春を裂く災厄の爪
普通 | すべて
5/8名
春を裂く災厄の爪 情報
担当 鳩子 GM
タイプ ショート
ジャンル 戦闘
条件 すべて
難易度 普通
報酬 通常
相談期間 7 日
公開日 2018-04-23 00:00:00
出発日 2018-05-03 00:00:00
帰還日 2018-05-13



~ プロローグ ~

「あなた、ちょっと遅くなっちゃったけど、今日も来たわ」
 若草色のボンネットを被り、バスケットを手にして微笑む女の出で立ちは、いかにも若奥様風であった。だがその笑みを受け止めるのは彼女の伴侶でも、恋人でもない。
 『ダミアン・バロー、此処に眠る』
 まだ角の取れぬ墓石が、夕刻の赤い光を反射している。
 若き未亡人、アンナ・バローの微笑みを覗く者があれば、底無しの悲しみと虚しさを見てとっただろう。
 ここは豊かな自然を風物とするソレイユ地区でも特に静かな、観光客の訪れない農村の小さな墓苑だった。害獣避けの木柵が張り巡らされた内側には、掘り返された土の跡が残る新しい墓が並び、摘まれたばかりの花や瑞々しい果物などが供えられていた。
 惨劇が起きたのは、ついひと月ほど前のことである。
 近隣の大きな街へ作物を売りに行った一団が、その帰途、ベリアルに襲われた。村では連日弔いの鐘が鳴りやまず、人々は深い嘆きの淵に落とされた。大きな街道沿いのことであったため、すぐさま教団から浄化師が派遣され件のベリアルは討伐されたというが、失われた命が戻ってくることは無い。また別のベリアルが現れないとも限らず、憂いを拭い去ることは出来なかった。
 しかし、いつまでも悲嘆に暮れてはいられないのが現実だ。うつむいている間にも季節は移ろい、春の盛りを迎えた農村ではやるべきことが山のようにある。多忙さは、ある面では、精神の救いであった。ほんのわずかな兆しではあるが、暗い地中から若葉が芽を出すように、村は悲しみから立ち直ろうとしている。
「また来るわ。今度は、あなたの好きなマグノリアの枝を貰ってきましょう」
 しゃがみこんで亡き夫と対話していたアンナは、感傷を振り切るように言って立ち上がった。
 この頃は日が伸びたのに油断して、家を出るのが遅くなってしまった。おかげで、普段なら他にも何人かの姿があるのに、今日は一人きりだ。日暮れがすぐそこまで迫っている。住居の立ち並ぶ区画からそう離れてないとはいえ、墓地は林の中にあり、暗くなってからでは不安があった。
 その不安が恐れを招くのだろうか。林道を急ぎ帰るアンナは木々の陰から何かがこちらを伺っているような気配を感じた。冬眠から覚めた熊か、飢えた野犬か、それとも――。悪い想像はとどまるところを知らない。きっと気のせいだと自分に言い聞かせ、足早に土を踏む。
 木々が途切れた先に、村の明かりが見えてくる。ほっとしたのも束の間、がさりと葉擦れの音がたった。
 思わず振り返ったアンナの目に、巨大な黒い影が映った。


 のどかな夕飯時を迎えていた農村は、俄かに騒然となった。
 娘の帰りが遅いことを心配して迎えに出た父親が、林道の入り口で倒れるアンナを発見したのである。肩口をざっくりと引き裂かれていた他、背にも複数の爪痕が残っていた。アンナが村の灯が届くところまで逃げたので、襲撃者は途中で引き揚げたらしい。かろうじてまだ息があった。
「先生、アンナを、アンナを助けてください……!」
 弔いの記憶が、アンナの父親のみならず村中の人々を震わせる。
 医者がアンナの治療に全力を尽くす一方、外の広場では村の男たちが松明と武器を手にして集合していた。観光地でもない農村に軍属が駐在する由もなく、日頃から警備を担うのは有志の村民によって結成された自警団である。
「先生の見立てでは、アンナを襲ったのは熊だろうということだ。猟銃は持ったな」
 おう、と張りのある声が返る。男たちは村を再び襲った悲劇への憤りをみなぎらせている。
「どうやら、ここから飛び出してきたらしい」
 隊列を成して墓地へ向かった一行は、林道脇の梢が不自然に折れているのを発見した。
 さらに周囲を警戒しながら進んで行くと、墓苑を取り囲む木柵が破壊されているのが見えた。
「隊長、墓が荒らされています!」
 火を掲げて中へ入った隊員が悲痛な声を上げる。
 供えられた花は踏み荒らされ、果物は砕け散り、酷いものでは墓石がひっくり返されていた。
 死者の安寧を妨げること、これほど非道な行いは無い。
「まだ近くにいるかもしれん、二人一組で林を探れ!」
「おう!」
 墓地を中心にして、徐々に輪を広げるかたちで林の中へ分け入っていく。
 だが、脅威は彼らの背後から襲いかかった。
「うわあああああ!!!!」
 無防備な背に痛烈な一撃を受けた団員が、どっと前のめりに倒れる。
 隣にいた団員が慌てて銃を構えるが、引き金を引く前に横から薙ぎ払われる。
「ぐぁ……っ!」
 間を置かずに反対側からもう一薙ぎされ、手首が鮮血に染まった。
「大丈夫か!」
「おい、出たぞ、こっちだ!」
 駆けつけた団員の前に、松明に照らされてなお黒々とした影が立ちはだかった。その顔のあたりだけが、ぼんやりと白い。
「撃て、撃て!!」
 林間に銃声が響く。その鋭い音をかき消すように獣は咆哮し、地表から前肢を離して立ち上がった。
 ヒグマにしては胴が狭い。
「アナグマか。随分でかいな」
 そう隊長は断じたが、直後、蠢く影を見てとって呻いた。
「ベ、ベリアルだ……!」
 毛皮を突き破って逆立つ触手は、災厄そのものである。
 ベリアルが事実上不死身であることは、子どもでも知っている。その活動を止められるのは、浄化師が扱う特殊な武器だけだ。
 戦意に満ちていたはずの自警団は、一瞬で恐慌状態に陥った。
「撃て―――ッ!!!」
「ただの銃じゃ効かねえ、逃げろっ!」
「ぎゃあああ」
「一頭じゃねえ、複数いるぞ!」
「いやだ、死にたくない……っ!」
 銃声と悲鳴が交錯する。禍々しい獣は松明さえも噛み砕き、林に夜の暗さが取り戻されるに従って、恐怖と脅威は倍増していく。
「引け、引け―――っ!!」
 撤退を命じる隊長の声が、虚しく響いた。


 自力で村に戻ることが出来たのは、なんと、ただ一人であった。
 身も世もなく泣きわめきながら村人の待つ集会所に飛び込んだその男は、名をドニ・リファールと言い、村中で評判になるほど気が弱く、臆病なたちだった。根性を叩きなおすべく自警団に入れられたが、今回も最初から逃げ出したくてたまらず、獣が出たと聞いて銃を構えもせずに真っ先に身を隠した。仲間たちの怒声と悲鳴を耳にしながら、もつれる足を急かして逃げ帰ってきたのである。
 卑怯者とそしられても仕方がない。だが、ドニの激しい恐怖に彩られた声で事情を告げられた村人たちは、その臆病を罵る余裕もなく顔を蒼褪めさせた。
 また、弔いの鐘が鳴る――その絶望は筆舌に尽くしがたい。
 朝を待たず、教団に救援を求める使者が立った。
 ドニのおかげで、ベリアルの原形がアナグマであること、少なくとも三頭はいること、内一頭が異様な大きさであることが判明していた。
 窮状を訴え、どうにかして浄化師を派遣してもらわなければならない。
 村に待機していた僅かな若い男たちは、夜を徹し、決死の面持ちで林道を見張った。まだ息があるかもしれない仲間を助けに行けぬ己が憎くてたまらないが、ベリアルに対抗する術はないのだ。いざとなれば林を焼き払ってでも村への侵入を阻む覚悟だが、それが功を成すかさえ分からなかった。
 老人と女子供は教会に集まり、怯える身を寄せ合って朝を待った。赤子の泣き声が、高い天井にこだまする。

「助けてください、浄化師様……! お願いです!!」

 農村の悲痛な声が教団に届く頃、白々と夜が明けようとしていた。


~ 解説 ~

【目的】
・墓を荒らし人を襲うベリアル化したアナグマを退治すること
・酷く傷ついた村民の慰撫

【敵について】
ベリアル化したアナグマ三頭が確認されています。
ベリアル化する前の習性を残しており、夜行性です。夕暮れから活動が活発になります。
地中に穴を掘って地下道を張り巡らせており、すばやく移動し、鋭い爪で攻撃してきます。
次第に凶暴性が増しているのか、当初は恐れていた火を恐れなくなっています。
三頭のうちの一頭は、通常のアナグマの倍近くかそれ以上の大きさで、体長2メートル程です。

【村について】
ソレイユ地区にある農村。観光客には見向きもされない小さな村です。
度重なるベリアルによる殺傷で若い男性が多数亡くなり、老人と女子供の比率が高くなっています。
家屋が立ち並ぶ居住区、その西側に養鶏場と畑、北東側に墓地のある林が広がっています。
畑のはずれには、開墾の際に出てきた岩や倒木などが多数捨てられている一画があります。

【備考】
村は一ヶ月ほど前にもベリアルによって複数の死者を出しました。
その死者を悼む遺族までもがベリアルに襲われ、死者の眠る墓地を荒らされたことで、村全体が深く傷ついています。
悲観や絶望によっていつパニックが起きてもおかしくない状況であり、長期的な作戦を実行する余裕は無さそうです。
ベリアルは林に囲まれた墓地に出没しますが、村民の感情を守るため、墓地がこれ以上損壊されないようにお気遣いください。


~ ゲームマスターより ~

はじめまして、鳩子(はとこ)と申します。

ディスメソロジアという世界で、ごく普通の人々が直面している恐怖や悲しみについて焦点をあててみました。
浄化師にとってはそれほど難敵ではないレベルのベリアルであっても、一般市民にとっては大きな脅威です。
唯一の希望の光ともいえる浄化師が担う役割は、戦闘以外でも大きいのではないでしょうか。

敵との対し方、心身ともに傷ついている村人への接し方に、キャラクターの人柄や価値観が見えてくるかと思います。
キャラクターの性格や口調を把握するため、プランには心情や台詞なども積極的に入れて頂けると嬉しいです。

ご参加お待ちしています。
よろしくお願いします!





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

薙鎖・ラスカリス モニカ・モニモニカ
男性 / アンデッド / 陰陽師 女性 / 人間 / 魔性憑き
■目的

アナグマベリアル討伐。村人の慰撫。

■行動

可能な限り最も迅速に到達可能な経路・手段で仲間と村へ。

昼のうちに可能な限り慰撫と準備。
準備中、村内の巣穴入口有無注意確認。

モニカは子供達を中心に、落ち着くまで話を聞き慰め抱きしめあやし宥める。

薙鎖は墓場周辺の物陰、樹の根本、草叢等の巣穴入口捜索。
敵を誘う場所以外の穴は香水二種塗布したティッシュ投下後埋め、岩や倒木で塞ぐ。

黄昏時以降、照明用意し残した穴の出口で警戒。薙鎖は穴より風下。

交戦時初手魔術真名。
モニカは前衛で仲間と分担し敵の進路及び穴への退路を阻む。
薙鎖は仲間後衛と同対象に符で攻撃。

事後、村周辺捜索し安全確認。
帰還後、上に国内巡回強化を提案。
セアラ・オルコット キリアン・ザジ
女性 / 人間 / 悪魔祓い 男性 / 生成 / 断罪者
◆準備
セアラは村人のフォローへ
二次被害を防ぎたいので墓場に近づかないよう頼む
「ベリアルはわたし達が必ず倒すから!」
「心配しないで、今夜だけ家にいてくださいね」
口調は柔らかく

キリアンは戦闘準備
生存者は探すが期待はしない
墓を荒らしにくい場所を想定戦場に
分担して穴を探し戦場へ繋がる以外の穴を廃材で塞ぐ

◆戦闘
夕方合流し墓場へ

ベリアルが出現したら魔術真名唱え
キリアンは前衛として仲間と分担、ベリアル1体を抑える
セアラは仲間と攻撃集中し1体ずつ撃破を狙う

スキル惜しまず使用
極力墓石を背にしないようにし被害低減
仲間の状況意識し危険時はフォローには入る

◆戦闘後
墓場をできる限り元通りに
花を供え安らかな眠りを祈る
シャルローザ・マリアージュ ロメオ・オクタード
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / アンデッド / 悪魔祓い
現場に到着後。私は村人の慰撫を担当させていただきます。
…といっても私はお話を聞いたり励ましたりすることしかできませんが。
ですが私は占い師です人と話をするのはちょっと得意なんですよ。
とにかくまずは安心していただかないと。
恐怖を抱いたままでは余計な被害を招きかねませんから。
ありきたりですが「私達が来たからもう大丈夫」だ、まずはそう伝えたいですね。
簡単な怪我なら簡易救急箱がありますのでおっしゃっていただければ治療します。


夜間の戦闘になりますのでランタンを携帯
戦闘準備をした場所に移動。
魔術真名詠唱後戦闘開始。

私は皆さんの援護をアルカナソードを使用。

村の方々のためにも必ず倒さないといけません。必ず。
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
■準備
ルーノ
墓地で戦闘準備
穴を塞ぎつつ、墓地の外れで墓が少なく戦闘可能な広さがある場所を見繕う

ナツキ
村へ
元気の無い子供が気になり目線を合わせて話しかけてみる
少し話して遊んでみたり、慣れてきたら遊びの延長で獣人変身
怖がらなければ軽くじゃれてみる
少しでも不安を和らげたい

■対ベリアル
被害を防ぐ為墓を背にしないよう行動

ルーノ
遠距離攻撃で気を引き
事前に調べた墓地の外れへ誘導

ナツキと同じ敵を攻撃
敵を見張り逃走を警戒、妨害する
敵が2匹以下なら増援・奇襲を警戒
察知次第味方に知らせ対応を促す

ナツキ
敵の背後に回り挟撃
小型の片方をJM1で攻撃
交戦中の敵は常に注意を引く事で敵同士の連携を妨害
小型殲滅後、大型対応に加勢
リトル・フェイカー パンプティ・ブラッディ
女性 / 人間 / 陰陽師 女性 / 生成 / 拷問官
◆目的
敵の討伐
事件に終止符

◆心情
問うなかれ誰がために鐘は鳴るやと
…誰が死んでも、僕は悲しい

◆行動
アンナさんとドニさんにお礼
「生きててくれて、ありがとう」

街に着いたら墓で戦闘準備
遺体は弔い
壊れた柵を木材で簡易に直し、再び壊れたら音がなるよう仕掛け(鳴子
夕方までに再集合し打ち合わせ

僕達は一番大きな熊担当
墓を極力破壊しないと約束です

「終焉の花束を」
喰人・前衛
攻撃と挑発でクマを引きつけ戦闘位置へ誘導
仲間が戦いやすいよう気遣い
墓を守る為、逃げず武器で防御
敵が穴に逃げそうなら、スキルで足狙い

祓魔人・中衛
戦場全体を把握しながら支援攻撃
敵の触手、腕を狙い火力を削ぐ
敵が出現する穴を予測
戦闘後仲間の治療、墓の整理


~ リザルトノベル ~

●惨劇に沈む村
 瞬間移動を可能とする魔術式を件の村が有していなかったため、一行は近隣の都市に転移し、そこから現場に向けて急行することとなった。
 急使が告げた僅かな情報によればベリアルはアナグマの習性をいくらか残しており、夜行性の可能性が高い。だが、もし万が一、夜が明けても巣穴に戻らず凶行が居住区にまで及んだとすれば――最悪の事態も考え得る。
 移動によるタイムロスが致命的なものにならないことを願うしかなかった。


 急ぎに急いで目的の村へ到着したのは、太陽が中天に達しようとする頃合いだった。
 空は快晴。風はいささか強いが、良い散歩日和だと目を細めたくなるような天候である。
 しかし眼前の村は、すっかり憔悴しきっていた。昼時だというのに、煮炊きの煙を上げる煙突は一つもない。
「おお……よくぞ、いらしてくださいました」
 一睡もしていないのだと分かる様子の村長に迎えられ、浄化師たちは痛ましく思うと同時に安堵もした。
 昼の間、ベリアルどもは林に留まっているのだ。
 ひとまず猶予が与えられたことに息をつき、浄化師たちは各々の役目を果たすべく散開した。

 住民の一部は近隣の村へ避難済だったが、体力の無い老人や女子供を中心に、まだかなりの人数が教会に身を寄せていた。腰かけて黙然と俯いている者もいれば、祭壇に跪く者もある。時折子どもや赤子の声が響くくらいで、大多数の大人は無言に沈んでいた。
 少しでも災いを遠ざけようとしてか、それとも死者を悼むためか。祭壇の上では香が焚かれ、所狭しと灯明が捧げられている。
 およそ百年前、神は滅びの裁定を下し、その執行人としてヨハネの使徒やベリアルを差し向けた――だがそれでも人は、祈らずにはいられないのだ。
 戸口に近い席で、泣く赤子を抱き、あやすでもなく俯いている母親がいた。
 シャルローザ・マリアージュは、その傍へしゃがみ、視線を合わせる。
「浄化師、様……?」
 制服を目に留めて母親が覚束ない口ぶりで言うのに、はっきりと肯いた。
「はい。薔薇十字教団より派遣されて参りました、シャルローザと申します」
「同じくロメオだ」
 ロメオ・オクタードはつい癖で煙草を出そうと懐に入れた手を空のまま元の位置に戻し、シャルローザに倣う。
 母親は二人を見上げ、不意にぼろぼろと大粒の涙を零した。極限状態で凍りついていた感情が溶け、急に溢れ出したらしかった。その声に、周囲でうなだれていた人々も我に返ったように顔をあげた。浄化師様だ、と誰かが呟く。それまでぐずっていた赤子は、驚いたのかぴたりと泣き止んで、ふしぎそうに母親を見上げている。
「もう大丈夫です。私たちが、貴女がたを必ずお守りします」
 シャルローザは優しく語りかけながら、母親の丸まった背を繰り返しさすった。
 そこへ、おい、と酷く尖った声が割り込んだ。
「あんたたち、何人で来たんだ。本当に助けてくれるのか、あいつらを倒せるのか!」
 険しく言い放ったのは、杖をつく老人だった。怒りで満ちているのが一目でわかる。
「私を含めて、十人で参りました。みなさんの平穏を取り戻せるよう、全力を尽くします」
「大丈夫だ、爺さん。今、仲間が討伐の準備をしている」
「日が暮れる頃、私達も合流して墓地に向かいます」
 占い師という職業柄、話術に優れたシャルローザが主に話し、その内容をロメオが補強する形で、二人は言葉を尽くした。教会中の村人が耳をそばだてているであろうことを意識してのことだ。
 パニックによって新たなトラブルや被害の拡大を招きたくないこともあるが、純粋に、人々に希望を持ってもらいたかった。
 しかし、老人の激情は易々とは収まらない。
「信じていいのか? 倒せなかったらどうする、奴らが、こっちまで来ちまったら……!」
 いっそ悲痛と言ってもいいような叫びを老爺が上げた時、ぽん、とその肩に色白の手が置かれた。
「おじいちゃん! いったん落ち着いて、お茶を飲もう? そんな大声を出したら、赤ちゃんもびっくりしちゃいます」
 教会につくなり厨房へ向かったセアラ・オルコットだった。早速、温かい飲み物を配っていたらしい。少しばかり薬学の心得があるロメオは、漂ってくる香りが鎮静の作用を持つハーブのものだと気が付いた。
「今、スープも煮てるからね。こんな時だからこそ、ちゃんと食べないとダメですよ!」
「あ、ああ……」
 溌剌としたセアラに毒気を抜かれたらしく、老人は差し出されるまま茶器を受け取った。落ち着かない様子で一同を見回す。
「……怒鳴って、すまなんだ。どうか、頼むよ、浄化師さん」
 ぽつりと言ったきり、背を向ける。極大の不安がそのまま怒りに変換されてしまっていただけで、根は優しい老爺なのだろう。
「ベリアルは、わたし達が必ず倒すから! 心配しないで、今夜だけここにいてくださいね」
 セアラは皆に聞こえるように、明るい声をあげた。
「あの、みなさん」
 母親が、おずおずと呼びかける。目元に溜まる涙がまたひとつ、ぽろりと零れ落ちたが、彼女は微笑んでいた。
「どうぞ、よろしくお願いいたします。……この子に、平和な故郷を見せてやりたいのです」
 浄化師に寄せられる期待は大きい。村の人々のため、未来のため、必ず倒さなければならない。
 三人は決意を新たに頷いた。

 モニカ・モニモニカとナツキ・ヤクトは、祭壇脇のスペースで子どもたちの相手をしていた。二人は互いのパートナーではないが、不安そうな子どもを放っておけないという共通の気質を持っていた。
 まだ喋りが達者でない年頃からやんちゃの盛りまで、十人あまりが集まっている。
 うさぎのぬいぐるみを抱きしめた少女が、モニカを見上げる。
「おねえちゃんたちも、エクソシストさまなの?」
「そうよ! ワタシたちが来たからには、もう安心して良いからね」
 元気づけるように笑いかけるが、少女は顔色を曇らせた。
「でも、べりあるって、つよいんでしょ? う、うちのおとうさん、……き、きのう、銃もって出ていって……ア、ンナおねえちゃんが……っ」
 言葉は途切れ途切れで支離滅裂だったが、充分、この子に降りかかった悲運がわかってしまった。モニカは堪らなくなって、しゃくりあげる子どもを抱きしめた。肩口で涙を受け止め、小さな頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ」
 悲しみは伝播する。不安げな顔をした子どもたちが寄ってくるのを、ナツキはまとめて腕に囲った。
「悪いヤツは俺たちがやっつけてやるから!」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめた後、わしゃわしゃと頭を撫ぜてやる。それから、ひとりひとり抱き上げたり、肩車したりとするうちに、子どもたちは徐々に笑顔を取り戻した。
 四半刻も経つ頃には、子どもたちと一緒にハーブティを飲むモニカの傍ら、眠ってしまった子どもの枕になる黒い狼犬の姿があるのだった。


 武器を構え、ベリアルや巣穴が隠れていやしないか探りながら林道を進む。アンナが襲われたと思しき地点の周囲は特に慎重に探ったが、それらしい穴は無かった。地下道は、自警団の面々が襲撃を受けた墓地周辺の林間に掘られているようだ。
「はー……予想はしてましたけど、ひでー有様っすね」
 キリアン・ザジは、げんなりとした顔でぼやいた。生存者がいるかも、と希望を口にしていたパートナー、セアラにはとても見せられない惨状だ。
「飢えた野生動物とは違い、ベリアルは食べるために人を襲うのではないからね。……恐らく転化したばかりで、まだ殺し方が下手なんだろう」
 倒れた墓石の陰を逐一確認しながら、ルーノ・クロードは平静を保った声で述べる。すぐに情を抱いてしまうパートナーと異なり、ルーノはあくまで仕事だという心持ちを崩さない。内心ナツキの姿勢には溜息をついているのだが、適材適所と割り切って役目を果たすのみだ。
「チッ……奴ら、随分といたぶったみてぇだ。肉片があっちこっちに散らばってやがる」
 ルーノの言葉を裏付けるように、林間の様子を見てきたパンプティ・ブラッディが苦々しく言い捨てた。戦闘は好きなたちだが、殺戮となると話が別だ。
「村の方々の精神状態はすでに限界に近い……これ以上墓地を荒らさないよう、戦い方や場所に気を遣う必要がありますね」
 リトル・フェイカーは愁眉を寄せて思案を巡らせた。たとえ縁もゆかりもない他人だとしても、命が喪われるのはいつだって悲しい。
「あったよ、アナグマの巣穴だ」
 ルーノの声に、ぴりっとした緊張感が走る。
「思ったよりも小さいですね。墓地の中は、掘り進めにくいのかもしれません」
 仲間と並んで穴を検分したフェイカーは憶測を述べた。何度も出入りを繰り返したという様子ではない。これなら、この一ヶ所を塞いでおきさえすれば、墓地への侵入を防げそうだった。
「遅くなってすみません……! 居住区の方には、巣穴はありませんでした」
 林道の方から声を掛けてきたのは、モニカのパートナー、薙鎖・ラスカリスだ。
 彼は小ぶりの荷車を曳いていた。村はずれに岩や倒木、廃材などが打ち捨てられた一画がある。使えそうなものを見繕い、すでに荷車一台分運んできてはいたが、穴を塞ぐ障害物はあればあるだけ良かった。
「おつかれさん」
「ありがとうございます。お一人じゃ重かったのでは」
「いえ、……出来ることは、何でもやりたいんです」
 キリアンとフェイカーに労われた薙鎖は、控えめに首を振った。ベリアルの凶行を防げなかった無力感が、胸を重く塞いでいる。
「さ、とっとと穴を埋めちまおうじゃねぇか」
「そうですね。日暮れ前にベリアルが出てこないとも限りません。僕は、壊れた柵を簡単に直して、ちょっと仕掛けをしておこうと思います」
 荷車を覗きこむパンプティとフェイカーに、薙鎖はごそごそと懐を探った。
「良かったら、これを使ってください」
 差し出したのは、二種類の香水とティッシュだ。アナグマの習性通りであれば、敵は嗅覚が鋭い。匂いのきついものを仕込むことで、より遠ざけることができるかもしれない。
「いいねぇ。そんじゃ、手伝ってもらおうか」
 パンプティと薙鎖はまず墓所内の穴を埋めることにした。フェイカーは長さのある枝と荷車の底で渦巻いていたロープを手に、柵の修復に向かう。
「俺は、戦闘に良さそうな場所を見繕って来るとしましょうかね」
 ついでに、目についた範囲で遺品を回収しておくつもりだった。今を逃すと、戦闘中、さらに踏みにじられる可能性がある。
「私も行こう。出来れば三ヶ所は見つけたいところだからね」
 キリアンとルーノは陰惨な爪痕の残る林へと入って行った。

●希望を取り戻す戦い
「そろそろだね」
 銀の懐中時計を手に、ルーノは呟いた。
 もうじき、アンナが襲われた時分になろうとしている。
 充分に仕掛けと打ち合わせを済ませた十人は、林道に集合していた。暗くなってから準備したのでは間に合わないので、既にランタンや松明には火を灯してある。
 絶対に、ベリアルにこの境界を超えさせてはならない。
 決意の目くばせを交わし、一団は夕暮れの墓地へと向かった。
 風が吹いている。流されてきた雲が、次から次へと通り過ぎていった。
 林の中で見つけた巣穴の内、程よい位置にあった穴を塞がずに残してある。浄化師たちは墓地の方向を意識しながら、穴の付近に控えた。
 ベリアルは、ただひたすらに人間の殺戮を目的とする存在。浄化師自身が呼び寄せるための餌となる――もっとも、今度はこちらが喰らう番だ。

 ざり、ざり、ざり……

 風音に紛れて微かに、しかし確実に、異質な音がする。
 ベリアルは新たな巣穴を掘ることなく、意図通りにここまで誘導されてきてくれたようだ。墓苑の柵に仕掛けた鳴子も沈黙を保っている。
 空は刻一刻と暮れていく。
 土を掻く音が近い。
 終焉の、とフェイカーは詩でも詠むように囁いた。
「花束を!」
 フェイカーとパンプティの声が重なり、二人の片手の甲と甲が合わせられる。箍が外れる感覚。魔力の激しい生成がはじまり、全身に行き渡っていく。
「ナギサっ! ワタシたちもやるよ!」
 モニカは小柄なパートナーの身体へ覆い被さるように抱きついた。
「縛の鎖を断ち、我と我らが腕にて抱こう」
 漲る力を感じながら武器を構えた、まさにその瞬間、地中から黒々とした塊が飛び出した。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
 薙鎖はすかさず呪符を手に九字を切る。不可視の爪による斬撃が、ベリアルを墓地とは反対の方角へ弾き飛ばした。
「援護します!」
 占星儀を構えたシャルローザがタロットを投擲し、さらに奥へと追い込む。低く唸ったベリアルは反動を利用して飛びかかったが、モニカは踊るような身のこなしで難なく躱す。敵に体勢を整える暇を与えず、ロメオが銃弾を撃ち込んだ。
 作戦の第一段階は、敵の分断と移動だ。巣穴から距離を取ったところで、一組がベリアルの先を行き、囮となって誘導する。いったん墓地から引き離しさえすれば、眼前の人間を殺す欲で充満したベリアルが逃げ出すことは、まずない。
 林間の僅かに開けた場所まで辿り着いたところで、シャルローザとロメオは魔術真名を唱えた。
「嘘とお菓子は甘いもの」
 天候は浄化師に味方していた。絶え間ない風のおかげで雲はすぐに流れ、月光がランタンの火が及ばぬ範囲まで照らし出す。
 羽根つきベレー帽を装備するモニカは、常にも増して軽やかにステップを踏み、敵を翻弄した。ベリアルが気を逸らしそうになれば呪符とタロットカードがそれを妨げ、一瞬の停止を見逃さずに弾丸が撃ち込まれる。
 次第に、ベリアルの動きに鈍さが見えてきた。
 その隙をついて、モニカが短剣を振るう。
「えいッ!」
 変化は劇的だった。
 醜悪な奇声が轟く。隙間なく触手の生えそろう肩の獣皮が引き裂け、体液が滴った。ベリアルの核である魔方陣を短剣が傷つけたのだ。
 空中に、鎖に繋がれた黒い人影が浮かびあがる。
「あれは、自警団の皆の……!」
「モニカさん、下がって!」
 重傷を負いながらも、ベリアルは殺意を緩めない。薙鎖は呪符を放ってモニカに距離を取らせた。
「もう一息だ!」
 ロメオの言葉に応じるように、シャルローザはアライブスキルを発動させる。タロットカードが捉えどころのない軌道を描き、怒り狂うベリアルを襲った。黒い体がぐらりと揺らぐ。
「とどめだ……ッ!」
 ロメオは裂けた肩を狙い、エナジーショットを放った。

「明日へ続く今日のために!」
「その牙は己のために」
 二組の浄化師が、同時に魔術真名を唱える。目の前では、巣穴から新たなベリアルが全身を現したところだった。
 セアラは即座にワーニングショットを放ち、敵を巣穴から引き離す。
 ベリアルはすぐさま跳躍の姿勢をとったが、
「させないよ」
 ルーノのロッドから放たれた魔力弾がそれを阻んだ。
 二頭目のベリアルとの戦いは、ひとつめの戦場より数メートル東へ移動した場所に展開された。
「おらッ!」
 ベリアルの先を走り囮となったナツキは、くるりと身を翻し、向かってくる敵に正面から斬りかかった。子どもたちの顔を思い出しながら、強い意志を込めて剣を振り下ろす。通常のアナグマでは有り得ない異常に発達した牙と刃とがぶつかり、ガキンッと硬質な音を立てた。
「せいッ!」
 ナツキに気を取られているベリアルの背面を、キリアンが斬り払う。触手を切断し獣皮を裂いたが、深手には至らない。
「少々、近づきすぎだよ」
 ルーノが魔力弾を打ち込み、断罪者二人に間合いを取り直す猶予を与えた。射程の長さを活かして戦況を俯瞰し、隙のない援護を行う。
 その内に、ベリアルが前肢を高く掲げた。
「させないッ!」
 セアラは立て続けに矢を射ち込む。大打撃を与えるのは難しいがベリアルの動きを妨げる。
 とにもかくにも、ベリアルをこの地上に留め続けるのが肝要だ。地面を掘らせる暇を与えず、攻撃を繰り出し続ける。
「わっ、と」
 片手剣では、どうしても敵との距離が近くなる。鞭のようにしなった触手が、デモンであるキリアンの翼を掠めた。
「キリー!」
「大丈夫、っすよ!」
 パートナーの焦った声に返しながら、触手を切断する。一瞬バランスを崩したが、負傷というほどのものではない。
「二人とも、一旦下がるんだ!」
 セアラがワーニングショットを射ち込むのに重ねて、ルーノも九字を切った。
 束の間、ベリアルの動きが止まる。
 その機を逃さず、ナツキとキリアンは剣を振りかぶった。
「クロス・ジャッジ!」
 ベリアルの体躯を左右から十字に斬りつける。おぞましい断末魔があがる中、魔方陣が浮かび上がったかと思うと、魂を捕える鎖ともども霧散した。

 二頭のベリアルが塵へと帰した頃、フェイカーとパンプティは二メートル近いベリアルと一進一退の攻防を繰り広げていた。
 ベリアルが僅かな時間差で現れたところまでは順調だったのだが、巨大な分、追い込みきれず巣穴から距離を置くのに半ば失敗していた。ここで決着をつける決心を固め、松明は木の股に挿しこんである。
「まさか……」
 居住区にはもっと多くの人間がいると、気が付いているのだろうか。執拗に墓地の方――ひいては居住区の方へ頭を向けるベリアルに、フェイカーは唇を噛んだ。二人のすぐ後ろにある巣穴に潜られたら、大惨事を招きかねない。
 触手を逆立てて、ベリアルが咆哮をあげる。鼓膜が破れそうな衝撃波を浴び、二人の動きが一瞬、鈍る。その隙をつき、牙を剥くベリアルがその巨体からは想像も出来ないような素早さで迫ってくる。
「しまっ……」
「フェイカー!」
 かろうじて割り込んだパンプティの斧が凶爪を受け止めた。フェイカーはすぐさま九字を斬り、伸しかかるベリアルを突き放す。相手はぐらりと体勢を崩したが、倒れるには至らない。
 追撃を加えなければ、と二人が構えた矢先、突然、ベリアルが叫びながら転倒した。
「大丈夫か?!」
「間に合って良かった!」
 ロメオとセアラのショットが、ベリアルの背中を抉ったのだ。
「パンプティさん、今です!」
「任せなぁっ!」
 パンプティは斧を振り上げ、ベリアルの無防備に晒された腹部へ渾身の一撃を見舞った。

●夜明けの村
「アンナさん、気分はどうですか?」
 一夜明けて、セアラとキリアンは花を手に診療所を訪ねていた。
 アンナ・バローの意識が戻ったと聞いたからだ。
 彼女はべリアルが無事に討伐されたと聞くと、静かに涙をこぼした。しばらく黙り込んでいたが、ふと、セアラの手元へ引き寄せられるように目を動かす。
「それ、マグノリアね……」
「はい。村の人にお願いして、一枝頂いてきたんです。ここに飾ってもいいですか?」
 アンナが目顔で頷くのに、セアラは棚の上にあった花瓶へその枝を挿した。
 純白の花びらが、天を向いて咲いている。
 それを眺め、アンナは唇を震わせた。
「ありがとう……ほんとうに、ありがとう」
 新たな涙があふれて、包帯へと吸い込まれていった。
 長居は体に障る。間もなく二人は診療所を後にした。
「村の手伝いをしてから帰りたいな」
 セアラはぽつりと呟いた。出来る限りのことを頑張ったし、ベリアルも倒した。でも、村に残された傷痕を思うと手放しには喜べない。キリアンはそんなパートナーを見下ろして一考したが、結局、当初浮かんだ言葉を飲み込んでセアラの背を軽くたたいた。
「お嬢の気が済むようにしたら良いでしょーが」
「うん……!」
 セアラは顔を上げて、前へ踏み出した。

「ルーノ! それ、こっちにくれるか?」
 屈託のない声でナツキが催促する。肉体労働は趣味じゃないんだけどね、と胸中で呟きながら、ルーノは木材を手に取った。
 周囲では村人たちが墓石の位置を戻したり、ベリアルに踏み散らかされた跡を掃き清めたりしている。緊張の中で数日を過ごして疲れているだろうに、死者を弔い、墓地を元通りにしてからでなければ休めないと主張した者たちだ。
 ナツキが率先して手伝いを申し出たため、それに付き合う形でルーノも作業に参加していた。
「にいちゃん、これ動かせるか?」
「任せろって!」
 ルーノの心情をよそに、ナツキは村人相手に胸を張っている。
 殺された自警団の遺体はまっさきに棺に納められたが、下草にはまだ生々しい血の跡が染みついていた。
 その程近くに、フェイカーとパンプティの姿があった。足元には、拳大の石。イレイスによって倒されたベリアルの肉体は、砂となって消失する。だから二人は残っていた巣穴を塞いだ後、その内の一つに墓標となる石を置いたのだった。
「なあ、フェイカー。敵を倒し、憎み、戦う。それを正義と呼ぶのなら、敵を憎めないお前は悪だぜ?」
「……はい。僕は、悪です。だからこうして、アナグマの墓まで作ってる。君と隠れて」
「ん。ちげぇねぇや」
 人と獣の関係、アシッド、ラグナロク――因果関係に思いを巡らせれば、自身を善であると言い張ることは難しい。
「墓地の方を手伝うとするか」
 踵を返した矢先、がさりと音がした。すわ残党か、と俄かに警戒するも、そこにいたのは一人の青年だった。尻餅をついている。二人の鋭い視線を受け止める羽目になって、腰を抜かしたらしい。
「え、あ……」
 その怯えきった様子に、フェイカーはひとつ思い当たった。
「ドニさん、ですね」
「お、おれ……」
 そばに歩み寄り、目の高さを合わせる。
「生きててくれて、ありがとう」
 村一番の臆病者は、途端に滂沱の涙を流して叫び声をあげた。拳を振りかぶり、激しく地面を叩く。切れ切れに聞き取れるのは、死んだ仲間への詫び、何もせず逃げた自分への怒りだ。彼は、これから深い悔恨を抱いて生きていかなければならない。
 フェイカーとパンプティは、慟哭が治まるまでドニの傍らに付き添った。

「これですっかり見回り終わったね」
 改めて村とその周辺の安全確認を行っていたモニカと薙鎖は、スタート地点である教会の近くまで戻って来ていた。
「……帰ったら、もっと巡回を強化できないか掛けあってみようと思うんです」
「良いと思う! 国外は難しいかもしれないけど、せめて国内ぐらいはね」
 もう後手に回るのは嫌だった。今回のことだって、一ヶ月前の事件を受けて巡回を増やしていれば、防げていたかもしれないのだ。
「ワタシも一緒に提案するよ。でもその前に、いま出来ることをやろう!」
 教会の戸は開け放され、遠目にも中の様子が伺える。シャルローザとロメオが、杖をつく老人と穏やかに会話しているのが見えた。彼らの他にも、自警団の葬儀を行うために多くの人が集まっている。子どもの姿もあった。
「ナギサ、行こう!」
「はい」
 二人は連れ立って教会へ向かった。

 春の農村に、弔いの鐘が鳴る。死者の安寧を祈って、長く、長く。



春を裂く災厄の爪
(執筆:鳩子 GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/04/23-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[29] 薙鎖・ラスカリス 2018/05/02-23:51

こちらもギリギリですけど送信完了しました。
皆さん頑張りましょう。頑張ります。  
 

[28] リトル・フェイカー 2018/05/02-22:24

戦闘について色々我儘いってしまいすいませんでした…!(土下座
先ほどプラン提出してきました。
戦闘準備は「壊れた柵を木材で簡易に直し、再び壊れたら音がなるよう仕掛け」と
柵を直すよう書いておきました。
健闘を祈ります…!  
 

[27] ナツキ・ヤクト 2018/05/02-21:43

プランは決まったぜ!
やりたい事が多くて困ったけど、発言してた部分はちゃんと入ってる…はず。
それじゃ、改めてよろしくな!  
 

[26] セアラ・オルコット 2018/05/02-21:05

それじゃわたし達は小型中心かなっ。
キリーは1体抑えておいて、わたしは皆と攻撃を集中して1体ずつ倒す感じで行くね!

頑張っていこー!  
 

[25] ナツキ・ヤクト 2018/05/02-17:12

じゃあ大型はひとまずフェイカーとパンプティに任せた!
俺は小型をまず相手にして、と。それから逃走防止のあたりもちょっと考えてみるかな。

そうそう、事前の準備でルーノが穴塞ぎながら戦う場所を探しておくって言ってたぜ。
事前に柵を直すとか細工なんかは手が回らないかもしれないなぁ。  
 

[24] リトル・フェイカー 2018/05/01-23:40

あっ連投ごめんなさい

戦闘前の準備について(お墓)
・生存者の確認、遺留品回収
・戦う場所の確保
・柵をなどを直す
・穴熊の穴をいくつか木材で埋め、戦いが有利になるよう細工
あとは被害の範囲の確認…でしょうか

僕達はお墓の方で準備に向かおうと思います
やることが多いので、手分けしても良いかもしれませんね  
 

[23] リトル・フェイカー 2018/05/01-23:29

よろしくお願いします。
なるほど、墓石の移動はむり、と(メモメモ

敵の掘った穴や壊れた柵を塞ぐの、賛成です。
破壊音だけでなく音のなる仕掛けもあればなお良いですよね。
倒す順番も異論なしかな…

大型クマとの戦闘なんですが、パンプティさん1人だと流石にきついと思うので
僕とパンプティさんの2人係で対応しようと考えてます。
(回復魔法を持ってないのが悔しいところ…!)
他のクマは皆さんにお願いする事になりますが…!

そして夜に備えての明かりも一応
ランタン…は無理でしたので松明持っていくつもりです  
 

[22] 薙鎖・ラスカリス 2018/05/01-21:45

あと気になるところは……。

・墓場の木柵、墓場内の穴(あれば)塞いだ上で直しておけば侵入防げる?
 (壊そうとしても音で気づけば急行可能?)
・村に穴の出入り口がないか、注意してみておいたほうがいいかも?

こんなところですね……。  
 

[21] モニカ・モニモニカ 2018/04/30-22:49

参加者も増えてきたし、心強いわね。
ルーノ、ナツキ、リトル、パンプティ、みんなよろしくね!

(寝てしまった薙鎖をお姫様抱っこしつつ)  
 

[20] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/30-22:45

発言滞り申し訳ない限りです。(最近妙に眠気が止まらない……)

事前準備後、我々自身を囮にするというのはいいと思います。
村の皆様を戦場周辺に近づけないよう言い含めた上で、ですね。

交戦に関してはざくっとになりますが、

・前衛が分担して各ベリアルを進路妨害、退路を塞ぐ形で足止めしつつ殴る。
・その間に後衛で小型×2→大型の順で1体ずつ集中して狙い潰していく。

といった所でしょうか。ほんとにざくっとですけど。
 
 

[19] ルーノ・クロード 2018/04/30-21:29

墓石を動かすとは面白い…が、今回は墓石には触らないほうがいいかもしれないね。
手が滑って壊してしまっても大変だ。

全体の流れはフェイカーの発言の通りで問題はないと思うよ。

昼のうちに2班に分かれて戦闘準備(生存者・遺品等の捜索)と村民の慰撫を同時進行
夜に合流して墓場へ向かいベリアルを討伐
戦闘は墓石の少ない墓地の外れで行う事とし、最初はそこまで誘導する

…と、こんな感じか。思い違いをしている部分があれば教えてほしい。

>対ベリアル
さて、どう相手をするか。
敵は3匹で、パンプティ達は大物狙いだね。
いいんじゃないかな?せっかくやる気があるのだし、私は異論は無いよ。
私とナツキはそれ以外のベリアルの対応に当たろう。  
 

[18] ロメオ・オクタード 2018/04/30-03:45

おっ、手が増えたな。
フェイカーとパンプティもよろしく頼む。

「俺達」こそが最高の餌ってわけだ。
墓をこれ以上荒らすなというオーダーもあるし…できるだけ墓場を戦場にはしたくない。
まっ事前準備と後はみんなでしっかり囮になろうじゃないか。

キリアンの言う通り慰撫についてはお嬢ちゃん達には悪いんだが時間の関係もあってどうしても一時的なものになるだろうとは思う。
だからといって手を抜くわけじゃない。
お嬢ちゃん達は本気でやるだろうからな。
とにかく今は二次被害を出さないのが一番の目的だな。  
 

[17] キリアン・ザジ 2018/04/30-01:10

連投すんませんが。

墓をこれ以上荒らさないで欲しいっつーオーダーもあるんで、
墓石動かすのはちっと厳しいかもしれないっすねー。
アレ結構しっかり埋まってるんで、掘り返すのも結構骨ですぜ。

下見して、墓場に影響が出づらい場所を確認しときたいトコロです。
あとはルーノさんが言うように墓石を背にしないとか、動きの工夫かなと。

でもって、生存者についてはお嬢はともかく俺はほとんど期待してません。
村まで自力でたどり着いた2名は生きてましたが、逆に言やあ
それができなきゃ無理なんだろうな、という。
だもんで、戦場整備に行くついでにざっと見るくらいかなーと。  
 

[16] キリアン・ザジ 2018/04/30-01:04

おっと、人が増えましたね。
ルーノさんとナツキさん、それにフェイカーさんとパンプティさん、と。
お嬢ともどもよろしくお願いしやす。

こんだけ人数がいりゃあ、昼の間ふた手に分かれるのもイケそーすかね。
村人の慰撫に3,4人、残りで戦場整備ってな塩梅でしょうか。

この時点での村人慰撫はどのみち急場凌ぎだと思うんすよねー。
言い方悪ィが戦闘の間、一晩おとなしくしてて貰えりゃーいいんで。
ロメオさんも言ってましたが二次被害が一番困る。
本格的なヤツは戦闘が終わってからになるのかな、と。

ベリアルの好物は生物の魂っすからね。
俺らがウロウロしてりゃ嫌でも釣られるとは思いますよ。  
 

[15] リトル・フェイカー 2018/04/29-21:30

夜に今晩は。
陰陽師のフェイカーと、拷問官のパンプティです。
よろしかったら、末席に加えていただけるとありがたく…よろしくお願いします。

人出が増えれば、戦闘準備もある程度進むでしょうか
話の流れからだと、現地到着後
準備役と、村人達と接する役とに分かれて、夕方前には再び合流…です?

戦場は墓地、できれば墓石など可能な限り移動させて、スペースを確保→戦闘後に元に戻す
とか思い浮かびましたが…難しいでしょうか
敵の気をひくなら、好物を村人に尋ねても良いですが
やはり一番は、攻撃してくる人間だろうな、と、思います。
…そして伝言です。「異論がなければアタシが1番デカイ敵と戦いたい」と、パンプティさんより。
 
 

[14] ナツキ・ヤクト 2018/04/29-20:51

うーんそうだよな、おどかしちゃ悪いもんな。
まずこのままの姿で行って、獣人変身は様子を見てからにするか!

アナグマが好きなものねぇ…雑食で、食べ物ならわりとなんでも食べるよな、確か。
ただ人を積極的に襲ってるみたいだし、少し離れた所から軽く攻撃して気を引いて移動すればついてきてくれねぇかな?
火も怖くないくらい凶暴になってる分、人への警戒心も薄そうだし。

それからひとつ確認なんだけど、生存者の確認は戦闘後ってことで良さそうか
確かに早めに探しに行きたいけど、準備や戦闘と同時進行はちょっとキツそうだしなー…  
 

[13] ロメオ・オクタード 2018/04/29-12:01

ルーノとナツキは任務参加ありがとう。手が増えるのは助かる。
人が増えたおかげで村人の慰撫、戦闘の準備両方とも人数が増やせるな。

ナツキの獣化だがわりと大型の獣のようだからベリアルに襲撃されたばかりの村人には少々怖がられるかもしれんな…。動物とのふれあい自体は悪いことではないと思うんだが…おれも動物と触れ合うのは好きだしな。
村人の前で獣化が可能ならそうしてもらえると助かる。

俺たちが囮になることで誘導ができるならそうしたいな…何か今回のベリアルが好む物とか持っていればさらに引っかかってはくれそうだが。  
 

[12] ルーノ・クロード 2018/04/27-22:54

話し合いの最中に失礼。
私は陰陽師のルーノ・クロードこちらは断罪者のナツキ・ヤクトだ。
こちらの指令に参加させてもらう事になった。よろしく頼むよ。

戦う場所は墓地でいいと思うが、墓石を守るならセアラの言うように少し外れの方に移動するのがいいかもしれない。
私達自身が餌となれば、少しの距離なら誘導は十分できそうだ。
その上で、墓石を背にしないように注意して動けば被害は抑えられると思うよ。

村民の慰撫は…あぁそうだ。
動物との触れ合いで心の傷を癒せると聞いた事がある。ここはライカンスロ-プであるナツキを向かわせよう。
獣人変身で犬の姿になってもらってね。
私はそちらはあまり得意ではないし、戦闘準備に参加するよ。  
 

[11] ロメオ・オクタード 2018/04/27-16:41

あぁ、すまん薙鎖の案だったな。うっかりしていた。

戦闘準備と村人たちの慰撫に分かれるのはいいと思うんだがいかんせん人数がな。
…戦闘準備には人手がいるだろうし。
一応俺はシャルのサポートに回るが少しシャルに頑張ってもらわんといかんか…

遺体、遺品の回収についてはベリアルを退治した後なら安全に出来ると思うが…
生存者の発見となると早めの行動が望ましいし…悩ましいところだな  
 

[10] セアラ・オルコット 2018/04/27-15:00

叩き案をだしてくれたのは薙鎖さんだねっ。
ともあれわたしも流れには賛成!

廃材で穴を塞いじゃうのは良さそうだね。主導権を取りに行くのはいいと思う!
戦場はどこがいいのかなぁ。
墓地はこれ以上荒らされたくないけど、村や畑にも近づけたくないよね。
といっても林の中だと動きづらいし。やっぱり墓地のはずれ?

昼の間に村人の慰撫もするなら、分かれた方がいいかな?
戦場整備する人と、村に行く人と。
そしたらわたしも村に行って、キリーは戦場整備って分担にしようかなぁ。

……自警団さんたちの遺体回収、したほうがいいのかなって思ったんだけど。
ベリアルに食われると残らないんだっけ。
でも生存者の確認はしないとだね! 絶対!  
 

[9] ロメオ・オクタード 2018/04/27-11:22

とりあえず現場(村)への到着が急務だな。

村人の慰撫についても重要だろう。
村人がパニックを起こして犠牲者が増えたなんてことになったら目もあてられないからな。
慰撫についてはシャルが会話のスキルもちなので多少でも役に立ちたいといっている。
それでも一人では無理だろうから手を貸してもらえると助かる。

戦闘の準備。としてはキリアンの案で行ければいいと思うが。
素材は例の一画から借りられればそれを使用だな。

戦闘が夜になる場合はこちらの光源も必要だな。
ランタンなどがあればいいだろうか。
火は恐れなくなっているようだが確保しておくのも手か…。  
 

[8] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/27-06:58

すみません、被ってましたね……。
えっと、僕としては「被害が出ない、戦い易い場所に敵を誘導したい」のと、
「解説にある畑のはずれの岩や廃材を活用してはどうか」という2点です。
新しく掘る可能性もありますけど、既存の穴が残ってるならそっち優先するのかなと。
願望交じりの推測ですけど。  
 

[7] モニカ・モニモニカ 2018/04/27-00:29

ナギサはまた寝ちゃったから、あの子が書いてたメモ置いておくわね。
「叩き台ぐらいには、なればいいなぁ」って、言ってたよ。

・可能な限り最短で到達可能な手段で現地に急行。
・現地急行後、夕暮れまでに「村人の慰撫」と「戦場の準備」を行ない、
 夕暮れ後敵が動き出したら、可能な限り墓地を荒らさず戦える所に敵を誘い出し戦う。
 (誘い出す為にもう少し具体的な手が欲しい)

・「戦場の準備」は、墓地及びその近辺にある穴の出入口を捜索しある程度塞ぐ。
 (「我々が戦いたい場所」に通じる穴は残す)
 「岩や倒木などが多数捨てられている一画」から、素材は拝借できる?

・地上に出た敵は、再び地下に逃さぬよう退路を塞ぎつつ叩く。
 
 

[6] キリアン・ザジ 2018/04/27-00:26

でもって難しい話は俺がお嬢と交代さしてもらいますんで。
改めてよろしくどうぞー。

とりあえず戦闘からですかね。
薙鎖さんの言う通り、急ぐのはまぁ、必須ですわな。
ひょっとすると自警団の連中にも息のあるのがいるかもって話ですし。
あんま期待はできねーけどなぁ……

現地は林に囲まれた墓地っすか。
敵は最低3体、穴を掘って移動するってのが厄介すね。
昼間に見に行って穴の様子とか確認してみます?
よく出入りする場所のアタリくらいはつけられるかもしれない。

墓地をこれ以上荒らさないってのもなかなかハードルが高いすね。
せめて穴から出てきたら、地中に戻られる前に倒したいですわなー。  
 

[5] セアラ・オルコット 2018/04/27-00:15

悪魔祓いのセアラです! パートナーは断罪者のキリー。
ベリアル退治の指令だねっ。頑張ろう! よろしくね!  
 

[4] 薙鎖・ラスカリス 2018/04/26-23:52

おはようございます。
改めまして、よろしくお願いします。

夜明けに報せが届いて、それから急行して……敵が活動開始するまでに使える時間を、
どれだけ稼げるかですね。(せめて国内ぐらいは急行体制整えたい所ですね……)
時間との戦いになりそうですけど、可能な限り急行して、色々と手を打ちたいところです。  
 

[3] シャルローザ・マリアージュ 2018/04/26-12:26

占星術師のシャルローザ・マリアージュと
パートナーの悪魔祓いのロメオ・オクタードです。
よろしくお願いします。

無事任務が達成できるよう頑張りましょう!  
 

[2] モニカ・モニモニカ 2018/04/26-00:33

魔性憑きのモニカ・モニモニカだよ。
陰陽師のナギサ(薙鎖)はもう寝ちゃったから、今日はワタシが代わりに挨拶するね。
これから来るみんな、よろしくね!