ラニ・シェルロワのクリスマス!
普通 | すべて
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ラニ・シェルロワのクリスマス! 情報
担当 oz GM
タイプ シチュエーションノベル
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 普通
報酬 なし
相談期間 2 日
公開日 2019-12-09 00:00:00
出発日 2019-12-09 00:00:00
帰還日 2019-12-22



~ プロローグ ~

1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。

12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、
今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。

子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、
プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。

エクソシスト達の活躍により、去年は見なかった異国人が増えていたり、
魔女が生活をしている様子も、見られるようになりました。
着実に、この国は、世界は良い方向に傾いています。

とはいえ、未だ暗躍を続ける「終焉の夜明け団」をはじめとして、
世界救済をするためには、越えなければならない障害が残っています。

戦いに身を置くエクソシストが1年を生き残ったのは、奇跡といえるでしょう。

そして、その奇跡が今年も続くとは限りません。
スケール5のベリアルの登場など、益々命を懸ける場面が出て来るはずです。

既に親友といえる仲の皆さんも、既に恋人同士の皆さんも。
聖なる夜に、さらに先の関係に進むため、想いを伝えることも良いでしょう。

――memento mori


~ 解説 ~

現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
七面鳥やシャンパン、ケーキといった定番的な料理を楽しんだり、クリスマスツリーやキャンドルなども国内で飾られます。

また、ヨーロッパ圏であるためユール色も強く、料理を並べたテーブルを「ユール・ボード」を呼称したり、
ケーキはブッシュ・ド・ノエル、肉料理はユール・シンカが主流であるなど、現代日本とは多少感覚が異なる部分があります。

サンタクロースが枕元にプレゼントを置いていく、という伝説も存在します。
教団では、まだ年端も行かないエクソシストには、サンタクロースのプレゼントと称して、プレゼントを渡しているようです。

マリン・ネクタールからは、毎年経費を抑えてと申し出があるものの、
ヨセフ・アークライトは毎年なんとかしてプレゼントをやりくりしています。
(※ファンタジー世界ではありますが、世知辛いことに、プレゼントは保護者などが用意しています)

教皇国家アークソサエティ以外の国を出身としている場合は、ユールやクリスマスを知らないという可能性もありますので、
クリスマスという文化はどんなものなのかわからない、ということを前提としても問題ありません。


~ ゲームマスターより ~

※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ラニ・シェルロワ ラス・シェルレイ
女性 / 人間 / 断罪者 男性 / 人間 / 拷問官
スポット11

噂を信じて、大切な幼馴染のシィラに会いに
本当に会えるのかしら…ううん、ちゃんと会うの

海色の瞳、大地の色の髪の中に若草色が混じってる
あの日のままの彼女が
堪えきれず涙が
どうして置いてったの どうして死んだの!
八つ当たりのように泣き叫び

「ごめんね ちゃんとお話もできなかったね
分かってとは言わないけど
二人を守るためだったの」
ラスが何か言ってる よく聞こえない
やだやだ あたしを仲間外れにしないで…急に何!?

ずっとね ラスはシィラといるんだと思ってた
でもあたしといるんだって
それを聞きとても嬉しそうな彼女
「二人が一緒になるのは嬉しいもの!」
なんで?
「だって私はもう終わってるのよ
終わってる存在をいつまでも引きずるんじゃありません」

あたしね ラスと生きる
オレもだ 二人で生きる

あの子が霧とともに消えていく
さようなら、あたしの親友


~ リザルトノベル ~


 ぽつぽつと白骨の花が浮かんでいる。
 そんなことを思ったのは、ここが死者と会える場所であると同時に自殺の名所だと聞いていたからだろう。
 潔い白さ。透き通った池一面に美しくも幽玄な睡蓮と蓮が咲き誇っている。そう霧の中でも浮かび上がるように。
 教皇国家アークソサエティ、ヴェネリア内にある『ルインズレイク』は黄泉がえりの池として有名だった。
 ルインズレイクにはこんな噂がある。雨上がりの霧が深い昼間に池を渡りきると、対岸で死者に会える、と。
 事故死や自殺がたえない場所であるのに、死者に会いたさ故にここにやってくる者は少なくない。
 だからだろうか、引きずり込まれそうなまでに美しいのにどこか現実感がないのは。まるで夢の中にでもいるような感覚に陥る。

「本当に会えるのかしら……ううん、ちゃんと会うの」
 そう『ラニ・シェルロワ』は自分に言い聞かせるように、呟いた。
「……きっと会えるさ」
 『ラス・シェルレイ』の優しい声に背中を押される。
 不安はある。だが、シィラと会って前に進むのだ。あの日から立ち止まったまま動けずいる自分ではいられないから。
 シィラ――それはラニとラスにとって大切な幼馴染。
 冬でも凍り付くことのない池には、睡蓮や蓮の葉が広がっていた。
 冷たい池の中で咲く物憂げな白い花。よくよく見れば花弁が水滴に濡れている。
 ここに来るまで小雨が降っていたが、ラニ達が来ると同時に雨が上がりゆっくりと白い霧に覆われていった。
 もやが足に絡まり付き、次第に二人は霧に呑まれていく。それでも二人は足を止めることなく前へと進む。
 深い霧はともすれば隣にいるラスの姿すら朧気にし、遠近感を失わせる。そう対岸まで遠くない筈なのに、随分と歩いた気すらする。
 ラニは自分の隣にラスがいるのを確かめるように、声をかける。
「綺麗な場所だけど、なんだか怖いわね」
「そうだな、ここで事故るなよ」
「心配しなくても事故りませんー! ……ラスこそ気をつけなさいよね」
 普段通りにしているつもりだが、会話が上滑りしていく。どこか落ち着かない張り詰めた空気が漂う。
 ラニは気が急くようでいて進む足は億劫だった。そっとラスの横顔を伺うが、深い霧のせいで表情を読み取ることはできない。
 会いたいけれど会うのが怖い。
 シィラに会ったら何を言うのだろう。何を思って、どんな顔で彼女の前に立つのか、自分でも分からなかった。
 二人の口数は自然と減り、沈黙が覆い始めた頃。対岸の霧の向こうに少女の人影が幻のように浮かぶ。
 彼女だ。二人は同時に駆け出した。
「シィラッ!」
 ラニが叫ぶ。その叫びに反応するように少女は姿を現した。
 凪いだ海色の瞳、大地の髪の中に若草色が混じり風になびく。
 あの頃のままの彼女だ。
 シィラは何年か会わなかった親友に久し振りにあったかのように微笑んだ。
 記憶と変わらない彼女の姿に、ラニはどうしようもない程の喜びとも悲しみともつかない感情が堰を切ったように溢れ出す。
「どうして置いていったの……どうして死んだの!」
 八つ当たりにしてはあまりにも悲痛な叫びだった。
「そうだね、ごめんねラニちゃん」
 透き通った悲しい程、懐かしい声。
「謝るな! 謝るぐらいなら、なんで死んだのよ……っ!」
 シィラは今度は謝らなかった。ラニの叫びを黙って受け止める。
「勝手に死んで、勝手に一人だけ楽になって……っ」
 ラニは怒りを耐えるように唇を噛みしめる。
 違う、こんなことが言いたいんじゃない。
 シィラが大好きだったからこそどうしてと詰りたくなる。
 ずっと三人で一緒にいるのだと信じていたからこそ、許せなかった。裏切られたと思った。
「生きてよ死なないでよ……あたしもラスもそんなこと望んじゃいなかったっ!」
 シィラに掴みかかろうとしたラニの手が空を切る。ラニが息を呑む。こんなに近くにいるのに触れることすらできない。届かなかった手は力なく落ちた。
「ラニちゃんの言うとおりだね。間違ってたのかもしれない……でも後悔はしてないよ」
 寂しげな表情を浮かべているのにその瞳は揺るがぬ意思を湛えていた。
「なんで、なんでっ……どうしてよ!?」
 どうして、生きようとしてくれなかったの、そう叫びたいのにシィラの声を聞くと懐かしくて、切なくて堪らない気持ちになる。
 今更言ってもしょうがないのに、シィラが帰ってくることなんてないのに。言わずにいられなかった。
 まだたくさん言いたいことも聞きたいこともあった。けれど、渦巻く感情は言葉にならず、涙となって落ちるばかり。
 誰が言ったのだろう。人が人を忘れていく順番は、最初に声を、次に顔を、最後に思い出を忘れるって。
 ラニはそれに当てはまらない。
 そよ風のような歌声。一緒に歌っているとどこまでも自由で、どこにだっていけるのだと思わせてくれる調べ。心地の良い歌声は溶けるように風に吹かれて流れていく。
 その歌声は今でも耳に残っている。きっとラスもだろう。
 だけれどその代わり、ラニは優しくて大切だった思い出まで血で濡らし、怨嗟の炎で燃やした。そうしなければ、前を向くことができなかった。ゆっくりとシィラとの思い出がこぼれ落ちていっても、これ以上失わない為に――ラスに置いていかれまいと必死だった。
 ラスが失われた記憶の欠片を取り戻そうと苦しむ度にラニの中に罪悪感が募った。
 一人になるのを恐れてラスに真実を告げられなかったのはラニの弱さだ。
 押しつぶされそうになる度に自分の感情全てを剣に込めてありったけの憎悪の炎を燃やす。埋めようのない悲しみすら糧にして、あの日の悪夢からラニは囚われながらも前を向いてきたラニが項垂れた。
 小さく唇を震わせると、ラニはとめどない涙を流す。
 子供に戻ったように泣きじゃくるラニを労るようにラスが頭を撫でる。
「久しぶり」
 ――約束思い出したよ。
 そうラスが口を開くと、シィラは何もかも分かったように頷いた。
「ラスもありがとう。辛い役目を背負わせたかな」
「そんなことない。それがあったから生きてこられたんだ」
 困った顔で笑うシィラにラスはゆっくりと首を振る。
 シィラを前にしてラスは穏やかな気持ちだった。もっと動揺したり記憶を失う前の感情に引きずられるかと思っていた。
 シィラもラスの変化に気づいたのだろう。どこか嬉しそうな海色の瞳に自分の姿が映る。
「二人にはちゃんとお話もできなかったね。分かってとは言わないけれど、二人を守るためだったの」
 シィラの言葉を聞いてラニが体を二つに折り嗚咽をこぼす。
 シィラは泣き止まないラニを慰めようと手を伸ばそうとして、寸前で止めた。行き場のない手を持て余すように握りしめる。
 生者と死者は交じり合わない。こうしてシィラと話し合えたことが奇跡のような出来事で触れ合うことはできない。
 シィラは寂しげにラニを見つめながら語る。
 教団のことをどうしても信じられなかったと。自分の命を犠牲にした魔術を使っても二人には生きていてほしかった。これが自分の我儘(エゴ)だと分かっていても――。
「本当はね、二人とも連れて行こうと思ったのよ……でもそうしなくて良かった」
 どこか安心したように笑う彼女にラスは鈍く痛みが走るのを無視して口を開く。
「なぁシィラ、聞いてくれ」
 ――たくさん君に伝えたいことがあるんだ。でも、君はもう知っているのかもしれない。それでも、これから言うことはオレが前に進むための区切りだ。
「オレは君のことが好きだった。初恋は君だった。でも……今一番大切なのはラニだ」
 ラスの告白に命を懸けた甲斐があった、とシィラが安心したように口元を綻ばせる。

***

 どれくらい泣いていたのだろう。
 泣いて泣いて泣き尽くしたラニはぼんやりと涙の痕で頬が塗れているのを感じていた。
 泣き疲れて頭がぼんやりと空白ができたように重い。
 ラスが何か言っている。よく聞こえない。
 また置いていかれるのか、という不安が急激に訪れて、泣き顔のまま顔を勢いよくラニは上げる。

「やだやだ、あたしを仲間外れにしないで……急に何!?」
 駄々をこねるように声を上げたラニ。突然ラスがラニの腰を引き寄せ、
「バカだし一人で突っ込むバカだけど、オレにとって一番大切だ。だから……もう引きずるのは止める」
 ラニはその言葉を呆然と聞いていた。
「だって……ずっとね、ラスはシィラといるんだと思ってた」
 ――でも、あたしといるんだって。
 ポカンとしたラニは思っていたことをそのまま口にする。最後の方は誰にも聞こえないぐらい小さな声で、ラニ自身も噛みしめるように。
 ひどい泣き顔のまま、それすら気にせず今にも泣きそうな顔でラニは笑う。
 最後の呟きはシィラにはしっかりと聞こえたのだろう。シィラは笑う。花のように笑う。
「二人が一緒になるのは嬉しいもの!」
「なんで?」
 ラニは子供のように尋ねる。
「だって私はもう終わってるのよ。終わっている存在をいつまでも引きずるんじゃありません」
 まるで小言でもいうような口調。
 不意に記憶がよみがえる。ラニとラスが喧嘩した後、シィラは正座させ淡々と笑顔を浮かべたまま叱るのだ。目だけ笑っていないシィラと視線を合わせるのが怖くて俯きながら二人で説教を聞いていた。
「ふふ、シィラの小言、変わってないわね」
「ようやく笑ったねラニちゃん」
「シィラが泣かせたのよ……昔からシィラが本気で怒るとめちゃくちゃ怖かったわ」
「ああ、大人しい人ほど本気で怒らせちゃダメだって思ったよ」
 ラニは思い出し笑いしながら話すと、ラスも頷く。シィラは心底心外だと言いたげな表情を浮かべ、
「死んでも心配させる二人には言われたくありません。心配でおちおちゆっくりできないじゃない」
「先に勝手したのはシィラでしょ、置いていったことは一生許さないんだから」
「そうだな、オレたちのこと心配しながら見守ってくれ」
 ラスが追い打ちをかけるように言うと、シィラは呆れたような困ったような表情を浮かべた後、ついには笑い始めた。それに釣られるようにラニとラスも笑い始める。幼い頃に戻ったように。
 あれほど深かった霧がゆっくりと薄れ始める。別れの時が来たのだ。
 名残惜しさを振り払うように二人は告げる。
「あたしね、ラスと生きていく」
「オレもだ、二人で生きる」
 二人の言葉に嬉しそうなシィラの表情を見てラスは苦笑いする。
 彼女には全てお見通しだったのかもしれない。
「安心したわ、ようやく向こうにいける」
 霧が薄れるたびにシィラの姿も朧げになっていく。
 シィラは満ち足りた表情を浮かべる。これ以上の幸せなんてないっていうみたいに。
 憂いをぬぐい去ったシィラの笑顔はハッとする程、子供のように無邪気だった。
「さよなら、二人とも大好きよ」
 霧とともに消えていくシィラは最後まで笑っていた。

 ――さよなら、初恋の人
 ラスは別れを告げる。もう二度と会えない友人に。そっと隣にいたラニの手を握りしめる。ラニは何もいわず繋いだ手を握り返した。
 ――さようなら、あたしの親友。
 ラニは霧が晴れるまでずっとその場に立ち尽くした。シィラの姿を焼き付けるように。
 拭い去ったように霧が消える。まるで最初から何もなかったように晴れ渡っている。
 泥濘の中から美しい花を咲かせる蓮は二人を祝福するように花弁を揺らしていた。




ラニ・シェルロワのクリスマス!
(執筆:oz GM)



*** 活躍者 ***

  • ラニ・シェルロワ
    この手から離れない、離さない
  • ラス・シェルレイ
    約束した、二人で生きる

ラニ・シェルロワ
女性 / 人間 / 断罪者
ラス・シェルレイ
男性 / 人間 / 拷問官