~ プロローグ ~ |
深い森の奥深く。年老いた巨木のうろが、わたくしの住まいです。 |
~ 解説 ~ |
教団本部の片隅に、突如生じた梅花迷宮。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
【B】 ーシリウス? 彼がいないのに気づいて名前を呼ぶ 出られないか格子を調べたり 魔力をぶつけたり 一通り試し眉を下げる 捕まっちゃた、のかな… あまり怖くない自分を不思議に思いつつ 外に出ようと挑戦を続ける 彼の姿を見てぱっと笑顔 シリウス? 苦しそうな顔 いつか見た気が(依頼65) …?シリウスのせいじゃないわ シリウスが わたしを見つけてくれるって知っていたから だから怖くなかったの 呆然とした いつもより幼く見える彼の顔を見つめる そうでしょう? とても綺麗な どこか泣きそうな微笑みに胸がずきんと 鳥籠が傾き悲鳴 状況を把握し真っ赤 彼が微かに震えているのに気付き 自分もぎゅっと抱きつく 心配かけてごめんなさい 来てくれてありがとう |
||||||||
|
||||||||
【A】 私、一人……?クリスは……? 一人である事に気がつき思わずしゃがみ込む いつも横にいてくれた人がいない それだけで不安に押しつぶされそうで 「大丈夫だよ」 クリスの声が聞こえた気がして頭を上げて そう、ですね…進まなければ事態は何も変わらないから… もしかしたら、クリスは動けなくなってるのかもしれない なら、早く助けに行かないと ひたすら進んで 敵からは懸命に逃げます、けど、逃げ切れない時は小咒で攻撃を 鳥籠に入ったクリスの姿 クリス……!私は、貴方の隣にいたい 貴方に隣にいて欲しい だから、そこから出てきて下さい いつものような小さな声ではなく大きな声 自分がこんな声を出せたのかと驚き きっと大切な人の為だから、ですね |
||||||||
|
||||||||
B:イグナシオ 捕まったのは私か。まぁ、エリーは来るだろう。呼ばれてなくても来るような子だ。 折角高い所にいるから、望遠鏡で迷宮を見渡そう。 研究チームは迷宮の消し方を求めている。発生源らしきものを探してみよう。 エリーが来たら開くようだから、縄を格子に結び付けて降りれるようにしよう。 水筒を持ってきたか、気が利くね。でもそれは君が飲んだ方がいい。走ってきたんだろう。 A:エリシャ お兄様、すぐ行きますわ! 一本道を走って、敵はその勢いのままに壁を蹴って飛び越えていきましょう(BD1)。 あらお兄様、わざわざ縄を下ろしてくださるのね。有り難いけど、余裕気なのが残念ですわ。 せめてぎゅっと抱きしめてくださいませ。 |
||||||||
|
||||||||
Aヨナ …不思議な場所 迷宮といっても一本道 進んでいけばベルトルドさんともきっと会えるはず それなりに危機を覚えないといけない状況ではあるが咲き乱れる梅のトンネルとその香りに あの人と並んで歩けたらよかったのですけど と今は居ない喰人の事が頭をよぎるが頬を軽く叩いて気を引き締め進む Bベ 参ったな 囚われのお姫様という柄ではないのだが 鼻鳴らし ヨナは一人で放り出されてどうしてるだろうか 俺を見つけて駆け寄ってくるだろうか しっくりこない想像はやめ 座して待つのみ ヨナなら来るだろう 根拠は無いが確信めいた それはおそらく信頼 最奥で再会 ひとまずは互いに安堵 ヨ よかったベルトルドさん やっぱり会えました ずっとこの中に? |
||||||||
|
||||||||
【A】シルシィ …一人って久しぶりな気がする。 (ちょっぴりの不安、と同時に一人で迷宮を攻略できたら、パートナーも少しは過保護を改めてくれるかも?とちょっぴり期待) 周囲の様子(変わった物や音)に注意しながら進む。 敵は無理に戦わず、逃げられるなら逃げる。どこまで続くか分からないので。 パートナーを見つけたら、そっと周りの様子を伺ってから近づく。 【B】マリオス …まいったなあ。僕が捕まる方になるなんて。シィは…。(心配) 抵抗。 鳥かごの扉?を調べたり、アライブスキルで攻撃してみたり。 でも、力を使い果たす訳にいかないので時々休憩しつつ、周りを見渡す。 パートナーが見えないか。 |
||||||||
|
||||||||
■分断 Aナツキ Bルーノ ナツキはルーノを探し迷宮を進む 魔物は最低限だけ倒して速度重視で突破 一人で戻るという考えは全く無い、魔物にも怯まず真っ直ぐ突き進む ルーノは試しに小咒で鳥かごを攻撃、無駄だと分かり静かに待つ 以前の自分であればもっと必死で脱出の術を探していたはずなのに こんな場所で大人しく待っていられる事に少し驚く 理由はナツキが来る事を信じている為、それから彼が怪我をしていた時に備えて魔力を温存する為 ■再会 ナツキはかごの中のルーノに、ルーノは怪我をしているナツキにそれぞれ大丈夫かと声をかけて ナツキがルーノに手を伸ばす ナツキ:帰ろうぜ、ルーノ! ルーノが目を瞠り、すぐ微笑み返す ルーノ:…ああ、帰ろう |
||||||||
|
||||||||
【A】 【目的】 パートナーに認めてもらうために頑張る。 【行動】 影のような魔物が出てくるとびびって逃げようとする。 ルイにパートナーとして認めてもらえるように頑張って迷宮をクリアしようとしてるのに…逃げるようにしてルイに辿り着いても失笑を買うだけ。 (我はヘタレなんかじゃない。) 「我がアエリスの聖銃で深淵なる迷宮を切り開こうぞ。」 台詞でスイッチが入ったらブロンズライフルで影のような魔物にワーニングショットを繰り出す。 再開) 合言葉『我は絶対にルイを見捨てない。』 両手をいっぱいに広げながらルイの言葉に返すように言うと鳥籠が開く。 地面に降りたルイの言動に驚くものの胸に飛び込んで来たルイをしっかり抱きとめる。 |
||||||||
|
||||||||
A 攻略方法が分かってるなら迷わず進む 途中の敵も躊躇なく倒していく 行かない選択肢はないからな 進みながら、ふと花を見つめて考え 迎えに行くのは当然のことだ でも、なんで当然だと思うんだろう 放っておくとヤバい奴だというのはあるけど、それだけじゃない気がする もしかして、本当にリントのことを好きになっているんだろうか? …(しばし考えこみ、はっとして先を急ぐ) それはこれから確かめればいい そして俺が言うべき迎えの言葉はこれしかない 「捕まえた」 俺達の向かう先、幸せな未来でも最悪の未来でも、俺はもう一度こう言うだろう は?誰がお姫様だ むしろアンタこそ囚われのお姫様だったろ …何が王子様だ、詐欺師の間違いじゃないのか |
||||||||
~ リザルトノベル ~ |
● 「シリウス?」 先ほどまで隣にいた『シリウス・セイアッド』がいないことに気づき、『リチェルカーレ・リモージュ』は鳥かごの中で眉尻を下げる。 格子は固く閉ざされており、揺すっても魔力をぶつけても傷ひとつつかなかった。 「捕まっちゃった、のかな……」 困ったが、一方であまり怖いとは思わない。 そんな自分を不思議がりながら、リチェルカーレはどうにか脱出できないかと考え始めた。 「リチェ?」 色とりどりの花で作られた高い壁でできた迷宮で、シリウスは焦燥に駆られる。 「リチェルカーレ、どこだ!」 返答はなかった。 シリウスは手のひらに爪痕が残るほど強く拳を握った。少女はきっと、この果てにいる。 道を走りながら、自責の念を噛み締めた。どうして目を離してしまったのか。なぜもっと気をつけなかったのか。 影のような魔物を斬り、消滅を確認するのも惜しんで駆け抜ける。 もしかして、と思った。 ひゅ、と息をのむ。凍ったように足がとまり、震えるほどの寒さと恐怖を覚えた。 ――自分といたから、彼女は危険な目に遭ったのでは? ふらりと一歩、前に進む。それ以上は動けそうになかった。足元に地面があるかも怪しくなる。手から剣が滑り落ちかけた、刹那。 「シリウス!」 明るい声が響いた。 弾かれたように顔を上げたシリウスの体が、再び力をとり戻す。ほんの数歩進むと道が途切れ、開けた場所に出た。 大樹に吊るされた鳥かごの中で、リチェルカーレは微笑んでから、不安そうに顔を曇らせる。 「……無事か?」 「ええ。シリウスは?」 問題ない、とシリウスは首を左右に振る。 いつかも浮かべていた苦しげな表情を、今再び覗かせる彼に少女は格子の隙間から手を伸ばした。 その、細く小さな指先を。 喪失の恐怖から逃れられないまま、シリウスは見つめる。 「……俺が」 唇からこぼれたのは、悔恨の言葉だった。 「俺が、気を抜いていたから。俺のせいで……」 「シリウスのせいじゃないわ」 花のように、リチェルカーレは笑む。 「シリウスがわたしを見つけてくれるって知っていたから、怖くなかったの」 そこにこもった絶対の信頼と、真っ直ぐな好意に瞠目していたシリウスは、しばらく沈黙し、やがて淡く笑んだ。 「もちろん、見つけてみせる」 呆然とする彼はどこか幼げで。 その後の笑みは泣き出してしまいそうで、少女の胸がうずくように痛んだ。 「きゃっ!」 「リチェ!」 不意に鳥かごが開く。シリウスは落ちてきた少女をしっかりと受けとめた。 「あの、シリウス」 抱き締められたリチェルカーレは真っ赤になり、気づく。 彼は微かに震えていた。大丈夫、と言う代わりに、少女は彼に強く抱きつく。 「心配かけてごめんなさい。きてくれてありがとう」 「……ああ」 シリウスの返答には、温かな安堵が混じっていた。 ● 鳥かごの中で目を開いた『クリストフ・フォンシラー』は、心臓を凍った手で握られたような心地になった。 「アリシア!」 側に彼女の姿はなく、呼んでも返事がない。 焦燥のまま、クリストフは格子を握って揺さぶる。さらに肩をぶつけてみたが効果はなく、ならばと剣で斬りつけ、魔力を用いた攻撃も試したが鳥かごには傷ひとつつかなかった。 「だめだ、なにをしても開かない……」 美しいが怪しい空間に、彼女をひとりにしてしまった。 「アリシアは、決してなにもできないわけじゃない」 分かっている。信じている。それでも。 側で守ることができないのが歯がゆく、捜しに行くことさえできないのが悔しい。唇を噛み、クリストフは迷宮を見据えた。 ひとりだと理解した瞬間、『アリシア・ムーンライト』は思わずしゃがみこんでしまった。 「クリス……」 いつも隣にいてくれた人が、いない。 ただそれだけで不安があふれて、押しつぶされそうになる。様々な花に彩られた背の高い壁も、舞い散る花弁も、不気味なものに見えて仕方なかった。 震える指先で、服の裾を強く掴む。 ――大丈夫だよ。 「……っ!」 不意に耳のすぐ傍で聞こえた声に顔を上げた。そこには誰もいない。だが聞き間違えることなどありえない。 あれは、クリストフの声だった。 「そう、ですね……。進まなければ、事態はなにも、変わらないから……」 彼はきっと、身動きができない。 不安と恐怖が薄らぐ。立ち上がったアリシアは正面を見つめ、クリストフを助けるために駆け出した。 「敵……!」 影のような魔物がゆらりと現れる。立ちどまりかけたアリシアは、相手が攻撃を仕掛けてくる前に道を通り抜けることを選んだ。 どうやら、敵は一定の距離しか追ってこないらしい。 その後も息を上げながら走っていた彼女の前方が、急に開けた。眼前には大樹、その枝に吊るされた鳥かご。 鳥かごの中に、少し安心した様子のクリストフを認めた瞬間、アリシアの中でなにかが弾けた。 「私は、貴方の側にいたい……!」 それは、切なる想いがこめられた叫びだ。 自分にこれほど大きな声を出せたのかと、アリシアは内心で驚く。 「貴方に側にいてほしい。だから、そこから出てきてください……!」 鳥かごがひとりでに開いた。クリストフは思わずこぼれた笑みをそのままに、地上に降りる。 (俺は、君の隣にいていいのか) 声を張るアリシアを見たのは初めてだ。 (そんなに大きな声が出るくらい、望んでくれるのか) ならば答えはひとつで、それはクリストフの願いでもあった。 「もちろんだよ」 クリストフは優しく微笑む。 「ずっと君の隣にいると誓うよ」 (私は、きっと……) この人のことが大切なのだと、アリシアは噛み締めるように思って頷く。 指を触れあわせた二人を、花吹雪が包んだ。 ● 鳥かごの中で目を開いた『イグナシオ・ヴァルデス』は、冷静に状況を分析した。 「捕まったのは私か」 焦りも不安もない。『エリシャ・ヘス』は放っておいても迎えにくる。 呼ばなくても駆け寄ってくる姿を頭の隅で思い出しながら、イグナシオは望遠鏡をとり出した。 「さて」 巨木に吊るされた鳥かごの中から、望遠鏡越しに外の様子を観察する。 一面の花。色とりどりの花弁に彩られた、生け垣のような壁。イグナシオが今いるここは開けた場所になっているらしく、道が一本だけ通じていた。 「発生源は……」 研究班は教団本部の敷地内で起こったこの異常現象の解決方法を求め、浄化師を募った。 不可思議なのは、彼らも迷宮に入り、脱出経路を確立し、その上で消滅させることはできなかった、ということだ。 「研究班と浄化師の違いは、魔力の高低だ」 高い魔力を有すること。それが鍵だと研究班は結論づけた。 「ではなぜ、高い魔力が必要なのか?」 エリシャは前方以外を高い花の壁に囲まれていることに気づき、すぐに走り出した。 「お兄様、すぐ行きますわ!」 彼の姿を瞬きの間のほんの刹那の闇に描く。それだけで彼女の胸は熱を持ち、会いたいという思いが燃え上がった。 「退いてください!」 分岐点もない細い道を進んでいると、影が立体になったような魔物が立ち塞がった。 エリシャは横に跳び、壁を二歩ほど走ってさらに飛ぶ。魔物の頭上を跳び越え、空中で体をひねって態勢を整えて難なく着地し、また前進する。 「お兄様!」 「くると思ってたよ」 迷宮の果てでイグナシオは鳥かごの格子の一部に縄を括りつけ、片端を落とした。エリシャが走ってくるのが見えたので、下りられるようにしておいたのだ。 「お兄様、もう少しだけ待ってくださいませ」 彼の余裕の様子を残念に思いながらエリシャは縄を掴み、上った。 「私はなぜ、君のお兄さんなんだい?」 「お兄様だから!」 「……君は迷宮以上に謎めいているな。全くもって訳が分からない」 「謎めいたエリーを、もっと知りたいですかぁ?」 いつの間にかあいていた鳥かごの扉に上半身を入れ、エリシャは色気のあるポーズをとる。 そのまま近づいてこようとした彼女を、イグナシオは片手で制した。 「エリー、ここにくるまでに魔力の発生源や、迷宮の核になり得るものはなかったかい?」 「いいえ。ねぇお兄様、喉は渇いていらっしゃらない?」 持参した水筒をエリシャが揺らす。 「気が利くね。でもそれは君が飲んだ方がいい。走ってきたんだろう」 それより、とイグナシオは下を指さした。 「迷宮を消す方法を調べたい」 「はい、お兄様」 捕らわれのイグナシオを救出できたことにまだ興奮しているエリシャは、彼に抱き着きたくて、ぎゅっとしてほしくてたまらない。 しかし今はこらえて、縄を下りた。 ● 鳥かごの中で『ベルトルド・レーヴェ』は腕を組む。 「参ったな。捕らわれのお姫様という柄ではないのだが」 鼻を鳴らして、パートナーのことを考えた。ひとり放り出された彼女は、今どうしているだろうか。 ベルトルドを見つけたとして、駆け寄ってくるだろうか。 「……いや」 しっくりこない想像はやめ、腰を下ろす。 「ヨナならくるだろう」 満面の笑みで走ってこないにしても、ひとりで帰ることはない。 根拠はなく、しかし確信めいた感情に基づき、ベルトルドは座して待つ。――きっと、この芯の通った思いを、信頼と呼ぶのだろうと、頭の隅で考えながら。 細い一本道を『ヨナ・ミューエ』は歩む。 「……不思議な場所」 左右の壁も足元も、色とりどりの花に埋め尽くされている。空からは花弁が雪のように舞い落ちていた。 視覚的にも嗅覚的にも、最も目立つのは梅だ。あちらにもこちらにも咲いている。 高い壁のてっぺん近くから枝を伸ばし、アーチを作るように開いていた梅花の下を潜り抜けて、ヨナはふと振り返った。 「あの人と並んで歩けたら、よかったのですけど」 他愛もない話をしつつ、この道をベルトルドと歩く自分を想像する。 「合流しなくては」 ぺちんと自身の頬を叩いて、ヨナは再び進行方向に目を向けた。早くパートナーと再会するため、足を進める。 影のような魔物は軽くいなして、最奥を目指していたヨナは小さく息をつく。道は途切れ、先は開けた場所になっていた。 「よかった、ベルトルドさん。やっぱり会えました」 大樹の枝に吊るされた鳥かごの中で、ベルトルドが目を開く。緑の双眸がヨナを認識し、安堵するように細められた。 「ずっとこの中に?」 「ああ。そっちはどうだ。怪我はないか?」 「大丈夫です。私の方は……、梅が、たくさん咲いていました」 きた道をヨナは首を回して見る。梅の香はここまで届いていた。 「……君とこそ、春来ることも待たれしか……」 「梅も桜もたれとかは見む、か?」 ほとんど無意識だった呟きに応じた声と、鍵が開くような音にヨナは驚いてベルトルドの方を見た。ベルトルドが危なげなく飛び降りる。 「し、知ってましたか」 「最近読んだ」 貴方と一緒だから、春の訪れを待てた。 そんな歌を彼が既知であるとは知らずに口ずさんでしまったことに、ヨナは耳の先を赤くして固まる。 ベルトルドはヨナの頭に落ちた梅の花弁をつまみあげ、自身の頭に乗せた。 「梅の花、今盛りなり思ふどち。かざしにしてな、今盛りなり。……ほら、行こう」 ヨナの様子には触れず、梅花の盛りを喜ぶ歌を返したベルトルドは、彼女に手を差し出す。 瞬いたヨナは少し口を尖らせ、おずおずと彼の手に自身の指をのせた。 「……私が迎えにきたのに」 花吹雪が二人を覆う。ベルトルドが微かに笑う気配がした。 ● ひやりとする鳥かごの格子に触れ、『マリオス・ロゼッティ』は途方に暮れていた。 「……参ったなぁ。僕が捕まる方になるなんて」 押しても引いても格子はびくともしない。 眼前には色とりどりの花に飾られた、背の高い壁が作る道があった。三メートルほど下が地面だ。 「シィは……」 研究員が告げた内容が正しいなら、今ごろ道のどこかをさまよっているのだろう。マリオスは『シルシィ・アスティリア』が心配でならなかった。 「開かないか」 扉は魔術か、魔法によって閉ざされているらしい。膂力を向上させて片手剣で斬りかかってみたりもしたが、傷ひとつつかない。 力を使い果たすわけにもいかず、マリオスは周囲を見回したり、道の先を見つめたりして、切実に祈る。 「無事でいてくれ、シィ」 シルシィは、不安と期待を少しずつ胸に抱えていた。 不安とはすなわち、久しぶりにひとりでいること。 期待とはすなわち、ひとりでこの迷宮を攻略できれば、過保護なパートナーが少しは意識を改めてくれるのではないかということだ。 「わたしだって、できるもん」 周囲の音や気配を慎重に探り、変わった植物は大回りをして触れないようにし、少女は前進する。 そのうちに、影が立体となったような魔物が出現した。 反応が遅い魔物の脇を、身を低くして駆け抜け、角をひとつ曲がったところで武器を片手に停止した。きた道を覗きこむ。標的を見失った影が立ち尽くしていた。 「ほら、できた」 わずかに乱れていた呼吸を整え、シルシィはここにいないマリオスに小声で言う。 道がどこまで続くのか、どれほどの敵がいるのか分からない以上、交戦は避けたい。 やがて迷宮の終着点に出た。 「シィ、よかった……! 大丈夫か? 怪我は……?」 巨木の枝に吊るされた鳥かごを、シルシィは心持ち不機嫌に見上げる。 「平気。……出られないの?」 彼が困った顔になるのが分かった。シルシィは巨木の根元に近づき、幹に手をあてる。 「シィ、もしかして登るのか? 危な……」 「わたしは、小さな子どもじゃなくて、あなたのパートナーだから」 うろたえるマリオスを、シルシィはできる限り目に力をこめて見つめた。 気圧された少年は目蓋を半分伏せる。 「それは、その、つい……。じゃなくて、その、シィが大切だから……。いや、気をつける。ごめん……」 予想外に深く反省され、シルシィも焦った。 「え、ええと、じゃあ、許してあげる。ちょっと待ってて」 「あれ、扉、開いて」 「え……っ」 扉が開いたことにマリオスが気づき、それに意識を奪われたシルシィが手を滑らせた。 「シィ!」 マリオスは慌てて飛び降り、尻もちをついたシルシィの様子を確認する。 「怪我は? どこか痛いところは?」 簡易救急箱をとり出すマリオスから、シルシィはふいっと目をそらした。 ● 鳥かごに攻撃を加えた『ルーノ・クロード』は、傷ひとつつかなかった格子を前に、杖を下ろした。 「待つしかないか」 さらに足掻く手もある。 しかし、自分だけがここから出るために魔力を使うより、『ナツキ・ヤクト』がきたときのために――彼のために魔力を温存した方がいい。焦って行動した彼が怪我をしているかもしれないのだから。 ルーノは迷いなく判断してから、気づいた。 「私は、ナツキのことを」 そう考えて、この場所でおとなしく待っていられるほど、信じている。 以前の自分であれば必死になって鳥かごを壊していただろう。自身の変化は少しくすぐったく、それでいて心地よかった。 花でできた高い壁が左右にそびえる細い道を、ナツキは疾駆する。 ひとりで帰るという考えなど微塵もない。帰るならルーノも一緒だ。離れ離れになってしまった彼がこの先にいると信じて、風のように突き進む。 「邪魔だ!」 ゆらりと立ち上がった影のような魔物を蹴り倒し、強引に突破する。今は一秒さえ惜しいのだ、まともに相手などしていられない。 「魔物が出るってことは、ルーノの方も」 不吉な予感は最後まで口にせず、奥歯で噛み殺す。 再び眼前で魔物が立ち上がった。のっそりとした動きでナツキの方を見て、鈍器のような得物を振り上げる。 怯みもためらいもなく、ナツキは突進を選ぶ。ルーノとの合流が最優先だ、その他はすべて気にしていられない。 やがて道が途切れ、開けた場所に出た。巨木が空間のほとんどを占めており、太い枝の一本から鳥かごが下がっている。 呼吸を整える間も惜しんで、ナツキは叫んだ。 「ルーノ、大丈夫か!?」 「ナツキ、無事か?」 格子を掴んだルーノも同時に問いを放つ。 一拍の沈黙ののち、先に肩の力を抜いて口を開いたのはルーノだった。 「怪我をしているじゃないか」 瞬いたナツキに、ルーノは自身の左の頬を指先で軽く叩いて見せる。自らの頬に触れたナツキは、そこが薄く切れていることを、感触とようやく感じた痛みで知った。 「気づかなかったのか?」 「あの魔物がルーノのところにも出てないかって、すげぇ心配で、それどころじゃなかったんだよ」 「魔物?」 「なんか影みたいな……。ここには出でてねぇみたいだな」 よかった、とナツキは安堵する。 幻想的な景色とは裏腹に、危険をはらんでいたらしい迷宮にルーノはかすかに眉をひそめた。 「手当をしておこうか」 「後回しでいいぜ。それより、ほら」 太陽のように明るく笑ったナツキが、ルーノに手を差し伸べる。 「帰ろうぜ、ルーノ!」 わずかに目を見開いたルーノは、しかしすぐに微笑を返した。 「……ああ、帰ろう」 鳥かごがひとりでに開く。 自分にも帰る場所ができたのだと染み入るように思いながら、ルーノはナツキの側を目指して跳んだ。 ● (なんで僕がこっち……) 鳥かごの中で意識をとり戻した『ルイス・ギルバート』は頭を抱え、こうしてはいられないと格子を掴んだ。 「この、開け……っ!」 力をこめて揺さぶるが、大樹の枝にぶら下がっている鳥かご全体が軽く動くだけで、出入り口らしきそこはびくともしない。 「あのヘタレが怯えてるかもしれないんだぞ!」 歯噛みし、声を絞り出す。 花園でうずくまっている『モナ・レストレンジ』のことを想うとじっとしていることなどできず、ルイスは格子を思い切り蹴った。 モナは恐る恐る細い道を進む。幻想的な光景を楽しむ余裕はない。 「ひっ」 分岐のない一本道を不安と恐怖に震えながら歩むモナの眼前に、魔物が現れた。 影を立体にしたようなそれは、のったりとした動きでモナを見る。とっさに逃げようとして、息をつめた。 (ルイ) この先にきっとルイスがいる。モナのパートナーが、いる。 臆病な自分に負けて逃げてしまったら、きっとモナは今までと同じように、パートナーとして認めてもらえない。ここで頑張って、迷宮をクリアすれば、少しは進展するかもしれない。 引き下がろうとする足を叱咤して、モナは前方の魔物を見た。 (我はヘタレなんかじゃない) ブロンズライフルを握り締めて、少女は梅の花の香りがする空気を深く吸いこむ。 「我がアエリスの聖銃で、深淵なる迷宮を切り開こうぞ」 毅然と放った宣言でモナの意識が切り替わった。 弱さを腹の底に追いやって、接近してくる敵を正確に狙い、引き金を引く。魔力の弾丸は魔物を貫いた。 声もなく影が消滅する。 安堵の息を吐いたらそのまま膝が崩れてしまいそうで、モナは奥歯を噛んで走った。 「逃げ出したかと思ったけど……、残念」 「ルイ」 迷宮の終着点、開けた場所の巨木の枝の鳥かごでルイスは肩をすくめる。モナは呼吸を整え、銃を収めた。 言葉とは裏腹に、ルイスはモナが無事であることに安心する。同時に、彼女のことを侮っていたかもしれないと、かすかに目を伏せた。 (助けにきてくれた) 嬉しくないと言えば、嘘になる。自らの過去を顧みればなおのことだ。 (たとえパートナーとしてでも、必要としてくれなくなったら……、僕にはなにも、残らなくなってしまう) 「ルイ、我は」 勇気を振り絞るように一拍おいて、モナは真っ直ぐルイを見上げて言った。 「我は絶対に、ルイを見捨てない」 両手をいっぱいに広げたモナに、ルイスは目を見開く。 鳥かごの扉が開いた。少年は引き寄せられるようにそこから出る。翼のない彼は落下して――少女の腕にしっかりと抱きとめられた。 「今の言葉、忘れないでよね」 (なにも知らないお人よしだから) そう思っていても、ルイスはつい本音を漏らしてしまった。 驚いた顔をしていた少女は、それでも確かに頷く。 ● 「これ、役割逆じゃないかなぁ……」 鳥かごの中で『リントヴルム・ガラクシア』はひとりごちる。 「まぁ、ベル君なら放っておいてもくるだろうし」 抵抗せず、のんびり待つことにして、ついでに彼がくるまでの時間を思考に費やすことにした。 「もし立場が逆だったら。僕は助けに行っただろうか?」 花弁を降らせている空を見ながら考える。自分にとって、彼は一体なんなのか。 浄化師のパートナー。恋のライバル。 それとも利用する相手。 「どれもいまいち、しっくりこないな」 小さく息をついて、右肩を格子にもたれさせる。 確実なのは、彼がリントヴルムを迎えにくるということだ。 色とりどりの花で作られた背の高い壁に見向きもせず、『ベルロック・シックザール』は細い道を黙々と進む。 途中で現れた影のような敵はためらいなく斬り倒し、迷宮の果てを目指した。 「……待てよ?」 不意に疑問を覚えて足をとめる。壁をなしている植物のひとつである梅の花を見つめながら、考えた。 「迎えに行くのは当然のことだ」 パートナーであるリントヴルムは、この道の先にいるのだろう。研究班の報告を疑うつもりはない。 「でも、なんで当然だと思うんだろう」 放っておくとなにをしでかすか分からないから。 それはある。だが、それだけではない気がしている。 「……もしかして、本当にリントのことを」 好きになっているのだろうか。 彼を人の道から外させないようにするため、自分に惚れさせると決めて行動しているのだが、まさか感情がそこに寄ってきているのか。 考えこみそうになっていたベルロックは我に返り、足早に先を急ぐ。 その真偽は、これから確かめていけばいいのだ。先はきっと、この迷宮よりも長いのだから。 やがて開けた場所に出た。巨木の枝に吊るされた鳥かごの中で、リントヴルムが何事もないように笑う。 ベルロックの頭に浮かぶ言葉は、ひとつだった。 「捕まえた」 たとえ未来が幸福であっても、最悪であっても、きっとベルロックは彼にもう一度、この言葉を放つのだろう。 鳥かごが開く。身軽に飛び降りたリントヴルムが、愉快そうに口の端を上げた。 「今回は勇ましいお姫様に免じて、捕まるとしようか」 「は? 誰がお姫様だ。むしろアンタこそ捕らわれのお姫様だったろ」 「え? いやいや、どう考えたってベル君がお姫様でしょ。いーじゃん、捕らわれの王子様がいたって!」 「……なにが王子様だ、詐欺師の間違いじゃないのか」 半眼になったベルロックを見て、リントヴルムは笑う。 今はまだ、こんな風に軽口を叩きあう相棒のままでいい。 「帰るぞ、リント」 「そうだね」 自分にとって、パートナーは何者であるのか。まだ開かない胸中の蕾に、どのような名前をつけるのか。 深く考えるのも、結論を出すのも、今は、まだ。
|
||||||||
*** 活躍者 *** |
|
|
|||||
|
|