~ プロローグ ~ |
砂塵の街サンディスタムの郊外にて発見された、終焉の夜明け団が設置したと思われる魔方陣を破壊した帰り道。 |
~ 解説 ~ |
終焉の夜明け団が設置したと思われる魔方陣を破壊した帰り道、皆様は攫い風に遭い、離れ離れになってしまいました。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、もしくはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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…なんだよ、今の 遠くから自分を呼ぶ声 シキ? はいはい。俺も会いたかった(棒読み) …ああ、アンタもか 砂トカゲ…いい顔してるな(なでなで) ほんと、人慣れしてるんだな …塩? 砂糖? 一体なにを。落ち着け 砂トカゲに乗ってみる …乗り心地は、悪くない 帰るぞシキ。疲れた なんなんだそれ… 武器、こっちに。そのままだと乗りにくいだろ なんだよ、その反応… いっつも。俺は優しい 他の浄化師も、無事だと良いけど …ひとまずアンタを見つけられて、助かった ああ…もう、うるさい …星が、見えてきた |
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※アドリブ歓迎します (ララエルとはぐれてしまい) おおーいっ、ララエルーッ!! (どうしよう…人攫いになんか連れていかれたりしたら。 アリ地獄なんかに足をとられていたら) (その時、遠くからラウルを呼ぶ声が) ララ!良かった、無事で…こちらの方は? そうでしたか、良かった…ララエルを保護してくださって ありがとうございます。 砂トカゲ…ですか?これを僕たちに? 何から何までありがとうございました、ディラさん。 (ララエルを自分の前に乗せ、支える) ほら、ララエル。星が見えてきたよ。 |
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二人だけになった所をディラに助けられる 仲間とはぐれたのは心配だがディラに任せたほうが良いと判断し帰路へ 砂トカゲの砂を払い首筋を撫でながら 町までお世話になりますね と声かけ 先に乗った喰人の前に収まり出発 薄っすら見え始めた星に目をやり 特に意味のある事を話す訳でもなく 砂をわける音だけが耳に響き 何となく話が弾まないのは最近の指令の影響 利己的な動機で契約したのを知られずにいたかったヨナ(#115act部 図らずも過去の記憶を引き出され取り乱した喰人 お互いその事について何か話す事は無かった わざわざ話すべきではないと感じた 視線は空に向けたままぽつぽつと …私 サンディスタムのヘリオポリス 中心部近くに住んでいました 続 |
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わ 案外視線が高い… シリウスに手伝ってもらい砂トカゲに乗り歓声 わたし達ふたりが乗っても平気? 彼の言葉に目を丸く …どうして? 返ってきた言葉に首を傾げ あんなこと、って… 赤くなるも シリウスの悲痛な顔を思い出す 取り乱して見えたのはあの時だけだったけど シリウス ちゃんとわたしを見て あのね …わたしのこと、好いてくれてるって 思ってもいいの? それならどうして そんな辛そうな顔でわたしを見るの? 苦し気な彼の顔は いつもより幼く見え 地面に降りて そっと彼の頬に触れる わたしもシリウスが好き まっすぐに立つあなたに 相応しくなりたいとずっと思ってた 触れないなんて言わないで わたし もっとあなたの近くに 頬を染めて口を閉じる 一緒に帰ろう? |
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一体なにが…?あら、皆さんは…?イザークさんは? 落ち着いて、身体に怪我は無い…荷物と水はある…周囲に敵の姿はない。信号拳銃もある、 マヤ(人形)がいてくれて良かった。 体力の消耗も考えて下手に動かない方がいいだろう しのげそうな所で待機 こうやって見ると周囲には何も無い 不安はある…でも、 イザークさんの気配を感じたら、信号拳銃で合図 (砂の中から現れた砂トカゲに驚いて) えっ何!?…イザークさん…あぁこの生き物も助けに来てくれたんですね はい、ご心配をおかけしました。 風が強いですね…気温も下がって あの、何を…あぁそうですよね寒さをしのぐには近くに居た方がいいですよね でも少しだけ、寄りかかるように。 |
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~ リザルトノベル ~ |
● 自身をとり巻いていた風がぴたりとやむ。 口の中に入った砂を吐き出して、『アルトナ・ディール』は燃えるような夕暮れの空を見上げた。 「……なんだよ、今の」 周囲を見渡せば、ともに帰路についていたはずの浄化師たちどころか、『シキ・ファイネン』もいない。 遠くに見えていた街の代わりに砂の大地が茫漠と広がっており、空が急速に夜に呑まれていくにつれて、気温は下がりつつあった。 「ここはどこだ?」 そしてシキや仲間たちはどこに行ったのか。 むやみに歩き出すべきでないことは確かだった。しかし、迎えがくるという保証もない。 思案するアルトナの聴覚がかすかな物音に反応した。すさまじい速度で近づいてくる。これは――なにか大きな生物が、砂上を疾走する音と、 「アルトナーッ!」 「シキ?」 しっかりと耳に届いた声に、アルトナは剣の柄にかけていた手を外す。音源はすでに視認できる距離に迫っていた。 砂煙を巻き上げて、巨大な生き物がアルトナの目の前で停止する。それを待たずに、その背に乗っていた青年が飛び降りた。 「会いたかったよ、アルー!」 今にも抱きついてきそうなほど歓喜しているシキからすっと一歩離れて、アルトナは彼を運んできた生き物にちらりと目を向ける。 爬虫類特有の硬い鱗に包まれた体、琥珀の双眸。間違いなく、これが砂トカゲだろう。 「アールー」 「はいはい。俺も会いたかった」 「ルーくん冷たいじゃんか、ぶーぶー!」 感情がこもっていない口調で再会を喜ぶふりをしたアルトナに、シキが唇を尖らせて不満を訴える。 だが、次の瞬間には眉尻を下げてあたりに視線をさまよわせた。 「……やっぱ、他の浄化師は一緒じゃないんだな。アル」 「……ああ、アンタもか」 そうやすやすと倒れることはないだろうが、なにせ大抵の者が不慣れな砂漠での遭難だ。仲間の身を案じずにはいられない。 頭を軽く振って思考を切り替え、アルトナは砂トカゲに手を伸ばした。 「砂トカゲ……。いい顔してるな」 きょとんとしたシキは、まじまじと砂トカゲの顔を見る。 「いい、かお? まー、綺麗な目だと思うけどさ」 砂トカゲはアルトナに撫でられても身じろぎひとつしなかった。ひんやりとした体温と鱗の硬さを堪能するように、アルトナは砂トカゲの頭や首に触れる。 「ほんと、人なれしてるんだな」 「アルが生き生きしてる……!」 パートナーの珍しい一面に感動したのも束の間、シキは悔しくなってその場でばたばたと地団太を踏んだ。 「俺のときは塩なのに! 砂トカゲには砂糖!」 「……塩? 砂糖?」 「そう! 俺も砂糖がいい!」 「一体なにを。落ち着け」 「優しく接して、げほっ」 自分で巻き上げた砂埃を吸ってむせるシキをおいて、アルトナは砂トカゲの背にひらりと乗った。 「……乗り心地は、悪くない」 「悪くないっつーことは、いいって意味だよなー? アル!」 得意げに言ったシキに一度唇を引き結び、アルトナは視線を逸らす。 「帰るぞ、シキ。疲れた」 「おうっ! そうだな、帰ろーぜ!」 子どものように目まぐるしく表情を変えるシキは、もう笑顔になっている。エネルギーあふれるパートナーにアルトナはひとつ息をついた。 「よろしくな、砂トカゲちゃん!」 「ちゃん……。なんなんだそれ……」 相手が人でも動物でも、シキの距離感の近さは変わらないらしい。 砂トカゲに触れた彼にアルトナが手を差し伸べた。 「武器、こっちに。そのままだと乗りにくいだろ」 「ん? お、おう」 素早く瞬きながら、シキが携帯したままの狙撃銃をアルトナに渡す。 「なんだよ、その反応……」 ぼんやりしていたシキがへらりと相好を崩した。 「え、いや。アルが優しくて、思わず、感動、しちまった」 「いっつも。俺は優しい」 噛み締めるように言うシキに一音一音区切ってアルトナが返す。えー、と揶揄とも疑問ともとれる声を上げながら、シキがアルトナの後ろに乗った。 「……そうだな、優しいよな。優しすぎてシキさん、泣けてきちゃいそう」 ふん、と鼻を鳴らしたアルトナが砂トカゲの頭に触れる。 巨躯の生き物は砂を滑るように移動し始めた。 「他の浄化師も無事だといいけど」 「ホントだな。なんともねぇといいけど」 「……ひとまず、アンタを見つけられて、助かった」 ぽつりとアルトナがこぼす。 一拍の間をあけて、シキが歓声を放った。 「きゃー! ルーくんがデレたー!」 「ああ……もう、うるさい」 はしゃぐシキに眉を顰め、アルトナは空を仰ぐ。 「……星が、見えてきた」 ● 呼吸もできないほど強かった風が、嘘のようにやんだ。 咳きこむことも忘れ、『ラウル・イースト』は慌てて周囲を見回す。 「おおーいっ! ララエルーっ!」 叫びに等しい声は、海のように果てなく広がる砂漠の中空で解けて消えた。 周囲に仲間はいない。『ララエル・エリーゼ』もいない。ラウルの背筋を悪寒が走り、全身からさっと血の気が引くのが分かった。 「ララ……」 (どうしよう……。人攫いなんかに連れて行かれたりしたら。アリ地獄なんかに、足をとられていたら) 砂漠の片隅で途方に暮れて座りこみ、泣いているかもしれない。身動きがとれないのかもしれない。敵に襲われているかもしれない。 ラウル、ラウル、と泣きじゃくる少女の声音が耳の奥で響いた気がした。 「ララエル! 返事をしてくれ!」 喉が裂けようと構うものかと、愛しい彼女の名を何度も呼ぶ。 嫌な想像ばかりが幻聴の合間を縫うように閃く。 「ラウルー!」 「ララエル、すぐに助けに行くよ。だからどうか……」 「こっちですー!」 「……待ってくれ、本当に聞こえている?」 妙に質感がはっきりしている声に、ラウルは疑問を抱いて視線を動かす。東の方からなにかがものすごい速度で接近していた。 砂煙でよく見えないが、目を凝らせばその姿を把握できる。瞠目したラウルの体に、再び熱い血が巡り始めた。 「ララ!」 「ラウルーっ! 私はここですー!」 手をぶんぶん振っているのは、まぎれもなくララエルだ。はっとしてラウルは両腕を大きく上下に動かす。 「危ないから座るんだー!」 「よかった、会えました! 怪我はありませ、ひゃあっ」 「おっと」 猛然と進んでいた砂トカゲが、ラウルの手前で停止する。その背で膝立ちになっていたララエルの体が滑り落ちそうになり、ラウルは手を伸ばして支え、ゆっくり砂に下ろした。 「よかった、無事で」 「はい。ありがとうございます」 はにかむララエルに微笑み、ラウルはもう一頭の砂トカゲに乗っている女を見上げた。 「こちらの方は?」 「このおねいさんはディラさん。こっちが砂トカゲちゃんです」 「そこでララエルちゃんと会ってね。君を探しにきたんだ。君の仲間たちも捜索中だから、安心してね」 「そうでしたか、よかった……。申し遅れました。僕はラウル・イーストです。ララエルを保護してくださって、ありがとうございます」 「どういたしまして。この砂トカゲを貸してあげるから、街まで乗って帰るといいよ」 「砂トカゲ……ですか?」 「そうですよ、とても大人しくていい子です」 自身が乗ってきた砂トカゲを、ララエルが優しく撫でる。無表情の大きな爬虫類のような生き物は、ララエルの顔を長い舌でべろりと舐めた。 「きゃあっ、くすぐったいですよぉ」 眉尻を下げて笑ったララエルが、砂トカゲのひんやりとした顔に抱きつく。 「ふふ、でも可愛い」 それをラウルとともに温かく見守っていたディラが、さて、と伸びをした。 「じゃあアタシは行くよ」 「なにからなにまで、ありがとうございました。ディラさん」 「ディラさん、寂しいですけど……、また会えますよね」 「会えるさ。砂漠は広いように見えて、案外そうでもなかったりするから」 一礼したラウルと不安そうに瞳を揺るがせたララエルに片目をつむり、ディラは砂トカゲを走らせた。 「僕たちも行こうか、ララ」 「はい」 先に砂トカゲに乗ったラウルが、まだ少し寂しそうなララエルを引き上げて、自分の前に座らせる。 「ほら、ララエル。星が見えてきたよ」 「あ、本当です。星が……」 夜と夕暮れが入り混じる空に、気の早い星がちらほらと瞬いていた。 気温が下がり始めた砂海を砂トカゲが滑るように走り出す。 「ラウル、砂漠の星だなんて、美しいと思いませんか?」 どこまでもついてくるように、空に在り続ける星を指さしてララエルが言った。 「私があの小さな星なんです。そして、そのすぐ近くの大きな星が、ラウルなんです」 だから、とララエルはラウルを仰ぎ見る。 「いつでも大きな星になって、私を照らしてくださいね、ラウル」 恥じらうように顔を前に向けたララエルは、ラウルが息をとめたことに気づかなかった。 「ラウルが、私の騎士様になって守ってくれるって言ってくれたから、あの星は輝き続けるんです」 「……うん」 「もうっ! なんで笑うんですか!」 「うん、ごめんね、ララエル。ありがとう」 砂の上を吹く風が、ララエルの声と、ラウルの笑声と、彼の目尻に浮いた涙を、遥か後ろに攫っていく。 ● 目も開けていられないほどの強風に突如として襲われ、ようやくやんだと思ったら仲間の姿も遠くに見えていた街影もなくなっていた。 砂漠の真ん中で途方に暮れる『ヨナ・ミューエ』と『ベルトルド・レーヴェ』の間には、微妙な沈黙が横たわっている。 ちら、とヨナはベルトルドに視線を向けた。どの方角から飛ばされたのかだけでも把握しようとしているのか、彼は沈みゆく太陽に目を向けている。 (なにか、話を) ほんの少しだけヨナの眉尻が下がった。 透明の中に一滴、灰色を混ぜてしまったような雰囲気。息がつまるほど気まずいわけではなく、一方で以前と比べれば確かに硬い、この静謐。 ベルトルドが前を向く。今だ、とヨナが口を開こうとした瞬間、二人の耳に音が届いた。 反射的に臨戦態勢に入りかけた二人の前で、それが砂煙を巻き上げながら停止する。 「やっほー。浄化師さんだね? アタシはディラ」 呆然とする二人に、ディラと名乗った砂漠の民の女は端的に状況を説明する。 曰く、攫い風が吹いて浄化師たちはばらばらになったが、ディラがペットである砂トカゲたちを使い捜索しているらしい。砂トカゲに乗れば、街まで迷うことなく帰れるそうだ。 「ってわけで、じゃあね」 「ありがとうございます」 「助かる」 ひらひらと手を振って、慌ただしくディラが去っていく。 どうにか状況を把握してその背を見守ったヨナは、残された砂トカゲの、ひんやりとした首筋から砂を払うように撫でた。 「街までお世話になりますね」 「頼んだ」 ぽんと砂トカゲに触れたベルトルドは、身軽にその背に飛び乗る。砂漠を潜って移動したのか、どこも砂だらけだったが、乗り心地は悪くなかった。 「本当におとなしい生き物だな。ヨナ、手を」 刹那だけためらい、ヨナは差し出されたベルトルドの手を握る。ひょいとベルトルドは自身の前にヨナを座らせた。 鳴き声ひとつ上げず、砂漠の生物は滑るように動き出す。 「速いですね」 「ああ」 馬ほどの速度で砂トカゲは砂上を走る。空は夕と夜が入り混じっていた。気の早い星が高い空に点々と散って、瞬いている。 サァ、と砂トカゲが動く音と、耳元でうなる風の音だけが聞こえていた。 本来なら他愛もない話があったかもしれない。それが今この場から消えているのは、最近の依頼が原因だ。 ヨナは、利己的な動機でベルトルドと契約したことを知られたくなかった。 ベルトルドは、図らずも過去の記憶を引き出され、ヨナの前でとり乱した。 互いにそのことについて、話しあうことはなかった。――わざわざ話すべきことではないと、感じていたのだ。 風の温度は徐々に下がってくる。比例して、夕暮れの赤が夜の濃藍に呑まれていく。 「……私、サンディスタムのヘリオポリス……、中心部近くに、住んでいました」 ぽろりとヨナの唇から言葉がこぼれた。ベルトルドは相槌を打たなかったが、耳を傾けてくれていることくらいは分かる。 目蓋を上下させれば、その刹那の闇の中に、あのころ見ていた風景が断片的に閃いた。 「教団支部もそこにあって。ほとんどヘリオポリスから出たこともなくて」 以前ベルトルドとかわした会話がヨナの脳裏をよぎる。同時に、妙に重い舌の奥でライムを垂らした炭酸水の味がよみがえった。 「ディラさんのように、砂トカゲと暮らす人にも、初めて会いましたし。……住んでいた国でも、知らないことが、たくさんあるな、って」 途切れ途切れの話し方になるのは、言いたいことが纏まっていないからだ。 自分の話だというのに、要領を得ない。それでも、あまり話さずにいたことを、ベルトルドはしっかりと聞いてくれていた。 一拍の静寂が訪れる。 「そうか」 返ってきたのは、その一言と温かい手だった。 「ちょっと、ベルトルドさん」 くしゃくしゃと髪を撫でられて、ヨナは不服の声を上げる。子どものように扱われたのは久しぶりだった。 しかし、不快感はない。それどころか胸の隅では心地よさを感じていた。 「街が見えてきたな」 「あ、本当ですね。皆さんはもう帰っているでしょうか?」 「問題ないだろう」 離れたベルトルドの手を、とっさに名残惜しいと思ってしまってヨナは口を閉じる。 「これから知っていけばいい」 「……はい」 そうですね、とヨナは何気なさを装って頷き、微かに笑んだベルトルドの言葉を噛み締める。 砂海を赤く輝かせていた太陽が、地平の向こうに消えていく。代わりに蒼白い月が地上を照らした。 街灯りは、すぐそこに迫っている。 ● 砂中から現れた砂トカゲの背に、『シリウス・セイアッド』に手伝ってもらいながら『リチェルカーレ・リモージュ』は乗った。 「わ……、案外視線が高い……!」 目を輝かせて歓声を上げる少女を、シリウスは体についた砂を軽く払いながら見上げる。リチェルカーレは砂トカゲの首をそっと撫でた。 浄化師捜索中、と書かれた札を下げている砂トカゲの肌は、鱗に覆われていて冷たく、硬い。 「わたしたち、ふたりが乗っても、平気?」 頷くように砂漠の巨大生物がゆったりと頭を下げる。 少女に名前を呼ばれる前に、シリウスは微かに首を左右に振った。 「俺は乗らなくていい」 「……どうして?」 丸くなったリチェルカーレの双眸には、ほんのひと匙の不安が含まれていた。 「嫌だろう。俺に近づくのは」 「なにを言っ」 「この前はすまなかった。もうあんなことはしない」 「あんなこと、って……」 言葉を遮るように謝罪されたリチェルカーレは瞬き、思い至って赤くなる。 ニホンで行われた祭り。提灯の光を映した川と、大きな鏡。深い夜に包まれた森の中で、唇を重ねたこと。 脳裏によみがえったそれらの光景の最後に、彼の悲痛な顔がよぎった。途端に跳ねていた鼓動が落ち着く。 とり乱して見えたのはあのときだけだ。以降はいつもの――いつも通りに振舞おうとしている、シリウスだった。 「シリウス。ちゃんとわたしを見て」 真剣な表情を浮かべた少女の胸は、彼を見るときゅっとすぼまる。 放ちたい問いかけは、実を言えば少し恥ずかしい。だが、ここで退くわけにはいかないと、リチェルカーレは覚悟を決めた。 「あのね。……わたしのこと、好いてくれてるって、思っても……いいの?」 わずかに瞠目したシリウスは、目をそらしかけて留まる。静かな眼差しを前に、逃避も誤魔化しもできなかった。 目元を赤くした青年は、ぎこちなく頷く。 「それならどうして、そんなつらそうな顔でわたしを見るの?」 「……それは……」 寂しそうなリチェルカーレの表情に、シリウスの心臓が絞られるように痛んだ。 「俺は、お前といちゃいけない」 己という存在が、災いを巻き起こすとシリウスは経験から分かっている。 浄化師の片割れとして、彼女の側にいること。それだけで十分のはずで――踏みとどまれない自分に、嫌気がさす。 「……あのね、シリウス」 どうして、とリチェルカーレはもう問わない。飛び降りるように乾いた砂の上に立って、一歩を踏み出す。 苦しそうな顔をしている彼は、いつもより幼く見えた。その頬に、少女の指先がそっと触れる。 「わたしも、シリウスが好き」 夕暮れの砂海に、リチェルカーレの幸せそうな笑顔が開く。 「まっすぐ立つあなたに相応しくなりたいと、ずっと思ってた」 柔らかに、歌うように少女は言う。 触れたいという気持ちと、触れてはいけないという内なる叫びの間で、シリウスは揺れていた。 ただひとつ確かなのは、リチェルカーレを離せないという想いだけだ。 「触れないなんて言わないで」 身じろぎもできないシリウスの顔を、少女は覗きこんで微笑む。ああ、とシリウスの唇から吐息のような音がこぼれた。 「わたし、もっとあなたの近くに」 青と碧の目が、丸く見開かれる。思わず息をとめたリチェルカーレの色違いの両眼には、目蓋を閉ざしたシリウスの顔だけが映りこんでいた。 緊張しているように震える睫毛は長く、少女の頬を捉える片手は冷えている。武器を扱うことに長けた、男性の指だった。 あのときよりも長い口づけは、互いの熱をしっかりと伝えあって、混ぜる。あふれそうな幸福感を、一滴もこぼしたくなくてリチェルカーレも目を閉じた。 永遠のようで、刹那のような時間が終わる。 「……ふふ」 薔薇色に染まった顔でリチェルカーレが笑う。同じ色になった顔を、シリウスは明後日の方に向けた。 「一緒に帰ろう?」 横目で差し伸べられた手とリチェルカーレの表情を見比べて、シリウスは戸惑う。だが、それも一瞬のことだった。 「……ああ」 華奢なリチェルカーレの手を握る。眉尻を下げ、泣き出しそうな笑みを見せた彼女を先に砂トカゲの背に座らせ、小さな体を後ろから包むようにシリウスも乗った。 「寒くないか?」 「ううん、平気。見て、シリウス。星がきれい」 夜が迫った砂漠の空に色とりどりの星が散りばめられている。シリウスが首肯したのを見計らったように、砂トカゲが走り出した。 馬並みの速度にはしゃぐ少女の声を、青年は口の端をわずかに上げて聞く。 ● 身を包んでいた強風が、ぴたりとやんだ。 「一体なにが……?」 まだ舞っている砂塵が目や口に入らないよう、注意しながら周囲を確認した『鈴理・あおい』の背に緊張が走る。 「あら、皆さんは……? イザークさんは?」 遠くに見えていた街影もない。どこまでも砂漠が広がっていた。 「……っ、落ち着いて。身体に怪我はない。荷物と水はある……」 あたりに敵影はなし。腰には信号拳銃、風が吹いた瞬間とっさに抱き締めたマヤも無事だ。深呼吸をしながら、マヤの帽子についた砂を優しく払う。 「下手に動かない方がいいですよね」 声に出すことで行動方針を明確にし、自分を落ち着ける。砂海から顔を出している巨大な岩の影に移動し、待機することにした。 あたりには人影どころか、鳥も虫も植物もない。燃えるように赤い夕暮れだった。 「不安はある……。でも」 そこから先は声に出さず、あおいは天を仰ぐ。 「落ち着け、大丈夫だ。あおいなら落ち着いて対応しているはずだ」 口早に言いながら空を飛ぶ『イザーク・デューラー』の顔には、焦りが浮かんでいた。 ときおり強い風が吹き、そのたびに腹の底が恐怖で冷える。翼が疲れれば砂に下りて、再び間をおかずに飛び上がった。上空に行くほど風は勢いを増し、体勢を保てなくなるときもある。 だが、地上よりも空の方が視界は広がるのだ。走るよりもあおいを発見しやすいだろう。なにより、砂上は先ほど会った女に託された巨大な生き物、砂トカゲが探索している。 「あおい! いたら返事をしてくれ!」 唐突に風に包まれて、目を開けば仲間もあおいもいなかった。女曰く、あれは攫い風といって、人を砂漠内のあちらこちらに飛ばしてしまうらしい。 この広い砂漠の、どこかに。 砂海の中にぽつりと立つあおいを想像すると、まるで落ち着けなかった。無事をただ願い、その名を呼ぶ。 不意に、青色の硝煙が上がった。 目を見開いたイザークの胸に歓喜が広がる。 「信号拳銃……、あおいだ! 砂トカゲ、あちらへ!」 顔を出していた砂トカゲが速度を落とすことなく砂中に潜った。イザークも全力で羽ばたく。 「えっなに!?」 イザークの声を聞いて岩陰で立ち上がり、信号拳銃を撃ったあおいはそのままの姿勢で、突如として現れた砂トカゲに動揺していた。 落下に等しい勢いで下りたイザークはあおいに駆け寄る。蒼天のような双眸がイザークの姿を映し、そこに宿っていた感情の波がすっと凪いだ。 「あおい! 無事か!?」 「はい。イザークさんもご無事のようですね。……あぁ、この生物も助けにきてくれたんですね」 「砂トカゲだ。本当に怪我やおかしなところはないか?」 「ありません」 毅然とあおいが答え、ようやく安心したイザークの体から力が抜ける。ちらりとあおいは砂トカゲを見た。 「ご心配をおかけしました」 「なにごともないならそれでいい。さあ、帰ろうか。この砂トカゲに乗って帰れるらしい」 「砂漠の生き物、ですよね」 「ああ。道すがら説明しよう」 浅く頷き、あおいは砂トカゲに乗る。巨大な生き物は鳴くことも威嚇することもなかった。 内心で胸を撫でおろしたあおいの後ろに、イザークも座る。 「風が強いですね」 「このあたりは特に風が吹いているようだな」 気温が徐々に下がっていることも相まって、実を言えば寒い。 それを堪えようとしているあおいの肩を、イザークはそっと引き寄せた。あおいは疑問が浮かんだ顔をイザークに向ける。 「あの、なにを……」 「夜になると冷えこむからな」 「あぁ、そうですよね。寒さをしのぐには、近くにいた方がいいですよね」 冷静に納得した風を装って、あおいは正面に向き直った。 砂トカゲが走り出した。耳元でごうごうと風が唸るほどの速度で、体感温度はいっそう低くなる。それでも耐えられないほどではなかった。 ためらってから、あおいはほんの少しだけイザークに寄りかかる。伏せた目が落ち着きなく泳いだ。 「あおい。いい星空だぞ」 「星……」 声を弾ませたイザークにつられるように、あおいは砂トカゲの鱗に向けていた視線を上げた。夕焼けはもうほとんど夜に呑まれている。 濃藍の空で、宝石を砕いて散らせたように星が瞬いていた。 「本当に。綺麗ですね」 「ああ」 そこにあおいがいることを確かめるように、イザークは彼女に寄り添う。 今はまだ、意識しなければ分からないほど微かに伝わってくる体温は、彼にとって大きく尊いものだった。 「街が見えましたね」 安堵がにじむ声で、あおいが言う。
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*** 活躍者 *** |
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[8] 鈴理・あおい 2019/10/07-23:59
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[7] 鈴理・あおい 2019/10/07-23:58
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[6] 鈴理・あおい 2019/10/07-23:58
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[5] リチェルカーレ・リモージュ 2019/10/07-18:08
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[4] ヨナ・ミューエ 2019/10/07-00:34
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[3] アルトナ・ディール 2019/10/05-16:00
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[2] ラウル・イースト 2019/10/04-03:18
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