~ プロローグ ~ |
「おやまぁ。お爺さん? こんな夜遅い時間まで何処に行ってたんだい?」 |
~ 解説 ~ |
◆解説 |
~ ゲームマスターより ~ |
戦闘エピソードとしていますが、説得か懐柔、あるいはプレイヤーの機転で戦闘を回避できる可能性も想定しています。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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最優先は村人の安全確保とゾンビを鎮める事 あとは…マゴットちゃんと話がしたい こんなことをしても意味が無いと そう伝えたい 防寒具を人数分申請 ランタン装備 村の見える位置まできたら 望遠鏡を使って偵察 わかったことは皆に周知 屯所から探す エフドさんの後から 不意打ち対応に鬼門封印 光明真言2で能力上げ 生存者がいれば手当て >ゾンビ 傷ついた仲間はルーノさんと分担して回復 必要がない場合は通常攻撃 >マゴット マゴットちゃんね …ここで何をしているの? お父さんとお母さん あなたの魔法で本当に見つかるのかしら 消えた命は取り戻せないの あなたに優しくしてくれたお爺さんやお祖母さんにも もう会えない こんなことはもうやめよう 視線を合わせ説得 |
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【目的】首謀者に報いを受けさせる 灯りとしてたいまつ、ランタン持参。雪対策に登山靴。 人がいたら確認の為に転ばぬ先の杖でついてみる。ゾンビならラファエラは即座にDE8で攻撃。 首謀者捜索は屯所から。ラファエラが中に信号拳銃を撃ち込んでかく乱し、まずエフドからGK1で中に突入。GK8で防御強化し、中を照らすためにたいまつを置ける所を探す。 同士討ちを防ぐために戦闘では自分から攻めず、防御して相手を見てから反撃する。 ラファエラはまっすぐ撃って味方に当てないために、主にDE5で攻撃。 首謀者と戦闘になったなら、ラファエラがDE8で先手を打ち、エフドが盾を構えて突撃、切りかかる。 |
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■道中 借りた防寒コートと雪道対策の登山靴を装備 暗所はランタン使用 屯所へ向かう 遺体は放置、位置を教団に報告し回収作業に役立てる 治療する仲間はフォロー ■屯所 シャドウガルテン出身で暗所に慣れているルーノが罠や敵潜伏を警戒 エフドの行動を待ってから突入 後にナツキが続き援護、ルーノは周囲を警戒し進む 戦闘中は味方の位置と射線を意識 同士討ちを避け敵を確実に減らすよう協調行動を取る ルーノは前衛と同じ敵を攻撃、後方で不意打ちを警戒 接近されたらSH3で退け、回復が追い付かなければSH11 ナツキは近づく敵を攻撃、挟撃の際対応に回る スキルは出し惜しみしない 首謀者は情報を得る為にも生かして教団に連れ帰る 説得が駄目なら捕縛 |
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~ リザルトノベル ~ |
「何か見えるか?」 望遠鏡を覗く『リチェルカーレ・リモージュ』に『シリウス・セイアッド』は問いかける。しかし彼女は望遠鏡から目を離すと頭を振った。 「家の灯りも点いていないし気配も無いわ。民家のドアが破られた形跡も無いし、もしかしたら生存者が閉じこもっているかもしれないわね。唯一屯所が明るいけれど……」 ここは樹氷群ノルウェンディ。彼の村を見下ろせる小高い丘。時刻は夜半。降雪の為に正規の道が通れず、エクソシスト達の歩みを遅らせたのが原因だった。 「チッ……」 小さな舌打ちが聞こえ、全員がそちらを振り向く。音を発したのは『ラファエラ・デル・セニオ』だった。 「どうした、ラファエラ。今回の任務が気に食わないか」 冷静な声音で『エフド・ジャーファル』が問いかける。 「ええ、罪を犯した者は償わせるべきだわ。例え、それが何であれ」 ラファエラは狙撃銃の装飾をなぞり、苛立ちと不機嫌さを隠そうともせずに言い放った。 「まぁまぁ。依頼は確かに妙な点が引っかかるけれど、それでも私達は捕縛か説得を試みてみようと思うよ」 冬の陽射しの様な柔らかい微笑みを浮かべた『ルーノ・クロード』がなだめると『ナツキ・ヤクト』がそれに続いた。 「そーそー。大体教団司令部の奴らも情報小出しにしてるしな……。そもそもなーんか気になる。こう、うまく言えねーけど」 ナツキが頭をワシャワシャと掻きながら悩む素振りを見せる。 「首謀者の更に裏が居る可能性があるかもしれませんね……。あ!」 再び望遠鏡を覗くリチェルカーレが何かを見つけた様に声をあげた。 「どうした。……アイツか」 エフドが望遠鏡の向く方向、屯所の屋上に視線を送ると、そこには白い髪をなびかせて佇む小さな人影が見えた。その横には腰の曲がった人物……いや、ゾンビが寄り添うように立っている。 「好都合ね。射程ギリギリだけど……届くはず!」 「待て待て待て! アレどう見ても子供だろうが!」 ラファエラが銃を構え、射撃体勢に入るとナツキが肩を揺さぶって止めた。 「……だから?」 狙いをつけていたのを邪魔され、ラファエラが不機嫌さを隠そうともせずにナツキを睨むと肩に置かれた手を振り払う。そうこうしているうちに、小さな人影は老婆の手を引くと階段を下りて行った。 「子供……!? どうして……? しかもあんなに薄着で……!」 望遠鏡でその姿をハッキリと見てしまったリチェルカーレは動揺を隠せない様子だ。その震える手をシリウスがそっと握った。 「なるほど。教団司令部が情報を開示しなかった理由はこれか」 「どういう事だよ?」 ルーノの声にナツキが反応する。ルーノは暫く考え込む素振りをすると口を開いた。 「教団側もあの子の処分を持て余しているんだろう。もしかしたら、だけどね。連れ帰って情報を吐かせるにしても幼すぎる点を鑑みて、信憑性は少ない。あわよくば亡き者にして事態の収束を……いや、これは穿ち過ぎか」 リチェルカーレの顔が青褪めて行くのに気付き、ルーノは慌てて言葉を切った。その反対にナツキの顔は興奮のせいか赤くなっていく。 「めんどくせー事は無しにしようぜ! 生存者が居るか、ざっと家を見回ってさっきの屯所に突入したら良いんじゃないか? それに何でこんな事をしたのか俺は聞いてみたいぜ!」 だが、エフドが白い息と共に冷たく言い放つ。それはノルウェンディの樹氷よりも更に凍える冷徹さを含んだ声だった。 「俺は捕縛や説得などのぬるい案には反対だ。やむを得ない場合生死は問わないって事は、首謀者の死体を検分すれば良いって事だろう」 「とりあえず戦闘痕の無い家を調べてみよう。くれぐれも警戒は怠らずにね」 ルーノの声にエクソシスト達は村へ向かうのだった。 ◆ 「生存者は……絶望的ですね」 リチェルカーレが落胆したように溜息と共に言葉を吐く。 「ああ、どのドアも内側から開かれている。子供の姿に油断したか、ゾンビとなった被害者との仲が良かったかどちらかだね」 ルーノも民家を調べながら述べる。 「禁忌魔術を使うようなヤツよ。狡猾で油断ならないって決まってるじゃない。やっぱり発見した時に撃っておくべきだったのよ」 外から見ると荒らされた様子の無い民家。しかし中に入ってみるとその家で暮らしていた住人が変わり果てた姿で倒れ付していた。ラファエラも銃の先でつつき、生死を確認しているがその表情は憎しみに満ちている。過去にゾンビを操る相手との確執があったのだろう。 「となると残りは屯所だね。……村を守る自警団が居たはず。先程の女の子が屋上に居た点からみてもすでに彼らはゾンビ化しているだろう。皆、気をつけて」 武器を構えなおし、注意喚起するルーノ。殿に立つシリウスが眉間に皺を寄せ、ポツリと呟く。 「……このままにするわけにはいかない。禁忌魔術は危険だ。止めさせないと」 その言葉が届いたのだろう。リチェルカーレが小さく頷く。シリウスはふっと息を吐き、表情を緩めると彼女の後ろに続くのだった。 ◆ 「オォバアアアア!」 「『シールドタックル』! チッ! こっちからもか!」 「アシュアアア!」 「『磔刺』!」 屯所に突入したエフドを待ち構えていたように右と左からゾンビが襲った。だが、もう片方はナツキが上手く捌く。 「グォオオォ……」 「オォォ……」 2体のゾンビは強烈な攻撃を受けて、物言わぬ躯になった。 「……操られているような動きでは無いみたいだね。どちらかと言うと本能に従っているような?」 ルーノが冷静に分析するとシリウスも頷いた。 「防具は着けていますが、武器の類いは持っていませんね」 リチェルカーレも倒れた2体のゾンビを観察すると感想を述べた。 「好都合ね。武器を持っていないゾンビなんて動きは鈍いし倒しやすいわ。おじさん、先導お願い」 銃を構えながらラファエラが通路の先に進むようにエフドを促す。 「……油断は禁物だ。俺も『絶対防御ノ誓イⅡ』を使っていなかったら傷を負っていたかもしれん。リチェルカーレ、『光明真言』のサポート助かった。それとラ……」 たいまつを壁に設置して、盾と剣を構えなおしたエフド。ラファエラに何かを言いかけたが、頭を振って言葉を切った。 「ゾンビは最大で10体しか操れないんだったか。なら屋上に居たやつも合わせて残り8体だな」 「最大、だね。それ以下って事もある。私としてはこれで打ち止めだと嬉しいんだけど」 ナツキの声にルーノは苦笑して手を広げる。 だが、その笑みをかき消すように外を走る風がヒョウと鳴いた。 言葉を切られ、片目を瞑るルーノ。だが、微かに風の音に混じって何かが聞こえてくる。 「~~♪~~♪」 「……これは、子供の声?」 「上だな」 ラファエラの声にライカンスロープであるナツキがいち早く反応する。 「何かを歌っているような……?」 リチェルカーレが目を閉じ、耳を澄まして、その声に聞き入る。 「……みんな……いっしょ……かえってくる……おかあさん……おとうさん……」 子供特有の高い、そして楽しそうに歌われる場違いな声。死者と氷しか無いこの村ではひどく歪に思えてリチェルカーレは両手で自分の体を抱き、ぶるりと震えた。 「リチェ」 シリウスがそっとリチェルカーレの肩に手を置くと彼女は振り返り、シリウスの瞳を真っ直ぐに見つめて頷いた。その表情は事態の収束を願う強い意志が見て取れた。 「さて、首謀者は上に居る事が判明した。が、どうする?」 エフドが冷静に廊下の先を見据える。 「どうするって?」 「地下室にゾンビが居る可能性だね。このまま上に行くと地下室のゾンビに挟撃されるかもしれない。だけど地下室に行って時間をかけすぎると首謀者が逃走してしまうかもしれない。後は」 ナツキの疑問にルーノが答える。しかしそこに割って入った者が居た。 「さっさと首謀者の息の根を止めるべきだわ。早く終わらせて帰りましょう」 短く言葉を吐くと苛立ちを隠す様子も見せずにラファエラが壁を軽く殴る。 「俺もラファエラの意見に賛成だ。子供でも罪は罪、禁忌魔術は滅ぼさねばならん」 「待ってくれ」 エフドが進もうとするが、シリウスが止めた。彼が他人に干渉するのは珍しい。だが、後ろに控えるリチェルカーレが沈痛な表情を浮かべているのを見れば納得がいく。 「首謀者があんな子供だとしても、だ。魔力が高くても禁忌魔術を自分ひとりで習得できる訳ではないんじゃないかな? あの子の後ろにそれを教えた黒幕が居ると考えた方が良い。例えばゾンビを操る魔女、とかね」 「ッ!!」 ルーノの推測にラファエラの体が跳ねる。ギリ、と歯が軋む音が聞こえた。図らずとも彼の言葉は彼女にとって鬼門だったようだ。 「フン……。そういうことなら俺はまずは様子見だ。だが、襲ってくるなら問答無用で始末する。良いな?」 殺害、では無く始末という言葉を選んだエフド。首謀者に対する感情はどこまでも冷静だ。人の姿をしていても人へ向ける言葉では無い。そう、例えるなら害虫を駆除する時のような。 「シリウス……」 リチェルカーレはシリウスの袖をキュッと握る。階段に続く通路を見据えながら彼は小さく頷いた。 ◆ 「お腹空いたな……」 子供の声が聞こえ、ルーノは人差し指を唇に当てて、後続のエクソシスト達に注意を促すと部屋のドアに耳を付ける。どうやらこの階に自由に動けるゾンビは居ないようだ。ゾンビ特有のうめき声も無い。最も、術者がゾンビに動くなと命令していたら別だが。 「お婆さん、ありがとう。フフッ、スープ美味しい……。兵士さん、ここではパンが高級品なんだって。だけどお芋がとても美味しいのよ」 楽しそうな声がドアの向こうから響く。 「誰かと話しているのか? 生存者……もしや黒幕か?」 「……突入するか?」 エフドの声に独り言を漏らしてしまったと気付いたルーノは自分が先行する、と合図を送る。それを見てエフドは頷きで返した。 少しだけドアを開けて中の様子を伺う。だが残念な事に心臓が活動している存在はその部屋に一人だけだった。 「こんばんは」 ゾンビに囲まれて、ただ一人。白い薄手のコートを羽織り、黒いワンピースを身に纏い椅子に座って人形を抱いている白髪の少女は闖入者……ルーノに声をかける。 「こんばんは。ここは冷えるね。君は寒くないのかい?」 部屋に一人入ったルーノだが、ゾンビ達が襲ってくる気配は無い。いつでも脱出できるように退路を確保しながら軽口を投げかける。 「? ここはとても温かいの。……みんなが居るでしょう?」 少女は左手で老人のゾンビ2体と自警団員のゾンビ2体を指し示した。ゾンビ達はゆるゆるとお辞儀らしき動作をする。屯所の入り口で襲ってきたゾンビもそうだったが、全員武器の類いは装備していないようだ。 「……後ろの方達はお友達?」 ルーノをいつでも助けられるようにドアから覗いていたエクソシスト達は少女の声にそろそろと部屋に入る。ラファエラだけは後方を警戒している様子でずっと銃を構えていたが。 「お嬢さん、君のお名前は何かな?」 ゾンビの動きに警戒しながらもルーノは少女に問いかける。 「……マゴット。あ、今お婆さんがスープを温めてくれてたの。お爺さんはお芋を焼いてくれててね。とても美味しいのよ」 鈴が鳴る様な声と百合の花が綻ぶような笑顔を見せてマゴットは楽しげに、歌うようにエクソシスト達に声をかける。 「スープ……? 火も無いのに?」 シリウスが怪訝な表情で部屋を見回す。そうなのだ。スープを温める為の暖炉も無い、ただ簡素なテーブルと椅子があるだけ。そこに鍋が一つだけ置いてある。 「お婆さん、皆さんにスープを」 マゴットの声に老婆のゾンビはゆっくりと動きながらスープが入っている鍋を掻き混ぜる。いや、そこでエクソシスト達は気付いた。スープなど入っていない事に。老婆は空の鍋を掻き混ぜる。まるでそうする事で鍋の底からスープが湧き出ると信じ込んでいるように。 「ウッ……!」 リチェルカーレが口を両手で覆う。彼女の瞳から一筋、涙がこぼれた。 「ままごと、か。そもそも娘に対して古い言葉でマゴット……蛆虫などと名付けるだろうか……」 エフドも珍しく動揺しているようだ。 「このゾンビ、お前がやったのか? なんでこんな事したのか教えてくれねぇか?」 ナツキが剣をしまい、一歩前に踏み出す。やはりゾンビが襲ってくる様子は無い。 「お母さんとお父さんを探しててね。お爺さんお婆さんに連れて行って良いって言われたの。だから一緒。みんな、一緒。ずっとずーっと」 マゴットの頭に老爺の手が乗せられる。楽しそうに幸せそうにその手に頬ずりするマゴット。それは通常であれば誰もが目を細めて幸せそうに笑うだろう。だが、相手はゾンビである。魂を失った人の形をしたヒトで無いモノ。歪な愛情を目の当たりにしてナツキはたじろいだ。 「……マゴットちゃん……ここで何をしているの? お父さんとお母さん、あなたの魔法――魔術で本当に見つかるのかしら? 消えた命は取り戻せないの。あなたに優しくしてくれたお爺さんやお祖母さんにももう会えないのよ。こんなことはもうやめよう?」 目を赤くしたリチェルカーレがマゴットに問いかける。が、彼女が常識としている事はこの少女には通用しなかったようだ。 「お爺さん、お婆さん、ここに居るよ? ずっと……一緒。そうだ! お姉さんも一緒にお父さんお母さん探してくれる?」 マゴットが目を輝かせながら無邪気に問いかける。ずっと傍に居てこの少女の父母を探す事は無理だろう。だが、教団に帰れば何かしらの情報はあるかもしれない。そう思い、リチェルカーレは頷きかけたが、シリウスに止められた。 「……! よせ」 「簡単に同意はできないな。君の一緒に、連れて行ってって言葉はゾンビとしてって意味だろう? 残念だが私達はまだ生きていたいんでね」 ルーノが飄々とマゴットとリチェルカーレの間に割って入る。その隣にはエフドも居た。 「聞きたい事がある」 武器を構えながらエフドは冷徹に言い放った。一足飛びにマゴットの胸に剣を刺せる位置。それが今、テーブルを挟んだ二人の距離だ。 「なあに?」 剣の切っ先が自分の方を向いていても変わらず、楽しそうに答えるマゴット。死への恐怖感が無いのか、殺される事は無いと高をくくっているのか。だが現にエフドの殺気はたわみの無い鋼糸の様に張り詰められている。 「お前に禁忌魔術を教えた者は誰だ」 「教えてくれた人? えっと……お菓子をくれた人。……素敵な魔女さん。大切なモノを作りなさいって。そうしたら大切なヒトが見つかるんだって」 マゴットはウットリと彼方に想いを馳せる。それは夢見る少女なら誰もが描く、どこか現実離れした景色を見ている様な表情だった。 「お菓子……まさか薬!?」 焦点の合わない瞳で虚空を見つめながらも幸せそうな表情を浮かべるマゴットにルーノが近寄る。だが……! 「「「「オォオオオオオ!」」」」 術者の制御が離れたのか部屋のゾンビがルーノに目掛けて襲い掛かる! 「『トリックショット』!」 銃声とラファエラの声が響き、ルーノに噛み付こうとしていた自警団員のゾンビの頭が吹き飛ばされた。 「ッラァ! 『磔刺』!」 ナツキの攻撃でもう一体の自警団員のゾンビが倒れる。 「『シールドタックル』!」 エフドが襲い掛かる老夫婦のゾンビを弾き飛ばすと、壁に叩きつけられたその体勢のまま力を失ったように崩れ折れた。 「お爺さん、お婆さん?」 先程の騒動をまるで記憶に無いと言わんばかりにマゴットの声が響く。 「起きて……? 起きて……?」 トテトテと老夫婦に近寄ると、その髪を纏めていたマジェステで手の平を突き刺し、真っ赤な液体を口に注ぐ。だが、衝撃で脳を破壊されたのか、老夫婦は起き上がる事も無かった。 「起きて、起きて?」 更に深く手を傷つけるマゴット。 「まさか……痛覚や感覚が無いのか!?」 「やめろ!」 ルーノの声にナツキがハッとしたように飛び出して、マゴットの両手を掴む。 「離して……。お爺さんお婆さんずっと一緒って、一緒に居てくれるって」 「お爺さんとお婆さんは死んだんだよ。もう二度と会えない世界に行ったんだ……」 暴れるマゴットの手を上に挙げるとナツキは諭す様に静かに言い放った。 「もう……会えない……?」 「ああ」 マゴットの瞳からポロリと涙が落ちる。まるでノルウェンディの樹氷が太陽の光で溶ける様に。しかし、そこに無慈悲な言葉がかけられる。 「そのまま押さえてて」 ラファエラがナツキに手を取られ、身動きのできないマゴットに照準を合わせていた。 「ラファエラッ! こいつはもうただの子供だぞ!?」 慌てたようにマゴットをその背に隠すナツキだったが、ラファエラのスキル『トリックショット』は跳弾も利用する事ができる。例え背に隠そうが無力だ。 「トリック……!」 だが、そこまで言いかけてギリとラファエラは歯軋りをした。 「撃てないのか。結局殺す度胸はまだないんだろ。お前の負けだ」 エフドはラファエラの銃身にそっと手を置くと下ろさせる。目を閉じ、全ての力を抜き、声も無くハラハラと涙を流すマゴット。それは幼い子供が初めて死を理解した瞬間だった。些か遅すぎたきらいはあるが……。 「チッ!」 苛立ち紛れに舌打ちと共に銃を地面に叩き付けたラファエラ。だが……。 『タァーーン!!』 乾いた音が部屋に響く。叩きつけられた衝撃で銃が暴発したのだ。しかし銃口の先にはマゴットが……! 「オ……オ……!」 「お婆……さん?」 ナツキに襲い掛かろうとしていたのか、マゴットを守ろうとしていたのか、それともただ単に起き上がろうとしていたのか分からないが、老婆のゾンビが丁度盾になって銃弾からマゴットを守ったのだ。ドサリと音を立てて倒れると、今度こそ一切の活動を停止する老婆。 「お婆……さん……ウッ……ヒック」 嗚咽交じりで涙を流すマゴットに傷の手当てをしようとリチェルカーレとルーノが近づく。 「君は何も分からなかったのかもしれないが、自分がした事だけは決して忘れるな。……そういう償い方もある」 ルーノがマゴットの手にハンカチを巻きながら止血をし、静かに諭す様に言った。 ここは樹氷群ノルウェンディ。小さなランプの様に温かかった村は、その灯が消えたようにひっそりと静まり返っている。惨劇を語るのは物言わぬ樹氷達、風と共に泣いていた……。
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*** 活躍者 *** |
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[9] ルーノ・クロード 2018/12/20-22:34 | ||
[8] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/20-19:33 | ||
[7] ルーノ・クロード 2018/12/20-03:27 | ||
[6] エフド・ジャーファル 2018/12/19-22:24 | ||
[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/19-21:13 | ||
[4] ルーノ・クロード 2018/12/19-00:46 | ||
[3] エフド・ジャーファル 2018/12/18-00:25 | ||
[2] リチェルカーレ・リモージュ 2018/12/17-22:36 |