故郷を想う
とても簡単 | すべて
5/8名
故郷を想う 情報
担当 shui GM
タイプ ショート
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 なし
相談期間 4 日
公開日 2019-02-08 00:00:00
出発日 2019-02-15 00:00:00
帰還日 2019-02-24



~ プロローグ ~

 浄化師の集うエントランス。行きかう人々に混じって、明るい足音が響いた。
「仕事を頑張ったかいがあったぁ! 連休貰っちゃった」
 新人の女性浄化師が、軽い足取りでパートナーの元へと向かう。
 早速どこへ行こうか。
 何なら彼をデートに誘おうか。
 鼻歌交じりに頬を緩ませ、ツインテールを可愛く揺らす。
 彼女の頭の中は休日のスケジュールで、すでにいっぱいだった。

 新年や冬のイベントで賑わう時でも、浄化師はいつも忙しい。
 そこで日ごろの仕事への労いもあり。2、3日の貴重な連休を貰ったのだ。
 たかが数日。されど数日。
 やりたい事も行きたい所も、山のようにあるのだから。

「あ! こんなところにいた!」
 探してたんだよ、と笑う彼女。
 肩を叩かれた彼は、眺めていた地図からパートナーへと視線を移した。
「ねぇねぇ、今度のおやすみ、どこに行くか決まった?」
「うん。それなんだけどさ」
 再び視線を地図に落とす彼。
 指で紙の地図を撫でるように指差すと、此処に行こうと思う、と呟いた。
「そこには何があるの? スキー場? 遊園地? おいしいレストラン?」
 彼女の眼が輝く。もちろんデートを期待して。
 しかし――。
「ううん。俺の故郷(ふるさと)」
 彼は、平然と言ってのけた。豆鉄砲を食らったように、彼女の目が点になる。
「ふる、さと? ……帰れるの?」
「うん。俺の故郷。もちろん条件付だけどさ。此処に俺の妹たちが住んでいて……浄化師になってから会いに行ってなかったなぁーって」
 語る彼に、彼女はしょんぼりと頭を下げた。
 里帰り。つまり彼とは離れ離れだ。
 しかも彼女の方には家族がいない。いくら兄妹について語られても、ちょっとピンと来ていなかった。
 そして、何より。
「そっかぁ……里帰り……。心配だよ……」
 彼女の脳裏に思い浮かんだ事は。浄化師になる時に教わったことだった。

(家族の存在がサクリフェイスや夜明け団に知られたら、大変な事になるんだっけ……)
 敵の尾行に気づかず、気づけば大事な人が敵の人質に――というのは、過去にあった話だと聴いている。

 一言に故郷と言っても、気軽に会いに行ける存在ではないのだ。危険が伴うし配慮も要る。
(もし、彼に万が一の事があったら、私はどうすれば?)
 かといって。彼女はアドバイスをする自信もなく、潤んだ瞳を下へ向けた。
 私はどうしよう。呟けば、彼が顔を覗き込む。

「それなんだけど。お前も一緒に来ないか?」

 ガバッと顔を上げる彼女。
「いいの?!」
「もちろんだ。妹に会いに行くって約束しちゃってて――あ、もちろんお前の都合が合えばだけど!」
 慌てて取り繕う彼の頬は少し赤い。
 彼女にとって、パートナーの故郷へいくなんて考えもしなかったけど。
「好きな人の家にご挨拶……これはひょっとして、ひょっとするのでは?!」
「いや、そーゆーのじゃないからな?! あと妹には俺達が浄化師って秘密にしてくれよ!」
 驚く彼と違い、彼女は満面の笑み。
「うん、まかせて! 私も一緒に行く!」
 こうして2人は、仲良く里帰りすることとなった。

 そして。
 休暇をとっていたのは、彼らだけではない。
 やり取りを見ていた浄化師の1人が、故郷かぁ、と呟いた。
 君もその1人かもしれない。
 もし、一緒に行こうといったら、自分のパートナーはどんな顔をするのだろう。
 驚くのか? 笑うのか? それとも――。

 たまには懐かしい場所へ、足を運ぶのもよいかもしれない。
 こんな機会は、滅多にないのだから。


~ 解説 ~

 パートナーと思い出の場所を訪れる、あるいは語る。そんなシナリオとなります。
 思い出や故郷に触れる中で、パートナーのことを知ったり、思ったり。
 仲良くなる切欠にして下さったら幸いです。

 1~3の中でやりたい事をお選びください。
 できることに一部制限がありますので、ご注意ください。

【1】パートナーと故郷を訪れる。
 教皇国家アークソサエティにある故郷を、パートナーを連れて訪れます。
 もしかしたら一泊くらいはできるかもしれません。
 訪れる場合は、家族など知り合いがいるのかや、どんな場所かも、一言あると嬉しいです。

【2】パートナーと懐かしい場所へ行く
 教皇国家アークソサエティにある思い出の場所を訪れます。
 初めての依頼できた場所や、思い出の味のレストランなど。
 故郷以外で訪れたい場所がある方はどうぞ。

【3】故郷について、パートナーへ語る
 故郷に帰るのではなく。パートナーに思い出の話をして仲を深めます。
 教皇国家アークソサエティ以外の故郷や、思い出について語ることが出来ます。
 どこで話をするか、指定がない場合は浄化師の通うカフェや、レストランなどになります。

 ※注意。
 休日の日数の関係で、直接訪れる場所は『アークソサエティ』、『シャドウ・ガルテン』、
 『樹氷群ノルウェンディ』に限定となります。
 もし故郷の遠い方は、3をオススメしております。

 今回の帰省は、厳重に尾行などをされていないか警戒したうえで、行えているもので、基本的には、気軽に帰省などをすることはできません。
 業務の保秘や家族の身の安全のために、仕事に関する深い話はできないので、気をつけてください。


~ ゲームマスターより ~

 はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。
 のんびりと出来そうなシナリオを、と思って書いてみました。
 内容によってはシリアスにもなりますが、そこは皆さんの個性と言う事で。
 ご参加お待ちしております。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

神楽坂・仁乃 大宮・成
女性 / 人間 / 人形遣い 男性 / アンデッド / 墓守
1)

ソレイユ地区

【目的】

成が居ない間過ごした孤児院跡で成の知らない話をする


【行動】

今はもう何も残っていませんがここに孤児院がありました。
成と別れた後に私もここにいました。
ですがベリアルの襲撃にあって私以外は死亡しました。
そこで私が祓魔師だという情報提供があり今にいたる訳ですが。
契約の日に私が倒れたのを覚えてますか?
今まで黙っていましたが血が苦手なんです。
血を見ると私の所為で死んだ人を思い出してしまって。
こんなんじゃダメですね。
墓参りの時(2話)といい何故知っているんですか?
折角生き返ったのに他にやる事はなかったんです
(私も愛してるけど大切な成を死なせた私にそんな資格はないでも…)
私も好きです。

鈴理・あおい イザーク・デューラー
女性 / 人間 / 人形遣い 男性 / 生成 / 魔性憑き
クリスマスカードを選んだお礼にご招待との事ですが
イザークさんの家は思っていたけどやっぱり豪華です。
最低限の身支度はしてきましたが…もしがっかりされたらどうしよう。

イザークさんのおかあさ…あ、はいマリーアさんで。
明るくて優しいひとですね

…そうだ、マリーアさん達は大怪我してる謎の子供を引き取って育ててくれたんだ、ずっと
はい聞いてます。正直今でも信じがたい話です
……それでもイザークさんは人をからかうような嘘をいう人ではありません。
異界の有る無しではなく、イザークさんの言葉を信じます。


良かった。
こんなにイザークさんを思ってくれる人が家族でいてくれて

それが知れたから、今回ここに来て良かったです。
ローザ・スターリナ ジャック・ヘイリー
女性 / ヴァンピール / 悪魔祓い 男性 / 生成 / 拷問官
◆ローザ
故郷へ帰れる、か…
……まだ、母と会う訳にはいかない
なぁヘイリー。貴方の故郷はどんな所だったんだ?

黙ってしまったヘイリーに踏み込み過ぎたかと内心焦るが
立ち去らず隣に座った彼に少し驚きつつ、じっと言葉を待つ

故郷の事を少しずつ話してくれるヘイリーに気付かれない様、彼の横顔を盗み見る
宙を…過去を見つめる目がどこか優しげに見えて
…ああ、この男にも帰る場所はあったのだなと…ちくりと胸が痛む
あまり自分を語らない男の一端を知れた気がする

貴方の故郷は…とても良い所だったのだな

溜息をついたヘイリーに唐突に小突かれて面を食らう
いきなり何をするんだ!

【3】
教団の庭にある人気のないガゼボ
ローザのお気に入りの場所
ヴォルフラム・マカミ カグヤ・ミツルギ
男性 / ライカンスロープ / 拷問官 女性 / 人間 / 陰陽師
「…帰ってみようかな」
魔力量の異常を理由に出て行ったきりの故郷を思う
8歳で村を出て、もうすぐ11年…どうしてるかな
「少し、帰郷しようと思うけど…カグちゃんはどうする?」
…そうだね
カグちゃんのお母さんのお墓参りしたし、今度は僕の番だね
そうと決まったら、確か村長の家に固定魔信があったと思ったから連絡して帰郷準備

翌日
定期の馬車内

僕の村は葡萄農家なんだ
その葡萄でワインやお酢を作るんだよ
「確か、古くて良い出来のは教皇の口にも入る、とか」

僕の家は…まだ居れば祖父母、両親、兄2人、妹1人…と弟か妹が最低一人
覚悟してねカグちゃん
きっと、手荒い歓迎受けるから

「父さん母さん、紹介するね」
僕のお嫁さん予定の子だよ!
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
【1】
一人で行く決心がつかないナツキがルーノを連れて育った孤児院へ

そうまでして向かう理由はかつての約束を果たす為
『皆の宝物を入れた箱を埋めて、日を決めて皆で掘り出そう』
そう約束した孤児院の子供達はもういないが約束の日は今日だ

掘り出した木箱の中身は人形や綺麗な石等の子供らしい宝物と手紙が数通
ナツキの宝物は木彫り細工の犬の根付

皆の宝物を懐かしんだり、拙いラブレターに慌てるナツキをルーノがからかったり
ヨハネの使徒を全て倒したら必ず取りに来ると決め、皆の宝物は箱に入れ埋め戻す
根付はルーノに渡す
ナツキ:これ、預かってくれよ。またここに来る時までルーノに持ってて欲しい
ルーノ:…わかった、大切に預かっておく


~ リザルトノベル ~

●今はなき故郷
「見せたい場所があるのですが、一緒に行きませんか」
 パートナーである神楽坂・仁乃からの誘いに、大宮・成は目を丸くした。
 寒い冬空の下、手を温めようと吐いた息が冷たい空気に溶けてゆく。
「故郷に帰ろうかと想うんです」
(にのが故郷に帰りたいなんて、意外)
 おかげで成が擦り合わせていた手も止まってしまっていた。
 けれど、断る理由はない。返事をすれば仁乃と出かける用意だ。
 2人が向かう場所は、仁乃の故郷。
 そこは思い出と、悲しみが残る、静寂に包まれた孤児院跡だった。

 ソレイユ地区は農業を盛んとする自然豊かな町だ。
 その一角に、仁乃の目的地は存在した。
 元、孤児院。ひっそりとしたそこは、賑やかだった過去の面影はない。
 成が周囲を見渡しても、建物という建物は残ってはいなかった。
 代りに今は茂った草たちが、霜の隙間から顔を出して、ここを住処にしている。
「今はもう何も残っていませんがここに孤児院がありました」
 語りだしたのは仁乃だ。
 隣で成は、遠くを見る仁乃を見つめた。悲しみの色が彼女の瞳に映っている。
「成と別れた後に、私もここにいました。……ですがベリアルの襲撃にあって私以外は死亡しました」
 僅かに小さくなった彼女の声。
 仁乃が視線を落とせば、あの時の光景に立ち戻ってしまいそうな気さえする。
 振り払うように顔を振ると、改めてパートナーのほうを見た。
「そこで私が祓魔師だという情報提供があり今にいたる訳ですが、契約の日に私が倒れたのを覚えてますか?」
 不意に問われて、成が頷く。
 忘れるわけはない、再会の日だ。
 契約の際にナイフで皮膚を傷つけるのだが、仁乃がそのタイミングで倒れたのをよく覚えている。
「今まで黙っていましたが――血が、苦手なんです」
 仁乃は少しためらって、言葉を選ぶように視線をさ迷わせた。
「なんで倒れたんだろうと思ったけど、やっぱり血の所為だったんだね」
 彼女の搾り出した言葉に、成が仁乃の顔を覗き込んで言う。
 お陰で腑に落ちた。と言いたげな成の表情に、仁乃は持っていた人形の成子を胸に抱きしめた。
「血を見ると私の所為で死んだ人を思い出してしまって。こんなんじゃダメですね」
 決心して浄化師になったのに、という仁乃へ。
「1人で抱え込もうとしないで」
 成が明るく声をかけた。
 身長があれば撫でて励ます事もできただろう。しかし、差し出しかけた手は、仁乃の頭に届かない。
 仕方なく指で自分の頬をかくと、呟くように言う。
「言いにくいんだけど、ここの孤児院に居た事も事件も知ってるよ。祓魔師になった経緯も。こっそり追跡してたから」
 仁乃が驚いた顔をした。
 てっきり、この孤児院は自分しか知らないものだと思っていたのに。
「墓参りの時といい、何故知っているんですか?」
「えーっ、言わなきゃダメかな」
 子供っぽくはぐらかそうとする成を、仁乃がじぃっと見る。
 前に成は、仁乃と一緒に彼女の両親の墓参りに行ったことがあるのだ。花屋で迷わず選んだ青い花のことも良く覚えている。
 あの初雪の日の出来事を、仁乃は気になっていたのだ。
 お墓はまだしも、孤児院の事まで知っていたなんて。
 どうしてだろうと、暫く見つめていると。観念したように成が笑った。
「誰の為に生き返ったと思ってるの」
 知っている。仁乃の為だ。
「折角生き返ったのに他にやる事はなかったんですか……」
「うん。にのの事愛してるし、僕にはにのがいれば充分だから」
 それに気になっちゃうでしょ? と子供っぽく成は笑う。
 残された家族であり、大切な人であり、パートナーである彼女を。仁乃を放っておけずにいる。
「にのは? 僕のこと好き?」
 悪気のない成の言葉に、仁乃の唇が震えた。
(私も愛してる。……けど、大切な成を死なせた私にそんな資格はないんです)
 後悔が彼女の心を締め付ける。
 音もなく軋む様な心臓が、今は息苦しい。
 わかっている。愛する事は許されないと。でも……と、仁乃が小さく言葉にした。
「私も、好きです」
 冬の乾いた風が2人の間を駆け抜けた。どこか冷たく、寂しい風が。
 愛の代わりに口にした、仁乃の言葉は温かい。けれど、その表情は泣きそうで。
「そっか」
 成はそれ以上何も聞かなかった。
 仁乃の隣に、成が寄り添う。彼女の表情の意味を考えながら、誤魔化そうか、どうしようか、考えながら。
 2人は手を繋ぐ。寒さを和らげる為に。
 恋人としてではなく――今はまだ、幼馴染として。


●暖かな信頼
 目の前に聳え立つ、大きな豪邸。
 鈴理・あおいは緊張した様子で建物を見上げていた。
(クリスマスカードを選んだお礼にご招待との事ですが……、イザークさんの家は想像以上に豪華です)
 あおいは、パートナーのイザーク・デューラーの実家を訪れていた。
 庭に目を向ければ、冬であるにも関わらず、手入れの行き届いた花が咲いている。きっとこの家に住む人は、命を大事にする方なのだろう。
 その家族とこれから顔を合わせるのだ。
 最低限の身支度はしてきた。けれど、相手の気を害することがあったらどうしよう。
 不安を隠すあおいだったが、イザークは彼女の様子に気づいていた。
「大丈夫だ。皆良い人たちだから」
 と言っても、簡単には肩の力を抜いてはくれない彼女だけれど。
 あおいらしいか、とイザークは彼女を家の中へと案内するのだった。

 2人を出迎えたのは、イザークの養母、マリーアだった。
 おっとりとした雰囲気に優しい面持ち。気品のある姿。何より好意的な笑顔に、あおいも穏やかな気持ちにさせられる。
 養母とは聞いていたが、どちらかというと祖母に近い印象のある人物だった。
「お母さん、紹介するよ。パートナーの鈴理・あおいだ」
「よろしくお願いします、イザークさんのおかあさ……」
「あら、マリーアでいいわよ。私の方こそ、よろしくね」
「あ、はい。マリーアさん」
「外は寒かったでしょう? どうぞ温まって」
 自己紹介を終えると2人へお茶が振舞われた。カップを手にとれば寒さが和らいでゆく。
「明るくて、優しい人ですね」
 傍にいたイザークへ、あおいがそっと印象を述べると、彼は嬉しそうに微笑んだ。

 マリーアは、あおいへ様々な話をしてくれた。
 息子のパートナーの会えると知り楽しみにしていた事。イザークには養父と弟もいる事。クリスマスカードが好評だった事などなど。
「お母さん……あおいが驚いてるから落ち着いて」
 イザークの言葉に、つい嬉しくて、とマリーアが笑う。
 話を聞いていたあおいも、歓迎されている事が嬉しく、少しくすぐったかった。

 そして。
 イザークがお茶のお代わりを用意しに席を外した時。
 あおいへと、質問が投げられる。『異界から来た王族の話』を、イザークから聞いたことはあるかと。
「彼の話でしたら――」
 言いかけて、あおいは気づく。
 もし、パートナーの話が本当なら。イザークとマリーア達の出会いは、どのようなものだったのだろうか。
(……そうだ、マリーアさん達は大怪我してる謎の子供を引き取って、育ててくれたんだ、ずっと)
 決して簡単な事ではない。
 怪我を治し、心を開き、そして多くの努力を積み重ねて。今ある家族の絆が出来たのだろう。
 心配している様子の彼女へ真摯に答えようと、あおいが背筋を伸ばす。
「はい聞いてます。正直今でも信じがたい話です。……それでも、イザークさんは人をからかうような嘘をいう人ではありません」
 これまで彼と接する中で、パートナーがどれだけ優しいかを知っている。
 不安げに自分を見つめるマリーアへ、真剣な面持ちで気持ちを告げた。
「異界の有る無しではなく、イザークさんの言葉を信じます」
 あおいの心からの言葉。彼への気持ちへ嘘はない。
 じっと返事を待っていると、安心したようにマリーアが顔をほころばせた。
「息子のパートナーが、あなたでよかったわ」
 その一言が、あおいの心を温めてくれる。

 イザークが戻ってくると、再び雑談の花を咲かせた。
「今日はありがとう。浄化師の日々を心配している家族に、会わせたかったんだ。俺のパートナーを」
 あおいを会わせれば安心すると思ったから――と、イザークが話す。
「私も、ここに来れて良かったです」
 あおいが頷いて言葉を返した。
(良かった。こんなにイザークさんを思ってくれる人が家族でいてくれて)
 それがあおいにとって何よりも嬉しい事だった。その表情に、もう不安の色はない。
 すると彼女へ、イザークが一輪の花を差し出した。丁寧にラッピングされている。
「これは父から」
 カードのお礼に、といわれた花はあおいをイメージした綺麗な花で。
「いえ、しかし……」
「庭の花の手入れが好きで、今日一番の花を用意してくれたんだ。受け取ってほしい」
 家族からの感謝だと知り、そっと花を手に取った。
 感謝の気持ちを伝えたい。けれど高価なものは受け取ってもらえないかもしれない。色々悩みながら選ばれた花は、とても優しい色をしていた。


●懐かしい場所
 広い教団の庭の片隅に、ひっそりと人気のないガゼボがあった。
 肌を冷やす冬の風を、ガゼボの壁が防いでくれる。遠くには教団の建物と花壇が見えた。
 ガゼボの椅子にゆっくりと腰掛けながら、ローザ・スターリナが先ほど周囲から聞いたことを思い出していた。
「故郷へ帰れる、か……」
 遠くを見つめるように、ローザが呟く。
 彼女の様子を見に来たパートナーのジャック・ヘイリーが、ローザに横から声をかけた。
「今回の休暇は、特例で帰省出来るらしいが……お袋さんの所は、まだ行けねぇか」
「……まだ、母と会う訳にはいかない」
 言葉はぶっきらぼうでも、彼女を心配していたジャック。ローザに逢いたい人がいるのを知っていたのだ。
 けれど、すんなり帰るわけには行かないらしい。
「なぁヘイリー。貴方の故郷はどんな所だったんだ?」
 次はローザがジャックに尋ねた。隣に座るよう、促すように空いた席をぽんぽんとはたく。
「俺の故郷、か」
 黙りこんだ彼。1拍おいて、ローザが気づく。
(もしかして、聞いてはいけない話だったのだろうか?)
 長い沈黙にローザは心の奥で焦ったが――そうではないらしい。
 隣に座ったジャック。ローザが僅かに驚いた事には気づかず、懐かしい光景を思い出そうと、手で自分のあごに触れたるのだった。

 記憶を頼りに、ぽつりぽつりとジャックが語りだす。
 ジャックの出身は、小さな田舎の村だった。
「村の人間が食うに困らねぇ程度の畑と、人間と同じ数の鶏が居たな」
 豊かな森があり、青い空があった。必要な分の食べ物は皆でわけ合って暮していた。
 素朴で懐かしい風景がよみがえる。
 暖かな故郷の香りさえ、今なら思い出せそうな気がした。
「顔を合わせりゃ挨拶して、困った奴がいれば何も言わなくても助けに来てくれるような、気の良い奴らだった」
 協力し合い、助け合い、笑いあう。
 善人たちが協力して築き上げた村は、明るくて住み心地の良い村だ。
「腕の良い木こりも多かった。木材を街に卸して生活していたんだが、皆仲が良くてよ」
 ジャックは視線の先にあった花に気づけば。
「ああ、友人の誕生日をみんなで祝った事もあった」
 と揺れる花弁に目を細めてみせた。
 今はなき故郷を語るジャックの言葉は、どこか優しい。
 彼の顔を、ローザが横から気づかれないよう、そっと見つめた。
 穏やかな様子のジャックは、ローザにとって新鮮だった。
 普段はあまり過去を語らないパートナーだ。喧嘩する事はあっても、過去を知る機会はあまりない。
(……ああ、この男にも帰る場所はあったのだな)
 思えば、寂しさがちくりとローザの胸を刺す。
 それに比べて……自分はどうなのだろうか。自分を受け入れてくれない母は、家族は。まるで自分だけが帰り道が無いと、思い出そうとするほど足元が暗く染まるようだ。
 そして。なんとなく、彼の村がどうなったかの話は、聞いてはいけないような気がする。
 ジャックの声を聞きながら、彼女は考える。
 パートナーのことを知るたびに、ローザの瞳が小さく揺れた。

「貴方の故郷は……とても良い所だったのだな」
 褒めるように、優しく言葉を口にすれば、気づいたようにジャックがローザを振り向いた。
 そこにある、ローザの微笑み。
 きっと彼女は無意識だったのだろう。
 だからこそ、彼はローザの胸の奥にある感情に気がついて、じっと彼女の顔を見る。
 考えるようなジャックの顔が、ローザの瞳に映りこんでるのが見えた。
「どうしたんだ、ヘイリー? ――いてっ」
 急なデコピンをくらい、ローザが即座に額を押さえた。
「いきなり何をするんだ!」
 攻撃されるような雰囲気じゃなかっただろう。
 と睨むように視線を投げれば、すでにジャックはそっぽを向いている。
(……喋り過ぎたな)
 頬の熱に気づいたジャックが舌打ちしそうになると、ローザがムッと眉を寄せた。
「こっちをみろ、ヘイリー!」
「うるせぇ。長居すると風邪引くぞ」
 ローザの頭をぐしゃりと撫でて誤魔化すように言い捨てると、ジャックは席を立った。
 待て、と髪を整えながらローザが彼に続いた。
 いつもの様な言い合いをしつつ、ガゼボを後にする2人。既にしんみりとした空気はなくなっていた。
 自分より小さな身長を、足早にローザが追いかける。
 この時ローザは、前を歩くジャックのいつもと違う表情に、まだ気づいてはいなかった。


●久しぶりの再会
 教団のエントランスでは、様々な人が行きかっていた。
 そんな中で耳にした、『故郷へ帰る』という話題。
 ぴくりと狼の耳を動かして、1人の浄化師が足を止めた。
「……帰ってみようかな」
 ヴォルフラム・マカミが呟くようにこぼした言葉。パートナーのカグヤ・ミツルギは抱えていた本から視線を移し、大きな瞳で彼を見上げた。
「……故郷に?」
「うん。長く帰ってないなぁって思ってね」
 魔力量の異常を理由に、出て行った故郷。あの街は今はどうなっているのだろう。
(8歳で村を出て、もうすぐ11年か……)
 教団に入れば、里帰りの機会は珍しくなる。そんなこともあって、随分と長く帰らずにいた。
 人も、景色も、家族の皆も。色々と変わっているかもしれない。
「少し、帰郷しようと思うけど……カグちゃんはどうする?」
 問われて、カグヤは少し考える。
(私の家は、軍事階級だから……死んだ『かあさま』以外は、殆ど皆、教団の何所かに居るし)
 魔術師の家系に生まれたカグヤにとって、教団で誰かと会うことは珍しい事ではない。母親だけは、少し遠くにいるけれど。
「私の家族は、会おうと思えば、いつでも会える、から」
 そうなると気になるのは、ヴォルフラムの家族だ。
(……ヴォルの故郷、見たい)
 一体どんな人が、どんな故郷に住んでいるのだろう。
 期待の眼差しを向けるカグヤ。それを見逃すヴォルフラムではない。
「……そうだね。カグちゃんのお母さんのお墓参りしたし、今度は僕の番だね」
 連絡を取ってみよう、と微笑むヴォルフラムに、カグラの心がそわりと躍る。
 こうして、2人で里帰りする事になったのだった。

 翌日。2人を乗せた馬車が街道を走る。
 不規則に揺れる窓から外を見れば、次第にルネサンス特有の自然豊かな台地が広がっていった。
 雪が降った後なのだろう、背の高い木々が白く染まっている。
 しかし、次第に木々は低くなり、葉の無い木々が規則正しく並ぶようになっていった。
「農村……としか聞いてないけど、どんな所?」
 カグヤは窓から視線をヴォルフラムに移す。記憶が正しければ、ルネサンス北部の農村としか教えてもらってないはずだ。
「僕の村は葡萄農家なんだ。その葡萄でワインやお酢を作るんだよ」
 窓から見えるのはワイン用のブドウ畑だ、と彼がカグヤの隣で指をさす。
 収穫時期になれば、青々茂った葉に混じって赤や緑の葡萄が実る。広い土地が一斉に実をつける姿は彼にとって懐かしい思い出の1つだ。
「確か、古くて良い出来のはお偉い方の口にも入る、とか」
 ヴォルフラムの言葉に、カグヤはどんな人だろうかと思考をめぐらせる。
「……それなら、直通の馬車があるのも、頷ける」

 レンガ造りの家々が立ち並ぶ街へとやってきた。
 都会、とりわけ教団の施設と比べれば、ここが違う町なのだと実感する。
 11年ぶりの家の前に、2人が並んだ。
 懐かしい香りを吸い込めば、ヴォルフラムは大きな尻尾をゆっくりと揺らす。
「覚悟してねカグちゃん。きっと、手荒い歓迎を受けるから」
 扉の前で笑う彼に、カグヤが首をかしげた。
「じゃぁいくよ。――ただいま!」
 ヴォルフラムが声を上げて扉を開ければ、中から大勢の人がどたばたとやってくる音が聞こえた。
「本当に帰ってきたぞー!」
「ヴォルフラムが!? 生きてたのか!」
「もてなしの料理はまだー?」
「まだ出来上がってないわよぉ!」
 弾丸のように次々と飛んでくる会話にカグヤが面食らう。
 驚いてヴォルフラムの後ろに隠れれば、子供たちが何だ誰だと覗き込む。その光景に大丈夫だよとヴォルフラムは笑った。
 ヴォルフラムの家族は、(彼曰く、当時と変わっていなければ)祖父母、両親、兄2人、妹1人。……いや、下に弟や妹がまだ続く。結構な大家族だ。
 大勢の兄弟をかき分けて両親が顔を出す。
 再会の挨拶を交わすと、カグヤの肩を抱いてヴォルフラムがにこやかに言ってのけた。
「父さん母さん、紹介するね。僕のお嫁さん予定の子だよ!」
 周囲から歓声が上がる中。一番驚いたのはカグヤだ。
「お、お嫁さん……?!」
 え、いつのまに婚約確定に? そもそもそんな説明だけでいいの?
 尋ねようにも場の空気に流される。
 果たしてヴォルフラムの言葉はどこまで本気なのか。
 戸惑うカグヤをヴォルフラムがエスコートすれば、2人を歓迎する宴が用意されていた。


●大切な約束を
 教団でルーノ・クロードが声をかけたのは、パートナーのナツキ・ヤクトだった。
「迷っているなら、私も行こうか」
「いいのか?!」
 1人で帰るべきか否か、悩んでいたナツキがピンと耳を立てる。
「ああ。大切な約束があるんだろう?」
 ルーノがナツキの背中を押す。それだけ大事な帰郷になると、知っていたから。

 やってきたのは、アークソサエティの都心から離れた小さな村だった。
 しかし、村へは寄らずに、外れにある建物を目指す。
「知り合いには会わなくていいのか?」
「いいんだ。……使徒の襲撃で村まで危険に曝した原因は、俺だからさ」
 罰が悪そうに頭をかくナツキ。
 それから暫くして。到着した、という彼の声に、ルーノが周囲を見渡した。
 冬の雪が薄く積もった古い建物――いや、廃墟だ。
 半壊している孤児院は、枯れ草と雪で寂しげな服を身に纏っているかのようだった。
 2人以外、誰もいない。
 中へ入れば、音を立てて壊れかけの壁が崩れた。放置された汚れたボールも、もう動かない壊れた玩具も、今は寂しさに包まれている。
(話には聞いていたが、初めて訪れた……ここが、ナツキの)
 ルーノが視線を上げれば、ナツキが感傷に浸っているようだった。
 昔住んでいた孤児院。確かヨハネの使徒によって命が奪われたのだったか。決して楽しい思い出ばかりではなかったはずだ。
 けれど、だからこそ。やらないといけない事がある。顔を上げたナツキがルーノを見ると、決心したように笑った。
「――よし、ここだ」
 建物の中庭に位置する場所でナツキがしゃがみこむ。
「孤児院の子供たちと約束してたんだ。皆の宝物を入れた箱を埋めて、日を決めて皆で掘り出そうってさ」
 懐かしのタイムカプセル。
 当時の友達はもういないけど、今日が開封日だとナツキは覚えていた。

 ルーノも手伝い、深く埋まっていた木の箱を取り出す。
 土を払い箱を開ければ、子供たちの玩具や綺麗な石など様々な物が入っていた。
「うっわぁ、懐かしいなぁ!」
 ナツキの顔にパッと花が咲いた。自分の宝物の『木彫り細工』を手にすれば、楽しかった頃の記憶が蘇って来る。
「この人形はあの子が大切にしていたもので、こっちの玩具は皆で良く遊んだ奴だ」
「手紙も入っているぞ」
 ルーノがいくつも入っている手紙を手に取った。差出人は様々で、未来の自分へ、など不器用な文字で宛名が書かれている。
「ああ、書いた書いた。読むのが楽しみだったんだよな」
「これはナツキ宛のラブレターかもな」
「え? ちょ、まって」
 ルーノがつたない文字でナツキと書かれた封筒を見せた。
 それを慌ててナツキが回収する。もしかしたら彼が書いたものかもしれない。

 思い出を片手に昔を語れば、蘇る穏やかな記憶に心が温まるのを感じていた。
 けれど封筒の封を開ける事はない。
「手紙は、読まないんだな」
「まだ、やるべきことが終わってないからな」
 皆の命を奪ったヨハネの使徒。彼らを葬った後に、続きの思い出を振り返るとしよう。
「敵を全て倒したら、必ず取りに来る。だからそのときまで、皆おやすみ」
 亡き友との思い出を箱にしまいなおすと、丁寧にその箱を再び地面の中へと埋めた。
 そしてナツキがルーノへと『木彫り細工の犬の根付』を差し出す。
「これ、預かってくれよ。またここに来る時までルーノに持ってて欲しい」
 手にした根付は柔らかい色合いを持っていた。
「根付は俺が元々持ってた物らしいぜ。親の形見みたいなもんかな」
「大切な物を託されるとは責任重大だな」
 驚くルーノ。しかし、いいんだとナツキが首を横に振る。
「使徒を全部倒してここに戻って来るって今の気持ちごと、根付をルーノに預けたら……何があっても忘れずにちゃんと戦える気がするんだ」
 今まで、何度もルーノに助けられたように。
 強い信頼を真直ぐに表す彼に、ルーノはゆっくりと根付を握り締めた。
(……悪い気はしないな)
 昔なら、面倒に思ったかもしれない。けれど、今は違う。
 彼との信頼が強くなるたび、それが嬉しいと、心地よいと感じるようになっていた。
 それだけ2人には、強い絆があった。
「わかった、大切に預かっておく」
 ルーノの言葉にナツキが歯を見せて笑い、礼を言う。

 ルーノとナツキは孤児院を後にする。
 きっと、2人でまた来ようと、思い出の品に強く誓いながら。

 そして前に進むのは、決して彼らだけではない。
 始まりの、懐かしの場所からそれぞれに。いつかは皆が、出発してゆくのだから。


故郷を想う
(執筆:shui GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2019/02/06-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。