~ プロローグ ~ |
ある日の早朝の出来事。アークソサエティ本部の一室に、貴方(達)は、司令部に配属されている先輩の浄化師に呼び出されました。 |
~ 解説 ~ |
職業見学の指令に選出された貴方達は近隣の学校に向かうことになります。 |
~ ゲームマスターより ~ |
初めまして、姫井珪素と申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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レ:どうしよう、子供達の前であがっちゃったら、カッコ悪い…… テ:……レミネ、深呼吸だ レ:(なるべく明るく、明るく……そうじゃなきゃあの子と同じじゃないから) (あの子=自分の片割れ) 【希望】 1初等部 2中等部 3高等部 私達は、『初等部』を希望します 【自己紹介】 レ:ふ、祓魔人の、レミネ・ビアズリー……です、あの。今日はよろしくお願いします テ:ティーノ・ジラルディといいます。自分は喰人です。よろしくお願いします 【組手】 ・パートナーと組手 レ:実戦経験ないし、うまく、この子(人形)を動かせれるかな…… テ:相手は俺だ。それに失敗しても平気だぞ 【自由交流】 ・子供達と話をする 折角だから、皆とお話してみたいかな |
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●目的 職業見学会をつつがなく終わらせる 千亞「いいか、珠樹。頼むから薔薇十字教団に悪印象を抱かせるような言動は謹んでくれよ」 珠樹「ふ、ふふ。かしこまりました…!」 ●希望 1 中等部 2 高等部 組手はパートナーと。 ●自己紹介 千亞「僕は千亞。気楽に接してくれると嬉しいな。よろしくね」笑顔にて。 珠樹「明智珠樹と申します。記憶も身寄りもない私ですが、教団に所属し充実した日々を過ごしております。よろしくお願いいたします、ふふ」 ●組手 スピードを生かす千亞と、一撃が重たい珠樹。 結末決めずに真剣勝負を。 ●交流 質疑応答メイン 明智「闘う者にとって、大切なのは人の和だと思います。皆様も周りの方と助け合い、良き学園生活を…!」 |
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~ リザルトノベル ~ |
●職業見学会:プロローグ 首都エルドラド内の学校で行われる職業見学会のため、薔薇十字教団から二組の浄化師が派遣されることとなった。 薔薇十字教団は、異形の敵との戦闘を前提としている魔術組織だ。本来であれば、そんな学校の行事に参加することなどあまりないのだが――これも、ある意味大事な戦いなのだ。 敵と戦うためには、資金が必要となる。 人間同士の戦争においても、敵よりも物資が届かない方が余程恐怖であると戦場では度々語られて来た。 各地に支部を置く薔薇十字教団ではあるが、貴族等から多くの資金提供も受けている。 不測の事態に備えるためにも資金があっても足りないのだ。 学校へと向かう道中、二組の浄化師一行は無言のまま唯々歩いていた。 「緊張……する」 と、レミネ・ビアズリー俯きがちに声を漏らした。 「不安だ……」 と、同じタイミングで白兎・千亞も呟いた。 今回の職業見学会には、子供は勿論のこと、子供達の親に当たる貴族も見学に来る。つまりは薔薇十字教団に多額の資金提供をしている者が足を運ぶということだ。 その意味を、彼らは指令を受けた際に説明を受けていた。 「失敗したら、どうしよ」 「失敗したらどうしよう……」 戦闘とは違った緊張感を、レミネと千亞は抱いていた。 レミネのパートナー、ティーノ・ジラルディは不安がる彼女に言葉をかける。 「失敗しても大丈夫だ。きちんとフォローする」 「うん……。でも、自分でも頑張るから」 隣のペアを見て、明智・珠樹も倣うように千亞にフォローを入れる。 「失敗などありえません。何せ私がいるんですから」 「いいか、珠樹。頼むから薔薇十字教団に悪印象を抱かせるような言動は慎んでくれよ」 「ふ、ふふ。かしこまりました……!」 「……不安だ」 学校へと向かう道中、少しばかり和やかに喋りながら歩いていった。 ●初等部:レミネ・ビアズリー/ティーノ・ジラルディ 珠樹達と別れ、二人は初等部の職員室へと向かった。 定刻よりもやや早い到着ではあったが、担当教員は快く二人を迎えてくれた。 「お待ちしておりました。会場へとご案内させて頂きます」 と、レミネとティーノは、室内演習場へと案内された。 室内演習場は、広々としていて床や壁は頑丈な素材で出来ている。ちょっとやそっとでは壊れることはなさそうだ。 広さと使用している素材を除けば、一般的な学校にある体育施設と大差はない。 百人近くの生徒がパイプ椅子に礼儀正しく座り、二人の到着を待っていた。 「では、準備が整いましたら始めて下さい」 案内を終えた担当教員は、演習場の端の方へ移動した。その近くには、他の教員が数名。その他に貴族、要人が数十名見学に来ている。 「……あ、あんなに偉い人が来てるだなんて」 生徒達の方を見てから聞いていた人数と見た人数には感じ方に大きな差があることをレミネは感じた。 「そ、それに。どうしよう、子供達の前であがっちゃったら、カッコ悪い……」 緊張に打ち震えるレミネに、ティーノは助言をする。 「レミネ、深呼吸して」 「……うん」 優しい助言に従って、レミネは静かに目を閉じる。 大きく息を吸って吐く。規則正しいリズムを心掛け深呼吸をする。緊張が少しばかりかほぐれ、リラックス出来た所で、自身に暗示をかける。 ――なるべく明るく、明るく……そうじゃないとあの子と同じじゃないから。 俯きがちになりながらも、レミネは目を開いて少々小さな声で生徒に向け挨拶をする。 「みなさん。こんにちは」 こんにちは、大勢から返事が返って来て、レミネは肩を震わせた。 大丈夫、と自分に言い聞かせて続ける。 「ふ、祓魔人の、レミネ・ビアズリー……です、あの。今日はよろしくお願いします」 いい終えて、レミネは一歩下がった。 「ティーノ・ジラルディといいます。自分は喰人です。よろしくお願いします」 「よろしくお願いします」と、子供達の返答が返って来た所で、ティーノは続ける。 「さて、簡単な自己紹介が済んだ所でまず俺達浄化師についての説明をします。みんなも知っている通り、今世界では強大な敵によって平和が脅かされている。『ベリアル』や『ヨハネの使徒』と呼ばれるものだ。奴らを倒すために、浄化師は最低二人一組のペアになっていつの日か平和を取り戻すべく戦っています」 ティーノがレミネの方に視線を送る。 「きょ、今日は。その……実際に戦っている姿を見せたいと思います」 「ルールは簡単、互いに持っている武器を無力化するか、相手に一撃を与えれば勝ち。みんなが怪我することはしないから、安心して欲しい」 大きな拍手の中、担当教員が二人の側に寄った。くれぐれも、生徒に怪我をさせない様に、と念を押されて二人は頷く。 「あの、その」 「……?」 「さっきは、フォローしてくれてありがとう」 いうだけいって、レミネは小走りで所定の位置についた。 組み手開始の合図は、担当教員によって行われる手筈になっている。 学校的に、何かあった場合を考慮してのことだ。その場にいる大勢の視線が担当教員の手旗に集中する。 「それでは、始め!」 白い手旗が振り下ろされ二人の組み手が始まった。 ◆ 実戦経験のない二人にとって、まだ戦闘は慣れないものだ。しかしながら、今回の目的において勝ち負けはない。子供達に浄化師とは何たるものなのかを伝えられれば強さは関係ないのだ。 優位性があるとするならば、それはわかりやすさ。 普通の人間とは違うという特異性を見せることが出来れば、子供でも簡単に浄化師がいかなる存在なのか。その力を使って平和を守っているということが伝えることは容易になる。 そういう意味では、人形遣いのレミネ・ビアズリーはティーノ――珠樹や千亞の中でも一番優位だろう。肉弾戦でも、勿論凄さは伝わるが――あまりに強いと、今度は生徒達の目では追えず何が起こっているのかの判別が不可能になってしまう恐れがある。 無事に人形を操ることが出来れば、子供達の関心を惹くことは充分に可能だ。 開始の合図と同時に、ティーノはレミネ目掛けて駆ける。片手剣をメインにするティーノには接近戦しか選択の余地はないが、接近戦に持ち込むことが出来ればティーノの有利に戦闘は進むことだろう。 ただし、そこまでの間合いに入るのには苦労を強いられる。 人形遣いのレミネは人形を武器として扱う。魔力糸の届く範囲であれば、離れた位置からの攻撃が可能だ。 「お願い、動いて」 レミネが囁くように念じると、手に持っていたベーシックドール――『マリネッタ』が宙に浮いた。妖しく宙に浮くそれは、俊敏な動きをする上、見た目より重たい一撃を放ってくる。 「「「動いた!」」」 生徒達の驚く声が室内演習場に響いた。見たことのない人形遣いの能力行使に、昂奮を抑えられず、立ち上がる生徒までいた。 「良かった……」 無事にドールを動かせたことに安堵するレミネをよそに、ティーノは全速力で距離を詰めていく。 もう少しでティーノの距離――という所でドールが不規則な動きをしながら急降下し行く手を阻む。 回転しながらの連続打撃攻撃。一発一発もそこそこ重く、かつ俊敏で、躱すことは困難だ。やむなく片手剣で攻撃を防ぎティーノは後退を余儀なくされた。 防戦一方を強いられるティーノであったが焦りはなかった。生徒達の盛り上がりを見て『目的』は無事達成されそうだと確信を得ていたがための余裕。ドールといえど、結局の所物理攻撃だ。レミネとではなく、ドールとの戦闘に集中すればティーノにも分がある。 ――真剣勝負ではあるが、しかし。 ティーノは少しばかりか悩んでいた。 勝ちに行くか、それとも指令成功を優先させるのか。共に戦う仲間に手加減をすること程失礼なことはない。だがらといって、指令を失敗させるようなことも決して出来ないのだ。 勝利条件は武器の無力化か、相手に一撃を与えること。それがわかりやすくて安全だと事前に二人が決めたルールだ。 開幕と同時に片手剣を投げつけるという方法も考えていた。一撃与えればそれで試合は終わる。だが、それでは余りにも盛り上がらない。 つまりは、ドールを破壊するか、レミネに切りかかるかの二択……。 一つ。ドールを破壊するべく本気で切りかかれば恐らく初等部の生徒に心的ダメージを与えることになる。これでは、目的達成を脅かす可能性がある。 二つ。レミネに一撃を与える。これも、ティーノは気が進まなかった。指令とはいえ、守るべき対象を傷付けることは極力避けたい。 悩んだ末、ティーノは指令達成を優先させることにした。もう少し盛り上げてからのバレない程度に加減をして敗北を狙うことに決める。 ――尤も、そんな余裕あるのか微妙かもしれないな。 自嘲気味に呟き、片手剣を構える。 盛り上げるために激しい戦いに興じるティーノ。アクロバティックな動きを、戦闘に組み込み、生徒達を更に戦いへと熱中させていく。 室内演習場が割れんばかりの声で溢れていた。 最後の仕上げにティーノは移る。ドールの動きに慣れて来たティーノは、最低限の剣の動きで以てドールの攻撃をいなしながらレミネとの距離を詰める。 その時、ティーノの勝利を確信した者も数多くいたことだろう。 ついに、レミネの懐に入ったという所でティーノは終幕の一撃を繰り出す。 だが、 当人達にしか気付かない程度の隙、それをレミネは見逃さなかった。 「……お願い!」 猛スピードでドールが頭からティーノの腹部に突っ込んだ。 「ぐっ」 腹部にドールが突進して、ティーノはその場に倒れ込む。 「そこまで!」 手旗が振り下ろされ、組み手は目論見通り終演した。 歓声は鳴り止むことを知らず、端の方に立っていた貴族や要人達も昂奮した様子で称賛の拍手を送っていた。 「大成功、みたいだな。っ……」 ただ一つ、計算違いなことがあったとするのなら、思いのほかドールの一撃によるダメージが大きかったことくらいだろう。 自由交流は、生徒が二人を囲むようにして行われることとなった。当初の予定では、椅子に座ったままの挙手による簡単な質疑応答だけで済ませるつもりだったが、この盛り上がりようを見て、担当教員が急遽変更したそうだ。 「……」 「お兄さん格好良かったよ!」 「あ、ありがとう」 子供に囲まれ動じるティーノとは対象的に、レミネは自然に話していた。 「お人形さん、また動かして!」 「うん、いいよ」 レミネが生徒の要望に応え、ドールを宙に浮かせる。そうしながらも、他の生徒達とも和気藹々としていた。緊張しなければ、レミネはこうやって話すことが出来たのだとレミネの双子を思い出しながら遠目に見ていた。 自分も頑張ろうとは思うが、しかし、どうも子供と接するのに苦手意識が邪魔をする。 「駄目だよ、あんまりお兄さんを困らせちゃ。訊きたいことがあるなら、順番にね」 レミネの言葉に従って、ティーノの周りの生徒達が挙手をして質問を始める。 ティーノは近くにいた長身の男子生徒を指名する。 「お兄さんはどうして浄化師になったんですか?」 「それは……」言い淀んでから、レミネが子供達に連れられて少し離れることを確認する。「守りたいと、思ったからだ」 小柄な女子生徒が挙手せず発言する。 「それってパートナーのお姉さんですか!」 「それは……秘密だ」 子供達はティーノをからかうようにして「好きなんだー」と連呼していた。 「……?」 レミネは首を傾げて不思議そうな顔をしてティーノを見ていた。 ●中等部:明智・珠樹/白亜・千亞 レミネ達と別れ、二人は中等部へと向かう。 玄関で二人を出迎えたのは中等部の生徒で、今回の見学会の担当者だった。 教員ではなく生徒だった。 「本日は、お越し下さいましてありがとうございます。早速ご案内致します」 「ふふ、悪い気はしないですね」 「しっかりした生徒だ」 二人は小声でやり取りをする。 案内されたのは、校庭にある屋外演習場。 初等部から高等部の生徒全員で利用することを想定した大型施設で、グラウンドを囲むように、観客席までもがある。 こんなものが学校の敷地内にあるというのは、少々やり過ぎな気もしなくもないが。我が子の雄姿をこの目に焼き付けたいという親達の寄付金によって出来た産物であることに違いなかった。 「お二人は、手練れと先生から聞いています。なので、少し大きめな場所をご用意させて頂きました」 「……ふふっ、少し?」 珠樹は引きつった表情で笑いと共に声が漏れた。 「…………」 「千亞さん、千亞さんっ!」 「…………あ、ああ」 「広いですね」 「広いな」 「広すぎますね」 「広すぎだな」 千亞も名門貴族の生まれで金持ち特有の大型建造物には慣れているつもりではあったが度が過ぎていた。 「どうしてこんなものを作ってしまったのでしょう」 「お金が余ってるからだろう?」 「余っている?」 珠樹の言葉を切り、視線を遙か向こうへと向ける。 「ところで珠樹――気付いているか?」 「ふふ、勿論です。少し遠いですが大人達の視線を感じます。見られていますね」 「わかってるな、珠樹。失敗は許されない」 「わかってますとも今回は真剣勝負です」 「相当派手な戦いにしないとな。舞台の広さに飲まれる」 「心配には及びませんよ。元より派手に美しく戦う予定だったじゃないですか」 「まぁ……な」 「――それに、千亞さんと組み手出来る機会です。ふふ、手を抜くなんて出来ませんよ」 ニタリ、と珠樹は笑顔を浮かべる。 「組み手の際は、自分の持つ全てをぶつけたいと思いますので、よろしくお願いいたします」 「頼むぞ」 屋外競技場の観客席に続々と生徒が集まってきた。 二人は生徒達の方へと走って向かう。 担当生徒と二言三言確認をしてから二人は自己紹介を始めた。 「みなさん、こんにちは!」 千亞は声を張って、生徒達に呼びかける。 「「「「こんにちは!」」」」 「僕は千亞。後で自由交流もあるから。その時にでも気楽に接してくれると嬉しいな」 と、いって笑顔を振りまくと観客席から高音と低音の入り交じった歓声が響いた。 千亞は一歩下がり、珠樹を見やる。 「明智・珠樹と申します。記憶も身よりもない私ですが、教団に所属し充実した日々を過ごしております。よろしくお願いいたします、ふふ」 今度は黄色い歓声が響き渡った。 「みなさんお静かに!」 担当生徒の一声で、一瞬にして静まり返る。 「この後、お二人の組み手が開始されます。準備まで静粛にしてお待ち下さい」 二人の元へ小走りで担当生徒がやってくる。 「確認事項ですが、生徒達に怪我を与えるような技は控えて下さい。他にご質問はありますか?」 二人は大丈夫だ、と返す。 「それでは、良い戦いを期待しております」 ◆ 組み手が始まってからおよそ五分の時が経過した。 担当生徒は手元の時計で、自分が開始の旗を振ってからまだ五分しか経っていないことに戦慄していた。それ程までに濃密な五分だ。 目を奪われ、言葉を失い、耳は理解を助けるためだけに機能する。 静まり返った屋外演習場には、戦いの音が響いていた。 ――攻撃、防御、回避。 殴打、蹴り技の応酬。 接近、後退。跳躍、降下。 ――高度なやり取りが一瞬の内に繰り広げられている――のだけは生徒達も理解していた。たった五分の戦闘を見ているだけなのだ。それにも関わらず、疲労感を露わにしている生徒も少なくない。 なのに、何故か――不思議なことにこの戦いからは目を離せない。 二人はそれなりに腕の立つ浄化師だ。実力の差も殆どない。 珠樹がパワー重視で、千亞はスピードタイプ。 パワーとスピードならば、スピードの早い方が優位性は高い。実際、千亞は珠樹の攻撃を悉く回避している。スピードで劣る珠樹も珠樹で、完全な回避は少ないものの最低限の動きで完全な防御行動をしている。 紛れもない真剣勝負であることは傍から見て間違いのないものに見えた。 決して派手ではないが、その一つ一つの攻防には静かな美が宿っているようだった。 ただ、千亞の場合。その戦いの中に雑念が混じっていた。 ――嫌だ、あれには当たりたくないっ! 自己紹介、それから組み手の後の自由交流の心配ばかりをしていて、千亞は組み手のことで心配はしていなかったのだが――。 ピコルンハンマー――見た目はおもちゃのハンマーではあるが、これも歴とした武器であり当たれば痛い。当たれば、気の抜けた音が発生する。そして、相当恥ずかしい。 「ああ、華麗に舞う千亞さん、美しいです」 「な、何をいってるんだ!」 一瞬の隙を決められそうになり、千亞は跳躍して大きく珠樹と距離を取った。 ――危なかった……。 「今のは惜しかったと思うんですけどね」 「全然、惜しくないっ」 「いつもよりキレがないですよ。回避こそ出来ていますが。いつもより隙は多いですし」 「それは、お前がそんな武器を使うからだろ!」 深くため息をついて、珠樹は真剣な表情で千亞にいう。 「――千亞さんも、そろそろ本気を出されてはどうですか。まだ、『緊張』しているように窺えますが?」 「緊張? 僕が?」 心を落ち着かせ、少しばかり千亞は考える。珠樹のいう緊張の要因とやらを、頭に列挙させていく。 …………。 ――あ、思い当たる節が多すぎる。 そもそも、緊張する理由が珠樹だということを改めて認識し、殺意が芽生え始める。 ――なんでもいいからこいつの顔面を蹴っ飛ばしたい。 見透かしたような表情。そうだ、珠樹というパートナーはふざけた態度を取ることも度々あるが、しかし。他人の心理を読むことに秀でている。 「まさか珠樹に気を遣われるとは思いも寄らなかった。じゃあ、遠慮なく蹴るから」 珠樹のフォロー、見学会の成功、体面、周りへの気遣いが知らぬ間に千亞の枷となっていたのだ。 軽くステップを刻んで、千亞は宣言する。 「何も考えず。もう少し早く動かせて貰うよ」 「そうこなくては」 一切の迷いのない千亞の動きは、先程より一段と早かった。 蹴り技をメインに、サブウェポンとしてナイフを用いる。速さに手数を加えた千亞の動きに珠樹は微笑む。 「やはり、美しい」 一進一退の攻防には、終わりが見えなかった。大振りではあるものの、最小限の隙しか生まない珠樹。常に目にも止まらぬスピードで攻撃を繰り出し、時折上空から大きな蹴りを繰り出す千亞。 その戦いに決着は付くのか、と生徒達は固唾を呑んで見守っていた。 同時に、いつまでもこの攻防を見守っていたいという気持ちも彼らの中にはあった。 「そこまで!」 担当生徒が、時計を睨み、惜しみつつ旗を降ろして宣言した。 二人は動きを止め、生徒に向けて深々とお辞儀をした。一つのショーが終わったかのような華やかさがそこにはあった。 大歓声が響き渡り、二人は顔を見合わせる。 「決着が付かなかったのは大変残念ですが、楽しい戦いが出来て概ね満足です」 「僕も楽しかったよ」 握手をして、組み手はこれにて終わりとなった。 「それでは、次は質疑応答の時間に移らせて頂きます。時間はたっぷりあるので、慌てる必要はありません」 珠樹と千亞は二手に分かれた。左半分と右半分の端から質問を受けていって、真ん中に到達するまで繰り返すという形式だ。 自由交流の時間は質疑応答がメインになった。 生徒達が挙手して、質問したい相手を指名し答えていく形式だ。 「珠樹さん、どうして浄化師になったんですか?」 「おお! それを訊いてしまいますか。あれは、私が薔薇園で倒れていた時の――」 「え! 女性なんですか!」 「うん。まぁ……一応」 「お姉様って呼んで良いですか!」 「ははっ、困ったな。いいよ」 「「「「「お姉様!」」」」」 「こんなに可愛い妹達が出来てしまうとは、来た甲斐があったよ」 「「「「「キャー」」」」」 ――子供達にもてるの……。うん、悪くない。 「そして――その時、私は確信したのです。私には使命があると! 記憶を失ったのは何らかの試練であることを。私は運命に抗う咎人かもしれない、ですがッ!」 「あの、どうやったらそんなに早く動けるんですか?」 「うーん。その質問には答えられないかな。ただ一ついえるのは、自分の長所を伸ばせばいいってことだよ。僕は珠樹の力には叶わない。だけど、早さには絶対の自信がある」 「でも、私もお姉様のようになりたいんです!」 「自分を自分で変えるのは本当はとても難しいんだ。もしかしたら、無理なのかもしれない。けど、人との出会いで変われるってこともあるんだよ」 正直、認めたくはないけどね、と演説している珠樹の方を見ていった。 「――さて、私がどんな罪を犯したのか。私なりに考えたのです。そう、それは美しいこと! そこにいる貴方も、貴女も、そして君も、キミも、きみも! みんなみんな美しい。そう、人とは生まれながらして罪な存在ッ!」 「……ちょっと待ってね。おい、珠樹、全然お前の質問進んでないんだけど!」 千亞は、先程よりももしかしたら早いスピードで珠樹の首根っこを掴み、観客席中央へと運んだ。 苦笑いする担当生徒を後目に、締めの言葉を頼まれる。 「千亞さん?」 「珠樹、お前が締めろ」 「いいんですか?」 「ただし、まともに喋れよ?」 「では、僭越ながら」 咳払いをしてから珠樹は端から端まで見渡し響くような声でいった。 「闘う者にとって、大切なのは人の和だと思います。みなさんも周りの方と助け合い、良き学園生活を……!」 盛大な拍手と共に、二人の職業見学会は無事に終わりを告げた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[7] レミネ・ビアズリー 2018/05/07-23:10
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[6] レミネ・ビアズリー 2018/05/07-23:10
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[5] 白兎・千亞 2018/05/07-22:43
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[4] 明智・珠樹 2018/05/06-21:10 | ||
[3] レミネ・ビアズリー 2018/05/06-01:40
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[2] 白兎・千亞 2018/05/05-22:01 |