~ プロローグ ~ |
「遅いな」 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、留菜マナです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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あの、ハル…ああ、今の言い方じゃ両方振り向くよな。 掴みかかってる方のハル、そっちのハルを離してやってくれ。 …ひとまず収まったことにほっとする。 どちらが本物にせよ、ハルが苦しがってる姿は見たくない。 見た感じどちらもいつものハルのように見えるけれども、片方のハルとは話していて少し違和感がある。 ああそうか、このハルはあまりにも教団に対して協力的すぎるんだ。 偽者のハルの袖を引っ張って止める。 なあ知ってるか。 ハルはいつも俺の味方をしてくれるけど、教団のことは大嫌いなんだ。 俺と一緒に来たハルはこっちだ。 逃げてしまったハルを追う、あの姿なのもあって放っておけなくて… 怒りたい訳じゃない、ただ理由が聞きたい。 |
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【目的】 2人になったパートナーの本物を見極める。 【行動】 調査が終わって…私が興味を持ちそうなものを見つけたと言って止める間もなく独りで人形細工の部屋に行ってしまった成。 なかなか戻ってこないので人形細工の部屋に行こうとした所に戻って来た(偽物)。 いつものように手を繋いで来る成に特に疑問も感じずに帰ろうとしたら本物だと主張する成がもう1人現れる(本物)。 お互いがお互いを偽物だと言い合う2人の成。 成(本物)が『成子』(私のお気に入りの人形)のことも全部覚えていると言うので試しに2人の成にその事を聞いてみる。 何歳の誕生日プレゼントだったか覚えてますか? プレゼントの経緯は? 『成子』の瞳が赤い理由は? |
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二人になる方 鏡に映したようなもう一人の自分に目をまん丸に ええ、と あなたは誰? わたしはリチェルカーレよ 意味をなさない問答に途方にくれたようにシリウスを見る 呆れたようなシリウスの言葉に そんなことしないもん と僅かに頬を膨らませ じっとこちらを見るシリウスの顔 …あ 案外睫毛が長い こんな場合なのにどきどき 頬を染める それはスノードロップ これはアネモネかしら このお人形が持っているのはクリスマスローズね 細かい部分まで丁寧に作ってあるわ 聞かれたことに素直に答える 気づいてもらえた事に顔を赤く 逃げる自分を追いかけて どうしてこんなことを? わたしに化けても あんまりいいことないと思うんだけど… 何か彼女に願いがあるのなら きく |
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「カグちゃんが2人?!」 慣れた声が聞こえて、振り向けば隣のカグちゃんと瓜二つのカグちゃんがもう1人居た 慌てて2人のカグちゃんを交互に見る 隣のカグちゃんは表情にはあまり出てないが困惑した風にもう1人を見詰てる 後から来たカグちゃんは首を傾げて隣のカグちゃんを見て考え事をしてる 「…カグちゃんこの状況、どう思う?」 想像通りなら 僕のカグちゃんは第一にどんな魔術を使えばこの状態になるのかを考える 「君は僕のカグちゃんじゃないね」 10年も一緒に居るんだもん、どちらがなんてすぐ判るよ 判明した偽物を突き放して、追いかける あれが研究成果なのかな? 帰り道で腕に抱き着かれて 「嬉しいけど…照れるね」 いや、その… 胸が、ね |
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リ「ちょっと、誰よあなた!」 偽「私はリコリスよ、あなたこそ誰よ!」 リ「はぁ!?リコリスは私よ!」 しばし言い争い、二人同時にトールに振り向き 「トールなら分かるでしょ?」(ハモる (笑顔で了承し歌い出す偽物を見ながら) ええ?歌で確認なんて…私は嫌よ! 私の歌は、そういうののためにあるものじゃない 家族との大切な思い出なのに… 例え偽物と間違われたって、歌ってなんてやるもんですか 偽物看破後 トール…分かっててくれたのね でもね、前よりは、歌に対して前向きな気持ちになれるようになってきたの トールのおかげよ…ありがとう それより、早く偽物を追いかけましょう! 正体を確かめて、二度とこんなことさせないようにしなくちゃ |
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~ リザルトノベル ~ |
● 人形細工の部屋から出た途端、飛び込んできた光景に『ハルト・ワーグナー』は自分の目を疑った。 自分そっくりの偽物が、今まさに『テオドア・バークリー』とともに屋敷の外に出ようとしていたからだ。 何者かが、テオ君を誑かそうとしている。 その事実に、ハルトは苛立つ感情に任せて偽物のハルトに掴みかかった。 「お前、俺のフリしてテオ君を何処に連れて行こうとした」 「――っ」 苦悶の表情を浮かべる偽物のハルトを無視して、ハルトは続ける。 「……ああ、別に答えなくていいぞ。どーでもいいし」 ただ――何者かが自分のフリをして、テオドアを奪おうとした。 それが何よりも重要だった。 (どうやって始末しよう。テオ君の前だし、目立ったことは……) 一触即発の険悪な空気に、テオドアは慌てて止めに入る。 「あの、ハル……ああ、今の言い方じゃ両方振り向くよな。掴みかかっている方のハル、そっちのハルを離してやってくれ」 「ああ、ごめんねテオ君。すぐにこいつ放り出すから」 テオドアの訴えに、ハルトは渋々、偽物のハルトを解放した。 (どちらが本物にせよ、ハルが苦しがってる姿は見たくない) テオドアはひとまず事態が収まったことにほっとする。 (大丈夫。テオ君なら、きっと俺に気付いてくれる) 不安を和らげたテオドアを見て、ハルトは口をつぐむ。 だが、次の思いもよらない偽物のハルトの言葉によって、ハルトは不意を打たれ、驚きで目を瞬くことになる。 「テオ君。この現象は、教団の調査の手がかりになるかも」 「ハッ、なーにが教団の調査の手がかりになるかも、だ。教団の気になる奴が直接調べに来いっての。俺は教団じゃなくて、テオ君の役に立ちたいのー!」 偽物が発した予想外の言葉に、ハルトは不機嫌に言い放った。 (あーあ、偽物があまりにも俺らしくなさすぎて寒気がするし) ハルトは苦虫を噛み潰したような顔で辟易する。 (見た感じ、どちらもいつものハルのように見えるけれども、片方のハルとは話していて少し違和感がある) そこで、テオドアは思い至った。 (ああ、そうか。このハルはあまりにも教団に対して協力的すぎるんだ) 「テオ君、行こう」 テオドアは、一緒に教団に報告をしに行こうとする偽物のハルトの袖を引っ張って止める。 「なあ、知ってるか。ハルはいつも俺の味方をしてくれるけど、教団のことは大嫌いなんだ。俺と一緒に来たハルはこっちだ」 「――っ?!」 テオドアの指摘に、偽物のハルトは絶句する。 そして踵を返すと、逃げるようにしてその場から走り去っていった。 何かの実験が行われていた痕跡がある広間。 「テオ君、どうして……」 偽物である自分を追いかけてきたテオドア達を見て、偽物のハルトは唖然とする。 「ハルの姿なのもあって放っておけなくて……。怒りたい訳じゃない、ただ理由が聞きたい」 テオドアの真摯な想いに応えるように、偽物のハルトは口火を切った。 「……俺はね、誰かと話をしたいだけ。ここには俺達以外、誰もいないからね。それに俺達は、誰かの姿を借りないと話すこともままならないから」 「そうか」 偽物のハルトが満ち足りたような笑顔を浮かべるのを見て、テオドアは安堵の息を吐いた。 「テオ君、ありがとう」 その言葉を最後に、偽物のハルトはその場から姿を消してしまった。 「姿を借りるか」 「……あ、テオ君、書き留めるならこれ使いなよ」 「ハル、ありがとうな」 ハルトから渡されたペンを使い、テオドアは今回の件についてのことを報告書に記載していく。 (姿を借りる――もしかしたら、あのハルは『終焉の夜明け団』の魔術研究によって産み出された存在なのかもしれないな。それに『達』ということは、他にも仲間がいるのか) 「気になることは大体分かった?」 「ああ」 「……なら、よかった」 どこまでも優しい本物のハルトの微笑に、テオドアも笑う。 世界はどこまでも残酷だ。 けれど、寄り添えば、温かさをはっきりと感じられる。 二人でいれば、世界は光で満ちていた。 ● 「にのが興味を持ちそうなものを見つけた!」 調査が終わった後、『大宮・成』は、人形細工が置かれている部屋を見つけて目を輝かせた。 「人形細工……綺麗ですね」 『神楽坂・仁乃』は柔らかな表情を浮かべる。 そんな仁乃を見て、成は名案を思いついたというばかりに告げた。 「ねえ、にの。見に行って来てもいい?」 「ですが、今は任務中ですし……」 「任務中のちょっとした息抜きだと思えばいいよ」 仁乃が止める間もなく、成は独りで人形細工の部屋に入ってしまった。 しかし、それからいつまで経っても、成は戻ってこない。 (成、遅いですね……。何かあったのでしょうか?) 「にの、お待たせー!」 仁乃が人形細工が置かれている部屋に向かおうとした所で、成は笑顔を弾ませて戻ってきた。 「成、嬉しそうですね」 「休暇をもらえたら、今度は一緒に見に行こう。人形細工の部屋、全部制覇したくなった」 ほっと安堵の表情を浮かべる仁乃に、成は先程、見た人形細工の部屋について語る。 「はい、とても楽しみです」 「よかった。にの、約束だよ」 他愛ない会話とともに、成がいつものように手を繋いできた。 「にの!」 「――っ」 仁乃はそのまま、帰ろうとして――不意に背中にかけられた声に目を見開く。 仁乃は、隣で驚いている成を確認してから、背後へと一息に振り返る。 そこには、部屋から出てきたもう一人の成が驚愕の表情を浮かべて立っていた。 「偽物から離れて。僕が本物だよ、にの」 「いや、本物は僕の方だよ」 部屋から出てきたもう一人の成が主張すると、仁乃の隣に立つ成も負けじと言い返す。 「「僕が本物だよ!」」 エントランスホールで、二人の成が顔を合わせる。 表情、所作、全てが瓜二つ。 そっくりというレベルではない。 どちらも、成そのものなのだ。 「……成が二人?」 仁乃は明らかに戸惑っていた。 突然、もう一人の成が現れたのだから無理もなかった。 「僕だったら『成子』をあげた日の事も、あげた理由も全部覚えているよ」 必死としか言えないような眼差しを向ける成に、仁乃は『成子』をぎゅっと抱きしめる。 『成子』は、仁乃が成から貰った人形で、大切なお守りのような存在だった。 「何歳の誕生日プレゼントだったか覚えてますか?」 「それは……」 「人形をプレゼントしたのは、仁乃の4歳の誕生日だった」 仁乃の問いかけに、隣に立つ成は言葉を詰まらせる。 だが、対照的に部屋から出てきた成はきっぱりと答えた。 「プレゼントの経緯は?」 「経緯は……」 「プレゼントした経緯は、初めて会った時に前髪で目を隠していたにのをお化けだなんて言った上、強引に隠していた瞳を覗いて泣かせたら、養母に私が忙しい時はお世話になるんだから仲良くしなさいと言われて……その時に誕生日が近いことと人形が好きだと言うことを聞いて謝罪の意味でプレゼントしたんだよね」 仁乃の重ねての問いかけに、部屋から出てきた成だけが答えへと導く。 「『成子』の瞳が赤い理由は?」 「瞳が赤いのは覗いた瞳が綺麗だったから、人形も漆黒の髪と赤い瞳にしたんだ」 仁乃が尋ねると、部屋から出てきた成は嬉しそうに笑ってみせる。 「……羨ましいな。にのとの約束、守れなくなったよ」 そんな二人の姿に、隣に立つ成はどうしようもない気持ちになって言葉を吐き出した。 偽物の成は踵を返すと、逃げるようにしてその場から走り去っていく。 「仁乃、追いかけよう!」 成はそう言って、仁乃に手を差し出してきた。 「……はい」 仁乃は成の手を取る。 今度は間違えないように、と。 そして、あの時、交わした約束を、三人で果たしてあげたいと願いながら――。 ● まるで鏡に映したようなもう一人の自分を前にして、『リチェルカーレ・リモージュ』は目を丸くした。 「ええ、と、あなたは誰?」 「わたしはリチェルカーレよ」 意味をなさない問答に、二人のリチェルカーレは途方に暮れたように『シリウス・セイアッド』を見る。 二人を静観していたシリウスは彼女達の視線に気づき、僅かにため息をついた。 「……何か変な仕掛けに触ったんじゃないのか?」 「「そんなことしないもん」」 呆れたようなシリウスの言葉に、二人のリチェルカーレは微かに頬を膨らませる。 (……あ、案外、睫毛が長い) こんな場合なのに、胸が高鳴ってしまう。 じっとこちらを見つめるシリウスの顔を見て、そのことに気づいたリチェルカーレは頬を淡く染めた。 「これは何という花だ?」 二人のリチェルカーレの返答に小さく首を傾げた後、シリウスは彫刻や人形の持つ植物を指し示した。 シリウスの質問に、二人のリチェルカーレは互いに異なる反応を見せた。 「……ええ、と」 「それはスノードロップ、これはアネモネかしら。このお人形が持っているのはクリスマスローズね。細かい部分まで丁寧に作ってあるわ」 片方のリチェルカーレが困ったように首を傾げている中、もう片方のリチェルカーレは、ただ純粋に聞かれたことに答える。 答えだけでなく、花のことを嬉しそうに歌うように話す声。 宝物に触れるように、そっと人形や彫刻を辿る指先やきらきらと輝く――本物の彼女の春色の瞳。 眩しいくらい生き生きしたリチェルカーレの様子を、シリウスは優しい眼差しで追う。 (記憶力には自信がある。そうでなくても、本物のリチェを間違えたりなんてしない) 偽物のリチェルカーレに温度のない眼差しを向け、シリウスは静かに告げた。 「――お前、何だ?」 「――っ」 シリウスの指摘に、偽物のリチェルカーレの顔が目に見えて強張る。 (ありがとう、シリウス……) 気づいてもらえた事に、胸が熱くなる。 その様子を見ていたリチェルカーレは、幸せを噛みしめるように顔を赤く染めた。 「あっ、待って――」 偽物のリチェルカーレは踵を返すと、本物のリチェルカーレの制止を振り切り、その場から走り去っていった。 「ここに入ったと思うんだけど……」 偽物のリチェルカーレを追った先は、人形細工が置かれている部屋だった。 警戒心もなく、偽物を探すリチェルカーレに、シリウスはため息をついて従う。 青い花を持った人形細工を凝視している偽物のリチェルカーレに気づいて、リチェルカーレは不思議そうに声をかけた。 「どうしてこんなことを? わたしに化けても、あんまりいいことないと思うんだけど……」 「……わたし、誰かと話をしたかったの。ここは、人が滅多に来ないんだもの。それに、わたし達は誰かの姿を借りないと話すことができないから」 「そうなの」 偽物のリチェルカーレの言葉に、リチェルカーレは意外そうに首を傾げた。 会話に花を咲かせている二人を前にして、シリウスは表情を緩める。 隙の多い擬態、そこまで悪意は感じない。 「浄化師に化けるのは推奨しない。何か理由が?」 「わたし達を研究していた人達から、浄化師が来たら率先して姿を変えて学習するように命令されていたの」 シリウスが僅かに口調を和らげて問うと、偽物のリチェルカーレは確かな意思を持って告げる。 「終焉の夜明け団か。今はここにはいないのか?」 「わたし達にそのことを命令した後、何処かに行ってしまったわ」 想定外な事実を突きつけられて、シリウスは困ったようにリチェルカーレと顔を見合せた。 そこで、偽物のリチェルカーレがおずおずと青い花に触れる。 「ねえ、これは何ていう花なのかしら?」 「それはネモフィラね」 「とても綺麗……」 「そうね」 二人のリチェルカーレは顔を見合せ――やがて春の雪解けを思わせるように穏やかに微笑んだ。 (教団には、後で報告しておこう) そんな二人の様子を、シリウスは優しく見守っていた。 ● 「ちょっと誰よ、あなた!」 「私はリコリスよ。あなたこそ誰よ!」 「はぁ!? リコリスは私よ!」 エントランスホールで、二人の『リコリス・ラディアータ』が言い争っていた。 合わせ鏡のように同じような言葉、仕草をしながら、ことあるごとにぶつかり合う。 やがて、二人のリコリスは、同時に『トール・フォルクス』に振り向き、声をハモらせた。 「「トールなら分かるでしょ?」」 二人の剣幕に、トールはぎこちない態度で二人のリコリスを交互に見つめる。 (え?! リコが二人……? 姿や声もそっくりだし、言い争いも同レベル。どっちが本物なんだ……?) トールは、二人のリコリスからサラウンドで問いただされ戸惑う。 とりとめのない思考の中、導き出された考えにトールは手をポンと叩く。 「リコは歌が得意なんだ。どれだけ姿を似せられても、あの歌声は絶対に真似できないはずだ。だから歌ってもらったら、どっちが本物か分かると思う」 「歌えばいいのね」 笑顔で了承して、もう一人のリコリスは歌を紡ぎ始める。 歌い出したもう一人のリコリスを見ながら、リコリスは心外そうに言った。 「ええ? 歌で確認なんて……私は嫌よ! 私の歌は、そういうののためにあるものじゃない。家族との大切な思い出なのに……」 リコリスは表情を曇らせる。 その表情は辛く、悲しげだった。 「例え、偽物と間違われたって、歌ってなんてやるもんですか」 弱音のように吐かれた言葉とともに、リコリスは沈痛な面持ちを浮かべる。 やがて、トールは歌った方のリコリスと向き直ると、意を決したように口にした。 「……君が偽物だね。本当のリコは、歌にはつらい思い出がある。さっきみたいに『どっちが本物か確める』ような目的で軽くお願いされて歌えるような子じゃない」 「――っ!?」 トールの指摘に、偽物のリコリスは大きく目を見開いた。 そして踵を返すと、逃げるようにその場から走り去っていく。 「トール……分かっててくれたのね。でもね、前よりは、歌に対して前向きな気持ちになれるようになってきたの。トールのおかげよ……ありがとう」 「偽物を炙り出すためとはいえ、無神経なお願いしてごめん。でも、そう思ってくれるならよかった。俺はリコの歌が本当に好きだから」 屈託ない笑顔で微笑むリコリスに、トールの頬はとある想いを抱くように紅潮している。 思い出すのは、『芸術の街オートアリス』で聞いたリコリスの歌。 舞台で歌うリコリスの姿は今もまだ、トールの心を響かせている。 「それより、早く偽物を追いかけましょう! 正体を確かめて、二度とこんなことさせないようにしなくちゃ!」 「そうだな、見失う前に急いで追いかけよう!」 リコリスの言葉に、トールは真剣な表情で頷いた。 「待ちなさい!」 偽物のリコリスの追跡を開始してから間もなく、すぐに彼女を発見することができた。 「あなた、何者なの?」 「私は――」 「言っておくけれど、私の名前はナシだからね」 偽物のリコリスの言葉は、同時に開いたリコリスに先んじられて掻き消える。 偽物のリコリスは改めて言い直した。 「ここの人達は、私達のことを『ドッペル』と呼んでいたわ」 「『ドッペル』か、見るのは初めてだな」 ぴりっと張り詰めた緊張感が溢れる中、トールが苦々しくつぶやいた。 「トール、知っているの?」 リコリスは不思議そうに尋ねる。 「普段は霧の塊だけど、縄張りに入った者の姿を鏡写して化ける生物さ。だけど、会話することはできなかったはずだ」 「それは私達が、ここの人達によって産み出させた特殊な『ドッペル』だからよ」 トールが抱いた疑問に、偽物のリコリスはそう応じた。 「終焉の夜明け団が、魔術研究によって産み出した特殊な『ドッペル』か」 「今度、終焉の夜明け団に会ったら、二度とこんなことさせないようにしなくちゃ!」 複雑な想いを滲ませたトールを一瞥し、リコリスは不満そうに頬を膨らませた。 ● 「……お待た、せ?」 『カグヤ・ミツルギ』が人形細工の部屋から戻ってくると、『ヴォルフラム・マカミ』の隣には、既に自分が居た。 「カグちゃんが二人?!」 聞き慣れた声が聞こえてきて、ヴォルフラムが振り向く。 そこには、隣で腕に抱き着いているカグヤと瓜二つのカグヤがもう一人居た。 「はて?」 部屋から戻ってきたカグヤは、予想外の出来事に首を傾げた。 カグヤは、もう一人のカグヤを注意深く観察する。 (既に居た私は、ヴォルに触れているようである。……ならば、幻と言う訳ではないようだ) カグヤはこの状況を思考し、さらに模索した。 (感情表現、口数の少ない私は模倣しやすかったのだろう。しかし、屋敷を調査している間に私そっくりのマドールチェを作り上げる……は時間的に無理。第一、あの私の関節にマドールチェ特有の珠体関節はないようだし) カグヤが考え込んでいる中、ヴォルフラムは慌てて、二人のカグヤを交互に見遣る。 (隣のカグちゃんは表情にはあまり出ていないが、困惑した風にもう一人を見つめてる。後から来たカグちゃんは首を傾げて、隣のカグちゃんを見て考え事をしてる) 「カグちゃん、この状況、どう思う?」 そこで、ヴォルフラムは核心に迫る疑問を口にした。 (僕のカグちゃんは第一にどんな魔術を使えば、この状況になるのかを考える) ヴォルフラムの想像通りなら、カグヤはそう答えると確信したからだ。 顔を上げたカグヤは、思考を停止して聞かれた事を答える。 「……興味深い。どんな魔術を用いれば、ここまで人物を模写、模倣できるのか……」 「この、状況……?」 ヴォルフラムが発した問いかけに、二人のカグヤはそれぞれ違う反応を示した。 それを確認したヴォルフラムは、隣で戸惑っているカグヤに視線を移す。 「君は、僕のカグちゃんじゃないね」 「――っ」 ヴォルフラムの指摘に、隣にいたカグヤは振り返り、目を見開いた。 「10年も一緒に居るんだもん、どちらがなんてすぐ判るよ」 「……ヴォル」 ヴォルフラムは、判明した偽物のカグヤを突き放す。 偽物のカグヤは踵を返すと、逃げるようにしてその場から走り去っていった。 ヴォルフラム達は、偽物のカグヤを追いかけていた。 「あれが研究成果なのかな?」 「恐らく……」 ヴォルフラムの言葉に、カグヤの思考は一つの推論を導いた。 『終焉の夜明け団』は、この屋敷で魔術研究を行っていた。 それは先程、遭遇したあの偽物と繋がっている可能性がある。 「この先に何があるのか……」 カグヤは静かに告げる。 全てを結論付けるには、要となるピースが足りない。 「……ちゃん、カグちゃん!」 カグヤが目を細め、更なる思考に耽ろうとした時、ヴォルフラムの顔が目の前に飛び込んできた。 「ヴォル……?!」 周囲を確認しようとして顔を上げたカグヤは、毅然と立っていた偽物のカグヤの姿に目を見開いた。 口元に手を当てて、咳払いを一つ。 ヴォルフラムが目の前にいたことで、妙に早い心拍数を落ち着けてから尋ねた。 「……貴方は、『終焉の夜明け団』の関係者? それとも、魔術研究によって産み出させた存在?」 「ここの人達は、私達のことを『ドッペル』と呼んでいた……」 カグヤの最後の問いに、偽物のカグヤは表情にわずかな亀裂を入れる。 その理由について、もう疑念を差し込む余地はなかった。 書物で読んだことがある。 『ドッペル』は普段は霧の塊だけど、縄張りに入った者の姿を鏡写して化ける生物。 恐らく、ここにいる『ドッペル』は、終焉の夜明け団の魔術研究によって産み出させた特殊な『ドッペル』だ――。 「もう一人のカグちゃん、君はここで何をしているの?」 「……屋敷を、訪れた人の行動を学習している」 状況説明を欲するヴォルフラムの言葉を受けて、偽物のカグヤは淡々と答える。 「ここの人達が、学習した私達を使って、危険分子を排除しようとしているから」 偽物のカグヤは謎の言葉をつぶやきながら、自分で自分の腕を押さえる。 そして、その言葉を最後に、偽物のカグヤはその場から姿を消してしまった。 残ったのは、終焉の夜明け団が『ドッペル』を使って何かを画策しているという事実だけだった。 教団へ向かう帰り道。 カグヤは偽物がしたように、ヴォルフラムの腕に抱き着いてみる。 「こうしたら、嬉しい?」 「嬉しいけど……照れるね」 腕に伝わる言いようもなく柔らかな感触に、ヴォルフラムは顔を赤めた。 「いや、その……。胸が、ね」 「うん、知ってる。だから、何時もはしない」 だけど、今だけはこうしていたい――。 そう願うように、カグヤは甘やかな声でつぶやいた。
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*** 活躍者 *** |
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[3] リチェルカーレ・リモージュ 2019/04/15-23:08
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[2] カグヤ・ミツルギ 2019/04/15-21:55
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