~ プロローグ ~ |
人がいなくなってから長い年月が経った屋敷にて、一つの人影が動いていた。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
どうもこんにちは、虚像一心です。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ベ 空き家なのを良い事に誰か勝手に住んでいるのだろうか ヨ 荒らすでもなく綺麗にされているとのことですから ならず者などではなさそうです シェラと対面して内心驚きながらなすがままにもてなされ大体の事態を察する マドルーチェ…? もっと単純な 人に仕えるための自動人形? 説得で解決できる様子でもないので1日付き合う事に シェラの得意な料理レシピを1つ教えて貰い一緒に実食まで ヨナは慣れない手つきで 喰人は卒なく手伝う こんなに美味しいものを毎日食べられて シェラの主人はとても幸せだったろうと褒め 本来の主の記憶を思い起こさせるような言葉を織り交ぜる 片づけを一緒にした後シェラの手入れ シェラさん ここに座ってください と促し (続 |
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人形の扱いなら任せておけよ〜、 なんたって、マリオネッターだからな! エクソシストしてると、いろいろ奇怪なものは見るけど、 人形が動くのも、すごい話だよなー。 まぁ、いや俺も人形だけどさ、こいつはマドールチェじゃあないだろ? 呪いか、魔力か。まぁ、執念が呪いみたいな働きをしてるとか、そういう感じか? とりあえず、綺麗にしてやるか。 はぁ?人形なんだから、服ひっぺがしても問題ないだろ。 え、えっち?! ナニカ、お前だれがえっちなんだよ! くっそー、お前の不器用で直せるもんなら治してみろっつの! ほらな、ったく、目隠しして直せってわけわからないだろ… |
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~ リザルトノベル ~ |
「空き家なのを良いことに、誰かが勝手に住んでいるんだろうか?」 指令を受けてやってきた、喰人の『ベルトルド・レーヴェ』。 今回の指令は、誰も住んでいない屋敷の調査だ。 曰く、長いこと誰も住んでいないその屋敷は、だが何故か、中が綺麗になっているらしい。 普通に考えてそれは、屋敷の持ち主の許可なしに誰かが住んでいると。 そう考えるベルトルドに、祓魔人の『ヨナ・ミューエ』が言う。 「でも荒らすわけでもなく綺麗にされているとのことですから、ならず者などではなさそうですよ?」 そう、奇妙な点はそこ――何故綺麗にする必要がある? 誰も住んでいない古い屋敷を掃除すると怪しまれる――まあ、綺麗好きならばわかるが、だがそのような危険を冒してまですることか、と。 目的地までの道中、謎の答えを推測していた二人の前に、ようやく屋敷の姿が。 静かな屋敷の前に来た二人はその扉を開ける――すると。 「オ帰リナサイマセ、我ガ主様」 中には二人が来ることを知っていたのか、頭を下げた一人のメイドが。 ……どういうことだ? 何故こんなところにメイドが? 「オ疲レデショウ。只今オ茶ヲオ持チシマスノデ、オ部屋ニ」 メイドは右手にある応接間らしき部屋を指し、二人に一礼をした後、どこかに行ってしまった。 理解が追い付かない二人は、しかしメイドから敵意を感じなかったことから素直に応接間に移動した。 部屋に入った二人は、大きなソファに座る。 ――ここはあのメイドが掃除をしているのか、ソファはもちろんのこと、部屋には埃一つ落ちていない。 だがしかし。 この屋敷の主は既にこの世にいない、なのに何故あのメイドはここにいる? それに初対面であるはずの自分達に向かって「主様」……これは? 「オ待タセシマシタ、オ茶デス」 戻ってきたメイド――彼女は先ほど言った通りにお茶を持ってきて、それを二人の前に出した。 「サア、主様。『シェラ』ニナンナリトオ申シツケクダサイマセ」 シェラ――そう言った彼女に、ヨナが即座にあることを察した。 対面した時は内心驚きながらなすがままにもてなされはしたが、大体の事態は察することができた――そう。 「あなたは……マドルーチェ?」 シェラの顔には所々に穴が開いている。そこからは黒い空間が。 そして指を見れば、小指と中指が欠けている。 そこから導き出される答えが人形『マドルーチェ』であると。 ――いえ、それよりもっと単純な……人に仕える為の自動人形……? なるほど、これでわかった――この屋敷の中が綺麗になっている、その理由が。 彼女は自分の主人を待っているのだ、いつまでも。 いつ主が帰ってきても良いように、彼女は常に掃除をしていた。だから屋敷の中は綺麗なのだ。 なら、ここで彼女に真実を伝えればそれで今回の指令は終わり……だが。 「――――」 ヨナがベルトルドに視線を向けると、彼は頷いた。 そう、これは説得で解決できるものではない。そんな残酷なことなどできるものか。 だから二人は決めた、シェラを一日だけ付き合うことに。 「主様、主様……ドウカシェラニナンナリト」 主の命を待ちわびているシェラに、ヨナは言う。 「じゃあシェラさん、一つ良いですか?」 「ハイ、ナンナリト」 「私に、あなたの得意な料理レシピを一つ教えてくれませんか?」 「ワカリマシタ。デハコチラニ」 久方ぶりのその命にシェラは即座に反応――キッチンへと。 ――――………… 「デハ主様、オ怪我ガナイヨウニ」 「ええ、ありがとうございます」 綺麗なキッチンに来たヨナは、シェラが用意した食材をシェラの言う通りに調理し始めた。 慣れない手つきではあるが、シェラの的確な指示によって辛うじて怪我をしないでいて。 その間、ベルトルドは卒なくヨナを手伝って。 苦戦しながらも、だがその料理は完成した! 「大変美味シソウデゴザイマス」 自作の料理を褒められたことに嬉しくなったのか、少しだけ顔がにやけたヨナは、 「シェラさん、一緒に食べましょう」 一時の料理の師と共に食べることを提案した。 そも、ヨナが作った料理はベルトルドはもちろんだが、シェラの分も含まれている。 つまり、二人では食べきれない量であるのだ。 そのことを察してか、シェラは「ハイ、喜ンデ」と言って、テーブルに並べた料理の前に二人を座らせ、自分も座る。 手を合わせた三人は、美味しそうな匂いを放つ料理を一口、と。 「――ああ、美味しいですね」 自分で作ったものなのだが、予想以上に美味しかったらしく。 安心したヨナは嬉しそうな顔を。 「流石ハ主様デス」 「いえ、シェラさんの教えが上手だったからですよ」 表情を変えずに食べるシェラから褒められたヨナ――しばらくして。 「こんなに美味しいものを毎日食べられて」 ヨナは言う。 「シェラさんの主人はとても幸せだったんでしょうね」 シェラの本来の主の記憶を思い出させるような言葉を。 そう、自分達はシェラの主ではない。彼女には仕えるべき主人がいる。 自分達からでは真実を告げることはできないが、しかし自分で気づくならば、と。 「エエ、主様ノ嬉シソウナオ顔ヲ見ルト、シェラモ幸セデス」 だがシェラはヨナの方を見ながらそう言った――失敗だ。 さりげなく気づかせる作戦が失敗したので、三人は食べ終わった食器を片付ける。むろん、シェラが一人でやろうとしたところを、ヨナが阻止して。 片づけが終わるとヨナはシェラに、 「シェラさん、ここに座ってください」 一つの椅子に座るように促した。 もちろん断ることをしないシェラはヨナの言う通りに座った。 「主様、一体何ヲナサルオツモリデ? シェラハ――」 「先ほどのお返しに体のお手入れをさせてください。女の子なんですから、身だしなみはちゃんとしないと」 彼女は長い間手入れをしなかったせいで、その体がボロボロになっていた。 だからヨナは料理を教えてもらったお礼に、彼女の体の手入れを申し出たのだ。 「ソウデスカ。デハオ願イシマス」 許可をもらったヨナはまずシェラの髪を梳かしていく。丁寧に、丁寧に……結い直して。 「――綺麗な髪ですね」 「エエ、主様モシェラノ髪ガ大好キダト、ソウ仰ッテイマシタ」 髪を梳かす間、ヨナはシェラに主との思い出を語らせようとして。 少しだけ正常になったのか、シェラは『元の主』を思い出した。 「そうなんですね。シェラさんは主人のどこが好きなんですか?」 「全テゴザイマス。アノ無邪気ナ笑顔ヤ暖カイ声……全テガ、ワタクシハ大好キデス」 「そうですか」 梳かし終え、結い直し終わった――次は体だと。 濡らした布で体の汚れを落とし始めた。 「アリガトウゴザイマス、主様。シェラハ大変嬉シク思イマス」 「いいんですよ――シェラさんは、私のことは好きですか?」 「オカシナコトヲオ訊キニナラレマスネ、主様ハ。エエ、大好キデス」 「じゃあ、あそこで背中を向けているベルトルドさんは?」 「モチロン、好キデス。主様モ、主様モ……シェラハ大好キデス。主様ハドウデスカ?」 「ええ、私もベルトルドさん、そしてシェラさんのことが好きですよ」 女性の体に気やすく触れられないベルトルドはシェラの方を見まいと、必死に背中を向けている。 彼にも聞こえているだろう――また失敗したことを。 ヨナがシェラに思い出を語らせたのは、目の前にいる自分達は本当の主ではない――そう気づいてほしかったからだ。 だが彼女には一体どう見えているのか、彼女は二人のことを『自分の主人』と認識しているようだ。 ならば……もう。 「――よし、シェラさん、体の汚れは一通り落ちましたよ」 長い時間をかけ、シェラの体を拭き終わったヨナ。 メイド服の下も汚れていたので、脱がした途端にベルトルドはどこかに行ってしまった。 まあそのお陰で素早く終わることができたのだが、それは置いておいて。 「アリガトウゴザイマス、主様。コレデシェラハ――主様?」 突然、ヨナはシェラの手を握った。 小さく、柔らかなその手が包むのは無機質な人形の手。 「シェラさん――私達が帰ったら、あなたに教えてもらった料理、また作ります」 悲しそうな声で、うつむくヨナ。 「私……シェラさんとあなたのご主人が愛した味――ずっと、ずっと覚えていますから」 その言葉は、まるで今生の別れのような言い方だ。 ――それもそうだろう。彼女には、シェラにはもう時間がない。 いくら自動人形であっても、魔力を補給しなければいつまでも動くことは叶わない。 ……シェラにはもうその魔力が殆ど残っていないのだ。 主がいなくなってもずっと動き続ける彼女は、もうその機能が停止する寸前まで――故に。 涙を見せまいとするヨナを、だがシェラは。 「――主様、ドコカ具合ガ悪イノデスカ? デシタラ今スグオ休ミヲ……」 ――――………… 「…………」 部屋の扉の向こう側にいるベルトルド――先ほどのヨナの無言の言葉をしっかりと守り、何も言わなかった。 恐らく自分が何か言えば、シェラを傷つけたかもしれない。 だからこれは最善の策だ……が。 「なんだか、スッキリしないな」 空気と化した己は何もできないのか――そうベルトルドは思う。 ■■■ 古びた屋敷の調査に向かっている浄化師――『キールアイン・ギルフォード』と『ナニーリカ・ギルフォード』の二人。 姉弟の関係である二人は、今回の指令も難なく解決できる――そう呑気に考えていると、件の古屋敷が姿を現した。 「うっわ~、今にも何か出そうな雰囲気。よくこんな屋敷を根城にしようと思ったなぁ」 「逆に考えたんじゃない? こんな場所だから良いって」 今回の奇妙な指令内容――それは誰かが勝手に住んでいるのだろうと、二人は考えた。 なるほど、確かにそう考えれば、誰も住んでいない屋敷の中が綺麗になっている理由もわかる。 人間誰しも綺麗な場所で住みたいだろう――だが詰めが甘かった。住んでいることがバレたのだ。 バレた結果、浄化師に指令が回った――これが今回の流れだろう。 「そんじゃ、さっそく開けるよ~」 「うん、怪我しないようにね」 屋敷の前に来た二人は、早速扉を開けて中に入ろうと。 ドアノブを握り、扉を開けた二人の視界に入ったのは―― 「オ帰リナサイマセ、主様」 少しだけ体が汚れていた……一人のメイドの姿だった。 耳が良いのか、それとも最初から知っていたのか、キールアインとナニーリカが入ることを知っていた彼女は扉の前で待機していたようで。 軽く頭を下げた彼女に、二人はその思考が停止。 何故こんな人がここに……? と。 誰も住んでいない屋敷に住み着いたナニカ――その正体はまさかのメイドと来た。 予想外のその展開は、二人の思考を停止させるのには十分な衝撃だ。 固まる二人に、しかしメイドは何事もなく頭を上げて二人を見る。 「オ疲レデゴザイマショウ。イツオ戻リナラレテモイイヨウニ、主様ノ好物ノオ茶ガ――」 「え、まさか――俺と同じ『マドルーチェ』?」 「……ハイ?」 キールアインが放ったその疑問は、だがメイドにも疑問を抱かせた。 我が主様は一体何を言っているのだろうか、と。 「あー、確かによく見ると頬に穴開いてるし、指も欠けてる――あなた、人形なの?」 「シェラハ人形デス。主様ニオ仕エスルメイドデス」 驚いたメイド『シェラ』は、だがすぐに元に戻って丁寧に答えた。 自分は人形、主に仕えるメイドだと。 その言葉を聞いたキールアインは、何故か面白そうな物を見た顔に。 「へ~、エクソシストしてると色々奇怪なものは見るけどさ、人形が動くのもすごい話だよなー」 「う~ん……そりゃあ確かに色々不思議なものは見るけどさ、マドルーチェのキルが言うのはおかしな話じゃない?」 ナニーリカの言う通り――マドルーチェが動くマドルーチェを不思議に思うのは逆に不思議な話で。 キールアインが、目の前のマドルーチェを興味津々で見ているその光景は理解できないと。 遠回しにそう言った姉のナニーリカに、だが弟のキールアインは反論。 「いやまぁ、俺も人形だけどさ、こいつはマドルーチェじゃないだろ?」 「え……?」 それにはナニーリカも疑問を隠し切れなかった。 確かに目の前にいるメイド『シェラ』は人間ではない。頬の穴と欠けた指、言葉から彼女は人形だというのはわかる。 人形――それはマドルーチェに他ならない、なのに。 マドルーチェのキールアインからしてみればそうではないらしく。 その理由をナニーリカは訊く。 「こいつは……呪いか、魔力か。まあ執念が呪いみたいな働きをしてるとか、そういう感じかな?」 「あー、そういうことかぁ」 マドルーチェの動力は魔力、それがなければ動くことはできない。 しかしシェラの汚れ具合を見る限り、ここにいるのは彼女一人らしい。 魔力を補給しないマドルーチェはそう長く持たないからで。 キールアインが言うように、彼女には何かしらの思いが執念となって、それが呪いと化して彼女を無理矢理動かしている――そうに違いない、と。 「確かにそうだね~。人間の想いとかって大きいくくりで『呪い』とか言われるけど、これはそういう類の何かかな」 執念、故に動く。 呪い、故に動き続ける。 悲劇の運命を背負っているシェラは、だが二人の話などどうでも良いのか。 「主様、シェラニナンナリトオ申シツケクダサイ」 二人のことを『主』と呼び、命令を求めた。 命令を、お世話をさせてくれと。 「主はもういないのに、それでも命を受けるのかこのメイドは。……なんか可哀そうだな」 「う~ん……私達のことを主人だと思っているみたいだし、どうにかしてあげたいんだけど……」 仕えるべき主、本来の主人は既にこの世にいない――それは役目を終えたという意味なのだが。 それを知らない、更には主人の顔さえ認識できないシェラは、それでも『仕える』一心で動き続けている。 ……なら、もうそろそろ休んでもいいだろう。 そう思う二人は、だがその手段がわからない。 長い年月、主を待ち続けた人形からその役目を降ろさせる為には一体どうすればいいのだろうか。 「――とりあえず綺麗にしてやるか」 「じゃあキル、お願いね」 「おう、人形の扱いなら任せておけよ~。なんたってマリオネッターだからな」 わからないが、だがまずは体を綺麗にしてやろうと。 体に付いた汚れを落として、頬の開いた穴や欠けた指を手当てしてやろうと。 キールアインが、微動だにしないシェラノ服に手をかけた――その瞬間ッ! 「ちょ、ちょっと何してるの!?」 ナニーリカが驚きの声を上げた。 「なにって……体の手当てをする為に服を脱がそうと――」 「何考えてるの!? 信じられない!」 「はぁ? 人形なんだから服ひっぺがしても問題ないだろ?」 ナニーリカが何故怒っているのかわからないキールアインは、そのままシェラノ服を脱がそうと、しかし。 「こら、キルのえっち! 女の子なんだよ!?」 「え、えっち!? ナニカ、お前誰がえっちなんだよ!」 「キルに決まってるでしょ! ほら、男子はあっち行って、あっち!」 体の手当てをしてやろうとしたら「えっち」と言われ。 更には近づくなと言わんばかりに威嚇を受けたキールアイン。 彼からしてみれば、こんな理不尽なことがあるかと思うだろう。 舌を出してキールアインを部屋から追い出したナニーリカ。 「くっそ~、お前の不器用で直せるもんなら直してみせろつーの!」 自分の仕事を奪われたキールアインは扉一枚の先にいる姉を挑発した。 ――ナニーリカがキールアインを追い出した理由は、男に女の体を見られたくないから、だから追い出した。 しかし、追い出したはいいものの、直すのは自分しかいない。 それも不器用な自分しか。 けれどもそんな簡単に折れてたまるか、とナニーリカはシェラに有無を言わさずに手当てをしに取り掛かった、が。 不器用故に、その作業はあまりにも難しかった。 「……キル、和解案を提示するよ」 追い出されて、一人不貞腐れていたキールアインに、暗い顔をしたナニーリカが扉の先から現れた。 「なんだよ、やっぱりできないんじゃないか」 理不尽に追い出した結果――『できない』と言って助けを求められればなれば流石に腹が立つもので。 内心怒っているキールアインに、だがナニーリカはあるものを渡す。 「……なにこれ?」 「これで目隠しして直してあげて。でも変なところは触っちゃダメだよ」 「は?」 ナニーリカが提示した和解案は、つまりはこうだ。 シェラの体を直せるのはキールアインだが、男の彼がシェラの裸を見るのはご法度。 その為にはどうすればいいのか――『目隠し』だと。 そうすれば何事もなく無事に直せるのだと。 そう言われたキールアインは絶句、しかし拒否権はなく。 無理矢理目隠しをされた彼は、シェラの前に連れてこられた。 「アノ……主様ハ先ホドカラ何ヲ――」 「ごめんね、もう少しで綺麗な体になるからもうちょっと我慢して」 「ハァ……」 「おいナニカ、どこに何があるのかぜんぜ――」 「こらキル! 変なところ触っちゃダメって言ったでしょ!」 己の感覚と想像力で直せと申すか、この姉は……。 むろん、そんな超人的な技術は持っていないので。 「――ほらな。ったく、目隠しして直せって言われてもわけがわからないだろ……」 どこに何があるのかわからない彼は、いつまで経っても直すことができない。 結果、ただ時間が過ぎただけの無駄に終わった。 「申シ訳ゴザイマセン、主様ノオ手ヲ煩ワセテ、更ニハ――」 「ああいや、謝んなくていいよ。こんなのいつものことだから」 「イツモノコト……ナノデスカ?」 「まあ、そうだねぇ。だから心配せずに、そのまま体が綺麗になるのを待ってて」 「誰かさんのせいで一向に進まないけど」 「……アリガトウ、ゴザイマス。主様」 「だから、私達は『主様』じゃないって」 主ではないのに、何度言っても同じことを言うシェラは。 徐々に体が直っていく――だが。 その無機質な顔は、どこか寂しそうな表情に見えたのは気のせいだろうか。 ■■■ 体の汚れを落とされて生まれ変わったように綺麗になったシェラ。 やってきた浄化師にお礼を言い、だが彼等は屋敷から出て行ってしまった。 しかし、彼等はまた戻ってくるだろう――『主様』なのだから。 主が帰ってくるのはこの屋敷、それは当然のことだ。 だから、自分は主が帰ってくるその時を待ちわびながら、役目を全うするまでのこと。 ――しかし。 「……ナンダカ、体ノ動キガ、オカシイデスネ」 流石に働きすぎたのか、体が言うことを聞かない。 人形である自分は疲れることはない――だが道具は消耗するもの。人形である自分も当然体のどこかが消耗していく。 今回もそれだろう。だから今回も主に直してもらえばいい。 「デモ少シ……『疲レタ』カモシレマセン」 疲れた感覚はわからないが、嗚呼……これが主人のよく言っていた感覚なのだろうと。 懐かしい記憶を思い出し、嬉しく思う彼女は。 「申ケ訳、ゴザイマセン……少シダケ、オ休ミヲ…………」 ちょっと動きすぎただけ。体のどこかに何かが入ったのだろう。 動けないほどではないが、それでも満足に働く為には動かない方が良い。 帰ってきた主を迎えてこそ、人形の自分は『メイド』として在るのだ。 「主様……ワタクシ、ノ……大好キナ、アル、ジサマ…………」 心からお慕い申しております、と椅子に座った人形はそう言って。 その体を、機能を停止させた――――永遠に。
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*** 活躍者 *** |
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