~ プロローグ ~ |
夜を含んだ茜色の残映。一日の終わりを告げるように日が暮れていく。夜の帳が二人を覆おうとしていた。 |
~ 解説 ~ |
●エピソードについて |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、GMのozです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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気にしてない側 はー今日の指令も疲れたな …ていうかさっきからルドの様子がおかしいんだけど 空気重いんだけど!? ちらちら見てると、ちらちら目が合う 視線を逸らされる …………???? どうしたんだ、ルド 謝られ、なんのことかと目をぱちくり 「ごめん、真面目にわからねぇんだけど。どのことを謝ってくれてる?」 説明をされても、いまいちピンとこない 「うん。わかった。でもなルド。俺達、戦闘では前衛と後衛で分かれてるだろ 後衛のルドが動きやすくするのが俺の仕事だし、前衛の俺をフォローしてくれるのがルドだろ だから気にしてないぜ。 この怪我だって名誉の負傷だ」 「まー。最初は俺をいつも罵倒してくるのを謝ってくれたのかと思ったけど」 |
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ララエル、それは違うよ。 僕だってララエルを守りたい、ケガをさせたくないって思ってる。 だからララ、約束して。 敵に一人で突っ込まないこと。 君が僕を守ってくれるのと同じ…いや、それ以上に 僕はララを守りたいと思ってる。 前に、君は両親に埋められたって言っていたよね? 僕がその場所にいたら、きっと発狂していたと思うよ。 (ララエルの手を取り)君がどうしても僕を守るって言うのなら、僕も君を守るよ。 僕が君を守って、君は僕を守る。 それじゃダメかな。 これまで戦う事を禁止していてごめん、 これからは一緒に戦おう。ただし、僕の指示を聞く事。良いね? (…そのほうが視界に入りやすいし、ララを守りやすいだろうしね…) |
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・喧嘩内容 ベリアル討伐中に焦ったあたしが怪我しちゃって ラスがサポートしてくれたけど、結局失敗した上にあいつまで怪我してるし ああもう、最悪! ラニ:疲れた ラス:あんな事になるとは思わなかった ラニ:なにそれ、あたしのせいだって? 部屋に戻るまでずーっとそんな感じ、普段に増して暴言も増えるし 自室は隣同士なので当然道中も一緒 そんなのが続いたら怒鳴りあいにもなるわよ ラニ:あぁもう!失敗して悪かったわね!なんならあんた一人でやれば良かったじゃない!! (ラスの叫びを聞いて) ラニ:…………ごめん あんたの気持ち、考えてなかった ラス:……オレもごめん お前の気持ちは分かってたのに 本当にごめん、ラス ありがとう |
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無様な初仕事だ。 終焉の夜明け団絡みのギャングの頭領の所在がわかったから踏み込んだが、音の出る仕掛けやら煙幕やら隠し扉やらで見事に逃げられた。 帰り道で先に歩くラファエラについ聞いたんだ。報告書をどう書くんだって。(俺はまだこの国の字を勉強中だ) お互い気が立ってたのか、いつしか差別言葉まで飛び出すほどの罵り合いになっちまった。 教団に着いて別れてコーヒーを飲んだ頃には、さすがに謝る必要を感じた。小娘に大人げない。幸い、向こうも似たようなことを考えてたようだ。 高圧的なだけのガキじゃないようだな。我儘お嬢かと思ってたが、案外俺と似たような立場なのかもしれん。 俺たちはまだ互いを知らなすぎるな。 |
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怒っちゃってその…ごめんなさい…それとありがとうございます。 …怪我はどうですか? 教団に帰ったら手当を…え?アンデッドだから大丈夫? 私が怒った理由ちゃんとわかってますか? そういうところを怒ったんですよ! アンデッドだから大丈夫なんてのは私を庇っていい理由になりませんからね。 アンデッドだって怪我をすれば痛いはずです。 そんな風に自分の身体を粗末にしないでください…。 ただ…私を守りたかった…? (その言葉に胸が熱くなる) …でも、でも、ロメオさんが傷付くのは嫌なんですよ! (こんな風に泣いちゃって情けない) 私を庇って怪我なんて最悪です! 自分のことが許せないんです! だから…そんな優しい事言わないでください…。 |
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*状況 ユウが任務中に犯したミスで敵に逃げられてしまう 教団に報告した帰り道、落ち込むユウと割と平然としてるセプティム *行動 ●セプティム ユウさんすっかり気落ちしてますが、何故そのような無意味な事を続けるのです? 確かに逃がした相手がベリアルなどであればもっと酷い事態になってたので失敗は反省すべきです ですが教団が別の人間を派遣みたいですから近々ケリがつくはず だから落ち込むだけ時間の無駄です 謝罪を聞いたら、気持ちを切り替えて次に備える事を勧めます ユウさんは落ち込むと面倒極まりないですが、それができれば失敗を糧にして次に繋げるよう努力する人です 平凡で色々足りないユウさんでも、その点に関しては評価してますよ |
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◆経緯 ローウェンの安請け合いが原因で当初の予定以上のベリアルを討伐するはめに 討伐時間も長くなりローウェンは多少負傷 二人とも疲労困憊 ◆メアリ なんで、あんな安請け合いを… 私達まだ新米で戦いに慣れている訳でもないのに いえ、ローウェンさんの怪我は別にどうでもいいというか 拘束時間が長くて疲れました …そういえば、浄化師は二人一組で行動するものならば 片方が療養中ならもう片方もその間は休んでていいって事ですよね? ◆ローウェン なんか依頼人さん困ってそうだったし まあなんとかなるんじゃないかなって思ってたけど なんとかならなかったね、うん あ、はい なんか今日はごめんね 今後は気を付けるよ、できる範囲で |
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失敗:東が黒憑を庇って怪我を負った ■行動 軽口を叩いても反応がない。 こりゃあ重症だ。お叱りを受ける前に謝っておくか。 大変申し訳御座いませんでしたぁ、ありがとうございまぁす。 以後気をつけまーす。 振り返ってみれば俺の過失だしな 普段じゃありえねぇが、赤べこ宜しく頭も下げてやらぁ ふと、東の煙草を持つ手が震えていることに気付く なるほど、無理をさせたみたいだ。 本当は恐怖を押し殺して戦ってたんだな 今回はまぁ、考えるより先に足が動いちまったってとこか 勝手に勇敢な人だと思い込んでいた自分を恥じ、改めて謝罪 東の肩を抱いて帰路につく。 馬鹿みてぇに頑固なところも愛おしい。 男が弱音吐いたって良いと思うんだけどなぁ。 |
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~ リザルトノベル ~ |
『アシエト・ラヴ』『ルドハイド・ラーマ』 「はー今日の指令も疲れたな」 (……ていうか、さっきからルドの様子がおかしんだけど、嫌みの一つもねえし……すっごい空気重いんだけど!?) アシエトの心の叫びとは裏腹に夜の街路は静かだった。街灯がルドハイドの横顔に僅かばかりの明かりを投げかける。 一心に何かを考え込んでいるようにも不機嫌そうにも見えて、アシエトには彼が何を考えているのか分からなかった。 こっそりと確認するように何度もルドハイドの方に視線を向けていると、金色の目と合う。 先に目を逸らしたのは、ルドハイドの方だった。ルドハイドらしくない態度にアシエトは頭にますます疑問符が浮かぶ。 気まずいと思っているのはアシエトだけではなかった。 全ては自分の失態が原因だった ベリアル討伐の際、油断した隙を突かれ、攻撃されるところをアシエトに庇われた。 アシエトの怪我こそ大したものではなく、本人はピンピンしているが、ミスはミスだ。 怪我を負わせてしまったことに謝らなければと思えば思うほど、口が重くなる。 一言、素直に謝ればいいことだ。それなのにこんな簡単なこともできない。自分の不甲斐なさを思い知らされるようだった。 「どうしたんだ、ルド」 心配そうに声をかけてくるアシエトの顔を見て、ふと肩の力が抜ける。少しだけ気分が軽くなると、あれだけ重たかった口からすんなり声が出た。 「アシエト、さっきはすまなかった」 アシエトは何を言われたのか分からないとでもいうように口を開けたまま、目をぱちくりさせた。 「ごめん、まじめにわからねぇんだけど。どのこと謝ってくれてる?」 アシエトががしがしと頭を掻きながら馬鹿正直に問うと、何故かルドハイドは黙り込んだ。 本人には悪気は全くないのだろう。分かっている。だが、何故こういうときに限って傷口めがけて的確に塩を塗り込むのか。そうルドハイドは問い詰めたくなる気持ちを押さえ込み、冷静さを装う。 「さっきの、戦闘でのことだ。明らかに俺のミスでアシエトに怪我を負わせた」 アシエトはルドハイドが謝った理由を説明されても、今一ピンとこないでいた。 「うん、わかった。でもなルド。俺達、戦闘では前衛と後衛で分かれてるだろ。後衛のルドが動きやすくするのが俺の仕事だし、前衛の俺をフォローしてくれるのがルドだろ。だから、気にしてないぜ」 アシエトは子供のようにニッと歯を見せて笑う。 「この怪我だって名誉の負傷だ」 アシエトの言葉にルドハイドは瞠目すると僅かに口の端をあげた。 「礼を言う。お前はパートナーとして最高だ」 ルドハイドの珍しい賛辞に気づくことなく、 「まー、最初は俺をいつも罵倒してくんのを謝ってくれたのかと思ったけど」 「……その一言さえなければ、な」 即座に前言撤回したルドハイドは、アシエトをじろりと睨みつけるのだった。 『ラウル・イースト』『ララエル・エリーゼ』 「あの……ラウル、ごめんなさい。私がラウルを守らなきゃいけないのに……ラウル、凄く血が出てる……!」 ララエルは耐えきれなくなったのか、藍玉の瞳から花びらのようにはらはらと涙が落ちた。 「ララエル、それは違うよ」 ラウルは落ち着いた様子で首を振る。 「僕だってララエルを守りたい。ケガをさせたくないって思ってる。だからララ、約束して。敵に一人で突っ込まないことを」 覚悟を決めた真剣な表情で、ラウルは言葉を紡ぐ。 ラウルは藍玉の瞳と目を合わせようとするが、ララエルはいやいやと首を激しく振ってその場から動かなくなる。頑なな子供のようにスカートの裾を掴むと、 「そんな約束……っ、守れません……!」 涙混じりの叫びにラウルが息を呑む。 「ラウルに何かあったらって考えるだけで、胸が張り裂けそうなんだもの……!」 ララエルの無垢なまでの懇願の叫びが響く。 ラウルは一瞬言葉を失う。彼女の叫びに、今になってどれだけ大切な少女を心配させていたのかに気づかされる。 何を言えばいいのか迷いつつも、ララエルと向き合う為に口を開く。 「君が僕を守ってくれるのと同じ……いや、それ以上に僕はララを守りたいと思っている。前に、君は両親に埋められたと言っていたよね?」 その優しげな声をじっと俯きながらララエルは聞いていた。 「僕がその場所にいたら、きっと発狂していたと思うよ」 ララエルは気づかない。ラウルが悲しみと悔いの入り交じった表情を浮かべていたことに。 堅く握りしめた指をラウルがそっと壊れ物に触るように手に取る。それにつられてララエルも顔を上げると、 「君がどうしても僕を守るって言うのなら、僕も君を守るよ。僕が君を守って、君は僕が守る。それじゃダメかな?」 ラウルは困った顔で尋ねた。 「ラウルが私を守って、私がラウルを守る……? そ、それでいいです! そうしたら私、強くなるもの!」 涙の中、何度も何度も力強く頷いた。ようやく笑みを見せたララエルにラウルもまた安堵の笑みを浮かべる。 そのままララエルの眦から優しく涙を拭い取る。 「あっ……」 ラウルの暖かな手に触れられ、ララエルは何故か涙が止まらなかった。押さえ込んでいた濁流のような感情が堰を切って溢れ出すのを止められなかった。 「これまで戦うことを禁止していてごめん、これからは一緒に戦おう」 「ううん、ラウルが謝ることじゃないもの! 私も戦っていいんですよね?」 「ああ。ただし、僕の指示を聞く事、良いね?」 ラウルの言葉にこくりと頷くと、ララエルは気合いを入れるように腕を振り上げる。 「よーし、頑張るぞー! ラウルを守って、ケガをさせないようにするの!」 涙の名残を残したまま、ララエルはようやく自分だけの役割を手に入れたと無邪気に喜ぶのだった。 『ラニ・シェルロワ』『ラス・シェルレイ』 不機嫌そうに黙り込んだままラニとラスが並んで歩く。男女の違いこそあれ、兄妹のようにそっくりだった。 互いに目を合わせようともせず、ピリピリとした一触即発な空気が漂う。2人とも顔や体中に擦り傷や手当された痕が残り、指令前はきれいだった服も血と泥で汚れていた。 「疲れた」 ラニがぼそりと呟いた。 「あんな事になるとは思わなかった」 「なにそれ、あたしのせいだって?」 ベリアル討伐の際に前に突出しすぎたせいで怪我したことをラスに揶揄され、ラニはカッとなる。 「……それ本気で言ってるのか。オレが失敗したから怒ってると思ってんのか」 ラスは怒りで顔を歪めながら、苦々しい口調で問いただす。 ふてくされたようにムッとしたままラニは答えない。 「ふざけるな!」 ついに感情を抑えきれなくなったラスが怒鳴った。 「お前が吹っ飛んだの見た時、オレがどんな気持ちだったか分かるか!?」 「なによ、足を引っ張るなとでも言いたいの!?」 お互い感情のまま口論で殴り合う。口論はどんどんヒートアップし、2人の間の摩擦は高まっていく。 「あぁもう! 失敗して悪かったわね! なんならあんた一人でやれば良かったじゃない!!」 ラニは頭のどこかで「まずい」と思いつつも、口から出た言葉は止まらなかった。ラスの叫びを聞くまでは。 「お前が!」 普段は物静かでクールぶっているラスが本気で激昂した声。ラニは思わず肩をびくりと震わせる。 「お前がいなくなったらオレは! ……オレは、どうしたらいいんだ。もうお前しかいないのに……!」 ラスが痛いほどラニの肩を強く掴む。鋭い眼光とは裏腹に硝子のような脆さを抱えた目が合い、ラニは罪悪感を覚えた。ラスの声は段々と震え帯びていって泣いているみたいだった。 「……ごめん」 ラスにしか聞こえないぐらい小さな声が耳に届く。ラニはどこか決まり悪そうな顔で目を伏せる。 「あんたの気持ち、考えてなかった」 「……オレもごめん。お前の気持ちは分かってたのに」 ラニの形振り構わぬ戦い方をするのは焦りがあるからだ。ベリアルやヨハネの使徒を倒すにはあまりにも自分達は弱すぎる。 そのことがさらに故郷を奪った仇への憎悪を駆り立てる。ラニと同じくラスの心の奥底にもまた復讐心が埋め火のようにくすぶっている。 「本当にごめん、ラス……ありがとう」 ようやく憎悪に煽られた表情ではない。ラニ本来の、幼い時から変わらない明るい笑みを浮かべた。 落ち込んだ気分を吹き飛ばすようにラニは声を張り上げる。 「疲れた! 明日は休日だし、思いっきり遊ぶわよ!」 「……今日は賛成」 悪戯っ子めいた笑みを浮かべて、頷く。 互いに笑い合う姿は年相応で普通の幼なじみにしか見えなかった。 『エフド・ジャーファル』『ラファエラ・デル・セニオ』 エフドは教団のカフェでコーヒーを飲みながら一息つくと、帰り際のことを思い出して溜息をついた。 口論の切っ掛けは、犯罪者を取り逃がしたことから始まった。 初指令で失敗し、上にどう失敗を報告したものかと気が重い帰り道だった。気まずさに耐えかねたエフドの方が先に口を開いたと思う。 あの酷い罵りあいは互いに気がたっていたからとしか言いようがない。 「屑を捕まえることもできないトロさが情けないです、って感じよ」 「屑を前にして碌に攻撃できない腰抜けでごめんなさい、もな」 エフドは一瞬顔を引き攣らせると、すぐに皮肉で返した。すると怒りで顔を赤くしたラファエラが睨みつけてくる。 「何が言いたいのよ」 「何だと思ったんだ?」 エフドは挑発するように問いに問いで返した。それにラファエラは眉根を寄せると、わざとらしく肩を竦め溜息をつく。 「同士討ちしないようにしてやってたって分からないの?」 「同士? お前の同士には犯罪者も入っているようだな」 エフドもあまりの言われように腹が立ち、言葉を逆手にとってやると、今度はラファエラが顔を引き攣らせる。 「のろまな木偶の坊の援護が簡単だとでも?」 「タダ乗り吸血女の為に体張るよりきついのかい?」 相手の弱点を突くような棘に満ちた言葉の投げ合いは教団に着くまで終わらなかった。 一回りも下の小娘と皮肉を応酬し合った自分も大概大人げなかったと今ならばそう思う。 どちらにせよこのままでいいわけがない。パートナーである以上、これからも付き合っていかなければならない相手なのだ。明日の朝には指令で顔を合わせることになる。その時に謝ろうと決意し、カフェを後にする。 朝、待ち合わせ場所に行くと、すでにラファエラが来ていた。視線こそ合わないものの気まずそうな顔をしている。何か言いたそうにこちらを見ては口ごもる。プライドが邪魔してなのか謝れないでいるようだった。 「悪かった。俺がトロくてしくじったのは間違いない」 「私こそごめんなさい。明らかに余計なことを口走ったわ。気を付けてるつもりだったのに」 僅かにエフドは瞠目した。正直なところラファエラが自分の否を認めると思っていなかった。思い違いをしていたのは自分の方かもしれない。 「連携訓練がもっと要るな。何せ赤の他人同士だ」 「ええ、転職の当てもない事だし」 「お前もか」 ラファエラの言葉に妙な親近感を覚える。 (我が儘お嬢かと思ってたが、案外俺と似たような立場なのかもしれん) まだ組んだばかりで互いのことを何も知らないのは当然だ。ようやく2人はパートナーとして歩みだそうとしていた。 『シャルローザ・マリアージュ』『ロメオ・オクタード』 「怒ちゃってその……ごめんなさい……それとありがとうございます。……怪我はどうですか?」 「怪我のことは気にしなくていいさ」 教団に帰ったら手当を、と言うシャルローザに苦笑いするとロメオは軽く肩を竦めた。 「なんてったってアンデッドだからね。腕が取れようが、またくっつくんだ。だから心配しなくていい」 腕を切り落とされたというのにロメオの平然とした態度にシャルローザは呆然とした。 すぐに咎めるような目でロメオを見る。 「私が怒った理由ちゃんと分かっていますか! そういうところを怒ったんですよ!」 頭の芯が発火したように熱くなり、シャルローザにしては珍しく語気を荒げた。 「アンデッドだから大丈夫なんてのは私を庇っていい理由になりませんからね。アンデッドだって怪我をすれば痛い筈なんです。そんな風に自分の体を粗末にしないで下さい……」 強気だった口調も段々と消え入りそうなものとなり、シャルローザは悲しげに目を伏せる。 ロメオは気まずげに頬を掻く。 「あー……うん、一応分かってるつもりなんだけど。お嬢ちゃんには粗末したってことになるかもしれないが」 そう前置きしてロメオは弱り切った表情で話す。 「俺にとってはお嬢ちゃんを守れるならこんな傷安いもんだ。アンデッドだっていうのは言い訳だよ。ただお嬢ちゃんが守りたかったんだ」 「ただ……私を守りたかった……?」 シャルローザの胸に熱いものがせり上がってきて、目の色が濡れたように青く揺れる。 ロメオの言葉に全て納得できたわけではない。それでも自分を守りたかったと言われたのを嬉しく感じたのも本当だったが、それ以上に自分が情けなかった。 きつく目を閉じると耐えていたものが、頬に流れ落ちた。 「うわっ、お嬢ちゃんなんで泣くんだ……!?」 「……でも、でも、ロメオさんが傷付くのは嫌なんですよ!」 泣くつもりはないのに涙が一つ零れると、止まらなくなる。シャルローザはロメオに泣いているのを見られたくなくて両手で頬に伝う涙を拭い取る。 「と、とりあえずハンカチを」 ロメオは慌ててコートのポケットに手を突っ込むと、くしゃくしゃのハンカチを取り出そうとするがどこにも見つからない。あるのは煙草だけだ。 あたふたするロメオから顔を背けると、シャルローザは感情のまま吐き出した。 「私を庇って怪我なんて最悪です! 自分のことが許せないんです!」 心中を吐露したシャルローザは俯くと、 「だから……そんな優しい事言わないで下さい……」 声は弱弱しく寂しげな響きを含んでいた。 「お嬢ちゃんは悪くない。でもそれじゃあ納得しないだろうから、次はもっと頑張ろうな。それでいいんだ」 ロメオの穏やかな声がシャルローザの心に沁みる。今度こそロメオの優しげな眼差しを受け止め、シャルローザは泣き笑いの表情を浮かべた。 『セプティム・リライズ』『ユウ・ブレイハート』 ユウにとって今日は最悪な一日だった。 終焉の夜明け団絡みのブローカーを後一歩のところまで追いつめたが、最後の最後で逃げられてしまった。あれだけ探し回ったというのに、自分のミスで全てが無駄になってしまった。 ユウはもう歩きたくないほど疲れていた。何もかも考えずにベッドに飛び込んでしまえたらどんなに楽だろうか。 足が棒のように重いのは歩き回ったからだけではない。精神的にも参っているからだと分かっていた。 (しょうもないミスで犯人逃がして指令失敗とかホント最悪……) 指令に慣れてきて最近気が緩んでいたのかもしれない。 うなだれるユウにパートナーであるセプティムが追い打ちをかけてくる。 「ユウさん、すっかり気落ちしてますが、何故そのような無意味な事を続けるのです?」 セプティムの言葉が胸に突き刺さり、ぐっと息を呑む。 「それは……教団の方で対処してくれるっていうけど、そもそも私がミスしなければ良かったわけで……ただでさえ普段からセプティムさんに迷惑かけてるのに……」 何か言わなくてはと思い、自分でもしどろもどろになりながら話していく。黙って聞いているセプティムの顔を怖くて見られない。心なしか胃が痛くなってきた。 「確かに逃がした相手がベリアルなどであれば、もっと酷い事態になっていたので失敗は反省すべきです。ですが教団が別の人間を派遣した以上、近々ケリがつく筈。だから、落ち込むだけ時間の無駄です」 セプティムが話せば話すほど落ち込んでいくユウの心情を汲むことなく、理路整然と正論を投げかけてくる。 (胃が、胃が痛い……なんて思っていたら、セプティムさんの超独特のお言葉が……た、確かに言っていることはある意味間違ってないけど、言葉の端々にあるワードが刺さってこころがしんどい……) もう頭を下げて謝るしかないと言う心情でセプティムと向き合う。 「ホントにすいませんでした……頑張ってメンタルリセットするので許して下さい」 「そうですね、僕も気持ちを切り替えて次に備える事を勧めます。ユウさんは落ち込むと面倒極まりないですが、失敗を糧にして次に繋げるよう努力する人です。平凡で色々足りないユウさんでも、その点に関しては評価してますよ」 セプティムは最後にそう締めくくる。 (謝ったら励ましの言葉をくれたけど、それ以上に貶されているような……いや、それ以上は考えたらダメな気がする) その事実を気にしたら負けだとばかりに積極的に考えるのを放棄した。ユウは後ろ向きなポジティブ思考でパートナーに評価されていたことだけを喜ぶ。 今度こそ同じ失敗をしないように頑張ろうと密かに決意するのだった。 『メアリ・シュナイダー』『ローウェン・アッシュベリー』 「なんで、あんな安請け合いを……」 「なんか依頼人さん困ってそうだったし」 メアリの心なしか非難めいた言葉を平然と受け止めるローウェンに肩を落とした。 ローウェンの安請け合いが原因で、事前に指令で聞かされていた以上のベリアルを討伐することになってしまった。 討伐は長時間かかったものの、ベリアルを逃すことなく倒すことができたのは運が良かったとしかいいようがない。 一歩間違えれば、誰かが命を落としても不思議ではなかった。今回は、そのツケをローウェンが自身の負傷という形で支払うことになった。 「……私達まだ新米で戦いに慣れている訳でもないのに」 「まあ、なんとかなるんじゃないかなって思ってたけど、なんとかならなかったね、うん」 その返答に怒りを通り越して呆れていた。 メアリとて安請け合いをするローウェンを止めたかった。生来引っ込み思案な性格のメアリでは終始話に口を挟めずに、おろおろと見守るしかできなかった。 もうパートナーと会話するのも億劫でメアリはさっさと教団に帰りたかった。 頭の中は泥が詰まったようにぼんやりしている上に倦怠感が全身に纏わりついて離れない。 体は疲れているのにローウェンの傷口から香る血がヴァンピールの本能を刺激してやまないでいた。 脳裏に契約時の血の味が鮮やかに蘇り、口の中に唾液が溢れる。 自然と血の匂いに引かれて横目で見てしまう。 メアリ本人はちら見しているつもりだが、ローウェンには猟犬に見られている感覚に襲われていた。息を凝らして見つめてくる視線に先手を打つように、 「見た目ほど痛くないから大丈夫」 「いえ、ローウェンさんの怪我は別にどうでもいいというか、拘束時間が長くて疲れました」 疲れているせいか普段は黙って済ます言葉が漏れる。 口調こそいつも通りだったが、怪我から目を逸らさずに喋るパートナーの目は妖しく光っていた。気弱な表情をしているのに本人の目だけがそれを裏切っている。 「あ、はい。なんか今日はごめんね。今後は気をつけるよ、できる範囲で」 身の危険を感じたローウェンは本能が鳴らす警鐘に従ってすぐさま謝る。 「今度から気をつけて下さいね」 「うん、今度は大丈夫だよ」 謝られると性格上それ以上言えないのがメアリだった。流されるままに許してしまう。 「……そういえば、浄化師は二人一組で行動するものならば、片方が療養中ならもう片方もその間は休んでいいって事ですよね?」 「多分、そうなんじゃないかな?」 若干嬉しそうに話すメアリに、ローウェンは見た目通りの性格ではなさそうだということに気づく。 (心の中に蛇でも飼っていそう。彼女ヴァンピールなのに、まぁいいっか) 2人が本当の意味でパートナーになるまで時間が必要そうだった。 『黒憑・燃』『清十寺・東』 「アンタの血は良い塗料になりそうだな」 いつもの東なら眉間に皺を寄せ、ここで辛辣な言葉を返すところだが、今日は反応すら返ってこない。 憔悴しきった顔も東ならば芸術に変わる。東はベリアルから黒憑を庇って怪我を負った。血を流しながら勇ましく戦う姿は生命力に溢れ、手元にスケッチブックがあったら残しておきたい程の姿だった。 なのに、黒憑の断りもなく怪我を治され、燻った苛立ちだけが残る。 (……こんな稼業だ、機会はまたある。それにしてもこりゃあ重傷だ。お叱りを受ける前に謝っておくか) 「大変申し訳御座いませんでしたぁ、庇って下さいありがとうございまぁす。以後気をつけまーす」 本気で謝っているのか疑わしい言葉遣いとわざとらしい仕草で頭を下げる。 「振り返ってみれば俺の過失だしな。普段じゃありえねぇが、赤べこ宜しく頭も下げてやらぁ」 黒憑の反省の言葉におざなりに返事をし、東は懐から煙草を取り出す。 (参った、怒る元気も残ってねぇ) 溜息とともに紫煙をくゆらせる。 手入れされた男の指で悠然と煙草を吹かす姿は一枚の絵画のようだった。 黒憑はその姿に一瞬見惚れ、絵描きとしての本能が騒ぎ出す。 じっくりとその姿を焼き付けんばかりに観察すると、ふとあることに気づく。東の煙草を持つ手がかたかたと小刻みに震えていた。 「なるほどなぁ、無理させちまったみたいだ」 「……何がだい」 ぎろりと東が睨みつけるもののいつもほどの覇気はない。 「本当は恐怖を押し殺して戦ってたんだな、先生。今回はまぁ、考えるより先に足が動いちまったってとこか」 実際にその通りだった。 死への恐怖心。敵とはいえ、命を刈り取る重み。 それでも、その重みを背負っていられるのは帰るべき場所があるからだ。 「アタシの弱みを握ったつもりかい?」 ここぞとばかりに弱みにつけ込んでくると思ったが、意外なことに黒憑はそうしなかった。 「悪かった。俺は勝手にアンタを勇敢な人だとばかり思い込んじまってた。頭を下げさせてくれ」 黒憑はさっきと打って変わって神妙に詫びを入れる。 普段はへらへらとしている癖に、妙に真面目な顔をされるとこちらの調子も狂う。 目頭が熱くなるのも、この男のせいだ。溜め込んでいたものが喉からせり上がってきて寸でのところで呑み込む。 「うるさい! 勝手に決めつけるな!」 「……先生アンタ、本当に馬鹿みてぇに頑固だな」 そっと東の震える肩に手を伸ばし、優しく抱き寄せた。 「男が弱音を吐いたって良いと思うんだけどなぁ」 黒憑が誰に言うわけでもなく独り言をぼやいた。宥めるように肩を抱く手は存外に労りを感じた。 震えはいつしか止まっていた。何度立ち止まろうと、男達は歩み続けるのだろう。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[7] 黒憑・燃 2018/06/29-13:33
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[6] メアリ・シュナイダー 2018/06/29-02:10
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[5] エフド・ジャーファル 2018/06/28-20:16
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[4] ラニ・シェルロワ 2018/06/27-12:37
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[3] シャルローザ・マリアージュ 2018/06/27-11:12
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[2] ララエル・エリーゼ 2018/06/26-14:52
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