~ プロローグ ~ |
――さて、今日は何をしようか。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
どうも、GMの虚像一心です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 エリーゼ殿と一緒に遊ぶ。 【行動】 お母さん? 事情はよくわからないけど…ほっとく訳にはいかないしちょっと遊んであげるぐらいいいよね? ルイの顔色を伺う。 ルイは気乗りしないみたいだけど。 影がないってこの子何者だろう。 ちょっと怖い…けど… 「モナお母さんが一緒に遊んであげよう。」 「エリーゼ殿はオセロのルール知っている?」 オセロセットを取り出す。 「オセロって四隅取ったら勝てるんじゃなかったの。」 (劣勢だけど子供相手に本気のつもりだった。) 「そこまで言うんだったら交代してよね。ルイお母さん。」 ルイにオセロを押し付ける。 鬼ごっこ) エリーゼ殿足速い。全然追いつけないよ。 (エリーゼに追いつこうと全力疾走。) |
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少女の呼びかけに後ろを振り向いても母親が見当たらないのを 不思議に思っていれば目の前で自分達を呼ぶ少女に面食う 顔を見合わせ だが誤解が発生するでもなく 呼びかけを反芻してみてもお互い 似合わない という印象 人違いといいかけるヨナを喰人がさり気なく止め どうした?と少女の話を聞く 遊ぶより親を探した方がいいのではと心配気なヨナに まあいいからという体で地面を指し 少女がただの迷子ではないと気付かせる 持ち出したのはしゃぼん玉 楽しそうにしている少女と喰人を 性別はともかく仲良し親子のよう とぼんやり眺めていると目が合いヨナもと促される 私もですか? は、はい 心地よい春風にしゃぼん玉が舞い上がり陽の光が反射してきらきら …きれい |
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きょとんとした顔で少女を見つめる 続けてシリウスまで「お母さん」なことに目をまんまるに とりあえず彼女の保護を優先 わたしはリチェよ よろしくね、エリーゼちゃん にこりと微笑んで 握手の手を差し出す 天気もいいし シャボン玉とかどうかしら? 誰が大きいものを作れるか 競争しましょう? 子どものように満面の笑み 高いところまで上がれば歓声 エリーゼちゃんをぎゅっと抱きしめる 柔らかなシリウスの声に 不器用な彼の優しさに気付きにこにこ あのね シリウス 貴方の視線から見たら 空がもっと近いのじゃないかしら? エリーゼちゃんが笑えば シリウスと顔を見合わせ微笑む 足の速さに目を見開く 彼女の想いは黙って聞き寄り添う ぎゅっと彼女を抱きしめて |
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~ リザルトノベル ~ |
「お母さんっ!」 と、そう呼ばれた『モナ・レストレンジ』と『ルイス・ギルバート』は互いの顔を見合わせて、 「「……お母さん?」」 と、そう疑問の言葉を呟いた、が。 どう考えても互いの子どもではないことは明白だ。どちらも『お母さん』ではない。 というか、そもそもの話――ルイスは男だ。間違っても母親にはなれない。 ならば、この少女には何かしらの理由があると見ていいだろう。 「――事情はよくわからないけど、ほっとく訳にはいかないし」 続けて呟くモナはお人好しの性格ゆえのことか。 「……ちょっとぐらい遊んであげるぐらい良いよね?」 隣にいるルイスの顔を伺いながら不安そうな声でそう提案した――が。 「お母さん、こんなにいい天気なんだから、あそぼ?」 「僕はあんたのお母さんじゃないし……遊んであげる義理はない」 遊ぶことに気乗りしないルイスはモナと反対だった。 確かにルイスの言う通り――自分達は少女の母親ではない。だから遊ぶ義理などないのだ。 けれど、幼い子どもを放っておくわけにはいかない、遊んであげる、とお人好しのモナは言うが。 「レストレンジ、気付いてないの? この子の足元を見なよ」 小声でそう言ったルイスの言葉に、モナは疑問を抱きながらも少女の足元を見る。 ……すると、そこには明らかな違和感が。 本体在るべきはずの『影』がない――目の前の少女の足元には影がないのだ。 それはつまり、少女は人間ではないということ。 影がないってこの子何者だろう、とモナは怯える、が。 ――ちょっと怖い……けど! きっとなにか理由があるに違いないッ! そう考えて恐怖を消し、モナは少女と目線を合わせるように腰を落とす。 「君、名前は?」 「エリーゼだよ!」 「じゃあエリーゼ殿、モナお母さんが一緒に遊んであげよう」 「ほんと!? やったぁ!」 よほど遊びたかったのか、エリーゼと名乗った少女は大きな喜びを体で表現した。 「じゃあじゃあ、何してあそぶ!?」 「うーん、そうだなぁ……あ、そうだ」 エリーゼとどのように遊ぶのか、それを思いついたモナは偶然……たまたま持っていた遊戯道具『オセロ』のセットを取り出した。 「エリーゼ殿はオセロのルールを知ってる?」 「うん、知ってるよ! それで遊ぶの?」 「そうそう、今から準備するから少し待ってて」 まだ母親という歳でもなく、エリーゼとはたった今会ったばかりの関係だが。 子どもに喜んでもらえるというのはモナには悪い気分ではないようで。 モナは近くにあった椅子に移動し、互いが向き合えるようにオセロの準備を始めた。 「――――」 と、モナの傍にいるルイスはこう思う。 ――この子が人間じゃないと気づいてビビったくせに……それでも遊ぼうとするなんてお人好しにも程がある。 そんなんだから……ほっとけなくなるんだ、と。 「ほんと……レストレンジは手がかかる」 そも、ルイスは厳しい言葉を言ってはいたが、一度も『見捨てる』とは言っていない。 彼もまた、パートナーのモナの色に染まっているのではないだろうか。 ……とまあ、傍観者のルイスを放っておいて、モナの方は準備が出来たようだ。 真ん中に白と黒の二つずつの駒が置かれたテーブルに、モナとエリーゼは向き合う。 「じゃあエリーゼ殿、お手柔らかにお願いするよ」 「ふふん、手加減はなしだよモナお母さん!」 「そう、残念」 残念とは言いつつも、全然悔しがっていない……というか、やる気満々のご様子。 子ども相手に大人げない……と。 プレイヤーではないルイスは、モナがエリーゼとオセロで遊んでいるところを眺めているだけで。 そして―― ――――…… 「オセロって、四隅取ったら勝てるんじゃなかったの……?」 敗北したのは、まさかのモナの方だった。 オセロの仕組み上、四隅は無敵だ。その場所を取るか否かで勝敗が変わって来ると言っても過言ではない。 だが、その無敵の四隅を取っても尚、モナは負けたのだ。 最初は優勢だったが徐々に劣勢になり、だけど子ども相手に本気のつもりで――結果、負けた。 子どもに敗北という圧倒的絶望感に襲われるモナをよそに、勝ったエリーゼは嬉しそうにしている。 「モナお母さんよわぁい!」 「まさか……まさか我が子どもに負けるなんて……」 「四隅にとらわれすぎ。馬鹿なの?」 眺めていたルイスが、モナが敗北した原因を突いた。 そう、四隅を取ることを意識しすぎて周りに意識が行っていなかっただけのこと。 しかし、傍で見ていた者にそんな上から目線で言われたくないモナは、 「そこまで言うんだったら交代してよね、『ルイお母さん』?」 ルイスにオセロを押し付けた。 「今度はルイお母さんが相手? わたし負けないよ!」 「僕はお母さんじゃないから。――でも」 そう言いつつも、ルイスはプレイヤーの席に着いた。 「僕のパートナーがうるさいから」 傍にいるモナの視線を嫌ってのことか、ルイスは渋々と交代――エリーゼと対戦することになった。 「僕はレストレンジみたいに甘くないから」 「モナお母さんは甘くないよ、弱いだけだもん!」 「子どもに、子どもに弱いって言われる我って」 「レストレンジ、うるさい」 「……はい」 大人げない浄化師を相手に、だがエリーゼは楽しそうにオセロの駒を置き続ける。 ■■■ 久しぶりの平和な時間を満喫しようと外に出た『ヨナ・ミューエ』と『ベルトルド・レーヴェ』の二人。 快晴の空に、太陽の暖かい光が照らす世界。 その素晴らしき気持ち良さを味わっている二人――その後ろから『お母さん!』と呼ぶ声が。 その声は、恐らくは女の子のものだろう。 しかしその声は段々と近くなり――ついには背後から聞こえた。 少女の呼びかけが気になった二人は疑問を抱きながら後ろを振り向く。 ……だがそこに、母親らしき人は見当たらない。 なのに誰に向かって『お母さん』と呼んでいるのか。 そのことを不思議に思っていると―― 「お母さん! ねえ、お母さんってば!」 次は視界外からそう聞こえ、視線を動かすと自分達の目の前で少女が呼んでいた。 そう……『お母さん』と。 その事実に、二人は面を食らってしまった。 「ベルトルドさんが……お母さん?」 「ヨナはこの子のお母さんなのか?」 互いに顔を見合わせて、だが誤解が発生するわけでもなく。 少女の呼びかけの言葉を反芻してみても、お互い『似合わない』という印象だ。 ヨナは女だが、反応を見るとこの少女の母親ではないのは明らか。 仮に億が一……那由他の彼方ほどの可能性で、彼女がこの少女の母だとしても、それをベルトルドに言わないわけがない。 ではベルトルドはどうか? ――論外だ、あり得ない。 となれば、この少女は人違いでそう言っているのだ。 「お母さんあそぼ! いい天気だからあそぼ!」 「……ごめんなさい。私達はあなたの――」 お母さんじゃない、人違いです――と、そう言おうとしたヨナを、ベルトルドがさりげなく止めた。 ヨナの言葉を塞いだベルトルドは少女の顔を見ながら訊く。 「どうした? 俺達に何か用か?」 「わたしと一緒にあそぼ! お母さんも、そっちのお母さんも一緒にあそぼっ!」 「なるほど、遊びたいのか。良いだろう」 二つ返事で了承の言葉を言ったベルトルドに、だがヨナは反対の意見を言う。 「ベルトルドさん、遊ぶのは構いませんけど……それより先にこの子の母親を探した方が良いのではないですか?」 ……確かにヨナの言う通りだ。 この少女が迷子であれば、どのような事情があるにせよ、先に母親を探すべきだ。 きっと向こうも我が子を見失って焦っているはず。 それにこの子も母親をはぐれて混乱しているはずだと。 心配気なヨナに、ベルトルドは「まあいいから」という体で、 「足元を見てみろ」 そう言って、ベルトルドは地面を指した。 「――あ」 地面を見たヨナは、そこでようやく気付いた。 目の前にいる少女には『影』がないのだと。 少女がただの迷子ではないと気が付いたのだ。 「ねえねえ、お母さん達あそぼ? わたしとあそぼーよ」 「ああ、わかったわかった。だが先に自己紹介だ。――俺はベルトルド。こっちのお母さんはヨナだ」 「わたしはエリーゼ。ベルトルドお母さん、ヨナお母さん! なにしてあそぼっか!?」 何かしらの事情があると察したベルトルドと。 遅れて察したヨナは腰を落としてエリーゼと話す。 「じゃあ何をして遊びます? 追いかけっこ? それともかくれんぼ?」 「わたしね、この中にある物であそびたいの」 そう言ったエリーゼの手には様々なおもちゃ道具が入った袋が握られていた。 なるほど、既に準備は出来ていたようで。 「そうですねぇ……じゃあ」 袋の中を見たヨナ――持ち出したのはシャボン液とストローの二つ。 「いい天気ですし、これで遊びましょうか、エリーゼさん?」 「うん!」 エリーゼとヨナ、そしてベルトルドはシャボン玉で遊ぶべく、場所を移動する。 ――――…… シャボン玉を十二分に楽しむために、公園に移動した三人。 幸いにも今は周りに人がいない。思う存分はしゃぐことが出来るだろう。 「じゃあエリーゼ、沢山シャボン玉を作ると良い」 「うん、わかった! 見ててね、ベルトルドお母さん!」 ストローの先端をシャボン液に浸し、銜えたエリーゼは静かに息を吐く。 口から出された息は液の膜に覆われて、そのまま空に飛び出した。 「わあ……ちゃんと出来た!」 「その調子だ、もっともっとだ」 ベルトルドに褒められたからだろうか、エリーゼは楽しそうに次々とシャボン玉を作る。 ふわふわと、空に向かって飛び立つ無数の透明な球。 周りを囲うほど生み出されたその数に、エリーゼは大はしゃぎだ。 彼女の傍にいるベルトルドも、エリーゼが喜ぶ姿を見て楽しそうにしている。 ――楽しそうにしているエリーゼとベルトルド、性別はともかく。 二人は仲良しの親子のよう、と。 少し離れてぼんやりと眺めているヨナの視界に、こちらを見るベルトルドが映った。 「ヨナ、お前も一緒にどうだ?」 「わ、私もですか……?」 「お前以外に誰がいるんだ?」 「ヨナお母さんも一緒にしようよ! 一緒にシャボン玉たくさん作ろ?」 「は、はい!」 目が合って促されたヨナは二人の元に近づく。 ――ふと気が付けば、エリーゼが作ったシャボン玉が三人を囲うように宙に浮かんでいて。 心地よい春風によって舞い上がる無数のシャボン玉は、陽の光が反射してキラキラと輝いている。 宝石とはまた違うその輝きに、ヨナは――きれい……と。 見惚れながらも、ヨナはエリーゼと共に。 ベルトルドと共に、シャボン玉を作って遊ぶ。 ■■■ 「お母さん!」 後ろからそう呼ばれて振り向いた『リチェルカーレ・リモージュ』と『シリウス・セイアッド』。 目の前にいる見知らぬ少女は……どうやらリチェルカーレに対して『お母さん』と言っているようだ。 しかし無論、今現在のリチェルカーレに子どもはいない。 そのため、そう呼ばれた彼女はきょとんとした顔で少女を見つめている。 「……迷子か?」 「そのよう……ですね」 「お母さん、いい天気だからあそぼ! わたしずっとたいくつだったの」 どこかで会ったことがあるか、とリチェルカーレは必死に記憶を探る、が。 どんなに記憶を探っても、この少女と会ったことはないし、名前も知らない。 つまり――少女が言う『お母さん』とは人違いだ。 「あの……あなた、迷子? お母さんとはぐれてしまったの?」 「ううん、迷子じゃないよ。それに、お母さんはお母さんでしょ?」 「いえ、その……私はあなたのお母さんじゃあ――」 意味がわからない言葉を言う少女と話すリチェルカーレは頭を悩ませる……だが。 少女の次の言葉が、二人を心底驚かせた。 「そっちの『お母さん』も一緒にあそぼ?」 「…………はい?」 少女が次に『お母さん』と呼んだのはリチェルカーレ……ではなく。 その隣にいるシリウスにだった。 自分に続けてシリウスまで『お母さん』なことに、リチェルカーレは間抜けた声を出して目をまんまるにし。 彼女と話をする少女をじっと見ていたシリウス――びっくりしているものの、だが表情が出ない彼は目を瞬くだけで。 だがしかし、二人とも驚きを隠せないでいた。 ――自分達が母親? どういうことだ、と。 人違いであれば、リチェルカーレのことを母親だと思うのはまだわかる。 だが男のシリウスまでを『お母さん』と呼ぶのはおかしい。 正体がわからない怪しい少女に思わず警戒する二人は、 「お母さん達、いい天気だからあそぼ! たいくつだったからあそびたいの!」 ……不明な部分はあるものの、だがその幼い様子を見て警戒を解いた。 そこに、悪意の欠片が全く見えず、純粋な感情しかなかったから。 なので二人はとりあえず、少女の保護――遊ぶことを優先することにした。 「じゃああなたのお名前を聞かせてくれる?」 「わたし? エリーゼだよ」 「私はリチェよ。よろしくね、エリーゼちゃん」 にこりと微笑んだリチェルカーレはエリーゼに手を差し伸べて握手を求める。 仲良くしましょう、と。 握手し、そう言ったパートナーに、シリウスは思わず苦笑をしてしまう。 「そっちのお母さんは?」 「こっちはシリウスって言うの。ほらシリウス、挨拶して」 男なのにお母さん……複雑な気持ちのシリウスは、 「……『お母さん』は勘弁してほしいけどな」 と、そう呟きながらも、膝をついて目線を合わせてエリーゼの頭を軽く撫でた。 「えへへ……シリウスお母さんにあたま撫でられたー!」 「良かったわね、エリーゼちゃん」 自分のことのように笑みを浮かべたリチェルカーレ。 「さて――じゃあエリーゼちゃん、何して遊ぶ? 今日は天気もいいし、シャボン玉はどうかしら? きっと綺麗よ」 彼女がそう言ったのは、近くの店の主が客引きのためにシャボン玉を作って子ども達を楽しませていたからだ。 偶然見たそれを何かしらの縁だと。 その提案に、エリーゼは、 「わたしそれ好き!」 「ふふふ、じゃあ誰が大きいものを作れるか競争しましょうか?」 「うん、負けないよ!」 満面の笑みで承諾し、その言葉を聞いたシリウスは早速その店の主と話をしている。 しばらくして、シリウスはシャボン液とストローを持って来た。 道具が用意出来たので、三人は遊ぶために場所を移動する。 離れないように、優しく手を繋いで。 ――――…… 「じゃあリチェお母さん、見ててね!」 シャボン液に浸けたストローを銜えて、エリーゼは静かに吹く。 壊れないように静かに息を蓄えるシャボン玉は大きな体を持って宙に浮かんだ。 「やったぁ! おっきいのができた!」 「凄いわね、エリーゼちゃん!」 エリーゼと共に満面の笑みを浮かべて喜ぶリチェルカーレ。 その間、生み出されたシャボン玉は春風に吹かれながら高度を上げていく。 高く、高く上がってその輝きがより一層強くなったシャボン玉。 「見て見てリチェお母さん! わたしのシャボン玉があんな高いところまで上がったよ!」 「まあ凄いわ! 流石エリーゼちゃんね!」 それを見て歓声を上げた彼女は、エリーゼをぎゅっと抱きしめる。 「えへへ、リチェお母さん良いにおーい」 はしゃいだ様子の二人を見守っているシリウス。 はしゃぎすぎて、体の具合が悪いということはないだろうか、と注意深く様子を見ていた彼は、 「――疲れていないか?」 普段のぶっきらぼうさを少し消して、穏やかにそう言った。 「あら、シリウス。優しいのね」 いつもより柔らかなシリウスの声を聴いて、不器用な彼なりの優しさだと気付いたリチェルカーレはにこにこと。 「シリウスお母さんって優しいんだね」 「だからお母さんは勘弁してくれと――」 「――あのね、シリウス」 困った様子のシリウスに、リチェルカーレは微笑みながら言う。 「貴方の視線から見たら、空がもっと近いんじゃないかしら?」 リチェルカーレのその言葉に瞬きを一つするシリウスは、 「……そういうことか」 彼女の言葉の意図を察して表情を緩めた。 「なになに?」 「エリーゼ――落ちるなよ」 楽しそうなエリーゼにそう声をかけて、シリウスは肩車して持ち上げた。 恐らくは初めてなのだろう。 「すごいすごい! リチェお母さんが下にいる!」 普段より高い景色を目にしたエリーゼはシリウスの頭上で嬉しそうに喜んでいる。 「まるでお父さんね」 「お父さんになった覚えはないんだがな……『リチェお母さん』?」 「二人とも、わたしのお母さんだよ!」 「ふふふ、そうね」 エリーゼが楽しそうに、嬉しそうに笑う傍で、二人は顔を見合わせて微笑む。 ■■■ 「じゃあ今度は鬼ごっこね!」 疲れ知らずのエリーゼは『鬼ごっこ』を提案した。 「鬼ごっこですか? エリーゼさんを捕まえれば良いんですね?」 「うん! みんなが鬼ね!」 エリーゼ一人が逃げて。 モナ、ルイス、ヨナ、ベルトルド、リチェルカーレ、シリウスの六人が鬼だと。 この六人相手に子どもが足で勝負とは、何とも可愛らしいものではないか。 これでは勝負にならない、と思う六人は、 「それじゃあ――はじめ!」 …………、 ……………………はい? 次の瞬間に、子どもとは思えない速さで逃げたエリーゼを見て絶句した。 が、相手は子どもだ、自分達が負けるはずがない! 気合を入れて、六人は逃げたエリーゼを追いかける。 ――――…… 「ほらほら、鬼さんこちら!」 「え、エリーゼ殿足速いッ! 全然追いつけないよ!」 逃げるエリーゼに必死に追いつこうと、モナは全力疾走していた。 いくら子どもでもここまで速いとかあり得ない! と、そう思うモナの後ろで、 「レストレンジ、なに本気になってんの? 無駄に体力使うのやめたら?」 「オセロで負けても、鬼ごっこでは負けたくないの!」 「だからだよ」 エリーゼ相手に全力疾走しているパートナーにルイスは何とか追いついている状態で。 そう言うなら早く捕まえてみろ、と怒られた。 「早く早く! じゃないと逃げちゃうよ!」 「す、すごい……エリーゼさん……!」 逃げる少女相手に段々と本気になってきたヨナは既に息が上がっていて、にじみ出た汗を拭っていた。 「浄化師が何人もいて捕まえられないなんて……」 必死に追いかけるヨナ――そのすぐ後ろをベルトルドは走っていた。 パートナーのヨナが頑張っているようなので、彼は程々にこなしながら、何かしらの変化を待っているのだ。 月並みだが、エリーゼの望みを叶えてやれば何かわかるかもしれない、とそう思ってのことだ、が。 「ベルトルドさん真面目にやってください!」 息を荒げながら、ヨナはベルトルドに怒る。 せっつかれたことで「よぉし!」と気合を入れて、ベルトルドは本気で追い回し始めた。 「このままだといつまで経ってもわたしを捕まえられないよ! ほら、がんばって!」 ――エリーゼの足の速さに目を見開いたリチェルカーレとシリウス。 全力で追いかけているのに、それでも一向に捕まえられない彼女の動きに息を呑む、が。 「どうせすぐに疲れるだろう」 「ええ、わかってるわ!」 二人もまた、全力でエリーゼを追いかけていた。 ――浄化師の六人が追いかけて。 彼等から逃げ続けるエリーゼは、急に人気のない場所で立ち止まった。 疲れた様子……ではない少女に、追いかけて来た六人は様子を伺いながら近づく――すると。 「――みんな、わたしとあそんでくれてありがと」 背を向けながらエリーゼがそう言った。 何故このような場所――目の前に木が一本しかない場所で立ち止まったのか。 そう疑問に思う六人はエリーゼを捕まえないでいる。 「お礼にわたしのことちょっとだけ、お話するね」 ――立ち止まった少女の話が何であれ。 その悲しそうで、けれども嬉しそうな心を安らかに満たしてあげられれば、と思い彼等は黙って少女の話を聞く。 「わたしね――昔から体が弱くて。実の両親にここに捨てられたの。 重い病気を持っていたわたしは、このまま死ぬんだって思って……でもその時、二人の女の浄化師が助けてくれたの。 見知らぬわたしを助けてくれた優しい二人はわたしにとっては本当のお母さんみたいだった」 ――なるほど、エリーゼが『浄化師』を『お母さん』と呼ぶ理由はそれか。 助けてくれた浄化師が少女にとっては本当の母親に思えたのだろう。 だから男であっても『浄化師』ならば『お母さん』なのだ。 だがしかし、その話が正しければ、今頃エリーゼはその二人の浄化師の元にいるはずでは、と。 「でもね、しばらくしたらわたしはその病気で死んじゃったの。 一度もあそぶことが出来ず、わたしは泣いているお母さん達にここに埋められた」 ……見ると、少女の前には石で出来た小さな『墓』らしきものが。 簡単なモノではあるが、だがそこにエリーゼの体が埋まっているのだろう。 病気で死んだ――それ故に、エリーゼには『影』がないのだ。 「でも、一度でいいから思いっきりあそびたいって……そう思ってたらみんなに声をかけてた。 見知らぬわたしの言葉を怪しいと思っていたのは知ってるよ、でも。 みんながあそんでくれたお蔭で、わたしの願いは叶ったの。 いい天気の下で、思いっきりあそぶことが出来た。 ……本当に、ありがと」 お礼を言いながら振り向いた少女は大粒の涙を零しながら、その体を薄めていく。 願いを叶えた、未練を果たした少女はもう……時間なのだろう。 だから、別れの挨拶だ。 「エリーゼ殿、またオセロで遊ぼう。今度は我が勝つから」 「……今度も負かしてあげるよ」 モナとルイスは再戦の約束を交わして、少女を見送る。 「エリーゼ、またいつでも相手になろう。今度は捕まえてみせるからな」 近づいて頭をくしゃっと撫でて歯を見せて笑うベルトルドと。 その隣にいるヨナはコクコクと頷いて、ついには捕まえられなかった少女を捕まえると約束して、少女を見送る。 「こちらこそありがとう、エリーゼちゃん。楽しかったわ」 「次もまた肩車してやろう」 少女の想いを黙って聞いていたリチェルカーレは寄り添って、少女をぎゅっと抱きしめて。 シリウスは静かに髪を撫でて、少女を見送る。 「――やっぱり、浄化師ってみんな優しいんだね。 だからわたし、浄化師が大好き。 みんな……みんなが大好き」 泣きながらも満面の笑みを見せる少女の体は、徐々に透明度を増していき。 「みんな……次も絶対にあそぼうね。絶対に、絶対に……あそぼうね」 ――六人はそれに頷いて、約束をする。 「ありがとう、みんな――だいすき……」 と、そう言ったエリーゼの姿は、次に瞬きをした時には完全に消えていた。 亡き少女が抱き続けた想いは、新たな想いとなった。 あそびたい――その想いが。 またあそぼうね――と。
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*** 活躍者 *** |
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[3] リチェルカーレ・リモージュ 2019/03/24-20:43
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[2] ヨナ・ミューエ 2019/03/24-19:41
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