闇夜に蠢くもの
普通 | すべて
4/8名
闇夜に蠢くもの 情報
担当 terusan GM
タイプ ショート
ジャンル 戦闘
条件 すべて
難易度 普通
報酬 通常
相談期間 5 日
公開日 2018-03-20 00:00:00
出発日 2018-03-28 00:00:00
帰還日 2018-04-08



~ プロローグ ~

 周囲を堅牢な城壁で囲み外部からのあらゆる危険を排除している教皇国家アークソサエティ。しかし、その外角にあたる一部の地区は犯罪者やならず者、かすかなスキをつき不法に侵入してきた者たちの吹き溜まりとなり、治安は悪化の一途を辿っている。

 そのような外角近くの貧民窟の一角で、残虐な殺人事件が起きたのが一昨日の深夜。夏に降るにしては冷たい雨が街路を激しく叩く月のない暗い夜だった。

 一夜明け、近所に住む老婆が、普段から大酒喰らいで評判だった男の無残な遺体を発見した。老婆は驚いて地区の自警団に通報し、3名の自警団員が早速遺体の元に駆けつけた。工員の男のようで作業着を身につけているが、上半身を中心に無残にもビリビリに破られ原型をとどめていない。
 そのボロボロの衣服に変色してどす黒くなった血が大量に染み込んでいた。

「こいつはここいらでも有名な酔っ払いでしてなぁ。まぁ、こんなにされた日も酔ってウロウロとしていたんでしょうな」

 老婆が自警団員の一人に話しかけた。
 老婆の言葉には全く反応せず、その自警団員は遺体につかつかと歩みよりしばらく遺体を調べていたが、急に顔色を変え周囲で遺留品や手がかりを探していた他の2名にここに来るようにと声をかけた。

「おい、こいつの傷を見てみろ。刃物で切られたのでも刺されたのでも殴られたのとも違うぞ! 」

「何かで激しく抉られたり、まるで食いちぎられたりした跡のようだな」

「おい、ここらあたりで最近おかしなことを見たり聞いたりした者はいないか? 」
 まじまじと遺体を見つめていた三人目の自警団員が、顔をあげて周囲に集まってきた野次馬の群衆に声をかけた。

「そこの先の袋小路にある古井戸から、ここんとこ気味の悪い声やら音やらが聞こえてきて、ここらの人間は夜だけじゃなく昼間も井戸には近づかなくなったんだよ」
 若い工員が自警団員の問いかけに応えた。

「それとよ、1週間ほど前の晩に薄気味悪リぃ生き物の影を何人もが見てるんだ」
 杖をつき長くヒゲを伸ばした老人が付け加えた。
「ワシも見たんだ。最初でっけえ野良犬かと思ったんだが、どうもそいつの背中からは蝙蝠の羽みてえなのが生えてるんだ。それで眼なんだろうが暗闇で真っ赤に光ってて、少し開いた口からは火ィでも吐くんじゃねえかってくらい赤い舌が見えたんだ」
 老人と同じモノを見た者が一斉に頷いた。

「俺も奇妙な奴を見たよ! 」
 二十代ぐらいの若い男が口を開いた。道具屋の店番をしている者だという。
「店にさ、全身黒ずくめの外套を羽織った全く一言もしゃべんねぇ男の客が薬をいくつか買いにきたんだ。で、そいつが金を払うときに見えたんだ。左の手の甲に埋め込んである、十字架をよ」
 道具屋はあまりの怪しい雰囲気に思わず男を尾行し、例の古井戸の中にするっと消えるのを見たと言う。

「おい、誰かその井戸に案内してくれ! 」
 自警団員の一人が声をかけると、先ほどの道具屋が先頭を歩いて自警団員を井戸に案内した。
 井戸を覗き込んだ一人の自警団員が井戸に密かに取り付けてあるハシゴを見つけた。
 三人の自警団員は勇敢にもハシゴを使って井戸の下に降り、井戸の底から横に果てしなく続く横穴を発見した。

「これは、臭うな。『終焉の夜明け団』の狂信者の奴らかもしれないぞ! 」
「ああ、しかも、その見立てが正しけりゃ、爺さんが見たのは奴らが作ったキメラだ。よりによってキメラがこのアークソサエティ内にいる可能性があるなんて! 」
「早いとこ、薔薇十字教団の教団本部に報告に行った方がいいぜ」

 自警団員たちは浄化師たちが集まる薔薇十字教団に赴き、事の次第を余す事なく伝えた。
 アレイスター・エリファスを狂信し、その復活のためならば禁忌魔術の行使をも厭わない「終焉の夜明け団」は、教団からも、発見し次第即刻捕縛もしくは処刑の命令が通達されているほどの危険な集団だ。
 特に本件は、禁忌魔術「ゴエティア」が行使され、凶暴な合成生物「キメラ」が生み出されている可能性が高い。

 直ちに教団に所属する浄化師たちに狂信者捕縛とキメラ殲滅の指令が発令された。

 君の志願を待つ!




~ 解説 ~

・貧民窟の古井戸について

水は枯れており、できるだけわかりにくくカモフラージュされた縄梯子がかかっており、底に降りられるようになっている。
底からは何者かが秘密裏にコツコツ掘ったのか、水を湛えていた時の水路の名残か横穴が続いている。
横穴の奥は深く、小規模ながら迷路のように入り組んでいるようだ。

・指令について

目撃証言から横穴の奥に何者かが潜んでいるのは確実で、それは凶悪な狂信者集団「終焉の夜明け団」である可能性が高い。
禁忌魔術を一人で行使する事は考えられず、狂信者どもは複数いる可能性が高い。
「終焉の夜明け団」の狂信者は、組織の実態を掴むための情報源となるため、できる限り捕縛し、教団に引き渡すことが望ましい。
しかし、禁忌魔術の行使が想定される以上、処刑対象であることは代わりないため、戦闘の状況で殺害してしまっても罰せられる事はない。
奴らが禁忌魔術を使うために用いる魔道書があるはずだ。捜索して教団に提出せよ。
キメラは禁忌魔術「ゴエティア」によって、魔術により複数の生物を合体させた非常に不安定な生物であり、短命であるが非常に凶暴で放置すると多大な被害も考えらえる。今回の指令には、このキメラの討伐も含まれる。
このキメラはその羽の形状から推理するに蝙蝠の特性を持っているらしい。また、今までの目撃証言は夜間に限られている。
目や口内の赤は、身体の内部で燃え盛る炎のようだ~という目撃証言があるため、キメラは火気の魔力属性と見られる。


~ ゲームマスターより ~

「終焉の夜明け団」の設定と禁忌魔術の世界観を使ってみたく、戦闘もののエピソードを書いてみました。
探索はほどほどにバトルが楽しめるように設定を考えました。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

セアラ・オルコット キリアン・ザジ
女性 / 人間 / 悪魔祓い 男性 / 生成 / 断罪者
■目的
狂信者捕縛
キメラ討伐
魔導書回収

■捜索
キメラが蝙蝠型ならってことで昼に行くよ!

偵察を重視
横穴ではランタンの光量抑え足音も潜め
迷子防止のためキリーにマッピングして貰うね

足跡や音に注意して終焉の夜明け団の根城を探すよ

■戦闘
根城を発見したら
「薔薇十字教団です!抵抗しないで!」
警告と同時にDE1で奇襲

基本ペアで敵1体ずつに当たるよ
人数で負けてるなら狭い通路へ引き込みたいな

魔術真名を唱え
キリーが前衛、わたしは後衛で援護
狂信者を追い詰めたら降伏勧告し縄で捕縛

キメラは全員で当たりたいけど襲ってくるならわたし達で優先して対処するね
スキルも出し惜しみしない!

魔導書も忘れず回収
処分されたりしないよう注意だね
ルシ・フェルツ フォンサー・ダルシュ
男性 / エレメンツ / 占星術師 男性 / アンデッド / 墓守
【目標】
キメラ討伐
狂信者の捕縛、魔導書の捜索と確保

■捜索
・井戸周りを注意深く調べ、まずは縄梯子を見つける
・下へ降った後、ランタンを駆使して横穴を調べよう
まさか私達が表で人助け出来る日が来ようとは、な。
縄梯子…ふむ、井戸にこんなものがあるとは…
この件はここで間違いなさそうだ。

■戦闘
・自身は狂信者捕縛を優先、捕縛後にキメラ討伐へ
・スペル詠唱後、MG1で魔力攻撃の抵抗力を高める
・敵に近づき過ぎない距離で、狂信者へは死なない程度に攻撃
・キメラへは全力を持って攻撃を繰り返す
終焉の夜明け団…お前からはまぁ、後でゆっくりいろいろ聞こうか。
その為にも今は眠ってくれると助かる。

・戦闘終了後、周囲警戒
…終わったか
Eva・Schneid クルハ・リヴァルツェ
女性 / エレメンツ / 魔性憑き 男性 / ヴァンピール / 断罪者
・目的
キメラ討伐
狂信者捕獲、魔導書捜索と確保

・昼間に井戸を注意深く調べ、縄梯子を見つけ下へ降る
・井戸を調べる際はランタンで明かりを確保
住民の皆さんもこんな近くに妙な影が潜んでいたら
…不安で仕方ないですよね。
皆さんの為にも早めに倒しましょう!

・見つけ次第戦闘開始。共にスペルを唱えBD1発動
・狂信者は逃亡の可能性を考え、優先的に対応し捕縛を目指す
・近づき過ぎないように間合いを見ながら攻撃
・狂信者を縄で確保後(最悪討伐後)、キメラ対応へ移る
見つけましたよ!
狂信者は可能なら捕縛との事…私達はまず彼を優先します!
私は人殺し等しません、この信念にかけて!

・戦闘終了後、周囲を注意深く確認
何とか…なりました。
薙鎖・ラスカリス モニカ・モニモニカ
男性 / アンデッド / 陰陽師 女性 / 人間 / 魔性憑き
目標は、キメラ駆除と狂信者討伐、可能なら捕縛し連行。
存在すれば魔導書を回収し教団に届ける。

仲間と予め行動方針をすり合わせ、足を引っ張らないようにする。

仲間と昼に古井戸へ。
梯子が破壊された時に備え、予め半日連絡無い時は確認にくるよう要請。

探索時は可能な限り、射撃武器持ちを囲む隊列を提案。
上方含め分担警戒し、コンパスで方位確認しつつ静かに進む。

交戦時は対狂信者を主に担当。
まず周囲に隠れる狂信者有無確認し、発見し次第仲間に報告。

基本的に、薙鎖が符で牽制し、その間にモニカが懐に飛び込み殴る。
狂信者は動きが止まるまで警戒を解かず殴り、息あれば捕縛。
必要なら敵の服の袖を裂き、猿轡に。


~ リザルトノベル ~

 先日、この一角で奇妙な殺人事件が起こり、目撃証言からその事件に危険な狂信者集団「終焉の夜明け団」と、忌むべき禁忌魔術によって生み出された合成生物キメラが関係している可能性が極めて高いことが判った。
 この怪異極まる事件の捜査・解決に、四組のエクソシストが派遣された。
「ここだね、事件の前後に奇妙な声とか物音が聞こえたっていう井戸は」
 先頭を歩いていた人間の悪魔祓い、セアラ・オルコットは振り返って、メンバーに声をかけた。
「確かに証言通りっす。下に降りるための縄梯子がありますぜ」
 セアラのパートナー、半竜のキリアン・ザジは井戸に駆け寄り、身を乗り出して下を覗き込みながら言った。キリアンが喋るたび咥えタバコの煙が微妙にたなびく。
「あぁ。古井戸にこんなものがあるとはな。ここで間違いなさそうだ」
 ルシ・フェルツというどこか小国の王子様然としたエレメンツの青年が、能面のように動きのない表情で呟いた。彼のパートナー、フォンサー・ダルシュというアンデッドが彼の傍で必死に頷いている。フォンサーはルシのことをパートナーというより忠誠を尽くし付き従う者と考えているようだ。
 うっすらと見える井戸の底には水の気配はなく、ただ墨汁の染みのような暗がりが口をあけている状態だった。
「こんな近くに妙な影が潜んでいたら、付近の住民の皆さんも不安で仕方ないですよね。住民の皆さんのためにも早めに解決しましょう!」
 赤髪を後ろで編んだ真面目そうなEva・Schneidというエレメンツの少女が口を開く。
「エファ、初陣ですからそんなに気負わずに行きましょう」
 エファの言葉に緊張を読み取った彼女のパートナー、クルハ・リヴァルツェというヴァンピールが、いかにも物腰が柔らかさそうな紳士然とした態度でたしなめる。
「わ、私がそんなに硬くなっているように見えます? クルハ、あなたも怖いからそんなことを……」
「ただ、世界各地で様々なテロ行為を働いている『終焉の夜明け団』のアジトらしきところに踏み込むんですからね。慎重に、かつ用意は周到に、ですよ」
 エファのクルハへの反論を遮るかのようにアンデットの薙鎖・ラスカリスが口を挟む。
 彼のパートナーのモニカ・モニモニカが応えて、
「心配ないわよ。ナギサは怖くなったらワタシに任せておけばいいんだからね。あ、それと縄梯子を壊されたりなんかした時のために、半日連絡が途絶えたら捜索隊出すように手配しておいたから」
 
「よし、じゃ、降りよう!」
 セアラが号令を出すと、ちょい待った、とキリアンがタバコを地面に捨て足で火をもみ消した。
「タバコ、消しときまさぁ。まだ吸えるんで名残は惜しいが匂いで感づかれたらかなわねーんで」
 一行は、あまりランタンの光量を強くしたくないということで、1ペアに一人ずつランタンに灯を入れ、縄梯子を伝って光を吸収するかのような薄暗い闇の世界へと降りていった。
「やっぱり間違いないな。怪しげな奴らも、怪物もここから来てる」
 ルシは井戸の底に降りるなり、底の砂地に人の足跡と獣の足跡が多数残っているのを見つけた。
「よし、じゃあ進もう。物音は極力少なくね。キリアン、マッピングお願いね」
 セアラがそう言うと、キリアンは悪戯っ子のような微笑を浮かべて頷く。
 一行はひとまず地面の足跡が一番はっきりしている方向を探索することに決めた。横穴は、井戸水の水流が作ったものにしては異様に大きく、やはり人の手によって何らかの目的のために掘られたものに違いなかった。
「なんか気味悪い音、しませんか?」
 クルハが掌を耳に持ってくるジェスチャーをしながら、メンバーに耳を澄ますように促す。低く地鳴りのような、地の底から響くような音がする。その音はいくつか分岐している穴のうちの一つから響いていた。
「怪しいな。そちら行ってみよう」
 ルシの言葉にフォンサーが従順に頷く」
「なぁ、フォン。裏稼業に身をおく私たちが、こうやって表に出て人助けなんてのができるなんてな」
「オレは、ルシ様の行かれるところどこでもついて行きますから!」
 フォンサーは自分の言葉にまた深く頷くようにしてルシを見た。
「敵は近いかもね。ねぇ、みんな、ここで一旦、隊列を整えましょう」
 モニカが提案し、射撃武器や魔術系武器を得意とするメンバーを近接武器を持ったメンバーが護衛するような形をとる。

「こんなところに、こんなドアが……」
 薙鎖が驚いたように呟く。
「ナギサ、大丈夫?」
 モニカが驚愕しているような薙鎖を気遣うように言う。
 土肌がむき出しの薄暗い横穴には似つかわしくないぐらい重厚に作られた木製のドアが、唸り声を頼りに奥に進んだ一行の行く手を阻んでいた。
「ここ、だよ、ね?」
 セアラが息を飲むように、やっと声を出す。
「の……ようっすね……」
 キリアンも神妙な顔つきになって応える。
「よし、開けよう!」
 ルシが木製のドアに手をかける。フォンサーが手を添え、二人で注意深く音すら立てないようゆっくり開いていく。極めて最小限の開きに留め、一行は一人ずつドアの内側に滑り込んでゆく。
 ドアの中はかなり広くなっている区間だった。もとは地下にできた広い空間だったようだが、所々に木材での補強が入っている。松明が設置されておりかなり明るい。一行はランタンの灯を消した。
 間違いなく、何者かが意図して潜伏している空間だった。
 幸運なことにドアのすぐそばに、ここに潜んでいる者たちの使う物資が入っていたのだろう木箱が所々に積んであった。一行はペアごとに木箱の陰に身を隠した。お互いの 声は届き合う距離に分散しており、落ち着いて索敵と情報共有をするには御誂え向きだ。
 一行は各々の見える位置から周囲の状況を探る。かなり広い空間のドアから右側の方向に三人の人影が見えた。ローブを着ているように見える。住民の見た『怪しい者』の姿に符合する。『終焉の夜明け団』だ。
 そして奴らがいる方の反対側、低い唸りの発生源。漆黒の塊が見える。
 次の瞬間、その黒い塊から一対の蝙蝠の羽が一瞬羽ばたき、すぐに閉じた。おそらく、あれがキメラだ。
「『終焉の夜明け団』の奴らと思しき人影が三つ。で、やはりキメラがいる。キメラと奴らの間には多少距離があるんすね。先に狂信者の奴らを処理して、落ちついてキメラの相手するんが良くないすか? みなさん」
 ドアの正面側の物陰に陣取ったキリアンが分析する。
「じゃ、彼らに警告を発して……」
 と、物陰から立とうとするセアラの肩に手をかけて制する。
「と、お嬢。奴ら、まだこちらに気づいてないんでスペル唱えて準備してから、先制しましょうや」
「じゃ、フォン」
 ルシはフォンサーの手を取り、ゆっくり目を閉じる。口の中で真名を詠じるとルシはさらにファンサーの指に固く自身の指を絡める。
「ル、ルシ様……」
 フォンサーは一瞬戸惑うが、その手を伝って大いなるパワーの流入を感じる。
「ルシ様! オレ、ルシ様のこと絶対に守ります!」
「フォン。私のことだけではなく皆のことも頼む」
「わ、わかりました!」 
「いい子だ。行くよ」
(ル、ルシ様カッコいい……)
 ルシは全く表情を変えず、狂信者からの魔術攻撃に備える。『オラクル・タロット』の効力がある以上、それほど気に留める攻撃ではないからだ。そのまま物陰から躍り出てマナ・ディスクから攻撃を繰り出す。命中はしなかったが敵の一人の足元をかすめ、その敵は手をついて倒れる。ローブの者たちは奇襲に慌て対応の一手が遅れる。フォンサーはその隙に自身の鎌に『シールドタックル』を纏わせ、ルシが態勢を崩した敵に一閃を加える。敵はよろよろと少し後退したが、致命傷ではない。
 怯んだ敵に追い討ちのルシのマナ・ディスクからの攻撃が飛ぶ。右足に命中するが、敵は懸命に踏みとどまる。
 逃げながら漸く攻撃態勢を整えた敵の一人がルシに光球を放つ。魔術防御の力が作用し、右腕の袖を焼くに止まる。敵はもはやいう事を聞かないほど痛手を負った足を引きずり、撤退する。
「私たちも……」
 セアラがスペルを唱えるためキリアンに手を差し出す。キリアンが手を握ると少し震えているようだ。
「お嬢。怖いんすか?」
「ち、ちがーう! キリアンたらこんな時に!」
「しっ。詠唱前に気付かれちまいますよ。大丈夫。お嬢、援護頼みますよ」
 二人は目を閉じ、セアラは魔術真名を唱える。力が湧くとともに少し落ち着きを取り戻したセアラは『ワーニングショット』を放った。狂信者の左腕を射抜くが、敵は短く呻いて踏みとどまる。キリアンが普段の猫背からは想像できないスピードで、その動きの鈍った狂信者の一人に斬りかかる。敵の右肩から鮮血が迸る。呻いた敵は至近距離からの魔術攻撃を試みようと口内で静かに呪文を唱え、その掌に光球ができかかる。
 キリアンの危機を察知したセアラが二発目のボウガンをセットするが、先に敵の手から放たれた光球がキリアンの脇腹をかすめる。大きく態勢を崩したキリアンに向けて、敵は馬乗りになって押し倒し、今度はゼロ距離で光球を放とうと再度、詠唱を始める。
「キリアン! だめ!」
 相棒を傷つけられ動転したセアラは無我夢中でボウガンの狙いを定めようと構える。
 敵が光球を放とうと振り上げた掌をセアラの矢が光の尾を引き、射抜く。敵は大きな苦痛の叫びとともに崩折れる。
「お嬢。ありがとさんです! こいつ、捕縛するっしょ!」
「キリアン、怪我は?」
「全然平気っすよ」
 敵の光球が掠め、少し出血した脇腹を庇いながら、キリアンは敵の捕縛に取り掛かった。
 仲間を一人囚われた敵は一旦物陰に隠れた。
「あそこにもう一人! モニカ、モニカ、みんな、危険です。もう一人いますっ……!」
 戦闘前に確認できなかった敵を見つけ、薙鎖が動転する。すかさず傍のモニカが混乱する相方の肩に手をかけ、優しく呟く。
「ナギサ、落ち着いて。護符うって。ワタシが切り込む!」
 唾を飲みながら小さく頷いた。
 敵を正面に見るところまで躍り出て、まじない護符で攻撃を繰り出す。そのうちの一撃が軽く敵の左足をかすめ敵の小さな呻きが聞こえる。薙鎖に反撃することだけに気を取られた敵が足の痛みを堪えて一歩前進すると、そこに持ち前のダンサブルな素早い動きでモニカが立ちふさがり、腹にバトルグローブの一撃を加える。敵の動きが止まる。モニカにとって敵を捕縛するにはこれだけの隙でも充分だ。手と足を折り、敵の衣服を破り猿轡と手足の捕縛をする。
 一方、先ほど身を隠した敵の行方を目で追っていたエファ&クルハ組は、うまく敵の背後に回り込む。
「クルハ、スペルを唱えましょう」
 エファが差し出した手を優しく両手で包み、笑みを浮かべて頷く。
「エファ、うん。きっとうまくいきますよ。いざとなったら私が狂信者なんてブチ殺してやりますから」
「何言ってるんですか! 捕縛対象ですよ!」
(心配して、わざと言ってくれてるんでしょうけど、なんで私……)
「さぁ、詠唱です」
 緊張でエファの指がいつもより強くクルハの指に組み付く。力がみなぎり、エファの落ち着きも少し戻ってくる。エファは敵の攻撃に備え、『パーフェクトステップ』の効力を受けていることを確認し、敵の扇動をするべく物陰から身を敵前に踊り出す。エファの姿に気を取られた敵を見て、クルハは『クロス・ジャッジ』を口の中で小さく唱えながら接敵し、敵に致命傷を与えなうように足をめがけて攻撃を繰り出す。十字の閃光が走り、敵の右足から血がほとばしる。捕縛に向かったエファに直接攻撃を試みた敵は、華麗に身を翻され、負傷した右足から地面に崩折れ、二人のエクソシストに包囲され戦意を消失した。

 一方、先ほどルシ&フォンサーからの攻撃を受けた敵が足を引きずってキメラの傍に辿り着く。今やキメラは黒い塊ではなく蝙蝠の翼を大きく広げ、ライオンに似た鬣のある身体を震わせ、その口を両目から炎のような赤が垣間見える。ただ、その場で哮り狂うだけで移動をしない。
 キメラが動かない謎は、その首に光っている重厚な鉄の首輪と鎖にあった。手負いの敵は、それを解除しようとしているようだった。
「何をする! そいつの呪縛を解けば、いまの我等では制御できんぞ! こいつらはもちろん我々も全員死ぬぞ!」
 エファ&クルハ組に捕縛された敵が叫ぶ。
「こいつらは『薔薇十字教団』のエクソシストだ。同じアレイスター・エリファス様の創始した組織に居ながら信仰を持たず我々の邪魔をするのであれば、我はキメラに喰われても、こやつらを殺す!」
 敵が秘密の手順で回転式の錠を回すと、キメラを呪縛していた首輪は砕け、キメラは一飛びで広間の中央まで躍り出た。
 口からマグマ状のヨダレを垂らし、背には大きな蝙蝠の翼を有する漆黒のライオン。目撃情報では野犬と称されていたが、その実態は恐るべきものだった。
「さぁ皆さん、死にたくなければこの化け物を倒さなければ!」
 ルシが声を上げる。音量は大きいが表情は普段の仏頂面から変わらない。ルシにもはや絶対服従以上の感情を持つ相方のフォンサーにとってはそれが毅然とした冷静さに感じられ、その信頼が自身の力になるのを感じた。
「ルシ様の命令だからな、あんたらみんな守ってやる!」
 キメラの前面に躍り出たフォンサーの鎌が空気とともにキメラの右足部分を切り裂く。もう一度『シールドタックル』を纏わせて繰り出した攻撃だったが、少し浅い。キメラは攻撃者の方に向き直り、短い咆哮とともに口から火球を放つ。危機一髪、フォンサーは身をかわすが右腕は火気の煽りを受け、鎌を手放してしまう。
「フォン!」
 相方をフォローするマナ・ディスクからの一閃はキメラの右目にヒットする。
 怯むキメラは蝙蝠の翼をバタつかせて上空からの反撃を試みているようだ。
「させねぇっすよ! お嬢! ビビってねぇっすよね?」
「全然ヘーキ!」
 セアラの魔術の力を纏ったボウガンの矢の連射も、数本は当たったはずなのに、キメラの動きを止められない。そこでキリアンが前進する。脇腹の怪我の影響か、少し足が重いキリアンを狙って、またキメラの口から光球が生成されゆくのを見たセアラがボウガンを放つ。今度は光球を放つために薄く開けた口にヒットする。急所ではないようだったが光球は消え、キメラは頭を下げる。好機と見たキリアンは低くなったキメラの頭頂部から一直線に太刀を繰る。
「今度はこっち!」
 キメラの右側にポジションを取った薙鎖が動きを鈍らせたキメラの翼に護符を放つ。右側の翼が護符の発する光に灼かれ、開いたままになった。モニカは自分の素早さを信じ、キメラに再接近するとキリアンがつけた脳天の傷に渾身のナックルの殴打を浴びせる。
 激しく脳天から血が噴き出すが、まだキメラの足元は力強い。
 セアラはレンジを取り、集中が続く限り『ワーニングショット』を放つ。両前足に複数本、光の尾を引く矢が当たり、キメラの動きを少し止めるが、キメラの吐く火球がセアラのところに飛ぶ。直撃は免れたようだが、セアラは足場から転げ落ちた。
「お嬢!」
 キリアンが普段の軽率な雰囲気からは想像もできない声で叫ぶ。
「だ、大丈夫だよ!」
 うずくまりながらもセアラは応答した。
 前足が利かなくなったキメラを見て、ルシがキメラの後方に回り、今度は至近距離からマナ・ディスクから右後ろ足のアキレス腱近くに攻撃を仕掛ける。
「ル、ルシ様っ!」
 フォンサーが、もう一度、自身の鎌に『シールドタックル』を纏わせ、必死の形相でキメラの眼前に躍り出る。
 キメラは恐ろしい燃える目でフォンサーを捉え、火球を吐こうと一層頭を下げた一瞬に、鎌の一閃を流血激しい脳天の傷に見舞う。
 激しい咆哮。その振動が空間の土壁の一部を崩す。
 もはや狙いの定まらなくなったキメラの口からの火球をかいくぐり、エファとクルハが動きをシンクロさせた一太刀を、キメラの首の両サイドから袈裟斬りに浴びせる。
 キメラは最期に一際大きく咆哮し、天井に向けて火を吐くと、その大きな身体は崩折れ、途端に真っ黒な灰になり四散した。

「終わったな」
 ルシが短く表情を変えずに言い、一行は互いに負傷の有無などを確認し合った。
 魔術による回復のスキルを持つものがいなかったので、一行は手持ちの薬を分け合って対処した。
 キメラの生成は禁術の中でも非常に難しく、攻撃力は高いが不安定で短命な個体が生まれることで知られている。厳しい戦いではあったが、今回はその不安定さが助けになった。だが、こういう事態が繰り返されれば、いずれ術者のレベルも飛躍的に向上し、無差別の多数の者を殺傷するに足る個体を生み出す事ができるだろう。
 捕らえた狂信者を手負いであることをまったく意に介さず、クルハが捕縛した敵を吊るし上げて尋問をしていた。
 敵の供述に従って、広間の一角から『終焉の夜明け団』が所持するとされる魔導書が発見された。魔導書は写本や偽書も多いが、その真贋の判断はエクソシストの役目ではない。
 ただ、驚愕すべきは、未然に大事は防がれたといえ、ここアークソサエティ内で魔術を用いたテロをも辞さない者共が密かに活動し、禁術まで用いてキメラの生成まで目論んでいたことである。
 敵はベリアルのみならず。
 一行は来るべき、この先の長き闘いの日々に心巡らせながら、教団本部への帰還の途についた。


闇夜に蠢くもの
(執筆:terusan GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2018/03/23-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。  
 

[14] 薙鎖・ラスカリス 2018/03/27-23:56

駆け込みで申し訳ありませんが、参加させていただきます。
薙鎖・ラスカリスとパートナーのモニカ・モニモニカです。
皆さん、よろしくお願いします。

交戦時は主に狂信者の横槍を警戒し対応する形にしました。  
 

[13] ルシ・フェルツ 2018/03/27-03:35

私が発言出来てないうちにもう一組集まっていたか。
エファ君とクルハ君もよろしく頼む。

粗方の内容は把握した。
私の方も昼間に調査するのは問題ないと思う。
取り敢えず、やれる事はやろう。私も出来る限りを尽くす。  
 

[12] セアラ・オルコット 2018/03/27-01:40

あ、今度はうまくいった!

というわけで、もう今日いっぱいで出発だね。
3組いればきっと大丈夫、どうにかなる! 頑張ろうね!  
 

[11] キリアン・ザジ 2018/03/27-01:37

もしかしてアイコンだけ反映されたりするんすかね……と、懲りずに発言。
コレでお嬢の顔になってたら勘弁してやってくださいよ。

エファさんの言う通り、地下道に昼夜あんのかって思わなくもないんすけどね。
まーやれるだけやってみやしょ。損はなさそうなんでねぇ。  
 

[10] Eva・Schneid 2018/03/26-20:04

セアラさん方は先日はどうも。
なんとか3組……戦力は集まったでしょうか?
私達も頑張りますね!

なるほど……昼間に、ですか。
そもそも横穴内で昼夜を感じているのでしょうか……ちょっと気になりますが
でも戦場の時間帯について特に記載は見受けられない?ようなので
昼間に向かうの、私も賛成します。  
 

[9] セアラ・オルコット 2018/03/26-01:44

あ、連続になっちゃうけど。
3組になっても、戦闘は基本的にペアで当たってくのがやりやすいかなって。
どちらにせよ、敵の数がわかんないもんね。

……ってキリーが言ってます!  
 

[8] セアラ・オルコット 2018/03/26-01:37

あ、エントランスで声かけてくれた人! あのときはありがとう。
来てくれたんだ、心強いなっ!
エファさん、クルハさん、改めてよろしくね!

改めて解説読んでたら、キメラは「蝙蝠の特性を持っている」って書いてあるね。
それと「今までの目撃証言は夜間に限られている」……つまり昼間は、寝てる?
もしかすると昼に行けば、キメラが動けないとか、弱った状態で戦闘できるかも?

というわけで、昼間に行くことも提案しとくねっ!  
 

[7] Eva・Schneid 2018/03/26-00:08

出発が思ってたよりも早かった
(と言うか勘違いしていまして)……ので
こちらに来ることが出来ました。

初めまして
私は魔性憑きのEva・Schneid……エファ・シュナイダー。
こちらの方は断罪者のクルハ・リヴァルツェさんです。
よろしくお願いしますね。  
 

[6] ルシ・フェルツ 2018/03/25-22:22

発言に間が空いてすまん。
……そうだな、取り敢えず2人のうちはそうなるだろう……
私達もそれで構わない。全力を尽くそう。

……まぁ、今夜も出発組がいるようだから
あと何組かこちらに来てくれると助かりはするが。どうなるだろうな……。  
 

[5] セアラ・オルコット 2018/03/25-14:41

あっ、人が増えた! よかったぁ。
ルシさんフォンサーさん、よろしくね!

ちなみに前の発言はわたしの名前になってるけど、キリーです!
まだ「交代」がうまく動かないみたいだね。
わたしはあんなに口悪くないしっ。

戦闘はペア毎の2人で1体の敵に当たるのがいいかなって思うよっ。
ちょっと困りそうなのは、狂信者と戦ってる間にキメラが出てきたときだよね。

1組がキメラを優先して押さえて、他の組は残りの敵を倒してから
対キメラに合流って流れならうまくいきそう、かな?
ルシさん達がよければ、キメラはわたし達で引き受けるけどどうかな?

狂信者たちを全部倒してから、皆でキメラと戦えるならそれがいいんだけど。
状況がわかんないもんねっ。  
 

[4] ルシ・フェルツ 2018/03/25-04:43

何やら人手不足と聞いて参加させてもらった。
私は占星術師のルシ・フェルツ。
隣のは墓守のフォンサー・ダルシュだ。
よろしく頼む。

……さて
出発出来る人数に達成出来てるかはまずは置いといて
2組でも成功出来るよう、私達も尽力しよう。
あなた方の作戦は把握している。私もそれに従おう。
取り敢えず明かりとロープは私も持ってきておこうか。  
 

[3] セアラ・オルコット 2018/03/25-02:03

さーて、ぼさっと待ってるのも芸がないんで作戦でも考えますかねー。
どうせお嬢はなんも考えてねーだろうし。

敵の根城に踏み込む状況なんで、偵察が重要でしょーね。
灯りは横穴へ入ったら抑え気味のほうがいいし、足音も潜めたいかなと。
迷わないようにマッピングもしたいところっすね。

狂信者との戦闘はできるだけ狭いところでやりたいっすねー。
こっちが数で負けてる場合、戦場は狭いほうがいい。
俺が前へ出て、お嬢に援護してもらって各個撃破してけば無理はねーっしょ。

ヤバそーなのはキメラっすねぇやっぱ。
狂信者と同時に出てこられるとキツイ。
そんときゃ俺が相手するんで、お嬢に狂信者は任せることになりますかね。  
 

[2] セアラ・オルコット 2018/03/23-01:49

悪魔祓いのセアラだよ。パートナーは断罪者のキリー。
まだわたしだけだけど、とりあえずよろしく! 頑張るよっ!

えーっと。初めての指令だけど、やることいっぱいあるね?
・横穴の探索
・終焉の夜明け団&キメラと戦闘
(可能なら狂信者は捕縛)
・魔導書の捜索と確保

横穴ってことは暗いよね。灯りの準備がいるかな?
捕縛用のロープとかも必要そう?
終焉の夜明け団は複数の可能性が高いらしいから、戦闘もちゃんと考えないとか。キメラ、強そうだし……

……うん。誰か来てくれるの待ってる!