~ プロローグ ~ |
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~ 解説 ~ |
・成功条件 |
~ ゲームマスターより ~ |
浄化師のみなさん、初めまして。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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・目的 ベリアルの粛清 ・手段 <ディルク> 銃撃でベリアルに攻撃を加え、ひたすらにダメージを蓄積させる。 もしもベリアルが子熊の方に戻ろうとするようなら、その足元を狙い撃ちして移動を阻害。 万が一子熊がベリアル化、或いはベリアルを止められず子熊が奴の糧とされそうならば、そうなる前に狙いを子熊に変更して駆除しておく。 正直、俺は子熊の生き死にに興味は無いからな。 <シエラ> ツバキさんとは違う方向……彼女がベリアルの正面なら、私は側面から攻撃する位置取りでベリアルに攻撃を仕掛けます。 子熊の方に注意が行かないように、なるべく攻めの手を途切れさせないようします。 可能なら、私は子熊たちには無事であって欲しいですね。 |
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・目的 親熊を倒し、仔熊を保護する ・行動 ツバキは親熊との戦闘 戦いに支障がでなさそうな川の端っこで、橋と熊の間になるように場所を取る 攻撃は受ける方向で耐えながらシールドアタックで押し返していく 敵をその場に留め、他が攻撃しやすくなる事を意識しながら戦う 鎌は足を狙って動きを封じるようにする サザーキアは仔熊の保護 ツバキと一緒に行動して親熊の行動を見ながら、 いつでも取り残された仔熊を回収できるようにする 親熊が瀕死になるか、少しでも仔熊の方へ戻りそうな素振りを見せたら、すぐにでも向かう 回収後は真っ先に後衛まで下がり、1匹だけでも確実に保護する ・疑問 親熊は夜中でも破壊しに来るのか? そこら辺は村人に聞いてみる |
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【目的】 熊のベリアルの討伐と子熊の保護 【行動】 クラウスは自分にSH1を使用し、防御力を上げてから子熊の回収へ回る。 出来るだけ乱暴な扱いにならない様に心掛ける。 怪我人が出たら医術と救急セットで治療を行う。 クラルはFN1で自身の魔力を強化を行い、ベリアルを魔法攻撃。 出来るだけ顔・目を狙って攻撃の精度を下げたい。 子熊がベリアル化した際は躊躇なく攻撃する。 |
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【目的】 親熊ベリアル討伐。可能なら子熊保護。 【行動】 行動に齟齬がないよう事前に仲間と打ち合わせる。 予め村人に下記確認。 ・熊出没時間帯(夜も現れる場合夜間も交代制の歩哨提案) ・親熊が子熊から離れる機会(OPのように川に入る時子供を岸辺に残す等) 昼の工事警護中に、(出没想定地点近くの、川の入り際を狙う場合は浅瀬、 無理なら川辺で)交戦に適した場所確認。 熊登場時は魔術真名を唱え、薙鎖が符で親熊を攻撃し事前に目星を付けた交戦地に誘導。 誘導後は仲間と声を掛け合い、モニカは味方前衛と共に敵を子熊と橋に近づけぬよう囲み、 不安定な足場でも態勢を崩さぬよう足捌きに注意し回避しつつ攻撃。 薙鎖はその背後から符で攻撃。 |
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~ リザルトノベル ~ |
● 青白い空が広がる春の朝。 土手の上から眺めるマリボルの村は一見、平和そのものだ。緑の中に赤い屋根を連ねた村の風景は美しく、あちらこちらで咲く草花の横でスズメたちが友達同士のお喋りを楽しんでいるかのように鳴いている。すぐ近くで凶暴なベリアルが出るとはとても信じられなかった。 クラウス・クラークは爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。 「あの村がベリアルに襲われる前に、教団へ被害届を出してくれてよかった」 「そうね。でも……」 クラル・クラークは言葉を濁すことで、夫への気づかいを吐息に滲ませた。 事件の原因を要約すれば、子供を思う親の愛ゆえに、に尽きる。村人たちも、ベリアルも、愛しい我が子のために戦っているのだ。いや、ベリアルとなった母グマの本音は分からないが、争い事が苦手な夫は教団本部で聞かされたこの話に酷く傷ついているに違いない。 「大丈夫だよ、クラル。僕もちゃんと分かっている。ベリアルを放置し続ければ、いずれはあの村も……ただ、せめて子熊だけは無傷で保護したいな」 「もちろん。そうしましょう。子供たちに罪はないのだから」 クラウスはクラルに微笑みかけると、妻の指の先をそっと握りしめた。 クラルも柔らかく握り返す。 それから二人は手をつないだまま、川上に向かって歩きだした。 (彼の命は二度と奪わせない、彼の手も汚させない。手を汚すのは自分の役割……) 口さがない人たちはクラウスのことを『身代り人形』と言うが、私はちゃんと彼が本物のクラウスであると解っている。器はなんであれ、宿る魂はクラウス・クラークその人であると。だからこそ、自分が守らなくてはならないのだ。 夫の横顔をそっと見上げつつ、クラルは決意を新たにした。 パートナーである浄化師と並んで仲睦まじい夫婦の後ろをついて歩いていると、川向こうからカウベルの音が聞こえて来た。 モニカ・モニモニカは歩きながら顔を横向けた。 あれは就学前の子供だろうか。小さな子供が、ゆったりと草を食む牛の下にブリキのバケツを置いて乳を搾っているのが見える。 「懐かしい光景ね。孤児院でさんざんやったわ」 「牛の乳しぼりを……モニカさんが、ですか?」 興味深げなまなざしを向けてくる薙鎖・ラスカリスに、モニカは、そうよ、と返事して架空の乳搾りを始めた。 「けっこうコツがいるのよ。短時間にバケツを一杯にするのはなかなか難しいンだから。朝食に間に合うようにね」 「僕も一度やってみたいな。たぶん、牛の乳しぼりはやったことがないと思うんです。でも、もし……生きていた頃にやったことがあるなら、ひょっとして何か思い出せるかも。あ、でもこの手じゃ……」 薙鎖は頭を垂れると、手袋に包まれた左の掌をじっと見つめた。 アンデットの少年である薙鎖には生前の記憶が一切ない。額の十字傷も、掌にあいた大穴も、一体いつできた傷なのか覚えていなかった。 モニカは薙鎖の頭に手をやると、髪に指を差し入れてワシャワシャと乱した。 「なーに言ってるのよ、ナギサ。その手は何でも掴めるでしょ。手袋をはめたまま乳を搾ったっていいんだから」 横から顔を覗き込むと、少年の浄化師はうん、と小さく零して淡く頬を染めた。 「あとでやろ! 一緒に『乳しぼり』するの。とれたての牛乳ってすっごく美味しいのよ」 楽しそうに乳しぼりの話をする二人の後ろを歩きながら、シエラ・エステスは剥き出しになった二の腕をさすった。このところ春らしく暖かい日が続いていたので、スプリングコートを着てこなかったのだ。 前を行く仲間たちの背から目を離し、朝靄立つ川の対岸へ顔を向ける。ピンク色の花を咲かせはじめたアーモンドの木々でも愛でて気を紛らわせようとしたが、体の震えは止まらず、少しも景色を楽しむことができなかった。 「ちっ、しょうがねえな」 頭の上で鋭く舌が打ち鳴らされたかと思うと、肩に温かな重みが乗るのを感じた。じんわりと体が温もりに包まれる。 「村に行けば何か着るものを貸してもらえるだろう。それまで着ておけ」 「あ、ありがとうございます。ディルクさん」 ディルク・ベヘタシオンは再び舌を鳴らした。今度は先ほどよりも音が小さい。 「勘違いするな。任務中にパートナーが風邪を引いて調子が出ず、任務に失敗しました……なんて不名誉かつ恰好の悪い報告をあげたくないだけだ。いいな、くだらないことで俺の足、いや、仲間の足を引っ張るなよ」 うへえ、おっかない。シエラは首をすくめた。急いでコートに腕を通す。 確かに、ディルクのいう通り。体調管理もエクソシストの大事な仕事だ。任務には万全を期して挑まなくては。 シエラは長い袖を自分の手首に合わせて折りつつ、気を引き締め直した。 「ニャ!?」 「あ、こらサザー! どこへ行くの、戻ってきなさい!」 サザーキア・スティラは鼻先をかすめるように飛んで行った黄色い蝶を追って、土手を駆けおりる。パートナーである浄化師、ツバキ・アカツキの怒鳴る声は耳に届いていたが、野生の本能には逆らえなかった。 ひらり、ひら。 今度こそと思って素早く手を伸ばす。が、また逃げられた。黄色い蝶を捕まえることがどうしてもできない。 薄く広がる川靄の中に草の若草の色とアーモンドの花のピンクが滲む。黄色い蝶は白い靄に時折消えながら、サザーキアの回りを飛び回った。 「ニャ、ニャ、ニャ! なかなかやるニャ――!!?」 バシャ、と水を強く打つ音が聞こえて耳を、次いで蝶を追う目を川へ向けた。 「もう、サザーったら。みんなから遅れちゃったじゃない。……って、どうしたの?」 ツバキに後ろから腕を引かれてハッとする。いつの間にか土手を降りてきていたらしい。 「ツバキ、あれ。あそこを見るニャ」 なあに、と川へ顔を向けたツバキの目の先で、銀色の魚体が大きく跳ねた。 「え、いまのは……」 「鮭だニャ。産卵のため遡上して来たんだニャ。この川は早春まで鮭が遡上してくることでも知られているんだニャ」 そういえば、担当の教団員がブリーフィングの最後にそんなことをいっていたっけ。 上流へ目を凝らす。靄を透かして小さく、六本の橋脚の影が見えた。両端から橋道が作られつつあることも確認できる。 ベリアルが何度も壊したせいか、新しく建てられた六本の橋脚はなかなか厚みがあり太い。その分、川が狭まったためなのか。橋脚の袂では早い流れに白い波が立っていた。 「……それはそうと。行くわよ、サザー」 渋る喰人を先に土手の上へあげながら、ふと疑問が頭に浮かぶ。 ――鮭たちは出来上がった橋の先へ進むことができるのだろうか? ● ツバキが危惧していた通り、橋脚と橋脚の間は流れが早くなっていた。段差ができているのだろうか。下流側に小さな滝ができている。まったく遡上できなくなるわけではないが、鮭たちにとってここが最大の難所になることは間違いない。 後ろでは仲間たちが村人に、いろいろ質問をぶつけていた。サザーキアは相変わらずマイペースだ。同じく仲間と村人の輪から外れ、ひとり河原の石を積み上げて遊んでいる。 ベリアルが襲ってくるタイミングに話題が移ると、ツバキは小さくため息をついた。サザーキアの襟首をつかんで引っぱりあげ、一緒に会話の輪に加わった。 「はいはい、ボクからも質問ニャ。親熊は夜中でも橋を破壊しに来るのかニャ?」 村人たちが首を横に振る。 「ふうん……じゃ、夜は警備に当たる必要はないのね?」とモニカ。 「はい。わたしたちもベリアルが出始めた頃は夜も人を立てて警戒していたのですが……」 どうやらベリアルはまだ熊だったときの習性を引きずっているようだ。それはまだ子熊を食い殺していないという話からもわかる。もしかしたら、母性がベリアル化の進行を遅らせているのかもしれない。 続けてクラウスが質問する。 「それにしてもベリアルはなぜ、執拗に橋を壊そうとしているのでしょう? やはり、子連れの母親だからなのでしょうか」 村人たちはどこか気まずげな様子で頭を垂れた。問いに対する答えは返ってこない。 クラウスはゆっくりと首を回すと、建設中の橋を見やった。 今朝も川を上がってくる鮭をシエラとサザーキアの二人が目撃している。おそらく熊たちにとってこの川を遡上してくる鮭は、冬眠明けの御馳走に違いない。それが獲れなくなるかもしれないのだ。普通の熊ならなすすべもなく草の影から見ているしかないだろうが、ベリアル化して得た力があれば本能のおもむくまま橋を壊せる。 襲撃の原因に見当がついていながら、意地悪な質問を村人たちにぶつけざるを得なかったのは少しでも自然に配慮して欲しかったから……。人もまた大自然の一部である。人間だけが心地よく生きていける世界であってはいけない、とクラウスは思う。 クラルは心を痛めている様子の夫にそっと寄り添った。 「まだ橋は完成していない。考えましょう。きっといい方法があるはずよ。来年も、またその次の年も……鮭が遡上する川の橋を渡り、子供たちが笑顔で学校に通える方法が」 「それ、いいですね。みんなで考えましょう」 熊が相手、という緊張を隠せなかった薙鎖が、現場に来て初めて顔を輝かせた。 「あとで橋の設計図を見せていただけますか。あ、その前にこの付近の地図を見せてください。橋を作るときに川の水深とかも図っていますよね?」 それも見せてください、と村人に頼む。 地図を見てどうするのか、と聞かれた薙鎖は、ベリアル出没地点の絞り込みに使いますと言った。 渡された地図をモニカと二人で手に持ち、交戦に適した場所を確認する。そこからベリアルが出現しそうな場所と哨戒エリアを絞り込んでいった。 「ここと、ここ……ここも要チェックね」 モニカは赤鉛筆で橋近辺の地図に丸を四つ描き入れた。 「ちょうどいい感じに分けられたんじゃないかしら。受け持つ哨戒エリアを決めましょう」 ワタシはナギサと一緒ならどこでも構わないからお先に、と地図をディルクに手渡す。 「ふむ。なかなかいいところを押さえているな。では、俺たちは――」 遠くで悲鳴が上がった。 橋の上で建設作業を続けていた村人たちが、一斉に森を指さし怒鳴る。早く逃げろ、と。 ディルクは口寄魔方陣の展開を待たず、素早やくブロンズライフルを構えた。彼だけは魔喰器――イレイスを肩に担いできていたのだ。 「ベリアルはどこだ! シエラ、報告しろ!」 「ディルクさん、あそこです!!」 すぐさま銃口を回し向ける。 シエラが指さす先に、ベリアル化した母熊がいた。背の高い草に隠れているのか、エクソシストたちがいるところからは子熊たちの姿は見えない。 「くそ、俺の邪魔をするな……」 ディルクはスコープを覗き見たまま、ギリっと奥歯を鳴らした。決死の形相で逃げてくる村人たちの頭が十字を塞いで、肝心のターゲットを捉えることができない。 「あ、逃げちゃいました」 シエラのどこか気の抜けた声を聞き、ディルクはライフルを降ろした。 「おい! 深追いするな! 戻って来い」 バトルグローブをはめるや、ベリアルに向かって駆けだしていたサザーキアとモニカの二人を呼び戻す。 「バラバラで戦っても返り討ちに遭うだけだ。ヤツのテリトリーである森では尚更、不利になる。あくまで戦場はこの『河原』とする。恐らく、いまのは様子見だろう。次にヤツが現れたら、全員で倒しにかかるぞ。いいな」 司令塔よろしく指示を出すディルクの後ろで、シエラが他の仲間たちに手を合わせてペコペコと頭を下げる。 モニカはパートナーの影でおどおどとしている様子に保護本能を刺激されたらしく、シエラの肩をそっと片腕で抱きしめると、よしよしと頭を撫でた。 「ニャニャ!?」 なぜか嫉妬したサザーキアは、無理やり二人の体の間に頭をグリグリ入れて離れさせると、間に立った。 苦笑いするモニカとシエラの双方から頭を撫でてもらい、んふー、と満足げである。 「もう、サザーたら」 パートナーの奔放な振る舞いにがっくりと肩を落とすツバキを、こんどは薙鎖がまあまあとなだめにかかる。 その様子を見て、クラウスがくすりと笑った。 「ところでディルク君、ベリアルはまた戻ってくると思いますか?」 「そりゃ、来るだろう。そこに橋がある限り、な」 だが、それも母熊を突き動かしている野生の本能が消えるまでのことだ。 「そうなる前にヤツを仕留めるのが俺たちの仕事だ。アンタにもきっちり働いてもらうぜ」 悪魔祓いの浄化師は、冷たい目をクラウスに向けた。 「そうですね……。ええ、もちろんです。ですが……せめてさっき、子熊たちの数だけでも把握できればよかったな」 「クラウス、それなら村人たちに聞けばいいわ。何度も目撃しているでしょうから」 指示を出すのは構わないが、夫を危険な目に合わせるなら承知しない。クラルはディルクを見る目にモノを言わせながら、夫の袖を引いた。自分の体の後ろへ下がらせる。 ディルクはクラルが視線に込められた意図を正しく汲みとった。口の端で薄く笑って体を折る。なんと夫過保護な御婦人か、と。 「さあ、早く哨戒エリアの担当を決めましょう」 結局、この日はもう、ベリアルが河原に姿を現すことはなかった。 ● 夜、クラーク夫妻は早々にあてがわれた寝室へ引き上げて行った。飲みに行く、といって怖いディルクが村長宅を出ていったのは一時間前のこと。 シエラは久しぶりに羽根を伸ばしていた。 「やったなー!!」 はしゃいだ声を上げながら、薙鎖が枕をサザーキアに投げる。 「ぐああ、やられたニャー」 わざと枕を顔に受けたサザーキアが横倒れてきた。 巨乳の下敷きになったシエラは、その重みと温かさを頭の後ろで感じながらくぐもった笑い声をあげる。 「サザー、早くどいてあげなさいってば」 「大丈夫?」 シエラはツバキとモニカに助け起こされるまで笑い続けた。 女の子たちに割り当てられた大部屋の中を白い羽枕が飛び交う。キャーキャー。どったん、ばったん。いつまでもいつまでも――。 いきなり、ドアが蹴破られた。 「やかましい!!」 みんなで恐る恐る、首をドアのほうへ向ける。 ライフルを腰だめに構えたディルクが怖い顔で立っていた。顔が赤いのは怒りのためというよりも、アルコールのせいだろう。それが判っていても怖いものは怖い。 「薙鎖、こっちへ来い! さっさと部屋に戻れ」 しおしおになった薙鎖が枕を抱えてディルクの横から出ていく。戸口でちらっとモニカを振り返えると、口の形だけでお休みと伝えた。 「おやすみ、ナギサ。明日の朝やろうね」 モニカが乳しぼりのマネで見送る。 「よし、いまから三つ数えるぞ。俺が数え終る前に寝ろ! 三……二……」 一の声を聞く前に、全員が羽根布団の下にもぐりこんでいた。 その頃。 村長宅から少し離れたところに立っているアーモンドの木の下で、クラウスとクラルは静かにワインを酌み交わしていた。 「鮭のことだけど、橋の両側に側溝を作るのはどうかしら。かなり手前から緩く傾斜をつけて登りやすくするの。溝をゴミで詰まらせないよう、定期的に村人たちに手入れをしてもらわなくてはいけないけど」 「うん、いいアイデアだね。朝、みんなと村の人たちに話してみよう。残された子熊たちがいつか親になり、また子を連れて川で鮭が取る姿が見えるようだよ」 クラウスはグラスを傾けると、クラルが持つグラスの縁にそっと当てた。視線が絡み合う。 揺れるワインの上で浮かぶ月に薄紅色の花びらが一枚、落ちた。 二日目の早朝。薙鎖とモニカは一足早く村長宅を出て、村の子供たちと一緒に牛の乳しぼりをした。 「あの、これ……僕とモニカさんが絞った牛乳です。飲んでください。美味しいですよ」 朝食の席でちょっぴり胸を張って、取れたて新鮮な牛乳をみんなに振舞う。 「ボクも誘ってほしかったニャ……」 「サザーはダメよ。遊んじゃうでしょ?」とツバキ。 牛の乳を搾らず、パンチングして遊ぶ様子がありありと目に浮かぶ。 「そんなことしないニャ。いくらツバキでも失礼だニャ。あ、それ取って」 「はい、どうぞ。ところで、さっきの話だけど、ワタシはいいと思う。教団に掛けあったら、側溝づくりのための補助金がもらえるかもしれないね」 ぱっと顔を輝かせたクラウスをみて、隣に座るクラルが微笑んだ。夫の喜びは、自分の喜びでもある。 「ありがとう。教団から助成金がでるかどうかは分からないけど、私たち、少しぐらいなら村人たちを手伝いに来てもいいと思っているの。ねえ、クラウス」 「ふん、勝手にしろ。何をしようと個人の自由だが、俺たちはベリアル退治に来ているということを忘れるなよ」 ディルクは席を立った。 「おい、シエラ。いつまで食っている。行くぞ」 「あ、はい!」 コップにのこっていた牛乳を一気飲みすると、シエラは慌ててパートナーの背を追いかけた。 モニカがぐるりと目を回す。 「ワタシたちも行きましょう」 ● 戦闘は突然始まった。 昼食で哨戒するエクソシストの数が減ったところを襲われたのだ。 哨戒に当たっていたのは、ツバキとサザーキア、それに薙鎖とモニカの二組。 青空の下で、口寄魔法陣が赤く燃え上がる。 ツバキは出現した自分のイレイスを手に取ると、続けて現れたイレイスをパートナーに投げ渡した。 「OK、サザー!! 子熊の保護に行って!」 「シャー! まっかせるニャー!」 サザーキアはすぐに子熊たちの元へ向かわなかった。 橋を壊さんと駆けてくる母熊の正面に立つと、頭突きをくらう直前にフェイントをかけて横へ身を滑らせた。生臭い息を吐くベリアルの横面にネコパンチを軽く叩き込み、わざと怒らせる。 母熊が立ちあがった。吼え、腐った体から飛び出した肉腫を震わせる。 逃げ遅れた人のために時間が稼げたことを確認し、子熊たちの元へ向かった。 「束縛の鎖を断ち、我と我らが腕にて抱こう」 魔術真名を唱える薙鎖を後ろからモニカが抱きしめる。 同時に足元で展開された口寄魔法陣が、すっと空へ上がるにつれて二人の武装が整っていく。 モニカはバトルグローブをはめた手を打ち合わせると、怒りの咆哮を上げる母熊の前へ駆けこんだ。 空を切り裂いて振り下された大きな手を、頭上で交差させた腕で受け止める。 「立ってください。さあ、早く!」 薙鎖は腰をぬかしてへたり込んだ人の脇に腕を差し入れた。無理やり立たせると、後ろ向きのまま村人を引きずって退避する。 その横を『光明真言』で防御力を高めたクラウスが全速で駆け抜ける。 子熊は全部で三頭。サザーキア一人では保護の手が足らない。 「クラル、ここは頼みましたよ」 「ええ、任せて頂戴」 クラルに『捧身賢術』の効力が発揮され、気が高まる。 魔力を収束するコツと、魔力を制御するコツとを合わせ収敏させていく。黄金色の光が目の前で弾け、まるで霧が晴れたように視界がクリアになった。思考が鮮明になる。 「さあ、いらっしゃい。……屠ってあげる」 クラルの挑発を受け、母熊は怒りを新たにした。 一旦手をあげたかと思うと、腕を払ってモニカを遠ざけた。四足になるなり、いきなりクラル目がけて突進した。 ツバキが大鎌を振るい、母熊の前足を切りつけて突進を止める。 クラルはマジックブックを開くと、立ち止まった母熊へ黒い光球を放った。 母熊は経験したことのない痛みに体を震わせ、もがいた。 足元の小石や砂利が四方にまき散らされる。 「きゃっ!」 ツバキはとっさに腕で目を庇ったが、遅かった。涙で視界が歪み、足がよろける。 母熊は機を逃さなかった。 大きく口を開いて頭からツバキに噛みつこうとする。 横からシエラが毛深い首筋を剣で十字に切りつけ、寸でのところで口を閉じさせた。 が、次の瞬間、横に振られた頭にぶつかって吹っ飛ぶ。 母熊は倒れた喰人を踏みつけた。捉えた獲物に鼻を押しつけて匂いを嗅ぐ。ぽたぽたと熱い涎を獲物の背に垂らした。 「デ……ディルクさん、助け……て…」 「そのままじっとしていろ。……角度が悪い」 「ふえぇえ?!」 それなら僕が、と薙鎖がまじない呪符を放った。 母熊の体に張りついた呪符が黒い光を放つ。 「よし!!」 ディルクはベリアルが顔を上げた瞬間を捉えて、引き金を引いた。放たれた弾丸が、赤く燃え立つ目の間を正確に撃ちぬく。 母熊は尻から落ちた。 「あ、行っちゃダメだニャ!」 サザーキアとクラウスの手を避けた子熊が一頭、ひん死の母熊に駆け寄った。キュウキュウ鳴いて、舌をだらりと下げた口に鼻先を寄せる。 「――――!!!」 甲高い悲鳴が空にヒビを走らせた。 ああ、と嘆息して、クラウスは抱きかかえていた子熊の毛に頬を寄せた。 ぐったりとした子熊を口にくわえたまま、母熊、いやベリアルが立ちあがる。首を振って加えていた子熊を空に放り上げると、異常なほど大きく口を開いた。顎が墜ち、口角が肩まで避けたその姿は化け物だ。力を得るため、子熊の魂を喰らうつもりなのだろう。 子熊はまだ息を残したまま、ベリアルの体内に消えた。 「この子を頼むニャ……」 サザーキアはクラウスに抱いていた子熊を預けて駆けだした。がら空きの毛深い腹に、怒りを込めた拳を叩き込む。 続けてモニカも拳を叩き入れた。 「吐き出しなさい! 何しているのよ! 貴女、その子を愛していたのよね? その子たちのために今まで戦っていたのよね!?」 ベリアルは開いた口を閉じると、鋭く長い爪が光る手をぶん回した。 爪はサザーキアとモニカがガードであげた腕を深くえぐり裂いた。 「ここにいなさい。動かないで、いい子だから」 クラウスは子熊を降ろすと、倒れた二人の元へ急いだ。簡易救急箱を開いててきぱきと救急措置を始める。 夫に危害が及ばぬよう、クラルは再び黒い光球を飛ばしてベリアルの気を引いた。 ブロンズガードを構えたツバキがベリアルに体当たりして怪我人たちから遠ざける。 薙鎖が呪符を放ち、下がるツバキを支援する。 開いたところへ涙を流すシエラが踊り込んだ。 「あなたのために、その子は返してもらう!」 剣が素早く二度、振りぬかれる。 ベリアルの腹が十字に切り裂かれ、中から血まみれの子熊が飛び出してきた。 「よかった。まだ生きている!」 シエラはすぐに子熊を抱き上げると、クラウスの元へ運んだ。 「……上出来。よし、最後の仕上げだ」 ベリアルの首の後ろから、茨のように絡みつく鎖に囚われた魂が出る。 ディルクは狙いを定めると迷うことなく引き金を絞り、母熊の魂を捉えていた鎖を打ち砕いた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[14] 薙鎖・ラスカリス 2018/03/29-23:13 | ||
[13] クラウス・クラーク 2018/03/29-19:14
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[12] クラル・クラーク 2018/03/29-01:59
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[11] クラル・クラーク 2018/03/29-01:51 | ||
[10] ディルク・ベヘタシオン 2018/03/29-00:41
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[9] ツバキ・アカツキ 2018/03/29-00:21
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[8] ツバキ・アカツキ 2018/03/29-00:16
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[7] 薙鎖・ラスカリス 2018/03/28-23:46
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[6] 薙鎖・ラスカリス 2018/03/28-23:20 | ||
[5] クラウス・クラーク 2018/03/27-13:51 | ||
[4] ディルク・ベヘタシオン 2018/03/27-07:31
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[3] クラウス・クラーク 2018/03/26-02:59
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[2] ツバキ・アカツキ 2018/03/26-01:49
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