【森国】救済のリベレイション
普通 | すべて
8/8名
【森国】救済のリベレイション 情報
担当 留菜マナ GM
タイプ EX
ジャンル イベント
条件 すべて
難易度 普通
報酬 通常
相談期間 8 日
公開日 2020-02-23 00:00:00
出発日 2020-03-05 00:00:00
帰還日 2020-03-10



~ プロローグ ~

 アルフ聖樹森。
 樹木が密生している森の中には、小さな集落が無数に点在している。
 各集落には、氏神となる八百万の神が居り、結界が張られ守られていた。
 集落に住む住民達は、八百万の神を敬い、それぞれが自由な暮らしを謳歌している。
 しかし、最近、穏やかだったはずの森には、終焉の夜明け団が出入りし、不穏な空気が漂っていた。
「コルク、逃げるわよ」
「う、うん」
 コルクとその母親――フィロは森の中を必死に走りながら、抑えきれない焦燥を感じていた。
 帰路の途中で出会した奇妙な集団。
 彼女達は、八百万の神を狩り獲ろうとしている終焉の夜明け団の集団から追われる羽目になっていた。
 集落の住民が危惧した単独行動のリスクを、フィロ達はまさに一身に被る形になったのだ。
「あっ……」
 その時、足がもつれて、コルクが派手に転ぶ。
 幼い子供が、かれこれ集落まで全力で走り続けていたのだ。
 体力が低下するのは無理もない事だった。
「コルク!」
 フィロは即座に、娘を抱き上げる。
 だが、終焉の夜明け団の者達は、彼女達のすぐ目の前まで迫ってきていた。
「よし、八百万の神の居場所を吐かせるために、こいつらを捕らえろ!」
 リーダー格の男の指示により、フィロ達は人海戦術を駆使され、徹底的に追い込まれてしまった。
 逃げなくては捕まる事は解っている。
 だが、彼女達は恐怖に駆られて、彼らの方を振り向いてしまった。
 目の前に迫る武器の数々。
 彼女達は終わりの瞬間を覚悟する。
「危ない!」
 その時、彼女達を庇うように、あなた達は咄嗟に間に入った。
 窮地を救われたフィロ達がそれに気付き、あなた達を見る。
「こいつらが、指令対象の終焉の夜明け団だな」
 交戦していた男の武器を打ち払い、あなた達は即座に戦闘態勢に入った。
 躍動する闇と武器の光が入り乱れる森を、あなた達は凄まじい速度で駆ける。
 彼らの繰り出す斬撃は早く鋭く、卓越された終焉の夜明け団の攻撃をいとも容易くいなしていく。
 瞬く間に、終焉の夜明け団は捕縛されていた。
 ようやく事態を把握したフィロは深謝する。
「助けて頂き、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 彼女達からの感謝の言葉に、あなた達は安堵の表情を浮かべた。
 このまま、終焉の夜明け団を連行し、フィロ達を安全な場所へと送り届けようとした時、後方に気配を感じて立ち止まる。
 あなた達が視線を向けると、フシギノコ型のキメラが次々と森の奥から集まってきていた。
「ここは、俺達が食い止める!」
「うん。なら、私達はここで彼らを見張っている」
 あなた達は、パートナー達にフィロ達を託すと這い寄ってきたキメラ達の方へと向かう。
 だが、キメラ達は倒しても倒しても、四方八方から現れ、次々に襲い掛かってくる。
「まるで扇動されているみたい……」
「せーかい」
 呆然とつぶやいたパートナーは、背後から聞こえてきた冷たい声に、完全に反応が遅れた。
「しまっーー」
 振り返る間もない。
 足を払われたパートナーは、一呼吸の間にうつ伏せに組み伏せられた。
 慣れた手つきと、洗練された所作。
 フィロは、明らかにこういった武術に精通している。
 見れば、見張り役として残っていた他の浄化師達も、パートナーと同じように、捕縛が解かれた終焉の夜明け団の一団によって、うつ伏せに組み伏せられていた。
 終焉の夜明け団の一団は虚ろな眼差しで、彼女達の指示に従っている。
「あれー、全然、気づかなかったんだー? 本当はあなた達が誘き出されていたことを」
 コルクの白けた言葉で、パートナー達は先程の逃走劇の意図が分かった。

 八百万の神を狩り獲ろうとしている終焉の夜明け団の集団に追われている集落の住民達。

 あれは、浄化師達の意識をそう仕向けるための芝居だったのだ。
「ここまで上手くいくとは思いませんでした」
 先程までの柔らかな調子はなりをひそめ、フィロは鬱々とした口調で続ける。
「コルク、例の薬品を」
「はい、お母様」
 いつの間にか近づいて来ていたコルクは、パートナー達に向かって鱗粉を放ってくる。
「さあ、何もかも忘れて――彼らのように、私達の同胞へと生まれ変わりなさい」
「――っ」
 フィロの言葉に、パートナー達は抗うこともできないまま、その場に崩れ落ちた。


 鬱蒼と茂る森。
 静かで吸い込まれそうな燐光。
 冬の軋むような凍えが緩んだ蒼い空。
「なっ!」
 キメラの大群を倒したあなた達が元の場所へと戻ると、フィロ達も、捕縛していた終焉の夜明け団の集団も、そしてパートナー達さえもその場から姿を消していた。
 必死に森の中を捜索したあなた達は、森の奥にある礼拝堂の前でパートナー達の姿を発見する。
 あなた達は、それぞれのパートナーの元へ向かう。
「良かった……」
 あなたは、行方不明になっていたパートナーが見つかったことに安堵する。
「何があったんだ?」
 核心に迫るあなたからの疑問。
 しかし、パートナーは戸惑うような表情を浮かべるだけで要領を得ない。
 その様子に違和感を覚えて、あなたは胸中で首を傾げる。

 凍てついたような静寂が舞い降りたのは一瞬――。

「あなた、誰?」
「なっ!」
 パートナーからの不可思議な問いに、あなたの胸には言いようのない不安が去来する。
「どうして、私のことを知っているの? あなたって浄化師よね。なら、私達、『サクリファイス』の敵なの?」
 そして、パートナーは残酷なまでに、純粋な疑問を投げかけてきたのだった。


~ 解説 ~

〇目的
 パートナーの記憶を取り戻し、指令対象の終焉の夜明け団を捕縛

○指令の流れ

・以下の流れで進んでいきます。
・1と4は個別描写になります。
・全て戦闘は発生しません。

1、パートナーの記憶を取り戻す

2、指令対象の終焉の夜明け団を再び捕縛し、教団まで連行

3、新たに保護されたドッペル達から、フィロ達の事を聞く

4、ドッペル達による新たな能力のお披露目

〇内容

1、パートナーの状況
 フィロが作った薬品によって、記憶を失っています。
 自分の名前以外は、分からない状態です。
 しかも、フィロによって、自分はサクリファイスの一員だと思い込まされています。
 ただ、パートナー自身は、あなたへの敵意はなく、どうして自分の事を知っているのか、気になっています。
 どちらが記憶を失ってしまったのか、プランに記載して下さい。
 あなたとパートナーによる個別描写になります。

●パートナーの記憶を取り戻す方法
・あなたとパートナーに関わる大切な想い出を語る
・パートナーに送った、またはもらった贈り物について触れる
・パートナーに関わる何かをすれば、パートナーの記憶は戻ります。

2、捕縛していた終焉の夜明け団に関して
 記憶が戻ったパートナーから、サクリファイスの残党達に襲われた事を知る事ができます。
 終焉の夜明け団は、森の奥にある礼拝堂で、パートナーと同じく記憶喪失の状態にされています。
 見張りは、パートナー達に任されていたため、教団への連行には素直に従います。

3、フィロ達について
 教団に戻った後、新たに保護されたドッペル達(教団員の姿)から、フィロ達についての情報を得ることができます。

4、ドッペル達による新たな能力のお披露目
 前回の戦闘で新たに保護されたドッペル達は、『一度、姿を変えたことがある人物や生物は、近くにその人物達がいなくても、姿を変えることができる』能力を持っています。


~ ゲームマスターより ~

 こんにちは、留菜マナです。
 「断罪のアポカリプス」の続きの話になっています。
 今後も、シリーズ物として続けていこうと思っています。
 GMページに、今まで出てきましたイヴル達について記載しています。
 どうぞよろしくお願い致します。

〇4の続き
 また、写真を見ただけでも、その人物に姿を変える事ができます。
 既に教団に保護されているドッペル達は、新たに保護されたドッペル達からその能力を教えてもらいました。
 あなた達に、ドッペル達は覚えたばかりの能力をお披露目したいと思っています。
 ドッペル達に、どんな姿になってほしいのか、プランに記載して下さい。
 あなたとパートナー、そしてドッペル一体による個別描写になります。

・写真を見てもらって、家族や知り合いに姿を変えてもらう
・幼い頃の自分達になってもらう
・猫になってもらう

●姿を変えられるのは、猫等の小型の生物になります。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
どうなさったのです!?
ドクターの口から出た言葉に思わず寒気を覚える
こ、こりゃあどうすれば…
一度深呼吸
跪き彼女の手を取る
お忘れになられたのでしょうか
今までのことを
私のエゴのために貴女を苦しませようと、貴女は私を許してくださったことも
私が自らを守るためとはいえ、貴女達を騙していても貴女はむしろ私を守って下さった
…ならば今度は私の番でしょう
ドクター、貴女の記憶が無くなろうと、私は貴女をお慕い申し上げています
手の甲に口づけた瞬間、ドクターの身体が動いた気がした直後、例によってベアハッグ
う、うぐ…記憶が戻りましたか…
ドクターをこんなことにしたやつは一体どこへ行ったんだ…!
許しちゃおけん!
アリシア・ムーンライト クリストフ・フォンシラー
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / アンデッド / 断罪者
この人は、誰……?
判らない…でも…

お日様の色の瞳が悲しそうに揺れたのを見て心が痛む

どうして、そんなに悲しそう、なのですか?
私は、どうして…心が痛むの…?

勿忘草の花畑
聞いた途端に目の前に広がるように思い浮かんだ、青い花が一面に咲いた光景

この景色…私、知ってます…
ここで、大切なことを、思い出して
隣には、大切な人がいて

抱き締められた体温に感じる心地よさ
私、この人を、知ってる……
ずっと隣にいたいと、そう思った人

クリス……忘れて、ごめんなさい……

唇の温もりに赤くなったあと、ハッと思い出しました

そうです、中に、終焉の夜明け団が

ルゥちゃん達、新しい能力が?
それなら……リアお姉ちゃんの姿に、なって貰う事は……
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
あなたは誰ですか?
問いかけた瞬間 目の前の彼が息を飲んだ
表情は変わらないけど 自分が彼を傷つけたのがわかる
わたしは あなたの?
ひやりと冷たい頬に触れる
どうして あなたはそんなに…

揺れる瞳 触れることを恐れる指
時々見る優しい笑顔 

あなたの、なあに?教えてシリウス
丸くなる目に笑いかける
ごめんなさい心配かけて 皆は無事…っ!?
抱き締められて小さく悲鳴
腕が僅かに震えているのに気づいて ぎゅっと抱きしめる
迎えに来てくれて ありがとう

夜明け団の人たちを保護
聞きたいことがあるんです と教団へ

ただいま カノンちゃん
ぱっと笑顔
何に変わる?と聞かれ 自分の妹の写真を見せる
すごい!シンティそっくり!
ドッペルさんていろんなことができるのね
ヴォルフラム・マカミ カグヤ・ミツルギ
男性 / ライカンスロープ / 拷問官 女性 / 人間 / 陰陽師
「カグちゃ…カグヤ、ちゃん」
…こう呼ぶのは何時ぶりだろうか?
適合診断から契約して…1年くらいだけだったかな

「僕はヴォルフラム…君のパートナーだよ」
もう今年で12年になるけど…12年前、僕が10歳で君が8歳だった頃、僕は君に出会った
適合判断で、とても相性が良かったから契約して僕と君は浄化師になったんだよ

2年放置されて、筋力の弱った僕と一緒に運動したのも
読み書きができなかった僕に読み書きを教えてくれたのも君だった
「君に出会えなければ、僕は今、此処に居ない」

去年の今頃僕の実家へ行ったよね

去年のクリスマスに想いを伝えて、恋人になったんだよ


髪をすくい上げて口づける
コレをするの僕だけなのも忘れちゃった?


ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者


ベ くそ…奴らの罠か
  おいヨナ 大丈夫かしっかりしろ
ヨ (怪訝そうに)貴方は誰…いいえ私は…?
  思い出せない 私の仲間なのですか?
頭を押さえるヨナの肩を掴み
ベ お前はヨナ 浄化師で 俺のパートナーだ
ヨ 浄化師? サクリファイスではなく?
ベ ああそうだ …ほら お前が不安な時によく握る俺の尾だ
  触って思い出せないか
ヨ (もみもみ)むぅ…
  もう少しこう…あなたを近くで感じたい気がするんですが…いいでしょうか?(ハグ要求

やや躊躇しながらそれで戻るなら…とぎゅっと抱きしめて暫く

ヨ …ベルトルドさんってお日様の匂いします
ベ 俺の名前が出てくるなら思い出せたか
ヨ はい すみません不覚を取りました
  (でも匂いで思い出せるなんて…)(顔を上げられない
タオ・リンファ ステラ・ノーチェイン
女性 / 人間 / 断罪者 女性 / ヴァンピール / 拷問官
ステラ!ここで何をしてるんですか!
見張っているようにと言っておいたはずです!なのにどうして……

……え?冗談は、やめてください……いい加減に怒りますよ
まさか、本当に記憶が……?

言葉が通じるのは幸いでした、ですがどうすれば……
名前?そうだ……
あなたの名前は……誰がつけたものですか?
その名前の意味を知っているはずです


【帰還後】
ス:うおー!やっぱりすごい!すごいぞー!
わおーん!!

ス:そうだ、ちょっと待ってろ!
(戻ってきて)な、どっぺる、これいけるか?

何ですか?私に隠れて……
っ!!

(踵を返して)……すみません、私は先に戻ります
それと、私の前で二度とその姿に化けないでください
お願いします
リコリス・ラディアータ トール・フォルクス
女性 / エレメンツ / 魔性憑き 男性 / 人間 / 悪魔祓い
サクリファイス?
違うわ、あなたは私のパートナー
創造神に判断を委ねるだけの哀れな存在とは絶対に違う
プレゼントされたネックレスを見せて歌う
翼よ、どうか届けて
思い出して、トール…

トールを元に戻したら夜明け団を連行

あなた、もしかしてカイン達の指令の時に保護された子?
そのフィロって人のこと、教えてちょうだい
トールを唆して…次に会う時は容赦しないわ

まだ何か…え?新しい能力を見せてくれるの?
それじゃあ、ママの姿にもなれるかしら
わあ、ママだ…
思わず嬉しそうにドッペルに抱きつき
ありがとうドッペル…あ、名前があった方がいいわよね
アルエットはどうかしら、気に入ってくれた?
ふふ、これからも仲良くしてね、アルエット
アルトナ・ディール シキ・ファイネン
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / エレメンツ / 悪魔祓い
アンタは?
いや…アンタはいったい
浄化師、か? ならサクリファイスの敵…?
は…? アルトナ・ディール
なんで俺をそう呼ぶ?
 シキを警戒
ずっと?

…そうだったな シキ
薬で記憶を消されてた 多分
サクリファイスの、残党だ 襲ってきたのは
シキ、平気だ 心配かけた
待った ハグはもう良い
アンタのことはすぐ分かる

☆質問
あの親子が何者なのか 何をしようと考えるのか

 『ルア』には三、四歳のアルに化けてもらう
 子アルに化けたルアは写真の通り不安げな表情
エレメンツに囲まれた生活は 俺にとってはあまり良いものじゃなかった
…あの頃の俺はこんな顔してたのか
 ルアの小さな手が自分の頬に触れる
えらくエレメンツに縁があるとは思ってた
今はアンタで良かったよ シキ


~ リザルトノベル ~

〇異変と変調

 森の中を捜索していた『ショーン・ハイド』は、森の奥にある礼拝堂の前で、『レオノル・ペリエ』の姿を発見した。
「ドクター、ご無事で何よりです」
「きみはだぁれ? 私はサクリファイスの人間なんだけど……」
「どうなさったのです!?」
 ショーンの言葉に返ってきたのは、想定外な内容の数々。
 レオノルの口から出た言葉に思わず、寒気を覚える。
(こ、こりゃあ、どうすれば……)
 ショーンは一度、深呼吸をして、心を落ち着ける。
 そして跪き、彼女の手を取った。
(? 何か驚いているけど、どうしてだろう……? そして、何で跪くんだろう)
「お忘れになられたのでしょうか。今までのことを」
 レオノルの疑問に応えるように、ショーンは続ける。
「私のエゴのために貴女を苦しませようと、貴女は私を許してくださったことも」
 ショーンは過去を振り返る。
「私が自らを守るためとはいえ、貴女達を騙していても、貴女はむしろ私を守って下さった」
 それは、彼女の記憶が戻る事を願っての呼びかけ。
 その想いは、やがて形を結ぶ。
 レオノルは、彼の口から語られた過去に唖然としていたからだ。
「……ならば、今度は私の番でしょう」
 ショーンは再び、誓いを立てる。
「ドクター、貴女の記憶が無くなろうと、私は貴女をお慕い申し上げています」
 ショーンは祈るような思いで、彼女の手の甲に口づけをした。
 銀髪の姫君に、忠誠を誓う騎士。
 それは、あの『月輝花の花畑』の一場面を焼き写したような光景。
(ああ、彼は……!)
 レオノルの心に、弾かれたように記憶が蘇る。
 そのまま、嬉しさを堪えきれなくなったように、思わずタックルして彼を強く抱きしめた。
「う、うぐ……。記憶が戻りましたか……」
 いつもの彼女らしい反応に、ショーンは記憶が戻った事を悟る。
「ドクターをこんなことにした奴は一体、どこへ行ったんだ……! 許しちゃおけん!」
 行方を眩ませた敵に対して、ショーンは怒りを露にした。
「とりあえず、夜明け団は大人しいみたいだし、あんま拘束しないで連れて行こうか」
 礼拝堂の中で佇んでいた終焉の夜明け団を見て、レオノルは彼らに対する方針を定める。
「ついでに、私達をこんな風にした連中の情報を集めないと……」
「はい」
 レオノルの決意を助けるように、ショーンは返した。




「アリシア、大丈夫かい?」
「この人は、誰……?」
 駆け寄ってきた『クリストフ・フォンシラー』の呼びかけに、『アリシア・ムーンライト』は不思議そうに首を傾げた。
(アリシアが、俺を忘れてる)
 その衝撃的な事実を突きつけられ、クリストフの顔が曇る。
「判らない……。でも……」
 アリシアは戸惑っていた。
 彼のお日様の色の瞳。
 それが悲しそうに揺れたのを見て、心が痛んだからだ。
「どうして、そんなに悲しそう、なのですか? 私は、どうして……心が痛むの……?」
 答えが出せないまま、アリシアは縋るように尋ねる。
 彼女の揺らいだ瞳に、クリストフの心は大きく揺さぶられた。
(切っ掛けがあれば、思い出せるんじゃないか?)
 その事実を前にして、クリストフは一縷の望みをかける。
 思いついたのは、彼女の故郷で見た花畑。
「アリシア、勿忘草の花畑、思い出せない?」
「勿忘草の花畑……」
 その言葉を聞いた途端、青い花が一面に咲いた光景が、アリシアの目の前に広がるように思い浮かんだ。
「この景色……私、知ってます……。ここで、大切なことを、思い出して。隣には、大切な人がいて」
「あの花畑で、君は失ってた記憶を取り戻したよね。大切な君の家族のことを思い出した時、俺も一緒にそこにいた」
 二人は、あの日の記憶を共に辿る。

「思い出して、アリシア」

 クリストフはそっと腕を伸ばして、彼女を抱き締める。
 優しく抱き締めながら、彼女の耳元で囁いた。
 それはまるで、祈りを捧げるような願いだった。
 クリストフのその言葉は、アリシアの心に突き刺さる。
(私、この人を、知ってる……。ずっと隣にいたいと、そう思った人)
 アリシアは、抱き締められた彼の体温に心地よさを感じていた。
 沈みかけていた記憶が、徐々に浮上してくる。
「クリス……忘れて、ごめんなさい……」
 全てを思い出したアリシアは、次にクリストフが取った行動に虚を突かれることになる。
 クリストフがそっと、唇を重ねてきたからだ。
「良かった……」
 彼女から離れたクリストフは心底、安堵した微笑みを零す。
 今も残る確かな唇のぬくもりに、アリシアは顔を赤らめる。
 そこで、はたとある事実に気付いた。
「そうです。中に、終焉の夜明け団が」
「夜明け団を捕縛したら、罠に掛けてくれた二人のことを聞き出さないとな」
 アリシアに優しく笑みで返しながら、クリストフは応えた。




「あなたは誰ですか?」
 『リチェルカーレ・リモージュ』が問いかけた瞬間、目の前の彼が息を飲んだのが分かった。
「……記憶、が……?」
 『シリウス・セイアッド』は、彼女が何も覚えていないという事実に血の気が引いていた。
 彼の表情は変わらない。
 しかし、リチェルカーレは、自分の発言が彼を傷つけた事に気付く。
「……お前は、サクリファイスの人間じゃない。お前は俺の。俺、の……」
「わたしは、あなたの?」
 リチェルカーレの問いかけに答えられない。
 シリウスは苦悩の表情を浮かべ、言葉を詰まらせる。
 いつものように笑って、名前を呼んでほしいと思う。
 けれど――。
(……思い出さない方がいいのか? 自分とは離れた方が、距離を置いた方が、リチェのためには)
 それは幼き日に刻まれた呪い。
 それに囚われていたシリウスの冷たい頬に、彼女の手が触れた。
「どうして、あなたはそんなに……」
 リチェルカーレは、二律背反に苛まれている彼を見つめる。そして、続く言葉を失った。
 揺れる瞳。
 触れることを恐れる指。
 時々見る優しい笑顔。
 その全てが、リチェルカーレの中で息づいていた想いを解放した。
「あなたの、なあに? 教えて、シリウス」
 名前を呼ぶ声に、シリウスは目を見開く。
 至近距離にある色違いの瞳。
 そして、自身に向けられる混じり気のない好意。
 そこには、いつもの彼女が笑いかけていた。
「……リチェ?」
「ごめんなさい、心配かけて。皆は無事……っ!?」
 花開く――その笑顔の波紋が広がる。
 シリウスは思わず、その小さな体を抱きしめていた。
 突然、抱き締められた事で、彼女は小さく悲鳴を漏らす。
「――良かった……」
 リチェルカーレはそこで、彼の腕が僅かに震えているのに気づいた。
 彼女はそれに応えるように、ぎゅっと抱きしめる。
「迎えに来てくれてありがとう」
 柔らかな彼女の温もりを感じながら、シリウスは乱れていた呼吸を落ち着かせた。




「私はカグヤ。サクリファイス……の筈」
 『カグヤ・ミツルギ』が発した予想外な言葉に、『ヴォルフラム・マカミ』は虚を突かれた。
「カグちゃ……カグヤ、ちゃん」
 ヴォルフラムはそう語りかけようとして、改めて言い直す。
(……こう呼ぶのは何時ぶりだろうか? 適合診断から契約して……1年くらいだけだったかな)
 ヴォルフラムの脳裏に、カグヤと初めて出会った頃の光景が蘇る。
「僕はヴォルフラム……。君のパートナーだよ」
 ヴォルフラムは過去に想いを馳せた。
「もう今年で12年になるけど……12年前、僕が10歳で君が8歳だった頃、僕は君に出会った。適合診断で、とても相性が良かったから契約して、僕と君は浄化師になったんだよ」
「この人は、ヴォルフラム。浄化師だけど、私を知っている人。この人に心を許してはいけない筈……」
 カグヤは警戒するように、自身に言い聞かせる。
 だが、何かが抜け落ちている感覚は消えない。
「2年放置されて、筋力の弱った僕と一緒に運動したのも、読み書きができなかった僕に読み書きを教えてくれたのも君だった」
 ヴォルフラムは記憶を辿るように、思い出を語り続ける。
「君に出会えなければ、僕は今、此処に居ない」
 カグヤとの思い出は、どれを思い出しても鮮明に描けた。
「去年の今頃、僕の実家に行ったよね」
 その幸せで、かけがえのない日々。
「去年のクリスマスに想いを伝えて、恋人になったんだよ」
 ヴォルフラムはそれを証明するように、カグヤの髪をすくい上げて口づけをする。
「コレをするの、僕だけなのも忘れちゃった?」
 ヴォルフラムは他のものなんて何も見えないみたいに、澄み切った瞳でカグヤを見ていた。
(でも……この人の傍はほっとする)
 金と青の瞳に写る自分の姿。
(……何故、この人の瞳に写る私を見て、私はほっとしてるのだろう?)
 触れられた彼の手の暖かさを知ってる気がした。
「わたし、は……」
 カグヤの中で、ヴォルフラムに対する溢れんばかりの愛しさが湧き上がってくる。
「ヴォル……」
 包み込むような瞳に惹かれて、カグヤは彼の名前を口にしていた。
 どうして、忘れてしまっていたのだろう。
 あんなにも好きだった人のことを。
「カグちゃん」
 カグヤの気持ちを代弁するように、ヴォルフラムは続ける。
「愛してるよ、僕のお姫様」
 顔を赤らめたカグヤを見て、ヴォルフラムが嬉しそうに笑った。




「くそ……、奴らの罠か。おい、ヨナ、大丈夫か。しっかりしろ」
 『ベルトルド・レーヴェ』の訴えに、『ヨナ・ミューエ』は怪訝そうに首を傾げた。
「貴方は誰……いいえ、私は……? 思い出せない。私の仲間なのですか?」
 ベルトルドは、頭を押さえるヨナの肩を掴み、呼びかける。
「お前はヨナ。浄化師で、俺のパートナーだ」
「浄化師? サクリファイスではなく?」
「ああ、そうだ。……ほら、お前が不安な時によく握る俺の尾だ。触って思い出せないか」
 ベルトルドの提案に、ヨナはゆっくりと彼の尾へと手を伸ばした。
 しばらく、ホクホクとした思いで揉んでいたが、すぐに次の欲が芽を出す。
「むぅ……。もう少しこう……あなたを近くで感じたい気がするんですが……いいでしょうか?」
「それで戻るなら……」
 ベルトルドはやや躊躇しながらも、ヨナの要望に応える。
 ハグを求めてきたヨナをぎゅっと抱きしめた。
 暫く間を置いた後、ヨナは恍惚した表情でぽつりと呟いた。
「……ベルトルドさんって、お日様の匂いします」
「俺の名前が出てくるなら思い出せたか」
 ベルトルドの見解に、ヨナは申し訳なさそうに頷いた。
「はい、すみません。不覚を取りました」
(でも、匂いで思い出せるなんて……)
 その事実を前にして、ヨナは恥ずかしさのあまり、顔を上げる事が出来ずにいた。




「ステラ! ここで何をしてるんですか! 見張っているようにと言っておいたはずです! なのに、どうして……」
「……だれだ?」
 『タオ・リンファ』の苦言に、『ステラ・ノーチェイン』は疑問を投げかけた。
「……え? 冗談はやめてください……。いい加減にしないと怒りますよ」
「おー、もしかして、オレのことを知っているのかー?」
 リンファの重ねての言葉に、ステラは無邪気な顔で言う。
「まさか、本当に記憶が……?」
 それはリンファにとって、全く予想だにしない出来事だった。
 ステラから思いもよらない言葉を告げられて、リンファは酷く動揺した。
 張りつめたような混乱と静寂に支配される。
「言葉が通じるのは幸いでした。ですが、どうすれば……」
 リンファは心を落ち着かせるように、ステラと向き合う。
 事態を把握した。
 それでも、戸惑いは続いている。
 思考がまるで追いつかない。
 ステラが、自分の事を忘れてしまっている事。
 その事実は、リンファが想像していた以上に重く圧しかかっていた。
「名前? そうだ……」
 途方に暮れていたリンファの脳裏に、ステラと契約を交わした時の光景が蘇った。
「あなたの名前は……誰がつけたものですか? その名前の意味を知っているはずです」
「なまえ……?」
 リンファの言葉に、ステラは目を瞬かせた。

 それは、過去の光景。
 二人が出会い、任務を通じて、契約を交わした日。
「私が、あなたに名前をあげます。今日、私達は家族になるんです」
 リンファは、身体を強張らせるステラに寄り添う。
「あなたはステラ……ステラ・ノーチェイン。鋼のように強く、どんなものにも縛られない……」
 リンファは、ステラの鋼鉄の首輪をさすり、確かな事実を口にした。
「それが、あなたの名前です」
(オレのなまえ……。オレのかぞく……)
 ステラは、リンファの穏やかな顔をしっかりと目に焼き付ける。
 そして、自身の名前を心に刻み付けていく。
 ステラの瞳に映る彼女は、いつの間にか素晴らしい色に彩られていた。

「マー……? なんでないてるんだ……?」
 心配そうなステラの声。
 そこには、いつもと変わらない純粋な親愛があった。
「なにか、こわいことがあったのか? だったら、オレがまもるのだ」
(あ……)
 ステラに指摘されて、リンファはようやく気がつく。
 リンファの瞳からは、涙が止め処もなく流れていた。
 ステラは安心させるように、涙をなめて拭い取る。
「ふふっ、くすぐったいですよ……。もう大丈夫です」
「そうか。よかったのだ」
 顔を上げたリンファは、胸のつかえが取れたように微笑んだ。




「サクリファイス?」
 『トール・フォルクス』が口にした言葉を聞いて、『リコリス・ラディアータ』は首を横に振った。
「違うわ、あなたは、私のパートナー。創造神に判断を委ねるだけの哀れな存在とは絶対に違う」
「君は誰だ? パートナー……? 何のことだ?」
 リコリスの言葉に、トールは疑念を抱く。
 記憶にない疑問を列挙する。
 それに答える代わりに、リコリスはあの日、プレゼントされたネックレスを見せる。
 本物の雲雀の羽のような意匠をこらしたネックレス。
 見覚えのあるそのネックレスは、トールの閉ざされた記憶を刺激する。
「翼よ、どうか届いて」
 リコリスはネックレスに想いを託し、歌を紡ぎ始めた。
 澄んだ歌声が森に響く。
 その歌声は、トールの心に響き、胸を躍らせる。
 やがて、彼女の歌は、終わりの近づく冬の空に溶けていく。
「思い出して、トール……」
 祈りを込めた想いが、トールの心に届いた。
「でも、この歌、懐かしい感じがする」
 トールは記憶を辿るように、彼女の歌に聞き惚れる。
「それにあのネックレスは、ハロウィンに俺が贈った……!」
 トールはその瞬間、全てを思い出していた。
 コンサート会場を背景に、彼岸花の髪飾りを付けた歌姫が歌っている。
 それは、魔女の魔法で姿を変えたリコリスだった。
 過去への回想――。
 沈みかけた記憶から顔を上げ、トールは現実につぶやいた。
「まさか、サクリファイスに洗脳されるなんて」
「トール、元に戻ったのね」
 リコリスの問いかけに、トールは万感の想いを込めて頷いた。
「リコのおかげで助かったよ、ありがとう。捕縛した夜明け団の所へ行こう」
「ええ」
 リコリスは、彼の柔らかな微笑に吸い寄せられるように礼拝堂の中へと入っていった。




「アンタは?」
「……アル?」
 『アルトナ・ディール』の想定外な発言に、『シキ・ファイネン』は窮地に立たされた気分で息を詰めた。
「アル、分かる? 俺のこと」
「いや、アンタはいったい」
 シキの重ねての問いかけに、アルトナは質問の意味を吟味しながら淡々と答える。
 そこで、シキが浄化師である事に気付く。
「浄化師、か? なら、サクリファイスの敵……?」
「サクリ、ファイス? わけわかんねえよ、アル」
 シキは不意打ちを食らったように、悲しみで胸が張り裂ける思いになった。
 嫌な寒気が、ぞわりと背中を這う。
 しかし、その寒気は、いつもの呼び方で声をかけようとした事で跡形もなく飛び散った。
「自分の名前は?」
「は……? アルトナ・ディール」
 シキの質問の意図が分からないまま、アルトナは名乗った。
 その時、アルトナは、シキが自身の事を『アル』と呼んでいる事に着目する。
「なんで、俺をそう呼ぶ?」
 アルトナは警戒するように尋ねた。
「ずっとそう呼んでるじゃんか。アルが覚えてなくても、俺は覚えてるぜ」
 断定する形で結んだシキの言葉に、アルトナは顔をしかめる。
「アルトナを、俺は最初の指令からずーっと『アル』って呼んでたんだ」
「ずっと?」
 アルトナの切り返しに、シキは確かな想いを抱いて首肯する。
 アルトナの脳裏に、シキに会ってからずっと抱えていた疑問がもたげた。

 初めての指令。
 宝石を散りばめたように美しかった夜空。
 灯台の魔力供給を、二人で交代で行った事。

「……そうだったな、シキ」
 唐突な声。
 シキが、何よりも望んでいた事が現実に起きた。
 サクリファイスの手によって、失っていた記憶が蘇る。
「薬で、記憶を消されてた。多分、サクリファイスの、残党だ。襲ってきたのは」
「アル……!」
 アルトナの解釈に、シキは感極まったように言った。
「シキ、平気だ。心配かけた」
「アルトナきゅん!」
 シキはすかさず、抱擁しようと手を広げる。
 しかし、それはアルトナによって止められた。
「待った、ハグはもう良い」
「え、バレた……?」
 意外な表情を浮かべたシキを一瞥し、アルトナは応える。
「アンタのことはすぐ分かる」
「俺のこと、分かっちゃうの!? キャー、照れちゃう!」
 シキは満面の笑顔を浮かべて喜び勇んだ。


〇フィロとコルク

「聞きたいことがあるんです」
 リチェルカーレが祈るように懇願する。
 礼拝堂の中にいた終焉の夜明け団は、彼女達の頼みを聞くように、教団への連行には素直に従っていた。
 彼らは記憶を消された事によって、浄化師達に自分達の方向性を委ねていた。
「さっきの親子は? サクリファイスだったんだろうか」
「はい。フィロ様とコルク様は、サクリファイスの者です。ただ、それ以上の事は、我々には分かりません」
 その道中で、周辺の警戒をしていたシリウスの疑問に、終焉の夜明け団の男が申し訳なさそうに答える。
「あいつらも同じ薬を使われて放置されたなら、あの親子とグルではなかった訳だ」
「そうですね」
 ベルトルドの言葉に、ヨナは複雑な心境を抱いた。
「とにかく、教団に戻れば、何か分かるだろう」
「はい」
 ベルトルドの言葉を繋げるように、ヨナは頷いた。
「彼らを連れて本部に帰ったら、フィロ達の情報を聞かないとな。やっぱり、カタリナやイヴル達と関係あるんだろうな……。次に関連の指令が出たら、目を通しておかないと」
 トールは今後の事を確認しながら、リコリスに視線を向ける。
「って、リコ、あんまり怖がらせないようにな?」
「分かっているわ。ただ、正体を確かめて、二度とこんなことさせないようにしなくちゃ!」
「そうだな」
 リコリスの言葉に、トールは真剣な表情で頷いた。


 教団に戻ってきた浄化師達のもとに、教団員達がやってくる。
 連行していた終焉の夜明け団は、既に教団に引き渡していた。
「トール様、リコリス様、その節はご迷惑をお掛けしました」
 教団員の謝罪に、リコリスは目を瞬かせた。
「あなた、もしかしてカイン達の指令の時に保護された子?」
「はい」
 リコリスの疑問に、彼らに捕縛された教団員――ドッペルが答える。
「フィロ様にお会いになられたのですよね?」
「知っているのか?」
 瞬間的なトールの言葉に、ドッペルは表情を強張らせた。
「そのフィロって人のことを教えてちょうだい。トールを唆して……次に会う時は容赦しないわ」
「はい」
 ドッペル達に案内されて、部屋の一室へと入る。
 テーブルには人数分のカップが並べられており、中央には三段重ねのスタンドが置かれ、スイーツが載っていた。
「まず、あの親子が何者なのか」
 アルトナが本題に入る。
「そして、何をしようと考えるのか」
「表向きは、カタリナ様の力を取り戻す為に行動しています。ただ、実際は、イヴル様とは異なる思惑で動いています」
 アルトナの疑問に、ドッペルは苦々しく語った。
「コルクとフィロは、カタリナやイヴルの親族なんだろうか……。あるいは、同じ神を信奉する者……?」
「同じ神を信奉する者です」
 レオノルの核心に迫る疑問に、ドッペルは静かに答える。
「サクリファイスか……」
「正確に言えば、フィロ様だけです。コルク様は、サクリファイスによって利用されています」
 シリウスの言葉を追随するように、ドッペルが驚愕の事実を口にした。
「フィロ様達は、サクリファイスの信者にする為に、魔力蓄積量が高いコルク様のような者達を浚って集めています」
「その際、抵抗出来ないように、薬品によってフィロ様達の命令を遂行するだけの存在に変えられます。魔術の薬品で記憶を消されたり、コルク様のように『強迫性障害』を植え付けられるんです」
 その恐怖にかき消されてしまいそうな意識を、ドッペル達は懸命に繋ぎ留める。
「サクリファイスの信者へと変えられた者達は、コルク様のようにサクリファイスの者達と行動を共にしたり、または見張り等――特定の任務を任される事によって、周辺の町や村等に混乱をもたらしています」
「そんな……」
 ドッペル達によって次々と明かされる真実に、アリシアの表情が曇る。
「サクリファイス特有の強迫性障害みたいなものを引き起こすのかな?」
「……恐らく」
 ヴォルフラムの言葉に応えながらも、カグヤはサクリファイスが用いたこの不可解な策略について模索していた。
「あの記憶を喪失する薬品を使えば、無関係の人物をサクリファイスの信者にする事が出来る」
 カグヤの思考は、一つの推論を導いていた。
(……一時的に)
 カグヤは、魔術を伴った薬品の特性に着目する。
(強迫性障害を引き起こす薬品は、私達には使わななかった……。もしくは、試作段階だったから、使えなかった……?)
「強迫性障害を引き起こす薬品は、実験段階の為、被験者はコルク様お一人です」
 曖昧だった思考に与えられた具体的な形。
 カグヤは、そう発言したドッペルに視線を向ける。
「強迫観念によって、サクリファイスの為だけの事に頭の中を占められるようになり、強迫行為によって、特定の行動――サクリファイスの為の行動を繰り返さずにいられなくなります」
「……サクリファイスの信者を集めるのには、最適だというわけか」
「そうですね」
 ショーンの言葉に応えたのは、ヨナだった。
「フィロ様は、その手腕を認められて、サクリファイスの幹部へと登りつめた実力者になります」
「サクリファイスの幹部の生き残りがいたのか?」
「……はい。フィロ様は、サクリファイスの幹部の生き残りの一人です」
 事実を紡いだドッペルの言葉に、ショーンは捉えどころのなさを感じる。
「一人……。なら、まだ他にいるのか?」
「はい」
 シリウスの疑問に、ドッペルは辛辣そうに答える。
「正直な所、フィロは、今のカタリナが本物のカタリナじゃない事に気付いているのかな?」
「幹部なら、本物のカタリナさんにあった事がありますよね」
 レオノルの懸念に、リチェルカーレは憂いを帯びた表情で呟いた。
「今のカタリナは、死んだカタリナじゃない。中身は結局ドッペルじゃん。それで満足なのかな?」
「逆に知っていて、それを利用してるかもしれないね」
 レオノルの言葉に、クリストフは真剣な表情で考え込む。
 イヴル達は、各地に散らばっているサクリファイスの者達を可能な限り、集結させている。
 そして、フィロが魔術の薬品を用いる事で、信者不足は払拭されていた。
 だが、フィロの思惑は、イヴルの目的とは明らかに異なっている。
(何というか、無粋だよなあ。サクリファイスも。イヴルが為そうとしてる事を、逆に利用しなくても――)
 クリストフは怒りを抑えながら思う。
(だから、俺達みたいなのに邪魔されるんだよ)
「どう、して……」
 語られた事実に、アリシアは悲しげな顔をする。
 そんな彼女に応えるように、クリストフは言った。
「今度こそ、コルクちゃん達を助けよう」
「はい……」
 成すべき事を心に刻み、アリシアは決意を込めて頷いた。
「魔術の薬品……。サクリファイスの信者にするために、コルクちゃん達を?」
 リチェルカーレは悲痛な面持ちで呟く。
 『連れ浚われ、利用されている』という言葉の重みを感じる。
「どうしてそんな酷いことを」
 彼女の震える声を聞き、シリウスは目を細めた。
「……助けるんだろう?」
 静かなシリウスの声に、リチェルカーレは頷き、応える。
「ええ。誰も犠牲にしたくない」
 はっきりと口にした彼女に、シリウスは決意を固めた。
「だから、コルクちゃん達を止めなくちゃ」
 リチェルカーレは想いを口にする。
「ドクター。私には……フィロが何を為したいのか全く理解できないんです」
 告解のように告げるショーンに、レオノルは応えるように言った。
「……ショーン、理解できないってことは君に彼女のような要素は一切ないってことだ。安心しなよ」
 レオノルの言葉に、ショーンは一瞬息を飲むように沈黙する。
 けれど、すぐに、レオノルの言葉に応えるように小さな笑みを返した。
「ありがとうございます。ドクター」
 ショーンは礼を返すと、戦いに挑む決意を固めた。
 皆一様に、部屋を後にする。
「タオさん……?」
 去り際、アリシアは、リンファがどこか思い詰めたような表情を浮かべているのが気になった。
「ところで、ステラ」
 リンファは後ろめたい気持ちで頭を下げた。
「その……あの時はすみませんでした。怒鳴ってしまって……」
「マー! どっぺるがすごいことをしてくれるらしいぞー!」
「え……?」
 続く謝罪の言葉は、はしゃぐステラによって寸前で胸に消えた。


〇ドッペルによるお披露目会

「サクリファイスの幹部が生きていたのですね」
「表舞台に再び、立って、何を為そうとしているんだろうね」
 ショーンの言葉に、レオノルは思考を走らせる。
 その時、ドッペル――らぷが意味深な表情で二人の帰りを待ち構えていた。
「そんなことを悩んでいたら、目の前に母上が!」
 レオノルは目の前に立つ――ナターリエの姿のらぷに驚愕する。
 レオノルは少し固まった後、慌てて聞き返す。
「母上? え、ええっ、なんで? なんで母上がここにいるの!?」
「ドクター、実は――」
 これにショーンは先程、聞いたドッペル達の新しい能力について伝えた。
「凄い!! らぷちゃんの変身能力!!」
 レオノルは、らぷの周りをくるくると回って思わず、軽く抱き着いた。
 欣喜雀躍のように喜ぶレオノルを見て、ショーンの表情は知らぬ間に柔らかくなっていた。




「ルゥちゃん達、新しい能力が?」
「……はい」
 アリシアの問いかけに、ドッペル――ルゥは応えた。
「それなら……リアお姉ちゃんの姿に、なって貰うことは……」
「エルリアに? それなら――」
 アリシアの提案に、クリストフは捜索の為に、と実家から持ってきた16歳の時のエルリアの写真を見せる。
 ルゥは写真を見て、16歳の時のエルリアに姿を変えた。
 長い黒髪のアリシアに似た面影の少女。
 春の日差しのような暖かい笑みを宿して、アリシアの言葉を待っている。
「お姉ちゃん……」
 アリシアは縋るように、ルゥに抱き着いた。
「クリス。いつか、本物のお姉ちゃんに……会いたいです……」
「ああ。必ず、見つけよう」
 アリシアの想いを受けて、クリストフは優しく笑みを返した。




「ただいま、カノンちゃん」
「お帰りなさい」
 ドッペル――カノンの出迎えに、リチェルカーレの笑顔が咲き誇る。
 カノンは、二人が指令に出向いている間、新しく保護されたドッペル達から新しい能力を教えて貰った事を伝えた。
「何に変わる?」
 新しく覚えた能力を、二人見せたい。
 カノンは、逸る気持ちを抑えきれないとばかりに尋ねてくる。
「シンティになれるかしら?」
「ええ」
 リチェルカーレは、自分の妹の写真を見せる。
 カノンは写真を見て、シンティに姿を変えた。
「すごい! シンティ、そっくり!」
 リチェルカーレは溢れる感動を伝えるように、両手を絡ませる。
「ドッペルさんって、いろんなことができるのね」
 シリウスは、シンティに化けたカノンに目を丸くした。
「――器用だな」
 シリウスは、ついシンティにしたように、カノンの頭を撫でる。
 シンティの姿をしたカノンは幸せそうにはにかんだ。




「新しい能力?」
「……うん」
 戻ってきたヴォルフラムの疑問に、ドッペルは答える。
 そして、持ってきた写真等を見ながら、いろいろな人物や小動物等へと姿を移り変えていく。
 カグヤは、ドッペルの新しい能力を見て、部屋から小さな肖像画を持ってくる。
「……かあさまの絵だけど……これでも変身できる?」
 リスの姿になっていたドッペルは、肖像画を見て、カグヤの母親へと姿を変えた。
「かあさま……」
 カグヤはそっとドッペルに抱き着いた。
「生きているかあさまは、見た事なかったから、嬉しい……」
 記憶の中の母親は、半透明で向こう側が透けているのが当たり前だった。
 触れてもすり抜けてしまって、触れようとしてもひんやりと冷たい。
「ヴォル……。かあさまは、こんなにも暖かかったのかな……」
「……そうだね」
 カグヤは優しい眼差しと共に、母親の温もりを感じていた。




「コルクさんは利用されているのですね」
 ヨナは躊躇いがちに言葉を零す。
「コルクさん達を、サクリファイスの手から解放する事は出来ないんでしょうか?」
 その提案には、どこか思い詰めた響きがあった。
(納得できないんだろうな)
 ヨナの提案を聞き、ベルトルドは思う。
 納得しきれない事に対する、不退転の決意。
 ヨナは顎に手を当てて、先程の情報から得られるものは無いかと試行錯誤を続ける。
「ヨナさん……」
 その時、意を決したように、ドッペルが声をかけてきた。
「新しい能力ですか?」
「……うん」
 戻ってきたヨナ達に、ドッペルが一途な眼差しで問いかけてくる。
「好きな動物になってみてください」
「好きな動物……?」
 ヨナの提案に、ドッペルは不思議そうに首を傾げた。
「動物……」
 ドッペルは思案するように視線を巡らせる。
 すると、ベルトルドはそんなドッペルの気持ちを汲み取ったのか、教団員から小動物の写真を何枚か、貰ってきた。
「にゃー……」
 猫に姿を変えたドッペルは、小動物の写真を貰えた事への嬉しさを噛みしめるように両手を広げる。
「にゃんにゃん~」
 ドッペルの透き通るような小さな声が、流れるように口ずさむ。
 ドッペルはさらに、いくつかの小動物に変身して能力をお披露目した。
 そして、最後にヨナの姿に戻り、少し得意げな顔をする。
 ヨナはぱちぱちと拍手を送り、称賛の言葉を贈った。
「教えて貰って出来るようになるのなら、イヴルはあなたのことを見誤ったようですね」
「……っ」
 言葉に出来ない温かさが、ドッペルの胸に広がる。
「それに、新しく来たドッペルと打ち解けてるようでとても嬉しい」
 ヨナの一言一句が、心に沁みてくる。
「あなたが、勇気を出してくれたお蔭ですね」
「……ありがとう」
 ヨナの激励に、涙を潤ませたドッペルは花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべた。
「しかし、ドッペルの人数も増えて、名前が無いのも不便だな。そろそろ考えるか」
「そうですね」
 ベルトルドの言葉に、ヨナはドッペルの名前を模索する。
 そんな二人の会話を聞きながら、ドッペルは幸せに浸っていた。
 しかし、最後に戻った姿のヨナが、『好きな動物』に含まれているかどうかは、ドッペルのささやかな秘密にした。




「うおー! やっぱり、すごい! すごいぞー! わおーん!!」
 狼等に化けるドッペルを見て、ステラは興奮気味に訴える。
 そこで、リンファは元気のない自分を励ましてくれている事に気付いた。
「そうだ、ちょっと待ってろ!」
 遊んでいる途中で、ステラは走って、リンファの部屋から写真を持ってくる。
「な、どっぺる、これいけるか?」
「何ですか? 私に隠れて……」
 ドッペルの姿を見たその瞬間、リンファは血の気が引いたように固まった。
「――っ!!」
 リンファは悲痛な声を漏らす。
 ドッペルが姿を変えた人物――それは妹のメイファだったからだ。
 自らが犯した過去が、反射的に心に浮かぶ。

『お姉ちゃん……どうして……?』

 リンファは踵を返して、話を打ち切った。
「……すみません。私は先に戻ります。それと、私の前で二度とその姿に化けないでください。お願いします」
「……はい」
「……っ」
 それは、違える事もない妹の声。
 リンファは堪えきれなくなったように、その場を後にした。

「ステラは、善意でやってくれたのに……」
 今、リンファの心に芽生えているのは罪悪感だった。
「……私、最低だ」
 感傷は胸に広がり続ける。




「まだ、何か……え? 新しい能力を見せてくれるの?」
 リコリス達を引き留めたのは、教団員に姿を変えたドッペルだった。
 だが、先程までのドッペルとは雰囲気が違っている。
「ん……? もしかして、前に一緒に同行していたドッペルか?」
 確かな違和感を感じたトールは、ドッペルに尋ねた。
「はい。実は――」
 ドッペルは、二人が指令に出向いている間、新しく保護されたドッペル達から新しい能力を教えて貰った事を伝えた。
「それじゃあ、ママの姿にもなれるかしら」
「リコのお母さん……確か、雲雀姫の外見は人間の姿そのままだったよな」
 リコリスの望みを叶えるように、トールは前に受けた指令の資料を探し始める。
「討伐指令の時の資料に写真があったはず……。この女の人になれるか? あ、羽根は無しでな」
 トールの要望に応え、ドッペルはリコリスの母親へと姿を変えた。
「わあ、ママだ……」
 リコリスは思わず、嬉しそうに抱きついた。
「ありがとう、ドッペル……あ、名前があった方がいいわよね」
 リコリスはとっておきの名前を披露するように、ドッペルを見つめる。
「アルエットはどうかしら」
「アルエット……」
 リコリスの言葉に、ドッペル――アルエットは顔を輝かせた。
「気に入ってくれた?」
「はい」
 アルエットのその表情は、名前を貰ったことへの幸福に満ち溢れている。
「ふふ、これからも仲良くしてね、アルエット」
「……何とか打ち解けてくれそうだな」
 その仲睦ましげな様子を、トールは穏やかな表情で見守っていた。




「ルア?」
 新しい能力の事を伝えに来たドッペルは、シキから予想外なご褒美を貰っていた。
「アルの名前、逆さにするとルア! ……カッコよくね?」
 シキは高揚した面持ちで問う。
「ルア……カッコいい……」
 ドッペル――ルアは胸に刻むように、その名前を口にする。
「ルアの新しい能力、何か、めっちゃ楽しそう! つーかもう楽しいっ!」
 喜びに包まれたルアを見て、シキは考えを巡らす。
 そして、ルアに見せた写真は、エレメンツの男性の腕に抱かれた小さい頃のアルトナだった。
 ルアは、小さい頃のアルトナへと姿を変える。
 三、四歳のアルトナの姿をしたルアは写真通り、不安げな表情をしていた。
 アルトナは郷愁に誘われて、養父がしたようにルアを抱き上げる。
「エレメンツに囲まれた生活は、俺にとってはあまり良いものじゃなかった」
 アルトナは、昔を思い出すように語る。
「……あの頃の俺はこんな顔をしてたのか」
 ルアの小さな手が、アルトナの頬に触れた。
「アルはさ、契約相手もエレメンツなワケじゃん?」
 シキは躊躇いがちに尋ねる。
「なんつーか……イヤだったか?」
 シキとの思い出から想起されたのは、むしろ――。
「えらくエレメンツに縁があるとは思ってた。今はアンタで良かったよ、シキ」
「アル……えへへ」
 それは、率直で偽りのないアルトナの心情の吐露だった。
 シキは嬉しさのあまり、自然と笑顔になった。


〇神への懺悔

 コルクは密閉された礼拝堂で、神に祈りを捧げていた。
(おかあ、さん……?)
 目を閉じる度に思い出す女性の悲しみの瞳が、コルクの心を抉るのだ。
 心の傷。
 それはあまりにも痛々しく、コルクを苦しめ続けていた。
 ――夢を見る。
 ここ最近、何度も見る悪夢だ。
 悪夢だと思いたい、現実だった。
 コルクはまるで走馬灯を鑑賞するように、その光景を見せつけられる。
 視界に映るのは真っ赤に燃える町並み。
 轟くのは、助けを求める悲鳴の声。
 我先にとベリアルから遠ざかるように人混みをかき分けて逃げる人々。
 阿鼻叫喚の声がいたるところで聞こえてきた。
「この娘は、なかなか魔力蓄積量が高いですね。カタリナ様の力を取り戻すための贄として使えそうです」
「待って! 娘を――コルクを返して!」
「邪魔ですね」
 女性の呼びかけに、フィロは冷徹な声音で切り捨てるように魔術を放つ。
 爆炎の直後の光景は、今も目に焼き付いている。
 涙で声を枯らし、絶望に打ちひしがれた女性の、その時の泣き顔が忘れられない。
 女性が何処か遠くに、手の届かない場所に行った――そんな悪夢がコルクをずっと苦しめていたのだった。


【森国】救済のリベレイション
(執筆:留菜マナ GM)



*** 活躍者 ***

  • ショーン・ハイド
    生きる為。ただそれだけの為ですよ
  • レオノル・ペリエ
    君が誰であっても私には関係ないよ
  • リコリス・ラディアータ
    貴方が貴方なら王子様は必要ないの
  • トール・フォルクス
    世界と戦うお姫様と共に

ショーン・ハイド
男性 / アンデッド / 悪魔祓い
レオノル・ペリエ
女性 / エレメンツ / 狂信者

リコリス・ラディアータ
女性 / エレメンツ / 魔性憑き
トール・フォルクス
男性 / 人間 / 悪魔祓い




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/02/17-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[3] シリウス・セイアッド 2020/03/04-21:18

 
 

[2] アリシア・ムーンライト 2020/03/03-22:43