~ プロローグ ~ |
バレンタインデー。恋人や好意を寄せる相手、あるいは親しい友人や同僚などにチョコレートと共に手紙を渡す行事が今年もやってきた。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
バレンタインデーに間に合いませんでした!! |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
用事を済ませた帰り道、リュミエールストリートでナツキと遭遇 成り行きで買い物に付き合う ルーノ:こんな所で何をしているんだい? ナツキ:当然、コレだよコレ!(チョコを指差し) 一通り買い物が終わり、お目当てを一つ買い逃したとしょげるナツキに荷物から出したチョコを渡す ナツキ:これって… ルーノ:偶然だ。いらないなら無理に… ナツキ:いる、いります!すっげぇ嬉しい、ありがとな! そう、偶然だ 数日前ナツキが話していた限定チョコを偶然憶えていて、売り切れそうになっているのを帰りに偶然見かけて思わず買って、それが偶然買い逃したチョコだっただけで… …まぁ、もしナツキが買いそびれていたら、と考えなかったと言えば嘘になるが |
||||||||
|
||||||||
※アドリブ歓迎します ※甘いものが死ぬほど好き 1 そうか、チョコレートが自分で作れないなら、厨房の料理人さんにお願いすれば良いんだよ!(手をポン) (厨房にて) 料理人さん、「チョコレートアイス乗せフォンダンショコラチョコレートシロップがけ甘さましまし」 をお願いします! 甘いものが好きな理由? うーん、どうしてだろう。 母がとても菓子作りの好きな人でね、それで 好きになったのかもしれないな。 自分で作れたら良いんだろうけど、 なかなか難しいよね。 どうしたのさ、急にチョコレートをそんなに 口に詰め込んだりして。 |
||||||||
|
||||||||
1.教団内の「食堂」で料理を楽しむ 最初に街に材料を買いに行きます。 それから、厨房を貸りて、二人で一緒にガトーショコラを作ります。 装備品のお菓子レシピ本を参考に。型抜きでハート型に仕上げてみます。 ジークリートは、スキルのお菓子作り Lv 1使用。 フェリックスは補助? 出来上がったら、それでお茶にしながら、手紙(メッセージカード)を書きます。 ジークリートは、「いつも巻き込んでごめんなさい。…ありがとう。」 フェリックスは…、思いつかなかったら、来年までの宿題? |
||||||||
|
||||||||
2) 【目的】 寮室を訪ねてきた成とバレンタインを過ごす。 【行動】 私の気持ちは成に届いたでしょうか。(9話) 【成子】に語りかけていると成が訪ねてきた。 用を聞くと部屋に入ってきた成にチョコを渡される。 チョコに添えられたカードには『ごめんね』とだけ。 悪いのは私なのに。迷ったのはきっとあの時の件(7話)があったから。 開けてみてと促されてラッピングを解く。 中にはルビーを模した鉱石チョコ。 成は初めて会った時も【成子】をくれた時も私の瞳がルビーみたいだと言っていましね。 嫌いだったから前髪で隠していた瞳を綺麗だって言ってくれたのは成が初めて。 どうして【成子】かって…成が居なくて寂しかったからなんて言えない。 |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
●『ルーノ・クロード』『ナツキ・ヤクト』 バレンタインデー真っ只中のせいかリュミエールストリートはどこを見回してもバレンタイン一色だ。 今だけの限定商品という触れ込みが購買意欲を誘うのか女性客だけでなく甘い物好きの情熱を煽っているようだった。 用事を済ませた帰り道、買い物ついでにリュミエールストリートに寄ったルーノは人混みの多さに辟易としていた。 (平日だから少ないと思っていたんだが、……まさかこんなに人がいるとは) 不意にナツキと似た背格好の男が目に入る。 いや、あれはナツキだ。こんなところで何をしているんだ、と思って見ていると、ナツキは随分と機嫌が良さそうだった。その証拠に彼の尻尾がぶんぶんと揺れている。 限定チョコが食べたいとバレンタインが近づくにつれて騒いでいた姿が脳裏に過ぎった。 まさか本当に買いにやってくるとは。 その背中を追いかけてルーノは声を掛ける。 「君はこんな所で何をしているんだい?」 「あれ、ルーノこそこんなとこで何してんだ?」 「質問を質問で返すな」 不思議そうな顔をしたナツキはすぐにパッと表情を明るくすると、 「何って……当然、コレだよコレ!」 ナツキは興奮したように手に持った紙袋を指さす。 彼らしくないお洒落だが女性向けの紙袋だ。 先ほどのチョコレート専門店と同じロゴが入っているところを見ると、中身はチョコなのだろう。それも限定品と思わしき豪華なラッピングだ。 ルーノは楽しそうにお喋りしながら行列に並ぶ女性客の姿を視界に入れながら、よくあの集団に混じって買い物できたなと呆れ混じりに感心する。自分には到底真似できない。 「事前にお店に取り置き予約しといたんだよ。そういうところは後回しでいいとして、並ばなくちゃいけねぇとこから行かなくちゃな!」 「いや、そういうことを聞いているのでは……」 「ルーノ、マジでいいとこに来てくれた! ちょっと手伝ってくれよ!」 ナツキの勢いに押されてルーノはたじろぐ。 「頼む、ルーノ! 限定チョコ制覇の為に付き合ってくれ!」 「……いきなり何なんだ?」 嫌な予感に顔を顰めたルーノが構うことなく、ナツキはそわそわした様子でお店を次々と指さして怒濤の勢いで話し出した。 「ミルクはあのお店、流行のルビーチョコはここ……目当てのチョコと店は把握済みだ、待ってろ限定チョコ!」 (新商品や限定商品にナツキが弱いことは知っていたが、この時期のリュミエールストリートに向かうとは物好きな……何なんだその本気の情報収集は……) ナツキの限定チョコへの情熱は女性客にも勝るとも劣らない。 ナツキは通りかかっただけのルーノに強引に拝み倒すと、 「ここのはルビーなんだ、絶対外せねぇ! 悪ぃけど、ちょっと並んでてくれ、俺はあっちに行ってくる!」 ルーノが何か言う前にナツキは走り去ってしまう。 「全く……仕方ない。ナツキ、これは借りだからな」 ルーノは諦めたように溜息を付くと、行列に並ぶのだった。 長時間並んでようやく買えたルビーチョコとやらは見た目は苺チョコのように甘いピンク色をしている。着色してあるのかと思ったが、そうではないらしく自然のカカオ豆の色だそうだ。 チョコレートとは思えない甘酸っぱい果実のような味らしく、普通のチョコに食べ慣れていると驚きのあると宣伝されていて、確かにどんなものか食べたくなる。 だが、ナツキほどの熱意がないルーノにしてみれば、行列に並んでまで食べたいわけではない。 限定品名だけあって、そのチョコはまるで一枚の絵画のようにチョコレートの花やドライフルーツが宝石のように飾られていて目も楽しませてくれる。 流行物に弱いナツキが好きそうな一品だった。 一通り買い物が終わったナツキは大量の勝利品をゲットしていたにも関わらず、肩を落としていた。彼の尻尾も心なしかシュンと垂れている。 「お目当ての一つを買い逃しちまった……まだ残ってると油断してた、失敗したぁ……」 しょげるナツキにルーノはそっと手荷物の中からあるものを取り出し、ナツキの目の前に差し出す。 ナツキは驚きに目を丸くしながら、ルーノが差し出したチョコをまじまじと見つめる。 6つ程しかないチョコなのにお高めな値段。それなのに毎年購入して行くもの断たない「一度食べたら忘れられないショコラ」という触れ込み限定品が目の前にある。 「これって……」 「偶然だ。いらないなら無理に……」 「いる、いります! すっげぇ嬉しい、ありがとな!」 ナツキは没収されまいと慌ててチョコを受け取ると、にかっと明るい笑みを見せた。 「しかしチョコ一つでそこまで一喜一憂できるとは……喜びすぎだ、全く」 ナツキの喜びようにルーノは苦笑を浮かべながらも、その表情はどこか柔らかかった。 「ルーノがチョコの事憶えていたなんて意外だ」 そう偶然だ。 数日前ナツキが話していた限定チョコの偶然覚えていただけだ。売り切れそうになっているのを帰りに偶然見つけて思わず買って、それが偶然買い逃したチョコだっただけで……。 ……まぁ、もしもナツキが買いそびれていたら、と考えなかったと言えば嘘になるが。 「限定品、ルーノも気になってたのか? 素直じゃねーなぁ」 ナツキは都合よく勘違いしてくれたようだ。 正直に伝えるつもりもなかったルーノはナツキの勘違いを訂正することなく話を合わせる。 「よし、じゃあ帰ったら一緒に食おうぜ!」 「そう言うと思ってコーヒー豆を買っておいたよ。甘いものだけでは飽きるからね。口直しには丁度良い」 ●『ラウル・イースト』『ララエル・エリーゼ』 「そうか! チョコレートが自分で作れないなら、厨房の料理人さんにお願いすれば良いんだよ!」 ラウルは良いことを思いついたとでも言うようにポンと手を打った。 「ラウル、それってなんだか凄く貴族的な発想です」 ラウルの言葉にララエルが珍しく突っ込みを入れる。ラウルは不思議そうに「そうかな?」と首を傾げていた。 ラウルの発言は仕方ないことだった。 二人揃って料理が壊滅的に苦手なのだ。以前も作ったハンバーグを炭へと変えた前科がある。 「でも、私もチョコレート食べたいです!」 「僕もこの時期になるとチョコレートが食べたくて仕方なくなるんだ……」 ララエルの同意を得たラウルはうっとりとチョコに思いを馳せる。 「何を食べようかな、こんな寒い日に温かい場所で食べるアイスなんて最高だろうし、ガトーショコラに、いや折角だからザットハルテやオペラなんてどうだろう。いやいや、待てよ僕。アイスに合わせるんならフォンダンショコラがいいんじゃないか……?」 甘味に目がないラウルが悩ましそうな表情を浮かべて、饒舌に語り出すのを見て、 「一つだけです! そんなに甘い物食べたらとーにょー病になっちゃいますから絶対にダメですよ」 「えっ!? そんな……」 しょんぼりとするラウルの姿にララエルは思わず甘やかしてしまいそうになるが、これもラウルの為と心を鬼にした。 こうしていつもとは反対にララエルが落ち込むラウルの手を引きながら、食堂に向かうのだった。 食堂はざわついていた。 「フォンダン・オ・ショコラのチョコとラズベリーアイス&ソースにトッピングはワッフルチップと生チョコとオランジェ添えチョコホイップ甘さましましをお願いします!」 ラウルは呪文のようなメニューを意気揚々と伝えたからではない。 この時期になると先日のララエルのように食堂で手作りチョコを作りに来る者や各種のチョコデザートを食べに来る者で後を絶たない。 「あっ、もう! ラウルったら一つだけって言ったのに……」 「フォンダンショコラにトッピングを加えただけだから一つだけだよ」 屁理屈をこねるラウルにララエルが思わず納得し掛けそうになって、我に返る。 「ラウル、誤魔化されませんからね!」 「……ララ、折角のバレンタインなんだから楽しもう」 そう宥めるように微笑むラウルに 「今回だけですよ。ラウルが病気になったら私泣いちゃいますからね」 そう釘を差すと、ラウルは目を泳がせながら「……善処するよ」と答える。 そんなラウルにララエルは暫くの間は甘い物を取りすぎないように見張らなくちゃ、と密かに決心する。 「ララは何を食べるんだい?」 ララエルがそんな決意を固めているとは露知らずラウルは食堂から漂うチョコの匂いに浮き足立つ。 「えっと……私はまあるいチョコを頼みます」 「ああ、トリュフか。……トッピングに追加しておけば良かった」 幸いにも最後の言葉はララエルの耳には届いていなかった。 「そうです、トリュフ! 料理人さん、トリュフをお願いします!」 そう時間も経たずに出来上がったデザートを見て二人は歓声を上げる。 「わあっ! 大人っぽいのに可愛いです!」 「チョコレート尽くしだ!」 「本当です……!? ラウルのはスペシャルフォンダンショコラって感じで豪華です」 フォンダンショコラの上には聳え立つ塔のようにトッピングが盛られているが、奇抜になりそうなところを絶妙なバランスでまとめられていた。 「早く食べよう、ララエル!」 ラウルが待ちきれないとばかりに声を上げると、ララエルの大きく頷く。 そんな二人の素直な賞賛に料理人も嬉しそうだった。 ラウルはケーキにナイフを入れると、とろ~りと熱々のチョコが流れ落ちる。堪らずアイスと一緒に口に含む。 「美味しい!」 冷たさと温かさのコラボ。溢れ出すチョコレートは濃厚でしっとりとした生地に馴染む。底にはクッキー生地があるのか、カリッとした触感も楽しめる驚きに満ちた一品。あれだけのトッピングを加えても尚、味の調和は崩れることなく洗練されていた。 料理人の拘り抜いたお菓子にラウルは幸せそうにフォンダンショコラを堪能している。その横では、ララエルがどれから食べようか悩んでいた。 目と舌で楽しめるように、ピスタチオからオレンジにミルクチョコやアールグレイのガナッシュ、赤いハートのチョコはフランボワーズだ。 甘い宝石たちは乙女心を擽る。一つ一つ味が違うようで、悩んだ末に真っ白なミルクチョコを選ぶと、優しい甘さが舌に広がる。 「幸せです!」 ララエルが頬に手を添えながら、感嘆の溜息を漏らす。 「そう言えば、ラウルはどうしてそんなに甘いものが好きなんですか?」 「甘いものが好きな理由?」 ラウルはチョコに夢中になりながらも、トッピングの塔を崩すことなく巧みに食事している。 「うーん、どうしてだろう?」 ララエルの質問に食事の手を止め、少しの間考え込むとラウルは口を開いた。 「母がとてもお菓子作りの好きな人でね、それで好きになったのかもしれないな」 「えっ……おかあさまが……?」 「自分で作れたら良いんだろうけど、なかなか難しいよね」 (おかあさまの味を思い出しているのかな……私も料理を習おうかな) ララエルは複雑な思いを誤魔化すように甘いチョコを口に含む。滑らかな口溶けのチョコレートは甘いのになんだか苦く感じられた。 (……おかあさまに申し訳ないって思うのに、ちょっとヤキモチです) 「どうしたのさ、急にチョコレートをそんなに口に詰め込んだりして」 目の前の極上の甘味に夢中なラウルは複雑な乙女心に気づかないでいた。 ●『ジークリート・ノーリッシュ』『フェッリクス・ロウ』 アークソサエティではバレンタインデーの認知度も高く、特に街の方へと出かけると、どこもかしこもお店は活気づき少しでも商品を売ろうと必死だ。 バレンタインの乙女をモチーフも行く先々で見かけられる。否が応にもバレンタインであると知らしめているようだった。 「……アークソサエティのバレンタインってすごいね……賑やかで、品物がたくさん……」 ジークリートがバレンタイン一色になったリュミエールストリートにきょろきょろと見渡しながら歩いていく。 ジークリートが買い物に出かけると知ると「僕もリートに付き合います」と言ってフェリックスは荷物持ちを買って出た。 ジークリートは最初は個人的な買い物だからと遠慮したものの、フェッリクスの真っ直ぐな視線に押し負けて、 「……なら、少しだけお願いしようかな……ありがとうフェッリクス」 自分の都合に付き合わせてしまっているんじゃないかとジークリートは不安になってフェッリクスの方を横目で見るが、彼はいつも通りだ。 店内に入ると益々華やかさを増しジークリートは居心地の悪さを紛らわす為に、隣を歩くフェッリクスに話しかける。 「……フェッリクスは、バレンタイン、何かしたことは……」 「……」 無言のままフェッリクスは首を横に振る。 やったことないだろうなあ、と思ってはいたが彼女の予想は外れていなかった。 「……実を言うと、わたしも……そうなの」 ジークリートは眉根を下げながら、ゆっくりと話し出す。 「わたしの村は山に小さな所だし……、チョコレートとかはなかったから……ええっと、でも、せっかくだから、何かお菓子とか作ってみる、一緒に、フェッリクス……?」 「はい、リートが、そう言うなら」 遠慮がちに提案したことだったが、フェッリクスが迷いなく頷くのを見てジークリートはますます眉根が下がる。 そう自分から口にしたものの、それは単なる思いつきに過ぎなかった。 教団でもバレンタインの話題で持ちきりだ。ジークリートはその空気に流されるように、周りが楽しそうに盛り上がっているのをみて何もしないのは寂しいかもと思っていた。 そこには自分の相棒でいてくれるフェッリクスにも体験させてあげたという気持も含まれていた。 バレンタイン特集と書かれたPOP広告が目立ち、お店の一角を占めている。 これならガトーショコラの材料も簡単に見つかりそうだった。 フェッリクスが指令の時と同じように淡々とジークリートに言われた材料を買い物かごに放り込んでいく。 「あっ待って……フェッリクス。チョコは製菓用のチョコじゃないと……」 「これではダメなんですか?」 可愛い包装紙に包まれたチョコレートを持ったまま、フェッリクスが尋ねる。 「ええっと、製菓用のチョコの方がいいって、そうレピシに書いてあったから……」 「すみません」 「ううん、わたしの説明が悪かっただけだから、……ごめんねフェッリクス」 二人は互いに謝りあう事態が発生したものの、買い物は無事に済み、教団へと戻る。 食堂では二人と同じように厨房を借りに来ている浄化師がちらほらと見える。 レピシを確認しながら菓子作りを始めるジークリートを補佐するようにエプロンを着たフェッリクスがついて回る。 「リート、僕は何をすればいいんですか?」 「それじゃあ、メレンゲを泡立てて、くれる……?」 「リート、どれくらいかき混ぜればいいんでしょうか?」 「えっと、……ゆるめでお願い、その方がチョコ生地ときれいに混ざるらしいの」 「……ゆるめ」 「そう泡立て器で持ち上げたとき、メレンゲが流れない固さ……なんだけど、分かる?」 「リート、実行後の確認作業をお願いします」 メレンゲを泡立てるフェッリクスはどのくらいの固さか分からなかったらしく、一悶着はあったものの、二人で協力しながら進めていく。 オーブンを開けると上手く膨らんでいてジークリートはほっと安堵の息を漏らす。 ハートの型から慎重に取り出したガトーショコラはふっくらとしながらも艶やかな焼き上がりだ。 「上手く出来て良かった……それじゃあ向こうで食べる?」 「はい、リート」 濃厚なチョコレートの風味としっとりした触感が楽しめる。 甘過ぎない味にジークリートが顔を綻ばせ、そっと隣に座るフェッリクスを横目で伺う。美味しいと思ってくれているか分からないが、無言でひたすら食べ続けているところを見ると成功したようだ。 紅茶を飲んで一息ついたジークリートが「これ……」と言って、買い物の最中に買っておいたメッセージカードを渡す。 上品な白いカードには「Happy Valentine’s Day!」の文字と一緒に花束が飛び出す。 よく見れば他にも見覚えのある彼女の筆跡でこう綴られていた。 「いつも巻き込んでごめんなさい。……ありがとう」 フェッリクスはメッセージカードをじっと見つめたまま動かないでいる。そんな彼の態度にジークリートは不安になり声をかけようか迷っていると、フェリックスの方が先に口を開いた。 「僕はリート貴方に何も用意していません」 「わたしが勝手にしたことだから気にしないで」 「……メッセージカードを用意したいのですが、貴方に何を書いたらいいのか分かりません」 フェッリクスの表情は変わらないのに瞳は困惑したように揺れていた。 「なら、来年のバレンタインに……お互いにカードを送ったらどうかな……フェッリクスが嫌じゃなければだけど……」 「はい、リート。……それまでに貴方に送るメッセージを考えておきます」 来年の約束を交わしながら、贅沢な午後の一時を二人で過ごす。 ●『神楽坂・仁乃』『大宮・成』 「私の気持ちは成に届いたでしょうか……」 そう『成子』の頭を撫でながら仁乃は語りかける。 言えない言葉をバレンタインに託した自分のずるさに仁乃はぎゅっと『成子』を抱きしめる。 成を守りたいのに彼を不安にさせているのが自分だという事実が仁乃の心を苛む。 成が生きているだけでいい、傍にいてくれれば幸せだったのに。いつの間にかそれ以上を求めている自分に嫌気が差す。 (……私に成を愛する資格はない) 仁乃はそう自分に言い聞かせる。 成が大事だからこそ愛しているからこそ手を取ってはならない。 それに成を殺した手でどうして彼の手を取れるというのだろう。彼を直接手を下したのがベリアルだとしても、彼を死なせる要因となったのは自分だ、自分なのだ。 だから、仁乃は自分を許せない。仁乃は仁乃自身が嫌いだ。 自分のことすら愛せない人間が仮に想いを告げたとしても、最終的には成を苦しめてしまう予感が彼女にはあった。 仁乃がぐるぐると終わることのない思考の迷路に迷い込んでいると、コンコンと扉をノックする音が聞こえ、仁乃は現実に引き戻される。 「……にのいる? ちょっといいかな」 成の声だ。仁乃はすぐさま立ち上がると、 「えっ!? ちょっと待っていて下さい!」 そう告げて慌てて部屋を見渡し散らかっていないかを確認すると、身だしなみを整えてから扉を開けた。 扉の前に立つ成を見て僅かな違和感を感じる。 (何だろう……なんだか成、……緊張してる? でも、どうして?) 戸惑いながらも成を部屋に迎え入れた仁乃だが、いつもと違う彼に困惑を隠しきれない。 どこか表情が固い成に釣られるように仁乃もぎこちなくなる。そんな気まずい空気を誤魔化すように仁乃は問いかけた。 「成、一体どうしたんですか? 急に部屋まで来るなんて」 「寮母にはちゃんと許可をもらってるよ。今日はどうしても渡したいものがあって来たんだ」 成はそう言うと、ポケットから小さな贈り物を仁乃に渡す。 「それ開けてみてよ」 成に促されて、綺麗なラッピングを破かないようにそっと慎重に開ける。 真剣な様子でラッピングを解く仁乃の姿をじっと見ていた成は耐えきれず忍び笑いを零した。 「っく、そういう几帳面なとこ昔から変わってないよね」 「もう何ですか?」 「思い出したんだ。昔さ、プレゼントのラッピングが破れたって仁乃泣いてた時のこと」 「そんな昔のこと忘れて下さい!」 気まずさの残る空気が払拭され、いつの間にか他愛のない会話を交わし合っていた。 丁寧に剥がした先には小さな黒い箱が入っていた。そっと箱のふたを開けると、赤い燃えるようなルビーの原石が入っていた。いや、宝石のように見えるだけで、 「これは、チョコですか?」 驚く仁乃に成は嬉しそうに微笑む。 「渡していいのか迷ったけど、にのからももらったし」 「宝石の女王」とも呼ばれるルビーを模したチョコレート。美しい深紅の輝きは、一粒でも存在感は十分だ。 ボックスと同じ色のシックなカードがはらりと落ちる。手に取ってみると、そこには「ごめんね」とだけ書かれていた。 そのメッセージに仁乃は息を呑む。 (悪いのは私なのに。迷ったのはきっとあの時の件があったから……成も私のメッセージを見たとき、こんな気持ちだったのだろうか) 胸が締め付けられ、知らず知らずのうちに手を強く握りしめていた。 メッセージを見たまま動かない仁乃を見て成は悲しくなる。 あんな顔が見たいわけでもないのに。 どうしても仁乃に渡したかった、バレンタインだからこそ。 孤児院後で仁乃に告白めいた言葉に彼女は「私も、好きです」と今にも泣き出しそうな顔で応えてくれた。その後も自分達の関係は変わらない――幼なじみのまま。 渡していいかどうか迷ったけど、リュミエールストリートで仁乃の瞳を連想させるチョコを見て衝動的に買ってしまった。 本当ならこんなメッセージを送るべきじゃないのかもしれない。それでも知らんぷりすることはできなかった。 (ごめんね、にの……僕はにのの為に生きてるんだ、それだけが僕の存在理由。これだけはにのにだって譲れない) 「ルビー以外にも他の鉱石もあったんだけどね、どうしてもこれを渡したかったんだ」 「こんなに綺麗なんですから他のチョコも素晴らしいものでしょうね……でも、どうしてルビーを?」 「にのの瞳みたいだったから」 「私の?」 成はいつだって仁乃を掬い上げてくれる。 「成は初めて会った時も『成子』をくれた時も私の瞳がルビーみたいだと言っていましたね」 仁乃は血のような赤い瞳が嫌いだった。だから、隠すように前髪を伸ばしていた。そんな仁乃の瞳を両親以外で綺麗だと言ってくれたのは成が初めてだった。 「にのの瞳が好きだからね」 初めて仁乃の瞳を見た時、その鮮やかさに目を奪われた。 前髪で隠しているのが勿体ない鮮烈な紅。それを知っているのが自分だけだと思うと一人占めしているようで、誰にも知られたくなかった。 今も成の好きな真紅の瞳を嬉しそうに和らげ、仁乃は『成子』をぎゅっと抱きしめている。 「そういえばどうして名前『成子』にしたの?」 成の眼差しが指さすように『成子』に注がれ、仁乃は言葉に詰まる。 (どうして『成子』かって……成がいなくて寂しかったからなんて言えない) 素直に話すのは恥ずかしくて返答に窮していると、成は察したように話題を変えてくれた。 いつだって彼は優しい。 どうして自分はそんな彼の前でも意地を張ってしまうのだろう。弱さを隠そうとする仁乃の仮面はいつしか大切の人の前でも外せなくなっていた。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
| ||
[9] 神楽坂・仁乃 2019/02/26-14:58
| ||
[8] ラウル・イースト 2019/02/26-12:48
| ||
[7] ナツキ・ヤクト 2019/02/26-12:18 | ||
[6] ジークリート・ノーリッシュ 2019/02/26-00:05 | ||
[5] 神楽坂・仁乃 2019/02/25-19:50
| ||
[4] ラウル・イースト 2019/02/25-12:24
| ||
[3] ナツキ・ヤクト 2019/02/25-00:13
| ||
[2] ララエル・エリーゼ 2019/02/24-10:17
|