~ プロローグ ~ |
天高く昇った7月の太陽から燦々と降り注ぐ光を浴びてきらきら揺らぎ輝く、澄んだターコイズブルーの海。海底まで見える透明度の高い海水を無数の魚達が優雅に泳いでいる。真っ白な砂浜が広がるビーチに打ち寄せるさざ波は海水浴客を歓迎しているかのようだ。 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、もしくはお久しぶりです。十六夜あやめです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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こんな綺麗な海なのに誰もいないなんて… ラニ:しっかり遊ぶ、もとい警備をしなくちゃね! ラス:本音が出てるぞ 波打ち際で遊ぶわ 靴と靴下はあたしもラスも脱いでおく でもいざって時には動けるように持っておかないとね 水着?恥ずかしいから持ってきてないけど!? ラス:本当に着なくていいのか? ラニ:そういうのが似合うのは「アイツ」みたいな美人よ ラス:…そりゃあ似合ってたかもしれないけど 海なんて来たことないし、楽しまなきゃ損! 水の掛け合い、あたし夢だったのよねー! ラニ:ほーら突っ立ってたら海水の餌食よ! ラス:…上等だ、ずぶ濡れにしてやる ん?鐘?…そんなのあっても 「「あんた(お前)しかいないのに」」 |
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結婚式に参列してもいいんですか?わぁ、ありがとうございます。 結婚式に参列する機会なんてなかなかないので嬉しいです。 花嫁さん綺麗ですね。花婿さんも幸せそう。 私もいつかこんな風に結婚式を挙げる時がくるんでしょうか? 盛大でなくてもドレスを着て旦那様に愛を誓ってそれだけ…。 ウエディングドレスは憧れますね。 着るならやっぱり白いドレスでしょうか。 他のお色のドレスも素敵ですが結婚式って言ったら白いドレスのイメージが強くて。 私もいつかは素敵なお嫁さんになりたいです。 そのお相手、ですか? 今は残念ながら…いえ、一緒に居たい人はいるんですよ。 (そっとノグリエの手を握る) 私の事をとっても思ってくれる人ですから。 |
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※双方アドリブ歓迎です 教会で結婚式をやっているみたいだね。 ララ、僕たちも参列してみる? (教会の神父に) 教団の者ですが、結婚式の警備という名目で参列を願いたいのですが、宜しいですか? (ララエルにいたずらっ子っぽく笑い) ふふ、是非! だってさ。 (新郎新婦が出てきた時に、フラワーシャワーを浴びせる) お二人とも、お幸せに! 大丈夫だよ、ララも花嫁になれる。 (ララエルを真剣に見て) ララエルも綺麗な花嫁になれるよ(優しく微笑む) |
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●ユン あたしは結婚式初めて、かも でも失った記憶の中にもしかしたら… 気が付けば覗き込む近い顔 あたしの顔が赤くなる もう大丈夫 フィノくんが安心させてくれるから 教会行こ きれい…(すん)いい香り 教会の人に渡された花籠は浪漫 チャペルから降りてくる新郎新婦に息を飲み とても綺麗で幸せそう 花びらをこれでもかと撒いて祝福 将来、フィノくんの隣は…あたしの隣は…誰かな まさかね 赤い顔でフィノくんの横顔を覗くと 泣いてる 気付けなくてごめん 幸い皆の目はあたし達に向いてない お姫様だっこで人知れず庭の隅へ 寄り添って手を握り きみが泣き止むまでこうしてるね 涙の理由はいつかでいいの 教えて欲しいな ※口調 どもり気味で句読点多め 心の中は普通 |
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◆時間帯 ・結婚式参列後 唯「結婚式…とっても素敵、でしたね…!」 瞬「そーだねぇ…二人とも幸せそうだった!」 唯「…本当に…幸せそう…でした…」 (結婚式は…憧れますけど…きっとわたしには無理… だって好きな人に好きと言えてないんですから…) 唯「ま、瞬さん…あの、もう少し海を見ていても良いですか…?」 (このまま帰るのが勿体なくて… あ…わ、我儘だったでしょうか…!) 瞬「本当?俺もそー思ってたんだー!へへ、嬉しー!」 唯「あ、ありがとうございます…!」 (よ、良かった…) ◆幸福の鐘 ・少し暗い表情で鐘を見つめる唯月 唯(あの鐘…気になりますが… そもそも瞬さんと恋人でもないですし… でも見るだけなら…良いです、よね?) |
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~ リザルトノベル ~ |
●ラニ・シェルロワ/ラス・シェルレイ
燦々と降り注ぐ光を浴びてきらきら揺らぎ輝く、澄んだターコイズブルーの海。真っ白な砂浜が広がる、世界でも有数の美しい海岸『ヴェネリア』のベレニーチェ海岸だが、何故か殆ど人がいない。 「こんな綺麗な海なのに誰もいないなんて……」 赤髪のおさげをなびかせながら寂しそうに海を見つめる『ラニ・シェルロワ』。赤色をした右目と青色をした左目のオッドアイが薄っすら潤んでいた。普段は元気で明るい性格だが、さすがにそこまで楽観的ではない。 人がいない原因はここ最近海にベリアルが現れるようになったという報せがあったからだ。人々は不安がり、寄りつかなくなってしまった。夏のビーチに人がいないことほど寂しいことはない。 「しっかり遊ぶ、もとい警備をしなくちゃね!」 「本音が出てるぞ」 ラニの隣に立つ深紅色の短髪をした青年。右目が青色、左目が赤色のオッドアイで切れ長の目をした『ラス・シェルレイ』が冷静に言った。 そのラスの言葉を聞き流すようにして、ラニはしゃがんで靴と靴下を脱いでいた。ラスはその姿を見て何も言えず、只々見下ろしつつ、自身も渋々に靴と靴下を脱いだ。 「これは安全に遊べるかどうかの警備なんだからっ! 勘違いしないでねっ!」 立ち上がって腰に両手を当て、胸を張って威張るラニの姿からは、警備よりも遊びたいという雰囲気が滲み出ていた。だが、どうにも夏のビーチ感が足りない。 「水着は着なくてもいいのか?」 「水着? 恥ずかしいから持ってきてないけど!?」 「なんだそうなのか。でもそれじゃ泳げないだろう」 「あたしは波打ち際で遊ぶわ。別に泳ぐ気はないから水着はなくてもいいの。でも、いざって時には動けるように靴だけは持っておかないとね」 「本当に着なくていいのか?」 しつこく水着を勧めてくるラスにラニは無意識に口走ってしまう。 「そういうのが似合うのは『アイツ』みたいな美人よ!」 「……そりゃあ似合っていたかもしれないけど」 はっとなってラスを見つめるラニ。互いの間に沈黙が生まれた。僅かな時間だが、その瞬間だけは時間の流れがゆっくりとしたような錯覚に襲われていた。打ち寄せる波の音が遅れて聞こえ、一雫の汗が頬を伝って顎先から垂れる離脱感が全身を駆け巡る。白い砂浜へ落ちた汗が弾けた瞬間、全てが元通りに戻る。 「ねぇ! 海なんて来たことないし、楽しまなきゃ損よ! 水の掛け合い、あたし夢だったのよねー! ほーら突っ立っていたら海水の餌食よ!」 「……上等だ、ずぶ濡れにしてやる」 水の掛け合いは2人とも本気だった。何度も打ち寄せる白波を両手で掬っては相手に掛ける。最終的にお互いともに突き飛ばして倒れ、びしょ濡れになった。 「あーおかしい! あなた全身びしょ濡れよ!」 「お前こそ! 人のこと言えねぇな! やっぱり水着着ていた方が良かったんじゃないか? お前だって水着似合うだろ?」 「なに? 何も出ないからね!?」 照れるラニを見て思わず笑うラス。2人にとって、町にいた時には夢のまた夢だった海を全力で楽しんでいた。 ふと手を止めていると、砂浜沿いの奥の丘に上がった所から鐘の音が響いてきた。ベレニーチェ海岸で有名な『幸福の鐘』だ。恋人たちが鳴らすと幸せが訪れるとされ、友人同士で鐘を鳴らすと友情を深め合う有名なスポット。そんな有名な『幸福の鐘』のことを2人は知ってはいたが興味はなく、互いに見つめ合いながら鐘の音に耳を澄ませていた。 「あんたしかいないのに――」 「お前しかいないのに――」 ●シャルル・アンデルセン/ノグリエ・オルト 天高く昇った7月の太陽から燦々と降り注ぐ光を浴びてきらきら揺らぎ輝く、澄んだターコイズブルーの海と青々とした空が地平線の彼方まで綺麗な色を残したまま広がっている。世界でも有数の美しい海岸『ヴェネリア』のベレニーチェ海岸に、薔薇十字教団より「人々の安全・海水浴場の管理」を命じられ派遣された、『シャルル・アンデルセン』と『ノグリエ・オルト』がいた。2人は巡回を兼ねてビーチ周辺を見回り、もとい散歩していた。 白い砂浜を奥へ進んで丘に上がると、恋人たちが鳴らすと幸せが訪れるとされる『幸福の鐘』が見えた。友人同士で鐘を鳴らし、友情を深め合う目的で訪れる者も多い有名なスポットだ。そして、その隣にある綺麗な教会に視線を向けると、そこには多くの人が集まっていた。 「教会で何かあるんでしょうか?」 「なんですかね? もう少し近付いてみましょうか」 2人は周囲を塀などで遮られていない教会へ歩を進めると、そこには白石で作られた噴水があり、色とりどりの花が飾られたアーチが架かり、白馬と馬車が滞在していた。周りにいるたくさんの男女は正装に身を包んで集まっていた。 「わぁ! 今日はこの教会で結婚式があるんですね!」 「そのようですね」 シャルルとノグリエが少し離れて眺めていると、近くにいた教会の方が「よろしければ浄化師の御二方にもご参列願います」と話し掛けてきた。 「結婚式に参列してもいいんですか? わぁ、ありがとうございます。結婚式に参列する機会なんてなかなかないので嬉しいです!」 「結婚式ですか? シャルルが興味があるのでしたら一緒に参列しましょうか。人の結婚式に参列するような日が来るとは思いませんでしたが……。シャルルの言う通りそんな機会はなかなかあるもんじゃありませんしね」 (人の結婚を祝うという気持があまりなかったのもありますが……) 教会の方から「出てくる新郎新婦をフラワーシャワーで祝福してあげてください」と花びらを手渡された。花びら見つめるシャルルはとても楽しそうでわくわくしていた。ノグリエはそんなシャルルを見て微笑んでいる。 教会の大扉が開いて中から、レースを贅沢にあしらった真っ白なドレスを着た新婦と同じく真っ白なタキシードに身を包んだ新郎が姿を現した。ゆっくりと歩いて花道を進んで行く。 「花嫁さん綺麗ですね。花婿さんも幸せそう。私もいつかこんな風に結婚式を挙げる時がくるんでしょうか? 盛大でなくてもドレスを着て旦那様に愛を誓って――」 妄想に拍車が掛かり、笑みがこぼれるシャルルは一層幸せそうだ。 「――ウエディングドレスは憧れますね。着るならやっぱり白いドレスでしょうか。他のお色のドレスも素敵ですが結婚式と言えば白いドレスのイメージが強くて。私もいつかは素敵なお嫁さんになりたいです」 「シャルルの目が輝いていますね。やはり年頃の女の子ですからこういうものに興味があるのでしょうか。シャルルならウエディングドレスも似合うでしょうね。シャルルが着るなら個人的な意見としては可愛らしいものが好みですよ。花嫁さんに憧れているみたいですが……シャルルにそのご予定は?」 (ボクを選んでくれるなら幸せなのだけどね) 新郎新婦が2人の前を通過していく。その際に手にしていた花びらを高く放り投げた。祝福の気持ちを込めた花びらはひらりひらりと舞った。 「そのお相手、ですか? 今は残念ながら……いえ、一緒に居たい人はいるんですよ」 シャルルは通り過ぎって行った新郎新婦の背中を眺め、そっとノグリエの手を握る。 「私の事をとっても思ってくれる人ですから」 ノグリエは握られた手に驚いた。でもすぐに軽く握り返して微笑むのだった。 ●ラウル・イースト/ララエル・エリーゼ 「教会で結婚式をやっているみたいだね。ララ、僕たちも参列してみる?」 「わあっ、結婚式だなんてすてき! ラウル、私も参列してみたいです!」 『教皇国家アークソサエティ』首都エルドラドより南部に位置するルネサンスの地中海に面した、世界でも有数の美しい海岸『ヴェネリア』のベレニーチェ海岸。その景色を一望できる丘の上にある教会で結婚式が行われていた。 ここ最近海にベリアルが現れるようになったという報せがあり、薔薇十字教団より「人々の安全・海水浴場の管理」を命じられ派遣された『ラウル・イースト』と『ララエル・エリーゼ』は、偶然にも巡回中に結婚式の現場に来ていた。 ラウルは教会の神父に話し掛け、参列を希望する旨を伝える。 「教団の者ですが、結婚式の警備という名目で参列を願いたいのですが、宜しいですか?」 神父は「是非お願いします」と一礼した。続けて「神聖な式である結婚式がベリアルによって破壊されたとあっては困る」と誰よりもこの結婚式の成功を願っていた。 ラウルはララエルにいたずらっ子っぽく笑って見せる。 「ふふ、是非! だってさ」 参列の許可をもらい、ララエルは一気に笑顔になって嬉しそうだ。 「えへへ。ふきんしんですけど、こういう時はエクソシストで良かったって思っちゃいますね。こんなすてきな瞬間に立ち会えるきせき、ラウルと私は幸運の持ち主なのかな!」 「そうかもしれないね。今回の指令が無かったらこの場にも参列できていないからね。今日ばかりはベリアルが出ないことを心から願っているよ」 教会の方から新郎新婦へのフラワーシャワーの花びらを受け取った。赤や黄色の花びらを見て今か今かとうずうずするララエル。それを横目で見るラウルは優しく微笑んでいた。 教会の大扉が開き、音楽隊による盛大な音楽と参列している新郎新婦のご家族友人による歓声と拍手が鳴り響く。そして、ゆっくりと新郎新婦が登場する。ふんわりとした純白のドレスに身を纏った花嫁の姿はまるで天使や女神様のように神々しく、隣に立つ花婿の白いタキシード姿に惚れ惚れする声がいたるところから漏れていた。 「お二人ともステキです! おめでとうございますー!」 「あぁ、本当に素敵だね。こんないい天気にも恵まれて、全てに愛されているようだ」 新郎新婦が徐々にラウルとララエルの側に近付いてくる。ララエルは両手いっぱいに受け取った花びらを大きく天に向かって投げる。そよ風に舞う花びらが優しく新郎新婦に降り注いだ。続けてラウルも片手に持った花びらを空に舞いあげて新郎新婦を祝福した。 「お二人とも、お幸せに!」 「ずっとしあわせでいてねー!」 わざわざ参列してもらったラウルとララエルに手を振り、一礼する新郎新婦。二人の顔は希望と幸福で満たされていた。 「新婦さんとてもすてき……いいなあ」 瞳を輝かせて見惚れるララエルにラウルは優しく頭を撫でる。 「大丈夫だよ、ララも花嫁になれる」 ラウルの言葉に喜んだものの、一瞬戸惑ってしまう。ララエルは自身がアンデッドであることを悔やんでいた。 「で、でも私、死んじゃってますし……アンデッドですし、胸に孔があいてますし……」 ラウルは涙ぐむララエルをキュッと抱きしめて何度も何度も頭を撫でる。そして、ララエルの両肩を持って距離を少し開け、真剣に見つめて優しく微笑む。 「ララエルも綺麗な花嫁になれるよ」 ラウルの真剣な眼差しに胸が熱くなるララエル。ラウルの胸の中に飛び込んでそのあたたかさに触れた。 「ラウル……ありがとう」 新郎新婦が『幸福の鐘』を鳴らす。鳴り響く鐘の音は天高く、永遠の愛を誓うに相応しい音色だった。 ●ユン・グラニト/フィノ・ドンゾイロ 天高く昇った7月の太陽から燦々と降り注ぐ光を浴びて揺らぎ輝く教会に備え付けられた噴水。水しぶきを上げながら飛び散る光の粒が、結婚式場として使われている教会をきらきらと輝かせている。 薔薇十字教団より「人々の安全・海水浴場の管理」を命じられ派遣された『ユン・グラニト』と『フィノ・ドンゾイロ』は丘の上から海の安全を監視しつつ、巡回途中に式へ参列することとなった。教会の神父が「浄化師の方々にも祝福していただけないでしょうか」と声を掛けてきたためだ。 「俺は結婚式、久々かな」 「……あたしは結婚式初めて、かも。とっても、きれい」 (初めてなの、かな。失った記憶の中にもしかしたら……) ユンは過去に失ってしまった記憶を探るように考え事をしていると、フィノはそっと覗き込んで顔を近付ける。目と目が合った瞬間、ユンの顔が茹だこのように一瞬で赤くなった。心臓の鼓動は早くなり、鼓動が体の中を駆け巡って、耳が熱い。 よろけるユンの体を支えるフィノは、ユンの左腕を自身の首の後ろへ回し、両手で腰と脚を支えてお姫様だっこで日陰へ運ぶ。その間もユンの顔は真っ赤なままだった。 ユンを丁寧に下ろし、日陰で涼む。ユンも呼吸を整えていた。 「もう平気そうだね。熱いから熱中症じゃなくてよかった。教会、行けるかい?」 「もう、大丈夫。フィノくんが安心、させてくれるから」 フィノはユンに手を差し伸べて微笑む。 「教会行こ」 ユンの手を取ってゆっくりとした足取りで教会へ向かった。 式が始まって少しした後の参列となったユンとフィノは、教会の人から花籠を渡された。 「きれい……とっても、いい香りの花」 すんっと花籠に鼻を近付けて香りを嗅ぐユン。花々から香る柔らかな優しい香りがユンの気持ちを落ち着かせた。そうしていると、チャペルから降りてくる新郎新婦の姿があった。純白のドレスに身を包んだ花婿とタキシード姿の花婿に息を飲み、瞳を輝かせた。 「とても、綺麗で幸せそう。なんて、美しいの……」 花びらをこれでもかと撒いて祝福するユン。頬の筋肉が自然と緩んでしまうほど、ユンにとって新郎新婦の姿は美しく見えているようだった。 「将来、フィノくんの隣は……あたしの隣は……誰なの、かな?」 (まさか……ね) ユンは思い描いている理想が現実になればいいのにと、新郎新婦の背中を見て思った。赤い顔でフィノの横顔を覗くと静かに泣いている。原因は分からないが気付くことができなかった。幸い周囲の目はユン達に向いてない。 「あっち、いこう……」 庭の隅の方へユンは、フィノをお姫様抱っこして向かった。 人の声があまり届かない、静かな庭の隅。そこでフィノは過去のことを思い出していた。いつかユンに過去を打ち明け合えるだろうかと。教会に着いた時、鼓動が早まりフラワーシャワーの花篭にどきりとした。幸せそうな新郎新婦、舞う花びらや祝福の言葉に、今は亡き親戚の結婚式をはっきりと思い出す。堰を切ったように二度と戻らない大事な人達と故郷の思い出が溢れ、泣き崩れてしまった。 落ち着きを取り戻したフィノに寄り添って手を握る。 「フィノくんが泣き止むまで、こうしているね。涙の理由は、いつかでいいの。話せる時が来たら、教えて欲しいな」 ユンの顔を見て、もう二度とこの幸せな光景を奪わせはしないと誓うのだった。 ●杜郷・唯月/泉世・瞬 『ヴェネリア』のベレニーチェ海岸の空は陽が落ちはじめ、焼けるような濃い橙から夜の深い群青へ、水平線にかけて色が変わっていく。太陽に照らされてきらきら揺らぎ輝いていた澄んだターコイズブルーの海は、斜陽によって蜂蜜を流し込んだような艶やかな飴色へと変化している。真っ白な砂浜も夕焼けに染まり、全てが一体と化していた。 正午の強い陽光が降り注ぐ中、薔薇十字教団より「人々の安全・海水浴場の管理」を命じられ派遣された、浄化師の『杜郷・唯月』と『泉世・瞬』の2人は丘の上にある教会を訪れていた。ベレニーチェ海岸辺り一帯を巡回している最中、教会の周りに多くの人々が正装姿で集まっているのを見つけた。近くに寄ってみると結婚式を挙げている新郎新婦に出会った。このような機会に巡り合うのは稀なことで、2人は教会の人に話を通して参列していた。 結婚式参列後、唯月と瞬は丘の上から夕日を眺めつつ、先程の結婚式を思い返していた。 「結婚式……とっても素敵、でしたね!」 「そーだねぇ! 二人とも幸せそうだった!」 「えぇ……本当に……幸せそう……でした」 『幸福の鐘』の横にある椅子に座る唯はうっとりとした溜息とともに笑みを浮かべていた。 (結婚式は……憧れますけど……きっとわたしには無理……。だって好きな人に好きと言えてないんですから……) 唯月は隣に立つ瞬を見上げて話し掛ける。 「ま、瞬さん……あの、もう少しだけ海を眺めていても良いですか……?」 (このまま帰るのが勿体なくて……。あ……わ、我儘だったでしょうか……!) 「本当?俺もそー思ってたんだー! へへ、嬉しー!」 「あ、ありがとうございます……!」 唯月の考えは杞憂に終わり、むしろ瞬と同じ気持ちだったことに安堵する。 陽が徐々に落ちて辺りが薄暗くなると星々がちらほらと姿を現しはじめた。夜のベレニーチェ海岸の空もまた雰囲気が変化してとても神秘的だ。瞬とは逆方向にある『幸福の鐘』を少し暗い表情で見つめる唯月。 (あの鐘……気になります。でも……そもそも瞬さんと恋人でもないですし……。見るだけ……見るだけなら……良いです、よね?) そんな唯月の表情を見た瞬が問いかける。 「いづ、なんで暗い表情……なの?」 「あ、その……何でもないんです」 瞬に気を遣うように笑顔を作り、両手を振って訂正する。 「いづ、最近そればっか。俺じゃ……ダメ?」 悲しげな表情で見つめる瞬に唯月はそっと呟く。 「……少し羨ましいなって、思っていただけなんです……」 「羨ましい?」 「結婚式だなんて……わたしは夢のようで……」 「そんな事ない……!」 瞬は全てを上書きするように、遮るように唯月の言葉を否定した。 唯月をじっと真っ直ぐ見つめ、真剣な眼差しで口にする。 「そんな事言わないで……。俺がいづを、絶対に幸せにする」 「えっ?」 「俺、いづが好き!」 唯月の手をぎゅっと握り締める。掌を伝って瞬の鼓動が唯月に伝わる。熱い。瞬の想いはこんなにも熱く強い気持ちということだろうか。唯月はその気持ちに応えたいと思う一方、何故か嫌な予感がして踏み出すことが出来ずにいた。 瞬は手を放して唯月の隣に座り、そっと引き寄せて抱きしめた。 (本当に嬉しいのに……どうしてこんな気持ちになるんだろう……) 心の奥に深い靄がかかったような感覚がする唯月だった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[5] シャルル・アンデルセン 2018/07/16-19:12
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[4] ラニ・シェルロワ 2018/07/13-22:06
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[3] フィノ・ドンゾイロ 2018/07/12-17:52
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[2] ラウル・イースト 2018/07/12-04:59
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