嘘かほんとか、あなたの過去・未来
とても簡単 | すべて
8/8名
嘘かほんとか、あなたの過去・未来 情報
担当 瀬田一稀 GM
タイプ EX
ジャンル 日常
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 なし
相談期間 5 日
公開日 2018-04-30 00:00:00
出発日 2018-05-08 00:00:00
帰還日 2018-05-18



~ プロローグ ~

 教皇国家アークソサエティの中心部から、西に位置する大都市エトワール。
 そのメインストリートであるリュミエールストリートは、いつも多くの人でにぎわっていた。
 しかし笑い声に満ちたカフェの一角に、ため息をつく女性が一人。

「つまらないわ……毎日、同じことの繰り返しばかり!」
 彼女はドン! と机を叩いた。
「昨日はお財布を落としたし、今日は靴のかかとが壊れたし! ああ、楽しいことはないのかしら」
 そこで彼女は顔を上げ――ちょうどその場にいた、あなたをじいと見る。

「あなた、ひょっとしてエクソシスト?」
「えっ……? は、はい」
 見知らぬ相手からの突然の問いかけに、緊張しながら答えるあなた。
 女性はひらひらと手を振って、あなたとパートナーを招き寄せた。
「だったら、きっといろいろな体験してきてるわよね。ねえ、見せてくれない? あなたの過去……。ああ、未来でもいいわ」
「過去と未来? どういうことだ?」
 あなたのパートナーが問いかける。
 女性はうふふ、と真っ赤な唇で微笑み、言った。

「わたし、人の過去や未来が見えるのよ。ああ、やり方は簡単だから、大丈夫。あなたの手に触れるだけでいいの……」

 この女性が、本当のことを言っているのか。
 それとも単に、からかわれているのか。
 さて、答えはいかに?


~ 解説 ~

不思議な女性に「あなたかパートナー、もしくは二人」の「過去や未来」を見てもらいしょう。
彼女は自分が見たシーンを話します。

基本的に、過去はその人が経験していること、未来はその人が望んでいることになります。
過去も未来も、当たるかわかりません、
あくまで、その人が「今」考えていることです。

たとえるならば。
あなたが昨日の夕食の場面を見てもらった場合。
本当に食べたのは、お肉かもしれません。
でもあなたが「魚を食べた」と思い込んでいれば、あるいは思い違いをしていれば、彼女には、魚を食べているあなたが見えます。

見てもらえるのは、

・あなたの過去、もしくはあなたが望む未来
・パートナーの過去、もしくはパートナーが望む未来
・あなた達二人の過去(二人が一緒に経験したこと)、もしくは二人が望む未来

です。

見る場面はいくつでも構いませんが、増えるほど、ひとつの出来事の描写は薄くなります。


~ ゲームマスターより ~

このエピソードをご覧いただき、ありがとうございます。

今回は、気になる過去と未来についてです。
プランには、前世とか来世ではなく、あくまでその人が生きている状態での過去・あるいは未来を書いてくださいね。

皆さんの過去や未来をちょっと長めにお伝えできるよう、エピソードタイプが通常とは異なります。
ご注意ください。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ラウル・イースト ララエル・エリーゼ
男性 / 人間 / 悪魔祓い 女性 / アンデッド / 人形遣い
(女の話を黙って聞き、怒りに震える)

という事はララエルは、その貴族に攫われなければ
本当の両親の元で今頃は幸せな生活を送っていたという事なのですか!?

(女の言葉に)
くっ…

(ララエルの肩に手を置き、頭を撫で)
…君の胸に孔があるのかどうか、後で確かめさせて貰うからね。
アシエト・ラヴ ルドハイド・ラーマ
男性 / 人間 / 断罪者 男性 / エレメンツ / 狂信者
※PC口調です

手を握られたルドの顔色がどんどん悪くなっていく
手でも握ったほうがいいのだろうか、と迷っていたら、怪しい女に止められた

歯がゆいが、大人しく待つ

ハッとしたルドが女から後ずさるのを合図に、俺はルドの側へ
大丈夫か、ルド?
汗もやばいし、顔色も見たことないくらい最悪だ
恐る恐る、手を握ろうとしてルドを見る
ルドの金色の目が俺を見ていた
大丈夫だ、ルド
ぎゅっと手を握る

「見たのか?」
珍しく震えてるルドの声に俺は首を横に振った
何故か、安堵するように息をつくルド
…知られたくなかったんだろうか

ルドが言いたくなるまでずっと待つ
今じゃなくていい
大丈夫、俺はどこにもいったりしない

そう思えるのはルドも家族だからかな
ベルロック・シックザール リントヴルム・ガラクシア
男性 / ライカンスロープ / 断罪者 男性 / 生成 / 占星術師
「俺はいい…って、おい!」
渋るが強引に手を引かれ
リントと出会った時のことを見る

一年前のあの日、探偵だった俺はペット探しの依頼を受けた
探しているのと同じ特徴の猫を連れた女を見かけたという情報を聞いて街の路地裏へ向かい
猫を抱いた見覚えのある少女を発見した
「アンタは…!」
忘れもしない、幼い俺を攫った『終焉の夜明け団』の魔術師!
猫を捕まえて実験に使おうとしてるのかもしれない
止めようと駆け出すと、横から飛び出してきた男とぶつかった

何とか猫は保護したが女は消えてしまった
「くそっ!逃げられた…俺には時間がないのに」
魔力が安定しないせいか最近体調も悪いし
話しかけられ驚く
何で分かった?

契約するのはもう少し後の話
カラク・ミナヅキ アーロイン・ヴァハム
男性 / マドールチェ / 墓守 男性 / 生成 / 悪魔祓い
〇目下、意思疎通を図るべく買い出し等共に行動中
 『かかと、大丈夫…?』と立ち止まったら掴まったカラク

カ「僕の過去や…未来?」
ア「カラク?何して…、…ああ」(変な勧誘に引っかかったのか、という顔

カ「未来なら、少しは興味あるかな」
ア「おぉ、お前の口から『興味』って初めて聞いたわ」

【カラクの未来】
 人間になれた自分。そして…満足な笑み浮かべ墓に埋められる自分

〇聞いた後

カ「…そうか。そうなら嬉しいと思う」
ア「(コレ、嬉しいのか…)なら嬉しそうな顔したらどうだ?」
カ「?今、現実になれたわけじゃない。想像の感情を述べただけだから」
ア「あー…成程な」

何か納得しているアーロンの笑みを、不思議そうに見つめるカラク
サラ・ニードリヒ ハンス=ゲルト・ネッセルローデ
女性 / ヴァンピール / 占星術師 男性 / ライカンスロープ / 悪魔祓い
見えるのは二人の望む未来

こぢんまりとした家
小さな庭
小さな菜園

庭ではハンスが彼そっくりの銀狼の耳と尻尾を持つ幼い男児と水遊び
私はそれを微笑ましく眺めながらせっせと大小お揃いのマントやエプロンを縫う

私の傍には男児より一回り小さい女の子
遠慮がちに庭で遊ぶ二人を見ている
よく見るとこの子の耳は私と同じ
ああ ヴァンピールに生まれてしまったのね…

でも
私と違ってこの子は己の生を儚んではいない
きっと差別のない未来に生まれたのね
それともハンスのお陰かしら
私に似て引っ込み思案みたいだけど

そう
私が望んでいるのは
ハンスと生きるこんなありふれた幸福と
種族差別に怯えない平穏な日々
 
…叶えたい
いつか現実にしたいわ
この素敵な願望を
ベアトリス・セルヴァル ジョシュア・デッドマン
女性 / ライカンスロープ / 魔性憑き 男性 / アンデッド / 陰陽師
過去が見られるならジョシュアのが見たいなあ
でも、本気で忘れてるみたいだから
本当に本の内容なぞるだけになりそうだからいいや…

(ベアトリスの望む未来を見ます)
色んな種族が仲良く暮らしている町で
素敵なお嫁さんになって、子供にも恵まれて
幸せな家庭に囲まれながら暮らしたいな~
(脈絡なくジョシュアが当然のように家庭内にいます)

どんな人と結婚するかは、あー、イメージできないや
優しくてあたしの料理を美味しそうに食べてくれる人かな
ジョシュアは時間が経ってもそばにいてくれないかな、って思ってさ、頼りになるから。

ノーコメントってなに!?教えてよ、その方法
……あ、そうか、うん
何かむずむずするから一先ず置いておこう
唐崎・翠 レガート・リシュテン
女性 / 生成 / 拷問官 男性 / 人間 / 狂信者
・見るもの
レガートの未来

・前
翠「過去か、未来…
レ「すごい力をお持ちなんですね、ぜひお願いします!

目を瞬かせる翠と即座に面白そうと判断して乗っかるレガートと対照的な反応
相談した結果、乗り気だったレガートの事を見て貰う
本人の強い希望で過去より未来
二人でどきどきしながら話を聞く

・後
幸せそうな未来に二人とも笑みがこぼれる
女性に見てくれて有難うとお礼

レ「よかった、僕達これからもどんどん成長していけそうですね
翠「はい、なによりです。それにしてもリシュテンさんの未来というより…
レ「二人の未来な感じでしたね。得した気分です

まだ聞いた未来ほど親しくも実力もないが
うまくやっていけるかな、という不安が薄れ心が弾む
ニーナ・ルアルディ グレン・カーヴェル
女性 / 人間 / 占星術師 男性 / 人間 / 拷問官
2人の過去
10年前初めて引き合わされた時の話。

もっと年の離れた方がいらっしゃると思ってたので嬉しいです!
仲良くしてもらえると嬉しいですっ!
えっ、お友達じゃない…それは、そうですけど…
あっ、そうだ!
屋敷を案内しますね!行きましょ行きましょ!

途中壁の装飾とか植木鉢が落ちてきたりしましたけど
大丈夫です、よくあることなので!
グレンって普段は今みたいな話し方なんですね?
だったら私、今みたいにお話してくれた方が嬉しいですっ
お願いです!他の人に怒られない時だけでいいですからー!

会ってからずっと緊張気味で難しい顔してたグレンがやっと笑ってくれました。
グレンはその方が素敵です、これからもよろしくお願いしますっ!


~ リザルトノベル ~

●ラウル・イーストとララエル・エリーゼが見る過去

「あの、私、いいですから……」
 ララエル・エリーゼは、女性にとられた右手を、自分の方に引こうとした。
 もしひとりで外出しているときであれば、彼女のしたいようにさせただろう。
 でも今、隣には、ラウル・イーストがいる。
(過去なんて見られたくない……。だってもし、あのことも言われてしまったら……)
 しかし女性は手を離さず。
「いいじゃない。パートナーとは多くを分かち合うものよ?」
「それは……そうかもしれませんが」
 ララエルは、ラウルを見上げた。
(何も言わないってことは、ラウルも聞きたいってこと……なのでしょうか)
 迷っている間に、女性はララエルの手を取った。

 ララエルの右手が、女性の両手に包まれている。
 真っ白でやわらかなララエルの手のひらは、女性のそれよりも、かなり小さかった。
 大人と、子供。
 その差を実感した気がして、ラウルは目を細める。
(そうだ、ララはまだ、こんなにも弱い……)
 だからこそ、両親の間違った庇護の下から、逃れた今。
(僕が、守らないと……)
 それには、情報は多いほうがいい。

 黙り込むラウルの前で。
「分かり合うなら、過去を見た方がいいわね」
 そう言って、女性は歌うように、ララエルの過去を話し始めた。

「貴女は一般家庭から、子供のできない貴族に攫われてきたのね」

「……ということはララエルは、その貴族に攫われなければ、本当の両親の元で今頃は幸せな生活を送っていたということなのですか!?」

 ラウルが大きな声を出す。
「そんなに怖い顔をしないで頂戴。私は彼女が信じる過去を、そのまま伝えているだけなんだから」

 彼女は続けた。
「でも、お嬢さん。貴女を攫った大人たちは、貴女が女の赤ん坊だとわかると、貴女を虐待し始めたのね。……そう、何年も、何年も」

「くっ……」
 ラウルがぎりと歯噛みする。
(そこに自分がいれば。そうなるよりもっと早く、出会えれば)
 自然、目に力が入った。女性が笑う。

「もう、睨まないでって言ったでしょう? この子が大事なのは、わかるけれど」

 この子、と視線を向けられ、ララエルはぴくりと肩を揺らした。
 ラウルがどんな顔をしているのか。
 見ることができずに、俯く。
 確かに虐待されていた。でもララエルは、両親を憎んではいなかった。
 ただその過去が、昔のことが、今、ラウルを苦しめるのは、嫌だ。
(だってラウルは、私の騎士様で、王子様なんですから)

 女性が細い指先で、すうっと少女の手を撫ぜる。
「そして……。ついに貴女の親は、貴女を――」
 ララエルは、そろりと顔を上げた。
「痛かったわよね……酷い有り様だった。とてもこの場で、言えないほどに」

(……痛い?)
 ララエルが、目を瞬く。
 確かに痛かった、かもしれない。
 でもあれは、そんな、たった一言で済ませられることじゃない。
 何度も叩かれ、泣いても蹴られて、食事をとらせてもらえないこともあった。
 心が朽ちていくのがわかった。

 体の脇に垂らした左手が、ぶるぶると震え始める。
 それを、ラウルがそっと握ってくれた。

「貴女の親は動かなくなった貴女を、土の中にスコップで生き埋めにした」

(そうよ、全部その通り。ああ、だけど――)

「今、あなたの胸には孔が――」

「やだあ、言わないで、知られたくないの!」
 ララエルはぱっと顔を上げ、女性の手を振り払った。
「お嬢さん、落ち着いて」
 突然暴れはじめた少女に、女性が焦った声を出す。
 しかし、ララエルの耳には届かない。

「落ち着くんだ、ララエル」
 目に涙を浮かべたララエルの肩に、ラウルはそっと手を置いた。
 その姿勢のまま、彼は女性に問う。
「あなたの言ったことは、本当なんですか」
「どうかしら」
 女性は曖昧に笑った。
「だって私が見えるのは、彼女が知っている過去だもの。彼女が誤った思い込みをしていれば、私が言ったことはすべて、事実とは違うことになる」
「じゃあ……」
 腰を曲げ、顔の高さをララエルのそれに近付けて、ラウルが囁く。
「君の胸に孔があるのかどうか、後で確かめさせて貰うからね」

 まっすぐで優しいラウルに、逆らうことなんてできない。
 ――否。逆らうことなど、思いつきもしない。
「は、い……」
 ララエルは、ゆっくりとラウルを見上げた。

 その表情に、ラウルは息を飲む。
(なんで……笑うんだ。さっきまで、あんなに嫌だと言っていたのに)
 唇は震え、目はうるんでいる、というのに。
(どうして、ララは……)
 こんなにも、儚く、脆い。

 胸に孔というのが事実ならば、ララエルはアンデッド……なのかもしれない。
 それは、確認しないとわからない。
(でも、ララがなんでも、僕は――)
 熱い想いを胸に、ラウルはララエルの肩を、そっと抱きしめたのだった。


●アシエト・ラヴとルドハイド・ラーマが見る過去

「駄目よ。彼に触れては駄目」
 くだんの女性に言われ、アシエト・ラヴは、ルドハイド・ラーマに向けて、伸ばしていた手を引っ込めた。
「でも……すっげえ辛そうだけど、ルド」
「それは彼が、それなりの過去を思い出しているからよ」
 それなりの、とはいかほどのものか。
 アシエトは、ルドハイドの、蝋のように白くなった顔を見つめた。
 おそらくその内容は、この女の口から、語られるのだろう。
(俺が直接、見れればいいのに)
 思ったところで能力はなく、女性の言葉を待つしかない。

 彼女が、歌うような声で、語り出す。

 ※

 それは、今から二十年前のこと。
 彼は、エレメンツの集落に住んでいた。
 気が強く面倒見がいい妻と、優しく穏やかな性質の息子。
 そして、妻そっくりの勝気な娘が、彼の家族だった。

 妻と娘が結託すると、夫であり父でもあるルドハイドは、かなわない。
 からかわれたり怒られたりしながらも、愛しい家族を、守りたかった。

 それなのに、次の記憶は、一面の炎。

「どこだ、みんな、どこにいるんだっ!」
 ルドハイドは、オレンジ色に染まった集落を、走り回った。

 いない、いない。
 妻がいない。息子がいない。娘がいない。
 なぜ俺は狩りになんて出た。
 今日この日、どうしてベリアルは、ここを襲った。

 喉が焼けるのも厭わず、何度も何度も、大切な家族の名前を呼んだ。
 逃げていてくれればいい。
 この集落の、何処にもいてくれるな。

 ――しかし、望みは叶わない。
 彼は見た。
 昨夜、笑いあって過ごした家の前。
 子供たちに覆いかぶさるようにして、妻が倒れている姿を。

 駆け寄り抱き起こした体は、この炎の中にあって、すでに冷たく。
 守られたはずの子供たちは、どちらも頬を濡らして、落命していた。
「ああ、あああ、あああああ」
(なぜ、こんな理不尽なことが! 許せない、許さない。殺す、殺してやる!!!!)

 ※

 ルドハイドは、女性から手を離し、よろよろと後退った。
 まるであの日のように、喉がからからに乾いていた。
 鼓動は早く、耳の中には、燃え盛る炎の音が、響くよう。
 いや、実際ルドハイドの耳には、当時の声が、聞こえていた。

「ルド……」
 妻とも、娘とも、息子とも違う声が、ルドハイドを呼んだ。
「ア……アシエ、ト……」
 困惑した頭。しかし呼び慣れた名は、自然と口から飛び出した。
 だがルドハイドは、アシエトを直視することができない。
(知られた……? アシエトに、この過去を……!)

「大丈夫か、ルド?」
 アシエトは、自分を見たきり、体をかたくした相棒の傍らに、静かに立った。
 ルドハイドの瞳は、茫洋とした光が宿り、何も語らぬ唇は、ぽかりと開いたまま。
 蒼白の首筋には、じっとりと汗がにじんでいた。
「ルド……」
 アシエトは、おそるおそる、彼の手を握ろうとした。
 ――と、何も写さぬと思っていた金の眼差しと、視線が合った。
「大丈夫、大丈夫だ」
 すっかり冷たくなっている手を、ぎゅっと握る。
「……見た、のか?」
 震える声に聞かれ、アシエトはゆるりと横に、首を振った。
「そうか……」
 ルドハイドは、安堵するように息を吐く。
(……知られたくなかったんだろうか……)
 女性の語ることの、どこまでが本当かわからない。
 でもおそらくは、事実と大きな差異はないのだろう。
 そうでなければいつも冷静なルドハイドが、こんなに取り乱すはずはない。

(だが、俺は知らないままにしとくか……)
 過去など知らなくても、今共にいることはできる。
 こんな弱気な顔は、ルドハイドには似合わない。
 いつも通り小言を言っているくらいが、ちょうどいいのだ。

 女性が去るのをなんとなく見送ってから、アシエトはルドハイドと繋いだままだった手を離した。
「なあ、酒でも飲みに行くか」
「……昼間からか」
「いいだろ別に。今日はとくに、何の予定があるわけでもない」

 さっきのことなどなかったように笑ってやれば、ルドハイドもまた、ゆるりと口角を上げる。
 その顔はまだこわばっているが、アシエトはあえて何も言わず、賑やかな通りを歩き始めた。

 その背を目で追い――。
「あっ……」
 ルドハイドは、小さな声を出した。
(アシエトが、行ってしまう……)
 彼が、振り返る。
「なんだよ、行きたい店は逆方向か?」

(大丈夫、俺はどこに行ったりもしない)
 言いたい気持ちを押さえて、アシエトはあえて普段通りの言葉を投げた。
(こう思えるのは、ルドも、俺の家族だからかな)
 そんなことを考えながら、手を上げルドハイドを招く。
「ほら、早く行こうぜ、ルド」


●ベルロック・シックザールとリントヴルム・ガラクシアが見る過去

「へえ、面白そう!」
 リントヴルム・ガラクシアは、女性の言葉に目を輝かせた。
「ねえ、ここで僕たち二人の過去をおさらいしておこうよ」
「俺はいい……って、おい!」
 背を向けて、その場を去ろうとしたにも関わらず。
 ベルロック・シックザールはリンドヴルムに手を掴まれた。
「客観的に見ることで、新しい発見があるかもしれないよ」
 発見。
 そう言われてしまえば、探偵であるベルロックは納得せざるを得ない。
(記憶を確かめておくのもいいか……)

 差し出された二人の手。女性はそれを左右の手のひらでとって、歌うように語り始めた。

 ※

 一年前のあの日。
 ベルロックは、ペット探しの指令を受け、街の路地裏へ向かっていた。
 探しているのと同じ特徴の猫がいるという情報があったのだ。
 華やかな大通りの一本裏は、細かな道が入り込んで、猫なんて、どこに隠れてもわからないだろうという状態。
「おーい、どこにいるんだよ」
 ベルロックはポケットから、乾燥した魚を取り出した。
 場所を変え、もう三日も同じ猫を探し回っている。
 呼んでも出てこないのが猫。それならば、餌でつろうと思ったのだ。

 ――と。
「この子はそんなもの、食べないわよ」
 声が聞こえ、はっと顔を上げると、そこには。
 探していた猫を抱いた、見覚えのある少女が立っていた。
「アンタは…!」
 忘れもしない。
 ほんの小さな子供だったベルロックを攫った、『終焉の夜明け団』の魔術師だ。
「……なん、で……こんなところに」
「そんなこと、答えると思っているの?」
 少女はにこりと笑い、ベルロックに背を向けた。そのまま、たたた、と軽やかに走り出す。
(ひょっとして、猫を捕まえて実験に使おうとしているのか?)
「それはまずいぞ」
 ベルロックはすぐさま、少女を追って走り始めた。

 同じ時期、フリー記者をしていたリントヴルムもまた、街の路地裏を訪れていた。
『終焉の夜明け団』の信者が隠れ住んでいるという噂を聞いたからだ。
 正直に言えば、信者云々もスクープもどうでもいい。
 リントヴルムが気にしていたのは、もしかしたらそこに彼女が――昔出会った、魔術師の少女が、いるかもしれないということ。
(どうしてももう一度、彼女に会いたい)

 通りの隅から隅までを、ひたすら少女を探して、歩きまわる。
 猫がにゃあと鳴き、尻尾を揺らして走っていった。
「まあ猫もいるだろうね。こんなごみごみした道じゃあ」
 立ち止まり、見回す狭い道。
 並ぶ石壁は高く、大通りの店に運ぶつもりなのか。ところどころに、果物が積まれていた。
「瑞々しくておいしそうだな。っておい、猫!」
 リントヴルムは声を上げた。
 猫の尖った爪が、果物をひっかこうとしたのだ。
 ――と。
「もう、歩きたいと言うから放してあげたのに。悪戯したらダメよ」
 声が、聞こえた。

 ココア色の髪を揺らし、碧玉色の瞳で瞬く少女。
 その手の甲には、十字架が。

「マリー!」
 かつて知った名を呼んで、リントヴルムは、彼女に駆け寄った。
「すごい……なんで当時のままなのか……。ああ、でもやっと会え……」
 た、と。
 みなまで言えなかったのは、「痛っ!」と叫んでよろめいたから。
 狭い通りを横から出てきた男――ベルロックにぶつかったのだ。

「あっ、悪い……」
 ベルロックが、リントヴルムを見たのも。
 リントヴルムが、ベルロックを見たのも、一瞬のこと。
 それなのに、二人が揃って視線を上げたときには、魔術師の少女は既に、消えていた。
 残されたのは、猫一匹。

「くそっ! 逃げられた……」
 猫を抱きあげ、ベルロックは吐き捨てる。
「俺には時間がないのに」
 このところ、ずっと体調が芳しくない。
 医者に見せても治らないのはわかっている。

「時間が、ない?」
 リントヴルムは、悔しそうに歯噛みする、ベルロックの顔を覗きこんだ。
 怒りに揺れる赤い瞳。
 ふと目を上げれば、黒髪の中には猫耳が。
「もしかして……キミ、未契約の祓魔人だったりしない?」
「なんでわかった?」
 ベルロックはゆるりと顔を上げた。
 目の前の男は、黒曜の瞳でにこりと笑う。
「ああ、やっぱり」

 ※

「――記憶通りの内容だったね」
「だな。だが……あの魔術師……今どこに」
 呟くベルロックの肩を、リントヴルムはぽんと叩いた。
「目の前にいない人を想うのは、恋だけにしとこうよ」
「はぁ?」
 呆れ顔で相棒を見、ベルロックは、リントヴルムにからかわれたのだと知る。
「……思い詰めても仕方がないってことか」
「そういうこと」
 チャンスはけして逃すまい。
 だが、不必要に不安をあおっても仕方がない。
 リントヴルムは女性に会釈すると、ベルロックに言った。
「とりあえずここはカフェだし、お茶でも飲もうよ。今見たことから新たななにかを導くためにも」


●カラク・ミナヅキとアーロイン・ヴァハムが見る過去

「僕の過去や……未来?」
 カラク・ミナヅキは目を瞬いた。
「そう、私にはそれが見えるの」
 囁くような女性の声に、カラクはごくりと息を飲む。
 造られた命である自分に、どんな未来があるというのか。
(生命活動も寿命も、全部人間と同じとは知ってる、けど……)
 それでも自分は、人ではない。
 こうして話をし、思考することができるとしても。
 傷つけば、血が流れるのだとしても。
 女性を前に、カラクが立ち尽くす。

 と、そこに、数歩先を歩いていたアーロイン・ヴァハムが、戻ってきた。
「カラク? 何して……」
「さあ、どうするの?」
 問いかけ、カラクを見つめる女性を見、アーロインは「ああ」とすべてを納得する。
(まったく、変な勧誘に引っかかりやがって)
 しかし、面倒だと思ったところで、相棒を放っておくわけにはいかない。
「あの、別に、間に合ってるんで」
 適当な断り文句を口にする。
 すると女性は「あら?」と首を傾げた。
「保護者の方? 間に合っているってことは、あなたにも過去や未来が見えるのかしら?」
「俺はこいつの保護者じゃねえよ。って、過去? 未来?」
 ただ商品を売りつける勧誘ではなかったのか。
「あら、そうなの。じゃあ許可はいらないわね」
 女性はからからと笑い、カラクの返事を待つ。
(なんだっていうんだ……)
 アーロインは不思議な気持ちで、カラクを見つめた。
 すると何かを考えていたらしい彼が、やっと唇を動かす。
「未来なら、少しは興味あるかな」
「おぉ、お前の口から『興味』って初めて聞いたわ」
 目を見開くアーロイン。
 女性が、カラクの手を取った。
「あなたは断らないと思ったわ」

 カラクの、白く小さな手を握って。
 彼女は歌うように、語り始めた。

「あなたは……笑っているわ。マドールチェの関節は人間のものになり、体には生物と同じ、命が宿っている。そう、あなたは人間になっている」
「えっ……」
 カラクの目がきらきらと輝く。
 女性は続けた。
「でも……あら、不思議ね。あなたが寝ているのは、ベッドではなくて棺桶の中みたい。誰かの手が、あなたの周りに花を添えている。大きな手、小さな手……いろいろな人が、亡くなったあなたをおくろうとしているわ」
「僕は、人間として死ぬのか……」
「ええ、そうよ。この後あなたの体は燃やされて灰になり、お墓に入ることになる。鎮魂の歌や美しい花、多くの人の涙とともに」
「……そうか。そんな未来なら、嬉しいと思う」

(コレ、嬉しいのか……?)
 無表情のカラクを、アーロインは見やる。
 一般論として言えば、見送ってくれる人がいるというのが、安心要素には繋がるかもしれない。
 でももし、この未来が自分のものならば、アーロインにとっては、嬉しいと思う要素はないだろう。
(けど、それは俺の価値観なんだよな)
 もともと人になりたかった、造り物であるということにこだわっているカラクならば、嬉しいと思っても不思議はない。
 ただ、だ。
「なら嬉しそうな顔したらどうだ?」
 せめて感情を表に出しては、と思い言えば、カラクは首を傾けた。
「何故? 今、現実にそうなれたわけじゃない。想像の感情を述べただけだから」

 実際、カラクの中ではこの女性の言葉が、遠い未来に当たるかどうかは、まるで重要ではなかった。
 でも彼女がカラク自身の心の中にある希望を、語ってくれたこと。それが背中を押してくれたのは事実。
(だから、僕はその未来を目指すよ)

「あー……成程な」
 アーロインは頷いた。
 カラクの思考は、やっぱりよくわからない。だが人なら笑みが出るものだろうと思うのも、やっぱりアーロインの価値観なわけで。
(うん、それは無理強いすることじゃないな。本人が良けりゃ、いいんだから)
 むしろ、そんなことよりも。

「ありがとう」
 カラクは今、穏やかな声で、女性にそう告げていた。
 淡々とした口調と、平然とした顔は彼の心を映さない。
 でも女性が語った未来を「現実じゃない」と言い切った彼が、現実をしっかり見つめているのは明らかで。
(奴なりの意思を持って生きてるってこと、か。まあ、ただの死にたがりじゃないってわけだ)
 たった今知った事実に、アーロインの心が晴れるようだ。

「おい、カラク」
 女性から離れたカラクの名を呼び、アーロインは微笑んだ。
「あとで葉巻も見ていいか。なんか、吸いたい気分になった」
「いいけど……」
「って嫌そうな顔してるな。別にお前には勧めやしねえよ」
 なぜか機嫌よく笑うアーロインを不思議に思いつつ。
 カラクは彼の隣に並び、共に歩き始めたのだった。


●サラ・ニードリヒとハンス=ゲルト・ネッセルローデが見る未来

「二人の望む未来が見えるってことは、俺とサラが同じ願望持ってるってことだよな?」
 ハンス=ゲルト・ネッセルローデは、女性にそう尋ねた。
「まあ、そういうことになるわね」
 あっさり肯定されて、どくんと心臓が高く跳ねる。
 本当に、そのとおりだったら嬉しい。でも――。
「そんなこと、あるのか……?」
 ぽつり、漏れた言葉に、サラ・ニードリヒが、呟き返した。
「どうでしょうね……」
 彼女が望んでいるのは、種族による差別のない世界だ。
 自身のように、血筋のせいで隠れ住むことなく、みんなが笑って暮らしていけること。
(そこに、ハンスは一緒にいてくれるのかしら)
 サラは緊張しながら、女性に手を差し出した。
 それを見たハンス=ゲルトも慌てて、彼女の前に、手を突きだす。
「じゃあ、二人の未来でいいのね?」
「ええ」
「ああ」
 頷く二人に微笑んで、彼女は、歌うような声で、その物語を語り始めた。

 ※

 そこは、小さな庭に囲まれた、慎ましやかな家だった。
 あたりに見えるのは草葉の緑、咲く花々。
 そして菜園の実り。

「パパ、パパ!」
 銀の耳と尻尾を揺らし、小さな男の子が、桶に入った水をパシャパシャ叩く。
「ふ、ふええええっ!」
「なんだ、顔に水がかかるのは怖いのか?」
 子供に似た銀の耳、銀の髪。
 しかし比べようもなく太く逞しい腕が、愛らしい我が子を抱きあげた。
「ほらほら、もう泣くな。ママに笑われちゃうぞ」
 庭先の椅子に腰かけた、茶色の髪、青い瞳の美女が、口角を上げる。
 手には縫い針。
 パパと息子とお揃いのマントを縫っているのだ。
「マンマッ!」
 女性の隣、ちょこんと座る女の子が、座る母親のスカートに覆いかぶさってきた。
「あら、危ないわよ」
 手に持っていた物を高く上げ、女性は幼子の横顔を見下ろす。
 わずかに尖った耳は、ヴァンピールの証だ。

 女性は、針と布を置き、その子を抱き上げた。
 生まれたときよりかなり重くなった、大事な我が子。
 あちらでは、息子がやっと笑いだした。
 でもちょっと、お腹がすいているのか。指をちゅっちゅと吸っている。
 息子を抱いた父親が、ゆっくり女性と娘に近付いてくる。
「サラ、そろそろお昼にしないか?」
「ええ、そうしましょう。ハンス」

 ※

「やべぇ……すげー幸せな未来じゃねーか」
 ハンス=ゲルトは呟いた。
「サラ、相変わらずキレーだし、子供ら超可愛いし……って」
 そこまで言って、目を見開く。
「こ、この子供らって……俺と、サラの!?」
 まるで幸福な劇のワンシーンでも見るように、あるいは他人事のように。
 心をときめかせて聞いていた話が、いっきに現実的な、生々しいものになる。
(ってことは、俺はサラと子供を作ったってことだろ! サラと共寝をして、サラの綺麗な肌に触れて……って、無理だ無理、妄想が追いつかねええっ!)
 だが顔を真っ赤に染めるハンス=ゲルトの隣では、サラがほうっと細く、息を吐いていた。
(私は将来、ヴァンピールの子供を持つのね……)

 ※

 未来の幼子は、甘えるように、サラの胸にぐりぐりと顔を押し付けていた。
 星の手のひら、サラの手を掴むその力は、強い。

 ※

 サラは思う。
(この子は私と違って、己の生を儚んではいない――)
 きっと、差別のない未来に生まれたのだろう。
(それとも、ハンスのお陰かしら)
 太陽のようにハンス=ゲルトと、そっくりな息子と。
 顔を上げない娘は、サラに似て少々引っ込み思案のようだけれど。

 ※

「未来のサラ、幸せそうだな」
「ハンス、あなたも」
 サラとハンス=ゲルトは、向かいあい、互いの目を見つめ、微笑みあった。
 その笑顔は、おそらく未来の自分たちの表情に近い。
(そうだよ、今だって俺は、コイツにいつもこんな顔して生きてほしくて……)
 ――子供時代のような辛い目には、あわせたくなくて。

「ハンス?」
 黙り込んだハンス=ゲルトを呼び、サラが目を瞬く。
「ああ、なんでもない。サラ」
 ハンス=ゲルトはゆるりと大きく首を振り――。
 はたと気づいた。
(……待てよ、これが二人の未来が同じビジョンてことは、サラも同じ願望持ってるってこと……?)

 それは、つまり。
 ぽかりと口を開けたハンスに、サラもまた、同じことを考えたようで。

「……本当に?」
「マジかよ」

 呟き息を飲む二人。確信したとて、想いはまだ、胸の中。
 だが、こんな未来があるのならば、叶えたい。いや、叶えずにはいられないと。
 サラとハンス=ゲルトは、どちらともなく、相手の手を取り、それをきゅっと握り締めた。


●ベアトリス・セルヴァルとジョシュア・デッドマンが見る未来

「過去が見られるならジョシュアのが見たいなあ」
 ベアトリス・セルヴァルがそう言ったのは、ジョシュア・デッドマンが自身の過去を、他人に聞かれるたびに、異なる話をするからだ。
 しかしジョシュアは、ベアトリスの言葉に眉を寄せた。
「私の過去を見ても、きっと先日読んだ小説そのまんまの展開になるぞ」
「本当に、忘れちゃってるんだね……」
「ああ、前から言っているだろう?」
 それでも、ベアトリスに、他の人に伝えるような大嘘の過去を言わないでいてくれたのは、ジョシュアなりの誠意なのだろうか。
 知りたいことを知れない事実に肩を落とす一方で、ジョシュアの意外な真面目さに、喜んで。
 ベアトリスは女性に手を差し出した。
「じゃあ、あたしの未来を見てください」
「ええ、わかったわ」
 女性はベアトリスの白い手を取って、歌うように、未来を語り始めた。

 ※

 あらゆる種族が住む土地で、ベアトリスは暮らしている。
 自宅の窓には綺麗な花、台所からはパンが焼けるいい匂い。
 庭ではハーブや野菜が育ち、近くには、綺麗な皮が流れている。
「ねえジョシュア。今日は庭で食事にしない?」
「まあ天気もいいし……いいだろう。では先に行って、テーブルを整えておこう」
「うん、よろしくね」

 ※

「めんどくさがりのジョシュアが、積極的に働いてくれるんだ」
 くすくす笑う、ベアトリス
「子豚に任せておくと、食事が遅くなるからじゃないか? それに、二人で動いたほうが効率的だろう」

 ※

 未来のベアトリスは、焼けたパンがのった皿を持ち、ワインの瓶を小脇に抱えて、庭へとやって来る。
「落とさないでね、気をつけて」
「ねえ、フルーツも持って行く?」
「こっちの野菜は?」
 子供たちがわらわらと、そんなベアトリスの後に続いていった。

 ――と。
 がしゃん!
「あー、やっちゃった!」
 パンを子供に渡して、ベアトリスがしゃがみ込む。
 そこに。
「大きな音がしたが……大丈夫か?」
 やって来たジョシュアは、ベアトリスを見下ろし嘆息した。
「ワインの瓶を落としたのか、横着をするからだ。怪我はないか?」
「うん、平気」
 でもその横で、子供たちが口々に。
「横着なんてしてないよ!」
「お腹すかせて待っているからって、頑張っていっぱい持ったんだよ」
「……そうか」
 ジョシュアは頷き、ベアトリスの頭に手を載せる。
「手伝いが必要なら、遠慮せずに呼べばいい。私たちは――なんだから」

 ※

「まあなんというか想像通りの願いだ」
 女性の話に、ジョシュアは真面目な顔で、頷いた。
「理由なく子豚の家に私が入り込んでるのか謎だけど、細かいところが曖昧なのが若者の夢っぽい。良いんじゃないか、このご時世、普通の幸せを願うのは最もだし」
「そんな、他人事みたく言わないでよ。夢にジョシュアも出てきてるのに」
 ベアトリスが、少しだけ唇を尖らせる。
 しかしジョシュアは、呆れ顔。
「子豚が勝手に私を巻き込んだんだろう。まったく、なんで私がいるんだ。そもそも、子供がいるなら旦那がいるだろう。どんな相手が理想なんだ?」
「どんなって……」
 ベアトリスは、うーんとしばらく考えた。
 でもどうしても、相手をイメージすることができない。
「優しくて、あたしの料理を美味しそうに食べてくれる人かな」
 さらに付け加えるのは。
「ジョシュアは時間が経っても、そばにいてくれないかな、って思ってさ。頼りになるから」

 ジョシュアの眉間に、わずかばかり、しわが寄った。
「そばにいてほしいって言われるのは嬉しいけど、旦那がいるのにそれは不味いでしょう。君が家庭をもって、なおかつ私がそばにいるのは」
 しかし、そこまで言って。
 彼は何かに気づいたように、目を見開いた。
「……叶える方法はなくはないが、あー……いや、それはノーコメントで」
 ぷいっと目をそらしたジョシュアの顔を覗きこむように、ベアトリスは彼に、ずいと寄る。
「ノーコメントってなに!? 教えてよ、その方法」
「自分で考えたほうがいい」
「自分でって、わからないから聞いて……」
 そこで。
 ベアトリスの顔が、みるみる赤く染まっていく。

 子供がいて。
 旦那の姿は見えなくて。
 ジョシュアがいる、ということは。
 つまりそういうことなのだ。

「……あ、そうか、うん」
 言葉を濁して目をそらし、ベアトリスは、ぽつり。
「これはちょっと、うん、一先ず置いておこう」
 一方ジョシュアも、独り言。
「じゃあ私はそれが叶うまで、君が傷付かないように守る術の習得を考えるとしますか」
 花嫁としてご両親に送り届けるときに、殴り飛ばされないように。

 どちらの言葉もしっかり耳に届いていた女性は、ふふふと笑って、ベアトリスの手をそっと放した。


●唐崎・翠とレガート・リシュテンが見る未来

「過去か、未来……」
 女性の説明を聞き、唐崎・翠は呟いた。
「すごい力をお持ちなんですね、ぜひお願いします!」
 レガート・リシュテンが、すぐさま女性に返事をする。
 もともと、魔術知識を深めるために、教団に入ったレガートである。彼が、このように不思議な能力に関心を抱くのは、当然のことだろう。
「ね、見てもらいましょう、翠さん」
 レガートはそう言って、翠に目を向けた。
「えっ、でも……」
 翠は、翡翠の瞳をそっと伏せる。
(もし私が見てもらうとしたら、どちらがいいのでしょう……)
 ニホンでの過去か、それともこれから生きていく未来か。
(でも……過去だと家業の話が出てくるかもしれませんから、それをレガートさんの前で聞くのは、避けたいですね)
 廃業した傭兵家業を、恥じているわけではない。ただ戦闘に高揚する自分を、レガートには知られたくなかった。
 もちろんそんな自分がいることは認めているが、年頃の乙女としては、どうしたって、そう考えてしまうのだ。
「翠さん、もしかして気乗りしませんか?」
 レガートが、俯いた翠の頭上で、不安げに問う。
 もし翠が嫌ならば、ここは断ってもかまわない――。きっとレガートは、そう考えているのだろう。
 でも、自分のちょっとした心配のために、嬉しそうな彼の表情を崩すのは、翠の望みではない。
「よろしかったら、レガートさんが見てもらってくださいな」
 ゆったりと顔を上げてそう言えば、レガートは、ぱっと破顔した。
「いいんですか? じゃあ僕、未来が見たいです!」
 振り返り、女性にはっきり告げるレガート。
「あなた一人の未来、でいいのね?」
「はい!」
「わかったわ」
 女性は頷き、まだ子供らしさの残る、レガートの手を取る。
 彼女は歌うように、未来を語り始めた。

 ※

 おそらくそれは、数年後。
 戦いの地にいるのは、男女二人。
 今よりぐっと背が伸び、逞しくなったレガートと。
 まろやかに、しなやかに成長した翠だ。

「行きましょう、翠さん!」
「はい!」
 レガートは教団服に、翠は今と似た着物と袴に身を包み、互いに背を預けるようにして、立っていた。
 手に持つのは、魔術を扱うための杖。
 あるいは、敵の体を砕くための鈍器。

 たん! と地を蹴り、翠が飛び出す。
 レガートは、その後ろで、宝石のついた杖を大きく振った。
 生まれた鮮やかな光は、魔弾のそれ。
 弾が届く前衛では、翠が鈍器を振り回している。

 翠の攻撃がベリアルの肩を砕き、レガートの魔術が、頭に当たった。
 ぐしゃり、骨が潰れて、割れた箇所から血が噴き出す。
「ギャアアアア」
 断末魔の咆哮を上げ、ベリアルの巨体は、地面に崩れ落ちた。
「やりましたね!」
「ええ、さすがです」
 互いに駆け寄り腕を上げ、相手の手を叩くように、ハイタッチ。
 二人見合って、にこりと笑う。
 その背後では、後輩のエクソシストたちが笑顔で、二人を見つめていた。
「先輩、お見事!」
「あなたたちも……。みんな、無事で何よりです」
 レガートが振り返る。
 そう、レガートと翠は、後輩を導くほどに、強く戦い慣れたエクソシストになっているのだ。

 教団に戻って報告を済ませると、すぐさま次の指令がやって来る。
「君たちだから、任せられるんだ」
 そう言われれば、武器を持つ手に力も入る、というもの。
「行ってくれるね?」
「もちろんです!」
 レガートと翠、二人の声が重なった。

 ※

 女性の話を聞き、翠とレガートの唇には、自然と笑みが浮かんでいた。
「よかった、僕達、これからもどんどん成長していけそうですね」
「はい、なによりです」
 翠は隣に立つレガートを見やる。
 だが、気になることが、ひとつだけ。
「それにしてもリシュテンさんの未来というより……」
「二人の未来な感じでしたね」

「得した気分です」とご機嫌なレガートの横で、翠はほっと息を吐いた。
(――ということは、レガートさんは、この先も私とパートナーでいてくれるってことですよね)
 もちろん、彼との別れを考えているわけではない。
 ただ、新人である今は、聞いたようなことをするのは難しい。
(うまくやっていけるのかと、考えたこともありましたが)
 でもあれが、レガートの信じる未来であれば……。
(不安も、薄らぐ感じがします)

 レガートもまた、胸の内で安堵していた。
 なかなか見つからなかった適合者。
 やっと出会えたパートナーの翠と、あんなに成長していけるなんて。
(嬉しい限りです)
 覚えていない過去も気にはなったけれど、やっぱり過去ではなく、未来を見てもらってよかったと。
 レガートは思いつつ、女性に礼を言ってから、翠と並んで歩き始めた。


●ニーナ・ルアルディとグレン・カーヴェルが見る過去

 ニーナ・ルアルディは、傍らに立つグレン・カーヴェルを見上げた。
「私、私達の過去が見たいです! 初めて出会ったときのこと」
「……十年前か」
 グレンが、懐かしそうに目を細める。
「二人の過去……ということでよろしいのね?」
 女性はそれぞれの手に触れながら、歌うように話し始めた。

 ※

 その日グレンは、広い屋敷の廊下を歩いていた。
「いずれ誰かに仕えることになるのは分かってたが、思ったよりも早かったな」
 もともとグレンの家は、従者の家系であるから、仕えるのが嫌なわけではない。
 ただ、面倒なことはあるもので。
「口調気をつけねーとなぁ……まーた爺さんに怒られる」
 そう嘆息しつつ、訪れた部屋。
 出会った主は、子供のグレンよりもさらに幼い少女だった。

「もっと年の離れた方がいらっしゃると思ってたので、嬉しいです!」
 ニーナは、満面の笑みで、グレンを迎えた。
 しかも彼女は、言ったのだ。
「仲良くしてもらえると嬉しいですっ!」
「あ、ああ……」
 グレンが曖昧な返事をしてしまったのは、勢いに押されたからだった。

 でも。
 部屋から離れ、一人になった今は思う。
(別にお友達になりにきた訳じゃねぇってクギさしとかねーと)
 イレギュラーなことをして何かがあれば、怒られるのはグレンなのだ。
(正直に年下の世話とか向いてねーと思うが、早々にクビとか勘弁)

 ニーナは、再度顔を合わせたグレンの言葉に、目をまんまるく見開いた。
「えっ、お友達じゃない……それは、そうですけど……」
 彼は従者、自分は主人。
 それは家族から、よくよく聞かされてはいた。
 でもグレンは、どうしたって友のように思えてしまうのだ。
(だって、年の離れたお兄様よりも、ずっとずっと仲良くできそうな気がします)

 一緒に過ごせば、親しく接してもらえるだろうか。
 ニーナは、はっと顔を上げた。
「そうだ! 屋敷を案内しますね! 行きましょ行きましょ!」

 白い手が、グレンの手をとり、引っ張っていく。
 小さな足は、まるでスキップを踏んでいるかのよう。

 ――だが。

「うわっ!」
 グレンは、とっさにニーナを引き寄せた。
 がしゃん!
 二人の足元で、植木鉢が割れる。
「鉢が降ってきた……?」
 上を見、呟く。
 抱きしめた腕の中で、ニーナがもごもご頭を動かした。
「く、苦しいですっ……」
「あ、悪い……じゃなくて、すみません、でした」
 慌てて腕を、開くグレン。

 その後も壁の装飾が降ってきたり、大きな家具が倒れかかってきたりした。
「大丈夫かっ? ……じゃなくて! 大丈夫です、か?」
「あぶねえっ! ……いや、危なかったですね!」
 その度グレンはニーナを守り、進んでいったのだけれども。

「呪われでもしてんのか、この屋敷は!」
 開けたはずのドアが勢いよく閉まってきたときに、いよいよグレンは声を上げた。
 庇った背中の後ろから、ニーナがひょこりと顔を出す。
「大丈夫です、よくあることなので!」
「よくあってたまるか、こんなこと!」
 思い切り叫んだグレンに、ニーナはきらきらと目を輝かせた。
「グレンって普段は今みたいな話し方なんですね? だったら私、今みたいにお話してくれた方が嬉しいですっ」
 せっかく年が近い人が、傍に来てくれたのだ。
(私、やっぱりグレンと、お友達同士になりたいです)
 しかしグレンは「それは、あの、できません!」とぶんぶん横に、首を振った。
「俺が怒られますからっ!」
「お願いです! 怒られないときだけでいいですからー!」
 お願いと何度も繰り返すと、グレンはやっと「仕方ないな」と言って、苦笑した。

「じゃあ、人のいない時だけ。……遠慮なく」
「ふふ、二人だけの秘密ですね」
 会ってからずっと難しい顔をしていたグレンが、笑ってくれたのが嬉しくて。
 ニーナは満面の笑みで、口を開いた。
「グレンは、今の方がずっと素敵です」
 思ったままを言っただけ。それなのに、グレンが驚いた顔をする
「……変わってるな」
「そう、でしょうか?」
 だがこの無邪気な性格は、快いものであるのは事実。
(まあ……面倒そうでもあるが……)
「悪くはない、かもしれないな」
 ぽつり、呟いた声は、はしゃいで喜ぶニーナには、聞こえなかったか。
 彼女はグレンに真っ白な手を差し出した。
「これからもよろしくお願いしますねっ! グレン!」
「こちらこそ、よろしくな」

 ※

「懐かしいですね」
「そうだな。あの頃から、ニーナはあんまり変わってない気がするが」
「十年も前ですよ? 変わってるに決まってますっ!」
 愛らしいむくれ顔に、グレンは、ははは、と笑った。
(そうやって、すぐ人の言葉を信じるとことか、まんまじゃねーか)
 だが、それは。
「悪くはない、んだけどな」


嘘かほんとか、あなたの過去・未来
(執筆:瀬田一稀 GM)



*** 活躍者 ***

  • カラク・ミナヅキ
    “機能停止”より“死”がいいんだ
  • アーロイン・ヴァハム
    最近やたら視線がイテェ

カラク・ミナヅキ
男性 / マドールチェ / 墓守
アーロイン・ヴァハム
男性 / 生成 / 悪魔祓い




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/04/30-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[11] 唐崎・翠 2018/05/06-23:57

わわ、ごめんなさい。いつの間にかこんなに時間が。
唐崎翠と、パートナーのリシュテンさんです。
どうぞよろしくお願いします。  
 

[10] ベアトリス・セルヴァル 2018/05/06-03:30

うう、アイサツが遅れちゃってごめんなさい
あたしはベアトリス、そしてバディのジョシュだよーよろしくね!  
 

[9] ベアトリス・セルヴァル 2018/05/06-03:30

うう、アイサツが遅れちゃってごめんなさい
あたしはベアトリス、そしてバディのジョシュだよーよろしくね!  
 

[8] ベルロック・シックザール 2018/05/04-10:57

俺はベル、こいつはリント。よろしく。

俺達はたぶん過去を見ることになると思う。
二人の始まり、というか原点?を確認しておきたい。  
 

[7] サラ・ニードリヒ 2018/05/04-09:31

サラ・ニードリヒです。
パートナーはハンスです。
よろしくお願いします。
私の過去なんてろくなものではないですし、ハンスもよく知ってるので今更なんです。
私たちは…そうですね、思い描いている憧れの未来が見えたら嬉しいなと思います。  
 

[6] アシエト・ラヴ 2018/05/04-03:42

おーい、ルドー?
…どうしちまったんだ?

過去のことなんにも知らないから、過去のこと、聞き出せればいいが…  
 

[5] カラク・ミナヅキ 2018/05/03-20:55

あ。
……暑苦しそうな顔が、連投になってごめん。

(アーロイン「わざとじゃねぇ!;」)  
 

[4] アーロイン・ヴァハム 2018/05/03-20:53

……おい。
………………おい、カラク~。
……駄目か。なんか変なもんに引っかかったか(失敬)
ま、過去にしろ未来にしろ、聞いた後コイツがどんな反応すんのか見てみるかね。
何考えてんのか、ちったぁ分かる材料にでもなればいいんだが。

そんなわけで、カラクとアーロインだ。
よろしくな。  
 

[3] アーロイン・ヴァハム 2018/05/03-20:53

……おい。
………………おい、カラク~。
……駄目か。なんか変なもんに引っかかったか(失敬)
ま、過去にしろ未来にしろ、聞いた後コイツがどんな反応すんのか見てみるかね。
何考えてんのか、ちったぁ分かる材料にでもなればいいんだが。

そんなわけで、カラクとアーロインだ。
よろしくな。  
 

[2] ララエル・エリーゼ 2018/05/03-09:52

ララエル:(ぐいーっと引っ張られながら)やですー、
過去を視られるのはやですー!

ラウル:だめ! 今回こそは視てもらうんだよ。
あ、ラウルとそのパートナーのララエルです。
どうぞ宜しくお願いします。