~ プロローグ ~ |
麗しき水の都ヴェネリア、その中でも一際名を馳せるベレニーチェ海岸は、アークソサエティで安全に海水浴を楽しむことのできる場所として知られている。ルネサンス地区の代表的な観光地だ。 |
~ 解説 ~ |
【概要】 |

~ ゲームマスターより ~ |
緊急指令関連シナリオも七夕シナリオも出したいと考えた結果、海岸で七夕祭をすることにしました。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
![]() |
□着物風ガウン 祓: さすがにケープコートの上からでは嵩張るな。これを一端置かせてもらい、中のローブの上から羽織る グレールは青竜胆の模様か 微かに微笑む「似合っている、な」と 俺は流れるような柳模様を。グレールが「柳の下には幽霊がと言う話を聞いたことがある」とぽつりと零すが「今更幽霊に怯える歳でも無いだろう」と冗談めいて笑い合い □星彩館の広大な庭園 せっかく素敵な衣装を借りているのに、このような美しい光景を散歩をしないのは勿体ないだろうと、二人で散歩へ 庭の端、行き着いた先で笹飾りをやっていると聞いた、その目の前までやって来た。一応、借りてきたペンは持っている だが 俺は、自分の願い事を白紙として柳に吊らした |
|||||||
|
||||||||
![]() |
着物風ガウン:シンプルなもの …ガウンくっそ似合うなお前 なんか悔しい 流しソーメン! おおすげぇ白い何かが流れてく! みてみて、ルド! あ、あ、そうか食べなきゃいけないんだよな ハシは初めて使うけど…それ! ナイスキャッチ!すげぇだろ (難なく箸を使ってるルドを見て) ……なんでもない このソース?につけて食べるのか? すする?スパゲッティみたいに? ズズっ んまい! 清涼感があって夏の食べ物!って感じだな あっさりした風味がすげーうまい! ハッ!夢中になってたわ ルドは楽しんでるかな~とチラっと横目にすると (わずかに変わる和やかな雰囲気にほっとした) ……なんだ、楽しそうじゃん 俺ももうちょっとソーメン食べよ |
|||||||
|
||||||||
![]() |
◆トウマル 流し素麺なる食を求めて。 いや会場では大人しくしてるけどよ。 主催の夫婦にも挨拶して。 わくわく静かに椀と箸持ち竹の前 素麺を掬う。掬いたい。掬えなかった。 ……腹減ったな。 そもそも箸持ってる手が痛ぇし落としそうになるし。 「箸で食ったら、より美味いんじゃねぇかと思って」 諦めてフォーク受け取る 素麺を掬う。掬えた。食べられた。 これ無限に食えるやつでは? 他の客に行き渡ってるか確認しつつ素麺捕獲。 グラは箸使い上手いんだな。 ふうん。俺は名前と顔立ちが二ホン出身ぽいけど 家族の顔も知らねぇし文化にもさほど馴染みないな 気にしてないしアンタも変な気遣いするなよ で。さっきから減らない椀の中身のおかわり。要るよな? |
|||||||
|
||||||||
![]() |
★ガウン 黒地に赤い睡蓮柄 ★宴中 (流し素麺前にて) 素麺とかちらし寿司とか懐かしい感じがするわ…… やっぱり私、二ホン出身なのかしらね ふー……ご馳走様でした ……って何々!?(急に手を取られて吃驚) か、鐘……? それは友情なのか本来のジンクスなのかどっちなのか こないだ(第10話)のあの発言もあるから どっちなんだか判別つない……! 駄目だわやっぱりわからない……!(頭抑え) ええいままよ、女は度胸だわ 鐘でも銅鑼でも何でも来なさい!! (手を添えて一緒に鐘を鳴らし) ……これでいいのかしら (手を握られる感覚に一瞬ビクッとし) (けれど碧希の言葉に微苦笑して) そうね、私も楽しいし、嬉しい ありがと 私こそ、よろしくね |
|||||||
|
||||||||
![]() |
青い朝顔柄のガウン。 着物風のガウン…いろんな柄があって悩んだのですが青い朝顔が綺麗だったのでこれにしてみました。似合ってますかね。 あ、ロメオさんはシックなデザインですね。とても似合ってますよ。 日本風のものってあまり触れることがないのでとても新鮮です。 笹飾りに願い事を書きましょうか。私はやっぱり「エクソシストと上手くやっていけますように」ですかねー。ロメオさんはなんて書くんですか? 内緒?えー、私は言ったのにずるいですよ(と言いつつ無理矢理は見ない) お星さまが綺麗ですねー…天の川もはっきり見えます。 ズラミスとサラミは今日も仲睦まじく過ごしてるんでしょうね。 あ、四阿には金平糖ってのがあるそうですよ。 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
●行動 流しそうめんを食し、海岸へ鐘を鳴らしに行く ●着物風ガウン ※可能であれば、鳩子様のセンスで色柄お任せしたいですっ 千亞「へぇ、珍しいな。でも着心地は良いし、雅で素敵だね」 珠樹「千亞さん、良く似合っております、ふふ…!ガウンの下は脱いでも良いのでは…」 千亞「黙れド変態」 (珠樹も似合う、と言いかけた僕が馬鹿だった) ●そうめん 珠樹「こんな素敵なイベントに参加出来るなんて光栄ですね…!」 箸使いが上手な珠樹と 千亞「…い、意外と掴むのが難しいな…!!」 箸に苦戦する千亞。 珠樹「フォークもありますよ、お使いになりますか?」 千亞「だ、大丈夫だ」 珠樹「ならば、私が千亞さんに『あ~ん』を…」 千亞「フォーク寄越せ」 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
流し素麺に挑戦 ◆シュリ 流れる麺を掬うなんて、面白いわね でも箸がなかなか上手く使えない… どうしてロウハは普通に使えるの? お父様に?わたしには教えてくれなかったのに …フォークはいらないわ 取れるまで頑張るもの て、手伝わなくていいのに…! そうされると、余計に取りにくく… あ、取れたわ… ほらほら、ピンクの麺よ 何かいいことありそう…! ◆ロウハ 大丈夫か、お嬢? 箸って慣れてないとキツイしな、無理しないでフォーク借りていいんだぞ どうしてって…ユーベル様に身につけろって言われたからな おいおい、意地張るなよ 仕方ねー、手伝うか(箸を持つ手を重ねて補佐する) 自力でやらせると、いつまで経っても掬えねーだろ 腹減ってんだよ、俺 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
着物風ガウン:デザインおまかせ ニホン風の服って一度着てみたかったのよね どうかしら? ふふ、ありがとう。本当に素敵な服よね 綺麗な服を着れて心弾む セシルくんは着なくてよかったの? じゃあ今日は存分に私の事見ていってね 冗談めかして言うも普通に返事がきて少し恥ずかしい まあ、とりあえず。短冊でも書いていきましょうか あら、早いのね? …そういうのは直接言ってくれてもいいのよ? 叶えるかどうかはまた別に話になるけれど 今日はおめかししているからダメ ガウンつまんでにこりと 猫の姿好かれて嬉しいがお洒落している時だと複雑な乙女心 じゃあ私のお願い事はこれにしようかしら 「セシルくんが人の姿の私も好きになってくれますように」 |
|||||||
~ リザルトノベル ~ |
●揺れる朝顔 「お嬢ちゃん、決まったか?」 ロメオ・オクタードの声に、シャルローザ・マリアージュは笑顔で振り返った。 「いろんな柄があって悩んだのですが、青い朝顔が綺麗だったのでこれにしてみました」 手に取った異国風のガウン――キモノをさっそく羽織れば、薄手の生地が軽やかな弧を描いて体を包み込む。上品な白地へ夏の青天を思わせる丸い花を咲かせたそれは、彼女自身が持つ澄んだ色合いによく馴染んだ。 「似合ってますかね。……あ、ロメオさんはシックなデザインですね。とても似合ってますよ」 特にこだわりなく選んだロメオは、自身が羽織る上着を見下ろした。深い青緑――柄は無いが、織目に独特の風合いがある。 「んー……俺は別に似合ってなくてもいいんだがなぁ。お嬢ちゃんはよく似合ってるぞー、うん」 可愛い、と言ったのは相手には聞こえなかったのかもしれない。シャルローザはやたらと幅の広い袖をつまんで、興味深げにしている。 「ニホン風のものってあまり触れることが無いので、とても新鮮です」 「俺の記憶のどこにもない感じだし、確かに新鮮だな」 ニホン風と言えば、この庭園全体がそうだ。紙張りの灯籠に簡素な四阿。小川には赤い欄干の橋が掛かっている。 「笹飾りに、願い事を書きましょうか」 シャルローザの提案に、ロメオも否やは無く頷いた。 潮気を含む夜風に、色紙で飾られた笹がさわさわと音を立てる。 「私はやっぱり『浄化師として上手くやっていけますように』ですかねー」 「相変わらず真面目だねー。まあ、お嬢ちゃんらしいって言うか」 「ロメオさんは、なんて書くんですか?」 書き終えたシャルローザが顔を上げる前に、ロメオは、すっと短冊を伏せた。 「はは。内緒だ、内緒」 「えー、私は言ったのにずるいですよ」 不満げにしながらも、シャルローザは無理に短冊を覗きこもうとはしない。その様子に口角を上げながら、ロメオはさっさと短冊を笹の高い位置に括り付けた。 シャルローザが幸せでありますように――なんて文面を見られるのは、流石に恥ずかしかったのだ。 「お星さまが綺麗ですね」 短冊を括り終えて、そのまま天を仰いだシャルローザは感嘆の吐息を漏らした。 「ズラミスとサラミは今日も仲睦まじく過ごしてるんでしょうね」 「死してのちも共に居られる誰かがいるのは幸せなことだな。お嬢ちゃんもいつかそんな相手が……って」 隣にあるはずの姿が無い。知らぬ間に小道の先へ、朝顔模様が揺れている。 「四阿には金平糖ってのがあるそうですよ」 「はいはい……」 石造りの四阿に入り、緋毛氈に腰を下ろす。思いのほか居心地が良い。円卓には小さな竹製の菓子器。中に入っているのが金平糖だろう。 「ほう、星みたいで可愛らしいな」 夜空を見上げる二人の口で、砂糖菓子の星は甘く砕けた。 ●相反する願い イザベル・デューは、朝焼けに似た緋色のキモノを手に取った。袖や胸元に金糸の花が咲く鮮やかな一着だが、夜色の中では華美に過ぎず品が漂う。薄く軽やかなので、猫の半獣である彼女の尻尾も窮屈にならずに済んだ。 「ニホン風の服って一度着てみたかったのよね。どうかしら?」 セシル・アルバーニは、パートナーの姿を上から下までじっくりと眺め、 「良いと思います」 力強く頷いた。 セシルは小さな動物やぬいぐるみといった、小柄で可愛らしいものが好きだ。中でもイザベルが獣形をとった際の姿は一等に好んでいる。トランスしていなくても、黒い毛並みが動いているのを見ると、ついつい目で追ってしまう。 「ふふ、ありがとう。本当に素敵な服よね。セシルくんは着なくてよかったの?」 「俺はいいです。綺麗なものとか可愛いものとか好きですけど、見るのが好きなのであって、別に自分がそうありたいとかって気持ちはないんで……」 遠慮ではなく本心だった。 「じゃあ、今日は存分に私のこと見ていってね」 「そうします」 冗談めかして言ったのにごく自然に了承されてしまって、イザベルは俄かに気恥ずかしくなる。落ち着きなく尻尾を揺らしながら、庭園の一画を指差した。 「まあ、とりあえず。短冊でも書いていきましょうか」 イザベルの後姿を見つめながら移動したセシルは、短冊を手に取るなり迷いなくペン先を走らせた。 「あら、早いのね?」 「やっぱり、これしかないかなと思ったので」 括り付けようとしていた手を戻して、イザベルに見せる。 『イザベルさんがもっと猫の姿になってくれますように』 束の間、イザベルは眉尻を下げて黙り込んだ。 「……そういうのは、直接言ってくれてもいいのよ? 叶えるかどうかはまたの別の話になるけれど」 「じゃあ、今とか」 「今日は、おめかししているからダメ」 キモノを摘まんでひらりとさせながら、イザベルはにこりと笑う。 「やっぱりダメじゃないですか……」 セシルは見るからに気落ちした様子で呟いたが、対するイザベルとて猫の姿が好かれて嬉しい一方、半獣姿で着飾っている時でも変わらずトランスを求められるのは、乙女心に複雑なのだった。 「じゃあ、私のお願い事はこれにしようかしら」 イザベルが書きつけた願い事を見て、セシルはますます肩を落とした。 『セシルくんが人の姿の私も好きになってくれますように』 「これは、あてつけってやつでは」 イザベルは何も言わずに微笑んでいる。セシルは小さく嘆息して、それからイザベルに手を差し出した。 「貸してください」 短冊を受け取り、腕を伸ばして届く限り笹の一番高い場所へ飾る。 「空に近い方が叶いやすい気がします……多分」 二人の願いは異なる方角を向きながら、同じ高さで揺らめいた。 ●短冊に託す想い 庭園の入口では、宴の参加者たちが思い思いにキモノを選んでいる。 クローク係にケープコートを預け、ガルディア・アシュリーは長衣の上へさらりとキモノを羽織った。隣を見遣れば、グレール・ラシフォンもまた異国情緒に溢れた上着へ袖を通したところだった。 髪色と同系色の竜胆柄は、物珍しくはあれど違和感がない。裁断の少ない布地は体の起伏を覆うように落ち、男の風格を高めている。 ガルディアは、その唇へ仄かな笑みを刷いた。 「似合っている、な」 グレールもまた、瞳を細めてパートナーのキモノ姿を眺める。 ガルディアが身に纏うのは、細い枝葉がしなやかな曲線を描く柳模様だ。平生のコートとは趣が異なるが、姿勢の良い細身に相応しい清麗な雰囲気がある。 「柳の下には幽霊が、と言う話を聞いたことがある」 ぽつりと零れた言葉は、褒め言葉からほど遠い。ガルディアは瞬いて、笑みを深くする。 「今更、幽霊に怯える歳でも無いだろう」 「違いない」 冗談めかした視線を交わして、ふたりは小さく笑い合った。 折角だからと、灯籠に照らされた小道を連れ立って歩く。人々の囁きが潮騒と混じり合い、穏やかな宴の音楽となる。夜風をはらんで膨れたキモノが、互いの手や体をかすめあった。広い敷地にそぐわぬ道幅の狭さにもニホン風の意図があるのだろうかなどと、他愛ないことを話すうちに、グレールが体の向きを変え、ガルディアもそれに続く。 道の先には、極小の竹林が茂っていた。 願いを込めた短冊を笹に掲げ、水に放して成就を願う――七夕の主役とも言うべき風習だ。 短冊を手に取ったところで、ふと傍らの空気が変わったように感じて、グレールは隣を見遣った。 ガルディアは手にしたペンを動かすことなく、白紙の短冊に視線を落としている。先ほどまで寛いだ雰囲気だった横顔が、今は温度を失っているように見える。 「何かあったのか?」 「……いや」 顔をあげたガルディアは、有るか無きかの微笑を浮かべると、ペンを元に戻し、短冊を笹に結びつけた。柳模様をそよがせて、言葉少なにひとり踵を返す様に、よほど思い詰めているのだと知れる。 「……」 浄化師としては短くとも、友として歩んできた時間は長い。 生家を心底忌み嫌いながら、その家長とならんとする――その意味がわからぬグレールではない。ガルディアは、己が家筋を自らの手で潰すつもりなのだ。 短冊に託すには、その願いはあまりにも重い。 グレールは、ガルディアが思案に沈んでいる隙に、自身の短冊へペンを走らせた。白紙の短冊に並べて括りつける。 『どうか彼に、より良き願いが見つかるように』 いつか、星合の夜に、笑顔で願いを綴る時が来れば良い。 煌めく星々に祈りを捧げ、グレールはガルディアの隣へと向かった。 ●宴の楽しみ 異国風のガウンを着た姿を見比べて、アシエト・ラヴは鼻の上に皺を寄せた。 「……くっそ似合うな、お前」 「……まぁ、元が元だからな」 布を持て余して落ち着かないアシエトをよそに、ルドハイド・ラーマは泰然と腕を組んだ。何故そうもくしゃくしゃにするんだと思いつつも、褒められて嫌な気はしない。 ルドハイドが選んだのは瑠璃色の地に金糸の刺繍が施されたもので、鮮やかでありながら余計な装飾の無い意匠は、彼が生まれ持つ色彩を殺さず、色白の肌によく映えた。 アシエトのそれは、一見漆黒に見える紺青の色無地だ。簡素なようだが、照明の傍では特徴的な織模様が青く浮かび上がる。 なんか悔しいとぼやく姿を見ながら、ルドハイドは、なかなか風情がある、と思った。 「流しソーメン!」 竹のレーンを前に、アシエトは一転して弾んだ声を上げた。 「おお、すげぇ、白い何かが流れてく!」 「見た目にも清涼感があっていいな。……お前はそのテンションでいくつもりか」 落ち着け、と言ったつもりだったが、アシエトははしゃいだ様子のまま、給仕から椀を受け取った。彼が箸を受け取るのを見て、ルドハイドも椀と箸を貰う。 流水の中を、さっと白い塊が流れて行く。 「見てないで食べろ」 「あ、あ、そうか。ハシは初めて使うけど……それ!」 突き刺すようにして素麺の進行を阻み、すくい上げる。 「ナイスキャッチ! すげぇだろ」 顔をあげると、丁度ルドハイドが素麺を難なく掴みあげているところだった。 「なんだ」 「……なんでもない」 こうも平然とされては、悔しがる気にもなれない。 気を取り直して、素麺に向き直る。 「このソース? に、つけて食べるのか? すする? スパゲッティみたいに?」 あれこれと疑問を口にするのに、ルドハイドは、 「スパゲッティはすすらない。あとソースじゃなくてつゆだ」 と、逐一答えてやったが、アシエトはろくに聞いていない様子で麺を勢いよく頬張った。 「んまい! 清涼感があって夏の食べ物! って感じだな」 「この喉を通る時のよさは、のどごし、というんだろうな」 アークソサエティにはあまり無い食感と風味だ。ずずっと二口目をすする。 「あっさりした風味がすげーうまい!」 「雑な食レポだな……」 麺はあっという間に無くなってしまう。しばらく素麺を取っては口に入れるのに専念した。 (ハッ! 夢中になってたわ) アシエトがちらりと隣を伺うと、平生硬質な雰囲気の横顔が、心なしか和んでいた。 (……なんだ、楽しそうじゃん) ほっとして、もう少し素麺を食べることにする。 ルドハイドもまた密かにアシエトの様子を眺めていた。物珍しいキモノに、流れる素麺――娯楽にはしゃぐような性格ではないのに、来て良かった、と思うのは、傍らで彼が楽しそうに笑うからだった。 ●ありのままで 「これが流し素麺か」 海老茶のシンプルなキモノを羽織ったトウマル・ウツギは、椀と箸を手に意気揚々と流水の前に立った。宴の雰囲気を壊さぬよう大人しく振舞い、主催の夫妻にも殊勝な態度をつくろって挨拶したが、最初からこれが目当てでわくわくしていたのだ。 隣に並ぶのは、半竜のグラナーダ・リラ。頭部から伸びる角に金髪碧眼、長身を覆う派手なキモノ――緑地に紅白の芙蓉が咲き、金糸の蝶が舞う――が、一際目立っている。但し彼はトウマルが面白半分に差し出した上着に袖を通しただけで、はしゃいでいるわけではなかった。 事実、果敢に箸を突きこむトウマルの横で、グラナーダはほとんど見ているだけだ。衣服同様、食にもこだわりは無く小食なのである。 水流の中を、ぱっと白いものが通り過ぎる。 トウマルは素麺を掬う、掬いたい――掬えなかった。 つるりと逃げられて、何度試みても椀の中には白い筋が数本、虚しく漂うばかりだ。 (……腹減ったな) 箸を持つ手が痛み、素麺どころか箸自体を取り落しそうになる。 「トーマ。箸が苦手ならフォークを借りてきましょうか」 見かねたグラナーダの提案に、トウマルは小さく唸った。 「箸で食ったら、より美味いんじゃねぇかと思って」 グラナーダはトウマルらしい理由だと納得したが、しかし、そもそも食べられないのではどうしようもない。 「よっ……!」 諦めて今度はフォークで素麺を掬う、掬えた――食べられた! ごくんと飲みこんで、トウマルは目を輝かせた。 (これ、無限に食えるやつでは?) 爽快な食感に気をよくして、素麺の捕獲に専念する。とはいえ他の客の分まで奪ってはいけないので、様子を見ながら間を置いた。ふと、グラナーダへ視線を向ける。 「グラは箸遣い、上手いんだな」 食べる速度こそ遅いが、箸を操る手つきは自然だ。空になった椀を見かねて、ちょうど流れてきた素麺を追加してやる。 グラナーダは心なしか身を引いた。 「……ニホン出身の友人がいたので」 「ふうん。俺は名前と顔立ちが二ホン出身ぽいけど、家族の顔も知らねぇし文化にもさほど馴染みないな」 家族、と口にしたところで、派手なキモノの肩がぴくりと揺れる。見上げた先にあるのは、いつもの微笑だ。相手が何も言わないので、あのな、とトウマルの方から口を開いた。 「気にしてないし、アンタも変な気遣いするなよ」 「……見抜かれてしまいましたか」 気まずげな、悪くとれば面倒そうな気配が滲む声音に、だから気にしてないって、と繰り返す。よく分からない奴だとは思っているが、それが嫌だとか腹立たしいとか感じたことは無いのだった。 「で。さっきから減らない椀の中身のおかわり。要るよな?」 びしりとフォークを突きつけられ、グラナーダは曖昧に笑んだ。 ●夏のときめき 「まるで、別の国に来たみたい」 シュリ・スチュアートは肌触りの良い白地に涼やかな朝顔を無数に咲かせるキモノを纏い、心を弾ませた。 「お嬢、こっち空いてるぞ」 黒地に白抜きの花火が弾けるキモノを羽織ったロウハ・カデッサは、水の流れる竹のレーン前に二人分のスペースを確保して、彼女を招きよせる。給仕から受け取った椀と箸をシュリにも渡してやり、翼のせいでずり落ちそうになるキモノを直した。 「流れる麺を掬うなんて、面白いわね」 シュリは見様見真似で持った箸で、さっそく素麺を狙う。掴めたと思ったが、引き上げようとした瞬間につるりと逃げられる。 「大丈夫か、お嬢? 箸って慣れてないとキツイしな、無理しないでフォーク借りていいんだぞ」 何度目かに逃した素麺を、すぐ隣の箸がぱっと取り上げた。 シュリは瞬いて顔をあげる。 「どうしてロウハは普通に使えるの?」 悪いことをしたわけでもないのに何故か咎められているような気がして、ロウハは軽く肩をすくめた。 「どうしてって……ユベール様に身につけろって言われたからな」 「お父様に? わたしには教えてくれなかったのに。……フォークはいらないわ。取れるまで頑張るもの」 「おいおい、意地張るなよ」 面白くない気分になったシュリに対し、ロウハがまったく普段通りなのがますます気に入らない。シュリは頑なになって、不恰好に握った箸を水の中へ差し入れた。 「仕方ねー、手伝うか」 「ロウハ……?」 背後から回された手が、シュリの手の上から箸を押さえる。後ろから抱きすくめられているような体勢、重ね合わされた手、衣服越しにも体温が伝わってくるような近さ――シュリはその白面をさっと赤く染めた。耳が熱い。どきどきして、まったく手元に集中できない。 「て、手伝わなくていいのに……!」 「自力じゃ、いつまで経っても掬えねーだろ。腹減ってんだよ、俺」 ぼやいたロウハは、シュリの動揺に少しも気が付いていないらしい。 「そうされると、余計にとりにくく……」 ぐい、と自分の意志ではない力に手を動かされる。はっとして視線を落とすと、シュリの箸が、しっかりと素麺をとらえていた。 「あ、取れたわ……」 そのまま補助を受けて、シュリが左手に持つ椀の中へ麺が落とされる。つゆの中でほぐれた素麺を見ると、白い中に色のついたものが見えた。 「ロウハ、見て。ほらほら、ピンクの麺よ。何か良いことありそう……!」 初めての流し素麺で得たほんの些細な幸運に、つまらない意地は一瞬で吹き飛んでいた。嬉しそうなシュリに、やれやれとロウハも笑う。 「じゃ、食べるか」 素麺、天ぷら、ちらし寿司――二人は灯籠の傍に用意されたテーブルに異国の料理をいくつも並べ、星空のもとで非日常に満ちた夕食を楽しんだ。 ●星合う夜に 白兎・千亞(しろうさ・ちあ)は選んだキモノを羽織り、その場でくるりと回ってみた。夜空に浸して染めたような濃藍、胸元には鳥の子色の満月がぽっかりと浮かび、袖や裾にはほんのりと紅の滲む月見草が咲き誇っている。 「へぇ、珍しいな。でも着心地は良いし、雅で素敵だね」 顔をあげれば、隣で明智・珠樹(あけち・たまき)が頷いた。彼が纏うのは葡萄色の地に繊細な黒い蔦模様が刺繍され、銀糸の蝶が舞う意匠だ。 「千亞さん、良く似合っております、ふふ……! ガウンの下は脱いでも良いのでは……」 「黙れド変態」 ぴしゃりと言い捨てる。 (珠樹も似合う、と言いかけた僕が馬鹿だった) 黙っていれば、見目の良い男なのだ。毎度のことではあるが、千亞は苦々しくこめかみを押さえた。 気を取り直し、盛り上がった様子の一角へと移動する。人々の輪へ、二人も椀と箸を手に加わった。 「こんな素敵なイベントに参加出来るなんて光栄ですね……!」 苦も無く麺を掴む珠樹の横で、千亞は手元を睨み悪戦苦闘中だ。 「……い、意外と掴むのが難しいな……!!」 「フォークもありますよ、お使いになりますか?」 「だ、大丈夫だ」 千亞は一瞬迷ったが、折角のニホン式なのにフォークを使うのは風情が削がれるような気がして断った。ならば、と言葉を継いだ珠樹がなにやら嬉しげなのに、嫌な予感を覚える。 「私が千亞さんに『あ~ん』を……」 「フォーク寄越せ」 決心が翻るのは一瞬だった。 「どの料理も美味しかったなぁ。ニホン料理、結構好きかも」 素麺の他にも、ちらし寿司や焼き魚、冷奴――満腹になった二人は、庭園をぶらぶらと歩くことにした。小道をはずれまで歩いて、そのまま海へと下りる。 「東方島国ニホンの文化は……どこか懐かしさを感じるのですよね」 「そうなのか? 確かに、珠樹は箸使いが上手いよな」 過去を思い出せなくとも、体が覚えているということだろうか。 (ならば、もっとニホンの文化を感じられる場所に連れて行けば、珠樹の記憶が戻る切欠が見つかるかも……) 天を悠々と横切る天の川を見上げながら思案していると、千亞さん、と名を呼ばれる。 「幸福の鐘をぜひ一緒に鳴らしましょう……!」 その謂れを思い出して、千亞は顔を顰めた。だが、いつになく期待の籠った表情を向けられて、小さく唸る。 「……今回だけだぞ。言っておくが、友情だからな?」 「恋人でも友情でも、千亞さんとの共同作業は幸福です……!」 その底無しの前向き思考は何なのだ。含み笑いを零しまくる珠樹を胡乱な目で見遣りながら、千亞は鐘の前に並んで立った。 (……珠樹のことが、もっと理解できるといいな) (千亞さんとの関係がステップアップしますように……!) それぞれの想いを乗せて、鐘の音は夜の海に響く。 ●これからも一緒に 黒地に赤い睡蓮が花開くキモノをなびかせて、朱輝・神南(あき・かなみ)は食事が用意された一画を見回した。 「素麺とかちらし寿司とか、懐かしい感じがするわ……やっぱり私、二ホン出身なのかしらね」 自身についてはっきりと分かるのは、名前の音と形だけ。胸中に湧いた郷愁めいた思いすら、おぼろげだ。 「朱輝、つゆと箸もらってきた!」 星空を模した青藍色のキモノを羽織る碧希・生田(あき・いくた)が隣に並ぶ。 「あっ、黄色一本とった! へへー、何だか良い事ありそう!」 「あ、ピンクのも流れてきたわ」 うまく取れても取れなくてもなんだか可笑しくて、笑いながらの食事となった。 「ふー……ご馳走様でした」 「さって、腹も膨れたしー……朱輝、海の方まで付き合ってよ」 「えっ……何々!?」 がっしりと手首を掴まれ、朱輝は目を白黒させた。手を引かれて、訳も分からず歩き出す。 「折角だし、鐘鳴らしに行こうぜー!」 「か、鐘……?」 戸惑いながら庭園を横切り、海岸へと下りる。砂浜を踏みしめ、朱輝はぐるぐると目の回る気分だった。 幸福の鐘を鳴らす意味は、二つある。友情と、恋情だ。 碧希から『恋人と間違われたままでも良い気がした』と告げられたのはつい先日のこと。果たして、碧希はどういうつもりで朱輝を誘ったのか。 「んー? どうしたの朱輝」 黙りこんだ朱輝に、碧希が不思議そうに振り返る。どうしてとか、なんでとか、もごもごと朱輝が零した言葉を拾って、にかっと笑う。 「これからずっと一緒なんだから、やっぱりいい事あった方が良いじゃん?」 だから、どっちだ。 (駄目だわ、やっぱりわからない……!) 朱輝は空いている方の手で頭を抱えた。 そうこうするうちに、幸福の鐘はもう目の前だ。 「ええいままよ、女は度胸だわ。鐘でも銅鑼でも何でも来なさい!!」 「……銅鑼がどうしたって? あ、ほら、着いたよ!」 二人は海に向かって設置された鐘の前に立った。一旦離された手が、もう一度、鐘を鳴らすために重なる。 澄んだ鐘の音が星空へ響き、ほどなく潮騒の中へ解けた。 「よーし、これでいいよな。さ、朱輝、戻ろう」 「……これで良いのかしら」 あまりに簡単で拍子抜けだ。首を傾げる朱輝の手を、碧希はごく自然に握った。 「……へへ、きっと俺達良い事あるよ」 一瞬身を強張らせた朱輝は、碧希の言葉に微苦笑を浮かべて力を抜く。 「俺、朱輝といる毎日が楽しいから……だから、こうして一緒に出かけたり出来るのが嬉しい」 「そうね、私も楽しいし、嬉しい。ありがと」 友情なのか恋なのかなんて、何も今すぐ白黒つける必要はないのだ。二人一緒だと、楽しい。だから共にありたい。それだけの話。 「改めて、これからもよろしく!」 「私こそ、よろしくね」 頭上では、逢瀬の橋がきらきらと輝いていた。
|
||||||||
![]() |
![]() |
![]() |
*** 活躍者 *** |
|
![]() |
|||
該当者なし |
| ||
[10] シュリ・スチュアート 2018/07/12-23:24
| ||
[9] アシエト・ラヴ 2018/07/12-21:43
| ||
[8] 朱輝・神南 2018/07/12-21:42
| ||
[7] イザベル・デュー 2018/07/12-02:11
| ||
[6] トウマル・ウツギ 2018/07/11-23:16
| ||
[5] シャルローザ・マリアージュ 2018/07/11-19:17
| ||
[4] ガルディア・アシュリー 2018/07/11-13:09
| ||
[3] 明智・珠樹 2018/07/10-21:20
| ||
[2] 明智・珠樹 2018/07/10-21:17
|