~ プロローグ ~ |
「ちょっとそこの浄化師さま達ぃ、素敵なお薬はいかがですかぁ?」 |
~ 解説 ~ |
薬屋のカーリンの宣伝の為に渡された薬を飲みます。 |
~ ゲームマスターより ~ |
初めまして。先日、新しくGMになりました、虚像一心と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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※モナ視点 【目的】 ルイに薬を飲ませる。 【場所】 蒸気機関車での移動中 【行動】 感謝を伝える薬? これをルイに飲ませたら少しは本音が聞けるのかな。 でもルイに感謝の気持ちなんてあるんだろうか… それに問題はこの薬をどうやって飲ませるか… 何かに混ぜる? この薬混ぜてもいいものかどうかわからないし…それじゃ飲んでくれなそう。 それなら変に小細工はやめて今素直に渡した方がいいかな。どっちにしたって飲んでくれるかどうかわからないし。 モ「ルイ。薬の宣伝で貰ったんだけど飲んでみない?」 明らかに嫌そうな顔。 ル「レストレンジが飲めばいいじゃん。」 モ「普段本音を言わない人が飲んだ方が効果がわかると思って。」 ※ウィッシュに続く |
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薬を飲むのはナツキ 感謝の気持ちを伝えようと思い立ったもののいざとなると気恥ずかしい 決心が付かないままうろうろしていて、教団のエントランスでルーノを発見 今しかないと勢いで薬を飲んで突撃 猛然と向かってくるナツキに呼び止められ何事かと振り返るルーノ ナツキ:いつもありがとな、ルーノ! ルーノ:な、何だ唐突に ナツキ:俺が危ない時にフォローしてくれたり、本当に助かってるんだぜ。ルーノがパートナーで、相棒で良かったって俺は本気で思ってるんだからな! わかったか! ルーノ:な…!? ち、ちょっと待っ… 言うだけ言って満足して立ち去るナツキにあっけにとられる 人目の多いエントランスだった事を思い出し、ルーノも慌てて立ち去る |
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人通りの多い繁華街を歩きながら さて宣伝用の薬を貰ったものの どちら飲むかでお互い様子を伺う ヨナ ベルトルドさんが私に感謝するような事ってあるんでしょうか 感謝することはあれどされるようなことは特にこれと言っては無い…と沈痛な気持ち でも、もしかしたら、何かしら。だからといって薬でなんて。 では自分が飲むかといえば変な事を口走ったりしないかまるで自信がなく 思案顔をしているとベルトルドが止める間もなく一気飲み 呆気にとられながらも効果の程が気になり 期待と不安の混じる面持ち ど、どうですか何か言いたいことありますか(食い気味 ベ そんなに悩むなら、と飲んでしまう 薬は話してる内に徐々に効きだす |
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~ リザルトノベル ~ |
蒸気機関車に乗りながら目的地を目指している『モナ・レストレンジ』と『ルイス・ギルバート』。 二人はこの道中の時間を退屈そうに過ごしていた。 いくら目的に早くたどり着ける蒸気機関車とはいえ、その移動中は時間がかかってしまう。 その暇な時間をどうしようかと考えるモナ――ふと、ある薬を思い出した。 ポケットの中に入れていたその薬――それは『ソレイユ』でカーリンという薬屋の女性から「宣伝の為に」と自白剤を改良して作られた薬だ。 曰く、これを飲めば感謝の気持ちを素直に言える、と。 薄い青色の液体のそれを見ながら――これが感謝を伝える薬? と、モナは考える。 ――効果を期待している、とはあまり思っていない、でも。 これをルイに飲ませたら、少しは本音が聞けるのかな。 そう思いながら、モナはチラリ、とルイスの方に視線を向けた。 目線の先にいる浄化師としてのパートナーであるルイス。 彼は窓を通り過ぎる景色をただ眺めているだけで、こちらの視線には気づいていない。 それどころか、むしろあまり関心がなさそうに見える。 その姿を見たモナは薬に視線を戻した。 ……この薬をルイスに飲ませれば、彼のことが少しはわかるかもしれない。 カーリンから渡されたこの薬の効果は『感謝の気持ちを素直に口に出せる』だと。 薬の力で無理矢理だとしても、ルイスの口から感謝の気持ちを聞きたい――けれど。 (でも、ルイに感謝の気持ちなんてあるんだろうか……) もしも、ルイスの中にほんの少しでも自分に感謝している気持ちがあるのならば、試す価値は十分にある……が。 (それに、問題はこの薬をどうやって飲ませるか……) 問題はまだまだある。 ――何かに混ぜる? いやいや、この薬が混ぜてもいいものかどうかわからないし、下手に混ぜても、それじゃ飲んでくれなさそう。 それなら変に小細工はやめて素直に渡した方がいいかな……? 考えながら、もう一度ルイスに視線を向けたモナ――覚悟を決めた。 混ぜても渡しても、どっちにしたって飲んでくれるかどうかはわからないし――だったら! 「ルイ。薬の宣伝で貰ったんだけど飲んでみない?」 思い切って、直接訊いてみるべきだ。 ルイスにわかるように、モナは両手に薄い青色の液体が入った小瓶を見せる。 モナのその言葉とその薬を見て――だがルイスは明らかに嫌そうな顔をした。 まあ、気持ちはわかる。薬の宣伝、といういかにも怪しい言葉が出てきたのだから。 その怪しい薬を自分に飲ませようとするモナに警戒してか、ルイスは冷静に、 「レストレンジが飲めばいいじゃん」 と、遠回しに『自分が飲む必要はない』と言った。 なるほど、そう来たか。 簡単に飲んでくれるとは思っていなかったが、でも諦めるわけにはいかない。 この機会を逃してたまるか! ――とモナはルイスがこの薬を飲んでくれるようになる言葉を彼に言う。 「普段本音を言わない人が飲んだ方が効果がわかると思って」 微笑みながらそう言ったモナに、ルイスは――そういうことか、と。 彼自身自覚していないわけがない――モナが言うように、普段から本音を言わないのを。 それはルイスの性格故だと、モナはそう思っているからこそ、そう言ったのだ。 その言葉を言われたルイスはその執念に観念したのか、モナが持っていた小瓶を手に取り、 「何を期待しているの?」 と、呆れながらも飲んでくれた。 その姿を見たモナは、だが……思わず固まってしまった。 それはこんな簡単にルイスが飲んでくれるとは思っていなかったのと。 呆れてはいたが、まんざらではなかったルイスの様子が珍しかったからだ。 薬を飲んだルイス、固まったままのモナの二人は互いに言葉が出ずに、しばらくの間沈黙の空気が流れ続ける。 カーリンが渡した薬に即効性があるのかはわからない。 しかし、薬である以上効くまでには時間を要するはずだ。 それを察してか、ルイスは薬が十分に効くまで言葉を発さずに待っているのだろう。 けれど、この沈黙の空気の重みに耐えきれなくなったのか、ルイスはゆっくりと口を開けて―― 「……モナは覚えていないかもしれないけど、あの日助けてくれたことは感謝してる」 ――浄化師のパートナーであるモナに対しての感謝の言葉を言い始めた。 「モナがいてくれることも……モナがいなかったら僕はここにはいないから。 だから感謝して……感謝してる」 恥ずかしそうに、けれども確かにモナに対しての感謝の気持ちを伝えたルイス。 モナから顔を背けるかのように、再び窓から見える景色を見る彼に、だがモナは。 (い、今我のことをモナって呼んだ!?) 滅多にその口から出ない自分の名前をルイスが言った事実に驚いていた。 薬の力のお蔭とはいえ、まさかルイスが自分の名前を言うとは思わなかった! 滅多に言ってくれないその名前を、ルイスは今、この瞬間――確かに言ってくれたのだッ! 今すぐにでもこの喜びを伝えたいモナは、だが、 (……モナって我のことだよね?) ルイスの口からは確かに『モナ』という名前が出たが、モナは別のことを疑問に思った。 それは――『あの日』と。 ルイスが一体いつのことを言っているのか、モナにはそれがわからない。 だからこそ、冷静になった。 (あの日って……我が覚えていないってことは契約してからの事じゃないよね) 自分と契約する前のことを言ったであろうルイス――けれど『モナ』という名前は自分の名前だ。 そもそも、相手に感謝の気持ちを伝えるこの場面で、自分以外の者の名前を言って感謝を言うのは考えにくい。 ならば、それは―― 「我とルイは契約する前から会ったことがあるって事?」 自分が忘れているだけで、ルイスはそのことに対してのお礼を言ったのだろう。 それを忘れているモナのその問いに、だが。 「知りたいのなら自分で思い出しなよ」 ルイスは呆れてしまったのか、景色を眺める作業に夢中になってしまった。 せっかく手に入れた薬だが、本人が話したくないのならば意味がないようで。 (薬を飲んでもルイはルイ……か) そのことに、モナは残念そうに席にもたれた。 「――――」 ルイスと共に景色を眺めるモナは思う。 ――感謝を伝える薬があるんだったら、ルイの性格を矯正する薬とかないかな。 ルイが冷たいのは今に始まったことじゃない。でもさっきのルイスは我に冷たくしているようには思えなかった。 それでも薬はルイスの性格に負けてしまった……いや。 カーリン曰く、自白剤は言い方を変えれば『正直者になる』と。 となれば、薬を飲んだ今のルイスは正直者になったという訳で。 ――ルイが我に冷たくするのは、我がルイのことを忘れていたから? ルイにとって大事な『あの日』――それを忘れてしまったから? 怒らせるつもりはなかった。ただ忘れていた出来事をルイスの口から、言葉で思い出したかっただけで。 その性格故にあまり楽しそうに話をしないルイス。 それでも、薬の力で少しはルイの本音が聞けるかと思ったのに。 ――我は、ルイがわからない。 ■■■ ――さて、どうすっかなぁ。 立ち寄ったソレイユで薬屋のカーリンから「宣伝用に」と、薬を貰った『ナツキ・ヤクト』。 曰く、日頃から世話になっている相手へ感謝の気持ちを素直に言う為の薬、らしい。 なるほど、これは確かに浄化師には一番有効的なものだ。 ナツキは普段からパートナーである『ルーノ・クロード』に世話になっている。これでもかというぐらいに世話になっている。 どのような時であれ、ルーノがいたお蔭でナツキはここまでやって来られた。 だから……今のナツキが在るのはルーノのお蔭だと言っても過言ではない。 その感謝は――しかし、言葉として口に出して言ったことがあるだろうか? 正面からではなくとも、はっきりと言ったことがあるだろうか? 否――だからこそ、この薬の出番だ。 今までルーノに感謝の気持ちを伝えられなかったのは恥ずかしがっていたからだ。 だから今まで言えなかった――しかし! この薬があれば、ルーノに堂々と感謝を伝えることが出来る。 そう、言うのならば今しかないッ! ――だが。 (にしても、いざとなると気恥ずかしいもんだな……) やはりこう、意識してしまうと恥ずかしくなってしまうものなのか。 薬を手にしてルーノの元に行こうとしたナツキの足はその場で止まってしまった。 (……どーっすかな。言うべきか、言わないべきか…………あー悩む!) せっかく決心したのに、そのことを意識してしまったからか、急に恥ずかしくなってきたナツキは頭を抱えて悩む。 カーリンから貰った薬――失くしてしまえば、二度と言う機会は訪れない。 だが恥ずかしさがそれを上書きしようと邪魔してくる。 散々悩みに悩み続けたナツキは、それでも決断を出すことが出来ず、その場をうろうろと歩き回る。 歩いているその足は――だが無意識に教団本部に向かっていて。 その中央にあるエントランスに、目的のパートナーであるルーノの姿が。 背中を向けてこちらに気付いていないルーノ――これは偶然ではないだろう。 この絶好のチャンスを逃さない! と、二度と揺るがぬ決心を付けたナツキは手に持っていた薬を一気飲みし。 飲み干した薬の小瓶を放り投げ、視線の先にいるルーノに向かって、 「ルーノォォオオオオッッッ!」 「ん? ――ってうわ、ナツキ!?」 周りの目などお構いなしに、大声でパートナーの名を呼びながら真っ直ぐに、猛然と走って近づく。 もはや猪かと思うほどの勢いで近づいてくるナツキにルーノは困惑のあまりに動けずにいた。 それは偶然が重なった最大のチャンス――故に! 「いつもありがとな、ルーノ!」 ナツキはルーノの正面で、今まで以上に大きな声で感謝の気持ちを伝える。 その事態に、ルーノは更に困惑するが、それでもナツキが何をしているのかは理解出来た。 だからこそ彼に問うて、 「な、何だ唐突に……?」 「俺が危ない時にフォローしてくれたり、本当に助かってるんだぜ。ルーノがパートナーで、相棒で良かったって俺は本気で思ってるんだからな! わかったか!」 「な……!? ちょ、ちょっと待っ……――」 しかし言いたいことを相手の気持ちなどお構いなしと言うように。 言うだけ言って満足したのか、ナツキはその場から勢いよく立ち去ってしまった。 ナツキの言葉に、一人追いついていけないルーノはそのままポカンと立ち尽くし、立ち去ってしまったパートナーに向けて手を伸ばす……が。 ――ここはどこだ? そう、ここは教団のエントランスホール――つまり、一番人目が多いところ。 周囲にはナツキとルーノの突然のやり取りに一体何事かと興味を持っている野次馬達が残されたルーノに視線をぶつける。 その視線を浴びたルーノは自分が今どこにいるのかを思い出して。 急激に恥ずかしくなったのか、慌ててナツキが逃げた方向に向かって立ち去る。 ――突然何なんだ、一体……! パートナーのナツキが一体何をしに来たのかは全然理解出来なかったが、とにかく! ……ナツキが私に感謝を伝えたかったというのは理解した。 ナツキのように走らず、早足でエントランスから外に向かって歩くルーノ。 先ほどの出来事は三割程度しか理解出来ていない彼だが、しかし冷静に。 ナツキの様子を、言葉を思い出す。 ――ナツキのストレートな感情表現は今に始まったことではない、が。 ああして面と向かってはっきり伝えられるという事にはどうしても慣れない。 そもそも一体どうすれば良いのか、その受け止め方がわからない。 恥ずかしさのあまりに勢いよくエントランスから外に出たルーノは、だがその足を止めて。 ――……別に、嬉しくないわけではない。 自分自身に言い聞かせるように、心中で。 ナツキの純粋な感情表現を『ルーノ・クロード』はどう思っているのかを呟いた。 ――しかし、いつも助けられているのはこちらも同じだし、私も彼がパートナーで良かったと…… ……って、何を考えているんだ私は!? 全く、ホントに調子が狂う……彼と一緒にいると。 頭に浮かんだ言葉をかき消すかのように、頭を振り回すルーノ。 普段の彼ならば絶対にそのようなことはしないはずだが、やはりナツキのストレートな感情表現が効いたのだろう。 思いの外、効果抜群だったあの気持ちは……しかし、嬉しいものだ。 その嬉しさが顔ににじみ出てしまっているルーノは溜息一つ吐いて――誤魔化す。 にやけている自分の顔を周囲から隠す為に。 ――言ってやったぜ! あの薬、すごい効果だな! パートナーのルーノに今までの感謝の気持ちを伝え終えたナツキ。 エントランスから走って出てきた彼は、そのままルーノから、教団本部から離れるように全力で走っている。 何故走っているのか、それはようやく言えたからだ。ルーノに、感謝の気持ちを。 その喜びからか、ナツキの顔はこれ以上ない程の満足気だ。 (――そー言えば、ルーノに「ありがとう」なんて、改めて伝えた事ってなかったんだよな) 走りながら、ルーノとの関係を思い出すナツキ。 浄化師は二人で一組、それが当たり前だ。 その関係を維持する為に、互いは助け合う……それが普通だ。 そこに感謝の気持ちや言葉など存在しない、が。 それでも抱いてしまうのは当然だろう。 だから――伝えるのだ。 言葉で、直接。 一番信頼し、信頼してくれるパートナーに。 そのパートナーのルーノは今まで数えきれないほど自分を助けてくれた。 彼曰く、ナツキがストレートな感情表現を伝えることは珍しくない、と。 そんなナツキが何故、ルーノから逃げるようにしているのか、そう。 (隠してるとかじゃねぇけど、やっぱ照れるだろ!) 普段と違うことをして、照れているからだ。 しかし照れてしまったせいで、ルーノに言えなかった『もう一つ』を、心の中で伝える。 ――でも、俺は契約してからずっと何度も、ルーノがパートナーで良かったって思ってるんだぜ…… この気持ちを伝えることが出来るのははたして、いつになることか……。 ■■■ 『ヨナ・ミューエ』と『ベルトルド・レーヴェ』の二人は人通りの多い繁華街の中を歩いている。 浄化師として長い間、行動を共にしている二人の仲はかなり良い方で――だが。 そんな二人は今現在。何やら気まずそうな雰囲気を醸し出している。 一体何故? ――それは先ほどのことだ。 二人は近くを通りかかった薬屋のカーリンから「宣伝の為に作った薬ですぅ」と言われた、彼女が持っていた薬を受け取った。 その薬――効果は伝えにくい感謝の気持ちを素直に口に出すことが出来るというものだと。 そう言われて受け取ったはいいものの、二人は――さて、どちらが飲むのかと。 互いに相手の様子を伺っている。 だから気まずそうにしているのだ。 薄い青色の液体『薬』が入った小瓶を持っているヨナは、隣にいるベルトルドの顔をチラリと見て、 (――ベルトルドさんが私に感謝するような事ってあるんでしょうか……?) と、そう思いながら、小瓶に視線を戻した。 ……浄化師として共に行動をしている自分。 彼に感謝するようなことはあれど、されるようなことは特にこれと言っては無い。 (うー……私ってベルトルドさんに何も出来ていないのでしょうか……?) 悲しいその事実に、ヨナは沈痛な気持ちになってしまった。 ――でも、もしかしたら……何かしらあるのかもしれない。 けれど、だからと言って薬でなんて…… 『もしかしたら』――と。 『まさか』――と。 ベルトルドが自分に感謝していることがあるのではないか、その僅かな可能性に期待しているヨナ。 しかし、薬の力に頼りたくはない。 もし本当に、ベルトルドが自分に感謝していることがあるのなら、それは普通に言ってほしいもので。 ならばこの薬はベルトルドには不要なもの。 では自分が飲むか――といえば、変なことを口走ったりしないか、その自信がない。 「うー……」 せっかく頂いたのだ、捨てる訳にはいかない。 だから選択肢は二つ――自分が飲むか、ベルトルドが飲むか。 その二択を決める為に悩み、思案顔をしているヨナを見ているベルトルドは。 「――そんなに悩むなら」 「へ? ――――あ……」 パートナーの手から薬を流れるように手に取り。 ヨナが止める間もなく、そのまま一気飲みをした。 突然のベルトルドの行動に、あっけにとられながらもヨナは。 (ベルトルドさん、もしかして本当に――) 本当に、何か自分に感謝していることがあるのかと、 「ど、どうですか……? 何か言いたいこと、ありますか?」 まだ薬を飲み終えて間もないベルトルドに向かって食い気味で訊いた。 期待と不安が混じった面持ちで、物凄く気になる内容を――あなたの気持ちを、早く……早く、と彼に訴える。 だが―― 「待て待て、すぐには効く訳ないだろう……気になるのか?」 ――薬とは、ある一定の時間が経たなければその効果を発揮しないものだ。 にも関わらず、ヨナはベルトルドが何に対して感謝しているのか、それがとても気になるようで。 彼の口から出るその言葉を、今か今かと、穴が開くほどの視線を投げかけて待っている。 その視線に応えるように、ベルトルドは。 「――そうだな、まずは読み書きを教えてくれるのは有難いな」 薬はまだ効いてはいないが、間を持たせる為に、自分が思っていることを素直に口に出す。 ……薬の効果とは関係なしに、だ。 「――――ぁ」 ベルトルドに薬が効いているのかがわからないヨナ。 しかし彼の口から自分への感謝の気持ちが出てきた事に、まるで一生分の喜びを味わったかのような、幸せな気持ちになった。 読み書きが苦手なベルトルドに教えているそれを、彼はとても感謝しているのだと。 まさかのその言葉に、あまりの嬉しさを抑えきれずに、ヨナの顔は徐々に笑みに変わっていく。 だがその幸せを更に上乗せするかのように、ベルトルドは。 徐々に効いてきた薬の力に、ヨナに対する思いを語る。 「最近は文句も言わずに、何でも乗る姿勢で動きやすくなった、な」 「あ、はぃ…………あれ?」 「あとは一人で突っ走る癖を直してくれればもっといいのだが」 「…………私が思ってたのと違うのですが」 カーリンから頂いて、ベルトルドが飲んだ薬。 それは相手に言えない感謝の気持ちを伝える為の薬であって、相手に改善してほしい部分を言う為の薬ではない! 確かにカーリンはこうも言っていた――『自白剤は言い方を変えれば正直者になる』と。 だが期待していた内容とは違うベルトルドのその言葉に不満を持ったヨナは「むぅ……」と、実に可愛らしい声で唸った。 ――確かにベルトルドさんの言う通り、そこは直した方が良いでしょう。 でもでも! せっかく頂いた薬を使ってまでそんなことを言う必要がありますか!? 声を大にして訴えたいこの言葉、しかし……言えない。 ベルトルドは自分に感謝している――そこに間違いはない。 だからこそ言えないのだが、でも。 もう少し別の内容を言ってくれればいいのではないか、と必死に目線で訴えるヨナ。 ……そこに。 「あとは……おっと」 「へ――?」 話に夢中になっていたのか、前から来た集団に気付かなかった二人。 危うく人混みに攫われそうになったヨナを、ベルトルドはその細い腕を掴んで自分の体の方に引き寄せた。 急に抱き寄せられたヨナ――自分を人混みから救ってくれたベルトルドの顔を見る為に、 「ん……」――と、顔を見上げる。 自分よりも身長が高いベルトルドを見上げるのに、自然と上目遣いになってしまうのは仕方がない。 まっすぐに見つめるヨナの視線を、だがベルトルドは冷静なままで。 先ほどの咄嗟の行動で乱れてしまったヨナの髪を。 その瞳にかかっている前髪を指で優しく払いのけて、見つめ返し。 「あとは、そうだな…………」 中断されてしまった話の続きを再開すべく、言葉を出そうとする――が。 「……やっぱり、駄目。それ以上は……言わないでください」 何だか気色ばんできた雰囲気に耐えられなくなったヨナがベルトルドの口を両手で塞いだ。 一体何故塞ぐのか、その理由がわからないベルトルドに、ヨナは。 「……そういうことは薬の力に頼らず、素面の時に聞きたい……ので」 言葉が尻すぼみになりながらも、せめてものの抗議で訴えた。 薬の力――なるほど、確かに効果はある。 けれどもやはり、こういうことは薬などの力に頼ってはいけないのだ。 感謝の気持ちは人に用意された舞台で言うものではない。 それが純粋な、素直な気持ちであるならば尚更のこと。 ベルトルドの中には『ヨナ・ミューエ』に対する感謝の気持ちが在る――それがわかっただけでも十分だ。 だから、それ以上の言葉は普通に聞きたいのだと。 ヨナのその訴えに、ベルトルドはどう受け取ったのか、 「なら、今日の読み書きの練習の時にでも言おうか」 「……むぅー」 からかうかのように、微笑みながらそう言った。 ■■■ 「うふふふ――皆さん、相手に伝えたい感謝の気持ちが言えたようですねぇ」 それぞれから薬の効果、その結果の報告を聞いたカーリンはニヨニヨと笑みを浮かべながら満足そうに話す。 こういう感情的な話はあまり他人に話したくはないのだが。 そういう流れであることを承諾してしまったのだから、仕方のないことだ。 「そうですかぁ。……そうですか! わたしが作った薬はどうであれ、皆さんの気持ちを相手に伝えることが出来たんですね! ああ、作って良かったぁ。これは次の目玉商品として店に置いておきますねぇ。 良かったら次は『お客様』としてお気軽に来てくださいね?」 ――薬の効果はあった。結果は報告した。 ならば、もうカーリンの用は済んだも同然だ。 終えた用に、それぞれは次の目的地に向かう為に背を向ける……が。 「あ、因みにぃ、宣伝の方はそれはそれはもう大成功間違いなしですよ! なんたって浄化師さま達の体験談ですからねぇ。誰でも信用できるものですよ、ええ! いや~、まさかうさん臭いお願いを聞いていただけるとは思ってませんでしたぁ」 何やらとても失礼な言い方だが、まあ良しとしよう。 「――ですので、わたし……失敗すると思って、別のお薬を作ってみたんですよねぇ?」 ニヤリ、と不気味な笑みを浮かべたカーリン。 彼女が次に言いたいこと――それは。 「この際ですし、次のお薬を試してみませんか!? 次のお薬はですね――」 いや、もう十分! と。 カーリンから逃げるようにして、浄化師達は立ち去った。 「次もまたよろしくお願いしますねぇ~!」
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*** 活躍者 *** |
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