるが、猫の姿はなく、隠れられそうな場所もなかった。
ベルトルドは地下の薄暗い廊下を進み、階段の隣の食品貯蔵庫へと足を踏み入れた。
そこは食品を保存しておく棚と箱が無数にあり、ベルトルドはそれを一つ一つ確認し始めた。
ヨナはリビングダイニングを出て廊下を進み、使用人居室を一部屋一部屋見て回る。
居室にはそれぞれベッドと棚そして机と椅子があり、全てを確認をするが見つからない。
そして、一番大きな使用人居室。
「後はここだけですね」
 ヨナが扉を開いた。
 その部屋は他の部屋に比べると少し広く他の部屋には無かった小さいながらもクローゼットまである。
「見つからないな」
 ベルトルドもこの部屋にたどり着いた。
「上の階には調度品も高価なものが多いようですし、悪い人達に家ごと荒らされる前に猫たちを見つけましょう」
 確かにこの地下へ二匹の猫が駆け込むのを見た。しかし、これだけ探して見当たらないと言うのは、もうこの部屋しか可能性はない。
「流石に隠し部屋なんてのはない、か?」
 ドンっとベルトルドが壁を叩いた。
「あっ!」
 まだ確認をしていなかったベッドの下から黒い仔猫が飛び出した。
「あ、こら待て!」
 慌ててベルトルドが仔猫の後を追った。
ここに居たのですね。
ヨナが少しかがんで仔猫が飛び出してきたベッドの下を覗くと、一番奥に白い猫が目を大きく見開いてヨナを見つめていた。

慌てて追いかけたが再び仔猫を見失ったベルトルドは、ゆっくりと壁や扉に仔猫が通り抜けられそうな空間や通り道がないか、一歩一歩姿勢を下げて確認していた。
「おじちゃん!」
 子供の声に顔を上げて正面を見ると、廊下の突き当りに黒い仔猫がちょこんと座っている。
どうやら逃げ切れないと悟って、自ら声を掛けてきたようだ。
「喋る猫はお前だったのか」
「あたちだけじゃないよ」
 そう言って、ぽてぽてとベルトルドへと向かって歩き始めた。

ヨナは白い猫から目を離さないようにしながら、ふわふわボディバッグから小さな鈴のついた猫じゃらしを取り出した。一階で猫に気付かれた音は、この猫じゃらしについて鈴だった。
「怖くないですよー。猫ちゃん」
 ヨナは猫じゃらしをふりふりさせ猫を気をそらしながら、今度こそ逃げられないように部屋の扉を閉めた。

ベルトルドは、どっかりと廊下に座り込んでいた。
仔猫との距離は後少し。
「おじちゃんこわいしと?」
「いや、こわくない」
「ほんと?」
 仔猫が一歩ベルトルドへ近付く。

「ですから、ここに居るのは危険なのです。ライリーさん、あ、このお屋敷のお嬢様ですけれど、安全な場所で保護してくださる方を紹介してくれるそうですし……」
 と言いつつ、ヨナの手は猫じゃらしを振るのに余念がない。
 猫はヨナの言葉を理解しているのか、にゃぁん、と小さく鳴いて猫じゃらしにペシっと肉球をぶつけた。
そっと猫の頭を撫でてみる。
逃げる気配はない。
 すっと猫じゃらしを動かしてみると、猫の肉球が追ってくる。もう一度動かしてみる。更に肉球が追ってくる。
「にゃーん にゃにゃーん にゃーん」
 自分の声にあわせて、猫じゃらしを振る。すると肉球も追ってくる。
ヨナは夢中になってしまった。しかし、仕事を忘れていない。
「ですからね、猫ちゃん。にゃん。仔猫ちゃん達と、にゃん、一緒にここを出て、にゃにゃん、安全な場所へ、にゃん」
 にゃん、のところで猫じゃらしを振っている。

ヨナの声がする。
ベルトルドの肩には、身体をよじ登ってきた黒い仔猫がしがみついている。
 そっと声のする部屋の扉を開けると、ヨナがにゃんにゃん言いながら、甘い声で猫を説得している、のか、遊んでいるのか。
 その姿に思わず口元を押さえ、笑い声が漏れそうになるのを耐えた。
「ままぁ」
 ふいにベルトルドの肩の仔猫が声を上げた。
猫じゃらしを振るヨナの手と、それを追う白い猫の手がピタっと同時にとまった。
「あ、あの、いえ、これは、あの」
 ヨナが慌てて立ち上がり、白い猫を抱き上げると、猫じゃらしと一緒にベルトルドの腕に押し付けた。
白い猫も抵抗する事なく、されるがままだ。
「ままぁ、このおじちゃんこわくないよ」
 仔猫はそう言うと、ベルトルドの頬に顔を擦りつけた。
 

●二階
 二匹の仔猫は、慣れた足取りで一気に二階へと駆け上がってしまった。
 ルーノとナツキが二階へ駆け上がる途中、回廊を駆け抜ける二匹の仔猫の後ろ姿を確認した。
二階は階段を中心に回廊となっており、階段を上った正面には書斎兼居室。書斎からバルコニーへ出る事が可能だ。
 回廊沿いのその他の部屋はジョンソン家の人々の部屋だった。
ナツキが人型に戻った。
ぐるりと回廊と見渡すと、全ての部屋の扉が少し開いているようだ。
これではどこにでも好きに仔猫達は逃げ込めてしまう。
ルーノは先ず目の前の書斎の扉を閉めた。
 こうすれば書斎に逃げ込んだ仔猫は書斎から逃げる事が出来ない。
回廊をぐるりと歩き、全ての部屋の扉を閉めて回った。
これで仔猫を二階に閉じ込められた。もし書斎からバルコニーへ出たとしても、仔猫が二階から飛び降りるような事はないだろう。
「さて」
 仔猫に刺激を与えないように、静かにしていたナツキは大きく息を吸った。
「行こうか!」
 ナツキが一つ目の扉を開けた。
そこは子供部屋だったらしく、壁紙は淡い桜色をしており、小さなベッドには埃が掛からないように白い布がかかっている。幼かったライリーの部屋だ。
全てが小さい。そして、全てに白い布が掛けられている。
ナツキは白い布を乱暴に捲っては、覗きこみ仔猫を探す。
「いねぇなぁ……おーい猫ちゃーん」
 ルーノが思わず「猫ちゃんはどうなんだ」と言う顔でナツキを見る。
「ん?」
 ナツキは気に掛ける様子もない。
次々と居室に入り、白い布を捲っては覗き込むナツキ。
どの部屋も大きな窓があるにはあるが、厚いカーテンで光は遮られ、全く人の気配のない部屋独特の空気がそこにとどまっている。
「おーい、猫ちゃーん」
 そんな空気をも、吹き飛ばす勢いで厚いカーテンを明け、猫を探すナツキ。
いつ以来か、明るく照らされた部屋で念のため猫が好きな家具の隙間や上も確認すると、どの部屋にも肉球跡がしっかりと残っている。
 中には掛けられている筈の白い布が、床に落ちてしまっている部屋もあった。風が吹き込んだ様子ので、恐らく猫が布にじゃれて落としてしまったのだろう。どうやら猫達は、ここで自由に暮らしているようだ。
しかし、全く仔猫の姿はない。
書斎以外の全ての部屋の確認が済んだ。
「ここだね」
 ルーノが書斎の扉をそっと開けた。
その後ろから
「猫ちゃーん」
 ナツキが元気よく続く。
ルーノがそっと扉を開けた意味が全くなくなってしまっているが、ナツキは気にしていない。
バタン!
ナツキが後ろ手に扉を閉めた。
 と同時に。
ガチャン。
部屋のどこかで何かが割れる音。そして部屋を走り回る小さな影が二つ。仔猫たちが居たらしき場所の床には、何かの破片が飛び散っている。
「いた!」
 ルーノが影を追い、部屋の隅にまで追い詰めた。
「ここにいたら、危ないからね。ほらおいで」
 一歩ルーノが近付いた瞬間、三毛がルーノの足元を駆け抜け、直ぐにハチワレが後に続いた。
「お?」
 ルーノが再び仔猫を追うが、仔猫も必死に逃げるのでその距離は近付くようで近付かない。
 しかし、やはり仔猫。体力が続かない。
 部屋の隅で二匹でぴったりと身体を寄せ合った。
「あんたたちだれ!」
 三毛が声を上げた。
「お前喋れるのか、すげーな!」
 ナツキが嬉しそうに三毛に話しかける。
「べちゅにしゅごくない!」
 三毛が小さな口でシャーっと威嚇をし、それに驚いたハチワレはルーノとナツキの間に走り込んでしまった。
「あち!」
 三毛が呼んだ時には手遅れで、ルーノに退路を断たれたハチワレは、ナツキに手によってふわりと抱き上げられてしまった。
「あちにこわいことちないで!」
 三毛の声は悲鳴に近かった。
「大丈夫だ。何も怖い事はしない」
 そう言って、ナツキがハチワレの身体を優しくなでてやり、ライリーの用意していた猫用おやつを少量ハチワレの口へ少し押し込む。
「あち!」
 三毛の心配をよそに、ハチワレは一瞬驚いた様子を見せたが、口をもぐもぐさせて飲み込み、ナツキの指を舐め次を催促し始めた。
 その可愛い姿にルーノとナツキの表情は緩みっぱなしだ。
「おい、あち。お前は喋れないのか?」
「あちじゃない! あち!」
 三毛が鼻をくんくんさせている。どうやらおやつの匂いを確認しようとしている様子だ。
「だから、あちだろ?」
「ちがう! あち!」
 ナツキは三毛の言っている事が分からず、三毛を余計に怒らせてしまっている。
 ルーノが何か気付いた。
「はち、だろ」
「しょう、あち」
「あぁ、ハチワレのはちか」
 ナツキにもやっと分かった。
 当のはちはナツキからおやつを次々と貰い満足したのか今度はナツキの指をおもちゃにじゃれ始めている。
「しゃべれるのは、あたちとくりょとママだけ。あちはまだしゃべれないの」
「そっか、でも人の前で喋っちゃいけないって言われなかったか?」
 ルーノが三毛に語り掛けながら距離を縮める。
「こにゃいで!」
 三毛が反対の隅へと走り抜けた。
 はちはすっかりナツキに懐いてしまい、抱いていなくてもナツキの側を離れない。
そんなはちの様子に三毛も少し心を開き始めてはいるが、恐怖と言う本能が邪魔をして勝手に身体が逃げてしまう。
ナツキは姿勢を低くし、三毛に少し近付く。
「ほら、あれだけ逃げ回ったらお腹空いただろう。このオヤツ美味しんだぞ」
 ナツキの手にははちが食べていたオヤツ。
食べたい衝動と本能で、三毛がもじもじしているその姿も、また可愛い。
「こっちへおいで、ここにいると怖い痛い事をする人達が来るかもしれない」
 にゃぁん
ナツキの説得に、三毛が情けない声を上げた。
ルーノとナツキで三毛を囲んだ。
ナツキがそっと手を差し出すと、三毛は身体を固くしたが逃げるような事はなく、ナツキの手の中に納まった。
「イテ……」
 ただ、爪を立てる事は忘れなかったようだ。
 仔猫の細い小さな爪は針のようで思いの外痛いのである。


●合流
 仕事を終えた四人が一階エントランスに集まった。
 いや、まだ最後の仕事「引き渡し」が残っている。
 ライリーの用意したふかふか毛布に座る白い母猫は、まだ完全には納得していない。
「皆一緒がいいですよね」
 ヨナが言った。
「それはそうですが……」
 今までここで自由に暮らしていただけに、その生活を手放すのは口惜しい、そんなところだろう。
 しかし、
「安全な住処を探す手伝いもするよ」
「それでしたら……」
 ルーノの言葉に渋々といったところではあるが納得はしたようだ。
仔猫達は母の不安をよそに好き勝手に遊んでいる。特にはちは直ぐに離れた場所へ走って行こうとする。その度に、ルーノがひょいと抱き上げ、少し撫でては降ろし、また走り出そうとしては抱き上げて、を繰り返している。
「ちょっと、この子に遠くへ行かない様にいってくれないか」
 と母猫に言ってはいるが、ルーノに別に困っている様子は見受けられない。はちを抱き上げた時に伝わってくる、軽さと柔らかさと暖かさが、何とも表現しがたい。
ベルトルドにはクロがべったりとしがみついて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
特にベルトルドは何もしていないのに、である。
ヨナが猫じゃらしをクロに見せてみたが、全く興味を示さない。
そんな様子を見たベルトルドは、しがみついているクロをひょいとヨナの腕の中へと移動させた。
クロは喉をゴロゴロとならしたまま、ヨナの腕の中でコロンとお腹を見せた。ヨナがクロのお腹をこちょこちょとすると、クロはヨナの指を四本の足で抱え込み、ヨナが手をぱっと広げると、クロは一緒に四本の足をぱっと広げる。再びお腹をこちょこちょとするとクロは足を縮め、手をぱっと広げるとクロも足を広げる。
こちょこちょぱ、を何度も繰り返しながらクロを見つめるヨナの頬はゆるゆるになってしまっている。
「よし、ほら、こい!」
 あれほど警戒していた三毛は、ナツキの尻尾で遊ぶのに夢中だ。その首は大きなリボンのついた首輪。ナツキにつけてもらったようだ。
 三毛がナツキの尻尾を捉えると、今度はナツキが三毛を捕まえて身体中を撫でまわし、三毛がナツキの手から逃れると、ナツキがエントランスをぐるぐると歩く。すると三毛が全力でナツキの尻尾に飛び掛かる。
 ――ナツキさんはモフられ好きと思っていたけどもふる方も好き?
 ヨナは自らの手を止める事無く、こちらも終わりそうにないナツキと三毛の応酬を見ている。
 勢いあまって三毛がジョンソン家の肖像画に肉球を向けた。
「おっと」
 ルーノが三毛を抱き止め、すりすりと撫で「今は仕事中だからね」と床へ下ろした。
「……わかってるかい、ナツキ?」
 とは言うものの、そもそもナツキは聞いていないし、ルーノ自身も暴走するはちを抱き上げては軽く撫でて下ろしを繰り返している。
 ――ルーノさんも?
 ヨナがルーノをチラっと見た。
と、その視界の端に母猫を猫じゃらしで遊ばせているベルトルドの姿が。
「保護先で家族が離れ離れにならないように、お願いしましょうね」
 クロに話しかけると、クロはヨナの指に頬を擦りつけた。
ライリーの頼んだ保護団体が猫を引き取りにくるまでには、あともう少し時間があるようだ。




探偵マウロの事件簿~もふもふをもふもふ
(執筆:弥也 GM)



*** 活躍者 ***

  • ルーノ・クロード
    まぁ、ほどほどに頑張ろうか。
  • ナツキ・ヤクト
    よーし、やるか!

ルーノ・クロード
男性 / ヴァンピール / 陰陽師
ナツキ・ヤクト
男性 / ライカンスロープ / 断罪者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2019/02/01-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[6] ヨナ・ミューエ 2019/02/11-20:27

はい。では見つけ次第もふ…こほん。捕まえていきますね。

大人猫には、仔猫達を大人しく?して貰うようにお願いしようと思います。
頑張っていきましょう。  
 

[5] ナツキ・ヤクト 2019/02/11-17:57

世話になったのはこっちも同じだって!琥珀姫の時はありがとな!
今回は猫をもふ……じゃなくて猫の保護、頑張ろうぜ!

探し方は1階は皆で、2階と地下をは分かれてだな。
わかった、2階は俺達で見てくるぜ。
地下の方は任せた!  
 

[4] ヨナ・ミューエ 2019/02/11-16:07

ナツキさんルーノさん。来てくれたんですね、有難う御座います。
琥珀姫の指令ではお世話になりました。
今回は打って変わってほんわかした指令ですが宜しくお願いします。

そうですね。結構広い別荘ですので、目撃情報のあったエントランス含む1階は皆で、
そこから地下と2階は一組ずつに分かれて探せば満遍なく捜索できるかなと思います。
ええと、私達は1階をまわった後は地下を探してみるので
ナツキさん達は2階をお願いしてもいいですか?

あっ、仔猫を先に見つけてしまって捕まえない訳にもいかないですよね。
目撃情報以外の猫も隠れているかもしれないですし、
とりあえず見つけた端から捕まえちゃいましょうか。  
 

[3] ナツキ・ヤクト 2019/02/11-10:38

間に合ったーっ!
ギリギリの参加でごめんな、ヨナもベルトルドもよろしく頼むぜ!

えーと、猫だな。とりあえずしらみ潰しに探すか?
結構広い場所だから手分けするようなプランにはしてあるぜ。

まず大人の猫を探して子猫の説得を手伝ってもらうって感じだな。
けど、どこにいるかわからないんだよな。
もし子猫を先に見つけちまったら、とりあえず捕まえておいたほうがいいか?  
 

[2] ヨナ・ミューエ 2019/02/08-11:54

ヨナ・ミューエおよびベルトルド・レーヴェ。
マウロ探偵事務所からの依頼だそうで。宜しくお願いします。

確認されているのは白い大人の猫1匹と仔猫3匹。
まずは大人の猫を探してから(恐らくやんちゃな)仔猫を説得する流れがよいでしょうか。
喋る猫の噂が広まれば捕まえに来る輩も出てくるでしょうし、早いうちに保護してあげたいですね。